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2020年8月7日金曜日

EUのファーウェイ排除団結のカギを握るドイツの選択―【私の論評】中共は世界中を監視し、世界秩序をつくりかえようとしている。ドイツはそれに目覚めよ(゚д゚)!

EUのファーウェイ排除団結のカギを握るドイツの選択

岡崎研究所

 7月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、米ブルッキングス研究所のシニア・フェローであるシュテルツェンミュラーが、欧州、とりわけドイツはファーウェイをめぐり大事な選択を迫られているとして、EUが対中国政策で団結することの重要性を説いている。


 シュテルツェンミュラーの論説は、ファーウェイについてEUは団結して中国に対すべきであると言っているが、それは、現在EUが団結していないことを意味する。

 実際、EUの足並みはそろっていない。論説で見る限り、ポーランドはファーウェイ排除を決めており、イタリアが発表したガイドラインは事実上ファーウェイを排除することになりそうである。フランスは、ファーウェイの機器を使用する通信企業に新たな事業許可を与えない方針で、実質2028年までに排除することを決めた。

 EUの団結のカギを握るのはドイツである。メルケル首相自身は、ファーウェイを注意深く扱うべきであるとの立場である。しかし、メルケル首相の属するキリスト教民主同盟(CDU)の多くの議員をはじめ、連立のパートナーの社民党、緑の党などは、メルケルの立場に批判的である。一方、閣内のアルトマイヤー経済大臣、ドイツテレコム、自動車産業などがファーウェイの受け入れに賛成である。これは、中国がドイツの最大の貿易相手国であることを考えれば、いわば当然とも言える。

 しかし、ファーウェイを取り巻く状況が変わってきている。それは、中国が香港の例にみられるように、最近、権威主義的な行動を強めており、論説によれば欧州に対してポピュリスト支持の情報操作や高位外交官による脅迫など、欧州の弱みを利用する強圧的な行動が目立つという。他方で、COVID-19が情報ネットワークの重要性をクローズアップした。つまり、5Gといった重要なデジタルエコシステムで中国に依存することの安全保障上のリスクが再認識されたのである。

 論説は、欧州は団結すれば真の梃子を持てると言っている。どのような団結が可能なのか。これまでのEU内の議論、そしてカギを握るドイツ内の状況を考えると、EU27か国がファーウェイの全面排除で団結することは考えられない。例えば、EU諸国のテレコム組織が新たにファーウェイを採用することは認めないといったラインで合意がなされるのではないか。これは米国のファーウェイ全面排除に比べれば弱いが、中国にとっては大きな痛手だろう。

 EUが強い姿勢でファーウェイに対処するようになるとすれば、その引き金を引いたのは中国の権威主義的行動である。中国は自らの政治、外交姿勢が経済にも影響を与えることを知らされることになる。しかし今の習近平体制は、経済的にマイナスだからと言って権威主義的、強権的姿勢を変えそうにない。その間、米中の対決の様相は一層深まっていくだろう。欧州諸国も、そして日本も、その影響を免れることはできない。情報社会の重要性を認識して、的確な政策を講じていくことが求められる。

【私の論評】中共は世界中を監視し、世界秩序をつくりかえようとしている。ドイツはそれに目覚めよ(゚д゚)!

ファーウェイは何年も前から移動通信インフラ市場を支配。安価な製品を投入して、競合する北欧のノキアやエリクソンの売り上げを切り崩してました。しかしファーウェイ製品が中国政府による情報窃取に使われ得るとの米政府の懸念が力を増しています。

英国政府とフランス政府はいずれも、自国の通信網から同社製品を排除しようとしています。他のあちこちでも同様の対応が広がれば、ファーウェイの通信機器事業には深刻な打撃になるでしょう。同事業は昨年、430億ドル(約4兆5000億円)近い売り上げを稼ぎ、会社全体の売上高の約3分の1を占めました。

しかし、アンテナや鉄塔を他社製に建て替えるというのは、問題のごく一面にすぎません。英国のボーダフォンやBTのような通信業者がたとえ既存のファーウェイ機器を全撤去した場合、控えめに見積もって20億ポンド(約2700億円)の費用がかかるとしています。

世界の通信業者は引き続き、次世代通信網を本格展開する上ではファーウェイの技術に依存することになります。ドイツの知財調査会社によると、ファーウェイは最も5G関連の特許を所有しており、そのうち15%が欠かせない特許だという。

簡単に言うとそうした特許は、世界の通信業者が異なる通信網間で相互に機能できるようにするためのいくつもの技術的仕様だ。そこで一つの統一的な基準を打ち立てることは、5Gの要になります。つまり、世界中あちこちの何十億もの機械や自動車やちょっとした機器を継ぎ目なくつなぐことを意味するからです。

ファーウェイの特許の利益の大半は移動通信基地局関連です。ノキアやエリクソンが欧州全域でファーウェイの基地局などのインフラを自社製に置き換えたとしても、両社はなおもファーウェイの特許を使い続ける必要があるのです。

今のところ知財関連の収益はファーウェイ全体にはそれほど貢献していません。同社はむしろ、ライバル社との特許のクロスライセンス契約を好んでいます。

ファーウェイは、自分が締め出された市場でクロスライセンス契約を停止することもできます。そうなれば移動通信各社は特許使用料や手数料を払う羽目になります。これはファーウェイにうまみのあるビジネスになるかもしれないです。例えば米クアルコムは重要な移動通信用半導体技術を多く所有しており、2017年以来のライセンス収入は170億ドルを超えています。

ファーウェイは既に今年、米通信ベライゾンを特許侵害で提訴し、10億ドル超の支払いを求めている。ファーウェイが持つ技術的優位も、中国政府の手によって政治的な駆け引きの材料にされるリスクがあるのです。

ただ、米司法省は2月13日、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)が企業秘密を盗み当局に虚偽の説明したとして、同社を追起訴しています。

