2017年12月3日日曜日

中印紛争地区、離脱合意のはずが「中国固有の領土だ」 軍駐留を継続、トンネル建設も着手か―【私の論評】この動きは人民解放軍による尖閣奪取と無関係ではない(゚д゚)!


インド、中国、ブータンの国境付近のドクラム地区
 インド、中国、ブータンの国境付近のドクラム地区で中印両軍の対峙(たいじ)が続いた問題をめぐり、中国側が最近、「ドクラム地区は固有の領土」と改めて発言し、軍隊駐留を示唆したことが波紋を広げている。中国軍が付近でトンネル建設に着手したとの報道もあり、インド側は神経をとがらせる。双方「要員の迅速離脱」で合意したはずの対峙だが、対立の火種はくすぶり続けている。

 中国国防省の呉謙報道官は11月30日の記者会見で、ドクラム地区をめぐり、「冬には撤退するのが慣例だが、なぜ(部隊が)依然、駐留しているのか」と質問され、「中国の領土であり、われわれはこの原則に従って部隊の展開を決定する」と応じた。

中国国防省の呉謙報道官
 ドクラム地区はヒマラヤ山脈の一角に位置し、冬は積雪のため部隊配備が困難となる。中国側は現在も軍隊が駐留していることを否定せず、配置を継続させることを示唆した格好だ。

 発言にインドメディアは反応し、PTI通信は「中国が軍隊を維持することを示唆」と呉氏の発言を報じた。中国側の動きに敏感になっていることがうかがえる。

 ドクラム地区では、中国軍が道路建設に着手したことを契機に6月下旬から中印両軍のにらみ合いが発生。8月28日に「対峙地点での国境要員の迅速な離脱が合意された」と宣言され、事態は収束したかのように見えた。

ドクラム地区に展開する中国人民解放軍
 ただ、中国側は「パトロールは続ける」(華春瑩・外務省報道官)との意向を示しており、10月に入っても「中国軍はまだ駐在する」とインド紙が報道。インド民放は11月、ドクラム地区付近で中国軍が「6カ所でトンネル工事をしており、兵舎も建設中だ」と報じた。

 今夏のにらみ合いは1962年の国境紛争以来、「軍事衝突の恐れが最も高まった」とされたが、いまだ緊張関係が継続している格好だ。印政治評論家のラメシュ・チョプラ氏は「各地で覇権主義を強める中国側が、簡単に引き下がると思えない」と指摘している。

【私の論評】この動きは人民解放軍による尖閣奪取と無関係ではない(゚д゚)!

1962年の中印国境紛争は、高慢なインドが中国の要求をのまなかった代償であるというのが、中国指導部の見方です。しかし、インドにしてみれば、これは半世紀以上にわたって国を苦しめてきた屈辱にほかならないものです。

国際関係において「屈辱」とは、他国の名誉を傷つけ、地位を得ようとする試みを否定することであり、明白なヒエラルキーの構築を意味します。戦争は、相手に屈辱を与える格好のチャンスです。

屈辱が持つ、こうしたインパクトを理解している国があるとすれば、それは他ならぬ中国です。中国国防省がインドに警告を発していた頃、習近平国家主席は香港返還20周年を祝う式典で、こう語りました。英国が1842年に香港を収奪したことによって中国が受けた「屈辱と哀しみ」は、香港が中国に返還されたことで終わったのだ、と。

ナショナリズムをあおるために「屈辱の世紀」という言葉を広く利用してきたのが中国です。1949年の中華人民共和国樹立により、「屈辱の世紀」は終わったことにはなっているのですが、東アジアの大国としての中国の自己イメージはその後、何度も打ち砕かれてきました。とりわけ、戦後日本の高度成長によって受けたショックは大きいものでした。

しかし、中国は自らに対する屈辱は敏感に感じ取るくせに、いかに自らの行いが他国に同様の感情を引き起こしてきたかについては全く鈍感です。1962年の国境紛争で敗北させたことで、旧植民地国のリーダーたらんとしていたインドの野心を徹底的に踏みにじったのです。

中国に辱められた国はインドにとどまらないです。ベトナムには、中国の「屈辱の100年」に相当する「中国支配の1000年」という言葉があります。

一方で自ら屈辱を受けながら、他国にも屈辱を加えた国は中国だけではありません。インドは1962年に中国から辱めを受けましたが、9年後の第3次印パ戦争によって隣国パキスタンに同様の感情を植え付けました。

1947年の独立以降、パキスタンは南アジアでインドと覇権争いを繰り広げており、米国や中国にすり寄ることで存在感を高めようとしていました。同国の野望は、1971年の第3次印パ戦争に敗北して崩れ、これが東パキスタン(現バングラデシュ)の独立につながりました。

これまで述べてきた屈辱の事例に共通するのは、遠くの超大国ではなく、アジアの隣国によって与えられたという点です。これが痛みをとりわけ大きくしています。

アジア全域でナショナリズムが台頭する今、各国指導者が欲しくてたまらないもの、それは自らの政治目標を達成するのに都合のいい歴史解釈です。この技を極めた達人は中国ですが、同様のテクニックはインドも含め各国で見られます。

そうして、この屈辱は、日本も例外ではありません。自らの政治目標を達成するために都合の良い尖閣諸島は中国の固有領土であるという歴史解釈を中国は打ち出しています。そうして、この歴史解釈を習近平も受け継いでいます。

習近平
習近平国家主席が軍幹部の非公開会議で沖縄県・尖閣諸島について「(中国の)権益を守る軍事行動」の推進を重視する発言をしていたことが2日、中国軍の内部文献で分かっています。日本の実効支配を打破する狙いのようです。直接的な衝突は慎重に回避する構えのようですが、現在は海警局の巡視船が中心の尖閣周辺海域のパトロールに加え、海軍艦船や空軍機が接近してくる可能性もああります。

文献によると、2月20日に開催された軍の最高指導機関、中央軍事委員会の拡大会議で、同委トップを兼務する習氏は「わが軍は、東シナ海と釣魚島(尖閣諸島の中国名)の権益を守る軍事行動を深く推進した」と述べたとされています。

この発言は、尖閣諸島を自らの固有の領土という都合の良い歴解釈により、国内では日本に与えられた屈辱感を煽り、尖閣諸島付近で示威行動をすることにより、その屈辱感を晴らす行動に出て、中国人民の中国共産党中央政府に対する憤怒のマグマを日本に向けるという習近平の政治目標を露わにしたものです。

しかし、ドクラム高地の対立を見ればわかるように、この戦略は極めてリスキーです。第1次世界大戦が終結した後、欧州は屈辱の遺産を処理するのに失敗し、第2次世界大戦の惨禍を招きました。特に当時のドイツ国民の屈辱感は凄まじいもので、ヒトラーはこれを利用しました。一方で第2次大戦後の欧州は、未曾有のレベルで域内協力を行う枠組みを整え、問題に立ち向かいました。

歴史的屈辱をめぐって煮えたぎる怒りに手がつけられなくなる前に、アジアでも同様の試みがなされるのを願うばかりです。

習近平は、現在人民解放軍を掌握すべく、様々な画策をしていることをこのブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【石平のChina Watch】「習近平の兵隊」と化する解放軍…最高指導者の決断一つで戦争に突入できる危険な国になりつつある―【私の論評】国防軍のない中国はアジア最大の不安定要素であり続ける(゚д゚)!
北京で行われた中国共産党大会の開幕式に向かう中国人民解放軍の代表ら=10月
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 中国の政治・経済・外交の全般を統括する多忙な身でありながら、習氏がわずか10日間で4回にもわたって軍関係活動に参加するのは異様な風景であるが、同5日、中央軍事委員会が全軍に対して通達したという「軍事委員会の主席負責制を全面貫徹させるための意見書」に、習氏の軍に対する特別な思い入れの理由を解くカギがあった。 
 中国語のニュアンスにおいて、「軍事委員会の主席負責制」とは要するに、「軍事委員会の業務は全責任を持つ主席の専権的決裁下で行われること」の意味合いである。もちろん「主席」は、習氏であるから、この「意見書」は明らかに、中央軍事委員会における習氏一人の独占的決裁権・命令権の制度的確立を狙っているのだ。 
 「意見書」はその締めくくりの部分で習主席の名前を出して、「われわれは断固として習主席の指揮に服従し、習主席に対して責任を負い、習主席を安心させなければならない」と全軍に呼びかけたが、それはあたかも、解放軍組織を「習主席の軍」だ、と見なしているかのような表現であろう。 
 中国共産党は今まで、党に対する軍の絶対的服従を強調してきているが、少なくとも鄧小平時代以来、軍事委員会主席本人に対する軍の服従を強調したことはない。しかし今、習主席個人に対する軍の服従は、まさに「主席負責制」として制度化されようとしているのである。このままでは、中国人民解放軍は単なる共産党の「私兵部隊」にとどまらずにして、習主席自身の「私兵部隊」と化していく様子である。
しかし、「軍事委員会の主席負責制を全面貫徹させるための意見書」を全軍に通達したからといって、すぐに習近平が人民解放軍全軍を掌握できるとは限りません。

実際、中国国営の新華社通信は28日、人民解放軍の最高指導機関、共産党中央軍事委員会の元メンバーで、重大な規律違反の疑いで調査を受けていた張陽・前政治工作部主任(66)が自殺したと報じました。習近平政権が進める反腐敗闘争で元軍高官が自殺するのは異例です。習国家主席が進める軍掌握にも影響が及びかねない事態です。

張陽・前政治工作部主任
習近平が軍を掌握するにしても、様々な紆余曲折があった後にようやっと実質的にできるようになるものと考えられます。

そうなると、習近平は、軍部を腐敗撲滅で追い詰めるでけではなく、軍部の歓心を買うために、軍部が強力に推進している作戦などをさらに強く進めることを許可するかもしれまんせん。

