2016年度の国の一般会計税収が7年ぶりに前年割れとなったことを受けて、「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」などと報じられている。
数字を確認しておくと、16年度の国の一般会計税収は、15年度実績の56・2兆円から0・4兆円以上減る見込みである。
これまでの統計をみれば、税収の伸び率は名目経済成長率にリンクしている。
税収の増加率が名目経済成長率の何倍になるかを示す「税収の弾性値」は、財務省の計算では「1・1」という数字が使われる。もっとも、景気低迷期で赤字企業が多い場合、少し景気が良くなると、赤字企業が減少し、黒字転換で法人税を払うようになるので、税収弾性値は1・1より大きくなる。実際に、過去20年くらいの実績をみると「3」程度となっている。1・1というのは、所得税の累進税率を勘案した長期的な数字とされている。
経済学の理論では、税収弾性値はプラスであり、名目経済成長率がプラスであれば、税収もそれなりにプラスになるはずだ。しかし、名目経済成長率がプラスでも低い場合、税収がマイナスになることもある。16年度がその例に当たる。
16年度の名目経済成長率は1・1%にすぎなかったため、税収は0・7%程度も減少した。
過去にも03年度に似たようなことは起こっている。名目経済成長率が0・7%にとどまったので、税収が1・1%も減少したのだ。
いずれにせよ、筆者は14年4月の消費増税の影響について「2~3年程度は継続する」と本コラムでも予想していたが、この増税の影響で16年度の名目経済成長が伸び悩んだことが、税収減の主な原因だといえる。
さらに、16年度前半の円高進行により企業が納める法人税収が伸び悩んだのも大きかった。
これらをもって「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」というのは言い過ぎである。消費増税の悪影響や一時的な円高により、アベノミクスの効果が損なわれたとみるほうが正しい。
「アベノミクスの限界」という人の多くは、6月に決めた骨太の方針で、財政再建姿勢が後退したと批判する。こうした人たちは14年4月の消費増税についてはやるべきだと主張していた。増税で経済成長が腰折れしたことが税収減の主因であるにもかかわらず、再び消費増税を主張するのは理解に苦しむ。確実な税収増のためには、より高い名目経済成長が必要なだけなのだが。
消費税率10%への再増税は、当初は15年10月からとされていた。しかし、安倍晋三政権が17年4月に延期し、さらに経済状況の悪化で19年10月に再延期した。実際に、それを実行するかどうかは18年中に決めなければいけない。安倍政権は20年の憲法改正を目指しており、国民投票もあるかもしれない。
こうしたことを背景として、三たび消費増税が見送られないように、増税派が今から牽制(けんせい)球を投げているとみたほうがいいだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】再増税でまた失われた20年に突入しても良いのか?
税収の推移のグラフを以下に掲載します。これは2016年12月22日に作成されたものです。
この時点て、2017年度の一般会計税収は、57兆7120億円となると見込まれています。1991年度(決算ベース、59兆8204億円)以来、26年ぶりの高い水準。安倍政権は経済成長による税収増を「アベノミクスの果実」と位置付けており、円安に伴う企業業績の好転などを追い風に、16年度当初予算に比べ1080億円の増額を確保すると見込んだのです。
税目別の内訳を見ると、所得税が16年度当初比で270億円減の17兆9480億円。企業の賃上げの動きを背景に、15年度(決算)から3年連続で17兆円台後半となります。
法人税は企業業績の改善が見込まれるため、1580億円増の12兆3910億円、消費税は470億円減の17兆1380億円。相続税は2兆1150億円と1940億円増加する一方、酒税は1兆3110億円と480億円減少します。
16年度補正後の一般会計税収は当初予算から1兆7440億円減額し、55兆8600億円になると見積もっていました。年度前半の円高に伴う法人税収の落ち込みを織り込んだものです。
16年度に税収が落ち込むことは、いわば予定帳場です。これを、「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」というのは、全くあたりません。
こういうことを言う人たちには、必ずしも増税=増収ではなかったことを思い起こしてほしいです。
