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2020年7月5日日曜日

迫る濁流、必死の避難 川には巨大石「ただごとではない」―【私の論評】コロナ禍の他、自然災害対策でも、財務省抜きの政府日銀連合軍で様々な対策を実行せよ(゚д゚)!

迫る濁流、必死の避難 川には巨大石「ただごとではない」



    闇の中、荒れ狂う川からあふれ出した濁流が静かな日常をのみ込んだ。3日から4日にかけて、熊本県南部で大きな被害をもたらした豪雨。住宅街には泥水や土砂が流れ込み、電気などのライフラインも一部断たれた。住民らは恐怖や不安に押しつぶされそうになりながら、力を合わせて懸命に避難した。

    球磨川の雨量は、3日深夜から4日未明にかけて急増。県内の広範囲で氾濫した。

    川沿いにある球磨村の集落は、波立つ濁流にのみ込まれた。14人が心肺停止で見つかった特別養護老人ホーム「千寿園(せんじゅえん)」では、ヘリコプターを使って救助活動が行われた。

    隣接する八代(やつしろ)市では、坂本町で複数の住民が孤立。祖父母らと4人で暮らす専門学校生、松村拓海さん(20)は4日早朝、家族全員で自宅2階に「垂直避難」し、難を逃れたが、濁流は階段の途中にまで迫ってきたといい、「死ぬかと思った」と振り返った。

    近くの橋が流された商店店主の男性(83)は「夜中に停電し、妻と自宅2階に逃げた。朝になると(1階の)商品は泥まみれで水浸しだった」という。「何もかも泥だらけ。何から手をつけたらいいのか」と言葉を失った。

    同市海士江(あまがえ)町の自営業男性(50)は高齢の両親と妹とともに車に乗り、近くの商業施設の立体駐車場に逃げた。「父親は介護が必要で体も弱く、新型コロナウイルスも怖いので避難所には行けなかった」と声を震わせた。

    球磨川でのラフティングツアーを開催するラフティングストーンズ(人吉市)の大石権太郎代表(50)は市の要請で、浸水した市街地にボートを出した。屋根に取り残された被災者らを救出。「こんな時だからこそ協力しようと思った。ほかのラフティング会社の多くはボートが流されたようだ」と話した。

     芦北(あしきた)町では、旅行業を営む佐藤圭吾さん(62)の自宅兼事務所の1階部分が水浸しになった。

    「午前3時ごろに(大雨の)緊急メールを受けたときは、まだ大丈夫だろうと思っていた」というが、4日明け方には周辺は冠水。近くの知り合いと同じボートに乗り、1人暮らしのお年寄りらの救出に向かった。

    「雨が上がって周辺の水は引いたが、電気や水道は使えず通信障害も起きている」と佐藤さん。「自宅の片づけもしないといけない」とこぼした。

     同町田川地区では大規模な土砂崩れが発生。民家が流失し、複数人と連絡が取れていない。現場では地域住民らが、不安そうな様子で捜索を見守った。

     土砂崩れで心肺停止状態の住民が見つかった津奈木(つなぎ)町では、自営業女性(60)が4日未明、自宅に隣接する川で巨大な岩が流されるのを目撃。「ただごとではない」と直感した。

    自宅は周囲より少し高い場所にあるため、被災は免れた。女性は「避難所に向かう高齢者が『新型コロナが怖い』と話していた。雨は上がったが気は抜けない」と語った。

【私の論評】コロナ禍の他、自然災害対策でも、財務省抜きの政府日銀連合軍で様々な対策を実行せよ(゚д゚)!

下の写真は、球磨川上流の支流・川辺川の、ダムで水没する予定だった地域です。ダム建設は反対運動で中止されました。これが水の中に埋もれるのはとても惜しいです。しかし、今日のような洪水の被害は本当に恐ろしいです。美しい景観を守るためなら、洪水の犠牲はやむを得ないのでしょうか。皆さんは、どう思われますか。


民主党政権は八ッ場ダムと川辺川ダムの建設中止を掲げ、思考停止したマスメディアはこれに一斉に同調し、両ダムの建設を悪魔化しました。八ッ場ダムは何とか建設されて昨年の豪雨で機能しましたが、球磨川上流の川辺川ダムは中止のまま。セキュリティホールが突かれた形になりました。

降水量の空間分布を見ると川辺川ダムの集水域に豪雨が集中しています。「コンクリートより人」の美辞麗句は災害のリスク対応には無力です。また、素人が声高に叫ぶ「森林の保水力」も豪雨の前には無力であることが、当該地域で実施された国交省の調査によって立証されています。



これについては、さらに詳しく分析している方がいらっしゃいました。その方のブログの記事のリンクを以下に掲載します。
川辺ダムがあったら球磨川は氾濫しなかったか?
事前に貯水率3割程度に減らしておけば、人吉市内※7/5コメント追記の球磨川の防げるだろう。 
去年の台風19号の時に「台風19号で八ッ場ダムが普通に稼働していたとして役に立ったか?」で計算してみたが、この時は理論上は役に立つという結果だったが、今回は実用でも役に立つだろう結果だった。 
今回の被害額は知りませんが、費用対効果もダムを作る時の判断に加えるべきことを最後に書いておきます。 
※2020/7/5追記 人吉水位観測所での氾濫が抑えられることが想定されるのであって、それより下流や上流で堤防が低い箇所では発生した可能性あり。
この分析、私は大学生のときに、あるシンクタンクで、都市計画の積算業務のアルバイトをした経験があるので、その内容は理解できました。
2008年12月20日 朝日新聞夕刊より転載
「川辺川・大戸川ダム事業休止 財務省原案で事業費カット」(朝日新聞) 
 20日に各省庁に内示された09年度政府予算の財務省原案で、流域の知事らが反対を表明している国土交通省の大戸川(だいどがわ)ダム(滋賀県)、川辺川(かわべがわ)ダム(熊本県)両計画はいずれもダム本体の建設を前提とした事業費が一切盛り込まれず、同年度の事業は休止することになった。今後、知事らの反対姿勢が覆らない限り予算措置されない見込みで、両計画は中止となる公算が大きくなった。
 
 国土交通省は大戸川ダムで10億円、川辺川ダムで34億円を概算要求していた。財務省原案では、水没予定地の住民に対する生活再建費や現地の工事事務所の維持費、継続的なデータ収集が必要な水位・流量観測費、道路の保全費のみ認められた。 
 大戸川は5億円で主に工事事務所の維持・管理費。川辺川は21億円で、事務所費のほか、水没予定地住民の移転先などへの付け替え道路の整備費などの生活再建費となっている。国交省と地元の協議が整えば執行に移る。ダム湖予定地を挟んで分かれた移転先を結ぶ付け替え道路などに関する費用は、事業の中止が正式に決まればダム予算そのものがなくなるため、別途、補助事業とするなどの手当てが必要になる。
 
 両計画とも、概算要求にはダム建設を前提に環境調査費や地質調査費などが盛り込まれていた。しかし、「知事らが明確に反対を表明している中、事業を強行できないのは明らかで、着工を前提とした予算は認められない」(財務省)と判断され、建設につながる部分はすべて削られた。 
 国交省の担当幹部は「現時点で先がどうなるかわからないダム本体の建設にかかわる部分は、認められなくても仕方がない。この先の県側との協議の行方や知事意見の正式表明の中身次第で今後の着工の是非を判断することになる」としている。 
 大戸川ダム建設は11月に大阪、京都、滋賀、三重の4府県知事が共同意見として反対を表明した。年内にも正式な知事意見が出される見込み。
 
 川辺川ダムは熊本県の球磨川水系に計画。前知事の任期満了に伴う3月の知事選で「是非を半年で判断する」と公約した蒲島郁夫知事が9月に反対を表明していた。 
 知事らの反対は環境への負荷や財政負担の大きさなどを理由とするもので、地元知事の反対表明をきっかけに、ダム計画が大詰めを迎えた段階で事業が休止となるのは初めて。国交省は今後、どの段階で正式に中止とするのか判断を迫られる。その場合、ダムなしでの新たな治水対策という課題も浮上する。(松川敦志)
当時は、民主党政権でしたが、民主党はいわゆる政権交代選挙の時に、「コンクリートから人へ」などを標語としたいくつかの公約を掲げ、選挙に大勝して政権与党となりました。

元々緊縮財政大好きな、財務省はこの標語通り、喜び勇んで緊縮財政路線を実行しました。民主党と当時の野党谷垣総裁率いる自民党の協力の下で、消費減税増税に道筋をつけました。自民党巨大なダムや堤防のプロジェクトは、予算をつけずに、廃止に追い込みました。その他の公共工事も、予算を削減したので、多くの施設が放置されることになりました。さらに、防衛費も教育費も削減しました。

そのため、今日あらゆる施設が老朽化しています。格好の事例は、首都高です。首都高は前回の東京オリンピックを目指して設置されましたが、その後目だった改修もされずに、老朽化しています。

当時は、民主党が政権与党でしたが、その当時の野党も似たり寄ったりでした。今日その痕跡をサイトの記事で見ることができます。その記事のリンクを以下に掲載します。
【02.12.11】川辺川ダムに予算をつけるな、計画を中止せよ!
今日、日本国中で洪水などの自然災害の被害が起こっていますが、私は、この原因は温暖化や、気象変動だけが原因ではなく、財務省の緊縮にも原因があると思います。

昨年千葉で災害の後で、かなり間停電が続いたのは、結局のところ緊縮財政も大きな原因の一つだけだとされています。長い間電柱が放置されていたため、老朽化して、強風で多くの電柱がなぎ倒されたというのです。

痛ましい犠牲の球磨川大洪水とは、対照的に昨年の関東大水害で八ツ場ダムが下流域を守るため威力を発揮しました。感情論でなく本当に建設中止が原因だったのか徹底検証すべきです。スーパーコンピューター富岳を用いて、今回の線条降水帯の雨量等全てのデータを解析して、ダムが建設されていた場合と現状の比較計算すべきです。未来の世代の為に是非実施していただきたいと思います。

ただし、いくらスーパーコンピュータを用いて、解析をしたとしても、財務省が緊縮をしていては、どうしようもありません。

日本緊縮教団教祖? 岡本氏

コロナ禍と、昨年の消費税増税で景気はかなり落ち込んでいます。このような時には、積極財政をすべきなのです。

財源は国債を刷れば良いのです。そうして、日銀が国債を買い取れば良いです。現在デフレ気味なのですから、なおさらこれを実行すべきなのです。これを将来世代に負担になるという意見の人が、ジャーナリストや、いわゆる識者と言われる人々も中にもいますが、これは全くの出鱈目です。日銀買取国債について利払費は納付金で政府に戻り、元金も日銀引受できるので元利償還負担などありません。

この制度を知らないまま発言すると恥かくだけです。ただ、財務省も多くの政治家もそうなのですが、恥をかいているという認識も無いようなので、本当に困ってしまいます。こういう嘘がまことしやかに出てきて、コロナ禍対策が難航するのを見越して政府と日銀は財務省を外して連合軍を作ったことは以前のこのブログでも述べました。

コロナ禍の他、自然災害対策も、財務省を加えず、政府日銀連合軍で、様々な対策を実施していただきたいです。そうして、これによって、日本でもまともな財政政策ができるように道ずけをしていただきたいものです。

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2020年6月27日土曜日

【日本の解き方】秋の3次補正と衆院解散観測 経済対策の柱は消費税の減税…予備費10兆円活用で対応可能 — 【私の論評】安倍総理は、先進国定番の大規模な財政出動・無制限の金融緩和政策を実行し、再び強運を引き寄せろ!(◎_◎;)

【日本の解き方】秋の3次補正と衆院解散観測 経済対策の柱は消費税の減税…予備費10兆円活用で対応可能 


自民党の甘利税調会長

 自民党の甘利明税調会長がロイターとのインタビューで、「新型コロナウイルスからの復興に向けて、秋に本格経済対策を打つ予定」だと発言した。対策発表後には「安倍晋三首相が、衆院解散を行う可能性はゼロではない」とも指摘している。

 衆院議員の任期は来年10月までだ。今年10月で丸3年となるが、これまでの歴史では、任期途中で衆院が解散されることが多く、平均任期は3年弱となっている。

 今回は新型コロナウイルスの感染拡大で、東京五輪・パラリンピックが1年延期された。ということは、来年には、それに関連した各種イベントがめじろ押しになることが予想され、解散総選挙どころでなくなるかもしれない。

 逆に各種イベントがないこの夏の政治スケジュールは空いており、コロナ禍によって海外への渡航も制限されている。そこで政治家同士の国内会合があると、話題は総選挙の話題になり、これまでの経緯から「4年目はないだろう」となる。