そうなると、ドクラム地区、南シナ海、尖閣諸島での軍の作戦を強力に推進するかもしれません。先日も、このブログでも述べたように、人民解放軍は他国の国防軍とは違い、現状では、共産党の私兵であり、独自で様々な事業を推進する商社の存在であるということを考えれば、習近平は尖閣諸島の奪取も黙認するかもしれません。

なぜなら、尖閣諸島を奪取すれば、ここは豊富な水産資源があるとともに、それにつらなる東シナ海は石油などの豊富な地下資源が眠っているところだからです。

人民解放軍としては、尖閣を奪取することにより、この利権を入手することも可能です。そうして、習近平がこの利権を人民解放軍が入手することも黙認すれば、習近平に従うようになり、習近平が軍を掌握することができるようになるかもしれません。

一方ドクラム地区は、習近平が推進する広域経済圏構想「一帯一路」の要衝でもあります。習近平としては、この地区での中国の覇権を手中に収めることも重要な政治目標でもあります。尖閣諸諸島とそれに続く東シナ海の覇権を認めることで軍を懐柔して、ドクラム地区および「一対一路」のために必要になる軍事的な存在感を周辺の国々に訴求できるように軍部に働きかけるということも考えられます。

日本としては、尖閣諸島が日本固有の領土であることを国際社会にこれからも強く訴えるとともに、尖閣諸島はどんなことがあっても守ることを中国に対して強く示していくべきでしょう。曖昧な態度を取り続ければ、南シナ海の環礁を中国が実行支配することになってしまったように、尖閣諸島および東シナ海、あるいは沖縄まで中国に実行支配されることになるかもしれません。

曖昧な態度は良くありません。中国の誤解を招くだけです。寸土の領土も中国には絶対に譲らないという意思を具体的な行動を持って示すべきです。そうして、まかり間違って人民解放軍が尖閣を奪取にきたら、実際に武力で排除すべきです。

それととも、長期的には、第2次大戦後の欧州のように、未曾有のレベルで域内協力を行う枠組みを整え、「屈辱」にかわる新たなアジアの秩序を樹立するために努力すべきです。これは、自国中心にしか物事を考えられない中国には絶対にできないことです。この問題にASEAN諸国、インド、その他のアジアの国々とともに具体的に取り組みリーダー的役割を果たせる国はアジアの中でも日本をおいて他にできる国はありません。

【関連記事】

日本の“海軍力”はアジア最強 海外メディアが評価する海自の実力とは―【私の論評】日本は独力で尖閣の中国を撃退できる(゚д゚)!
↑この記事では、世界屈指の戦略家ルトワック氏の日本の尖閣列島への具体的対処法の提言を掲載してあります。


2017年12月2日土曜日

トランプ大統領 エルサレムをイスラエルの首都に 米報道―【私の論評】トランプ大統領の判断次第では、新たな紛争の火種に(゚д゚)!

トランプ大統領 エルサレムをイスラエルの首都に 米報道


アメリカのメディアは、トランプ大統領が、中東のエルサレムについて、来週にもイスラエルの首都として認めることを検討していると伝えました。仮に首都と認めればパレスチナやイスラム諸国が反発するのは確実で、トランプ大統領の判断が注目されます。

アメリカの複数のメディアは、1日、トランプ大統領がエルサレムを来週にもイスラエルの首都として認めることを検討していると伝えました。

エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地があり、イスラエルは首都だと主張していますが、国際社会は認めていません。トランプ大統領は、去年の選挙中、イスラエルにあるアメリカ大使館を、テルアビブからエルサレムに移転すると公約に掲げていましたが、中東和平交渉への影響などを踏まえ、移転についての判断をことし6月、半年間先送りしました。

トランプ大統領は、今月再び、判断を迫られていて、メディアは「移転を再度先送りするかわりにエルサレムを首都と認め、イスラエル寄りの姿勢を示そうとしている」との見方を伝えています。

ホワイトハウスの当局者はNHKの取材に対し、「まだ判断は決まっていない」としていますが、一連の報道について、パレスチナ側は「和平交渉を台なしにするものだ」と早くも神経をとがらせています。仮に首都と認めれば、パレスチナやイスラム諸国が反発するのは確実で、トランプ大統領の判断が注目されます。

【私の論評】トランプ大統領の判断次第では、新たな紛争の火種に(゚д゚)!

イスラエル政府は今年7月14日、旧市街の近くで警官2人がアラブ系の男らに射殺された事件の後で金属探知機を設置。パレスチナ人との衝突が激化したのを受け、25日に「よりスマートな検査」に切り替える方針を示していました。

この問題で、同国政府は金属探知機を撤去する代わりに監視カメラを設置する動きをみせていました。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は、立ち入り規制につながるあらゆる機器の撤去を求めたほか、現地のイスラム教指導者は聖地に行かず街頭で礼拝を行うよう示唆しました。
現状では、エルサレムの聖地への立ち入り問題が一応は収束していますが、イスラエルとパレスチナの対立構図は変わりません。底流には聖地をめぐる争いの歴史があるからです。

■占領問題に直結

聖地がある旧市街は、イスラエルが第3次中東戦争(1967年)で占領し、一方的に併合を宣言した東エルサレムに属します。


今回の対立は、パレスチナ人が自らの聖地に立ち入る権利を、「異教徒」であるイスラエルが制限しているとの不満が発端でした。パレスチナ側にとっては、「主権」や信教の自由、イスラエルによる占領などに直結する問題といえます。

旧市街のイスラム教の聖地は、ヨルダンの支出によって管理されているという複雑な事情もあります。

■ともに「首都」主張

アレアクサ・モスク
旧市街のイスラム教聖地「ハラム・シャリーフ」は、ユダヤ教でも「神殿の丘」と呼ばれ、聖地となっています。イスラム教では、預言者ムハンマドが昇天したとされる「岩のドーム」や「アルアクサ・モスク」がある第3の聖地です。

一方、ユダヤ教徒にとっては、紀元70年にローマ軍に破壊された神殿があった場所に当たります。隣接する「嘆きの壁」では信徒が日々、祈りをささげています。

5月22日、米国の現職大統領として初めて、エルサレム旧市街にある
ユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を訪問したトランプ米大統領
エルサレムは紀元前 4000年頃に築かれたといわれますが、前 1000年頃ダビデ王により古代ユダヤ王国の聖都とされ、その後イエスの処刑と復活の地としてキリスト教の聖地となりました。

 638年にはアラブの支配下に入り、メッカ、メジナに次ぐイスラム教の第3の聖地となり、16世紀以降はオスマン帝国の支配のもと、城壁で囲まれた旧市内に集中する3宗教の聖地が保護され、宗教的共存の時代が続いきました。

東半の旧市街は 1948年から 1967年までヨルダンに属していましたが、六日戦争 (第3次中東戦争 ) 後の 1967年6月にイスラエルが占領、統一都市として管轄権を主張しましたが、ヨルダン、国際連合のいずれもがこれを承認していません 。

標高 800mのユダ山地上にあり、地中海性気候のため夏は暑く乾燥しますが、冬は雨が多いです。城壁に囲まれた旧市街には宗教史上の遺跡がきわめて多く、1981年ヨルダンの推薦で世界遺産の文化遺産に登録。新市街は 20世紀になって開けた近代都市で、官庁、ヘブライ大学などの文化機関が多く,伝統伝統的な旧市街と対照をなしています。人口 78万8100(2011)。

20世紀に入り、欧州などで迫害されたユダヤ人が入植を進め、1948年にはイスラエルが建国されました。

イスラエルが、建国直後の第1次中東戦争で獲得した西エルサレムに東エルサレムを合わせた全域を「不可分の永遠の首都」とするのに対し、パレスチナ自治政府は東エルサレムを「将来の独立国家の首都」と位置づけています。

このような過去の歴史を踏まえると、仮にトランプ氏がパレスチナをイスラエルの首都と認めれば、パレスチナやイスラム諸国が反発するのは確実で、トランプ大統領の判断次第で、新たな紛争を火種となることもあり得ます。

【関連記事】

2017年12月1日金曜日

【正論】北朝鮮「無政府状態」へのシナリオ 日本が拉致被害者救出すら行わないなら〝放置国家〟というほかない 福井県立大学教授・島田洋一―【私の論評】積極的平和主義の立場からも拉致被害者を救出せよ(゚д゚)!

【正論】北朝鮮「無政府状態」へのシナリオ 日本が拉致被害者救出すら行わないなら〝放置国家〟というほかない 福井県立大学教授・島田洋一


 ニューヨーク、ワシントンをも射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に北朝鮮が成功したことで、半島情勢は発火点にさらに近づいた。現行レベルの制裁では北の核ミサイル開発を止められないことが明確になったといえる。
≪強まる軍事オプションの発動≫
 今後、中国やロシアが石油全面禁輸を含む北の経済封鎖に協力するなら、さらに様子を見るという選択肢もあるが、期待できないだろう。北でクーデターや民衆蜂起が起き、国際常識に従う新政権に代わるのがベストだが、願望は政策ではない。

 事態を動かすカギはアメリカの軍事力である。脅威は相手の意思と能力の関数だが、北の意思(独裁者)と能力(核ミサイル)いずれの無力化についても、アメリカの軍事攻撃以外の選択肢はますます見当たらなくなってきている。

 米トランプ政権は中国に対し、アメとムチの両様で臨んでいる。中国が北朝鮮の経済封鎖に協力しないなら、軍事オプション発動しかなく、在北中国資産も相当破壊されるだろうが覚悟しておけというのがムチである。北と取引を続ける中国事業体への制裁もムチの一環だが、それが主役であり得た時期は過ぎつつある。
他方、中国が石油禁輸や秘密作戦を通じて北の現政権打倒に協力するなら、中国による傀儡(かいらい)政権樹立を容認してもよいというのがアメのメッセージである。開戦後においても、アメリカは地上軍の投入は基本的に忌避するとみられることから、北の核ミサイル廃棄が確約される限り、中国が軍を南下させ、実質統治に当たることに異議は唱えないだろう。