ファーウェイと孟晩舟最高財務責任者(CFO)は既に詐欺や米国の対イラン制裁法違反の罪で起訴されていました。司法省は追起訴で、従来マフィア訴追に用いられてきた「威力脅迫および腐敗組織に関する連邦法(RICO)」を基に、ファーフェイが数十年にわたり知的財産権の窃盗に関与したと主張。不当利得行為を共謀した罪も含めたことで、有罪となれば刑罰はさらに重くなる可能性があります。

司法省は声明で、ファーウェイの違法行為は「研究開発費を大幅削減し、遅れを減らすことが目的で、それにより同社は著しく不当な競争上の優位性を得た」と指摘。競争相手の機密情報を入手した従業員を報償するボーナスプログラムまで導入していたと論じました。

追起訴でファーフェイは、企業秘密を盗み米国の制裁を回避し、当局に虚偽の説明をして国際的な地位を獲得した企業として描写されました。ファーウェイが知的財産を盗んだとする相手企業名は明記されていないですが、司法省の主張の詳細には、シスコシステムズやモトローラなどの企業に合致する説明がりました。

米中の5Gに関する争いは、単なる米中の技術派遣争いとか、知的財産権の保護に関する問題などと考える人も多いようです。

中国では、米国の約10倍に当たる35万以上の5G基地局がすでに設置されています。精度が増したジオロケーション(地理位置情報)と顔認証技術を搭載した広大な監視カメラ網を組み合わせたことによって、国内に1,100万人いるイスラム教徒のウイグル族を当局は追跡管理できるようになりました。

SF映画さながらの中国の監視カメラの画像

こうした取り組みによって、中国は次世代技術を人々の監視に適用することにおいて世界の最先端の位置にいます。将来的には『人種差別の自動化』という新たな時代の到来を体現するかもしれない」と『ニューヨーク・タイムズ』は伝えています

米国はこうした段階まではまだ到達しておらず、そうなることはないのかもしれないです。しかし、5Gの商用展開は始まっています。新たなデータ通信を手に入れて利用したいという声は、個人をはじめ企業や政府のなかから大きくなる一方です。システムに安全策を組み込むことを目指すのは、当然であり必要なことでしょう。

中国のような、全体主義体制の政府に限らずどんな政府であっても、市民のなすことすべてを常時知ることができるというのは、民主主義の根幹にかかわる問題です。なぜなら、市民がどう考えてどんなふうに行動し、何をするのか、政府は必ずや規制したいと考えるようになるからです。問題なのはそのような世界がどういうものなのか、ほとんどの人が真剣に考えていないところにあります。

私自身は、5Gの問題の本質は、技術ではなく、それこそウィグル問題と密接に絡んだものだと思います。全体主義国家がかつてない高度な監視技術を持つことへの脅威こそがその本質だと思います。

ポンペオ長官の先月23日の演説には以下のようなくだりがありました。
志を同じくする国々の新たな集団、民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだろう。自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。
私自身は、現在の中国はすでに共産主義ではなく、経済的には国家資本主義体制でであり、統治の観点からは、完璧な全体主義だと思います。それは、それとして自由社会が中共を変えなければ、中共が我々を変えることになるのは間違いないでしょう。

この怪物中共が、高度な監視技術を持って、自国内のみならず、世界中を監視できるようしたいというのが、中共の本音であり、その後には世界中を監視し、世界の現在の秩序をすべて自分の都合の良いよいにつくりかえてしまうというのが、彼らの究極の目的です。

確かにファーウェイの5Gが世界を席巻した場合、そうなる可能性が高いです。監視社会には、犯罪を削減するという効果もありますが、どの程度の監視にするのか、人々のプライバシーをどう守るかということについては、全体主義国家が独善的に決めることではありません。

世界の多くの国々よって、社会を發展させていくという方向性で、新たな秩序を形成していくべきです。

日本では、COCAという感染確認アプリが開発され、感染者も非感染者も互いにわからない形で、接触した可能性を通知するという方式で、感染の可能性を通知しながらも、人々のプライバシーを守っています。

COCOAの説明画面

このアプリそのものについては、不具合があったり普及率が低いということで、効果が疑問視されているところもありますが、それはそれにして、人々のプライバシーを守ったうえでの監視方法ということでは、発想としては素晴らしいものだと思います。

中国にも似たようなアプリがありますが、発想は日本のものとは全く発想が異なります。利用者がスマホのアプリに身分証番号などの個人情報を登録すると、その人が感染しているリスクが緑、黄、赤の3段階で示されます。判断の基準は明確に説明されていませんが、家族関係や移動履歴などのデータから、感染者との濃厚接触の可能性や感染地域への出入などをはじき出す仕組みとみられています。


利用は強制ではないですが、登録しないと職場に復帰できなかったり、店舗に入れなかったりすることがあります。北京市でも従業員の証明を店頭に貼り出す飲食店や、客に提示を求める店舗などが増え始めています。このシステムはすでに全国の200以上の都市が採用しています。

中国と日本の感染確認アプリでは、設計思想に雲泥の差があります。中国の感染確認アプリでは、個人の意思とは関係なく、政府が感染の有無や程度まで決定します。それに対して、日本では、あくまで感染者との接触した可能性が高いことを知らせるのみです。

それを知らせて後は個人の自由意志に任せています。日本では、中国のようなアプリは絶対に許容されないでしょう。ここが、全体主義のと自由主義の差です。

これは、感染アプリの事例ですが、世界の秩序が中共の都合の良いようにつくりかえられてしまえば、自由主義の国々の社会は根底から崩れることになります。

そのようなことは、自由主義の国々の人々は到底容認できないでしょう。このようなことに気づいたからこそ米国は、中国に対峙しているのです。

社会が根底からくつがえされる可能性を考えれば、技術的な問題や、経費の問題など、とるに足りないものだと思います。自由主義諸国は、ファーウェイの5Gが使えないなら、しばらくは4Gを使用して、5Gはるかに凌駕し、4Gや5Gなどとは、一線を画した6Gを開発して、それを使えば良いのです。

英国は香港問題などで、それに目覚めたようです。ドイツもはやく目覚めてほしいものです。

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2019年3月6日水曜日

米上院、対北朝鮮制裁強化で「ワームビア法」再発議―【私の論評】軍事オプションを選択する可能性もある米国の北制裁(゚д゚)!


