|
トランプ氏は、国防長官に「対中強硬派」で「狂犬」との異名を持つジェームズ・マティス
元中央軍司令官(中)を検討している。右端はマイク・ペンス次期副大統領 |
ドナルド・トランプ次期米国大統領の真意をめぐり、世界が動揺している。各国首脳に先駆けて、安倍晋三首相が17日(日本時間18日)、米ニューヨークの「トランプタワー」で初会談したが、核心的部分が伝わってこないからだ。こうしたなか、米情報当局者の間で「トランプ氏が対中強硬方針を決断したようだ」という情報が広がっている。習近平国家主席率いる中国は孤立化するのか。ジャーナリストの加賀孝英氏が緊急リポートする。
「先週末以降、各国情報機関が慌ただしい。『トランプ氏が、中国との激突も辞さない強硬政策を決断した』『安倍首相にも協力を求めたようだ』という極秘情報が流れているからだ」
旧知の米情報当局関係者はこう語った。
世界が注目した会談後、安倍首相は記者団に「胸襟を開いて率直な話ができた」「トランプ氏は信頼できる指導者だと確信した」と発言した。トランプ氏も自身のフェイスブックに、ツーショット写真をアップし、「素晴らしい友好関係を始めることができてうれしい」とコメントした。
米政府関係者が次のようにいう。
「会談は大成功だ。2人は意気投合し、『ゴルフ外交』の調整も進めている。トランプ氏には就任直後、世界の首脳が電話で祝意を伝えて会談を求めた。だが、『会おう!』と即決したのは安倍首相だけだ。日本を重視しているのが分かる。問題は、安倍首相が『話すことは控えたい』とした会談の中身だ」
私(加賀)は冒頭で「トランプ氏の対中強硬方針決断」情報を報告した。各国情報機関は、これこそが「会談の核心だ」とみている。
トランプ氏は選挙期間中、日本やドイツも批判していたが、一番激しく攻撃していたのは中国だ。彼は以前から「アンチ・チャイナ」を前面に出していた。
いわく、「大統領就任初日に中国を『為替操作国』に認定する」「中国のハッカーや模造品に規制強化する」「中国の輸入品に45%の関税を課す」「中国の覇権主義を思いとどまらせる。米軍の規模を拡充し、南シナ海と東シナ海で米軍の存在感を高める」…。
まさに、中国との「通貨戦争」「貿易戦争」「全面衝突」すら辞さない決意表明ではないか。
重大な情報がある。なぜ、トランプ氏が大統領選で逆転勝利できたのか。なぜ、ヒラリー・クリントン前国務長官が敗北したのか。カギは中国だった。国防総省と軍、FBI(連邦捜査局)周辺が動いたという。
以下、複数の米軍、米情報当局関係者から得た情報だ。
「国防総省と軍は、オバマ政権の『対中腰抜け政策』に激怒していた。彼らは常に、南シナ海や東シナ海で、中国への強硬策を進言してきたが、オバマ政権は口だけで逃げた。米国のアジアでの威信は地に落ち、混乱した。オバマ政治を継続するヒラリー氏は容認できなかった」
ヒラリー氏は12日、敗北の原因を「FBIのジェームズ・コミー長官のせいだ」と非難した。コミー氏は、ヒラリー氏の「私用メール」問題で、投票直前に議会に捜査再開の書簡を送り、10日後には「不正はなかった」との書簡を送って、ヒラリー氏の勢いを止めた。裏で何があったのか。
「FBI内部では『なぜ、ヒラリー氏を起訴しないのか』という不満が爆発していた。『私用メール』問題は、巨額の資金集めが指摘されたクリントン財団の疑惑に直結する。クリントン夫妻は中国に極めて近い。FBIは国防総省と同様、『ヒラリー氏はノー』だった。コミー氏は国防総省にも通じるロッキード・マーチンの役員なども務めていた」
そして、情報はこう続いている。
「トランプ氏は、ロシアのプーチン大統領との連携も検討している。これが実現すると、シリア内戦をめぐる米露対決は解消し、過激派組織『イスラム国』(IS)掃討作戦で結束できる。中東情勢を改善させ、米軍を南・東シナ海に集中させる計画も立てている」
こうした中での、安倍-トランプ会談だったのだ。
中国外務省の耿爽副報道局長は18日の記者会見で、具体的な会談内容は不明としつつも、国家間の協力が「第三者の利益を毀損してはならない」といい、自国への影響を牽制(けんせい)した。
笑止千万だ。国際法を無視した自国の暴走を棚に上げて、何をいっているのか。明らかに、中国がトランプ氏の一挙一動に震えている。
トランプ氏は今後、軍事費を約300億ドル(約3兆3237億円)増額させ、米軍の大増強を図る。日本などの同盟国には「負担増」と「役割増」を求めるとされる。
米国が劇的に変わるのは間違いない。日本も覚悟と責任が求められる。だが、自国と世界の平和と繁栄を守るため、怯(ひる)んではならない。
■加賀孝英(かが・こうえい) ジャーナリスト。1957年生まれ。週刊文春、新潮社を経て独立。95年、第1回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム大賞受賞。週刊誌、月刊誌を舞台に幅広く活躍し、数々のスクープで知られている。
|
加賀孝英氏 |
【私の論評】トランプ大統領はオバマとはまったく異なる方法で米国を弱体化させる可能性も?
