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2019年7月1日月曜日

韓国への輸出管理見直し 半導体製造品目など ホワイト国から初の除外 徴用工問題で対抗措置―【私の論評】韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁(゚д゚)!




経済産業省は1日午前、軍事転用が容易とされる「リスト規制品」の韓国への輸出管理体制を見直し、テレビやスマートフォンの有機ELディスプレー部分に使われるフッ化ポリイミド、半導体の製造過程で不可欠なレジストとエッチングガス(高純度フッ化水素)の計3品目について、4日から個別の出荷ごとに国の許可申請を求める方針を正式発表した。

 韓国に対してはこれまで、安全保障上の友好国への優遇措置として手続きを免除していた。いわゆる徴用工問題で事態の進展が見通せないことから、事実上の対抗措置に踏み切った。

 同省の担当者は、この時期に運用を見直す理由について「貿易管理について韓国と一定期間対話がなされていない」と指摘。「政府全体で韓国に対ししっかりとした回答を求めてきたが、20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)までに何ら回答がなかったことも一つの要因だ」と述べた。材料を生産する日本企業への影響に関しては「注視していく」と説明した。

 リスト規制品以外の先端材料の輸出についても、輸出許可の申請が免除されている外為法の優遇制度「ホワイト国」から韓国を除外することも発表した。ホワイト国からの除外は韓国が初めて。1日から24日までパブリックコメントを実施した上で最終判断する。除外後は個別の出荷ごとに国の輸出許可の取得を義務づける。

【私の論評】韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁(゚д゚)!

ついに日本政府が経済制裁に踏み切り、半導体材料の対韓輸出を規制します。

日本政府は、韓国への輸出管理の運用を見直し、テレビやスマートフォンの有機ELディスプレー部分に使われるフッ化ポリイミドや、半導体の製造過程で不可欠なレジストとエッチングガス(高純度フッ化水素)の計3品目の輸出規制を7月4日から強化します。

これはいわゆる徴用工訴訟をめぐり、韓国側が関係改善に向けた具体的な対応を示さないことへの事実上の対抗措置です。

発動されれば、韓国経済に悪影響が生じる可能性があります。

半導体製造工場

政府は同時に、先端材料などの輸出について、輸出許可の申請が免除されている外為法の優遇制度「ホワイト国」から韓国を除外します。

7月1日から約1カ月間、パブリックコメントを実施し、8月1日をめどに運用を始めます。

除外後は個別の出荷ごとに国の輸出許可の取得を義務づけます。

ホワイト国は安全保障上日本が友好国と認める米国や英国など計27カ国あり、韓国は平成16年に指定されていました。

フッ化ポリイミドとレジストは世界の全生産量の約9割、エッチングガス(高純度フッ化水素:半導体の製造過程で洗浄に用いる) は約7割を日本が占めます。

世界の半導体企業は日本からの輸入が多く、急に代替先を確保するのは困難とされ、規制が厳しくなれば、半導体大手のサムスン電子や薄型で高精細なテレビで先行するLGエレクトロニクスなど韓国を代表する企業にも波及するとみられます。

現実には高純度フッ化水素は、製造自体は中国でもできるのですが韓国が中国から輸入するということなれば、高純度にするためには、わざわざ日本に運んで、加工してから再度韓国に輸出せざるをえないことになるそうです。であれば、それはできないのと同じです。

中国はフッ化水素の原料である蛍石を押さえいますが、岩谷産業株式会社は、2014年デジタルカメラ、フッ化カルシウム(蛍石)の合成技術を確立していしました。そのため、日本企業は製造拠点を中国に移す必要性もなくなりました。

いわゆる徴用工訴訟に関する韓国最高裁判決をめぐり、日本側は日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置を求めてきましたが、韓国は問題解決に向けた対応策を示さなかったため、日本政府が事実上の対抗措置に踏み切ったわけです。

経済産業省は一連の輸出規制について「日韓関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況で、信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっている」と説明しています。

つまり韓国はもはや日本にとっての「ホワイト国」(日本の友好国)とは認められないということです。

いままで韓国の横暴に「遺憾砲」ばかりで具体的な対抗策を示してこなかった日本政府にとって、この経済制裁は大きな一歩だと思います。

さて、文大統領は「米朝首脳の握手は歴史的場面になる…私もDMZに同行」と、まるで我が手柄のような発言であります。

本日発表されたこの日本の対韓国経済制裁措置が、韓国政府に日本政府の今回の本気度に気付きを与え、その行動を改めるきっかけになればと希望します。

それにしても経済優先の経産省もよく折れたものです。官庁をも動かすほど日本政府の覚悟が本物であったと考えます。

史上初めて日本政府が韓国に対して経済制裁措置を決定しました。日本政府のこの方針を強く支持します。

ただし、今回の韓国への制裁を期として、日本政府はeconomic statecraft(経済的な国策)に関して、そろそろ本気で取り組むべきです。

economic statecraft(経済的な国策)とは、これは「経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する政策」のことです。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
詳細は、この記事をご覧いただくものとて、economic statecraftに関わる部分を以下に引用します。
各国政府、特に中国やロシアなどは、このようなeconomic statecraftを多用し始めています。たとえば、他国が自国の意向に反する政策をとった場合に、見せしめとして輸入に制限をかけます。あるいは、経済的に脆弱な国に対して、ODAや国営企業の投資をテコに一方的な依存関係を作り出すことで援助受入国を「借金漬け」状態にし、自国の意向に沿わない政策を取らせにくくする、といった政策です。 
米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてきませんでした。
economic statecraftの道具と目的は以下の表で示す通りです。
 
