田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
晴れ着姿の女性が見守る中でスタートした東京株式市場 写真はブログ管理人挿入 以下同じ |
ところで世界経済、日本経済の予測もやはり難しい。昨年だけみても、イギリスのEU離脱やトランプ氏の大統領当選による世界経済へのショックをいい意味でも悪い意味でも正確に言い当てたエコノミストや経済学者はほとんどいない。それに予測が当たったとしても「まぐれ当たり」ということもある。
筆者もリーマン・ショックの後に、この種の「(世界経済危機の)まぐれ当たり」で知名度をあげた何人かのエコノミストについて、マスコミや一般の方々から意見を求められたことがある。残念ながら、「それは(運がよくて)すごいですねえ」と言うしかできなかった。本当にそう思う。常に経済を「バブル」「危機的な状況」であるといい続けて、それが数年、10年、いや20年という時間の中で「的中」しても、あまり筆者には感心するところはないからだ。
さてこのような「逆神」たちと同じかどうかは、筆者には判断がつかないのだが、現在の日本の経済政策-特に日本銀行の金融政策-を批判する人たちの中に、「金融岩石論者」とでもいうべき人たちがいる。これはなにか。
坂に岩石があり、びくともしない。だがこれをいったん動かすと、猛烈な勢いで坂を転がりだしてしまう。これと同じで、日銀がマネーをどんどん増やしても物価はまったくあがらない。しかしいったん上がりだすと、どんどん物価は上昇してハイパーインフレ(猛烈なインフレ)になってしまう、という理論である。
この金融岩石理論の主張者は実に多い。特に同じ「種族」なのだが、日本国債の岩石理論も支持者に困らない。日本の財政は危機的な状況だ、いまは国債価格が安定しているように思えても、少しだけでも国債利子率が上昇(すなわち少しだけでも国債価格が低下)すれば、あれよあれよと国債価格は暴落し、日本の財政は破綻してしまう、というものだ。このハイパーインフレと財政破綻のふたつの岩石理論は、ほとんど表裏一体化しているので、両方とも主張する人が多い。
例えば、前回この連載でも登場した朝日新聞編集委員の原真人氏の新刊『日本「一発屋」論』(朝日新書)はその典型である。安倍政権の経済政策は、金融と財政の一体化という名目での「財政ファイナンス」であり、「意図的にバブルを起こそうとする試み」である。低成長が常態になった日本経済で、日銀によってマネーでじゃぶじゃぶにする政策を行えば、バブルが生じてしまう。そしてバブルはやがて破裂するので、経済への反動は深刻化する、だろうというものだ。バブルの破裂を、原氏の著作ではハイパーインフレや財政破綻などとしても表現されている。
この原氏と同様の意見を、経済学者の浜矩子氏と評論家の佐高信氏がその対談『どアホノミクスの正体』(講談社+α新書)の中で語っている。その対談の一部はネットでも読める。
浜氏は経済評論家の高橋乗宣氏と共著で、21世紀に入ってから(リーマンショックが起きた2008年以外)毎年のように、世界や日本の経済危機を予測する書籍を出していることでも著名だ。今年(2017年)の経済危機を予測する高橋氏との共著はまだ出されていないのが、筆者の少し心配するところではある。それだけの人気経済学者でもある。
さて原氏も浜氏も、それぞれ「金融岩石理論」的な主張だといって差し支えないだろう。この「金融岩石理論」が、理論的にも実証的にも成立しがたいことを、丁寧に解説した良書が出版された。原田泰・片岡剛士・吉松崇編著『アベノミクスは進化する』(中央経済社)がそれだ。
現在の先進国(日本、ユーロ圏、イギリス、アメリカ)は、それぞれインフレ目標を設定していて、その目標値を大きく上回るようなインフレになれば、積極的に金融引き締めにコミットするように公約している。どんなに経済が過熱してもその結果としてインフレが目標値以上に高騰すれば、やがて中央銀行が金融引き締めに転じるであろうと、多くの市場関係者たちが予測し、またはすぐに予測できなくても次第に学習することで、自分たちの経済上のポジションを金融引き締めに適合したものに変更する。これによって自己実現的に経済は金融引き締め型に転換していく、というのがインフレ目標の重要なポイントだ。
