2019年7月1日月曜日

韓国への輸出管理見直し 半導体製造品目など ホワイト国から初の除外 徴用工問題で対抗措置―【私の論評】韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁(゚д゚)!




経済産業省は1日午前、軍事転用が容易とされる「リスト規制品」の韓国への輸出管理体制を見直し、テレビやスマートフォンの有機ELディスプレー部分に使われるフッ化ポリイミド、半導体の製造過程で不可欠なレジストとエッチングガス(高純度フッ化水素)の計3品目について、4日から個別の出荷ごとに国の許可申請を求める方針を正式発表した。

 韓国に対してはこれまで、安全保障上の友好国への優遇措置として手続きを免除していた。いわゆる徴用工問題で事態の進展が見通せないことから、事実上の対抗措置に踏み切った。

 同省の担当者は、この時期に運用を見直す理由について「貿易管理について韓国と一定期間対話がなされていない」と指摘。「政府全体で韓国に対ししっかりとした回答を求めてきたが、20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)までに何ら回答がなかったことも一つの要因だ」と述べた。材料を生産する日本企業への影響に関しては「注視していく」と説明した。

 リスト規制品以外の先端材料の輸出についても、輸出許可の申請が免除されている外為法の優遇制度「ホワイト国」から韓国を除外することも発表した。ホワイト国からの除外は韓国が初めて。1日から24日までパブリックコメントを実施した上で最終判断する。除外後は個別の出荷ごとに国の輸出許可の取得を義務づける。

【私の論評】韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁(゚д゚)!

ついに日本政府が経済制裁に踏み切り、半導体材料の対韓輸出を規制します。

日本政府は、韓国への輸出管理の運用を見直し、テレビやスマートフォンの有機ELディスプレー部分に使われるフッ化ポリイミドや、半導体の製造過程で不可欠なレジストとエッチングガス(高純度フッ化水素)の計3品目の輸出規制を7月4日から強化します。

これはいわゆる徴用工訴訟をめぐり、韓国側が関係改善に向けた具体的な対応を示さないことへの事実上の対抗措置です。

発動されれば、韓国経済に悪影響が生じる可能性があります。

半導体製造工場

政府は同時に、先端材料などの輸出について、輸出許可の申請が免除されている外為法の優遇制度「ホワイト国」から韓国を除外します。

7月1日から約1カ月間、パブリックコメントを実施し、8月1日をめどに運用を始めます。

除外後は個別の出荷ごとに国の輸出許可の取得を義務づけます。

ホワイト国は安全保障上日本が友好国と認める米国や英国など計27カ国あり、韓国は平成16年に指定されていました。

フッ化ポリイミドとレジストは世界の全生産量の約9割、エッチングガス(高純度フッ化水素:半導体の製造過程で洗浄に用いる) は約7割を日本が占めます。

世界の半導体企業は日本からの輸入が多く、急に代替先を確保するのは困難とされ、規制が厳しくなれば、半導体大手のサムスン電子や薄型で高精細なテレビで先行するLGエレクトロニクスなど韓国を代表する企業にも波及するとみられます。

現実には高純度フッ化水素は、製造自体は中国でもできるのですが韓国が中国から輸入するということなれば、高純度にするためには、わざわざ日本に運んで、加工してから再度韓国に輸出せざるをえないことになるそうです。であれば、それはできないのと同じです。

中国はフッ化水素の原料である蛍石を押さえいますが、岩谷産業株式会社は、2014年デジタルカメラ、フッ化カルシウム(蛍石)の合成技術を確立していしました。そのため、日本企業は製造拠点を中国に移す必要性もなくなりました。

いわゆる徴用工訴訟に関する韓国最高裁判決をめぐり、日本側は日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置を求めてきましたが、韓国は問題解決に向けた対応策を示さなかったため、日本政府が事実上の対抗措置に踏み切ったわけです。

経済産業省は一連の輸出規制について「日韓関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況で、信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっている」と説明しています。