 しかも、4月と5月の経済状況は、緊急事態宣言による各種の自粛活動もあってひどいものだ。それらが解除された6月以降、経済活動はやや持ち直しがあるが、それでも平年並みに戻るまで3カ月から半年を要するだろう。2回の補正予算により、50兆円程度の有効需要は創出されたが、国内総生産(GDP)の落ち込みをカバーするにはまだ力不足で、3次補正が必要だ。

 そこで、任期3年目が終わる10月までに補正予算のための臨時国会の招集、そこでの衆院解散というストーリーは自然に出てくるわけだ。

 ポイントは消費税減税だ。全国民への10万円の特別定額給付金は、地方事務として行ったこともあってあまりに手間がかかり予想通り日数を費やした。麻生太郎政権時代に実施した経験から、時間がかかることを見越した上で、2回目の給付金を阻止するという陰謀でもあったのかと邪推しそうになるほどだった。だから、筆者は海外の標準策である政府小切手の送付を主張した。

 それに比べれば、消費税減税や社会保険料減免は、効果がすぐ出る政策だ。

 甘利氏は別のインタビューで、消費減税について、財政に与える影響が大きいとして強く否定している。

 ただし、2次補正で予備費が10兆円あり、あと3兆円の追加補正をすれば、1年間の時限措置として消費税5%分の減税の財源確保ができ、甘利氏の懸念はなくなる。

 緊縮財政のドイツですら消費減税をやろうとしている。日銀の金融緩和政策との合わせ技なら、財政問題が生じない。

 今回のコロナ・ショックは、生産の落ち込みもあるが、それを上回る需要の落ち込み、特に消費需要の消滅の影響が大きい。これを喚起するには、消費減税が政策として望ましい。

 経済対策といいながら、消費減税を外すのは、まさに画竜点睛(てんせい)を欠くというものだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】安倍総理は、先進国定番の大規模な財政出動・無制限の金融緩和政策を実行し、再び強運を引き寄せろ!(◎_◎;)


今年の3月、昨年10月の消費増税の影響を受けた10~12月期のGDPが前期比7.1%減(年率換算)という衝撃的な経済統計が発表されました。しかし、コロナショックの影響が含まれた今年1~3月期は前期比3.4%減(同)、4~6月期も前期比25%減程度(同)というすさまじい数字が出るでしょう。このGDPを取り戻すには、総額で50~100兆円の真水が必要になります。

第2次補正予算では、25兆円の真水を出すべきだったのです。そうして最低ラインの50兆円になりました。2回目の10万円給付、家賃減免や雇用調整金の増額など、実施すべきことはいくらでもあります。

労働者の休業手当を助成する雇用調整助成金は、事業主が毎月支払っている雇用保険料の一部が原資です。民間保険なら〝万が一〟のとき、だいたい1週間以内で保険金を受け取れるはずです。

ところが、雇用調整助成金は申請が通るまでに1カ月以上もかかってしまうのです。実際4月下旬で2~4月に申請された案件の1%しか認可されていないとのことです。

雇用調整助成金について説明する厚生労働省のHP

これでは全く〝保険〟ではないではありませんか。事業主はいったい、何のために雇用保険料を支払ってきたのでしょうか。それは、今回のような万が一のためです。その万が一がいまやってきたのです。官僚は自らの天下り先に潤沢な資金を使ってきたはずなのに、天下り先の事業者も含まれるであろう、事業主に対してここでケチるなど全くもって信じられないことです。

財務省は、何のために省益を追及するかといえば、高級官僚が天下り先で、超リッチなセレブライフを謳歌するためのものであったはずです。無論私は、これが正しいことだと言っているわけではありません。

財務省の立場に立ったとしても、財務省はその省益すら忘れて、ひたすら緊縮に走るようになってしまったのかと思ってしまいました。だとしたら恐ろしいです。本来の自分たちの目的も忘れ、ひたすら緊縮に走ることが善であるという、宗教団体にでもなってしまったのでしょうか。

この未曾有の緊急事態のど真ん中で、国際情勢や国内情勢にも無頓着な財務省の盲目的な緊縮イデオロギーこそ〝日本の敵〟であることがはっきりしたと思います。その最中に、専門家チームに経済の専門家4人が加わりました。しかしメンバーの1人、小林慶一郎東京財団政策研究所研究主幹は筋金入りの増税派、財政破綻論者です。東日本大震災後のように、「復興税」が導入されるようなことがあれば、日本経済は終わりです。


これは、自民党の主導で第2次補正予算が検討されたので、財務省が〝緊縮牽制球〟を投げたのでしょう。西村康稔経済再生担当相はツイッターで、「(前略)任命に際し本人と何度も話しました。最近の氏の論文では、今は財政再建にこだわらず国債発行してでも厳しい状況にある人の支援を行うべきと、財政支出の重要性を主張しています。経産省の後輩でもあります」と投稿しましたが、大丈夫でしょうか。

財務省は復興税だけでなく〝2匹目のドジョウ〟を狙っている気さえします。緊急経済対策で財政支出を強いられるので、財政悪化を理由に復興税、その勢いで消費税も12%、15%へホップ・ステップ・ジャンプという具合に増税キャンペーンを始めるかもしれません。要注意です。

一方、日銀は4月27日の金融政策決定会合で、国債の買取について「年間80兆円」という上限の撤廃を決めました。無制限の国債買取は米国のFRB(連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)も実施していることです。しかし上限を撤廃ところで、これが現実的な財政出動に結びつかなければ意味がありません。

「無制限」というと聞こえは良いですが、日銀の年間国債買取額は2016年9月に長期(10年物)国債金利を0%程度で推移するように国債を買い入れるイールドカーブ・コントロールを導入してから、年間20兆円ベースに減っていました。これでは、白川方明前日銀総裁の頃と変わりません。〝黒田バズーカ〟は鳴りを潜め、黒田総裁の〝白川化〟してしまい「80兆円枠」は実績と乖離し、有名無実化していました。コロナショックを口実に撤廃しただけのことです。

わざわざ「無制限」といわなくても、20兆円ベースの現場では60兆円くらい国債を追加購入する余裕は十分ありました。25兆円の真水など造作もなくできたのです。これからは口だけでなく、実際にどれくらい購入するかが重要です。政府・日銀の連合軍をつくり、財政を気にしないでカネを刷れば良いのです。

これについてはこのブログでも何度が主張しましたが、政府が発行した国債を日銀が買い取れば、財政への負担はありません。利払い費が国庫納付金として政府に戻るくらいですから、財政負担など全くありません。

国債を日銀がいくらでも買い取るという仕組みはできました。政府と日銀は協調して、前例のない大規模な財政出動を行うべきです。思い切って「3年間消費税0%」というスローガンを打ち出せれば、国民も元気になると思います。

党派を超えて減税運動が起きていますが、消費減税は是が非でも実現させるべきです。「ゼロ」はムリなら、時限的に5%へ下げるべきです。社会保険料の免除もすぐに実行すべきです。「支払猶予」じゃなく、「免除」です。社会保険料はすべての国民が払っているのですから、止めるのも簡単です。なぜ実施しないのか、本当に不思議です。

今の状況を見ていると、ある意味で安倍首相は強運な政治家だと思います。昨年10月の消費増税に加えて、今春に予定されていた習近平の国賓招聘が実現していたらどうなっていたでしょうか。日本経済も復活させられず、安倍首相の肝煎で確立させた対米機軸外交も台無しになったでしょう。

保守層の総スカンを食らってオリンピック後、自民党内外の安倍おろしの圧力にあい惨めに首相の座を降りるだけだったでしょう。しかしここで、誤解を恐れずにいえば、安倍首相にはコロナショックという機会が巡ってきたのです。財務省との戦いに勝ち、大規模な経済対策を実施できれば、もう一度求心力を高めることができるはずです。

安倍首相には2度目の〝ちゃぶ台返し〟で、家賃補填、休業補償の拡充と消費減税を実現すべきです。ただ、安倍首相のまわりには緊縮イデオロギーに染まった人たちが囲っています。与野党問わず政治家は相変わらずですし、軽減税率という〝毒まんじゅう〟を喰らった新聞も、社会保険料の据え置きや法人減税というニンジンをぶら下げられた経済界も財務省の味方です。

それでも第1弾の緊急経済対策はギリギリ合格点であったように、大規模な財政出動・無制限の金融緩和という先進国の〝定番政策〟に近づいています。そして国民のマクロ経済政策への理解は、東日本大震災のときよりはるかに高まっています。これが日本経済復活への一縷の望みです。

安倍首相は、大規模な財政出動・無制限の金融緩和でふただび強運を引き寄せていただきたいです。そうすれば、また総裁選四選の目も出てくるかもしれません。



私自身は、安倍総理の政策を是々非々で見ており、安倍首相ファンというわけではないのですが、現行の安倍政権は、過去20年では、無論満足とはいかないまでも、最もパフォーマンスの良い政権だと思います。それにポスト安倍の顔ぶれを見ていると、いずれを見ても安心できないのです。特にマクロ経済と安保の両方に関してある程度は妥協したとしても、それでも安心して任せられると思える人材が見当たらないのです。

無論野党にも残念ながらそのような人材は見当たらないのです。本当に情けないです。安倍首相には、ポスト安倍を一度だけ実行していただき、次世代の首相にふさわしい人物を選ぶなり、育てるなどをしていただきポスト安倍の日本の安寧をより確かなものにしていただきたいのです。

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2020年2月23日日曜日

国民の生命は二の次!?中国に媚びを売る媚中派たち “甘すぎる”日本の新型コロナ対応 識者「韓国を歯ぎしりさせた「戦略的放置」を中国にも断行すべき」―【私の論評】安倍政権は、国民の声を聴き、特亜三国に「economic statecraft」を実行せよ(゚д゚)!

国民の生命は二の次!?中国に媚びを売る媚中派たち “甘すぎる”日本の新型コロナ対応 識者「韓国を歯ぎしりさせた「戦略的放置」を中国にも断行すべき」

安倍首相(右)は習主席との距離を置くべきだ

 中国発の新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。中国本土では22日朝時点で、感染者は7万6000人以上、死者は計2345人。日本国内でも、北海道と埼玉で子供の感染が発覚して、感染者は計743人(クルーズ船の634人を含む)となった。日本政府の初動対応の遅れが指摘されているが、背景には、恩を仇(あだ)で返す、中国への甘すぎる対応があったとの見方も根強い。国際投資アナリストの大原浩氏は緊急寄稿で、韓国を歯ぎしりさせた、日本の「戦略的放置」を中国にも断行すべきだと強調した。安倍晋三政権は、国民と旅行者の生命と健康を守るため、中国の入国拒否の対象地域を拡大するとともに、対外発信力の強化を検討している。


 新型肺炎は世界にますます拡大し、日本は初期対応のまずさから「世界第2位の汚染国」のイメージを世界中に植え付けてしまった。媚中派の自民党を含む議員や官僚などが、国民の健康や生命を二の次にして中国に媚びを売ることに懸命になったことが惨劇を招いた。

 国民がマスク不足で右往左往しているときに、マスクだけではなく、防護服まで中国に贈呈した政治家、官僚、役人は、騒ぎが終わった後、厳しく断罪すべきである。しかも、共産党独裁で利権がはびこる中国で、それらの善意の品が本当に必要な人々に届くのかどうかも疑問だ。



 安倍晋三政権の対応のまずさを指摘する声もある。確かにそれは否定できない事実だが、より根本的な問題は「平和ボケ日本」の「有事対応」の欠如にある。

 日本の民主主義、自由主義は素晴らしいが、それはあくまで平時の話だ。日本よりもさらに自由や民主主義を尊重する米国でさえ、「有事に私権の制限」が行われるのは当たり前だ。

 米国では、全ての中国からの入国者を即時に拒否し、米国人のリスクを抱えた帰国者は2週間きっちりと隔離される。日本が世界で2番目の感染国になったのは、事前の法整備も含めた「有事対応」の欠如による「人災」と言ってよい。

 日本政府として中国への今後の有効な対応は「戦略的放置」である。この戦略はストーカーのように付きまとう韓国に対して極めて有効であったことは、その後の「経緯」が証明している。

 韓国に効き目のある「戦略的放置」を、安倍政権が中国になぜ適用しないのか。自民党を含む国会議員の中国利権が韓国利権に比べてはるかに大きいからなのかもしれない。

 しかし、過去の中国の日本に対する態度を振り返れば、「戦略的放置」が急務であるとわかる。

 まず、1972年の日中国交回復(正常化)を米国の頭越しに実行した田中角栄元首相は、激怒した米政府にロッキード事件でつぶされたと噂される。

 しかし、これによって鎖国状態の中国が世界に開かれなければ、いくら●(=登におおざと)小平元国家主席が優秀でも「改革開放」を成功させることができず、中国の繁栄はなかった。改革開放の初期には日本政府や日本企業が全面的に支援した。

 その大恩を、1989年の天安門事件の後、欧米からの非難の矛先をかわすための「あることないこと」をネタにした反日運動で返した。しかも、92年に天皇陛下が訪中されたことにより、天安門の大虐殺の責任を結果的に封印してしまった形だ。

日本中の国民が苦しんだ東日本大震災直後には、ひっきりなしに領空(海)侵犯を激化させた。さらに今、自国の新型肺炎対策に数々の支援を行ってくれている日本への領空(海)侵犯を激化させている。

 日本人の優しさ、思いやりは世界中から称賛されるが、「恩をあだで返す国」にいつまでも「寄り添って」いるのでは、単なるお人よしである。

 共産党独裁によって苦しんでいる中国人民に手を差し伸べたい心優しい日本人は多いと思うが、中国共産党に対する「戦略的放置」こそが、中国人民を救うことになるのだ。


 すでに米下院は、ウイグル、香港、チベットに関する人権法案を次々と可決している。共産主義中国に対し冷戦時代のソ連邦や、第二次世界大戦下のナチスドイツに準じる扱いをしているというわけだ。

 日本は第二次世界大戦でドイツと同盟国になったため、戦後長い間苦しんだ。今回は同じ過ちを繰り返さず、徹底的な「戦略的放置」を粛々と実行すべきである。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】安倍政権は、国民の声を聴き、特亜三国に「economic statecraft」を実行せよ(゚д゚)!

