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2020年5月1日金曜日

コロナ・ショックは「リーマン級危機」以上では? 消費税減税の大義名分、国民の命と経済を優先すべきだ ―【私の論評】危機の時こそ、人々の本質・地金が出てくる、すでに財務省は中共と同じく表舞台から退場しつつある(゚д゚)!

コロナ・ショックは「リーマン級危機」以上では? 消費税減税の大義名分、国民の命と経済を優先すべきだ 
高橋洋一 日本の解き方

安倍首相

安倍晋三首相はこれまで、消費増税を見送る条件として、「リーマン・ショック級の危機」を挙げてきた。今回のコロナ・ショックは、まさにリーマン級危機ではないのか。

消費税については、長い経緯がある。1989年4月、当時の竹下登内閣が税率3%として初めて導入した。その後、村山富市政権時の94年11月に税制改革法案が成立し、橋本龍太郎政権の97年4月に税率は5%に引き上げられた。

その後、消費税率は5%のままであったが、2012年8月の民主党の野田佳彦政権時、14年4月に8%、15年10月に10%にそれぞれ引き上げる消費増税関連法が成立した。

安倍政権になって14年4月に予定通りに8%に引き上げられた。ただし、その後経済が低迷したために、安倍政権は14年11月、10%への引き上げ開始時期を17年4月まで1年半延長。さらに16年6月には、19年10月まで2年半延長した。1回目の延長の際には、その直後総選挙を行った。2回目の延長は北海道・洞爺湖サミットにおいて表明された。

19年10月の10%への引き上げは実施されたが、その際、安倍首相は「リーマン・ショック級の危機があれば見送るが、そうでなければ予定通り」としてきた。

10%への増税後、19年10~12月期国内総生産(GDP)は年率7・1%減だった。これだけでもかなりの経済ショックであるが、その上、2月下旬からはコロナウイルスによる内外での経済ショックがあり、さらに急速に景気が落ち込んでいる。

政府の景気判断は、月例経済報告を読めばわかる。2月まで「緩やかに回復」としていたが、3月にはさすがに「大幅に下押しされている」に引き下げた。4月は、「急速に悪化しており、極めて厳しい状況」とさらに引き下げた。

リーマン・ショック後の09年2~4月においてすら「急速な悪化が続いており、厳しい状況」という表現であり、今回の景気判断は、その当時よりも厳しい認識となっている。西村康稔経済再生相も「家計や企業の経済活動が急速に縮小する過去に例を見ない、極めて厳しい状況だ」と述べた。

これで、政府としても、今回のコロナ・ショックは、「リーマン・ショック級以上」と言わざるを得ない状況だ。

内需の過半を占める個人消費は、判断を2カ月続けて引き下げ、「急速に減少している」とした。20年1~3月期GDPは年率5%程度減、4~6月期も年率10%程度減となると国内エコノミストは見込んでいる。

世界経済も大変だ。米議会予算局が24日公表した経済見通しでは、1~3月期GDPは年率3・5%減、4~6月期は年率39・6%減だ。

まさに、日本も世界もリーマン・ショック級の事態になっている。この未曾有の危機は、当然、消費税減税を行う立派な大義名分になる。消費税よりも国民の命と経済を優先すべきである。

(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】危機の時こそ、人々の本質・地金が出てくる、すでに財務省は中共と同じく表舞台から退場しつつある(゚д゚)!

16人の民間エコノミストの予測平均から、日本の2020年4-6月期における実質国内総生産(GDP)が、年率換算で前期比21.7%減となる見込みであることが分かりました。日経新聞が報じました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、外出の自粛や店舗の休業が続き、GDPの60%以上を占める個人消費が前期比6.9%減となると予想。戦後最悪のマイナス成長となる見込みです。

内閣府は今月18日に1-3月期のGDPの一次速報を発表する予定。この期間は5.2%減と見込まれており、昨年10月の消費税増税後から3期連続のマイナス成長率となる見通しです。増税後の落ち込みから回復しつつあった流れが、コロナウイルスによって完全に途切れました。

予測通りになれば、4-6月期はリーマンショック後の2009年1-3月期に記録した17.8%の減少を超えることになります。また3期連続のマイナスは、東日本大震災前後の10年10-12月期から11年4-6月期以来となります。

民間の経済予測、7〜9月期はコロナ禍が終息したものとして予想している

米議会予算局は、米国の実質GDPは4-6月期に年率40%のマイナス成長になると予測。日本の4-6月期の輸出は17%減となっており、これはリーマン危機以来の大幅な減少で、内需も外需も厳しさを増している状況です。

12年前のリーマン・ショックの際、国際標準は、積極財政政策と金融緩和政策の同時発動でした。実際にほとんどの先進国で行われたのですが、日本では財政支出の規模が足りず、金融緩和も行われませんでした。

その結果、リーマン・ショックの震源地からほど遠いにもかかわらず、日本経済への打撃が大きく、震源地の米国やその悪影響をモロにかぶった英国が、いちはやく回復したにもかかわらず、世界で日本だけが、回復が遅れ、ひとりまけの状態になりました。

特に白川方明(まさあき)総裁当時の日銀で金融緩和が行われなかったため、円は他通貨に対し希少性が出て猛烈な円高となり、日本経済を痛め付けたことは多くの人の記憶に残ったことでしょう。