つまり韓国はもはや日本にとっての「ホワイト国」(日本の友好国)とは認められないということです。

いままで韓国の横暴に「遺憾砲」ばかりで具体的な対抗策を示してこなかった日本政府にとって、この経済制裁は大きな一歩だと思います。

さて、文大統領は「米朝首脳の握手は歴史的場面になる…私もDMZに同行」と、まるで我が手柄のような発言であります。

本日発表されたこの日本の対韓国経済制裁措置が、韓国政府に日本政府の今回の本気度に気付きを与え、その行動を改めるきっかけになればと希望します。

それにしても経済優先の経産省もよく折れたものです。官庁をも動かすほど日本政府の覚悟が本物であったと考えます。

史上初めて日本政府が韓国に対して経済制裁措置を決定しました。日本政府のこの方針を強く支持します。

ただし、今回の韓国への制裁を期として、日本政府はeconomic statecraft(経済的な国策)に関して、そろそろ本気で取り組むべきです。

economic statecraft(経済的な国策)とは、これは「経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する政策」のことです。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
詳細は、この記事をご覧いただくものとて、economic statecraftに関わる部分を以下に引用します。
各国政府、特に中国やロシアなどは、このようなeconomic statecraftを多用し始めています。たとえば、他国が自国の意向に反する政策をとった場合に、見せしめとして輸入に制限をかけます。あるいは、経済的に脆弱な国に対して、ODAや国営企業の投資をテコに一方的な依存関係を作り出すことで援助受入国を「借金漬け」状態にし、自国の意向に沿わない政策を取らせにくくする、といった政策です。 
米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてきませんでした。
economic statecraftの道具と目的は以下の表で示す通りです。
 
日本語に翻訳すると、貿易制限、金融制裁、投資制限、金銭的制裁です。 
年初には安全保障分野で著名な米国シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国は「中国の挑戦」に対抗するにはより洗練されたeconomic statecraftを用いる必要性があると提案したのに加え、ほかのシンクタンクもこのような政策の具体案を構想し始めています。 
これらの分析において重要なポイントは、米国がeconomic statecraft戦略を展開するうえで同盟国や友好国との連携の重要性を強調していることで、世界の経済規模で第3位にある日本との連携が極めて重要になることは間違いないです。しかし、日本でeconomic statecraftの観点から米国と連携していかれる十分な構想と体制が整っているとは必ずしも言えません。 
就任から5年、安倍政権は日本の安全保障政策の本質的な変革を進めてきました。政府は国家安全保障会議(NSC)を設立することで安全保障政策の意思決定過程を再編成し、首相官邸に権限を集約しました。NSCは日本初の国家安全保障戦略を生み出し、その戦略を政策へと落とし込む「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を発表しました。 
また、「特定機密の保護に関する法律」を通過させ、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更をし、平和安全法制を作成しました。米国との同盟関係を強化したほか、オーストラリア、韓国、インド、英国といった友好国との安全保障関係を深め、他のインド太平洋地域の国家と防衛協力も強化。さらに、「防衛装備移転三原則」と「開発協力大綱」を閣議決定しました。そして政府は、宇宙とサイバー空間の側面を含む国家安全保障戦略を打ち出しました。 
このような目まぐるしい変化の中には、経済的な手段をもって戦略的に地政学的な国益を追及するeconomic statecraftの視点が抜け落ちています。近代化以来、国家権力の経済基盤を重要視してきた日本が、安全保障戦略の中で具体的な経済戦略を描き切れていないことは意外な事実であると言えるでしょう。
現実の世界では、核兵器などの従来では考えられなかったほどの、凄まじい破壊力のある兵器が目白押しです。しかし、これを抑止力とすることと、実際に使うことは全く別問題です。

いずれの国でも、核兵器のような大量破壊兵器を実際に使ってしまえば、報復を受けるのは必至です。そうなれば、第三次世界大戦が勃発するのは必至です。そうなると、自国も甚大な被害を受けます。だから、現実には核兵器などおいそれと使用することはできません。

しかし、economic statecraft(経済的な国策)であれば、日常的に用いることはできます。ただし、これはある程度経済が大きな米国、中国、日本、EUなどが用いてはじめて大きな成果を得ることができる政策です。

たとえば、ロシアがこれを用いようにも、現在のロシアのGDPは東京都を若干下回る程度です。無論ロシアはソ連の核兵器や軍事技術を継承している国なので、侮ることはできませんが、それでもかつてのように大きな脅威ではなくなりました。

