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2019年7月18日木曜日

「親中」に逆風が吹き始めた台湾総統選―【私の論評】台湾では、宗族の良い要素だけが残ったため、民主化が実現されている(゚д゚)!


民進党・蔡英文と国民党・韓国瑜の対決は“米中代理戦争”に

台湾総統選挙に向けた国民党予備選で勝利した韓国瑜・高雄市長

台湾・高雄市の現職市長、韓国瑜(かん・こくゆ/ハン・クオユ)が来年(2020年)1月の台湾総統選の国民党候補となった。民進党の候補は現職総統の蔡英文。鳴り物入りで国民党候補の予備選出馬を表明していたフォックスコン(鴻海精密工業)会長の郭台銘が選ばれなかったのは、おそらく香港の「反送中デモ」の盛り上がりが台湾世論に影響したせいもあるかもしれない。

 なぜ郭台銘が国民党候補に選ばれなかったのか、韓国瑜が出馬することで台湾の情勢はどう動くのか、考えてみよう。

人気が失速した「親中」郭台銘

 国民党の総統候補選びは党員による選挙ではなく、一般有権者への民意調査で決められた。一般市民の固定電話1.5万軒を対象に7月8日から1週間、5人の国民党総統候補の中でどの候補者を支持するか調査が行われ、15日に発表された。その結果、韓国瑜の支持率が44.8%と圧勝。郭台銘は27.7%と第2位だったが、17%も差をつけられた。ちなみに朱立倫(しゅ・りつりん)支持は17.9%。

 7月10日に行われたメディアによる民間の調査では韓国瑜支持者が41.9%、郭台銘支持者が32.1%で9%の差がついていた。郭台銘はこのとき「絶対信じられない。これはサンプルの取り方がおかしいんだ」とムキになっていたが、今回の民意調査で、郭台銘は本人が思っているほど人気がないことがさらにはっきりしたわけだ。

 韓国瑜は記者会見で、「総統候補予備選に勝ったからといって全く嬉しくもない。ただ重圧を感じるだけだ」とコメント。一方、郭台銘はよほどショックだったのか、会見時は「すまない・・・」と言って涙を拭いて鼻をかみ、「台銘を選べば台湾は幸せになれたが、台銘を選ばなければ、台銘(私)が幸せだということだ」と悔しさをにじませた。さらに「韓市長には歴史的な地位を築いてほしい。3期連続任期を果たしてほしい。そのための協力を惜しまない」とエールを送った。

 さて、なぜ郭台銘は敗れたのだろうか。郭台銘の悔し泣きの涙が本物だとすると、彼自身は自分が総統候補になると信じていたのだろう。元々は「一番なりたくない職業、台湾総統」と言ってはばからなかった彼が、「媽祖のお告げ」などと神妙なことを言って国民党総統候補に名乗りを上げたのは、中国共産党の強い要望があったからだと言われている。だが、郭台銘の背後には中国共産党の影が見えすぎて、有権者だけでなく国民党員からも敬遠されたのではないか、と見られている。

 民意調査によれば、韓国瑜支持者は、実は国民党支持者ではなく韓国瑜個人のファンが多いらしい。台湾民放のTVBSの調べでは、韓国瑜は4月25日の段階で支持率44%。韓国瑜、蔡英文、柯文哲の誰に入れるか、という質問で「誰にも入れない」という答えは全体の8%だった。ここに韓国瑜の選択肢が無くなると「誰にも入れない」という答えは15%に跳ね上がる。韓国瑜だから投票する、韓国瑜が選挙にでないなら選挙に行かない、という熱烈な支持者が韓国瑜にはついている、ということだ。

 一方、郭台銘はその知名度やカリスマ性から中間層の票を取り込みやすいと信じられていたが、台湾有権者の間で中国に対する警戒心が強まったのが人気の失速につながった。いうまでもなく、香港の「反送中デモ」をきっかけに、中国の言う「一国二制度」の危うさがあらためて台湾人の意識に上ったことが大きい。

米国は蔡英文に肩入れ、米中代理戦争に

 多くのチャイナウォッチャーや国際政治学者たちの見立てでは、来年の台湾総統選挙は一種の“米中代理戦争”になると言われている。台湾淡江大学の黄兆年教授がBBCにこうコメントしている。「台湾総統選は台湾内部の政党同士の競争というだけでなく、国際強権同士の競争であり、つまりはワシントン VS. 北京の競争だ」。

