2020年9月9日水曜日

中国が直面する米国の「挙国一致」反中外交―【私の論評】中国の体制が変わるまで、制裁を続けるのは米国の意思となった(゚д゚)!

 中国が直面する米国の「挙国一致」反中外交

岡崎研究所

 中国に対する姿勢は、米大統領選における一つの大きな争点となっている。世論調査によれば、最近の米国人の対中認識は極めて厳しいものになっており、かつ、その認識は共和党支持者にも民主党支持者にも共有されている。パンデミックをめぐる中国の不誠実な態度、国際約束である香港の一国二制度の事実上の解体、南シナ海における中国の国際法を無視した高圧的態度、中国によるスパイ行為、ウイグルなどでの人権侵害などを考えれば当然のことであろう。当否はともかくとして、中国によって米国の雇用が脅かされているという不安や不満も大きいであろう。



 そういう世論を踏まえ、選挙戦において、トランプ陣営がジョー・バイデンは中国に弱いと言い立てるのは自然であり、かつバイデン陣営がそうではないと反論するのも自然であろう。お互いにどちらが中国にきつく当たれるかを競い合うことになり、対中関係は大統領選挙中には改善しないし、選挙後も速やかに改善していくことは予想しがたいと思われる。

 こうした状況に対し、ワシントン・ポスト紙コラムニストのJosh Roginは、8月26日付け同紙掲載の論説‘The Republican National Convention highlights political abuse of the China challenge’において、共和党と民主党がお互いに対中政策で攻撃し合い、その結果、超党派で行われるべき対中政策がうまくいかなくなる危険がある、との懸念を示している。論説は「(党大会で)共和党は中国問題を濫用し、すべてのアメリカ人がともに直面しなければならない重要問題と言うより民主党を酷評するための一連のキャッチフレーズにしてしまった」と批判する。

 確かに、外交問題を党派間の争いにすることは、いつでも好ましいことではないが、Roginの懸念は心配し過ぎのように思われる。対中姿勢が争点になっているといっても、両党間で正反対の主張がなされているわけではなく、厳しい対中認識については、両党間に差異はあまりない。世論の動向を見れば、厳しい対中態度はトランプが勝とうが、バイデンが勝とうが、変わらないのではないかと思われるし、超党派的な支持を得るだろう。

 中国は、これまでのやり方に対し、米国内のみならず、主要国内で反発が強いことを十分に認識し、行動を変えることが必要であろう。それなくして、中国と西側主要国の関係改善はあり得ないように思われる。

 ポイントは、国際約束を含む国際法は守ること、コロナ・ウイルスはCIAや米軍が持ち込んだなどといったプロパガンダをやめること、ウイグルその他の人権侵害をやめることであろう。中国が戦術的小細工で、あるいは正面突破で、今の難局を克服できるとは到底思えない。

【私の論評】中国の体制が変わるまで、制裁を続けるのは米国の意思となった(゚д゚)!

米国のトランプ大統領は中国との関係について、経済的なつながりを切り離すことを意味する「デカップリング」に言及し、大統領選挙を視野に中国に厳しい姿勢を強調し、支持を広げたいねらいがあると見られます。

トランプ大統領はアメリカの祝日であるレーバーデーの7日、ホワイトハウスで記者会見しました。


この中で、中国との関係について、経済的なつながりを切り離すことを意味する「デカップリング」に言及し、「興味深いことばだ。中国とビジネスをしなければわれわれは何十億ドルを失うこともない」と述べ、中国と経済関係を断てば損失を回避出来るという考えを示しました。

そのうえで「仮にジョー・バイデンが大統領になればアメリカは中国のものになる」などと述べ、民主党の大統領候補のバイデン氏は中国に弱腰だと批判しました。

トランプ大統領としては新型コロナウイルスの感染拡大や貿易問題をめぐり国民の中国への根強い反発もあるなか、大統領選挙を視野に中国に厳しい姿勢を強調し、支持を広げたい狙いがあると見られます。

一方、この日、バイデン氏はアメリカ最大の労働団体の東部ペンシルベニア州の事務所を訪れ、トランプ大統領の政治姿勢を厳しく批判し、支持を訴えました。


また、同じ日、共和党と民主党の副大統領候補のペンス氏とハリス氏は激戦州の中西部ウィスコンシン州でそれぞれ支持を訴えていて、11月の大統領選挙に向け、選挙戦は激しさを増しています。

トランプ大統領は8日、遊説先のノースカロライナ州で、民主党の大統領候補に指名されたバイデン前副大統領が中国寄りだと激しく批判しました。

トランプ氏は同州ウィンストン・セーラムで開いた支持者集会で「バイデン氏のテーマはメード・イン・チャイナだ。私のテーマはメード・イン・USAだ」と発言。「バイデン氏はグローバル主義の裏切り者であり、米国の地域社会を荒廃させた」と訴えました。

全米の世論調査では、バイデン氏がトランプ氏にリードしています。

バイデン氏は、国内の農家や産業がトランプ氏の対中貿易戦争で打撃を受けたと主張。米中通商合意の成果が出ていないと批判しています。

ノースカロライナ州は11月3日の大統領選の激戦州の1つ。トランプ氏は過去1週間弱で2回、同州を訪れています。

こうなると、最悪は戦争になることも考えておくべきかもしれません。このブログでも掲載したように、南シナ海は中国より1000kmも離れている上に、戦略家のルトワック氏が指摘しているように、南シナ海の中国軍基地は象徴的な意味しかなく、米軍なら5分で吹き飛ばせます。

選挙戦で圧倒的に不利になれば、トランプ氏は中国と戦争することも厭わなくなるかもしれません。

そうなると、中国軍の艦隊は南シナ海一帯に展開する米潜水艦の魚雷の餌食になる可能性が高いです。中国軍が潜水艦部隊で応戦しようにも、米軍との間では、兵器の性能や練度に圧倒的な差があり歯が立ちません。今の両軍の力の差を考えれば、戦闘は1週間で米軍の圧勝に終わるでしょう。

特に、対潜哨戒力に関しては、米国は世界一であり、中国軍のそれはかなり低ぃです。原潜は通常型に比較すると、どうしても音がかなりでるので、ステルス性には劣るのですが、それにしても米中の原潜を比較すれば、米国のほうがステルス性に優れています。

通常型は、原潜よりはステルス性にすぐれていますが、今年6月奄美沖の接続水域を中国のおそらく通常型潜水艦が航行しましたが、すぐに日本に発見されました。日本よりも対潜哨戒能力に優れた米国であれば、中国の通常型も原潜もすぐに発見できるでしょう。

中国軍が米国の潜水艦を探そうとモタモタしているうちに、ほとんどの艦艇や潜水艦が撃沈され、環礁上の中国軍基地もぼぼ破壊されることになるでしょう。日本の軍事評論家などは、潜水艦のことをあまり大きくとりあげずに、中国軍が強いと繰り返すむきもおおいですが、私は米中が戦争になれば、米軍は潜水艦を多様するのは間違いないと思います。

いずれの国の軍隊も自ら最も得意の分野で、戦争をするのは当然のことです。現在でも多数の米原潜が、中国には気づかれずに、インド太平洋太平洋地域に多数潜んでいるはずです。南シナ海などで戦争がはじまるとすれば、まずはこれらの潜水艦郡が先端を開くことになるでしょう。その時点で中国軍は壊滅状態になります。

ただ、そのことを中国側を熟知しているので、わざわざ自ら戦争することはないでしょう。そうすれば、あっという間に大敗を喫して世界の笑い者になるだけの話です。そうなれば、「弱い中国」というイメージがつき、中国の覇権拡大戦略は頓挫することになります。かといつて、核兵器を使おうにも、これも米軍のほうが圧倒的に数でも性能も優れています。

となると中国としては、どのような戦略をとるかといえば、米国と直接対峙することは避けて、ひたすらインド太平洋地域の国々を威嚇し、中国に従わせるということになるでしょう。

これに関しては、米国側も黙ってはいません。たとえばパラオ共和国は、太平洋の島国に米軍の新基地を誘致することで中国に対抗しようとしている、とウォールストリート・ジャーナルが8日に報じました

グアム、フィリピン、そしてインドネシアの間に位置する小さな島国であるパラオは、北京が影響力の拡大を目指してきた決定的な領域を占めています。

「パラオは太平洋でとても重要な場所だ」「パラオは中国の侵略的な経済行為と悪意ある影響力に悩まされてきた。・・・パラオは米国の良き友人であり太平洋の主要なパートナーだ」とジョン・ヘネシー・ニランド駐パラオ米国大使は同紙に語りました。

中国は南シナ海周辺に対して影響力を行使することに焦点を当てており、現在世界最大の海軍艦隊を誇示し、水中警戒システムと新しい空母を建設しています。米国のパラオとの関係強化は、同盟国との関係を強化することで地域での中国の優位性に対抗しようとするワシントンの取り組みと一致します。

「同盟国・協力国との堅固なネットワークは、依然として同等に近い競争相手、つまり中国に対して我々が持つ永続的で非対称的な優位性となっている。中国は多くの場合他者を犠牲にして、自分達の利益を拡大するためにルールに基づく秩序を弱体化させ破壊しようとしている」とマーク・エスパー国防長官は8月の演説で述べました。

パラオの国旗


ここ数カ月のうちに、米国は南シナ海で航行の自由作戦を複数回実行しました。8月にアレックス・エイザール保健福祉省長官は、1979年以来でパラオの同盟国である台湾を訪問した最高位の米国高官となりました。

米国は、中国に威嚇される国々を支援することと、中国に対する種々様々な制裁をしつつ、これからも中国と対峙し続けていくことでしょう。

上の記事では、中国がが実施すべきポイントとして、国際約束を含む国際法は守ること、コロナ・ウイルスはCIAや米軍が持ち込んだなどといったプロパガンダをやめること、ウイグル、香港その他の人権侵害をやめることとしていますが、たとえ中国がそれを約束したにしても、米国は中国に対する対峙をやめず制裁を続けることでしょう。

なぜなら、米国は中国にWTOや他のことでも、騙され続けきたきたので、約束程度のことでは信用しないからです。中国の体制が具体的に変わらなければ、中国共産党が崩壊するまで、制裁を続けるでしょう。

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2020年9月8日火曜日

「菅首相シフト」敷く財務省 当面は共存関係維持するが…消費減税は選挙と世論次第 ―【私の論評】菅官氏が総理になった場合、減税も公約として、解散総選挙となる確率はかなり高い(゚д゚)!

 「菅首相シフト」敷く財務省 当面は共存関係維持するが…消費減税は選挙と世論次第 

高橋洋一 日本の解き方

菅義偉氏


 8日告示、14日投開票の自民党総裁選は、菅義偉官房長官が有利な情勢だ。菅氏が首相になった場合、霞が関の官僚、とりわけ財務省との関係はどのようなものになるだろうか。

 菅氏は、官僚ににらみが利くといわれている。官房長官というポストは、諸々の情報が官僚機構から上がってくるという事実があるとともに、独自のネットワークにより、官僚機構からの情報をチェックして、必ずしも官僚の言いなりになっていないことも意味している。

 しかも、菅氏は、第2次安倍晋三政権で創設された内閣人事局のシステムをうまく使った。もともと、内閣人事局の構想は、第1次安倍政権の時の公務員制度改革に盛り込まれていたものだ。それが、福田康夫政権での2008年の国家公務員制度改革基本法の成立につながった。

 同法11条では、「政府は(中略)内閣官房に内閣人事局を置くものとし、このために必要な法制上の措置について(中略)この法律の施行後一年以内を目途として講ずるものとする」と定めていた。

 しかし、その後の民主党政権を経て、施行後6年となる14年、第2次安倍政権において内閣人事局は設置された。菅氏は、こうした経緯を熟知しており、人事によって官僚を巧みに管理している。

安倍政権で生まれた内閣人事局(右端は菅氏)

 官僚側からの意見が反映されているのだろうが、しばしば内閣人事局については、マスコミで批判的に取り上げられる。

 内閣人事局のできる前は、各省で幹部人事が行われていた。各省には経験の浅い政治家大臣がいるだけで、幹部官僚の名前と顔を覚えるにも精いっぱいで、とても独自人事を行う余裕はなかった。

 それが、内閣人事局で、官邸でのチェックが入ることで官僚の勝手な人事には一定の歯止めがかかった。どんな企業でも幹部人事は「各事業部」ではなく「本社中枢」が行うが、ようやく霞が関でもそれと同じ仕組みになったのだ。

 これによって、都合のいい従来の「事業部」で人事を決める仕組みに安住していた官僚から不満が出て、それをマスコミは記事にしたのだろう。

 一方、財務省も、官邸など政府内の重要ポストを握っており、他省庁に追随を許さない情報ネットワークを持っている。政治家なら誰しもそのネットワーク情報を入手したいはずだ。当然、菅氏もそれを承知しており、それを活用しないはずはない。その意味では、菅氏と財務省は共存関係だ。

 財務省も先月の定例人事で、菅氏の秘書官だった矢野康治氏を主計局長に起用するなど、「菅内閣」を予見しているかのようだ。矢野氏は菅氏の信頼も厚いので、一定の影響力を行使できるだろう。

 問題は、消費税に関する方向性だ。当面、減税しないという従来方針と思われる。

 ただし、秋に衆院選が行われた場合、その方針は、世論次第によって変わりうるのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授)

【私の論評】菅官氏が総理になった場合、減税も公約として、解散総選挙となる確率はかなり高い(゚д゚)!