決裂した第2回米朝会談

先月ベトナムのハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談が決裂してから米国議会で対北朝鮮制裁を強化する動きが表面化している。

ロイター通信は5日、北朝鮮と取引するすべての個人と企業にセカンダリーボイコットを義務付ける法案が米上院銀行委員会に再び上程されたと報道した。

報道によると、上院銀行委員会に所属する共和党のパット・トゥーミー上院議員と民主党のクリス・バン・ホーレン上院議員はこの日、「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」を共同発議した。北朝鮮に抑留されて送還後に死亡した米国人大学生のオットー・ワームビア氏を追慕するためワームビアという名前が付けられた。

ブリンクアクトとも呼ばれるこの法案は北朝鮮の挑発が続いた2017年に上院で初めて発議され、同年11月に銀行委員会を全会一致で通過したが、上院本会議に回付されることができず会期終了にともない昨年末に自動廃棄された。

バン・ホーレン議員は法案再上程と関連、「北朝鮮が核能力を増やそうとしているという指摘が出続けているが米国がだまっていてはならない。2回目の米朝首脳会談が決裂した状況で議会が線を明確に引く必要性はいつになく重要になった」と明らかにした。

法案は北朝鮮政権と取引するすべての海外金融機関と北朝鮮政権を助力するために制裁を回避する個人にセカンダリーボイコットを義務的に課すことを骨子とする。

具体的には、北朝鮮と金融取引など利害関係がある個人と企業の米国内の外国銀行口座を凍結させ、関連海外金融機関の米国内口座開設を制限する措置が法案に盛り込まれた。

また、北朝鮮と合弁会社を作ったり追加投資を通じた協力プロジェクトを拡大する行為も国連安全保障理事会の承認がなければ禁止するようにした。

ただし2017年に法案が初めて発議された時に含まれた「南北経済協力事業開城(ケソン)工業団地再開反対」の条項は除外された。

ホーレン議員は「北朝鮮の石炭、鉄、繊維取引と、海上運送そして人身売買を手助けするすべての個人と企業に強力な制裁を課すよう義務化することで既存の国際法を効果的に執行させることに焦点を合わせている」と説明した。

ワームビア氏の両親はこの日声明を通じ、「この法案に含まれた制裁は金正恩(キム・ジョンウン)とその政権の行動を変えさせる有用な新たな道具を米国に提供するだろう」としてブリンクアクトの再上程を歓迎した。

【私の論評】軍事オプションを選択する可能性もある米国の北制裁(゚д゚)!


「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」は、17カ月間北朝鮮に抑留されて死亡した米国大学生、オットー・ワームビア氏の名を取った対北制裁案が米下院で可決しされたものです。上の記事にもあるように、 2017年に上院で初めて発議され、同年11月に銀行委員会を全会一致で通過しましたが、上院本会議に回付されることができず会期終了にともない昨年末に自動廃棄されました。

バージニア州立大3年生だったワームビア氏は2016年1月、観光目的で北朝鮮を訪問して体制宣伝物を盗もうとした容疑で17カ月間抑留されたあげく、北朝鮮の拷問により、意識不明の状態で解放されて6日後に死亡しました。

北朝鮮・平壌で、涙ながらに記者会見する米大学生の
オットー・ワームビア氏。(2016年2月29日)

米議会レベルでの対北制裁法は2017年7月末、米上院が北朝鮮の石油輸入封鎖など全方向での制裁を入れた「北朝鮮・ロシア・イラン制裁パッケージ法」可決(8月2日発効)後、さらに推進されたものでした。

既存法は▼北朝鮮の原油・石油製品の輸入遮断▼北朝鮮労働者の雇用禁止▼北朝鮮の船舶と国連対北朝鮮制裁を拒否する国家船舶の運航禁止▼北朝鮮のオンライン商品の取り引きおよび賭博サイト遮断--など全方向での制裁措置が含まれていました。エド・ロイス下院外交委院長(共和党)が「対北朝鮮遮断および制裁現代化法」で発議しました。

「オットー・ワームビア対北朝鮮銀行業務制限法案」は、既存法の実効性を高めるために北朝鮮との貿易取り引きを助ける金融分野の制裁に焦点を当てたものです。北朝鮮関連企業と取り引きをする外国金融機関、貿易業者と仲介業者などを米国主導の国際金融システムから排除する「セカンダリーボイコット(二次的制裁)」です。

特に、すべての規制を行政府の義務事項に規定するなど制裁の度合いを最高レベルに引き上げました。この法案によると、海外に派遣されている北朝鮮勤労者を雇用した外国企業も金融制裁の対象になります。国連などによれば、現在約5万人の北朝鮮住民が外貨稼ぎのために海外に派遣されており、金正恩政権は彼らの給与のほとんどを没収して年間3億ドル(約340億円)の収益を得ています。

米政治専門メディア「Washington Examiner」はこの法案が結局、北朝鮮との貿易・金融取り引きが最も多い中国をターゲットにしたものと解釈していました。

ワームビア法は、米議会 北朝鮮と取引する人や団体に対して、セカンダリーボイコット(二次的制裁)を義務付ける法案ということです。 米国大統領が 「制裁出来る」 から 「制裁しなくてはいけない」にかわるという事です。大統領の 裁量権がなくなり、法律違反した個人や組織を制裁しなければならなくなるということです。違反した個人や組織と取引した銀行も処罰の対象であり、最悪破綻することもあり得るということです。