上の記事では、"韓国を歯ぎしりさせた、日本の「戦略的放置」を中国にも断行すべき"とありますが、私がこの「戦略的放置」が始まったころには、とうとう日本も、「economic statecraft(経済的な国策)」をやり始めたと思いました。

「economic statecraft(経済的な国策)」とは、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する政策です。欧米などでは認識され、政策に応用されていますが、現時点では日本にない概念であり、日本語に直訳するのは難しいです。

これについては、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、economicstatecraftは、日本にはない概念なので、ほとんど報道されませんが、多くの国々がこれを意図して意識して、適用しつつあります。米国、ロシア、中国などは明らかににこれを意図して意識して実施しています。

韓国は、そのような戦略的な考えはないようですので、戦略的に行うというよりは、散発的にその時々で戦術的な反日のような、economicstatecraftとはいえないようなことを実行しているだけだと思います。

北朝鮮は、経済的にあまりに小さいので、そもそもeconomicstatescraftなどできないのだと思います。北朝鮮が経済的になにかの政策をとっても困る国はないです。だからこそ、核ミサイル開発に踏み切ったのでしょう。

それで、米国と首脳会談にまで持ち込むことができたのですが、最近ではその手が使えず、使えば、孤立したり米国の軍事攻撃を招いてしまいかねないので、結局は使えず、八方ふさがりの状況になっています。

私は、本当は、韓国に対する「戦略的放置」も、economicstatecraftの一環で行われているのではないかと思いますが、日本国内はこれを発動すべき韓国、北朝鮮、中国に対して過度に忖度する勢力が多いので、安倍政権とししては、はっきりeconomicstatecraftであるといえないところがあるのだろうと思います。

これに関しては、日本国内での新型肺炎の感染が深刻になることがあらかじめ、予想されたにもかかわらず、中国からの渡航者を全面的シャットダウンできなかったし、現在でもなおそうしないということから、日本には過度に中国に忖度する勢力が存在することが明らかになったと思います。

おそらく、規模の違いはあっても、日本には特亜3国に忖度する勢力があるのは間違いないです。この勢力は左翼系は無論のことですが、安倍政権の中にも存在します。

安倍政権が結局、習近平を国賓として招くことを未だに中止する動きがないこと、韓国に対しても、さらなる制裁を課すようなことは全く考えていないような態度をとり、結局韓国に対しても、「戦略的放置」にとどまっているのもその証であると思います。

日本は中国にかなり依存しており、中国との関係が悪化すると大変なことになるとか、技術面でも最近の中国は発展したので、日本は中国に技術的にもかなり依存しているなどと思いこむ人も多いようですが、それは事実ではないです。

中国向け輸出は、日本のGDPの3%内外であり、中国向け投資もGDPの1%程度にすぎません。輸入に関してもわずかなものであり、しかも自国での生産や他国からの輸入で代替できるものがすべてです。

最近の事例でいうと、たとえばマスクは日本では中国から輸入が80%を占めるので、最近は日本では全国的に品薄になっています。ただ、いずれユニ・チャームなどの国内メーカーが増産しつつあるので、いずれ是正されるでしょう。中国からの輸入はこのようなものばかりです。

日本からの中国向け輸出に関しては、中国にとって死活的なものが多いです。特に工作機械や精密機器などは中国では製造できず、これがなくなると中国は製造が滞ることになります。

中国の技術はかなり高いと思われていますが、実体は高度な技術は米国や日本などの先進国から盗んだものを組み合わせているにすぎません。驚いたことに、中国では高速鉄道や航空機のネジ・ボルトすら国内で製造できないのです。

このような状況だと、日本が中国との関係を断ったにしても、無論マスクのように一時品薄になるようなことがあっても、いずれ他国からの輸入に切り替えたり、自国で製造するようにすれば、日本としては何も困らないわけです。

であれば、日本は中韓に対してeconomicstatecraftを適用しても、ほとんど困ることはないです。日本は中国や韓国に対してeconomicstatecraftを十分実行し得るのです。

韓国に関しては、最近のあまりの暴虐ぶりに日本国民の中にも、かなり韓国政府に対する批判が高まり、国内親韓派などは、無視して安倍政権は、韓国に対して「戦略的放置」ができるようになりました。

韓国ソウルの延世大学。新型コロナウイルスへの予防を呼びかける垂れ幕の下を歩く学生(2月10日)

であれば、ウイグルやチベット、最近では香港に対して人権を無視した、弾圧を継続しているとか、武漢肺炎の危機がありながらも、尖閣への挑発をやめないとか、習近平が未だ日本への国賓訪問を中止しないなど、中国の最近の暴虐ぶりが国民に周知されれば、安倍政権は中国に対して「戦略的放置」ができるようになる可能性は十分にあります。

それどころか、新型肺炎でこれからも犠牲者が出たり、様々なイベントが中止されたり、実体経済に影響がでれば、安倍政権や親中派に対して怨嗟の声があがるようになるでしょう。

安倍政権としては、政権運営を円滑にするために、二階氏のような親中派に対して党内政治で忖度するのか、それとも国民の声に耳を傾けるのか、選択を迫られる事態になることでしょう。

私としては、安倍政権は、国民の声をきき、特亜三国に関しては「戦略的放置」以上に、「economic statecraft(経済的な国策)」を実行していくべきものと思います。

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2020年2月11日火曜日

政治色濃いアカデミー賞の視聴率が過去最低、視聴者は前年から約600万減少―【私の論評】『パラサイト』で韓国社会の実体を鋭く抉っても、韓国政府が正しい政策を実行しなければ社会は変わらない(゚д゚)!

政治色濃いアカデミー賞の視聴率が過去最低、視聴者は前年から約600万減少

<引用元:FOXニュース 2020.2.10

ハリウッド・リポーター紙(THR)によると、ABCの政治色の濃いアカデミー賞テレビ中継は、日曜日の夜の平均視聴者数が2,360万人と過去最低となった。

THRは、全体で「昨年の授賞式の2,956万人・7.7パーセントをはるかに下回」り、前年比で視聴者数が20パーセント減少したと指摘した。アカデミー賞はメインターゲット層の18から49歳の成人でなんとか5.3パーセントを達成したが、昨年の7.7パーセントから31パーセント減少した。

司会のいない長時間の放送は、2018年に平均2,654万人の視聴者数で史上最低となった時からすると約200万人視聴者が減少した。

第91回アカデミー賞

「なんとか希望の兆しを見出す必要があるというなら、第92回アカデミー賞は第91回アカデミー賞以降ではテレビで最も視聴されたエンターテイメント番組だった。いうまでもなく、それも全く予想通りだった」とザ・ラップの視聴率の権威、トニー・マグリオは書いた。

アカデミー賞の主役となった受賞者の中には、授賞式に政治を差しはさむ者がいた。皮切りとなったのはテレビ放送された最初の受賞者、ブラッド・ピットで、トランプ大統領の弾劾裁判で証人喚問に反対した共和党上院議員を狙い撃ちにした。

「私には45秒しかここで話す時間がないと言われているが、それはジョン・ボルトンに今週上院が与えた時間よりも長い時間だ。クエンティン(タランティーノ)がそれに関する映画をやるかもしれないと思っている。最後に大人が正しいことをするんだ」とピットは語った。

ピットだけがコメントに政治色を着けた役者ではなく、ホアキン・フェニックスは主演男優賞の長く、感情的な受賞スピーチで、中でも人間性の状況と牛の置かれた窮状について話した。

「我々は牛を人工受精させる権利があると感じている。そして生まれたら母牛が紛れもなく苦悩の叫びを上げているのにその子供を盗み、それから我々は子牛のためのミルクを取り上げてコーヒーやシリアルに入れている」とフェニックスは語った。

バラク・オバマ、ミシェル・オバマ夫妻がプロデュースし長編ドキュメンタリー賞を受賞した「アメリカン・ファクトリー」の共同監督、ジュリア・ライカートの演説では、社会主義革命論者のカール・マルクスまで引用された。

【私の論評】『パラサイト』で韓国社会の実体を鋭く抉っても、韓国政府が正しい政策を実行しなければ社会は変わらない(゚д゚)!

今回、作品賞を争っていたのは『パラサイト』と、(作品賞、監督賞など10部門でノミネートされた)『1917』(サム・メンデンス監督)ですが、格差社会や分断という政治的メッセージの強い前者に比べ、後者は政治色の全く感じさせない作品です。

作品賞を受賞した『パラサイト』のポン・ジュノ監督

古い体質のアカデミーはこれまで、大統領選が行われる年の作品賞にはミュージカルや歴史作品を選出してきたのですが、それが今回は政治色の強い映画を選んだわけです。

しかも、かつて韓国右派政権から反政府的な作風などと難癖をつけられ、国家情報院のブラックリストに入れられた経験のあるポン・ジュノ監督にも監督賞です。

これらが意味することといえば、米国内で“分断の象徴”と位置付けられているトランプ大統領に対する痛烈な批判ではないでしょうか。格差拡大、人種差別、分断という、トランプ的なものされる空気を、アカデミーが相当、嫌っているのは間違いないです。

イランなどイスラム教国7カ国の市民の入国を90日間禁止したトランプ大統領に対し、抗議声明を出したこともある映画芸術科学アカデミーです。今回も痛烈なメッセージをトランプ大統領に出したつもりなのでしょうか、おそらくトランプ大統領はまったく気にもとめないでしょう。

そうして、ここがすでに勘違いです。米国社会は昔から分断されていたのです。ざっくり言ってしまうと、元々米国はいわゆるリベラル・左派と、保守派に分断されていたのです。

そうして、テレビ・新聞等のマスコミ、学校、職場、役所等、そうして映画界などエンターティンメント業界もリベラル・左派が牛耳っていて、米国の保守派は、何かを主張してもリベラル・左派の大きな声にかき消されてしまっていたというのが実情でした。

リベラル・左派の声があまりに大きくて、保守派はますます口をつぐまず負えなくなっていたというのが実情だったと思います。とにかく自分の身の回りは、どこに行っても、保守派が主張しても、否定されるか、非難されるしかなかったのです。

リベラル・左派一色の状態は米国映画界も同じです。この業界では保守の居場所はあまりありません。生粋のリベラル・左派でないと、うまく世渡りができません。

だからでしょうか、米国のテレビ番組などでは、ハリウッド俳優が「自分は昔は生粋の共和党員」だったことを告白するものも結構みられました。しかも、若い頃ヤンチャをしていたような語り口のものがほとんどです。しかし、それは「自分は現在は生粋のリベラル・左派」であることを強調することでもあります。

このような状況の米国ですが、米国ではリベラル・左派がメインストリームのようにみられてきたのですが、トランプ氏が大統領になってからは、風向きが変わってきました。保守派が巻き返してきているのです。そうして、保守派の声が必ずしもかき消されるばかりではなくなってきたのです。

考えてみれば、当たり前です、リベラル・左派は自分たちが世の中の大部分を占めてきたのが、トランプ登場でそうではなくなったと言いたいのてしょうが、現実は違ったのです。実はもともと、米国には半数近くの保守派が存在していたのですが、その声がかき消されていただけだったのです。