≪中国に「傀儡」認める米の戦略≫
 ところで、このアメには別の狙いもある。中国が北朝鮮における平定戦、治安維持、戦略インフラ整備などに相当の兵力を割かれるならば、その分、台湾に対する圧力が弱まることが期待できる。実際、毛沢東は1951年7月を台湾侵攻の開始月と定め、南部への戦力集中を進めていたが、50年6月に朝鮮戦争が勃発、米軍が鴨緑江に迫ったため介入を決め、戦力を北へ大転回させた。その結果、台湾侵攻は無期延期となった。

 アメリカにとっては、日本海の奥にある朝鮮半島北半部より、太平洋と南シナ海の結節点に位置する台湾の方が戦略的にはるかに重要である。北に傀儡政権を作ってもよいというのは、中国に対するアメではあるが、あわよくばそこで精力を費消させようという「ハニートラップ」の要素も持つ。

そのことは中国も十分意識していよう。従って、北朝鮮内部の一部戦略拠点(核施設、港湾、難民流入を防ぐ意味で国境地帯など)の保障占領にとどめ、広範囲にわたる軍の展開は避けてくるかもしれない。アメリカが地上軍を送らず、文在寅政権の韓国が北進を拒み、中国も拠点確保のみで様子を見るという展開になると、少なくとも一定期間、北のかなりの地域が無政府状態に陥りかねない。武器を持った盗賊が入り乱れる危険な状態ともいえる。

 その時、日本にとっての最大課題は、拉致被害者の安全確保と無事帰還である。「米軍にお願いする」というのが政府の立場だが、上記の状況では米軍はおろかどこの国の軍隊も存在しない。

 もっとも米軍は、独裁者の確実な無力化(拘束ないし殺害)のため特殊部隊を投入することは考えよう。作戦の過程で拉致被害者を確認すれば救出に努めてもくれよう。しかしそこで死傷者が出る事態になれば「日本人を救出する現場になぜ自衛隊がいないのか」との声がアメリカで湧き上がりかねない。政治家はどう答えるのか。

≪自衛隊は拉致被害者救出に赴け≫

 2年前に成立した安保法の形成過程で、政府「懇談会」の報告書(2014年5月)は、憲法が拉致被害者など「在外自国民の…保護を制限していると解することは適切でなく」、国際法上許される範囲で自衛隊が保護・救出に当たれる、という新解釈を打ち出すべきだと提言していた。首相自身は前向きだったと聞くが、結局、政権として国際法上問題はなくとも憲法上許されないという従来の立場を踏襲することになった。他の諸点で、憲法解釈を変更したにもかかわらずである。

 国会で解明すべき「闇」があるとすれば、空虚かつ区々たる森友・加計「疑惑」ではなく、「拉致問題解決を最重要課題とする安倍晋三政権が、なぜ自ら作った懇談会の、まさに被害者の命に関わる重要提言をいれなかったのか」ではないか。そして、有志議員が与野党の枠を超え、「自衛隊が救出に赴けるよう憲法解釈を変更せよ」と主張すべきだろう。

福井県立大学教授・島田洋一
 強制収容所にも日本人がいる可能性がある。人権を重んじる国なら、収容所の解放作戦にも率先して参加せねばならないはずだ。憲法解釈の変更には無責任な野党が政争化してくるかもしれない。しかし、国際法上許される形の拉致被害者救出すら行わないとなれば、文字通り“放置国家”というほかないだろう。(福井県立大学教授・島田洋一 しまだよういち)

【私の論評】積極的平和主義の立場からも拉致被害者を救出せよ(゚д゚)!

日本が、主権国家であり、国家としての対面を保ち続けるつもりがあるのなら、そうして人権を重んじる国でならば、どんな形にしても拉致被害者を解放するのは当然のことです。もし、これをしなければ、ましてや米国などに頼り切るということになれば、それこそ日本の威信は地に落ちることになるでしょうし、米国は日本を信頼しなくなり、中国により傾くようになるでしょう。

そのようなことをしない政府に対して多くの国民は統治の正当性を疑うことになるでしょう。あるいは、それをしようとする政府に野党やマスコミが大反対をした場合、多数の国民は彼らに対して不信感を抱くことになります。拉致被害者救出はまともな主権国家ならば、挙党一致でのぞむのが当たり前のことです。それをいつものように、ただ反対というのでは大多数の国民は絶対に納得しません。

日本の拉致被害者と面会したトランプ米大統領(左端一番手前)
さて「積極的平和主義」ということが、歴代の政府でもいわれてきたことですが、第2次安倍内閣で用いられる「積極的平和主義」とは何かは、『国家安全保障戦略』の第3頁に明示されています。以下にそれを掲載します。
他方、現在、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることや、我が国が複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面していることに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、より積極的な対応が不可欠となっている。我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で、国際社会の平和と安定のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。

これらを踏まえ、我が国は、今後の安全保障環境の下で、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全 及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく。このことこそが、我が国が掲げるべき国家安全保障の基本理念である。— 国家安全保障戦略 、第II章1節
一言で表すなら、「国際社会の平和と安定及び繁栄の実現に我が国が一層積極的な役割を果たし、我が国にとって望ましい国際秩序や安全保障環境を実現していく」方針の事で、具体的には国連平和維持活動等への積極的参加、米国やその同盟国との関係強化、外交努力や人的貢献による国際秩序の維持・紛争解決を行います。

自国の国民を助けようともしない国が、「積極的平和主義」を掲げても、それは単なる空念仏に過ぎなくなります。そんなことにならないためにも、やはり日本は、北の体制が崩れるという事態が発生すれば、必ず拉致被害者救出を実行すべきです。そうして、それを実行できる組織は日本では、自衛隊以外にありません。

世界の平和に日本が積極的に貢献していく事に対して、反対する向きは少ないでしょう。しかし、積極的平和主義を行う「覚悟」が、日本政府、そして日本国民にあるのでしょうか。

日本と同じく、第二次世界大戦の敗戦国として戦後をスタートしたドイツは、東西対立の最前線に位置していた事もあり、北大西洋条約機構(NATO)や欧州安全保障協力機構(OSCE)といった、多国間の安全保障枠組みの中での防衛を基調としていました。

この点が日米安保条約という二国間の安全保障を中核に据えていた日本と異なる点ですが、海外への派兵はNATOの域内に留めるという基本法(憲法に相当)解釈が冷戦期は維持されており、国外派兵を認めていなかった日本と事情が似ています。この多国間安全保障に加え、「不戦の原則」、「大量殺戮の阻止」が、第二次大戦でのドイツからの反省点として、戦後ドイツの安全保障の中核概念になりました。

このように域外派兵に抑制的だったドイツにも転機が訪れます。1990年の湾岸戦争の際、多国籍軍への資金提供に留めていたドイツは、国内外で「小切手外交」と批判を受けます。この批判を受け、コール首相はそれまでNATO域外の派兵を禁じていた基本法解釈の変更を行い、ユーゴ紛争やソマリアへの派兵を行う事になります。

この経緯は湾岸戦争への対応で同様の批判を受けた日本とよく似ており、自衛隊のペルシャ湾派遣やPKO協力法制定、更には現在問題になっている集団安全保障についての憲法解釈変更へと繋がっています。

基本法の解釈変更により域外派兵の道を開いたドイツは、その後も1999年のセルビア空爆への参加、2001年のアフガニスタン派兵等、積極的に軍事力の行使を含む、国際平和活動に参加する事になります。当時は社会民主党(SPD)・緑の党の左派連立政権で、ドイツは海外派兵に慎重になるとみられていました。

ところが、ボスニア紛争の最中の1995年に起きたスレブレニツァの虐殺を受け、ドイツの安全保障の中核概念であった「大量殺戮の阻止」がクローズアップされる事になります。シュレーダー政権は「大量殺戮の阻止」が「不戦の原則」に優越する概念であり、大量殺戮を阻止する為には武力行使も辞さないという考えから、アルバニア系住民への迫害が行われていたセルビアに対する空爆に踏み切りました。

握手するシュレーダー独首相(当時、左)とブッシュ米大統領(当時、右)
2001年の同時多発テロ後は、インド洋での米英軍の作戦を海上から支援するとともに、アフガニスタンで治安維持活動を行う国際治安支援部隊 (ISAF) へもNATOの一員として、兵力を派遣する事になります。このアフガニスタン派遣は、開始から10年以上経つ今現在も続いており、ドイツ軍は300名以上の死傷者を出しています。この海外派兵の死傷者を巡り、右派政党が派兵を決定した政権を批判する等、日本とは全く逆の現象も起きています。

アフガニスタンで殉職した有志連合軍兵士、ドイツ軍兵士らの慰霊碑
ドイツ軍のアフガニスタン派遣を巡っては、2009年9月には「クンドゥス爆撃」と呼ばれる事件も発生しています。アフガニスタン北東部のクンドゥス付近で、武装勢力タリバンがタンクローリーを強奪する事件が起き、派遣ドイツ軍のゲオルグ・クライン大佐はタンクローリーが自爆テロに使われると判断し、米軍に対してタンクローリーの爆撃を要請しました。

ところが、タンクローリーの周囲に現地住民が集まっていたため、爆撃により民間人に多数の死者が出る惨事となり、ドイツ国内外で政治問題化しました。また、現地のドイツ軍憲兵の調査で民間人の死者があったと報告されていたにも関わらず、フランツ・ヨーゼフ・ユング国防相は「爆撃に民間人の死者は含まれなかった」と虚偽の発表をしたために、更迭される事態にまで発展しました。

