ケイザイを読み解く野口旭
『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学』表紙 写真はブログ管理人挿入 以下同じ |
経済論壇の一部ではいま、本年の4月に出版された『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学』(ブレイディみかこ・松尾匡・北田暁大、亜紀書房)が話題になっているようである。
ただし、ネット上の書評などをぱらぱらと見てみると、その受け取られ方は必ずしも好意的なものばかりではない。むしろ、この本に関する書評や論評に関して言えば、長々と書き連ねているものほど辛辣な内容で埋め尽くされていることが多い。そして、そうした執拗な批判の書き手は、明らかに右派ではなくて左派である。
同書がこのように、左派的な読者の一部から強い反発を受けている理由は明白である。それは要するに、同書が、左派的な人々が蛇蝎のように嫌っている現在の安部政権の経済政策すなわちアベノミクスを、「金融緩和プラス拡張財政」というその骨格的な部分において肯定しているからである。
松尾匡氏 |
もちろん、同書の3人の著者はいずれも左派を自認する論者であるから、アベノミクスの一部を是認してはいても、安部政権そのものを支持しているわけではない。というよりも、少なくともその政治的なスタンスとしては、この3人の論者は明らかに「アベ政治を許さない」と叫んでいる側に近い。
にもかかわらず本書が反安倍を掲げる左派から目の敵にされているのは、「じゃぶじゃぶの金融緩和で株価を引き上げただけ」、「悪性インフレやハイパーインフレの種を撒いた」、「財政バラマキによる将来世代へのツケ回し」、「財政規律を失わせて財政破綻を招き寄せている」といった、これまでの左派による定番のアベノミクス批判が的外れであることを指摘し、それらを容赦なく切り捨ていているからである。
さらには、アベノミクスが発動されて以降、経済状況とりわけ人々の生活に直結する雇用状況が民主党政権以前と比べて明確に改善しているという、左派の人々にとっては受け入れ難い事実を事実として指摘し、安部政権への特に若い世代から高い支持がこうした雇用改善に基づくものであることを冷静に分析しているからである。
アベノミクスの把握と評価をめぐるこうした左派における「分断」は、現在の世界経済を貫く経済政策上の基本的な対抗軸が、もはや政治イデオロギーにおける右や左ではなく、「緊縮vs反緊縮」であることを示唆している。同書の著者たちはもちろん、人々にいま必要とされているのは反緊縮政策であること、そして左派こそがその反緊縮の中核を担うべきことを主張する。
しかしながら、アベノミクスに対する左派からの反応の多くは、上の定番的批判が示すように、要するに「緊縮の側からのアベノミクス批判」の左派的形態にすぎない。同書はその問題性を、あえて左派の内部から提起しているのである。
緊縮から反緊縮へ
マクロ経済政策における反緊縮とは、「赤字財政を可能な限り許容しつつ金融緩和を進めること」と定義できるであろう。要するに「金融緩和プラス拡張財政」である。ただし、不況期には財政赤字を許容すべきという赤字財政主義それ自体は、ケインズ主義の伝統的な政策指針であり、目新しい点はまったくない。近年における反緊縮主義が旧来の赤字財政主義と異なるのは、その赤字財政が必ず金融緩和とセットになっているという点にある。この「金融緩和に裏付けられた赤字財政」というマクロ経済政策のあり方が「反緊縮」と呼ばれているのは、それがとりもなおさず、2010年頃から世界的に浸透し始めた経済政策における緊縮(Austerity)へのアンチテーゼとして提起されていたからである。
2008年9月のリーマン・ショックを契機として「百年に一度の世界経済危機」が生じたとき、各国政策当局はまず、景気対策の定石通り、財政拡張政策と金融緩和政策によってそれに対応しようとした。そして、それらの政策によって、世界は少なくともかつての世界大恐慌のような経済的大惨事の再発を防ぐことには成功した。とはいえ、2009年頃の各国の経済収縮はきわめて深刻であり、多くの国が政府財政の急激な悪化に直面した。
そこに生じたのが、2010年5月のギリシャ・ショックであり、それに続く欧州債務危機であった。それを契機として、各国の財政スタンスは、拡張から緊縮へと、まさに急転回することになる。とりわけ、債務危機の震源である欧州では、各国に対して財政規律の確保を強く求めるドイツの主導の下で、厳格な財政引き締め、すなわち増税あるいは歳出削減が実行された。その結果、ギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの南欧の債務危機国では、経済が急激に縮小し、若年層の失業率が50%近くあるいはそれを超えるまでにいたった。
アメリカでは、ティーパーティーと呼ばれる草の根保守派が、政府財政赤字の拡大を問題視し、「アメリカ経済が低迷しているのは財政赤字のせいだ」といったプロパガンダを始めた。そして、それに後押しされた共和党が、政府債務の上限引き上げ拒否という議会戦術に打って出た。それはその後、強制歳出削減に伴う「財政の崖」と呼ばれる一大騒動をもたらした。
