2018年2月21日水曜日

【国防最前線】政府は部隊・装備の必要性示せ 100%安全な乗り物なし、事故があればひたすら謝罪では…―【私の論評】政府は、装備品の調達システムを変更せよ(゚д゚)!

【国防最前線】政府は部隊・装備の必要性示せ 100%安全な乗り物なし、事故があればひたすら謝罪では…

沖縄県うるま市・伊計島の砂浜に不事着した米軍UH1ヘリコプター=今年1月
 佐賀県での陸上自衛隊ヘリコプターの墜落事故後、政府関係者は平身低頭で、ひたすら謝罪をしている。腫れ物に触るようにわびている姿に、口には出さないまでも憤りを感じている自衛官が全国に少なからずいる。

 「なぜ、殉職した隊員に対する弔意を表さないんだ」と。

 これには、「民間人に多大な被害と迷惑をかけたのだから、当たり前だ」「関係議員や防衛省の苦労を分かっていない」と反論したい関係者もいるだろう。

佐賀県神埼市の民家に陸上自衛隊の戦闘ヘリコプターが墜落した事故で、陸自は7日、墜落現場付近で、
現場検証を続けるとともに、落下した部品などの回収を始めた。写真後方はヘリが墜落し炎上した民家
 事実、基地や駐屯地を置いてもらうということは長年にわたる交渉努力と、防衛予算の中から多大な金額を割いて折衝してきた成果である。だが、悔しい、やりきれない気持ちは隊員たちの偽らざる本音である。政治的な事情など知らない隊員には、政府の姿勢は非情にしか映らない。

 私が事故がある度に感じるのは、国が装備などの安全性を約束しようとするのは無理があるということだ。安全性を追求することは大事だが、その部隊や装備がなぜ必要なのかという「必要性」は、ほとんど語られない。あたかも自衛隊や米軍は迷惑なもので、地元に我慢して置いてもらっているかのようだ。

 防衛予算における基地対策費は多額で、米軍だけでなく地方自治体の要望に応じているものも多い。いずれにしても、訓練の必要性が語られないまま、事故が起これば飛行停止ということを繰り返せば、操縦士や整備員の練度をどう保てばいいのか。100%安全な乗り物などなく、高い安全性を証明できたとしても不安を持つ人がいる限り、理解は得られない。

 一方、米軍機による事故も多発している。米政府監査院などは「訓練時間の不足」「部品が間に合わず整備不良になっている」といった調査結果を公表している。第7艦隊や海兵隊、空軍も、同様の結果となっている。原因は、オバマ政権時代の大幅な予算削減であることは明確なようだ。

 朝鮮半島危機や南シナ海で中国の活動が活発化していることで、警戒・監視の実任務が増えているのに、人や部品が足りないという。

 同じことが自衛隊にも起きている。今回の事故原因と結びつけることは避けたいが現実である。

 佐賀の墜落現場では、自衛隊による機体の回収が続けられている。いつものような災害派遣ではなく、「加害者」となった自衛隊にお礼を言う人もいない。田畑も私有地であれば所有者を探し、お願いすることから始めなくてはならず、途方に暮れる作業だ。

 だが、もし予算不足と任務増加が、日米ともに事故多発につながっているとしたら、彼らは「被害者」である。無意識の加害は他にもあり、航空機が予防着陸すると騒ぎ立てられるが、それに躊躇(ちゅうちょ)して事故になったら、誰が責任を取るのか?

 そうならぬよう、政府には「謝罪よりも必要性の説明」を求めたい。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 防衛問題研究家。1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。テレビ番組制作などを経て著述業に。防衛・安全保障問題を研究・執筆。著書に『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)、『自衛官の心意気-そのとき、彼らは何を思い、どう動いたか』(PHP研究所)など。

【私の論評】政府は、装備品の調達システムを変更せよ(゚д゚)!