日本語に翻訳すると、貿易制限、金融制裁、投資制限、金銭的制裁です。 
年初には安全保障分野で著名な米国シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国は「中国の挑戦」に対抗するにはより洗練されたeconomic statecraftを用いる必要性があると提案したのに加え、ほかのシンクタンクもこのような政策の具体案を構想し始めています。 
これらの分析において重要なポイントは、米国がeconomic statecraft戦略を展開するうえで同盟国や友好国との連携の重要性を強調していることで、世界の経済規模で第3位にある日本との連携が極めて重要になることは間違いないです。しかし、日本でeconomic statecraftの観点から米国と連携していかれる十分な構想と体制が整っているとは必ずしも言えません。 
就任から5年、安倍政権は日本の安全保障政策の本質的な変革を進めてきました。政府は国家安全保障会議(NSC)を設立することで安全保障政策の意思決定過程を再編成し、首相官邸に権限を集約しました。NSCは日本初の国家安全保障戦略を生み出し、その戦略を政策へと落とし込む「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を発表しました。 
また、「特定機密の保護に関する法律」を通過させ、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更をし、平和安全法制を作成しました。米国との同盟関係を強化したほか、オーストラリア、韓国、インド、英国といった友好国との安全保障関係を深め、他のインド太平洋地域の国家と防衛協力も強化。さらに、「防衛装備移転三原則」と「開発協力大綱」を閣議決定しました。そして政府は、宇宙とサイバー空間の側面を含む国家安全保障戦略を打ち出しました。 
このような目まぐるしい変化の中には、経済的な手段をもって戦略的に地政学的な国益を追及するeconomic statecraftの視点が抜け落ちています。近代化以来、国家権力の経済基盤を重要視してきた日本が、安全保障戦略の中で具体的な経済戦略を描き切れていないことは意外な事実であると言えるでしょう。
現実の世界では、核兵器などの従来では考えられなかったほどの、凄まじい破壊力のある兵器が目白押しです。しかし、これを抑止力とすることと、実際に使うことは全く別問題です。

いずれの国でも、核兵器のような大量破壊兵器を実際に使ってしまえば、報復を受けるのは必至です。そうなれば、第三次世界大戦が勃発するのは必至です。そうなると、自国も甚大な被害を受けます。だから、現実には核兵器などおいそれと使用することはできません。

しかし、economic statecraft(経済的な国策)であれば、日常的に用いることはできます。ただし、これはある程度経済が大きな米国、中国、日本、EUなどが用いてはじめて大きな成果を得ることができる政策です。

たとえば、ロシアがこれを用いようにも、現在のロシアのGDPは東京都を若干下回る程度です。無論ロシアはソ連の核兵器や軍事技術を継承している国なので、侮ることはできませんが、それでもかつてのように大きな脅威ではなくなりました。

軍事的には、単独ではNATOともまともに対峙できません。そもそも、NATOと互角に戦うことはできません。こうした国が、economic statecraft(経済的な国策)を用いたとしても、元々経済力が乏しいので、できることは限られています。

しかし、米国あたりが実行すれば、これはかなりのことができます。実際、米国は対中国冷戦で様々な経済的手段を講じて、中国を追い詰めています。

その中国も、一帯一路で、多くの国々に借金をさせ、借金が払えないとみると、港や土地を接収するなど、中国流のeconomic statecraft(経済的な国策)を実践しています。

一帯一路は中国流のeconomic statecraft(経済的な国策)

日本は、従来ほどは経済規模は大きくありませんが、それでも自由主義陣営では米国についで第二のパワーを誇っています。この日本がeconomic statecraft(経済的な国策)を実施すれば、かなりのことができます。

さらには、工作機械、新素材やハイテク部品等では、今でも独壇場のものが数多くあります。経済力やこれらをうまく活用すれば、日本は潜在的にeconomic statecraft(経済的な国策)を駆使して、他国に日本の要求つきつけ、実行させることができるはずです。

さらに、economic statecraft(経済的な国策)を駆使するには、軍事力もともなっていなければ、その力は半減されるのですが、現在の日本は自衛隊だけでも、たとえば海軍力はアジアで一番ともいわるほど、かなりの能力がありますし、それに米国の同盟国でもあります。

この日本は、平和憲法により、国際的な問題を解決する手段としては軍事力を用いることができませんが、economic statecraft(経済的な国策)であれば実施できます。

その最初の事例か韓国となるかもしれません。あれほど反日で凝り固まっていた韓国ですが、日本からeconomic statecraft(経済的な国策)をつきつけられ、経済がとてつもなく落ち込むようなことにでもなれば、態度を改めざるを得なくなるでしょう。改めなければ、長期にわたって実施するということになるでしょう。

韓国に対する制裁は、日本にとって本格的なeconomic statecraft(経済的な国策)の魁になるかもしれません。

それにしても、economic statecraft(経済的な国策)は、その重要性が日本では認識されてこなかっので、あまり良い日本語訳もないようです。もう少し多くの人々に認識されて、もっと熟れた日本語訳がでてくると良いと思います。

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2019年1月7日月曜日

【社説】米国がTPP11発効で失った市場―【私の論評】トランプの次の大統領がTPPを見直す(゚д゚)!

【社説】米国がTPP11発効で失った市場

The wallstreet journal



 たとえ米国が動かなくとも、世界は動く。この表現は、貿易においては確かに真実だ。環太平洋経済連携協定(TPP)は、ドナルド・トランプ米大統領が離脱を表明した2年後、TPP11という新たな装いの下で年明けとともに11カ国で始動した。これによる最大の敗者は、米国の生産者だ。

 正式名称「包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」、いわゆるTPP11は先週、カナダ、日本、メキシコ、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポールの間で発効した。同協定は、全輸入品目の95%について加盟国間の関税を撤廃するもので、加盟諸国の国内総生産(GDP)の合計は世界全体の13%に相当する。TPP11はベトナムでは1月14日に発効し、ブルネイ、チリ、マレーシア、ペルーでも批准手続きが進められている。

 元々のTPPで規定されていた1000以上の項目は、20前後の項目を除いて全て、新たな協定に盛り込まれた。凍結された項目の中には、著作権の有効期間の延長、バイオ医薬品の特許保護期間を8年とすることなど、米国にとっての優先項目も含まれている。しかし、知的財産権に関する他の成果や、外国投資家の保護、国有企業に公平な競争条件を求める項目は、新協定に引き継がれた。

 米国の離脱にもかかわらず、加盟国は依然として大きな利益を得られる状況で、ピーターソン国際経済研究所によれば、世界でざっと1470億ドル(約16兆円)の実質所得の拡大が見込まれる。同研究所はマレーシアとシンガポールで2030年までにさらに3.1%と2.7%の実質所得の伸びを予想している。別の推計によれば、ベトナムからTPP11加盟国への繊維・アパレル輸出は30億ドル増えるとみられている。