軍事的には、単独ではNATOともまともに対峙できません。そもそも、NATOと互角に戦うことはできません。こうした国が、economic statecraft(経済的な国策)を用いたとしても、元々経済力が乏しいので、できることは限られています。

しかし、米国あたりが実行すれば、これはかなりのことができます。実際、米国は対中国冷戦で様々な経済的手段を講じて、中国を追い詰めています。

その中国も、一帯一路で、多くの国々に借金をさせ、借金が払えないとみると、港や土地を接収するなど、中国流のeconomic statecraft(経済的な国策)を実践しています。

一帯一路は中国流のeconomic statecraft(経済的な国策)

日本は、従来ほどは経済規模は大きくありませんが、それでも自由主義陣営では米国についで第二のパワーを誇っています。この日本がeconomic statecraft(経済的な国策)を実施すれば、かなりのことができます。

さらには、工作機械、新素材やハイテク部品等では、今でも独壇場のものが数多くあります。経済力やこれらをうまく活用すれば、日本は潜在的にeconomic statecraft(経済的な国策)を駆使して、他国に日本の要求つきつけ、実行させることができるはずです。

さらに、economic statecraft(経済的な国策)を駆使するには、軍事力もともなっていなければ、その力は半減されるのですが、現在の日本は自衛隊だけでも、たとえば海軍力はアジアで一番ともいわるほど、かなりの能力がありますし、それに米国の同盟国でもあります。

この日本は、平和憲法により、国際的な問題を解決する手段としては軍事力を用いることができませんが、economic statecraft(経済的な国策)であれば実施できます。

その最初の事例か韓国となるかもしれません。あれほど反日で凝り固まっていた韓国ですが、日本からeconomic statecraft(経済的な国策)をつきつけられ、経済がとてつもなく落ち込むようなことにでもなれば、態度を改めざるを得なくなるでしょう。改めなければ、長期にわたって実施するということになるでしょう。

韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁になるかもしれません。

それにしても、economic statecraft(経済的な国策)は、その重要性が日本では認識されてこなかっので、あまり良い日本語訳もないようです。もう少し多くの人々に認識されて、もっと熟れた日本語訳がでてくると良いと思います。

【関連記事】



2019年6月30日日曜日

財務省がぶち上げた「希望的観測」が、世界中からバカにされる理由―【私の論評】企業の目的は「顧客の創造」であり、財務官僚に便宜を図ることではない(゚д゚)!

財務省がぶち上げた「希望的観測」が、世界中からバカにされる理由
消費税10%が悲願なのはわかるけど…

表と裏

日本初開催となったG20財務大臣・中央銀行総裁会議。6月8日の討議で、麻生太郎財務相は10月1日に消費税率を10%へと引き上げる方針を説明した。


福岡で開かれた本会議では、世界経済の先行きについて「様々な下方リスクを抱えながらも年後半から来年にかけ、堅調さを回復する」との認識を共有した。海外の経済首脳たちは、日本の消費増税をどのように評価しているのか。

一般的にいえば、国際会議の場において、会期中に議長国を批判することはまずない。したがって表向きでは日本政府の消費増税路線について異を唱える国は存在しない。そもそも国家にとっての税(に関する取り決め)は、各国が持つ主権そのものであり、他国が四の五の言うことはまずない。

では、世界のエコノミストたちはどのように考えているのだろうか。

2016年、官邸で世界経済について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」があった。それに出席したノーベル経済学賞の受賞者であるジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は、「世界経済は難局にあり、'16年はより弱くなるだろう」との見解を示した。そのうえで、「現在のタイミングでは消費税を引き上げる時期ではない」と述べ、'17年4月の消費税率10%への引き上げを見送るよう提言した。

ジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授

この意見を'19年の現状に照らし合わせると、'20年の世界経済は米中貿易戦争の影響が予想され、'16年より深刻な状況にあるとみてよい。今スティグリッツ教授に意見を求めても、同じ答えが返ってくるだろう。

財務省の大きな勘違い

'17年に来日したクリストファー・シムズ米プリンストン大教授も、「消費増税は財政再建のために必要であっても、2%の物価目標達成後に実施するのが望ましい」と主張した。ちなみにポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学教授も、今年に入り消費増税は見送るべきだと発言している。これら経済学の権威の回答が、消費増税に対する海外の本音と見るべきだ。


