2017年7月25日火曜日

【書評】『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか? ──“カワイイ”を世界共通語にしたキャラクター』―【私の論評】霊性の息づく国日本ならではのキティちゃん(゚д゚)!

【書評】『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか? ──“カワイイ”を世界共通語にしたキャラクター』


 本書は、ハワイ大学人類学部教授の日系女性人類学者が、ハローキティがいかにして世界に広がり、どのように受容されていったかを、足かけ12年にわたって、日米のサンリオ関係者、アメリカにおけるキティファン、批評家などへのインタビューと文献の調査によって解き明かそうとした大著。

著書のクリスチャン・ヤノ氏
 著者は〈「カワイイ」を体現した物品や図像が、日本から世界各地に国境を越えて広まっていく現象〉を〈ピンクのグローバリゼーション〉と名付け、キティをその先頭走者と位置付けている。
レディー・ガガの「キティちゃん」の誕生日の時の衣装
 レディー・ガガなどのセレブがキティを好んでいることはよく知られているが、その一方、アメリカでは、キティは「従順でおとなしい」というアジア系女性のステロタイプなイメージの権化と捉えられ、それゆえに他ならぬアジア系女性のフェミニストから憎しみの対象となっているという。そうかと思うと、非西洋世界から侵入してきたグローバリゼーションへの警戒感からか、一部のキリスト教右派からは「ジャップの悪魔的な狂信教」などと糾弾されている。

 逆に、パンク、アングラ、ゲイ、レズビアンなどのマイノリティにとって、反逆や解放の象徴になっている。本書にはキティを模ったプラカードを掲げてパレードをするアジア系ゲイ団体の写真も掲載されている。

Houston Gay Pride Parade 2009
 キティは、西洋が非西洋を支配するという権力構造に抗って西洋に浸透したキャラクターと捉えられ、反逆や解放のシンボルになったのだ。ちなみに、アメリカのシンボルであるミッキーマウスは決して反逆、解放のシンボルにはならないという。

 日本人の知らないさまざまなキティ現象が具体的に紹介されており、非常に興味深い。

【私の論評】霊性の息づく国日本ならではのキティちゃん(゚д゚)!

ご存じのように「KAWAii(カワイイ)」は今ではTSUNAMI(津波)同様、世界で通じる日本語の一つです。2012~13年頃から、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、BABYMETALなどのアーティストが海外進出したことも、日本発の「KAWAii文化」の広がりを後押しました。しかしその元祖的な存在はと言えば、70年代から世界進出を果たしていたサンリオの大人気キャラクター、ハローキティなのです。



ではいったい、なぜハローキティは世界で受け入れられたのか? そして、キティを軸とした「KAWAii文化」から見えてくる日本とは、どんな国なのか? そんな考察を外国人視点から学んでみたいという人にオススメしたいのが、この書籍です。

日系人のハワイ大学人類学部教授で人類学博士という著者のヤノ氏は、1998年から2010年までの12年をかけてキティの調査研究を行い、その成果を約500頁の大作にまとめたのが本書です。

そして著者は、キティと「KAWAii文化」を人類学というアカデミズムの見地から分析することで浮かび上がる日本のキャラクター文化が、日本国内のみならず、世界規模で担う経済的・精神的役割を解明しようと試みています。

そんな本書には、キティを取り囲む様々な人たちが登場する。本書冒頭には、日本のサンリオ本社から、キティの3代目デザイナーである山口裕子氏がインタビューに答えています。キティと言えば、口がないのが特徴ですが、その理由を皆さんはご存知でしょうか。

3代目デザイナーである山口裕子氏
山口 キティを眺める人が、そこに自分の感情を映して読み取れるようにするためです。(中略)皆さんが幸せならキティも幸せそうに見えるし、悲しいときはキティも悲しげです。こうした心理的メカニズムのことを踏まえて、キティにはあえてどんな感情も面に出さないようにしました。

本書ではこうしたサンリオの企業戦略も詳細に分析されますが、多くのページは主に米国在住の成人したキティファン(キティファンを公言するレディ・ガガのエピソードなども登場)およびアンチ派への取材で構成されています。

中でもユニークな現象だと感じたのは、米国では、LGBT(性的マイノリティ)団体やパンクロック・アーティストたちが、自分たちのステイタスを代弁するアイコンとして、キティを活用しているというレポートです。

こうしたキティに対する賛否両論の取材を通して、著者は自身の造語である「ピンクのグローバリゼーション」(ピンク色に象徴される日本発「KAWA ii文化」が世界に広がっている現象)の本質を浮き彫りにしていきます。

赤のキティちやんビキニでご満悦のヘイデン・パネッティーア1
そして最後の「キティが生まれた国」と題された第8章では、企業から警察、首相、政府機関まで、すべてがマスコットキャラクターを持つ日本のキャラクター文化の分析や、全国の土産物店で活躍するキティを通して見た日本の贈答文化などへも言及され、「KAWA ii文化」の背後にある日本人の精神などが考察されています。

そんなハローキティことキティ・ホワイト(ロンドン生まれ)は、2014年11月1日に40歳の誕生日を迎えました。これを祝して米国カリフォルニア州の全米日系人博物館では、世界最大規模のハローキティ展覧会「ハロー!キティのスーパーキュートな世界への体験」(2014年10月11日~2015年5月31日)が開催され、この展覧会を取りまとめた学芸員が本書著者のヤノ氏でした。

ヤノ氏はこの展覧会の準備中、サンリオ本社からのある訂正依頼に驚愕する。それは「キティは猫ではなく、人間の女の子です」というものだった。著者がこの事実を知らされたのは、本書執筆後のことです。そして、このことの顛末に関しては、本書あとがきで訳者が詳細に記しているので、興味のある方はぜひ、そちらもしっかりと読んでほしいです。

本書を読むと、キティのプロフィールがしっかりと調べあげられ、記されているにもかかわらず、それでも著者は「キティは猫」と信じて本書の執筆にあたっていたようです。もっとも、キティが「猫か人間か」ということは、世界中のファンにも、そして本書の分析にも大きな影響を与えていないことも事実です。「眺める人が自由に創造できるアイコン」それがキティであり、世界を魅了するその秘密なのですから。

赤のキティちやんビキニでご満悦のヘイデン・パネッティーア2

ハローキティのキャラクターとしての開発は1974年で、公式にはこの年が誕生年になっていますが、初号グッズの販売は1975年3月です。最初のグッズはビニール製のがま口「プチパース」でした(当時の定価は240円)。

ハローキティの最初のグッズは「プチパース」
ちなみに、絵画やイラストは「著作物」ですが小物にあしらう図案は「意匠」といいます。コンテンツとデザインの違いです。この違いは19世紀後半のホームズの時代までさかのぼります。国際条約でこれらに線が引かれたのです。

西洋人が自分たちの知財利権を整備するために恣意的にに線を引いたのです。これは、中東に勝手に国境線を引いて「ここからはイギリス、ここからはフランス、ここからはベルギーの領土」等と定めていって、あとで問題が複雑化したのと同じ時代精神によるものです。

西洋人が自分たちの勝手で引いた線を跳び越えていく。「デザイン」を出自としながら「コンテンツ」と読み替えられることで「キャラクター」に進化したのがキティでした。

ミッキーマウスが「コンテンツ」出自のキャラクターだったのに対し、キティは「デザイン」出自のキャラクターでした。前者はコンテンツから商品展開してキャラクターとなったのですが後者は商品展開からキャラクターになりました。

これは、まさに越境のシンボルです。アジア系でゲイであるマイノリティな人々が、自分たちの存在をアピールするためにキティを掲げ、あっという間にパレードの主役になってみせたのも「越境」によるものです。キティの越境パワーがこんなところで全開したのです。

ミッキーとのもうひとつの違いは先にも掲載したように、口がないことです。自己主張する部位がもとからないので、「キャラクター」でありつつも「デザイン」に留まり続けるのです。つまりどのような解釈も、どのような感情移入も許容してしまうのです。

この、どのような解釈もどのような感情移入も許してしまうというところが、いかにも人的であり、他国には真似出来ないところです。

私にはハローキティーは、何やら、日本人の八百万の神を受け入れる精神を具現しているような気がします。

日本人は、昔から人はもとより万物に霊がやどるものとして生きてきました。そうして、それらを神(deity)として、多くの霊を受け入れてきました。

ハローキティーは、現在でも、連綿として霊性が息づく日本でないと生まれなかったのではないかと思います。

日本が霊性の国であることは、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事の、リンクを以下に掲載します。
「中韓」とは異質な日本人の「精神世界」…仏作家は「21世紀は霊性の時代。日本は神話が生きる唯一の国」と予言した―【私の論評】日本は特異な国だが、その特異さが本当に世界の人々に認められ理解されたとき世界は変る。いや、変わらざるをえない(゚д゚)!
式年遷宮「遷御の儀」で現正殿から新正殿に向かう渡御行列。
伊勢神宮は日本人と心のふるさと、未来への道しるべだ
=平成25年10月2日夜、三重県伊勢市の伊勢神宮

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、日本は霊性の国であることを掲載しました。以下に結論部分から一部を引用します。
このように、神話が現代なお生きているのが日本であり、日本それ自体が、神話そのものの国で、他国の影響を吸収し切って、連綿たる一個の超越性を保つ国が日本であり、霊性の根源に万世一系の天皇がある国が日本なのです。そうして、マルローが指摘したかどうかは、わかりませんが、日本では、過去が現在に現在が未来につながっているのです。そうなのです。霊的に時間を超越してつながっているのです。私たちの霊は、この悠久の流れにつながっているのです。こんなことは、当然であり、だからこそ、マルローも指摘しなかったのかもしれません。 
私たち日本人は、このような国日本に誇りを持ち、自信を持ち、世界に日本の素晴らしさを伝えていくべきです。日本のやり方が、世界伝わりそれが理解されれば、世界は変わります。
この結論に付け加えると、外国においてもかつてシャーマニズムやアニミズムという形式で、霊を重んじる気風があったにもかかわらず、宗教の成立とともに、これをほとんど捨て去ったにもかかわらず、日本ではこれを昇華し現代にまでそれを連綿と受け継いでいるという特異な点があります。

この霊性を重んじるという気風があるからこそ、八百万の神を受け入れ、日本では大きな宗教対立もなく現在に至っているのです。

この精神の宿る日本だからこそ、キティちゃんのようなキャラクターができたと私は考えているのです。

そうして、私はこのブログの記事でも述べたように、日本は特異な国ですが、その特異さが本当に世界の人々に認められ理解されたとき世界は変ると思っています。

世界が日本のやり方を見習えば、宗教紛争はかなり減ると思います。そうして、私は、世界にこれを理解してもらうことは、かなり困難なことであると思ったのですが、良く考えてみると、キティちゃんの「どのような解釈も、どのような感情移入も許容してしまう」というところが、まさに霊性の世界に入るきっかけともなるのではないかと思うのです。