 カナダは、米国がTPPに残留していた場合よりも大きなGDP押し上げ効果を得られる見通しだ。これは主に、日本の市場から追い出される公算が大きい米国の農家が犠牲になることで生じる。日本政府は通常、牛肉に38.5%の関税をかけており、米国にはこれが適用されるが、カナダ・ニュージーランド・オーストラリアからの輸入品にかかる関税は9%に下がる。カナダ政府は結果として牛肉の総輸出が10%増えるだろうと予測している。

 米小麦協会のビンス・ピーターソン会長は先月ワシントンで、TPP11が発効すれば、日本で53%を占めている米生産者の市場シェアが、「直ちに崩壊する」恐れがあると述べていた。日本に輸出される米国産小麦の価格は、カナダ産や豪州産より1ブッシェル当たり40セント不利になる見通しだ。

 米国産豚肉にとっても、状況が良いとは言いがたい。2017年の欧州から日本への豚肉の輸出額は過去10年間で初めて米国からの輸出額を超えた。差し迫った日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の発効により、欧州は一層有利になる。米国から中国への豚肉の輸出も、トランプ政権が課した関税への報復措置として中国政府がかける62%の関税に直面している。

 トランプ大統領の貿易政策を支持する人々は、彼の関税措置が単なる短期的なコストであり、結果としてはより良い貿易取り決めにつながると主張している。しかし、TPPからの離脱は、それによってどの国からも貿易的な譲歩措置を得ることができなくなるため、市場の非効率による過度の経済損失(deadweight economic loss)となる。米国と日本は2国間貿易協定について改めて交渉を行うが、2国間協議よりも容易に、そしてはるかに迅速に日本市場を開放する道はTPPだった。

 新協定のTPP11はまた、他の参加諸国の内部変革にも拍車を掛けている。ベトナムは同協定の一環として外国小売企業に対する制限の緩和、金融部門に対する外国企業の投資上限引き上げを行っている。マレーシアはTPP11加盟国の銀行に対し、同国内での支店開設数を従来の2倍に拡大することを認める。

 米国のTPP離脱は近年の経済史上、最悪のオウンゴール(自殺点)の1つとなった。トランプ氏が残りの任期である今後2年間のうちに方針を再考することはありそうにないが、恐らく次の大統領はそうするだろう。

【私の論評】トランプの次の大統領がTPPを見直す(゚д゚)!

日米の貿易協議が早ければ2019年1月下旬にも始まります。日本政府は物品に限ったTAG(物品貿易協定)の交渉に限定したいのですが、トランプ政権はサービスその他重要な分野も含めた包括的なFTA(自由貿易協定)を目指しており、日米の思惑に違いがみられます。果たして日本のシナリオ通りの展開となるのでしょうか。

TAGにこだわる安倍政権の意図

18年9月26日の日米首脳会談で日米貿易協定の交渉入りを合意しました。しかし、日本政府が、共同声明の英文にもない「TAG」という造語を使ったことから、野党からは「TAGを捏造」と批判されることになりました。

日本政府が発表した共同声明には、「日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定(TAG)について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する」と書かれています。


このTAGへのこだわりに安倍政権の戦略的な意図が読み取れます。安倍首相も,「TAGは日本がこれまで締結した包括的なFTAとは全く異なる」と説明しています。

この2年間、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱したトランプ政権が包括的な日米FTAの締結を日本に迫るなか、米国抜きのTPP11を主導した安倍政権は、日米FTA交渉には絶対に応じないと言い続けてきました。

しかし、二国間主義に基づき追加関税で脅しながら相手国に譲歩を迫るトランプ流の交渉術が一応の成果を上げ、それが多国間よりも二国間の交渉の方が米国に有利だというトランプ政権の主張を勢いづかせ、「米国のTPP復帰が最善」と主張する日本にとっては不都合な状況になりました。

結局、米通商拡大法232条(安全保障条項)に基づく米国の自動車・同部品の25%追加関税の対象から日本を除外させることが、安倍政権の優先課題となってしまい、TPPの問題を一時棚上げにして米国の要求を受け入れ、実質的な日米FTA交渉の開始に合意するしかありませんでした。TAGはその苦肉の策です。

TPPか日米FTAか、日米の思惑が錯綜するなか、日本は着地点に向けてどのようなシナリオを描こうとしているのでしょうか。玉虫色の日米共同声明には、さらに、「上記協定の議論が完了した後、他の貿易・投資の事項についても交渉」とあります。

安倍政権は、第1段階は関税撤廃などTAGに限定、第2段階で関税以外のルールづくりを目指すという2段階方式のシナリオを描いています。ただし、米国のTPP復帰を諦めていません。

深読みすれば、ポスト・トランプも睨みながら、第2段階のルールづくりで日米FTAの議論をTPP復帰問題にすり替えるチャンスを虎視眈々と狙うしたたかな戦略を考えています。それがまた、米国のTPP復帰を前提にTPP11(CPTPP)をまとめ上げた安倍政権の矜持といえるでしょう。

死角だらけの日本の通商シナリオ

表現がどうであれ、TAGは紛れもなくFTAです。関税撤廃などを米国だけの特別扱いにするのであれば、FTAを締結しなければ、WTO協定の最恵国待遇原則に違反します。TAGに関する日本側の最大の懸念材料は、米国がTPP水準を超える農産物の市場開放を日本に要求してくることです。その懸念を払拭するため、「農産物の市場アクセスはTPPの水準を超えない」との文言が合意文書の了解事項として盛り込まれました。

さらに、18年7月の米EU合意と同様、交渉中は米国が日本に対して自動車・同部品の25%追加関税を課さないようにするため、「交渉中は、共同声明の精神に反する措置の発動を控える」という表現で米国の確約を得ました。これら2つの約束を取り付けたという意味で、安倍政権にとっては米国の圧力下で満点に近い合意を得たと言ってよいでしょう。

しかし、今後の展開は予断を許さないです。その後「TPP以上の譲歩を日本に要求する」というパーデュー農務長官の発言が飛び出すなど、「TPP並み」が農産物の攻防ラインとなるのは必至です。

さらに、米国側の了解事項に、「自動車分野について、米国内での生産及び雇用の増大に資するものとする」という文言が盛り込まれたことが火種となるでしょう。米自動車メーカーは日本市場において戦意を喪失しており、日本への自動車輸出は増える見込みがないため、日本の対米自動車輸出を規制するという「管理貿易」の議論に発展しそうです。

