2020年12月1日火曜日

中国が輸出管理法を施行 梶山経産相「企業はしっかり備えを」―【私の論評】先進国が中国から唯一学べることは、統治と実行を分離しない政権はいずれ崩壊すること(゚д゚)!

  中国が輸出管理法を施行 梶山経産相「企業はしっかり備えを」

梶山弘志経済産業相=1日午前、首相官邸


 中国が、国家安全に関わる戦略物資や技術の輸出を規制する「輸出管理法」を1日に施行した。中国の安全保障に害を及ぼすとみなした企業をリスト化して禁輸措置をとることが可能となり、対中圧力を強めている米国に対抗する狙いがある。施行までに管理対象となる品目を公表していないなど、運用をめぐる不透明さに海外で懸念が強まっている。

 同法は、安全保障に関わると判断した物資や技術などを当局がリスト化して輸出を制限する。対象品目を輸出する際には、事前に輸出先や使い道を中国当局に申請し、許可を得ることが必要になる。特定の外国企業をリスト化して輸出を禁止できるようにするなど、米国などに対する報復措置を整える狙いが鮮明だ。




 管理対象品目には、中国が世界の生産シェアの6割強を占めるレアアースが入るとの見方があり日本企業も警戒している。

 梶山弘志経済産業相は1日の閣議後記者会見で、同法については「どのように運用され、どんな品目が対象になるのか依然として明らかでない」と指摘。日本企業に「米中それぞれの市場における事業が阻害されないよう、しっかりと備えてほしい」と求めた。問題が起きれば政府が支援する意向も示した。

【私の論評】先進国が中共から唯一学べることは、統治と実行を分離しない政権はいずれ崩壊すること(゚д゚)!

安全保障上の問題を理由とする輸出規制のための法律は多くの国がすでに制定しています。輸出品が核兵器などの武器開発に使われた結果、自国の安全保障が危うくなることを防ぐためで、日本にも「外国為替及び外国貿易法」などがあります。中国が同様の法律を整備することも当然です

ところがその内容を詳しく見ると、伝統的な安全保障に関する世界の常識とはかけ離れた中国の異様な考え方が見えてきます。


この法律はまず、戦略物資など管理品目を決めて輸出を許可制にするとともに、自国の安全保障などを理由に禁輸企業のリストを作り、これら企業への輸出を禁止するとしています。管理品目や禁輸対象企業のリストは年内にも策定すると伝えられています。

米国が大統領選と政権移行期というタイミングでのこうした動きは、中国に対する米国のさまざまな輸出規制への対抗措置手段を法的に整備し、次の大統領がトランプになろうがバイデンになろうが、新政権の出方次第では厳しい措置を発動するという構えを見せる意図があるのでしょう。

しかし、この法律にはそれ以外に注目すべき点があります。法案作成の最終段階でこの法律には「域外適用規定」が追加されました。その内容は「中国国外の組織と個人が、本法の規定に違反し、拡散防止などの国際義務の履行を妨害し、中国の国家安全と利益に危害を及ぼした場合は、法に基づいて処理し、その法的責任を追及する」となっています。こうした条文は主要国の法律にはありません。

この条文が何を意味しているのか、実はよくわかりません。「中国国外の組織と個人」「中国の国家安全と利益」「危害」などのキーワードの定義が書かれていないからです。「中国の国家安全」は漠然とながら想像できますが、その次に出てくる「利益」や「危害」は幅広い意味を持つ言葉です。

「利益」は軍事にとどまらず、政治、経済、社会などあらゆる分野に拡大解釈できます。その判断は中国共産党しかできないでしょうし、特定国の特定企業を意図的に排除しようと思えばいくらでも恣意的に法律を執行できます。一方、企業にとってはリスクを回避しようのない規定です。

さらに続く部分で「法に基づいて処理」と書かれているが、ここでいう「法」はその前に出てくる「本法」とは明らかに区別されており、輸出管理法以外の法が適用されそうです。ただ、どの法律が適用されるのか不明です。そうして最後の「法的責任の追及」も何を意味しているのかわかりません。

意図的に抽象的な言葉を並べることで、中国当局が好きなように解釈し、幅広く適用できるようにしているとしか考えられないです。日米欧の主要産業団体は法律の草案が公表された段階で危機感を持ち、中国政府に対して「外国企業を著しく不安にさせる」などとして同条項の削除を求めたのですが、要求は受け入れらませんでした。

中国の習近平国家主席が昨年5月20日、江西省内のレアアース企業を視察した


さらに、この条項とともに注意深く分析しなければならないのが、中国の安全保障についての考え方です。

中国の国家安全についての考え方は習近平国家主席が2014年に打ち出した「総体国家安全観」によく示されています。その内容は日米欧など主要国の伝統的安全保障の概念とはかなり異なっています。

まず、国家安全の対象に「国土の安全」「軍事の安全」など10余りの領域を列挙していますが、その冒頭に挙げているのは「政治の安定」です。さらに習氏は「対外的安全保障と対内的安定維持を同時に重視する」とも語っています。

中国憲法の前文には「中国の各民族人民」が「中国共産党の指導の下」にあることが明記されています。さらに習氏は2017年の党大会で、「党政軍民学、東西南北中、一切の活動を党は領導する」と発言しています。

これは共産党はもとより、政府、人民解放軍、民間部門、学術部門などすべての分野において、また地理的にも中央を含め中国全土で共産党指導部が主導権を持つという権力集中を意味しています。つまり、中国における政治の安定とは、中国共産党の一党支配の維持・継続を意味しているのです。

近年、安全保障という言葉は軍事に限定されず、経済や地球環境など幅広く使われることが増えてきました。伝統的には軍事的な面が中心で、外国軍の侵略などから領土、主権、国民を守ることなどを意味しています。そのため各国は自国の軍事力を整備するとともに、貿易面では武器に転用されかねない製品や技術の輸出を規制しています。

ところが中国共産党の安全保障の考え方は、習近平主席が強調しているように政治の安定が最優先であり、また「外からの脅威」とともに「国内の安定」も安全保障政策上、重要な課題になっているのです。

対内的安定がなぜ重要なのでしょうか。中国共産党は、新疆ウイグルやチベット、内モンゴルなど各自治区での少数民族の独立運動や香港の民主化運動、さらに台湾問題など中国は国内に深刻な問題を抱えています。また、人民が政府や企業を相手に集団で諸要求の実現を求めてデモや暴動を起こす「群体性事件」も深刻な問題となっています。正確な数は公表されていないが1年間に10万件以上起きていると言われています。

群体性事件は、中国社会が抱える地域格差、所得格差などさまざまな矛盾が解決できないため、人民に不満がたまっていることを示しています。そうして、これらの運動が政府批判、反体制運動に広がっていくと、共産党一党支配の正統性を揺るがしかねません。中国共産党にとってこうした運動を抑え込むことが対内安定維持であって、最も重要な安全保障上の課題となっているのです。

問題は中国流の安全保障観では、中国国内の安定と対外的安全保障が不可分となっていることです。少数民族の独立運動や香港の民主化運動について、中国政府は中国共産党の統治の正統性に傷をつけないため自らの非を一切認めず、一貫して「外国勢力が国内勢力と裏で連携、結託している」として暴動などを取り締まっています。そうして米国などが人権問題であると非難すると、「内政干渉である」と激しく反発しています。

こうした観点から輸出管理法の域外適用規定を読めば、そこに込められた政治的意図が透けて見えます。つまり、中国政府は国内の民主化運動などに関与した国があれば、本来の輸出管理の目的を外れてこの規定を自由に使い、その国の企業などを制裁対象にすることができるのです。

同じような内容は6月に成立した香港国家安全維持法の条文にも盛り込まれています。同法には「国家安全保障を脅かす外国または域外勢力との共謀罪」が規定され、香港に住んでいない外国人もこの法律によって処罰すると書かれています。