 米国は蔡英文・民進党政権推しで、中国は国民党推しである。国民党主席の呉敦儀(ご・とんぎ)は、もし次の総統選で国民党が政権に返り咲けば、中国共産党の和平協議プロセスに入り、国共内戦の終結に区切りをつける意志を示している。

 共産党も国民党も「大中華主義」であり「一つの中国」を原則としている以上、この和平協議プロセスの行きつく先は中台統一である。その中台がたとえ「一国二制度」の名のもと、異なる政治システムを容認するという建前であっても、香港の「一国二制度」の現状をみれば、それが事実上、中国共産党による台湾の併呑(へいどん)という形に終わるという可能性は極めて強い。

 つまり、国民党政権が誕生すれば、中国が太平洋に進出するのを防ぐ橋頭堡の役割を果たしていた台湾が中国の一部になってしまい、米国のアジア戦略は根本から見直しを迫られる、ということになる。
 中国が郭台銘を国民党総統候補として本命に推していたのは、韓国瑜よりも郭台銘の方がコントロールしやすいと考えたからだと見られている。韓国瑜は今年3月に香港に赴き中央政府駐香港連絡弁公室(中聯弁)を訪問した初の台湾地方首長という意味で、親中派である。だが韓国瑜は所詮、地方政府の首長であり、外交政策や両岸政策(台中政策)を含む国際情勢についての定見はほとんどない。しかも、ポピュリスト政治家の典型である彼は、中国の思惑より台湾世論の風向きに敏感だ。台湾人は近年、経済利益よりも国家安全を重視する傾向が顕著で、これは6~7年前と比較して大きな変化といえる。そして台湾人の国家安全に対する要求は、具体的には米国との協力が絶対条件であると考えるようになっている。だから韓国瑜は、「国家安全は米国に頼り、市場は中国に頼り、技術は日本に頼る」という方針をあえて表明していた。中国にとっては、「中国との関係強化が台湾の最大の安全保障」と訴える郭台銘の方がいいに決まっている。

 だが、蔡英文 VS. 韓国瑜の一騎打ちの構造になるなら、米国は当然蔡英文に肩入れするだろうから、韓国瑜は中国との関係について時機を選んで態度を表明することになろう。韓国瑜にとっては、どの程度、親中的姿勢を見せるのが適当なのか、かなり悩ましいものになるかもしれない。

 蔡英文は先日、カリブ海諸国に外遊に行く途中、ニューヨークに立ち寄り2泊、帰りにデンバーで2泊と、異例の米国での長時間滞在を果たした。ニューヨークでは台湾と外交関係を持つ在外公館関係者や米台企業家と公式に会合をもち、また夜の宴会には米超党派議員5人も出席。コロンビア大学では、中国が提示する一国二制度を使った台湾統一のプロセスについて、香港の一国二制度の経験を例に挙げて、はっきりと否定する内容の演説を行った。これらは台湾現職総統としては異例の公式行事と言える。蔡英文にこれだけの活動を認めた米国政府は、明確に蔡英文総統の再選を支持しているというメッセージを発していると受け止められるだろう。
台湾の蔡英文総統

選挙戦の戦略に制限が出てきた韓国瑜
 さて、韓国瑜が国民党総統候補予備選に勝利して発した「嬉しくとも何ともない。プレッシャーがあるのみ」というコメントは本音であろう。いかに選挙巧者の韓国瑜であっても、米国を後ろ盾にもつ蔡英文に勝つのは簡単ではない。一番最近の民意調査によれば、蔡 VS. 韓の一騎打ち選挙になった場合、蔡英文支持率が45.9%、韓国瑜が39.0%と蔡英文が6.9ポイント、リードしている。ここに柯文哲や郭台銘が無所属で参戦したとしても、僅差ではあるが蔡英文リードは変わらない。
 もともと韓国瑜の方が人気が高かったはずだが、香港の「反逃亡条例改正案デモ」(反送中デモ)での影響で蔡英文への支持が優勢になった。理由は単純で、中国の一国二制度下にある香港で司法の独立や言論の自由が守られない厳しい現実を目の当たりにして、「ひょっとしたら中国とうまく『和平協議』をすることで、一国二制度下で、民主主義と中国との経済一体化による果実の両方を手に入れながら、中国からの軍事的恫喝も解消することができるのではないか」とゆれ動いていた台湾民意が、冷や水をかぶせられたように正気に戻ったからだ。こうなってくると、韓国瑜が掲げる“中国に頼る”経済振興政策に吸引力はなくなってくる。一応、香港デモについての立場を聞かれたときは「わからない」と、あいまいな態度をとり、中国に嫌われないように言葉を選んだが、このコメントは台湾内の支持をむしろ減らした。

