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2024年5月30日木曜日

<米国・サウジの安全保障条約の機運高まる?>その背景と、実現阻み続ける多くの壁―【私の論評】安保条約締結による中東情勢の変化と日本へのプラス効果

<米国・サウジの安全保障条約の機運高まる?>その背景と、実現阻み続ける多くの壁

岡崎研究所

まとめ
  • 米国とサウジアラビアは安全保障条約の締結に向けて協議を進めている。当初は、サウジ・イスラエル間の国交正常化とパッケージにする構想があったが、ガザの衝突後、サウジの要求がイスラエルに受け入れられる状況ではなくなった。
  • サウジとの単独の安全保障条約では上院の支持を得られないと判断し、イスラエルとの関係正常化をパッケージにすることで上院の支持を得られると米国は考えていた。
  • しかし、米国・サウジ関係をさらに複雑化させるリスクがあるため、安全保障条約にイスラエル関係を絡めるべきではないとみられる。
  • 中東からの米軍撤退の中で、イランの脅威に対してGCC諸国の不安が高まり、サウジは米国との公式の安全保障条約を求めている。
  • 原油価格の高騰、中国への対抗、イランの核開発疑念などから、米国はサウジとの安全保障条約締結に前向きな雰囲気がある。

サウジアラビアを訪問したバイデン米大統領(左)。ムハマンド・ビン・サルマン皇太子(右)

 米国とサウジアラビアは、両国間の安全保障条約締結に向けて協議を進めている。当初は、この条約にサウジとイスラエルの国交正常化をパッケージングする構想があった。なぜなら、米国側はサウジとの単独の安全保障条約では上院の3分の2の支持を得られないと判断していたからだ。しかし、イスラエル・パレスチナ間のガザ地区での衝突後、サウジ側がイスラエルに求める要求事項がイスラエル側に受け入れられるものではなくなってしまった。

 この状況を受け、Foreign Policy誌のコラムニストは、米国がサウジとの安全保障条約締結の条件としてイスラエルとの関係正常化を要求すれば、既に複雑な米サウジ関係をさらに難しくしてしまう恐れがあると警告している。例えば、サウジがイランとの関係で微妙な対応をすればイスラエルを怒らせかねず、問題が生じる可能性がある。コラムニストは、条約締結にイスラエル問題を絡めるべきではないと主張する。

 一方で、中東からの米軍撤退が進む中、イランの脅威に曝されているGCC諸国(Gulf Cooperation Council”の略で、日本語では「湾岸協力会議」と呼ばれ、1981年5月に設立された、中東・アラビア湾岸地域における地域協力機構をいう。現在、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタール、バーレーン、オマーンの6カ国が参加している)の不安が高まっている。

 特にサウジは、米国との公式な安全保障条約締結を強く求めている。サウジ側の懸念として、2019年にフーシー派から攻撃を受けた際、トランプ前政権が適切に対応してくれなかったことが挙げられる。また、原油価格の高騰、中国の台頭への対抗、イランの核開発の疑念なども、米国がサウジとの安全保障条約締結に前のめりになっている要因だろう。バイデン政権は当初、イラン核合意の復活を目指していたが、イラン側にその意思がないと判断し、イランを封じ込める方針に転換したようだ。

 さらに米国とサウジは、原子力協力の分野でも協定締結に向け協議を進めているが、サウジの要求がサウジによる核武装につながる可能性があり、警戒が必要とされている。全体として、地政学的な駆け引きの中で、米サウジ両国の安全保障上の利害が一致し、条約締結に向けた機運が高まっていると言えるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】安保条約締結による中東情勢の変化と日本へのプラス効果

まとめ
  • 米国とサウジアラビアの安全保障条約は、イランの影響力抑制や核開発阻止に重要な役割を果たす。
  • サウジはOPECの中心国であり、エネルギー安全保障のために米国と緊密な関係を維持する必要がある。
  • サウジとの同盟強化は、中国やロシアの中東での影響力低下につながる。
  • 同盟により、米国は中東でのプレゼンスを強化し、地域の勢力均衡を保つことができる。
  • 日本にとって、エネルギー供給の安定化や中東での発言力強化というメリットがあり、米サウジ安保条約はプラスの影響をもたらす。