だからこそ、マイノリティーの人々も「眺める人が自由に創造できるアイコン」としてのキティちゃんを自分たちのステイタスを代弁するアイコンとして活用しているのでしょう。

そうして、ブログ冒頭の記事では、このアイコンを反逆や解放の象徴としているとしているようですが、私はこの解釈は違うと思います。彼らがアイコンとしてキティちゃんを用いるのは、やはり日本のようにすべてを受け入れるという包容のシンボルとしているのだと思います。自分たちも、一般社会から受け入れられたいし、一般の人たちのことも自分たちの中に受け入れたいということを表象しているのだと思います。

そうして、西欧ではシャーマニズムやアニムズムは宗教と対立する概念であり、宗教はより優れて高尚なものであり、シャーマニズムやアニミズムは、野蛮で未熟なものであるという考えがあります。

だからこそ、西欧の一部のキリスト教右派からは「ジャップの悪魔的な狂信教」などと糾弾されているのです。

しかし、キティちゃんのことが理解されれば、本当に世界は変わっていくかもしれません。キティちゃんだけでは、それは無理なのかもしれませんが、キティちゃんを含めた、様々な方面でキティちゃん的なものが、日本から海外に越境すれば、いずれ日本の霊性の気風が息づく社会の本質も理解され、世界も変わっていくのではないかと思います。

そうして、それを実行するのは、そうです私達全員です。特に、若い世代の人々です。

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2017年7月24日月曜日

稲田問題のリーク源から、安倍内閣「倒閣運動」の深刻度が見えてくる―【私の論評】森・加計・日報問題の背後に財務省(゚д゚)!

稲田問題のリーク源から、安倍内閣「倒閣運動」の深刻度が見えてくる

稲田防衛大臣
   面白い資料が出てきた

森友学園問題、加計学園問題については、本コラムでそれぞれの問題の本質を明らかにしてきた。

森友学園問題では、当初の段階で公開入札手続きをとらなかったという近畿財務局のチョンボ(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51362)であり、加計学園問題では、50年以上獣医学部の新設を拒否してきた文科省告示の存在とそれを巡る既得権派と規制緩和派の争いである(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52245)、というものだ。

その問題本質の理解を妨げたのが、役所における公文書管理である。筆者にとっては、各種資料から、森友学園問題、加計学園問題について結論を出しているが、一般からみてそれらが分かりにくいのは事実だ。

森友学園問題では、「森友学園側の不正補助金授受」という形で事件化されて、ことが終わろうとしている。もちろん、この問題についてももろもろ論点はあるのだが、なにしろ「財務省の文書は破棄した」という言い方に終始したのは、政府への信頼を大きく損ねただろう。

実際、筆者は森友学園問題の構図を探るためにいろいろと資料をさがしたのだが、結局、鴻池議員の事務所のメモ(これは、各種資料と照らし合わせても信憑性が高いものである)に頼らざるを得なかった。本来であれば、財務省に管理されているしかるべき公文書をみれば直ぐわかることなのに、それがないゆえに解明に難渋した。

一方、加計学園問題では、その点かなり楽だった、当事者である文科省と内閣府双方の合意済みの特区諮問会議、ワーキンググループの議事録が残されており、それらと前川氏の記者会見や文科省からリークされたメモが齟齬していたからだ。筆者が本コラムで書いてきた問題の本質は、10日の閉会中審査での加戸守行前愛媛県知事の国会証言、14日に行われた京都産業大の記者会見で、結局明らかになった。

その後、週刊誌が、昨年11月17日、山本幸三行革大臣は蔵内勇夫日本獣医師会会長らと面談した際、「新設校は加計学園で決定した」という、抵抗勢力であった獣医師会側からのリークメモを報じた(ただし、これについて、蔵内氏自身が、その面談の際には、京都産業大学の名前も出ていたと、山本大臣に軍配を上げ、週刊誌報道を否定した→https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170720-00000004-tncv-l40)。

いずれにしても、加計学園問題は、森友学園問題に比べて公開されている議事録や資料が多いので、その解明は難しくなかった。

筆者は、加計問題でのいわゆる「石破4条件」について、文科省の挙証責任を指摘してきた(5月29日付け本コラム http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51868)。しかし、「石破4条件の挙証責任は文科省にはない」という。実際、前川喜平・前文科事務次官ほか、文科省関係者はそう主張してきた。

規制官庁側に挙証責任があるというのは、本コラムで書いたように役所の常識であるし、閣議決定された特区基本方針にも書かれている、にもかかわらずだ。

それについて面白い資料が見つかった。2005年7月12日の規制改革会議の議事録だ(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/old/minutes/wg/2005/0712/summary050712_01.pdf)。そこには、課長時代の前川氏が登場している。ご一読いただければ分かるが、その当時から前川氏は「挙証責任」が理解できておらず、草刈隆郎規制改革会議議長から、規制改革会議への出入りを禁止されていたのだ。このような非常識な役人が次官になるというのが、文科省の最大の問題点だろう。

さて、前置きが長くなったが、今回は稲田防衛大臣の諸々の問題について解説を加えたい。

   支持率低下の理由は「女性」にアリ

まずは各種報道から時系列を整理しておこう。

昨年7月、国連平和維持活動(PKO)をしている南スーダンで政府軍と反政府軍の間で「戦闘」があった。

9月30日、フリージャーナリストが防衛省に、PKO派遣されている部隊の「日報」開示を請求

12月2日、「日報」の情報開示請求に対して、防衛省は「日報はすでに廃棄し存在しない」とし不開示を決定

12月16日、稲田防衛大臣が再調査を指示

12月26日、電子データが統合幕僚監部に存在

今年1月27日、稲田防衛大臣に対し電子データが統合幕僚監部存在していたことを報告

2月7日、日報公開

2月15日、《省内会議 陸上幕僚監部で電子データとして保管、保管データは公表しない方針》(?)

3月16日、衆院安全保障委員会において、陸上幕僚監部で日報が保管されていた疑惑に対して、稲田防衛大臣が「報告はされなかった」と答弁

3月17日、防衛省防衛監察本部による特別防衛監察が設置され、解明が進められることに

まず、国民との関係でみれば、日報自体は2月7日に公開されているので、大きな実害はない。どこの部署で保管されていたかどうかが議論になっており、これは部内では問題であるが、国民との関係では些細な問題である。しかも、その後、南スーダンからPKO部隊は撤収されているので、この点でも、安全保障政策上の問題はまずない。

もっとも、防衛省の部内問題であるとはいえ、稲田防衛大臣が国会で「虚偽答弁」をしていたのであれば、それは問題である。それが今クローズアップされているのは、森友学園問題で、弁護士時代の活動についての国会発言が訂正されたり、先の都議選での自衛隊に関する不適切な失言があったからだ。

特に、都議選での失言(「防衛省、自衛隊としても(自民党候補の応援を)お願いしたい」と発言したもの)は弁解の余地はないくらい酷いものだ。筆者はたまたま失言が行われた選挙区の住民であったが、この失言と隣接地区選出の豊田真由子議員の暴言によって、自民党への大きな批判が起こるのを身近に感じた。

なお、2カ月前までの安倍政権の高い支持率には、小泉純一郎政権以降と比べて、いくつかの特徴があった。

年代別でみると、他の政権では、一般的に高齢世代ほど支持率が高い傾向があったが、安倍政権は逆に若い世代ほど支持率が高かった。男女別でみると、他の政権では男女で支持率の差は少ないが、安倍政権は男性の支持率が高かった。第2次、第3次安倍政権は、10年前の第1次安倍政権と比べても、世代別政権支持率と男女別政権支持率は異なっている。

最近になって支持率が急落した要因は、女性の支持率がさらに下がったことが大きい。強引な国会運営に加えて、豊田真由子議員の暴言、稲田朋美防衛大臣の失言も背景にあると筆者はみている。

豊田氏の暴言は本当にひどいものだった。これで高齢世代の男性の支持も大きく失ったはずだ。筆者もあの発言がテレビで流れるたびに腹が立ったものだ。

また、稲田防衛大臣の失言もひどかった。ある女性芸能関係者は、ワイドショーのなかで「神妙になるべき会見で、稲田防衛大臣のつけまつげはその場にふさわしくない」と指摘していた。こうした点に女性は敏感である。

   一種の「クーデター」だったのか

話を稲田防衛大臣の国会における虚偽答弁に戻すと、国民への開示や安全保障政策上の問題というより、議員本人の信頼の問題だろう。ただし、これを文書管理の観点から白黒つけるのは難しい。公文書があったとしても、開示するのは難しいからだ。

もしかすると、稲田防衛大臣のいうとおり、大臣は日報問題について防衛省から報告を受けていなかった可能性もある。たしかに、2月7日には日報が公開されていることから、稲田防衛大臣には隠蔽するインセンティブはない。しかしながら、これほどまで防衛省からのリークがあること自体が、シビリアンコントロールの観点から考えても異常なことだと言わざるを得ない。

筆者の役人時代の感覚からいえば、「軍隊組織」に近いほど上から下までの統率が取れているものだ。その代表格は防衛省、警察である。その意味からいえば、森友学園では財務省から一切情報が出ないで、加計学園問題では文科省からのリークが出たのは、想定内の話だ(文科省の方が、より軍隊組織からは遠いという意味だ)。

もちろん、防衛省からも自己組織に有利なリークが行われることはあるが、今回のような防衛大臣を貶めるリークは聞いたことがない。これまで、防衛省は、どのような人が防衛大臣になったとしても、組織として必死に支えてきたはずだ。

一部には、特別防衛監察の結果があまりに酷く、稲田防衛大臣にまったく責任が及んでいない点から、防衛省内での一種の「クーデター」だったのではないかという意見もある。

また、一部のテレビ局が報じたが、日報問題の「監察結果の概要」が画像付きでスクープされたり、防衛大臣室でのやりとりで稲田防衛大臣が「けしからん」といった、という報道も気にかかる。

テレビのスクープ報道のキャプチャ
監察結果の画像付きスクープは、「監察結果の概要」が外部に漏れていることを示唆するし、「けしからん」が防衛大臣の口癖であることは、知っている人は知っている話だ。これは、ひょっとしたら、安倍政権の倒閣運動が、各省庁の段階ではなく、かなりの広範囲で行われている可能性も示唆しているのだ。

    もろもろぶっ飛ぶ

いずれにしても、稲田防衛大臣の下では、防衛省の組織統率が取れていないの事実であるので、仮に稲田防衛大臣が虚偽答弁をしていなくても、大臣失格であるのは間違いない。8月上旬の内閣改造を待たずに辞任する可能性もあるだろう。短期間であれば、首相が兼務するという方法もある。

さて、安倍政権の倒閣が行われた場合、経済政策にかなりの変化が起こることは、7月10日付け本コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52245)で書いた。もちろん、教育の無償化を憲法改正で行うという議論もぶっ飛ぶだろう。

教育の無償化は、憲法改正なしでも立法政策として可能だという意見もあるが、その問題点は18日付け本コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52319)で書いてある。

安倍首相は、教育を投資とみて教育国債を発行する考え方にも理解をしている。これは、23日に行われた日本青年会議所(JC)との会合でも明らかになっている(日経新聞「首相、教育国債「次代にツケ残さず」 無償化財源めぐり 可能性排除せず」 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK23H0B_T20C17A7000000/)。この点は、ポスト安倍といわれる政治家とは異なっていることに留意すべきである。倒閣というなら、もろもろのデメリットも考慮したうえでいうべきだろう。

こうした点も含めて、24日(月)と25日(火)の国会閉会中審査が安倍政権の支持率反転につながるのかどうか、注目したい。

【私の論評】森・加計・日報問題の背後に財務省(゚д゚)!