菅官房長官は9月3日の定例会見のなかで、新型コロナウイルス対策に関連し、消費喚起策の一環としての消費税減税には否定的な見解を示し「消費税自体は社会保障のために必要なものだ」と強調しました。 

社会保障や、教育の無償化などの理由で消費税減税等は全く不可能にも見えます。

世間には様々な誤解があり、消費税増税がアベノミクスの一部であると理解している人も多いです。ところが、本来のアベノミクスの目的は、あくまでも消費を喚起、投資を喚起して取引を活発化する、企業にとっては売り上げを上げ、製造量も増やす、そういう積極的で前向きな、明るい将来展望を描けるような社会をつくろうというものです。

消費税の増税、特にデフレから脱却する途中で増税をしてしまうと、将来に対する明るい希望が萎えてしまいます。ですから、アベノミクスと消費税増税はもともと対立する運命にありました。

この対立する消費税をどうするかという問題は、もともと運命的に仕組まれたものだったのです。しかし、最終的には財務官僚と自民党によってがんじがらめに構築された政治体制に抗えないということで、2014年に8%に上がったのです。それはいまでも続いているわけで、菅官房長官がアベノミクスを継承すると語っていますが、本来アベノミクスに消費税の増税は含まれておらず、本来は消費税減税を主張すべきです。


現在コロナ禍で、経済が落ち込み今年(2020年)の第2四半期、4~6月期でGDP年率換算を28.1%%も落としています。これはリーマンショックの直後よりも、はるかに深刻です。

2019年10月に消費税を増税したとき、「リーマンショック級のショックがあれば増税はしない」と、安倍首相をはじめ政権の多くの方が語っていました。ですから、消費税は1度元に戻すべきです。少なくとも8%にはすべきです。

さらに8%だと軽減税率の品目については変わらないので、低所得者にも恩恵が及ぶという意味で、時限的に5%に減税すべきです。それによって経済を成長させ、経済の規模を大きくすべきです。

それが現在の最優先課題であって、財政の健全化ではありません。財政のことを考えるのはその後で、まずは経済を大きくするべきです。優先順位を間違えると、アベノミクスは必ず失敗します。 

まずは積極的な財政出動、大規模な金融緩和と、1本目の矢、2本目の矢をもう1回放って行く。そのために消費税減税は欠かせません。

これがアベノミクスの本質です。本質は変わりません。菅氏は、それを継承されるとおっしゃっています。しかし、おそらく自民党の候補者の方々は、将来の解散総選挙も念頭においているのでしょう。

その場合は、早々に減税とは言わないのかもしれません。やはり効果からすると、従来路線を引き継ぐと言って、最後の最後で決断されるした、方が、国民に対するインパクトは大きいです。

ですから、菅氏が減税に現在消極的な発言をしているかといって、絶対に減税はないと決めつけてしまうのは早計です。 

今回の総裁選挙は任期途中の辞任に伴うものであるため、新総裁の任期は安倍の残任期間である2021年9月までとなりますあと1年後には新総理の任期がせまっていることから、どこかで解散を総選挙となるのは確実とみるべきです。

安倍総理も、2回も増税を延期しました。それならば、なぜ昨年の10月に増税したのかと言いたくなりますが、様々な事情があったのでしょう。特に、幼児教育の無償化は安倍総理の目玉政策でしたので、その財源として国債を財源にするのが当然なのですが、財務官僚の凄まじい抵抗が予想されたので、消費税を財源ということになったのだと思います。

昨年の9月あたりには、「もりかけ」問題等で、内閣支持率がかなり下がっていましたし、ここで消費税増税見送りを公約し解散総選挙を実施して財務省に対峙するのは得策ではないと考えた安倍総理は、増税見送りを断念せざるを得なかったのでしょう。


安倍総理が辞任を公表した後には、支持率が上がっています。菅氏が新総理になった場合、この内閣支持率はあまり変わらないと考えられます。

安倍内閣の支持率はは各メディアの世論調査でも急上昇しています。安倍内閣の最終支持率はJNN世論調査では、62.4%と史上最高になりました。 自民党の支持率も上昇している一方、野党の支持率は総じて低下しています。もうネット時代に突入した現代では、マスコミの印象操作は通じなくなりつつあるようです。

安倍一次内閣が崩壊(2007年)したときには、安倍氏の辞任をさんざん揶揄したマスコミは、現在ではそのようなことはできないようです。当時もインターネットがありましたが、SNSは今日のように興隆していませんでした。そのようなことをすれば、たちまち、ネットで袋叩きに合う昨今です。その面では、日本は転換点を迎えつつあるようです。

あのトヨタですら、テレビCMはやめようかと模索しています。これに対して批判するむきもあるようですが、トヨタが成功すれば、他の企業も追随する可能性があります。印象操作で、減税阻止をするとか、改憲論議を阻止、安保問題の論議を阻止するということは、不可能になりつつあります。マスコミもそのことにはやく気づくべきです。

マスコミの印象操作が効果をもたなくありつつあることと、この高い支持率を背景として、基本的には安倍路線を踏襲することとその中には、消費税減税も含むこととと、菅氏の独自の政策もあわせて公約として、解散総選挙を実施することになる可能性はかなり高いです。

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2020年9月7日月曜日

トランプ氏「逆転再選」で安倍首相“3度目登板”も!? 外交・安全保障で存在感大きく 民主主義の敵・中国と対峙するための「日本のリーダー」に誰を望むかは明らか―【私の論評】安倍晋三氏が次の次の総裁選に出馬するということは、十分にありえるシナリオ(゚д゚)!

トランプ氏「逆転再選」で安倍首相“3度目登板”も!? 外交・安全保障で存在感大きく 民主主義の敵・中国と対峙するための「日本のリーダー」に誰を望むかは明らか

安倍首相(右から2人目)の後継が有力視される菅官房長官(左)。その次は…

 安倍晋三首相が辞任を表明して以降、世界各国の首脳から長年の労をねぎらうメッセージが寄せられている。リーダーシップを発揮してきた安倍首相の不在が国際社会に与える影響は小さくない。国際投資アナリストの大原浩氏は緊急寄稿で、米中対立など多くの難題を抱えるなかで、「3度目の首相登板」の日も遠くないと大胆予測する。


 安倍首相は8月28日午後5時から記者会見を開き「辞意」を表明した。

 「悪夢の民主党政権」で疲弊した日本を成長軌道に戻し、体調を悪化させる原因にもなったと思われる「不眠不休」の新型コロナウイルス対策で爆発的流行が起こらなかったことなど、日本のために尽力されたことにまずは「ありがとうございます」と述べたい。

 菅義偉官房長官が後継総裁として有力視されているが、もしそうなれば、後世の歴史に間違いなく残るであろう傑出した大宰相の路線が引き継がれると期待できる。

 忘れてならないのは、「日本国首相」が日本国民の代表であるとともに、「世界の主要国日本の顔」であることだ。

 蜜月時代を築いたドナルド・トランプ米大統領だけではない。世界中の首脳からのメッセージは、安倍首相のリーダーシップへの評価がどれほど高かったのかを如実に示している。

 特に米国が離脱した後の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を11カ国でまとめ上げたことは、その中に米英など5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」構成国が3カ国入っていることを考えても、日本が第6番目の国として参加する可能性を高めたと言える。

 辞任後も「世界が安倍晋三を求めている」。体力的に当面は外務大臣等の職務は難しいであろうが「元首相」や「外交特別顧問」としての活躍は期待できるのではないだろうか。

 さらには、今回の辞任で3度目の安倍政権の可能性はむしろ高まったと言えるかもしれない。難病を抱え激務で疲労困憊している中で本人がそこまで考えたかどうかはわからないが、残り1年の任期に執着せず、潔く決断したことは間違いなく「次につながる」行動だ。何事も安倍首相のせいにする「アベノセイダーズ」たちに、「安倍首相以外」の政治家がどのような結果をもたらすのかを体験させる良い機会であるともいえる。

 先読みしすぎかもしれないが、安倍首相復活の鍵はトランプ大統領再選にあると言える。

 偏向メディアは日本でも米国でも、とにかく反トランプ一色だが、そうしたメディアが行うアンケートでもトランプ氏がバイデン氏を急速に追い上げ、互角と言ってよい戦いになっている。

 黒人差別反対運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」と結び付いた反トランプ勢力を恐れて、「トランプ支持」を公然と述べない人が多い。それを考えれば、前回の大統領選と同じように、世論調査に関わらず、トランプ氏が有利な状況ではないだろうか。

 景気の落ち込みは現職にかなり不利だが、それを補って余りあるのが民主党のジョー・バイデン前副大統領のお粗末さだ。ウクライナや中国など息子を含めた金銭疑惑は晴れておらず、認知症疑惑も深刻だ。

 大統領選の山場は、9月29日から始まるトランプ氏とバイデン氏の3回のテレビ討論会だ。熾烈な言葉のやりとりが全国民に向かって放映される中で、バイデン氏の「失言」が続けば、勝敗は明らかであろう。

 もしトランプ氏が再選されれば、民主主義の敵・中国と対峙するための最大の同盟国である日本のリーダーに誰を望むかは明らかだ。

 日本の懸念は安全保障だけではない。習近平国家主席が「食べ残しを厳しく戒める」ほど、中国の食糧難到来の可能性は高いが、日本は中国から多くの食品を輸入している。大半が中国からの輸入だったマスクのような「品不足騒動」が起こったら、国民の生命が危険にさらされる。

 食糧が戦略物資となり世界中で争奪戦が起こる可能性が高い。世界最大級の食糧生産国である米国などとの友好関係を盤石にするためにも、安倍首相にはまだまだ頑張ってもらわなければ困る。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】安倍晋三氏が次の次の総裁選に出馬するということは、十分にありえるシナリオ(゚д゚)!

自民党内では安倍総理が辞任を表明する前から、「プーチン方式」という言葉が冗談交じりで語られていたそうです。ウラジーミル・プーチン・ロシア大統領は、2000年に大統領就任。ロシアは大統領連続3選が禁じられているので彼は、2期8年務めた2008年、メドベージェフ氏を後継指名しました。

安倍総理とプーチン露大統領

メドベージェフ氏が大統領になると、プーチン氏は指名を受ける形で首相になりました。もちろんロシアのトップは大統領ですがプーチン首相は事実上の院政を敷き、メドベージェフ氏をあごで使いました。そして次の2012年大統領選で大統領に復帰。さらに今年の大統領選でも勝ち2024年まで大統領にとどまることになりました。

「プーチン方式」を日本の政治に当てはめれば、2021年3期を終える安倍氏は後輩にいったん首相の座を譲り、後継者が1期を終えたところで返り咲くということになります。「プーチン方式」で安倍氏が2024年9月に首相に返り咲いたとします。9月21日の誕生日までに総裁選が行われれば安倍氏は69歳。若いとは言えないですが、十分首相を務められる年齢です。

安倍総理ご自身は、現在65歳(誕生日が来れば66歳)、菅氏は71歳です。岸田氏、石破両氏は63歳です。

安倍氏とプーチン氏は気が合って、首脳会談も重ねています。安倍氏はプーチン氏のことを「ウラジーミル」とファーストネームで呼びます。そういう間柄であることも、プーチン氏の手法を参考にするのではないか、との臆測の根拠の1つとなっています。

3年間、首相の座を「レンタル」する人物として、最近「ポスト安倍」候補として注目度が高まっている加藤勝信・党総務会長の名を上げる人物までいました。

しかし、安倍総理の体調が崩れず辞任を公表することもなければ、わざわざ3年間、他人に首相の座を譲るような、まどろっこしい方法をとる必要があったでしょうか。もし、2021年以降も権力の座にとどまろうと考えるのなら、ブランクはつくらず、首相を続けて4選を狙う方が手っ取り早いです。今の自民党の党則は4選を禁じているが、党則は変えられます。安倍総理が体調を崩さなければ、こうした道を歩んだ可能性もあります。