簡単に言うと、人々の予測をコントロールしていく政策である。人々の多くは、ときにヘンテコな予測をする人がいても、よほど非合理的な思考に陥る人でもないかぎり、時間をかければほとんどの人が経済の状況(ここでは中央銀行の引き締めスタンスの予測)を正確に把握するだろう。中央銀行がインフレ目標から乖離したら引き締めるといっているのは嘘だ、と思い込む人は極めて少数だ、という意味である。
さてこのようなインフレ目標を採用していなかった時代、1970年代は年率数十パーセントのような高いインフレに見舞われた。日本でも第一次石油ショックの後の「狂乱物価」が代表的だ。『アベノミクスは進化する』の編著者のひとり、現在の日銀政策委員である原田泰氏は、1)マネーと物価は連動している、2)物価はいきなり猛烈に上昇するのではなく半年以上、通常は1年から数年かかる、ことを指摘している。このことから、中央銀行はインフレ目標を設定することで、物価が上昇し始めても十分にインフレを抑制することが可能だ、ということになる。
日本がデフレを継続してきたのは、90年代から2012年までのインフレ目標なき時代の日銀による政策運営の時期にちょうど該当する。インフレ目標は上限も定めるが、デフレに陥らないようにできるだけ目標値に近い水準を目指して経済を運営するのが、いまの中央銀行の標準であり、日本もそうだ。しかし、このインフレ目標のない時代があまりにも長すぎて、マネーと物価(デフレ)は、21世紀に入る頃には連動しなくなってしまった。この時期に何が起きていたのだろうか。
当時の日銀(そしてその時々の政府、第一次安倍政権も含む)は、インフレ目標の導入や積極的な金融緩和を拒否する一方で、「デフレ脱却に努力する」と空手形を出し続けてきた。その10年以上に及ぶ「ウソ」の累積によって、人々は日銀と政府の「デフレ脱却」を信じなくなってしまったのだ。
これはこれで実に合理的な態度であるが、このデフレ予想が固着してしまったことの弊害は深刻である。マネーをどんなに供給してもそれがいつか縮小するのではないか、(デフレ脱却には)不十分なままで終わるのではないか、と人々が予測することで、物価とマネーの連動が壊れてしまったからだ。
いわば十数年かけて、日銀は人々の物価とマネーの連関を見事に破壊してしまったのである。これを再度、連動するような正常な状態に戻すことを、いまの日銀は最終的な目標にしてはいる。ただしまだデフレ脱却の途中であり、過去のしがらみ(デフレ予測)はかなり強靭である。
では、デフレ予想のしがらみが一気になくなるとしたら、どうなるか。これはこれでインフレ目標政策がしっかりと有効になるということなので、高率のインフレがいきなり出現するわけではない。先のインフレ目標政策の効果から自明である。
原田氏らはこのような事例をふんだんに先の著作の中で示し、金融岩石理論を理論的にも実証的にも論破している。ちなみに、原氏などの懸念とは真逆に、積極的な金融緩和政策をすることで、政府の財政は大きく改善することも同書では実証的に示されている。むしろ財政危機は、経済の停滞を自明としてしまい、経済停滞の中で緊縮政策(財政再建政策という名前の政府支出減少や増税)で生じてしまうことも明らかにされている。
まだ一年が始まったばかりである。安易に危機を煽る本よりも、地に足がついた経済書や議論をしっかりとこの一年読んでいきたいと思っている。
筆者もリーマン・ショックの後に、この種の「(世界経済危機の)まぐれ当たり」で知名度をあげた何人かのエコノミストについて、マスコミや一般の方々から意見を求められたことがある。残念ながら、「それは(運がよくて)すごいですねえ」と言うしかできなかった。本当にそう思う。常に経済を「バブル」「危機的な状況」であるといい続けて、それが数年、10年、いや20年という時間の中で「的中」しても、あまり筆者には感心するところはないからだ。
さてこのような「逆神」たちと同じかどうかは、筆者には判断がつかないのだが、現在の日本の経済政策-特に日本銀行の金融政策-を批判する人たちの中に、「金融岩石論者」とでもいうべき人たちがいる。これはなにか。
坂に岩石があり、びくともしない。だがこれをいったん動かすと、猛烈な勢いで坂を転がりだしてしまう。これと同じで、日銀がマネーをどんどん増やしても物価はまったくあがらない。しかしいったん上がりだすと、どんどん物価は上昇してハイパーインフレ(猛烈なインフレ)になってしまう、という理論である。