つまり、中国の安全保障の最大の目的は共産党支配を安定させることであり、それは国外の脅威への対処だけでなく国内の反政府運動などを抑え込むことも意味しているのです。そうして、国内政策の矛盾に対する批判の矛先が共産党に向かわないようするため、「内政干渉」などを理由に国外に批判の対象を作って制裁措置をとるのです。それを正当化するための法律の一つが今回の輸出管理法なのでしょう。

よく言われることですが、日本や欧米諸国は、法によって権力を拘束する「法の支配」(Rule of Law)が定着しています。これに対し中国のシステムは法が権力者である中国共産党に奉仕する「法による統治」(Rule by Law)となっています。今回の輸出管理法も明らかにこの規則が当てはまっています。

ドラッカー氏は、政府の役割である統治について、以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。「統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い」というのです。

しかし、ここで企業の経験が役に立ちます。企業は、これまでほぼ半世紀にわたって、統治と実行の両立に取り組んできました。その結果、両者は分離しなければならないということを知りました。現在の上場企業等は、両者が分離されているのが普通です。

たとえば、最近は「○○ホールディングス」等という持株会社の名前を聞くことがありますが、これら持株会社は株を所有して管理するだけの会社ではありません。様々な事業会社グループの中で、この持株会社が本部として、グループ全体の統治の役割を担っているです。

セブン・アンド・アイ ホールディングスの取締役会

企業において、統治と実行の分離は、トップマネジメントの弱体化を意味するものではありませんでした。その意図は、トップマネジメントを強化することにありました。実際、統治と実行を厳密に区分した企業は、大企業となっても成長しています。

憲法や人民解放軍を中国共産党の下に位置づけ、経済運営にまで直接介入し、さらに法律に「域外適用規定」の規定を設けて海外にまで直接介入しようとする中国共産党は、会社の規模が大きくなっても、統治と実行の両方を無理やり実行しようとする、企業の経営者のようです。そのような試みは必ず失敗することが、過去の歴史が示しています。

そうして、中国共産党とて例外とはならないでしょう。早晩、統治不能となり崩壊します。中国が例外のように見えるのは、その図体があまりにも大きいからです。大きな会社が、無理をして統治と実行を分離せずに、旧態依然の経営をしていれば、しばらくの間は小さな企業よりは持つでしょうが、いずれ崩壊します。今の中国もそうなります。

ただし、中国以外の国々、それも先進国といわれる国々や国連などの国際組織も、統治と実行の分離がしかりなされていないところがあります。それが、今日政府や国際組織の機能不全を招いています。

日本でも、そのために財務省があたかも大きな政治グループのように振る舞い政治に関与し、「政治主導」というあたりまえのことが未だに実現されていません。

今後数十年で、中国共産党は崩壊するでしょうが、統治と実行が分離されていなければ、何が起こるのかを、我々も中国共産党の崩壊の過程から学ぶべきです。

ちなみに、ドラッカー氏は、政府は統治をすべきであって、それ以外は政府の外に出すべきと主張しています。先進国の政府もいずれ段階的にでも、そのようにすべきです。そうでないと、いずれ現在の中国のように、機能不全を起こし、政府が崩壊するということにもなりかねません。

先進国が中国から学べるとすれば、これだけかもしれません。

未だ米国大統領選挙の結果がでていませんが、トランプ政権は輸出管理法に対抗する措置を実施するでしょう。それもかなり厳しい措置になると思います。たとえ、バイデンが大統領になったとしても、就任前に取り返しがつかなくなるくらいの、厳しい措置を実行するのではないかと思います。

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2020年11月30日月曜日

豪首相、中国外務省報道官の偽画像投稿巡り謝罪を要求―【私の論評】人民解放軍や民兵は、台湾や尖閣を確保できないが、それと中国の傍若無人な発言・行動に抗議をしないこととは別問題(゚д゚)!

 豪首相、中国外務省報道官の偽画像投稿巡り謝罪を要求


    11月30日、モリソン豪首相(写真)は、同国軍の兵士がアフガニスタン人の子どもの喉元にナイフを
    突きつけているように見える偽の合成画像が中国外務省報道官の趙立堅氏によってツイッターに投稿された
    のを受け、「非常に不快」と批判し、削除を要求していると明らかにした。

 モリソン豪首相は、同国軍の兵士がアフガニスタン人の子どもの喉元にナイフを突きつけているように見える偽の合成画像が中国外務省報道官の趙立堅氏によってツイッターに投稿されたのを受け、「非常に不快」と批判し、削除を要求していると明らかにした。 

 中国政府に謝罪を求めていると述べ、豪政府としてツイッターに、30日掲載の同ツイートの削除を要請したと説明した。

 「甚だしく非常識で、いかなる理由でも正当化されない」と強調。「中国政府は恥を知るべきだ。世界の目から見れば地位を落とす行為だ」と続けた。

 豪中関係は、豪政府が新型コロナウイルスの起源に関する国際的な調査を求めて以来、悪化している。 豪軍は先に、アフガニスタンに派遣された軍特殊部隊の兵士25人が非武装の捕虜や民間人ら39人を違法に殺害したとの調査結果を発表。先週末には兵士13人に解雇を通知したと明らかにしていた。

 趙氏は投稿で「豪軍兵士によるアフガン民間人と捕虜の殺害にショックを受けた。われわれは強くこのような行為を非難し、責任を負わせるよう求める」としていた。

 同メッセージは27日に投稿されていたが、偽の画像はその時点ではなかった。
【私の論評】人民解放軍や民兵は、台湾や尖閣を確保できないが、それと中国の傍若無人な発言・行動に抗議をしないこととは別問題(゚д゚)!

モリソン豪首相の中国への抗議は、当然といえば、当然です。もし、厳しく抗議をしなければ、中国は中共の命令で、様々な機会にこのようなフェイク画像を合成して、SNSに投稿することでしょう。ちなみに掲載された合成写真を以下に掲載します。(一部加工しています)


日本の菅総理や政権幹部もこうしたモリソン豪首相の態度を見習うべきでしょう。

尖閣問題も、慰安婦問題も、最初に首相や幹部が厳しい抗議をしていれば、今日のようなことになっていなかった可能性が大です。

最近の例では、河野克俊前統合幕僚長は今月16日、東京都内で講演し、旧民主党の野田佳彦政権を念頭に、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の周辺海域に中国海軍の艦艇が接近した場合は「海上自衛隊の護衛艦は『相手を刺激しないように見えないところにいろ』と(官邸に)いわれた」と明かしました。野田政権が平成24年9月に尖閣諸島を国有化した当時、日中の緊張関係が高まっており、中国側に配慮した措置とみられます。

野田佳彦氏

中国軍の艦艇は通常、中国海警局の巡視船が尖閣周辺を航行する際、尖閣から約90キロ北東の北緯27度線の北側海域に展開します。これに対して、海自の護衛艦は不測の事態に備え、27度線の南側で中国軍艦艇を警戒監視しています。


河野氏は「安倍晋三政権では『何をやっているのか。とにかく見えるところまで出せ』といわれ、方針転換しました。今ではマンツーマンでついている」と語りました。自民党の長島昭久衆院議員のパーティーで明かしました。

野田氏は尖閣で中国に配慮したつもりなのでしょうが、それが今日の度重なる領海審判、領空審判につながっているのは間違いないでしょう。

本来実施すべきだったのは、軍事衝突になることもおそれす護衛艦を前に出すことでした。そうすれば、今日のような有様はなかったかもしれません。

このような腰砕け的な、中国につけこまれるようなことをするのは、民主党(現在の立憲民主党、国民民主党)だけかと思えば、自民党も似たり寄ったりでがっくりきました。

皆さんもご存知のように、今月24日の茂木外相と王騎との会談です。これについては、このブログでもとりあげました。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国外相、あきれた暴言連発 共同記者会見で「日本の漁船が尖閣に侵入」 石平氏「ナメられている。王氏に即刻帰国促すべき」―【私の論評】王毅の傍若無人な暴言は、中共の「国内向け政治メッセージ」(゚д゚)!
王毅