日本の貧乏神と揶揄された日銀元支店長白川方明士

東日本大震災の際の処方箋も、同様に財政政策と金融政策の同時発動だった。しかし、これも十分に行われなかったどころか、復興増税という古今東西にない愚策が行われた。

日本政府は全国に発令された緊急事態宣言の延長を表明しています。延長期間などの詳細はこれから発表される予定ですが、今回の予測は延長による下振れは織り込み済みです。

国際通貨基金(IMF)は今年の後半から世界経済が回復に向かうとみており、エコノミストも7-9月期は平均で年率9.9%の成長を見込んでいます。しかし経済活動再開後に第二波が到来することを危惧するなど、今後もコロナウイルスの影響が長引けば、回復にはさらに時間がかかるとみられます。

新型コロナウイルスの感染拡大に対応する、注目の「国民1人当たり一律10万円給付」を盛り込んだ2020年度補正予算が30日、成立しました。「世界恐慌以来の景気悪化」(国際通貨基金)から日本経済を再生させ、国民生活を守るため、今後のさらなる経済対策が期待されます。自民党内から「消費税減税」を求める声が上がってきました。

「一律10万円給付では、政治主導で財務省のくびきを外し、『政治の力』を証明できた。次は消費税減税だ」

自民党若手有志の議員連盟「日本の未来を考える勉強会」を主宰する安藤裕(ひろし)衆院議員=京都6区=は語りました。

「日本の未来を考える勉強会」を主宰する安藤裕(ひろし)衆院議員=京都6区

補正予算(25兆6914億円)の成立を受け、総額117兆円という緊急経済対策が本格的にスタートしました。

未曾有の危機から国民生活を守るため、財務省主導で国民に「不評」だった「減収世帯に30万円給付」に代わり、「国民1人当たり10万円給付」が実現しました。大型連休明けには、全国の自治体で給付も始まります。ほかに、減収となった中小企業に最大で200万円を支給する「持続化給付金」なども盛り込まれました。

ただ、今回の予算措置だけでは、経済再生は困難です。政府が4月23日発表した4月の月例経済報告では、国内景気の判断について「急速に悪化しており、極めて厳しい状況にある」と下方修正した。「悪化」の表現は、リーマン・ショック後の09年5月以来。新型コロナウイルスの影響はあまりに甚大です。

冒頭の議連「日本の未来を考える勉強会」は3月、「景気の致命的下降や恐慌を食い止めるには『消費税の減税』が欠かせない」という緊急声明を出しています。財務省が「一律10万円給付」で折れたことを受け、政府に対して、さらに積極的な財政出動を求めます。

安藤氏は「補正予算は今後、第2次、第3次が必要になるのは間違いない。政府・与党は、国民の生活を守り、企業の倒産を出さない決意を示し続けるべきだ。政治の力で、財務省の厚い壁を打ち破って、国民が熱望する『消費税減税』も実現しなければならない」と語りました。

現在の安倍政権は政権末期によくみられる現象で、官邸内の指揮命令系統がうまく機能していないようです。しかし、コロナ・ショックを受けたマクロ経済政策としては、大規模な財政支出と無制限金融緩和という先進国の定番政策に近いところまできています。細かい点にはまだ不満がありますが、自民党の一部には、上記のように財政問題がほぼないことを正確に理解し、正しい政策を模索する向きもあります。

こうした危機の時こそ、人々の本質・地金が出てくるものです。もう、緊縮大好きで、財務省の省益しか考えない、財務官僚の本質が顕になりつつあります。

コロナ禍はこれからもしばらく続くはずであり、これに対する政府の対応に対して、財務省は結局国民経済や命など無視して、とにかく緊縮財政の立場から反対し続けるでしょう。この財務省の抵抗は、これからも多くの国民に知られるところとなるでしょう。

そうして、多くの国民は、財務省の省益とは一体何なのかと、財務官僚に疑問を抱くようになるでしょう。しかし、その質問に当の財務官僚すら答えられないという事態になると思います。

ましてや、その答えが、単に退官後に天下りして、超リッチなハッピー・ライフを贈りたいからなどと答えれば、単なる馬鹿と多くの国民に認識されるだけです。

漿液優先の財務省などのキャンペーンとは一線を画した多くの政治家によるまともなマクロ経済政策への理解も10年前の民主党政権当時よりはるかに高まっているはずです。それこそが、これまでの10年の成果であり、日本経済復活への一縷の希望でもあります。

私自身としては、もうすでに制度疲労を起こした財務省の絶頂の時代は終わりつつあり、すでに財務省は表舞台から退場しつつあると思っています。

財務省「ピンチはチャンスだ、コロナのあとで増税・緊縮」を画策しているようです。実際、テレビで財務官僚がそのような発言をしています。今回こそは、復興増税の過ちを繰り返してはならないです



今回のコロナ禍で、コロナ復興税などで、復興を賄うなどのことを財務省が画策して動き出せば、さすがに今回ばかりは、政治家も国民も黙ってはいないでしょう。何しろ、今回は東日本大震災のときとは、規模が全く異なります。財務省は、全国民と全政治家を敵に回すことになります。