日本は米国の要求を飲まされるのか

米国の貿易関連法により,貿易交渉開始の30日前に、米通商代表部(USTR)は議会に交渉目的を通知しなければならないです。このため、USTRは18年12月21日、日本との貿易協議に向けて22分野の要求項目を議会に通知しました。22項目の中身をみれば、TPPとほとんど同じような分野が並んでおり、包括的な日米FTAの締結を目指すトランプ政権の強い姿勢がうかがえます。

18年12月10日にワシントンで開かれたUSTRの公聴会では、米国の業界団体からTPPを上回る水準の協定を求める声が相次ぎました。このため、要求項目には、農産品の関税引き下げや自動車貿易の改善にとどまらず、通信や金融などサービス分野を盛り込んでいます。さらに、薬価制度や為替問題も協議するとしています。

日本側が最も反発する項目は、通貨安誘導を禁ずる為替条項の導入です。米自動車業界は円安による日本車の輸出攻勢を恐れています。このため、円売り介入だけでなく、日銀の異次元金融緩和までも円安誘導策とみています。安倍政権は交渉対象から為替問題を外し、日米の財務当局に委ねたい考えです。

USTRによる議会への通知によって、改めて日米の思惑の違いが浮き彫りとなりました。日米の貿易協議を担当する茂木経済財政・再生相とライトハイザーUSTR代表が12月中旬に電話会談をし、共同声明を順守することを確認したとされますが、ゴリ押しの通商政策を展開するトランプ政権を相手に、果たして日本のシナリオ通りにTAGの議論を先行できるかは不確実です。

日米貿易協議の初会合にのぞむ茂木経済財政・再生相とライトハイザーUSTR代表(昨年10月9日、ワシントン)

米中協議が難航すれば日本に追い風?

一方,18年12月1日の米中首脳会談で90日間の貿易協議に入ると合意しました。期限は19年3月2日です。米国は対中貿易赤字の大幅削減を要求していますが、知的財産権の保護や技術移転の強要などの問題も議題に挙げています。しかし、中国の国家資本主義の象徴ともいえる「中国製造2025」をめぐる米中の対立はハイテク覇権争いが絡んでおり、落としどころも難しいです。



19年1月下旬から開始予定の日米TAG交渉に、米中協議はどのような影響を及ぼすでしょうか。「米中衝突は日本にプラス」との見方は少なくないです。中国が譲歩しすぎると米国が自信をつけて日本に高圧的になる恐れもありますが、逆に米中協議がもつれると、日本との交渉は先送りされる可能性も出てきます。

日米はTAG交渉には期限を定めていません。それでも19年6月下旬に大阪で開かれるG20首脳会議に合わせてトランプ大統領が来日しますが、その折の日米首脳会談で譲歩を迫られることを日本側は警戒しています。

安倍政権の本音としては、TAG交渉の決着をできるだけ19年夏の参院選後に引き延ばしたいということがあるでしょう。与党自民党が、農産物の市場開放がたとえTPP並みであっても、選挙にマイナスに響くことを恐れているからです。

米中協議は、予め難航することが予想されるため、TAG交渉の決着は参院選後になることが予想されます。ただしその後はどうなるかは、未だ予測がつかない段階です。

「タリフマン(関税好き)」を自称するトランプ大統領は、日米の貿易協議入りと引き換えに、自動車関税を棚上げにしましたが、矛先が日本に向くリスクは消えていません。日本側の時間稼ぎに腹を立て、再び関税の引き上げを言い出す可能性があります。2019年のTAG交渉は安倍政権にとってまさに正念場といえます。
日本側としては、冒頭の記事にもあるように、ポストトランプの大統領に望みを託すことになりそうです。

次の大統領は、TPPが協力な中国包囲網となることを容易に理解すると、考えられます。そうして、日米のそうして世界の貿易関係は、TPPの枠組みの中でというのが、理想的です。

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2018年1月3日水曜日

米国が見直す台湾の重み、東アジアの次なる火種に―【私の論評】日本は対中国で台湾と運命共同体(゚д゚)!

米国が見直す台湾の重み、東アジアの次なる火種に

米台の軍艦が相互寄港へ、ヒステリックに反応する中国

台湾・台北の街並み
 北朝鮮の核・ミサイル問題に世界の耳目が集中する中で、トランプ米大統領は12月12日、「2018会計年度 国防授権法」に署名し、同法が成立した。同法が今回注目されたのは、高雄など台湾の港湾への米国海軍艦船の寄港、ならびに台湾海軍艦船の米国港湾への寄港が盛り込まれていたからである。

 ただし、米国の国防授権法とは、議会による国防費の監督・監視を目的とするもので、具体的な米軍の行動まで指図するものではない。よって、米国海軍艦船の台湾寄港の是非は行政府の判断に委ねられる。オバマ前政権下で成立した2017会計年度の国防授権法でも、米台間の軍事交流・協力の強化を支持するなどの内容が盛り込まれていたが、オバマ政権はこれを無視してきた。このことから分かるように、国防授権法における議会の意見は、言うなれば政策提言の域を出ないのである。

 特に米国海軍の艦船を台湾に寄港させるかどうかは中国にとっては極めてセンシティブな問題であるから、トランプ政権が実行に移すのが容易ではないことは想像がつく。

 現に、国防授権法成立に先立つ12月8日、在米中国大使館がワシントンで開催した在米中国人や留学生を集めたイベントでは、李克新公使が、米国艦船の台湾寄港は中国が定めた「反国家分裂法」の適用事項に該当し、「寄港すれば法律が適用され、中国人民解放軍は武力による台湾統一を実現する」と断言した。

李克新駐米公使 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 どの条項に該当するかまでの言及はなかったが、該当するとすれば第3条か第8条であろう。第3条は、「台湾問題は中国の内戦によって残された問題である。台湾問題を解決し、祖国の統一を実現することは、中国の内部問題であり、いかなる外国勢力の干渉も受けない」という内政干渉排除の条文である。第8条は、「『台独』分裂勢力がいかなる名目、いかなる方式であれ、台湾を中国から切り離す事実をつくり、台湾の中国からの分離をもたらしかねない重大な事変が発生し、または平和統一の可能性が完全に失われたとき、国は非平和的方式その他必要な措置を講じて、国家の主権と領土保全を守ることができる」と「重大事変」について記している。いずれにせよ、判断基準は中国の解釈次第だからどうにでもなる。

