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2020年3月4日水曜日

五輪延期では済まぬ。韓国式「新型肺炎」検査が日本経済を潰す―【私の論評】武漢肺炎も、数値で見て客観的に物事を判断しないとフェイクに煽られる(゚д゚)!

五輪延期では済まぬ。韓国式「新型肺炎」検査が日本経済を潰す訳

総理の記者会見

2月27日に安倍首相が突如発表した全国一斉休校が、各方面で大きな波紋を呼んでいます。なぜ政府は、混乱が予想されるこのような判断をするに至ったのでしょうか。米国在住の作家・冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、今回の対策の真意、すなわち「国策」をあぶり出すとともに、もしも日本がこの先韓国のようにPCR検査を拡大した場合、経済崩壊に追い込まれる危険性があることを指摘しています。

全国小中高一斉休校、問題を抱えたギャンブルか?

それにしても唐突でした。改めて振り返ってみると、

2月25日(火)……基本方針発表、重症者増加回避策を最優先
2月26日(水)……基本方針に追加してイベント自粛要請
2月27日(木)……全国一斉休校方針発表
2月29日(土)……総理会見

という順序だったわけですが、いかにも急な判断であったという印象です。イベント全面自粛や全国一斉休校というのが、予め決定されていたら、25日の基本方針と一緒にまとめて発表すればよかったわけですが、日に日に厳しくなる情勢判断のもとでは仕方なかったのかもしれません。

良かったのは、この4つの発表には矛盾がないことで、1つの一貫したストーリーにはなっていることです。仮に、この4つの発表に矛盾点があるようですと、社会は大混乱に陥った可能性があり、少なくともそれだけは回避されたのは良かったと思います。

矛盾がない一貫したストーリーというのは、以下のような考え方です。
  • 市中感染は全国で相当に拡大していると見ている
  • また、若年層においては感染しても軽症でインフルと見分けがつかないか、無発症のケースも相当に出ているであろう
  • 市中感染が拡大し、その多くが無発症のケースだとすれば、これを放置すればどんどん拡大する。この点についてはSARSよりも、インフルよりも厳しい条件だと考えられる
  • その結果として、重症者が増加して医療機関が対応できなくなり、救命できる重症事例が救命できないケース、これが最悪シナリオであり、このシナリオを避けるのが国策の最優先事項である
この点に関しては、少なくとも2月25日以降の政府は「ブレて」はいません。例えば、加藤勝信大臣は、この25日の時点で「先手先手」ということを言っていました。この点に関して言えば、例えば春節時における膨大な入国許可とか、「ダイヤモンド・プリンセス」での防疫といった点に関しては「後手」であり、弁明の余地はありません。

ですから、この25日の「先手先手」という加藤発言は批判を浴びたわけですが、この発言に限って言えば、加藤大臣は「後手に回った過去の失態」を否定したり、ウヤムヤにしようとしたわけではないと思います。「医療機関の受け入れ体制が崩壊して、救命できるケースの救命ができない」という最悪シナリオに対しては、「まだ間に合うので先手を打っていく」という趣旨での発言であり、この点に関しては理解できますし、29日の総理会見に至る一連の施策との整合性もあると思います。

そこまでは良いことにしましょう。と言いますか、これは決定された国策であるばかりか、極めて大人数の生死のかかった判断であり、その対策の効果が見えないうちから否定したり妨害するべきものではないと思います。

問題は次の2点です。

1.子供は重症化しないという報告がある一方で、子供は無発症のまま感染を拡大させる可能性があり、高齢者や基礎疾患を持つ成人に感染させて重症患者を発生させるのを抑止するために、学校の一斉休校は有効と考えられます。

ところが、そのような説明は「結果を得られない」可能性があるため「子供の命と健康を守る」という説明に「言い換え」をしています。その判断が吉と出るか、凶と出るかはギャンブル性が高いと思います。

2.PCR検査については、キャパに限界がある中で軽症者、無症者が検査のために医療機関に殺到すると、必要な患者の検査ができず、治療体制を潰すことになります。また、医療機関こそ感染の場になりうることもあり、若年者や軽症、無症状の人を対象とした検査は最小限としたいわけです。

更に言えば、ウィルス量が少ない患者の場合は陰性判定となりますが、それで本人が100%安全と誤解するとかえって危険です。また韓国のように徹底的に検査しても一定程度以上感染拡大した場合は、制圧にはつながりません。従って、隠された国策としては、PCR検査の大規模化には消極的とならざるを得ません。

ですが、検査に消極的だなどという方針は明快に説明はできないので曖昧な説明をせざるを得ません。けれども、それが政府不信やモラルダウンを招くと感染拡大につながる可能性があり、この意図的な曖昧姿勢それ自体にもギャンブル性があるわけです。

この2つの問題は非常に重たい課題を含んでいます。

まず1.ですが、一斉休校をするにあたって、仮に「お子さんは重症化しません。ですが無症状のままクラスター化することが回避できれば、結果的に多くの人命を救うことができます」という言い方にしたらどうでしょう?この説明の方が誠実と思いますが、どう考えても「回りくどい」わけです。

ですから、対策を徹底するには「お子さんの健康と命を守るため」という「言い換え」をした方が「結果が得られる」という判断になるのはわかります。更に言えば、安倍政権(の周辺)では、アンチ安倍の世論というのは比較的高学歴・高収入であり、ここまで人命のかかった問題には「ヘソを曲げて来ることはない」という判断があったのかもしれません。仮にそうなら、(そうだとは絶対言うはずはないですが)それも分かります。

しかし、この「言い換え」作戦には問題もあります。今回の休校が「子どもの健康と命を守るため」だと100%真に受ける世論もあり、その中では「無症状なら健康」だという判断の元で、塾に行くのはいいだろうとか、満員電車に乗せて職場に子連れ出勤してもいいだろうという判断を誘発してしまうからです。

反対に対策の真意が理解されている、つまり「無症状の子どもが隠れたクラスターを形成して、静かなパンデミックを誘発、気づいたら重症者が溢れて救命がお手上げに」というシナリオを回避するということで、それが理解されていたらどうでしょうか?塾へ行こうとか、子連れ出勤を認めるのはいい会社という判断は、また別のものとなって行くのではないでしょうか。

一点だけ思うのは、学童保育については、余り批判しなくていいようにも思います。学童に行かざるを得ない子どもというのは、少なくとも「相当に高い率」で「高齢者とは同居していない」からで、仮にそこで自覚のない感染が起きても、直接的に重症者を生み出す可能性は低いからです。

反対に、ベビーシッター代わりに地方から祖父母を呼び寄せて一時同居というのは、ちょっとマズいのではないかとも思います。

この問題は2.も重なって来ます。つまり政府としては、
  • 無症状者や無症状の子どもは、PCR検査をしない
  • 従って、無症状の子どもによるクラスターが発生する可能性はあるが、それは可視化できないし、しない。
  • だからこそ、一斉休校措置により統計的に感染の可能性を抑え込むしかない
というのを国策としたわけです。一連の発表には一貫性があるというのは、そういうことです。現時点では、国としてはこの政策に賭けることにしたわけです。つまり、これが国策です。そして、繰り返しになりますが、その最大の問題はギャンブル性ということです。

勿論、このコロナウィルスの新型については、分からないことも多いわけで、そう考えるとどんな政策も100%正しいわけではなく、ギャンブル性があるわけですが、それはさておき、「高齢者、基礎疾患のある人は重症化する」「反対に子どもは重症化しないばかりか、無症状のまま感染源になることもある」ということを前提とした場合に、「全校一斉休校」「PCR検査は積極的にはしない」「軽症者、軽症疑い者は自宅療養」というのは理にかなっていると考えられます。