高橋洋一氏は、ブログ冒頭の記事で、「これは、ひょっとしたら、安倍政権の倒閣運動が、各省庁の段階ではなく、かなりの広範囲で行われている可能性も示唆しているのだ」と指摘しています。

これは、おおいにありそうなことです。何やら、今回の森友に始まり、加計で国会閉会中審査が開催され、さらに日報問題と立て続けに起こる、倒閣運動は従来にはみないスケールです。

これに対して、高橋洋一氏はこの倒閣運動が広範囲となっているその背景については掲載していません。しかし、ヒントは掲載しています。

最後のほうで、高橋洋一氏は、安倍政権の倒閣が行われた場合、経済政策にかなりの変化がおこることを指摘しています。さらには、教育無償化を憲法改正で行うという議論もぶっ飛ぶとしています。

さて、これらに関与する官庁はどこかといえば、それは無論財務省です。財務省はとにかく何が何でも、増税をしたいという立場です。

福田淳一 次期財務事務次官
ところが、今までのところ複数回にわたって、10%増税を安倍総理に阻止されてきました。そうして、このままだと永久に阻止されてしないかねないという危機感を持っていることでしょう。

そこで、財務省はこの危機を打開するために、当然のことながら安倍政権の倒閣運動に向かうという筋書きはかなり自然な成り行きです。

そうして、文科省や防衛省など単独では、とてもこのような動きはできません。しかし、財務省なら、政府の金を管理しているということで、他省庁にもにらみを利かすことができるし、他省庁が何かをしようとしても、結局予算がなければ、何もできないということで、予算を司る財務省にはなかなか頭が上がらないという現実もあります。

財務省と他の省庁との違い、特に文科省との違いについては、一昨日のこのブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
「石破4条件」の真相はこれだ!学部新設認めない「告示」の正当性示せなかった文科省―【私の論評】財務省のような粘りのない文科省の腰砕けを露呈したのが加計問題の本質(゚д゚)!
石破茂氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に文科省と財務省の違いを指摘する部分のみ引用します。
ところが、ここから文科省は猛烈なサボタージュを始めました。八田は内閣府を通じて文科省に検討状況を何度も尋ねたのですが、期限である「28年3月末」が過ぎても明確な回答はありませんでした。結局、WG会合が開催されたのは、期限の半年近く後の同年9月16日でした。 
ちなみに「需要見通し」は、「複数の微分方程式体系からなる数理モデル」です。獣医師は足りているということを文科省は微分方程式を書いて証明すれば良かったのです。しかし、これは、文系事務官僚の手に負える代物ではないです。 
しかし、何も自分たちでやらなくても、省外の誰か数学の得意な人に顧問にでもなってもらいその人にやってもらえば、それで良かったはずです。そうして、その結果を他の複数の人に検証してもらえばそれで良かったはずです。でも、彼らにはそれをしませんでした。 
本当は誰かに頼んで、やってもらったのかもしれません。しかし、いくら数理モデルにあてはめたにしても、本当に足りなければ足りないなりの結果しかでません。外部に頼んだにしても、外部の数理研究者なども嘘をつくわけにはいきません。 
そこで、文科省は諦めてしまったのでしょう。文科省はこの点においては、財務省には負けてしまうようです。財務省の場合は、このような場合でも無理をしてでも、何とか自分たちの都合の良い資料を作り上げます。 
たとえば、デフレなど景気の悪い時には、マクロ経済学的には、減税、給付金、公共工事などの積極財政をせよと教えていますが、財務省はこの教えに背いて、デフレ気味味の現状でも増税をするための根拠を何とかでっちあげています。 
そうして、増税の根拠をご説明資料にまとめて、政治家やマスコミなどに足繁くかよい説明をして、その根拠をまわりに信じ込ませ、とうとう8%増税を安倍政権に実行させてしまいました。しかし、この根拠はでっちあげだったことは、増税後の大失敗ですぐに暴露されました。 
この手口は、詳しく分析してみると、数理モデルを駆使するような高度なものではありません。良く分析するといくつもの錯誤の上に成り立っていることは確かです。たとえば、財政と税制の一体改革なるものを打ち出し、まともな医療や社会保障を受けたいのであれば、増税に甘んじなければならないなどと、多くの人の情感に訴えるものであったり、明らかな錯誤の上に成り立つものです。
財務省の嘘を暴く高橋洋一氏の番組
その手口の中心は、政府の負債だけに注目させて、資産を無視して、国の借金1000兆円であり、政府は借金塗れであるようにみせかけるというものです。また、統合政府という、日銀と政府を含めた尺度見た統合政府の財政状況なども無視です。これなど、民間企業では連結決算ということで当たり前になっていることですが、それが明るみに出れば、政府の借金など幻想に過ぎないということが国民知れてしまうで、財務省はおくびにも出しません。
財務省は、自分たちの省益を守り抜くには、ここまでやり抜くのですが、文科省にはこうした根気や、覚悟がなかったようです。さすがに、一流官庁といわれる財務省と最低といわれる文科省の違いです。(無論これでは、財務省も国民にとって良くはないのですが、目標に向かって執着心を持って、努力するという意味では財務省のほうが優れているという意味です)
この文科省に比較して、はるかに粘り腰の強い、財務省が、従来のように財務省単独で、安倍政権を手玉にとったり、場合によっては弱体化させ事実上の倒閣にもっていくことができれば、財務省の最大目標である「増税」を心おきなく実行できます。

菅官房長官と安倍総理
とにかく、安倍政権がなくなれば、その後は自民党政権であろうが、民主党政権であろうが、その他の政党や連立政権であろうとも、安倍総理とその側近以外はほとんどが増税派ですから、増税は簡単にできます。

彼らにしてみれば、10%増税など序の口で、最終的には25%増税を目指していることでしょう。しかし、このような財務省の試みに対して、安倍政権一度は8%増税で負けたものの、 増税延期を公約とした選挙で大勝して、増税を阻止したり、その後は選挙に頼ることもなく延長を一方的に決めてしまいまいました。

これでは、省是である「増税」を完璧に阻まれると認識した財務省は、最後の賭けにでたのでしょう。とにかく、安倍政権と刺し違えてでも、増税を成就させるという腹なのでしょう。

そのため、従来は主に財務省がコーディネートして、政治家や民進党などの野党、マスコミやいわゆる識者を動かし、増税キャンペーンに巻き込んていた状況から、やり方を変え、多くの省庁を巻き込むさらに広範な形で、安倍政権倒閣運動にのめり込んでいる状況なのでしょう。

高橋洋一氏としては、これを言いたかったのでしょうが、現状のところでは、確たる証拠もないので、ブログ冒頭のような記事のような書き方になったのでしょう。しかし、経済に少し詳しい人や、政局に詳しい人が読めば、おそらく私と同じ解釈になるに違いないです。

死に物狂いの財務省は、たとえ現役次官など複数の高級官僚のクビが飛んだとしても、各省庁を巻き込んで、安倍政権に挑み、何とか安倍政権をなきものにしようともくろんでいるのでしょう。

そうなると、今後も森友・加計、日報問題と同じようなことが続くものと考えられます。さて、次は何なのか、思いもかけないところから、また問題が発生するかもしれません。

現在の安倍政権は従来とは異なる「2つの武器」を手にしています。官邸(内閣官房)に「内閣人事局」を設置して各省幹部の人事権を掌握したことと、特定秘密保護法の制定です。今のところ、これを十分に使うには至っていませんが、今後は駆使することでしょう。これによって、官邸は官僚から政治力を奪い、政治主導に徹しようと考えています。

これに対して、霞が関全体が財務省をリーダーに、支配権を取り戻そうとスクラムを組んだか、組もうとしているのが現状です。

しかし、このような財務省の活動は本来許されるものではありません。そもも、財務省などの各省庁は、政府の下部機関にすぎません。会社でいえば、官邸は本部や本社のような存在です。各省庁は、財務部や総務部、あるいは小会社のような存在です。

それに、官僚は国民の信託を受けているわけではないですが、政治家は選挙によって国民の信託を受けて、政府を構成しているのです。

本部や本社が、下部組織であるはずの部や、小会社に支配されるようなことがあっはならないはずです。それでは、会社全体を統治することできません。

安倍総理も座して死を待つつもりは全くないでしょう。今後、官邸と財務省の間にはかつてなかった壮大な大バトルが始まります。この戦いに官邸が負ければ、10%増税が行われ、その他の緊縮財政が導入され、日本はまた失われた20年に突入し選挙など有名無実になり官僚支配が完璧に定着することでしょう。

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2017年7月23日日曜日

「空母大国」に突き進む中国に待ち受ける「財政の大惨事」 米専門家指摘に反論「偉業を快く思っていない」―【私の論評】日本は既に戦闘力では米空母と同等ものを建造できる(゚д゚)!