シュライバー新国防次官補、中国を挑発

 しかし、中国がかくもヒステリックな反応を示したのには、恐らく理由があったのだろう。すでにオバマ政権時代のことに言及したように、これまでの国防授権法に関する台湾関係の事項については、米政権側が中国を刺激したくないから政策提言を受け入れないままで来た印象がある。ところが、中国側が警戒する動きが、トランプ政権に出てきた。

 それは、ランドール・シュライバーの国防次官補への指名である。シュライバーはブッシュ・ジュニア政権時代に国務次官補代理として当時のアーミテージ国務副長官を支えた、いわば共和党主流派につながるアジア問題専門家であり、アーミテージ同様、軍人出身である。

ランドール・シュライバー氏
 国防次官補の任用は政治任用であるため、議会の承認が求められる。11月16日に行われた米上院の任命承認公聴会で、シュライバーは米台海軍艦船の相互寄港の是非を問われ、次のように述べた。

 「私は米台海軍艦船の相互寄港を支持する論文を寄稿したことがある。これは米国の『一つの中国』政策と完全に合致するものである。すでに米台の軍用機は、定期的ではないが相互に離発着している。台湾における米国の代表機関に現役将校を送ってもいる。米国の『一つの中国』政策を我々が定義する中で、米台の海軍艦船の相互訪問を開始することも包摂されるべきだろう。(中略)それは我々の政治的な目的である台湾への支援と、中国を抑止することへの助けにもなる。もし国防総省の中で異論があるなら、そうした反論について知りたいと思う」

 なんとも自信に満ちた証言である。「文句があるなら言ってみろ」というシュライバーの証言で、中国は台湾への武力行使というヒステリックな対応を取らざるを得なくなったとも言えるだろう。

台湾を戦略的に重視するシュライバー

 2018会計年度 国防授権法が成立してから1週間もたたない12月18日、トランプ政権は「国家安全保障戦略」を公表し、ここで中国、ロシアを米国の影響力、価値や資産への競争相手とするとともに、米国が維持する国際秩序の変更を迫る「修正主義勢力」と位置づけた。米国はこの内容を台湾に事前通告し、米国が台湾の自衛のための武器を供与する義務を負っていることを明記した。台湾は、これを好意的に受け止めている。

2017年12月18日、米ワシントンで演説するトランプ大統領
 ただし、米国は中国について警戒を露わにしているものの、敵対姿勢を鮮明にしているわけではない。トランプ政権にとって、対中関係の最重要課題は対米貿易黒字の問題であり、次いで北朝鮮への中国の影響力行使の問題である。トランプ政権にとって、中国との健全な関係構築こそが重視すべき問題であって、台湾問題は必ずしもメジャーな課題ではない。こうした状況は、中国にとって相対的には都合のいい状況なのかもしれない。

 もちろん、北朝鮮問題で米国が武力行使に及べば、中国は北朝鮮崩壊後の政治処理に発言権を確保するため、人民解放軍を、国境を越えて北朝鮮に進軍させる動機はあるし、そのためには政治的に北朝鮮との同盟条約を援用することも可能だろう。あるいは北朝鮮問題が幸いに外交的解決に向かえば、中国主導の6者協議の復活もありえない話ではなくなる。いずれにしても中国の出方がカギとなる。

 問題があるとすれば、そうした北朝鮮危機の間に、中国が南シナ海の人工島の軍事拠点化を着実に進めていることだ。しかし、12月20日、米上院はシュライバーの国防次官補就任を承認した。シュライバーの描く東アジアの戦略地図は想像を働かせるしかないが、台湾を戦略的に重視するシュライバーであれば、南シナ海での「航行の自由」を保証する米海軍艦船の行動頻度を上げるために台湾を活用する、つまり米海軍艦船の台湾寄港という判断はありうる選択だろう。

台湾の地位見直しを進めるトランプ政権

 トランプ米政権の外交・安全保障政策の特徴は、軍人出身者が政策決定に深く関与していることだ。

 ホワイトハウスのジョン・ケリー大統領首席補佐官、マクマスター国家安全保障担当補佐官に加え、マティス国防長官がいる。アジア太平洋地域では、経験豊富なシュライバー国防次官補がそれに加わることになる。影が薄いのは国務省で、ティラーソン国務長官が辞任するのはいまや時間の問題とされ、アジア太平洋問題担当の国務次官補ポストも、長く空白が続いたが、ようやく前任のラッセル次官補辞任後の3月から代行を務めていたスーザン・ソーントンが昇格指名された。あとは議会上院の承認待ちだが、従来の国務次官補の顔ぶれと比較すれば、軽量級のそしりは免れない。

 軍人は、軍事力のなんたるかを知悉しているから、実は軍事力の行使については慎重だとされる。しかし、行使は慎重だが、その重要性を深く理解している。トランプ政権の「国家安全保障戦略」では、「力による平和」という米国の基本姿勢が明瞭に描かれている。軍事力の裏付けがあってこその外交という考えは、古くはセオドア・ルーズベルト大統領、最近ではロナルド・レーガン大統領に通じるものだろう。

 トランプ大統領は11月のアジア歴訪にあたり、空母3隻を東アジアに集結してみせた。米国が軍事力を活用することで外交を有利に運ぶ意思が示されたことになる。アジア太平洋の秩序維持を目指す米国が、軍事的プレゼンスを強化していくとすれば、東シナ海と南シナ海の結節点に位置する台湾の戦略的地位に着目するのは当然の流れであろう。

 トランプ政権の台湾の地位見直しが進むとなると、当然ながら、今後注目されるのは中国の出方だ。

 李克新公使が発言したような、中国の台湾に対する武力統一を含めた全面的な軍事攻撃は現状に鑑みてありえない。米国が介入することは必至だからだ。

 では、中国が傍観するかといえば、返答に詰まる。立場上、習近平に傍観は選択し得ないだろうから、部分的な衝突を含め相当な緊張が予想されると言わざるをえない。ただし、究極的な力と力の勝負では、まだ米国の優位は疑いない。よって、米国が中国の面子を立てるやり方で中国が矛を収めることになろうが、1996年の台湾海峡危機で米空母2隻に圧倒された屈辱をまだ忘れていない中国にとって、さらに屈辱感を増大させる結果になろう。

 北朝鮮問題に目を奪われている中で、東アジアでは次なる摩擦の火種が準備されているといっても過言ではない。

【私の論評】北の脅威の次なるアジアの戦争の火種は台湾である(゚д゚)!