例えば韓国軍が瀬取りに関与していた場合、韓国軍や韓国という国家が制裁対象になるということです。それは、中国も同じことです。中国の制裁破りに政府が関与(ほとんどの場合直接、間接に関与)ていた場合、中国政府も制裁対象になるということです。

スティーブン・ビーガン対北朝鮮特別代表
米国では、「ワームビア法」など対北朝鮮制裁を強化する動きが表面化していますが、それに加えて軍事オプションを求める声も起きていました。

米国務省のスティーブン・ビーガン対北朝鮮特別代表は2018年11月20日、李ドフン韓半島(朝鮮半島)平和交渉本部長との単独会談を行い米韓ワーキンググループ実務陣との全体会議を進める中で、「米朝交渉の推進派も(米国)国内で政治的に追い込まれているうえに、民主党が下院多数党になり、このように時間が流れることを待っているわけにはいかない」との立場を明らかにし、「(米朝対話の)窓が閉められている」という発言をしました。

「窓が閉められている」との表現は過去に緊迫した状況で使われたことがあります。ジョージ・W・ブッシュ政権時代の2003年1月28日、米国のジョン・ネグロポンテ国連大使が「外交的解決のために開いていた窓が閉められている」と話したましたが、それから約2カ月後(3月20日)に米国はイラクに侵攻しました。

もちろんトランプ政権が北朝鮮の不誠実な態度に反発して直ちに北朝鮮に対する軍事行動を準備する可能性は低いと思われますが、「機会の窓」発言はトランプ政権内部で強硬圧迫論が頭をもたげていることを示唆するもので注目が必要です。

北朝鮮が対話による「核兵器の完全な廃棄」に応じない場合、制裁強化とともに軍事オプションの復活も否定できないです。しかしそうした行動には文在寅政権が必死に妨害することは明らかです。そのために米国はいま、韓国軍を動員しない方法でのミサイル基地破壊と「金正恩除去(レジームチェンジ)」訓練を強化し始めています。

ミサイル基地破壊訓練としては、11月19日に米国ユタ州ヒル空軍基地で史上初のF35A 60機によるミサイル基地破壊訓練「エレファントウォーク」が実施されました。この訓練は、中国やロシアを想定したものだとしていますが、実は北朝鮮のミサイル基地、特には移動式ミサイル発射台を壊滅する訓練でした。

014年就航の強襲揚陸艦「アメリカ」

金正恩除去作戦も同時に準備されています。在日米軍基地を活用した韓国軍を使わない「斬首作戦体制」の構築です。そのために上陸用強襲揚陸艦「ワプス」(1989年就航、41500トン)を2014年就航の強襲揚陸艦「アメリカ」(44900トン)に交代させます。

「アメリカ艦」は海上上陸作戦用の「ワプス艦」とは違い、特殊部隊含む海兵隊と輸送機オスプレイ、スーパーコブラ戦闘ヘリ、重量輸送ヘリのシー・スタリオン(CH-53)、対潜水艦ヘリ、偵察ヘリ、そしてF35Bステルス戦闘機など、空からの潜入に特化した最新鋭武器を搭載しています。

金正恩にオールインした「仲裁者文在寅大統領」の「北朝鮮非核化交渉」での影響力は低下するでしょう。数々の「ウソ連発」で国内的にはすでにレイムダック化していますが、米国に対しても「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」だと伝え、「金正恩が1年以内に非核化すると約束した」などと吹聴したため、韓国パッシングで米朝交渉から排除される可能性もあります。

韓国の民間シンクタンク、峨山政策研究院は12月19日に「2019年国際情勢展望」と題したリポートで「韓国が来年も北朝鮮問題ばかりに集中すれば、北東アジアのパワーバランスが変化する過程で『コリア・パッシング(韓国外し)』が現実化する恐れがある」と指摘しました。

2019年、韓国は「北朝鮮非核化」をめぐって米国と北朝鮮のどちらの側につくのかの選択を迫られることとなるでしょう。

米国の制裁はますます厳しくなりそうです。このままだと北朝鮮はとんでもないことになります。金正恩委員長が核兵器の申告に踏み出すか否か、トランプ大統領が、これまでの核兵器全面破棄の原則を守れるかどうか、2019年朝鮮半島の行方はこの二人の指導者の決断にゆだねられています。


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2018年3月9日金曜日

統一コリアムード高まれば金正恩大統領が誕生する可能性も―【私の論評】半島に新たな秩序を作り出すか、南北統一を許してしまうか、世界は選択を迫られている(゚д゚)!


文在寅大統領が差し出した手は何をもたらすか(写真右が金与正氏)

南北朝鮮の接近が急加速している。韓国の文在寅大統領は平壌での首脳会談に乗り気で、事態は想像を超えて急展開する可能性がある。先に見えるのは、核保有国・統一コリアの姿だ。拓殖大学特任教授の武貞秀士氏が警告する。

 * * *

 「我々はひとつだ!」

 平昌五輪中、私は韓国を訪れて情報収集につとめた。テレビでは連日、専門家の討論番組を放送していた。そして、耳に残ったのがこのフレーズだった。

 韓国政府は、北朝鮮代表団や管弦楽団、美女応援団を熱烈に歓迎した。日米両政府は核・ミサイル問題の解決の遅れを心配したが、文在寅政権は「五輪はスポーツ大会」とかわした。

 韓国社会の反応は意外と冷めていた。美女応援団が「同胞への呼びかけ」に徹したのには違和感もあったようだ。

 そんな世論と裏腹に文在寅大統領は、米国のペンス副大統領が欠席した歓迎レセプションで「女子アイスホッケーチームの選手の心には休戦ラインはない」と挨拶をした。休戦ラインを守っているのは在韓米軍と韓国軍なのだが……。

