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2023年7月12日水曜日

中国の罠にはまった玉城デニー知事、河野洋平氏ら訪中団 仕掛けられた「沖縄分断」に…米国とズレた甘い対応の日本政府―【私の論評】1980年代、中共は日本はやがて消滅するとみていた、それを変えたのが安倍元総理!この流れはもう誰にも変えられない(゚д゚)!

高橋洋一「日本の解き方」

2019年 玉城デニー沖縄県知事と、安倍総理

 日本国際貿易促進協会(会長・河野洋平元衆院議長)の訪中団に参加していた沖縄県の玉城デニー知事は先週、中国共産党序列2位の李強首相と会談した。

 しかし、玉城知事は尖閣諸島の問題に触れず、海警局船の連日の周辺海域侵入を黙認したと受け取られかねる状況になった。

 玉城知事は中国訪問時の査証(ビザ)の手続き簡素化や直行便再開を要請したが、米国務省は中国への渡航を再考すべきだと警告し、意見の相違が浮き彫りになっている。

 訪中団を歓待した習近平政権の狙いは政府と沖縄県を分断し、中国の影響力を高めることだと指摘されている。中国にとって沖縄は海洋進出にとって重要な拠点であり、玉城知事の訪中はその戦略の一環とみられている。

 玉城氏が訪中団に参加するのは2回目であり、中国側からの待遇は相当なものです。今回の訪問は台湾有事に備えた中国側の策略の一環とも考えられます。

 松野博一官房長官は6日の記者会見で、今回の河野氏と玉城氏が訪中し、李首相と会談したことに関し「歓迎する」と述べた。本来は「地方知事の行動にはコメントしない」とすべきでした。

 政府の対応には疑問が呈されており、米国は中国渡航について警戒を強めている。

 これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になっって下さい。

【私の論評】1980年代、中共は日本はやがて消滅するとみていた、それを変えたのが安倍元総理!この流れはもう誰にも変えられない(゚д゚)!

地球儀を俯瞰する外交 AI生成画像

都道府県知事などの外国訪問は国際親善に限定されるべきものであり、外交は外務省、場合によっては総理大臣が行うべきものです。

これにはいくつかの理由があります。第一に、外務省は効果的な外交を行うために必要な専門知識と経験を持っています。彼らは国際関係や異文化のニュアンスを深く理解しています。また、関係を構築し、日本の国益を増進するために利用できますし、世界中に張り巡らされた人脈も持っています。

第二に、外務省は国際舞台で日本を代表する責任があります。つまり、外務省には日本を代表して約束する権限があります。都道府県知事が外国の元首と約束をしても、日本政府を拘束するものではないです。これは混乱や誤解を招きかねないです。

最後に、外交政策に関しては、統一見解を維持することが重要です。日本政府の異なる部分が異なる国に対して異なる約束をすることは、国際舞台における日本の立場を弱めることになりかねないです。

もちろん、都道府県知事が外交目的で外国を訪問することが適切な場合もあります。例えば、当該国の地域の首長(道府県の知事や、市町村・特別区の長が)集まるサミットに知事が招待された場合、日本の利益を有意義な形で代表することができるかもしれないです。しかし、こうしたケースは例外であって、ルールではありません。

一般的に、外交は外務省が担当するのがベストです。そうすることで、日本の利益が効果的に代表され、国際舞台での統一戦線が確保されます。

外交とは、国家間の関係を築き、紛争を解決する技術です。世界における自国の地位を向上させ、自国の利益を促進し、他国とのパートナーシップを構築するのに役立つため、どの首相にとっても不可欠な手段です。

首相にとって外交には多くの利点があります。第一に、国際舞台での国のイメージ向上に役立ちます。首相が世界の指導者たちと会談し、関係を築くことは、その国が尊敬され、世界の舞台で活躍しているというメッセージを送ることになります。これは投資、観光、貿易の誘致に役立ちます。

第二に、外交は国の利益を促進するのに役立ちます。首相が他国と交渉する際、自国に有利な合意を取り付けようとすることができます。例えば、より良い貿易取引、新市場へのアクセス、安全保障問題での協力などを得ることができるかもしれないです。

第三に、外交は他国とのパートナーシップの構築に役立ちます。首相が他の世界の指導者と良好な関係を築けば、共通の目標に向かって協力しやすくなります。これは、気候変動、テロリズム、核拡散といった世界的な課題に取り組む際にも役立ちます。

ここで、安倍首相の外交について振り返っておきます。

2013年の訪米ではオバマ大統領と会談し、環太平洋経済連携協定(TPP)などさまざまな問題について話し合いました。

2014年の訪中では習近平国家主席と会談し、両国関係改善の方策について話し合いました。

2015年のインド訪問では、ナレンドラ・モディ首相と会談し、両国間の経済関係を強化する方法について話し合いました。


これらは、首相にとって外交がもたらすメリットのほんの一例にすぎないです。関係を築き、利益を促進し、パートナーシップを構築することで、外交は世界における国の地位を向上させ、目標を達成するのに役立ちます。

1956年から1987年まで中華人民共和国の副首相を務め、中国政府で最も権力のある人物の一人とされていた中国高官「陳雲」はオーストラリアを訪問したときに、日本についてある発言をしました。

その発言は、「日本という国はいずれ消滅する」というものです。彼は1982年、オーストラリアを訪問した際にこの発言をしました。彼は中国と日本の経済的な対立について語ったとされ、日本は「紙の虎」であり、いずれ崩壊するだろうと述べたとされています。

陳氏の発言は日本に対する脅しと広く解釈され、日本国内で大きな怒りを買いました。しかし、陳氏は後に、日本が文字通り消滅するという意味ではなく、いずれ経済的な優位性を失うという意味であったと、自身の発言を明らかにしています。

陳雲氏の発言は、中国と日本の長年のライバル関係を思い起こさせるものです。両国には複雑な歴史があり、経済問題や領土問題でしばしば対立してきました。しかし近年、両国は関係改善に努めてきました。

2008年、日中両国は自由貿易協定に調印し、気候変動や核不拡散などの問題でも協力しています。両国が歴史的な対立を乗り越え、真に平和的で協力的な関係を築けるかどうかは、まだわからないです。

ただ、陳雲は、「日本という国はいずれ消滅」すると語っており、現在からみると当時の日本野与党自民党はかなりリベラル色が色濃く、そのままであれば、確かにいずれ中国に何らかの形で飲み込まれてもおかしくはない状態でした。陳雲はそのことを語ったとみられます。そうして、当時の自民党の主流であったリベラル派のお粗末ぶりをみて、彼らは与しやすく、御しやすく本気でそう思っていたことでしよう。

このことに脅威を抱いた、安倍晋三氏が首相になってから、特に第二次安倍政権においては、安倍首相は地球儀を俯瞰する外交といわれたように、様々な国を訪問し、あれよあれよという間に、中国包囲網を構築してしまいました。しかも、中国にこれに対抗する暇も与えず、急速に構築したのです。

この包囲網は現在では、米国をはじめとする西側諸国を中心として、他の地域も巻き込んだ大規模なものになっています。これは、構造的変化といっても良いようなものになっています。

この流れを変えることは難しく、中国はかなり脅威を感じていることでしょう。だからこそデニー知事の訪問は、渡りに船であったのでしょう。

渡りに船 AI生成画像

ただ、安倍総理は、在任中に日本の同盟国や、親しい国々と中国のとの関係を、完璧に変えてしまいました。それも、根底から、質的に完璧に変えてしまいました。今や、中国が世界秩序を変えて、自分たちに都合の良い秩序を樹立しようと試みていることは、世界中の国々が理解するようになりました。これは安倍外交の成果です。

この流れは、デニー知事などの努力で到底変えられるものではありません。それは、韓国の文在寅前大統領が、北朝鮮との関係を改善しようとしたものの、結局のところ文は、金正恩掌で転がされ続け、結局金づるにされただけで、最後にかえって関係が悪化したことをみても理解できます。仮にデニー知事に賛同して、自民党の現在の重鎮たちがそれを変えようとしても、多くの国々がそれを許さないでしょう。 

ただ、韓国で文在寅が台頭したように、自民党のリベラル派やデニー知事などが台頭すれば、結局大きな流れは変えられないでしょうが、それでもかなり後退することになる可能性があることには留意すべきでしよう。

まさに、中国はこれを狙っているのでしょう。文在寅時代の韓国のように時代の潮流に乗り遅れることだけは避けるべきです。

せっかく安倍晋三氏によって、日本は存在感を増し世界の中でリーダーシップを発揮できるようになったのですから、これからも世界の中で先頭を走り続けるべきです。

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2023年7月10日月曜日

「多臓器不全」に陥った中国経済―【私の論評】何度でも言う!中国経済の低調の真の要因は、国際金融のトリレンマ(゚д゚)!

「多臓器不全」に陥った中国経済


 2023年7月6日、米国のイエレン財務長官が中国を訪問しました。これは、約5年ぶりのこと。

 同月1日、中国は「対外関係法」を施行しました。これは、習近平政権が長年、蓄積してきた外交原則(「戦狼外交」)を合法化し、米国の「ロングアーム管轄権」(被告が当該州に所在していない場合であっても、被告がその州に最小限度の関連がある時、当該州の裁判所に裁判管轄が認められる)への対抗を目的としている。

 中国経済が低迷する中、李強首相は多くの経済学者を集めて会議を開き、経済を救うための助言を求めた。

 専門家らは、李強率いる国務院(内閣)が今の中国経済をどうすることもできないと匙を投げた。問題の根源は中南海にあり、習主席が米国に対抗しようと固執している限り、経済危機は相次いで発生し、救済策はないと分析している。

 台湾のエコノミスト、呉嘉隆によれば、現在の中国経済は、(1)不動産価格の下落、(2)地方政府の債務過多、(3)外資の受注撤回と逃避、(4)雇用悪化、と複数の危機が同時に噴出し、いわば“多臓器不全”の状況ではないかという。

 呉嘉隆が指摘した問題点を具体的に述べてみよう。

 まず、第1に、米不動産コンサルティング大手、戴徳梁行(Cushman & Wakefield)は、深圳のトップ商業オフィスビルの空室率が2023年上半期には24.5%にものぼるとの新たなレポートを発表した。

 空室率の高さから、大家はテナントを誘致するため値下げに踏み切り、今年上半期の賃料水準は、2018年同期比で28.6%も急落し、中国メディアもより悲観的な予測を発表している。

 第2に、海外メディアは中国の地方政府債務をアジアでナンバー1の金融リスクに挙げている。専門家は、同リスクが最大の地雷原であり、中南海はこの地雷原がどれほどの大きさで、いつ爆発するかわからないため、現状を「だらだら引き延ばす」しかないという。

 7月3日、公債発行データによれば、今年上半期の地方債発行額は約4兆4000億元(約86兆6800億円)だったと、中国メディア『第一財経』が報じました。前年同期の5兆3000億元(約104兆4100億円)を約17%下回ったものの、依然として高水準にある。

 このうち、新規発行が約2兆7400億元(約53兆9780億円)、借換債が約1兆6200億元(約31兆9140億円)で、全体の約37%を占め、古い借金の返済に充てられている。

 なお、今年、地方政府の債務返済額は3兆6500億元(約71兆9050億円)にのぼるとみられる。

 第3に、2021年から現在に至るまで、国際市場と技術、管理、受注、国際協力、国際分業などによる中国の輸出主導経済発展の契機は消えてしまった。

 サプライチェーンはまだ全部は移転されていないので、東莞の工場などはまだ一部残っている。問題の核心は、欧米市場からの注文が徐々に減っている点ではないか。

 注文がなくなり、労働者が解雇され、工場が倒産し、その機械設備や工場だけが残る。もし誰かがそれらを買収しなければ、スクラップとなって中国経済バブルの残骸となるだろう。
第4に、中国人力資源・社会保障部の予測によると、2023年の中国の大学卒業者は1158万人に達し、新記録を樹立するという。

 目を見張るのは、「BOSSダイレクト・リクルートメント」が第1四半期だけで1461万人の新規ユーザーを獲得し、前年同期比57.5%増と急増した。多くの人が仕事を失って転職市場に押し寄せている証とみられる。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】何度でも言う!中国経済の低調の真の要因は、国際金融のトリレンマ(゚д゚)!