サウジ・イスラエル国交正常化をパッケージに含まなくても、米国とサウジアラビアが安全保障条約を締結することには大きな意義があります。

なぜなら、イランの影響力を抑制し核開発を阻止する上で、サウジアラビアは地理的にも政治的にも重要な役割を担っているためです。サウジとの同盟関係を公式化し、中東地域の勢力均衡を維持することが不可欠だからです。

さらに、サウジはOPECの中核国であり、米国のエネルギー安全保障を確保する上で緊密な関係を持つ必要があります。加えて、中国の中東における影響力拡大に対抗するため、米国がサウジとの同盟を強化することは戦略的に重要です。

また、同盟国サウジに軍事施設を置くことで、米国は中東地域でのプレゼンスを維持できます。このように、イスラエル関係を含まなくても、サウジとの安全保障条約締結により、米国は中東政策を礎づけ、様々な戦略的利益を得ることができるのです。

米国とサウジアラビアが安全保障条約を締結すれば、中東地域の地政学的バランスに大きな影響を及ぼすことになります。

まずサウジはイランの長年のライバル国であり、米国がサウジと公式に安全保障同盟を結べば、イランはより一層孤立無援の状況に追い込まれ、米国の対イラン圧力が強まる可能性があります。

一方でサウジはパレスチナ問題をめぐりイスラエルとの確執があるため、サウジが事実上米イスラエル陣営に加わることで、イスラエルとの緊張がさらに高まるリスクがあります。

また、サウジはGCC(湾岸協力会議)の中核国であり、米国とサウジが安保同盟を結べば、GCC諸国の求心力が高まり、米国の影響力が中東で増大する可能性があります。

GCC諸国位置関係

さらに、サウジはロシアや中国とも一定の関係を持っていますが、米国との安保条約締結でその関係が希薄化すれば、中東におけるロシア・中国の発言力が相対的に低下するでしょう。そして何より、米サウジvs.イランという構図が鮮明になれば、中東情勢がさらに二極化し、緊張が高まる恐れがあり、中東和平にも影響が出るかもしれません。

このように米サウジ安保条約は、中東の勢力バランスに大きな変化をもたらし、新たな緊張関係を生む可能性があります。

米国とサウジアラビアが安全保障条約を締結すれば、中東地域の地政学的な緊張関係の構図に大きな変化がもたらされるでしょう。現状でもイランをめぐる緊張は高まっていますが、サウジがより公式に米国の同盟国となれば、米国対イラン、サウジ対イランという緊張の軸が一層鮮明になります。

一方で、イスラエルとの関係においては、従来サウジはパレスチナ問題で確執があり緊張関係にありましたが、米国の同盟国となれば、サウジはイスラエルとの緊張を避ける必要に迫られるかもしれません。

なぜなら、安保条約によりサウジ側にとってイスラエルとの関係正常化は中東の新たな安定した秩序構築に貢献できる現実的な選択肢となるからです。また、サウジとイスラエルの共通の懸念事項であるイランの影響力拡大に対して、安保条約を拠り所にイスラエルとの関係改善を通じてイランへの圧力を強めることができます。

さらに、米国がサウジの同盟国となれば、国交正常化に向けた仲介の地位が確かなものになり、サウジの安全保障上の懸念も払拭しやすくなるでしょう。加えて、親米路線が確実になれば、サウジ国内の反イスラエル空気が和らぎ、正常化への機運が高まる可能性があります。ただし、パレスチナ問題の溝は根深いため、国交正常化に直ちにつながるかは不透明ですが、安保条約はそうした動きを後押しする好材料になり得るでしょう。

このように緊張の構造や質それ自体が変化する中で、サウジがGCC諸国の求心力を高め、結果として米国の中東における影響力が増大する可能性があります。また、サウジがロシアや中国との関係を切り離されれば、中東における両国の発言力は相対的に低下するでしょう。

条約締結によって、緊張状況の程度自体は必ずしも現状を上回るわけではありませんが、その緊張の構造や質が米国や同盟国にとって有利な形に変化する可能性があると言えるでしょう。緊張を完全に解消することはできなくとも、望ましい方向へとコントロールできる素地は生まれる可能性は高いです。

護衛艦「あけぼの」とEU会場部隊との共同訓練 アデン湾

そうして、米サウジ安保条約の締結は日本にとって望ましいプラスの出来事であるといえます。

その理由は、第一に中東情勢が安定化し、エネルギー安全保障における最重要国サウジからの原油供給が持続できることです。日本にとってエネルギー安全保障は最重要課題の一つであり、この点では大きなメリットがあります。

