各国の感染者数「最新の状況」
先週、海外ニュースや海外市場は、新型コロナウイルスの世界的な広がりで大混乱だった。
先週の本コラムでは、各国の感染者数と武漢との距離を表すために次の図を出したが、国別の感染者数では韓国が突出しており、多い順にイタリア、イラン、日本であった。
今週これを更新すると、次の図になる。
感染者数で韓国、イラン、イタリアが図抜けているが、フランス、ドイツ、スペインが日本の上になっている。
相変わらず日本のマスコミは、日本の感染者にクルーズ船の乗客を含めて、過大な数字にして報道しているが、クルーズ船の感染者数はWHOの統計上も日本の感染者ではない。日本とクルーズ船の数字を合わせて報じるのは、誤報ともいわれかねない。
現在はアメリカのカリフォルニア沖にクルーズ船があり、船内感染が起きている模様だが、この数字をアメリカの感染者数に含めて報道したら、アメリカ大使館から抗議が来るだろう。それくらい、日本のマスコミ報道はおかしい。
日本は感染国とは言えないほどの数字だ。
なお、中国の発表する感染者数が増えていないので「すでに中国では終息している」という報道もある。
しかし、中国の統計データは先月に3度も統計変更があったが、通常は変更後と変更前の複数時系列が発表されるべきところ、そうした措置は見当たらず、信用ができない。習近平主席の発言にあわせて統計数字が作られているふしもある。筆者の推計値とも乖離があるので、信用していない。
いずれにしても、世界中が新型コロナウイルスを恐れている。新型コロナウイルスの致死率は、かつてのSARSほど高くなく、例年のインフルエンザより少し高い程度といっても、人々は恐れる。1年もすればワクチンができると言っても、やはり恐れる。それが、市場の混乱を引き起こしている。
「恐怖指数」は同時多発テロ並み
筆者は仕事柄、欧米のニュースを日頃見ているが、連日新型コロナウイルスの話ばかりだ。スポーツ番組でも、7月の東京五輪ができるかどうかという話題だ。プロ野球や大相撲が無観客試合になったことも報じられている。
こうした雰囲気を受け、アメリカの株式市場は乱高下だ。
FRBは、金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)について、定例の17、18日を待たず3日に緊急で開催し、政策金利0.5%の引き下げを行った。
これに対して株式市場は反応せず、ダウ平均は785ドル安だった。それほど、新型コロナウイルスはアメリカ人にとって脅威なのだろう。
アメリカ市場では、今後30日間の米株式市場の予想変動範囲を算出し、それを「恐怖指数」と呼んでいる。
過去のリーマンショック時には90近くまで上がった。NY同時多発テロ、アジア経済危機、ギリシャ危機などの時には、50近くまで上昇した。今回のコロナウイルス騒ぎでも、2月末に50近くまでにあがった。
この意味で、今回はリーマンショックほどではないが、過去の大きな経済危機並みに、アメリカの投資家心理に影を落としていると言えるだろう。
トランプ大統領は、コロナウイルスを過度に心配している。11月に大統領選が控えているいま、対応に不手際があると、再選が危うくなるからだ。こうした危機管理は国民の生命に関わる話なので、政治家は細心の注意を払うのだ。
ようやく尻に火がついた
実は日本でも、アメリカの恐怖指数と同様の数値「日経平均VI」がある。市場が予想する日経平均株価の将来1ヵ月間の変動の大きさ(ボラティリティ)を表す数値だ。
これを見ても、過去10年間で株式市場は最もナーバスになっていることがわかる。
現在は、安倍政権にとっても最大の試練になっている。どこの国であれ、危機管理ができない政府は国民から見捨てられるのが運命だ。
本コラムでは、安倍政権の初動、特に1月28日の感染症指定のミスを厳しく批判してきた。これを上手くこなせなかったために、水際阻止ができず、結果として中国からの全面的な入国制限やクルーズ船入港阻止もできなかったからだ。
ただしここにきて、ようやく安倍政権の尻に火がついたようだ。習近平主席の訪日延期は当然だ(2月10日付筆者コラム「新型コロナウイルスで『習近平訪日は中止』か…状況はかなり厳しい」)。
