2016年1月7日木曜日

北“水爆実験北“水爆実験”で中韓の混乱に拍車 外交も経済も大打撃―【私の論評】経済だけ考えると、日本の最大の地政学的リスクは財務省?


習近平(左)と朴槿恵(右)

北朝鮮の核実験は、隣接する中国の習近平政権と韓国の朴槿恵政権にも大打撃となった。北の暴走を止められなかった外交的な失態は経済にも波及し、7日午前の中国株式市場は暴落、取引が全面停止となった。韓国ではウォンが対ドルで急落するなど「水爆ショック」が生じている。

中国の主要銘柄で構成するCSI300指数は取引開始直後から売り浴びせられ、5%下落で上海、深●(=土へんに川)両取引所の売買が15分間停止となる「サーキット・ブレーカー」が発動。さらに7%を超えて同日の取引は打ち切られた。同措置の発動は4日に続いて2度目。

6日の香港オフショア市場では人民元が11年3月以来約5年ぶりの安値をつけるなど「中国売り」が止まらない。経済失速に見舞われるなか、地政学リスクが拡大すれば景気がさらに悪化するとの懸念が強まった。

一方、韓国では6日の外国為替市場で、ウォンが対ドルで一時、約4カ月ぶりに1ドル=1200ウォンを突破した。前日のウォン安で当局はドル買い介入を行ったとみられるが、「韓国売り」も加速している。

 国際社会で北の「後見人」としての役割を担ってきた中国の制止を無視する形で金正恩第1書記は核実験を強行した。

半島情勢に詳しい龍谷大の李相哲教授(社会学)は「北朝鮮が崩壊すれば、中国にとっては経済に集中できなくなるほどの影響が出てくる。そのため、北からは『本気で潰しにこない』と足元を見られている。習政権は完全にメンツを潰された。中国の知識層の中にも、北朝鮮に融和的な習政権を非難する声は多い」と解説する。

韓国が受けた衝撃も大きい。朴大統領は昨年12月31日の新年あいさつで、「対話の門は常に開き、平和統一の朝鮮半島時代に向かっていく」と発言するなど、北との融和路線に舵を切り始めたところだった。

コリア・レポートの辺真一氏は、「朴政権は完全に寝首をかかれた格好だ。何より問題なのは、今回の核実験で韓国の情報収集能力の拙劣さを改めて露呈してしまったことだ」と指摘し、こう続ける。

「韓国政府は自国民に『北の核とミサイルの脅威に関しては何の心配もいらない』と繰り返してきたが、現実は李明博(イ・ミョンバク)政権以降、2010年に哨戒艇が北の潜水艦に撃沈され、11年12月に金正日(キム・ジョンイル)総書記が死亡した情報は北の発表までつかめなかった。切腹ものの失態を続けている」

【私の論評】経済だけ考えると、日本の最大の地政学的リスクは財務省?




水爆は原爆と同じ核兵器の一つですが、爆発を起こす原理や威力が大きく異なります。起爆装置として原爆を使うため、開発には原爆を制御する能力が必要になります。

原爆は、原発の燃料としても使われるウランやプルトニウムの核分裂反応を一気に進めて爆発を引き起こします。一方、水爆は、太陽の内部で起きているのと同じ核融合反応を起こします。

水爆は、普通の水素と重さが違う重水素や三重水素(トリチウム)などの軽い原子を燃料にして、これらの原子核が融合して別の物質に変わる際に放出されるエネルギーを利用します。燃料1グラムからタンクローリー1台分の石油に相当するエネルギーを取り出せるとされ、原爆より桁違いに威力がある爆弾を作れます。旧ソ連が1960年代に開発したある水爆は、1発で広島型原爆の3千倍を超える威力があったとされます。

水爆の本体には、原爆が起爆装置として埋め込まれており、原爆の威力で燃料を瞬時に超高密度の状態に圧縮し、通常では起きにくい核融合反応を起こします。

 
さて、北朝鮮が2015年1月6日に水爆実験に成功したと発表したことについて、アーネスト米大統領報道官は同日の記者会見で、「我々の初期の分析結果は北朝鮮の主張と一致していない」と述べています。

アーネスト米大統領報道官

「過去24時間に米政府が北朝鮮の技術力や軍事力への評価を変えることは起きていない」とも発言し、否定的な見解を示しました。

韓国の情報機関・国家情報院は6日夜、国会情報委員会の所属議員に対し、地震の規模の測定から水爆ではない可能性があると説明したと報じられています。

また、日本国内では、北朝鮮が強行した核実験について、気象庁は6日、観測されたのはマグニチュード(M)5・0相当とし、過去3回の核実験で観測した地震波形と比較した結果、「規模は同程度」と推測したといいます。

今回の規模はM5・0相当でしたが、最大だった21年のM5・3より0・3小さいです。一般的にマグニチュードが0・2大きくなると地震のエネルギーは2倍になります。単純計算すれば今回の爆発エネルギーは21年の半分以下ですが、気象庁は「(震源地の距離などから)誤差もある」として、爆発の規模は過去3回の実験と同程度との見方を示しています。