中国の王毅国務委員兼外相が、大暴言を連発しました。24日の日中外相会談後、茂木敏充外相と行った共同記者会見で、沖縄県・尖閣諸島をめぐり、中国の領有権を一方的に主張したのです。両外相は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて制限しているビジネス関係者の往来を11月中に再開することで合意したといいますが、菅義偉政権はこの暴言を放置するのでしょうか。

茂木氏は記者発表で、「尖閣周辺海域に関する日本の立場を説明し、中国側の前向きな行動を強く求めた」と強調しました。

 これに対し、王氏からは、次のような看過できない発言が飛び出した。

「ここで1つの事実を紹介したい。この間、一部の真相が分かっていない日本の漁船が絶えなく釣魚島(=尖閣諸島の中国名)の周辺水域に入っている事態が発生している。中国側としてはやむを得ず非常的な反応をしなければならない。われわれの立場は明確で、引き続き自国の主権を守っていく。敏感な水域における事態を複雑化させる行動を避けるべきだ」

尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土です。

この傍若無人な王毅の振る舞いの背景には何があるのかをこの記事で分析しましたが、簡単にいうと、これは中国人民解放軍の制服組がときおり実行する、「国内向けブロパガンダ」です。

制服組が時折強硬発言するのは、結局彼らは他国と真正面から戦うと負けることはわかっているのですが、それを表面に出せば、人民や権力闘争の相手方から付け入るすきを与えることになるので、強硬発言をして、彼らの憤怒のマグマを直接浴びることをそらすことが目的です。

現在の中国の戦力は金をかけた分、核兵器なども含めて侮ることはできませんが、核兵器はおいそれと使うことができないし、通常兵器で戦えば、軍事的な弱小国には勝てますが、米露はもとより、海洋戦では日本にも勝てないです。

特に海洋戦においては、日米の潜水艦隊や哨戒力には中国はおよびもつかず、とうていかなわないと自覚しているのです。しかし、それはおくびにも出さず、強硬発言で国内向けプロパガンダを行い、自分たちや習近平政権を守っているというのが実情です。

実際に海洋戦になれば、日米は中国より数段優れた、哨戒能力により空母や艦艇をことごとく撃沈できますが、中国は日本の潜水艦の静寂性や、米国原潜の空母なみの破壊力には勝つことはできません。一方、中国の潜水艦は静寂性からは程遠く、すぐに日米に発見され、日米の潜水艦や日本の対艦ミサイル、米国のステルス機などに撃沈されてしまいます。

他の艦艇や航空機も同じです。台湾や尖閣に人民解放軍や民兵が上陸したとしても、日米の潜水艦隊に包囲されてしまえば、上陸部隊に補給ができず、結局上陸部隊はお手上げになってしまいます。このあたりのことは、なぜか日米のメディアでは報道されません。

潜水艦の行動は、昔から表に出さいないというのが、常識ですが、米軍は今年の5月に太平洋艦隊司令部がインド太平洋地域に新たに潜水艦を7隻派遣していますし、日本では今年の3月に最新鋭艦「たいげい」が進水し、潜水艦22隻体制にすることは周知ですし、これらの事実から日米はすでに海洋戦の戦術・戦略を変えたと認識すべきでしょう。

特に初戦でわざわざ、対艦ミサイル、魚雷などに対して脆弱な空母打撃群や艦艇を派遣して、中国に格好の目標を与えるような馬鹿マネはしないでしょう。初戦は潜水艦隊を派遣して、中国の潜水艦、他の艦艇、ミサイル基地などを破壊した後に必要があれば、空母打撃群派遣するというのが妥当な戦術・戦略です。

尖閣や台湾の守備には、日米とも潜水艦隊だけで十分に対応できるでしょう。何しろ、日米ともこれらの島嶼を確保する必要性などありません。これらを潜水艦艇で包囲し、中国潜水艦、補給船、航空機を近づけないようにすれば良いだけです。これだけなら、犠牲も少なくてすみます。一方、島嶼を確保しなければならない中国にはおびただしい犠牲がでることになります。

このあたりは、このブログでも最近力を入れて何度か解説しているので、興味のある方は是非ご覧になってください。

結局、中国は尖閣諸島や台湾なども、日米の潜水艦隊に阻まれ、これを奪取することは無理なのです。中国海軍のロードマップでは、今年は第二列島線を確保することになっていますが、現実には台湾、尖閣諸島を含む第一列島線すら確保できていません。

しかしこうした現実と、中国の強硬発言にすぐに抗議をしないということは別問題です。やはり、日本も豪州のように、中国が問題発言・行動をした場合には、すぐさま抗議をすべきでしょう。

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2020年11月29日日曜日

「未来投資会議」の廃止で、いよいよ菅総理が「経済政策」に本腰を入れ始めた…!―【私の論評】人事を駆使し、トップダウン方式の政策決定過程を日本でも定着させる菅総理(゚д゚)!

「未来投資会議」の廃止で、いよいよ菅総理が「経済政策」に本腰を入れ始めた…!

発足から2ヵ月…



「成長戦略会議」を新設

菅義偉内閣が発足して、約2ヵ月が経った。この間、「ハンコ行政」の廃止や、デジタル庁新設の決定など、霞が関周りでいくつもの変化があった。

中でも大きかったのが、前政権において経済政策の旗振り役だった「未来投資会議」を廃止し、「成長戦略会議」を新設したことだろう。そもそも、未来投資会議は2016年9月、安倍晋三前首相を本部長とする「日本経済再生本部」の下に設置されたものだ。

元来、経済財政運営を議論してきたのは、'01年に創設された経済財政諮問会議だった。

ところが、同会議は財務省や内閣府の影響力が大きかった。そこで、政策決定の主導権を握ろうと考えた経済産業省が音頭を取って'13年に立ち上げたのが、産業競争力会議で、その発展形が未来投資会議だった。

産業競争力会議も未来投資会議も、閣僚のほか民間議員により構成され、消費増税対策や社会保障改革、最近では新型コロナ後の社会像の設計など、幅広い分野の議題に取り組んできた。

そして、その会議運営には、総理大臣補佐官だった今井尚哉氏を筆頭に、経産官僚の意向が色濃く反映されてきた。

ところが、菅内閣が発足すると、同会議は「成長戦略会議」と名前を変えて機能を縮小され、議長も首相から官房長官に格下げされた。これは今後、首相が議長を務め財務省が主導する財政諮問会議よりも格下の会議として位置づけられることを意味する。

財務省の手練手管には乗らない菅総理

官邸周りの人事からも言えることだが、経産省の影響力が、菅政権において大幅に縮小されるのは明らかだろう。そのうえ、菅首相は官房長官時代に自らの秘書官だった財務省の矢野康治主計局長と親密であるとされる。

財務省の主流である東大法学部ではなく、一橋大学出身の矢野氏が入省同期でトップの主計局長に抜擢されたのは、菅政権の成立を見越した「布石」だったというのが、大方の霞が関ウォッチャーの見立てだ。

財務省矢野康治主計局長

こうして見ると、すっかり財務省優位のように思われるが、事はそう簡単ではない。

菅首相は、官房長官時代に内閣人事局を通じて霞が関官僚を掌握しているため、財務省といえども、かつてのように政策を完全にコントロールするのは難しいからだ。

さらに、菅首相は政治の師として故・梶山静六氏を挙げている。梶山氏は、官房長官時代の1996年、旧大蔵官僚の振り付けの下で、消費増税を決断した。ところが、後に梶山氏が「俺は大蔵省に騙された」と深く悔いていたというのは、よく知られたエピソードだ。

その姿を間近で見てきた菅首相が、財務省の手練手管にそう簡単に乗せられるとは思えない。

実際、政権発足以来、菅首相は学者やマスコミ、経済人など官僚以外の様々な人々を広く呼び込み、じっくりと話を聞いて判断を下している。こうした菅首相の人柄やスタイルから見れば、いずれかの省庁が主導権を握るとはどうしても思えないのだ。

課題によっては、省庁の判断を待たず、菅首相が自らで決断するという、これまでの日本にはなかったトップダウン方式の政策決定過程が生まれることになるかもしれない。

『週刊現代』2020年11月28日号より

【私の論評】人事を駆使し、トップダウン方式の政策決定過程を日本でも定着させる菅総理(゚д゚)!

