2017年10月28日土曜日

【日本の解き方】5年たってもアベノミクスをまともに分析できない人たち、マクロ経済知らずけなすだけ ―【私の論評】首相は正統保守的立場から金融政策を手持ちの道具にした(゚д゚)!


アベノミクスによる異次元緩和は、まだ5年もたっていない  写真はブログ管理人挿入
衆院選後の各メディアのアベノミクスに関する報道では、「金融緩和の出口や財政再建が課題」「景気の実感が薄い」「雇用の劣化が進んでいる」といったものがみられた。安倍晋三政権発足から5年が近づくが、いまだにアベノミクスをまともに分析できているとは思えない。

 今や海外の経済ニュースが、そのまま衛星放送などで見られる時代だ。日本の総選挙での安倍政権の勝利も報道されていたが、その理由として「金融緩和が継続された結果」と分析されていた。

 筆者の米国滞在経験では、金融政策が雇用政策であるという認識は、マスコミだけでなく一般人にもあった。米連邦準備制度理事会(FRB)が「物価安定」と「雇用確保」の2つを目標としているからだ。

 マスコミも「雇用を良くするために金融を緩和し、物価を過度に上げないために金融を引き締める」という認識で報道していた。金融緩和は実質金利を下げるので、民間需要が増えるとともに、人への投資増、つまり雇用が増えるという経済理論の裏付けがあるものだ。

 しかし、これを日本でわかっている政治家、学者、マスコミはごく少なく、特に日本の左派・リベラルでは皆無に近い。

 米国では、2008年のリーマン・ショック直後から量的緩和政策が行われており、既に9年が経過した。失業率は4・2%まで改善しており、これ以上の低下は期待できず、インフレ率が上がろうとしている。そこで、量的緩和の「出口」に向かっている。

 日本では、アベノミクスによる異次元緩和は、まだ5年もたっていない。今の段階で「出口」を主張するのは、よほど経済が分かっていない人か、量的緩和に反対してきて、バツが悪く居場所のない人だろう。

 「金融緩和の出口」は、マクロ経済政策としては緊縮であるが、「財政再建が課題」というのも同種の緊縮策だ。今の段階でこれを叫ぶ人は、マクロ経済オンチをさらけ出している。

 「景気回復の実感がわかない」というのもマスコミでしばしば聞かれるが、1980年代後半のバブル景気でも同じような声がよく聞かれた。そこで、どうなると景気の実感がわくのか、と質問すると、「自分の給料が倍になったら」という答えが多い。そういう意味では、多くの人が「景気の実感がわく」というのはあり得ないので、この種の報道は今の景気をけなす意味しかない。

 「雇用の劣化」という言い方は、2、3年前までは、「有効求人倍率が改善していても、非正規雇用が多い」と批判する意味合いで使われていた。ところが、正規雇用の有効求人倍率も1倍を超えてしまったので、この論法は使えなくなった。

 今では、賃金が上がらないことを「雇用の劣化」と表現しているのだが、賃金が上がらないのは、失業していた人が職に就くときには低い賃金になり、平均値を押し下げるためだ。

 失業率がこれ以上下げられない構造失業率に近づき、人手不足が本格化すると賃金は上がり出す。残念ながら、こうしたメカニズムを把握した報道にお目にかかることはめったにない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】首相は正統保守的立場から金融政策を手持ちの道具にした(゚д゚)!

日本では5年たっても、アベノミクスをまともに分析できる人が少ない一方、CNBCのシーマ・モーディという女性レポーターが、日本の総選挙の与党の大勝について「安倍首相が勝利したのは金融緩和が続いた結果です」と解説しています。ブログ金融緩和が雇用政策であるのは欧米では常識です。日本の新聞やテレビはあまりにもポンコツすぎて、こうい分析が全くできないようです。

冒頭の記事で、高橋洋一氏は「日本では、アベノミクスによる異次元緩和は、まだ5年もたっていない。今の段階で「出口」を主張するのは、よほど経済が分かっていない人か、量的緩和に反対してきて、バツが悪く居場所のない人だろう」と語っています。

この主張は正しいと思いますが、もっと詳細に言ってしまえば、元々経済がよくわかっておらず、「 政権や権力と戦うのが自分たちの使命」と思いこんでしまった、左派やリベラル(新左翼)のメディアや政治家が、とにかく「安倍には反対」という姿勢に凝り固まり、金融緩和にまで反対してしまったというのが真相だと思います。