問題は、そこを「言い換える」、つまり「一斉休校は子どもを守るため」「PCR検査は拡大へ向けて努力中」と言う言い方にすることで、果たして世論が正しく反応するかは、そこにギャンブル性があるという点です。

この点に関しては、ヒヤリとさせられる事件がありました。

というのは、3月2日に開かれた参議院予算委員会で立憲民主党の村田蓮舫議員が、

「高齢者施設などに対して、イベント自粛や学校の一斉休校と同等の対応をしないのはなぜなのか」

一方で、この村田議員の質問に対しては、報道によれば自民党の松川るい議員による不規則発言(ヤジ)があったそうです。これは、加藤勝信厚労大臣が回答している間のことだそうで、

「高齢者は歩かないから」

という発言だったようです。更に驚いたのは、村田議員は、これに対して、

「自民党席から、高齢者は歩かないから、と松川議員が野次りましたけど、こんな認識でご高齢者の命を守るという認識を与党議員が持っているのに驚きました」

と怒ったようですから、こうなると村田議員が国策の趣旨を全く理解していないことは明白です。政党間の駆け引きとか、野党としてのアンチ権力という伝統というような話の遥かに以前の問題で、とにかく全く伝わっていないわけです。これは怖いことです。


ちなみに、別の報道では、松川議員は「あくまで小中高生と高齢者を比較の問題として発言した」と弁明したそうで、「誤解を与える表現だった」として謝罪したそうです。

これも全く別の意味で怖いことです。村田議員と比較するわけではありませんが、松川議員という人は、自民党議員団の中でも頭脳明晰な政治家だと思います。松川議員の発言は、この国策が何よりも「高齢者の重症化を抑止し、救命できるケースは全て救命する」ということを目的としているという点とは矛盾しませんし、恐らくはその国策を正確に理解しているように見受けられます。

怖いというのは、にもかかわらず(というのはあくまで推測ですが)松川議員の頭脳をもってしてもとっさに国策の正確な説明ができなかったというのは、やはりこの政策を世論に伝えるのは難しいと思ったからです。

もしかすると、松川議員は内閣の閣僚たちよりも正確に国策の趣旨を理解した上で、「これをストレートに世論に説明するのは不可能だし危険」という判断の元でピエロ役を買って出たのかもしれませんが、仮にそう(まさかとは思いますが)だとすると、やはり政策遂行の上でのギャンブル性は明白ということになります。

もしかすると、村田議員にしても全てを分かった上で、あくまでアンチ安倍の野党パフォーマンスというスタイルに徹したということなのかもしれませんし、そうなると、村田=松川の掛け合いもシナリオのある出来レースということになります。仮にそうだとしても、これだけ多くの人命のかかった大問題に対するアプローチとしては不適切です。

ところで、こうしたギャンブル性を一切外して、全く別のアプローチに転じるというオプションも勿論あります。

それは韓国方式とでも言うべきもので、民間の企業も幅広く対象としてPCR検査を思い切り拡大するという方法です。そうなれば、陽性の人の隔離を徹底することで問題が可視化して封じ込めが容易になる、そんなイメージがあります。

ですが、その場合も、無症状の若者や子どもがウィルスを持っていても検査には引っかからず、後日クラスターを作ってしまうというようなケースが出るようですと、これは抑え込めません。反対に、前述したように「100%の確度ではないにも関わらず、陰性だと安心しきってしまう」という中で相当な副作用もあると思います。

それ以前の問題として、猛烈な数の検査が可能になって、その結果として猛烈な数の陽性者が出てしまうと、これは五輪の延期などという話だけでなく、ただでさえ弱くなっている日本経済がボロボロになってしまう危険性もあるわけです。更に言えば、軽症の陽性者を安心して自宅療養させるのは難しく、結局は医療体制を潰してしまうことにもなる可能性があります。

そうなると、100%可視化した透明性のある施策のように見える「ニーズに応えたPCR検査」というアプローチも、それ自体が大きなギャンブルになるということです。ちなみに、現時点でのアメリカは「余計な検査はしない」という姿勢で、本日(2日の月曜日)の現時点ではNY株が大幅に反発しているのも、その効果と言えるように思います。

コロナウィルス問題に関する議論としては、現時点、つまり3月2日時点での論点はそのあたりになるのではと考えます。

冷泉彰彦

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

【私の論評】武漢肺炎も、数値で見て客観的に物事を判断しないとフェイクに煽られる(゚д゚)!

上の記事の分析はかなり鋭いと思います。安倍政権のギャンブルなどとしているところは、いただけないと思いますが、安倍政権が現在まで、コロナウイルスに関する知見から、感染をなるべく広げず、高齢者の重篤化を防ぎ、なるべく多くを救命するということで、大きな賭けに出たのは間違いないです。

そうして、こうした政策に関しては、現在我々は協力できることは協力すべきです。ワイドショー等では、責任論を問う声もありますが、ワイドショーにでてくる専門家、識者などはこの政策に責任を負える立場ではありません。責任論は後からで良いです。

それに、すべての情報が整った上でないと責任など問えないです。あまりに責任論に特化した、ワイドショーなど百害あって一理なしだと思います。

それにしても、つい先日このブログでも指摘したように、毎年インフルエンザに1000万人が感染して、直接間接が原因で年間1万人が死亡しているのです。だから、新型コロナウイルスに過度に脅威を覚えるべきではないですが、何しろ未知のウイルスですから、過度に楽観的になることなく、政府や自治体の規制に従いつつ、様子を見るというのがペストと言えると思います。

その上で、デマに煽られないようにすべきです。その意味では、上の冷泉氏の記事も、全部が正しいとか、間違いなどというのではなく、参考にすべきものと考えていただきたいと思います。無論私のこの記事もそうです。

デマというと、最近ではトイレットペーパーの不足です。これは、鳥取県の米子医療生活協同組合は、組合運営の事業所職員がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で、新型コロナウイルスの感染拡大に関連して「トイレットペーパーが品薄になる」などと誤った情報を投稿したことなどを起因として発生したものです。

今後、このようなデマが多く出回ることでしょう。以下はデマとまでいえるかどうかわかりませんが、日本での感染者数はかなり多いと認識されているようですが、そうともいえないデータがあります。それを以下に掲載します。

以下の表は、武漢肺炎感染者数の人口比率(2020/03/03)です。


感染に限らず統計は、客観的に見ないと理解できませんし、見方を誤ってしまいます。上の表は、感染者➗人口の比率で比較した表です。

この表でみると、現在では韓国が世界で一番感染率が高いです。少なくとも、韓国の防疫体制が優れているとはいえないことがわかります。それと、中国の統計は単純に信じることはできないと思います。中国の経済統計はデタラメです。コロナウイルスの感染者数だけが、正しいということはできないと思います。

この表によれば、日本は16位ということで、19位の台湾とあまり変わりません。現時点では、特に日本が台湾などの他国と比較して、格段に防疫体制が格段に劣っているとは思えません。

こうしてみると、日本は世界的にみても人口の多い国であることがわかります。中国などは例外中の例外です。人口比でみると、韓国が一番感染していることになります。

このブログでは、数に関してはなるべく客観的であるように努めてきました。たとえば、中国で2010年あたりから、中国では毎年10万件ほど暴動が起こっているとされていますが、中国の人口13億人(最近14億人になりました)ですが、日本の人口は1億2千万人であることを考えると、中国で10万件というと、日本では人口が約1/10とみて1万件発生している勘定になります。