私にとっては、上の記事は驚きです。多くの識者やマスコミ等は、中国経済の現象面だけを捉えていて、根本原因を述べません。国際金融のトリレンマは中国の経済政策にとって大きな制約であり、中国経済がこのような困難な状況に陥っている主なというか、最大の原因の一つです。

悪化する中国経済 AI生成画像

国際金融のトリレンマについては、このブログの読者であれば、過去に何度か説明させていただいたので、ご存知とは思いますが、ご存知ない方のために再度以下に説明します。国際金融のトリレンマとは、ある国が同時に以下の3つの政策を同時に実行することはできないという経済学の概念です。できるのは、せいぜい2つの政策です。概念とはいいながら、数学的にも経験則的にも証明されています。
  1. 固定為替レート
  2. 独立した金融政策
  3. 自由な資本移動
ある国が固定相場制を維持したいなら、独立した金融政策を持つことを諦めなければならないです。なぜなら、為替レートを固定したいのであれば、外国為替市場に介入して自国通貨を売り買いしなければならないからです。この介入は、その国の金融政策に大きな影響を与える可能性があります。

例えば、ある国が為替レートの固定を維持したいと考え、自国通貨の価値が下がり始めた場合、中央銀行は自国通貨を買って価値を下支えする必要があるかもしれないです。これによって国内の通貨供給量が増え、インフレにつながる可能性があります。

同様に、ある国が独立した金融政策を望むのであれば、為替レートを固定することをあきらめなければならないです。中央銀行が金利の上げ下げを可能にしたいのであれば、固定為替レートに縛られるわけにはいかないからです。

最後に、ある国が自由な資本移動を望むのであれば、固定為替相場制や独立した金融政策を実施す能力を放棄しなければならないです。資本が自由に出入りすれば、中央銀行は通貨価値や金利をコントロールできなくなるからです。

中国は、国際金融のトリレンマに直面している国の良い例です。

中国は、国際金融のトリレンマに直面している国の良い例です。中国は固定為替レートを採用していますが、同時に独立した金融政策を望んでいます。このことが、インフレや経済の不安定化など、中国にとって多くの問題を引き起こしています。

このトリレンマを解決するためには、中国は固定相場制を諦め返答相場制に移行するか、独立した金融政策を諦めるか、自由な資本移動を諦めるかのいずれかを選択する必要があります。これは難しい選択であり、簡単な答えはなです。

以下は、中国が考えうる解決策です。

固定相場制を放棄し、通貨価値の変動を認めるのです。そうすれば、中央銀行の金融政策の柔軟性は増すでしょうが、通貨の変動は大きくなるでしょう。

独立した金融政策を放棄し、通貨価値を米ドルなど他の通貨に連動させることです。そうすれば通貨価値は安定しますが、金融政策で経済を管理する能力も失うことになります。そうして、今の中国がまさにこの状態にあります。

資本規制を実施し、資金の出入りを制限します。これにより、中国は固定為替レートと独立した金融政策を維持することができますが、中国での企業活動はより困難になでしょう。

中国にとって最善の解決策は、国の経済目標や政治情勢など、さまざまな要因によって異なるでしょう。しかし、国際金融のトリレンマは、中国が直面する現実的な課題です。

メディアや識者は、不動産価格の下落や失業率の上昇など、中国経済問題の現象的な側面に焦点を当てることが多いです。しかし、これらの問題は、国際金融のトリレンマという深い問題の一症状に過ぎないのです。

中国がこのトリレンマから脱却する方法を見つけることができない限り、中国が経済を改善し、若者の雇用を創出することは難しいでしょう。

中国の現状を理解するためには、国際金融のトリレンマを理解することが重要です。これは複雑な問題ですが、中国の経済問題や直面している課題を理解するためには、この問題を理解することが不可欠です。

メディアや識者が国際金融のトリレンマについてほとんど言及しない理由をいくつか挙げてみましょう。

これは、複雑な問題であり、単純に説明するのが難しいです。特に、経済音痴のマスコミなどは、一つのことで頭がいっぱいになるのに、国際金融のトリレンマは、3つのことを同時に考えなければなりません。

さらに、これは新しい問題ではなく、何年も前から存在している問題ということもあるでしょう。

さらに、多くの人を耳目を引き付けるような問題ではないですし、見出しにもなりません。しかし、中国の経済問題や直面している課題を理解するためには、国際金融のトリレンマを理解することが重要だと私は思います。

それにしても、李強が集めた専門家たちが、国際金融のトリレンマについて一言も述べないのは不可思議です。問題の根源は中南海にあり、習主席が米国に対抗しようと固執している限り、経済危機は相次いで発生し、救済策はないと分析していますが、これは間違いです。


李強は専門家を集めたが、中国経済改善策はみつからなかった AI生成画像

根本要因は、国際金融のトリレンマにより独立した金融政策が実施できないことなのですから、たとえ米国が何の制裁を課さなかったとしても、中国経済はかなり落ち込んでいたでしょう。ただ、米国としては、中国がなにか事を起こした場合に、制裁するとい構えは維持しておきたいのでしょう。

イエレンもこのことは、知っていると思います。何もしなくても、中国経済は長いスパンでは、自滅すると踏んでいるでしょう。ただ、懸念しているのは、中国が変動相場制に移行するなどの大胆な改革をした場合、中国は人口が多いですから、内需だけでかなり経済を発展させることができますから、そうなれば、本当に米国の脅威になりえます。

ただ、今回の訪問でも、そのような話は一切でなかったのでしょう。イエレンとしては、様子見をしつつ、米国を毀損しない形で、効果のある中国制裁を模索していく腹でしょう。

ただ、私は習近平も、李強首相もこのことを知っているとは思います。しかし、中国が変動相場制への移行など、思い切った構造改革ができない理由は以下のことが考えられます。

政治的配慮。中国政府は、変動相場制は通貨をより不安定にし、金融市場の不安定化につながることを懸念しています。これはひいては社会不安につながりかねず、政府はこれを避けたいと考えているのでしょう。

経済的配慮。中国政府は、変動相場制によって輸出主導の成長モデルを維持することが難しくなることも懸念しているのでしょう。これは、変動相場制によって通貨が割高になり、中国の輸出競争力が低下するためです。

国内への配慮。中国政府はまた、変動相場制が経済のコントロールを失うことを懸念しているのでしょう。経済運営の重要な手段である通貨価値を政府が直接コントロールできなくなるからです。

こうした政治的、経済的、国内的な配慮に加え、中国が変動相場制に移行するために対処しなければならない現実的な課題も数多くあります。これらの課題には以下が含まれます。

強力な金融システムの必要性。変動相場制には、通貨の変動に耐えうる強力な金融システムが必要です。中国の金融システムはまだ比較的脆弱であり、これを強化する必要があります。

柔軟な労働市場の必要性。変動相場制には柔軟な労働市場も必要です。変動相場制は輸出入価格の変動につながり、それが労働需要の変動につながるからです。中国の労働市場はまだ柔軟性に欠けており、変動相場制を導入するには、より柔軟性を高める必要があります。

こうした課題を考えれば、中国が変動相場制への移行など、思い切った構造改革に踏み切れないのも理解できます。しかし、中国が長期的に成長と繁栄を続けたいのであれば、いつかは国際金融のトリレンマに対処する必要があります。これができない限り、中国は何をしようとも、弥縫策を繰り返すだけになり、何の解決にもなりません。

10年以上前の中国なら、以下のような多くの政策を実施することで、国際金融のトリレンマから逃れることができました。

過去の中国は国際金融のトリレンマから逃れることができた

為替レートの固定。中国は長年にわたり、自国通貨である人民元の価値を米ドルに対して固定してきました。これは経済を安定させ、企業にとって予測しやすくするのに役立ちました。

資本規制の実施。中国は資本規制を敷き、国内外への資金の出入りを制限しています。これは人民元の変動が経済に影響を与えるのを防ぐのに役立ちました。

独立した金融政策の利用。中国は独立した金融政策で経済を管理してきました。これによって、政府は金利やその他の金融政策ツールを調整し、経済状況に対応することができるようになりました。

こうした政策は、中国が国際金融のトリレンマから逃れ、不況から素早く立ち直るのに役立ってきました。しかし、状況は変わりつつあります。中国経済が世界経済との一体化を深めるにつれ、人民元を固定し、資本規制をかけることが難しくなっています。そのため、中国が独自の金融政策で経済を管理することが難しくなっています。

李強が集めたという専門家らは、固定相場制から変動相場制に移行するなどの、根本的な構造改革は抜きにして、当面の弥縫策を求められたのかもしれません。だとしたら、確かに匙を投げざる負えないです。

その結果、中国は多くの課題に直面しています。国際金融のトリレンマのバランスを取る方法を見つけなければ、将来的にさらなる経済の不安定化に直面することになるでしょう。これを防ぐには、金融システム改革等様々な改革をしつつ、段階的に変動相場制に移行するしかないでしょう。

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2023年7月3日月曜日

中国が東南アジアから撤退開始、経済問題に直面し―【私の論評】中国は、アフリカ、ラテンアメリカ、中央アジアでも撤退しつつある(゚д゚)!

中国が東南アジアから撤退開始、経済問題に直面し

東南アジアから撤退をはじめた中国 AI生成画像

 東南アジアにおける中国の経済的存在感が縮小し始めている。以前は中国がこの地域に最も多くの融資や援助を提供していたが、現在は他国に押されて影が薄くなっている。中国が東南アジアに向ける金を切り詰めることにより、中国の世界支配への夢は遠のくことになるだろう。

 2021年の中国の政府開発融資(ODF)は再び減少し、かつての最高額の半分強にとどまった。一方で、他の国や国際機関の投資が増えており、中国の存在感は低下している。日本の投資は特に増加しており、中国に追いつこうとしている。

 中国の投資減は海外の優先順位の転換を示すものではなく、中国自体が経済と金融の問題を抱えていることを示している。中国経済の回復が一時的で、再び減速している状況であることも考慮すべきだ。

 このような経済的制約に直面している中国が、東南アジアでかつての存在感をすぐに取り戻すことは難しいだろう。

これは、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国は、アフリカ、ラテンアメリカ、中央アジアでも撤退しつつある(゚д゚)!