これらドイツの事例と同じようなことが、自衛隊派遣で起こらないとは限りません。むしろ、必ず起きると考えた方が間違いないと思われます。先日の朝日新聞の単独インタビューに応じた陸上自衛隊の井川賢一・南スーダン派遣隊長は、今年1月上旬に自衛隊宿営地近くで銃撃戦が発生した際、隊員に小銃、銃弾を携帯させ、「正当防衛や緊急避難に該当する場合は命を守るために撃て」と指示していた事を明らかにしています。既に戦闘すれすれの所まで、自衛隊は活動しているのです。

不安定な地域に赴くことは、撃たれる可能性、撃つ可能性が存在し、なにより自衛官が死傷する事もあるという認識を、どれほどの日本国民が覚悟を持って受け入れているのでしょうか。仮に今後、自衛隊が派遣先で戦闘に巻き込まれ死傷者を出した、あるいは民間人を誤って殺傷してしまったという事が起きた場合、その責任は誰が取る事になるでしょうか。

このような事態が起きた場合、政治問題化することは容易に想像できますが、国際社会に積極的平和主義を行うと宣言してしまった手前、死傷者が出た、出してしまったと積極的平和主義を取り下げる事は簡単にできません。ましてや、自国民の拉致被害者を救出しもしないようでは、問題外です。

アフガニスタン派兵の初期のドイツ空挺兵の写真
多くの死傷者や民間人の誤爆を引き起こし、国内で大きな論争を巻き起こしてもなお、ドイツは海外派兵を続け、大国の責任として国際平和への貢献を履行しています。このドイツの自国民の流血、そして他国民をドイツ人が誤って殺してしまうリスクを厭わず、大量殺戮の阻止と国際平和の実現を目指す覚悟は大変立派なものです。

対して日本は、自衛官・民間人の死にどこまで耐える覚悟が出来ているのでしょうか。自国民・他国民の犠牲をどこまで許容できるか、積極的平和主義はそういう命の計量すらも私達に問いかけているのかもしれません。

そうして、積極的平和主義を提唱する我が国は、まずは、北の体制が崩壊した直後には、自衛隊を北朝鮮に派遣して拉致被害者を救出しなければなりません。その際には、当然のことながら自衛官・民間人の死は予想されますし、北の人民や武装集団を自衛隊が誤って殺してしまったり、拉致被害者救出という使命遂行のため意図的に殺傷しなければならない場合も当然のことながらでてきます。それでも、主権国家としては自国民を救出しなければならないのです。

今まさに、私達はその覚悟を迫られているのです。

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2017年11月30日木曜日

【石平のChina Watch】「習近平の兵隊」と化する解放軍…最高指導者の決断一つで戦争に突入できる危険な国になりつつある―【私の論評】国防軍のない中国はアジア最大の不安定要素であり続ける(゚д゚)!

【石平のChina Watch】「習近平の兵隊」と化する解放軍…最高指導者の決断一つで戦争に突入できる危険な国になりつつある

北京で行われた中国共産党大会の開幕式に向かう中国人民解放軍の代表ら=10月
    先月、中国共産党総書記に再任して以来、習近平国家主席は頻繁に軍関係の活動を展開している。同26日、習氏は北京で開かれた「軍指導幹部会議」に参加し、「重要講話」を行った。それに先立って、習氏は、19回党大会参加の解放軍関係者全員を招集して彼らに「接見」した上、短い演説も行った。

 さらに今月2日、習氏は中央軍事委員会主席として同委員会が執り行った「上将軍階級授与式」に出席し、上将の軍階級に昇進した軍人に新階級を授与した。

 同4日には、習氏は軍事委員会のメンバー全員を率いて、「中央軍事委員会連合作戦指揮センター」を視察した。習氏はその日、迷彩服までを身につけて軍の最高司令官として指揮を執るような演出を行った。軍を動かしているのは自分自身であることを強く印象付けたのである。

中央軍事委員会連合作戦指揮センターを視察した習近平氏
中国の政治・経済・外交の全般を統括する多忙な身でありながら、習氏がわずか10日間で4回にもわたって軍関係活動に参加するのは異様な風景であるが、同5日、中央軍事委員会が全軍に対して通達したという「軍事委員会の主席負責制を全面貫徹させるための意見書」に、習氏の軍に対する特別な思い入れの理由を解くカギがあった。

 中国語のニュアンスにおいて、「軍事委員会の主席負責制」とは要するに、「軍事委員会の業務は全責任を持つ主席の専権的決裁下で行われること」の意味合いである。もちろん「主席」は、習氏であるから、この「意見書」は明らかに、中央軍事委員会における習氏一人の独占的決裁権・命令権の制度的確立を狙っているのだ。

 「意見書」はその締めくくりの部分で習主席の名前を出して、「われわれは断固として習主席の指揮に服従し、習主席に対して責任を負い、習主席を安心させなければならない」と全軍に呼びかけたが、それはあたかも、解放軍組織を「習主席の軍」だ、と見なしているかのような表現であろう。

 中国共産党は今まで、党に対する軍の絶対的服従を強調してきているが、少なくとも鄧小平時代以来、軍事委員会主席本人に対する軍の服従を強調したことはない。しかし今、習主席個人に対する軍の服従は、まさに「主席負責制」として制度化されようとしているのである。このままでは、中国人民解放軍は単なる共産党の「私兵部隊」にとどまらずにして、習主席自身の「私兵部隊」と化していく様子である。

 先月の党大会において政権内における個人独裁を確立した習氏はこのようにして、軍における自分自身の個人独裁体制の確立を図っているのである。上述の「意見書」はまさにこのための工作の重要なる一環であり、冒頭に取り上げた習氏による軍関係活動への頻繁な参加もそのための行動であろうと理解できよう。

 つまり習氏が今、解放軍を自らの「私兵部隊」として作り上げようとしていることは明らかだ。それによって政権内における自らの独裁体制をさらに強化していく魂胆であるが、外から見れば、それは実に大変危険な動きである。

 軍はいったん習氏の「私兵部隊」となって、習氏個人の意のままに動くようになると、中国は彼の一存で簡単に戦争ができるような国となってしまう。これから中国と他国との間で何か起きたとき、もし習氏が自らの信念に基づいて、あるいは単なる個人的な判断ミスに基づいて戦争を起こす決断を下してしまえば、中国国内ではそれにブレーキをかける人間はもはや誰もいない。つまり金正恩(キム・ジョンウン)氏の北朝鮮と同様、中国は今、最高指導者の決断一つでいつでも戦争に突入できるような危険な国になりつつあるのである。

 このような中国にどう対処していくのか、日本と世界にとっての大問題であろう。

                   ◇

【プロフィル】石平
 せき・へい 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

【私の論評】国防軍のない中国はアジア最大の不安定要素であり続ける(゚д゚)!

多くの日本人いや、諸外国の人々にとっても、習近平主席と中国の人民解放軍は外から見ると強固な関係で、習の独裁あるいは軍と一体化しているようにも見えているのかもしれません。

しかし、実際には中国人民解放軍には習近平への不満が渦巻いており、機会があれば失脚させようと狙っています。

まず中国人民解放軍について理解する必要があります。先日も述べたように人民解放軍は中国という国家に所属していません。

法律では中国共産党に所属する私兵なので、国家主席だろうと最高指導者だろうと、軍に直接命令する事はできないのです。

どうしてこのようなことになったかといえば、清国が辛亥革命によって倒れたあと、国民党が政権を握り後で共産党が誕生した経緯に原因があります。さらに、私達に理解できないのは、人民解放軍はそれ自体で様々な事業を展開していて、日本でいえば商社のような存在であるということです。人民解放軍本当の姿は、共産党の属する武装商社なのです。

「一つの中国」の中で国民党軍と共産党軍が内戦をしているのですから、国家に所属する軍隊などとすれば、それこそ敵に寝返りかねないわけです。

現在の中国にも近代国家としての正規軍が存在せず、共産党に所属する私兵だという事は、何を意味しているかといえば、党内の派閥や軍閥が強い力を持っていることを示しています。

習近平が人民解放軍を動かせるのは、「共産党中央軍事委員会主席」という地位に就いているからで、中国の国家主席だからではありません。

1982年に重要な憲法改正が行われ、「軍事委員会主席が軍を統率する」から「軍事委員会が軍を領導する」に変わっています。

比較すると以前は主席(毛沢東)個人に指揮権があったのに、現在は委員会が統率して指導するとなっていて、権限が縮小されています。

これは恐らく毛沢東時代の独裁が経済や軍事に悪影響を与えた事から、最高指導者の権限を縮小したのでしょう。

つまり習近平主席の軍への影響力は絶対的なものでも、強固でもなく、むしろ弱いものなのだと分かります。ところが、ブログ冒頭の記事にもあるように「軍事委員会の主席負責制」となったわけであり、主席に指揮権を戻したということです。

南シナ海ではASEAN 諸国、尖閣では日本、そうしてインドなどと中国は多くの周辺国と紛争状態にありますが、習近平が指示しているというよりは軍が習に強要しているとの見方もあります。

中国軍幹部は過去になんども「沖縄に1000発のミサイルを撃ち込み草一本生えないようにする」のよう挑発を繰り返しています。

アメリカや台湾やベトナムやインド、フィリピンにもそうであり、アメリカ軍など全滅させる事ができると豪語しています。

習近平は自分に従わない軍部を統率できなければ、いずれ失脚するので熱心に軍制改革を行ってきました。

軍人の30万人削減、宇宙軍やサイバー軍創設とか戦略支援部隊と呼ばれるものを創設し、従来部隊の役割りを縮小しました。

汚職撤廃として多くの軍上層部が摘発されたのですが、摘発されたのは「江沢民派」と「反習近平派」だけだったとされています。

矢継ぎ早に行われた軍制改革は近代化の必要性と同時に、軍部に打撃を与え、「習近平」の軍隊にするためだったのです。
全体い主義国家は、北朝鮮でも旧東欧やソ連でもベトナムでも、軍を握ったものが権力を握ります。

