内閣府のHPより |
エコノミスト・経済学者の力量を測るためには、経済予測をさせることだ。もちろん将来のことはわからないので、百発百中はありえない。しかし、1年先くらいの予測を6~7割程度当てることができなければ、エコノミストの存在価値が問われる。
2012年に民主党から自民党に政権交代して、経済政策ががらりと変わった。特にここ数年の大きな経済政策の変更点としては、13年4月からの金融緩和と14年4月からの消費増税がある。それらの変更により経済がどのように変わるかについて、多くのエコノミストが予測していたが、その結果について今月14日に発表された15年度経済財政白書に良く整理されている。
まず金融政策であるが、多くの識者は「デフレを脱却できない」としていた。ところが経済財政白書では、「消費者物価や国内総生産(GDP)デフレーター、単位労働コストが上昇するなど、デフレ脱却に向けた動きは着実に進んでいる」と評価している。
金融政策について安倍晋三政権は、黒田東彦氏を日本銀行総裁、岩田規久男氏を副総裁に据えて異次元緩和を引き出したので、政府の見通しとしては間違っていなかった。間違っていたのは多くのエコノミストのほうであった。
デフレ脱却をできないと予測していたエコノミストは、「異次元緩和によってハイパーインフレ、国債暴落になる」とも主張していたが、まったくの大外れとなった。次に、消費増税である。これも多くのエコノミストは政府の見解と同様に「影響は軽微である」と予測していたが、大きく外れた。
経済財政白書では、14年度の実質GDPは駆け込み需要の反動減で1.2%程度押し下げられたほか、税率引き上げに伴う物価上昇を受けた消費の減少も、0.5%程度の押し下げ要因になったと分析している。影響が軽微と予測した政府の経済見通しは、1.4%成長だったが、結果としてマイナス0.9%だったので、2.3%の予測ミスとなった。政府やその提灯持ちだった多くのエコノミストは予測を外した。
政府の中で甘い見通しの間違いにいち早く気がついたのが、安倍首相である。そのため安倍首相は今年10月に予定されていた消費増税を延期するために昨年末、衆議院の解散・総選挙に打って出た。その勝利で辛うじて再増税は延期された。1度目の消費増税は失敗したが、2度目の間違いは犯さなかった。
減税の必要性
今回の経済財政白書の分析は、概ね評価できる。過去の政策に関して失敗の本質でも書かれていると、もっと良かったであろう。
デフレ脱却については、興味深い記述もある。今後についてはGDPギャップ(需要と供給の差)のマイナス(需要不足)幅を縮小することが重要だという指摘である。このGDPギャップがマイナスになった要因は、消費増税である。これを縮小させるためには、増税の逆、つまり減税を行うのが望ましい。消費増税の影響で一向にさえない景気を上向きにするためには、減税を行うのが望ましいと、経済財政白書はいっているようだ。
金融緩和や消費増税に関する経済予測を間違ったエコノミストたちの名前は、インターネット等で簡単に検索できる。そうした人たちには、今年の経済財政白書をしっかり勉強してもらいたい。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)
【私の論評】過去の『発狂白書』から比較すると、今年はまともになった『経済白書』(゚д゚)!