中国の東南アジアでの経済的プレゼンスは上の記事にもあるように、確かに縮小しつつあります。

これについては、私も独自に調べましたので、それを以下に示します。
中国政府による東南アジアへの開発融資は、2015年の760億ドルから2021年には390億ドルに減少しまし。(出典:AidData)

中国の対東南アジア直接投資(FDI)シェアは、2015年の25%から2021年には14%に減少しました。(出典:UNCTAD)
他の地域でも、中国の経済的プレゼンスが縮小している地域があります。以下にあげます。

アフリカ: 中国は近年、アフリカへの主要な投資国であったのですが、その経済的プレゼンスはここ数ヶ月で低下しています。これは、COVID-19のパンデミック、ウクライナ戦争、中国自身の景気減速など、さまざまな要因によるものです。
中国の対アフリカ直接投資は、2015年の36億ドルから2021年には28億ドルに減少しました。(出典:UNCTAD)
中国の対アフリカ貿易は2015年の2,220億ドルから2021年には1,990億ドルに減少。(出典:世界銀行)

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ラテンアメリカ: 中国は近年、ラテンアメリカへの主要投資国でもあったのですが、ラテンアメリカでの経済的プレゼンスも低下しています。これは、COVID-19の流行、一部の国の政情不安、中国自身の景気減速など、さまざまな要因によるものです。
中国のラテンアメリカへの直接投資は2015年の105億ドルから2021年には83億ドルに減少しました。(出典:UNCTAD)
中国の対ラテンアメリカ貿易は2015年の3200億ドルから2021年には2790億ドルに減少。(出典:世界銀行)
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中央アジア: 中国は近年、中央アジアへの主要な投資国であったのですが、その経済的プレゼンスも低下しています。
中国の中央アジアにおける直接投資は、2015年の27億ドルから2021年には22億ドルに減少しました。(出典:UNCTAD)
中国の対中央アジア貿易は2015年の520億ドルから2021年には470億ドルに減少。(出典:世界銀行)
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注意しなければならないのは、これらは中国の経済的プレゼンスが縮小している地域のほんの一例にすぎないということです。このようなことが起きている地域は他にもたくさんあります。

中国が、東南アジアでかつての存在感をすぐに取り戻すことはなさそうなのと同じく、これらの地域でもすぐに取り戻すことはなさそうです。

だからといって、すぐに中国がこの地域からすべての投資などをひきあげるということはないでしょうが、年々先細りになっているのは事実です。これが、すぐに回復することはないでしょう。これは、日本、米国、欧州などの先進国にとって、これらの地域での経済的プレゼンスを回復する好機です。

先進国には、これらの地域と関わってきた長い歴史があり、貿易、投資、技術の面で提供できるものがたくさんあります。また、グッド・ガバナンス、人権、持続可能な開発の促進にも貢献できます。

もちろん、これらの地域で経済的プレゼンスを取り戻すには課題もあります。中国は近年、これらの地域で非常に積極的に活動しており、多くの関係を構築しています。しかし、先進国がこれらの地域に積極的に投資し、現地のパートナーと協力すれば、これらの課題を克服することができると思います。

私は、先進国がこれらの地域で経済的プレゼンスを取り戻すために協力することが重要だと思います。資源や専門知識をプールし、それぞれの努力を調整することができます。そうすることで、中国がこれらの地域を支配することがより難しくなり、これらの地域の人々にも利益をもたらすことができます。

経済的利益に加え、これらの地域で経済的プレゼンスを取り戻すことには政治的利益もあります。これらの地域は世界の安全保障と安定にとって重要であり、世界経済にとっても重要です。これらの地域での経済的プレゼンスを高めることで、先進国は平和の促進に貢献することができます。

私は、東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカ、中央アジアにおける経済的プレゼンスを回復することが、先進国にとって最善の利益であると思います。これは自国の利益を促進する機会であり、またこれらの地域の発展と繁栄を助ける機会でもあります。

一方中国では、国家統計局が4月16日に発表した若年層の失業率は、前月比で0.8ポイント上昇し、20.4%となりました。これは、2021年夏に記録した19.9%を上回り、過去最高となりました。

調査対象全体の失業率は、前月比で0.1ポイント低下し、5.2%となりました。国家統計局の付凌暉報道官は、北京での記者会見で、「若者の雇用安定・拡大に向け、一段の取り組みが必要だ」と述べました。

統計局が同時に発表した他の経済統計は、軒並み予想を下回りました。これは、債務問題や民間セクターの弱い景況感が経済成長の重しになっていることを示しています。

今年大学を卒業する学生は約1158万人と見込まれていることもあり、若年層の高い失業率は大きな課題となっています。

一方、過去3年間で就業者数は4100万人余り減少しています。これは、新型コロナウイルス禍がもたらした経済的影響と国内の少子高齢化がいずれも響いています。

これだけ、雇用が、その中でも若者雇用が悪化しているのですから、本来なら中国人民銀行(中国の中央銀行)は大規模な量的緩和を行うべきですが、そうはしていません。

それには、やはり国際金融のトリレンマにより、人民銀行は、独立した金融政策ができなくなっているからとみられます。

国際金融のトリレンマとは、1980年代にロバート・マンデルによって提唱された理論です。これは、ある国が次の3つの政策を同時に達成することは不可能であると主張するものです。

  • 為替相場の安定(固定相場制)
  • 金融政策の独立性
  • 自由な資本移動

これらの3つの政策は、いずれも経済成長に重要であると考えられています。しかし、同時に達成することは不可能であり、3つのうち2つしか実行できないというものです。これは、数学的にも、経験的にも知られている事実です。

例えば、中国は為替相場の安定を重視しているため、金融政策の独立性や自由な資本移動を制限しています。これは、中国経済の安定に効果的である一方で、経済成長の可能性を制限しているとも言われています。

現在の中国は、独立した金融政策ができない状況になっており、若者の雇用が深刻になっていても、思い切った金融緩和ができません。それを実行すると、ハイパーインフレになったり、資本の海外逃避が深刻になることが考えられるため、やりたくてもできないのです。

深刻な若者の雇用状況を改善することすらできないのですから、他の経済問題を解消することもなかなかできないとみて良いでしょう。

これを解決にするには、変動相場制に移行するなどの大胆な改革が必要なのですが、習近平にはその気は全くないようです。それをするには、他の改革もせざるをなくなり、そうなると、中国共産党の統治の正当性を毀損しかねないので、改革をせず、その都度弥縫策を繰り返しているのでしょう。

これでは、ここしばらく、中国がこれらの地域でかつての存在感をすぐに取り戻すことは難しいでしょう。

これは、日本にとっても大きなチャンスであり、日本はこの機会を逃すべきでありません。

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2023年7月1日土曜日

中国が「対外関係法」を施行 米にらみ対抗姿勢を明記―【私の論評】中共が、何の制約も制限もなく、自由に外交問題に関与し、外国人を取り締まる体制を確立するその第一歩か(゚д゚)!

中国が「対外関係法」を施行 米にらみ対抗姿勢を明記
 中国は2023年7月1日、外交政策の基本原則を定めた「対外関係法」を施行しました。主権や安全を守るために報復措置をとる権限を明記するなど、対立の長期化が見込まれる米国への対抗姿勢を示す内容です。中国は同日にスパイ行為の定義を拡大し、取り締まりを徹底する「改正反スパイ法」も施行しており、習近平政権の対外強硬姿勢が法制面でも鮮明になっています。

 全45条の対外関係法は米国を念頭に「覇権主義と強権政治に反対する」とした上で「中国の主権、安全、発展の利益を損なう行為に対して相応の対抗・制限措置を講じる権利を有する」と定めました。外交担当トップの王毅共産党政治局員は6月末、党機関紙、人民日報への寄稿で「対外闘争の法的な『道具箱』であり、国際秩序の『安定器』の役割を果たす」と同法の意義を説明しました。

 習国家主席の外交思想を「法的な形で実行した重大な成果」と強調しており、権威強化の狙いもうかがわれます。同法には、巨大経済圏構想「一帯一路」や、グローバル安全保障イニシアチブ(GSI)といった習氏が提唱した国際戦略が盛り込まれています。香港メディアの「香港01」は6月末、同法制定について「習氏の外交思想がかなりの長期にわたって中国外交を指導することを暗示している」と指摘しました。

 習政権は共産党による指導強化を進めており、同法は「対外工作は党の集中統一指導を堅持する」と明記。党中央の指導機構が「国の対外戦略と、関係する重要方針や政策を指導し実施する」と明確化しました。

 中国共産党は1日、創建102年の記念日を迎えました。党中央組織部は同日までに、党員数が2022年末時点で約9,804万人に達したと発表。前年末から約132万人増えました。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中共が、何の制約も制限もなく、自由に外交問題に関与し、外国人を取り締まる体制を確立するその第一歩か(゚д゚)!

中国は2023年1月28日、全国人民代表大会(全人代)の常務委員会で「対外関係法」を可決しました。この法律は、中国が対中制裁や「西側の覇権」に反撃するための法的根拠を提供するものと見られています。

対外関係法は、国家主権と安全保障、発展の利益を危うくする行為や国際法と「国際関係の基本的な規範」に反する行為に対して、「対抗・制限措置」を講じる権利を中国は有しているとしています。

中国はすでに、米国による台湾への武器売却を理由にロッキード・マーチンやレイセオン・テクノロジーズに報復制裁を科したことがあります。今回の新法はそうした措置の法的根拠を強化することになります。

対外関係法はまた、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が中国の外交政策を個人的にコントロールすることを明文化しています。

習近平

同法は、グローバル安全保障イニシアチブ(GSI)やグローバル文明イニシアチブ(GCI)といった習氏の代表的な政策に言及することで、法律というよりも習氏の外交政策宣言に近いものです。これは法的プロセスを通じて中国の外交政策を個人化したものといえます。

対外関係法は、報復措置を実施する上で政府機関に対して部門間の調整と協力を強化するよう義務付けています。また、国務院には「関連実務機関を設立する」権限が与えられました。

中国は米国に比べ制裁の実施例が比較的少なく、2021年に初の対外制裁法「反外国制裁法」を成立させました。

共産党系の新聞、環球時報は対外関係法が制裁などに対する「外交闘争の法的根拠を提供する」と専門家の話を引用し報道。「西側の覇権に対する予防と警告、抑止の役割も果たし得る」との見方も示しました。