 金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正氏らを招いた昼食会では、金大中、盧武鉉政権時代に北朝鮮を訪れた幹部を同席させ、対話への意欲を示した。すでに南北は今年1月、南北閣僚級協議で軍事協議を再開することに合意している。

 五輪期間中、「心を合わせて難関を突破しよう」「南北関係を当事者同士で解決すべきだ」と訴えた文大統領は、五輪を機に北朝鮮との対話を進めるつもりだろう。金委員長の右腕である与正氏が親書を手渡した席で南北交流の具体的な方策を話し合ったにちがいない。

 これから先、何が起こるのだろうか。米・トランプ大統領は南北対話のあいだは、軍事行動をしないと約束している。北朝鮮は、米国が軍事行動を選びにくい状況を創出するため、南北のスポーツ・文化交流計画を韓国に提案するだろう。

 開催を延期している米韓軍事演習が試金石となる。北朝鮮は、「軍事演習をしたら南北対話は進まない」と文大統領に揺さぶりをかける。そのとき、朝鮮半島問題の主人公は韓国と北朝鮮だと考える文在寅政権は、米韓軍事演習の規模縮小を米国に訴えるにちがいない。

 ここで日本が一連の動きに反対すると逆効果になる。平昌五輪開幕式前日の日韓首脳会談で米韓軍事演習を実施すべきと述べた安倍首相に対して文大統領は「内政の問題だ」と不快感を示した。日本が南北交流を警戒し、米韓同盟強化を助言すれば、北朝鮮ブームが起きていない韓国社会だが、日本への反発から親北に傾斜してしまう。

 北朝鮮は今年9月9日の建国70周年を「民族の慶事」の大イベントであると宣伝しており、この時期までに首脳会談を実現したいはずだ。金大中と金正日の両氏が初めて南北首脳会談を開いた2000年6月の記念日に合わせて、今年6月開催を目指している。

 文大統領は米朝対話再開が必要だと答えた。首脳会談が実現すれば、南北の関係改善は加速する。すでに文大統領は北朝鮮に800万ドルの人道支援を行うと決めている。現在停止中の南北経済交流事業が再開され、開城工業団地の操業や金剛山観光再開を検討している。朝鮮半島縦断鉄道からシベリア鉄道に乗り入れる列車ダイヤの運行を具体化する話も浮上することだろう。すべて北朝鮮の外貨獲得源である。

 南北交流が進んで、「分断された民族を統一する」というムードが高まると、1980年の労働党大会で金日成主席が提案したように、まずは南北同数の代議員で民族連邦会議を作り、大統領を選出するシナリオが浮上するだろう。この時、韓国側の代議員に一人でも従北勢力がいれば、多数決で金正恩大統領が誕生する可能性もゼロではない。

 「なだらかな南北統一」の最大の脅威は、統一コリアが核保有国となることだ。北朝鮮が核・ミサイルを開発するのは、多くの識者が指摘するような体制維持のためではなく、米軍介入を阻止して統一するためだ。だから彼らは統一まで核を放棄しないし、統一後も日米両国からの防衛を根拠に核は捨てないだろう。

 ●武貞秀士(たけさだ・ひでし)/1949年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、防衛省防衛研究所に教官として36年間勤務。その間、米スタンフォード大学、ジョージワシントン大学客員研究員、韓国中央大学客員教授等を歴任。2011年、防衛省を退職後、韓国延世大学教授等を経て現職。著書に『東アジア動乱』(角川oneテーマ21)、『なぜ韓国外交は日本に敗れたのか』(PHP新書)などがある。

【私の論評】半島に新たな秩序を作り出すか、南北統一を許してしまうか、世界は選択を迫られている(゚д゚)!

実は韓国は、数年前からすでに北朝鮮に乗っ取られていたとみるべきです。北のスパイが約12万人、韓国内に入り込んでいるとされています。

核とミサイルとスパイしか武器を持っていないような国が全力を傾注して、スパイを浸透されたとされてますから、これは十分あり得る数字です。

1998年から2008年まで行われた"圧力より融和で南北統一を目指す政策"である「太陽政策」の間に、北朝鮮は韓国の政治の世界は官邸にむけて、軍部は情報部にむけて、次々に北朝鮮のスパイを浸透させていったとされます。軍自体は良識派の集まりなので、浸透は無理とみて情報部に浸透をはかったとされています。

韓国の政治家のうち、最も始末に負えないのは文在寅をはじめといする「親北・反日」の人々で、大きな勢力を占めています。韓国では「反日」が大前提で、「反日」など争点にすらなりません。

そんな韓国での本当の争点はこのまま北に乗っ取られるのが良いのか、支那に媚びて助けてもらったほうが良いのかということであり、これが最大の争点です。

昨年失脚した朴槿恵大統領は「親中・反日」でしたから、実は当初の大統領選挙の候補者の内、一番まともな政治家でした。

朴槿恵は、韓国は、支那の一の子分になったほうが、北より下になるよりは良いというわけで、彼女はこの10年で、最も良識的な大統領だったといえるかもしれません。

少し前までの、韓国は中国・北朝鮮代理戦争の真っ只中でしたが、朴槿恵が失脚して、文在寅が大統領になった時点で、韓国内では北が圧倒的に優位にたちました。

文在寅大統領は、北朝鮮が韓国を核攻撃するとは考えていません。「北の核はアメリカからの防衛のための核であり、攻撃のための核ではない、平和のための核だ」(盧武鉉元大統領の発言)というのが、盧武鉉の最側近だった文在寅をはじめとする韓国左派系勢力が信じるところです。ですから北朝鮮が「国家核戦力の完成」を表明した段階で南北融和姿勢へ転換するのは、文在寅には当初から「想定内」のことだったのです。