以上は一見乱暴な議論のように聞こえるかもしれません。しかし2015年、安倍氏が無投票で再選を果たした時、党則で3選は禁じられていました。この段階では、安倍氏は2018年、9月に首相から退くことが党則で決まっていました。

3選できるようにしようという機運が高まり始めたのは、翌2016年の夏ごろ。2020年の東京五輪を「安倍首相」で迎えようという意見とともに党則改正論が台頭しました。

2016年8月、リオデジャネイロ五輪の閉会式で、安倍氏が「スーパーマリオブラザーズ」のマリオに扮して出席した時、感想を求められた二階俊博幹事長が「(3選の)意欲がなければリオには行かないだろう」と語ったあたりから流れができました。同年秋から党内で党則改定の議論が始まり、翌年3月の党大会で正式決定しました。



当然、石破茂氏、岸田文雄氏ら「次」を狙う議員の周辺からは「なぜ今なのか」と異論も出ましたが、それほど大きな声になりませんでした。あまり反対論を唱えると、逆に安倍氏を封じ込めて自分が総裁になりやすくしようとしていると思われるのを気にしたのです。

当時の党内の議論で、注目すべきことがあります。議論が始まった時から3選に道を開くことでは大筋固まっていたのですが、具体的な方法として2案あったのです。

1つ目は「連続3期9年」まで可能にする案。もう1つは「多選制限撤廃」案。つまり3期にとどまらず4期でも5期でも無制限でできるようにする案です。

最終的には党の議論をリードした高村正彦氏の持論である「3期9年」で落ち着いたのですが、「多選制限撤廃」は2年前の議論でも有力な案の1つでした。再燃する素地は十分あります。

安倍氏は3選された後、さかんに「残る3年」という言葉を繰り返しました。4選など全く想定していないことを強調しているように聞こえます。実際、安倍氏は現段階で4選を基軸に考えていたわけではないでしょう。

ただ、周辺が4選の機運を高めていった時、どう考えるべきでしょうか。その時の政治情勢も勘案しながら、2年前のように、野心を抱き始めることもあるでしょう。

もちろん、4選という力技を実現するには前提条件が必要です。安倍氏が安定的に政権運営し、その上で「安倍氏にしか進めることができない」という政治課題が存在することが条件となるでしょう。

昨年の参院選で、自民党が勝利を収めたので、安倍総理の4選論の出発点となるはずでした。。

この時点で憲法改正の道筋がつかず「改憲が決着するまで」という理屈で続投の理由をつけられる状態ではありませんでした。もし、昨年時点で改憲の方向性が出ていれば、拉致問題や北方領土などの外交課題を持ち出して「安倍氏にしか解決できない」ということもできたかもしれません。4選を目指すことさえ決まれば、理屈は後からついてきたでしょう。

こういった噂が出る背景には、安倍氏の後継候補がなかなか見えてこないという事情があります。石破氏は先の総裁選の地方票で健闘して「ポスト安倍」レースで一歩抜けた印象があるが、肝心の国会議員票では2割も満たせませんでした。

その他は岸田氏、茂木氏の名があがっていましたが、政治的力量、知名度、人望ともに心もとないです。石破氏、岸田氏は、いずれも60歳代。64歳の安倍氏とほぼ同世代です。菅氏は71歳です。これでは、対外的に世代交代したというアピールができません。

ならば、39歳と若い小泉進次郎・環境大臣等がもう少し経験を積むまでの間、安倍氏に続けてもらったらどうか。そういう考えを抱いた議員が自民党内に少なからずいたはずです。

そこで、安倍総理の電撃辞任が起こったわけです。この突然の辞任で、それまでの考えは変更せざるをえなくなりました。それまで、菅氏が大臣という声もないわけではありませんでしたが、それでも本当に菅氏が、総裁に出馬する日がやってくることを、本人はもとより、党内でも誰も思っていませんでした。

しかし、党内では、安倍総理の政策を継承するという意味では、菅氏は、安倍総理の政策を実行に移してきた菅氏が次期総理にふさわしいと考える勢力がいまのところ最大になっており、現状では総裁選は菅氏が最も優勢です。そうして、おそらくそうなるでしょう。

先程述べたように、昨年の参院選の勝利の後、安倍総理は「憲法改正」の動きをつくろうとしましたが、現実はそれどころではありませんでした。いわゆる「もりかけ桜問題」では、結局現在に至るまで野党は安倍総理を辞任に追い込めるような物証をあげることはできませんでした。

結局どの案件でも、安倍政権にマイナスイメージを与えることにはある程度成功したものの、倒閣には程遠い状況でした。

安倍総理自身も、倒閣に至るようなことはありえないと考えていたと思いますが、それにしても、国会は「もりかけ桜」一色に染まり、野党はこれらの問題を追求し続け、挙げ句の果てに審議拒否を何度も繰り返し、国会は事実上立法府という機能を停止したも同然となりました。それでも、安倍総理等の閣僚は国会出続けなければなりませんでした。

これでは「改憲が決着するまで」という理屈で続投の理由をつけられる状態ではありませんでした。そこで、安倍総理は体調を崩すことになってしまったのですか、これは持病の潰瘍性大腸炎がなかったにしても、140日間の激務を続ければ体調がおかしくなるのは当然です。

私自身も、会社の役員として過去にこれ以上連続して勤務をした経験がありますが、一般の人からは想像できないほどの激務です。それでも、仕事がうまくいけば良いのでしょうが、役員がそのようなことをしなければならないという背景には、様々な問題かあるからであり、憔悴感も半端ではありません。

これは、経験のない人には想像もつかないでしょう。ましてや、総理大臣という立場では、責任の度合いが違います、安倍総理がかなり消耗されたのは間違いないです。

そもそも、無意味な国会に出続け、無意味な質問に丁寧に答えなければならないということは、本当に苦痛だったと思います。しかし、体調が悪かったのは事実でしょう。安倍総理としては、一時休んで麻生副総理にその間は任せ、今回の任期を勤め上げるということも考えたでしょうが、それでは大多数の国民にとっても、党にとって、自分にとっても、未来に何の展開も考えられないわけですから、現状では将来に様々な含みを残して、辞任するという道を選んだものと思います。

だとすれば、菅氏が来年9月まで総理大臣として勤めた後、もしくはもう一期勤めたあとで、安倍晋三氏の総裁選3度目登板も十分ありえるということです。今回の総裁選挙は任期途中の辞任に伴うものであるため、新総裁の任期は安倍の残任期間である2021年9月までとなります

誰が総理大臣になっても、新総裁の任期が切れる来年の9月までの間には確実に解散総選挙に踏み切るでしょう。

菅氏が総理大臣である間も、安倍氏は党内の最大派閥の領袖として、党内で大きな力を発揮できます。先日も、このブログにも掲載したように、安倍氏は党内で、フィクサーとして動くということは十分に考えられます。

ただし、かつての金丸信のようなタイプのフィクサーにはならないでしょう。経済を回復させるだけではなく、成長軌道にのせること、憲法改正、拉致問題、北方領土など解決すべき問題は山積しています、安倍晋三氏はこれらへの対策を実行するため、党内のかなり有力な調整役となることでしょう。

フィクサーと言われた男 金丸信


菅氏が総理大臣になった場合には、安倍氏を最も頼りにすることでしよう。菅氏は実直な人柄であり、安倍総理を影で支えてきました。しかし、今回の辞任劇をはじめとして、いわゆる政治の流れをつくるということでは、菅氏にはあまり経験がありません。

だから、総理大臣の業務を遂行するにおいては、安倍晋三氏の考えを参考にしたり、相談することになるでしょう。菅氏がそれで総理大臣として成長し総理大臣を続けられるというのなら、菅政権は長期政権になるかもしれません。

そうはいいながらも、菅氏の年齢が71歳ということから、長期とはいっても来年の9月までとその後のもう一期がせいいっぱいでしょう。

菅総理一期目期間中に、総理大臣にふさわしい人物が育っていない、フィクサーとしての立場には無論限界があること、党内で支援輪が広がる可能性があるかどうかを見定めて、場合によっては安倍晋三氏が次の次の総裁選に出馬するということは、十分にありえるシナリオです。

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2020年9月6日日曜日

トランプが最初から正しかったとFRBが認める―【私の論評】トランプの経済対策はまとも、バイデンの対策は異常、日本は未だ準備段階(゚д゚)!

トランプが最初から正しかったとFRBが認める


<引用元:FOXビジネス 2020.9.4>スティーブン・ムーア氏による論説

ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長

ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は先週、ジャクソンホールでの「バーチャル」シンポジウムで、FRBが過去数年の間に一貫して2パーセントのインフレ目標に到達しなかったことを認めた。

FRBは、そのデフレ金融政策が成長を抑制し賃金を押し下げたことをそれとなく認めている。

今FRBは、もっとドルの流動性を経済にもたらすためにより高い目標を設定することを約束している。

パウエルの3,000語の演説は、次のたった1つの文章で要約できたことだろう。「トランプ大統領が正しかったのであり、我々は間違っていた」

パウエルは最近知識人として有頂天になっており、中には雑誌タイムの今年の人になるべきだと示唆する者もいる。

だが過去数年の間で、トランプこそがFRBは引き締め過ぎていると警鐘を鳴らしてきた人物であり、物価と長期金利(市場価格)の下落からも分かるように、期待インフレ率はFRBの目標の半分となっていることを示している。

トランプはエコノミストとしての訓練を受けていないかもしれないが、成長を作り出すということに関して、この不動産王は不思議な直観を持っている。

今年の初めのパンデミック以前、経済は今世紀最高のペースで前進していた。

だが、FRBがトランプの(そして我々の)助言に従っていたら、実質GDPと賃金はもっと高い成長の潮流に乗っていただろう。トランプは近代経済学に浸透する成長モデルに対する間違った考え方の制限を本能的に拒否していた―我々と同様に。

今世紀のこれまでの成長は、1つには世界中の中央銀行のこうした成長恐怖症が原因で不足している。

1.6パーセントというブッシュとオバマの時代の平均GDP(実質)成長率は、20世紀の平均(3.5パーセント)の半分以下だった。

2008年から2009年の世界的金融不況からのぬるい回復とは著しく対照的に、ケネディとレーガンの拡大時代は5パーセント以上の成長率の時代だった。

過去20年の緩やかな成長の言い訳として、労働力の伸びの減速が我々に新たな「長期停滞」を強いているのだと主張するエコノミストもいた。

パウエル任命の際、トランプはFRB新議長が成長志向の金融政策を実施すると期待していた。しょっぱなからほど遠い結果だった。

2018年2月に、パウエルがFRBの頑迷な「フィリップ曲線」思考という成長と賃金上昇がインフレを引き起こすと断定する考え方を受け入れたために、FRBはおろかにも力強い完全雇用・賃金上昇の回復を押しつぶした。

FRBは実体のないインフレと戦っている、とトランプが立腹したのは正しかった。

一方、株式市場は暴落して成長は行き詰まった。FRBが2019年初期にトランプの助言を受け入れずに逆行していたら、経済は転覆していただろう。

ここ数カ月のインフレ率のわずかな上昇でも、物価はまだ2年前の水準から21パーセント下回っている。

5年TIPSのスプレッドは、まだPCEインフレ率1.35パーセントを示しており、FRBの2パーセントの目標をはるかに下回っている。こうした状態がもう長年続いている。

FRBは(おそらく)その「手段」の全て――ゼロに近い金利と数兆ドルの資産買収――を実行しているにもかかわらず古いもっと低い目標に到達できなかったというのに、パウエルは新たな高いPCEインフレ目標にどうやって到達できると予測しているのかを話していない。

だが新しい考え方は、貫くのであれば歓迎すべき知らせだ。我々は決して悪性インフレを望んでいないが、成長と人々の労働はインフレを引き起こさない―それらはインフレに対抗するものだ。物の生産が増えるということは、価格が上昇ではなく低下することを意味する。

我々は今後数年、数十年で実質成長率が低下するのではなく上昇することを目指すべきだ。貿易、技術、そして革新は生産性を大幅に上昇させ、インフレを殺す。

グーグル、アップル、ウォルマート、そしてアマゾンがどれほどインフレを縮小させたか考えてみて欲しい。情報のカタログによるデータ検索には、かつて何百、何千ドルの費用が掛かっていた。今やそれは速くて無料だ。

携帯電話の費用は2,000ドルだった。今、10倍の計算力を持つ電話の費用は200ドルだ。米国ではウォルマートに行って、Tシャツと食べ物とおもちゃが99セントで買える。

現在、インフレではなくデフレに傾くことが成長の敵であり、トランプは4年間そう言ってきた。

こうした厳しい時代であっても、世界の投資家はまだ米国を自由市場の成長と革新の震源地だとみなしているので、ドルに対する世界的需要が尽きることはない。

世界はドルを求めており、世界の豊かさを回復するための1つの鍵は、FRBがドルを供給することだ。

スティーブン・ムーアは、ドナルド・トランプ大統領の経済回復タスクフォースのメンバーであり、Committee to Unleash Prosperityの共同創設者である。

ルイス・ウッドヒルはCommittee to Unleash Prosperityの上級研究員である。

【私の論評】トランプの経済対策はまとも、バイデンの対策は異常、日本は未だ準備段階(゚д゚)!