1万件というと、日本であってもこれはとんてもないことであるということが、ひしひしと伝わってきます。

これと同じく、どのような数字も客観的に見ないと、意味を持ちません。感染者数だけでみるというのは、あまりに非合理的だと思います。日本国内で比較するにも、都道府県単位の人口比率でみたほうが、より客観的になると思います。

ただし、人口比でみたとしても、東京は人口が約1千万、北海道は500万人ですから、東京と比較しても、北海道は突出して感染者数が多いです。

北海道では、新型コロナウイルスの感染者が今日までに82名に上っています。政府の専門家会議では、小規模な集団感染「クラスター」の発生が指摘され、25日には感染者数が東京都を上回って都道府県別で最多となりました。なぜ感染が相次ぐのでしょうか。統計データや専門家らの見解から「検査数が比較的多い」「冬の一大観光地」という要因が見えてきました。

北海道内の新型コロナウイルスの感染検査は道立衛生研究所(札幌)など2カ所で行い、1日最大で約60件の検査が可能です。1月25日正午現在では、全道で計170人に実施され、道の担当者よれば「許容量を超えずに、必要な検査ができている」といいます。

ただし、愛知県は検査態勢が「道内とほぼ同規模」(担当者)とされていますが、感染者は本日で49人です。

道内が国内有数の冬の人気観光地であることを踏まえ、人と人が接触する機会が増え、必然的にウイルスに触れる可能性が高まっていると考えられます。

冬場の観光需要は全国的に落ち込む傾向にあるが、道内はスキー場や流氷など冬ならではの観光地が多いです。2018年の観光庁の調査によると、道内の1~3月の宿泊客数は約457万人。集計済みの30都道県の中で東京都、千葉県に次いで3番目に多いです。

さらに冬場の観光地点や行事開催場所は1200地点と全国最多いです。雪を避けて屋内で楽しめる施設も少なくないです


2018年に北海道を訪れた訪日外国人客は298万人を記録しており、日本を訪れた3,119万2,000人のうち9.6%もの外国人が北海道を訪れていることになります。北海道単体で見ると、訪日外国人客数は前年比12.9%と順調な伸びを見せています。

北海道を訪れる外国人の特徴としては特にアジア圏からの訪日客が多く、中国からは71万9,500人、韓国からは67万7,600人、台湾からは60万3,900人が訪日しており、全体の9割近くがアジア圏からの訪日客となっています。これらも、感染の多いことの原因の一つにもなっているものとみられます。

デマが多い現状では、一番便りなるのは数字だと思います。テレビのワイドショーなどでは、特に数字も出さす、結果として不安を煽っているものも多数目にします。私達としては、武漢肺炎関連等でも、なるべく数値で見て、客観的に物事を判断すべきです。

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2017年1月17日火曜日

アベノミクスの破綻を煽る「金融岩石理論」は簡単に論破できる―【私の論評】常識を働かせば金融岩石論にははまらない(゚д゚)!


田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

日本にはさまざまな経済上の「逆神」たちがいる。株価や為替レートの予想をすると、まったく真逆の方向に相場が振れるエコノミストや経済学者たちのことだ。もちろん毎回逆神たちの予測が正しい(予測をした本人たちにとっては間違いなのだが)のかどうかを実証した研究者は知らない。

晴れ着姿の女性が見守る中でスタートした東京株式市場 写真はブログ管理人挿入 以下同じ
 ところで世界経済、日本経済の予測もやはり難しい。昨年だけみても、イギリスのEU離脱やトランプ氏の大統領当選による世界経済へのショックをいい意味でも悪い意味でも正確に言い当てたエコノミストや経済学者はほとんどいない。それに予測が当たったとしても「まぐれ当たり」ということもある。

 筆者もリーマン・ショックの後に、この種の「(世界経済危機の)まぐれ当たり」で知名度をあげた何人かのエコノミストについて、マスコミや一般の方々から意見を求められたことがある。残念ながら、「それは(運がよくて)すごいですねえ」と言うしかできなかった。本当にそう思う。常に経済を「バブル」「危機的な状況」であるといい続けて、それが数年、10年、いや20年という時間の中で「的中」しても、あまり筆者には感心するところはないからだ。

 さてこのような「逆神」たちと同じかどうかは、筆者には判断がつかないのだが、現在の日本の経済政策-特に日本銀行の金融政策-を批判する人たちの中に、「金融岩石論者」とでもいうべき人たちがいる。これはなにか。

 坂に岩石があり、びくともしない。だがこれをいったん動かすと、猛烈な勢いで坂を転がりだしてしまう。これと同じで、日銀がマネーをどんどん増やしても物価はまったくあがらない。しかしいったん上がりだすと、どんどん物価は上昇してハイパーインフレ(猛烈なインフレ)になってしまう、という理論である。

 この金融岩石理論の主張者は実に多い。特に同じ「種族」なのだが、日本国債の岩石理論も支持者に困らない。日本の財政は危機的な状況だ、いまは国債価格が安定しているように思えても、少しだけでも国債利子率が上昇(すなわち少しだけでも国債価格が低下)すれば、あれよあれよと国債価格は暴落し、日本の財政は破綻してしまう、というものだ。このハイパーインフレと財政破綻のふたつの岩石理論は、ほとんど表裏一体化しているので、両方とも主張する人が多い。

 例えば、前回この連載でも登場した朝日新聞編集委員の原真人氏の新刊『日本「一発屋」論』(朝日新書)はその典型である。安倍政権の経済政策は、金融と財政の一体化という名目での「財政ファイナンス」であり、「意図的にバブルを起こそうとする試み」である。低成長が常態になった日本経済で、日銀によってマネーでじゃぶじゃぶにする政策を行えば、バブルが生じてしまう。そしてバブルはやがて破裂するので、経済への反動は深刻化する、だろうというものだ。バブルの破裂を、原氏の著作ではハイパーインフレや財政破綻などとしても表現されている。

 この原氏と同様の意見を、経済学者の浜矩子氏と評論家の佐高信氏がその対談『どアホノミクスの正体』(講談社+α新書)の中で語っている。その対談の一部はネットでも読める。
浜矩子 アベノミクスは、すでにして行き詰まっていると言えます。屋上屋を重ねるように場当たり的な金融政策を続けているわけですが、いつそれが崩壊してもおかしくない。「アホノミクス」、いや「どアホノミクス」と言うべき状況です。
浜氏によれば、アベノミクス(日銀の金融政策)は、極端な国債の買い取りによりマネーを無制限に供給する政策である。この無責任な政策は、実体経済と乖離したバブルを生み出し、やがて破綻することが目に見えているものだという。

 浜氏は経済評論家の高橋乗宣氏と共著で、21世紀に入ってから(リーマンショックが起きた2008年以外)毎年のように、世界や日本の経済危機を予測する書籍を出していることでも著名だ。今年(2017年)の経済危機を予測する高橋氏との共著はまだ出されていないのが、筆者の少し心配するところではある。それだけの人気経済学者でもある。

浜矩子氏の昨年年頭の株価予想
さて原氏も浜氏も、それぞれ「金融岩石理論」的な主張だといって差し支えないだろう。この「金融岩石理論」が、理論的にも実証的にも成立しがたいことを、丁寧に解説した良書が出版された。原田泰・片岡剛士・吉松崇編著『アベノミクスは進化する』(中央経済社)がそれだ。