北朝鮮の路線転換とそれを受け入れた韓国が、ともにその先に描いているのが、統一朝鮮実現へ向けた「南北連合国家」(2政府連邦制国家)の形成です。「北朝鮮の国家核戦力の完成」が南北統一への道を開き、しかもそこでは北の独裁体制と核が温存されたままという、まことに理不尽な歴史が始まろうとしているのです。

金正恩が文在寅の訪朝を要請したことで、南北首脳会談が現実味を帯びてきました。実現するとしたら、南北間でどのような話し合いがもたれるのでしょうか。文在寅は果たして、北朝鮮に核放棄を迫るでしょうか。

これまでに南北首脳会談は2回行われています。1回目は2000年6月15日(金大中と金正日)。この会談では、北核問題に触れることなく、「南と北は国の統一問題を、その主人であるわが民族同士で互いに力を合わせ、自主的に解決していくことにした」「南と北は国の統一のため、南側の連合制案と北側のゆるやかな段階での連邦制案が、互いに共通性があると認め、今後、この方向で統一を志向していくことにした」と、南北統一問題に終始しました。

金大中と金正日の首脳会談を特集した
TIMEのdigitalの表紙

ところが、この2年前の1998年5月30日、北朝鮮は自国製のプルトニウムを用いた代理核実験をパキスタンに挙行させたとされ、8月31日には初の準ICBM(テポドン1号)を、日本上空を通過する形で太平洋に向け発射しています。

2回目の首脳会談は2007年10月4日(盧武鉉と金正日)。そこでも北の核問題には触れず、「南と北はわが民族同士の精神によって、統一問題を自主的に解決し、民族の尊厳と利益を重視して、あらゆるものをこれに志向させていくことにした」と、やはり統一問題に終始しています。

この会談の前年の2006年7月5日には、北朝鮮は初のICBM(テポドン2)、ノドンとスカッドC(火星6)6発を日本海に向けて発射し、10月6日には初の核実験を強行。国連安全保障理事会は即刻、全会一致で北朝鮮制裁を決議しました。

この2例のように、今後の南北首脳会談でも、核問題は抜きで「統一問題の自主的な解決」が話し合われることになるでしょう。これまでアメリカは「北核問題と南北和平問題は別問題」としてきましたから、「核問題抜きの南北首脳会談」に強固な反対をすることはないと思われます。

盧武鉉政権下の三つの「親北政策」

文在寅が心酔する盧武鉉元大統領が最大の政治テーマとしたのは、金大中の対北融和政策である「太陽政策」を引き継いでいっそう推し進め、南北統一へ向けて南北連合国家を形成していくことでした。

そこで盧武鉉がとった政策の一つは、過去の「韓国独裁政権」が侵した人権侵害を断罪することです。しかしその一方で、北の核開発や多数の人権侵害については、批判も抗議もまったく行うことがありませんでした。

盧泰愚

二つ目は、韓国史の「北朝鮮式書き替え」でした。北朝鮮史を肯定的に評価する「親北史観」が台頭していったのです。2003年から多数の高校で採用されていった「韓国近現代史」教科書では、戦後韓国の歴史を「米政府および独裁政府」対「韓国民衆」という構図で否定的に記述し、北朝鮮体制を「民族自尊を守りながら絶え間ない変化を追求する合理的体制」と、肯定的な観点で記述しています。

韓国の中学校の国史教科書

三つ目の政策が「国内親日派」の断罪です。北朝鮮では「日本統治時代に親日行為(日本統治への協力)をした者」は、悪逆な犯罪者・売国奴として粛清されました。これを評価する盧武鉉は、これまでの韓国は「国内親日派」を温存してきたと批判し、北朝鮮と同じく「日本統治時代に親日行為をした者」を断罪すべきだとしたのです。

そのために特別法を制定して「親日反民族行為者」(故人を含む)のリストを作成・公表し、彼らを公式の「売国奴」としました。また、多数の「親日反民族行為者とその子孫」の財産が、国家の手によって没収されています。

教科書も憲法も「北朝鮮化」を狙う文在寅

こうした盧武鉉政権の「対北融和・南北連合国家形成」の政治方針を文在寅政権は継承し、「韓国の北朝鮮化」を推し進める政策をいま、次々に打ち出しています。

例えば、2020年から中学・高校で使用される歴史教科書について、「北朝鮮による6・25(朝鮮戦争)南侵」「北朝鮮の世襲体制」「北朝鮮の人権」などの用語をすべて用いないとする執筆基準試案を提示しています。これは盧武鉉政権すら行わなかったことです。


さらに、文在寅政権を支える与党「共に民主党」は、大韓民国憲法にある「自由民主的基本秩序」の文言から「自由」を削除する憲法改正案を議員総会に提出しました。野党の大反対にあっていくらか引っ込めてはいますが、これまでの韓国では「自由民主的基本秩序」とは、北朝鮮のような「一党独裁体制」の否定を意味するとしてきたのです。

この憲法改正案では、自由市場経済に反して国家的な経済統制を強化する条項など、国家社会主義的な思想が露骨に示されています。文在寅政権は、南北連合国家の形成へ向けて、韓国をできるかぎり北朝鮮に近い体制へ変えようとしているのです。

日米中ロは朝鮮半島の統一を望んでいない

このような状況が続けばいずれ「南北連合国家」が形成されてしまうことになります。しかし、これを支持する周辺国が存在するでしょうか。

中国は、半島に北朝鮮優位で、南北が統一されて大きな朝鮮ができることに脅威を感じるでしょう。韓国の朴槿恵は「親中」でしたが、文は「親北」で、金正恩はあからさまな「反中」ではないにしても、「反中」的です。

そのような南北統一朝鮮ができれば、北の核に、南の経済力、工業力と、様々な外国との結びつきが最大限に活用され、アジアにかなり大きな独裁軍事国家ができあがることになります。そのような国と国境を接することは、中国には許容できないでしょう。

