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すき家HPにある雇用用のバナーの写真 |
アベノミクスはどうなっているのか。第一の矢の金融政策と第二の矢の財政政策が逆方向に作用して方向性が定まらない。第三の矢はもともと効果が出るのは数年後なので、当面の景気にとって、金融政策と財政政策の動きがカギを握っている。
金融政策は昨年と今年で同じであり、ともに緩和でアクセルを踏んでいる。しかし、財政政策は様変わりだ。今年4月から消費税増税になったので、急ブレーキ、逆噴射の状態だ。
このため、景気情勢は出てくる指標によってまちまちの結果になっている。たとえば、雇用は遅行指標なので、昨年来の金融政策のアクセル効果のいい面が素直に出ている。失業率も3%台半ばまで下がってきており、就業者数も増加してきた。
金融緩和があぶり出したブラック企業
その動きの一つとして、いわゆるブラック企業の実態が暴かれてきた。
ブラック企業が存在している一因として、ここ20年間にわたるデフレ経済がある。成長しないデフレ経済の中で、企業は生き残りをかけて、コストカットに全力をあげてきた。その中で、労働者へのしわ寄せが起こり、長期間労働や労働環境の悪化が放置されてきたこともある。
実際、日本の労働者については、雇用は比較的確保されているが、賃金は海外に比べて上にも下にも伸縮的である。もっとも、これは正規社員の場合であり、非正規では賃金も雇用もよくいえば弾力的、労働者にとっては企業の都合で自由自在という状況であろう。これが行きすぎれば、ブラック企業になる。
要するに、ブラック企業はデフレ下でそれに最適化された企業でもある。デフレ時代にはこうした企業でも働くしかなかった選択肢がなかったところ、デフレ脱却が視野に入るとともに問題が顕在化した。この意味で、金融緩和はこうしたブラック的なものをあぶり出している。
その具体例が、牛丼のすき家や居酒屋のワタミが人手不足で一部閉店したり、ユニクロが従業員の正社員化を進める動きなどだ。すき家は、人手不足で今年度の最終損益が当初の41億円の黒字から13億円の赤字になるという見通しであり、数字の上でも「デフレ最適企業」であったことがわかってしまった。
リフレ・デフレ論争と労働問題
なお、リフレ・デフレ論争は、労働問題に焦点を当てると、その違いが明確になる。リフレ論者は、デフレの弊害について名目賃金の下方硬直性を問題視するが、これを事実として、つまり「である論」としてとらえている。名目賃金が下方硬直的なので、デフレになると(物価が下がると)実質賃金が上がり、正規社員などの既得権労働者は得をするが、新規雇用者は不利となって、結果として失業率が高まることを懸念するわけだ。
一方、デフレ論者は下方硬直性をすべきでないという「べきだ論」としている。この「べきだ論」から出てくる一つの対応策として、名目賃金には下方硬直性があるが、労働時間を長くして、実質的な賃金を下方に伸縮的にすることがある。これが過度に行き過ぎれば、「ブラック企業」ひいては労働基準法違反になりかねない。こうしたことに対してデフレ論者は比較的寛容である。また、失業についても、デフレ論者は下方硬直性を改善しないために生じる問題と考えるために、容認しがちである。
消費税増税の効果が金融緩和効果を相殺
以上は、いい面の話だが、消費税増税の悪い面も出てきている。
最近では、マスコミもようやくそれを報道しだしてきた。内閣府が6日発表した6月の景気動向指数(2010年=100)は一致指数が前月比1.8ポイント低下の109.4となり、2ヵ月ぶりに悪化した。
一致指数は、生産指数(鉱工業)、鉱工業生産財出荷指数、大口電力使用量、耐久消費財出荷指数、所定外労働時間指数(調査産業計)、投資財出荷指数(除輸送機械)、商業販売額(小売業、前年同月比)、商業販売額(卸売業、前年同月比)、営業利益(全産業)、中小企業出荷指数(製造業)、有効求人倍率(除学卒)で構成されている。そのため、6月に悪い数字が出てくるのは、当然予想されたことである。
しかし、6月の景気動向指数では、先行指数が0.7ポイント上昇の105.5と5ヵ月ぶりに改善したことがかすかな希望だ。
先行指標は、最終需要財在庫率指数(逆)、鉱工業生産財在庫率指数(逆)、新規求人数(除学卒)、実質機械受注(船舶・電力除く民需)、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、日経商品指数(42種総合)、長短金利差、東証株価指数、投資環境指数(製造業)、中小企業売上げ見通しDIで構成されている。先行指数は景気の「谷」の局面では1ヵ月程度先行するとされている。もっとも、先行指標によって、3ヵ月後の一致指数をかなりの程度正しく推計することができる。それを活用して、3ヵ月先までを筆者が推計したのが下図だ。