それが、トランプ大統領が登場してから、明らかになっただけの話なのです。無論、米国の社会の分裂はもっと複雑で深刻ですが、大括りで煎じつめればそういうことになります。

そのことを理解せず、日本のマスコミなども、米国のリベラル・左派マスコミの情報を垂れ流すだけで、日本の多くの人々は、米国の半分リベラル・左派の主張だけを耳にし、保守派の主張は耳に入らず、米国の半分しか知らないというのが実情でした。

最近のハリウッド映画を観ていて、よく感じるのは、フィクションであるはずの映画の世界にまでいわゆるリベラル・左派による、ポリティカル・コレクトネス(以下「ポリ・コレ」)の影響が及んでいるということです。

3年前には、アカデミー賞で黒人俳優が全くノミネートされず、「白人ばかりのアカデミー賞」と揶揄した批判が問題になり騒がれたことがありました。

「ポリ・コレ」のことを知らない人がこんな話を聞くと、条件反射的に「黒人差別だ!」と憤るのかもしれないですが、公平な判断の上で本当に黒人俳優にノミネート者がいない場合はどうするのか、ということも併せて考える必要があります。

ハリウッド映画に出演している俳優の比率は黒人よりも白人の方が圧倒的に多いわけですから、たまには黒人が受賞できない年度があっても、それはそれで仕方がないことだとも言えます。実際、出演比率の低い黄色人種もアカデミー賞にノミネートされるようなことは全くと言っていいほど無いですが、誰も文句は言っていません。

この騒ぎがあったこととも関係しているのかもしれないですが、現在のハリウッド映画(海外ドラマも同様)には、どんな映画にも一定数の白人以外のキャストが出演する場合が多くなっています。

同時に、同性愛者を演じる俳優が多く登場するようになりました。マイノリティの認知度を上げるという目的でそのようなことが行われているのかもしれないですが、実社会における同性愛者の割合を考慮すれば、明らかに過剰な扱いになっているという違和感は拭えないです。

こういった特別扱いをすること自体が、実は差別そのものであると思われるのですが、「ポリ・コレ」を厚く信奉する人々には、そのことが見えなくなっているのかもしれないです。

どれだけ建前を飾ったところで、特別扱いしなければならない存在を自ら作り出し、腫れ物に触るかの如くタブーを作り出すことが、差別をより根深いものにするということが解らないというのは悲劇そのものです。

ハリウッド映画の内容ではなく、ハリウッド映画界そのものが壮大な悲劇を演じているということが多くの人々に理解される日は訪れるのでしょうか。もし、その日が来れば、それはアカデミー賞ものの栄誉ある瞬間でしょう。

さて、話を韓国に戻します。この映画「パラサイト」に描かれるような、本格的に韓国が格差社会へと突入したのは、1997年の年末に韓国を襲った「IMF危機」がきっかけでした。「IMF危機」とは、アジア金融危機に伴い財政破綻の危機に直面した韓国政府が、IMFから多額の資金援助を受けるため、国家財政の「主権」をIMFに譲り渡したものです。

金大中大統領

翌1998年2月に就任した金大中大統領は、「民主主義と市場経済の並行発展」をモットーとする「DJノミクス」を提唱し、IMF体制からの早期脱却を目指しました。

「DJノミクス」とは、経済危機を招いた原因を、これまで30年余りにわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策でした。

つまり、公正な競争が行われるように市場のルールを定めて、市場を監視し、個人の努力や能力によって正当な報酬がもらえるシステムを作るというのが政策の核心でした。

しかし、実際に金大中政権が実施した戦略は、資本市場の開放、国家規制の緩和、公企業の民営化、そして労働市場の柔軟化およびリストラ強行など、新自由主義的な政策ばかりでした。こうした金大中政権の「劇薬療法」によって、3年8ヵ月後の2001年8月23日、韓国はIMFから借り入れた資金を早期に返済し、経済主権を取り戻しました。

しかし皮肉なことに、その過程で中産階級が崩壊し、二極化と所得の不平等がさらに深刻化してしまったのです。

韓国を代表する「進歩派」(韓国では左派をこう呼ぶ)の経済学者である柳鍾一(ユ・ジョンイル)韓国開発研究院(KDI)国際政策大学院院長は、進歩系(左派系)メディアである「プレシアン」に次のような文章を寄稿しています。
約20年前に韓国を襲ったIMF危機以降、韓国社会における最大のイシューは、二極化による「格差社会」である。 
現在の韓国社会は、単に不平等なことが問題なのではなく、富と貧困が世代を超えて継承される点が際立った特徴となっている。 
すなわち、世代間の階層の移動性が低下し、機会の不平等が深まり、いくら努力しても階層の上昇が難しい社会、すなわち「障壁社会」へと移行したのだ
たしかに、2018年に韓国の有力シンクタンクの一つである現代経済研究院が発表したアンケート調査の結果を見ると、「いくら熱心に努力しても、自分の階層が上昇していく可能性は低い」と考えている韓国人は、2013年が75.2%、2015年が81.0%、2017年が83.4%と、毎年上昇しています。

柳鍾一院長が主張した「障壁社会」について、韓国人の8割以上が同意していると見ることができるでしょう。

また、2018年6月に韓国保健社会研究院が発表した「社会統合の実態診断及び対応策研究」報告書によると 韓国人の85.4%が「所得の格差が大きすぎる」と思っており、80.8%が「人生で成功するには、裕福な家で生まれることが重要だ」と考えています。

深刻な不平等や格差は映画の中だけの話ではなく、韓国社会の現実そのものなのです。

しかしながら、韓国においてはこのような不平等や格差がなぜ起こるのかという議論については、活発な議論が行われおらず、その結果不平等・格差を是正する政策がおこなれてきませんでした。

韓国の経済政策は結局「DJノミクス」の延長線上にあり、経済危機を招いた原因を、長期にわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策をとってたように思われます。

文政権による、金融緩和をしないで、最低賃金だけをあげるという結局大失敗して雇用が激減しました。

韓国では、DJのミクス後から、雇用を改善するために、金融緩和をするという政策はとられてきませんでした。そのため、かなり前より雇用は悪く、最近では最悪という事態になっています。数年前から、若者の間で雇用が最悪ということで、「朝鮮ヘル」という言葉が合言葉になっています。

これと似たようにことは、過去に日本でも行われてきました。それはいわゆる構造改革というものです。結局、構造改革をしないからいつまでたっても、日本は経済成長できないのだという論議ばかりで、政府だけが実行できるまともな財政政策や、金融緩和政策がなおざりにされました。

そのため、日本は平成年間には、デフレであるにも関わらず、財務省は増税を繰り返し、日銀は金融引き締めを繰り返し、日本経済は低迷しデフレがさらに進化し、超円高で産業界は苦しみました。

しかし、安倍内閣が誕生してから、構造改革一辺倒だった、経済議論も変わり、日銀は異次元の金融緩和に踏み切りました。そのため、雇用はかなり改善されました。ところが、財政政策は、二度も増税するという過ちをおかしたため、経済は伸びませんでした。

そのため、日本の経済成長率は韓国以下です。韓国の成長率は従来よりは、落ちているのですが、それでも、韓国は2.0%増、日本は1.0%増。2019年の経済成長率は、韓国が日本より1%ポイント以上高いという結果となっています。

しかし、それでも金融緩和は、日銀がイールドカーブコントロールを導入して以来、抑制気味ながら、継続しているので、増税で緩和の効果が削がれているとはいえ、雇用は韓国よりは随分まともです。

一般教書演説をするトランプ大統領

米国は、トランプ氏が最近一般教書演説を行ったばかりですが、雇用なども含め堅調な経済を訴求していました。さらに、新たな減税政策も打ち出していました。

結局韓国は、雇用を良くするといいながら、雇用と密接な関係があるといわれている、金融緩和を実行せずに、最低賃金だけをあげるという愚挙によって、雇用が最悪となり、とんでもない状況をつくりだしています。

このような状況は、大規模な金融緩和をしないと是正できないです。韓国が金融緩和をすると、キャピタル・フライトが起こるとか、ハイパーインフレがおこるという人もいますが、物価目標の範囲内で実行していれば、そのようなことは考えにくいです。

実際過去にキャピタル・フライトが起きたアイスランドと比較しても、韓国では家計の借金は多いとはいつつも、当時のアイスランドの家計の借金が莫大であり、しかも借金の先がほとんど海外であったことを考えると、韓国ですぐにキャピタル・フライトが起こるとは考えにくいです。

我が国においても、2012年あたりまでは、金融緩和すると、ハイパーインフレが起こるとか、キャピタル・フライトが起こるなどとする識者もいましたが、実際に金融緩和をしてもそのようなことは起こりませんてした。

であれば、韓国銀はすぐにでも、大規模な金融緩和をすべきでしょう。しかし、文大統領の頭にはそのような考えはまったくないようです。

結局、米国ではリベラル・左翼によるポリテカル・コレクトネスが提唱され、実行されていたり、韓国では政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善ばかり叫ばれたりしているわけですが、そのようなことだけをしても全く無駄であり、無意味であり、そのことに多くの米国人が気づいたからこそ、政治色濃いアカデミー賞のテレビでの視聴率が過去最低になったのかもしれません。

結局極端なポリティカル・コレクトネスを実行するばかりで、政府が本来実行すべきまともなマクロ経済政策を実行しなければ、世の中、特に社会は何も変わらないということを多くの米国民は気づきつつあるのかもしれません。

無論、正しい経済対策をすることだけで、社会が改善されるわけではありませんが、正しい経済対策をしなければ、社会を良くする緒にもなりません。これなしに、小手先で何かを実行したとしても、砂上の楼閣になるだけです。

生産能力の低い発展途上国であれば、財政政策や金融政策の実行にも限りがありますが、韓国や日本は、まだまだできる余地があります。それを実行せずに、構造改革や社会の歪をえぐってばかりいても、何も変わりません。ましてや、韓国のように金融緩和しないとか、日本のように増税するなどのことをしても無意味です。やはり、米国のように政府としてできるマクロ経済政策は間違いのないように実行すべきなのです。

結局韓国も、「バラサイト」という映画等で、政経癒着と不正腐敗、モラルハザードの実体を鋭くえぐったとしても、それに対する具体的な解決策を韓国政府が実行しなければ、社会は何も変わらないということです。日本も同じことです。

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2019年11月18日月曜日

【映画】「一人っ子の国 (原題 – One Child Nation)」が中国共産党の正体と中国社会の闇を詳かにする―【私の論評】一人っ子政策は、民衆レベルでどのように実行されたのか?戦慄の事実(゚д゚)!




中国共産党が人口抑制策として、1979年から「一人っ子政策」を行ってきたことはあまりに有名だ。その効果が発揮され、中国の少子高齢化が急速に進んできたため、2015年にはこの政策を廃止し、2016年に「二人っ子政策」へと転換している。

また、何十年も実施してきた「一人っ子政策」の弊害として、中国では女性の数が圧倒的に少なく、結婚できいない男性が3000万人にも上ると報じられている

中国人口のアンバランスな男女比が原因で、今後30年内に、約3000万人の男性が数の上で結婚相手がいない状況に置かれると中国主要メディアが報じた。中国人男性の結婚難はすでに深刻な社会問題となっているが、今後も多くの「剰男」(余った男性、売れ残った男性)が出続けるとの見通しに、多くのネットユーザーの関心が集まった。 
 中国共産党機関紙、人民日報(電子版)がバレンタインデーを前にした13日、最近の人口に関する政府の計画や統計などを基に報じた。 
 それによると、2015年末の時点の中国の男性人口は7億414万人、女性人口は6億7048万人で、男性が女性より3366万人多かった。 
 男女別の出生比は、113・51(女児100に対して男児が113・51)。国際的にこの値は通常103~107とされるが、中国のケースは、これを軽く上回っている。
 別の統計によれば、80年代生まれの未婚の男女の比率は女性100に対して男性が136。70年代生まれでは女性100に対して男性が206と著しくバランスを欠いていた。 
 いびつな男女構成比は、1980年代半ばから見られるようになったとされる。1979年から36年間にわたって続いた「一人っ子政策」が大きく関わっているのは間違いない。−産経ニュース(2017.2.24)
しかし、「一人っ子政策」については聞いたことがあっても、そして中国で男女の人口比がいびつな状態であるというニュースを読んでも、それがどのように具体的に起きたのか、日本人そして世界のほとんどの人たちは知らない。