その状況は日本でも同様であった。2009年9月に発足した民主党政権は、少なくともその政権獲得当初は「消費税増税は当面は行わない」ことを明言していた。しかし、2010年春にギリシャ・ショックが生じて以降は、消費税増税問題が与野党を巻き込む最大の政策的争点となった。未だに喉に刺さったトゲのごとく日本経済に痛みを与え続けている、民主党・野田佳彦政権下の2012年夏に成立した「消費税引き上げの三党合意」は、その帰結である。
反緊縮とは要するに、こうした形で世界的に推し進められていった財政緊縮への政策的アンチテーゼである。そこで金融政策の役割に改めて焦点が当てられるようになったのは、金融緩和は赤字財政主義を貫徹するためにも必要不可欠であることが、まさにこの財政危機から財政緊縮にいたる経緯の中で明らかになったためである。
金融政策は「財政の足かせ」を緩めるのに役立つ
そもそも、赤字財政主義は、それ自体としてはきわめて脆弱なのである。不況下には財政赤字を拡大すべきとはいっても、実際に赤字が拡大すれば「財政危機懸念」が生じるのは避けられないし、その懸念がやがては現実の危機に転じる可能性も否定はできない。それがまさに、多くの国が「不況下の緊縮財政」という最悪の選択を行うにいたった理由である。
しかし、金融政策は、そのような政策選択に追い込まれるのを避ける大きな手助けとなる。そこには少なくとも、以下の三つのチャネルがある。
第一は、中央銀行による国債購入を通じた国債市場の安定化である。中央銀行が行う金融緩和とは、一般的には国債等の資産を購入して自国通貨を供給することである。不況期には通常、税収の減少や景気対策のための財政支出によって政府財政が悪化し、国債の発行が増加する。それは時には、国債市場の攪乱要因となり、国債の価格下落と金利上昇をもたらす。しかし、中央銀行が不況期に国債購入を通じた金融緩和を行えば、国債金利は低位に保たれ、市場の攪乱は自ずと抑制される。
第二は、中央銀行の国債保有拡大による政府の国債利払い費の縮小である。政府が国債を発行して財政赤字を賄えば、当然ながら民間の国債保有者に対して金利を支払い続けなければならない。しかしながら、その国債を中央銀行が民間から買い入れた場合には、政府はその分の金利支払いを免れることができる。というのは、政府が中央銀行に支払った国債保有分の金利は、国庫納付金などとして再び政府に戻ってくるからである。したがって、中央銀行が国債保有を拡大すればするほど、政府の国債利払い費は縮小する。債務とは金利を支払ってこそ債務なのであるから、中央銀行が保有している国債に関しては、政府債務が事実上存在しないに等しい。これがいわゆる通貨発行益(シニョレッジ)である。
そして第三は、金融緩和を通じた景気回復による財政の改善である。金融緩和は一般に、金利や為替の低下を通じて雇用、所得、そして企業収益を改善させる。税収は基本的に所得や企業収益に依存するものであるから、その所得と企業収益の改善は、自ずと不況によって減少していた税収の改善に結びつく。
つまり、金融政策が自由度を持つということは、「政府の財政収支制約」を一時的にせよ大きく緩和できることを意味する。ギリシャをはじめとする欧州各国に債務危機が発生したのは、まさしく統一通貨ユーロという「足かせ」に縛られて自国のための独自の金融政策が実行できなかったためである。仮にこれら欧州の債務危機国がユーロには加入せずにそれぞれの通貨を保持していたならば、債務危機を当初から免れていた可能性は十分ある。
財務省出身の政治家であり、政権交替直後の民主党・鳩山由起夫政権で財務大臣を務めた藤井裕久は、2016年8月14日付けの日本経済新聞(電子版)インタビューで、「カネをばらまくだけ」のアベノミクスはいずれ破綻すると述べたのちに、以下のように発言している。
藤井裕久 |
黒田(東彦日銀総裁)も(金融政策の限界を)分かっていると言わざるを得ない。これは、書いたっていいや。大蔵省に本当の幹部達の集まりがある、あるんだよ。僕は、黒田にこう言った。「君、分かっているじゃないか。財政を健全にしろと良いことを言ってくれている。だけど、君、ばらまいていたら、健全化にはならないんだよ。だって、(間接的に)国債買うんだろと。健全になるわけないんだよ」と、ひとつ言いました。
この藤井の発言は、その意図はどうであれ、「金融政策は財政制約の緩和に役立つ」という重要な真理を含んでいる。ただ、反緊縮の側がそれを肯定的に捉えるのに対して、典型的な緊縮論者である藤井は、それをアプリオリに悪と考えているわけである。
緊縮を打ち負かしたオルト・ライト・ケインズ主義
上掲『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』では、欧州で拡大しつつある反緊縮に向けた政治潮流の現状がつぶさに紹介されている。そこで興味深いのは、反緊縮の担い手は必ずしも左派とは限らないという事実である。実例として挙げられているは、2010年に成立したハンガリーのオルバーン政権である。その経済政策である「オルバノミクス」は、金融緩和と財政支出の組み合わせであり、まさしく反緊縮そのものである。しかしながら、この政権それ自体は、民族主義的かつ復古主義的な特質を持つ、まごうことなき右派であった。
ハンガリーのオルバーン・ビクトル首相 |