現在、コロナ禍を自分にとって有利になるように、中国共産党が画策しています。しかし、東アジアは、日本、香港、台湾ともに被害が少なく、被害のひどかったEUの国々に対して、マスク外交をしたり、医療団を送ったりしています。

その他コロナウイルスの発生源を米国だとしてみたり、東シナ海や南シナ海での挑発をゆるめるどころか、強化しています。

しかし、この中国の試みが成功するとはとても思えません。実際、香港経済日報の29日付報道では、現在、米国、英国、イタリア、ドイツ、エジプト、インド、ナイジェリア、オーストラリアの8カ国の政府や民間機関が、新型コロナウイルスの感染拡大を招き、自国に大きな被害をもたらしたとして、中国政府に賠償を求める訴訟を起こしていると紹介しています。

「外国による中国への賠償請求を『100国連合』と形容する人もいるが、あながち言い過ぎではないだろう」と伝えました。

そして、8カ国が中国政府に対して求めている賠償額の合計は約49兆5000億米ドル(約5300兆円)となり、これに米ミズーリ州の推定賠償請求額を加えると100兆ドル(約1京1000兆円)を上回り、中国のGDP(国内総生産)7年分に相当する額に達すると伝えました。

中国ウイルスで酷い目にあった国々は、この恨みを決して忘れることはないでしょう。今後の中国は、米国や多くの国々から体制の転換を求められるでしょう。

中共がそれを拒否すれば、米国などの国々が、中共幹部や家族の個人資産を凍結したり、ドルと人民元の交換を停止したり、中国のドル使用を禁止するなどの措置を課するかもしれません。そうなれば、このブログにも以前掲載したように、中国は石器時代に舞い戻ることになります。

財務省も、今後国民生活や、国の経済を考えず、省益だけを追求すれば、中共と同じような運命をたどることになるでしょう。

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2020年3月31日火曜日

豊田真由子さん「コメンテーター転身」をネット民歓迎の理由―【私の論評】コミュニケーションの本質を知らなければ、豊田氏の失敗の本質や現在の姿を理解できない(゚д゚)!


『バイキング!』にコメンテーターとして復活した豊田真由子氏

新型コロナウイルスが日本中の関心事となって1か月以上が経つ。テレビの情報番組もコロナウルス情報を連日、取り上げている。そのときに欠かせないのが適切な解説やコメントをしてくれる「有識者」の存在だ。東京歯科大学教授で呼吸器内科部長の寺島毅さんや、元国立感染症研究所ウイルス第三部研究員で白鴎大学教授の岡田晴恵さんなど、様々な立場や経歴の専門家が登場しているが、最近、やさしく分かりやすい語り口で評判が高まっているのが元衆議院議員の豊田真由子さんだ。

【別写真】柔和な笑顔には“まゆゆ”のニックネームが

 豊田さんといえば、2017年に報じられた秘書への暴言「このハゲーーー!」で日本中の人に激しい怒りで叫んでいる印象がついていた。しかし『バイキング!』(フジテレビ系)に初めてゲストコメンテーターとして登場した姿はそれと大きく異なり、おろした前髪に肩までのふんわりヘア、淑やかなメイクで穏やかに語っていた。ネットでも「イメチェン!」「キレイだし、やさしそう」「雰囲気かわっていい感じ」と歓迎され、その後、出演するたびに「豊田真由子」や新たに呼ばれるようになった愛称「まゆゆ」がTwitterのトレンドワード入りするほどの注目ぶりだ。

 2017年の騒動当時、ネット、とくにSNSでは豊田さんの話題には罵詈雑言がつきまとっていた。だが、今回の大歓迎ぶりはどうしたことか。たった3年で、これほど評価が変わるものなのか。ネットニュース編集者で豊田さんを当時から追い続けていた中川淳一郎氏によれば「まゆちゃんはもともと、そんなに嫌われていなかったんですよ」と断言する。3年前からそのかわいらしさに注目していたネット民にとって彼女は「まゆちゃん」と呼ばれる存在だったという。

 「騒動時から『まゆちゃんをいじめるな』と主張しているネット民は少なくなかった。確かに暴言でしたが、そこまで追い詰めるような内容かということです。それに、あの騒動のあと、政党の応援もないなか必死に選挙活動する姿が報じられていましたよね。そして落選したから、地獄をみて苦労したんだろうなということを皆が知っている。女性の国会議員はこうあるべきという型にはめられていたのが、今回のテレビ出演で本来の頭の良さやおだやかで優しそうな感じが分かりやすく伝わったのだと思います。そして、司会の坂上忍さんがひな壇に座る髪が薄いことをネタにしているそのまんま東さんなどを差して『ハゲ用意しておきました』と言い、ハゲをネタにしてもらえたことで許された雰囲気になった影響も大きいです」

 さらに、意外なイメージチェンジととられている豊田さんの見た目や言葉づかいの変化は、変わったのではなく、あれこそ本来の姿だ、と元同級生が語る。

 「学生時代はいつも淡いピンクや白などの可愛らしい服装でした。逆に、国会議員になったときのシャープなスーツ姿や髪型、メイクのほうに違和感がありました。穏やかな口調も、同じ教室で勉強していた頃のまま。大声で怒鳴ったり、叫んだりするところなんて見たことがなかった。公衆衛生の専門家として落ち着いて語る様子も、勉強熱心だった豊田さんのままです」