この疑問に答えたドキュメンタリー映画『一人っ子の国 (原題 – One Child Nation)』が、中国人映画監督のナンフー・ワンとジアリン・チャンによって制作された。監督の1人であるナンフー・ワンは、中国からアメリカに移住し、そこで男児を出産したことをきっかけに、母国中国で行われてきた「一人っ子政策」に興味を抱いたと映画の中で語っている。

中国で「一人っ子政策」が厳格に守られてきたのは、避妊具が普及していたからではない。また、男児が女児をはるかに上回る比率で生まれたのは、産み分けが行われたからでも早期の堕胎が行われたからでもない。「一人っ子政策」を厳格に守らせるため、そして人民の間では男児を強く望むあまり、ありとあらゆる非人道的な行為が行われてきた。この映画は、中国社会そして中国共産党の闇を白日の下にさらしている。

さらにこの映画が明らかにしている衝撃的な事実は、中国の孤児を引き取って養子にしてきた欧米人の多くが、実は中国による壮大な人身売買ビジネスに「多額の手数料を払う顧客」という形で加担してしまっていたということだ。

「不幸にも親から見捨てられた中国人孤児の里親になる」という良心から行なっていた行為が、実は中国国内で赤子を無理やり両親から引き剥がすという人身売買に加担する行為だったことをこの映画は明らかにしている。

とある孤児院は、中国人孤児を引き取りに来た欧米の里親のほとんどに対して、「この子は段ボール箱に入れられて捨てられていたのです」という同じ作り話を何十年も続けていたと、実際に中国人孤児を引き取ったアメリカ人男性が映画の中で語っている。彼はアメリカ人の里親に引き取られた中国人孤児について追跡調査を行なっており、孤児たちとその中国人の母親たちのDNAのデータベースを構築し彼らを引き合わせる活動を行なっている人物。

この映画はアマゾン・プライムが配信している

【映画の予告編】





(あいにく日本語字幕がついた予告編は見当たらなかった)


【私の論評】一人っ子政策は、民衆レベルでどのように実行されたのか?戦慄の事実(゚д゚)!

この映画、かなり背筋が寒くなる映画でした。はっきり言って、スティーブン・キングのホラー小説など霞んでしまうくらいの、恐ろしさでした。

これは、ドキュメンタリー映画なのですが。この『ワン・チャイルド・ネイション』、…邦題は「一人っ子の国」ですが、これは中国のことです。この映画は一般に封切りされたのかどうかはわかりませんが、現在アマゾンプライムでご覧になることができます。


このドキュメンタリー映画の監督は中国の田舎で生まれて後に、米国の大学を卒業して、現在はドキュメンタリー映画の作成をされている、1985年生まれのワン・ナンフー(Wang Nanfu)さんという人が作成したものです。

この映画の作成にあたり、この方は1人で中国に行って。自分でカメラを持ってたった1人で撮影をしたものをもとにドキュメンタリー映画を作成しているのてす。

この映画は、たった1人で撮影せずに、普通のドキュメンタリー映画として撮影されていたとしたら、その内容が中国当局の知るところとなり、絶対日の目をみなかったと思います。


この映画では、ワン・ナンフーさんに子供が生まれます。その赤ん坊が2ヶ月になったころ、その子連れて、米国から中国の田舎の親戚に見せに行くのです。

そうして、中国で自分が生まれた頃の話を聞いて回るんですが、そのワン監督が生まれた頃、ちょうど中国では一人っ子政策をずっと続けていたのです。

このドキュメンタリー映画は、ワンさん自身は、当時一人っ子政策がどのように実施していたのかということは、知りませんから、それを聞いて回るっていう内容なのです。ご自身の母親や祖父などに、聞いて回るという粗筋なのです。

中国の「一人っ子政策」推進のポスター

中国の一人っ子政策は、1980年から2015年までの35年間実施されました。中国の一人っ子政策そのものは、多くの人が聞いて知っていることですが、実際にどのようにして実行されていたのかを知っている人は少ないと思います。

映画の中で、ワンさんは、それを具体的に実行した人たちである、彼女の母親、祖父等に聞いて回っているのです。ちなみに、彼女の父親はすでに亡くなっています。

このドキュメンタリーの撮影では対象者を緊張をさせないように、通常のドキュメンタリーのスタッフである、照明係や、音声係などの人員はあえて使わずに、彼女自身が民生用のホームビデオのカメラで撮影しているのです。

映画の中で、ワンさんは、それで「私が生まれたときは、どうだった?」という質問をしてまわると、「女の子だから困った」って言われたのです。

ワンさんは、「ナンフー」っていう名前なのですが、「ワン・ナンフー」を漢字で書くと「王男栿」なのですが、これはつまり、「男の大黒柱がほしかった」ということでそのような名前にしたそうです。
ワンさんが生まれたのは都市部ではなく田舎でしたから(都市部と田舎では戸籍も異なる)、お金を支払って。あとは1人目が生まれた後に5年たてばもう1人、生んでも良いということになっていたそうです。田舎は農家多いですから、人手がないと農家の運営が大変だからっていうことで、特別な措置が取られていたようです。

その後ワンさんには弟が生まれたそうですが、祖父の話を聞いていたら、弟以外にも「女の子が生まれたが捨てた」っていう話が出てきたのです。

そこでワンさんが、「どうして?」って聞くと、「女の子が2人、生まれたりしたら、男の子を持てないから」という返事をしたというのです。

中国は韓国や日本と同じで男が家を継いでいくっていう、考え方があります。中国は特にその名字の問題がありね名字は夫婦別姓で女性の方が結婚をしても名字がもらえないのです。そういう差別があります。

ワンさんが、「どうして捨てたのか?」と母親に尋ねると、おじいさんに、「『捨てないと村八分にされるから、非国民になるから、捨ててくれ。もしあなたがその女の子を捨てないなら、私が殺すか、私が自殺する』という風にプレッシャーをかけられた」というのです。

つまり、男の子が生まれないと後も継げないから。自分自身が女性なのに、「男が生まれないから悲しい」って言うのです。

そうして、男である弟が生まれるまで、女の子ば殺し続けられたということなのです。

このワンさんは、地域のお産婆さんに会いに行くシーンもありました。ワンさんが自分を取り上げたお産婆さんに「覚えてますか?」と聞くと、「覚えているよ」と応えていました。

さらに、ワンさんが「何人ぐらい取り上げたんですか?」と聞くと「それは覚えてないけども、5万人殺したことは覚えている」って言われのです。

では、実際にどういうことが行われていたかというのは写真も残っていて今でも見ることができます。当時は、不妊手術ゃ中絶が国家によって奨励されていましたから、写真に撮って記録していたのです。

しかし、無論多くの女性にとつて、これは嫌なことでした。どんな子でも育てたいから、拒否しようとすると、産科でその場で縛り付けて強制的に手術をしちゃうなどのことが行われていたのです。

子供が、1人生まれて、2人生まれて、3人目は生まれないようにする手術とか、強制中絶とか、それを写真に撮って国家が奨励していたのです。言ってみれば、地獄のような世界だったのです。これが、ついこの間2015年あたりまでまで横行していたということです。

ドキュメンタリー映画には、カメラマンが1人、出てきます。その人は1980年代ジャーナリスティックなアート写真を撮っていて。中国ではその当時、ゴミがそこら中に捨てられていて。産業廃棄物とかの不法投棄がひどかったんです。


その実態を撮影しようとして、ゴミ捨て場の写真を撮っていたら、そこに人形みたいなものがあることに気がついて、よく見たら普通に出生した赤ん坊の死体だったというのです。

そのカメラマンは、さらに、いろんなゴミ捨て場を撮って回ったのですが。そこいら中のゴミ捨て場に、赤ん坊の死体が遺棄されていたというのです。

一人子政策を実行したがため、中国社会ではこのような酷いことがまかり通っていたのでする。また、子供が生まれたことを隠している人もいました。妊娠を隠していたり、子供が生まれたことを隠して、匿っていたりする親とかもいたのですが、官憲がその家に強制的に入って、子供をさらっていくなどのことが行われていました。。

ワン監督はそういうことを聞いて回るんですが。何でみんながそのような悍ましいとを話してくれるかっていうと、当時ははそれが国家に奨励されていたことで、そのことをしていたことは誇りと思っているようです。

これは、到底信じがたい話かもしれません。2012年『アクト・オブ・キリング』というインドネシアを題材としたドキュメンタリー映画がありました。あれはインドネシアで共産党員の人たちとか、中国系の人たちを虐殺した当事者たちにインタビューをしていくっていう筋でした。

当時インドネシアでは100万人以上が殺されました。ちょうどデヴィ夫人がインドネシアにいた頃に重なります。映画の中のインタビューて殺した人たちは国家の英雄になっていましたから、最初は自慢げに話していました。

中国を題材としたこのドキュメンタリー映画でも、このようなシーンがありました。中国計画出産協会という組織があり、そこが不妊手術や強制中絶を実施した主体です。そこで金賞をもらって表彰を受けた人で、それこそ10万人等というおびただしい数の処理をしたという女の人が出てきます。その女の人が、「勲章をもらって褒められたことをいまでも誇りに思う」って語るのです。

そのため多くの人は、残虐行為を悪びれずに語るのですが。ただ言いながら、だんだんと自分のやったことに耐えられなくなってくるようです。先にでてきた、お産婆さんはもう本当に罪の意識でいまも手が震えると語っています。

いまは中絶等は全部やめて、不妊治療の相談役をやっているそうです。「罪滅ぼしをしているんだ」ってその人は語っています。80歳ぐらいのお産婆さんなのですが、「私は子供が好きで産婆を始めたのに、なんでこんなことをさせられたんだ」というのです。

さらに、当時は中絶だけではなく、女の子が生まれると、カゴに入れて路上に放置というようなことが行われていたそうです。

その頃は中国の田舎に行くと、路上にいっぱいカゴがあって、そこいら中に赤ん坊が放置されているような状態だったそうです。そのまま餓死したり、動物に食われちゃったりするんです。それが、2015年までの、中国なのです。


40年間で道に捨てられてた35人もの子供を拾い救ってきた女性

このようなことが横行していたのは、政府が奨励をしていたからです。当時は、1958年から61年に毛沢東が「大躍進」という名前の工業とか農業の改革をやって大失敗ばかりで、3000万人から7000万人が餓死するという事態が起こったので、このまま人口が増えれば中国人が大勢餓死をしてしまうという危機感がありました。


だから政府が人口を減らそうとしたので。ただし、これ自体はもともとは、中国の考え方ではなく、18世紀のイギリスでロバート・マルサスという人が「このままだと食料がどんどんと足りなくなって餓死者が出るから人口自体を減らせ」ということを提唱したことがあったのです。

これは、本来なら実際の農産物などの生産量を増やせば済むことなのですが、いまだにそのマルサス主義が時々、噴出することがあります。「人口を減らせ!」っていう考え方はは、それが中国で噴出したのですが、最近も「人口を半分に減らせ!」みたいな人がいました。これは、映画『アベンジャーズ』の中にでてくるサノスという宇宙の帝王です。

しかし、時々こういう考えが現実世界に噴出することがあるのです。「経済が落ち込んでいるから人口を減らせば良い」などという形で出てくることがあるのです。そうして、堅実に中国はそれを徹底的に実施して、実際にその1980年から2015年までの35年間に4億人の人口を抑制したとしているのです。

中国の一人っ子政策の時代にう待たれた年代の人々は圧倒的に男性が多いです。男性は女性よりも3000万人以上多いと言われています。そのため、3結婚ができない男性が増えています。

この映画には、道端に捨てられている赤ん坊を見て「これはひどい」と思った人がいて、その子たちを拾って回って都会の孤児院に売っていた人も出てきます。

中国では孤児院が1992年ぐらいから外国に養子縁組をして、というかはっきり言うと赤ん坊を売り始めたのです。10万人以上が中国から米国等に売られていったそうです。

その金額もかなり高いものでした。値段はまちまちでしたけども、それが中国という国自体の大きな収入にもなっていたのです。

ところが、道端で拾った赤ん坊を孤児院に売っている人たちは結局、逮捕をさたのです。家業としてやっていたようですが、これらのトビとが10年ぐらいの刑を受けたりしているのです。この映画の中にもそのような人が出てきてインタビューを受けているのです。しかし、彼らは赤ん坊を助けていたのに、刑務所に入れられて、一方で赤ん坊を殺していた人たちは国家から奨励されていたのです。

この映画、このように、すさまじい内容でした。この監督は本当にカメラ1台で中国国内をインタビューして回っていました。ただ、下手すると中国当局に拘束をされるかもしれないいうことで、いつもGPSを携行していて、ニューヨークにいた共同監督が彼女の居場所を常にサーチしながら、拉致されたり拘禁されたりしていないかどうかを調べながら撮影したとされています。