このところグローバル経済は軟調だ。次の消費増税のタイミングと、経済の下り坂に入る瞬間が重なったらどうなるか。前回消費増税時に起きた景気失速が繰り返されるかもしれない。

今後の世界経済の減速は、IMF(国際通貨基金)も警告し、中国などは減税措置の経済対策を打ち出そうとしている。その時に消費増税とは、各国の経済首脳も耳を疑ったに違いない。ところが財務省は、開催国には批判が及ばないことを見越して、財務大臣に消費増税を言わせた。これで世界各国の「お墨付き」を受けたとするわけだ。

会議で発した「年後半から来年にかけ、堅調さを回復する」という言葉は、あまりにも希望的観測すぎる。経済政策は最悪の場合を常に想定するのがセオリーだが、政府は大きな勘違いをしている。

先のクルーグマン教授も、世界経済の見通しはかなり不透明で、その要因の一つが米中貿易戦争であると指摘している。アメリカではトランプ大統領が関税率を設定する完全な自由裁量を持ち、その先行き不安がリーマン・ショック級の事態を引き起こす可能性を控えている。財務省の希望的観測を信じていたら、日本経済は深刻なダメージを受けるだろう。

『週刊現代』2019年6月22・29日号より

【私の論評】企業の目的は「顧客の創造」であり、財務官僚に便宜を図ることではない(゚д゚)!

これまで、ブログでは現状の消費税増税は、以下に政策として握手中の握手7日、さらに消費税がいかに欠陥だらけの税制なのかをご説明してきました。

総務省の「家計調査」によると2002年には一世帯あたりの家計消費は320万円をこえていたが、現在は290万円ちょっとしかありません。先進国で家計消費が減っている国というのは、日本くらいしかないのです。これでは景気が低迷するのは当たり前です。

この細り続けている個人消費にさらに税金をかけたらどうなるでしょうか。景気がさらに悪化し、国民生活が大きなダメージを受けることは火を見るより明らかです。実際に、消費税が上がるたびに景気が悪くなり、消費が細っていくという悪循環を、日本は平成の間ずっとたどってきました。


日本では、個人消費がGDPの6割以上を占めているで、これではGDPが伸びないのは当然のことです。

だから、上の記事にあるように、海外のノーベル賞級の経済学者が消費税増税をすべきではないというのは当然であり、誰が考えても消費税増税は日本の経済にとって良くないのは、明白です。

この欠陥だらけの消費税を一体だれが推進してきたのでしょうか。その最大の推進者が財務省なのです。政治家が消費税を推進してきたように思っている方が多いかもしれないが、それは勘違いです。

政治家は、税金の詳細についてはわかりません。だから、財務省の言いなりになって、消費税を推奨してきただけです。むしろ、政治家特に与党の政治家は、消費税の導入や税率アップには、何度も躊躇してきました。増税をすれば支持率が下がるからです。

それを強引にねじ伏せて、消費税を推進させてきたのは、まぎれもなく財務省です。なぜ財務省は、これほど消費税に固執し、推進してきたのでしょうか?

財務省が、主張するように「国民の生活をよくするため」「国の将来のため」などでは、まったくありません。それは、国民や政府などは全く関係なく「財務省の省益」を維持するためです。

まず財務省のキャリア官僚にとっては、「消費税は実利がある」ということです。消費税が増税されることによって、彼らは間接的にではありますが、大きな利益を手にするのです。なぜなら、大企業と財務省は、根の部分でつながっているからです。


ただ財務省といっても、財務省の職員すべてのことではありません。財務省の「キャリア官僚」のみの話です。なぜ財務省のキャリア官僚が、消費税の増税で利益を得るのかというと、それは彼らの「天下り先」に利をもたらすからです。天下り先が潤うことで、財務省のキャリア官僚たちは、間接的に実利を得るのです。

財務省のキャリア官僚のほとんどは、退職後、日本の超一流企業に天下りしています。三井、三菱などの旧財閥系企業グループをはじめ、トヨタ、JT(日本たばこ産業)、各種の銀行、金融機関等々の役員におさまっているのです。

しかも、彼らは数社から「非常勤役員」の椅子を用意されるので、ほとんど仕事もせずに濡れ手に粟で大金を手にすることができるのです。まさらに、天下りで、リッチなハッピーライフを送っているのです。

