2023年6月7日水曜日

NEC、太平洋島嶼国を結ぶ光海底ケーブルの供給契約を締結―【私の論評】日米、中国の南太平洋での覇権争いは前からすでに始まっている(゚д゚)!

NEC、太平洋島嶼国を結ぶ光海底ケーブルの供給契約を締結

NECは、ミクロネシア連邦の海底ケーブル運営会社FSM Telecommunications Cable Corporation (FSMTCC)、キリバス共和国の国営通信会社Bwebweriki Net Limited (BNL)、ナウル共和国の国営通信会社Nauru Fibre Cable Corporation (NFCC)と、光海底ケーブル敷設プロジェクト「East Micronesia Cable System (EMCS)」のシステム供給契約を締結しました。EMCSは、総延長距離約2,250kmの光海底ケーブルで、太平洋島嶼国のミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの3か国4島を接続し、キリバス、ナウル及びミクロネシア連邦をつなぐ初の光海底ケーブルとなります。

光海底ケーブルEMCSルート図

本ケーブルは、キリバスのタラワ島から、ナウル島、ミクロネシア連邦のコスラエ島を経由してポンペイ島へと敷設されます。これにより各国で暮らす人々に、高速、高品質、高信頼かつ安全なインターネット通信環境を提供し、同地域のデジタル化と経済発展に寄与します。

本件は、日本・米国・豪州の各政府が連携支援する「東部ミクロネシア海底ケーブル事業」に基づくプロジェクトで、3か国の資金提供のもとで実施されます。

NECは、過去50年以上にわたり海底ケーブルシステム事業を手掛けるトップベンダーです。地球10周分のべ40万kmを超える敷設実績があり、グローバルに事業を展開しています。また、海底ケーブルや海底中継器、陸上に設置する伝送端局装置などの製造、海洋調査とルート設計、据付・敷設工事、訓練から引渡試験まで、全てをシステムインテグレータとして提供しています。なお、海底ケーブルはNECの子会社である株式会社OCC(注1)で、海底中継器はNECプラットフォームズ株式会社(注2)で製造しています。

本件に関する各社のコメントは以下のとおりです。

コスラエ州はミクロネシア連邦で唯一、海底ケーブルに接続していない州です。本プロジェクトにより、ミクロネシア連邦の全4州における平等なデジタル接続環境を実現し、様々な情報や必要なサービスへのアクセス能力を大幅に向上します。プロジェクトパートナーの皆様のご支援とご協力に感謝いたします。

FSMTCC社 CEO 兼 EMCS運営委員会会長 Gordon Segal

キリバスやミクロネシア地域にとって重要な意味を持つ本プロジェクトを嬉しく思います。BNL社は、EMCSのパートナーである日米豪政府、NECおよび太平洋地域の皆様とともに、本プロジェクトを実現できることを楽しみにしています。

BNL社 CEO Ioane Koroivuki

本プロジェクトによってナウルに初めて海底ケーブルが敷設されることになり、将来の通信システムの生命線としてナウルに大きな利益をもたらします。海底ケーブルの製造、供給、敷設において豊富な経験と実績で業界をリードするNECと契約の締結に至ったことを大変嬉しく思います。同様に、日米豪政府並びにミクロネシア連邦及びキリバスの皆様と協働できることをうれしく思います。本プロジェクトの完遂を心待ちにしています。

NFCC社 CEO 兼 ナウル法務国境管理長官 Jay Udit

近年のデジタル化の進展により、インターネットへの接続性やデジタル技術へのアクセスが、その国や地域の経済的及び社会的発展に及ぼす影響はますます大きくなっています。NECグループが長年培ってきた光海底ケーブル通信技術によって、太平洋島嶼国地域の通信インフラを強化し、より快適で安全な暮らしの実現に貢献できることを大変光栄に思います。

NEC 海洋システム事業部門長 桑原淳


以上

【私の論評】日米と中国の南太平洋での覇権争いは前からすでに始まっている(゚д゚)!

この新しい光海底ケープルは、安全保証上でも貢献するに違いありません。

今回のケーブルは、「東ミクロネシアケーブル」システムと呼ばれるもので、ナウル、キリバス、ミクロネシア連邦の各島しょ国における通信環境を改善するために計画されたものです。

海底ケープルのイメージ

ただ、2021年、南太平洋島嶼国を対象とする世界銀行主導の海底通信ケーブル敷設プロジェクトが、中国企業の参加が安全保障上の脅威だとする米国の警告を各島嶼国政府が聞き入れたために頓挫していました。

関係筋によると、上海市場に上場する亨通光電が過半を保有する華海通信技術(HMNテクノロジーズ、旧社名:華為海洋網絡=ファーウェイ・マリン・ネットワークス=)がこの7260万ドル規模のプロジェクトを巡り、競合のフィンランドのノキア傘下のアルカテル・サブマリン・ネットワークス(ASN)や日本のNECよりも20%以上低い価格で入札に参加したとさてれています。

プロジェクトの入札について直接知る立場にあるこの関係筋2人はロイターに対し、華海通信技術の入札参加を巡って島しょ国の間で安全保障上の懸念が強まったため、プロジェクトが行き詰まったと説明。ケーブルは軍事施設のある米領グアムにつながる計画でした。