トランプ氏と安倍総理との会談に関しては、トランプ氏がまだ大統領でもなく、現状では一私人に過ぎないことから、この会談の内容は安倍総理自身も語っていたように、これを表に出すことはできません。だから、ブログ冒頭の記事は、加賀氏の会談の核心が「トランプ氏の対中強硬方針決断」だったかどうかは、あくまでも加賀氏の推測に過ぎないわけです。
しかし、これが会談の核心であった可能性は高いですし、中国外務省の耿爽副報道局長が、国家間の協力が「第三者の利益を毀損してはならない」と語っていることから見ても、会談ではこのような話もあった可能性が高いですし、少なくとも中国に対する牽制について話がでたと中国側に思わせたのは間違いありません。
ブログ冒頭の記事では、加賀氏が「トランプ氏が大統領選で逆転勝利できたのか。なぜ、ヒラリー・クリントン前国務長官が敗北したのか。カギは中国だった。国防総省と軍、FBI(連邦捜査局)周辺が動いたという」としていて、その内容を記載していますが、ここで触れられていない内容で、保守派を激怒させたのは、やはりヘーゲル国防長官の解任だったと思います。
|
オバマ大統領とヘーゲル国防長官 |
オバマ米大統領は2014年11月24日、ヘーゲル米国防長官の辞任を発表しました。イラク情勢やシリア政策を巡るオバマ氏側との意見の対立が背景にありました。オバマ政権で国防長官の辞任は3人目となる異例の事態でした。
この年の11月4日の米中間選挙で民主党が大敗した後の閣僚辞任は初めてでした。後任は未定。ヘーゲル氏は決まるまで職務を続けました。オバマ氏はヘーゲル氏の辞任について「難しい決断だった」と語っていましたた。
ヘーゲル氏は共和党出身で2013年2月、オバマ政権2期目の目玉閣僚として迎えられました。オバマ大統領としては、ブッシュ政権下の共和党に所属しながらイラク戦争に反対したヘーゲル氏をテコに超党派の政策を進める狙いでした。
オバマ氏は2013年、ヘーゲル氏が進言したシリアへの軍事介入を土壇場で見送る一方で、 2014年にはライス大統領補佐官(国家安全保障担当)らの求めに応じてシリア領の過激派「イスラム国」への空爆を決断しました。こうした経緯にヘーゲル氏は不満を強め、ホワイトハウスとの不協和音が伝えられていました。
ヘーゲル氏はライス氏にシリア政策の「整合性がとれない」との趣旨の書簡を送り、ライス氏が退かなければ自らの辞任も覚悟した行動に出たのです。オバマ氏がライス氏の交代に動く気配はなく、最終的に辞任を決断しました。
そうして、ヘーゲル氏の辞任劇につながったのは、シリア政策だけではなく、ウクライナ問題での対ロシア政策、南シナ海、東シナ海での中国の強硬路線に対する政策に関しても、煮え切らない及び腰のオバマ大統領に対して保守派の不満は最高潮に達していたことでしょう。
ヘーゲル長官の事実上のオバマ大統領による解任は、保守派を激怒させたものと思います。この時点で、もう保守派はオバマは大統領としてはふさわしくないとの烙印を押していたものと思います。
そうして、このことが、後のトランプ旋風の遠因となったのは、間違いないものと思います。ヒラリー・クリントンが大統領になれば、オバマ氏の及び腰が継承され、とんでもないことになるという危機感が多数の保守派に共有され、大きな力となったのです。
だからこそ、かなり危機感を抱いた国防総省と軍、FBI(連邦捜査局)の保守派の周辺が動き、トランプ氏が大統領選勝利への大きな原動力となったのです。
このような背景でトランプ氏が大統領選に勝利し、非公式といえ日本のトップである安倍総理と会談したわけですから、中国をはじめとした世界各国からみれば、当然のことながら、トランプ氏は「対中強硬路線」をとると見るのが当然のことです。
さて、トランプ氏は大統領就任時にTPPから離脱すると宣言しました。
そうして、このトランプ氏の宣言に呼応したかのごとく、中国の国営英字紙チャイナ・デーリーは15日付の社説で、米国のトランプ次期政権は中国が主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への支持を検討すべきとの見解を示しました。