「空母大国」に突き進む中国に待ち受ける「財政の大惨事」 米専門家指摘に反論「偉業を快く思っていない」

大連港で進水した中国初の国産空母(今年4月26日撮影)
【国際情勢分析】

 4月26日、中国初の国産空母が遼寧省大連の建造ドックから進水し、軍当局は「わが国の空母建造は重大な段階的成果を得た」(国防省報道官)と自賛した。上海では2隻目の国産空母が建造中で、原子力空母の建造も視野に入れるなど中国は「空母大国」に向け突き進んでいる。一方で巨費を投じる空母の建造が中国の財政を圧迫するとの指摘も米国の専門家から出ている。

将来、中国の空母戦力が「財政的な大惨事」を招く-。米ニュースサイト「ワシントン・フリービーコン」は新空母の進水にあたり、米軍事専門家の分析を紹介した。

「計画が見直されない限り、中国の空母は大きな財政的難題となるだろう。空母への資源の投入は米国においても巨大な財政負担となっている」

こうした専門家の見方の背景にあるのが、中国における空母建造の進め方だ。新空母は中国初の空母「遼寧」の前身である旧ソ連の未完成空母「ワリヤーグ」を元に設計、改良したもの。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)によれば、艦載機の殲(J)15の収用数は遼寧の18~24機から8機程度増える見通しだ。一方、スキージャンプ方式の甲板によって艦載機自らの推力で発艦する方式を踏襲しており、艦載機の搭載燃料や武器重量が制限される課題は残されたままだ。

上海で建造中の空母は、まったく別タイプの設計とみられている。現在の米原子力空母に設置されている、高圧蒸気で艦載機を発進させる装置「カタパルト」(射出機)を備えていると同サイトは予測。さらに次世代の空母は、リニアモーターによる電磁式カタパルトが設置され、原子力による動力システムが導入されると分析する。

ただ日本の軍事アナリストによれば、中国は現在、蒸気カタパルトよりも高度な技術が必要な電磁式カタパルトを優先的に開発しているもようだ。通常動力型の空母に蒸気カタパルトを搭載すれば、船の動力の相当部分をカタパルトが消費してしまうためだ。

いずれにしろ、大連と上海の空母は設計思想が根本的に異なっており、それぞれを運用させた上で設計を統一するとみられている。

こうした中国のやり方に対して、米国の空母設計の専門家は同サイトにこう指摘している。「甚だしく設計が異なるタイプの艦隊を運用するのは、効果的な空母戦力を形成する方法ではない。いずれ後方支援上の悪夢であることが明らかになるだろう」

また別の米研究者は「海軍の艦船の維持には巨額のコストがかかる。それ(空母の建造)は絶え間なく拡大を続ける資源の消耗であり、手遅れになるまで中国側は気づかないだろう」と警告した。

ロシアメディアは2013年、中国初の国産空母の建造費用が約30億ドル(約3300億円)に上るとの建造関係者の話を報じている。空母打撃群としての運用・維持には、さらに数千人の空母乗組員や数十の艦載機、さらには一体運用する駆逐艦や潜水艦などが必要となり、莫大(ばくだい)な費用がかかることは間違いない。

「空母に投じられた資金は、ただの浪費ではなく投資だ」

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(英語版)は、ワシントン・フリービーコンへの反論を掲載した。中国人専門家は「国産空母には8000もの革新的技術が使用されている」として、空母の建造が電子設備や動力、鋼材などの製造分野での技術向上につながったと主張した。

また別の専門家は、今後数年間で中国が空母を複数建造した場合、投資額は計1300億元(約2兆800億円)に上り、中国の経済成長を刺激すると指摘。ハイテク分野での雇用創出や、コンピューター・通信産業などの発展をもたらし、国内総生産(GDP)への直接的な貢献額は数千億元に上ると楽観的な見方を示した。

米国は現在10隻の空母を保有しており、さらに2隻を建造中だ。中国はそこまで多くの空母を建造するつもりはないとして、中国の専門家は同サイトの「財政危機説」を否定する。「そうした考え方は完全に間違っている。米国の専門家が中国をよく理解していないか、われわれの偉業を快く思っていないかだ」(中国総局 西見由章)

【私の論評】日本は既に戦闘力では米空母と同等ものを建造できる(゚д゚)!

中国初の国産空母とされる、最新鋭のものとあまり変わりがないともいわれている空母「遼寧」のボロ船ぶりについては、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下掲載します。
【中国空母、太平洋進出】遼寧は台湾南部を抜け南シナ海へ―【私の論評】ボロ船「遼寧」で中国の国内向けイッツ・ショータイムが始まる(゚д゚)!
中国の空母は、日米や台湾にとつても全く脅威でも何でもありません。結論から言ってしまうと、西側の空母は「実用品」ですが、中国の空母は見世物にすぎないからです。 
昔日本のある軍人が「空母の性能は艦載機で決まる」と言ったそうですが、現代でもこの言葉は当てはまります。 
高性能な艦載機を安定して運用できる空母が高性能なので、空母自体は極論すれば、飛行機の入れ物に過ぎないのです。 
アメリカの空母は地上基地と同じような性能の大型戦闘機を80機以上も搭載可能で、カタパルト(射出装置)によって数十秒ごとに離陸させることができます。平常時は航空機55機程度とヘリコプター15機程度を運用しています。
米空母「ニミッツ」
離陸の際には蒸気式カタパルト4基が1分ごとに艦載機を射出するので最大15秒で一機ずつ離陸できます。この蒸気式カタパルト4基を稼動させるのに原子力機関の電力が必要で、通常エンジンで運用するのは困難とされています。 
アメリカが空母に原子力機関を用いる一番の理由がこの電力確保ではないかとも言われています。良く言われる「地球を何周も出来る航続距離」についてはアメリカ軍自身が、あまり実用的な意味は無いと認めています。 
船の燃料だけ無限でも、航空機燃料や乗組員の食料や飲料が先に尽きてしまうからです。収容の際も数十秒間隔で着艦し、2機同時に昇降できる大型エレベーター3基で艦内に格納することができます。 
艦載機は同じ時代の地上用戦闘機と比較しても、遜色の無い性能が確保されている。現在のFA-18はF-15と同等とされていますし、今までの艦載機もずっとそうでした。今後もF-35ステルス機を海軍と空軍で運用する事が予定されています。 
アメリカの空母はまさに空母の理想形といえ、一隻の空母を50年間運用するのに1兆円以上掛けているとされます。他国の空母はアメリカよりぐっと下がり「とりあえず飛ばせる」のを目的にしている事が多いです。 
実戦で役に立ちそうなのはフランスとイギリスの空母くらいで、他は地上の基地から飛び立つ敵機と交戦するのは厳しいです。欧米先進国はハリアーや将来はF-35のような優れた艦載機を運用できるのですが、他の国は「とりあえず飛べる」程度のものしか確保できないからです。

燃料も装備を全部外さないと「遼寧」を離陸できないJ-15
では中国の空母および艦載機はどうなのでしょうか?中国の空母「遼寧」は旧ソ連空母の「ヴァリャーグ」がウクライナの造船所で未完成のまま野ざらしになっていたのを買い取りました。エンジンが無かったので中国製のエンジンを搭載し、搭載装備も間に合わせの中国製や輸入品でできています。 
特徴は速力が遅いこと、カタパルトが無いこと、スキージャンプ方式であることです。滑走路の先端にスキージャンプを取り付けるのはイギリス空母で始まり、垂直離着陸機のハリアーを少ない燃料で離陸させる事ができました。 
このように西側先進国の空母では垂直離着陸機(VTOL機)でスキージャンプを使用しています。本来ジャンプ台を使わなくても離陸できるのです。 
対してソ連やロシアの空母では、元々空母から離陸する能力が無い戦闘機を、ジャンプ台を用いて離陸させています。空母からは飛べない戦闘機を無理やり飛ばしているので、空母のミサイルや爆弾の搭載量は非常に少なく、航続距離も短いのです燃料を多く積むと兵器を減らす必要があるのです。 
ソ連とロシアの艦載機SU-33は、地上運用型のSU-27の改造機に過ぎません。中国が「遼寧」で運用しているJ-15(殲-15)もソ連のSU-27を中国が勝手にコピーして艦載機にしたもので、ロシア側はSU-33の模造品だと言っています。 
J-15はSU-33よりも電子装備などが新しいものの、基本性能はSU-33より劣っています。以前アメリカの軍事メディアが「J-15は2トンしか武器を積載できない」との解説をしていたことがありますしかも実際の運用時には翼の下に増加タンクも装備するので、1トン以下かゼロという可能性すらあります。
「遼寧」を発艦するJ-15
元になったソ連の空母とSU-33は現在もロシアが運用しているのですが「飛行しているのを何度が確認された」という程度で、あまり活動はしていないようです。 SU-33の生産奇数はたった24機で、J-15は11機に過ぎません。これでは、通常では試作機の数程度に過ぎません。 
中国の空母はロシアと同じく、保有しているのを見せびらかす以上の機能を持っていないと考えられています。 
今後新型のJ-31が実戦配備されても空母「遼寧」の戦力はあまり変わらないでしょう。中国は「遼寧」に変わるような10万トン級の大型空母を多数建造するという計画を発表しています。 
しかし、技術的、予算的な裏づけがないのに、大風呂敷を広げるのは中国の伝統芸能ですす。本当に建造したとしたら、やはり専門家の笑いの種になるのでしょう。
下の動画は、蒸気カタパルトで巨大な戦闘機を一気に加速させ、空に放つ米空母の飛行甲板で働く様子を、とある作業員の装着したGoProカメラの視点から眺められる動画です。


船の上の作業は戦闘中に電源を失ってもできるよう、基本的には人力で行われます。こうした発艦作業もオートメーション化はされていません。事故を防止するためにいろいろな人がいろいろな工夫や手順を踏んでいる様子がなかなかおもしろい動画です。

そうして注目転点は、空母「遼寧」の搭載している殲(J)15はミサイルも燃料タンクも搭載していませんが、米国の航空機はミサイルと燃料タンクも搭載していることがはっきりわかります。

米国の空母の専門家は、この有様をみて、「中国が何のためにこのような空母を運用するのか、その理由がわからない」と語ったと言われています。私にも全くわかりません。

中国初の国産空母も、スキージャンプ方式なので、実質は遼寧とあまり変わりないでしょう。ただし、電子機器や兵装が近代化された程度のものでしょう。

それと、次世代の空母は、リニアモーターによる電磁式カタパルトが設置され、原子力による動力システムが導入されると予測しているようですが、中国のリニアモーターの技術もかなり拙いものです。

2027年、東京~名古屋間に世界で初めて超電導技術を採用したリニア中央新幹線が開通します。品川駅から名古屋駅までを最速40分、さらに2045年には大阪までを67分で結ぶ計画です。

「でも、リニアモーターカーって上海にもなかった?」という人もいるかもしれないですが、上海のリニアと日本のリニアとでは技術レベルの次元に雲泥の差があります。そうして、この技術は空母で戦闘機を発艦することに転用できます。

技術的には拙い上海のリニアモーターカー
リニアモーターカーとは、車両側に取り付けた電磁石と地上側の電磁石の、磁界(N極・S極)の反発する力と引っ張る力を利用して進むものをいいます。なかでも日本のリニア中央新幹線の特徴は、超電導技術を導入している点です。

ある種の金属・合金・酸化物を一定温度以下に冷やすと、電気抵抗がゼロになる「超電導現象」が生まれます。超電導状態になったコイルに一度電流を流せば、電流は永遠に流れ続け、強力なパワーをもつ超電導磁石となります。この「超電導現象」を生み出すのが技術的に極めて難しいのです。