 現在の先進国(日本、ユーロ圏、イギリス、アメリカ)は、それぞれインフレ目標を設定していて、その目標値を大きく上回るようなインフレになれば、積極的に金融引き締めにコミットするように公約している。どんなに経済が過熱してもその結果としてインフレが目標値以上に高騰すれば、やがて中央銀行が金融引き締めに転じるであろうと、多くの市場関係者たちが予測し、またはすぐに予測できなくても次第に学習することで、自分たちの経済上のポジションを金融引き締めに適合したものに変更する。これによって自己実現的に経済は金融引き締め型に転換していく、というのがインフレ目標の重要なポイントだ。

 簡単に言うと、人々の予測をコントロールしていく政策である。人々の多くは、ときにヘンテコな予測をする人がいても、よほど非合理的な思考に陥る人でもないかぎり、時間をかければほとんどの人が経済の状況(ここでは中央銀行の引き締めスタンスの予測)を正確に把握するだろう。中央銀行がインフレ目標から乖離したら引き締めるといっているのは嘘だ、と思い込む人は極めて少数だ、という意味である。

 さてこのようなインフレ目標を採用していなかった時代、1970年代は年率数十パーセントのような高いインフレに見舞われた。日本でも第一次石油ショックの後の「狂乱物価」が代表的だ。『アベノミクスは進化する』の編著者のひとり、現在の日銀政策委員である原田泰氏は、1)マネーと物価は連動している、2)物価はいきなり猛烈に上昇するのではなく半年以上、通常は1年から数年かかる、ことを指摘している。このことから、中央銀行はインフレ目標を設定することで、物価が上昇し始めても十分にインフレを抑制することが可能だ、ということになる。

原田泰氏
日本がデフレを継続してきたのは、90年代から2012年までのインフレ目標なき時代の日銀による政策運営の時期にちょうど該当する。インフレ目標は上限も定めるが、デフレに陥らないようにできるだけ目標値に近い水準を目指して経済を運営するのが、いまの中央銀行の標準であり、日本もそうだ。しかし、このインフレ目標のない時代があまりにも長すぎて、マネーと物価(デフレ)は、21世紀に入る頃には連動しなくなってしまった。この時期に何が起きていたのだろうか。

 当時の日銀(そしてその時々の政府、第一次安倍政権も含む)は、インフレ目標の導入や積極的な金融緩和を拒否する一方で、「デフレ脱却に努力する」と空手形を出し続けてきた。その10年以上に及ぶ「ウソ」の累積によって、人々は日銀と政府の「デフレ脱却」を信じなくなってしまったのだ。

 これはこれで実に合理的な態度であるが、このデフレ予想が固着してしまったことの弊害は深刻である。マネーをどんなに供給してもそれがいつか縮小するのではないか、(デフレ脱却には)不十分なままで終わるのではないか、と人々が予測することで、物価とマネーの連動が壊れてしまったからだ。

 いわば十数年かけて、日銀は人々の物価とマネーの連関を見事に破壊してしまったのである。これを再度、連動するような正常な状態に戻すことを、いまの日銀は最終的な目標にしてはいる。ただしまだデフレ脱却の途中であり、過去のしがらみ(デフレ予測)はかなり強靭である。

 では、デフレ予想のしがらみが一気になくなるとしたら、どうなるか。これはこれでインフレ目標政策がしっかりと有効になるということなので、高率のインフレがいきなり出現するわけではない。先のインフレ目標政策の効果から自明である。

 原田氏らはこのような事例をふんだんに先の著作の中で示し、金融岩石理論を理論的にも実証的にも論破している。ちなみに、原氏などの懸念とは真逆に、積極的な金融緩和政策をすることで、政府の財政は大きく改善することも同書では実証的に示されている。むしろ財政危機は、経済の停滞を自明としてしまい、経済停滞の中で緊縮政策(財政再建政策という名前の政府支出減少や増税)で生じてしまうことも明らかにされている。

 まだ一年が始まったばかりである。安易に危機を煽る本よりも、地に足がついた経済書や議論をしっかりとこの一年読んでいきたいと思っている。

【私の論評】常識を働かせば金融岩石論にははまらない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事のように、金融岩石論とは、日銀が国債の購入を増やすなど、量的緩和を強化した場合、その結果は、効果がゼロか、ハイパーインフレが発生するかどちらかであり、適度のインフレが発生することは有り得ない、という考え方です。

こうした考えを持つ人は多いのですが、その根拠となる理論構成は、あまりはっきりしていません。私は、説得力のある理論構成に、まだ出会ったことはありません。

なぜこのように呼称することになったかとえば、岩を押しても全く動かないが、一旦、動き始めると、崖から急に転がる様に落ちて行き、止めることができない状況になるのと似ているかららしいです。

黒田総裁の前の日銀総裁白川氏もこの金融岩石論者の考えに近かったと思います。実際白川氏は、2012年5月24日には、「ゼロ金利下では日銀が大量に資金を供給しても、資金はそのまま当座預金に預けられる、のれんに腕押しの状況になっているため、量では金融緩和の度合いは測れない」と発言していましたし、同4月21日には、「中央銀行は国債担保の流動性供給、あるいは国債買い入れを通じて、最終的に際限のない流動性供給に追い込まれる可能性があります。それによる膨大な通貨供給の帰結は、歴史の教えにしたがえば制御不能なインフレです」と発言していました。

日銀前総裁白川氏
資金を大量に供給した場合は、白川氏はハイパーインフレになると考えていたのです。そして、財政ファイナンスという政策が、量的緩和の効果をゼロからハイパーインフレへと非連続的に転換させる、誤った政策である、と考えていたようです。
さて、金融岩石論とは異なる、金融政策の粘着理論があります。

金融政策が効果を発揮するまでには長く複雑なラグがあるが、効果は少しずつ表れるというのが金融政策の粘着理論です。

この理論の詳細については、以下のリンクをご覧になって下さい。
金融政策の岩石理論と粘着理論
あるいは、書籍『アベノミクスは進化する』をご覧になって下さい。

上の記事で、原田泰氏は、「1)マネーと物価は連動している、2)物価はいきなり猛烈に上昇するのではなく半年以上、通常は1年から数年かかる」ことを指摘しているとあります。

原田氏は金融政策の粘着理論を正しいものとしています。2013年4月から、黒田体制の日銀はそれまでの白川体制の日銀の金融引き締め一辺倒の金融政策から、異次元の包括的金融緩和に転じました。以下に、当時の金融緩和政策について振り返っておきます。以下にチャートを掲載します。



その時から、この包括的金融緩和により、金融岩石論ではなく、金融粘着理論に従い日本経済は以下のような段階を踏むはずでした。
1.日銀がマネタリーベースを増やす
2.予想インフレ率が約半年かけて徐々に上昇し、実質金利が下がる
3.消費と投資が徐々に増える
4.外為市場で円安が起こり、徐々に輸出が増える
5.約2年~をかけて、徐々にGDPが増え、失業率が下がり、賃金が上がり、インフレ率も上昇する。その過程で株価も上がる。
金融政策が効果を発揮するまでには長く複雑なラグがありますから、上記のように綺麗に段階を踏むというわけではなく、ある項目のほうが進んだり、あるいは遅れたりしつつ、効果は少しずつ現れたはずです。しかし、これを4、5年も継続していれば、上記すべての項目について達成できたに違いありません。

ところが、ここで番狂わせが生じてしまいました。その番狂わせとは、2014年4月からの消費税増税でした。もし、消費税増税をしていなければ、金融緩和に転じてから4年を過ぎた今頃には、完璧に上の5段階まで到達していたことでしょう。