たしかに先行指数は少し上がった。しかし、前回97年増税時と比べても、まだ、悪い状態だ。
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筆者はメタボである。定期健康検診の時、コレステロール値が上がった、下がったと言われる。医者は、悪い数字の範囲内のとき、少しくらい改善したからといって大丈夫とは決していわない。
一致指数のこの程度の改善があるからといって、「景気は夏以降に上向く可能性が高い」という新聞報道は甘いのではないだろうか。
消費税増税の効果は、金融政策の緩和効果を相殺し、さらに悪影響を与えている。というのは、97年増税時には、先行減税があり、レベニュー中立(増税と減税が同じ)で行われた。89年消費税創設時には、物品税が廃止され、ネットで減税であった。しかし、今回の増税はネット増税である。これの悪影響がないはずない。
(高橋洋一)
この記事は要約記事です。詳細を知りたい方は
こちらから(゚д゚)!
【私の論評】ネット増税ならびにデフレ下での増税は、我が国でも初めてのこと、これを考えれば、景気はかなり悪化することが予想されるが、なぜ今大騒ぎにならないのか(゚д゚)!
上記の高橋洋一氏の記事、いつもながら理路整然としていて、まったくごもっともということで、この記事自体には、特に付け加えることもありません。
しかし、上の記事で注意しなければならないのは、タイトルにある「ネット増税」のネットの意味です。
これは、無論英語では"net"ですが、この意味はいくつかあります。
名詞では、網とか、連絡網、通信網という意味があります。動詞では、網で捉える、網を編むという意味があります。
ところが、形容詞では、掛け値のない; 正味の (grossと同義)、正価の、という意味かあります。
高橋洋一氏の言う「ネット増税」のネットとは、このうちの形容詞のネットです。
どういうことかといえば、たとえば、ある人が500万円の金融資産を所有していたとします。しかし、一方で、銀行から1000万円借りていたとします。
そうすると、この人正味で、500万円の借金があるわけです。
こんなことは、あたり前といえば、あたり前なのですが、誤解を招きやすいということで、一応整理しておきました。
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ネットの意味は網とか、網ですくうだけではない |
これを念頭に置いた上で、高橋洋一氏の主張をまとめると、
97年増税時には、先行減税があり、レベニュー中立(増税と減税が同じ)で行われたので、正味では増税しなかったのと同じ。89年消費税創設時には、物品税が廃止され、正味では減税であったのと同じである。
しかし、今回の増税はネット増税、すなわちこれまでの増税では、97年には、実質的に増税がなかった等しいとか、89年には、消費税が創設されたとはいえ、実質的には減税であったのとは異なり、実質的な増税であるということです。
そうして、高橋洋一氏は、あまりにもあたり前なので上の記事には特に記載はしていませんが、89年の増税のときは、日本経済はデフレではなく、インフレでした。
97年増税時には、確かにデフレ傾向ではあったものの、完璧なデフレではありませんでした。増税後の98年に日本経済は誰もが否定出来ない完璧なデフレに突入しました。
要するに、過去の増税では、その直前まではいずれも、デフレではなかったわけです。これは、何を意味するかといえば、いずれの場合も賃金が上昇している中での増税だったということです。
これは、89年のときは、顕著で、毎年給料が前年に比較して、上がるのが当然と思われていたときの増税でした。
さすがに、デフレ気味の97年の増税のときは、そこまでいきませんでしたが、最低限賃金が下がり続けるということなく、横ばいもしく若干あがるというという最中での増税でした。
しかし、今回の増税は、金融緩和で多少は良くなったとはいえ、毎年給料が前年に比較して賃金が下がり続けることはあっても、上がることはないと思われているときの増税だということです。
これをまとめると、ネット増税ならびにデフレ下での増税は、我が国でも初めてのことであり、これを考えれば、景気はかなり悪化することが予想されるということです。
しかし、このことをマスコミは騒がないし、多くの政治家や識者も騒ぎはしません。本当に日本経済のことを考えているなら、何らかの経済対策をすぐにでも打つべきですが、そうではありません。一体これはどうしてなのでしょうか?