この金融岩石理論の主張者は実に多い。特に同じ「種族」なのだが、日本国債の岩石理論も支持者に困らない。日本の財政は危機的な状況だ、いまは国債価格が安定しているように思えても、少しだけでも国債利子率が上昇(すなわち少しだけでも国債価格が低下)すれば、あれよあれよと国債価格は暴落し、日本の財政は破綻してしまう、というものだ。このハイパーインフレと財政破綻のふたつの岩石理論は、ほとんど表裏一体化しているので、両方とも主張する人が多い。
例えば、前回この連載でも登場した朝日新聞編集委員の原真人氏の新刊『日本「一発屋」論』(朝日新書)はその典型である。安倍政権の経済政策は、金融と財政の一体化という名目での「財政ファイナンス」であり、「意図的にバブルを起こそうとする試み」である。低成長が常態になった日本経済で、日銀によってマネーでじゃぶじゃぶにする政策を行えば、バブルが生じてしまう。そしてバブルはやがて破裂するので、経済への反動は深刻化する、だろうというものだ。バブルの破裂を、原氏の著作ではハイパーインフレや財政破綻などとしても表現されている。
この原氏と同様の意見を、経済学者の浜矩子氏と評論家の佐高信氏がその対談『どアホノミクスの正体』(講談社+α新書)の中で語っている。その対談の一部はネットでも読める。
浜矩子 アベノミクスは、すでにして行き詰まっていると言えます。屋上屋を重ねるように場当たり的な金融政策を続けているわけですが、いつそれが崩壊してもおかしくない。「アホノミクス」、いや「どアホノミクス」と言うべき状況です。浜氏によれば、アベノミクス(日銀の金融政策)は、極端な国債の買い取りによりマネーを無制限に供給する政策である。この無責任な政策は、実体経済と乖離したバブルを生み出し、やがて破綻することが目に見えているものだという。
浜氏は経済評論家の高橋乗宣氏と共著で、21世紀に入ってから(リーマンショックが起きた2008年以外)毎年のように、世界や日本の経済危機を予測する書籍を出していることでも著名だ。今年(2017年)の経済危機を予測する高橋氏との共著はまだ出されていないのが、筆者の少し心配するところではある。それだけの人気経済学者でもある。
浜矩子氏の昨年年頭の株価予想 |
現在の先進国(日本、ユーロ圏、イギリス、アメリカ)は、それぞれインフレ目標を設定していて、その目標値を大きく上回るようなインフレになれば、積極的に金融引き締めにコミットするように公約している。どんなに経済が過熱してもその結果としてインフレが目標値以上に高騰すれば、やがて中央銀行が金融引き締めに転じるであろうと、多くの市場関係者たちが予測し、またはすぐに予測できなくても次第に学習することで、自分たちの経済上のポジションを金融引き締めに適合したものに変更する。これによって自己実現的に経済は金融引き締め型に転換していく、というのがインフレ目標の重要なポイントだ。
簡単に言うと、人々の予測をコントロールしていく政策である。人々の多くは、ときにヘンテコな予測をする人がいても、よほど非合理的な思考に陥る人でもないかぎり、時間をかければほとんどの人が経済の状況(ここでは中央銀行の引き締めスタンスの予測)を正確に把握するだろう。中央銀行がインフレ目標から乖離したら引き締めるといっているのは嘘だ、と思い込む人は極めて少数だ、という意味である。
さてこのようなインフレ目標を採用していなかった時代、1970年代は年率数十パーセントのような高いインフレに見舞われた。日本でも第一次石油ショックの後の「狂乱物価」が代表的だ。『アベノミクスは進化する』の編著者のひとり、現在の日銀政策委員である原田泰氏は、1)マネーと物価は連動している、2)物価はいきなり猛烈に上昇するのではなく半年以上、通常は1年から数年かかる、ことを指摘している。このことから、中央銀行はインフレ目標を設定することで、物価が上昇し始めても十分にインフレを抑制することが可能だ、ということになる。
原田泰氏 |
当時の日銀(そしてその時々の政府、第一次安倍政権も含む)は、インフレ目標の導入や積極的な金融緩和を拒否する一方で、「デフレ脱却に努力する」と空手形を出し続けてきた。その10年以上に及ぶ「ウソ」の累積によって、人々は日銀と政府の「デフレ脱却」を信じなくなってしまったのだ。
これはこれで実に合理的な態度であるが、このデフレ予想が固着してしまったことの弊害は深刻である。マネーをどんなに供給してもそれがいつか縮小するのではないか、(デフレ脱却には)不十分なままで終わるのではないか、と人々が予測することで、物価とマネーの連動が壊れてしまったからだ。