この映画では、当時の中国当局がどのくらいのプロパガンダをやっていたかもわかります。当時は、子供を減らすということがどれだけ国にとって貢献をすることなのかっていうことを徹底的にテレビやドラマ、CM、芝居、歌などありとあらゆる形で政府がプロパガンダをしていました。そうして、多くの人々が完全に洗脳されたことも明らかにしています。

その結果、いまどうなっているのかというと、先日上海に行った人が聞いたのですが、1人小さい子が歩いていると、その後ろに6人ついていく光景を見たそうです。お父さんとお母さんとそれぞれの祖父母が。6人の親と祖父母の面倒をその1人が見るっていうことです。ね。

子供のときには、「小皇帝」などといわれ、可愛がられているのでしょうが、他の6人が高齢化したら、それを1人で介護しなければならなくなるということです。中国はすでに超高齢化社会に突入をしていて、中国という国自体の存続も非常に危うくなっています。


現在の中国はもうギリギリになって2人っ子政策を始めているのですが、もう遅すぎるかもしれません。一人っ子政策で、殺された子供たちとは一体何だったのでしょうか。それでも、当時母親だった人たちは、「私たちは間違っていない。政府に言われた通りにやっていたんだ。他にどうしようもなかった。それが正しいことだと思わされていたし、思っていた」って答えるのです。

このドキュメンタリー映画で、自分の小さな子、赤ちゃんをその監督は中国に連れて行きます。その子たちを見たインタビューをされる相手はみんな、「ああ、かわいい、かわいい!」って本当に子供を愛する普通の人たちなのです。

本当に善男善女の素晴らしい国民たちだからこそ、あのようなことをしてしまったのかもしれません。彼らは中国では模範的な人民であり、愛国者なのです。良い人たちなのです。

素晴らしい人たちだからこそ、政府が狂った時には全部恐ろしいことをやってしまうのです。ナチスドイツの時代では「良い国民、素晴らしい人」と言われていた人たちはユダヤ人を密告する人たちでした。ユダヤ人をかばう人たちは非国民と言われたのです。

いつまでたっても、世界中どこでもそんなことを繰り返し続けているのです。本当に、恐ろしい映画でしたね。見終わった後には、すぐには立てなくなるくらい衝撃を受けました。

以下に、TEDでナンフー・ワンさんが、中国の一人っ子政策について語っている動画を掲載します。これも是非ご覧になってください。TEDのサイトからご覧になると、日本語のスクリプトもごらんになることができます。




この映画、たった1人の女性が、がこの映画を撮影しているというところが、圧巻です。彼女は「中国を出て、米国に留学をするまでこんなことだとはまるで思わなかった。外に出てみないとわからない」って言っていました。

プロパガンダの対象にされているということは、日々淡々と送っているだけでは認識できないのです。『ワン・チャイルド・ネイション』、すさまじい映画でしたが、日本でもおアマゾンプライムでご覧になることができます。ご覧になっていない方は、是非ご覧になってください。


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2019年7月12日金曜日

レームダック化するプーチン―【私の論評】日本は韓国で練習し、ロシアに本格的"Economic Statecraft"を実行し北方領土を奪い返せ(゚д゚)!


 盤石のように見られがちなプーチン大統領ではあるが、同氏への支持の低下は、かなり目立つようになってきている。特に、青年層のプーチンへ離れが著しいという指摘がある。ワシントンに本部を置き、海外のロシア人達にリベラルな情報を伝達している、Free Russia Foundationによれば、プーチンの全国平均支持率は60%以上だが、この10年間で青年層(17-25歳)における支持率は急激に低下して19年1月現在32%となっている。

プーチン大統領

 一般の理解に反して、ロシアは実は「若い国」である。平均寿命が低い(男性では67歳強)ために、34才以下の者が実に人口の43%を占めている。うち3000万は20歳以上の世代Yと呼ばれ(米国のミレニアルに相当)、1500万が10代の世代Z、そして1800万が10歳以下である 。彼らは一般的に政党等、既存の制度を信じておらず、65%はマスコミも信じていない。そして反米主義に染まっておらず、世代Yの者の70%強は物質的豊かさを重視して、49%の者が「西側の先進国のようになりたい」と考えている 。

 青年層は多くの国で、高年齢層よりリベラルな傾向を有するが、ロシアでは選挙における若年層の投票率は低く、他方プーチンに傾倒する高年齢層の投票率は高いので、これまでプーチンは安泰であった。またロシアでは労働人口の実に3分の1以上が公務員・準公務員であるので、安楽なポストを求める青年は、「青年親衛隊」等、当局の組織する保守的青年運動に加わってきた。

 しかし、プーチン離れを見せるのは、今や青年層に限らない。2018年6月、政府が年金受給年齢を5年「後倒し」にする法律を採択、プーチンがこれに署名したことで、彼のトータルの支持率は20%程度落ちて60%台前半を低迷することとなっている。そして2000年以降、世界原油価格の高騰を背景に「世界的指導者」と標榜されるまでに上がったプーチンの星も、2008年以降は原油価格低迷を背景に迷走を始めようとしている。実質可処分所得は既に6年続けて下降している。

 これまでロシア政治の流れを言い当てたことで有名なモスクワ国際関係大学のヴァレリー・ソロヴェイ教授は最近、マスコミで「1990年のように、国民は官僚達に苛立ちを感じている。自分たちの所得が上がっている時には見逃してきたのだが、今では官僚達の上から目線の発言、腐敗の全てが怒りの対象となる。問題発言はSNSで直ちに拡散される」 、あるいは「年金改革等で、国民の堪忍袋の緒は切れ、国民はプーチンに怒りを感じて攻撃的になり始めている。1989年と同様、何かを根本的に変えないと駄目なのだ、今の体制は必然ではない、変えていいのだ、という意識が広がっている・・・変化が始まった」 と言っている。つまり1989年のゴルバチョフ末期、国民が共産党の統治に不信感を抱き、「国の富を牛耳る共産党を倒せば自分達の生活は良くなるだろう」と思い始めた時期を思わせる、というのである。

 また、プーチンの力が衰えているために、「利権確保をめざして『万人の万人に対する仁義なき闘争』が始まろうとしている。大衆の不満を利用する者が増えるので、集会、デモの類が増えるだろう」と予測する向きもあり、事実諸方でライバルを陥れての逮捕が起きている他、集会の類が増えている。

 こうした中、クレムリンによる社会統制力は落ちている。6月7日には、警察幹部の汚職を摘発した記者が、当局に「麻薬所持」をでっちあげられて逮捕されたが、6月10日には大手三紙を筆頭に(1面トップに同じ仕様の記事を掲載)全国の多数メディアが彼の釈放を要求、遂にはプーチン自身が介入して記者は釈放され、彼の逮捕を仕組んだ警察幹部2名は解任された。これは、ペレストロイカ末期、マスコミが世直しに向けて大きな発言権を持っていた時期を想起させるものである。

 そして9月には統一地方選が行われるが、与党の「統一」は党員の腐敗、無能、保守体質で社会の支持を失っているため、16の改選知事のうち6個所では当局の候補は無所属で立候補する 。既に地方の市レベルでは、無所属新人が選ばれる例が増えている。

 つまり、青年のプーチン離れや新思考は、問題の一角でしかない。「プーチンのレームダック化」こそ、今の最大の問題であるように思われる。

【私の論評】日本は韓国で練習し、ロシアに本格的"Economic Statecraft"を実行し北方領土を奪い返せ(゚д゚)!

第二次世界大戦のあと、ソビエト連邦(ソ連)は米国と競合する世界の超大国となりました。

しかし、1990年代初めにソ連が崩壊し、ロシアは経済改革を迫られました。その後、数十年にわたってさまざまな経済的苦労を経験してきました。

現在のロシアはもはや超大国とはいえなくなりました、通貨の変動、人口の減少、原油や天然ガスにさまざまな面で依存する経済に直面しています。これでは、プーチンがレームダック化するのも無理はないです。

ロシア経済に関するショッキングな事実を紹介します。

1.ロシアのGDPは東京都を若干下回る

東京のロシア人によるメイドカフェ
現在のロシアのGDPは、東京都を若干下回る程度であり、韓国と東京都はほぼ同じですから、韓国を若干下回る程度です。これに関してはこのブログで何度か解説してきましたが、あの大国とみられるロシアのGDPはこの程度であり、米中はもとより、日本にもはるかに及びません。
人口に関しては、1億4千万人程度であり、あの広い国土からするとかなり少ないです。ちなみに、日本は1億2千万人程度です。ちなみに、中国は14億に近づきつつあります。
2.ロシアでは、人口が毎日700人ずつ減っている
アメリカのジェームズタウン財団の「ユーラシア・デイリー・モニター」によると、ロシアの人口は1日あたり約700人、1年に25万人以上減っています。 
ムルマンスクといった一部の都市ではソ連崩壊以来、人口が30%以上減少しています。
3.ロシアの対外債務は国内総生産の29%
ロシアには4600億ドル(約51兆5000億円)以上の外貨準備があるものの、その対外債務は国内総生産(GDP)の29%にも及びます、輸入カバー率は15.9カ月だ。ちなみに、日本の対外純資産額は世界一です。無論、対外債務などありません。
4. ソ連崩壊の前後10年間で、ロシアの経済生産は45%減少
1989年から1998年の間にロシアの経済生産は45%減少しました。2000年まで、ロシアのGDP(国内総生産)はソ連崩壊前の水準の30%から50%の間で推移していました。
5. 原油と天然ガスがロシアの輸出の59%を占める
ロシア経済は天然資源に大きく依存しています。ロイターによると、2018年のロシアの原油生産量(バレル/日量)は史上最高の1116万バレルでした。 
世界銀行によると2017年、原油と天然ガスはロシアの輸出の59%、財政収入の25%を占めました。天然資源に大きく経済が依存すると、天然資源の価格のその時々の上下に、財政収入がかなり左右されることになります。
6. ロシア人の13%以上が貧困状態にある
プーチン大統領は2018年の年次教書演説の中で、現在、人口の13%以上を占めるロシアの貧困層を半減させると誓いました。 
アイリッシュ・タイムズ(Irish Times)によると、ロシアの公的な統計は1930万人以上が貧困線以下の生活を送っていることを示しています。
それでも、ロシアの貧困率はソ連崩壊直後の約35%から大きく低下しています。
7.ロシアには、ビリオネアが70人以上いる
ロシアの経済格差は大きいです。 首都モスクワはたびたび世界で最も多くのビリオネアが住む都市に名を連ねていて、ロシア全体では70人以上のビリオネアがいます。その多くは1990年代にその財を築きました。
新興財閥「オリガルヒ」はロシア政府に対して大きな影響力を持ち、西側諸国にも投資し始めています。ビリオネアで、NBAのブルックリン・ネッツのオーナーでもあるミハイル・プロホロフ(Mikhail Prokhorov)氏もその1人です。
先にも述べたようにロシアのGDPは現状では韓国と同程度ですが、ビリオネアの数では、ロシアは70人台、韓国は30人台です。 圧倒的にロシアのほうが多いです。
8.ロシアの通貨ルーブルの価値は、この10年で半分になった
ロシア経済は2014年から2017年の経済危機で大きな打撃を受け、ルーブルの価値は半分になりました。
9. ロシアの平均月給は670ドル
日米などの先進国に比較するとGDPの低いロシアだが、その平均月給は4万2413ルーブル、つまり670ドル(約7万5000円)です。 
2016年の437ドルから50%近く増えています。
10. ロシアの家具市場の20%をイケアが占めている
スウェーデン発のイケア(Ikea)がロシア1号店を首都モスクワにオープンしたのは2000年でした。その後、同社モスクワにもう2店舗出店し、ロシア全体では14店舗を展開しています。
イケアは現在、ロシアの家具市場の20%を占めています
11.ロシアのクリミア併合から5年、膨らみ続けるコスト
プーチン大統領がウクライナのクリミアを併合して5年たつが、ロシアが支払うコストは膨らみ続けています

ロシアのクリミア併合は依然として大半の国が認めず、ロシアを処罰するため米欧が主導して制裁など幅広い措置を打ち出しています。一方、ロシアは新たな発電所や本土とクリミアを結ぶ大橋への巨額の投資など、クリミアを自国経済に統合しようと躍起です。ところが、主要輸出品である原油の価格低下ですでに打撃を被っていたロシアと同国市民は、外国投資の落ち込みと上がらない賃金という痛みも強いられています。最近の調査によると、クリミア併合への市民の強い支持は失われつつあります。
ロシア経済には良いことがほとんどないようです。これはどうしてかといえば、やはりプーチノミクスの大失敗によるものです。