これについては、以前このブログでも論評したことがあります。その記事のURLを以下に掲載します。
政府月例経済報告に異議あり!消費税増税の悪影響を認めたくない政府に騙される政治家とマスコミ―【私の論評】財務省はジレンマに陥っている。安部総理と、そのブレーンは肉を切らせて骨を断つ戦略を実行している(゚д゚)!これこそが隠し球かも?
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、なぜマスコミや多くの政治家や識者が大騒ぎしないかといえば、今更言えない事情があります。その部分のみをこの記事から下にコピペさせていただきます。
確かに、政治家もマスコミも高橋洋一氏のようなことは一言もいいません。しかし、これはマスコミも、政治家もそのほとんどが財務省主導の増税キャンペーンに踊らされて、増税一色で走ってしまったため、いまさら景気が落ち込んでいるなどとは、言い出しにくい状況にあります。
それをしてしまえば、自らが、マクロ経済音痴であったことを公にするようなものです。それは、財務省も同じことでしょう。だから、マスコミ・政治家が経済がかなり落ち込むかもしれないなどと今更、大声をたてることは出来ないのだと思います。
.確かに、いまさら落ち込むなどといえば、自分は馬鹿でしたと公表するようなもので、プライドの高い人達にはとてもそんなことはできないでしょう。
しかし、この記事でも指摘したように、安部総理ご自身や、いわゆるリフレの論客とされる人たちもこの当時は、高橋洋一氏など一部の例外を除いてあまり危機を訴えませんでした。ただし、最近では田村秀男氏なども、訴えるようになってきました。この当時のこの不可解さの要因についても、安倍政権の2つの道ということで、この記事で解説しました。
その部分を以下にコピペします。
一つ目の道としては、景気対策をすぐに推進することです。確かに、国民のことを考えると、景気を良くしたほうが良いに決まっています。しかし、今すぐそれを実行してしまえば、10月に増税派に格好の増税推進の大義名分を与えてしまうことにもなりかねません。
そうして、来年の4月から10%増税が、なされてしまえば、来年は今年よりもさらに景気が落ち込み、日本はとんでもないことになります。失われた20年が、40年になってしまう可能性も高いです。
第ニの道としては、直近の経済が悪くても、来年の増税を今度こそ阻止し、その後に先程述べた、再配分的な所得税減税や、給付政策を実行して、経済を上向かせるという道です。
これにより、日本経済はデフレから脱却できる可能性が高まることになります。おそらく、これを実行すれば、市場関係者も好感して、最初は株価もあがり、かなり経済指標も良くなり、丁度安倍政権が誕生したときの、衆議院議員選挙の直前のときのように安倍政権にとって追い風となることでしょう。
私としては、安倍総理および、そのブレーンたちは、第二の道を選んでいるのだと思います。
まさに、安倍総理は、「肉を切らせて骨を断つ戦略」を実行しつつあるのだと思います。だからこそ、リフレの論客たちもこのことを理解して、現状では様子見をしているのだと思います。
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「肉を切らせて骨を断つ」という戦法は日本で古から知られているものである |
さて、ここで消費税増税のスケジュールをあげておきます。8%増税は、4月からすでに実行されました。10%増税は、2015年10月からです。
そうすると、15年増税は、少なくとも本年度末(2015年3月)あたりには、その決断をしなければならないということです。
今のまま、増税で経済が悪化したからといっても、対策をうたないとか、打ったとしても、中途半端な手を打つだけであれば、今年度は経済が悪化し続けることは必定です。