しかし、経済上の「逆神」たちは、これを無視してアベノミクスは失敗だったとして、ブログ冒頭の田中秀臣氏が指摘するように、岩石理論を主張しているのです。

そうして、今までの推移からでも、岩石理論は完全に間違いだったことがはっきりしています。結局のところ、金融緩和をしてもハイパーインフレには見舞われていません。

それよりも、粘着理論のほうがあてはまっていることがわかります。たとえば、昨年は雇用状況がかなり改善され、その象徴的な出来事として、昨年春の大卒、高卒の就職率は、記録を初めて以来最高となりました。

さらに、金融緩和をはじめたばかりの頃には、これは当然のことなのですが、実質賃金が下がりました。これは、雇用が改善しはじめると、まずはアルバイト・パートや、新人を新たなに雇い入れるため、全体では賃金が下がるのが普通なのですが、経済の「逆神」たちは、「実質賃金がー」と大騒ぎしました。

これも、一昨年あたりからは徐々にあがりはじめています。これは、どう考えても粘着論のほうがあてはまっています。

そうして、物価目標2%は未だに達成されていません。これに関しては、日本の構造的不況はおそらく2.7%以下であるのに、現状では失業率が3%を切っていないので、量的緩和がまだ不十分であると考えられるということを主張しました。

やはり、追加緩和を行い、早期に失業率を3%を切るようにし、物価目標を一日でもはやく達成すべきです。

しかし、金融政策粘着論からいえば、追加金融緩和をしても、緩和した直後に失業率が3%を切り、さらに物価目標をすぐに達成できるわけではありません。少なくとも2年くらいはみるべきでしょう。

それにしても、日本の経済の「逆神」たちは、金融政策の粘着理論を全く理解していないようです。

金融政策の粘着理論の理論的背景などについては、それこそ書籍『アベノミクスは進化する』をご覧になるのが良いとは思いますが、これは、常識的に考えてもわかります。

企業を例にとると、会社の業績が悪くなったときに、業績を改善するには、何か手を打ったとして、即座に良くなるわけではありません。会社の規模にもよりますが、3年から5年はかかるとみるべきではないでしょうか。無論、あまり時間をかけてしまえば、業績が悪くなり過ぎて会社が潰れてしまいますからそんなに時間をかけることはできません。

業績を回復させるために、手っ取り早くまずは、銀行からお金を借りることができれば、そのお金をつかって設備投資や人材の雇用などをすれば、それで短期的に効果があげられ、業績が回復するかもしれません。これは、マクロ経済対策でいえば、財政政策に相当すると思います。

しかし、時流にあったまともなマーケティングやイノベーションをするとなると、それだけではすみません。ただ、設備投資をしたり、人材を採用すれば良いというわけではありません。企業の人々の心をそれ以前と比較して、根本的に変えなければならないわけです。これには、ある程度時間がかかります。これを実施することが、マクロ経済政策でいえば、金融政策にあたるのだと思います。デフレ予想をインフレ予想に変えるにも時間がかかるのです。

このように考えれば、金融政策の粘着性などかなり理解しやすいです。やはり、経済の「逆神」は常識はずれということなのだと思います。

田中秀臣氏は、「こういう人たちの本を読むくらいなら、地に足がついた経済書や議論をしっかりとこの一年読んでいきたいと思っている」と上の記事を締めくくっています。

そうて、田中氏はご自身のブログで"[経済]お正月特別企画:2016年心に残る経済書ベスト20発表!!(ベスト10日本人著者全コメント公開)"という記事を掲載されています。

以下に、その記事のリンクを掲載します。


私も、金融岩石理論のはまらないように、これらの書籍のうち、まだ読んでないものも読んでみようと思いまます。

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2016年11月13日日曜日

コラム:トランプ円安はサプライズではない=村上尚己氏―【私の論評】米国経済に関しても、トランプショックに煽られるな(゚д゚)!


村上尚己氏
[東京 11日] - 米大統領選挙における共和党ドナルド・トランプ候補の勝利と、海外市場で始まった株高・金利上昇・ドル高の動き――。これらは、日本の市場関係者の多くには理解し難い出来事だろうが、筆者にとっては想定内の展開であり、違和感はない。株高・金利上昇・ドル高トレンドは継続する可能性が高い。

まずトランプ氏の勝利は、「とんでもない人物が米国の大統領になることはない」との論調が内外の大手メディアを支配していたため、「サプライズ」だと見なされた。特に日本のメディアは事前の想定が裏切られたことが驚きであるかのような論調に傾いており、例えば「トランプ氏勝利=米国社会の分裂・苦境」といったトーンが目立つ。

ただ、米国の金融市場では、もともと「トランプ大統領」は十分あり得ると認識されていた。「トランプ政権の誕生が深刻なリスクになる」といった議論を、筆者は米国人投資家の口からあまり聞いたことはない。米国メディアの報道や調査にもバイアスはあり、6月の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選んだ英国ショックのような事態が発生する可能性は当然ながら想定されていたためだ。

実際、同僚の運用者の大半は十分な備えを講じていた。つまり、米国市場にとってショックとは言い難いのである。

もう1つ、日本の市場参加者にとってサプライズだったのは、トランプ氏勝利を受けて、欧米市場は東京市場とは真逆の円安ドル高に動いたことだろう。トランプ大統領なら株安となり、安全資産の円が買われるという条件反射的な思惑は外れたわけだ。

振り返れば、日本の為替アナリストの大半は、「円は安全資産」あるいは「米次期政権はドル安志向」とのロジックを振りかざし、米大統領選は円高要因になると論じていた。それに対して、筆者は10月19日付のコラムで「トランプリスクは幻影」と書いたように、円高要因ではないと見ていた。

<「トランプ政権=ドル高」は教科書通りの動き>

さて、トランプ氏が表明している経済政策は多岐にわたり、矛盾しているものが多く、どの程度実現するかは不確実である。ただ、減税を中心に景気刺激的な財政政策が実施される可能性が高いとの見方は、多くの投資家の共通認識だ。

これは、米国の株高・景気押し上げ要因である。当社エコノミストは、米政府の拡張的な財政政策がドル高を後押しすると予想。2017年の米国内総生産(GDP)成長率は財政政策で0.5%程度押し上げられると見ている。

米国でインフレ率が高まり、名目長期金利が押し上げられ、米連邦準備理事会(FRB)が緩やかながらも利上げを続けるなら、理論的にはドル高である。多くのエコノミストにとって、トランプ政権でドル高円安となるのは教科書通りの自然な動きなのだ(トランプ政権がFRBへの介入を強めることは筆者が考える最大のリスクだが、他の政策メニュー同様に不確実で現時点では判断のしようがない)。

それでも日本の金融市場では相変わらず、トランプ氏が掲げる保護主義政策の採用やグローバリゼーション時代の終焉によってドル安がもたらされるとの見方がよく聞かれる。これは、1990年代半ばまで金融市場を支配していた「円高シンドローム」(特にビル・クリントン政権で顕著だった政治的な円高強要と日銀金融政策の機能不全がもたらした現象)が、トラウマとして為替市場参加者に影響している側面が大きいと考えられる。

ただ、現在は当時と異なり、まず黒田東彦総裁率いる日銀は強力なデフレファイターとして生まれ変わっている。また、米政府にとって貿易摩擦の最大相手国が日本だった当時の状況と今は違う。

さらに、そもそも日本のアナリストの多くが予想するドル安政策は米利上げ見通しと整合性がとれていない。実際には、金融政策は引き締め方向で、財政政策は拡張方向に進み、ドル高がもたらされる可能性が高いと筆者は考える。