財務省キャリアで、事務次官、国税庁長官経験者らは生涯で8億~10億円を稼げるとも言われています。この辺の事情は、ネットや週刊誌を見ればいくらでも出てくるので、興味のある方は調べてください。

つまり財務キャリアたちは将来、必ず大企業の厄介になる、そのため、大企業に利するということは、自分たちに利するということなのです。

消費税は大企業にとって一見非常に有利にみえます。というのも、消費税の導入や消費税の増税は、法人税の減税とセットとされてきたからです。

消費税が導入された1989年、消費税が3%から5%に引き上げられた1997年、消費税が5%から8%に引き上げられた2014年。そのいずれも、ほぼ同時期に法人税の引き下げが行われています。その結果、法人税の税収は大幅に減っています。

法人税は、消費税導入時の1989年には19兆円ありました。しかし、2018年には12兆円になっているのです。つまり法人税は、実質40%近くも下げられているのです。

「日本の法人税は世界的に見て高いから、下げられてもいいはず」と思っている人もいるかもしれません。が、その考えは、財務省のプロパガンダにまんまとひっかかっているのです。

日本の法人税は、名目上の税率は非常に高くなっていますが、大企業には「試験研究税制」「輸出企業優遇税制」などの様々な抜け道があり、実質的な税率はかなり低いのです。

日本の法人税が実質的に低いことの証左は、日本企業の内部留保金を見ればわかります。日本企業はバブル崩壊以降に内部留保金を倍増させ446兆円にも達しています。

また日本企業は、保有している手持ち資金(現金預金など)も200兆円近くあります。これは、経済規模から見れば断トツの世界一であり、これほど企業がお金を貯め込んでいる国はほかにないのです。

こんなことを言うと米国の手元資金は日本の1.5倍あるという人もいるかもしれませんがが、米国の経済規模は日本の4倍です。経済規模で換算すると、日本は米国の2.5倍の手元資金を持っていることになるのです。世界一の経済大国であるアメリカ企業の2.5倍の預貯金を日本企業は持っているのです。

だから、本来、増税するのであれば、消費税ではなく、法人税であるべきなのです。にもかかわらず、なぜ法人税ではなく消費税を増税するのかというと、先ほども述べたように財務省のエリートたちは、大企業に天下りしていくため、彼らは財界のスポークスマンになってしまっているのです。

官僚の天下りは、昔から問題になっていたことであり、何度も国会等で問題になり改善策が施されたはずです。官僚の天下りはもうなくなったのではないか、と思っている人もいるようです。

確かに、財務官僚以外のキャリア官僚たちの天下りは、大幅に減っています。ところが、財務官僚の天下りだけは、今でもしっかり存在するのです。なぜ財務官僚だけが、今でも堂々と天下りをしていられるのでしょうか。

実は、現在の天下りの規制には、抜け穴が存在するのです。現在の公務員の天下り規制は、「公務員での職務で利害関係があった企業」が対象となっています。が、この「利害関係があった企業」というのが、非常に対象が狭いのです。

たとえば、国土交通省で公共事業の担当だった官僚が、公共事業をしている企業に求職をしてはならない、という感じです。が、少しでも担当が違ったりすれば、「関係ない」ことになるのです。

また、バブル崩壊以降の長い日本経済低迷により、企業たちも天下り官僚を受け入れる枠を減らしてきました。だから、官僚の天下りは相対的には減っています。しかし、財務官僚だけは、ブランド力が圧倒的に強いために、天下りの席はいくらでも用意されるのです。

財務省は、本来政府の一下部組織にすぎません。会社でいえば、本来は部のようなそんざいです。ところが財務省は一般の人が思っているよりはるかに大きな権力を持っています

財政だけではなく、政治や民間経済にまで大きな影響を及ぼしているのです。日本で最強の権力を持っているとさえいえます。そのため、その権力をあてにして、大企業が群がってくるのです。

しかも、企業にとって、財務官僚の天下りを受け入れるということは、税金対策にもなります。財務省は国税庁を事実上の支配下に置いており、徴税権も握っています。そのため各企業は、税金において手心を加えてもらうために、競うようにして財務官僚の天下りを受け入れているのです。