 いまや香港では親中派を名乗るビジネスマンであっても、中国の機嫌を損ねることよりも、米国の香港人権・民主主義法によって香港の関税優遇措置などを撤回されることの方を恐れている状況だ。台湾とて、中国経済との接近を大々的に打ちだせば、米国を敵に回すことになるやもしれない。必ずしも親中的経済政策は台湾財界へのポジティブなメッセージにはならなくなってきたのだ。世界各国が今、「米国か中国か」という踏み絵を迫られているなか、すでに民主主義の果実を享受している台湾ビジネスマンたちも立場を明確にすることを恐れている。だから郭台銘ですら、香港の反中送デモの勢いを見て「一国二制度は失敗だ」と口走ったのだ。

 かといって、韓国瑜は国民党の方針に反して反中を打ち出すわけにもいかず、和平協議プロセスを否定するわけにもいかない。非常に選挙戦の戦略に制限が出てくる。これが米中代理戦争の要素がないならば、蔡英文の4年の政治・経済の失点をあげつらうだけでよかったのだが。

 国民党内部では、台湾の主権問題、両岸経済のテーマ、和平協議の方針などをもう一度すり合わせ、有権者の支持をえるための方策を練り直す必要が出てきた。だが、国民党の姿勢が変われば、今度は中国はどんな態度で出てくるか。

 また韓国瑜は昨年、高雄市長に当選したばかりで、高雄市を台湾一の大都市にするという公約を果たさずに、総統選候補となった。このことは、高雄市民や市議の不満を少なからず引き起こしている。高雄市の民進党系6団体は、韓国瑜に対する高雄市長罷免動議を出す準備をしているという話もある。韓国瑜には根強いファンがいるものの、この公約破りの後に、かつてのような韓流マジックを再び起こせるかはあやしい。

 今後の米中両国の台湾に対する出方によって、移ろいやすい台湾民意はまだまだ一転二転するかもしれない。台湾総統選は始まったばかり。その結果によって、日本の安全保障も大きく変わりうるわけだから、不安に揺れ動く台湾に共感をよせて、日本人も改めて民主と自由の価値を一緒に考えていく機会にしたらどうか。

【私の論評】台湾では、宗族の良い要素だけが残ったため、民主化が実現されている(゚д゚)!
台湾と大陸中国の対立といういうと、多くのメデアは単純化し、民主台湾と、中共一党独裁の大陸中国の対立という具合にみて報道しがちです。

現在の台湾は、大陸中国とは違い民主的な形態をとる国家です。なぜこの違いがでてきたのでしょうか。無論、現在の台湾はもともと大陸中国が支配していたわけでもなく、そこに国共内戦で負けた蒋介石率いる中国国民党軍が入り、台湾民主主義共和国を樹立したのがはじまりです。その前は、日本が統治していました。その前は、台湾が大陸中国に属していたというはっきりした歴史的記録はありません。

台湾初代総統 蒋介石

そうして、この両者には民主主義と、一党独裁主義の違いの他に、もっと根底的な社会構造の違いがあります。

それは、宗族のあり方の違いです。台湾には宗族の伝統は残っていますが、大陸中国のような残り方はしていません。そこが、大陸中国との根本的な違いです。

ちなみに、大陸中国の宗族については昨日このブログに掲載したばかりですので、そこから下に宗族に関する部分のみ引用します。
宗族(そうぞく)とは、中国の父系の同族集団。同祖、同姓であり、祭祀を共通にし、同姓不婚の氏族外婚制をたてまえとするものです。同じく血縁でも母系は入らず、女系は排除されます。 
したがっていわゆる親族のうちの一つであっても、親族そのものではありません。文献では前2世紀頃あるいは3世紀頃からみえます。同族を統率する1人の族長の支配下におかれ、族内の重要問題は,同族分派の各首長 (房長) らによる長老会議または族人による同族会議が召集され、協議決定されました。