米国が、ブログ冒頭の記事のように、台湾重視をしはじめたことにはそれなりにいくつかの背景があります。そのまず第一は、習は昨年10月の共産党大会で、「3つの歴史的任務の達成」を宣言したことです。この1つに「祖国統一の完成」があり、武力侵攻も含めた「台湾統一」と受け止められています。

さらにもう一つ大きな背景があります。それは、中国が無人島の尖閣諸島は後回しにして、台湾を先とろうとしている可能性があるということです。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の“微笑み外交”要警戒 「分断工作だ」尖閣衝突回避策で日中大筋合意にチラつく思惑 河添恵子氏リポート―【私の論評】台湾の今そこにある危機を認識せよ(゚д゚)!
 ブログ冒頭の記事にある、川添氏の「無人島の尖閣諸島は後回しにして、台湾を先とろうとしている」という懸念については根拠があります。

以下にこの記事が一部引用します。

"
今年10月、米国で出版された一冊の書籍によって、中国の習近平指導部が準備を進めている「計画」が暴かれました。
大規模なミサイル攻撃の後、台湾海峡が封鎖され、40万人の中国人民解放軍兵士が台湾に上陸する。台北、高雄などの都市を制圧し、台湾の政府、軍首脳を殺害。救援する米軍が駆けつける前に台湾を降伏させる…
米シンクタンク「プロジェクト2049研究所」で、アジア・太平洋地域の戦略問題を専門とする研究員、イアン・イーストンが中国人民解放軍の内部教材などを基に著した『The Chinese Invasion Threat(中国侵略の脅威)』の中で描いた「台湾侵攻計画」の一節です。

イアン・イーストン氏
イーストン氏は「世界の火薬庫の中で最も戦争が起きる可能性が高いのが台湾だ」と強調しました。その上で「中国が2020年までに台湾侵攻の準備を終える」と指摘し、早ければ、3年後に中台戦争が勃発する可能性があると示唆しました。

『The Chinese Invasion Threat(中国侵略の脅威)』の表紙
この、衝撃的な内容は台湾で大きな波紋を広げました。中国国内でも話題となりました。
具体的な時間は分からないが、台湾当局が独立傾向を強めるなら、統一の日は早く来るだろう。
国務院台湾弁公室副主任などを歴任し、長年、中国の対台湾政策制定の中心となってきた台湾研究会副会長、王在希は中国メディアに対し、イーストンの本の内容を半ば肯定しました。

王在希氏
その上で「平和手段か、それとも戦争か、台湾当局の動きを見てから決める」と踏み込みました。近年、中国の当局関係者が台湾への武力行使に直接言及するのは極めて異例です。
"
東アジアの地図を眺めてみればわかるように。台湾と尖閣諸島こそ日本の存続にかかわる「絶対国防圏」であると同時に、中国が軍備拡張を通じ、覇権を確立しようと狙うエリアでもあります。もし尖閣が奪われたなら、東支那海の制海権も奪われそうです。

一方台湾が取られれば、東支那海はおろか南支那海までも扼されそうです。その時点で尖閣など、自ずと中国の手中に転がり落ちかねなです。

そのように考えるなら、台湾の重要性は尖閣のそれよりも大きいように思えてくきます。

しかし実際には、尖閣を取られれば台湾が危殆に瀕し、台湾が取られれば尖閣は風前の灯。いずれにしても日本にとっては危機的状況となります。


中国の戦略の前で、台湾と尖閣のどちらが重要かとの議論は、もはや何の意味も持たないことでしょう。日本にとってはそのいずれもが、死活的に重要なのです。

かつて日本は、自国領ではない満蒙を自国領と同様に重視し、ロシア・ソ連の南下からこれを防衛することに国力を傾けました。しかし今日の日本の弱点は、一国平和主義にも起因すると思われます、そうした戦略的思考の欠如にこそあるようです。

ただし、中国の立場からみると、確かに尖閣よりは台湾のほうが奪取しやすいのかもしれません。なぜなら、以前もこのブログに掲載したように、日本の海軍力はアジア一です。これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の“海軍力”はアジア最強 海外メディアが評価する海自の実力とは―【私の論評】日本は独力で尖閣の中国を撃退できる(゚д゚)!
画像出典 海上自衛隊HP
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を以下に引用します。
 対中国の視点では、純粋な戦力としては、海上自衛隊が中国海軍を上回っているという見方が主流のようだ。ナショナル・インタレスト誌は、海上自衛隊の艦艇と人員の数、装備の性能、組織力のどれをとっても「アジア最強」だと指摘する。主要装備の性能や役割を詳しく説明したうえで、東日本大震災発生時の災害救助活動の実績を紹介し、海上自衛隊の展開力の高さも折り紙つきだとしている。ビジネス・スタンダード紙は、「そうりゅう」型8隻と「おやしお」型11隻を擁し、2021年までに23隻に拡大する予定の潜水艦戦力も、中国に脅威を与えるとしている。
そうりゅう
 また、南シナ海を経てシンガポール入りし、その後さらに南シナ海で「デューイ」との共同訓練を行った「いずも」の動きを、ニール氏は尖閣諸島など日本周辺海域での「中国の執拗な動き」への対抗策だと断言する。そして、「『いずも』は安倍政権下で進む日本の軍拡の象徴だ。それは、第二次大戦中の日本の強力な空母艦隊によってもたらされた痛みを強烈に思い出させるものだ」と、中国側の見方を代弁する。 
 ビジネス・スタンダード紙は豊富な防衛予算も海上自衛隊の強みだと見る。「防衛費の上限が全体の1%という制約がありながらも、日本の2017年の防衛予算は436億ドルで、インドの535億ドルよりも少し少ないだけだ。そして、インドや中国と違い、日本は陸軍よりも海軍と空軍に多くの予算を回している」と、予算面でも決して自国や中国に負けていないと指摘する。
このように強力な海軍力が日本にはあり、さら最近では海上護衛艦「いずも」を空母に改修したり、トマホークを自主開発したり、さらにはイージス・アショアーを導入する動きもあります。これらは、中国にとってはかなりの脅威です。