ロシアも同じようなものでしょう。元々、北朝鮮はソ連がつくった国です。それが、ロシアと同等以上のGDPである、韓国と統一されれば、隣国が核を持ちしかも、その経済力がロシアより上ということになります。

南北統一朝鮮は、当然のことながら、軍拡に走るでしょう。そうなると、いずれロシアと同等かそれ以上の軍事国家が半島に生まれる可能性もあるのです。

現在のロシアは、中国には経済力ではかなわない存在になってしまいました。かろうじて、軍事力に関しては、ソ連から継承した、軍事技術やノウハウがあるので、圧倒的に優位ですが、それでも台頭する中国は脅威です。

ロシアは、世界で一番長く中国と国境を接している国です。中国の脅威に加えて、核武装した経済力が自分よりも上の、しかも国境を接した新たな大国南北統一朝鮮が誕生することをロシアは望まないでしょう。

その他の国々も、シリアのような国は別にして、北優位ですすめられる南北統一朝鮮は脅威でしょう。

いずれにしても、この問題は放置しておけば、悪化するだけです。以前このブログにも掲載したように、いずれ半島から北朝鮮も、韓国もなくなり全く新たな秩序が形成されるか、南北統一を許してしまうのか、いずれか一方しかないということだけは確かです。

新たな秩序を作り出すというのであれば、国連軍という形をとるかどうかは別にして、日米中ロはもとより、世界の多く国々が、半島に軍隊を送り込み、少なくとも50年くらいは進駐させて、今後世界を脅かすことがなくなる新たな秩序を作り出すまで、分割統治するくらいの覚悟が必要です。

なお、この時に過去の米国による日本統治のようなやり方は許されません。あくまで、国際法にのっとった形で、実行すべきです。北の人民や、韓国の国民の主権を尊重した形で、民主的なやり方をすべきです。ただし、すぐに世界にとって望ましい体制などできあがるわけもありません。どのようなやり方が良いのか、十分考慮した上で、段階的に数十年かけて実行していくべきです。

一歩間違えて、中途半端にすれば、朝鮮半島が中東のように新たな混乱と緊張と脅威を生み出すだけになります。これは、米国だけではいかんともし難いです。やはり、日本も大きな力を発揮すべきですし、他国の力も大いに活用しなければ、できることではありません。

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2016年2月6日土曜日

【日本の解き方】中国経済もはや重篤なのか 食い止められない資本流失―【私の論評】日銀に振り回され続けるか、資本規制かを選択せざるをえなくなった中国(゚д゚)!


日銀の黒田東彦総裁
日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が個人的見解としたうえで、中国の人民元について「国内金融政策に関して一貫性があり適切な方法として、資本規制が為替相場の管理に役立つ可能性がある」と述べたと報じられた。

 物やサービスの移転を伴わない対外的な金融取引のことを資本取引という。日本の外為法では、居住者と非居住者との間の預金契約、信託契約、金銭の貸借契約、債務の保証契約、対外支払手段・債権の売買契約、金融指標等先物契約に基づく債権の発生等に係る取引、および証券の取得または譲渡-などが定められている。

 このほかにも、居住者による外国にある不動産もしくはこれに関する賃借権、地上権、抵当権等の権利の取得、または非居住者による本邦にある不動産もしくはこれに関する権利の取得も、資本取引とされている。

 こうした取引は、金融機関を通じて行われるので、資本取引を規制しようとすれば、金融機関を規制することとなる。規制の方法としては、全面禁止、取引許可、取引届出、取引報告などがあり、前者から後者にいくにつれて規制が弱くなる。

 黒田総裁が指摘した、為替管理と資本取引の関係を理解するには、「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」を知る必要がある。それは、「独立した金融政策」「固定為替相場制」「自由な資本移動」のうち、2つまでしか同時に達成することはできないというものだ。

 この法則に従うと、資本取引規制によって自由な資本移動をあきらめれば、独立した金融政策と固定為替相場制を達成できる。つまり、国内物価の安定のために金融政策を使うことが可能となり、為替相場も安定させられるというわけだ。

 中国の資本規制は原則として許可制で、先進国が原則として報告だけなのに比べて格段に規制が強い。それでも香港などを経由した資本流出の動きを食い止められないようだ。

 もっとも、中国が本気になれば規制強化は容易だろう。なにしろ、中国では、問題を起こしたとして摘発された場合、政治的失脚までありえるからだ。

 筆者はかつて中国でのコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関する国際会議に出席した際、強烈な思い出があった。国有企業ばかりの国で、コーポレート・ガバナンスなんて所詮無理と思っていたところ、中国政府関係者が「中国では粉飾は死刑にもなります」と説明したのだ。さすがに、この発言には度肝を抜かれた。その延長線で、資本流出を勝手に行えば、重罰というのもあり得るだろう。

 先進国では、貿易自由化の後に資本を自由化するというのが一般的な流れだ。しかし、中国の場合、貿易の自由化を進めたが、ここに来て資本規制が必要となったことで、貿易も規制せざるを得なくなるかもしれない。

 すでに水面下では強烈な資本取引規制が行われているともいわれている。それでも資本流出が続いているのであれば、中国経済はかなり重篤だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日銀に振り回され続けるか、資本規制かを選択せざるをえなくなった中国(゚д゚)!

