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2019年4月20日土曜日

挙国一致で中国と対決、何が米国を本気にさせたのか?―【私の論評】戦略の発動の時期と順番を間違えた中国は米国の事実上の敵国となった(゚д゚)!

挙国一致で中国と対決、何が米国を本気にさせたのか?

これ以上中国を放置できない、米国の専門家が語る米中関係の展望
古森 義久

米国のロバート・ライトハイザー通商代表部代表(左)、中国の劉鶴副首相(中央)、
スティーブン・ムニューシン財務長官(右、2019年2月14日撮影、参考写真)

 米国の首都ワシントンで取材していて、外交について最も頻繁に接するテーマはやはり対中国である。政府機関の記者会見でも、議会の審議や公聴会でも、民間のシンクタンクの討論会でも、「中国」が連日のように語られる。

 しかも「中国の不正」や「中国の脅威」が繰り返し指摘される。ほとんどが中国への非難なのだ。

 そうした非難を述べるのはトランプ政権や与党の共和党だけではない。他の課題ではトランプ政権を厳しく糾弾する民主党系の勢力も、こと相手が中国となると、トランプ政権に輪をかけて、激しい非難を浴びせる。ときにはトランプ政権の中国への対応が甘すぎる、と圧力をかける。

 私はワシントンを拠点として米中関係の変遷を長年追ってきたが、米側からみるいまの米中関係は歴史的な変化を迎えたと言える(その実態を3月中旬、『米中対決の真実』という単行本にまとめた。本稿とあわせてお読みいただきたい)。

 では、なぜ米国は中国と対決するのか。今後の両国関係はどうなるのか。その原因と現状、さらには米中関係の展望について、米国有数の中国研究の権威であるロバート・サター氏に見解を尋ねてみた。

 サター氏は米国歴代政権の国務省や中央情報局(CIA)、国家情報会議などで中国政策を30年以上、担当してきた。10年ほど前に民間に移ってからも、ジョージタウン大学やジョージ・ワシントン大学の教授として中国を分析してきた。

 サター氏の認識に私が重きをおくのは、彼が政治党派性に影響されていないという理由もある。政府機関で働いた時期はもちろん官僚としての中立性を保ってきた。個人的には民主党支持に近い立場のようだが、民間での研究を続けてからも、時の民主党政権をも辛辣に批判し、共和党政権からも距離をおくという感じだった。

 今回はジョージ・ワシントン大学にあるサター氏の研究室を訪れて、話を聞いた。インタビューの主な一問一答は次のとおりである。

共和党も民主党も中国を強く警戒
──米中関係が歴史的な変化の時代を迎えたと言えそうですが、その変化をもたらした原因とはなんだと思いますか。

ロバート・サター氏(以下、敬称略) 変化を招いた直接の原因は米国側での危機感でしょう。中国をこのまま放置すれば米国が非常に危険な状況へと追い込まれるという危機感が、政府でも議会でも一気に強くなったのです。ただし中国側は米国のこの感覚を察知するのが遅かった。トランプ政権や議会を誤認していたといえます。ここまで強く激しく中国を抑えにかかってくるとは思わなかったのでしょう。

 米国側の危機感、切迫感を生んだ第1の要因は、中国がハイテクの世界で世界の覇権を目指し、ものすごい勢いで攻勢をかけてきたことです。米国は、このままでは中国に経済的にも軍事的にも支配されると感じたわけです。この状況を変えるには、たとえその代償が高くても今すぐに行動をとらねばならない、という決意になったのです。

 第2には、中国側が不法な手段を使って米国の国家や国民に対して体制を覆そうとする浸透工作、影響力行使作戦を仕掛けてきたことです。統一戦線工作を駆使しての威嚇、圧力、買収、スパイ工作まで米国の心臓部に踏みこむような乱暴な浸透活動が、米側で一気に指摘され、警戒されるようになったのです。
ロバート・サター氏

──米側の中国への不信はきわめて広範囲のようですね。

サター 一般国民も政府も議会も中国に対して強い警戒心を持っています。共和党議員だけではなく民主党議員も、共和党議員と歩調を合わせて対中強硬策を提唱しています。たとえば大統領選への名乗りをあげたエリザべス・ウォーレン上院議員が中国のスパイ活動を非難しました。また、民主党ベテランのパトリック・ リーヒ上院議員は「一帯一路」を嫌っています。民主党で外交問題に関して活躍するマーク・ウォーナー上院議員も、米国のハイテクが中国に輸出されることに強く反対しています。