日本のリニアは超電導材料としてニオブチタン合金を使用し、液体ヘリウムでマイナス269度まで冷却することで超電導状態を作り出しています。

日本のリニアは“超電導”技術を使い、10センチも浮上して走行します。一方、上海のリニアはドイツが開発したトランスラピッドリニアという方式を採用していますが、これは超電導ではなく“常電導”磁気浮上と呼ばれるものです。超電導に比べて圧倒的に磁場が弱く、浮上する高さは1センチメートル程度しかありません。もしも地震などで軌道が歪めば、すぐに車両と軌道が接触する危険があります。

最高速度も日本のリニアが最高時速581キロなのに対し、上海リニアは430キロが限度です。さらに加減速の性能にも大きな差があります。

上海リニアの常電導では最高時速430キロに到達するのに13.3キロメートルの距離を要していますが、日本の超電導リニアが最高速度581キロを出すまでに必要な距離はわずか8.8キロメートル。時速500キロになら、上海リニアの半分の距離で達することができます。

上海リニアは2002年、中国・上海の浦東空港と郊外の地下鉄駅の間、約30キロの区間を8分弱で結んで話題になりましたが、実際に乗った人は、「加速に時間がかかり、最高速度に到達するとすぐに減速を始めてしまった」と話しています。

技術レベルで見れば、超電導と上海の常電導は“機械とオモチャ”ほどの違いがあることは間違いありません。

中国は、日本の大型ヘリコプター搭載護衛艦の存在をかなり恐れているようですが、それも理解できるような気がします。

海上自衛隊最大の護衛艦「かが」が3月22日、横浜市のジャパンマリンユナイテッド磯子工場で就役しました。

護衛艦「かが」
「かが」は全長248メートル(遼寧は304メートル)で艦首から艦尾までが空母のように平らな「全通甲板」を持つヘリコプター搭載護衛艦です。哨戒ヘリは5機が同時に離着艦でき、対潜水艦戦に従事して強引な海洋進出を続ける中国を牽制します。

輸送ヘリや攻撃ヘリ、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイなども搭載でき、南西諸島をはじめとした離島防衛や災害派遣などでの活躍も期待されています。

この「かが」は見た目は、ほとんど空母です。そうして、甲板をある程度加工すれば、垂直離着陸機(VTOL機)でもあるF35Aを搭載すれば、実質的に空母として運用できます。

航空自衛隊のF35A
それに、日本がリニアモーターカーの技術を、空母のカタパルトに転用することは可能です、そうすると、原子力ではない通常のエネルギーで動く空母でも、原子力空母と同等の攻撃力を持った空母も建造可能です。

中国にはまだない技術を日本は、はるかに先んじて持っているわけで、日本にとってはすでにまともな空母を建造するのは可能なのです。

それにしても、中国は工作技術や、先端技術でかなり劣っていますから、「遼寧」を改装したり、国産空母を建造するのでさえ、莫大な費用がかかります。どの程度かかるのかは、わかりませんが、日本が「かが」や「ひゅうが」を建造したり、リニアモーターによる電磁式カタパルトを備えた本格的空母を建造するよりもはるかに費用がかかるのは間違いないです。

これから、中国が空母大国になりたいと望むなら、莫大な経費を必要として、末期のソ連のようになる可能性は高いです。旧ソ連は、軍事力で米国に追いつき追い越そうとしたため、かなりの軍事費をついやさなければならなくなり、それがソ連崩壊の原因の一つにもなった面は否めません。

日本も、これから空母を建造すべきだと思います。日本が空母を5隻くらいも持つようになれば、アジアの軍事バランスも相当変わると思います。それに、日米に追いつけ、追い越せと中国が空母建造に血道をあげれば、中国が弱体化します。どんどんやってほしいです。

リニアモーターカーによる電磁カタパルトを備えた本格的空母を二隻建造し、あとはヘリコプター護衛艦の甲板を改装して、F35Aを搭載するようにすれば、日本としては無理なくできる範囲だと思います。それと、当然のことながら、オスプレイも搭載すべきです。

日本のリニアモーター技術と省エネ技術をもってすれば、後続距離では米国の原子力空母には到底及ばないものの、戦闘力では同等のものを十分に建造できます。ただし、ブログ冒頭の記事にもあるように、「地球を何周も出来る航続距離」についてはアメリカ軍自身が、あまり実用的な意味は無いと認めています。

船の燃料だけ無限でも、航空機燃料や乗組員の食料や飲料が先に尽きてしまうからです。

日本は、米空母の航空燃料や乗組員の飲食料の搭載分の範囲の航続距離を有し、エネルギーを節約し、米原子力空母と同等の航空機発艦・着艦回数と同等の能力を持つ安全な空母を建造する事が可能です。

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2017年7月22日土曜日

「石破4条件」の真相はこれだ!学部新設認めない「告示」の正当性示せなかった文科省―【私の論評】財務省のような粘りのない文科省の腰砕けを露呈したのが加計問題の本質(゚д゚)!

「石破4条件」の真相はこれだ!学部新設認めない「告示」の正当性示せなかった文科省

石破茂氏
 加計学園問題では、いわゆる「石破4条件」が注目された。石破茂氏が地方創生担当相だった2015年6月30日に閣議決定されたものなのでそう呼ばれているが、石破氏は、本人の名前がついていることを嫌っているようだ。

 なにしろ加計学園問題が、安倍晋三政権への倒閣運動の様相を呈しているので、政治家がピリピリするのは仕方ない。

 「石破4条件」は、獣医学部新設に関して、(1)新たな分野のニーズがある(2)既存の大学で対応できない(3)教授陣・施設が充実している(4)獣医師の需給バランスに悪影響を与えない-という内容で、16年3月までに検討するとされている。


日本獣医師政治連盟委員長の北村直人氏
 これが作られた経緯は、18日付産経新聞「加計学園 行政は歪められたのか(上)」に詳しい。それによれば、15年9月9日、石破氏は、衆院議員会館の自室で日本獣医師政治連盟委員長の北村直人氏と、日本獣医師会会長の蔵内勇夫氏に対して、「学部の新設条件は大変苦慮しましたが、練りに練って、誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にしました」と語ったという。

 これが事実であれば、「石破4条件」は獣医師会の政界工作の成果だといえる。

 その根本を探すと、文科省が獣医学部の申請を一切認めないとする同省の方針に行きつく。これは、03年3月の「文科省告示」として書いてある。いわゆる岩盤規制である。これらの規制に基づき50年以上も獣医学部の新設がなかった。

 そこで、国家戦略特区の課題として、内閣府と文科省の間で、文科省告示の適否が議論された。交渉の結果として出てきたのが「石破4条件」だった。筆者の聞くところでは、この文言案は文科省から出されたようだ。

 しかし、文科省はここで大失敗をした。前述のように高いハードルを作るつもりで、学部新設をしたい者は条件をクリアして持ってこい、と考えた。つまり、4条件の挙証責任は文科省にはないという立場だ。実際、前川喜平・前文科事務次官ほか、文科省関係者はそう主張する。

 これは誤りだ。文科省の学部新設の認可制度は、憲法で保証されている営業の自由や職業選択の自由を制限するので、挙証責任は所管官庁の文科省にあるのだ。これは閣議決定された特区基本方針にも明記されている。

 つまり、「石破4条件」で書かれていることは、文科省が学部新設の申請を門前払いする文科省告示の正当性を16年3月までに示さなければいけないということだ。それが示せなければ、文科省告示を廃止または改正する必要が出る。

 「石破4条件」を検討するためには、農水省などの協力も必要だ。しかし農水省は早い段階から手を引いたらしい。その結果、文科省は16年3月までに説明ができなくなってしまった。これが真相だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財務省のような粘りのない文科省の腰砕けを露呈したのが加計問題の本質(゚д゚)!

学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設計画をめぐる批判が吹き荒れる6月26日、地方創生担当相の山本幸三は内閣府での会合でこう語りました。

「この話は、去年3月末までに文部科学省が挙証責任を果たせなかったので勝負はそこで終わっている。半年後の9月16日に延長戦としてワーキンググループ(WG)で議論したが、そこでも勝負ありだった」

多数のメディアや野党は、首相の安倍晋三と加計学園理事長が旧知の仲であることから「加計ありきだった」という批判を続けています。その最大の根拠は、内閣府幹部職員が文科省職員に「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと語ったとする同省の内部文書でした。

ところが、「官邸の最高レベル」という文書の日付は「平成28年9月26日」。この時点ですでに獣医学部新設の議論は決着しており、安倍の意向が働くことはありえないです。

では、日本獣医師会の強い意向を受けて、獣医学部新設を極めて困難とする「石破4条件」が27年6月30日の閣議決定「日本再興戦略」に盛り込まれたにもかかわらず、愛媛県今治市の獣医学部新設の特区申請が認められたのはなぜだったのでしょうか。

国家戦略特区WG座長でアジア成長研究所所長の八田達夫は「4条件により制限は加えられたが、達成可能だ」と踏みました。日本再興戦略で「獣医学部新設に関する検討」という文言が明記されていたからです。

国家戦略特区WG座長 八田達夫氏
文科省は、農林水産省による獣医師の需給推計を根拠に「獣医師は足りている」として学部新設や定員増を拒み続けてきました。

八田はこれを逆手に取りました。日本再興戦略を読み解いた上で「成長戦略につながる高度な研究や創薬など新たな部門に携わる獣医師の需要が明らかになれば、クリアできる」と理屈づけたのです。

しかも日本再興戦略では「28年3月末までの検討」を農水省や文科省に義務づけました。八田はこれこそ最重要ポイントと考え、WGは両省に「再検討」を求めました。

ところが、ここから文科省は猛烈なサボタージュを始めました。八田は内閣府を通じて文科省に検討状況を何度も尋ねたのですが、期限である「28年3月末」が過ぎても明確な回答はありませんでした。結局、WG会合が開催されたのは、期限の半年近く後の同年9月16日でした。

ちなみに「需要見通し」は、「複数の微分方程式体系からなる数理モデル」です。獣医師は足りているということを文科省は微分方程式を書いて証明すれば良かったのです。しかし、これは、文系事務官僚の手に負える代物ではないです。

しかし、何も自分たちでやらなくても、省外の誰か数学の得意な人に顧問にでもなってもらいその人にやってもらえば、それで良かったはずです。そうして、その結果を他の複数の人に検証してもらえばそれで良かったはずです。でも、彼らにはそれをしませんでした。

本当は誰かに頼んで、やってもらったのかもしれません。しかし、いくら数理モデルにあてはめたにしても、本当に足りなければ足りないなりの結果しかでません。外部に頼んだにしても、外部の数理研究者なども嘘をつくわけにはいきません。

そこで、文科省は諦めてしまったのでしょう。文科省はこの点においては、財務省には負けてしまうようです。財務省の場合は、このような場合でも無理をしてでも、何とか自分たちの都合の良い資料を作り上げます。