この年次経済財政報告通称『経済白書』に関しては、昨年、一作年とも内容は、はっきりいって瑕疵(かし)があると言っても良い酷い内容でした。私は、まだ今年の白書は、読んではいませんが、上記の高橋洋一氏の記事からすると、今年はまともになったようです。
昨年、一作年の白書の瑕疵の内容を指摘したいと思います。まずは、昨年に関しては、白書そのものは以下のリンクからご覧になって下さい。
平成26年度 年次経済財政報告 (平成26年7月25日)
この年次報告では、冒頭に甘利明・経済財政相による「平成26年度年次経済財政報告公表に当たって」がある。この部分は、甘利大臣がサインするので、事務方が用意するものの、ここだけは大臣自身が必ず読んでいる。はじめの部分を以下に引用します。ここが経済白書のポイントであることは間違いありません。
日本経済が、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」の効果もあって着実に上向く中、2014年4月に消費税率が8%へと引き上げられました。
景気は、消費税率引上げに伴う駆け込み需要の反動によりこのところ弱い動きもみられますが、緩やかな回復基調が続いています。今後については、駆け込み需要の反動の影響が次第に薄れ、各種政策の効果が発現する中で、緩やかに回復していくことが期待されます。
ただし、海外景気の下振れなどのリスクを注視していく必要があります。日本経済は、デフレ脱却へ向けて着実に進んでおり、今後は適度の物価上昇が安定的に実現する正常な姿に戻っていくことを期待しています。簡単に要約すれば、消費税の影響は大丈夫で、リスクは海外要因だと言っています。しかし、当時の経済統計をみれば、様々な数字が悪化しており、どうみても景気の落ち込みなど、海外要因が主たる原因ではなく、増税であることは明々白々でした。
冒頭の書き出しがこの有様ですから、内容も至って酷いもので、はっきり瑕疵のある報告書と言って良いと思います。私など、この「はしがき」を見た途端にげんなりして読む気が失せてしまったものです。
次に、平成25年度の白書に関しては、以下のリンクからご覧になって下さい。
平成25年度 年次経済財政報告 (平成25年7月23日)
この白書も酷いもので、これに関しては、このブログでも過去に批判しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【メディアの嘘を見抜け】酷すぎ、今年の経済白書はバカか工作員の未来日記なのか―【私の論評】マスコミがその巣窟になつている現在、せめて役所それも内閣府だけは馬鹿とスパイはお断りにしていただきたい!この記事では、経済評論家上念司氏の動画も掲載して、経済白書の出鱈目ぶりを徹底的に批判しました。その動画を以下に掲載します。
さて、この記事では、この動画の内容を引用したのですが、以下にその引用部分を掲載します。
詳細は、上の動画をご覧いただくものとして、本年の経済白書の馬鹿もしくはスパイさ加減を知っていただくため、上の動画で使われていたフリップを掲載します。
さて、まず一枚目のフリップは、経済財政白書が出版された旨を伝える新聞記事です。タイトルは「市場は脱デフレ予想」というものです。
さて、その経済財政白書の中身で非常に問題点があることを示すのが下のフリップです。白書には欧州などで増税した国々であまり悪影響はでていないと掲載してあり、その論拠として下のグラフが掲載されています。しかし、このグラブ増税前と、増税直後のものは掲載されていますが、増税後(少なくとも1年後)のグラフは掲載されていません。これでは、増税の悪影響などわかりません。
そこで実際には、どうだったかのかを検証するグラフが以下のフリップです。アメリカと、イギリス、スペイン、イタリア、ポルトガルの最近のものが掲載されています。アメリカは、最近緊縮気味の財政ですが、増税はしていません。これに対して、イギリス、スペイン、イタリア、ポルトガルのEU諸国は全部増税しています。下のグラフは見づらいですが、右のほうで一番上位にあるのは、アメリカです。ご存知のように、アメリカは日本の3.5倍の規模で金融緩和をして、増税はしていません。
これに対して、イギリスは日本の4.5倍の規模で金融緩和をしていますが、増税後は明らかにアメリカと比較して経済が成長するどころか、鈍化しています。他のEU諸国は、イギリスほどではないのですが、EUが金融緩和をしましたので、これらの国々もイギリスを除いて通貨統合をしていますから、金融緩和を実施しています。イギリスもこれらの国も、増税後は経済成長率が落ちたということです。
さて、英国ではどういうことになっているかを示したのが、以下のフリップです。何と、増税した後では、付加価値税も、所得税も、法人税も下がっています。これは、完全な失敗であったことがはっきりしています。イギリスの付加価値税の増税は、財政赤字を減らすことを目論見に導入したものですが、以下のように税収が減ったため、財政赤字を減らす目処も立っていません。
特にイギリスの事例などかなり参考になったと思います。それについては、私もこのブログで何度か掲載したことがあります。その記事の代表的なもののリンクを以下に掲載します。