上の記事にもあるように、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は4日、この日発表された8月の米雇用統計について「良好な内容」との認識を示しました。同時に、こうした勢いが今後減速する公算が大きいとし、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた景気の回復を後押しするため、向こう数年におよぶ低金利の継続を約束しました。

パウエル議長は、米公共ラジオ局(NPR)とのインタビューで「雇用統計は良好だった」と評価。同時に、旅行やレジャー産業など、経済の複数の分野が引き続き「コロナのパンデミック(世界的大流行)の直接的な影響を受けており、今後は一層厳しい道のりになる」と語りました。

その上で「経済活動を下支えるため、長期にわたる低金利が必要になる。それは何年にも及ぶだろう」とし、「どれほど長期間になったとしても、FRBは支援していく」と言明しました。

さらに「われわれは経済に必要とみられる支援を性急に解除はしない」と強調しました。

また、景気回復にはFRBだけでなく、議会からの支援も必要との認識を改めて示しました。

8月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比137万1000人増と、伸びは前月の173万4000人から鈍化したほか、予想の140万人を下回りました。失業率は8.4%と、前月の10.2%から改善しました。

11月の大統領選では、雇用が大きな争点になります。トランプ氏は「景気が劇的にV字回復しており、来年は素晴らしい年になる」と、経済重視の姿勢を一段と強めています。


一方で、失業給付に週600ドル(約6万4000円)を上乗せする制度は、加算額の維持を求める野党民主党と、減額を目指す与党共和党の対立で7月末に失効しました。経済への悪影響を懸念するトランプ氏は、週最大400ドルに減らした上で、給付を継続する暫定措置を命じました。

トランプ氏の狙いは、給付を減らして失業者の就労を促し、大統領選に合わせて雇用改善の実績を強調するつもりのようです。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は4日、雇用情勢の改善を受け、民主党が主張する大規模な経済対策が「なくてもやっていける」と明言しました。

これに対し、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、経済は回復途上であり、失業給付を含む「追加財政策が必要だ」と警告しています。政府支援の大幅削減は「消費と景気回復を圧迫する」(エコノミスト)との分析もあり、雇用改善を急ぐトランプ氏のもくろみは綱渡りともみられています。

しかし、これは本当に綱渡りなのでしょうか。私はそうとばかりは言えないと思います。トランプ大統領は、マンデル・フレミング効果を意識しているのではないかと思います。

マンデルフレミング効果を簡単にいうと次のようになります。

通貨制度には固定相場制と変動相場制の2つ制度があります。固定相場制のもとでは景気を刺激する政策では財政政策が有効であり、金融政策は無効となります。中国のような固定相場制の国において、財政政策が有効です。

変動相場制のもとでは、財政赤字が拡大すると実質長期金利が上昇し、設備投資や住宅投資が減少します(クラウディング・アウト効果)。また、実質長期金利が上昇すると国内への資本流入圧力が生じて自国通貨が増価し、輸出が減少して輸入が増加するためGDPが減少します。

よって、変動相場制のもとで景気回復や雇用を増やすには、財政政策よりも金融政策が効果的だという理論。ロバート・A・マンデルとJ・マルコス・フレミングが1963年に発表した理論で、1999年に両名ともノーベル経済学賞を受賞しています。

マンデル・フレミングモデルから導かれる結論

マンデル・フレミングモデルからいっても、コロナ禍で、景気が悪化したのですから、当初は積極財政と無制限の緩和をするのは、当然のことです。特に積極財政は、コロナ禍で失業した人等をすぐに救済するという意味でも重要です。

しかし、ある程度経済が回復してきたときには、金融政策のほうが有効になります。ただし、経済が本調子になるまでは、両方とも実施したほうが良いです。

トランプ政権の経済政策では、かなりの減税を実施しています。この減税は継続した上で、週最大400ドルに減らした上で、給付を継続する暫定措置を実行しつつ、低金利金政策を継続し、量的緩和をも実施するというのですから、トランプ氏の目論見は成功する可能性が高いです。

8月の米雇用統計では、雇用の伸びは前月の173万4000人から鈍化したほか、予想の140万人を下回っています。これは、財政政策による景気回復の限界を示しているのかもしれません。


であれば、金融緩和に力を入れるというのは当然の措置です。現在FRBが、もっとドルの流動性を経済にもたらすためにより高い目標を設定することを約束するのは当然のことと思います。

バイデン前副大統領は7月9日、新型コロナウイルス危機に見舞われた米製造業の復活に向け、4年間で総額7000億ドル(約75兆円)の公共投資計画を発表しました。投資額は「第2次世界大戦以来で最大規模」と強調。財源確保のため将来の増税に言及し、減税を掲げるトランプ大統領との違いを鮮明にしました。

バイデン氏のこの政策は明らかに間違いです。来年経済がコロナ以前に戻っていることは考えられず、このタイミングで増税を公表するのは、いかがなものかと思います。

総じて、経済政策に関してはトランプ氏のほうがまともであり、バイデン氏は疑問符がつきます。トランプ氏は、バイデン氏の経済対策の間違いを公開討論会で指摘するのは間違いないです。そうして、そのときには米国雇用が改善している可能性が大です。

私は、バイデン氏が増税を主張した時点で、大統領の目は消えたと思います。

さて、日本に目を転じると、トランプ氏のように雇用を重大視する考え方をする政治家や官僚はほとんどいません。自民党の中でも理解しているのは、安倍総理、菅官房長官と、その他ごく少数に過ぎません。野党にも理解している人はごく少数の例外を除いてほんの数人しかいません。

日本の「緊縮馬鹿」と極悪組織財務省は、減税などの積極財政を大々的にすると財政破綻するとか、久しくマイナス金利の国債を発行すると国債が暴落するなどの増税のための屁理屈を叫ぶのはやめるべきです。本当に、日本ではマンデル・フレミングモデルに基づいた、経済対策をいつできるようになるのか、暗澹たる気持ちになります。

トランプに倣い、必要とあらば国債を大量発行して「日銀に大量購入(=通貨の流通拡大)」を実施できる体制を一日でもはやくつくるべきです。それは一部、第二次補正で実現されましたが、今後も必要があれば、すぐにこれが実行できるようにすべきです。

とにかく、現在の日本は、米国の現状とは違い、とにかくすぐにでも、積極財政、無制限の金融緩和を大々的に実施し、雇用を安定させ、景気を良くすべきです。その後にはじめて、日本ではまともな経済対策ができる準備が整うという、段階です。

とにかく、日本では景気対策というと、財政政策だけとか、金融緩和だけと考える人が多すぎです、マンデルフレミング効果も視野にいれで、その時々で財政政策と金融緩和の両方を考える人がほとんどいません。

ただ、以前にも述べたように、アベノミクスの金融緩和政策があったからこそ、現在の日本はコロナ禍でも踏ん張れるのです。これがなければ、今頃日本経済は風前の灯のようになっていたでしょう。

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2020年9月5日土曜日

【日本の解き方】「アベノミクス」いまだ理解せず、的外れな批判をするマスコミ 雇用やコロナ予算に威力発揮―【私の論評】菅政権が緊縮財政の転換の実現に成功すれば、安倍政権に次ぐ長期政権になり得る(゚д゚)!

 【日本の解き方】「アベノミクス」いまだ理解せず、的外れな批判をするマスコミ 雇用やコロナ予算に威力発揮

安倍首相

 安倍晋三政権で日銀のインフレ目標と金融緩和が実施されて7年以上が経過したが、「2%目標」の意味やその効果について、いまだに多くのメディアが正しく評価できない状況だ。

 日本のメディアは、アベノミクスのインフレ目標2%について、「実際に達成していないからダメだ」と論評する。しかし、これはインフレ目標の意味をキチンと理解していない薄っぺらなものだ。

 インフレ目標は、雇用(失業率)とインフレ(率)の関係を分かっていないと正しく理解できない。短期的にインフレ率が高い状況では失業率が低下し、逆に失業率が高いときはインフレ率が低下するというトレードオフ関係がある。これは、マクロ経済学の基本中の基本だ。

 いずれにしても物価と雇用は裏腹なのだが、失業率はゼロにはならず、一定以下には下がらない。一方、インフレ率はいくらでも上がる。

 こうした状況において、最低の失業率を目指すときに、金融緩和しすぎてインフレ率が高くならないように、ギリギリ許容できる水準としてインフレ目標があるのだ。

 要するに、完全雇用が達成できていれば、インフレ率が2%に達していなくても問題ではなく、それはむしろ喜ばしいことだ。政権ができるマクロ経済対策は、極論を言えば雇用の確保しかない。それができれば及第点だ。

 安倍首相は雇用政策としての金融政策を完全に理解した日本で初めての首相だ。その結果、安倍政権は失業率を引き下げ、就業者数を増やした。失業率統計は1953年から始まったが、それ以降の29の政権のうち、在任期間中に失業率を下げ、かつ就業者数を増やしたのは10政権しかない。

 その中で安倍首相は失業率を1番下げて、就業者数は佐藤栄作政権に次いで2番目に増やした。これは他の誰も実現できなかった断トツの実績だ。しかも、失業率2%前半という「完全雇用」の状態も達成できた。

 インフレ目標の導入は安倍首相の功績だが、その効果として雇用を作るとともに、財政政策と金融政策の一体化を進めることができるようになった。この点でも、安倍首相はこれを理解した初めての首相だった。

 インフレ目標の達成まで日銀で紙幣を刷って財源を作っても全く問題ないことを安倍首相は理解していたのだ。

 しかし、日本のマスコミは、「現下のコロナ対策により、借金が増え、将来世代にツケが回るのでアベノミクスの負の遺産になっている」という間違った解説をしている。インフレ目標2%に達しないからこそ、将来世代に負担をかけずに、日銀がカネを刷って、コロナ対策が可能になっているのだ。

 アベノミクス、とりわけインフレ目標の意味について、完全雇用達成を目指しつつも金融政策をふかしすぎないための歯止めであること、そしてその範囲内なら財政再建を意識する必要はないことを、いまだに日本のマスメディアが理解していない。このため、きちんとアベノミクスを評価できていないのは情けない。(元内閣参事官・嘉悦大教授)

【私の論評】菅政権が緊縮財政の転換の実現に成功すれば、安倍政権に次ぐ長期政権になり得る(゚д゚)!