中国がロシアから買い入れて改造し、鳴り物入りで登場させた空母「遼寧」は、南シナ海で試運転を一回しただけで、エンジン主軸が壊れて使い物にならなくなりました。その後何とか改修したようですが、未だに中国の工業力では、空母を動かす二十数万馬力のエンジンを製造できないのです。中国は「いずも」のような護衛艦をつくる能力もないのです。

そうして、ご存知のように日本や沖縄には、日本の強力な海軍力があるだけではなく、強力な米軍も駐留しています。

このような中国が、尖閣を後回しにして台湾を最初の標的にすることは十分考えられます。何しろ、尖閣は無人島ですが、台湾にはそれこそ、第二次世界大戦後に大陸中国から移住した人々も大勢います。

その中には、大陸中国に対して親和的な人も大勢います。これらの人を利用して、台湾を内から崩し、中共が侵攻しやすい土壌をつくれば、中国としてはかなり侵攻しやすいです。

いずれにしても、尖閣も台湾も日本にとっては、死活的に重要な地域です。今年は、北朝鮮問題がいずれ何らかの方向で収束しそうです。北朝鮮がギブアップするか、米国が軍事力を行使するなどして、必ず何らかの形で収束するとみて間違いないと思います。

しかし、そこでアジアの脅威が去ったわけではありません。その次は、中国による台湾への侵攻が大きな問題となるはずです。そういう意味では日本は対中国で台湾と運命共同体といえるでしょう。

将来は、日本の空母も台湾にしよっちゅう寄港するようにして、中国に脅威を与えていくべきです。

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2017年12月27日水曜日

やはり「中国と対決」の道を選んだトランプ政権―【私の論評】背景には米国内での歴史の見直しが(゚д゚)!


米中融和路線を否定した国家安全保障戦略

米国のドナルド・トランプ大統領(左)と中国の習近平国家主席(2017年11月9日)
中国は、米国が主導する国際秩序への最大の挑戦者である──。米国のトランプ大統領が12月18日に発表した「国家安全保障戦略」は、対中政策の前提として中国をこう位置づけ、長期的には中国の膨張を抑える対決の道を選ぶという姿勢を明確にした。

日本の一部では、トランプ政権が中国とやがて手を結ぶという「対中取引外交」説が語られていたが、その説を否定する形となった。

アジアで他国の主権を脅かしている中国

今回トランプ大統領が発表した国家安全保障戦略は、中国とロシアが軍事力や経済力政治力を拡大して、米国が主導する現在の国際秩序を壊し、米側の利益や価値観に反する新たな世界を作ろうとしているとして、その試みを防ぐことが不可欠であると強調していた。

特に、米国にとって今後長期にわたり最大の脅威となる相手と位置づけていたのが中国である。同戦略は中国の特徴を以下のように定義づけていた。

・中国はインド・太平洋地域で米国に取って代わることを意図して、自国の国家主導型経済モデルを国際的に拡大し、地域全体の秩序を作り変えようとしようとしている。中国は自国の野望を、他の諸国にも利益をもたらすと宣伝して進めているが、現実にはその動きはインド・太平洋地域の多くの国の主権を圧迫し、中国の覇権を広めることになる。

・ここ数十年にわたり米国の対中政策は、中国の成長と国際秩序への参加を支援すれば中国を自由化できるという考え方に基礎を置いてきた。だが、米国の期待とは正反対に、中国は他の諸国の主権を侵害するという方法で自国のパワーを拡大してきた。中国は標的とする国の情報をかつてない規模で取得し、悪用し、汚職や国民監視などを含む独裁支配システムの要素を国際的に拡散してきた。

・中国は世界の中で米国に次ぐ強力で大規模な軍隊を築いている。その核戦力は拡張し、多様化している。中国の軍事力の近代化と経済拡張は、大きな部分が米国の軍事や経済からの収奪の結果である。中国の急速な軍事力増強の大きな目的の1つは、米国のアジア地域へのアクセスを制限し、自国の行動の自由を拡大することである。

・中国は自国の政治や安全保障の政策に他国を従わせるために、経済面での“飴と鞭”の使いわけのほか、水面下で影響力を行使する工作、軍事的な威嚇を手段としている。インフラ投資や貿易戦略は、地政学的な野望の手段となっている。また、南シナ海における中国の拠点の建造とその軍事化は、他国の自由航行と主権を脅かし、地域の安定を侵害する。

そして同戦略は、インド・太平洋地域の諸国は、中国に対する集団防衛態勢を米国が主導して継続することを強く求めていると強調していた。

明確に否定された「米中融和」の推測

このように同戦略は、中国は他の諸国の主権や独立を侵害しようとする危険な存在であり、アジア・太平洋地域全体にとっての脅威となっているため、米国が中国の脅威を受ける諸国を集めて、対中防衛、対中抑止の態勢を共同で保たねばならない、と唱える。

つまりトランプ政権は、長期的にみて中国が米国にとっての最大の対抗相手、潜在敵であるとみなしているのだ。

その一方、トランプ大統領は就任からこの11カ月ほどの間に、北朝鮮の核兵器開発を防ぐための協力を求めるなど対中融和と受け取れる言動もあった。そのため日本では一部の識者たちの間で、「トランプ大統領は、結局は中国との協調姿勢をとることになる」「米中はやがて水面下で手を結び絆を強め、日本を疎外するようになる」という観測が述べられてきた。トランプ大統領の実業家としての経歴を重視して「トランプ氏は中国との間でビジネス的な取引を進め、対立を避けるだろう」と予測する向きも少なくなかった。

しかし、今回、打ち出された国家安全保障戦略は、中国を米国にとっての最大の脅威と位置づけており、「米中融和」や「米中蜜月」という推測を明確に否定したといえよう。

【私の論評】背景には米国内での歴史の見直しが(゚д゚)!

