2016参院選で改選過半数を獲得し、喜ぶ安倍晋三首相 |
野党がダメなのは、アベノミクスの第一の矢である金融政策をわかっていないところに根本原因がある。金融政策として重要なのは雇用政策だというのは、世界標準である。欧州の左派政党が最も重視する政策であるが、日本の左派政党はここがわからない。理解できていない人ばかりが日本の左派政党の幹部になっている。
もちろん民進党のなかにも、金融政策が雇用政策であることをよくわかっている人もいる。金子洋一氏である。彼は元内閣府官僚であり、国際経験も豊かなエコノミストだ。左派政党に必要な希有な人材を、今回の選挙で失ってしまった。ますます民進党が復活する可能性は少なくなったにちがいない。
安倍晋三政権は早速動き出した。安倍首相は12日、参院選で訴えた経済対策の準備に入るよう石原伸晃経済再生担当相に指示した。財源を心配するマスコミ報道もあるが、実はヘリコプターマネーの手法を使うと、それほど心配することもない。欧州などでヘリコプターマネーをめぐる議論が浮上しているが、これは中央銀行がカネを刷ってヘリコプターから人々にばらまくようなものだ。
ただし、実際にこれを行うのは難しい。「いつどこにヘリコプターがお金を撒くのか教えてほしい」というジョークすらある。現在のように中央銀行と政府が役割分担している世界では、中央銀行が新発国債を直接引き受けることで財政赤字を賄うことを指す場合が多い。
このアイデアはかつてノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマン氏によって論じられ、2003年にベン・バーナンキ氏(当時FRB<米連邦準備制度理事会>理事、その後同議長)によって再び取り上げられたものである。
バーナンキ氏は名目金利ゼロに直面していた日本経済再生のためのアドバイスとして取り上げたのだが、具体的には国民への給付金支給や企業に対する減税を国債発行で賄い、同時に中央銀行がその国債の買い入れることを提案している。中央銀行が国債を買い入れると通貨が発行されるので、中央銀行と政府のそれぞれの行動を合わせてみれば、中央銀行の発行した通貨が給付金や減税を通じて国民や企業にばら撒かれることになる。その意味で、バーナンキ氏の日本経済に対する提案はヘリコプターマネーというわけだ。
財政赤字悪化を伴わない
この方法は、実質的な政府の債務残高を増加させないし、家計・企業は減税に伴う将来の増税懸念がないというメリットがあるため消費が増加する。金融政策と財政政策は名目消費を押し上げ、それが一般物価を押し上げる。
もちろん、この政策は国債の貨幣化であり、過度に行えばインフレを招くだけであるが、デフレによって悩まされているのであれば、経済回復を促進することになる。しかも先進国ではインフレ目標という歯止めもあるので、インフレが過度に加熱しコントロールできなくなる恐れもない。
もっとも日本では、政府が国債発行によって補正予算をつくるとともに、日銀が国債買いオペによって量的緩和を行えばいい。今の国内GDPギャップが10兆円程度であることを考慮すれば、20兆円の国債発行による補正予算と同額の量的緩和であれば、今後の経済を活性化するはずだ。
しかも、ひどいインフレにもなりにくい。この財政政策と金融政策の合わせ技は、実質的な債務残高の増加にならず、財政赤字悪化にならない。日銀保有国債については、利払い費や償還負担が発生しないからだ。この方法は、インフレ率が低い時には弊害がないのがいい。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)
【私の論評】ヘリマネは、新しい概念でもなんでもない!2014年4月以前のアベノミクスに原点復帰すること(゚д゚)!