習近平主席の訪日延期がようやく決まったのが3月5日。これは、天皇謁見は30日前までに申し込まねばならないという「30日ルール」があり、さすがに1ヵ月前には予定を立てざるを得なかったのだろう。
急に始まった対策の数々
そして習氏の訪日延期発表の3時間後に、ようやく中国と韓国からの全面的な入国制限を実施することが決まった。遅きに失したとはいえ、やらないよりマシだ。
その後、安倍政権は吹っ切れたようだ。次々に対策が出てきた。
筆者は様々なメディアにおいて、日本政府がやるべき対策を述べてきたが、完全ではないものの、安倍政権はそれらの対策を矢継ぎ早に決定している。
筆者は3月4日、「生活用品の買い占め対策には、買い占め売り惜しみ防止法や古物営業法を使え」と言った。そうしたら翌5日、〈マスクの買い占め ネット転売禁止へ 政府総合対策取りまとめ〉と報道された。
買い占め防止には現行制度でも様々な方法があり、役人出身の筆者にとって対策をあげるのは難しくない。重要なのは、それを行う政治的な意思である。こうした対策について、国会議員からも質問主意書が出ている(2月10日、「マスクの買い占め・転売行為に対し、物価統制令、国民生活安定緊急措置法、買い占め防止法等を活用することに関する質問主意書」)。
政府は2月21日に「そうした状況でない」と答弁していたが、3月5日には一転して対応を始めた。安倍政権も追い込まれた上の決断だ。
残すは「消費減税」か
また新型コロナウイルスにより打撃を受けている旅行業界、観光業界、イベント業界、飲食業界などでは、緊急融資制度が必須になる。中国人観光客が来ず、国内のイベントも3月末までは中止が相次いでいるので、関係業界の経営は深刻である。
筆者は緊急融資制度について、「マイナス金利を活用して行うべき」と3月2日から言っている(https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/1234395211410788352、https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200306/dom2003060004-n1.html)。
すると3月7日、〈中小・小規模事業者などに実質無利子・無担保融資〉という報道があった。これは、マイナス金利とはいかないが、それでも従来の緊急融資制度より一歩前進するものだ。
これまで筆者が提言した政策で、残されたものは「消費減税」である(「日本経済『コロナ恐慌』回避への“劇薬政策”投入あるか 日銀談話の影響は限定的 識者『10兆円補正』『消費減税』提案」)。
5月18日に1-3月期GDP速報が発表されるが、マイナスになるのは確実である。10-12月期もマイナス(3月9日に2次速報の公表)で、2期連続のマイナスだろうから、2020年度補正予算が必要となっているはずだ。
幸いにも、4月の習近平主席訪日が延期となったので、国会日程はかなり楽だ。もともと4月以降に通すべき重要法案もあまりないので、補正予算編成の絶好のチャンスだ。
経済政策は国民の生命を守る
政府は、2年を限度に新型コロナウイルスを新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に加える改正案を準備し、10日に国会に提出し、13日の成立をめざす。そこでは、財政措置は最小限度のはずなので、本格的な景気対策は4月以降になるだろう。そこで、何とか、新型コロナウイルスがもたらす景気後退を防がなければいけない。
経済政策こそ、国民の生命に関わる問題である。
公衆衛生学者デヴィッド・スタックラーと医師サンジェイ・バスが著した『経済政策で人は死ぬか? 公衆衛生学から見た不況対策』という興味深い書がある。いくつかの事例から、不況や経済危機における政府の政策対応如何により、人々の健康状態、ひいては生死に大きな影響が及ぼされるという主張だ。経済政策はどんな薬、手術、医療保険よりも命に関係するという彼らの言葉を、経済政策を研究する筆者も首肯したい。
新型コロナウイルスには、経済政策までやって初めて打ち勝てるのだ。
【私の論評】日本は的確な経済・金融政策を実行し、年間自殺者数2万未満の現状を維持せよ(゚д゚)!