習氏は今年3月の演説で、「米国主導の西側諸国」が中国を「包括的に封じ込め、抑圧」しようとしていると非難していました。

ただ、対外関係法は中国政府に制裁への新たな対抗手段を与えるものではなく、より抽象的なレベルでの反外国制裁法の繰り返しに過ぎないようです。

対外関係法は政府機関に向けたものですが、中国による対外関係の行動は共産党指導部全体が統括することも強調。習氏はここ数年、政府機関に対する党の掌握を強めています。

同法は党が外交政策を担当し、外務省と国務院が実務機関であることを非常に明確にしています。

私は、これは独裁国や全体主義国家によく見られるように、外交は独裁者の胸先三寸で決められることを、法的に明確にしたに過ぎないように見えます。

中国共産党が常に中国の外交政策に強い影響力を持ってきたことを考えれば、これは驚くべきことではないかもしれません。

独裁国家や全体主義国家では、独裁者の意向で外交政策が決定されることが多いです。独裁者が最終的な権力と権威を持ち、他の誰にも相談することなく決定できるからです。中国の場合、中国共産党が独裁者に相当するのだから、彼らが外交政策について最終的な発言権を持っていてもおかしくはないです。

もちろん、外交関係法が単なる法的形式的なものであり、中国共産党が外交政策に関して外交部や国務院と協議を続けるという可能性もあります。しかし、この法律が外交政策における中国共産党の役割について具体的に言及していることは、中国共産党が外交政策により実践的なアプローチを取っていることを示唆しています。

外交関係法が実際にどのように実施されるかは、時間が経ってみなければわからないです。しかし、中国共産党が外交政策の主導権を本気で握ろうとしているというシグナルを送っていることは明らかです。このことは、中国と他国との関係だけでなく、世界秩序にも影響を及ぼす可能性があります。

「対外関係法」の施行とともに「改正スパイ防止法」が施行されたことは、中国共産党が、何の制約も制限もなく、自由に外交問題に関与し、外国人を取り締まることができる体制を確立する、その第一歩であると考えられます。

外国人を厳しく取り締まる中国 AI生成画像

対外関係法は中国共産党に、自国の利益を脅かすと見なした国に対して報復措置をとる権限を与えます。これには経済制裁、渡航制限、あるいは軍事行動も含まれます。改正反スパイ法では、スパイの定義を拡大し、中国国民や企業のデータ収集など、以前はスパイとみなされなかった活動を含めるようにしました。これにより中国共産党は、完全に合法的な活動に従事している外国人を取り締まる権限を得たといえます。

注意しなければならないのは、これらはまだ2つの法案に過ぎず、中国共産党の意図を断言するのは時期尚早だということです。中国共産党は、対外政策において自己主張を強めており、脅威とみなす外国人を取り締まる姿勢を強めている。これは世界秩序に重大な影響を与える可能性があります。

中国共産党(CCP)が対外政策を強化し、脅威とみなす外国人を弾圧しやすくしたことは、世界秩序に多くの深刻な影響を与える可能性があります。

まずは、中国と他国との緊張の高まりがあります。中国のより積極的な姿勢は、近隣諸国や米国をはじめとする西側諸国との緊張の高まりにつながる可能性があります。これは、経済制裁、軍備増強、さらには武力衝突など、さまざまな形で現れる可能性があります。

次に、中国が世界的な大国として台頭することで、世界の分断が進む可能性があります。その結果、気候変動や核拡散といったグローバルな課題の解決がより困難になる可能性があります。

さらに、中国の外国人取り締まりは、国内の人権低下にもつながる可能性があります。中国共産党が新たな権限を行使して、反体制派や政府批判者を取り締まる可能性があるからです。

日本にとって、中国の対外政策がもたらす影響は特に大きいです。日本は米国の緊密な同盟国であり、中国の隣国でもあります。つまり、日本は中国と米国の対立の渦中に巻き込まれる可能性があるのです。

かといって、もし日本が米国と対立して中国側についた場合、多くの深刻な事態に直面する可能性が高いです。

まずは、米国からの経済制裁です。米国は日本にとって最大の貿易相手国であり、日本が中国側についた場合、経済制裁を科す可能性があります。これは日本経済に大きな影響を与えるでしょう。

米国からの軍事的圧力。米国は、東アジア地域への増派を含め、日本への軍事的圧力を強める可能性もあります。これは日中間の緊張を高め、武力衝突に発展する可能性さえあります。

米国からの信頼の喪失もあります。日本が中国側についた場合、米国からの信頼を失う可能性が高いです。これは、日本の安全保障の礎のひとつである日米同盟にも悪影響を及ぼすことになります。同時に欧州や、豪州、インドからの信頼も失うことになります。

また、中国には脅威とみなす国に対して経済的強制力を行使してきた長い歴史があることも注目に値します。もし日本が中国側につけば、中国は経済力等を使って日本に圧力をかけ、要求を呑ませる可能性もあります。

天然でお花畑的な頭の日本人 AI生成画像

中国に関しては、こちらが味方につけば、まさか味方に悪いことはしないだろうという、日本人の天然でお花畑的理屈は通用しません。米国や欧州から距離を置いた日本に対して、中国は最初は微笑みで対応するでしょうが、それは束の間に過ぎず、すぐにここぞとばかり、今までよりもさらに強硬になり、様々な要求を突き付け日本を中国の支配下にできるように動くでしょう。拒否すれば、軍事的圧力をかけてくるでしょう。

それどころか、日本への中国の浸透がすすめば、様々な不平等条約を押し付け、日本の富を奪う挙に出てくるかもしれません。さらには、改憲を迫り、日本が軍隊を持てるようにして、中国軍と共同作戦ができるようにし、日本軍をインドやロシアとの国境地帯に派遣したり、中国軍とともに、台湾と戦争することを迫るようになるかもしれません。

無論、日本の科学技術などは中国のものにして、中国は科学技術においても、台頭するようになるかもしれません。その時に、親中派・媚中派の国会議員や、財界人などを呪っても手遅れです。その頃には、親中派・媚中派は、国家を裏切った信頼できないものどもとして資産など身ぐるみ剥がされて、日本から放逐されているか、拘束されているかもしれません。お花畑日本人には、想像もつかないことなのかもしれません。

結局のところ、米国と中国の対決において中国側につくかどうかの決断は、中国に味方した場合の結果が非常に深刻なものになることは明らかであり、日本にとって選択の余地はないとみられます。

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2023年6月24日土曜日

中国、地方政府の「隠れ債務」明らかにする全国調査開始-関係者―【私の論評】LGFV問題は、一筋縄ではいかない、中国こそ抜本的構造改革が必須(゚д゚)!

中国、地方政府の「隠れ債務」明らかにする全国調査開始-関係者

 中国当局は、地方政府の債務を把握するため、新たな全国調査を開始した。調査は少なくとも5月から始まっており、財政省が主導している。調査の目的は、政府の全レベルの債務をより正確に把握し、いわゆる「隠れ債務」の公表を余儀なくさせることだ。調査の結果を受けて、当局は債務問題に対処するための具体的な措置を講じるとみられる。

 中国の地方政府の多くは、公的予算では賄いきれないインフラなどのサービスのために「地方融資平台」(LGFV)と呼ばれる事業体を使って資金調達を行っている。地方融資平台は地方当局の管理下にあるが、公式には政府の一部でないため、その債務は公式のバランスシートに記載されず、地方財政が実際よりも良好な状態にあるように見えるという事情がある。

 当局は、地方融資平台の債務を含めた地方政府の債務を正確に把握することで、債務問題の根本的な原因を突き止め、効果的な解決策を講じることができると期待している。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】LGFV問題は、一筋縄ではいかない、中国こそ抜本的構造改革が必須(゚д゚)!

上の記事にでてくる、LGFVは通常、有限責任会社として設立され、多くの場合、持株会社を通じて地方自治体が管理します。

債券の発行、融資、資産の売却など、様々な方法で資金を調達することができます。道路、橋、発電所などのインフラ・プロジェクトの資金調達によく利用されます。また、教育や医療といった社会サービスの資金調達にも利用されます。

中国の鬼城と呼ばれる、人の住まない住宅は、主にLGFVの資金で地方政府が建設した

たしかに中国の多くの地方政府は、LGFVを通じてインフラやその他のサービスに資金を調達しており、LGFVは公式には政府の一部ではないため、その債務は公式のバランスシートには記載されません。このため、地方財政は実際よりも良好に見えます。

例えば、2020年には、LGFVの負債総額は約54兆元(8.2兆米ドル)になると推定されていました。ところが、地方政府の公式債務は約25兆元(3.8兆米ドル)に過ぎませんでした。つまり、地方政府の債務の本当の水準は、公式に報告されているものよりもはるかに高いのです。

中国では近年、インフラやその他のサービスの資金調達にLGFVを利用することがますます一般的になっています。これは、地方政府が経済成長目標の達成を迫られているにもかかわらず、従来の方法ではそのための歳入を確保できなかったためです。LGFVは、地方政府が政府借入の正式な承認手続きを経ずに資金を調達する方法を提供してきました。

しかし、LGFVの利用は、地方財政の持続可能性に対する懸念にもつながっています。LGFVは多額の負債を抱えていることが多く、採算の合わないプロジェクトの資金調達に使われることも多いです。これは、LGFVが債務不履行に陥るリスクがあることを意味し、地方政府の財政健全性に悪影響を及ぼす可能性があります。

2021年、中国政府は地方政府の債務問題に対処するための多くの措置を発表しました。これらの措置には、LGFVが発行できる債務額を制限することや、LGFVの債務について地方政府が責任を負うことを義務付けることなどが含まれていました。しかし、これらの措置が地方政府の債務残高を減らすのに効果的かどうかはまだわからないです。

中国における地方政府金融公社(LGFV)の多額の債務は、政府が対処すべき深刻な問題です。この問題は1990年代の日本の不良債権問題と似ていますが、中国特有の課題もあります。

不良債権問題で倒産した直後の北海道拓殖銀行本店の建物、看板が撤去されている

そのひとつは、債務の実態が十分に把握されていないことです。LGFVはその財務について透明性を欠くことが多く、政府も債務負担の全体像を明確に把握できていません。このため、効果的な解決策を打ち出すことが難しいです。

もうひとつの課題は、中国経済が減速しているため、地方政府が歳入を確保するのが難しくなっていることです。つまり、支出を賄うための借金への依存度が高くなり、問題を悪化させているのです。

中国政府がLGFVの高債務問題に対処する方法はいくつかあります。ひとつは、LGFVの透明性と開示要件を高めることです。そうすれば、債務問題の実態がより明確になり、投資家もリスクを評価しやすくなります。

もうひとつは、地方自治体への財政支援です。補助金や融資を提供することもできるし、債務負担の一部を肩代わりすることもできます。そうすることで、地方自治体の負担を軽減し、債務の返済を容易にすることができます。