 東京大学法学部を卒業後、厚生省(現・厚生労働省)へ入省した豊田さんはハーバード大学へ留学、公衆衛生学で修士号を得ている。さらに2009年の新型インフルエンザ流行時には、厚生労働省の調整実務担当者だったので、未知の感染症に社会はどのように向き合っていくのか、という難題への取り組みを紹介できるのも納得だ。

 とはいえ、専門領域に詳しくても人に説明するのが上手とは限らない。どのテレビ局も、人に伝える技術も持ち合わせた専門家探しに苦労している。そんななか豊田さんが"発見"されたのは、友人宛のアドバイスが偶然、番組関係者の目に触れたためだった。

 「新型コロナウイルスについて不安を抱える友人に送った、見解とアドバイスのメールが『バイキング!』(フジテレビ系)の番組プロデューサーの目に留まったことがきっかけでした。医療に詳しくない、つまり一般の人に向けて分かりやすく解説されていて、不安を与えないように配慮が行き届いたアドバイスだったんです。テレビで話してもらうのにぴったりだとお願いしました」(番組関係者)

 出演を依頼した番組は生放送だということもあり、それを理由に及び腰になる人も少なくない。だが豊田さんは「役に立てることがあるのならやらせていただきたい、と快諾いただきました」(前述の番組関係者)という。

 その後、豊田さんは複数回、番組に出演しているが、そのたびにネットでは評価が高まっている。内容をみると、冒頭で記した見た目や語り口だけでなく「持ち込み資料すごい」「ものすごい分量の資料」と、机の上に分厚いファイルを置く姿も強く印象づけられているようだ。この「分厚い資料」には、出演者として豊田さんを迎えた番組関係者も驚いている。

「毎回、間違いないように、分かりやすく伝わるように、徹夜で準備してくださっているそうです。スタジオにまで持ち込む大量の資料には赤ペンでびっしり書き込みがある。過去の資料もたくさん用意してくださって、生放送だと間際にお願いすることも多いのですが、どうやったら一番簡潔に説明できるかを直前まで練っていただいています。想定外の質問にも備えるべく、電話帳くらいの資料をいつもそのときの状況に合わせて新しく揃えて、読み込んでいる。本当にありがたいことです」

 2017年10月の衆議院議員選挙落選後、豊田さんは公の場から一切、姿を消していた。それから今回の番組出演で再び登場するまで、どのような生活を送っていたのか。「少し前には家族で笑顔で出かける様子も見られたので、元気になってよかったと思っていたんです」と地元の支援者が語る。

「あの事件のあとは、人前から隠れるように暮らしていました。体調を崩して入院していましたが、退院後は福祉法人に勤めていました。家族にも悲しい思いをさせてしまった、と必死で向き合ってきたそうです」

 家族も落ち着き、テレビ出演によって好感度も上がる一方だ。となれば政治の世界へ復帰することやタレント転身への誘いもありそうだが、本人にはそんなつもりはまったくないそうだ。

「役に立てることがあるのならやらせていただきたいとだけ言っているそうです。この3年間、本当に笑ったことがなかったけれど、こうやって人前に出たことで笑っている自分に気づけた。出演のきっかけをつくってくれた人たちに感謝しているとも話しているそうです」

 ネット、とくにTwitterで大評判の豊田さんだが、2017年の騒動以来、Twitterは怖くてまったく見ていないという。まゆゆへのエールを直接、届けられないのは寂しいかもしれないが、少しはにかんだ笑顔が似合う今の彼女にとって、Twitterを見ないぐらいが応援してくれる人とのちょうどよい距離感なのかもしれない。

【私の論評】コミュニケーションの本質を知らなければ、豊田氏の失敗の本質や現在の姿を理解できない(゚д゚)!

本日豊田真由子氏について掲載したのは、上の記事をはじめ世の中には実に安っぽい論評が多いからです。いずれの報道をみても、コミュニケーションの原則にまで踏み込んだ話をしているものはありません。

私自身は、豊田真由子氏が失敗してしまったのは、コミュニケーションの原則を知らなかったからだと思っています。

これについては、あの事件が起きてから少したってから、(2017年9月18日)このブログに掲載したことがあります。
豊田真由子議員が会見「生きているのが恥ずかしい、死んだ方がましではないかと思ったこともありました」―【私の論評】私達の中の1人から私達の中のもう1人に伝わるものとは?
詳細は、この記事をごらんいただくものとして、この記事ではコミュニケーションの原則をとりあげました。これは、ドラッカリアン (ドラッカー・ファン)なら誰でもご存知と思われるドラッカー氏のあげている原則です。

ドラッカー氏

1. コミュニケーションは知覚である
2. コミュニケーションは期待である
3. コミュニケーションは要求である
4. コミュニケーションは情報ではない

この原則の詳細は、この記事をご覧いただくものとして、なぜ豊田真由子氏が、あの時に失敗し、現在では成功しつつあるのか、各項目ごとに従って分析したものを以下に掲載します。