財務省優位の組織の筆頭というか、実質財務省の隠れ蓑の組織としては、財務大臣の諮問機関である「財政制度等審議会」が筆頭にあげられるでしょう。その財政制度審議会は25日来年度予算案の編成に向けた意見書をとりまとめ、麻生財務大臣に提出しました。

財政制度等審議会=財政審は大学教授や経営者らがメンバーで、毎年11月頃に予算編成の在り方について提言する意見書=建議を取りまとめています。

財政制度等審議会 財政制度分科会 委員名簿

< 委員 > 赤井 伸郎大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
 遠藤 典子慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任教授 
  大槻 奈那マネックス証券(株)執行役員チーフアナリスト・名古屋商科大学大学院教授
  黒川 行治千葉商科大学大学院会計ファイナンス研究科教授
  神津 里季生日本労働組合総連合会会長
 榊原 定征東レ(株)社友 元社長・会長
櫻田 謙悟SOMPOホールディングス(株)グループCEO 取締役 代表執行役社長
佐藤 主光一橋大学国際・公共政策大学院教授
  角   和夫阪急電鉄(株)代表取締役会長
  

十河 ひろ美 

(株)ハースト婦人画報社ラグジュアリーメディアグループ編集局長
兼リシェス編集長 
  

武田 洋子

(株)三菱総合研究所シンクタンク部門副部門長兼政策・経済センター長
  中空 麻奈BNPパリバ証券(株)グローバルマーケット統括本部 副会長 
  南場 智子 (株)ディー・エヌ・エー代表取締役会長 
  藤谷 武史東京大学社会科学研究所教授
 増田 寛也東京大学公共政策大学院客員教授
宮島 香澄日本テレビ放送網(株)報道局解説委員
    

<臨時委員>

 秋池 玲子ボストン・コンサルティング・グループ
マネージング・ディレクター&シニア・パートナー 
雨宮 正佳日本銀行副総裁
  上村 敏之関西学院大学学長補佐・経済学部教授
  宇南山 卓京都大学経済研究所教授
葛西 敬之東海旅客鉄道(株)名誉会長
  河村 小百合(株)日本総合研究所調査部主席研究員
喜多 恒雄(株)日本経済新聞社代表取締役会長
  木村 旬(株)毎日新聞社論説委員
  権丈 英子亜細亜大学副学長・経済学部教授
  小林 慶一郎東京財団政策研究所研究主幹・慶應義塾大学経済学部客員教授
小林 毅(株)フジテレビジョン取締役
進藤 孝生日本製鉄(株)代表取締役会長
末澤 豪謙SMBC日興証券(株)金融経済調査部部長金融財政アナリスト
  竹中 ナミ(社福)プロップ・ステーション理事長
  田近 栄治一橋大学名誉教授
  伊達 美和子森トラスト(株)代表取締役社長
  田中 里沙事業構想大学院大学学長・(株)宣伝会議取締役
土居 丈朗慶應義塾大学経済学部教授 
  冨田 俊基(株)野村資本市場研究所客員研究員
  冨山 和彦(株)経営共創基盤IGPIグループ会長
  平野 信行(株)三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役執行役会長
  広瀬 道明東京ガス(株)取締役会長 
別所 俊一郎東京大学大学院経済学研究科准教授
  堀   真奈美東海大学健康学部長・健康学部健康マネジメント学科教授
神子田 章博日本放送協会解説主幹
村岡 彰敏(株)読売新聞東京本社代表取締役副社長
横田 響子(株)コラボラボ代表取締役・お茶の水女子大学客員准教授 
吉川 洋立正大学長
 

 (注)◎は分科会長、○は会長代理


東レ会長 榊原 定征氏

今年の建議ではまず、日本は危機的な財政状況にあり、新型コロナウイルスの感染拡大防止、経済回復、それに財政健全化という“三兎”を追う厳しい戦いを強いられるとしました。

その上で、新型コロナ対策で行った持続化給付金など、非常時の支援を常態化させれば「モラルハザードを通じて、今後の成長の足かせとなりかねない」と懸念を表明しました。「単なる給付金」ではなく、コロナ後を見据え経済構造の変化への対応などに支援の軸足を移し、成長力の強化につなげるよう求めました。

また、社会保障制度については、受益と負担のアンバランスを正す取り組みを着実に進め、「将来に不安を感じている現役世代が希望を持てるようにしていくことで、消費の促進にもつながる」としました。

言うに事を欠いて『新型コロナ対策で行った持続化給付金など、非常時の支援を常態化させれば「モラルハザードを通じて、今後の成長の足かせとなりかねない」』とは、なんという非情で傲慢な言葉でしょうか。財務省の隠れ蓑となっている財政制度等審議会こそが日本の未来をぶち壊すといっても過言ではありません。

そもそも「財政制度等審議会」は国民生活を無視し財政カットだけしか考えない財務省の隠れ蓑組織です。今やインフラ関連公共事業も1998年をピークに右肩下がりで減らされる一方です。政府には赤字であっても維持しなければならないものがあります。インフラは赤字であっても必要なのです。

しかも、このブログでも何度か掲載してきたように、日本政府の貸借対照表(BS)では、膨大な政府負債があるのは事実ですが、一方では政府債権もあり、正味(ネット)でみると、日本政府の負債は大したことはなく、英米よりも低い水準です。

それどころか、日本政府に中央銀行(日銀)も含める見方でみても、英米より良いどころか、2018年あたりには、財政赤字はなくなった状況です。

このような状況で、緊縮財政や増税などする必要性など全くありません。一日も早く、大幅な減税と、数十兆円規模の積極財政を行うべきです。積極財政として、実行しなければならないことは、コロナ禍の現在いくらでもあります。効果のある方式ですぐにも実行すべきです。

菅総理もそのことは、熟知していることでしょう。

さて、上にあるように菅総理は、官房長官時代に内閣人事局を通じて霞が関官僚を掌握しているため、財務省といえども、かつてのように政策を完全にコントロールするのは難しいというのは事実だと思います。

上の記事では、課題によっては、省庁の判断を待たず、菅首相が自らで決断するという、これまでの日本にはなかったトップダウン方式の政策決定過程が生まれることになるかもしれないとしていますが、本当にそうなるかもしれません。

菅総理は、すでに人事の魔術師ともいうべき面を垣間見せています。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載ます。
【日本の解き方】菅政権のマクロ経済政策は「第3次補正予算」が当面のポイント 内閣官房参与の仕事と決意―【私の論評】人事の魔術師、菅総理の素顔が見えてきた(゚д゚)!
人事の魔術師菅総理

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では菅総理は、「人事が最大のコントロール」手段であることを熟知していると評価しました。まさに、人事こそは、他のどのようなコントロール手段にも増して最大のコントロール手段なのです。

この記事より一部を引用します。
"
経営学の大家ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)
まさに、真に力のあるコントロール手段は、人事なのです。他にも様々なコントロール手段もありますが、しかし人事にまさるものはありません。単純な人事なら、AIにもできますが、政府の仕事に関わる重要な人事はやはり、総合的な観点から人間が行わなければなりません。
"
人事というと、報復人事などネガティブなものを思い浮かべがちですが、ドラッカーの言うように、特に昇進の決定、どのような人たちを昇進せるかによつて、菅政権の精神を示すことなのです。このことも、菅総理は熟知しているでしょう。無論、普通の会社で行われるような、マイナスの人事も当然行うことでしょう。これができて、はじめて政治主導が可能になります。

民主党が掲げた「政治主導」はまさに絵に描いた餅に過ぎませんでしたが、菅総理は、様々な人事手段を駆使して、トップダウン方式の政策決定過程を日本でも定着させ政治主導を実現するかもしれません。

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2020年11月28日土曜日

コロナ起源は中国外との主張「かなりの憶測」=WHO幹部―【私の論評】WHOは中国派でない勢力が息を吹き返したようだが、組織変革しなければ使命を果たせない(゚д゚)!