【五輪閉会式】景気後退、将来への懸念は消えず 政争の予感も―【私の論評】イギリスの今日の姿は、明日の日本の姿である!!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事にも掲載した上のグラフをご覧いただければ、イギリスでは2011年1月、財政再建を目論んで、増税をしましたが、その結果若者の失業率が増えたため、その後大規模な金融緩和に踏み切りましたが、それでも雇用は改善されなかったことが一目瞭然で理解できます。この当時のイギリスでは、若者雇用が改善されなかったばかりか、結局税収も減り、財政赤字もかえって増えています。
こういう事実を知ってか知らずか、『経済白書』では上の記事でみれば、理解できるようにこれら事実を十分知りつつ、日本の場合は例外で、増税してもその影響は軽微というようにかなり無理な結論を導いていました。
それにしても、この内閣府の『経済白書』は、まるで財務省の後押しをして増税まっしぐらです。EUの状況を完璧に無視して、増税ありきの世論を誘導し、翌年の白書では、増税が大失敗であったことはあまりにもはっきりしすぎているのに、景気の悪化を海外情勢のせいにしています。
これでは、なんというか、まともな経済財政報告ではなく、瑕疵を指摘されても仕方ないと思います。まさに頭がどこか狂った『発狂白書』と言われても仕方ないと思います。
それにしても、今年の白書は、ブログ冒頭の高橋洋一氏の指摘するように、発狂状態は収まったようで、まともになっているようです。実物は、まだ内閣府のサイトでも公開されていないですが、近いうちに公表されると思います。
上の記事で高橋洋一氏は、「金融緩和や消費増税に関する経済予測を間違ったエコノミストたちの名前は、インターネット等で簡単に検索できる。そうした人たちには、今年の経済財政白書をしっかり勉強してもらいたい」と結論づけています。
これは、痛烈な皮肉です。なぜなら、日本ではいわゆる経済学のメインストリームといわれている人たちが予測をことごとく外しています。そうして、高橋洋一氏は、過去にこの人々のリストをあげています。それに関連する記事のリンクを以下に掲載します。
「2%インフレ目標未達」の批判は誤解で的外れ―【私の論評】復興を税で賄おうとか、8%増税の失敗を認めたくない輩の多いこの国で、いつまともな経済論議ができるようになるのか?間違いを認める潔さのない人々のリストはこれだ(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では高橋洋一氏が以下のようにTweetしていることを掲載しました。
高橋洋一氏が掲載しているリストのリンク等を以下に提示しておきます。
伊藤隆敏研究室「震災復興にむけて」
共同提言者・賛同者(2011年6月15日10:00現在)(敬称略)
日本では、経済学のメインストリームである人多数の人たちが、復興税にはじまり、金融緩和や消費増税に関する経済予測を間違っているわけです。
高橋洋一氏は、この人たちこそ、今年の「経済白書」を読んで勉強すべきであると語っているのです。
それにしても、この構図ごく最近どこかでみたばかりです。そうです。憲法解釈の改変による集団的自衛権の行使を含む安保法案をはっきりと違憲と主張した憲法学者どもです。人には様々な意見があるのは当然ですからね憲法学者が「違憲」といういうのも、悪いことではないです。しかし、はっきり「違憲」と語るのは、間違いです。
最低でも、「違憲の疑いがある」くらいの言葉遣いならまだ理解できます。さらに、「京都学派など合憲とするものもあるが、私の立場では、○○の理由で合憲だと考える」というような内容であれば、ベストであったと思います。日本の多くの憲法学者は言葉遣いもまともにできないかと忸怩たる思いがします。
最低でも、「違憲の疑いがある」くらいの言葉遣いならまだ理解できます。さらに、「京都学派など合憲とするものもあるが、私の立場では、○○の理由で合憲だと考える」というような内容であれば、ベストであったと思います。日本の多くの憲法学者は言葉遣いもまともにできないかと忸怩たる思いがします。
日本では、憲法学者も経済学者もまともではないということが、はっきりしたと思います。このような学者に教えられている学生諸君を気の毒に思います。
私自身は、大学は理系でしたし、教養のときには、日本国憲法を履修しませんでした。経済学も履修しませんでした。無論まともな先生もいたので、どうしても取得しなければならない文系の科目は、自分で判断してまともな先生の講義を選択しました。今から思うと、大正解でした。
それにしても、今年の『経済白書』まともになって本当に良かったと思います。とにかく、今年の『経済白書』の内容のような経済に対する認識が、日本の経済のメインストリームになっていただきものとだと思います。
私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?
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