ドル高の持続性の鍵を握るのは、米経済の成長やインフレ率である。そして、そうした点に変化があるようには見えないため、夏場から述べているように、行き過ぎた円高の修正は続く可能性が高いと筆者は予想しているのである。仮に円高に振れた際には、むしろ投資機会として捉えるのが正しいアプローチではないだろうか。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

【私の論評】米国経済に関しても、トランプショックに煽られるな(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事での、村上氏の結論を以下に整理して掲載すると、
ドル高の持続性の鍵を握るのは、米経済の成長やインフレ率である。これに変化があるようには見えないため、行き過ぎた円高の修正は続く可能性が高い。仮に円高に振れた際には、むしろ投資機会として捉えるのが正しいアプローチである。
ということです。この見方は全く正しいものと思います。そもそも、昨日も述べたように米国の二大政党制には政治の継続性の原則というものがあります。

これは、今回のように大統領も共和党指名の大統領なり、連邦議会も共和党が多数派となり(前回の中間選挙のときにはすでに共和党が多数派)民主党から共和党に政権交代した場合に、前政権とあまりにも政策が異なった場合混乱を招くため、政権交代があったにしても、現政権は前政権の6〜7割は同じ政策を実行し、残りの4〜3割で、現政権らしさを出すといういう原則です。

オバマ大統領の経済政策に関しては、賛否両論はあるものの、ミクロ的には問題があるものの、マクロ的には大きな失敗はなかったと思います。であれば、経済政策に関してもトランプ政権がすぐに極端に変えるということはないでしょう。ただし、中長期では当然のことながら、トランプ氏らしい政策を打ち出すことになると思います。

そうして、実ははトランプ氏の経済政策は意外とまともなものです。それに関しては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
実は意外とまとも!? 「トランプ大統領」の経済政策構想をよむ―【私の論評】米メデイアの超偏向ぶりと、公約の完全実行はあり得ない事を知らないと趨勢を見誤る(゚д゚)!
米共和党全国大会で大統領指名受諾演説をするドナルド・トランプ氏
この記事は、今年の9月22日のものです。この時期では、メディアはトランプ氏が圧倒的に優勢であり、トランプ氏は劣勢であることを伝えていました。

この記事では、トランプ候補が9月15日、ニューヨークのエコノミッククラブの講演会で、自身の経済政策の構想を明らかにしたことと、その内容について掲載しました。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、このときに発表されたトランプ氏の経済政策について以下に掲載します。
トランプ候補は、レーガン以来の大型減税と各種規制緩和、および貿易政策をテコに、10年間で2500万人の雇用を創出し、年平均で実質3.5%成長を実現させる政策を実施すると言及した。 
このうち、大型減税のメニューとしては、以下の3点を挙げている。 
①法人税の大幅減税(最高税率を現行の35%から15%へ) 
②所得税の税率適用区分の簡素化(現行の7段階から3段階へ)と税率の大幅引き下げ(12%、25%、33%の3段階へ)、および各種控除の拡充(子育て費用) 
③相続税の廃止 
一方、規制緩和に関しては、現在、オバマ大統領が推進している「パリ条約」にともなう環境政策の停止(クリーンパワープランを廃止し、石油、天然ガス、石炭の生産増をはかる)がその中心となっている。 
さらには、ニューヨークでの講演では言及しなかったものの、従来から老朽化が指摘されてきたインフラ(道路、橋、鉄道、港湾など)の整備拡充や防衛関連支出の増大も公約に掲げている。 
また、貿易政策では、TPPからの撤退と中国に対する圧力(中国を為替操作国に認定するともに、知的財産侵害や輸出補助金の廃止を中国政府に強く求める)を通じて、米国製造業の輸出を拡大させる政策を提案している。
そうして、このようなトランプ氏の政策に関するエコノミストの安達誠司氏の論評も掲載しました。それを以下に引用します。
このようなトランプ候補の経済政策は、最近のマクロ経済学の流れとほぼ軌を一にする点に注意する必要がある。 
最近のマクロ経済学では、「長期停滞」を脱する経済政策として、金融緩和よりも財政拡大を重視する動きが強まってきている(これは、金融緩和が必要ではないという意味ではない)。 
その意味で、インフラ投資の拡大を掲げるトランプ候補の主張は、「長期停滞」に対する処方箋として有効となる可能性がある(クリントン候補もインフラ整備のための公共投資拡大を政策の一つとしているため、来年以降の米国では、財政支出拡大による景気浮揚が実現する可能性が高まっている)。 
さらに、世界的な長期金利低下の一因として、緊縮財政路線による国債発行量の減少にともなう「安全資産」の相対的な不足を指摘する研究も出てきている(いわゆる「Safety Trap」の議論)。 
前述のように、トランプ候補は思い切った減税を実施する意向でもあるので、税収も大きく減少する見込みだ。そのため、インフラ整備等の公共投資拡大は国債発行増によって賄われる可能性が高い。 
トランプ氏の提唱する財政拡大政策によって米国経済の長期停滞を克服することができれば、米国債は世界随一の安全資産として世界中の投資家に選好されることにもなるだろう。
トランプの経済政策は、実際にはかなり緩和・拡大路線であるようです。勝利演説では、ケインズ的な機動的財政政策としてインフラ投資を中心に行うと発言していました。そして共和党候補としては異例なほど、雇用の創出に力点が置かれていました。まるでニューディール政策の表明のようでもありました。

金融政策については、トランプ氏のFRB(米連邦政制度理事会)の低金利政策批判が有名になっていますが、これはあまり深刻になるとは思えません。なぜなら、先の積極的な財政政策の財源を、トランプ氏は国債の借り換えに求めています。であれば、低金利維持、つまり金融緩和は必要条件です。むしろ急速な金利引き上げには、反対する可能性があります。

さらにいえば、トランプ氏は、現状のFRBの引き締めスタンスの転換を求めるかもしれません。トランプ政権は保護主義的志向という点を除けば、むしろ日本のアベノミクスと似た積極的な金融政策と財政政策の組み合わせを志向する、欧米の伝統的なリベラル政策に近い政策実行するのではないかと思います。

仮にトランプ政権がこのようなリフレ政策的なものを採用し、米国経済が好況になれば、それによって世界経済、ひいては日本経済にも益するところは大きくなることでしょう。

もちろん、これは今のところひとつの可能性にすぎません。
googleはヒラリーが有利になるようにオートコンプリートを操作していた可能性が?

このブログの購読者の方ならご理解いただけるものと思いますが、私はこのブログでは米大統領選に関して、一度もクリントン氏が圧倒的に優勢で、トランプ氏は不利などということは掲載しませんでした。最後の最後まで、両者は五分五分であると掲載してきました。 そうして、それは希望的観測というわけではなく、その根拠も掲載してきました。

しかし、日本のマスコミや、政府、多くの市場関係者等のほとんどは、トランプなど泡沫候補に過ぎず、ヒラリーが大統領になると考えていたことに代表されるように、彼らには先見の明が全くありません。彼らには、私のような一個人のブログよりもものが見えていないようです。

彼らの見方の反対が正しいかもしれないとすれば、現時点のトランプショックを煽る彼らの考え方はまた誤っているかもしれません。

とくに、トランプ氏の"②所得税の税率適用区分の簡素化(現行の7段階から3段階へ)と税率の大幅引き下げ(12%、25%、33%の3段階へ)、および各種控除の拡充(子育て費用)"の政策が実施され、大きな成果を収めた場合、8%増税をしても日本経済への影響は軽微などと語っていた人たちの信用は地に堕ちることでしょう。

いずれにせよ、経済面でも円高などのトランプショックをいたずらに煽るのは間違いであるとはいえると思います。そうして今のところは、トランプ大統領により米国経済が良くなるならないはまだ五分五分であると考えておくべきです。

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2016年8月21日日曜日

片山さつき議員が貧困女子高生問題に言及「パソコン買えるのでは」「NHKに説明を求める」―【私の論評】NHKが貧困を煽るのは馬鹿か常識知らずかその両方で、いずれにしても酷すぎ(゚д゚)!