日本では今、武漢肺炎対策としての経済対策が話題になっています。現状で世界中の国々が、防疫によりウイルス封じ込めに躍起になっています。そうして、このウイルスの蔓延が終息しようとしまいと、経済に与える悪影響は免れることはできず、これに対する経済対策が実行されることになるでしょう。
いずれの国でも、ウイルス対策に限らず、不況に陥ると経済政策をどのようにするべきか、議論されます。しかし、結局のところ、どのような政策が良いのでしょうか。そして、その決断を、イデオロギーや経済理論だけを頼りに行って、良いのでしょうか。
このような疑問に答えてくれるのが、冒頭の高橋洋一氏が紹介している『経済政策で人は死ぬか? 公衆衛生学から見た不況対策』という興味深い書籍です。
『経済政策で人は下か?』の表紙 |
世界規模の不況に陥ったとき、国ごとに経済政策は異なり、それによって国民の運命も異なる方向に動かされてきました。公衆衛生学者と疫学者である本書の著者は、そのことを利用して政策の優劣を比較しました。
つまり、過去の各国の政策選択とその結果のデータを、世界恐慌からソ連崩壊後の不況、アジア通貨危機、そしてサブプライム危機後の大不況まで調査し、比較したのです。
ソ連崩壊後の不況に関しては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本経済は後半に回復する 増税スキップ&大型景気対策で中国・EUの不安払拭―【私の論評】殺人政策である10%増税見送りは当然!まともな経済対策で日本は再度成長軌道に乗る(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとて、この記事にはロシアの平均寿命の推移(上グラフ)を掲載しました。
このロシアの例では、ソ連崩壊後の不況においては、ロシア人男性の平均寿命が57.6にまで下がったことがあったことがわかります。経済政策のまずさによっては、人は死ぬのです。
比較の指標は、国民の生死です。政策の違いによって、国の死者数は増えたのか減ったのか、健康状態や平均寿命などがどう変化したかを比較しました。経済政策は、国の借金返済や構造改革、景気刺激など、さまざまな目的で行われますが、そもそも国民に死を強いるようでは元も子もありません。結果はどうだったのでしょうか。
実は数多くの人が、緊縮策の悪影響によって死んでいたのです。
著者らの研究によれば、不況下で危険な「緊縮政策」を選択した影響で増加する死亡数は、まさに驚くべきものです。最も悲惨なのは、ソ連崩壊後のロシアで、1990年代に経済政策の失敗により数百万人の男性が死んだ(主に自殺とアルコール関連の死亡)と考えられるといいます。
アジア通貨危機後にIMFに緊縮財政を強いられたタイでは、感染症対策支出を削らされたせいで、感染症による死亡率が大幅に上昇しました。緊縮財政をとったギリシャでは、これも対策費の削減によりHIV感染が拡大したほか、医療費カットで医療制度が崩壊し国民の健康状態はひどく悪化しました。
著者たちは次のように述べています。
民主的な選択は、裏づけのある政策とそうでない政策を見分けることから始まる。特に国民の生死にかかわるようなリスクの高い政策選択においては、判断をイデオロギーや信念に委ねてはいけない。…正しくかつわかりやすいデータや証拠が国民に示されていないなら、予算編成にしても経済政策にしても、国民は政治家に判断を委ねることができない。その意味で、わたしたちはこの本が民主化への第一歩となることを願っている。
本書をきっかけに、政策論争がイデオロギーを離れ、データに基づいたものになることを願っています。
以上では、ロシアなどの例をあげていますが、日本でも、経済政策のまずさで人が死んだといえるエビデンスがあります。
速報値が2万人を切るのは初めてです。3月に発表される確定値では、警察による捜査で自殺と判断された数百人が加わる見通しが、統計を開始した1978年以降で最も少なかった2万434人(81年)を下回る可能性が高いといいます。
このグラフで着目すべきは、自殺者が3万人台を超えていた期間です。この期間は、ほとんど全期間にわたって日銀が金融引締を実施した時期にあたります。この期間には、さらに追い打ちをかけるように、増税という緊縮財政が繰り返し行われました。
そのため、平成年間のほとんどの期間、日本はデフレと円高に悩まされました。この時期に自殺者が3万人を超えていたのは、やはりこうした経済政策による悪影響もあったとみるべきでしょう。
2014年には、消費税増税をしていますが、金融緩和政策は継続されていたので、雇用は改善され続けました。雇用が良くなったこと、政府の対策などが奏功してこのような結果になったのでしょう。
しかし、現在では10%への消費税増税が実施された他、武漢肺炎による経済の悪化もあります。せっかく、自殺者が2万人を切るような良い状況になったのですから、政府はこの傾向を今後も継続するため、的確な経済対策を実行していただきたものです。
自殺者の数をみていると、現状の武漢肺炎による死者よりもはるかに多いことがわかります。
「経済政策はどんな薬、手術、医療保険よりも命に関係する」という言葉の重みを感じます。
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