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岡崎研究所
中国はこういう提案をすることで、ロシアの侵略とその成果を認める姿勢を示したが、これで仲介できると考えるのは中国の情勢判断能力に疑問を抱かせるものであると言わざるを得ない。さらに、今はウクライナが反転攻勢を加えようとしている時期であり、ピントの外れた仲介であると言わざるを得ない。
欧州側が李特使の考え方に強く反発したのは当然であり納得できるが、ウクライナ戦争とそれへの対応を見て、欧州の対中不信や姿勢はより厳しくなると思われる。そのこと自体は歓迎できることであろう。
フランスは、今なお中国のウクライナでの永続する平和への役割がありうるとしているが、何を念頭においているのか、理解しがたい。マクロン大統領の訪中の際の共同声明、その後のマクロンの対露、対米姿勢、特に北大西洋条約機構(NATO)や台湾問題に関する発言等には、要注意である。
習近平の反資本主義が引き起こす大きな矛盾―【私の論評】習近平の行動は、さらに独裁体制を強め、制度疲労を起こした中共を生きながらえさせる弥縫策(゚д゚)!
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中国の路線変更は大きな問題であり、「毛沢東主義への回帰」とか「鄧小平路線の変更」というよりも、もっと細かく見ていく必要があります。ただ、習近平の今のやり方は中国経済にとってはよい結果をもたらさないということと、中国はますます独裁的な国になることは確かです。共産党と独裁には元々強い親和性があります。
しかし、国民の不満は爆発寸前です。私自身は、習近平の一連の行動は、結局のところさらに独裁体制を強め、国民の不満を弾圧して、制度疲労を起こした中国共産党を生きながらえさせるための弥縫策と見るのが正しい見方だと思います。実際は本当は、単純なことなのでしょうが、それを見透かされないように、習近平があがいているだけだと思います。習近平に戦略や、主義主張、思想などがあり、それに基づいて動いていると思うから、矛盾に満ちていると思えるのですが、習近平が弥縫策を繰り返していると捉えれば単純です。2〜3年前までくらいは、戦略などもあったのでしょうが、現在は弥縫策とみるべきと思います。
無論、多くの国の指導者が、国際関係や国内の問題に関して、思いがけないことは頻繁に起こります。そのため、思いがけないことに関しては、弥縫策を取るのは普通のことだと思います。それにしても、長期の戦略がありながらも、当面弥縫策をとるのならわかりますが、習近平の行動は、単なる弥縫策と見るべきかもしれません。
特に経済面では、それは顕著です。過去に何度か述べたように、中国は国際金融のトリレンマにより、独立した金融政策ができない状況に陥っています。独立し金融政策ができないことは、中国経済に深刻な打撃を与えつつあります。
対処法は、いたって簡単で、人民元を固定相場制から変動相場制に移行させることです。あるいは、資本の自由な移動をさせないようにするかです。ただ、こちらのほうはできないでしょう。
だとすれば、変動相場制に移行するしかないのです。ただ、習近平はこれは実行せず、経済面においては弥縫策を繰り返すのみです。構造要因を取り除かない限り、中国経済が成長軌道に乗ることはありません。中国経済に関しては、様々な論評がなされていますが、それは現象面を語っているだけであって、中国経済が悪化し回復しないのは、独立した金融政策ができないことが根本原因です。
そうして、習近平は対外関係、国内でも弥縫策を繰り返しています。ただ、習近平の弥縫策は、様々な事柄を既成事実化するという手法で実行されていることが、より他国から信頼されないのと、危険な兆候を生み出しています。
習近平の政策を既成事実化する形で弥縫策を実施した例としては、以下のようなものがあります。
国家主席の任期制限の廃止。これは2018年の憲法改正によって行われ、習近平は無期限で政権を維持できるようになりました。これは、多くの人が習近平による権力奪取と見なし、物議を醸した。
反対意見の取り締まり。 習近平は、中国における反対意見を取り締まり、活動家、ジャーナリスト、弁護士を逮捕・投獄してきました。これは、「国家安全保障」を理由に人々を拘束する広範な権限を政府に与える国家安全法の拡大を含む、多くの手段によって行われてきました。
中国の軍隊の拡大。習近平は、新しい兵器システムの開発や南シナ海における中国の海軍プレゼンス拡大を含む、中国軍の大幅な拡張を監督してきました。これは、中国が世界の舞台で自己主張を強めていることの表れであるとの見方もあります。
一帯一路構想。一帯一路構想は、中国が世界の発展途上国に数十億ドルを投資する大規模なインフラプロジェクトです。この構想は、経済成長を促進し、貧困を削減する可能性があると一部で評価されていますが、中国の債務負担を増大させる可能性や地政学的野心から批判されることもあります。
これらは、習近平の弥縫策を既成事実化する形で実施されたほんの一例に過ぎないです。