1. コミュニケーションは知覚である
大工には大工の言葉で話せと、ソクラテスは言っています。コミュニケーションとは、相手に知覚されなければ伝わらず、全く無意味になってしまいます。「2.のコミュニケーションは期待である」の項でも述べますが、彼女自身が相当な努力家で優秀な人であり、こうした優秀な人間にありがちな欠点は、他者が自分と同様に優秀であり、自分にとっては疑問の余地がな言葉なので、相手にも通じるのが当然という錯覚を抱いてしまう点にあります。
言葉も、相手に合わせた言葉でいうのでなく、自身の理解できる範囲で語ることが多く、相手の範囲を超えていることもしばしばあります。 あるいは、同じ事を言っても、コミュニケーションが互いに成り立っている相手なら、理解ができても、そうでない人に対しては、理解ができないということもよくあることです。豊田氏は、このあたりの配慮が欠けていたものと思います。
2. コミュニケーションは期待である
彼女自身は、非常に優秀な人物で、ミスを仕出かす人々の気持ちが本当に理解できないのできなかったのではないでしょうか。彼女の経歴をみると、東大法学部卒業、厚生労働省入省、ハーバード大大学院修了、そして衆議院議員に当選しています。 
およそ非の打ち所のないほど華麗な経歴で、彼女自身が相当な努力家で優秀な人だったのです。こうした優秀な人間にありがちな欠点は、他者が自分と同様に優秀であるという錯覚を抱いてしまう点にあります。
本来であればできるはずなのに、意図的に努力を怠っているから、仕事ができないという風に思い込んでしまうのです。自身が優秀であればあるほど陥りがちな欠点といってよいでしょう。この罵声を浴びせられた秘書のミスを許すことができなかったのでしょう。 
ところが、人間は皆、豊田代議士ほど努力家でも優秀でもありません。多くの人が豊田代議士ほど優秀ではないというのが、世の中の常です。確かに豊田氏は優秀な官僚ではあったかもしれないですが、個々の人々の心をおもんばかることができなかったという意味においては、政治家には絶対に不適格な人物であったといえるでしょう。 
これをドラッカー流にいえば、「コミュニケーションは期待」であるということです。豊田氏は、叱責した秘書に対して過度の期待をしすぎたのです、「このハゲー」という罵声は、豊田氏の秘書に対する期待を表していたのです。
それを秘書が受け止められなかったので、あのような事件になってしまったのです。 
3. コミュニケーションは要求である
相手に何かを要求するときに、それは相手の期待の範囲をこえる場合もあります。その場合には、これからおこることは相手の期待の範囲を超えていることを伝えなければなりません、そのためには覚醒のためのショックを与える必要があります。
覚醒のためのショックというと、仰々しいですが、平たくいうと、企業活動の日常でよくあるのは叱ることです。
この覚醒のショックを与えるには、相手の期待を良く知っていないければ無理です。豊田氏の「このハゲー」発言、はまさに秘書に対する要求で、何とかしろという叫びだったのでしょう。
しかし、秘書からすれば、自分は普通に仕事をこなしていると思い、豊田氏にとってそこそこ役に立っていると思っていて、豊田氏の期待には、ほぼほぼ応えていると思っていたのでしょう。
ところが、豊田氏の期待の水準は、それよりもはるかに高く、完璧に秘書の想定の範囲を超えていたのでしょう。 豊田氏は秘書の期待がどの程度のものだったかなど、全く考慮していなかったのでしょう。
4. コミュニケーションは情報ではない
コミュニケーションは情報ではありません。しかし、両者は相互依存関係にあります。情報は人間的要素を必要とせず、むしろ感情や感想、気持ちなどを排除したものの方が信頼される傾向にあります。そして、情報が存在するためにはコミュニケーションが不可欠です。 
しかし、コミュニケーションには必ずしも情報は必要ありません。必要なのは知覚です。相手と自分との間に共通するものがあれば、それでコミュニケーションは成り立つのです。このことも豊田氏は理解していなかっのでしょう。
5年ぶりくらいに、親友に会っても、話は十分に通じます。それはコミュニケーションが成り立っているからです。しかし、初めて会った人とは、相手にあわせるとか、平易で誰にでもわかる言葉を使いをするなどの配慮しないと、なかなかコミュニケーションは成り立ちません。
ドラッカーの「コミュニケーション」の原則には、最後にもう一つ重要なものがあります。それは、コミュニケーションとは「私達の中の一人から、私達の中のもう一人に伝わるもの」であるということです。

コミュニケーションを交わすには、そもそも「私達」といえる関係になっていなければ、伝わらないのてす。

豊田氏と「このハゲー」といわれた秘書の間には、「私達」といえるまでの関係はなかったのでしょう。

コミュニケーションの成り立っていない間柄の人間同士では、表面的な付き合いしかできないということです。そうして、コミュニケーションが成り立っていない場合は、最悪の結果を招くことになります。

この元秘書は、年齢ははっきりしませんが、豊田氏よりは一回り上だったようです。であれば、経歴や学歴などでは、豊田氏には及ばないかもしれないですが、コミュニケーションにかけては一日の長があるはずで、未熟気味の豊田氏に対して何らかの対処ができたはずとも思います。