いわば十数年かけて、日銀は人々の物価とマネーの連関を見事に破壊してしまったのである。これを再度、連動するような正常な状態に戻すことを、いまの日銀は最終的な目標にしてはいる。ただしまだデフレ脱却の途中であり、過去のしがらみ(デフレ予測)はかなり強靭である。
では、デフレ予想のしがらみが一気になくなるとしたら、どうなるか。これはこれでインフレ目標政策がしっかりと有効になるということなので、高率のインフレがいきなり出現するわけではない。先のインフレ目標政策の効果から自明である。
原田氏らはこのような事例をふんだんに先の著作の中で示し、金融岩石理論を理論的にも実証的にも論破している。ちなみに、原氏などの懸念とは真逆に、積極的な金融緩和政策をすることで、政府の財政は大きく改善することも同書では実証的に示されている。むしろ財政危機は、経済の停滞を自明としてしまい、経済停滞の中で緊縮政策(財政再建政策という名前の政府支出減少や増税)で生じてしまうことも明らかにされている。
まだ一年が始まったばかりである。安易に危機を煽る本よりも、地に足がついた経済書や議論をしっかりとこの一年読んでいきたいと思っている。
【私の論評】常識を働かせば金融岩石論にははまらない(゚д゚)!
こうした考えを持つ人は多いのですが、その根拠となる理論構成は、あまりはっきりしていません。私は、説得力のある理論構成に、まだ出会ったことはありません。
なぜこのように呼称することになったかとえば、岩を押しても全く動かないが、一旦、動き始めると、崖から急に転がる様に落ちて行き、止めることができない状況になるのと似ているかららしいです。
黒田総裁の前の日銀総裁白川氏もこの金融岩石論者の考えに近かったと思います。実際白川氏は、2012年5月24日には、「ゼロ金利下では日銀が大量に資金を供給しても、資金はそのまま当座預金に預けられる、のれんに腕押しの状況になっているため、量では金融緩和の度合いは測れない」と発言していましたし、同4月21日には、「中央銀行は国債担保の流動性供給、あるいは国債買い入れを通じて、最終的に際限のない流動性供給に追い込まれる可能性があります。それによる膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです」と発言していました。
日銀前総裁白川氏 |
資金を大量に供給した場合は、白川氏はハイパーインフレになると考えていたのです。そして、財政ファイナンスという政策が、量的緩和の効果をゼロからハイパーインフレへと非連続的に転換させる、誤った政策である、と考えていたようです。
さて、金融岩石論とは異なる、金融政策の粘着理論があります。
金融政策が効果を発揮するまでには長く複雑なラグがあるが、効果は少しずつ表れるというのが金融政策の粘着理論です。
この理論の詳細については、以下のリンクをご覧になって下さい。
上の記事で、原田泰氏は、「1)マネーと物価は連動している、2)物価はいきなり猛烈に上昇するのではなく半年以上、通常は1年から数年かかる」ことを指摘しているとあります。
原田氏は金融政策の粘着理論を正しいものとしています。2013年4月から、黒田体制の日銀はそれまでの白川体制の日銀の金融引き締め一辺倒の金融政策から、異次元の包括的金融緩和に転じました。以下に、当時の金融緩和政策について振り返っておきます。以下にチャートを掲載します。
その時から、この包括的金融緩和により、金融岩石論ではなく、金融粘着理論に従い日本経済は以下のような段階を踏むはずでした。
ところが、ここで番狂わせが生じてしまいました。その番狂わせとは、2014年4月からの消費税増税でした。もし、消費税増税をしていなければ、金融緩和に転じてから4年を過ぎた今頃には、完璧に上の5段階まで到達していたことでしょう。
しかし、経済上の「逆神」たちは、これを無視してアベノミクスは失敗だったとして、ブログ冒頭の田中秀臣氏が指摘するように、岩石理論を主張しているのです。
そうして、今までの推移からでも、岩石理論は完全に間違いだったことがはっきりしています。結局のところ、金融緩和をしてもハイパーインフレには見舞われていません。
それよりも、粘着理論のほうがあてはまっていることがわかります。たとえば、昨年は雇用状況がかなり改善され、その象徴的な出来事として、昨年春の大卒、高卒の就職率は、記録を初めて以来最高となりました。