同紙は「中国政府は当然ながら、排他的で経済的に非効率かつ政治的対立をあおる環太平洋連携協定(TPP)が実現する可能性が日増しに低下していることに安心している」とした上で、「米次期政権は、より開かれた、包括的なRCEPが米国の利益の追求する上ではるかに効率的な枠組みになることを認識すべき」と指摘しました。
米国はRCEPに参加していません。
一方、米国のオバマ現大統領が推進してきたTPPに中国は参加していません。米国は中国よりも先にアジアの貿易協定を定め、アジアで経済的主導権を握ることを目指していました。しかし、トランプ氏はTPPから脱退すると表明しているほか、来年1月までのオバマ大統領の任期中に議会で承認される可能性はほとんどなくなりました。
RCEP参加国には東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国に加え、中国、日本、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドが含まれるが、現段階ではTPPほど高度な貿易自由化は可能となっていません。
TPPに反対して、「TPP亡国論」を叫んでいた連中や民進党などのTPPを政争の道具に使おうとする連中は、日本が、中国のリーダーの下での国際ブラック分業体制ともいえる、RCEPには加入するか、米国の二国間での重商主義的な交渉に挑むことを主張しはじめるかもしれません。
さて、米国との二国間の重商主義的な交渉は日本にとっては、あまり良いことはないです。その事例として、2012年に発効した米韓FTAを例に出します。TPPのお手本とされたこの協定は再交渉で誕生しました。
ブッシュ政権時代に最初の協定が決まったのですが、08年の大統領選に出馬したオバマは「米国の利益を損なう」と反対しました。当選後、再交渉となり韓国に厳しい内容になりました。
北朝鮮と対峙する韓国は米軍の支援を抜きに安全保障を維持できず、隣接する中国との関係からも米国の後ろ盾を必要とします。当時の李明博大統領は米国の要求を呑まざるを得なかったようです。再協議は秘密交渉で行われ、膨大な協定の中身は国会で十分な周知がないまま決まってしまいました。
韓国は不平等協定を呑まされたようなものです。以下の様な不平等な点があります。
◎韓国サービス市場の例外品目以外の全面開放
◎仮にまたぞろ狂牛病が発生しても米国産牛肉の禁輸措置を韓国はとれない
◎韓国が他国とのFTAで相手国に認めた有利な条件は米国にも適用
◎米国産自動車の売上げが落ちれば米国の自動車輸入関税2・5%は復活
◎韓国で損害が出た米国企業は米国でのみ裁判を行う
◎韓国で利益が出ない米国企業に代わって米国政府が国際機関に韓国政府を提訴出来る
◎米国企業の韓国法人には韓国の法律を適用させない
◎知的財産権の管理は米国がする
◎韓国公営事業の民営化(市場開放の追加もある
さて、TPPの焦点のひとつに薬価がありました。日本は米国に次ぐ巨大市場です。日米二国間交渉となれば、薬価を高値に維持する特許期間の延長が協議されることになるでしょう。
TPP交渉では、日本の製薬会社も「特許期間が8年では短すぎる」としていました。TPPでは途上国が短縮を求め押し切って8年になったのですが、日米二国間協議には当然のことながら、途上国はいません。日本は、TPP交渉ではかなり粘りました。このように粘ったのは、日本側の努力もあるのですが、やはり多国間交渉であったという側面もあります。
FTAでは、薬価の決め方も米国は突いてくることが予想されます。TPP協定付属文書に「医療品及び医療機器に関する透明性及び手続きの公正な実施」という規定が盛られたました。当たり前のことが書かれているように見えるのですが、キーワードは「透明性」と「公正」です。
2011年の日米経済調和対話で「利害関係者に対する審議会の開放性に関わる要件を厳格化し、審議会の透明性と包括性を向上させる」という項目が入りました。審議会とは厚労省の中央社会保険医療協議会。実務を担う薬価専門部会に米国製薬企業の代表を加えろ、と米国は要求しています。