 コロナ起源は中国外との主張「かなりの憶測」=WHO幹部

マイク・ライアン氏

 世界保健機関(WHO)で緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏は27日、新型コロナウイルスの起源が中国「外」とする主張について、かなりの憶測だという見方を示した。

中国は国営メディアを使って「コロナの起源が中国」との見方を否定する情報の拡散を続けている。ウイルスは昨年終盤に武漢の海鮮市場で確認されたが、それ以前に海外に存在していたという主張だ。 ライアン氏は会見で「コロナウイルスが中国で発生しなかったとの主張はかなりの憶測で、公衆衛生の観点から、ヒトの感染が確認された場所から調査を始めるべきことは明白だ」と指摘。WHOとしてウイルスの起源を調べるため、専門家らを武漢の食品市場に派遣する方針を確認した。

WHOの疫学者マリア・バン・ケルコフ氏

こうした中、WHOの疫学者マリア・バン・ケルコフ氏は27日、新型コロナの新規感染者数が減少したとしても、各国は警戒を怠らないようにする必要があると述べた。 オンライン会見で、ロックダウン(都市封鎖)の再導入は避けたいとし、「われわれには感染率を低く抑える力がある。数十カ国がウイルスをコントロールし、それを継続できることを示した」と語った。

【私の論評】WHOは中国派でない勢力が息を吹き返したようだが、組織変革しなければ使命を果たせない(゚д゚)!

テドロス事務局長は中国寄りとされていましたが、WHOも一枚岩の組織ではないようです。マイク・ライアン氏や、マリア・バン・ケルコフ氏は、中国寄りではないようです。

上の記事では、ライアン氏が専門家らを武漢の食品市場に派遣する方針を確認していますが。これについて、テドロス事務局長は会見で、「調査チームは武漢に行く」と述べ、現地での調査を行うことを明らかにしましたが、具体的な時期については言及しませんでした。

WHOの中でも、中国寄りのテドロス氏でさえも、現状ではコロナ起源は中国外であると主張したり示唆することはできないのでしょう。

テドロス事務局長は、新型コロナウイルスの感染者との接触が確認されたとして、今後、数日の間、自主的な隔離措置をとることになりました。熱などの症状は出ていないということです。



WHOのテドロス事務局長は1日、「私は、新型コロナウイルスの検査で陽性が確認された人の接触者だと認定された」と自身のツイッターに投稿しました。

熱などの症状はなく、今後、数日の間はWHOの規定に従って自主的な隔離措置をとり、自宅から勤務を続けました。

このようなこともあり、一時的にテドロス氏のWHO内での権限は弱まり、WHOの他の勢力が権限を増したという背景もあるのでしょう。

世界保健機関(WHO)は16日、新型コロナウイルスの流行が始まって以降、スイス・ジュネーブのWHO本部で65人の感染者が出たと、オンラインでの記者会見で明らかにしました。先週には5人の感染が判明し、本部内でクラスター(感染集団)が発生した可能性についても調査しています。

感染者と接触したため自主隔離していたテドロス・アダノム事務局長も本部から記者会見に参加しました。「症状がなかったため検査の必要はなかった」といいます。そうして、会議に出席したということは、現在は全面復帰したと判断しても良いでしょう。

16日に復帰して、27日にマイク・ライアン氏が、新型コロナウイルスの起源が中国「外」とする主張について、かなりの憶測だと発言しているのですから、WHO内におけるテドロス氏の中国寄りの勢力は弱まったと見て良いです。

WHOに関しては、中国問題以外のもう一つ批判があります。それは「基本的な義務を果たさなかった」というものです。

WHO憲章によれば、WHOの義務とは健康に関する様々な基準を設定すること、必要な国に支援を行ったり、支援のための様々な協力を調整したりすることです。感染症対応に関しては必要な情報を集め、状況を評価し、適切な勧告を行うことがその義務です。

WHOは1月30日に専門家会合を招集して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であると宣言し、2月3日には国際社会に向けて対応のためのガイドラインを発表、3月11日には「パンデミックの様相をなしている」と発表しました。

その後も連日ブリーフィングを行い、5月末にはワクチン、治療薬、診断ツールを国際的に共有するためのイニシアティブを立ち上げました。基本的な義務は怠りなく果たしてきたのです。

むしろ今回明らかになったのは、「できることをやっていない」不作為の現状ではなく、「できることが限られている」という現状でした。

WHOはグローバル・ヘルスの情報塔として機能しつつ、各国に必要な指針を与え、連携を促し、協力に向けた調整をその任務とするのですが、いずれも強制力は伴わず、加盟国の自発的な協力があって初めて機能するのです。

例えば、感染症対応の国際条約である国際保健規則には、各国がその領域内で国際的拡大をもたらすおそれのある公衆衛生リスクが確認された場合には、24時間以内にWHOに通報するように義務付けられています。

しかし、現状ではその義務を多くの国が適切に果たせずにいます。WHOがより積極的に情報を収集し、発生が疑われる国に立ち入って調査できていれば、少しは状況は違ったのかもしれないです。

現状ではそのような権限は持たず、発生国が自発的に申告する情報に依拠するよりほかないのです。WHOが発生国・中国に特別な配慮を行ったことは、このような限界が招いた一つの帰結でもありました。

それではこのような各種問題点をいかに是正していくべきなのでしょうか。

まずは、先進国民間企業のように、新たな組織論によって国際組織そのものを新たなつくりかえるべきです。まずは、統治に関わる部分と、実行に関わる部分を分離すべきです。これに関しては、経営学の大家であるドラッカー氏の政府に関する主張が大いに参考になります。

ドラッカー氏は次のように主張しています。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。
先進国の大企業では、統治と実行が両立できないように法律で義務付けられています。統治に関しては、いわゆる本部で行われるようになっています。形式は様々ですが、たとえば「セブン&ホールディングス」は、セブンイレブンとイトーヨーカドーの持株会社であり、統治を行う本部機能を有しています。

最近では日本でも「○○ホールディングス」という名前の会社を聞くことが多くなりましたが、これらはただ株式を所有するだけではなく、本部としての統治機能を担っているのです。このように民間では大企業は「コーポレート(統治会社)」と「カンパニー(事業会社)」とは厳密に区分されているのです。

このように、WHOも統治と実行に関わる部門とを厳密に分けるべきです。

以下は、マーガレット・チャンが事務総長だった頃のWHOの組織図です。WHOが組織変革をしたという話は聞いたことがないので、今も同じような組織なのでしょう。


この組織図をみる限りでは、「統治と実行」を分離するという思想はない組織のようです。無論、WHOが直接実行することないでしょうが、実行に関わる部署としては、局長クラスなのだと思います。その上の組織たとえば、保険システム革新部なども、直接実行することはないのでしょうが、それでも実行とは強く関わっているように見受けられます。

このままの組織で、憲章などを変えただけでは、何も変わらないでしょう。WHOに限らず国際組織の役割は、国債社会のために意味ある決定と方向付けを行うことです。社会のエネルギーを結集することです。問題を浮かびあがらせることであり、選択を提示することです。これが、国際組織による統治といわれるものです。