「国民に支持される」などは二の次で、軍を握れば党も握ることになり、国民も支持せざるを得なくなるのです。

軍を押さえ込めなければ、中国の暴走は続くことでしょう。なぜなら選挙制度のない共産国家で統治の正当性を持つためには、軍を掌握するしかないからです。

人民解放軍幹部には過去に何度も習近平へのクーデター計画があったと噂されていて、どうやら真実だったようです。

だからこそ習近平は軍の強硬論を丸呑みにして、南シナ海や尖閣で日米と衝突せざるを得なかったのです。

2016年10月11日には中国国防省前で1000人超の退役軍人が、「反習近平改革」を掲げてデモ行進しました。

中国国防省前で異例の大規模デモ
これは、中国においては天安門事件のように戦車で踏み潰せば良いのかもしれませんが、主催者が人民解放軍なら治安部隊でも取り締まることが難しいです。

中国では珍しい事に反政府のデモ隊は堂々と道路を占拠して、国防省や中央軍事委員会を包囲して気勢を上げていました。

10月24日からおこなわれる第18期中央委員会第6回総会(6中全会)を前に、軍の習近平への姿勢を示したと受け取れます。

習近平国家主席はいまだに中国軍を掌握できておらず、従って南シナ海や尖閣では、軍の言いなりになるしかないでしょう。

2017年7月30日、解放軍設立90周年を前に、内モンゴル自治区にある朱日和
基地で緑の迷彩服を身に付け、オフロード車に乗って野戦部隊を検閲する習近平主席
ただし、「軍事委員会の主席負責制」が本当に機能すれば、習近平が人民解放軍を掌握したということになるわけで、その後何がおこるのかは判断がわかれるところです。

ブログ冒頭の記事を書いた石平の言うように、中国の私兵だったものが、習近平の私兵となることで、習近平が戦争をしたいときに戦争できるようになるという評価があります。

しかし、もう一方からみれば、習近平が軍を掌握することにより、人民解放軍の暴走や圧力を減らし場合によてっては、南シナ海や尖閣での人民解放軍の示威行動がなくなるということも考えられるかもしれません。

しかし、私自身は、結局は何も変わらないと思います。たとえ、習近平が軍を掌握できたとして、習近平が南シナ海や尖閣での示威行動をやめるべきだと思っていたにしても、習近平にとって都合が悪くなれば、今度示威行動を開始するかもしれません。

あるいは、南シナ海や尖閣での次威行動をやめても、今度は習近平の考えにより、新たな紛争地帯が生まれる可能性があるからです。そうして、この習近平による軍の掌握が中途半端であれば、さらに軍と習近平の軋轢がたかまるだけで、さらに大きな不安定要因になりかねません。

所詮、軍隊でもない人民解放軍が存在している事自体が誤りなのです。まともな近代国家の自国を守るための軍隊に変わらなければ、根本は何も変わらず、変わったにしても目先のリーダーが変わるだけのことです。

もし人民解放軍が国防軍であり、それが人民を守るためのものであると法に定められており、しかも中国がまともな法治国家であれば、南シナ海や尖閣の問題もなかったでしょうし、チベット自治区、ウイグル自治区などの問題もなかったでしょう。

人は、誰でも私兵などもてば、自分の都合の良いよいに、国を富簒奪装置にするでしょうし、国内でそれが一巡すれば、国外でもそれをやろうとするのは当然のことです。

いずれにせよ、現中国共産党中央政府の体制が変わり新たな体制にならない限り、何も変わりありません。中国は、これからもアジアの不安定要素となり続けることでしょう。北朝鮮は目先の不安定要素に過ぎません、格段に大きく、これからも長期間にわたり不安定要素となり続けるのは中国のほうです。

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2017年11月29日水曜日

やはり進歩なきエダノミクス 金融政策理解できなければ雇用の増やし方も分からない―【私の論評】ブラック体質を変えない枝野氏(゚д゚)!

やはり進歩なきエダノミクス 金融政策理解できなければ雇用の増やし方も分からない

衆院本会議で質問する立憲民主党の枝野幸男代表=20日午後、国会
 衆院選で議席を伸ばした立憲民主党の枝野幸男代表が、特別国会で代表質問に立った。旧民主党や民進党時代と経済政策に関する認識に進歩はあったのか。

 結論から言ってしまえば、進歩なし。旧民主党や民進党時代と基本的に同じだった。

 枝野氏は選挙期間中、「私は緊縮財政論者だと批判されています。しかし、ここで明言します。現状の私は緊縮財政論者ではないし、いまの日本の状況で緊縮はありえません」と述べていた。立憲民主党は、旧民主党や民進党時代と異なり、消費増税の凍結を主張してもいる。

 しかし、マクロ経済政策で財政と並ぶもう一つの柱である金融政策については、相変わらずの「緊縮」路線だ。

 本コラムで何度も指摘してきたが、枝野氏は「利上げで景気回復」という信じがたい意見の持ち主だ。これは、2008年秋にテレビ朝日「朝まで生テレビ」に一緒に出演していた筆者の目の前で話したことだ。

「枝野 利上げで景気が良くなる」の画像検索結果
2008年「朝まで生テレビけで「利上げで景気回復」と発言した枝野氏
 さすがにまずいと思い、生放送中ではあったが、「不適切な経済運営なので意見を取り消したほうがいい」と言ったが、枝野氏はムキになって自説の正当性を主張した。その言い分は、金利を引き上げると年金生活者などの消費が活発になり、経済が伸びるというロジックだった。

 大学の講義であれば、マクロ経済学の教科書に書かれていることを説明できる。しかし、テレビの生放送の討論番組では、教科書の議論もできないので、「社会にとって、お金を借りてまで事業をしようとする人と、単に資産を持っている人のどちらに恩恵を与えると経済成長するのか」といい、前者の方が経済を引っ張ると筆者は説明した。

 だが、枝野氏は意見を変えていないようだ。先日の代表質問でも、今の金融緩和政策に否定的な見解を述べている。これでは、財政政策で多少緊縮が修正されたとしても、マクロ経済政策全体としては、今の安倍晋三政権より緊縮になってしまう。

 特に変動相場制を採用している先進国では、金融政策をかなり緩和しておかないと、いわゆる「マンデル・フレミング効果」が働き、為替変動を通じて輸出に逆効果が出て財政政策の効果はかなり限定的になってしまう。もちろん、金融緩和が十分であれば、財政政策もその本来の力を発揮でき、有効需要を増加させられるのはいうまでもない。つまり、財政政策のカギを握るのは、その背後にある金融政策というわけだ。

 枝野氏がいうように、強烈な金融引き締めをとる場合、多少財政出動をしても円高になって輸出減を引き起こし、結果として有効需要を増やすことができないだろう。

 枝野氏に対して、このようなマクロ経済の基本を教える人は立憲民主党にはいないのだろう。本人は、単に財政政策だけで、緊縮かどうかを考えているようであるが、それは間違いである。

 金融政策の基本が理解できないので、雇用の作り方も分かっていない。給料を上げるべきだというが、その前に雇用を作ることが先決である。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】ブラック体質を変えない枝野氏(゚д゚)!

上の記事でも、枝野氏が金融政策についての知見を欠いていることは、はっきりわかりますが、さらに酷い事例もあります。

2016年1月8日、衆院予算委員会で民主党(当時)の枝野幸男幹事長が質問に立ち、物価の変動を考慮した実質賃金について、民主党時代は高かったが、安倍晋三政権で低くなっていると批判しました。

まず、事実を確認しておきます。実質賃金については、枝野氏のいうとおりだが、就業者数では民主党時代には30万人程度減少し、安倍政権では100万人以上増加しています。


次に、雇用の経済学を復習してみます。名目賃金は物価より硬直的ですが、金融政策は物価に影響を与えられます。このため、金融緩和すると実質賃金は低下し、就業者数が増加します。さらに金融緩和を継続すると、ほぼ失業がなくなる完全雇用の状態となります。そうなると今度は実質賃金も上昇に転じてきます。

経済の拡大によって就業者数は増加するが、逆に金融引き締めを行うと、実質賃金が高くなり、就業者数が減少。完全雇用からほど遠くなります。

民主党政権と安倍政権の実質賃金と就業者数のデータは、民主党政権では事実上の金融引き締め、安倍政権では金融緩和が実施され、その通りの効果が現れてきたことを示しているわけで、雇用政策から見れば、安倍政権の方が優れています。

民主党政権時代に就業者数の減少を招いたにもかかわらず、実質賃金の高さを誇るのは、雇用政策からみれば滑稽です。就業者数が減り、実質賃金が上昇することで喜ぶのは「既得権雇用者」たちです。つまり、既得権者保護の政治を民主党は公言していることになるわけです。非正規雇用者、新卒者、失業者という「非既得権雇用者」の利益は考えていない、ということです。

国際的な基準からみれば、金融引き締めをした民主党政権は、金融緩和をした安倍政権より「右派」で労働者に厳しいです。枝野氏の当時発言からみて、当時の民主党はすべての労働者の権利を守ろうとする「左派」政党とは思えないです。この見解が間違っていると思われる方がいるなら、欧州の左派政党に意見照会してみると良くおわかりいただけるでしょう。

ブラック企業の経営者は、金融引き締めに賛成しがちです。その方が、失業が多くなり、賃金を安く設定して労働者を買いたたけるので、多少のデフレには対応できるからです。

当時の民主党も、金融緩和に否定的で、金融引き締めを求めるところは、くしくもブラック企業の経営者と共通点があります。

枝野幸男幹事長と「共演」していた桜雪さん(16年4月30日撮影)
東大卒の桜さんが所属する「仮面女子」は、16年4月30日に行われた「ニコニコ超会議」で民進党ブースに登場し、枝野幹事長(当時)と「共演」していました。

「仮面女子」は、“共同生活を送る貧乏アイドル”として、NHK「ドキュメント72時間」をはじめ、 多くのテレビ番組で取り上げられ、知名度を上げましたが、栽培した豆苗をおかず代わりに食べるといった極貧生活のほとんどが社長の池田氏の指示によるヤラセだったようです。

2016年、週刊文春には4人の少女が告発をしていますが、そのうち2人が池田氏に迫られ、
肉体関係を持っていた。脱退にあたり100万円もの“違約金”を払わされたメンバーもいたという。このようにこのアイドルグループは、ブラック体質を持っているようです。

そうして、このブラック企業的体質は、ブログ冒頭の記事にも掲載されているように、現在の立憲民主党代表枝野氏にもそのまま受継がれているようです。

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2017年11月28日火曜日

【スクープ最前線】12・18、米の北朝鮮攻撃Xデー警戒 各国緊張の極秘情報、世界最強ステルス戦闘機6機投入の狙い―【私の論評】今回は、米の北攻撃が始まってもおかしくない(゚д゚)!