──であれば、米中間の対立は今後もずっと続くということになりますね。

サター 摩擦がずっと続くでしょう。中国が米国の要求をすべて受け入れることはありえません。また、米国が中国に強硬な態度をとることへの超党派の強い支持は揺るがないからです。

これまでの大統領とは大違いのトランプ

──現在、米中両国の対立で最も分かりやすいのは貿易面での衝突ですね。米中関税戦争とも呼ばれます。

サター これまでの関税交渉では、米側が中国に圧力をかけ守勢に追い込みました。中国側はトランプ政権の勢いに押され、状況の悪化を恐れて、圧力に屈したという感じです。問題は、中国が米国の要求にどこまで応じ、米側からの圧力をどこまで減らすことができるか、でしょう。中国側がかなり妥協して、関税問題では一時的な休戦あるいは緊張緩和になるかもしれません。

 ただし経済問題では、トランプ政権内部にいくらかの姿勢の違いがあります。ロバート・ライトハイザー通商代表のように中国に対してきわめて強硬な人たちと、スティーブ・ムニューシン財務長官のようなやや協調的な人たちが混在しているのです。ではトランプ大統領がどんな立場なのかというと、この判定が難しい。

 関税問題では米側がある程度の妥協を示すこともあるでしょう。ただし、基本的な問題は厳然と残っています。関税問題の基盤にある米中間の底流は非常に対立的であり、険悪です。

 当面の関税交渉では、米国の中国に対する懲罰的な関税を中止するのかが焦点となりますが、この点に関してトランプ大統領はこれまでの歴代大統領とはまったく異なります。中国に対して譲歩や妥協をしないのです。トランプ氏にとって「譲歩」というのは、懲罰の量を減らすだけということになります。

──中国はトランプ大統領に対して戸惑っているということですか。

サター そうです。トランプ大統領はオバマ氏ら前任の大統領たちと違い中国に対して譲歩をしません。米側が欲することを中国側に圧力をかけて実行させるという点では、トランプ大統領は今のところ大きな効果をあげています。しかし、習近平主席は米側が求める総合的な構造変革をすることはないでしょう。ライトハイザー通商代表が要求しているような経済の体系的な変革はないだろう、ということです。

 中国側は「大きな変革を実行する」という合意に応じたところで、アメリカ側をだます見通しが強いといえます。このことはこれまで繰り返し起きてきました。ライトハイザー氏はすでにこのことを指摘しています。だから関税問題でたとえ米中間の合意が成立しても、両国関係の基本を変えるような前進はまずないだろうと思います。

──関税問題とは別に、厳然と残っている基本的な経済問題とはなんですか。

サター 米中間のハイテク競争、そして中国の米国への浸透、知的所有権の窃盗、米側企業を取得して米国のハイテク産業をコントロールすることなどです。米側は中国のこの種の動きに、はっきりと抵抗しています。

 さらには中国への輸出管理です。米側の商務省がこの問題に対処しています。中国の膨張を許すような品目の対中輸出は自粛する。これは東西冷戦時代にソ連圏への輸出を規制したココム(対共産圏輸出統制委員会)に似た概念です。中国との関係は、東西冷戦時代のソ連との対決とはまだ同じ段階に達していません。しかし、ファーウェイに対する米側の対応は事実上ココム的管理に等しく、その厳しさはさらに強くなっていくでしょう。
中国は「大きな変革」に着手するか

──サターさんは、米側が求める最終目標として中国側の「総合的な構造変革」という言葉を使いましたが、具体的になにを意味するのでしょうか。

サター 国家がコントロールする企業の役割、国家が産業界と一体になる産業政策、特定企業への優遇財政措置、外国企業、とくに米国企業の中国市場へのアクセスの制限、といった中国の産業政策が実際にどう変わるかです。知的所有権の扱い、外国の技術などの盗用、スパイも大きな要素です。こうした諸領域で中国政府がどんな改革措置をとるかが『総合的な構造変革』を占う指針となります。

 しかし、中国政府は表面をとりつくろうことがきわめて巧みです。なにもしていないのに、なにかをしているかのようにみせかける。そのため米国政府側の中国不信は非常に強い。だから米国政府は最大の注意を向けて中国側の動向を監視しています。もし中国側がこれまでのように大きな変革措置をとるという約束をして、実際にはしなかったことを確認した場合、米中関係は重大な危機を迎えるでしょう。トランプ大統領はそんな中国の背信を許さないでしょう。この点では、議会でも共和党、民主党が一致して中国への強硬な姿勢を保っています。
中国の危険な拡大を食い止めよ