それ以外の部分は、WHOなどの国際組織の外に出すべきなのです。

まずは、このような国際組織を作ったうえで、憲章などを変えていくべきです。

まずは、WHOの権限を強化すべきでしょう。たとえば、各国がその領域内で国際的拡大をもたらすおそれのある公衆衛生リスクが確認された場合24時間以内にWHOに報告の義務があるのでほすが、これを怠った場合、強制的に調査できる権限を与えるのです。

それでも、拒否する場合には、当該国の国境を封鎖できる権限を与えるのです。

さらに罰則も強化すべきです。感染症対応の国際条約である国際保健規則には、先に述べたように各国で公衆衛生リスクが確認された場合には、24時間以内にWHOに通報するように義務付けられていますが、罰則はありません。

もし、このような違反があった場合には、当該国の国民やその支援を受けている国の国民は、違反があった日から5年間は、WHOの事務局長、事務局次長にはなれない、さらに職員になるにも制限を受けるなどの罰則規定を設けるべきでしょう。

いずれにしても、WHOは組織変革をするか、全く別の組織にしなければ、中国からの干渉などを防ぐことができないばかりか、本来の使命を実行することはできません。そうして、第2、第3のテドロスが登場することにもなりかねません。

そのことが、今回のパンデミックで白日のもとに晒されました。そうして、現在はWHOのみならず、国連そのものが、本来の使命を果たせず、機能不全に至っています。国連そのものを現在の世界に合わせて組織変革するか、それが不可能なら新しい組織を創設すべきです。

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2020年11月27日金曜日

中国の挑戦に超党派で立ち向かう米国―【私の論評】中国共産党の敵は共和党であって、民主党ではない(゚д゚)!

中国の挑戦に超党派で立ち向かう米国

岡崎研究所

 11月9日付のフォーリン・ポリシーで、新アメリカ安全保障センターのジョーダン・シュナイダーとコビー・ゴールドバーグが、米国は新大統領の下、中国に対する政策に関しては、民主、共和両党が協力して励むであろう、と論じている。



 シュナイダー他の論説は、米国では民主、共和両党の対立が激しくなるだろうが、ことさら中国に関しては一致するであろう、特に中国の挑戦に対し、研究開発の推進でそうであろうと述べている。

 米国は、歴史的に、挑戦されると底力を発揮する。

 1957年10月にソ連が世界初の人工衛星、スプートニク1号の打ち上げに成功すると、後れを取った米国は、まず1958年に人工衛星エクスプローラー1号を打ち上げたのち、1961年から1972年にかけてアポロ計画を実施し、1969年7月にアポロ11号が初めて月面に着陸した。その後、合計6回の月面着陸に成功し、宇宙開発でソ連を大きく引き離した。

 1980年代、米国の産業の競争力は日本の追い上げにあって弱まり、テレビなどの民生用電子機器、工作機械、半導体、半導体製造装置などで日本に後れを取った。米国の産業界、学界のリーダーなどが組織した「競争力評議会」が1987年に「アメリカ競争力の危機」と題するリポートを発表した。その中では、米国経済が日本から受けている挑戦がいかに厳しいものであるかを述べている。

 その後の推移は周知の事実である。日本でバブルがはじけたということもあったが、米国は、マイクロソフトを始めデジタル技術を中心に技術革新を図り、1990年代以降世界をリードする技術大国に復活した。

 現在、米国が中国から産業技術面でも挑戦を受けていることは間違いない。特に「中国製造2025」には危機感を持ったようである。米国は「中国製造2025」に関して、中国政府が介入しすぎていると批判しているが、先端技術で中国が本気で米国に追いつき追い越そうとしているとの危機感を持ったのは疑いない。

 そこで、シュナイダー他の論説にあるように、超党派で研究開発に大量の資金をつぎ込む努力をしている。これまでの例から察すると、今回も中国の挑戦に対し、米国が本気で立ち向かおうとしているので、底力を発揮する可能性が高いと思われる。

 研究開発以外でも、中国問題で民主、共和両党が協力できるだろうという分野が人権と国際機関への関与である。論説でも指摘されているように、新疆ウイグルや香港で人権弾圧にあっている人々への特別なビザ計画に関する法案が、民主党議員からも共和党議員からも提出されている。国際機関への関与はもともと民主党の得意とする政策だが、共和党スタッフが述べるように、中国は国連の専門機関のトップに積極的に中国人を送ってきている。それに西側諸国も対応しなければならないとの認識が米国内にあるようである。

【私の論評】中国共産党の敵は共和党であって、民主党ではない(゚д゚)!

これから、トランプ氏が大統領に再選されるのか、あるいはバイデンになるのか、まだはっきりしませんが、いずれになったにしても、米国は上の記事のように超党派で中国と対峙するのでしょうか。

8月10日、傲慢な表情とふて腐れた歩き方で、中国共産党を体現しているかのうような趙立堅報道官が、トランプ政権が香港政庁トップら11人に制裁を科したことへの対抗措置として「香港問題で言語道断な振る舞いをした」11人の米国人を制裁対象にしたと発表しました。

ちなみに、趙立堅の娘は米国の大学に入学しており、中国国内では「本当は米国が好きなのに、仕事だから反米をしているだけのか」と揶揄されているそうです。

趙立堅報道官

ただし、制裁とはいっても、中国による制裁は形ばかりのもので、意味をなさないのは明らかです。

なにしろ、中国国内の銀行等に大金を預ける米国人はいないですし、ドルは世界の基軸通貨であり、ドルがないといずれの国も貿易ができないというのが実情であり、その他あげるときりがないくらい、中国よりも米国は有利な点があり米国の対中国制裁は、中国人にとってかなりの脅威ですが、中国による米国人への制裁はあまり意味を持ちません。

中国に入国できなくても、大方の米国人にとっては、さほどの不都合はありません。別に中国にいかなくても、美味しい中華料理が食べられます。そのため、中国の米国人に対する制裁など実質的に意味を持たないのですが、ただ「香港問題で言語道断な振る舞いをした」11人の米国人の顔ぶれが面白いです。

11人の内訳は議員6人と国際人権団体の代表者5人です。この議員の顔ぶれが興味深いのです。列挙すれば、マルコ・ルビオ(1971年生)、テッド・クルーズ(1970年生)、トム・コットン(1977年生)、ジョシュ・ホーリー(1979年生)、パット・トゥーミー(1961年生)各上院議員とクリス・スミス下院議員(1953年生)。何と全員が共和党所属で、民主党は1人も入っていないのです。

マルコ・ルビオ上院議員

これは、香港問題に関する制裁対象者の名簿ですから、香港問題以上に枠を広げれば、もちろん民主党の議員の中にも対中国強硬派存在します。

ただし、これに先立つ7月には、トランプ政権が、新疆ウイグル自治区の中共幹部4人に制裁を科したことへの報復として、中共側も4人の米国政治家を入国禁止としました。列挙すれば、常連のルビオ、クルーズ、スミスに、政府の一員であるサム・ブラウンバック「国際宗教の自由」大使(1956年生。元上院議員、元カンザス州知事)。これもやはり全員共和党です。

この1年間に米国で成立した香港、ウイグルに関する対中制裁法案はいずれもルビオとクルーズが主導しました。無論、法案を提出するときには、民主党の議員も名を連ねてはいました。これは、議会で超党派で法律を成立させるための、手立てであると考えられます。主導したのは、共和党です。

またリストには名前がなく本人は心外かもしれませんが、中国スパイの摘発強化を議会で主導してきたロブ・ポートマン上院議員(1955年生。上院国土安全捜査小委員長)もやはり共和党です。

私自信は、twitterなどのSNSで野党の大物議員から、特に直接批判したこともないにもかかわらず、ブロックされているのを発見すると、何やら誇らしく嬉しい気持ちになり周囲に吹聴したりすることもありますが、米国議員も中国から制裁というと、実害もないので、これに近いような気持ちになるのではないかと思います。