同様のことはおそらく、アメリカのトランプ政権に関しても言える。筆者は以前のコラム「オルト・ライト・ケインズ主義の特質と問題点」(2017年02月28日付)において、トランプ政権の経済観は、旧来の保守派の経済観、すなわちティーパーティーも含む共和党主流派が奉じてきた「小さな政府」を標榜する新自由主義におけるそれとは対極的であり、本質としてはむしろケインズ主義の方に近いことを指摘し、それを「オルト・ライト・ケインズ主義」と名付けた。実際、トランプが大統領選挙時から一貫して訴え続けてきた「減税や公共投資といった財政政策を用いてアメリカの労働者の雇用を増加させる」という政策手法は、アメリカの保守派が葬り去ろうとしてきた旧来のケインズ主義そのものであった。
トランプが打ち出したこの拡張財政政策に対する専門家からの反応は、当初はきわめて冷笑的なものであった。専門家の多くは、「リーマン・ショックの直後に行うならともかく、アメリカ経済がほぼ完全雇用に近づいた今になって行う拡張財政政策は、恩恵よりもむしろ景気過熱と高インフレをもたらす可能性が高い」と考えたのである。
ところが結果として見れば、正しかったのは彼ら専門家ではなく、トランプの方であった。というのは、2018年第2四半期の経済成長率が4%を超えたことが示すように、トランプ政権が2017年末に行った減税政策は、人々に明らかな恩恵をもたらしているからである。他方で、それによってアメリカ経済が過熱したとかインフレが加速したという徴候はほとんど見られていない。トランプ政権がその粗暴な政策運営に対する内外からの数多くの批判にもかかわらず、国内では依然として一定の支持基盤を確保しているのは、こうした経済面での実績によるところが大きい。
「世界的貯蓄過剰2.0」の世界にどう対応するのか
これまでのところ、その担い手が右派か左派かにはかかわらず、人々に苦難を強いてきたのはほぼ常に緊縮であり、人々の救いとなってきたのは反緊縮であった。しかしながら、これはあくまでも反緊縮側の見方である。緊縮の側からすれば、そのような評価はまったく受け入れ難いものであろう。というのは、「緊縮は確かに苦しいが、財政破綻やハイパーインフレといった将来における惨禍を防ぐためには現在の緊縮を甘受するしかない」というのが、藤井裕久元財務大臣に代表される緊縮論者たちの強固な信念だからである。
緊縮論者のこうした考え方は、確かに一定の歴史的な根拠を持っている。多くの国がこれまで財政破綻や悪性の高インフレに見舞われてきたが、その背後にはほぼ常に、放漫な財政政策や過度な金融緩和政策があった。
1960年代末から始まったアメリカの高インフレや、1970年代初頭の日本の「狂乱物価」が示すように、金融緩和や財政拡張の行き過ぎによる経済的混乱は、少なくとも1980年代前半までは、先進諸国においても決して珍しいものではなかった。つまり、その時代には確かに「財政と金融の健全な運営」がマクロ経済政策における正しい指針だったのである。
ところが、近年の世界経済においては、状況はまったく異なる。「景気過熱による高インフレ」なるものは、少なくとも先進諸国の間では、1990年代以降はほぼ存在していない。リマーン・ショック以降は逆に、日本のようなデフレにはならないにしても、多くの国が「低すぎるインフレ率」に悩まされるようになった。また、異例の金融緩和を実行しても景気が過熱する徴候はまったく現れず、逆に早まった財政緊縮は必ず深刻な経済低迷というしっぺ返しをもたらした。世界経済にはこの間、いったい何が起こったのであろうか。
一つの仮説は、筆者が秘かに「世界的貯蓄過剰2.0」と名付けているものである。世界的貯蓄過剰仮説とは、FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提起したものである。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘した。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのである。
各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味する。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのである。
このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しない。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためである。
この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近い。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくい。というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができない。ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうからである。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由なのである。
野口旭氏プロフィール
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)等、著書多数。
【私の論評】日本の左派・左翼は韓国で枝野経済理論が実行され大失敗した現実を真摯に受け止めよ(゚д゚)!