さらに、金融緩和をはじめたばかりの頃には、これは当然のことなのですが、実質賃金が下がりました。これは、雇用が改善しはじめると、まずはアルバイト・パートや、新人を新たなに雇い入れるため、全体では賃金が下がるのが普通なのですが、経済の「逆神」たちは、「実質賃金がー」と大騒ぎしました。
これも、一昨年あたりからは徐々にあがりはじめています。これは、どう考えても粘着論のほうがあてはまっています。
そうして、物価目標2%は未だに達成されていません。これに関しては、日本の構造的不況はおそらく2.7%以下であるのに、現状では失業率が3%を切っていないので、量的緩和がまだ不十分であると考えられるということを主張しました。
やはり、追加緩和を行い、早期に失業率を3%を切るようにし、物価目標を一日でもはやく達成すべきです。
しかし、金融政策粘着論からいえば、追加金融緩和をしても、緩和した直後に失業率が3%を切り、さらに物価目標をすぐに達成できるわけではありません。少なくとも2年くらいはみるべきでしょう。
それにしても、日本の経済の「逆神」たちは、金融政策の粘着理論を全く理解していないようです。
金融政策の粘着理論の理論的背景などについては、それこそ書籍『アベノミクスは進化する』をご覧になるのが良いとは思いますが、これは、常識的に考えてもわかります。
企業を例にとると、会社の業績が悪くなったときに、業績を改善するには、何か手を打ったとして、即座に良くなるわけではありません。会社の規模にもよりますが、3年から5年はかかるとみるべきではないでしょうか。無論、あまり時間をかけてしまえば、業績が悪くなり過ぎて会社が潰れてしまいますからそんなに時間をかけることはできません。
業績を回復させるために、手っ取り早くまずは、銀行からお金を借りることができれば、そのお金をつかって設備投資や人材の雇用などをすれば、それで短期的に効果があげられ、業績が回復するかもしれません。これは、マクロ経済対策でいえば、財政政策に相当すると思います。
しかし、時流にあったまともなマーケティングやイノベーションをするとなると、それだけではすみません。ただ、設備投資をしたり、人材を採用すれば良いというわけではありません。企業の人々の心をそれ以前と比較して、根本的に変えなければならないわけです。これには、ある程度時間がかかります。これを実施することが、マクロ経済政策でいえば、金融政策にあたるのだと思います。デフレ予想をインフレ予想に変えるにも時間がかかるのです。
このように考えれば、金融政策の粘着性などかなり理解しやすいです。やはり、経済の「逆神」は常識はずれということなのだと思います。
田中秀臣氏は、「こういう人たちの本を読むくらいなら、地に足がついた経済書や議論をしっかりとこの一年読んでいきたいと思っている」と上の記事を締めくくっています。
そうて、田中氏はご自身のブログで"[経済]お正月特別企画:2016年心に残る経済書ベスト20発表!!(ベスト10日本人著者全コメント公開)"という記事を掲載されています。
さて、金融岩石論とは異なる、金融政策の粘着理論があります。
金融政策が効果を発揮するまでには長く複雑なラグがあるが、効果は少しずつ表れるというのが金融政策の粘着理論です。
この理論の詳細については、以下のリンクをご覧になって下さい。
金融政策の岩石理論と粘着理論あるいは、書籍『アベノミクスは進化する』をご覧になって下さい。
上の記事で、原田泰氏は、「1)マネーと物価は連動している、2)物価はいきなり猛烈に上昇するのではなく半年以上、通常は1年から数年かかる」ことを指摘しているとあります。
原田氏は金融政策の粘着理論を正しいものとしています。2013年4月から、黒田体制の日銀はそれまでの白川体制の日銀の金融引き締め一辺倒の金融政策から、異次元の包括的金融緩和に転じました。以下に、当時の金融緩和政策について振り返っておきます。以下にチャートを掲載します。
その時から、この包括的金融緩和により、金融岩石論ではなく、金融粘着理論に従い日本経済は以下のような段階を踏むはずでした。
1.日銀がマネタリーベースを増やす金融政策が効果を発揮するまでには長く複雑なラグがありますから、上記のように綺麗に段階を踏むというわけではなく、ある項目のほうが進んだり、あるいは遅れたりしつつ、効果は少しずつ現れたはずです。しかし、これを4、5年も継続していれば、上記すべての項目について達成できたに違いありません。
2.予想インフレ率が約半年かけて徐々に上昇し、実質金利が下がる