一方保守と見られている、安倍総理はどうして欧米では左派がとる政策である金融緩和政策をとったのでしょうか。

それは、保守の本来の意味を認識していないと理解できないかもしれません。保守とは本来「安全保証では、○○」、「経済では、△△」という立場を取っているから保守などというものではありません。それについては、以前このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ドラッカーの言う「改革の原理としての保守主義」とは何か ―【私の論評】 保守主義の本質は 左右、新旧とは関係ない。自由で機能する社会を前提として、その都度具体的な問題を解決していくという原理だ!!
若い頃のドラッカー氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に保守に関する部分のみを引用します。
それは、第1に、過去のためのものではない。正統保守主義とは、「明日のため」のものである。あくまでも未来志向のものである。 
正統保守主義とは、第2に、なんらかの青写真に沿って社会を形成しようとするものではない。なんらかの万能薬を服さしめようとするものでもない。 
それは、ケース・バイ・ケースで問題を解いていこうとするものである。医学にしても、万能薬を求めているあいだは進歩しなかった。風邪には風邪、腹痛には腹痛の治療を求めてから急速な進歩が見られた。したがって、それは、「具体的な問題を解決していくものである」。 
正統保守主義とは、第3に、手持ちの道具、役に立つことが実証ずみの道具を使って問題を解こうとするものである。理想的な道具を新たに発明しようとしても無理である。「それは、既に存在するものを基盤とし、既に知られているものを使うものである」。 
かくしてドラッカーは、改革のための原理は、保守主義たるべしとする。 
「第一に、過去は復活しえないことを認識することが必要である。第二に、青写真と万能薬をあきらめ、目前の問題に対する有効な解決策をみつけるという、控え目で地味な仕事に満足することを知ることが必要である。第三に、使えるものは既に手にしているものだけであることを知ることが必要である」(『産業人の未来』)
古今東西で、景気が悪い時、雇用情勢が悪い時には、金融緩和を実行すると良いということがすでに幾多の例で実証されています。欧米でも、過去の歴史をたどるとそれが良い結果をもたしたことが知られています。

日本でも、過去の歴史を調べると、景気の悪いときに、通貨の量を増やす今でいうと金融緩和策を実行した場合には、良い結果を招いたことが記録されています。

反対に、景気の悪い時に、通貨の量を増やすこともせず、質素倹約例などを出すとかえって景気がさらに落ち込んだことが、歴史に記録されています。

日本では、最も良い事例は、高橋是清による、いまでいうところの金融緩和策、積極財政策です。世界恐慌のときには、日本も昭和恐慌と呼ばれる大恐慌に見舞われましたが、日本は高橋是清のこれらの政策によって、世界で一番はやく恐慌から脱出することができました。

高橋是清
歴史上では、不況時には金融緩和策、積極財政の試みがされて成功していましたが、それを最初に理論的にまとめたのはケインズです。

ケインズは、有効需要に基いてケインズサーカスを率いてマクロ経済学を確立させました。日本では、過去においては、なぜかケインズは財政政策についてのみ語っているような認識のされかたがしていましたが、それは間違いです。金融政策が大事であることも語っています。

ケインズによりマクロ経済学の基本が設立され、その上にさらなる様々な学者の努力が積み重ねられたものが、現代のマクロ経済学です。


現在では、労働者の雇用を良くするということから、世界では左派系の人々がこの政策を推進すべきであると唱えていることが多いので、これは左派系の政策であると見られることもありますが、これはの歴史をたどっていけばいくほど、ドラッカーのいうとろの「手持ちの道具、役に立つことが実証ずみの道具」であることが理解できます。

安倍総理は、デフレ脱却のための実証済みの道具である金融緩和政策を用いて、成功を収めたのです。これは、正統保守主義者の立場からすれば、当然といえば当然です。一方、安倍総理は、デフレ脱却のためには、悪手とされた道具である増税をして大失敗をしました。そのため、その後増税は延期しています。

一方、いわゆる日本の左派・リベラル(新左翼)は、これら歴史的に実証されている方法は否定し、枝野氏のように「金利をあげる」とか、構造改革を主張するなど実証済みでない道具に固執し、まともに実効性のある政策提案ができません。

最近では、日本以外の国々のリベラル・左派が主張し、正統保守主義者である安倍総理が手持ちの道具とした、デフレのときの金融緩和策という道具は、日本のマスコミや多くの政治家にはなかなか理解できないようです。

ドラッカーは、保守主義について以下のようにも語っています。
保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。(ドラッカー名著集(10)『産業人の未来』)
「すべてめを覆う結果」については、私達は痛いほど経験しています。そうです。失われた20年です。後から考えると、これはデフレであるにも関わらず、日銀は金融引締めを行い、政府は緊縮財政を実行し続けたからです。本来ならば、この時期には、すでに知られている方法である金融緩和政策と、積極財政を実行すべきだったのです。

現在リベラル・左派の主張する経済政策を実行すれば、「すべて目を覆う結果」になることは必定です。

政治改革には、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していく姿勢を貫くべきなのです。これをマスコミと政治家も理解すべきです。

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