ブログ冒頭の野口旭氏の記事にもある通り、アベノミクスに対する左派からの反応の多くは、要するに「緊縮の側からのアベノミクス批判」の左派的形態に過ぎないものです。
昨年野党第一党となった、立憲民主党の枝野幸男代表も結局のところ、経済理論はアベノミクスに反対すると言っているに過ぎないようずて。実際枝野氏は、安倍晋三政権に対抗するとして、経済政策を訴えています。
枝野氏は、安倍政権政権のキャッチフレーズ「成長なくして分配なし」を逆転させ、低所得者層への再分配を主張し、法人税率の引き上げにも言及しています。果たして実効性はどこまであるのでしょうか。
枝野氏 |
枝野氏は、安倍政権政権のキャッチフレーズ「成長なくして分配なし」を逆転させ、低所得者層への再分配を主張し、法人税率の引き上げにも言及しています。果たして実効性はどこまであるのでしょうか。
「日本の中だけ見ると、バブルが崩壊してから(景気は)悪くなっている。社会は下から支えて押し上げる。消費不況を脱出するには、底上げを図らないといけない」
枝野氏は昨年12月13日、文化放送のラジオ番組に生出演し、低所得者層の賃上げに取り組む考えを示しました。
枝野氏は12日のロイター通信のインタビューでも、「分配なくして成長なし。内需の拡大のためには適正な分配が先行しなければならない」といい、次のように主張しました。
「(自民党の)所得税の改革は、本当の富裕層の増税にならず、中間層の増税になっている。何より、企業の内部留保を吐き出させなければだめ。単純に法人税を大幅に増税すればいい」
この野党第1党のリーダーが説く経済政策は有効なのでしょうか。
これは、残念ながら経済の仕組みをまるで分かっていないとしか言いようがないです。成長があって分配できるのであって、『初めに分配ありき』などということはありえないです。経済が成長しないのに分配をすれば、雇用が激減するか、被用者一人あたりの賃金を減らすしか方法はありません。
法人税率引き上げ案も、それを実行したとしても企業に内部留保を吐き出させること直結することにはならないです。そもそも、企業の内部留保は現金のように、すぐに出せる形で積み上がっているわけではありません。
そもそも、欧米やアジア諸国が法人税の増税に慎重ななかで、日本だけが引き上げれば、国際競争では不利になります。現時点で単純な企業いじめをしても得られるところは何もないです。
さて、このように私ごときが、枝野氏の経済政策を批判したとしても、説得力はないかもしれません、激しく批判すれば、左派や左翼の方々からは、ネトウヨなどと謗られるだに終わるかもしれません。
ところが、枝野氏の主張するような経済政策は韓国ですでに実施されて、その結果は大失敗です。私は、もし私の主張が左派や左翼の方々に反対されたとしたら、以下のことを反証としてあげたいと思います。
ご存知のとおり、韓国の文在寅政権はかなりリベラル寄りの政権で、経済政策を財閥優遇から、労働者に直接恩恵をもたらす政策に舵を切りました。目玉は次の3つです。
さて、このように私ごときが、枝野氏の経済政策を批判したとしても、説得力はないかもしれません、激しく批判すれば、左派や左翼の方々からは、ネトウヨなどと謗られるだに終わるかもしれません。
ところが、枝野氏の主張するような経済政策は韓国ですでに実施されて、その結果は大失敗です。私は、もし私の主張が左派や左翼の方々に反対されたとしたら、以下のことを反証としてあげたいと思います。
ご存知のとおり、韓国の文在寅政権はかなりリベラル寄りの政権で、経済政策を財閥優遇から、労働者に直接恩恵をもたらす政策に舵を切りました。目玉は次の3つです。
1)福祉・雇用に財政支出を傾斜配分(2018年度予算15兆ウォンのうち4割程度を配分)
2)公務員数の増加(5年で81万人の雇用増が目標)
3)最低賃金の引き上げ(2020年までに1万ウォンまで引き上げる)
韓国の1~3月期の実質国内総生産(GDP)は前期比1.0%増加していますが、内容は半導体関連の輸出とそれに伴う設備投資のみに頼った形であり、国内消費は低調なままで、総じてよくない状態です。