つまりは、大企業が税金対策のために財務官僚を天下りで受け入れていることが、国民全体に大きな損害をもたらしているといえるのです。

もし財務官僚を「上場企業への天下り禁止」などにすれば、国の税制は大きく変わるはずです。少なくとも、今のような大企業優遇、消費税推進などの流れは必ず変更されるはずです。

しかし、これはなかなか難しいことです。もし政府がそのような動きをみせれば、財務省はありとあらゆる手を使って、妨害するからです。何しろ、財務官僚のOBは、マスコミ各社にも存在しており、その他大手企業の天下りしたOBもあわせて、財務省は徹底抗戦するからです。

これには、並みの政治家にはなかなか制御できません。昨日の記事の結論でも述べたように、日本では財務省が政治のネックになっていることは確かです。財務省は、本来会社でいえば、財務部のようなものであり、会社の一部門にすぎません。ところが、これが実質的に金の力で、取締役を支配しているような歪な構造になっています。これはいずれ何とかしなければならない最大の課題です。


そうして、大企業の経営者も良く考えていただきたいです。そもそも、企業の目的とは「顧客の創造」です。それ以外にありません。財務官僚の失策により、景気が悪くなれば、多くの顧客の個人消費が減ります。

そうなると、大企業とて苦しいことになります。わずか数年前には、どの企業も超円高・超デフレで苦しんだばかりではありませんか。日本を代表するような企業が、とんでもないことになっていたではありませんか。

大企業とて、顧客に見放さされれば一夜にして、市場から消えるしかありません。大企業が顧客から見放されても、財務省は救ってはくれません。企業にとって顧客と財務省のいずれが大事かといえば、顧客に決まっています。

顧客が喜んで、企業のサービスや製品や商品を使ってくれるからこそ、企業は成り立つのです。その精神を忘れてしまえば、大企業とて存続できなくなります。そのことを大企業の経営者は再度しっかりと認識すべきです。顧客を軽視していると、いまにとんでもないしっぺ返しを食らうことになります。

【関連記事】


2019年6月29日土曜日

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 参院選の自民議席、数量分析から予測すると...―【私の論評】次内閣改造で麻生氏が財務大臣にならなければ、官邸は財務省に挑戦し始めたとみなせ(゚д゚)!


解散恐怖症で党首討論を無為に費やした野党

    2019年6月26日、国会が会期末を迎えた。これで、7月4日公示、21日投開票が確定した。

    今国会での法案提出は新規57本、そのうち54本が成立した。与野党の対決法案は少なく、今国会はいつでも「解散可能」な状態だった。このため、野党はかなりビビった。19日の党首討論でも、解散せよと迫る野党はほぼなく、党首討論で安倍首相が解散しないと確信すると、形式的に内閣不信任決議案を後出しで出す始末だった。

    はっきりいって、党内事情から解散を迫れない野党は、自民党にとってはこわくない。それは、党首討論において安倍首相が余裕綽々だったことからもわかる。

マスコミが年金問題を「煽る」理由

自民党にとって恐ろしいのは世論である。消費増税を10月と決めたので、選挙では逆風もあるだろう。マスコミは消費増税を賛成し軽減税率をほしいので、年金問題が自民党にとって逆風要因と書くだろう。しかし、年金で老後のすべてを面倒見るとは不可能であることを国民は知っている。「年金」と煽っているのは、消費増税を目立たなくしたいマスコミなのだ。

年金問題を煽るマスコミ

ともあれ、消費増税が決まったので、いくらマスコミが書かなくても、国民には不満がたまってくる。実際、政府が正式に消費増税を決めた6月21日の閣議の少し前から、テレビで軽減税率を見込んだCMが出始めた。これから、10月から消費増税だからと、その前に買ったほうがいいというCMも出るはずだ。

そうなると、国民の怒りがでてくる。実際、21~23日にNHKが実施した世論調査までは、内閣支持率は前回調査より6ポイント減少し42%、自民党支持率は5.1ポイント低下し31.6%になった。

