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2018年6月23日土曜日

【日本の解き方】インフレ目標は断念すべきか 「2%」設定は雇用に劇的効果、財政問題解消のメリットあり―【私の論評】雇用が確保されつつインフレ率が上がらない状態は問題あり?なし?これで、インフレ目標の理解度がわかる(゚д゚)!

【日本の解き方】インフレ目標は断念すべきか 「2%」設定は雇用に劇的効果、財政問題解消のメリットあり

 ある経済ニュースのサイトで、「インフレ目標2%を0%に引き下げるべきだ」という学者の見解が紹介されている。

 まず、インフレ目標の意味を復習しておこう。これは、日本のマスコミや学者でも正しく理解していない人が多い。大前提として、本コラムで繰り返し指摘しているが、インフレ率と失業率は逆相関になっている。(ブログ管理人注:下グラフ参照)


 日銀はインフレ目標を2%としているが、幅がある国も多い。多くは目標プラスマイナス1%である。インフレ目標国は、このレンジに7割程度収まるのが通例だ。インフレ目標の数値自体は、失業率の下限であるNAIRU(インフレを加速しない失業率:ブログ管理人注:構造的失業率とも言われる。現状では2.5%程度と見積もられている)に対応するものとして設定されている。

 インフレ目標の下限を設定するのはデフレを放置しないためだ。そして上限は金融緩和で失業率を下げたいが、やりすぎて必要以上にインフレ率を高くしないように設定する。

 このようにインフレ目標を理解していれば、失業率が下がって雇用環境が良くなっているのにインフレ率が上がらない、という状況は、それほどまずくないことがわかるだろう。

 こうした事情から、日銀は2%のインフレ目標を引き下げる必要はない。インフレ率が上がらないことの国民経済上の弊害はほぼ皆無のうえ、財政再建ができるというメリットがあるからだ。

 日銀のインフレ目標2%はそれなりに効果もある。白川方明(まさあき)前総裁時代の2008年4月~13年3月までと、黒田東彦(はるひこ)日銀の13年4月~18年3月までを比較してみよう。

 インフレ率2%との差は、白川時代に▲2・3%だったが、黒田時代は▲1・5%だった。(ブログ管理人注:下グラフ参照)


 インフレ率2%からの乖離(かいり)としてインフレ率と2%との残差平方和の平方根(標準偏差の類似概念)をみると、白川時代は「2・5」だったが、黒田時代は「1・6」となっており、黒田時代はインフレ率2%から外すことが少なくなっている。

 ただ、米英では、インフレ率2%との差はほぼゼロ、2%との乖離は「1・0」程度なので、黒田日銀のパフォーマンスは米英からは一歩劣っている。

 それでも、失業率は劇的に改善したので、「2%」の目標を設定した効果はあったと見るべきだ。

 しかも、日銀が市場から国債を買っていて、インフレ率が上がらなければ、さらに買えることを意味する。統合政府のバランスシート(貸借対照表)を見てもわかるが、日銀が購入した国債の利払費は、日銀納付金になるので事実上負担なしになる。この事実を見ても、財政問題が解消することが分かるだろう。

 本当にインフレ率が上がらなければ、市場の国債を中央銀行が買い尽くすことによって、財政問題がなくなると、かつてベン・バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)元議長は筆者に言ったことがある。

 こうしたことからみても、インフレ目標の断念は的外れだといえるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】雇用が確保されつつインフレ率が上がらない状態は問題あり?なし?これで、インフレ目標の理解度がわかる(゚д゚)!


この記事の冒頭の記事で、ある経済ニュースのサイトで、「インフレ目標2%を0%に引き下げるべきだ」という学者の見解について掲載されていますが、その記事とは、ブルームバーグの記事です。その記事のリンクを以下に掲載します。
物価統計の第一人者も2%を断念、日銀は金融正常化を-目標0%適当
渡辺努東大大学院教授

学者とは渡辺努東大大学院教授のことです。この記事は、6月19日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分のみを引用します。



渡辺教授によると、消費者物価に採用される品目の価格変化率は、米国(約200品目)はプラス2.5%前後が最も多いが、日本(約600品目)は異次元緩和後も含めほぼ5割が0%近傍。理髪店の料金が典型で20年近く変わっていない。最近では価格を変えずに商品サイズを小型化する動きも目立ち、値上げを怖がる企業マインドを是正するには時間がかかるという。 
渡辺教授は、効果のない異次元緩和は手じまいが必要だと指摘する。2%物価目標の旗を降ろして0%にすれば、現在の物価上昇率で達成されるため「さらに緩和が必要という理屈」も生じず、超低金利政策を「続ける理由はない」と語る。
やはり、この主張はおかしいです。そもそも、G7諸国において、日本だけが現在でも、消費税増税も含む緊縮財政を続けています。その結果、個人消費が著しく阻害され、そのため物価上昇にも悪影響が出ているという点は全く無視されています。

さらに、物価目標が達成されないまま、金融緩和をやめてしまえば、失業率が上がって雇用環境が悪くなるという最悪の状況に見舞われることになります。

私は、一国の経済にとってもっとも重要なのは雇用だと思います。個人消費があまり伸びずGDPの伸び率もG7では最低レベルにある日本ですが、それでも雇用状況は良く、失業率が低下し、特に今年の新卒の就職率は過去最高のレベルに達しました。

それに、現状物価が上がらないとして、何か問題があるでしょうか。物価が下落しているデフレであれば、問題でしょうが、すでに不十分ながらもなんとかデフレでない状況にはなっており、物価は安定しています。現在は、「インフレも失業も無い、経済状況」にあります。この状況をわざわざ意図的に崩す必要性など全くありません。

さらに、日銀が国債を市場から購入しているので、財政再建までできています。現在の日本は、政府に日銀まで含めた統合政府ベースではすでに、昨年の段階で財政再建は終了し、現状では黒字状況です。

さらに、インフレ率が上がらないというのなら市場から日銀が国債をすべて購入すれば良いだけの話です。そうなると国債暴落は完全になくなるというか、暴落のしょうがないです。

それでもインフレ率が上がらないというのなら、先日もこのブログで掲載したように、新たなに国債を発行すれば良いのです。特に耐震や震災の復興のために、大量の長期国債を発行するというのなら、立派な大義名分が立ちます。

インフレ目標とは、下限はデフレを放置しないために、上限は失業率を下げたいがあまり金融緩和をやりすぎて必要以上にインフレ率を高くしすぎないようにするための指標です。この理解ができていないと、ブルームバーグのようにとんでもない記事を書くはめになってしまいます。これは、ほとんどのマスコミにいえることです。

雇用が確保されていながらインフレ率が上がらない状態は、全く問題はありません。これが理解できない人は、経済に関する基本ができていないと思います。これはインフレ目標の理解度チェックとして非常に良い設問だと思います。

皆さんも、チェックしてみて下さい。周りの人もチエックしてみて、わからない人がいたら、教えてあげて下さい。そうして、理解のためには、難しいマクロ経済の教科書などを隅から隅まで読む必要などありません。上の記事にもあった、マクロ政策・フィリップス曲線を理解すれば、それで十分です。残念ながら、マスコミや、渡辺努氏はこれを理解していないようです。

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