第2次安倍政権は、約8年の憲政史上最長の政権となりましたが、6回の国政選挙において安倍首相率いる連立与党は国民の信任を得ることに成功しました。特に平成以降の日本の首相の在任期間が短かったことを踏まえると、日本の選挙制度では長期にわたり政権を保つことは、かなり困難と言えにもかかわらず、この偉業を達成したのです。

安倍政権に対する評価は様々でしょうが、批判はするのですが健全な政策論争を行わないように見える野党に対する国民の信頼が高まらない一方で、安倍政権が相応の実績を残して国民の期待に一定程度応え続けました。だからこそ、史上最長の政権となり得たのです。

外交面では、米国を中心とした民主主義体制の親密国との関係強化、TPP協定を実現して自由貿易推進の旗振り役になったこと等が主な成果です。それ以上に国民の支持を高めたのは、発動した経済政策によって2013年から経済状況が大きく改善したことです。

2000年代半ばの小泉政権は平成以降では数少ない長期政権でしたが、この時期も総じて経済状況改善が続きました。公務員などを除く多くの国民が市場経済のルールに直面している日本では、頻繁に選挙民によるチェックが行われるので、その政治基盤は経済政策の出来と経済状況が大きく左右しています。

第一次小泉内閣


2013年以降の経済正常化を端的に示すのは、上の高橋洋一氏の記事にもあるように、労働市場の環境改善です。コロナ禍前の2019年12月には失業率は2.2%まで低下しました。これは、1992年以来約30年ぶりの水準です。

1992年当時は、1980年代後半のバブルが崩壊してから2年が経過して経済悪化が始まっていたのですが、それでも労働市場の需給バランスがなんとか保たれ、ほぼ正常と呼べる経済状況でした。

安倍政権が始まってほどなく2014年頃から、メディアでは「人手不足」の問題が報じられていました。ただし、一部の企業が人手不足に直面している段階では、経済全体や労働市場の需要と供給のバランスが正常化しつつあるだけに過ぎません。

そして、2014年以降も失業率の低下という正常化が続き、上の高橋洋一氏の記事もあるように、2.2%と1992年以来の水準まで労働市場は改善しまはた。特に就職活動に直面する若年世代の就業環境を大きく変えまはた。

約10年前まで世間を賑わせていたブラック企業の悪評が少なくなり、転職機会が多い若年世代労働者の生活はかなり改善したことでしょう。

さらに、安倍政権になってから、自殺者数が大きく減ったことにも、労働市場の改善が大きく貢献しました。これは、このブログにも何度か掲載してきました。

安倍政権に対しては将来があまり見込めない中高年世代からの厳しい声が一定程度存在しています。ところがその一方で、将来がある若者世代の安倍政権への支持率が総じて高いのは、ある意味当然のことです。

経済環境を正常な状況に戻して国民の生活向上を実現するのが、1990年代後半からの日本の政治基盤を盤石にする最重要課題だったはずです。安倍政権において、長年実現しなかった失業率の大幅な改善がなぜ実現したのでしょうか。

経済再生の方針が掲げられても、従前の多くの政権において、政策手段の実行については経済官僚などにほとんど依存していたのが実情だったとみられます。

具体的に、基本的な経済理論が教える通り、失業率問題を改善するための手段は、上の高橋洋一氏の記事にもあるように、金融財政政策(マクロ安定化政策)をセオリー通りに実行することですが、それが不十分だったのです。この問題の本質を、安倍首相らは深く理解していたのです。

例えば、安倍政権以前の日本の金融政策は、日本銀行の内輪の理論によって、経済官僚が事実上決めていたとしか考えられません。ただ、第1次安倍政権下の2007年に行われた日本銀行による2回目の利上げに対して、安倍氏は強い疑念を抱いたとされています。

そうして、安倍氏は、デフレと経済の長期停滞が様々な経済問題をもたらし、そしてその根本原因は金融財政政策が不十分であると認識しのです。これが、いわゆるアベノミクスが大きな成果を挙げた経緯です。

安倍政権が始まって早々、それまで日本銀行が採用しなかった2%インフレを「共同目標」としてコミットさせ、その上で、日本銀行の執行部(総裁、副総裁)の人事には、従前の慣行にとらわれず、それまで日本銀行の金融政策を批判してきた人物を採用しました。

この日本銀行の政策転換は、米FRB(連邦準備理事会)をはじめとした各国の中央銀行と同様に、目標と責任を明確にするというだけのことです。

それでもこの政策転換の経済的な効果は大きいものでした。その後、2012年までの行き過ぎた円高が大きく修正され、停滞していた株式市場が上昇しました。そうして、金融緩和の効果が実態経済に浸透してデフレが和らぎました。

金融政策が一貫して緩和方向に作用して労働市場の需給バランス改善(正常化)が続き、雇用機会が増えて、多くの人の生活苦を緩和したのです。

安倍政権の最大の功績は、安倍総理が責任回避を優先し、自らの無誤謬を主張しつつ内輪の理屈で行動する官僚組織の弊害を見抜き、それを正して国民生活を改善させる責務を果たしことです。

今後、菅政権誕生となれば、安倍政権の経済政策を継承するでしょうが、妥当な政策対応が何であるのかを、安倍政権を支えてきた菅氏は深く理解しているでしょう。

これまで2%インフレ目標は実現しておらず道半ばですが、このことは、コロナ禍前においても、日本の労働市場には一段の改善余地が依然あったことを意味します。

2020年のコロナ対応のために金融財政政策の役割が一段と高まっていますが、これを徹底的に使えば、安倍政権同様に次期政権が国民の支持を得る可能性は格段に高まるでしょう。そして、安倍政権が実行しなかった緊縮財政政策の転換という、有用な政策手段が次期政権に残っていることは明白です。

菅官房長官(左)とポンペオ国務長官


安倍氏が、金融政策をセオリー通りに実行できるようにし、菅氏が次の段階で、財政政策をセオリー通りにできるようにすれば、日本は安泰です。日本経済は最近安定傾向ですが、それにしても未だに韓国よりも経済成長率が低いとか、一人あたりのGDPが韓国並というような、ありえない状況(2019年、韓国は2%成長、日本は1%以下になる見込み)を改善できると思います。

この緊縮財政の転換を実現すれば、菅政権は長期政権になるでしょう。ただし、菅氏の年齢は71歳であり、安倍総理の年齢は65歳ということもあり、安倍政権のような長期政権にはならないでしょうが、それにしても一期で終わりということではなく、それ以上の長期になる可能性が大です。

もし、菅政権が緊縮財政の転換に失敗し、さらに増税するなどのことをしてしまえば、短期の繋政権になる可能性が大きくなり、その後も緊縮財政の転換がなされなければ、自民党政権であろうと、他の政権であろと、短期政権になるのは確実です。

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2020年9月4日金曜日

米中の経済分離・政治対立は未だ序章か―【私の論評】米中はいずれ途絶する!現在米国がそれをしないのは現状では、米国側にも被害が及ぶからに過ぎない(゚д゚)!

米中の経済分離・政治対立は未だ序章か

岡崎研究所

 8月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、同紙の外交問題主任コメンテーター、ギデオン・ラックマンが、米中の分離(デカップリング)は始まったばかりであり、貿易から技術、金融分野に分離が進む中、大企業は米中の冷戦でも中立を保ちたいと思っているだろうが、それはおそらく不可能であろうとの論説を書いている。


 これまで米国は中国による米国の技術窃取などを非難してきたが、ここにきてイデオロギー面での非難を強めている。米上院は、7月21日、中国についての報告書を公表し、中国は「デジタル独裁主義」で民主主義的な価値観の弱体化を狙っていると非難した。ポンぺオ国務長官は、7月23日の演説で、習近平は破綻した全体主義のイデオロギーの真の信奉者だ、中国の共産主義による世界覇権への長年の野望を特徴づけているのは、このイデオロギーだ、と中国の共産主義自体を非難した。

 米国の対中制裁手段として、金融制裁がクローズアップされてきている。金融制裁は世界経済で中心的な役割を果たしているドルへのアクセスを封じようとするもので、すでに北朝鮮、イラン、ベネズエラなどに適用されており、特にイラン経済の締め上げに極めて有効と見られている。

 中国に対しては、当面香港と新疆の政府関係者が金融制裁の対象とされているにとどまっているが、もし中国の主要企業に課せられることになれば、その影響は計り知れない。

 過去40年間、米中の経済関係は急速に発展し、2019年には米中貿易は総額5,410億ドルに達した。何千という米国企業が中国に進出し、中国の対米投資も2016年に450億ドルに達した。これは中国が鄧小平の「改革開放」戦略に従って中国の経済発展を最優先させてきたためである。

 その間、米国をはじめとする西側諸国は、中国が経済発展をすれば市場経済化が進み、民主化すると期待した。中国が世界経済の責任ある当事者(a responsible stakeholder)になるとの期待も表明された。しかし、経済発展を遂げた中国は、習近平体制の下、共産党の指導を強化し、国内では人権と言論の弾圧、海外では南シナ海や東シナ海で見られるような一方的行動、覇権をめぐっては米国に挑戦するようになった。

 ただ、米中の経済関係は分離(デカップリング)一色ではない。米国の電気自動車メーカーのテスラが上海に工場を建設して中国に進出し、GMも合弁の拡大を図っている。4月に行われた在中米国商工会議所の調査では、在中国の米国企業の多くが中国での生産とサプライチェーンの維持を続ける意向であるとのことである。

 しかし、全体としてみれば、米中が過去40年間の和解の状態から急速に分離の方向に進んでいることは間違いない。ラックマンの論説は、グローバル化と米中の和解の上に築かれてきた過去40年の世界が急速に消えつつあると言っているが、過剰な表現とは思えない。

【私の論評】米中はいずれ途絶する!現在米国がそれをしないのは現状では、米国側にも被害が及ぶからに過ぎない(゚д゚)!

2020年9月2日、米華字メディア・多維新聞は、米中関係の悪化で中国企業3つのことを最も恐れているとする記事を掲載しました。

米華字メディア・多維新聞のサイト


記事は、11月3日に行われる米国の大統領選で、トランプ氏とバイデン氏のどちらが勝ったとしても米中関係に大きな変化はないと分析。英BBCの報道を引用して「中国の企業家たちはバイデン氏の方が良いと考えているが、いずれにしても米国の対中強硬姿勢が変わることを期待してはおらず、3つの心配事がある」としました。

その一つは、「米中デカップリング」。「トランプ大統領は『中国とビジネスをしなくてもよい、米中貿易協定に意味はない』と何度も述べている。実際、トランプ大統領がTikTokを米国企業へ売却するよう求めていることは、その一例だ。サプライチェーンから中国企業を外す試みから米国の中国企業を上場廃止させることまで、さまざまな方法で中国を攻撃している」と指摘した。

二つ目は、「米国市場からの撤退」。記事は「トランプ米政権は米中金融戦を始めており、米国で上場する中国企業の監査基準を厳格化し、2022年1月までに基準を満たせなければ上場廃止とする方針を示した」と説明した上で、「この影響はすでに米国で上場を予定していた中国企業に出ており、アリババ傘下の金融会社アントが、米国ではなく香港と上海で上場したのはその一例。他の中国企業もこの流れに続く可能性がある」と予想した。

三つ目は、「脱グローバル化」。記事は「グローバル化の最大の受益者は中国だった。しかし、トランプ大統領はグローバル化で中国に食いぶちを奪われたと非難している。トランプ政権の誕生以降、脱グローバル化がトレンドとなっているようで、これは大統領選終了後も続くだろう」とした。

記事は「グローバル化によって世界は安全になった。ビジネスをするにあたり、相手とけんかをしたいとは思わず、少なくとも公には衝突しないからだ」とする一方、「脱グローバル化の流れにより、特にアジア企業の多くが米中の軍事衝突を懸念している。米中両国の関係リセットは、米中関係にとっても他の人々にとっても危険なことだ」と論じた。

米中経済のデカップリングというと、多くの人は上の3つのうち、最初のものだけを思い浮かべがちですが、米中デカップリグとは、この3つと、それ以上を含むと認識すべきでしょう。

最終的には科学技術の交流も、文化交流も、人の行き来も、情報の交換もほとんどなくなるでしょう。

米国は1979年の中国との国交樹立以来、懸命に経済協力を行い、民主化を促してきましたが、そうした対中関与政策は中国自身によって否定されました。

特に2001年に中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した際、加盟国は、中国が経済改革の道を歩み、市場志向の経済・貿易体制へと変貌していくことを期待していたのですが、こうした期待は実現されませんでした。

現在、中国はWTOに加盟して自由貿易の恩恵を最大限に受けているのにもかかわらず、国営企業を優遇し、海外のSNSをシャットダウンして国内の言論だけではなく、社会活動や経済活動にも多大な制限を加えています。

また、知財を盗むコピペ経済でもあります。さらには、中国大陸に進出する外資系企業に、厳しい規制を加えるだけではなく、その優越的地位を乱用して「最先端技術を渡せ」などという無理難題を吹っ掛けています。

たまりかねた米国企業の直訴が、トランプ政権に影響を与えた可能性は高いし、他の国の企業の「積年の恨み」も無視できないです。

それでも彼らが儲かっているうちはまだいいですが、利益が薄くなったり、赤字が出るようになれば、これらの企業も共産主義中国の手ごわい敵になります。

そもそも、中国のWTO加盟交渉は、極めて特殊でした。


実は、第2次世界大戦の戦勝国である民主主義中国(中華民国、台湾)が、WTOの前身であった関税貿易一般協定(GATT)の原締約国でした。しかし、1949年の共産主義中国の建国とともに中華民国が中国大陸から追放され台湾に移ったことから、1950年にGATTからの脱退を通告しています。

共産主義中国は、「台湾の1950年の脱退は無効である」との立場をとり続けていましたが、1986年、「GATT締約国としての地位の回復」を申請しました。

その後、1989年の天安門事件の影響などにより、加盟交渉は難航し、結局GATTには参加できませんでした。

やっと、2001年に、中東・カタールのドーハで開かれたWTO(GATTの流れを継承)第4回閣僚会議において中国の加盟が認められることになったのですから、15年間も交渉したことになります。