中国のGDPなどの経済統計は、出鱈目であることをこのブログでも過去に何度か掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
やはり正常ではない中国経済 GDPと輸入統計に食い違い ―【私の論評】政治的メッセージである中国の統計や戦争犠牲者数は、人民の感情に比例する?
2015年は輸入がマイナスになっている。この状況で
GDPがプラスとはとても思えない・・・・・・・・
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、確かに中国の国内統計は出鱈目なのですが、それにしても貿易は相手があることですから、相手国の貿易統計などは正確なものも多いですから、それらを集計すれば、中国の輸出・輸入など正確に把握することができることを掲載しました。

そうして、中国のGDP統計など、所詮「政治的メッセージ」に過ぎないことを掲載しました。

そうして、輸入からみると、中国のGDPは、政府が発表しているのとは異なり、おそらくマイナス成長になっているであろうことも掲載しました。

このように、いくら中国の国内の経済統計などが出鱈目であったとしても、輸出・輸入は相手があることなので、相手国の統計を集計すれば、中国の輸出入もどの程度であったか、大体の数字はつかめます。

そうして、それは資本取引も同じです。資本取引も、貿易と同じように相手国があることですから、中国の統計が出鱈目であったとしても、相手国の統計を集計すれば、中国の資本取引もほぼ正確につかむことができます。

そうして、中国からの資本流出が莫大な量にのぼることは、すでに周知の事実です。もう、それは昨年の時点ではっきりしていました。

2013年末から15年3月末の間の中国の経常黒字は2952億ドル(約35兆円)でしたが、本来なら経常黒字で増えるはずの対外純資産残高は逆に5922億ドル(約71兆円)も激減しており、合計8874億ドル(約106兆円)の対外資産価値が消失した計算になっていました。消失した金額の巨額さを正しく説明できるのは資本逃避だけです。

昨年の、8月に突如人民元を切り下げた習政権でしたが、ところがその直後から人民元の売り規制に転じました。これは、景気対策のためには元安が必要なのですが、それは中国経済の命綱である資金流出を招くことになり、ジレンマに当局が追い込まれていたものです。

しかし、ジレンマどころか、本来はブログ冒頭の記事にあるように、深刻な「国際金融のトリレンマ(三すくみ)」状況に追い込まれていたということです。

景気回復を狙い「固定為替相場制」をあきらめて、人民元を切り下げたところ、資本流出が加速したため、今度は資本規制に乗り出したということです。

日本をはじめとするいわゆる先進国は、「固定為替相場制」を放棄して、変動為替相場制に移行しています。これによって、「独立した金融政策」「自由な資本移動」を同時に達成することができました。

しかし、中国の場合は「固定為替相場制」を維持していますから、これをこれからも維持し続けるというのなら、国際金融のトリレンマを克服するためには、「独立した金融政策
」もしくは、「自由な資本移動」のうちのいずれかを捨てなけれはならないということになります。

以下に国際金融のトリレンマの図と若干の説明を掲載します。

  • ある国はこの3つの「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」のうち2つだけを受容することができます。もしある国が a の位置を選択し、「自由な資本移動」と「固定相場制」を導入するのであれば、金融政策の独立性は失われます。
  • 実際の例としては欧州連合ユーロ圏が挙げられます。もしユーロを受容し自国通貨を放棄すれば、ユーロ圏内で為替を固定することになります。また、域内での自由な資本移動も認められています。しかし、金融政策はすべて欧州中央銀行に一任することになります。

「独立した金融政策」とは、特に現在の中国にとっては具体的に何を意味するのでしょうか。中国が、固定相場制を堅持し、自由な資本移動も堅持したとしたら、何がおこるかといえば、それは日本などをはじめとする、外国の金融政策に左右され「独立した金融政策」を実行できなくなるということです。

実際にそれはもうすでに発生していました。日本が2013年の4月から、金融緩和に転じてから、円安状況になり、それまで円高の状況とは異なり、中国経済にとっては、独立した金融政策が脅かされる事態となりました。

それまでの、中国の経済発展を支えていたのは為替操作によるキャッチアップ型の経済成長であり、円高とデフレを放置する日本銀行によるものでした。

慢性的な円高に苦しんでいた日本企業は、過度な「元安」政策をとる中国に生産拠点を移し、出来上がった製品の一部を逆輸入していました。日本国内で一貫生産するより、わざわざ中国を経由した方がもうかる構造になっていたのです。

日銀は、「デフレ政策で日本の産業空洞化を促進し、雇用と技術を中国に貢ぎ続けていた」のです。まさに、日本経済はこれによって、中国に振り回されていたのです。

しかし、2013年の4月から、日銀が金融緩和に転じたため、この構造は崩れ、今度は中国が日本の金融政策に振り回されるようになり、「独立した金融政策」を維持することが困難になってきたのです。

2013年に異次元の包括的金融緩和を発表した黒田総裁
この状況を本格的に脱するには、中国が構造転換をして、経済的な中間層を増やし、その結果個人消費を増やす必要があります。しかし、これは文字通りの構造転換であって、実行するには10年くらいはかかるものです。

短期的には、中国がこれからも「固定相場制」を捨てないというのなら、「独立した金融政策」を捨てるわけにはいかないので、黒田総裁がブログ冒頭の記事の中で述べていたように、結局「自由な資本移動」を捨てるしかないということです。結局「資本規制」しか選択肢はないということです。

それにしても、資本規制を強めるというのなら、中国国内の資本が海外に逃避することはなくなりますが、海外から中国内に資本が大量に入ってくるということはなくなります。

となると、今までの中国の経済発展の構造は維持できません。今後、中国が構造転換をしないかぎり、これは変わりません。

ということは、いずれにしても、中国の経済の回復は長期間望めないということです。この構造転換に失敗すれば、中国も中進国のジレンマから逃れることができず、図体がでかいだけの、ありふれたアジアの独裁国家に戻るということになります。

発展途上国などの経済が飛躍的に伸びて、新興国などともてはやされても、なぜかほとんどの場合、その後経済成長ができなくなり、所得が発展途上国と、先進国の中間あたりで、止まってしまうという現象がよく見られます。それを中進国のジレンマと呼びます。

中国は、おそらくこのジレンマから抜け出すことはできないでょう。できるとすれば、中国の体制が根本的に変わり、民主化、経済と政治の分離、法治国家化を推進する体制になった場合のみです。現状の体制のままでは、抜けだせません。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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