宗族は往々集団をなして同族集落を構成し、その傾向は華中、華南に強く、1村をあげて同族であることも少くありませんでした。その場合、閉鎖的で排他性が強く、利害の衝突から集落相互間に争いを引起すこともありました。また同族結合の物的基礎として、共同の祖先を祀る宗祠設立のほか、義荘,祭田の設置、族譜 (宗譜) の編集なども行われました。
・・・・・・・・・・・・・・・・ 
中国人にとって、今でも一族の利益、一族の繁栄はすべてであり、至高の価値なのです。それを守るためにはどんな悪事でも平気で働 くし、それを邪魔する者なら誰でも平気で殺してしまうのです。一族にとっては天下国家も公的権力もすべてが利用すべき道具であり、 社会と人民は所詮、一族の繁栄のために収奪の対象でしかないのです。 
だから「究極のエゴイズム」を追い求め、一族の誰かが権力を握れば、それに群がり、もし失脚すれば、一族全員がその道連れ となって破滅するのです。 
習近平と王岐山一族が、いま何をやっているか、なぜそうなのか。正に宗族の論理によって突き動かされ、一族だけの利権を追 求し、一族だけが繁栄を究めているのです。 
中国共産党が『宗族』を殲滅したのではなく、むしろ、宗族の行動原理は生き残った上で、党の中国共産党政権自身を支配しているのです。中国における宗族制度の原理の生命力はそれほど堅忍不抜なものであり、宗族は永遠不滅なのです。 
中国人は、現代日本人の感性や規範、道徳、しきたりとまったく異なる伝統を今でも保持しているのです。
現在の台湾では、宗族の伝統は残ってはいますが、中国のように「究極のエゴイズム」を追い求めるような存在ではありません。

台湾においても、従来の宗族は儒教を通して、祖先崇拝、族長の統治、系譜の存在、一族の互助、家廟、祀堂場所の建立など、宗族の組織は非常に厳密でした。宗族員の結合は堅く、宗族の機能も広汎でした。

しかし、古くは日本統治、最近では産業の進展にともない、宗族の構成は大きく変化しました。

喪失して要素としては、族長権威と、共有財産です。持続されている要素としては、祭祀と墓参りです。残存要素としては、豊かな人間関係、経済の援助、系譜の尊重などです。

台湾では、宗族の良い要素だけが残ったようです。ここが、宗族の伝統の悪い面も根強く残り、中国共産党をも支配している大陸中国とは、対照的です。

台湾では、宗族の構成が大きく変化したからこそ、まがりなりにも民主主義が根付いているということができます。

ちなみに韓国も宗族の概念が今でも息づいています。いくつかの宗族は、ソウル市内に各々「何々宗親会」の事務所をかまえています。いわば宗族互助組織です。それこそ同宗族の子弟の、進学のための奨学金や就職の面倒まで、これがみるのです。

韓国の宗廟 昌徳宮(チャンドックン)

また各宗族は「族譜(チョクポ)」とよばれる家系図を有し、自己の家系に著名な人物のいることを誇るのです。婚姻の際にはこの族譜をたがいに見せあい、家格の妥当性をさぐりあいます。もちろん、悠久の歴史をへているのであるから、改竄もくわえられ、族譜の売買もおこなわれています。ここが、台湾と韓国との違いでもあるようです。これについては、述べるとながくなりますので、また機会を改めて掲載させていただきます。

台湾の総統選挙で、国民党が勝利すれば、やがて大陸中国に支配され、悪しき宗族の伝統が復活し、台湾の社会を後戻りさせてしまうことにもなりかねません。そうなると、現在の台湾のような民主的な社会をつくり出すことは困難になるでしょう。

それだけ、次の台湾の総統選挙は重要なものなのです。

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2019年7月17日水曜日

まさに血で血を洗う戦い!? “独立王国化”する中国マフィア…共産党は“容赦なき”取り締まり ―【私の論評】宗廟、宗族を理解しなけば、中国社会を理解できない(゚д゚)!