筆者は、数量分析を専門としているので、経済のみならず、外交軍事から感染症流行まで幅広く分析対象としているが、選挙も例外ではない。いわゆる選挙予測である。この分野は、日本では政治評論家が地道に足で調べた結果ばかりである。足で調べたというものの、ごく少ないサンプル調査でしかない。マスコミはそうした人からの「独特の分析」を掲載している。各政党も独自に調査をしているが、はっきりいってコストパフォーマンスはそれほど良くない。筆者はそうした調査を否定する者ではないが、別のアプローチで選挙予測をする。それは、内閣支持率と自民党支持率から統計的に算出するものだ。

「青木方程式」を活用してみる

政界には、「青木方程式」というものがある。自民党の青木幹雄・元参院議員会長の持論で「内閣支持率と政党支持率の合計が50%を切ったら、政権は終わり」というものだ。内閣支持率と政党支持率は、過去の国政選挙の自民党の議席獲得率ともかなり密接な関係があるので、それを活用して、選挙予測に使うのだ。

直近の調査でなく前月の調査結果から、予測される議席数は50台の半ばだったが、今は40台の後半にまで落ち込んでいる。これから、消費増税がさらに露出すると、さらに獲得議席は落ち込む可能性も否定できない。

今週はG20で安倍首相のテレビ露出はかなり大きくなる。ただし、投開票の7月21日まで、消費増税の露出が大きくなる中で、どこまで持ちこたえられるか。補正予算などの追加措置をいうだろうが、となるとなぜ消費増税なのかという不満がさらに増すかもしれない。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「日本の『老後』の正体」(幻冬舎新書)、「安倍政権『徹底査定』」(悟空出版)など。

【私の論評】次内閣改造で麻生氏が財務大臣にならなければ、官邸は財務省に挑戦し始めたとみなせ(゚д゚)!

国会は26日に会期末を迎えました。25日に野党側から衆議院に提出された内閣不信任決議案は否決されました。与野党の攻防の舞台は7月の参議院選挙に移りました。

今国会に提出された法案を見ると、5月以降はほとんど法案の審議がない状況でした。そのためいつでも解散できるような状態でしたが、結果的に安倍総理はしませんでした。なぜかということは、安倍総理しかわかりません。

ただし推測すると、これは解散するときに消費増税は延期もしくは凍結という話が出るでことになったでしょうが、麻生財務大臣としては、消費増税を実施したいという強い意向があり、これ優先したのだと思います。

結局、安倍総理は、財務省の文書変更、書き換えがあっても、普通ならば大臣の首は飛ぶところですが、それでも安倍総理は麻生財務大臣を守りました。次官のセクハラがあったときも守りました。

昨年の財務省の不祥事と人事をめぐる動き

徹底的に安倍総理は麻生大臣守ったのです。政権運営のためには、麻生大臣は切れなかったのでしょう。財務省もそれをよく熟知し、そこにつけ込みし消費増税の話を仕込んだのではないでしょうか。そう考えないと筋が通りません。

国会開催中でないと衆議院解散はできませんから。国会が終わったら衆議院は開かれないので、解散ができませんから、衆院解散、衆参同時選挙の芽は完全になくなったとみるべきでしょう。

消費増税の内容は、骨太の方針に先週21日に掲載されました。行政手続き論的には、骨太の方針の6月21日に閣議決定して、消費税増税もう決まりです。

その前にそういう動きになっていて、あとは手順だけでした。今回のこの動きは、財務省の影響力がかなり大きいです。

財政審議会の建議というものがあります。昔は財政審の建議が出て、それが経済運営の基本だったのですが、2001年から「骨太の方針」が出て、建議の意味があまりなくなりました。

「骨太の方針」のだいたい3週間くらい前に建議出すことになっていたのです。前に出さないと意味がないですから。いままで最短でも2週間、多くは1ヵ月というときもありましたが、3週間が普通でした。でも今年(2019年)は何と、建議が6月19日でした。そうして、骨太の方針が閣議決定されたのが、21日でした。

21日、19日、これはほとんど同時です。ということは、完全に財務省の官僚が予算のコントロールできて、それを実行したということです。

従来予算編成は財務官僚が完全握っていた時期がありましたが、それを大枠だけでも政治主導でやって行こうというのが「骨太の方針」の趣旨でした。

財務省の財政審の建議が3週間前に行われていたということが、財務省があまりパワーを持っていなかったことの証左でした。ところが、今回は21日と19日、ほぼ同時です。もう完全に財務官僚が予算編成のパワーを持ったということです。