最後に、政府は経済成長を刺激することもできます。そうすれば地方自治体の歳入が増え、債務の返済が容易になります。

最善の解決策は、おそらくこれらの対策を組み合わせたものになるでしょう。成功させるためには、政府はこの問題に対して包括的なアプローチをとる必要があります。

LGFVの債務問題が解決できなければ、以下のような深刻な結果を招く可能性があります。

金融危機: LGFVが債務不履行に陥った場合、金融危機につながる可能性があります。これは、投資家がLGFVの債務返済能力に対する信頼を失ったり、流動性への需要が急激に高まったりした場合に起こり得ます。金融危機は、経済活動の急激な落ち込みや中国政府への信頼喪失につながる可能性があります。
経済成長の減速: LGFVの債務問題はすでに中国経済を圧迫しています。この問題が解決されなければ、経済成長の鈍化につながる可能性があります。これは、地方政府が支出削減を余儀なくされたり、投資が減少したりした場合に起こり得ます。経済成長の鈍化は、雇用の喪失や社会不安につながる可能性があります。
中国政府に対する信頼の失墜: 中国政府が債務問題を管理できないとみなされれば、政府に対する信頼が失われる可能性がある。その結果、政府の資金調達が困難になり、政情不安につながる可能性もあります。

ただ、中国にはこれらの問題を解消するための大きな障害があります。それは、中国人民銀行が独立した金融政策を実行できない状況にあるということです。

国際金融のトリレンマとは、ある国がいかの3つを同時に実行することはできす、2つしかできないという、事実です。これは、経験則ても数学的にも確かめられています。
  • 固定為替レート
  • 自由な資本移動
  • 独立した金融政策
中国は固定為替レートと自由な資本移動を実施しています。そのため、中国は独立した金融政策ができない状況になっています。つまり中国政府は、債務問題の軽減に役立つはずの外資を呼び込むために金利を引き上げることができないのです。

また、LGFVの負債問題を解消するために、公金を注入しようとして、仮に中国人民銀行(PBoC)が大規模な量的緩和政策を実施した場合、超インフレ、資産バブルのさらなる膨満、政府債務の増加、キャピタルフライトのさらなる深刻化などが予想されます。
日本では、変動為替レートを採用しており、自由な資本移動と独立した金融政策を実行できます。当時日銀が量的・質的緩和を大規模に実行、できるにもかかわらず、しなかったことが、不良債権問題をより深刻にしたわけですが、小泉政権のときにいっとき緩和に踏切り、2013年移行は緩和に転じており、様々な副作用はあったものの、不良債権問題は解消したといえます。

ただ、中国ではどうなるか不透明です。LGFVの利用は複雑な問題であり、様々な見方があります。LGFVは地方自治体が重要なプロジェクトの資金を調達するために必要な手段だと主張する人もいます。また、LGFVは政府支出を賄うためのリスキーな手段であり、財政危機を招きかねないという意見もあります。

LGFVの利用が今後どのようになっていくかはまだわからないです。ただ、これを解消するには、変動相場制に移行するなどの、大胆な構造改革が必要だと思われ、一筋縄ではいかないことは確かだと思われます。

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2023年6月23日金曜日

中国の「地方政府債務」再考―【私の論評】もう一つの中国の大問題、国際金融のトリレンマを克服すれば、中国の改革が始まるかもしれない(゚д゚)!

中国の「地方政府債務」再考

上海の目抜き通り AI生成

 中国の地方政府の債務は、2022年末時点で37.07兆元(約734兆3600億円)に達し、過去最高を記録しました。これは、中国のGDPの約25%に相当する金額です。地方政府の債務は、インフラ整備や公共事業の資金調達のために借り入れられたもので、そのほとんどが国有企業や金融機関からの借入です。地方政府の債務は、中国の経済成長を支える一方で、財政赤字の拡大や金融システムのリスク要因となっています。

 中国政府は、地方政府の債務を削減するために、財政支援や債務再編などの対策を講じていますが、効果は限定的です。地方政府の債務は、中国経済の大きなリスク要因であり、今後も注視が必要です。

以下は、中国の地方政府の債務に関する主なポイントです。
  • 中国の地方政府の債務は、2022年末時点で37.07兆元(約734兆3600億円)に達し、過去最高を記録した。
  • 地方政府の債務は、インフラ整備や公共事業の資金調達のために借り入れられたもので、そのほとんどが国有企業や金融機関からの借入である。
  • 地方政府の債務は、中国の経済成長を支える一方で、財政赤字の拡大や金融システムのリスク要因となっている。
  • 中国政府は、地方政府の債務を削減するために、財政支援や債務再編などの対策を講じているが、効果は限定的である。
  • 地方政府の債務は、中国経済の大きなリスク要因であり、今後も注視が必要である。
この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】もう一つの中国の大問題、国際金融のトリレンマを克服すれば、中国の改革が始まるかもしれない(゚д゚)!

中国人のツイッターで引用されていた日経の記事

中国で地方政府の借入が増えた要因はいくつかあります。それらは以下の通りです。

中央政府による財政分権政策:1990年代、中国政府は地方政府への財政権限の分散を開始しました。これにより、地方政府は自らの財政をよりコントロールできるようになりましたが、同時に地方政府は歳入を増やす必要に迫られました。地方政府が歳入を増やす方法のひとつに、借金があります。

インフラ整備のための資金調達の必要性:中国は近年、インフラ整備に多額の投資を行っています。そのため、地方政府がこれらのプロジェクトの資金を借り入れるため、地方政府の借入金が急増しました。

地方政府の歳入が減少していること:近年、経済成長の鈍化や租税回避行為の増加など、さまざまな要因で地方政府の歳入が減少しています。このため、地方自治体は歳入の不足を補うために、より多くの借金をせざるを得なくなっています。

国有企業(SOEs) :国有企業(SOE)は、地方政府が資金を借りる際によく利用されます。これは、国有企業が信用を得ることができ、地方政府よりもリスクが低いと見なされるためです。

金融機関:金融機関も地方政府に資金を貸し出します。これは、地方政府が安全な投資先とみなされるためです。

中国における地方政府の借り入れの増加は、多くの危機を生み出しています。以下にそれを列挙します。

金融危機のリスク:地方政府が借金を返せなくなった場合、金融危機につながる可能性があります。

経済成長の低下:地方政府の債務が増加すると、経済成長の低下につながる可能性があります。これは、地方自治体がインフラ整備などの支出を削減せざるを得なくなる可能性があるためです。

格差の拡大:地方政府の債務の増加は、不平等の増加につながる可能性があります。債務返済の負担が貧困層や中産階級に及ぶ可能性が高いからです。

近年、中国政府は債務負担を軽減しようとする措置を講じています。これらの措置は以下の通りです。

地方政府が債券を発行できるようにする:これにより、地方自治体はより持続可能な方法で資金を調達することができるようになります。

地方自治体の債務について、より多くの情報を開示する :これにより、透明性と説明責任を向上させることができます。

インフラプロジェクトの数を減らす :これにより、地方自治体の借金の必要性を減らすことができます。

中国政府が地方政府の債務負担を減らすことに成功するかどうかは、まだまったく見通しが効かない状況です。


中国のインフラ開発投資は、地方政府のインフラ開発計画で予測することができます。現在のインフラ計画は昨年対比で減っており、昨年の積み残しを消化した後は減速基調に入る可能性が高いでしょう。

中国の地方政府が財政破綻した場合、中国経済に大きな影響を与えることになります。地方政府がインフラ整備などの支出を削減せざるを得なくなり、経済成長の低下につながる可能性が高いです。また、中国政府の債務返済能力に対する投資家の信頼が失われ、金融危機に発展する可能性もあります。

このブログで以前から掲載しているように、現在中国は国際金融のトリレンマにより独立した金融政策が実施できない状況になっています。これは、政府による危機管理をより困難にします。中央銀行は金利や量的緩和などの金融政策ツールを使って、経済を刺激したり、インフレを防いだりすることができなくなります。そうなれば、金融崩壊による被害を抑えることがより難しくなります。

地方政府の財政破綻が中国経済に与える影響は、破綻の規模や展開のスピード、政府の対応など、さまざまな要因によって異なるでしょう。しかし、そのような破綻が中国経済に大きな負の影響を与えることは明らかです。

ここでは、中国の地方政府の財政破綻が中国経済に与える具体的な影響について掲載します。

経済成長率の低下 経済成長の低下:中国では、地方政府が多額の支出を担っている。地方政府が破綻した場合、この支出は減少し、経済成長の低下につながります。

失業率の上昇: 地方政府は、中国の雇用の大部分を担っています。もし地方政府が崩壊すれば、失業率の上昇につながります。

個人消費の減少: 中国の財政が不安定になれば、消費者は支出を減らすでしょう。そうなれば、経済成長はさらに鈍化することになります。

インフレ率の上昇: 政府は地方政府を救済するために大規模な金融緩和策を余儀なくされるかもしれません。これはマネーストックを増加させ、インフレを引き起こすでしょう。

金融危機: 地方政府の財政破綻が中国政府の信頼失墜につながれば、金融危機が引き起こされる可能性があります。これは、中国経済に大きな悪影響を及ぼすでしょう。

中国政府は、地方政府の財政破綻に伴うリスクを認識しています。近年、政府は地方政府の債務負担を軽減しようとする措置を講じています。しかし、これらの措置が破綻を防ぐのに十分であるかどうかは、まだわかりません。

何と言っても、中国人民銀行が独立した金融政策を実施できないことが痛いです。これを改善するには、このブログにも何回か掲載したように、人民元を固定相場制から変動相場制に移行すれば、国際金融のトリレンマから逃れ、独立した金融政策ができるようになります。

中国が人民元を固定相場制から変動相場制に移行させない理由はいくつかあります。

資本流出のリスク:人民元が変動すると、投資家が人民元を売却して他の通貨を購入するリスクがある。その結果、人民元が急落し、中国の輸出企業に打撃を与える可能性があります。

輸出競争力の維持の必要性:中国の輸出志向の経済は、安定した為替レートに依存しています。もし人民元が変動すれば、中国の輸出品が割高になり、輸出の伸びを阻害する可能性があります。

インフレ抑制の欲求:中国政府は、インフレを抑制したいという強い願望を持っています。為替レートが変動すれば、マネーストックをコントロールできなくなるため、政府がインフレをコントロールすることが難しくなります。

金融の安定を維持する必要性:変動相場制は、政府が通貨市場を管理することが難しくなるため、金融の不安定化を招く恐れがあります。

中国政府は、変動相場制の利点を認識しています。しかし、政府は変動相場制のリスクがメリットを上回ると考えているようです。その結果、政府は近い将来、人民元を固定相場制から変動相場制に移行させる可能性は低いです。

上記の理由に加えて、中国が変動相場制に移行することを妨げている政治的な考慮もあります。例えば、中国政府は、変動相場制を導入すると、国内外への資本の流入流出をコントロールすることが難しくなることを懸念している可能性があります。これは、政府が経済成長を管理し、社会の安定を維持する能力に影響を与える可能性があります。

結局のところ、変動相場制に移行するかどうかの判断は、複雑なものではあります。中国政府が決断を下す前に考慮しなければならない要素はいくつもあります。しかし、独立した金融政策が実施できなければ、結局、金融だけではなく財政もコントロールできなくなります。

そうなれば、中央政府は何もコントロールできなくなり、ただ漂流するしかなくなります。そうして、経済が落ち込み、数十年前の毛沢東時代の水準に戻ることになりかねません。

日本を始めとする、西側諸国も、固定相場制から変動相場制に移行を決断しなければならい時がありました。様々な問題がありつつも、将来のことを考え移行したのです。中国もまさにそのときです。変動相場制に移行すれば、様々な問題がおこることが考えれますが、それをせずに毛沢東時代の経済に戻るのとどちらが良いかという習近平による選択の問題になります。


変動相場制に移行するためには、それだけではなく様々な改革をしなければならなくなります。中国の改革は、意外とこうしたところから始まるかもしれません。

しかし、今までのように固定相場制を維持するなら、中国経済はいずれ毛沢東時代の水準に戻り、中国は図体が大きいだけの他国に影響力を及ぼせないアジアの凡庸な専制国家の一つに成り果てることなるでしょう。

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2023年6月19日月曜日

ウクライナ戦争で中国への不信感を強める欧州―【私の論評】日米欧は、中国の都合よく規定路線化する姿勢には疑いの目で迅速に対処すべき(゚д゚)!