【スクープ最前線】12・18、米の北朝鮮攻撃Xデー警戒 各国緊張の極秘情報、世界最強ステルス戦闘機6機投入の狙い

金正恩氏に迫るF22。トランプ大統領の狙いは
 朝鮮半島の緊張が続いている。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、平和的解決を求めた中国の「特使」と会わずに“追い返した”ことを受け、ドナルド・トランプ米大統領は北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定したのだ。北朝鮮による「核・ミサイル開発」の加速化と、各国の情報当局が警戒する「北朝鮮攻撃のXデーは、12月18日の新月の夜前後」という情報とは。ジャーナリストの加賀孝英氏の緊急リポート。

 驚かないでいただきたい。今、次の極秘情報が流れて、各国の情報当局関係者が極度に緊張している。

 《米国は、北朝鮮が平和的解決を拒否したと判断した。トランプ氏がついに『北朝鮮への予防的先制攻撃』(正恩氏斬首作戦)を決断し、作戦準備を命じた。第一候補のXデーは12月18日、新月の夜前後》

 旧知の米軍情報当局関係者は「この裏には、3つの重大な理由がある」と語った。以下の3つの情報だ。

 (1)米本土を攻撃できる北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星14」の開発が、年内にはほぼ完了する。米国には時間がない。

 (2)北朝鮮は10月中旬から、核弾頭の量産体制に入った。日本や韓国、米領グアムの米軍基地を狙う、中距離弾道ミサイル「ノドン」「火星12」に搭載可能になる。日本と韓国に潜入した工作員(日本約600人、韓国約5万人)の動向が異常だ。急激に活発化している。

 (3)北朝鮮への経済制裁が効いてきた。軍部は飢餓状態だ。正恩氏はクーデターを阻止するため、父の金正日(キム・ジョンイル)総書記の命日である12月17日か、来年1月8日の正恩氏の誕生日前後に、日本海の北部か太平洋上で、核実験(水爆の可能性も)を強行、暴走する可能性がある。

 正恩氏は“狂気”に走っている。

 米韓両軍は12月4日から8日まで、朝鮮半島周辺で、史上最大規模の合同軍事演習「ビジラント・エース」を行い、戦闘機約230機が結集する。米軍からは、空軍や海軍、海兵隊などの兵士約1万2000人が参加する。

 ここに、米空軍の最新鋭ステルス戦闘機F22「ラプター」6機と、同F35A「ライトニングII」が3、4機投入されるという。

 問題はF22だ。

 同機は「レーダーにまったく映らない。過去撃墜されたことが一度もない。敵を100%倒す」(防衛省関係者)と恐れられる、世界最強の戦闘機だ。F22が、朝鮮半島に6機も展開すれば初めてである。その狙いは何か。

 米軍関係者は「正恩氏に対する『白旗を上げろ! 米国は本気だ!』という最後通告だ。正恩氏は『F22に狙われたら命はない』と理解し、脅えて震えているはずだ」といい、続けた。

 「米軍は2005年、極秘作戦を強行した。F22の原型である世界初のステルス戦闘機F117『ナイトホーク』を、平壌(ピョンヤン)上空に侵入させ、正日氏の豪邸に目がけて、急降下を繰り返した。正日氏は手も足も出ず、死を覚悟して震えていたとされる。その絶対恐怖を息子が忘れるはずがない」

 重大な局面が迫っている。

 ■加賀孝英(かが・こうえい) ジャーナリスト。1957年生まれ。週刊文春、新潮社を経て独立。95年、第1回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム大賞受賞。週刊誌、月刊誌を舞台に幅広く活躍し、数々のスクープで知られている。

【私の論評】今回は、米の北攻撃が始まってもおかしくない(゚д゚)!

北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定すると発表したトランプ米大統領(20日、ホワイトハウス)
ブログ冒頭の記事では、ドナルド・トランプ米大統領は北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定した事実をあげています。しかし、その理由まではあげていません。これを知れば、北朝鮮問題は確かに重大な局面に迫っていることが理解できます。

アメリカのトランプ大統領は11月20日、ホワイトハウスで記者団に対し、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定することを決めたと発表しました。

なぜ再指定したのでしょうか。その理由を、トランプ大統領は11月8日、韓国の国会での演説の中で詳しく説明しています。北朝鮮を「監獄国家」と激しく非難、その実態についてこう言及したのです(以下、読売新聞11月9日付朝刊から引用)。

韓国国会で演説するトランプ大統領(右端)
この演説の詳細を知りたい方は、是非以下のリンクをご覧になって下さい。
https://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12327005453.html
以下にこのトランプ大統領の演説の一部をピックアップしつつ、説明をします。

《北朝鮮の労働者たちは、耐え難い状況下で、へとへとになりながら何時間もほぼ無給で働いている。最近、すべての労働者が70日間連続での労働を命じられた。休みたいなら金を払わなければならない。》

かつて北朝鮮も「労働者の天国だ」と言われたことがありましたが、実際はとんでもないブラック国家なのです。

 国民もまた、劣悪な生活環境と飢えに苦しんでいます。

《北朝鮮の家族は、給排水もない家に暮らし、電気が来ている家は半分にも満たない。親たちは、息子や娘が強制労働に送られるのを免除してもらおうと教師に賄賂を贈る。1990年代には100万人以上が餓死した。今日も飢えによる死者が続いている。

 5歳未満の子供たちの約30%は、栄養失調による発育不良に苦しんでいる。北朝鮮政権は2012、13年に、その独裁者たちをたたえる記念碑や塔、像をこれまで以上に建造し、それに費やした費用は約2億ドルに上ったと見積もられる。これは、国民の生活改善に充てた予算の約半分に及ぶ。》


 栄養失調にあえぐ北朝鮮の子ども
一党独裁の共産主義国家である北朝鮮には労働組合を作る自由も言論の自由もありません。このため、こうした人権弾圧がまかり通っているのです。

北朝鮮の飢餓を理由に食糧支援を主張する「人権団体」もありますが、いくら日本や韓国を含む西側諸国が北朝鮮に援助をしようと、その援助は国民に届くことはありません。金正恩政権が続く限り、一部の特権階級以外は、飢餓に苦しむことになるからです。その仕組みをトランプはこう説明します。

《北朝鮮の経済の貧弱な成果の分け前は、ゆがんだ体制に対する見かけの忠誠心を尺度に分配される。残忍な独裁政権は、平等な市民を尊重するのとはまったくかけ離れたやり方で、国家への忠誠心といういい加減な指標で国民を値踏みし、点数をつけ、ランク付けする。

 最高の忠誠心を持つと評価された者は首都平壌に住める可能性がある。最低の評価を受けた者は飢える。ちっぽけな違反行為によって、たとえば、捨ててあった新聞に掲載された独裁者の写真に誤って染みを付けただけで、何十年にもわたって家族全員の社会的な地位が地に落ちることになる。》

北朝鮮は、金正恩「万歳」を叫ぶ政府幹部とその家族だけがまともな暮らしをすることができ、その他の大部分は飢餓に苦しむ、凄まじい「差別国家」なのです。

レイプ、拷問、処刑。9歳の子供も監獄に

北朝鮮では、金正恩政権を批判したり、金正恩の写真をずさんに扱った人、キリスト教の信仰を持った人は容赦なく「強制収容所」に送られます。しかも日本人を含む多くの外国人が、北朝鮮のスパイ活動のために拉致され、北朝鮮に拘束されています。

《北朝鮮では推定で約10万人が強制収容所で強制労働に従事させられ、日常的に拷問や飢餓、レイプ、殺人にさらされている。

 祖父が反逆罪に問われたために、ある9歳の男の子が10年間も監獄に入れられた事例が知られている。別の例では、ある生徒が金正恩(キムジョンウン)の伝記のほんの細かい一節を忘れただけで殴打された。

 兵士が外国人を拉致し、北朝鮮のスパイのための語学教師として従事させてきた。

 朝鮮戦争以前、キリスト教徒の拠点の一つだった地域では、キリスト教徒やほかの信仰を持つ人々は、今日、祈りをささげたり聖典を持っていたりしただけで、拘束され、拷問され、多くの場合、処刑されることさえある。》


日本人拉致被害者も大勢いることを忘れてはならない
この金正恩政権は同時に、女性の人権も平気で踏みにじる国でもあります。

《北朝鮮の女性は、民族的に劣等と見なされる赤ちゃんの中絶を強いられる。新生児は殺される。中国人の父親との間に生まれたある赤ちゃんは、バケツに入れて連れて行かれた。衛兵は、不純で生きる価値がないと言い放った。

 それなのに、中国は北朝鮮を支援する義務をなぜ感じるのだろうか。》

これほどひどい「監獄国家」の北朝鮮を懸命に支えてきたのが、中国なのです。訪中する日本の政治家は多いですが、北朝鮮の人権侵害に加担する中国の責任を正面から追及する人が少ないのは本当に残念なことです。

自由な朝鮮、アジアの平和のために

こうした人権弾圧を阻止するためトランプ政権は今回、北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定し、さらなる経済制裁を科そうとしているわけです。
トランプはこう続けます。