恐らく、何度も信じられないほどの暴言を浴びせられ、嫌気が差したことは理解できます。しかし、本来、彼がなすべきだったのは、ミスをした点に関しては、豊田代議士に対する心からの謝罪であり、その後になすべきは、豊田氏の異常な言動に対する「諫言」ではなかっでしょうか。

失敗した点は謝罪すべきですが、本来、非難されるべき点ではない身体的特徴を揶揄(やゆ)され、人格を否定されるような発言がなされた点に対しては、いさめるべき立場にあったと考えられます。いさめて聞き入れないというのならば、断固として、その点は認めがたいと面を冒してでも堂々と主張すべきだった思います。

これは、豊田氏に対する覚醒へのショックとなり、豊田氏も変容して、それこそ秘書と「私達」といえる関係となり、コミュニケーションが成り立つきっかけになったかもしれません。どちらか一方の期待や、要求が他方の想定よりもはるかに大きい場合、このようなことになりがちです。

昔は、本当の親友とは喧嘩をしないとなかなかなれないといわれたものですが、これは本当にコミュニケーションを成り立たせるためには、覚醒のショックが必要だということを指していたのだと思います。しかし、最近では、単なる知人を友だちなどと読んでいる人も大勢いて、こういうことが理解されていないのではないか思うことがしばしばあります。

現在の豊田氏が、現在ネット民に歓迎されているのは、やはり、このコミュニケーション能力を体得しつつあることが、ネット民にも伝わったからではないでしょうか。

見た目や語り口だけでなく、毎回、間違いないように、分かりやすく伝わるように、徹夜で準備するなど、とにかく相手を中心にものを考えるようになっていることが、評価されているのでしょう。とにかく、スタジオの共演者や視聴者の人々と、「私達」といえる関係を構築すべく努力している姿が評価されたのだと思います。

それにしても、この豊田氏の過ちを単に批判するだけの人もいましたが、現在の日本には、残念ながら、豊田氏同じよう間違いをし続ける人も多いのではないでしょうか。実際、河村建夫元官房長官は豊田氏に対して「ちょっとかわいそうだ。あんな男の代議士はいっぱいいる」と述べていました。

さらに、最近特に中間管理層には、部下を怒ったり、褒めることはできても、叱ることができない人も大勢いるようです。これでは、コミュニケーションが成り立っていないと思います。

私自身も、以前ドラッカーの「マネジメント【エッセンシャル版】」を題材として、40歳前後の有志と集い、読書会を開いたことがあります。その時、「コミュニケーションの原則」に関わる読書会の時に感じたのは、多くの人が字面を追っているだけで、ドラッカーのいうところの「コミュニケーション原則」を良く理解していないと感じたことでした。

多くの人感想は「当たり前」というものでした。では、その当たり前の事実の例証をあげてみよと指摘すると、満足な事例があがってこないのです。普段からあまりコミュニケーションに関心がないことの現れだと思いました。

他にも、事例があります。私は以前人事の仕事をしていたこともあるので、当時は企業説明会にも何度も足を運んだことがあります。そこで、他の企業の採用担当と親しく話をしたことがあります。

当時は、不況の真っ只中で、どこの企業も積極採用はしておらず、そうして多くの企業が「コミュニケーション能力重視」を採用のポイントだとしていました。


そこで、「コミュニケーション」を重視しているという企業の採用担当者の何人かに、担当直入に「御社でいうところのコミュニケーションとは何か」と質問してみました。

そうすると、多くの担当者が答えに窮していました。「コミュニケーション」とは当然のことであり、それまでまともに考えたこともないようでした。すぐに反応する人もいましたが、それにしても、技法などに限られていて、深みのあるものはほとんどありませんでした。

無論、私としてはドラッカーのいうところの「コミュニケーションの原則」のような答えを期待していたわけではないのですが、それにしてもわざわざ「コミュニケーション重視」というのですから、当然何かあるだろうという私の思いは見事裏切られました。

結局当時は、かなりの不況であり、多くの企業は、人の採用は控えていたのですが、それにしても採用を全くしなければ、将来管理者や幹部を選ぶときに候補者がいなくなり、大変なことになるので、当たり障りのない調整型の人を採用するというのが、本音だったようです。

特定の方向に能力かありあまるような人を採用すれば、不況のさなかで何か新しいことにチャレンジしようとするでしょうし、そのようなことはできないわけですから、かえって企業が混乱してしまうことになります。であれは、調整型人間を採用しておけば、当たり障りないということです。要するに「調整型」では格好が悪いので「コミュニケーション型」という曖昧な言葉を用いただけのようです。

「コミュニケーション能力=調整型能力」というわけです。これは、コミュニケーションの一側面を表しているだけで、コミュニケーションの本質ではありません。私は、以前にもカタカナ用語の弊害を主張してきましたが、この日本ではおそらく「コミュニケーション」ほど曖昧につかわれている言葉はないと思います。それが、様々な混乱を生んでいると思います。

私は、随分前から日本人はいつの間にか、コミュニケーション能力が衰えてきているような気がしていました。何しろ、豊田氏の例の事件が起こってしまったのですから、代議士もひどければ、秘書も著しくコミュニケーション能力が欠如していたと言わざるを得ません。日本の政治は一体どうなってしまうのかと思わざるを得ない低俗な事件でした。