習近平の弥縫策は、最近の琉球列島に関する発言にもみられます。
2023年3月8日に中国中央テレビ(CCTV)で放送されたテレビ番組「中国文化の生命力」。番組では、琉球諸島に関する習近平主席のコメントや、中国の主張を支持する学者たちの解説が紹介されました。
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習近平はコメントの中で、琉球諸島(現代の沖縄諸島)は "中国領土の不可分の一部 "であると述べました。また、中国は "琉球諸島を支配してきた長く継続的な歴史がある "とも述べています。
番組に出演した学者たちも、習近平の発言に共鳴していました。彼らは、琉球諸島は常に中国の一部であり、日本が同諸島を領有することは違法であると述べました。
中国メディアのキャンペーンは、琉球諸島の主権を主張する中国によるより大きな努力の一部です。中国はまた、この地域での軍事的プレゼンスを高めており、ロシアとの合同軍事演習を実施しています。
日本政府は、中国のメディアキャンペーンに懸念を持って反応しています。日本政府は、琉球諸島の領有権を放棄することはないと述べています。
そもそも琉球王国は中国の朝貢国ではありましたが、中国に支配されたことはありませんでした。
17世紀に書かれた琉球王国の歴史書『琉球国記』には、14世紀以降、中国の朝貢国であったと記されています。
また、清朝時代に編纂された法律書『清法』では、琉球王国は中国の朝貢国であったとされています。
琉球王国公文書館に保存されている琉球王国の外交記録には、中国との交流の記録が数多く残されています。これらの記録は、琉球王国が中国に定期的に朝貢団を送ったこと、中国皇帝が琉球王に "琉球王 "という称号を与えたことを示しています。
しかし、琉球王国は決して中国に支配されたわけではありません。王国には独自の政府があり、独自の法律があり、独自の軍隊がありました。琉球王は王国の最高統治者であり、中国皇帝に服従することはありませんでした。
琉球王国の中国への朝貢は500年以上続きました。1879年、琉球王国は日本に併合され、その歴史は終わったのです。
琉球諸島は "中国領土の不可分の一部 "であるという習近平の発言は間違いです。
琉球諸島を巡って中国と日本の間には何の問題もないのですが、習近平は軍事的にも経済的にも行き詰まってるため、弥縫策で両国には長い対立の歴史があり、琉球諸島の問題は敏感なものであると、発言し、国内の注意をそちらに向けていると考えられます。普通の国のトップなら、恥ずかしくてできないことです。事態がどのように進展するかは不明ですが、注視すべき弥縫策といえるかもしれません。
以下、中国メディアのキャンペーンについて補足します。
このキャンペーンは、少なくとも2020年から実施されています。新聞、雑誌、テレビ番組、ソーシャルメディアなど、さまざまなメディアで実施されてきました。
特に若い人たちに焦点を当てたキャンペーンです。中国人に琉球への郷愁を抱かせるように設計されています。
また、中国の琉球諸島に対する主張について、特に若い人たちを印象操作しようとするものです。この中国メディアのキャンペーンは、さまざまな反響を呼んでいます。一部の人々は、琉球諸島と中国の主張に対する認識を高めたと賞賛しています。また、ジンゴイズム的である、歴史を歪曲しているという批判もあります。
中国のメディアキャンペーンが長期的にどのような影響を及ぼすかについては、時期尚早と言わざるを得ません。しかし、このキャンペーンが、琉球諸島に対する主権を主張する中国によるより大きな努力の一部であることは明らかです。
テレビ番組「中国文化の生命力」のほか、中国メディアは、琉球諸島に対する中国の主張を宣伝する記事やソーシャルメディアへの投稿を数多く流しています。これらの記事や投稿は、中国の主張を支持するために歴史的・文化的な論拠を用いることが多い。また、日本が琉球諸島を支配していることを批判することもしばしばあります。
中国はまた、沖縄付近での中国とロシアとの航空機による合同飛行を行うなどの異常な行動をとっています。
中国中央電視台の建物 |
対外関係においても、弥縫策を繰り返す習近平ですが、その弥縫策がうまくいきそうであれば、長い年月をかけてでも、南シナ海を実効支配したように、規定化路線を取るのが中国のやりかたです。弥縫策がうまくいくと、不合理な理由であろうと何であろうと、屁理屈ともいえるような幼稚な理論で、規制路線化を押し通し、うまくいかないと、コロコロを態度を変えるので、信頼されなくなるのです。
日米欧は、中国の弥縫策による規制化路線に関しては、最初から猜疑心を持って見て、放置せずすぐに何らかの反応をすべきと思います。南シナ海においても、1980年代に中国が環礁に粗末な掘っ立て小屋を建てた時期に、米国が場合によっては、戦争も厭わない強い姿勢で臨めば、今日のようなことにはならなかったと考えられます。
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