《すべての責任ある国家が力を合わせて、北朝鮮の野蛮な体制を孤立させ、拒絶しなければならない。いかなる支援も供給も行ってはならない。受け入れてはならない。中国とロシアを含めたすべての国に対して、国連安全保障理事会の決議を完全に履行するよう求める。北朝鮮政権との外交関係を見直し、すべての貿易と技術協力の関係を断ち切るよう求める。》

経済制裁を主張しているが、トランプは話し合いを拒否しているわけではありません。

《朝鮮半島を空から見ると、南はまぶしく光り輝く国で、北には真っ暗な闇が広がっているのが分かる。我々は、輝き、繁栄し、平和な未来を望んでいる。だが、北朝鮮にとってのより明るい道程については、北朝鮮の指導者が脅しをやめ、核計画を解体してはじめて我々は話し合う用意がある。》

トランプは核開発を断念すれば、交渉する用意があると主張しています。その目的は「自由な朝鮮」の実現です。トランプは長い演説の最後をこう締めくくっています。

《我々はともに、自由な朝鮮、安全な(朝鮮)半島、家族の再会を強く望んでいる。南北が高速道路で結ばれ、親族が抱擁を交わし、核の悪夢が美しい平和への約束に取って代わることを夢見ている。

 その日が訪れるまで、我々は断固とした態度で警戒を続ける。北を注視し、朝鮮のすべての人々が自由に生きることができる日が来るよう祈るのだ。》

アジアの平和と北朝鮮国民の自由のため、金正恩政権には断固とした態度で核計画の放棄を求めると主張しているのが、トランプ大統領なのです。

そのトランプの方針に日本はどう対応するのでしょうか、金正恩政権による人権弾圧や核開発をこのまま放置するのでしょうか、拉致被害者をいかに救出するのでしょうか「監獄国家」北朝鮮の実態を踏まえた建設的な国会論戦を期待したいものです。

金正恩は、トランプ大統領が北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定したことを軽く考えるべきではありません。なぜ指定したかといえば、それだけの要因があるからです。

この要因だけでも、すでに北朝鮮は米国から先制攻撃を受ける可能性はかなり高まりました。これにさらに、北がミサイルの発射実験や核実験を再度強行すれば、それは米国に対して先制攻撃をしかける大きな理由を与えることになります。米国としては、このような機会が訪れれば何らかの形で攻撃するだけです。

ブログ冒頭の記事を書いている加賀孝英氏は、どちらかというと、結構煽る方であり、昨年年末あたりでも、今にも米国による北朝鮮攻撃が始まるようなことを主張しました。それらは、ことごとく外れましたか、今回だけは当たる可能性が高まってきたと思います。12 月18日に本当に戦争が始まるかどうかは別にして、年末から年始のいずれかに起こっても何の不思議もありません。まずは、全核・ミサイル施設、当面韓国への脅威になりそうな部隊等に対するピンポイントの爆撃やミサイル攻撃が火蓋をきるでしょう。

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2017年11月27日月曜日

無法韓国が「慰安婦の記念日」制定へ 平昌五輪危機、拓殖大・藤岡教授「重大な『日韓合意』違反」―【私の論評】韓国は朝鮮戦争休戦協定の当事者ではないことを忘れている(゚д゚)!

無法韓国が「慰安婦の記念日」制定へ 平昌五輪危機、拓殖大・藤岡教授「重大な『日韓合意』違反」

慰安婦の記念日を法制化した韓国。北朝鮮の脅威を
前に、文氏は日本と連携する気があるのか?
韓国の暴挙が止まらない。同国国会は24日の本会議で、毎年8月14日を慰安婦の記念日とすることを盛り込んだ「慰安婦被害者生活安定支援法」の改正案を可決したのだ。米国の仲立ちで2015年、「最終的かつ不可逆的」な解決とした慰安婦問題の「日韓合意」を反故(ほご)にするような無法ぶりだ。朝鮮半島危機を前にして、韓国は日米韓連携を壊すのか。

 「日韓の対立構造をさらに強める、重大な『日韓合意』違反だ」

 「慰安婦問題の真実」を追究している拓殖大学の藤岡信勝客員教授は、こう指摘した。

 8月14日は、1991年に金学順(キム・ハクスン)さんが記者会見し、初めて元慰安婦と名乗り出た日で、「韓国による慰安婦捏造(ねつぞう)キャンペーンの原点となった日」(藤岡氏)といえる。

金学順(キム・ハクスン)
 問題の法案は、法制司法委員会で前日(23日)、可決された。ちょうど、公明党の山口那津男代表が安倍晋三首相の親書を持参し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と青瓦台(大統領官邸)で会談した日である。

 文氏は、山口氏に対し、来年2月に開幕する平昌(ピョンチャン)冬季五輪に合わせ、「安倍首相が訪韓してくれることを期待したい」と要請し、山口氏も「安倍首相に伝える」と応じた。

 日本への「ツラ当て」にも思える対応だが、このままでは、日本人の韓国に対する感情は悪化するばかり。平昌五輪の集客にも大きな影を落とすのは必至だ。

慰安婦の追悼施設「記憶の場」
 韓国の傍若無人ぶりは今に始まったことではない。昨年8月、ソウル市などが慰安婦の追悼施設「記憶の場」を造った。今年6月に来日した韓国国会の丁世均(チョン・セギュン)議長は、大島理森衆院議長らとの会談で、平昌五輪に来る日本人が少なければ、「(2020年の)東京五輪には韓国人を行かせない」と言い放ったという。

 韓国側は、天皇陛下のご訪韓にも関心を持っているとされる。北朝鮮の軍事的脅威が続くなか、「反日・反米・従北・親中」の文政権の言動を信用できるのか。

 藤岡氏も「とんでもない話だ。韓国がこれほど無礼を働いている最中に、天皇陛下がご訪韓されることなど、あってはならない。安倍首相も同様だ。韓国は、慰安婦を『反日ネタ』として、最大限のゆすり・タカリを続けようとしている。日本の弱腰が増長の一因となっている。政府は『経済的断交』も含めた強気の対応を検討すべきだ」と語っている。

 【私の論評】韓国は朝鮮戦争休戦協定の当事者ではないことを忘れている(゚д゚)!

韓国のこうした傍若無人な態度は昔からで、特に驚くこともないのでしょうが、それにしても先日も北の兵士が韓国に亡命したばかりで、北の脅威はますます強まるばかりなのに、日本に対してこのような暴挙に出るのはなぜなのでしょうか。

結論からいうと、文在寅をはじめとする韓国政府のトップは、馬鹿であり、時局をわきまえることができず、何でも国内の事情が世界に通用するものと思っているから、このような愚かなことをしてしまうのです。

今までのことからも、これはわかっていましたが、今回の韓国のこの傍若無人な態度から、ますます確信が深まり、これは断定しても良いのではないかと思います。

それにしても、なぜ今回特に傍若無人なのかを考えてみると、今回のトランプ米大統領のアジア歴訪において対応した各国指導者のうち、韓国の文在寅大統領が世界で一番対応に失敗したからです。これについては以前のこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
米WSJ紙、文大統領を激烈批判「信頼できる友人ではない」 韓国メディアは狂乱状態―【私の論評】「北朝鮮版ヤルタ会談」から締め出された韓国(゚д゚)!
韓国文在寅大統領(右)との会談を終え、記者会見するトランプ米大統領
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、そもそも、今回のトランプ大統領の韓国訪問の韓国側不手際などで、トランプ大統領の韓国ないしは文大統領に対する信頼はますます大きくゆらいでしまいました。

そもそも、北朝鮮現体制崩壊後のアジアの秩序形成は主に日米中露の四カ国に定められことになるのですが、もし韓国がまともな国であり、文在寅大統領がまともな指導者であれば、新秩序のあり方について意見を言い、それを取りあげてもらうことくらいはできたかもしれません。しかし、トランプ大統領訪韓への対応のまずさで、それすらも考慮してもらえなくなりそうです。

そもそも、1950年の朝鮮戦争の停戦協定における休戦協定の署名者は、国連軍総司令官と、北韓軍最高司令官および中国人民志願軍総司令は含まれていますが、韓国は含まれていないという事実があります

朝鮮戦争休戦協定に署名する金日成、朝鮮人民軍最高司令官。
休戦協定に韓国の代表も、ソ連の代表も参加していない。
ですから、韓国が北朝鮮の体制が崩壊した後の秩序について、直接交渉することはできませんが、米国や日本に意見を言い、それをとりあげてもらうことはできます。中国や露にそのようなことを言ったとしても、全く取り上げることはないでしょう。

北朝鮮は協定の当事者として、休戦協定に参加していますが、これは無論当時ソ連の傀儡として参加しているわけで、現実にはすべてがソ連によって決められていました。

北朝鮮現体制崩壊後の朝鮮半島の新秩序に関しては、日米中露で大筋が決めらることになります。

極端なことをいえば、日米中露の合意があれば、北が崩壊した後は、南の韓国も帳消しにして、半島全体で統一した国をつくろうということもあり得るわけです。

韓国は日韓合意を無視するような態度を取り続けています。しかし、日韓合意はそれまでの日韓基本条約とは異なり、米国が仲介した合意事項です。それを守らないということは、まともな国としてはみなされなくなるということになります。

愚かな韓国は、今後朝鮮戦争停戦協定の当事者ではないということに今更気づくのかもしれません。 

そうして、韓国はまたゴールを動かすような行為に出ることでしょう。停戦協定の当事者になるべきだなどの強行な世論が巻き起これば、文在寅大統領は、当事者面をして、日米中露のように振る舞い、朝鮮半島のあるべき姿などを主張するかもしれません。

日韓合意を守らない韓国のことです、今後は朝鮮戦争停戦協定の当事者ではないことを忘れて、まるで当事者であるかのように振る舞い、日米中露の当事者らから呆れ果てられるような行動を繰り返し、ますます国際社会から孤立して浮き上がった存在になることでしょう。

このような馬鹿さ加減は、直接付き合ってみないとわからないものです。今後は、韓国の馬鹿さ加減を知る国々がますます増えていくことでしょう。

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2017年11月26日日曜日

中国は絶望的「格差」国家、民衆の怒りが爆発する日―【私の論評】新たな脆弱性を抱えた習近平体制(゚д゚)!