いずれ、さらに調査が進み、はっきりしたことが分かるとは思いますが、それにしても今の段階でも、以上のことから、今回の水爆実験は失敗したようです。結局、北朝鮮側の糸は別として、結果として、過去の原爆実験と同様の爆発だったとみて良いようです。結局水爆の開発そのものには、未だ成功していないと見るのが妥当のようです。

それにしても、ブログ冒頭の記事のように、中韓にとっては、北朝鮮の核は頭の痛い問題だと思います。

中国にとっては、南シナ海での米国の報復、西からは第二イスラム国の脅威、国内では日発する暴動、それに加えて、北の核兵器の存在です。この核兵器、たとえ水爆はまだにしても、中国にとっては脅威です。それは、中国への貿易依存度を高めた韓国にとっても同じです。

これが、中韓ともに経済の状況が非常に悪くなっている時期だけに、北朝鮮の水爆実験は、さらなる不安材料をはっきりと目に見えるように北朝鮮側に提示されたということになります。

北朝鮮の水爆実験を伝える北側クリステル?
それに、これだけ年明けから中国の南シナ海のリスクや年頭からの株下落、北朝鮮、中東などの地政学リスクの顕在化しているのですから、日本国内では消費税増税はさらに難しくなることでしょう。

財務省がいくら増税を推進しようにも、なかなかそれができにくい状況になっています。そもそも、財務省は、海外の地政学的リスクまでコントロールすることはできません。財務省がコントロールできるのは、他の省庁や、マスコミ、政治家などに限られています。そうして、このコントロール力も昨年はかなり弱まりました。

おそらく、これらの地政学的リスクが日本の株価などに悪影響をこれからも与え続けることになれば、今年の夏あたり、やはりこのブログでも何度か掲載しているように、衆参両院同時解散、増税見送りということになりそうです。

何しろ、安倍総理が衆参同時解散と腹をくくってしまえば、解散は総理の専権事項ですから、これはもう誰にも止められません。

このブログでは、前から増税無用論を掲載してきました。無用どころか、増税をしてしまえば、財政再建はさらに難しくなだけです。無用なことを、地政学的リスクが高まる今日わざわざ実行する必要など全くありません。

地政学的リスクがあろうがなかろうが、日本国内では、財務省の増税キャンペーンに載せられた形で、10%増税をしてしまえば、とんでもないことになります。

経済だけみると日本の最大の地政学的リスクは財務省?

おそらく、安全保障を抜きにして、経済的にだけみると、よほど国際情勢が悪化しないかぎり、世界情勢の悪化による悪影響による日本経済の悪化よりも、10%増税による経済の悪化のほうが甚大だと思います。

それは、ちょうど、リーマン・ショックのとき、震源地のアメリカや、かなり直接的に影響を受けたEUが、大々的な金融緩和をしてショックからはやばやと抜けだしたにもかかわらず、日銀が金融緩和をしなかったため、日本だけが一人負け状態になって、円高・デフレがさらに深刻化したときのようになるかもしれません。

日銀があのとき金融緩和をしなかったので、私はこのブログでは、日本におけるリーマン・ショックは、日銀ショックと呼んだくらいです。

地政学的リスクが経済に悪影響を及ぼしている真っ最中に、よほど酷いインフレに見舞われてない限り、わざわざその時を狙うように増税する国などありません。日本だけが増税した場合、また日本だけが一人負けの状態に陥る可能性があります。もし、そうなったら、今度は財務省ショックと呼ぼうと思います。

経済だけ考えると、財務省が日本の最大の地政学的リスクそのものに成り果てた観があります。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

【関連記事】

北朝鮮の潜水艦数十隻が基地離脱 識別されず=韓国軍―【私の論評】中韓・北鮮の、今そこにある危機を無視して、民主党の発する無意味な質問に振り回される日本はあまりに平和すぎ(゚д゚)!

金正男氏の「世襲批判」をスクープ 東京新聞「特ダネ」記者の仕事ぶり―【私の論評】すぐれたジャーナリズムは地道な日々の積み重ねから生まれてくるものである!!

【関連図書】

生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った
パク・ヨンミ
辰巳出版
売り上げランキング: 617

総理の実力 官僚の支配 ─教科書には書かれていない「政治のルール」─
倉山 満
TAC出版 (2015-07-15)
売り上げランキング: 9,767
官愚の国 日本を不幸にする「霞が関」の正体 (祥伝社黄金文庫)
高橋 洋一
祥伝社 (2014-06-12)
売り上げランキング: 85,827









0 件のコメント:

トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有―【私の論評】トランプ政権トルコのシリア介入許容:中東地政学の新たな局面

トランプ氏「シリアでトルコが鍵握る」、強力な軍隊保有 まとめ トランプ次期大統領は、アサド政権崩壊後のシリアでトルコが鍵を握るとの見解を示した。 トルコの軍事力は「戦争で疲弊していない」とし、エルドアン大統領との良好な関係を強調した。 米国はシリア東部に約900人の部隊を駐留させ...