──トランプ政権は経済問題以外でも中国を非難しています。具体的には中国のどのような動きが米側を最も強く反発させているのでしょうか。

サター 南シナ海での膨張、日本への圧力、ロシアとの結託、ウイグル民族の弾圧など米国の国益や価値観を侵害する一連の動きです。中国は米国のパワーを削ごうとしている。米国はその動きを止めようとしているということです。

 米国が究極的に目指すのは、中国にそのような侵略、侵害を冒させない国際秩序の保持だといえます。中国の攻勢に対しては、ケースバイケースで対応していく。そこで商務省、財務省、通商代表部、国防総省、連邦捜査局(FBI)などがそれぞれ中国の攻勢に立ち向かっているという状況です。

──サターさんのこれまで40年もの米中関係への関わりからみてトランプ政権の現在の中国への対応は適切だと思いますか。

サター はい、米国は中国の攻勢をはね返す必要があったと思います。中国が米国を弱いとみて進出や膨張を重ね、米国の勢力圏を侵害していくという近年の状況は危険でした。率直に述べて、オバマ政権時代の後半はそうでした。トランプ政権の政策担当者たちはそうした中国の危険な拡大を止めるための具体策を取り始めた。私はその基本姿勢に同意します。

 トランプ大統領が長期の総合的な対中政策のビジョンを持っているかどうかは別として、中国の膨張を止める政策を断固としてとれた指導者は、2016年の大統領選の候補者の中には他にいませんでした。中国への有効な対策を取るためには、米中関係の緊迫を覚悟せねばならない。トランプ氏以外にそうした緊迫を覚悟して自分の政策を推進できる指導者はまずいなかったと思います。現在のような強固な対中政策が米国には必要なのです。

【私の論評】戦略の発動の時期と順番を間違えた中国は米国の事実上の敵国になった(゚д゚)!

冒頭の記事において、米国側の危機感、切迫感を生んだ第1の要因は、中国がハイテクの世界で世界の覇権を目指し、ものすごい勢いで攻勢をかけてきたことをあげています。これについては、随分と報道などされてきているので、ここでは詳細は述べません。

第2の中国による統一戦線方式の対米工作については、特定部分がワシントンの半官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」から昨年9月上旬に学術研究の報告書として発表されました。

「米国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてきた」

このようなショッキングな総括でした。1年以上をかけたという調査はコロンビア、ジョージタウン、ハーバードなど全米25の主要大学を対象としていました。アジアや中国関連の学術部門の教職員約180人からの聞き取りが主体でした。結論は以下の要旨でした。
・中国政府の意を受けた在米中国外交官や留学生は事実上の工作員として米国の各大学に圧力をかけ、教科の内容などを変えさせてきた。 
・各大学での中国の人権弾圧、台湾、チベット自治区、新(しん)疆(きょう)ウイグル自治区などに関する講義や研究の内容に対してとくに圧力をかけてきた。 
・その工作は抗議、威嚇、報復、懐柔など多様で、米側大学への中国との交流打ち切りや個々の学者への中国入国拒否などを武器として使う。
この報告の作成の中心となった若手の女性米国人学者、アナスタシャ・ロイドダムジャノビク氏はこうした工作の結果、米国の大学や学者が中国の反発を恐れて「自己検閲」をすることの危険をとくに強調していました。

こうした実態は実は前から知られてきました。だがそれが政府公式の調査報告として集大成されて発表されることが、これまでなら考えられなかったのです。

これは、昨今の米国の対中態度の歴史的な変化の反映だといえるでしょう。さて、わが日本でのこのあたりの実情はどうでしょうか。日本でも、同様の工作が行われていることが、10年以上も前から言われてきました。

特に、日本は工作員天国といわれています。日本には世界の国ならどこでも持っている「スパイ防止法」がないのです。

工作員にとっての天国とは次のような状態です。①重要な情報が豊富な国、②捕まりにくく、万一捕まっても重刑を課せられない国のことです。

日本は最先端の科学技術を持ち、世界中の情報が集まる情報大国でもあります。しかも、日本国内で、工作員がスパイ活動を働いて捕まっても軽微な罪にしか問われないのです。スパイ活動を自由にできるのが今の日本なのです。つまり、工作員にとっては何の制約も受けない「天国」だということを意味しています。