まさに血で血を洗う戦い!? “独立王国化”する中国マフィア…共産党は“容赦なき”取り締まり 

この土地には、共産党の権力など及んでいない--。

 こんな大胆な発言さえ聞こえてくるという。

 昨秋から、中国共産党が一段と力を入れて取り組んできたマフィア撲滅キャンペーンでの一幕である。

 問題はすでに各地で明らかであったが、湖北省での事件をきっかけに事態の深刻さを認識した中央が、徹底的な撲滅を指示したのである。

 キーワードは「掃黒」と「除悪」である。

 黒社会(ギャング)を打倒し、社会から悪を取り除く。だが、実態は字面以上に恐ろしい。

中国の黒社会

 というのも社会に浸透した組織犯罪が目に余るレベルに達し、独立王国化しているためだ。

 そもそも中国では地方の当地の権力者と地回りのヤクザが結びつきやすいという歴史がある。

 古くから、「游侠」という言葉があったように、中央から派遣されてきた官僚も、こうした地方の勢力と対立しては、うまく土地を経営できなかったというのが実態だったからだ。

 今年建国70周年を迎える中華人民共和国も、建国から5年間は、ひたすら地下に巣くう秘密結社の退治(これはマフィアの進化形とされる)に費やされたとも言われている。まさに血で血を洗う凄まじい戦いだったともいわれている。

 中国のマフィアが日本の暴力団と違うのは、単なる犯罪集団の枠を超えて、地域のルール形成にも役割を担っているからである。

 今回のマフィア退治の過程でもいくつかの例が明らかになっているが、一部の権力者はマフィアと結びつくだけでなく、貧しい者に金を配るなど義賊的な手法で人心掌握にもぬかりはないというから恐ろしい。

 それだから中央から派遣されてきた公安が地元の協力を全く得られないどころか、追い返そうとする事態にまでなっているというから頭が痛い。

 だが有史以来、中国共産党がギャングの跋扈跳梁を許したことはない。取り締まる側のやり口も容赦ない。

今年中国のネット上に(公文書)の形で「“掃黒除悪十二類重点打撃対象(“掃黒”・
“除悪”12種類の主要な打撃対象)」と題するビラが掲載され、主要な打撃対象と
なる12種類の「黒悪勢力(暴力団・悪人勢力)」の詳細が箇条書きで示された。

 3月28日、湖北省の武穴市公安局は同市梅川鎮の書記・程少徳を筆頭に息子など7人の組織メンバーを逮捕したと公表したのだが、驚いたことに、その情報公開の資料の末尾には、「彼らの罪について知っていることを通報してほしい」との市民への呼びかけが記されていたことだ。

 とりあえず逮捕して、その後で罪を募集したというわけじゃないだろうが、この機会に徹底的に罪を重くして葬ってやろうとの決意が伝わってくる。まさに問答無用な大鉈が振り下ろされているのである。

 中国の権力の恐ろしさがよくわかるが、その一方では「天網恢恢疎にして漏らさず」などといいながらきっちり逃げおおせているやくざがいるのを見ると、中国の広さをあらためて実感させられるのだ。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学してジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍たのち、週刊誌記者などを経の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

【私の論評】宗廟、宗族を理解しなけば、中国社会を理解できない(゚д゚)!

中国でなぜ黒社会がはびこるのか、それは中国の独特の社会を理解しないと永遠にわからないと思います。そもそも、宗廟、宗族がわからないと中国の伝統文化や社会の源流が理解できないです。

まずは、宗廟(そうびょう)とは、中国において、氏族が先祖に対する祭祀を行う廟のことです。中国の歴代王朝においては、廟号が宗廟での祭祀の際に使われます。日本では、台湾の台中にある林氏宗廟や、世界遺産に登録されている朝鮮王朝(李氏朝鮮)の李氏宗廟が有名です。

宗族(そうぞく)とは、中国の父系の同族集団。同祖、同姓であり、祭祀を共通にし、同姓不婚の氏族外婚制をたてまえとするものです。同じく血縁でも母系は入らず、女系は排除されます。

したがっていわゆる親族のうちの一つであっても、親族そのものではありません。文献では前2世紀頃あるいは3世紀頃からみえます。同族を統率する1人の族長の支配下におかれ、族内の重要問題は,同族分派の各首長 (房長) らによる長老会議または族人による同族会議が召集され、協議決定されました。