たとえば、デフレなど景気の悪い時には、マクロ経済学的には、減税、給付金、公共工事などの積極財政をせよと教えていますが、財務省はこの教えに背いて、デフレ気味味の現状でも増税をするための根拠を何とかでっちあげています。

そうして、増税の根拠をご説明資料にまとめて、政治家やマスコミなどに足繁くかよい説明をして、その根拠をまわりに信じ込ませ、とうとう8%増税を安倍政権に実行させてしまいました。しかし、この根拠はでっちあげだったことは、増税後の大失敗ですぐに暴露されました。

この手口は、詳しく分析してみると、数理モデルを駆使するような高度なものではありません。良く分析するといくつもの錯誤の上に成り立っていることは確かです。たとえば、財政と税制の一体改革なるものを打ち出し、まともな医療や社会保障を受けたいのであれば、増税に甘んじなければならないなどと、多くの人の情感に訴えるものであったり、明らかな錯誤の上に成り立つものです。

財務省の嘘を暴く高橋洋一氏の番組
その手口の中心は、政府の負債だけに注目させて、資産を無視して、国の借金1000兆円であり、政府は借金塗れであるようにみせかけるというものです。また、統合政府という、日銀と政府を含めた尺度見た統合政府の財政状況なども無視です。これなど、民間企業では連結決算ということで当たり前になっていることですが、それが明るみに出れば、政府の借金など幻想に過ぎないということが国民知れてしまうで、財務省はおくびにも出しません。

財務省は、自分たちの省益を守り抜くには、ここまでやり抜くのですが、文科省にはこうした根気や、覚悟がなかったようです。さすがに、一流官庁といわれる財務省と最低といわれる文科省の違いです。(無論これでは、財務省も国民にとって良くはないのですが、目標に向かって執着心を持って、努力するという意味では財務省のほうが優れているという意味です)

WG会合では、新たな部門での獣医師需要について農水省は「特に説明することはない」と関与を避けました。文科省は「各大学で取り組んでいる内容だ」と従来の説明を繰り返しました。

会合の議事録には、

「家畜の越境国際感染症など、これまで対応する必要がなかった部門で需要が出てきた。新たなニーズに対応するマンパワーの増強が必要ではないか」

「新しい分野も既得権を持った大学の中だけでやろうというのはあり得ない。本来は28年3月末までに検討するはずだったのに、今になって需要の有無の結論が出ていないのは遅きに失している」

という内容が掲載されています。

委員たちは矢継ぎ早に文科省を攻め立てたのですが、同省側はひたすら4条件をそらんじるばかりで挙証責任を果たしませんでした。そこである委員が詰め寄りました。

「文科省は需要の有無についてちゃんと判定を進めているのか」

文科省は「わが省だけでは決められない。政府全体で決めてほしい」と需要推計を内閣府に委ねてしまいました。事実上の「白旗」宣言でした。山本の言う「勝負あり」とはこれを指します。

国家戦略特区で提示された、新しいニーズの創薬(トランスレーショナル・スタディ、トランスレーショナル・ベテリナリーメディシン)など、動物を用いて行うライフサイエンス研究分野では、創薬イノベーションなどは厚労省、動物実験は環境省、また水際対応など危機管理対応の必要な分野では、人獣共通感染症は厚労省、食品の安全(輸入食品を含む)は厚労省、家畜感染症が農水省の管轄です。

国際的にみても、新しい獣医師へのニーズの多くは、厚労省などに関連する職域の獣医師です。「動物で完結していた獣医学が、ヒトを意識した獣医学」へと拡大していく必要があります。また、以下の図からわかるように、現状の獣医職域の偏在の矛盾が、そのまま、新しい獣医学のニーズへの対応不足として現れている関係になっています。


前川前財務次官は、財務次官のように省益に執着して、粘ることもなく、完璧に戦いに負けてしまったのですが、その負けを認めたくなかったようです。本来なら、現役のときに、財務省を見習って獣医師需要は盤石であるとの根拠をでっちあげ、それを説明資料にして、マスコミや政治家を説得すべきだったと思います。

本来ならば、現役のときに執着して、財務省のようにどこまでも突っ走ればよかったのでしょうが、それもせずに、辞任したあとにするというのですから、負け犬の遠吠えと言われてもしかたありません。

では、この直後に作成された文科省の内部文書とは一体何だったのでしょうか。誰の目から見ても文科省はあまりに無残に敗北しました。漏洩(ろうえい)した内部文書は、省内向けの敗北のエクスキューズ(言い訳)のために作られたのでしょう。「総理のご意向」ということにすれば、省内では何とか言い訳はたちます。

では「総理のご意向」とは何でしょうかか。WGの議論では一切登場しません。強いて言うならば「岩盤規制をドリルで崩せ」という国家戦略特区の大方針を指すのではないでしょうか。

28年9月16日のWG会合で獣医学部新設の道筋は開けたかに見えたが、11月9日の国家戦略特別区域諮問会議では「広域的に獣医学部のない地域に限り新設を認める」という新たな条件が加わりました。

これには理由がありました。八田は10月末に山本にこう耳打ちしました。

「獣医師会がまた厳しいことを言ってくる可能性がある。ニーズの高い地域に絞ることで反対勢力と合意しやすくしよう」

八田は「獣医学部の定員規制そのものがナンセンスだ」と考えていましたが、座長の職務を通じて獣医師会の政治力のすさまじさを思い知りました。山本も「早く岩盤規制を突破するには仕方ないな」と渋々応じたのです。

それでも獣医師会は猛反発しました。獣医師会会長で自民党福岡県連会長の蔵内勇夫は11月22日の獣医師会のメールマガジンで「必ずや将来に禍根を残すであろう無責任な決定に対し、総力を挙げて反対して行きましょう」と呼びかけました。

蔵内らは12月8日、山本に直談判し、「新設は1カ所1校」とするよう求めました。やむなく山本も受け入れました。これにより新設は加計学園1校に絞られました。

前文科事務次官の前川喜平は「『広域的』という条件により京都産業大(京都市)が排除され、加計学園に絞られた」「行政が歪(ゆが)められた」と批判しています。

京産大副学長の黒坂光氏
しかし、京産大副学長の黒坂光は今月14日の記者会見で「広域ということで対象外となったとは思っていない」と明言した。京産大とともに獣医学部誘致を目指した京都府知事の山田啓二も同日、こう語りました。

「愛媛県は10年間訴え続けたのに、こちらは1年。努力が足りなかった」

果たして安倍政権は行政を歪めたのでしょうか。むしろ歪めたのは獣医師会であり、文科省ではないでしょうか。獣医学部の問題の本質に踏み込まず、「安倍はお友達の加計を優遇したに違いない」という印象操作を繰り広げたメディアの罪もまた重いです。

そうして、メディアは、財務省の公表した資料を吟味もせず、そのまま垂れ流すようなことが習慣になっています。そのような矜持のないメディアは、加計問題もまともに報道できないのは当たり前です。

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2017年7月21日金曜日

雇用確保の実績が上げられず…連合、民進離れと政権接近のウラ―【私の論評】連合という支持基盤を失う民進党はまもなく消滅(゚д゚)!

雇用確保の実績が上げられず…連合、民進離れと政権接近のウラ

高橋洋一 日本の解き方

会談前、連合の神津里季生会長(左奥)と握手する安倍晋三首相=先月24日午後、首相官邸
 連合の神津里季生(こうづ・りきお)会長が安倍晋三首相と会談し、専門職で年収の高い人を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」について、働き過ぎを防ぐ対策を手厚くする修正を求めた。安倍首相は条件を受け入れたことで、高プロに強く反対してきた連合が容認に転じる方向だという。このタイミングで政権と連合が接近した背景を考えてみたい。

 高プロの対象となる人は、特定高度専門業務(金融商品の開発業務、ディーリング業務、アナリスト業務、コンサルタントの業務、研究開発業務などを厚労省省令で規定)に従事し、使用者との合意で職務が明確に定められている。


 賃金額は平均賃金額の3倍を相当程度上回る水準以上で、具体的には年収1075万円以上を想定している。これらの人には、労働時間に関する規定が適用されず、残業という概念がなくなる。

 国税庁の2015年度民間給与実態統計調査によれば、この水準に入るのは全体の4%程度である。しかも、この数字は、会社役員をも含む数字であるので、労働者に対する割合はもっと低くなるだろう。年収基準は今後引き上げられるだろうが、平均賃金額の3倍を上回るという法律で規定されている基準がある。名目的な金額は引き上げられても、実質的に一部の高額賃金サラリーマンであるのは変わらない。全体に占める割合も今とさほど変わらず、数%程度であろう。

 それにも関わらず、一部マスコミではあたかもすべての労働者に適用されるかのような報道ばかりだった。「残業代ゼロ」とのマスコミのネーミングで、正しく問題を認識できない人が多いのだ。

 ちなみに「残業代ゼロ」の代わりに、「年収1000万円以上の人については、時間外労働の所得税課税が100%になる」といえば、反対する人もいなくなるだろう。

 実を言えば、これまでの日本でも、(1)労働基準法上の管理監督者(2)企画業務型裁量労働制(3)専門業務型裁量労働制がある。

 (1)は年収700万~800万円とされ、労働基準法による労働時間の規定が適用されない。(2)と(3)は、対象者の年収制限はないが、実労働時間にかかわらずあらかじめ決めた労働時間を働いたものとみなす。

 もちろん、欧米でも労働規制の適用除外がある。欧米における適用除外対象者の労働者に対する割合は、米国で2割、フランスで1割、ドイツで2%程度といわれている。

 こうしてみると、高プロの導入は世界から見れば当たり前、むしろ適用対象が少ないくらいだ。

 さすがに連合も、理不尽に高プロに反対し続けるのは無理と判断したのだろう。安倍政権が、就業者数の増加、失業率の低下、有効求人倍率の上昇など、過去の政権の中でもトップクラスのパフォーマンスを上げているのも大きい。連合から見れば、民進党より雇用の確保の実績では安倍政権のほうが頼りになるのだ。一方、民進党は雇用確保の実績が上げられず、情けないものだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】連合という支持基盤を失う民進党はまもなく消滅(゚д゚)!