もともとの日本人はわざわざ「コミュニケーション」という言葉を持ち出すまでもなく、そのようなことは、ある程度の年齢になれば、自然と体得していたと思うのですが、現在そうではないようです。

「報告・連絡・相談」いわゆる「ホウレンソウ」がコミュニケーションと信じて疑わない人もいます。いくら「ホウレンソウ」をしていても、コミュニケーションが希薄な場合もあります。あるいは、コミュニケーション=ノミュニケーションであり、「一緒に飲めばわかると」、中東のテロリストにツイートして、「私達はあなたを殺します」と答えられた学生がいたりします。この学生は、中東は原則禁酒であることを知らないのでしょう。
 

コミュニケーションの本質を知らない人たちが、「コミュ障」などの言葉を使っています。これでは、日本には「コミュ障」がはびこるわけです。現在では、「惻隠の情」という言葉ですら、死語になってしまったようで、わからない人が多いです。

田中角栄は「人たらし」といわれていましたが、田中氏は本当にコミュニケーション能力が優れていたのだと思います。そのような逸話は、いまでもサイトを検索するとたくさんでできます。

豊田真由子氏は、相当のストレスを抱えていたようですが、コミュニケーションに問題があれば、そうなります。

現在はストレス社会ともいわれていますが、ストレスを抱えている人の中にもコミュニケーションに問題がある人が大勢いるのではないでしょうか。

現在では、コミュニケーションという言葉を使い、ドラッカーの「コミュニケーション原則」をあげて、厳密に話をしないとわからない人が増えてきました。残念なことです。
 
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2018年8月18日土曜日

【日本の解き方】トルコリラ暴落の政治的背景 トランプ大統領流の揺さぶり…過小評価できない世界経済への打撃―【私の論評】世界にとって通貨危機よりもはるかに危険なトルコ危機の本質(゚д゚)!

【日本の解き方】トルコリラ暴落の政治的背景 トランプ大統領流の揺さぶり…過小評価できない世界経済への打撃

トルコ エルドアン大統領

 トルコの通貨リラが暴落したことで、一時、ユーロが売られたり株式市場が急落したりする場面があった。

 トルコは経済協力開発機構(OECD)加盟国であるが、インフレ率はその中でも一番高い。ここ10年間で、トルコの平均消費者物価上昇率は8・4%であり、OECD平均の1・8%を大きく上回っている。ちなみに、トルコはインフレ目標を採用しているが、その目標水準は5プラスマイナス2%としており、インフレ率は常時上限を超えている状態だ。

 これは、インフレ目標を上回るくらいの金融緩和をしているわけで、マネー増加率も常に2桁とOECDの中でも高い伸びになっている。このため、トルコリラは継続的に割安状態だ。

 長期的な為替は、ソロスチャートを持ちだすまでもなく、国際金融の基本理論から、2国間の通貨量の比率でだいたい決まる。これをトルコリラと米ドルで当てはめてみると、2007~16年では、通貨量の比率とリラ・ドル相場の相関係数は96%とほぼ予想された動きとなっている。

 しかし、17年に入ると、この理論で予想された為替動向とは乖離(かいり)するようになった。16年7月のトルコ国内でのクーデター未遂事件が関係しているようだ。

 この乖離はここ数カ月ではさらに大きくなっている。一時、1ドル=7リラ程度となっており、これは理論値の2倍以上のリラ安である。理論値とかけ離れている理由は政治的なものであろう。

 まず、インフレ率が目標以上に高いにもかかわらず金融引き締めを行わないことが主因であるが、それを中央銀行ではなく、エルドアン大統領が指導している。しかも、これは、中銀が「手段」の独立性を持つという先進国のスタイルとは異なり、この意味で政治的な問題だ。

 もっとも、この政治スタイルは今に始まったことではないので、これだけであれば、理論通りにリラ安になるだけだろう。しかし、今や米国とトルコは政治的な対立をしており、それがリラ安に拍車をかけている。

 トルコは、2年前のクーデター事件に関係したとする米国人牧師を拘束している。それに対して、米国はトルコ閣僚の資産凍結を決めた。さらに、リラ安に伴い、トルコから輸入する鉄鋼などの関税を引き上げることも表明した。

 米国の対トルコ投資・与信はそれほど多くない。欧州の対トルコのほうがはるかに大きいので、米国はリラ安の影響を受けにくく、トルコ問題は欧州への打撃が大きいのが実情だ。この意味では、新興国とはいえ世界経済への影響を過小に評価することはできないだろう。

 トルコは北大西洋条約機構(NATO)国でもあり、米軍はトルコ国内のインジルリク空軍基地を使用している。安全保障体制そのものではなく米国人牧師の解放というトランプ流の政治的な揺さぶりであるが、仕掛けられたトルコは思わぬ苦境になっている。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】世界にとって通貨危機よりもはるかに危険なトルコ危機の本質(゚д゚)!