3.消費と投資が徐々に増える
4.外為市場で円安が起こり、徐々に輸出が増える
5.約2年~をかけて、徐々にGDPが増え、失業率が下がり、賃金が上がり、インフレ率も上昇する。その過程で株価も上がる。
ところが、ここで番狂わせが生じてしまいました。その番狂わせとは、2014年4月からの消費税増税でした。もし、消費税増税をしていなければ、金融緩和に転じてから4年を過ぎた今頃には、完璧に上の5段階まで到達していたことでしょう。
しかし、経済上の「逆神」たちは、これを無視してアベノミクスは失敗だったとして、ブログ冒頭の田中秀臣氏が指摘するように、岩石理論を主張しているのです。
そうして、今までの推移からでも、岩石理論は完全に間違いだったことがはっきりしています。結局のところ、金融緩和をしてもハイパーインフレには見舞われていません。
それよりも、粘着理論のほうがあてはまっていることがわかります。たとえば、昨年は雇用状況がかなり改善され、その象徴的な出来事として、昨年春の大卒、高卒の就職率は、記録を初めて以来最高となりました。
さらに、金融緩和をはじめたばかりの頃には、これは当然のことなのですが、実質賃金が下がりました。これは、雇用が改善しはじめると、まずはアルバイト・パートや、新人を新たなに雇い入れるため、全体では賃金が下がるのが普通なのですが、経済の「逆神」たちは、「実質賃金がー」と大騒ぎしました。
これも、一昨年あたりからは徐々にあがりはじめています。これは、どう考えても粘着論のほうがあてはまっています。
そうして、物価目標2%は未だに達成されていません。これに関しては、日本の構造的不況はおそらく2.7%以下であるのに、現状では失業率が3%を切っていないので、量的緩和がまだ不十分であると考えられるということを主張しました。
やはり、追加緩和を行い、早期に失業率を3%を切るようにし、物価目標を一日でもはやく達成すべきです。
しかし、金融政策粘着論からいえば、追加金融緩和をしても、緩和した直後に失業率が3%を切り、さらに物価目標をすぐに達成できるわけではありません。少なくとも2年くらいはみるべきでしょう。
それにしても、日本の経済の「逆神」たちは、金融政策の粘着理論を全く理解していないようです。
金融政策の粘着理論の理論的背景などについては、それこそ書籍『アベノミクスは進化する』をご覧になるのが良いとは思いますが、これは、常識的に考えてもわかります。
企業を例にとると、会社の業績が悪くなったときに、業績を改善するには、何か手を打ったとして、即座に良くなるわけではありません。会社の規模にもよりますが、3年から5年はかかるとみるべきではないでしょうか。無論、あまり時間をかけてしまえば、業績が悪くなり過ぎて会社が潰れてしまいますからそんなに時間をかけることはできません。
業績を回復させるために、手っ取り早くまずは、銀行からお金を借りることができれば、そのお金をつかって設備投資や人材の雇用などをすれば、それで短期的に効果があげられ、業績が回復するかもしれません。これは、マクロ経済対策でいえば、財政政策に相当すると思います。
しかし、時流にあったまともなマーケティングやイノベーションをするとなると、それだけではすみません。ただ、設備投資をしたり、人材を採用すれば良いというわけではありません。企業の人々の心をそれ以前と比較して、根本的に変えなければならないわけです。これには、ある程度時間がかかります。これを実施することが、マクロ経済政策でいえば、金融政策にあたるのだと思います。デフレ予想をインフレ予想に変えるにも時間がかかるのです。
このように考えれば、金融政策の粘着性などかなり理解しやすいです。やはり、経済の「逆神」は常識はずれということなのだと思います。
田中秀臣氏は、「こういう人たちの本を読むくらいなら、地に足がついた経済書や議論をしっかりとこの一年読んでいきたいと思っている」と上の記事を締めくくっています。
そうて、田中氏はご自身のブログで"[経済]お正月特別企画:2016年心に残る経済書ベスト20発表!!(ベスト10日本人著者全コメント公開)"という記事を掲載されています。
以下に、その記事のリンクを掲載します。
私も、金融岩石理論のはまらないように、これらの書籍のうち、まだ読んでないものも読んでみようと思いまます。
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