第二に、日本は伝統的にアラブ諸国との関係を重視してきましたが、同時にイランにも一定の影響力を持っています。サウジとの関係強化によってイランへの牽制力が高まれば、中東における日本の発言力が保たれることになります。

一方で、パレスチナ問題への配慮や、治安面でのリスク増大など一部デメリットもありますが、日本はこれまでもそうした懸念材料を抱えながらも中東進出を続けてきました。サウジとの安保条約があれば、そうしたリスクへの対処が一層容易になると考えられます。

したがって、日本の立場から総合的に判断すれば、米サウジ安保条約締結はエネルギー安全保障と中東におけるプレゼンスの維持・強化につながり、プラスの効果が上回ると評価できます。

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2025年5月14日水曜日

トランプ大統領「対シリア制裁」解除、サウジの要請で...シャラア暫定大統領との面会控え、政策転換—【私の論評】トランプのシリア戦略:トルコとサウジ拮抗で中国を狙う賭け

トランプ大統領「対シリア制裁」解除、サウジの要請で...シャラア暫定大統領との面会控え、政策転換

まとめ
  • トランプのシリア制裁解除表明:トランプ大統領がサウジアラビアでシリア制裁の全面解除を発表、サウジ皇太子の要請で政策を転換。14日にシリア暫定大統領とリヤドで会談予定。
  • シリア復興と国際的反応:シリア暫定政府が復興の転換点と歓迎、国連も紛争回復支援として支持。トランプ氏は和平合意を強調も詳細は未公表。

トランプ米大統領は5月13日、サウジアラビアの首都リヤドで演説し、シリアに対する制裁の解除を指示する方針を発表した。この決定はサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の要請を受けたもので、米国の対シリア政策の大幅な転換となる。

トランプ氏は、シリアに前進の機会を与えるため制裁を全面解除すると強調。シリア暫定政府のシェイバニ外相は、これが国民の復興の転換点になると歓迎した。国連もこの動きを支持し、シリアの紛争からの回復を助けると評価。トランプ氏は14日にシリアのシャラア暫定大統領とリヤドで会談予定。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプのシリア戦略:トルコとサウジ拮抗で中国を狙う賭け

まとめ
  • トランプの二つの決断:2025年5月13日、サウジの要請でシリア制裁を解除し、6000億ドルの投資を確保。2024年12月16日、「トルコがシリアの鍵」と発言。両者は中東を安定させ、中国との対峙に備える戦略だ。
  • トルコとサウジの拮抗:トルコの軍事力でシリアの治安を、サウジの資金で復興を担う。両者の対立(例:2018年カショギ事件)は綻びだが、トランプは意図的に競わせ、牽制すると見られる。
  • 中国対峙の狙い:シリアの安定で米軍撤退を可能にし、経済を強化。2019年の撤退や2020年のアブラハム合意の経験を活かし、中国との戦いに集中する。
  • 戦略の綻びとリスク:トルコの曖昧さ(ロシア・中国との関係)、トルコとサウジの対立、サウジ経済の不安定さがリスク。2017年、サウジがトランプのホテル(インターナショナル・ホテル、非トランプタワー)に支払い、利益相反が指摘された。
  • 日本の視点:シリアの安定はエネルギーや投資の好機だが、戦略の崩壊は日本にも影響。トランプの拮抗戦略の成否が中国との戦いを左右する。

トランプの巧妙な賭け

エルドアン トルコ大統領とトランプ米大統領

トランプ次期米大統領が大胆に動く。2025年5月13日、サウジアラビアのリヤドで、シリアへの長年の制裁を解除。サウジから6000億ドルの巨額投資を米国に引き出した。2024年12月16日、フロリダの私邸「マール・ア・ラーゴ」で、アサド政権崩壊後のシリアについて「トルコが鍵だ」と言い切った(本ブログ:『トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有―【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面』より)

二つの動きは繋がっている。トランプの狙いは中東を安定させ、中国との全面対決に備えることだ。トルコの軍事力とサウジの資金力を意図的に拮抗させ、米国が中東の泥沼に足を取られないようにする。戦略は鮮やかだが、綻びがある。だからこそ、トランプは両者を競わせる。この巧妙な賭けの全貌を、読者に明らかにする。

トルコとサウジ:拮抗による中東の安定


トルコ国旗(左)とサウジ国旗( 右)