韓国では、不況期の景気下支えを主に公共投資によって行ってきましたが、文政権ではこれを一気に削減し、雇用・福祉関連支出への配分が大幅に拡大されました。
またそれまでは概ね7%程度の増加であった最低賃金を、2018年には前年比+16.4%の大幅に引き上げ、今後も目標である1万ウォンを目指して同程度の引き上げが予想されます。また同時に法人税の22%から25%への引き上げや、週労働時間の短縮の要請も行っています。
またそれまでは概ね7%程度の増加であった最低賃金を、2018年には前年比+16.4%の大幅に引き上げ、今後も目標である1万ウォンを目指して同程度の引き上げが予想されます。また同時に法人税の22%から25%への引き上げや、週労働時間の短縮の要請も行っています。
その結果、どうなったでしょうか。韓国の今年3月の完全失業率は4.0%と上昇し、雇用環境は悪化しています。ちなみに、4%という失業率は韓国でも、リーマンショック後に1回あっただけという悪さです。
特に、15歳から29歳までの若年失業率は9.7%にも上っています。人件費の上昇により、企業が採用を抑制し始めたのです。
特に、15歳から29歳までの若年失業率は9.7%にも上っています。人件費の上昇により、企業が採用を抑制し始めたのです。
韓国の中央銀行(Bank of Korea)は、昨年11月に利上げを行い(1.25%→1.50%)、金融政策は緊縮気味です。その結果、韓国の通貨ウォンは、対ドルで5%強も上昇しました。
韓国は輸出主導の経済構造です。輸出依存度はGDP比で55%弱であり(日本は15%弱)、通貨高は経済に直接悪影響を与えます。
緊縮気味の金融政策は、先に述べた雇用・福祉重視政策と相まり、財閥企業の海外移転(国内空洞化)を促しており、雇用環境は、今後、ますます悪化することが予想されます。
枝野経済理論を韓国で実行した文在寅韓国大統領 |
文政権と日本の左翼政党・メディアと共通しているのが、理念先行で、実際の経済の波及経路や効果などの検証がほとんどないということです。また、マクロ経済をどうやら、ミクロ的な視点でのみ語り、「労働者の利益を上げるためには企業から奪ってくるしかない」という視野狭窄を起こしています。
マクロ経済は、「特にデフレや不況に陥っているときは、まずは積極財政と、金融緩和でまずは全体のパイ(GDP)を増やしてから、次に分配(企業、労働者、政府)を考える」というのが基本ですが、個々のプレイヤーの分配のみを考えているので、結果的に全体のパイが縮小するという愚を犯しているのです。
枝野理論は、韓国で似たような政策が実行されて、大失敗しました。これについては、日本の報道機関は、韓国で雇用や経済が悪くなったことを伝えるばかりで、韓国の文在寅による経済政策が、枝野理論と同じく、金融緩和抜きで分配を強化したにもかかわらず、結局雇用が激減して大失敗したということは報道しません。
一方で、安倍政権の経済政策「アベノミクス」や、先の衆院選で掲げた、2019年10月の消費税率10%引き上げはどうかといえば、教育や防衛の予算など『未来への投資』が十分でなく、国民は不安を感じています。
増税に関しては、過去には増税に反対した野党も存在はしましたが、それは残念ながら、経済を理解しているというよりは、選挙対策のために反対したというに過ぎないものばかりでした。まともな経済理論にのつとった上で、増税に反対したことはありませんでした。
今後、安倍政権は増税などせずに、アベノミクスをさらに加速すべきです。消費税率10%引き上げは消費意欲をさらに減退させるだけです。『緊縮政策は政権を短命にする』というのが世界の潮流です。撤回すべきです。
野党をはじめとする、左派や左翼の方々は、枝野氏の経済理論が、韓国で現実に実行され、大失敗しているという現実を真摯に受け止めるべきです。
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