中国・ロシアは米国が主導する国際秩序への挑戦者であることは間違いありません。かつては、ソ連が最大の挑戦者だったのですが、ソ連が崩壊してからロシアは国力をかなり減退させています。

現在のロシアのGDPは、日本の30%にも満たないくらいです。人口は、1億4千万人程度と、あの広い領土にもかかわらず、日本の1億2千万により、わずかに多いくらいです。

これでは、経済力でも人口でも中国に比較するとかなり劣っています。ただし、中国のGDPの統計はかなり出鱈目で、本当はドイツ以下である可能性もあることを指摘する学者もいます。それが本当だったとしても、中国のGDPは、ロシアよりもかなり大きいことだけは確かなようで、今後ロシアが米国への挑戦者として返り咲くことはないでしょう。

中国とロシアは、米国が主導する国際秩序への挑戦者であることはこのブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!
ロバート・ケーガン氏
この記事から一部を引用します。
 世界に国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という2つの重大な危機が迫っている。 
 米国は、第2次大戦後の70余年で最大と言えるこれらの危機を招いた責任と指導力を問われている。米国民がドナルド・トランプ氏という異端の人物を大統領に選んだ背景には、こうした世界の危機への認識があった──。 
 このような危機感に満ちた国際情勢の分析を米国の戦略専門家が発表し、ワシントンの政策担当者や研究者の間で論議の波紋を広げている。 
 この警告を発したのは、ワシントンの民主党系の大手研究機関「ブルッキングス研究所」上級研究員のロバート・ケーガン氏である。
ご存知のように、オバマ大統領は国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という重大な危機を招いた張本人でもありました。ロバート・ケーガン氏はこのことの反省に立脚しつつ、このような警告をしているのでしょう。

ケーガン氏は今年1月24日に「自由主義的世界秩序の衰退」と題する同論文を発表し、世界に重大な危機が迫っていることを警告しています。この論文の要旨を以下に引用します。
・世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきた。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきた。 
・しかしこの世界秩序は、ソ連崩壊から25年経った今、支那とロシアという二大強国の挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたった。 
・支那は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしている。ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっている。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れている。 
・支那とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止だった。 
・だが、近年は米国の抑止力が弱くなってきた。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまった。 
・その結果、いまの世界は支那やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきた。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかない。
そうして、ロバート・ケーガンは、中国ロシアの軍事力行使の危険性があることを前提に、自由主義的な世界秩序の崩壊を防ぐために、米国はリーダーシップを取り戻すべきと主張しています。

このような声は、今年も共和党・民主党を問わず、各方面から聞こえていました。米国のトランプ大統領が今回発表した「国家安全保障戦略」はこのような声に応えるものであるともいえます。

アメリカで沸き起こるこのような声には以下動画のような背景がありました。



この動画では、米国では多様な歴史の見方があることを語っています。たとえば、日本のパールハーバー攻撃を卑怯なだまし討とみるのではない見方もあることを語っています。

1941年12月7日(現地時間)、日本軍が真珠湾攻撃をした当時、アメリカのルーズヴェルト民主党政権は「卑怯な騙し討ち」と非難しました。日米両国が懸命な戦争を避けるための外交交渉をしていたのに、日本がいきなり真珠湾を攻撃してきたという見方です。

しかし、日米交渉の経緯について知られるようになるにつれ、日米交渉を潰したのは、ルーズヴェルト民主党政権側であったことが知られるようになっていきました。

先の戦争は決して日本の侵略戦争などではなかったにもかかわらず、アメリカのトルーマン民主党政権は東京裁判を行い、日本の指導者を侵略者として処刑しました。このことは、公正と正義を重んじたアメリカ建国の祖、ワシントンやリンカーンの精神を裏切る行為です。

これまで戦争責任といえば、必ず日本の戦争責任を追及することでした。過去の問題で批判されるのは常に日本であって、過去の日本の行動を非難することがあたかも正義であるかのような観念に大半の日本人が支配されてしまっています。しかし、どうして戦争責任を追及されるのは常に日本側なのでしょうか。

敗戦後の日本人が、「戦争に負けたのだから」と連合国側による裁きを甘受したのは仕方のないことだったかもしれません。しかし、歴史の真実は勝者の言い分にのみ存するのではないはずです。

上の動画をみてもわかるように、米国では真珠湾攻撃は日米両国がそれぞれの国益を追求した結果起こったものであるとして、日本を「侵略国」であると決めつけた「日本悪玉史観」は事実上、見直されているのです。

ベノナ文書
その動きは今後益々進んでいくことになるでしょう。というのも、ベノナ文書が公開されたり、ソ連崩壊後にソ連の内部文書が公開されたりしたため、それを分析・研究をはじめたアメリカの保守派の間では近年、「真珠湾攻撃背後にソ連のスターリンの工作があった」とする「スターリン工作説」が唱えられるようになってきているからです。

"Stalin’s Secret Agents: The Subversion of Roosevelt’s Government"の表紙
例えば、保守派のオピニオン・リーダーであるM・スタントン・エヴァンズと、安全保障の専門家のハーバート・ロマースタインが共著で『Stalin’s Secret Agents: The Subversion of Roosevelt’s Government (スターリンの秘密工作員:ルーズヴェルト政権の破壊活動)』(Threshold Editions, 2012, 未邦訳)を刊行し、ソ連のスターリンが日米を開戦に追い込むために、日本、アメリカ、中国(蒋介石政権)の三方面で同時並行的に三つの大掛かりな工作を行ったと指摘しています。
①ソ連の工作員であるドイツ人ジャーナリスト、リヒャルト・ゾルゲが、朝日新聞記者だった尾崎秀実らを使って、日本が英米両国と戦争をするよう誘導した。 
②ソ連の工作員であるアメリカの財務次官補ハリー・デクスター・ホワイトが、ルーズヴェルト政権内部に働きかけて、日米の和平交渉を妨害した。 
③ソ連の工作員であるルーズヴェルト大統領補佐官ラフリン・カリーが、中国国民党政府の蒋介石の顧問であったオーウェン・ラティモアと連携して、日米の和平交渉を妨害した。
こうした歴史見直しを進めるアメリカの保守派は、ドナルド・トランプ大統領の支持母体でもあるのです。アメリカ内部で始まった歴史見直しの動向には大いに注目しておきたいです。

そうして、この歴史の見直しは、当然のことながら安倍総理も提唱している「戦後レジームからの脱却」にも大きな影響を与えることになるのは必定です。トランプのいう「リメンバー・パール・ハーバー」は、こうした歴史の見直しを象徴するものであり、米国はもとより、日本などの先進国はかつてのように本当の敵を見失うことなく、中国とロシアに対峙しなけばならないこと、特に台頭する邪悪な中国に思い通りにさせてはいけないことを意味するものです。

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