トランプの戦略は、トルコとサウジを拮抗させることで中東を固める。サウジアラビアでの決断は衝撃的だ。シリアへの制裁を解除。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の要請に応じたこの一手は、シリア経済に息を吹き込む。シリア暫定政府のシェイバニ外相は「復興の転換点」と喝采を送り、国連も「10年以上の紛争からの回復に不可欠」と支持する(Reuters, 2025年5月14日)。

2018年、トランプがシリア復興への巨額拠出を求めた際、サウジは即座に応じる姿勢を見せた(Bloomberg, 2018年12月)。今、6000億ドルの投資で米国の経済とエネルギー安全保障を強化し、中国への依存を断つ。シリア内戦は難民危機やテロを撒き散らし、イランの台頭を許した。サウジの資金はシリアのインフラやエネルギー再建に注がれ、中東を安定させる。

トランプはトルコにも視線を向ける。2024年12月16日、「トルコがシリアの鍵だ」と断言。エルドアン大統領との絆とトルコ軍の力を称賛した。トルコはシリアと900キロの国境を接し、2016年以降の軍事作戦で北部を支配。「戦争で疲弊していない」トルコ軍は、過激派を抑え、シリアの治安を担う。2019年、トランプがシリアから米軍を一部引き揚げ、トルコにクルド対応を任せた実績が信頼の根拠だ(NYT, 2019年10月)。

2018年、トルコ人牧師の釈放をエルドアンと交渉し、経済制裁で成功させた絆も生きる(Washington Post, 2018年10月)。米国はシリア東部に900人の部隊を置くが、トランプは撤退を匂わせ、トルコに任せる。

トルコとサウジはライバルだ。スンニ派の主導権を争い、トルコはムスリム同胞団を支え、サウジは抑える(Al Jazeera, 2020年)。この対立は戦略の綻びだ。2018年のカショギ事件で両国はEducational history: 火花を散らし、中東の協力を乱した(Guardian, 2018年10月)。

トランプはこれを逆手に取る。トルコで治安を固め、サウジで復興を進める。両者を競わせ、どちらか一方が暴走すれば他方で牽制する。Xで、トランプが両国の指導者と協議して制裁解除を決めたと話題だ(
@chutononanika
, 2025年5月14日)。2017年、カタール危機でサウジとUAEをカタールにぶつけ、裏で軍事協力を維持した手法が、ここでも生きる(Reuters, 2017年6月)。この拮抗は、米国の負担を減らし、中国との戦いに備える。

中国対峙:トランプの真の狙い


トランプの視線は中東を越える。中国だ。米中対立は、貿易、技術、軍事、外交で火花を散らす。2025年5月14日、米中貿易協定が進んだが、トランプは圧力を緩めない(Reuters)。中東の混乱は、米軍や予算を吸い取り、中国との戦いで足を引っ張る。シリアの安定は、難民やテロのリスクを抑え、米軍の撤退を可能にする。

2019年、トランプはシリアからの撤退を「アメリカ・ファースト」と叫んだが、真の狙いは中東の負担を減らし、中国に集中することだった(Foreign Policy, 2019年12月)。サウジの6000億ドルは、米国の経済を強化し、中国からの資源依存を断つ。

トルコの軍事力は、NATOを固め、中国とロシアを牽制する。2020年、アブラハム合意で中東の和平を進め、国連で中国のウイグル問題を叩いた二正面作戦が、シリアで再現される(State Department, 2020年9月)。トランプの賭けは、中国との戦いの準備を整えることだ。

リスクと日本の視線

トランプの戦略は鮮やかだ。だが、綻びがあるからこそ、トルコとサウジを拮抗させる。トルコの曖昧さは大きな綻びだ。NATO加盟国だが、エルドアンはロシアのミサイルを買い、中国の一帯一路に色目を使う(Carnegie Endowment, 2024年)。2019年、トルコのシリア侵攻が米国との関係を冷やした(BBC, 2019年10月)。トルコが裏切れば、サウジの資金力で牽制する。

だが、トルコとサウジの対立が再燃すれば、シリアは混迷し、米国は中東に引き戻される。サウジの投資も盤石ではない。2023年のOPEC減産で揺れたサウジ経済は、資金の持続性を問う(IEA, 2023年)。Xでは、トランプの経済的動機を疑う声が上がる。2017年、サウジアラビア政府がトランプ・インターナショナル・ホテルに宿泊費などで多額の支払いを行い、利益相反が指摘された。これはトランプタワーへの投資ではなく、トランプのホテル事業への支出だ(Forbes, 2017年8月)。信頼が揺らげば、中国との戦いで米国の指導力は鈍る。