この交渉では、「いつかは共産主義中国も民主主義国家になる」という甘い期待を持っていた米国の後押しも受けました。

ところが、その後の中国共産党の後押しを受けた国営企業などによる不公正貿易の拡大や、知財だけでなく大量の軍事機密を盗み取る行為に米国民の堪忍袋の尾が切れたことを敏感に察知して、誕生したのがトランプ政権です。

米国の識者たちの多くは、共産主義中国に対して「恩をあだで返された」と感じています。

したがって、貿易戦争・第2次冷戦など「共産主義中国にやさしくない」政策は、トランプ氏の政治信条というよりも「米国の民意」であり、トランプ氏は民意を先読みし、素早くかつ大胆に行動しているだけに過ぎないのです。したがって、ビジネスマンのトランプ大統領は、利害関係さえ一致すれば、共産主義中国とも「ディ―ル」を行うことができます。

ところが、現状の米国議会は上下院とも超党派で「反中国」が政治信条という次元にまで高まりました。したがって、米国はトランプの意思とは関係なく、中国が全面降伏するまで徹底的に戦うことになるでしょう。

さらに、2013年、「資本主義は必ず滅び、社会主義は必ず勝利する」と述べた習近平総書記(国家主席)のもと中国は「一帯一路」を掲げてアジア太平洋諸国を影響下に置こうとする一方で、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海、台湾海峡、中印国境地域で挑発的で強圧的な軍事・準軍事活動を繰り広げています。

習近平

よって「過去20年間の米国による対中関与政策は『誤り(false)』」だったと、トランプ政権は総括しています。

その歴史的な総括を踏まえて、トランプ政権は、米国を含む自由主義陣営の体制を強化し、同盟国を中国から守るため、今後、「米国は、自由で開かれたルールに基づく国際秩序を弱める北京の行動には応じないし、応じるつもりもない」と明言しています。

この米中のデカップリングですが、悪いほうに考える人も多いのですが、良いこともあります。いや、世界経済にとって良いことになる可能性のほうが高いです。

FRB理事時代のベン・バーナンキが、2005年の講演「世界的貯蓄過剰とアメリカの経常収支赤字」で提「世界的貯蓄過剰2.0」を提起した。バーナンキはそこで、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えつつあることを指摘しました。リマーン・ショック後に生じている世界経済のマクロ状況は、その世界的貯蓄過剰の新段階という意味で「2.0」なのだというのです。 

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきたのです。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しません。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

ベン・バーナンキ


中国が国際市場から消えるか、あるいはWTOの規則を遵守するようになれば、世界はデフレ傾向から脱却できます。

中国においては、国営企業の多くはゾンビ企業といわれています。そのほとんどが、国営木木用であるがゆえに、国際市場経済の中で本来はとうに倒産しているはずが、政府の補助金などによってゾンビとして生きながらえ、過剰生産を繰り返しています。中国政府は、これを温存し続け、世界にデフレを撒き散らしているのです。

これが、なくなれば、世界経済はまた力強く、發展することになります。米中のデカップリングはこれを促すことになります。

デカップリングでも、中国の人口は14億人いますから、内需を拡大すれば、ある程度はやっていけます。というより、もともと内需拡大政策をとっていればよかったのです。しかし、そのためには、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現する必要があります。

これを実行すれば、多数の中間層が出来上がり、この中間層が自由に社会・経済活動を行い、国が栄えることになります。

しかし、中国はこれをせずに、個人あたりのGDPは低い状態のまま、共産党幹部とそれに連なる富裕層だけを豊かにする道を選びました。というより、多数の中間層ができあがることになれば、中国共産党は統治の正当性を失い、新たな体制にせざるを得なくなります。

それが怖くて、中国共産党は中国をまともな体制にしてこなかったのです。しかし、それは中国共産党の自分たちの都合です。世界中の国々は、中国の都合にあわせる必要はありません。

米国はこうした見方を変えないでしょうし、中国共産党も自分たちが滅びる道を選んでまで、中国の体制を変えることしません。そうなると、米中のデカップリングがあらゆる方面で進むことになります。

米国は、中国に対する金融制裁を強めつつありますが、未だ本格的なものにはなっていません。それは、なぜかといえば、現在の段階では米中のむすびつきが強くて、本格的な制裁をすれば、米国も損害を被るからです。

しかし、デカップリングがある程度進み、米中関係が希薄になれば、制裁を強くしても、中国に害が及んでも、米国には関係なくなります。

米国は、その時期をみはからって、本格的な金融制裁に踏み切ります。その他の制裁も同じです。米国に対する損害が少なくなった頃を見計らい、実行するでしょう。そうして、米中のデカップリングはすすみ、最終段階では、人的交流、文化的交流もなくなります。要するに、米国から完全に無視されることになります。

そうして、いずれ中共は、弱体化していき、国内で統治の正当性を失い、この世から消えることになります。そこまで、米国は制裁を継続するでしょう。

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2020年9月3日木曜日

タイが潜水艦購入延期、コロナで崩れた中国の目論見―【私の論評】タイは日本から潜水艦を手にいれれば、圧倒的に有利になる(゚д゚)!

タイが潜水艦購入延期、コロナで崩れた中国の目論見

日本にチャンス到来、安倍首相の置き土産を無駄にしてはならない

(北村 淳:軍事社会学者)


S-26T潜水艦の原型となる中国海軍の元型潜水艦
S-26T潜水艦の原型となる中国海軍の元型潜水艦

 タイ政府は中国からの潜水艦輸入調達を、少なくとも1年間は棚上げにする決定を下した模様である。安倍首相が門戸を開いた「日本から国際社会に向けての戦略的兵器輸出」にとって、好機到来である。国際社会への戦略的兵器輸出によって、裾野の広い防衛関連産業が活性化し、ひいては日本経済再生の原動力の一つとなることが期待される。

兵器輸出の素人に立ちはだかった厚い壁

 かつて安倍首相はオーストラリアのアボット首相との信頼関係に基づいて、次世代潜水艦選定作業に取りかかっていたオーストラリア海軍に、「そうりゅう」型をベースとする潜水艦の売り込みを図ろうとした。

 しかし、すでに日本が参加する数年前から売り込み活動を開始していたフランスとドイツの壁は厚い上、本格的兵器輸出の経験とノウハウを全く持たない防衛省をはじめとする日本政府や日本防衛産業界は、潜水艦輸出という超大型取引の土俵に上がることすらできなかったというのが実情であった(参照:本コラム2016年4月14日「決定間近、オーストラリアは日本の潜水艦を選ぶのか」、2016年5月5日「素人には歯が立たなかった国際武器取引マーケット」)。

 今回のタイ海軍調達計画の一時的頓挫は、日本にとって潜水艦輸出再挑戦の機会となり得る事件と言えるかもしれない。

噴出した追加調達反対の声

 2017年にタイ政府は中国からの3隻の潜水艦調達を決定した。1隻目の元型S-26T潜水艦は現在中国で建造が進められ、2024年中にはタイ海軍に引き渡される予定となっている。

 2隻目、そして3隻目のS-26T潜水艦調達価格は約760億円(8月31日のドル円レート換算で)で、7年間にわたって支払われる予定となっていた。だがタイ国会の予算調査小委員会では、与党(プアタイ党)議員にも反対の立場を取る議員が存在したため、8月25日の潜水艦追加調達費決定会合において2隻目、3隻目の購入予算は僅差で可決された。すると、野党(民主党)はじめ多数の市民から潜水艦追加購入に反対する声が上がり、SNSなどを通して抗議活動は極めて強いものとなった。

 追加購入に反対したプアタイ党議員は「現時点で潜水艦追加購入を棚上げにしてもタイと中国関係に悪影響を及ぼすことはない。新型コロナウイルス対策、そして経済再生政策のほうが潜水艦調達よりもタイ国民にとって重要であることを、中国政府に納得させることができる」と述べている。

 同時に、中国からの潜水艦購入は国家間の公式契約ではなく、タイ海軍代表者と中国企業代表者が取り交わした契約であり、現在1隻の潜水艦を建造しているとはいえ、契約には引き続いて2隻目そしてそれ以上を購入しなければならないという取り決めはなされていない、とも指摘した。

場合によっては一時中断ではなく中止

 タイ海軍首脳は、このような指摘に対して、事実を歪曲していると反論した。そして、是が非でも少なくとも3隻の近代的潜水艦を手にしたいタイ海軍側は「タイ国防のために強力な潜水艦戦力は必要不可欠である」と、プラユット政権や与野党、そして多くの国民に対して、潜水艦購入調達の重要性を強調している。また「潜水艦調達は海軍戦略上の要請であり、政争の具にすべきではない」とも力説している。

 タイ政府当局も、潜水艦建造契約は政府間の契約であるとの立場を確認したものの、「新型コロナウイルス感染拡大によってタイ史上最悪と言われるほどの大打撃を受けているタイ経済の再建と、新型コロナ対策を優先的に推し進めよ」との世論や野党、そして一部与党の声に耳を貸さないわけにはいかなくなり、この時期における潜水艦の追加調達費計上に躊躇する姿勢が見え始めた。

 結局、プラユット・チェンオチャ首相(兼国防相、退役陸軍大将)が自らタイ海軍に対して、現時点での潜水艦追加調達要求を取り下げるよう説得し、タイ海軍としても2021年度予算における潜水艦追加調達費要求額をゼロとしたという。

 これによって、少なくとも1年間はタイ海軍による2隻目、3隻目の中国製S-26T潜水艦の調達計画は中断することとなった。そして、潜水艦追加調達予定額とほぼ同額が新型コロナウイルス感染に伴う経済再建策に対する予算として確保されたとのことである。

 7年間分割の潜水艦追加調達費とほぼ同額が緊急経済再建策に投入されるとなると、場合によってはS-26Tの追加調達は1年間の中断ではなく中止に追い込まれる可能性もあると考えられる。

安倍首相の置き土産を無駄にするな

 米国のオバマ政権は、タイで軍人政権が発足したことに反発して、それまで密接であった米軍とタイ軍の関係を弱体化させる政策を打ち出した。その状況を好機と捉えた中国政府は、タイとの軍事的関係を構築するため、タイ軍当局に対して戦闘車両の売り込みや潜水艦を含む軍艦の売り込みなどを強烈に推し進めた。その結果、タイ軍・政府当局は中国からの潜水艦や戦車の調達に踏み切ったという経緯がある(本コラム2015年7月2日「米国に衝撃、タイが中国から潜水艦を購入へ」、2016年7月14日「潜水艦3隻購入で中国に取り込まれるタイ海軍」)。

 それに対して、タイ軍との良好な関係を維持することの戦略的重要性を熟知していた米軍関係者たちは、オバマ政権がタイ軍事政権を冷たくあしらう姿勢を強く批判していた。現在、オバマ政権と違ってトランプ政権は、経済的のみならず軍事的にも対中国包囲網を構築しようとしている。したがって、アメリカとしては中国に取り込まれつつあるタイ軍を自らの陣営に引き戻す必要がある。

 そのための一手が、中国製潜水艦調達計画を頓挫させて、元型S-26T潜水艦2隻に取って代わる潜水艦をタイ海軍に供給することである。

 しかしながら、アメリカは原子力潜水艦しか建造することができず、タイ海軍に供給する潜水艦を建造することはできない。

 そこで出番となるのが、世界的にも高水準の潜水艦建造企業を2社も擁する日本である。

 日本メーカーの潜水艦は、S-26Tより高性能で世界中の海軍関係者から高い評価を受けている。タイ海軍が是が非でも欲しい高性能潜水艦を、日本政府が中国よりも好条件を提示して、2隻といわず4隻、そして6隻を供与するとの交渉を開始すれば、1隻のS-26Tという高い月謝を払ってしまったタイ海軍、そしてタイ政府が日本から調達する方針に転換する可能性がないわけではない。

 もちろん、中国側がそう簡単にタイ海軍への追加輸出を諦めることなどあり得ない。そして、タイでの好機に乗じて、韓国、フランス、ドイツ、スウェーデン、そしてロシアなども、すでに売り込み工作を開始しているかもしれない。

 日本政府はその競争に打ち勝つ覚悟を決め、安倍首相による置き土産ともなる「潜水艦の輸出」という防衛装備移転三原則の具体的推進を今度こそ成功させなければならない。

【私の論評】タイは日本から潜水艦を手にいれれば、圧倒的に有利になる(゚д゚)!