91年のソ連崩壊以来、ロシアが恐れてきたのは、NATOが旧ソ連諸国をのみ込み国境に迫ること。そして欧米がロシア国内の格差につけ込んで、反政府運動をあおることでした。それがウクライナやシリア、今度はベネズエラで攻勢に出た背景にあります。

その様は「俺様をなめんじゃねえ」と酔って管を巻くロシア人にそっくのようです。口ではすごんでも、経済力という足元が危ないからです。いまプーチン政権の頭には、2つの相反する方針がせめぎ合っているようです。

ロシアの酔っ払い

プーチンはこの2年ほど、折に触れて「第4次産業革命」に言及。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といった技術革新による産業構造の変化から脱落すれば、「ロシアは後進国たることを運命付けられる」と語っています。

しかし役人が実行する政策は、ソ連さながらの締め付けやアフリカへの傭兵派遣といった対外進出ばかりが目立ちます。第4次産業革命の基盤となるネットには、中国並みの規制を目指す始末です。3月10日には首都モスクワで、ネット規制法案に反対する市民約1万人が抗議の声を上げました。

最近では汚職摘発を名目とした国会議員や元大臣の拘束が相次いでいます。検事総長が議場に踏み込み、議員の不逮捕特権剝奪をその場で強要したり、深夜に公安当局が元大臣の自宅に踏み込んだり、エリートの間では疑念と恐怖が芽生えています。

24年のプーチン退陣を前に、検察や公安を利用しての権力・利権闘争が既に始まっているのではないでしょうか。自分から仕掛けないとやられてしまうのではないか、という懸念です。こうしてロシアは頭で「先に進まなければ」と分かっていても、ソ連の記憶が染み付いた手足は後ろに進んでしまう「統合失調」にあるわようです。

プーチン時代は当初、政権発足時から最大で5倍に跳ね上がった原油価格に助けられ、GDPが6倍以上にもなる驚異の成長を達成。ところが08年の世界金融危機で原油価格が暴落して以降、成長力も息が切れました。

プーチンの経済政策「プーチノミクス」は、「天然資源収益を国家の手に集中し、計画的に投資に向ける」という、彼の97年の博士論文そのものです。大統領就任後は石油・天然ガス部門を国家の手に集中したのですが、肝心の投資について青写真が描き切れていません。ビジネスを運営できるスタッフが不足するなど、近代化の条件を欠いているからです。

GDPは14年のクリミア併合で欧米の制裁を招いて以降、実質マイナス成長が続きました。17年にやっとプラスに回復しましたが、統計操作が疑われるなど、停滞は明らかです。政府は中国に倣って、地方の道路網整備などインフラ投資で成長を実現しようとしています。しかし独占体質の強いロシア経済では、資材価格の高騰とインフレを招くだけでしょう。

プーチノミクスは賞味期限が来たようです。遠いベネズエラで、米国と子供じみた力比べをしている余裕はないです。4月21日のウクライナ大統領選の決選投票で政権が代わったたクリミア問題で落としどころを探る好機ともなるでしょう。

現在のロシアは今のままではますます疲弊するだけで、将来的には、日本との北方領土問題も含めて欧米との関係を改善し、第4次産業革命に邁進しなければならないはずです。

現在の状況は、米国は対中冷戦を継続中であり、中国もロシアのように弱体化しつつあります。これがある点を超えると、ロシアにとって中国は現在とは違い与し易い相手になるはずです。

現状は、プーチンはなるべく中国を刺激しないようにしていますが、中国が弱れば、中露の仲は以前のように悪化することになるでしょう。

そのときは、中露国境紛争が再燃するでしょう。現状のロシアは経済は弱体化していますが、そうはいっても旧ソ連の核兵器や軍事技術を警鐘しており、決して侮れないです。

そのロシアが、弱体化した中国と再び戦火をまみえるようになったときこそ、日本のチャンスです。その時こそ、北方領土交渉を有利にすすめることができるのです。

日本としては、何らかのメリットを提供した上で、今度はそれを取り下げるようなことを繰り替し、"Economic Statecraft(経済的な国策)"の手法を駆使してロシアと交渉すべきです。

"Ecomomic Statecraft(経済的な国策)"とは、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求するものです。これは、武器は用いないものの、実質的な戦争です。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!
核弾頭を搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事にも掲載したように、日本は核兵器などとは異なり"Economic Statecraft (以下ESと略す)"は日常的に使える手段であることを念頭におき、これを使う前提で外交を考えるべきです。

幸いなことに、この記事を書いた時点では、実施されていないかった、日本による対韓“輸出管理強化”が発動され、韓国経済に大打撃を与えそうです。そうして、すでにこの元凶となった文政権へ韓国内から不満が噴出しています。

これは、まさにESが実際に功を奏する事例となりそうです。この記事でも、主張したように、日本は対露外交を視野に入れ、韓国でESの練習を行うべきと思います。これにより、韓国を屈服させることができなければ、対ロシアに対してもとてもうまくいくとは思えません。

再び中露国境紛争などで、中露の対立が深まったときに、日本がロシアに対してESを発動すれば、ロシアは弱り目に祟り目という状況に追い込まれます。

その時に、日本の要求は通りやすくなります。さらに、制裁するだけではなく、ロシア経済にとって良いような項目でディールをすれば、ロシアが北方領土を返還する可能性は高まります。返還しなければ、ますます制裁を強くするようにすれば良いです。

日本としては、ESだけではなく、軍事力も強化すべきでしょう。また、米国など同盟国、順同盟国との関係も強化すべきでしょう。

このようにしてから、ESを本格的に発動するのと、そうではないのとでは雲泥の差があります。ESをうまく使いこなす国には、当然のことながらまずは経済力が強くなければならないとともに、ある程度の軍事力もなければなりません。

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2019年2月5日火曜日

統計不正も実質賃金も「アベガー」蓮舫さんの妄執に為す術なし?―【私の論評】虚妄に凝り固まる立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、今の韓国のように雇用が激減するだけ(゚д゚)!

統計不正も実質賃金も「アベガー」蓮舫さんの妄執に為す術なし?


田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 厚生労働省の毎月勤労統計を巡る不正問題に関して、ワイドショーなどでは相変わらず「低レベル」と言っていい報道が続いている。

 毎月勤労統計の不正問題自体は、国の基幹統計と言われる賃金水準の実態を正確に捉えることを怠った問題であり、厚労省の官僚たちを法的に厳しく処罰すべき問題であろう。

 また、厚労省が設置した「特別監察委員会」に関するずさんな対応については、これはデータ不正そのものを生み出した厚労省の「自己都合」で、国民の関心をないがしろにする行為として批判すべき問題である。ただし、どの程度のデータ不正かと言えば、報道や野党、そして一部の識者からは、安倍晋三政権批判の思惑が「ダダ漏れ」で、そのため過度に誇張されたものになっている。

 筆者の周囲でも、ワイドショーから情報を仕入れた人が「統計不正は大変な問題ですね。安倍政権の責任は大きいですね」と尋ねてきた。そこで筆者は、統計の全数調査を怠ったことは重大な「犯罪」だが、抽出調査自体は統計的には適切に実施し、法規に従えば特に大きな問題ではないことを説明した。

 その上で、安倍政権のはるか前から続いていた話が、安倍政権で発覚したに過ぎないことを指摘した。ついでに「ワイドショーなどを見て、その報道につられて、安倍政権が悪いように誤解する見識のない人が増えて、テレビに振り回されていて、かわいそうだ」と返したら、やはりご本人に思い当たることがあるのか、顔色を変えてにらまれてしまった。

 この例でも分かるように、安倍政権の長期化に伴い、これまたテレビの影響で「長く続くからダメ」というような、事実に立脚しないイメージ批判が蔓延(まんえん)している。そのせいで、ワイドショーなどの報道を鵜呑みにする人たちや、何でもかんでも安倍政権のせいにする人たちを、私の周りから遠ざけてしまうことになった。ただでさえ「友達」が少ないから、安倍政権の長期化は困ったものである。



厚生労働省が入る東京・霞が関の中央合同庁舎

 統計調査不正を利用して、安倍政権の経済政策の成果を不当に貶(おとし)める発言も実に多い。別に安倍政権を特に持ち上げる必要はない。だが、安倍政権の経済政策が、雇用面で大きな成果を挙げたことは否定できない事実である。

 マスコミや野党、反安倍的な識者には、この成果を否定したい思惑が広がっていて、それは事実の否定さえも伴っている。確かに、統計不正はいわば事実をないがしろにする行為だ。だが、批判している野党やワイドショーなどのマスコミがまさに雇用改善の事実をないがしろにしているとしたら、悲劇を超えて「喜劇」ですらある。

 例えば、立憲民主党の蓮舫副代表はツイッター上で次のように述べている。

 「アベノミクスの成果の根拠として、去年6月に前年比3・3%としていた賃金上昇率の伸び率が、実は1・4%だった。実質賃金の伸び率で比較すると、2%が実は0・6%と推計されました。昨年1月から11月の平均は、マイナス0・5ではないかと推計もされます。野党ヒアリングで厚労省はおおむね認める発言をしました」

 まず、安倍首相自ら国会で説明している通り、アベノミクスはその成果の根拠としても、政策目的としても、実質賃金の伸び率を重視したことはない。蓮舫氏はこの点で事実誤認している。

 さらに、前年比での実質賃金の伸び率がマイナスなのは、単に17年が18年よりも実質賃金の「水準」が高かったからである。しかも、アベノミクス期間中の賃金指数を、不正データと修正データとを比べると、むしろ上昇している。都合の悪いデータを隠すことは十分考えられるが、都合のいいデータを隠す意図は、さすがに政権側にはないと考えるのが常識的だ。

 もちろん、強固な反安倍主義者の中には、それでも政権への「忖度(そんたく)」があった、と考える人がいるが、もはや事実を提示して納得できるようなレベルの人たちではないだろう。悪意か妄執か、あるいは頑なな政治イデオロギーの持ち主か、いずれにせよ経済学による説得では無理である。

 またアベノミクスの開始当初から、なぜか蓮舫氏のように実質賃金とその伸び率を重視する人たちが多い。その多くが反安倍、反アベノミクス論者である。

立憲民主党の蓮舫副代表兼参院幹事長

    だが、そもそもアベノミクス、その中核であるリフレ政策(デフレを脱却して低インフレ状態で経済を安定化させる政策)は、実質賃金の水準や伸び率の動きをただ上げればいいだけの政策のように、単純な見方はしていない。むしろ、長期停滞からの脱出局面(現時点)では、実質賃金の伸び率が低下することも不可避であると主張してきた。

 リフレ政策が効果を与える停滞脱出期においては、実質賃金の切り下げが生じる。なぜなら、雇用が増加することで、新卒や中途採用、退職者の再雇用といった新たに採用された人たちの賃金は、既に長年働いている人たちの賃金よりも低いことが一般的だ。

 すなわち、雇用される人数が増え、失業率が低下することは、同時に平均的な賃金を低下させることになる。これを「ニューカマー効果」という。

 しかしニューカマー効果では、同時に失業率が改善し、雇用状況の改善(有効求人倍率改善、いわゆる「ブラック企業」の淘汰など)も実現していく。さらに、支払い名目賃金の総額も上昇していくだろう。そうして、経済全体の状況は大きく改善されていくのである。

 実際、安倍政権ではこのニューカマー効果による実質賃金低下と、同時に失業率低下、有効求人倍率の上昇、賃金指数の増加、名目国内総生産(GDP)の増加などが見られる。さらに、雇用安定化の成果で、失職などに伴う経済的要因での自殺者数が激減し、不本意な形で就業しなくてはいけない非正規労働者の数も大きく減少した。これらは、単にアベノミクスによって雇用の量的な改善だけでなく、質的な改善も見られたことを証明している。

 そして失業率が低下していくと、いわゆる「構造的失業」という状態に到達する。その過程で名目賃金の増加だけではなく、労働市場の逼迫(ひっぱく)の度合いに応じて、実質賃金も上昇していく。日本経済は、2014年4月の消費税率8%引き上げの悪影響がなければ、このプロセスが実現していた可能性が大きい。

 このように蓮舫議員に代表されるような「実質賃金低下ガー(問題)」論者は、あまりにも問題を単純に捉えていると言わざるを得ない。実は、実質賃金の低下だけを問題視する人たちは、経済が常に完全雇用の水準にあると思い込んでいる新自由主義者的な人に多い。

 新自由主義的な人からすれば、実質賃金の低下など、単に労働の生産性の低下を示すものでしかないからだ。蓮舫議員を含む立憲民主党や国民民主党などの多くの野党は、確か経済問題を適切な政府介入で是正していく「リベラル」のスタンスであるはずなのに、主張が新自由主義者風なのはなぜだろうか。

 おそらく、野党議員の多くは経済政策のアドバイスを受ける相手を間違えているのであろう。例えば、立命館大の松尾匡(ただす)教授が最近、安倍政権の経済政策に対抗するリフレ政策的な政治キャンペーン「薔薇マークキャンペーン」を始めている。なんでも今度の参院選に立候補する議員に、反緊縮に賛同する候補者と対して「薔薇マーク」の認定を与えるというものだそうだ。

2019年1月、毎月勤労統計の不正調査問題で、厚労省の職員らに質問する野党議員(奥)

 認定候補が野党勢力だけかどうか定かではないが、筆者はこのキャンペーンが与野党の対立構図に乗った政治色の強いものだと考えている。リフレ政策はそういう政治的イデオロギーを超えるべきだと考えているので、この運動自体には賛成できない。

 ただ、蓮舫氏のような反安倍主義者たちが、よりまともな経済政策を構築するには、松尾氏のアドバイスに対して、真剣に耳を傾けることを勧めたい。それが日本の政策議論の底上げにもつながるに違いないからだ。

【私の論評】虚妄に凝り固まる立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、今の韓国のように雇用が激減するだけ(゚д゚)!