トランプはシリアで大きな賭けに出た。トルコとサウジの拮抗で中東を固め、中国との対決に全力を注ぐ。綻びを逆手に取り、両者を競わせる戦略は鮮やかだ。だが、トルコの裏切りやサウジとの対立、経済の揺らぎは計画を狂わせる火種だ。

日本にとって、シリアの安定はエネルギーや投資の好機だ。だが、トランプの戦略が崩れれば、その波は日本にも及ぶ。トランプは中国との戦いに勝てるのか。シリアの行方が、その答えを握る。

トランプの拮抗戦略は中国との戦いを制すると思うか。日本はどう動くべきか。あなたの考えをコメントで聞かせてほしい。

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米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開 2024年5月2日

2024年5月2日木曜日

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も

まとめ
  • 計画にはイスラエルをハマスとの戦争終結へと促す内容も
  • 合意に達すれば、サウジによる米国の最新兵器入手に道開く可能性

サウジのサルマン国王とバイデン米大統領(2022年7月)

 米国とサウジアラビアは、サウジに対する安全保障提供と引き換えに、サウジがイスラエルとの外交関係を樹立することを内容とする歴史的な協定で、合意に近づいているという。

 この協定が実現すれば、中東情勢に大きな影響を与えることが予想される。具体的には、イスラエルとサウジの安全保障が強化され、米国の中東における影響力が高まる一方で、イランや中国の影響力が低下する可能性がある。

 サウジ側は、この協定を通じて、これまでアクセスできなかった米国の最新兵器の購入が可能になると見られている。その一方で、ムハンマド皇太子は、米国の大規模投資を受け入れる代わりに、国内ネットワークから中国技術を排除し、民生用核プログラムでも米国の支援を仰がなければならない。

 米国は、この協定をイスラエルのネタニヤフ首相に提案する見込みだ。ネタニヤフ首相には、サウジとの正式な外交関係樹立と、この協定への参加か取り残されるかを選択を迫られることになる。ただし、ネタニヤフ首相が協定に参加する重大な条件は、ガザの紛争終結とパレスチナ国家樹立に向けた道筋への合意となるだろう。

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【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

まとめ
  • ハマスは、イスラエルとの平和を拒否し、サウジアラビアはファタハを支持する傾向があるため、米国とサウジアラビア間の平和協定に反対している。
  • トランプ政権下での中東政策が平和プロセスの基礎となっている。
  • 米国とサウジアラビアの協定が中東の安定に寄与する可能性がある。
  • この協定により、イランの影響力が減少することが期待される。
  • 中東の将来が明るくなる可能性がある。

ハマス戦闘員

私は、米・サウジアラビアの合意が近づきつつあることを察知したハマス側が、これを妨害しようとして紛争を起こしたのではないかと考えています。その根拠としては、以下のようなことが考えられます。
  • ハマスはイスラム主義過激組織であり、イスラエルの存在自体を認めていません。したがって、イスラエルとの和平合意を受け入れることは組織理念に反します。
  • ハマスはガザ地区を実効支配しており、和平合意が実現すればパレスチナ自治政府の権威が高まり、ハマスの勢力が相対的に失われるおそれがあります。
  • サウジはスンニ派の立場からハマスよりもファタハ(1957年にアラファトが中心となって組織したパレスチナ・ゲリラの武装組織)を支持する傾向にあり、ハマスとの対立構図があります。ハマスはサウジ主導の和平案には強く反発します。
  • サウジがイスラエルと国交を持つことは、イスラム教徒の聖地であるエルサレムの扱いにも影響を及ぼし、ハマスはこれを受け入れがたいと考えています。
  • イランは長年ハマスを支援してきましたが、最近はその軍事支援を控えめにしている模様です。それでもハマスはイランの勢力圏にあり、米主導の和平案には反対の立場です。

このように、ハマスには米・サウジ主導の和平合意に強く反発する理由が複数あり、そうした中で合意が現実味を帯びてきたため、紛争を起こすことでハマス側との交渉の可能性を排除させないようにしたものと考えられます。