アメリカに亡命したソ連KGB(国家保安委員会)少佐レフチェンコが「日本はKGBにとって、最も活動しやすい国だった」と証言しています。ソ連GRU(軍参謀本部情報総局)将校だったスヴォーロフは「日本はスパイ活動に理想的で、仕事が多すぎ、スパイにとって地獄だ」と、笑えない冗談まで言っています。

レフチェンコ氏

日本は北朝鮮をはじめとする工作員を逮捕・起訴しても、せいぜい懲役1年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していきます。日本もなめられたものです。

今後米国が、本気で中国と対決するというのですから、日本経由で米国の重要情報が漏れたり、たとえ米国の情報でなくとも、日本の技術等が中国に漏れそれが、中国を利することになり米国が不利益を受けることになっても、日本が現状を放置しておくことにでもなれば、米国は日本の大学や企業、政府機関、金融機関等を制裁対象とする可能性は十分にあります。

日本でも、米国のように日本国内での中国による統一戦線工作の実態を暴く報告書を作成するなどして実態を明るみに出し、それを期にスパイ防止法を成立させるべきです。

習近平

米国が、中国と本気で対決しようとしたのには、別の理由もあります。米国は中国が国債秩序を塗り替えるつもりではないかと懸念してきたことに対して、中国はそのとおりであると宣言したことです。

中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを昨年宣言しています。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになります。

習近平氏は昨年6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したといいます。

習主席はこの会議で「中国は今後グローバルな統治の刷新を主導する」と宣言し、「国際的な影響力をさらに増していく」とも明言しました。中国独自の価値観やシステムに基づいて新たな国際秩序を築くと宣言している点が、これまでの発言よりもさらに積極的でしたた。

習氏の演説の骨子は、以下のとおりです。
・中国はグローバルな統治を刷新するための道を指導していかねばならない。同時に、中国は全世界における影響力を増大する。 
・中国は自国の主権、安全保障、発展利益を守り、現在よりもグローバルなパートナーシップ関係の良い輪を作っていく。 
・中国は多くの開発途上国を同盟勢力とみなし、新時代の中国の特色ある社会主義外交思想を作り上げてきた。新たな国際秩序の構築のために、中国主導の巨大な経済圏構想「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」をさらに発展させる。
・中国主導の新しいスタイルの国際関係は、誰にとっても「ウィン・ウィン」であり、互恵でなければならない。
米国政府は中国に対して従来から警戒や懸念を表明してきました。習近平政権は米国の懸念に対して、それまで正面から答えることがなかったのですが、これは、その初めての回答とも呼べるものです。

つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのです。米国と中国はますます対立を険しくすることになったのです。

中国の立場にたったとしても、私は、この宣言は早すぎたと思います。この宣言はできれば、20年後、早くても10年後にすべきでした。

現在の中国は、米国第二の経済国といわれていますが、まだまだ米国には及びません、個人あたりのGDPも当然米国に及ぶこともなく、日本や他の先進国にもまだまだ及びません。

このような宣言は、少なくとも国全体のGDPが米国と肩を並べるくらいになってからすべきでした。

過去においては中国の経済の成長は目覚ましいものがあり2017年には米国と肩を並べるなどともいわれていましたが、今は成長が鈍化し見る影もありません。かつての中国では、保八ということがいわれ、中国は発展途上であり、雇用を確保するためには最低8%の経済成長がなければ、それは不可能になるとして、経済成長率8%を死守するとしてきましたが、最近ではこの保八すら守れない状況になってきました。

これは、中国では十分な雇用を確保できなくなったことを意味します。さらには、最近ではこのブログでも掲載したように、金融緩和策も取れない状況に陥りました。マクロ経済学上の常識では、金融政策=雇用政策でもありますから、これは中国ではますますまともな雇用政策もできなくなったことを示しています。

現在の中国は経済力でも軍事力でも、米国には到底およびませんし、米国とその同盟国ということになれば、雲泥の差と言っても良いくらいです。ちなみに、米国では昨年は雇用状況がかなり良くなっていました。日本もそうでした。

中国が先のような宣言を昨年に実施したことにより、日米ならびにその同盟国は、中国に従来以上に警戒感を高め、中国に対抗しようという機運が高まりました。

もし、中国があのような宣言の内容をおくびにも出さず、20年後に宣言することになっていたとしら、それまでの間に、経済・軍事力を強化し、その頃になって、尖閣での示威行動をはじめたり、南シナ海を突然大規模に埋め立て、あのような宣言をしたとしたら、世界はとんでもないことになっていたかもしれません。それこそ、第三次世界大戦になる可能性もあったかもしれません。