ブログ冒頭高橋洋一氏の記事では、「最後に安倍政権が、就業者数の増加、失業率の低下、有効求人倍率の上昇など、過去の政権の中でもトップクラスのパフォーマンスを上げているのも大きい。連合から見れば、民進党より雇用の確保の実績では安倍政権のほうが頼りになるのだ。一方、民進党は雇用確保の実績が上げられず、情けないものだ」としめくくっています。

確かにそうです。たとえば、世界的にみれば、安倍政権の実行してきた金融緩和策は、雇用を改善するものとして、労働組合や左派が賛成する政策です。

縦軸にインフレ率(物価上昇率)、横軸に失業率をとったときに、両者の関係は右下がりの曲線となるという経験則が昔から知られています。そうして、この曲線をフィリップス曲線と呼びます。

フィリップスが初めて発表した時は縦軸に賃金上昇率を取っていましたが、物価上昇率と密接な関係があるため、縦軸に物価上昇率を用いることが多いです。

これは、短期的にインフレ率が高い状況では失業率が低下し、逆に失業率が高いときはインフレ率が低下することを意味しています。(インフレーションと失業のトレードオフ関係)。つまりフィリップス曲線とは、短期において「失業率を低下させようとすればインフレーションが発生」し、「インフレーションを抑制しようとすれば失業率が高くなる」ということを表した曲線です。

以下に日本のフィリップス曲線を掲載します。無論日本でもこの関係は成り立っています。


期待インフレ率が上昇すると、名目賃金には硬直性があるため、実質賃金(=名目賃金/予想物価水準)が低下します。完全雇用が達成されていない短期においては、この労働力価格の低下を受けて雇用量が増加し、失業率が減少します。その後に実質賃金もあがるようになります。

民進党などはこのからくりを知らないので、日銀が金融緩和をして実質賃金が下がったことをもって、「緩和しても実質賃金が下がっている」などと頓珍漢な批判をしていました。事実は「金融緩和すると雇用が増えて一時実質賃金が下がるの」のは正常なことです。金融緩和の効果があったということです。

さらに単純に言えば、日本のようなある程度人口の多い国で、金融緩和策でインフレ率を数%上昇させることができれば、その他は一切しなくても、たちどころに数百万の雇用が創設されます。

無論、雇用のミスマッチなどはありえますが、とにかく雇用が生まれるのは間違いありません。フィリップス曲線は、無論日本でも成り立っています。これは、否定しようのない現実です。

期待インフレ率と失業率の間には右下がりの関係が描けるのです。そして一般に、期待インフレ率が変化すると実現するインフレ率もそれに応じて変化するため、実現したインフレ率と失業率の間においても右下がりの関係が表れることとなります。

その他にも、不完全情報モデル等様々に導かれる総供給曲線を、オークン法則と組み合わせることなどにより、フィリップス曲線を得ることが出来ます。

このように、金融政策と雇用には密接な関係があります。日本ではなぜかこのことがほとんど認識されておらず、そのことを認識しているのは、政治家では安倍総理とその側近などを含むほんの少数派です。


しかし、欧米ではこのことは良く理解されていて、雇用が悪化すると多くの人々は、まずは中央銀行の金融政策を問題視します。日本では、雇用が悪化すると、厚生労働省の問題とされますが、それは全くの見当違いです。

雇用枠そのものは、はあくまで、日銀が確保すべきものであって、その確保された雇用枠内で、雇用のミスマッチなどを解消するのが、本来の厚生労働省の役割です。厚生労働省は雇用そのものをを生み出すことはできません。

このことを全く理解していないのが、多くの政治家です。自民党の政治家らもほとんど理解していないのですが、安倍総理を含む少数は理解しており、だからこそ、金融緩和をおしすすめ、雇用が劇的に改善して今日に至っています。

金融緩和などの施策は、海外では労働者の雇用を促進するということで、労働組合や左派が推進する政策です。

民進党は安倍政権にお株を奪われた形です。民進党はこのことを理解しているのは、馬淵議員と、金子洋一元参議院議員のみです。

それにしても、雇用が悪化したときの金融緩和は、過去において何度も実施されてきて、成功してきた施策です。このように過去に確かめられてきた確実な施策を実行するという点では、何かを改革しようというときに、ウルトラCをするというのではなく、確実で堅実な手を打つということでは、安倍総理はまさに保守中の保守ということができると思います。ただし、2014年春からの消費税増税は大失敗でした。しかし、雇用を劇的な改善したということでは、大成功です。

こうした安倍政権に対して、民進党は金融緩和と雇用との間には密接な関係があるなどということは、全く知らず、安倍政権や金融緩和策に対して、不毛な批判や頓珍漢、奇妙奇天烈な論議を繰り返すばかりでした。

さて、上の記事では、連合から見れば、民進党より雇用の確保の実績では安倍政権のほうが頼りになるとしていますが、まさにそのとおりです。このままでは、連合は民進党から離れるということも十分に考えられます。

今年3月12日、民進党の定期党大会が行われ、代表の蓮舫氏は「2030年代の原発ゼロ」という目標の前倒しについて基本法案を作成する方針を表明しました。また、次期衆議院議員選挙に関して「政治人生すべて懸け、民進党で政権交代を実現したい」と語ったことが広く報じられました。

3月12日、民進党の定期党大会にて
民進党のエネルギー政策については、安倍晋三政権との差別化を図る意味でも脱原発の推進が基本路線ですが、「30年代」あるいは「30年」と定める原発ゼロ方針には、最大の支持母体である日本労働組合総連合会(連合)の反発もあり、そのゆくえが注目されていました。

「30年代」から「30年」に目標を前倒ししたい蓮舫氏に対して、傘下に全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)を抱える連合が「政権担当力に逆行する」と猛反発する構図です。2月には、連合に配慮するかたちで蓮舫氏が党大会での原発ゼロ方針の具体的な表明は断念するという報道もあったのですが、結果的にはこれが打ち出されました。

これでは、連合は蓮舫氏にまた騙されたといって良いです。蓮舫代表は、「30年に原発廃止、を撤回する」ということで一度は話をまとめた連合の顔に泥を塗ったのです。

蓮舫代表は、約束を反故にして党大会で言及しただけでなく、「法案までつくる」と明言しました。これは連合に対する完全な裏切り行為です。支持母体をないがしろにして独断で物事を進める先には、連合の民進党離れもあり得るでしょう。

すでに、民進党内でも動きが出ていました。党大会後、最大会派の旧維新グループが、蓮舫氏と原発政策で同調する江田憲司氏を中心とするグループと松野頼久氏を中心とするグループで分裂したのです。

そもそも、連合はかねて共産党を含む野党共闘に対して反発しており、最近は自民党寄りの姿勢も見せ始めています。一方、民進党は各県連や支部において連合や労組の施設を間借りしているケースがあり、仮に連合が民進党を見限れば追い出される可能性もあるでしょう。


連合は、旧民社党を支持する労働団体である全日本労働総同盟(同盟)と、旧社会党を支持する労働団体である日本労働組合総評議会(総評)の2大団体が合流するかたちで1989年に誕生しました。一方、連合に加盟していない全国労働組合総連合(全労連)は共産党系の労働組合です。

連合と全労連は対立してきた歴史がある上、旧民社党は反共産主義をうたっていました。そのため、一昨年の民共共闘の時点から連合は強く反発しており、大きなアレルギー反応を示す人が多かったのです。

蓮舫氏と連合といえば、昨年10月の新潟県知事選挙をめぐって一悶着ありました。連合新潟が与党系候補を支援し、民進党は「自主投票」とする中、蓮舫氏が突如野党系候補の応援演説に駆けつけ、連合の反発を招いていたのです。

いずれにせよ、連合と民進党の関係悪化がさらに進むことは濃厚です。今後、民進党は連合の組織票を期待するのは難しいでしょう。依然として民進党支持を打ち出すのは、全日本自治団体労働組合(自治労)や日本教職員組合(日教組)など従来の3分の1以下になる可能性もあります。

連合会長の神津里季生氏は、党大会で民進党との対立報道について「真摯に議論を重ね、それぞれにそれぞれの方々が真剣に意見を交してきたものであると理解しております」と説明、「責任ある対応を引き継がれることが、国民の期待とつながるものであると考える」「支持率が急上昇するような秘策はないと思います」と政策に釘を刺す一方、「私たちにとっては民進党しかありませんから」とも語っていました。

しかし、連合が民進党を応援し続けたにしても、今後何のメリットも期待できません。最近安倍内閣の支持率が低下しているものの、民進党の支持率も落ちており、さらにはコツ会では不毛な森友・加計問題の追求をするばかりで、まともな政策論争など期待できません。

そもそも、雇用に関する視点が狂っており、この状況も改善される見込みは全くありません。であれば、連合のような労働組合からすれば、支持をしたとしても、何のメリットもないわけですから、これ以上民進党との関係を続けていてもまったく意味がありません。

連合の神津里季生会長は、民進党にまかせていれば、今回の「高プロ」制度も、ただ反対するばかりで、良いことは一つもないと判断したのでしょう。だからこそ、自ら安倍総理と会談して、条件つきで「高プロ」を認める意思を直接伝えたのでしょう。

これから、このようなことが増え、徐々に連合は民進党から離れていくのでしょう。そうして、最大の支援基盤を失う民進党は破滅することになります。

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2017年7月20日木曜日

完全に終わる日銀の旧体制 経済の状況認識読み違えた時代錯誤な提案なくなるか―【私の論評】反アベノミクス的な経済政策が実施されれば『失われた20年』の再来に(゚д゚)!

完全に終わる日銀の旧体制 経済の状況認識読み違えた時代錯誤な提案なくなるか

佐藤健裕氏(左)と木内登英氏(右)
 19、20日の日銀金融政策決定会合で、木内登英、佐藤健裕両審議委員の最後の会合となる。

 特に木内氏は、現在の黒田東彦(はるひこ)総裁体制で反対票を投じてきたことで知られている。

 速水優総裁時代に審議委員を務めた中原伸之氏も、やはり反対意見を出していたが、それは量的緩和など、当時の日銀が採用していなかった政策を主張し、時代を先取りしていたもので、意義あるものだった。

 木内氏は、現在の日銀が実施している金融政策では副作用が大きいとして、年間80兆円程度のマネタリーベース増加額を45兆円程度へ減額すべきだと主張してきた。

 月刊資本市場2016年1月号の「『量的・質的金融緩和』再考」によれば、その前提として、「需給ギャップが2013年末頃にほぼ解消され、その後も概ね中立的な状態が維持されていること」をあげ、「金融機関の収益悪化が金融システムの不安定性に繋がりうるリスク」「金融政策の正常化の過程での金利上昇リスク」「財政ファイナンスとの認識が高まる可能性」「金利による財政規律メカニズムが損なわれるリスク」「国債購入の持続性と金利の安定性のリスク」を副作用としている。

 まず需給ギャップ(実際の国内総生産=GDP=から完全雇用状態の潜在GDPを引いたもの)の状況認識が間違っている。需給ギャップがほぼ解消されたように見えたのは、14年4月からの消費増税で需要が減少したからで、木内氏は需給ギャップを過大評価した。実際、インフレ率は14年5月に見かけ上の消費増税効果を除き1・6%となったのをピークとして、その後急速に低下した。

 なお、需給ギャップは、自然利子率(完全雇用のもとで貯蓄と投資をバランスさせる実質金利水準)や構造失業率(これ以上下げられない完全雇用水準)と密接な関係がある。需給ギャップを過大評価すると、自然利子率は過小評価、構造失業率は過大評価となる。いずれの場合でも、まだ金融緩和すべき時に引き締めるべきだと間違ってしまう。その結果、誤った金融引き締めを提言し続けたわけだ。

 佐藤氏も木内氏と似ている。日本経済の潜在成長率から考えても2%のインフレ目標は高すぎるとした。これも潜在GDPを間違って捉えたもので、木内氏の需給ギャップに関する認識の誤りと同じである。この誤った認識から、インフレ目標2%は無理だと主張していた。

 日銀は安倍晋三政権とインフレ目標2%を約束した。佐藤氏を任命した民主党政権との関係からいえば問題なしであっても、安倍政権になってからも本当に無理だと思うのなら、その時点で審議委員を辞めてもよかったのではないか。

 木内氏と佐藤氏が退任すれば、民主党政権時代に任命された人はいなくなる。その時代に任命された人はこれまで、需給ギャップの過大評価、自然利子率の過小評価、構造失業率の過大評価などで現実と違っていた。しかし、これからの日銀はこれらに染まっていない人たちになる。時代を先取りする提案はあっても、時代錯誤な提案はないはずである。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】反アベノミクス的な経済政策が実施されれば『失われた20年』の再来に(゚д゚)!