ちなみに、ブラウンバックは、最も早い段階から日本人拉致問題に尽力してくれた上院議員(当時)で、スミスも、横田早紀江さんが下院外交委員会で証言した時の共同議長でしたた。人権に関する彼らの姿勢は一貫しています。

サム・ブラウンバック

トランプ氏は、大統領権限を拡大解釈して中国に関税戦争を仕掛け、台湾との関係も加速度的に強化してきました。米国の対中強硬姿勢は、共和党政権であれ民主党政権であれ変わらないと言う評論家が少なくないのですが、その楽観の根拠を示してほしいところです。中共は、ホワイトハウス、議会とも民主党が押さえることを切望しているはずです。

トランプ氏は、安全保障や人権にはさほど関心が強い方ではないです。しかし経済取引の分野については歴代大統領中、知識、経験とも自分がナンバーワンという強い自負を持っているでしょう。その分野で中共にコケにされることは絶対に許せません。

独裁体制である以上、習近平が一言命じれば、知財窃盗、テクノロジーの強制移転など数々の不正を明日にも根絶できるはずで、それをしないのは自分をコケにしているからだ、というのがトランプ氏の、今や確信と化した解釈のようです。中共が不当行為をやめない限り、トランプは対中締め付けに邁進するでしょう。

バイデン氏には、中国に関してそのような強い意識はありません。安全保障、人権、経済すべてにおいて一応立派な演説はするのですが、決断力、実行力が伴わない政治人生を送ってきました。オバマも、副大統領バイデンの優柔不断に辟易し、何ら重要な役割を与えませんでした。

バイデン氏はある批評家の「ジュージュー焼き音は聞こえるが、ステーキが出てこない」というバイデン評を、バイデン自身、至言として回顧録で引用しています。本人は、今はその弱点を克服し、ステーキを出せると言いたいのかもしれませんが、逆に認知症の進行が取りざたされる中、焼き音すらかすれがちになってきています。

バイデンが副大統領候補に指名したカマラ・ハリス上院議員も、対中制裁法や非難決議に関して、議会で何ら積極的役割を果たしていません。検事出身ですが、著書(2019年)で自らの最大業績と誇るのはLGBTQ(性的マイノリティ)の権利拡大に尽力したことで、国際問題に関しての成果といえるものは記述自体が何もありません。

というより、地球温暖化こそ人類にとっての最大脅威で、それへの対処が最大の国際問題と主張する民主党議員の1人です。この立場からは、中共は「敵」ではなく、同じ目標に向かって協力し合うべきパートナーという位置づけになります。

中国対策で民主党の代表格となった元通信会社幹部のマーク・ワーナー上院議員(民主党、ヴァージニア州選出)は昨年のスピーチで、5G技術、人工知能(AI)、量子コンピューティングなどの分野において、中国の技術規格の国際標準化を目指す中国の計画は「世界支配」を目指す計画の一環だと警告していますが、彼も民主党内では影が薄いです。ルビオ議員のように島内を主導する立場ではありません。

冷戦期にはスクープ・ジャクソン上院議員のような指導的な対ソ強硬派が民主党にもいましたが、現在、一貫性と行動力を伴った対中強硬派は共和党に偏っています。年齢的にも、40代前半(コットン、ホーリー)から60代後半(スミス)まで幅広く、層が厚いです。

日本としては、米国議会は共和党が主流になったほうが良いです。

日本の自民党にも米共和党を見習ってほしいところですが、現状は民主党に近いのではないでしょうか。ルビオ、クルーズは50歳になるかならないかの年齢で、すでに主導的地位を確立しています。自民党の若手の奮起を強く促したいところです。

中国側からすると、中国の敵はやはり共和党なのです。民主党は地球温暖化で協力できるパートナーなのです。中間選挙では、米国共和党が勝って、主流派になっていただきたいものです。


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2020年11月26日木曜日

国産潜水艦の建造がスタート、「国防自主」への強い決意示す―【私の論評】台湾潜水艦建造でますます遠のく、中国の第一列島線確保(゚д゚)!

 国産潜水艦の建造がスタート、「国防自主」への強い決意示す

 蔡英文総統は24日午前、台湾南部・高雄市で行われた国産潜水艦の起工式に出席した。蔡総統は、
 起工式は主権を守るという台湾の強い意志を世界に示すものだと述べた。(総統府)

蔡英文総統は24日午前、台湾南部・高雄市にある台船公司を訪れ、国産潜水艦の起工式に出席した。蔡総統は「今日の起工式は3つの重要な意義を持つ。1つ目は事実に反するデマを粉砕すること、2つ目は『国防自主』にかける政府の強い決意を示すこと、3つ目は台湾の主権を守る強い意志を世界に示すことだ」と述べた。蔡総統はまた、国産潜水艦の建造は美しい実を結び、国防に新たな力を添えることになるだろうと語った。蔡総統の祝辞概要は以下のとおり。

★★★★★

本日は潜水艦の国産プロジェクトにとって非常に重要な日だ。過去4年余り、我々は潜水艦の国産化を決め、予算を組み、契約を結び、設計図を引き、潜水艦を建造するための造船所を作って準備を進めてきた。どの段階も、我々が「国防自主」の実践を目指す歴史におけるマイルストーンとなるものだ。

本日の起工式は3つの重要な意義を持つ。第一は、起工によって事実に反するデマを粉砕することだ。これまで我々は、多くの疑いの眼や批判にさらされてきた。本日に至ってもなお、潜水艦の国産化など到底不可能だと疑う人がいる。本日の起工式は、我々の実績を証明し、デマを粉砕するためのスタートとなるだろう。

第二は、起工によって「国防自主」にかける政府の強い決意を示すことだ。平和は国防によって得られる。着実な国防には、勇敢な国軍だけでなく、しっかりとした軍備が必要だ。近年、沱江級コルベットの量産を加速し、新型高等ジェット練習機「勇鷹(英語名:Blue Magpie)」の初飛行に成功した。それから本日の国産潜水艦の起工に至るまで、いずれも「国防自主」のエネルギーが日に日に強化されていることを国民に示している。

第三は、起工によって台湾の主権を守る強い意志を世界に示すことだ。潜水艦は海軍が非対称戦力を向上させ、台湾本島の周辺海域に出没する敵艦を威嚇するための重要な装備となる。これまで多くの人は、口先ばかりで行動が伴っていないと思ったことだろう。これからは国産潜水艦の建造から編隊まで、台湾の主権を守るという我々の強い意志を世界に示すことになるだろう。

国産潜水艦の建造が正式に始動する。国防部、国家中山科学研究院、台船公司に対しては、緊密な意思疎通を図り、慎重且つ厳粛な態度で最上のリスク管理を行い、国産潜水艦を予定通り完成させるようお願いしたい。

【私の論評】台湾潜水艦建造でますます遠のく、中国の第一列島線確保(゚д゚)!