上の記事では、装備品の説明責任を果たしていない政府の責任を追求していましたが、自衛隊の装備品に関しては、その調達方法そのものにも問題があります。

8月31日、防衛省は来年度予算の概算要求で、過去最大となる5兆2551億円の計上を決定しました。昨今は概算要求から漏れた装備を当年度の補正予算で購入することが慣例化しており、昨年度の補正予算は約2000億円でした。本年度補正予算を含めると来年度の実質的な防衛予算は5兆5000億円近くなる可能性があります。

では、膨らみ続ける防衛予算は適正に使われているのでしょうか。  

課題は多いです。たとえば自衛隊では米軍と同じ機関銃(ベルギーのFN社のMINIMIをライセンス生産したもの)を採用しています。これは型式が古いうえに、品質的にもオリジナルより劣っているのですが、米軍の10倍の単価約400万円を支払って調達しています。防衛予算を増やす前に不要な支出を抑える努力をすべきでしょう。

諸外国ではどのような装備をいつまでに、いくつ調達を完了し戦力化し、その予算はいくらになるという計画を立てます。議会の承認も必要です。ところが防衛省・自衛隊の調達ではほとんどそれがないのです。

装備にしてもどれだけの数をいつまでに調達・戦力化し、総予算はいくらになるかを明記した計画がなく、国会議員もそれを知らないのです。各幕僚監部内部では見積もりを出してはいるのですが内輪での話であり、議会が承認しているわけではありません。

国会はその装備がいつまでに、いくつ必要で、総額がいくらかかるかも知らずに、開発や生産に許可を与えているのです。このため調達自体が目的化して、いたずらに長期化することになります。

最近の事例では、陸上自衛隊が3月から導入する新しい制服が、全隊員への配布を終えるまで約10年かかることが今月19日、分かりました。15万人分を一括でそろえられるだけの予算確保や生地の調達ができないためですが、陸自隊員には時間がかかりすぎることへの不満や士気の低下への懸念が広がっています。自民党国防族も問題視しており、防衛省に調達計画を前倒しして配布期間を短縮するよう求めています。


これは、たまたま制服の事例ですが、日本で小銃の調達ですら、このような曖昧なことが行われています。

具体例として89式小銃を見てみましょう。1989年に調達が開始された89式小銃は28年経った2017年現在まで調達が完了していません。それでも調達計画がたとえば30年と決まっているならまだしも、それすらも決まっていないのです。諸外国では小銃の更新は6~8年程度、長くても10年ほどです。この少量調達をダラダラ続けているために89式小銃の調達単価は40万円と、同時代の他国の小銃の7~8倍にもっています。

89式小銃
ドイツの状況をみると、日本との差が明確に浮かび上がります。ドイツ連邦軍は現用のG36小銃の更新を計画していますが、12万丁の新型小銃を2019年4月から2026年3月までの7年間で調達する予定で、予算は2億4500万ユーロ(約300億円)と見積もっています。

ただし、2015年にはこのG36が、連射による過熱によって命中精度が著しく低下するという問題について、製造元H&K社・国防総省・軍の3者間で緊張が高まっていました。軍・国防総省は2015年4月の再監査において欠陥は自動小銃の設計上の問題であるとし、これにH&K社は強く反論していますが、2015年7月7日、軍の調達本部(Bundeswehr-Beschaffungsamt)は、H&K社に対し納入分全17万丁の引取りないしは改修を命令するよう裁判所に申し立てていました。これに対しH&K社は同日、国を相手取り「欠陥は認められない」と反訴していました。

ドイツ連邦軍の現用のG36小銃
業者からすれば、一つの小銃の採用が決まればドイツのように短期のうちに、納入するというのであれば、莫大な利益になることは間違いありません。そのため、このような問題も生じるという問題もあります。

ドイツでは新しい小銃の候補はこれから絞られますが、光学照準器や各種装備を装着するためのレールマウントを装備し、同じモデルで5.56ミリおよび7.62ミリNATO弾を使用する2種類の小銃を調達すことになっています。

フレームの寿命は最低3万発、銃身寿命は1万5000発(徹甲弾は7500発)以上が求められています。調達予算には光学サイト&ナイトサイト、メカニカルサイト、銃剣、クリーニングキット、サプレッサー、通常型弾倉とドラム型弾倉、二脚、フォアグリップ、ダンプポーチ、輸送用バッグが含まれており、オプションとして射撃弾数カウンターと2連装弾倉ポーチが挙げられています。こういう情報が、入札が行われるはるか前に公開されているのです。