しかし、中国が昨年の時点で、あのような宣言をしてしまったため、米国は無論他の先進国も事前に中国の野望を知りそれを阻止する暇が得られることになりました。

中国は、完璧に戦略を間違えました。戦略というより、戦略の発動の時期と順番を間違えました。ただし、時期と順番を間違えなかったとしても、それこそ第三次世界大戦となり、中国にとってもとんでもない事態になったかもしれません。

民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされていない、中国中心の新たな国際秩序とは、はっきり言えば闇の世界です。米国が第二次世界大戦後につくりあげてきた国際秩序は、良いことばかりではありませんが、それでも中国中心の新たな国際秩序よりは、はるかにましだし、まともです。

中国中心の新たな国際秩序なるものが形成されれば、結局のところ世界は、19世紀、もしくは18世紀の遅れた社会構造にもどることになるだけです。テクノロジーや、素材などが、最新のものでも、非効率、非生産的な遅れた社会では、特に先進国の人々は夢も希望も持てなくなります。

日本もせっかく明治維新で社会が近代化できたにもかかわず、江戸時代に戻ることになったかもしれません。そんなことは、米国だけではなく、世界中のまともな国々や、先進国では、たとえ政治的立場が保守派であろうが、リベラル・左派であろうが、とても許容できるものではありません。

本来は、中国こそが社会構造を変えていくべきなのです。日米などの先進国も、中国が経済発展すれば、そうなるだろうと期待していたのです。しかし、それは見事に裏切られたどころか、中国は自らの社会構造の遅れを認識せず、単に遅れた社会構造を自らの核心的価値観として世界に押し付けようとしたのです。だからこそ、米国は、超党派で中国に対抗しているのです。

この米国の姿勢は、中国が少しぐらい譲歩したからとって変わることはありません。中国が、社会構造改革を約束して、それを本当に実行するか、経済的に疲弊して、他国に影響力を及ぼせないくらいに衰退するまで続くことになります。この米国の姿勢は、もはや超党派のものとなり、トランプ政権の後の政権もこれを踏襲することになります。中国は米国の事実上の敵国となったのです。

他の先進国も、これに同調することになります。中国は金で多くの国をたらしこもうとするので、中には、イタリアや中欧諸国のように中国に同調しようとするような国もでてくるかもしれませんが、大勢としては、ほとんどの国、特に先進国が中国に対して対抗姿勢を顕にすることでしょう。結果が出るまで、約20年は続くとみておくべきでしょう。米中の対立の根は見かけよりもずっと深いのです。

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2012年8月13日月曜日

【五輪閉会式】景気後退、将来への懸念は消えず 政争の予感も―【私の論評】イギリスの今日の姿は、明日の日本の姿である!!

【五輪閉会式】景気後退、将来への懸念は消えず 政争の予感も:


【ロンドン=内藤泰朗】テロや警備員不足、ストなど多くの不安を抱えながら開幕したロンドン五輪は12日、無事その幕を閉じた。


英中央銀行のイングランド銀行は先週、英国経済が長期的なゼロ成長に突入したとの展望を発表した。景気後退期にどこまで変革をもたらすことができるのか、将来への懸念が消えたわけではない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・<中略>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しかも五輪の成功は、皮肉なことに開催地ロンドン市長で、キャメロン氏と同じ保守党の異色政治家として知られるボリス・ジョンソン氏の政治的立場を強化し、両者による政争を予感させている。

エリザベス女王を中心とした英国の伝統と、発展を求める若い世代の変革に向けた挑戦の物語は、第二章に入った。

レリン・フランコ。美女の国・パラグアイの女子槍投げ代表選手
この記事の詳細は、こちらから!!



【私の論評】イギリスの今日の姿は、明日の日本の姿である!!