ウクライナ戦争で中国への不信感を強める欧州

岡崎研究所


 中国は、ウクライナ戦争の停戦を促すため、ウクライナ、ロシア、欧州諸国に働きかけている。しかし、中国の和平計画は、ロシアがウクライナ領土の20%近くを占領している現状をそのままにしたままで、まず停戦をしてはどうかというものであり、ウクライナにもウクライナ支援をしている欧州諸国にも到底受け入れられる提案ではない。

 中国はこういう提案をすることで、ロシアの侵略とその成果を認める姿勢を示したが、これで仲介できると考えるのは中国の情勢判断能力に疑問を抱かせるものであると言わざるを得ない。さらに、今はウクライナが反転攻勢を加えようとしている時期であり、ピントの外れた仲介であると言わざるを得ない。

 欧州側が李特使の考え方に強く反発したのは当然であり納得できるが、ウクライナ戦争とそれへの対応を見て、欧州の対中不信や姿勢はより厳しくなると思われる。そのこと自体は歓迎できることであろう。

 フランスは、今なお中国のウクライナでの永続する平和への役割がありうるとしているが、何を念頭においているのか、理解しがたい。マクロン大統領の訪中の際の共同声明、その後のマクロンの対露、対米姿勢、特に北大西洋条約機構(NATO)や台湾問題に関する発言等には、要注意である。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】日米欧は、中国の都合よく規定路線化する姿勢には疑いの目で迅速に対処すべき(゚д゚)!

元記事では、「最近、中国は状況対応型で原理原則のない国になり、信用できない国であると思わざるを得ないことが多くなった。北方領土問題についても、1964年、毛沢東が日本の立場への支持を打ち出したが、最近それを取り下げ、日本の立場を支持することはやめると言った。立場を平気でころころと変えるような国、首尾一貫しない国を信用するのは大きな間違いにつながる。中国を不信の目で見ることが必要と思われる」としています。

これについては、以前からこのブログでも主張してきたことです。その記事のリンクを以下に掲載します。
習近平の反資本主義が引き起こす大きな矛盾―【私の論評】習近平の行動は、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせる弥縫策(゚д゚)!

AI生成画像

 これは、2021年7月の記事です。この記事の結論部分を以下に引用します。

中国の路線変更は大きな問題であり、「毛沢東主義への回帰」とか「鄧小平路線の変更」というよりも、もっと細かく見ていく必要があります。ただ、習近平の今のやり方は中国経済にとってはよい結果をもたらさないということと、中国はますます独裁的な国になることは確かです。共産党と独裁には元々強い親和性があります。

しかし、国民の不満は爆発寸前です。私自身は、習近平の一連の行動は、結局のところさらに独裁体制を強め、国民の不満を弾圧して、制度疲労を起こした中国共産党を生きながらえさせるための弥縫策と見るのが正しい見方だと思います。実際は本当は、単純なことなのでしょうが、それを見透かされないように、習近平があがいているだけだと思います。

習近平に戦略や、主義主張、思想などがあり、それに基づいて動いていると思うから、矛盾に満ちていると思えるのですが、習近平が弥縫策を繰り返していると捉えれば単純です。2〜3年前までくらいは、戦略などもあったのでしょうが、現在は弥縫策とみるべきと思います。

無論、多くの国の指導者が、国際関係や国内の問題に関して、思いがけないことは頻繁に起こります。そのため、思いがけないことに関しては、弥縫策を取るのは普通のことだと思います。それにしても、長期の戦略がありながらも、当面弥縫策をとるのならわかりますが、習近平の行動は、単なる弥縫策と見るべきかもしれません。

特に経済面では、それは顕著です。過去に何度か述べたように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況に陥っています。独立し金融政策ができないことは、中国経済に深刻な打撃を与えつつあります。

対処法は、いたって簡単で、人民元を固定相場制から変動相場制に移行させることです。あるいは、資本の自由な移動をさせないようにするかです。ただ、こちらのほうはできないでしょう。

だとすれば、変動相場制に移行するしかないのです。ただ、習近平はこれは実行せず、経済面においては弥縫策を繰り返すのみです。構造要因を取り除かない限り、中国経済が成長軌道に乗ることはありません。中国経済に関しては、様々な論評がなされていますが、それは現象面を語っているだけであって、中国経済が悪化し回復しないのは、独立した金融政策ができないことが根本原因です。

そうして、習近平は対外関係、国内でも弥縫策を繰り返しています。ただ、習近平の弥縫策は、様々な事柄を既成事実化するという手法で実行されていることが、より他国から信頼されないのと、危険な兆候を生み出しています。

習近平の政策を既成事実化する形で弥縫策を実施した例としては、以下のようなものがあります。

国家主席の任期制限の廃止。これは2018年の憲法改正によって行われ、習近平は無期限で政権を維持できるようになりました。これは、多くの人が習近平による権力奪取と見なし、物議を醸した。

反対意見の取り締まり。 習近平は、中国における反対意見を取り締まり、活動家、ジャーナリスト、弁護士を逮捕・投獄してきました。これは、「国家安全保障」を理由に人々を拘束する広範な権限を政府に与える国家安全法の拡大を含む、多くの手段によって行われてきました。

中国の軍隊の拡大。習近平は、新しい兵器システムの開発や南シナ海における中国の海軍プレゼンス拡大を含む、中国軍の大幅な拡張を監督してきました。これは、中国が世界の舞台で自己主張を強めていることの表れであるとの見方もあります。

一帯一路構想。一帯一路構想は、中国が世界の発展途上国に数十億ドルを投資する大規模なインフラプロジェクトです。この構想は、経済成長を促進し、貧困を削減する可能性があると一部で評価されていますが、中国の債務負担を増大させる可能性や地政学的野心から批判されることもあります。

これらは、習近平の弥縫策を既成事実化する形で実施されたほんの一例に過ぎないです。

習近平の弥縫策は、最近の琉球列島に関する発言にもみられます。

2023年3月8日に中国中央テレビ(CCTV)で放送されたテレビ番組「中国文化の生命力」。番組では、琉球諸島に関する習近平主席のコメントや、中国の主張を支持する学者たちの解説が紹介されました。

AIによる生成イメージ

習近平はコメントの中で、琉球諸島(現代の沖縄諸島)は "中国領土の不可分の一部 "であると述べました。また、中国は "琉球諸島を支配してきた長く継続的な歴史がある "とも述べています。

番組に出演した学者たちも、習近平の発言に共鳴していました。彼らは、琉球諸島は常に中国の一部であり、日本が同諸島を領有することは違法であると述べました。

中国メディアのキャンペーンは、琉球諸島の主権を主張する中国によるより大きな努力の一部です。中国はまた、この地域での軍事的プレゼンスを高めており、ロシアとの合同軍事演習を実施しています。

日本政府は、中国のメディアキャンペーンに懸念を持って反応しています。日本政府は、琉球諸島の領有権を放棄することはないと述べています。

そもそも琉球王国は中国の朝貢国ではありましたが、中国に支配されたことはありませんでした。

17世紀に書かれた琉球王国の歴史書『琉球国記』には、14世紀以降、中国の朝貢国であったと記されています。

また、清朝時代に編纂された法律書『清法』では、琉球王国は中国の朝貢国であったとされています。

琉球王国公文書館に保存されている琉球王国の外交記録には、中国との交流の記録が数多く残されています。これらの記録は、琉球王国が中国に定期的に朝貢団を送ったこと、中国皇帝が琉球王に "琉球王 "という称号を与えたことを示しています。

しかし、琉球王国は決して中国に支配されたわけではありません。王国には独自の政府があり、独自の法律があり、独自の軍隊がありました。琉球王は王国の最高統治者であり、中国皇帝に服従することはありませんでした。

琉球王国の中国への朝貢は500年以上続きました。1879年、琉球王国は日本に併合され、その歴史は終わったのです。

琉球諸島は "中国領土の不可分の一部 "であるという習近平の発言は間違いです。

琉球諸島を巡って中国と日本の間には何の問題もないのですが、習近平は軍事的にも経済的にも行き詰まってるため、弥縫策で両国には長い対立の歴史があり、琉球諸島の問題は敏感なものであると、発言し、国内の注意をそちらに向けていると考えられます。普通の国のトップなら、恥ずかしくてできないことです。事態がどのように進展するかは不明ですが、注視すべき弥縫策といえるかもしれません。

以下、中国メディアのキャンペーンについて補足します。

このキャンペーンは、少なくとも2020年から実施されています。新聞、雑誌、テレビ番組、ソーシャルメディアなど、さまざまなメディアで実施されてきました。

特に若い人たちに焦点を当てたキャンペーンです。中国人に琉球への郷愁を抱かせるように設計されています。

また、中国の琉球諸島に対する主張について、特に若い人たちを印象操作しようとするものです。この中国メディアのキャンペーンは、さまざまな反響を呼んでいます。一部の人々は、琉球諸島と中国の主張に対する認識を高めたと賞賛しています。また、ジンゴイズム的である、歴史を歪曲しているという批判もあります。

中国のメディアキャンペーンが長期的にどのような影響を及ぼすかについては、時期尚早と言わざるを得ません。しかし、このキャンペーンが、琉球諸島に対する主権を主張する中国によるより大きな努力の一部であることは明らかです。

テレビ番組「中国文化の生命力」のほか、中国メディアは、琉球諸島に対する中国の主張を宣伝する記事やソーシャルメディアへの投稿を数多く流しています。これらの記事や投稿は、中国の主張を支持するために歴史的・文化的な論拠を用いることが多い。また、日本が琉球諸島を支配していることを批判することもしばしばあります。

中国はまた、沖縄付近での中国とロシアとの航空機による合同飛行を行うなどの異常な行動をとっています。

中国中央電視台の建物

対外関係においても、弥縫策を繰り返す習近平ですが、その弥縫策がうまくいきそうであれば、長い年月をかけてでも、南シナ海を実効支配したように、規定化路線を取るのが中国のやりかたです。弥縫策がうまくいくと、不合理な理由であろうと何であろうと、屁理屈ともいえるような幼稚な理論で、規制路線化を押し通し、うまくいかないと、コロコロを態度を変えるので、信頼されなくなるのです。

日米欧は、中国の弥縫策による規制化路線に関しては、最初から猜疑心を持って見て、放置せずすぐに何らかの反応をすべきと思います。南シナ海においても、1980年代に中国が環礁に粗末な掘っ立て小屋を建てた時期に、米国が場合によっては、戦争も厭わない強い姿勢で臨めば、今日のようなことにはならなかったと考えられます。

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2023年6月10日土曜日

「悪い円安論」がやはり下火に…株価は上昇、埋蔵金も増える マスコミも忖度、政府が儲かる「不都合な事実」―【私の論評】いわゆる「悪い円高」を主張した人々の言説は今後信じるべきではない(゚д゚)!