ヘリコプターマネーについては、上の記事でも解説していましたが、再度説明します。
ヘリコプターマネーは、ノーベル経済学賞受賞の米経済学者、ミルトン・フリードマン氏(故人)が1969年に提唱しました。中央銀行はお札を刷って市中銀行に供給します。デフレ圧力が強いと、カネは銀行から家計や企業に細々としか流れないのでデフレが慢性化します。そこで中央銀行資金を政府財政に回せば迅速に家計や企業に行き渡らせられるので景気がよくなる-というもので、ヘリコプターからカネを大量に散布する寓話(ぐうわ)に例えました。バーナンキ前FRB議長はフリードマン氏の弟子でもあります。
ミルトン・フリードマン氏ー |
前内閣官房参与の本田悦朗駐スイス大使が最近、首相に「今がヘリマネーに踏み切るチャンスだ」と進言しました。
首相は本田氏らの勧めに応じて12日に官邸でバーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長と会談。菅義偉官房長官は記者会見で、ヘリマネーに関して「特段の言及があったとは承知していない」と述べましたた。一方で、バーナンキ氏が「金融緩和の手段はいろいろ存在する」と指摘したことを明らかにしました。
バーナンキ前FRB議長 |
バーナンキ氏は、2008年のリーマン・ショックでは、ただちにドル資金の大量発行に踏み切り、金融恐慌を終わらせ、米景気を回復させた実績を持ちます。
8%増税により、デフレ傾向で消費が萎縮する中で金融緩和しても、民間の借り入れ意欲は乏しいです。日銀は今年2月にマイナス金利政策を導入したのですが円高は止まりません。財政を活用しない限り、アベノミクスは効果を発揮できそうにありません。
黒田東彦日銀総裁も消極的ですが、日銀が金融機関保有の国債を買い上げる現行方式で、もヘリマネーと言って良いものです。アベノミクスの第一と第二を真面目にやればヘリコプターマネーです。つまり、2014年4月の前までアベノミクスは、ヘリマネと同意語と言っても良いです。ただし、2014年4月からは、消費税増税という緊縮財政をしてしまったということで、ヘリマネではなくなってしまいました。
黒田東彦日銀総裁 |
いまさらヘリマネというのは、従来のアベノミクスを真面目にやれということであって、決して新しい政策ではないということに注意すべきです。
日銀は市場で買い取った国債を再売却せず、インフレが加速しないかぎり半永久的に保有するようにします。そうなると、政府の債務増加分は日銀の資産増加で相殺されるので、政府の債務は実質的に増えません。
そうして、インフレ率が一定程度上昇すれば、日銀は国債購入を打ち切り、政府が消費税率を引き上げるようにすれば、財政規律にも沿うことになります。
上記のことを理解できない、エコノミストや、野党の政治家や、マスコミなどが、ヘリマネなどというと、またまた頓珍漢で奇妙奇天烈なことを言い出し、財政破綻するとか、国債が暴落するとか騒ぎ出すことも十分考えられるので、菅義偉官房長官は記者会見で、ヘリマネーに関して「特段の言及があったとは承知していない」と述べたのは、そうした誤解によって国民が惑わされることを避けるためであると考えられます。
このようなこともあるので、政府としては、馬鹿で経済が理解できないエコノミストや、野党の政治家、マスコミなど騒がせないようにするため、アベノミクスの金融緩和を再度しっかりするということで、「ヘリマネ」などということば使わないほうが良いでしょう。
ヘリマネは結局最初のアベノミクスの第一の矢と、第二の矢を真面目にやるということ |
この言葉を使うのは、マクロ経済を正しく理解できる人たちの間だけで、馬鹿で愚かで、自分が経済を理解できていないことすら自覚していない人たちに邪魔されないようにすべきです。
そうして、実際に大成功し誰の目にもうまくいったと認識されたときに、「ヘリコプターマネー」という言葉を大々的に流布して、浸透させ、次に「ヘリコプターマネー」を実行しなければならない時がきたときに、やりやすいようにすべきと思います。
しかし、それでも、経済を理解できないエコノミストや、野党の政治家、マスコミなどの人たちは、理解できないかもしれません。彼らは、それを理解しないまま、棺桶に片足を突っ込むことになると思います。その時には、時代遅れの旧い人ということで、影響力も何もなくなったただのボケ老人として見られることになると思います。
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