メディアの報道を見ていると、安倍政権は長期政権となり、官邸主導だから行政が歪められているようなことを報道してますが、むしろ逆行してしまいました。2000年からの財政審の建議の日と骨太を見れば、3週間前という綺麗な関係があるのに、今年に限って2日です。こうなってしまうと、消費増税増税も確実に実施されることになります。

麻生氏は、安倍政権のなかの政権運営のための重要人物ですからから、財務大臣である麻生氏を経由して様々なことを財務省ができたのではないでしょうか。

安倍総理と麻生財務大臣

消費増税をして、経済は当然冷え込むだろうと多く人が指摘しています。少しでも冷え込みを回避するために補正予算を組もうと思っても、それすら財務省が緊縮路線ということになるととんでもないことになる可能性もあります。

補正予算でいちばん簡単なのは、国債費を積み増しして、だいたい2兆円くらい余計に積んでいます。それをそのまま使うことです。国債費をたくさん積んでも金利は低いですから、実は不要だと使わなくなるのが普通です。そうなると後で減額修正しなければならなくなります。

減額修正するのだったら、それを補正で使うのが普通のパターンです。これがいちばん簡単なやり方です。ただし、そもそも2兆円では焼け石水ですし、さらに財務省がそうするかどうかはなはだ疑問ですし、もし財務省がそうしなければ、とんでもないことになります。無論経済は悪化し、デフレに舞い戻るのは必至です。

いずれにしても、現在内閣支持率が落ちているところにきて、与党は増税を前提として、参院選を戦わなければならなくなります。そうなると、冒頭の記事にあるとおり、「前月の調査結果から、予測される議席数は50台の半ばだったが、今は40台の後半にまで落ち込んでいる。これから、消費増税がさらに露出すると、さらに獲得議席は落ち込む可能性も否定できない」ということになりかねないです。

さらに、今後自民党総裁の任期が満了する21年9月末までの間で「解散カード」を切る時期は限られてきます。しかも、これが増税の後に行われることになれば、やはり政権の支持率が落ちかなり不利な情勢になります。

参院選後の10月には消費税率が10%に引き上げられます。党内には「増税前にやらないと難しくなる」(中堅議員)との見方があります。しかし、7月21日投開票の見込みの参院選後には議長をはじめとする参院人事や内閣改造が行われます。

このようなことが予め予想されているのですが、政権運営のためには麻生氏切りで財務省の力を鈍化させることはできないという、ジレンマに安倍総理はさらされているのです。

こうなると、参院選挙後の内閣人事が注目されます。このときに麻生氏が財務大臣にならなければ、安倍政権は何らかの活路を見出して財務省に対して戦いを挑み始めたということです。

何らかのウルトラCで、10月増税を阻止するか、それができなくても、ひよっとして短期間のうちに、10%増税から減税するかもしれません。

仮に、今回の参院選挙後の内閣改造でなくても、その後の内閣改造で、麻生氏が財務大臣にならなければ、その芽はでてきます。そうでないと、経済は悪化の一途をたどり、憲法改正もできず、おそらく安倍内閣はレイムダックになることでしょう。

それと同時に、財務省の実体も最近では一部のメディア様々に報道されるようになってきたため、財務省に対する国民の不満もつのることになるでしょう。最近は、テレビをワイドショーで以前は財務官僚を「リスペクト」すると言っていた、弁護士のコメンテーターが、財務官僚を批判していて、時代の変化を感じました。そのことは、安倍総理が一番知っていることでしょう。なんとかして、安倍総理に活路を見出していただきたいものです。

それにしても、日本では財務省が政治のネックになっていることは確かです。財務省は、本来会社でいえば、財務部のようなものであり、会社の一部門にすぎません。ところが、これが実質的に金の力で、取締役を支配しているような歪な構造になっています。これはいずれ何とかしなければならない最大の課題です。

【関連記事】

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も まとめ 計画にはイスラエルをハマスとの戦争終結へと促す内容も 合意に達すれば、サウジによる米国の最新兵器入手に道開く可能性 サウジのムハンマド皇太子とバイデン米大統領(2022年7月)  米国とサウジアラビアは、サウジに...