確かに、木内登英、佐藤健裕両審議委員が日銀審議委員から姿を消せば、上の記事で、経済の状況認識読み違えた時代錯誤な提案なくなるかもしれません。

この両者に関しては、上の記事で高橋洋一氏が指摘するように、いつも時代錯誤というか、頓珍漢な主張を繰り返してきました。

その最たるものは、2014年10月31日に日銀が発表したハロウィーン緩和と呼ばれる、追加金融緩和です。以下にこの時の産経新聞の号外の紙面を掲載します。


これは、当然のことです。2014年4月から、あの悪しき、今では完璧に大失敗だったと誰もが認める8%増税が行われました。そうして、増税推進派が主張していたように、日本経済への影響は軽微という、予測とは裏腹に、導入当初から日本経済は低迷しました。このような状況に対応するため、日銀が追加金融緩和をするのは当然といえば当然でした。

しかし、日銀の審議会がこれを決定するにおいては、4名の反対者がいました。ちなみに、審議会の正式名称は、政策委員会であり、これは総裁、副総裁(2人)および審議委員(6人)で構成されます。これら9人のメンバー(政策委員会委員)は、いずれも国会の衆議院および参議院の同意を得て、内閣が任命します。

4名の反対派は以下の4人です。これらは、全員が民進党政権時代に審議員に任命された人々です。


この委員会において、4人が反対したのですから、委員会のメンバーは9人ですから、あと一人が反対していたら、真っ二つに割れたわけで、この追加金融緩和は危ういところで決まったということです。

もしこのハロウィーン緩和が見送られたとしたら、どうなっていたかといえば、これは当初から予想されたことですが、当然のことながら、現在のかつてないほどの雇用状況の良さは実現されおらず、かなり雇用状況が悪化しており、アベノミクスの金融緩和は完璧に頓挫していてとんでもない状況になっていたことでしょう。

増税による経済への悪影響もさらに大きなものになっており、おそらく日本は完璧に再度デフレに突入していたことでしょう。

市場はこの状況に失望し、2015年の安保法制審議のときには、安倍政権はかなり支持を落としていたことでしょう。

これに関しては、一昨日のブログにも、この追加金融緩和によって、安倍政権は2015年にあれほどのネガティブキャンペーンにあいながらも、支持率をさほど落とさなくてもすんだ可能性があるということを示唆しました。

以下に昨日の記事のリンクを掲載します。
加計問題を追及し続けるマスコミの「本当の狙い」を邪推してみた―【私の論評】安倍政権支持率低下の原因はネガティブキャンペーンだけではない(゚д゚)!
2014年10月31日の「ハロウィーン緩和」を発表する日銀黒田総裁
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では市場は安倍総理は本当に、景気を回復できるのか疑心暗鬼になっており、最近の安倍政権の支持率の低下はこれも大きな要因の一つになっていることを掲載しました。以下、その部分を中心に以下に一部を引用します。
実際に、消費増税が行われた14年以降においては、政府が実施してきた中で、消費増税の先送りや毎年の最低賃金引き上げ、そして昨年度末の補正予算ぐらいが「意欲的」な政策姿勢だったという厳しい評価もできます。2%のインフレ目標の早期実現を強く日銀に要請することはいつでもできたはずです。ある意味で、雇用の改善が安倍首相の経済政策スタンスの慢心をもたらした、ともいえます。
さらに、自民党内には、安倍首相と同じリフレ政策の支持者は、菅義偉官房長官はじめ、自民党内にはわずかしかいません。ただし、二階派は、プライマリーバランスは先送り、景気が先としています。しかし、石破氏はもとより他の派閥は全部増税派です。 
そうして、次の日銀の正副総裁人事が来年の3月に行われるはずですが、そのときに最低1人のリフレ政策支持者、できれば2人を任命しないと、リフレ政策すなわちアベノミクスの維持可能性に赤信号が点灯することになります。 
このリフレ政策を支持する人事を行えるのは、安倍首相しかいないのです。それが安倍政権の終わりがリフレ政策のほぼ終わりを意味するということです。 
もちろん日銀人事だけの問題ではありません。仮に日銀人事をリフレ政策寄りにできたとしても、政府が日銀と協調した財政政策のスタンスをとらないと意味はありません。デフレを完全に脱却するまでは、緊縮政策(14年の消費増税と同様のインパクト)は絶対に避ける必要があります。デフレ脱却には、金融政策と財政政策の協調、両輪が必要なのです。 
ここにきて、直近では財務省人事や産業経済省の人事などで、増税派が順調に出世したことなどから、市場関係者には安倍政権は経済を立て直しができないかもしれないという、ある種の失望感が生まれるようなっていたのだと思います。
この記事では、「次の日銀の正副総裁人事が来年の3月に行われるはずですが、そのときに最低1人のリフレ政策支持者、できれば2人を任命しないと、リフレ政策すなわちアベノミクスの維持可能性に赤信号が点灯することになります」と掲載しました。


日銀は来年4月にかけて、黒田東彦総裁ら5人の政策委員が相次いで任期切れを迎えます。現状の新議員がすべてまともだったにせよ、5人もの委員が入れ替わるのですから、確かに1人のリフレ政策支持者で、既存の4人とあわせて何とかリフレ派が多数派ですが、中には中立的立場の人も1人(中曽根氏)いるのでこれでも安心できません。やはり、少なくとも2名が金融緩和に肯定的な人である必要があります。
こう考えると、確かに来年の4月までは、「完全に終わる日銀の旧体制」ということはできるとは思いますが、4月以降に金融緩和に否定的な人々が日銀の審議委員の多数派になれば、これは崩れるわけです。ただし、安倍政権が崩れない限り、安倍政権は金融緩和を支持する人事を行うことになるので、これは何とかなるものと思います。

そうして、現在安倍政権がおこなわなけばならないのは、財務省とのガチンコ対決に勝利を収めることです。

安倍政権では、経産官僚が力を持ち、かつて「最強官庁」と呼ばれた財務省は冷遇されてきました。安倍首相や菅義偉官房長官は消費税増税に消極的ですが、財務省は麻生太郎副総理兼財務相とともに抵抗してきました。現在の安倍政権の支持率が低下している状況は、財務省にとっては主導権奪還の好機です。

そうして、石破氏を含めポスト安倍の面々は、いずれも財務省を筆頭とする官僚依存の傾向が強いです。2度の増税延期で財務省と闘ってきた安倍首相との違いは大きいです。

安倍政権としては今後、支持率下落を受けて「経済重視に回帰する」とみられます。ただ、経済政策は今後の政治スケジュールとも密接にかかわってきます。

秋の臨時国会では、経済政策の強化のために補正予算が打ち出されることになるでしょう。

現状では、有効求人倍率や失業率、企業業績は改善していますが、14年4月の消費税率8%への引き上げ後の消費低迷の悪影響が尾を引き、デフレの完全脱却や2%のインフレ目標実現にはほど遠い状況です。日銀の量的緩和継続とともに、財政面での手当ても必要になります。

安倍政権の『20年の憲法改正』という目標から逆算すると、憲法改正の是非を問う国民投票は、18年後半に衆院選とのダブルで実施される可能性が高いです。19年10月に予定されている消費税率10%へ増税の是非も争点となります。

最善の手は「消費税の増税に対して消費税の減税を行なうこと」です。次善の手は「増税によって税収が入ったら、そのお金をすべて国民に撒くこと」です。冗談だと思う人もいるかもしれないが、ロジックでいえば当然で、増税しなかったのと同じ効果を与えるからです。

もちろん増収分を国民に撒くといっても、財政支出一辺倒だと供給制約が発生してしまいます。公共事業に予算をつけても、事業を行なう技能をもった人や組織には限りがあるからです。さらに減税や追加の大幅金融緩和に踏み切るなど、ダメージを緩和するための第三、第四のサブシナリオを考えることもできます。

石橋と小泉進次郎氏
これからも増税をめぐり、安倍政権の周囲でさまざまな画策が生じるはずです。財務省としては、石破氏や小泉進次郎氏のように、さらに自分の思いどおりになる与党議員を探して懐柔することでしょう。地方議員には「もし増税が潰れたら予算づくりもやり直しになってしまう。あなたの地元の要望も通らない」と脅しをかけ、経団連には「消費税増税なくして法人税減税なし」ということでしょう。

しかし、そもそも、税率と支出が結び付いて予算が青天井になる現行の仕組みは異常です。法人税は個人の所得税と重複する「二重課税」ですから、もともと無駄な税金です。マイナンバーなどで個人の所得をきっちり捕捉して増収を図るのが王道のはずです。

いずれにせよ、こうした動きを誰より注意深く見ているのは安倍総理自身です。マスコミは財務省のプロパガンダやとんでもエコノミストの観測気球ばかり流さず、ロジックとファクトに基づく報道をすべきでしょう。

18年9月には自民党総裁の2度目の任期満了を迎えます。『反安倍勢力が総裁選で勝つ』『衆院選で与党が敗れる』『国民投票で過半数に届かない』のいずれかになれば、10%への消費税増税が実施されることになるでしょう。これまで2度増税が延期されている財務省側にとっては好都合なことです。

反アベノミクス的な経済政策が実施された場合も、日本経済は、再び深刻なデフレに転落し、『失われた20年』の再来となるでしょう。歴代政権でも最高レベルになっている雇用環境も次第に悪化していくようになります。失業率が上昇すれば、自殺率が上昇し、強盗などの犯罪も増えるという統計もあり、社会不安が高まるのは避けられないことになります。

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