中国は絶望的「格差」国家、民衆の怒りが爆発する日
「中国の特色ある社会主義」は19世紀の帝国主義にそっくり

中国の農村の風景。中国では都市住民と農民の間に圧倒的な格差が存在する(資料写真)

 10月に中国・北京で第19回中国共産党大会が開催された。内外の注目は人事に集中し、話題は汚職摘発の先頭に立った王岐山の去就や、チャイナ7(政治局常務委員)に次の総書記になる可能性がある50代が入るかどうかなどに集中した。

 王岐山はチャイナ7に留まらなかったものの、その他の人事は習近平の思惑通りとなったことから、マスコミは一斉に「習近平への権力集中が進んだ」と報じた。

 習近平は3時間以上にも及ぶ演説の中で2つの指針を示した。1つは「新時代の中国の特色ある社会主義」であり、もう1つは「中華民族の偉大な復興」である。この2つの目標は、その底流において深く関連している。

生まれ落ちた時から格差がある

大手マスコミは全くと言ってよいほど非難しなかったが、習近平が「新時代の中国の特色ある社会主義」と言っているものは、とても歴史の審判に耐えうる代物ではない。まさに噴飯ものである。

 そもそも社会主義は人々の権利の平等と所得分配の公平を謳う思想であろう。根底に平等がなければ社会主義とは言えない。

 中国にはものすごい格差が存在する。共産党幹部と深いつながりを有する一部の富裕層が天文学的な富を蓄えた。そして、それに連なる人々も裕福になった。その子弟は海外に留学するとともに、ショッピングバックを抱えて銀座を闊歩している。

 だが、日本に観光旅行に来て銀座で爆買いできる層は、多く見積もっても13億人の1割程度であろう。だから日本に来る観光客の数が、人口が5000万人の韓国を少し上回る程度でしかないのだ。

 中国には都市住民と農民を峻別する戸籍制度が存在する。この制度は中国がものすごい格差社会になった原因の1つである。現在、都市戸籍の保有者は約4億人であり、農民戸籍は9億人。

 都市戸籍になるか農民戸籍になるかは、「おぎゃー」と生まれ落ちた時に決まる。都市戸籍を持つ親から生まれると都市戸籍、農民戸籍を持つ親から生まれると農民戸籍になる。それは武士と農民を分けていた日本の江戸時代にそっくりだ。21世紀になっても中世さながらの制度が存在する。

 農民戸籍を持つ9億人の中の約3億人が都市に働きに出ている。しかし、都市戸籍を有さないために、子供を都市の学校に通わせることができない。最近は都市郊外に農民工の子供のための学校が作られているが、これはまさにかつて南アフリカで行われていたアパルトヘイト(隔離政策)そのものと言ってよい。

 中国の都市の住宅価格が高騰し、バブル状態を呈していることはよく知られている。普通のサラリーマンが住宅を手に入れようとすると、勢い郊外に目を向けざるを得ない。だが、いくら安いと言っても、農民工が多く住む周辺には住みたくないと言う。それは子供を農民工が通う低いレベルの学校に通わせるわけにはいかないからだ。そのために少々狭くとも中心部に住む。これは中国で不動産バブルが崩壊しない原因の1つになっている。

維持される戸籍制度

中国共産党は戸籍制度が格差の原因になっていることをよく認識している。そのために、胡錦濤政権では「和諧社会」なるスローガンを作って、格差の是正に取り組もうとした。しかし、胡錦濤の政治力では分厚い既得権益の壁を崩すことはできなかった。格差は胡錦濤の10年間で一層拡大した。

 このような状況にあるから、もし習近平が本気で社会主義社会を建設したいのであれば、政権基盤が強くなった第2期目において、「和諧社会」の建設に邁進すべきであった。それこそが共産党の使命なのだ。

 しかし、習近平は格差是正に舵を切らなかった。「新時代の中国の特色ある社会主義」では戸籍制度を維持するつもりのようだ。

 また、現在、中国には不動産に対する固定資産税や相続税が存在しない。このことが都市に住む富裕層に、富を不動産に移して効率的に蓄えることを可能とさせている。固定資産税や相続税をかけることは、戸籍制度の廃止とともに格差是正の切り札になる。しかし、それは都市の富裕層から激しい反撃を受けることになろう。だから、それについての言及もない。

 つまり、「新時代の中国の特色ある社会主義」とは、ものすごい格差を固定し、それを維持する体制を言う。それによって強い中国を作るということだ。

 それは「社会主義」と言うよりも「絶対王政」と言い換えた方がよい。ビスマルクが唱えてもおかしくない「軍国主義」であり、「中華民族の偉大な復興」とは、格差に苦しむ庶民に対して国威を誇示して不満をそらすことを言う。まさに19世紀である。

共産党は民衆の反逆を恐れている

習近平の今度の演説は、中国共産党が都市に住む富裕層の利益を代表する政党であることを明言したものである。

 しかし、いくらきれいな言葉で糊塗しても、虐げられた庶民はその本質を肌感覚で見抜いている。その結果、共産党は民衆の反逆を恐れる政党になりさがってしまった。強権的に市民をコントロールし続けており、治安維持に要する費用が軍事費を上回っている。また、インターネットを通じて共産党批判が広がることが恐れ、それを押さえることに血道を上げている。中国ではビックデータとは、共産党に批判的な者をあぶりだす手法を言う。

 歴史的な視点に立つとき、習近平は第2期目において19世紀の帝国主義路線に舵を切ったと言ってよい。それは、日本の今後に対しても大きな影響を及ぼすことになろう。

【私の論評】新たな脆弱性を抱えた習近平体制(゚д゚)!

中国共産党の第19回党大会が開幕。政治報告をする
習近平総書記=18日午前9時6分、北京の人民大会堂

18日に北京の人民大会堂で開幕した中国共産党第19回党大会で、習近平(シーチンピン)総書記(国家主席)が行った政治報告は3時間半近くに及びました。かつての共産圏の指導者をほうふつとさせる長時間の演説は、「反腐敗闘争」を通じて党内の権力基盤を固めてきた習氏の自信の表れとも言えそうです

「同志のみなさん」。この日、人民大会堂の演壇に立った習氏がそう呼びかけたのは午前9時すぎ。習氏は時折せき込んだり水を飲んだりしたことはあったが、休憩を挟むことなく午後0時半まで話し続けました。

長時間にわたる報告に、壇上に並んだ党代表たちの中には急ぎの報告を受けたりトイレに行ったりするためか、たまらず中座する姿も。習氏の隣の席に座った江沢民元総書記(91)は報告中に大きなあくびをしたり、何度も腕時計に目を落としたりしていました。

習氏の右隣に座った胡錦濤(フーチンタオ)前総書記(74)が2012年の前回大会で報告にかけた時間は、習氏の半分以下の1時間30分余り。胡氏は報告を終えて自席に戻った習氏に自身の腕時計を示して、「長かったよ!」と言わんばかりにアピール。習氏は苦笑いを浮かべていました。

習近平は、今回の党大会で華々しく自らの支配を見せつけましたが、一部の観察者は、習近平が実は背伸びしているのではないかと考えています。

習近平は、第19回党大会という舞台を完全に支配していたし、彼の権力は集団指導体制を崩し、毛沢東や鄧小平のような存在になろうとしている。「習近平思想」は、今や「新時代」の指導原理となったのです。

習近平思想の書籍『習近平氏国政を語る』
習近平政権の最初の五年における反腐敗キャンペーンで、153万の党員が調査を受け、27万8千人が起訴されました。その中には、440人の部、省レベルの幹部、そして43人の中央委員が含まれています。

軍も、1万3千人の幹部がクビにされ、50人を超える将校が汚職によって投獄されました。習近平は、その結果、空席となったポストを埋めています。習近平によって補充された幹部は今や中央委員会の20%を占めます。

習近平は派閥闘争でも優位に立っています。25人の政治局委員のうち、17人が彼の仲間です。政治局常務委員会では、7人のうち、4人が習近平派に属します。そして、ここ数十年で初めて、後継者となる人物が常務委員会に入らなかったのです。このことは、習近平が2期10年の定年制を無視しようとしていることを示しています。

このような急速な権力の強化によって、何が起きるのでしょうか。一部の分析者は、習近平の支配が完全となった結果、それが脆弱性になると論じています。習近平は経済と外交を完全に司るため、いかなる挫折も彼個人が責められることになります。

習近平は、自らに対する反対を懸念しており、最近、ある党内文書が、党の指導、共産党の歴史、中国の伝統文化と国家の英雄に対する批判を禁止したといいます。それはつまり、習近平に対する批判を禁止するのと同義です。

習近平の野望は国内あるいは個人の権力に限りません。彼は党大会で中国が2050年までに技術、金融、安全保障において支配的な「近代化強国」になることを目標としてあげました。5年前、中国が目指していたのは地域強国でした。それが今や習近平は中国が新たなグローバル秩序を作ると言っているのです。

トランプの米国は難しい問題に直面しています。習近平は今やトランプの好意に報いるつもりだし、トランプ訪中を盛り上げ、盛大な歓迎儀式の後には、双方の家族を含めた写真写りの良い会合を開きました。トランプ=習会談の「達成事項」は北朝鮮問題と貿易でした。

トランプ訪中
中国の戦略家は伝統的に、実際の勢力よりも自らを弱く見せることで敵を驚かせるのが賢明であると論じてきました。このやり方は今や君主のように君臨する習近平には不可能です。彼は、表面の派手な強さの内側にある脆弱性を自覚しなければならなくなりました。

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