タイ王国海軍の空母チャクリ・ナルエベト


タイが中国から購入す予定の潜水艦は、原潜ではなく、非大気依存推進(AIP)機関を用いたものです。

原潜と通常型の潜水艦を比較すると、原潜は燃料として原子力を用いますので、一度潜水艦に原子炉を搭載すると、潜水艦の寿命が来るまで燃料を補給する必要はありません。

ただし、原潜といえでも、現状では乗員がいなければ、航行できないので、燃料補給は必要はないものの、水や食糧の補給と、交代要員を乗せるために、いずれかの港に定期的に入港しなけれぱなりません。ただし、燃料の補給は必要がないので、港に入港する頻度は原潜のほうが低いです。

さらに、通常動力潜水艦は、原子力潜水艦のように艦内で酸素を発生させることができません。また、真水の使用にも制限があるといいます。原子炉を持たないため、使ったバッテリーの充電や換気などをする目的で、定期的に海面に浮上する必要もあります。

このように、一見すると原子力潜水艦に劣るように思えるかもしれない通常動力潜水艦ですが、実は原子力潜水艦に勝る長所があります。1隻あたりの調達価格や放射性廃棄物の処理問題などもありますが、なによりもその「静粛性」です。

原子力潜水艦は、長期間に渡って潜航し続けることができますが、難点があります。それは「うるさい」ということです。原子炉で発生させた蒸気を使ってタービンを回し、その力でプロペラ軸を回しますが、この時に使う減速歯車が騒音の原因といわれています。タービン自体は高速で回転させるほうが効率も良いのですが、そのまま海中でプロペラを回転させるとさらなる騒音を発生させるために、減速歯車を使ってプロペラ軸に伝わる回転数を落とす必要があります。

ほかにも、炉心冷却材を循環させるためのポンプも大きな騒音を発生さるといいます。このポンプは静かな物を採用することによって、かつてに比べ騒音レベルは下がってきているといいますが、頻繁に原子炉の停止・再稼動をさせることが難しい原子力潜水艦においては、基本的にこのポンプの動きを止めることはできません。

093B 核潜水艦(SSN)

対する通常動力潜水艦は、原子力潜水艦が不得意とする静粛性に優れています。なぜならば、ディーゼル機関等を止めてバッテリー駆動に切り替えることによって、艦内で発生させる音をほぼ皆無にすることができるからです。この場合、唯一の音の発生源は乗員の発する音なので、例えば海上自衛隊の潜水艦の艦内には多くの場所に絨毯が敷かれ、艦内を歩く隊員の足音すら発生させないような工夫が施されています。

海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦には、従来タイが中国から購入することを予定した「AIP(非大気依存推進)機関」が搭載されていました。これは簡単にいうと、ヘリウムガスを加熱、冷却して得られる体積の変化を利用し動力を得るという装置です。これにより、従来のバッテリー駆動と比べて潜航時間が延びたといいます。

ただし、このAIP機関はあくまでもディーゼル機関の補助装置なので、AIP機関をメインにずっと行動し続けることはありません。ではどのような時に使うのでしょうか。それは、海底深くに身を潜めている時です。

海上自衛隊は、敵潜水艦の行動を探知するべく、日本の近海に潜んでいます。もし、敵潜水艦が近づいてきた場合、ディーゼル機関を停止させて、補助動力装置に切り替えます。ここで海上自衛隊の潜水艦は、ほぼ無音状態になります。視界も電波もさえぎられる水中、敵は音を探知しながら進んできますが、音を発しないこちらの姿を探知することは、ほとんどできないと言います。まるで、ニンジャの様にその姿を隠すことができるのが、通常動力潜水艦艦の強みです。

専守防衛を掲げる日本の場合、原子力潜水艦よりも通常動力潜水艦の方が圧倒的に有利に戦うことができるのです。タイ海軍でも、通常型潜水艦の方が圧倒的に有利なので、通常型潜水艦の購入を目指したのでしょう。

呉の潜水艦基地に向かう日本のそうりゅう型潜水艦

兵庫県神戸市の三菱重工業神戸工場で今年の3月5日、海上自衛隊の新潜水艦「おうりゅう」の引き渡し式が開かれました。海自の主力潜水艦「そうりゅう型」の11番艦で、潜水艦の推進力としてリチウムイオン蓄電池搭載の通常動力型潜水艦としては世界初めてとなります。

そうりゅう型11番艦のおうりゅうからは、前述のスターリングエンジンを廃止した。鉛電池に替えて、GSユアサが開発したリチウムイオン蓄電池を搭載する。

リチウムイオン電池技術を採用し、ディーゼルエンジンを使う通常動力型潜水艦は、実は日本が世界で初めてだ。この点で、おうりゅうは日本の最新技術の結晶と言える。リチウムイオン電池の蓄電量は鉛酸電池の2倍以上といわれ、水中航行能力が高くなり、潜航時間も大幅に延ばすことができる。さらに忘れてならないのは、静寂性も増すということです。

この静寂性は世界でも群を抜いているというか、おそらく世界一です。ただし、潜水艦に関しては、世界各国が詳しいことは秘密にしているため公式の資料からは伺い知ることはできませんが、日本の工作技術が世界一ということや、リチュウムイオン電池で推進することから、ほとんど無音であり、おそらく世界で最も静寂性に優れていると言って良いでしょう。

さらに、中国の対潜哨戒能力が低いこともあいまって、日本の潜水艦を中国側は探知することができません。これは、何を意味するかといえば、日本の潜水艦は中国に探知されることなく、あらゆる海域を航行でき、いつでも中国の艦艇を撃沈できるということです。

実際、日米の潜水艦は、模擬訓練で何度も中国の空母「遼寧」をはじめあらゆる艦艇を模擬攻撃して、撃沈に成功しているといわれています。

一方中国の通常潜水艦は、日本の通常潜水艦と比較すると、はるかに静寂性で劣っているため日本側にすぐに探知されてしまいます。

たとえば、今年6月、奄美大島周辺の接続水域を中国の潜水艦が航行という出来事がありましたが、これは日本側が探知できたからこそ、このような発表をしたということです。

私ははおらくこの時の中国の潜水艦は、中国では静寂性にすくれた最新の通常型だったのだと思います。中国側としては、意図的に日本の接続海域を航行させて、日本側が探知できるのか、探知できるとしてどのタイミングで探知できるのかなど、いろいろ試したのでしょう。

その結果、すぐに発見されてしまったということです。しかし、発見できるということは、日本側が優位にたっているということです。発見できなければ、大変なことです。潜水艦を探知した情報に関しては、探知能力にもかかわることなので、通常は発表しないことが多いのですが、探知能力に自信のある日本側はあえて発表したのでしょう。

日本の潜水艦は、中国に探知されないことから、南シナ海や東シナ海の海域を自由に航行していることでしよう。もしかすると台湾海峡や黄海も航行してるかもしれません。ただし、これは軍事機密なので、たとえそうであったにしても公表はされません。しかし、中国側がこれを発見した場合は、少なくとも人民日報などでは報道されるはずですが、未だにそのような発表はありません。

やはり、中国の対潜哨戒能力は未だに劣っているということだと思います。尖閣付近で中国艦艇が傍若無人な真似を繰り返していますが、未だに尖閣を奪取できないでいるのは、このような事情があるからと思います。中国が尖閣を奪取しようとすると、東シナ海に潜んでいる日本の潜水艦から攻撃を受ける可能性がありますし、中国にはそれを排除する術はないからです。

このようなことを考えると、やはりタイは日本から潜水艦を購入すべきでしょう。もしそうなれば、タイは中国側から補足されない潜水艦を手にいれることになり、軍事バランスが崩れ
タイにとってかなり有利になります。中国だけでなく、周辺諸国ににらみを利かすことができます。

タイが中国の潜水艦を購入した場合は、中国の潜水艦に装備されている電子機器には、バックドアが隠されていて、様々な情報を中国側に伝えるだけではなく、タイが中国に敵対する行動をとった場合には、電子機器を無効にされたり、潜水艦自体に何らかの損傷を与え、航行できなくなるすることさえ、想定されます。

さらには、現在は米中冷戦の真っ只中です。そのような最中には、中国に利するような行動をとれば、米国に制裁されかねません。そのようなことは、タイも避けたいでしょう。

おうりゅうに続く、そうりゅう型の最終艦の12番艦となるのが「とうりゅう」です。2019年11月6日にその命名・進水式が川崎重工業神戸造船所で行われました。

海上自衛隊は、そうりゅう型の後継艦として、今後は新型のソナーシステムを装備して探知能力などが向上した新型潜水艦(3000トン型)を配備します。海上幕僚監部広報室によると、三菱重工業神戸造船所でその1番艦、川崎重工業神戸造船所でその2番艦がそれぞれすでに建造中です。2019年度予算ではその3番艦建造費として698億円、2020年度予算ではその4番艦建造費として702億円がそれぞれ計上されています。

日本の潜水艦は三菱重工業神戸造船所と川崎重工業神戸造船所が隔年で交互に建造しています。

海自は、おうりゅうの就役で護衛艦48隻、潜水艦20隻の体制を整えたことになります。そうして、2018年12月に閣議決定された新たな防衛大綱に基づき、これを護衛艦54隻、潜水艦22隻に増勢することにしています。海自7隻目のイージス艦となる護衛艦「まや」は今年3月19日に中に就役しました。

米国が通常型潜水艦を作らなくなってから、日本の通常型潜水艦は、世界一の水準になったといえるでしょう。ただし、この潜水艦は日本の生命線でもあります。中国が未だ尖閣を奪取できないことや、未だ第二・第三列島線はおろか、第一列島線すら確保できないのは、日本の潜水艦の優位性ならびに日本の哨戒能力の優位性が保たれているからです。この優位性はこれからも、死守すべきです。

タイが要望すれば、日本は日本の安全保障のためにも、タイに潜水艦を売るべきとは思いますが、航行方法や他の操艦方法は、教えるにしても、潜水艦の根幹部部はブラックボックスにしておき、航行に関わるような重要な部分の修理は日本側が行うようにすべきです。その条件のもとで、タイに販売すべものと思います。

なお、日本が潜水艦をタイに販売できれば、財政が潤うなどと考える人もいるかもしれませんが、コロナ禍で経済が停滞している現在、日本がまともな減税など、まともな財政政策や、制限なしの金融緩和策等の経済政策をとれば、タイに潜水艦を数隻売るよりも、はるかに経済が潤います。

潜水艦を数席売ったくらいでは、日本の経済の規模からいえば、焼け石に水にすぎません。やはり、潜水艦を売る売らないは、日本の安全保障を第一に考えるべきです。タイに日本の潜水艦が配備されれば、タイだけではなく日本にとっても安全保障上好ましいというなら、販売すべきです。

コロナ以前に、アウトバウンド消費が脚光を浴びていましたが、それは全体からみれば、ほんのわずかのものでした。わずかのアウトバウンドをあてにして、中国などに媚びを売るようなまねはすべきではありません。潜水艦のタイへの販売も同じことです。

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2020年9月2日水曜日

台湾接近の米国がサラミ戦術で打砕く「一つの中国」―【私の論評】米国のサラミ戦術のサラミは、中華サラミよりもぶ厚い(゚д゚)!