大失敗した、英国の増税策の概要をみよう。2010年5月に発足したキャメロン保守党・自由民主党連立政権はさっそく付加価値税率17・5%を11年1月から20%に引き上げる緊縮財政政策を決定しました。他にも銀行税を導入するほか、株式などの売却利益税の引き上げ、子供手当など社会福祉関連の予算削減にも踏み切りました。

他方で法人税率を引き下げ、経済成長にも一応配慮しましたた。こうして国内総生産(GDP)の10%まで膨らんだ財政赤字を15年度までに1%台まで圧縮する計画でしたが、このまま低成長と高失業が続けば達成は全く困難な情勢です。



窮余の一策が、中央銀行であるイングランド銀行(BOE)による継続的かつ大量の紙幣の増刷(量的緩和)政策に踏み切りました。BOEといえば、世界で初めて金(きん)の裏付けのない紙幣を発行した中央銀行だ。

上のグラフを良く見てほしいです。BOEは11年秋から英国債を大量に買い上げ、ポンド札を金融市場に流し込みました。マネタリーベース(MB)とは中央銀行が発行した資金の残高のことです。BOEは08年9月の「リーマン・ショック」後、米連邦準備制度理事会(FRB)に呼応して量的緩和第1弾に踏み切りましたが、インフレ率が上昇したのでいったんは中断していました。


インフレ率は5%前後まで上昇しましたが、そんなことにかまっておられず、今年5月にはリーマン前の3・7倍までMBを増やしました。そうして、この事実は、このブログでも以前紹介したように、反リフレ派がいう、「不況だかといって大量に増刷すれば、ハイパーインフレになる」というおかしげな理論を裏付ける格好のケーススタディーとなっていました。

幸いというか、全く当たり前のことですが、インフレ率は需要減退とともにこの5月には2・8%まで下がりました。国債の大量購入政策により、国債利回りも急速に下がっています。

しかもポンド札を大量に刷って市場に供給するので、ポンドの対米ドル、ユーロ相場も高くならずに推移し、ユーロ危機に伴う輸出産業の競争力低下を防いでいます。それでも、イギリス経済は、未だ不況のままで、先日もこのブログで述べたように、EUの不況もあり、結局ロンドンは地元観光客も、EUの観光客も例年に比較しても少なく、閑古鳥が鳴いていたという状況で、経済波及効果はほとんどありませんでした。

ここで話を日本に話をもどすと、参院で消費増税法案が採決され、電力料金引き上げや来年からの東日本大震災復興増税などに加え、家計に負担がのしかかりますが、さっそく懸念されるのはデフレ不況のさらなる深刻化です。

このイギリスの状況をみれば、消費税増税など狂気の沙汰としか思えません。上で、見たように、わずか1年もしないうちに、経済が悪化して、イングランド銀行が、増刷せざるを得なくなっています。こんな事実をみても、増税一本で進む、民主党、自民党、公明党など、異常カルト集団にしか見えないのは、私だけでしょうか。それに、財務省も、日銀も、増税は経済に良い効果をもたらすなどと、とんでもないことを言っています。一体、日本の中枢はどうなってしまったのでしょうか?

リーマンショックは、2008年でしたが、その後増税に踏み切り緊縮財政を取ったイギリスは猛烈な不況に陥りました。しかし、メディアを含め政府、財務省、日銀、はこのことは発表しません。


現在、消費税増税法案が、参院を通過したばかりですが、このまま増税してしまえば、日本もイギリスと同じようになることでしよう。なんでこんな袋小路にわざわざはまらなければならないのでしょう。

イングランド銀行は、増税後に大増刷をやっていました。これは、順番が逆です。増税前に、大増刷をすべきでした。そうしていれば、大増刷により、インフ気味となり、景気が加熱します。そうなったときに、増税すれば、ベストのタイミングでした。そうすれば、景気の加熱も冷ますこともでき、税収も増え、財政再建もできたことでしょう。

順番を間違えれば、日本もイギリスと全く同じことになります。まずは、日銀あたりがデフレ対策として、大増刷を行い、政府も財政支出を増やし、インフレ傾向にして、インフレが加熱した後に、増税すべきです。



ものごとには、順番と、集中すべきことがあります。それを間違えれば、とんでもないことになります。その事例は、日本国内でも、このブログでも掲載したように、昭和恐慌のとき、国外では、上のイギリスの例が典型的です。そのような、例が世界にはゴマンとあるにもかかわらず、今や、マスコミなど、もうすでに、増税は規定路線であるかのような報道ぶりです。

消費税増税法案は、参院を通過したとはいえ、まだ、本決まりではありません。景気条項は、まだ生きており、再来年の4月に増税するためには、来年の秋にそのときに政権を担っている政府が決定する必要があります。

09年7月の衆院解散
来年の秋といえば、まだ、1年あります。その間に選挙があれば、有権者として、増税しないと公約する政党に投票すべきです。



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