それに対して日本はどうなのでしょうか。防衛省・自衛隊は国会にこの程度の情報すら公開していないのです。89式に関して国会議員は何丁が、いつまでに、総額いくらで調達されるかも知らないのです。このような過剰な秘密主義は民主主義国家の「軍隊」ではありえないです。防衛省や自衛隊の情報に対する考え方はむしろ中国や北朝鮮に近いかもしれません。

ドイツ連邦軍は、日本の89式調達単価の6割の予算、4分の1以下の期間で、最新式の小銃と豊富なアクセサリーをそろえることができるのです。かつてドイツ連邦軍が旧式のG3小銃がG36に更新したときもおおむね7年程度で終了しています。これが「普通の国」の調達なのです。残念ながら防衛省・自衛隊にはこのような「計画」が存在しません。

なぜ「計画」が存在しないのでしょうか。原因は防衛省・自衛隊の装備調達人員が諸外国に比べて圧倒的に少なく、業務の質も高くないことにあります。このために当事者能力が欠如し、調達のあり方が「無計画」にならざるをえないのです。

たとえば主要装備などの仕様書をメーカーに丸投げしているのは公然の秘密です。競争入札で特定の企業が仕様書を書けば、当然自社に有利な仕様書になります。これでは競争入札の意味がありません。また調達されている装備が適正かどうかをチェックする人員もいないのです。

防衛装備庁の人員は総兵力24万7000人に対して約2000人だ。他国の国防省や軍隊と単純比較はできないが、予算規模や人員の規模が近い英独仏などの主要国の国防省と比べると、人員が1ケタ少ない状況です。

総兵力15万5000人の英軍を擁する英国防省の国防装備支援庁の人員は約2万1000人(対外輸出関連部門はUKTI、通商投資庁に分離統合されたので、実態はさらに大きい)です。兵力がわずか2万2000人のスウェーデン軍の国防装備庁ですら3266人を擁しています。自衛隊の調達人員がいかに少ないかがわかるというものです。

スウェーデン国防軍最高司令官の日本訪問 平成27年3月2日(月)
人数が少ないだけではありません。そのうえ効率も悪いです。これは先述のように自衛隊の装備調達が長期にわたって少量ずつ行われるためです。諸外国が5年ほどで完了する調達を20年かけて行っていたりするのです。

仮に調達ペースが諸外国の1万人に対して1000人、調達期間が4倍だとしましょう。装備調達というものは1個調達しようが1000個調達しようが、同じ人員が拘束されるのです。そのため防衛省の調達人員の生産性は諸外国の4分の1程度になります。つまり1000人の人員は250人しかいないのと同じです。これは10倍の人員の差が実に40倍になってしまう計算です。

効率が悪いために、東京・市ヶ谷の防衛省、防衛装備庁、内局、自衛隊の各幕僚監部の調達担当者は極めて忙しく仕事をしています。帰宅は恒常的に遅く、防衛省に寝泊まりすることも少なくないです。各部隊など地方調達の担当者も同様です。長時間の過重労働が恒常化しています。調達システムに問題があり、生産効率が低いためです。システムの構造的な欠陥を現場のガンバリズムで支えているのが現状であり、調達システムを見直すような余裕はありません。

効率的な調達システムを採用し、調達期間を短縮するだけで、人員を増やすことなく、現在の調達人員を数倍に増やすのと同じ効果を得ることが可能なのである。調達改革を早急に行うべきでしょう。

自衛隊というと、最新式の装備の導入が話題になったり、憲法改正のことばかりが話題になりますが、装備品の必要性に関する説明責任がじゅうぶんなされず、さらに調達方法がこれだけ歪なのですから、まずはこのあたりを大改革を行うべきです。

まずは、政府としては防衛大綱に直接結びつく、自衛隊の装備品に関してそれがなぜ必要なのか、説明責任を果たすとともに、装備品の調達システムも変更して、効率をあげるべきです。

仮に、最新鋭の装備品が導入され、憲法が変わったにしても、このあたりが変わらなければ、何も変わらないのです。私は、自衛隊に関しては憲法改正の前にやるべきことは、山積していると思います。

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