宗族は往々集団をなして同族集落を構成し、その傾向は華中、華南に強く、1村をあげて同族であることも少くありませんでした。その場合、閉鎖的で排他性が強く、利害の衝突から集落相互間に争いを引起すこともありました。また同族結合の物的基礎として、共同の祖先を祀る宗祠設立のほか、義荘,祭田の設置、族譜 (宗譜) の編集なども行われました。

これらが、本当に理解できていないと、彼らの「戦争も腐敗も善とな る」という、日本人にはとても理解しがたい、怖ろしい論理を知ることはできません。この原論は世界に散った華僑の 世界にいまも生きています。

華僑がマレーシアから引き離して独立させた人口国家が現在の都市国家シンガポールです。現在ではトランプと金正恩の首脳会談やら、シャン グリラ対話の開催地として、多くの日本人にとっては「国際都市」の好印象を持たれ、グローバルシティのイメージがあるようでず、どっこい、この華僑の都市 になぜかチャイナタウンがあります。「チャイナタウン in チャイナタウン」です。

時間をかけてシンガポールの下町をゆっくりと町を歩いた人であれば、誰で奇妙なことに気がついたと思います。通りの名前です。金門通り、寧波通 り、等等ですつまり出身地別に居住区が異なるのです。

広東省の省都・広州市のど真ん中に観光名所「陳氏書院」があります。立派なお屋敷跡です。じつはこの陳氏書院とは陳氏宗廟な のです。



ミャンマーの下町に宏大に拡がるチャイナタウンも華僑の街です。横丁を丁寧にあるいてみると、ある、ある。李氏宗家とか、黄 氏宗廟とか、一族の名前が建物の入り口に冠されています。古都マンダレーへ行くと雲南会館とか、四川友好会館とかの立派な建物 があちこちに目に飛びこんできます。

そして中国のいたるところ、宗廟があって、世界中に散った一族が集まる習慣がいまも確然として残っているのです

これが、宗族、日本人に分かりやすく言えば、「一族イズム」です。

中国人にとって、今でも一族の利益、一族の繁栄はすべてであり、至高の価値なのです。それを守るためにはどんな悪事でも平気で働 くし、それを邪魔する者なら誰でも平気で殺してしまうのです。一族にとっては天下国家も公的権力もすべてが利用すべき道具であり、 社会と人民は所詮、一族の繁栄のために収奪の対象でしかないのです。

だから「究極のエゴイズム」を追い求め、一族の誰かが権力を握れば、それに群がり、もし失脚すれば、一族全員がその道連れ となって破滅するのです。

習近平と王岐山一族が、いま何をやっているか、なぜそうなのか。正に宗族の論理によって突き動かされ、一族だけの利権を追 求し、一族だけが繁栄を究めているのです。

中国共産党が『宗族』を殲滅したのではなく、むしろ、宗族の行動原理は生き残った上で、党の中国共産党政権自身を支配しているのです。中国における宗族制度の原理の生命力はそれほど堅忍不抜なものであり、宗族は永遠不滅なのです。

中国人は、現代日本人の感性や規範、道徳、しきたりとまったく異なる伝統を今でも保持しているのです。

いわゆる黒社会も、この宗族とは無縁ではないです。習近平の宗族は運良く、共産党を支配することができましたが、そうではない宗族で、これに反対したり、反対者とみなされる宗族が、黒社会を形成しているのです。

中国は昔から、そうして現在も宗族が中心となって、社会を構築してきました。こうした中国の本質にからみると、共産主義も、資本主義も、政府も、憲法も法律もいや国そのものですらどうでも良いことなのです。一番重要なのは、自らから属する宗族なのです。

中国農村部の老人

宗族のために生き、宗族のために働き、宗族のために死ぬのです。これが中国社会の本質であり、だからこそ、中国は現在先進国では当然とされている、国民国家とは程遠い組織であり、先進国では当たり前の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もできないのです。

そのため、先進国とは永遠に理解し合えることはないのです。これを実現するためには、まずは宗族を廃止して、近代的な国民国家を設置しなければならないのです。しかし、そのようなことはできそうもありません。

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