片山さつき議員が貧困女子高生問題に言及「パソコン買えるのでは」「NHKに説明を求める」

貧困女子高生を取り上げたNHK ニュース、この女子高生は実は貧困ではないのではなかとされ様々な憶測を生んでいる

NHKの貧困女子高生問題を片山さつき・自民党参院議員が取り上げてNHKに説明を求めると話しています。

片山議員は8月20日夕方から数回に渡ってTwitterでこの問題に言及、貧困女子高生の外食やキャラクターグッズ購入を指摘して中古のパソコンを十分買えるのではないかとしてネットの不信感に理解を示し、経済的な理由で進学できないのであるのなら奨学金を始めとする各種の施策で支援可能ではないかと語っており、貧困女子高生のようなケースに返済義務のない奨学金が活用可能であるのか、NHKに説明を求めるとしています。

NHKニュースのキャプチャ画像
片山議員は問題の番組を見て経済的な理由で進学を断念したという貧困女子高生の夢を叶えてあげたいと思っていたところネットからの指摘で女子高生の散財を知り驚いたそうで、貧困女子高生がTwitterに載せていた外食について「一食千円以上。かなり大人的なオシャレなお店で普通の高校生のお弁当的な昼食とは全く違う」として疑問を抱いているようです。

この問題では貧困状態の定義が議論になっており女子高生の生活それ自体を批判するというスタンスに対しては否定的な意見も根強いものの、NHKの報道に対しては厳しい声が多く、YouTubeで公開されている動画への評価は8月21日朝の段階でBadが2,150回に対しGoodはわずか54回と、貧困女子高生を取り上げた報道それ自体が支持を得られていないのが鮮明となっています。

こうした背景の一つには貧困女子高生が2016年春の段階で既に神奈川県内の高校生による選挙啓発運動に参加していたことが判明しているなど政治的な取り組みにも積極的である点から報道に何らかの思惑があったのではないかとの憶測も影響しており、取材に至った理由やこの女子高生を取り上げた経緯についての説明を求める人が多いため片山議員の発言は期待感を持って受け止められているようです。

【私の論評】NHKが貧困を煽るのは馬鹿か常識知らずかその両方で、いずれにしても酷すぎ(゚д゚)!

さて、この件では、ネット上でかなり情報が乱れ飛んでいます。中には、この貧困女子高生(杉山麗)の自宅住所に赴いて、NHKニュースではエアコンがないとされていたにもかかわらず、この女子高生の自宅にはエアコンの室外機があることを示す写真をネットに掲載する人間もいるほどです。

このような動きに対して、不安を感じたのか、貧困女子高生の妹なる人物が以下のようにツイートしています。


ここまで、やるのは実際やり過ぎであるとは思います。結局、この問題は、貧困とされる女子高生にはあまり問題はないと思います。(全く問題がないというわけではない。)

問題はどうしてこのような事実と異なる放送がされてしまったかです。放送中には大量の漫画、アニメグッズ、高価なペン(2万程)があるのが映っており、明らかに貧困に苦しむ家庭という雰囲気ではありませんでした。本当に貧困で困っている人からすれば迷惑な話です。

この放送についてはNHKの戸田有紀記者が深く関与しているのではないかと囁かれているます。

その根拠として、以下のような事実があります。
(1)うららさんがスピーチをした「かながわ子どもの貧困対策会議」の出席者名簿に「戸田有紀(NHK報道局 遊軍プロジェクト 記者)」の名前がある。同会議では76億円規模の貧困対策予算の使い道を検討する。 
(2)「子どもの貧困対策センター設立準備委員会」に設立に賛同すると「NHK記者 戸田有紀」の名前で署名がある(2015年)。左翼リベラル系が多数散見される。
(3)安保法案に反対する署名「安全保障関連法案の廃案を求める和歌山大学有志の会の声明」に参加している。※ただし、こちらについては同姓同名の可能性あり 
これらを受けてネット上では「以上を総合して考えると共産党系組織が政治のためにやっているとしか思えない」、「これは貧困ビジネス」、「同情されやすい女子高校生を意図的に使った」などと指摘され始めています。

おそらく、以前から貧困問題に対して強い問題意識を持っていた戸田有紀記者は貧困対策会議にて、うららさんと出会い、出演を依頼。撮影中に貧乏ではないと気づいたものの、番組をつくりあげるために事実を捻じ曲げて故意に感動的なストーリーを演出したと思われます。

それにしても、貧困率のデータは、2012年(平成24年)のものです。現在は、2016年(平成28 年)ですから、4年も前のデータです。NHKは、貧困率は4年前と、現在も同じと考えているのでしょうか。ただし、貧困率のデータは、最新の「こども白書」などをみても、最新のものでも平成24年のものしか掲載されていません。おそらく、数年に一度新しい統計を出すのだと思います。

この4年間で、日本もかなり変わっています。特に、平成13年からそれまで、金融引き締めばかりしていた、日銀が金融緩和に転じています。そうして、ここから、雇用が劇的に改善されています。相対的貧困率に関する直近のデータはありませんが、以下に最低賃金と完全失業率のグラフを掲載します。

最低賃金が上がってるのですから、この貧困女子高生の母親はバイトをしているそうなので、この人の賃金も上がっているはずです。さらに、高校生や、大学生の就職率も劇的に良くなっています。4年前とは天と地との差です。就職率に関しては、今年は数十年ぶりの良さだったそうですから、まさに天と地です。貧困率も、4年前と比較するとかなり良くなっていると思います。

しかし、野党やマスコミなどは、金融緩和の意義をほとんど認めません。そもそも、金融緩和と雇用の改善との間の相関関係を全く認めていません。彼は、貧困率とは構造的なものとでも思っているのかもしれません。

だから、4年前の古い数値を使って、ことさら貧困率を強調して、安倍政権を叩こうとしたのかもしれません。しかし、その試みは、ネット民によって頓挫させられたようです。

国会での説明資料
今回の出来事は、上記のような見方ができると思います。しかし、別の見方もできます。戸田有紀記者をはじめとして、NHKの職員の平均給与は、NHK の正職員の平均年収は、1780 万円、30歳で2000万円以上の人もいるとか、部長になると3000万もの人もいるとか、これに対して 契約アナは150~200万に過ぎないともされています。

そんなNHKが貧困を取り上げるというのも、不思議な感じがします。そもそも、このようなまるで、貴族様のような生活を送ってるNHKの正職員様からすると、この女子高生の生活は貧困そのものに見えるのかもしれません。そもそも、本当の貧困など想像もつかないのかもしれません。


NHKが貧困を煽るのは、とにかく安倍叩きをするためには、事実の歪曲でもなんでもするという馬鹿さ加減によるものか、現代の本当の貧困とはどのようなものなのかという常識もないためなのかいずれかか、あるいは両方で、いずれにしても酷すぎるということです。