台湾接近の米国がサラミ戦術で打砕く「一つの中国」

じわじわと台湾支援を増強するトランプ政権

台湾を訪問し中華民国総統府でスピーチする米国の
                                       アレックス・アザー厚生長官(2020年8月10日)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 米国政府の台湾への接近が顕著となってきた。台湾への武器売却、米国政府閣僚の訪問、米台自由貿易構想の前進など、トランプ政権や議会の最近の措置はいずれも中国政府の激しい反発を招いている。

 米国の一連のこうした動きは、米中関係の基本を長年、規制してきた「一つの中国」の原則を放棄する展望さえもにじませる。米国はついに「一つの中国」原則を切り捨てるのだろうか。

「一つの中国」原則に縛られないトランプ政権

 米中両国は1979年の国交回復以来、米国は中国側の「一つの中国」原則を支持する立場をとってきた。米国は中華人民共和国を「中国の唯一の合法政権とみなす」という趣旨である。「一つの中国」原則に厳密に従えば、台湾、つまり中華民国は中華人民共和国の一省に過ぎず、政府扱いはできないことになる。米国の歴代政権はこの原則をほぼ忠実に守ってきた。

 しかしトランプ大統領は、就任直前に台湾の蔡英文総統と直接会話した際、「中国が貿易面での合意を守らない以上、米国がなぜ『一つの中国』の原則に縛られねばならないのか」という疑問を呈した。また、それ以降の一連の公式声明でも、トランプ政権は「我々が解釈する『一つの中国』原則」という表現で、同原則に対する米側の解釈は中国側とは必ずしも同一ではないという点を明解にしてきた。

 実際にトランプ政権の最近の言動は、中国側の唱える「一つの中国」原則に明らかに違反しかねない点が多くなった。たとえば、最近米国は以下のような動きを見せている。いずれも中国政府が反対する動きである。

【米国の政府高官が台湾を訪問】米国政府のアレックス・アザー厚生長官は8月に台湾を訪問して蔡英文総統と会談した。この閣僚訪問は、トランプ大統領が議会の法案可決を受けて施行した「台湾旅行法」の結果でもあった。

【台湾に武器を売却】中国政府の全面的な反対を押し切り、トランプ政権は昨年(2019年)から今年にかけてF16戦闘機66機、エイブラムス型戦車108台を台湾に売却した。さらに高性能の魚雷1億8000万ドル相当の売却を決めている。

【台湾との自由貿易協定に前向きな姿勢】米台間の自由貿易協定は台湾側が年来、希望してきたが、米側の歴代政権は中国への懸念などから対応しなかった。この構想にトランプ政権は前向きな姿勢をみせるようになった。とくに現在の米国議会には協定を推進する声が強くなった。

【米軍が台湾支援へ】米国海軍の艦艇が台湾海峡を頻繁に航行することにより、中国軍への抑止の姿勢を明示するようになった。米空軍の戦闘機なども台湾領空周辺での飛行頻度を増して、中国空軍への牽制を示すようになった。

【米国政府高官が台湾支援を表明】トランプ政権のポンペオ国務長官やポッティンジャー大統領補佐官が台湾の民主主義を礼賛し、米台連帯を強調するようになった。すでに辞任したボルトン大統領補佐官は政権外で、台湾政府を外交承認することまで唱えている。

【米国の「台湾防衛」明確化への動き】米国政府は「台湾関係法」により、防衛用の兵器を売却する形で台湾防衛を支援してきた。だが台湾が中国から武力攻撃を受けた際の対応は明確に定めていない。その曖昧な支援を「確実な台湾防衛支援」へ変えようという提案がトランプ政権内外で高まってきた。

 以上のような動きは、トランプ政権が議会の了解を得て長年の「一つの中国」原則を放棄する方向へと進む可能性を示しているともいえる。

 トランプ政権はまだその種の決定的な動きをとってはいない。しかし現在の米国では、とくに中国政府が香港に関する「一国二制度」の国際誓約を破ったことへの非難が高まっている。その動きがトランプ政権の台湾政策変更という可能性を生み出しつつあるというわけだ。

米国が実行している「サラミ戦術」

 トランプ政権の「一つの中国」原則への現在の態度について、中国の政治動向や米中関係の動きに詳しい「戦略予算評価センター(CSBA)」のトシ・ヨシハラ上級研究員は次のような分析を語っている。

 「現在、トランプ政権は台湾政策として『一つの中国』原則をサラミのように切り削いでいるといえる。その原則の実質を少しずつ切り落として、なくしていこうというわけだ。ただし一気に現行の政策を除去するわけではないので、中国は決定的な対抗措置をとることはできない。しかし米側の除去策は、少しずつにせよ中国側に不満やいらだちを生じさせるに足る動きだといえる。だからこのサラミ戦術はきわめて有効だろう」

 ヨシハラ氏の以上の見解は、控えめながら、トランプ政権がもはや従来の「一つの中国」政策は守らず、台湾への支援を着実に増していく流れを明示したといえる。米台関係、そして米中関係はそれぞれの根幹部分で決定的に変化していくことになりそうだ。

【私の論評】米国のサラミ戦術のサラミは、中華サラミよりもぶ厚い(゚д゚)!

中国の得意とするサラミ戦術とはどのようなものなのか、ここで振り返っておきます。これについては、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国、印北東州で道路建設 インド側反発「インフラ整備で領有権主張する常套手段」―【私の論評】中華サラミ戦術には逆サラミ戦術で対抗せよ(゚д゚)!

この記事よりサラミ戦術の事例を引用します。

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むかしむかし、小さな駄菓子屋を一人できりもりしているばあさんがいました。その駄菓子屋は広い道路に面していて近くに中学校もあったのですが、売り上げは思わしくなくばあさんは質素な暮らしを強いられていました。 
その中学校は田舎の中学校のため、バスで通学している学生も多かったのです。バス停はばあさんの店から十メートルほど離れたところにあり、登下校の時間になると学生たちで賑わっています。あの学生たちが店に来てくれれば……。そう考えたばあさんは一計を案じました。その日から、毎日夜になるとこっそりとバス停を店の方向に動かしたのです。バレないように、一日に五ミリずつ。 
そして数年後。バス停はばあさんの店の真ん前に移動し、店はバス待ちの学生たちで賑わうようになった、といいます。
この話は、本当なのかどうかはわかりませんが、何かを一気に動かすと多くの人々に気付かれるのですが毎日少しずつ動かしていると意外とバレないものなのです。カツラも同じです。ある日突然、急激に髪の毛が増えるとこれは絶対にカツラだとバレます。だから少しずつ植毛していき、不自然にならないように増やしていくのです。

それはともかく、この現象はやはり人間の認識能力の盲点を突いたものでしょう。大脳の空間識野は、特に急激な変化、すなわち微分情報を抽出するように働きます。それゆえ、微分量が少ない緩やかな変化は認識されにくくなっているのです。

なぜこのような働きをするようになったのかは、進化論で簡単に説明がつきます。ある動物の認識する外界は、動くものと動かないものに大別されます。動かないものというのは、大地・山・樹木などです。これらはその動物にとって、友好的ではないが敵対的でもありません。中立なのです。ゆえに、特殊な場合をのぞいてはこれらの動かないものに注意する必要はないです。

これに対して動くものは要注意です。動くものは、さらに三種類に分けられます。すなわち、敵・餌・同種の異性です。敵からは逃げねばならぬし、餌と同種の異性は追いかけねばならないです。これらを素早く発見することは、生きていくためには重要な能力です。したがって、動くもの、すなわち微分量が大きいものを認識する能力が進化の過程で身についたのでしょう。



これと、似たような話で、「サラミ戦術」というのがあります。サラミ戦術(サラミせんじゅつ、ハンガリー語: szalámitaktika [ˈsɒlɑ̈ːmitɒktikɒ] サラーミタクティカ)とは、敵対する勢力を殲滅または懐柔によって少しずつ滅ぼしていく分割統治の手法です。 別名サラミ・スライス戦略、サラミ・スライシング戦略ともいわれます。

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中国のサラミ戦術というと、やはり南シナ海の中国による違法支配が筆頭にあげられるでしょう。中国は、1980年代から最初に南シナ海の領有権を主張し、その後に南シナ海の浅瀬に、ほんの数人しか住めないような掘っ立て小屋を建てました。そうして、その掘っ立て小屋に交代で、中国人を住まわせ、実行支配の準備にとりかかりました。

その頃の中国は、現在のように大規模な埋め立ての技術もありませんでした。だからできるのはそのくらいだったのです。それでも、中国は周辺諸国の様子を探りつつ、掘っ立て小屋の数を増やすとか、掘っ建て小屋の規模を大きくしていきました。

この間、無論フイリピンやベトナムなどの南シナ海の周辺国は、これに抗議をしたのですが、中国は艦艇を送り込むなどして南シナ海の掘っ立て小屋を守り抜きました。

南シナ海の中国構築物

そうして、このくらいの規模だと、米国をはじめとする先進国も、これに強く非難をしても、軍事的な手段を講じるということはしませんでした。先進国としては、中国が豊かになれば、自分たちと似た体制になり、もっとまともになるだろうと考えこれを放置しました。それに中国の大きな市場に目がくらみ、中国と大きなビジネスができることに期待し、南シナ海の中国の無法を放置しました。

その後も中国は南シナ海への進出を継続し、最初は掘っ立て小屋だった構築物がだんだんと手のこんだものになっていきました。

そうして、2015年5月21日、米CNNテレビは南シナ海上空を飛行する米海軍P8哨戒機に同乗取材して中国によるサンゴ礁(環礁)埋め立ての様子を放映し、全世界の注目を集めました。

これは9日後、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)における米国防長官による埋め立て即時中止要求と中国人民解放軍参謀副総長の強固な反論の応酬へと続き、米中関係緊張に発展しました。

また6月8日の主要7カ国首脳会議(G7サミット)首脳宣言には「威嚇、強制又は武力の行使、大規模な埋立てを含む現状の変更を試みるいかなる一方的行動にも強く反対」という文言が盛り込まれ、本件に対する国際社会の厳しい反応を中国に突き付けました。

この頃になってはじめて、米国などの世界の国々が、中国の南シナ海の違法支配に関して、脅威を感じるようになりました。

2016年には、国際司法裁判所が中国の南シナ海支配には、何の根拠もないと裁定しました。しかし、その後も中国は、退く気配をみせず、埋めたてた緩衝を軍事基地にするなどことを強行しました。

さて、冒頭の記事では、米国がこのサラミ戦術を取り始めて、成功していることを指摘しています。そうして、これは有効だと思います。

先にあげたこのブログの記事でも、「逆サラミ戦術」を提唱しました。この記事より、「逆サラミ戦術」に相当する部分を以下に引用します。
私はサラミ戦略に対しては、「逆サラミ戦略」という戦略を採用すべきだと思います。 それは、さきほどのバス停を動かした婆さんのたとえでいえば、バス停が動いたと認識した段階で、それを元に戻すのです。元に戻すにしても、いきなり元の位置に戻すというのではなく、これも一度に5mm程度を戻すのです。 
これは、婆さんが毎日5mm動かしているとすると、ある時点で、婆さんが日々5mm移動しても、バス停は全く動かなくなることを意味します。そうすると婆さんは、動かしても無駄だと思うようになり、諦めてしまいます。 
諦めた後でも、毎日5mmずつ動かすのです。そうして、元の場所に戻ったら動かすのをやめるのです。このやり方を「逆サラミ戦略」とでも名付けたいと思います。
このように実行していけば、中国も米国が台湾を支援することに非難はするでしょうが、逆サラミ的にやられると、非難はしてもすぐに直接何らかの手段に打って出るということはできないでしょう。何か極端なことをすれば、世界中の国々が中国を避難し、米国は、さらに中国に対する制裁を強化することになるだけでしょう。

米国は、これからもサラミ戦術的に、台湾を支援したり、南シナ海の周辺国を支援していくことでしょう。

ただ、米国と中国のサラミ戦術には違いもあります。中国が南シナ海でサラミ戦術を始めたときには、軍事力や経済力や技術力でも、米国にはおよびもつきませんてじた。だから、雄大な戦略はあったにしても、戦術はサラミ戦術を実行するしかなかったのです。

そのサラミ戦術も、毎年ほんのわずかの、本当に薄い透けて裏がみえてしまうようなペラペラのサラミで実行するしかなかったのです。だかこそ、南シナ海を現在のレベルにもっていくのに何十年もかかったのです。

しかし、米国は違います。今でも米国は世界唯一の超大国であり、軍事力は中国などより群を抜いて世界一であり、金融支配力でも群を抜いて世界一であり、その他の技術等も世界一です。

だから、同じサラミ戦術をとるにしても、薄い透けて裏がみえてしまうようなペラペラのサラミで実行する必要はなく、かなり厚めのサラミスライスで実行することができます。

中国が南シナ海を今のレベルまで、違法支配するまでに必要とした年月は、数十年でしたが、米国がこれを無効化するには、数年から長くて10年で十分でしょう。

中国が南シナ海の違法支配を現在のレベルまでに持っていったサラミスライスは数も種類も限られたたので、数十年もかかったのですが、関税や、金融制裁、軍事力、様々な技術の遮断、その他、ありとあらゆる種類の分厚いサラミスライスを駆使できます。

特に軍事力では、日米に潜水艦はステルス性に優れ、中国側に発見されずに、南シナ海の海を自由に航行できますが、中国の潜水艦はステルス性でかなり劣るので、日米はこれを簡単に補足できます。米国などの潜水艦で、南シナ海の中国の緩衝埋立地を包囲してしまえば、中国は手も足も出ません。

南シナ海で、米国は中国に負けるなどと、あらゆる屁理屈をつけて述べている軍事評論家もいますが、そのような人に、「米国は南シナ海では潜水艦を運用しないのですか」と質問してみましたが、未だに返事がかえってきません。私は、米国は空母なみの破壊力のある潜水艦を米軍が使わないということは、ありえないと思います。

そもそも、米国の戦略化ルトワック氏は、中国の南シナ海の軍事基地は、象徴的なものに過ぎず、米国が本気になれば、5分で吹き飛ばせるさ指摘しています。

台湾も、南シナ海や、東シナ海でも、中国は米国の分厚いサラミ戦術で、いずれ八方塞がりになるでしょう。

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