野党の批判は、結局「実質賃金が下がり、実際に使えるおカネが減って貧しくなった。そのために、個人消費が伸びていない。いまの経済政策は間違っている」ということです。そうして、冒頭の記事で田中秀臣氏が主張するようにこれは明らかに間違いです。

実質賃金とは、皆さんが受け取る賃金(名目賃金)から物価の上昇分を差し引いたものです。

名目賃金が1%しか上がっていない時に物価が2%上がると、実質賃金は1%下がります。あくまで程度の問題ではありますが、「モノやサービスの値段が上がって、以前なら買えていたはずのものが買えなくなった」ことになります。インフレの悪いところです。

一方、名目賃金が2%下がっても、物価が3%下がってくれれば、実質賃金は1%上がります。「給料は減ったけど、以前よりたくさんのモノやサービスが買えるようになった」わけですから、喜ぶ人もいるかもしれません。

この部分だけを切り取って考えると、たしかに「実質賃金を、いますぐ上げろ!下がったのはケシカラン!」という主張は正しいように聞こえます。

しかし、経済は、常に動きつづけている生き物です。短いあいだだけを輪切りにして判断してしまったのでは、一見正しそうな政策が「長期的にはとんでもないこと」を引き起こしかねません。

これから起きるさまざまな変化を、「時間を追って順々に考えていく」というのが経済学的なものの考え方です。俗にいう「風が吹けば桶屋が儲かる」という世界です。

逆にいえば、この思考ができないと経済政策を誤ってしまうことになります。

失業者を減らすことが最優先

少しこみ入った話になるので、経済学でよく使われる需要曲線(赤)と供給曲線(緑)を使ってご説明します。縦軸が実質賃金、横軸が雇用者数です。

<現在>という矢印の指しているところに、いまの日本の雇用市場はあります。

左側の縦軸の「今の実質賃金」というところから水平に線を引く(………)と、「雇いますよ」という需要曲線(赤)とぶつかります。ここから下におろした線の指しているところが、「今、雇用されている人数」です。

先ほどの水平な線をさらに右にいく(………)と、「働きたいです」という供給曲線(緑)とぶつかります。ここから下におろした線が指しているところの人数だけ「今、働きたい人」がいます。

ただ、実際に雇ってもらえるのは、需要曲線(赤)から降りてきたところまでの人数だけです。この差が「失業者」となります。

失業とは、「働きたいのに働けない」ということです。しかも、失業することによって収入がとだえて経済的に困窮するだけでなく、「社会から疎外されている」と感じてしまいがちです。

その結果、非常に残念なことですが、精神的・肉体的に追いつめられて、自殺という手段を選ぶ人が増えてしまいました。日本の失業率と自殺率の相関関係は、OECD諸国の中でも際立って高くなっています。

従って、「失業者をどうやったら減らせるか」「この図の赤い矢印の方向にどうやって進むのか」ということを最も優先して考えなければなりません。

我慢して回り道を

現在の実質賃金の水準で、そのまま点線の上をわたって供給曲線(緑)に到達できれば一番良いのですがそうはいきません。点線の上は、あくまで空間です。右のほうにいきたければ、黄色い矢印が指し示すように「斜め右下方向」に需要曲線(赤)の上を動くことになります。

あくまで「下」ですから、「実質賃金が下がらないと、雇用者数が増える方向には行けない」というのが現実です。これを変えることは、誰にもできません。

では、どうしたら実質賃金は下がるのでしょうか?

先ほどご説明したように、実質賃金は(名目賃金)-(物価の変動)で決まります。

「実質賃金を下げろ」といわれて、まず思いつくのは「名目賃金を下げる」、つまり「賃金カット」でしょう。強欲な経営者が「給料を20%下げることにした!」と叫べば、たちどころに下がって、、、というほど話は簡単ではありません。

名目賃金は、経営者と労働者の交渉で決まります。「交渉」といっても、全員が実際に膝をつきあわせて丁々発止とやる訳ではありません。

「この賃金なら雇いたい」「この賃金なら働こう」という「労働市場での需要と供給から決まる」と考えたほうが自然です。アダム・スミスの「神の見えざる手」は、ちゃんと働いています。

この名目賃金というものは、あまり簡単に上がったり下がったりしません。特に日本では、毎週(週給)や毎日(日給)といった単位で給料が変動する労働者は極めて少数です。大多数の労働者は月給制ですし、しかも年間の支給額が大きく変動することはありません。

「20%下げるぞ」などと宣言したら、翌日の職場はカラになっていることでしょう。

つまり、「名目賃金は、そう簡単には下がらないし下げられない」というのが、本当の話です。

では、「物価を上げる」というのはどうでしょう?

これは何か非常に難しいこと、特に長い間デフレに苦しんだわが国にいると、とんでもなく大変なことのように思えます。

しかし、何らかの政策で「強引に名目賃金を変える」よりも、「金融政策によって物価水準を変えることで、実質賃金を動かす」というほうが世界の経済学や経済政策の世界では一般的です。

たとえば2013年1月に、政府と日銀は「+2%と言う目標を定めて物価を上げる」という共同宣言を発表しました。これは「実質賃金は一時的に下がるものの、まず失業者を減らす政策をとる」ことを示したものであると言い換えることができます。

その後の政策は、よく「異次元の」という形容詞をつけて紹介されますが、「デフレという名の異常事態からの脱却」という局面だったために「異次元の手段」が必要だっただけです。政策そのものは、ごく常識的な経済理論にのっとったものです。

「異次元」ではあっても、「異常」ではありません。

いま「物価が上昇したことで実質賃金が下がっている」のは、この右下がりの黄色い矢印の方向に日本経済が走りだしたということです。実質賃金は下がりましたが、冒頭にご紹介したとおり雇用者数は増加しています。

赤い矢印の方向に動いていることは、間違いありません。

デフレへの逆回転は絶対に阻止

現在の状態を、「実質賃金が下がって貧しくなった」と批判するのは簡単です。しかし、黄色い矢印の方向に行かなければ雇用者数は増加せず、130万もの人が失業したままだった可能性は否定できません。

いまはひとりでも多くの人が働けるようになるために、少し我慢をする時です。

きちんと現在の金融緩和政策をつづけていれば、「完全雇用」と書いた部分を通過し、右側の黄色い矢印が示す「右斜め上」に向かって供給曲線(緑)の上を動いていけるようになります。いよいよステージの転換です。

人手不足により名目賃金が上昇し、実質賃金が上がります。しかも、もらえる給料の額面が増えています。

「もらえる給料は減ったけど、物価はもっと下がっている。だから、実質的に豊かになって幸せだ」などという冷静沈着な計算のできる人が、世の中の多数派だとは思えません。やはり「金額が増えてハッピー」という人のほうが多いですから、消費が増えて経済の好循環が起きます。

しかも右方向に動いていますから、働くことができる人は増えつづけます。もう「社会から疎外された」などと、悲観する必要はありません。

1998年に3万人を超え「世界的にも高水準」と懸念されていた自殺者数は、過去5年連続して減少してきています。大規模な金融緩和に踏み切った2012年以降、減少幅が大きくなっていますが、これがさらに加速していくと期待できます。

実際の経済はこんな簡単な図よりも複雑ですから、まだ「完全雇用」と書いたところに到達しているかどうかはよく分かりません。

しかし、比較的名目賃金が変わりやすい「パートやアルバイトの時給」が、大幅に上がっているのはご存知のとおりです。首都圏のパートやアルバイトの平均時給は1000円を超えました。厚生労働省が先週発表した賃金構造基本統計調査では、女性の賃金が過去40年で最も高くなっています。

さらに総雇用者所得も増えていますから、働いている人全体が受けとる賃金の合計は増えつづけています。

総務省の調査によると、正社員を増やした会社は「人材流出を防ぐため」「採用を優位に進めるため」という理由をあげていました。つまり、「良い待遇を与えないと、働いてもらえなくなった」ということです。これは「完全雇用」状態に近づき、働く人たちの立場のほうが強くなったことに他なりません。

結論は明らかです。「物価が上がったことで実質賃金が下がり、生活が苦しくなった。金融緩和政策をやめて物価を下げろ」と言う主張は、経済政策論的に完全に間違っています。物価が下がったおかげで「実質賃金が上がった」と喜ぶことができるのは、失業する心配のない人達だけです。

もし、そんな経済政策をとってしまうと、この図の青い矢印のように「左斜め上」に動いていくことになります。たしかに実質賃金は上がりますが、多くの人が職を失い苦しむことになります。これこそが、デフレの害悪です。

今の流れを逆回転させるべきではないのです。

なお、上ではニューカマー効果を解説するため、マクロ経済でよく用いられるグラフを使って説明しました。

しかし、このようなグラフを使わなくても常識的に理解できます。

たとえば、ある企業で景気が良くなったので、事業規模を拡大しようとしたとします。事業を拡大するときには、最初は営業店舗や工場などの人員を増やすのが普通です。間違っても、本部の要員や役員などを最初に増やすということはありません。さらに、拡大するとすれば、営業店舗や工場そのものも増やすはずです。

そうなると、営業店舗や工場などには、多くの新人を雇用しなければなりません。新人を多数雇用すればどうなりますか。会社全体としては、事業規模を拡大する前よりも平均賃金は低くなります。さらに、生産性は当初は下がるのが当然です。なにしろ、新人を多く雇い入れれば、最初は新人は普通に仕事ができず、これに対して訓練や教育を施さなければなりません。

これが理解できれば、国単位で実質賃金が下がるということも容易に理解できると思います。さらに時がたつと、事業の規模が拡大し軌道にのれば、本部の人員を増やしたり、給料をあげないとなかなか人を募集できなかったりで、賃金は上昇します。

こんな簡単な理屈も理解できないのか、蓮舫さんをはじめとする野党の議員なのです。

お隣韓国では金融緩和せずに賃金だけあげて大失敗

さらに、野党議員らの考えが間違いであるということはすでに実例があります。お隣韓国では、文大統領が金融緩和をせずに、賃金だげあげる政策をとり、雇用が激減して大失敗しています。

これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
文在寅大統領誕生に歓喜した韓国の若者、日本へ出稼ぎを検討―【私の論評】枝野理論では駄目!韓国がすぐにやるべきは量的金融緩和!これに尽きる(゚д゚)!
立憲民主党枝野代表

詳細はこの記事をご覧いただくものとして、枝野氏も、雇用等に関しては蓮舫氏と同じような考えであり、実質賃金ばかりを問題にする傾向があります。以下にそのあたりがわかるような内容の部分のみを引用します。
枝野氏には金融緩和という考えは全くありません。金融緩和をせずに、分配を増やすというのはどういうことかといえば、結局のところ韓国の実施した「金融緩和をせずに最低賃金」をあげるというのと何も変わりません。 
枝野氏をはじめとするリベラルの雇用政策は韓国で実行され、大失敗したということです。 
ブログ冒頭の韓国の若者の悲惨な状況を改善し、日本のように大卒の就職率を良くするには、分配や最低賃金を最初にあげるのではなく、まずは量的金融緩和を実施すべきです。
いずれにせよ、枝野氏も蓮舫氏も虚妄に凝り固まっており、金融緩和などは実施せずに、分配を増やす、最低賃金を増やすなどの破滅的な政策を主張しています。立憲民主党が主張する経済政策を実行すれば、またぞろ大学生の就活が地獄になるのは明らかです。

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