日本を代表すNHKがこの有様なのですから、改めて、日本のテレビの低水準ぶりが露呈してしまったということです。

それと、この貧困問題の煽りですが、NHKは朝日新聞とコラボでこれを安倍政権叩きの柱にしようとしていた形跡があります。

朝日新聞は、今年の5月からシリーズ「子どもと貧困」という特集を組んでいます。一部ピックアップしておきます。

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"
この朝日新聞のシリーズでは、日本の貧困率は、2009年時点の15・7%が用いられています。2016年現在とは、比較にならないものと思います。おそらく、朝日新聞も、貧困問題と金融政策の間には何も関係はなく、貧困は構造問題だと思っているのでしょう。

メディアや左翼リベラルの貧困問題の捉え方は、著しく偏っています。というより、これは意図的に画策されたものとみなすべきかもしれません。

おそらく、「保育園落ちた、日本死ね」の二番目のどじょうにしようと画策したのでしょうが、最初からネタバレで、これでは他のメデアは乗ってこないでしょうから、頓挫してしまったようです。

相対的貧困率は、所得ベースで計算しますから、年金生活者が多い少子高齢化社会では貧困率が高く出ます。所得と資産は全く異なり、所得が少ないから、貧困者というわけではないのです。日本の場合、少子高齢化で年金生活者など所得の少ない人が急増していますのでデータに多きな歪みが出ます。貧困を語る場合、資産を無視した議論は成立しません。

親の所得が少ないため貧しい子供も居ますが、親に所得があってもお金を持たない子供がいたりします。その理由は様々で 親の浪費もあれば、教育方針もあるるし、子供のお金の使い方にも依存します。また、心の豊かさと貧しさというものもあります。これは、簡単に一律に解決など出来る問題ではありません。

子供の貧困問題も保育園問題と同じように、政治的キャンペーンで煽る手法には、私は大反対です。こんなことをすると、かえって問題がこじれてしまい解決できなくなってしまうことも考えられます。問題を一度整理して、権利義務関係、行政と個人 の責任分担など出来ることを冷静に切り分ける必要があります。貧困問題の対策をすべて国や行政だけが、実行するというのは、共産主義的であり、個人の権利まで侵害することにもなりかねません。
【資料】

ブログ冒頭の記事の動画ですが、比較的短期間で削除されてしまう可能性もあるので、以下に音声を文書化したものを資料として掲載しておきます。

経済的な理由で進路の選択が難しい学生たちが、みずからの言葉で貧困の現状を訴えるイベントが18日横浜市で開かれ、学生たちは「子どもの貧困は日本にも存在していることを理解してほしい」と訴えました。 
厚生労働省によりますと、日本では平成24年の時点で6人に1人の子どもたちが貧困状態にあるとされ、国や自治体には将来に不安を抱える子どもたちへの対策が求められています。 
神奈川県はことし5月、経済的に厳しい状況にある高校生などを委員とした会議を設置し、当事者の声を生かした対策作りを進めていますが、18日は学生たちが企画したイベントが横浜市で開かれ、高校生や教職員などおよそ100人が参加しました。 
イベントでは、学生たちがみずからの体験を講演し、このうち委員の1人で経済的な理由で、希望する専門学校への進学を諦めた高校3年生のうららさんは「みんなが当たり前に持っているものが自分の家にはない。みんなが普通にできることが、自分の家ではとても困難。自分は貧困なのかもしれないと思った」と話しました。 
そのうえで、うららさんは「貧困の子どもが大人になり、同じような生活を強いられ、この状況が繰り返されることで未来の子どもも貧困になってしまうかもしれない。その子たちには、私のようにお金という現実を目の前にしても諦めさせないでほしいです。現実を変えるために、子どもの貧困は日本にも存在するのだと理解してほしい」と訴えました。 
神奈川県では、子どもたちの意見を取り入れて、今後公的な支援策などをまとめたホームページを作成するなどの対策を進めたいとしています。 
経済的な壁 夢を諦める高校生も 
みずからの体験を語った高校3年生のうららさんは、経済的な壁に直面し、進学を諦めざるをえない状況に追い込まれています。 
うららさんは、小学5年生のときに両親が離婚し、現在は一緒に暮らす母親が働きながら家計を支えていますが、経済的に厳しい状況です。自宅のアパートには冷房はなく、夏の時期はタオルに包んだ保冷剤を首に巻き、暑さをしのぐ毎日です。自分の家が経済的に厳しいことについて実感させられたのは、中学時代の授業だったといいます。パソコンを持っていなかったうららさんは、授業で先生に「ダブルクリックして」とか「画面をスクロールさせて」などと言われても、ついていくことができませんでした。母親からは千円ほどのキーボードだけを買ってもらい、一生懸命練習したことは忘れることができない出来事でした。 
うららさんは「みんなが当たり前にできることが自分だけできない。置いて行かれている。こんな自分が惨めだと思った」と当時を振り返ります。 
うららさんは塾にも行けませんでしたが、公立の高校に進学し、現在は、生徒会長を務めています。 
進路を選ぶ3年生の夏を迎えたうららさん。絵が好きで、アニメのキャラクターデザインの仕事に就きたいと、専門学校への進学を希望していましたが、入学金の50万円を工面することが難しく、進学は諦めました。 
うららさんは「私はいちばん不幸だなと思った。夢を持っているのになんで目指せないんだろう」と話し、経済的な理由で将来の選択肢が狭まっていくのを感じています。学校の担任から、夢を諦めずにさまざまな技術を学ぶことができる公的な職業技術校への進路を提案され、家計を助けるためには就職か技術校に進むのか今も迷い続けています。 
うららさんは「夢があって、強い気持ちがあるのに、お金という大きな壁にぶつかってかなえられないという人が減ってほしい。いろいろな人に知ってもらって、助けられていく人が増えてほしい」と話しています。 
「知らないこといっぱいあった」
講演を聞いた横浜市の高校2年生の生徒は「今振り返ると昔の友達で貧困の子がいたかもしれないと思いました。きょうの講演で気づかされたことが多かったです」と話していました。 
横浜市の高校2年の男子生徒は「自分の生きている世界と全然違って、苦しい生活をしている人がいると初めて知って驚いた。周りで大変そうな人がいたら力になりたい」と話していました。 
参加した高校の男性教諭は「知らないことがいっぱいあったので、子どもたちをもっと見るようにしなければと感じた」と話していました。
講演を終えたうららさんは「皆さんが貧困の問題を知りたいという気持ちが伝わってきたので必死でやりました。子どもの貧困の問題がもっと社会に認識され、対策も進み、将来子どもたちが未来を諦めずに済むような社会になればと思う」と話していました。 
子どもの貧困率 最悪に 
厚生労働省によりますと、貧困状態にある18歳未満の子どもの割合を示した「子どもの貧困率」は、平成24年時点の推計で子ども6人に1人の割合に上り、調査をはじめた昭和60年以降、最悪となっています。 
なかでも、母子家庭など「一人親世帯」では半数以上が貧困状態で、先進国の中でも最悪の水準です。こうした子どもの貧困は、進路にも深刻な影響を及ぼしています。厚生労働省が平成23年度に行った調査では、一人親世帯での大学や専門学校などへの進学率は40%余りで、ことし5月時点での全世帯の進学率と比べて、およそ30ポイント低くなっています。また、文部科学省がおととし行った調査では大学や短大を「経済的理由」で中退した若者は1万6181人に上り、全体の20.4%を占めて最も多くなっていて、前回5年前の調査より6.4ポイント増え、貧困が子どもたちの将来に大きな影を落としています。 
さらに子どもたちが経済的な理由で学習の機会を失うことで、将来十分な収入が得られず親の貧困が子どもにも引き継がれる「貧困の連鎖」が広がっています。

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