 最近、円安が進行しているにもかかわらず、「悪い円安論」は影を潜めている。その理由は、そもそも「悪い円安論」が間違っていたのではないかということだ。

 本コラムでは、為替がマクロ経済に与える影響を繰り返し説明してきたが、円安(自国通貨安)は、輸出関連・対外投資関連企業にはプラス、輸入関連・対内投資関連企業にはマイナスだ。

営業利益が高い企業は軒並み、輸出関連企業 表はブログ管理人挿入

 企業の生産性などの地力を見ると、一般的に国際市場で競争する前者の方が後者より高いので、前者にメリットを与えて後者にはデメリットを与えた場合、全体としてはメリットが大きくなる。自国通貨安による経済成長は、ほぼどこの国でも成り立つので、「近隣窮乏化」として知られている。

 ところが、日経新聞など国内メディアの多くは、円安による輸出増が見られないことから、円安による輸入価格アップによるデメリットのほうが大きいと考え、悪い円安論を展開したようだ。古今東西ある近隣窮乏化理論に無謀にも挑んだわけだが、最近の株高を目の当たりにすると、さすがに悪い円安論は言いにくくなったとみられる。株価指数を構成している企業は、円安メリットを享受しやすい輸出関連・対外投資関連企業が多いからだ。

 もちろん筆者の近隣窮乏化理論は、自国通貨安が国内総生産(GDP)増につながると定量的に主張するもので、株価上昇に直接的に言及するものではないが、GDP動向と株価には一定の相関があるので、株価上昇で悪い円安論が下火になったのは想定内だ。

 悪い円安論を好意的にいえば、輸入原材料やエネルギーに大きく依存する企業ではコストアップ要因になるという、ミクロ的な話です。マスコミのミスリーディングなところは、そのミクロがまるで日本経済全体の話のように書くところだ。

 円安の最大の利益享受者は、純資産が100兆円以上もある日本政府だ。いうまでもなく外国為替資金特別会計(外為特会)です。評価益のみならず円貨換算の運用益も大きくなる。なので、円安で苦しむ企業への対策は容易なはずだが、なぜかメディアは悪い円安論一辺倒で、日本政府が最大の利益享受者として容易に対策財源を捻出できることを言わなかった。

 悪い円安論が出るたびに、筆者の意見を含めて日本政府が円安で最も儲けていることがテレビやネットでしばしば流れた。筆者の邪推だが、それを政府が嫌い、忖度(そんたく)したマスコミが悪い円安論をあまり言わなくなった可能性もあるのではないか。外為特会はいわゆる「埋蔵金」なので、とりわけ財務省は隠したがるものだ。

 もっとも、「為替は国力であり、円安は国力低下だ」という経済学的には意味不明の意見もいまだに少なくない。為替は長い目で見れば単に二国間の金融政策の差で決まるのであって国力の差を表すものでない。為替の短期変動を説明する理論はないので、誰でも独自見解を主張できる。そのため、時々で「ご都合主義」が横行しがちだ。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、是非元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】いわゆる「悪い円高」を主張した人々の言説は今後信じるべきではない(゚д゚)!


上の記事にでてくる「近隣窮乏化」とは、貿易相手国を犠牲にして自国の経済を改善することを目的とした経済政策です。通貨安、関税などの貿易障壁、国内産業への補助金など、さまざまな手法で行われます。英語では"Beggar thy neighbor(汝の隣人を乞え)"policyといいます。

ただ、「近隣窮乏化」策は、理念上の政策に過ぎず、これを実行し続ければ、超インフレを招くなどの状況を招くことになったり、あるいは当該国の通貨が基軸通貨出ない場合、基軸通貨のキャピタルフライトが起こったりするので、現実には実施できない政策です。

世界でこれに近い政策を取っているのは中国かもしれません。ただ、中国はこのブログで指摘したように、国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策が実行しにくい状況に至っています。

中国は「近隣窮乏化」策に近い政策をとっているが・・・・・

「近隣窮乏化」策の目的は、他国が自国の商品やサービスを輸出するのを難しくする一方で、国内の生産者が自国の商品やサービスを販売しやすくすることです。その結果、他国は輸出よりも輸入の方が多くなり、貿易赤字になることがあります。

ただし、「近隣窮乏化」策は、短期的には効果的ですが、長期的にはマイナスの結果をもたらす可能性があります。例えば、他国からの報復を招き、貿易戦争に発展する可能性があります。また、国内生産者が関税やその他の貿易障壁のコストを消費者に転嫁するため、物価の上昇につながることもあります。

一般的に、近隣窮乏化策は良い経済政策とは考えられていません。世界経済にとって不公平で有害であると見なされることが多いです。

以下は、「近隣窮乏化」策の例です。

通貨切り下げ: 自国の輸出品を安くし、輸入品を高くするために、通貨を切り下げることができます。これにより、他国が国内生産者と競争することが難しくなります。

関税: 輸入品に関税をかけることができます。これにより、輸入品がより高価になり、国内生産者の競争力を高めることができます。

クォータ(割当): ある国は、輸入品に割当を課すことができます。これにより、国内に入ることができる輸入品の量を制限することができ、国内生産者の競争力を高めることができます。

補助金: 国は、国内産業に補助金を出すことができます。これは、国内の生産者がコストを下げ、より効果的に競争するのを助けることができます。

しかし、隣人窮乏化策が常に有効であるとは限らないことに注意する必要があります。例えば、ある国が自国の通貨を切り下げると、他の国も自国の通貨を切り下げて報復することがあります。その結果、各国が通貨安を競い合う「底辺の競争」に陥る可能性があります。これは、消費者の物価上昇や経済成長の低下につながるため、世界経済にとって有害です。

ただ、「底辺の競争」にはならないというか、いずれの国でもできなくなる可能性が高いです。本気で通貨安を競うとすれば、相対的に自国通貨の量を他国通貨の量より上回るようにする必要があるからです。それをどこまでも続けていれば、いずれ必ず超インフレになり、この政策を続けられなくなるからです。

為替は長い目で見れば単に二国間の金融政策の差で決まるのであって国力の差を表すものではありません。為替の本質は、ドルと円で示すと、以下の式で表すことができます。

(全世界で流通している円の総計)÷(全世界で流通している円の総計)≒(円ドル為替)(¥/$)

無論、中短期では、様々な要因があるので、このようにはならないですが、長期的にはこの方向で動いていくことになります。

全世界でたとえばA国が、通貨量を増やし、B国がそのままであれば、A国通貨、B国通貨に対して通貨安になります。

無論短期的には、為替介入である程度の操作はできますが、中期ではそろそろ効果がなくなり、長期では操作不能で、(円の総計/ドルの総計)の方向に動いていくことになります。為替介入は、せいぜい急激な変化を緩やかな変化にすることくらいしかできません。

通貨の価値は最終的にその通貨の需要と供給によって決まります。ある国の中央銀行が通貨の流通量を増やすと、その通貨の供給量が増え、通貨の価値が下がります。これは、通貨の流通量が増えたため、1単位あたりの通貨の価値が下がるからです。

一方、ある国の中央銀行が自国の通貨の供給を一定に保ち、別の国の中央銀行が自国の通貨の供給を増やした場合、最初の国の通貨の価値は2番目の国の通貨に対して高くなります。これは、最初の国の通貨が少なくなったため、その通貨の1単位の価値が高くなったためです。

そうして金融政策と為替レートの理論は、経験則に裏打ちされています。例えば、国際通貨基金(IMF)の調査では、マネーサプライが1%増加すると、為替レートは0.3%下落することが分かっています。

金融政策と為替レートの理論は、政策立案者にとって重要な意味を持っています。例えば、ある国の中央銀行が自国通貨の減価を防ぎたい場合、債券やその他の資産を売却することで通貨の供給量を減らすことができます。逆に、自国の通貨安を促したいのであれば、債券やその他の資産を購入することで、通貨の供給を増やすことができます。さらに、自国通貨を刷り増せば、さらに供給を増やすことができます。

しかし、先に述べたように、自国通貨安を促し続ければ、いずれインフレに、さらに促し続けれは、ハイパーインフレになります。そのため、通貨安競争にはおのずから限界があるのです。

通貨戦争は幻想に過ぎない

高橋洋一氏が「近隣窮乏化」策といったのは、無論日本がそのような政策意図的にとっているわけではなく、日本国内の都合で金融緩和策を行っているので結果として、そのような状況になっていることを言っているのです。

円安は、現状の日本にとってあたかも「近隣窮乏化」策を実施してGDPを増やす政策を実行しているようなものであり、これを「悪い円安」などと呼ぶのは間違いです。

これで、米国やEUさらに、日本の金融緩和策が多大な影響を及ぼす中国や韓国などが、日本の円安に関して、苦情を言うなら理解出来ますが、日本のメディアが円安を批判した理由が良くわかりません。

過去に日本の金融引締で、超円高になった日本で製造業が日本で部品を組み立てて輸出するより、韓国や中国で組み立てて輸出したほうがコスト安になったため、ぬるま湯に浸かったような状態になった中国や韓国ですらそのようなことをいわないのに、日本のメデイアが「悪い円安」などと批判するのは、私にはほとんど理解不能です。

最近は、さすがに「悪い円安論」はなりを潜めていますが、このような論を語る人々は、そもそも為替がどのように決まるのか、通貨安はどのような効果をもたらすのかを全く理解していないのでしょう。

そうして、高橋洋一氏が語るように、長期では為替は(円の総量/ドルの総量)できまり予測もできるのですが、中短期では多くの要素があり予測不能なので、これについては好き勝手なことがいえるので、これを利用して奇妙奇天烈、摩訶不思議な論を打ち出し、特定の意図への誘導をはかっているのでしょう。

いわゆる「悪い円高」を主張した人々の言説は今後も信じるべきではありません。

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2023年6月9日金曜日

フランスの「本物の米国離れ」に中国は大歓喜、アメリカは大激怒している…!―【私の論評】10年経てば、中国の弱体化は誰の目にも明らかに!それまで日米は、他国を繋ぎ止める努力を(゚д゚)!

フランスの「本物の米国離れ」に中国は大歓喜、アメリカは大激怒している…!