1989年の増税では翌年の1990年は、前年と比べて税収が5兆円増えて60兆円となりました。しかし、その年をピークとして、その後20年間、日本経済は長い停滞期に入り、一度たりとも90年時の税収を上回ることはありませんでした。
97年に消費税を5%へ増税するとすぐに税収は減少しました。消費税率を5%に上げた1997年とその翌年98年を比較すると、消費税収は増加したものの、所得税収と法人税収はそれぞれ2兆円減少。トータルで見ると53.9兆円から49.4兆円へと4.5兆円も減った。
この違いは、1989年には消費税増税はあったものの、当初から所得税、法人税の減税がありました。一方1991年は、当初は減税措置がなく、年末に特別対策として実施されたという違いがあったからです。
いずれにせよ、消費税増税しても結局税収は長い目では伸びなかったのです。これは、どういうことかといえば、消費税増税でGDPの6割を占める個人消費が減ってしまったからです。
一方2014年の増税では、税収が減るということはありませんでしたが、2016年度には減ることになりました。政府は2017年度には増えるとしてはいますが、それもどうなるかはわかりません。
結局、消費増税を行うと、いっとき消費税収は増えるのですが、やがて国民や企業はその負担に耐え切れなくなり、景気が後退していくのです。その結果、企業の収益は悪化し、雇用者の所得も減少します。そうなれば、法人税収、所得税収が減ってしまい、トータルの税収は増えないのです。
こうしたデータを見れば、消費増税をしても税収が増えないことは明白な事実です。しかし、財務省はこうした事実を説明することなく、「増税しないと財政赤字が拡大する」というワンパターンのフレーズで国民の不安をあおってきました。
税目別の内訳を見ると、所得税が16年度当初比で270億円減の17兆9480億円。企業の賃上げの動きを背景に、15年度(決算)から3年連続で17兆円台後半となります。
法人税は企業業績の改善が見込まれるため、1580億円増の12兆3910億円、消費税は470億円減の17兆1380億円。相続税は2兆1150億円と1940億円増加する一方、酒税は1兆3110億円と480億円減少します。
16年度補正後の一般会計税収は当初予算から1兆7440億円減額し、55兆8600億円になると見積もっていました。年度前半の円高に伴う法人税収の落ち込みを織り込んだものです。
16年度に税収が落ち込むことは、いわば予定帳場です。これを、「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」というのは、全くあたりません。
こういうことを言う人たちには、必ずしも増税=増収ではなかったことを思い起こしてほしいです。
97年に消費税を5%へ増税するとすぐに税収は減少しました。消費税率を5%に上げた1997年とその翌年98年を比較すると、消費税収は増加したものの、所得税収と法人税収はそれぞれ2兆円減少。トータルで見ると53.9兆円から49.4兆円へと4.5兆円も減った。
この違いは、1989年には消費税増税はあったものの、当初から所得税、法人税の減税がありました。一方1991年は、当初は減税措置がなく、年末に特別対策として実施されたという違いがあったからです。
いずれにせよ、消費税増税しても結局税収は長い目では伸びなかったのです。これは、どういうことかといえば、消費税増税でGDPの6割を占める個人消費が減ってしまったからです。
一方2014年の増税では、税収が減るということはありませんでしたが、2016年度には減ることになりました。政府は2017年度には増えるとしてはいますが、それもどうなるかはわかりません。
結局、消費増税を行うと、いっとき消費税収は増えるのですが、やがて国民や企業はその負担に耐え切れなくなり、景気が後退していくのです。その結果、企業の収益は悪化し、雇用者の所得も減少します。そうなれば、法人税収、所得税収が減ってしまい、トータルの税収は増えないのです。
こうしたデータを見れば、消費増税をしても税収が増えないことは明白な事実です。しかし、財務省はこうした事実を説明することなく、「増税しないと財政赤字が拡大する」というワンパターンのフレーズで国民の不安をあおってきました。
税収を増やしたいならば、デフレから回復しきっていない日本の場合は、結局は経済発展するしかないのです。消費増税は愚策中の愚策です。
「アベノミクスの限界」「成長頼みの行き詰まり」などのフレーズで騙されて、安易な増税に突き進み、またまた失わた20年に突入し、私達の子どもや孫の世代を途端の苦しみに追いやるべきではありません。
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