そうなれば、10%増税などとても言い出せるような雰囲気ではなくなります。昨年財務省の大増税キャンペーンにおされて、アベノミクスの第一の矢である金融緩和の効果が削がれることを承知しながらも増税に踏み切らざるをおえなかった安部総理です。
今回は、目先の景気よりも、長期的視野における景気回復の道を模索するため、現下の経済の悪化には忸怩たる思いなのでしょが、目をつぶっておられるのだと思います。
これに関しては、安部総理に関する評価で、以下のような動画がありました。
2分20秒あたりから、水島氏は日下公人氏が安部総理を高く評価していたということを語っていました。日下公人氏は公務員試験で群をぬいて成績が良かった頭の良い人です。その人が安倍総理の頭の良さ器の広さについて高く評価しています。
日下氏は、安倍を馬鹿だという人間は、その人間自体が馬鹿であると語っていたそうです。少し政治や経済などに知識を得ると、安倍は馬鹿だと批判するが、そっちのほうが余程馬鹿といっていたそうです。水島氏は、学者風情などには、人の幅とか奥行きなど理解できないところがあるとも語っていました。
私自身は、この動画における水島氏の意見全部に賛成するものではありませんが、安部総理の評価については正しいことを語っていると思います。
この頭の良い、安部総理が、昨年は不覚にも財務省の大増税キャンペーンに屈して、長期政権を視野に入れている総理は忸怩たる思いで、増税を決めたわけです。
このまま、10%増税に突っ走れば、日本経済はとんでないことにりますし、安倍長期政権も夢と消えるわけです。
そんなことは、安部総理の立場からも絶対にさせるわけにはいきません。
おそらく、総理は深謀遠慮を巡らしているものと思います。
財務省の官僚たちは、ありとあらゆる手をつかい、今回も10%増税を確かなものとするために、様々な活動をすることでしょう。ただしプライドの高い彼らは、直近での経済対策については言及できないでしょう。そこが、彼らの致命傷となるかもしれません。
そこで、考えられるのが財務省による10%増税のための正当化理論による武装です。彼らは、ありとあらゆる知識を総動員して、今回もマスコミをたきつけ、政治家を諜略することでしょう。
リフレ派をはじめとする増税反対派は、今回は、彼らの正当化理論をことごとく駆逐し、増税を阻止すべきです。そうして、その時期は、年度末から3月にかけてだと思います。それまでの間に、財務省の正当化理論の予測と、それに対する反証など今から考えておくべきと思います。
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年末には増税反対派が一斉射撃をはじめる? |
ただ、増税反対と叫ぶだけでは、今回も財務省の増税キャンペーンに押し切られてしまいます。
しかし、私がそういうまでもなく、皆さん準備されていて、今は沈黙して、本年末あたりから、一斉に射撃を浴びせるものと思います。今からどのようになるか、楽しみです。まさに、日本国内の第二の関ヶ原の合戦の様相を呈するかもしれません。
増税派、反増税派などがい入り乱れて、奇襲あり、寝返りあり、裏切りあり、凋落ありの大決戦となることでしょう。中・韓も参戦するのは必定です。米国も一部は参戦するでしょう。ここで、日本が再度デフレ・スパイラルの底にに沈めば、日本のデフレ・円高で彼らは、また我が世の春を謳歌できるかもしれないからです。
いずれにせよ、増税派は自らのプライドのため、増税反対派は、年末からの大合戦に備えるという意味もあり、今は増税の悪影響があまり話題に登らないのだと思います。
私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?
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