このように、交渉の突然の再開や加速、サウジの対米協調路線への転換など、複数の事実が、ハマスの思惑とは反対に、むしろ和平交渉を前進させる契機となったようです。

現在の米国とサウジアラビアによる中東和平の動きは、トランプ前政権の取り組みが大きな礎となっていると考えられます。

具体的には以下の点が、トランプ政権の功績として挙げられるでしょう。

1. エルサレムをイスラエルの首都として認定:この決断は地域の現実を直視したもので、イスラエルとの強力な連携を世界に示しました。

2. イラン核合意への挑戦:オバマ政権による不適切な合意を見直し、イランへの厳格な制裁を実施しました。これにより、イランのテロ資金供給と地域の不安定化の能力が弱まりました。

3. ISISの壊滅:米国とそのパートナーの強力なリーダーシップにより、イラクとシリアでISISを大きく後退させ、いわゆるカリフ国家を崩壊させました。

4. アブラハム協定:イスラエルとアラブ首長国連邦・バーレーン間での国交正常化を仲介し、地域の平和と安定を促進する歴史的な一歩となりました。

5. エネルギー支配の実現:米国のエネルギー潜在力を最大限に活用し、エネルギー自立と純エネルギー輸出国となることで外交の地位を強化しました。

6. パレスチナ自治政府へのアプローチ:その腐敗と誠実な交渉の拒否を指摘し、資金提供の削減と外交使節団の閉鎖によって新たなスタンスを示しました。

7. サウジアラビアとの関係強化:地域の安定に対して極めて重要な役割を担うサウジアラビアとの関係を深め、イランの影響力に対抗しました。

これらは、トランプ政権の外交政策で達成された数多くの成功例の一部に過ぎません。米国が世界で大きなリーダーシップを発揮した事例です。

こうした施策が、現在の米サウジによる和平プロセスの地ならしとなり、中東有事における同盟国の肩入れを可能にしている側面は否定できません。

トランプ政権下でのアメリカとサウジアラビアの関係強化は、トランプ大統領の卓越した外交戦略と「アメリカ第一主義」への強固なコミットメントの賜物です。トランプ大統領はサウジアラビアとの戦略的同盟の重要性を理解し、交渉術を駆使して両国間の関係を強化し、繁栄への基盤を築きました。

この同盟の重点は、サウジアラビアへの武器売却や危険なイラン核合意への反対など、地域の安定と相互の利益追求にありました。数々の批判にも関わらず、現在の米国とサウジアラビアの進展はトランプ大統領の政策による直接的な成果であり、彼のビジョンとリーダーシップに感謝すべきです。


もし米国とサウジアラビアが主導する中東和平プロセスが実現すれば、中東地域に大きな変化が訪れると考えられます。

米国とエジプトの合意が中東地域の情勢を大きく変えるかもしれません。この合意は、米国のリーダーシップを示すもので、特にサウジアラビアとイスラエルの和解への影響が大きいでしょう。

これらの国が関係を正常化することで、地域の安定をもたらし、イランの脅威に立ち向かう強力な同盟を築くことができます。サウジアラビアがイスラエルを承認することは、長い間中東を苦しめてきた反ユダヤ主義に対する明確な拒絶であり、平和と希望の新たな扉を開く勇気ある一歩です。

米国からの全面的な支援と安全保障により、この新しい始まりを支えるべきです。これには、最新鋭の兵器システムの提供も含まれ、潜在的な脅威からサウジアラビアを守ります。

イランにとって、この合意はその地域での影響力を大きく弱めることになるでしょう。イランが長年にわたって近隣国に干渉し、不安定を招いてきたことに対し、サウジアラビアとイスラエルの強固な同盟が有効な歯止めとなります。

また、サウジアラビアが中国との距離を置くことで、自由な世界の側に立ち、中国共産党の抑圧的な手法に対してはっきりと反対の意志を示すことにもなります。

ネタニアフ イスラエル首相

イスラエルのネタニヤフ首相にとって、サウジアラビアとの国交正常化は歴史的なチャンスであり、より安定し繁栄する中東でイスラエルの地位を固める大きな一歩となります。パレスチナ問題に対しても、この合意はガザ紛争の終結と安全なパレスチナ国家の樹立を目指すもので、2国家解決を通じて永続的な平和への道を描きます。

この合意が実現すれば、中東は大きく変わり、より強固な団結と調和をもたらすことでしょう。イランと中国の影響力が弱まり、地域全体に明るい未来が開けることになります。これは大きな一歩であり、長い目で見れば平和と安定への大きな貢献となるでしょう。

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