台湾の潜水艦建造は民間造船大手の台湾国際造船が手掛けます。ディーゼルエンジンを使った通常動力型の潜水艦となります。米国製の戦闘システムなども導入される見込みです。1隻目の建造には、25年までに493億台湾ドル(約1800億円)の予算を充てました。

設計・デザインは、日本の海上自衛隊の主力潜水艦で、世界有数の高性能ディーゼル潜水艦「そうりゅう型」などを参考にしているともされます。

ただ、建造の難易度は非常に高いです。台湾国防部のシンクタンクである国防安全研究院の蘇紫雲所長は「6割は台湾の技術、4割は欧米などの技術輸入に頼ることになる。完成形としては、標準的な潜水艦よりも上のレベルのものになる」と指摘しました。

台湾は現在4隻の潜水艦を有します。しかし、旧式のため早急な更新が課題でした。新鋭の潜水艦を持てば、海洋進出を強める中国に大きなけん制となるため、米国などに潜水艦の売却を求めてきました。

米国はブッシュ政権(第43代)時代の01年に台湾への潜水艦の売却方針を固めました。しかし、最終的には中国の激しい反発などが考慮され実現しませんでした。

しびれを切らした台湾の海軍の強い要望で、馬英九前政権時代に初めて自前による潜水艦(IDS)建造計画が浮上しました。ただ、対中融和路線を敷く馬政権では結局、前進しませんでした。16年に総統に就いた蔡英文・民進党政権下でIDS計画が加速。ようやく今回、着工にこぎつけた経緯があります。中国は以前から計画に激しく反発しています。

台湾が潜水艦自主建造を始めたのは、本当に素晴らしいと思います。この決断は、コストパフォーマンからいっても、軍事戦略・戦術的にいっても本当に優れたものです。

しかし、残念ながら、日本の報道などはこの優れた面を報道しているものは皆無といって良い状況なので、本日このブログに掲載しました。

なぜ台湾が今回潜水艦を自主建造することが優れた判断であるかといえば、まずは、現在の海戦が、最初に日本が第2次世界大戦中に本格的に運用をはじめた、空母打撃群を中心としたものでは、時代遅れになりつつあるということがあります。

世界初の正規空母日本の「鳳翔」

中国ロケット軍が今年の8月に、対艦弾道ミサイル2発を南シナ海に撃ち込んでから10週間ほど経過した11月上旬、『超限戦』の共著者として高名な王湘穂・北京航空航天大学教授(『超限戦』執筆時は中国人民解放軍空軍大校=上級大佐)が、8月26日に実施したDF-21DとDF-26Bの試射は、内陸から西沙諸島南方海洋にミサイルを撃ち込んだのではなく、当該海域を航行していた標的船に命中させた画期的なステップであったことを明らかにしています。

これが本当だとすれば、過去半世紀にわたって米海軍が世界中の海に睨みを効かせてきた際の主戦力であり、米海軍だけでなく米軍の強大さのシンボルであり続けてきた超大型航空母艦(スーパー・キャリアー)に、強力な脅威が名実ともに出現したことになります。96年の台湾海峡危機の際のように、アメリカ軍が数セットの空母打撃群を東シナ海や南シナ海に派遣するだけで中国軍を沈黙させてしまうことなど、もはや夢物語となってしまったようです。

ただし、このような脅威は以前から言われており、これに対して最近米軍は海洋戦術を変えたようです。それに伴い、海洋戦略も変えたか、変えつつあるものと思われます。これは、すぐではないにしても、いずれ公表されることになるでしょう。

空母打撃群は海洋戦の初戦では時代遅れの産物になりつつある

では、どのように戦術を変えたのか、そうしてその根拠は何なのかについて掲載します。これについては、すでにこのブログの読者ならご存知でしょうが、再度簡単に解説します。

まずは、海洋戦術をどのように変えたかといえば、従来は初戦で空母打撃群を派遣する戦術とそれに基づく戦略だったのを、初戦では潜水艦隊を派遣する戦術と戦略に変えたか、変えつつあるということです。

その根拠としては、先にもあげたように、米軍が南シナ海などの海洋戦に従来のように最初に空母打撃群を派遣するようなことをすれば、中国の格好の標的になり、すぐに撃沈されとしまうからです。

中国の軍事技術は進んでいるいるところもあるのですが、現状では歪です。特に対潜哨戒能力等の哨戒能力は米軍に比較して今でも格段に劣っています。そのため、中国は米国の原潜を発見するのは困難です。これに比較して、世界最高レベルの対潜哨戒能力を持つ米軍は、これまた静寂性には程遠い中国の潜水艦を発見するのは容易です。

この米軍の中国に対する優勢を考慮すれば、米軍は従来の初戦に空母打撃群を派遣するという海洋戦術をやめて、初戦は潜水艦隊により制圧する方式に転換するのは当然のことです。しかも、現在の潜水艦は、第2次世界大戦注の潜水艦とは違い、何ヶ月も水中に潜り続け、様々なミサイルや魚雷を装備し、その破壊力は空母に匹敵します。

そうして、これには根拠があります。米軍はすでに5月下旬に潜水艦の行動に関して公表しています。潜水艦の行動は、通常どの国も公表しないのでこれは異例ともいえます。

この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて今年5月下旬にマスコミで報道されました。太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられます。

お花畑の日本のマスコミ等は、このニュースを見ても、字面通りに受け取るのでしょうが、私はそうは受け取りませんでした。

無論、当時空母でコロナが発生したという事情もからんでいるでしょう。空母打撃群が水兵のコロナ罹患で出動できない間隙をぬって中国が不穏な動きを見せないように牽制したものと思います。逆に、米軍は空母打撃群でなくても潜水艦隊があれば、中国の動きを牽制できると考えているともいえます。これは、明らかに米国の海洋戦術、戦略の転換を宣言したものと受け取れます。

そうして、日本は今年の3月に22隻目の最新鋭潜水艦「たいげい」が進水しています。22隻もの潜水艦を持つこと自体が、日本の海洋戦術が潜水艦隊主体であることを如実に示しています。日本の潜水艦は静寂性では世界一であり、中国に探知されずに、自由にあらゆる海域を自由に航行できます。こちらのほうが、空母などより余程戦力になります。

米軍としては、カールビンソン等が水兵のコロナ罹患で、相当の危機感を感じていたのでしょう。しかし、潜水艦隊を空母打撃群のかわり派遣することで、十分中国を牽制できると考えて、異例ともいえる公表に踏み切ったのでしょう。それにコロナ禍はいつまでつづくかも予測できなかったので、潜水艦隊で中国に十分対処できることで中国側を牽制したのでしょう。

現在、南シナ海、尖閣諸島付近には、通常の潜水艦配置に新たな7隻が加わり、複数の米国原潜が潜んでいるでしょう。原潜は、通常型潜水艦と比較するとどうしてもある程度の騒音が出るので、中国側もこれを発見できるチャンスはあります。しかし、要所要所に潜水艦を潜ませておき、中国側が不穏な動きをみせれば、水中から魚雷やミサイルで突然攻撃するという戦法をとれば、これは中国側には防ぎようがありません。

米国の最新の攻撃型原子力潜水艦「ミシシッピ(SSN-782)」

以上のようなことを考えると、今回台湾が空母などを建造するよりは、潜水艦を建造するほうがはるかにコストパフォーマンスが高いといえます。

台湾が1隻目の建造には、25年までに493億台湾ドル(約1800億円)の予算を計上するのですから、これは本気です。おそらく、少なくとも中国の対潜哨戒機などには発見されない潜水艦を製造するでしょう。

そうして、将来少なくと6隻くらい建造すれば、3隻の潜水艦を交代で常時台湾付近をパトロールできます。

そうなると中国にとっては脅威です。仮に中国が台湾に上陸したとしても、台湾の潜水艦が台湾を包囲してしまえば、近づく艦艇や輸送機が潜水艦に攻撃され、補給ができなくなります。それと台湾の陸上部隊が加われば、中国の上陸部隊は降伏するよりなくなります。

それに、台湾有事となれば、日米も加勢するでしょう。日本は、静寂性を活かして哨戒活動にあたり、米原潜は近づく中国の輸送艦艇や輸送機などを破壊するでしょう。

今回の台湾が潜水艦建造にとりかかったことは、本当に正鵠を射たものといえます。

中国としては、日米が潜水艦隊中心の海洋戦術・戦略に変更しつつあることと、台湾が潜水艦を建造することにより、第二列島線確保どころか、台湾・尖閣を含む第一列島線の確保すら、難しくなることを痛感させられたと思います。

それにしても、日本のマスコミは以上のようなことは、それこそ日米が公表しないと気づかないのでしょうか。もちろん中国の脅威を侮るようなことはすべきではないとは思いますが、それにしてもこのようなマスコミの態度は、いたずら中国の脅威を煽り、結果として中国を利することになっているのではと危惧しています。

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