今回、このブロジェクトをNECが受注したのです。

中国は、その経済力を利用して、ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルに圧力をかけ、北京が戦略的に重要な地域で軍事的足場を築く可能性のある安全保障協定に署名させたり、させようとしていると非難されています。

この協定は公表されていませんが、米国とその同盟国は、中国が太平洋に軍事基地を設置することを可能にする恐れがあると懸念しています。

中国は、太平洋における軍事的プレゼンスを求めていることを否定していますが、この地域との経済的・安全保障的な関係を発展させることを約束するものであると述べています。

以下は、中国に対する具体的な非難です。
  • 中国は、安全保障協定を締結する代わりに、3カ国への経済援助を申し出ている。
  • 中国は、国連における影響力を利用して、3カ国に協定に署名するよう圧力をかけている。
現在、中国と安全保障協定を結んでいる南太平洋の島嶼国は、ソロモン諸島と、キリバスです。

2022年、中国とソロモン諸島は、米国とその同盟国の間で懸念を抱かせる安全保障協定を締結しました。この協定により、中国は社会秩序を維持し、中国の人員や資産を保護するため、ソロモン諸島に警察や軍人を派遣することができます。この協定は、中国が太平洋における軍事的プレゼンスの確立を目指していることの表れであると解釈する向きもあるようです。

2022年、中国とキリバスは安全保障協力に関する覚書に署名した。この覚書には安全保障協定ほどの法的効力はないが、中国が訓練や災害救助の目的でキリバスへ警察や軍人を派遣することを認めている。

米国とその同盟国は、中国が南太平洋の島国と安全保障上の関係を深めていることに懸念を表明しています。中国がこの地域での軍事的プレゼンスを利用して、自分たちの利益を脅かす可能性があると懸念しているのです。中国はそのような意図を否定し、南太平洋島嶼国との安全保障協力は純粋に防衛的な目的であるとしています。

中国と南太平洋島嶼国との安全保障協定が長期的にどのような影響を及ぼすかについては、まだ判断するのは早計です。しかし、これらの協定がこの地域のパワーバランスを大きく変える可能性があることは明らかです。

ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルは、いずれも太平洋に浮かぶ小さな島国です。いずれも米国との自由連合協定(COFA)に加盟しています。COFAの下、米国はこれらの国々に経済援助、防衛支援、米国市場へのアクセスを提供しています。

また、日本は米国の安全保障上の緊密なパートナーです。日米両国は相互防衛条約を結んでおり、定期的に合同軍事演習を実施しています。また、日本はミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの主要な経済パートナーでもあります。

新しい海底ケーブルが人々の暮らしを豊にすることは間違いないですが、それ以外にも安全保障上でも貢献するのは間違いないです。

6月2日ナウルで行われた「東ミクロネシア海底ケーブルプロジェクト」の交換公文の署名式

まずは、サイバー攻撃への耐性が向上することです。ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの現在のインターネットインフラは、サイバー攻撃に対して脆弱です。新しい海底ケーブルは、これらの国々に、より弾力的で安全な通信ネットワークを提供します。これにより、病院や政府機関などの重要なインフラをサイバー攻撃から守ることができるようになります。

新しい海底ケーブルは、災害対応活動において、より信頼性が高く安全な通信ネットワークを提供します。これにより、災害発生時に初動対応者や政府関係者が効果的にコミュニケーションをとることができるようになります。

また、新しいケーブルは、国境を越えてデータを送信するための、より安全な方法を提供します。これにより、国境警備が改善され、麻薬取引や人身売買などの違法行為の蔓延を防ぐことができます。

全体として、新しい海底ケーブルは、ミクロネシア連邦、キリバス、ナウルの治安を大きく向上させることになります。

中国が、なぜこの地域に関心を示すのかといえば、中国にとって北東アジアで有事の際、まずは、日本周辺にいる米軍が対処するでしょうが、それでは十分作戦が行えないとなればグアム、ハワイさらに本土から米軍の来援があるでしょう。

その来援のシーレーンとなるのがこの南太平洋島嶼国が存在するあたりになります。つまり来援を防ぐという意味で大変重要ですし、オーストラリアとアメリカを結ぶラインでもありますので、これを分断する役割もあります。まさにこれは、旧日本軍が(太平洋戦争で)やろうとしたことと同じことを中国が考えている可能性があります。

南太平洋の戦いで雷撃を受けた米空母「ワスプ」

この地域に中国が軍事的拠点を持てば、太平洋のパワーバランスが変わるという、戦略的重要地域であることはわかっていながら、財政上の問題で大使館を閉めるなど、いわば手を引いていた米国は、今になって大使館を復活させたり、クアッドで500億ドルを超える新たな支援・投資を始めたり躍起になっています。コツコツじわじわ積み上げてきた中国とは対照的です。

そうしてさなかに、日本の会社であるNECが、今回太平洋島嶼国を結ぶ光海底ケーブルの供給することになったのは、まことに喜ばしいことですし、この地域の安全保障にも寄与することになります。

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