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)の東京事務所設置計画に反対しており、「中国を刺激したくない」という理由を挙げています。彼の反対姿勢は、NATOの活動範囲の拡大が大きな過ちになると述べた発言によって明らかにされました。マクロン氏は中国に配慮した発言をすることで物議を醸し、今回の反対も「マクロンの裏切り」第2弾とされています。

 NATOは、米国、カナダ、および欧州の30カ国が安全保障を約束する同盟であり、「攻撃されればすべての加盟国が共同して反撃する」という原則に基づいています。NATOの適用範囲は北大西洋の同盟国に限定されています。

 NATOは中国の脅威に対処するために、東京事務所の設置を検討しており、日本を含むアジア諸国との協力関係を強化する狙いがあります。しかし、マクロン氏は東京事務所の設置が「アジアへのNATO拡大につながる」とみなし、欧州の信頼性を損なう可能性があると主張しています。

 NATOの意思決定は全会一致が原則であり、フランスが反対すると東京事務所設置計画は頓挫する可能性があります。中国はマクロン氏の反対を喜んでおり、他のNATOメンバー国もフランスの立場に共感しているが、米国に逆らうことはできないとしています。

 マクロン氏は中国に配慮する姿勢を見せており、米国との距離を置こうとする姿勢は本物とされています。これに対し、米国ではフランスの地政学的なナイーブさや米国からの欧州への過度な関与に反発する声があります。

米中の対立が激しさを増す中、マクロン氏のような「米国離れ論」が広がっており、これらの意見は今後も強まる可能性があります。

【私の論評】10年経てば、中国の弱体化は誰の目にも明らかに!それまで日米は、他国を繋ぎ止める努力を(゚д゚)!


マクロンがNATO東京事務所開設に反対していることを伝えるロシアメデイア「スプートニク」

フランスは、伝統的に米国と距離を置く傾向があります。それは、以下のような理由によるものです。

フランスと米国は、米独立戦争までさかのぼる長い対立の歴史を持っています。フランスは米国を独立国として認めた最初の国の一つですが、両国は貿易、政治、軍事介入をめぐってしばしば対立してきました。

さらに、フランスと米国は、世界の多くの地域で異なる関心を持っています。例えば、フランスは欧州連合(EU)を強く支持し、米国は自国の国益を重視してきました。

そうして、フランスと米国は、死刑制度、移民、社会福祉など、多くの問題で異なる価値観を持っています。このような違いは、時に両国間の緊張につながることがあります。

以下は、フランスが米国と距離を置いた例です。

2003年、フランスは米国主導のイラク侵攻に反対しました。

2015年、フランスは米国主導のシリア空爆に参加することを拒否しました。

2019年、フランスは米国が主導する欧州でのミサイル防衛計画から離脱しました。

ただし、フランスが常に米国に反対しているわけではないことに注意することが重要です。両国は、テロとの戦いや民主主義の推進など、多くの問題で協力してきました。しかし、フランスと米国の歴史的な対立や利害の違いは、時に緊張や不一致を招くことがあります。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、中国に配慮したと見られる発言を繰り返しているのには、いくつかの理由があるようです。

まずは、経済的利益です。 フランスは中国と大きな経済的結びつきがあります。2021年、中国はフランスにとって、ドイツに次いで2番目に大きな貿易相手国でした。また、フランスは中国で事業を展開する企業を多く抱えています。マクロン氏は、中国と敵対することで、こうした経済的な結びつきが損なわれることを懸念しているのかもしれないです。

次に、フランスは、安全保障問題で中国と協力してきた長い歴史があります。例えば、両国はテロ対策や核不拡散で連携してきました。マクロン氏は、他の問題で中国により融和的なアプローチを取ることを意味しても、この協力関係を維持することが重要であると考えているのかもしれないです。

最後に地政学的な利益もあります。 フランスは、ヨーロッパとアフリカの主要国であります。マクロン氏は、これらの地域におけるフランスの利益を守るために、中国との良好な関係を維持することが重要であると考えるかもしれないです。

ただし、マクロン氏は、人権や知的財産の窃盗など、多くの問題で中国に批判的であることにも留意する必要があります。しかし、他の西側諸国の首脳に比べれば、一般的に中国に対してより融和的なアプローチをとってきました。

一部の人々は、マクロンの中国寄りの発言を批判し、中国に媚びへつらう姿勢が強すぎると主張しています。また、中国との付き合い方について現実的なアプローチをとっていると主張し、マクロンを擁護する人もいます。

マクロンの中国政策が長期的にどのような影響を及ぼすかについては、時期尚早と言わざるを得ないです。しかし、マクロンがフランスと中国の関係を形成する上で重要な役割を担っていることは明らかです。

確かに、「米国離れ」説が広がっているようではあります。それを裏付けるような左寄りの情報源もあります。

ガーディアン紙 "米中間の緊張が高まる中、欧州は独自の「戦略的自律性」の構築を目指す" (2023年3月8日)

ガーディアン紙 記事は、米中関係に懸念を示す欧州の高官を多数紹介しています。例えば、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、米国と中国のいずれとも「同盟の誘惑に負けない」ために、EUは「自らの主権を築く」必要があると述べています。

ニューヨーク・タイムズ紙 "ヨーロッパは中国の経済的影響力に対抗するために動く" (2023年2月25日)

ニューヨーク・タイムズ紙 記事は、EUが今後5年間で国防費を20%増加させる計画であることを伝えています。また、EUは独自の軍事指揮統制システムの開発を計画している。

フォーリン・ポリシー 「新冷戦は欧州を自国軍建設に駆り立てている」(2023年1月26日付)

フォーリン・ポリシー 記事は、米中貿易戦争が欧州諸国に "米国との経済関係の再考 "を迫っていると論じています。また、記事は、米国のアフガニスタンからの撤退が "米国の力の限界を浮き彫りにした "と論じています。

これらの記事はいずれも、欧州諸国が米国への依存を減らし、中国など他の国とのより強い関係を築こうとしている証拠を挙げています。この背景には、米中貿易戦争、米国のアフガニスタンからの撤退、米国の力の低下という認識など、さまざまな要因があります。

「米国離れ」論に批判がないわけではありません。新たな冷戦を招きかねない危険で無謀な行動であるという意見もあります。また、米国がもはや支配的でない世界において、欧州が自国の利益を守るために必要なことだとする意見もあります。

「米国離れ」理論が成功するかどうかは、時間が経ってみなければわからないです。しかし、欧州の外交政策において、その傾向が強まっていることは確かなようです。

これらは、"米国離れ "論が広がっていることを裏付ける証拠のほんの一例に過ぎないです。この傾向が続くかどうかはまだわからないですが、欧州の外交政策に大きな進展があることは確かなようです。

このような背景があるからこそ、マクロン氏は、「米国離れ論」を主張したのでしょう。

ただ、考えてみると、米国は現在でも唯一の超大国です。中国は、以前このブログでも示したように、国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況になっています。雇用の改善な、景気の回復のために、金融緩和(利下げや、量的緩和)を実行すれば、超インフレに見舞われたり、資本の海外逃避が加速したりするため、なかなか実行できません。

これは日本のマスコミはほとんど報道しませんが、国際金融などを熟知したまともなエコノミストなら誰でも知っている厳然たる事実です。

これを解消するには、人民元の変動相場制への移行などの構造改革をすべきなのですが、習近平にはまったくその気はないようです。彼にとっては、中国経済よりも、中国を中国共産党が統治することのほうが重要なようです。

中国人民銀行行長「周小川」

そうなると、中国は今後経済的には衰える一方であり、従来言われていたように、中国が米国のGDPを追い越す日は来ないとみるべきでしょう。独立した金融緩和ができなければ、かつての日本が官僚の誤謬により、金融政策を誤りとんでもない状態(GDPがほとんどのびなかったり、賃金が30年間あがらかったこと)になったのと同じような状態になるはずです。

しかも、誤謬については日本では安倍元総理の登場によって、正されたのですが、中国では独立した金融緩和ができないのですから、誤謬よりさらの始末が悪く、これは変えようがありません。

中国がコロナから完璧に立ち直ったとしても、また成長軌道に乗ることはありません。無論、中国が変動相場制に移行するなどの大胆な変革をすれば、別ですが、中国共産党はそれはできないでしょう。習近平は、そのようなことより、中共と自らの統治の正当性を強化することに血道を上げています。中国経済よりも、そちらのほうが優先順位がはるかに高いように見えます。

今後世界で唯一超大国になれるかもしれない国は、インドだけです。ただ、そのインドも、さすがに超大国になるまでの道のりは長くて、今後数十年は要するでしょう。ただ、数十年たってさえ超大国になれるかどうかはわかりません。しかし、いずれ人口だけではなく、経済でも軍事力でも中国を上回るようになる可能性は高いです。

そうなると、当面は超大国は米国一国ということになります。中国は、10年後以降には、誰の目からみても、国力が衰え、世界の主要なプレイヤーで居続けることはできないでしょう。

ただ、今後10年間は、それはなかなか見えず、中国がまた成長軌道に戻ると、幻想を持ち続ける人も多いことでしょう。そのため「米国離れ」が進展する可能性もあります。さらに、中国は10年後に弱体化が誰の目にもはっきりするのは目に見えているので、この10年のうちに大きな冒険に打ってでる可能性は否定できません。

これに関しては、米国下院の「中国委員会」委員長のマイクギャラガー氏もそのような主張をしています。

マイク・ギャラガー氏

米国として、この10年間をなんとかそのようにならないように、多くの国々を繋ぎ止めていく努力が求められるでしょうし、日本も協力していくべきです。

中国の猛威も10年で収まるとみるべきです。先程述べたように、この10年内に中国が大冒険に打って出たとすれば、多くの国が大きな被害を被るかもしれません。無論これは絶対に避けるべきです。ただ、そうなったとしても、中国の衰退は構造的なものであり、中国は確実に衰えていきます。中国共産党の大冒険は、それを早めるだけです。それは、現在のロシアをみれば理解できます。

10年といえば、長いようですが、過ぎ去ってみればそれほど長くもないと思います。10年後には、中国とロシアがかなり衰えたことを前提に新たな世界秩序が生まれることになるでしょう。日米はこのことを、いまから世界中の国々に啓蒙していくべきと思います。

ロシアに関しては、日米欧とも、ここ数年は別にして、5年から10年の長期では、確実に敗戦するとみています。

10年後以降には、中国は数十年前の中国のようになり、ほとんど世界に影響力を及ばす事ができない国になる可能性は高いです。この国がかつて、GDPで米国を追い越すと思われたいたとはとても思えないような国になるでしょう。

中国の体制が変わった場合は、支援しても良いかもしれませんが、現体制のままであれば、支援はすべきではないでしょう。なぜなら、支援すれば、また同じことの繰り返しになるからです。

民主化、政治と経済の分離、法の支配を追求しない中国は、たとえ統治者が誰に変わろうと、現在と変わりがなく、支援を受けて経済を回復すれば、同じことを繰り返すだけです。日本も、かつてのようにODAで中国を助けるなどのことはすべきではありません。

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