遺伝子技術の進歩で画期的なバイオ新薬がぞくぞくと登場したのですが価格がバカ高いです。小野薬品工業のがん治療薬オプジーボは、患者一人に年間3500万円がかかります。健康保険が適用されるが財政負担が問題となり、来年から薬価が半額になることが決まりました。
米国の製剤会社は日本の国民皆保険でバイオ製剤を売りたがっています。新薬認可や保険適応を円滑に進めるため、決定過程に入れろ、と圧力をかけています。高額薬品をどんどん入れれば財政がパンクし国民皆保険が危うくなりかねません。
米国は国民皆保険がないため、病院に行けない医療難民がたくさんいます。オバマケアで最低限の保険制度を作る試みが始まったのですが財政負担が嵩み、金持ちや共和党が目の敵にしています。トランプは「撤回」を視野に再検討する構えです。米国の製薬企業は、日本の皆保険は新薬の巨大市場と見ています。世界一薬価が高く政治力のある米国資本が薬価決定に参入すれば、日本の薬価はどうなることでしょう。
こうした問題は日米二国間交渉の一端でしかありません。TPPではなく、二国間協議に移ればなおさらこのような問題がでてくるのは日を見るより明らかです。多国間交渉である、TPPであれば、多く国々が参加していることから、米国一国だけが有利になるようなことは考えられないですが、二国間交渉になれば、それこそ重商主義立場から、米国の有利な内容になりかねません。
ちなみに、重商主義(じゅうしょうしゅぎ、英: mercantilism、マーカンティリズム)とは、貿易などを通じて貴金属や貨幣を蓄積することにより、国富を増すことを目指す経済思想や経済政策の総称のことです。
本来米国主導であるはずの、「TPP離脱」に、呆れている場合ではありません。米国企業はしたたかです。このような企業の強力な後押しもあることから、トランプ氏としては、TPP 離脱を決意したものと思います。しかし、それが必ずしも米国の国益につながるとは限らないのです。
米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は16日公表した年次報告書で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)が発効せず、中国や日本などが交渉している東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が発効した場合、中国に880億ドル(約9兆6千億円)の経済効果をもたらすとの試算を紹介しました。
報告書は、オバマ米政権のアジア重視戦略「リバランス」で、TPP構想は経済面での中核をなすとみられていると指摘。中国への警戒感を強めているトランプ次期大統領はTPP脱退を主張しているのですが、報告書はTPP脱退が逆に中国の立場を強めると警告した形です。
RCEP交渉には日中両国のほか、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国などを加えた計16カ国が参加。TPPが発効した場合も、RCEPが発効すれば中国に720億ドルの経済効果があると試算。TPPが発効して、RCEPが発効しなかった場合には、中国の経済損失は220億ドルに上るとしました。
日本としては、TPPの米国離脱を阻止するのが当然です。何とか安倍総理の説得によって、踏みとどまっていただきたいものです。トランプ氏は、もともと企業経営者ですから、経営者の立場にたって、米国企業が儲けやすい体制を築きたいと思うのは無理もないのかもしれません。
しかし、米国企業の儲け、それも一部の企業の儲けそのものが、米国の国益にかなうことばかりではありません。場合によっては、著しく国益を毀損することだってあり得るのです。そのことに気づいて、トランプ氏が大統領就任時にTPPの再交渉を宣言するなら、かなりみどころがあると思いますし、大統領としてもうまくやっていけるかもしれません。
しかし、TPPに関する考え方がこのような状況ですから、威勢の良いことは言っていますがトランプ氏も意外と、方法は全く異なるものの、オバマ氏のように、米国を弱体化してしまうかもしれません。
そのようなことになれば、日本にとっても脅威です。たとえ、米国が衰退するにしても、日本がそれに引きずり込まれて弱体化してしまっては、中国の思う壺です。