米連邦準備理事会(FRB)が基軸通貨でもあドル引き締めを継続している以上、遅かれ早かれ「新興国市場からの資本流出」自体は起こるべくして起こることだったということで、たまたま直近の要因でトルコが一番先だったといえるかもしれません。

そうして、「あとはきっかけ待ち」という状況にあったところ、今回のトルコリラ・ショックが起きたということでしょう。これを機に新興国市場からの資金流出が続く展開になると考えられます。

もともとトルコリラ安の底流には、ブログ冒頭の高橋洋一の記事にもあるように、中央銀行への政策介入をするエルドアン大統領の経済政策という内政要因がありましたが、対米関係の悪化という外交要因もありました。

とりわけクーデター容疑でトルコ当局に拘束されている米国人牧師を巡って問題がこじれた結果、「鉄鋼・アルミニウムに係る追加関税率を倍に引き上げる」という米政府の決定につながり、これによりトルコにも追加関税をかけることになり、トルコリラ急落のトリガーを引くに至っています。

トルコ・イズミルで、私服警官らによって自宅へと移送された
米国人牧師、アンドルー・ブランソン氏(2018年7月25日)

こうした状況下、トルコが現状を打開するために必要な選択肢は、1)緊急利上げに踏み切る、2)米国人牧師を解放する、3)資本規制の強化、4)国際金融(IMF)支援の要請です。

もっとも、「利下げをすればインフレ状況も落ち着く」という奇異な主張の持ち主であるエルドアン大統領は8月12日の演説で、1番目の選択肢については「自分が生きている限り、金利のわなには落ちない」と一蹴しており、その上で2番目にも応じない姿勢を明確にしています。

また、4番目の選択肢についても「政治的主権を放棄しろというのか」と述べ、これも退けたというか、元々IMFは米国が単独拒否権を保有しており、米国の合意なしでは利用できません。

今のところトルコは、3番目の選択肢を取っています。8月13日早朝、トルコ銀行調整監視機構は、国内銀行による海外投資家とのスワップ、スポット、フォワード取引を銀行資本の50%以内に制限すると発表し、投機的なリラ売りの抑制に踏み出しています。

しかし、投機のリラ売りを抑制しても同国が経常赤字国であるという事実は変わらないので実需のリラ売りは残ります。資本規制を強化するほど、トルコへの投資は敬遠されるはずですし、経常赤字のファイナンスは難しくなります。新興国が危機に陥る際の典型的な構図が見て取れます。

そのほか、8月に入って以降は、中銀が設定する各種準備率を調節することで市中への流動性供給を増やすという措置も取っています。それらの措置が市場の緊張緩和に寄与するには違いないでしょうが、利上げによる通貨防衛を期待する市場参加者にとって迂遠(うえん)な一手と言わざるを得ないでしょう。言い換えれると、政策金利の調整を決断できない「中銀の独立性の無さ」を逆に誇張しているようにすら見えてしまいます。

トルコ・ショックはどれほどの震度を持つと考えるべきなのでしょうか。トルコの国内銀行が外国銀行に対して持つ対外債務の約6割がスペイン・フランス・イタリアによって占められていることから、市場が「トルコ発、スペイン・フランス・イタリア経由、ユーロ圏行き」といった危機の波及経路を心配することも一理あります。

とはいえ、トルコにとって欧州が重要な債権者であるからと言って、欧州にとってトルコが同じくらい重要な債務者であるとは限らないです。例えば、国際与信残高(国外向けの与信残高)を見ると、スペインは約1.8兆ドル、フランスは約3.8兆ドル、イタリアは0.9兆ドルです。ちなみに、ドイツは約2兆ドルです。

ここで、それらユーロ圏4大国の国際与信残高合計に占めるトルコ向け与信残高の割合を計算してみると、2%にも満たないことが分かります。国別に見てもスペインの4.5%が最大であり、トルコ・ショックがそのまま欧州金融システムを揺るがすような話になるとは考えにくいです。

それでは、全く問題がないのかといえば、そうではありません。というのも、欧州連合(EU)はトルコに対して大きな借りがあるからです。2015年に勃発し「債務危機を超える危機」とも言われる欧州難民危機は今も根本的な解決には至っておらず、正確には解決のめどすら立っていません。しかし、その一方で大きな混乱も招いていません。

シリア難民のEUへのルートは主に3つだが、そのうち2つはトルコを経由している

これはなぜなのかといえば、ひとえにEUとの合意に従ってトルコが難民をせき止めているからです。EUに流入する難民の多くは内戦激化により祖国を飛び出したシリア人であり、トルコ経由でギリシャにこぎ着けてEUに入るというバルカン半島を経るルートを利用していました。そのため、EUとしては何とか経由地であるトルコの協力を得て流入をせき止める必要がありました。

2016年3月18日、ドイツが主導する格好でトルコとの間で成立した「EU・トルコ合意」は非常にラフに言えば、「カネをやるから難民を引き取ってくれ」という趣旨の危うい合意ですが、効果はてきめんでした。少なくとも、その合意がEU(とりわけドイツ)に余裕を与えているのは紛れもない事実です。

なぜこのような条件をトルコがのんだかといえば、日本では意外に知られていないのですが、トルコはEU加盟候補国でもあるからです。


これは裏を返せば、難民危機はトルコひいてはエルドアン政権次第ということです。ここに至るまでの大統領の言動を見る限り、今後、意図的に難民管理をずさんなものにするリスクはないとは言えないでしょう。

いや、故意ではなくともトルコの政治・経済自体が混乱を極めれば難民を管理しきれないという過失も考えられます。どちらにせよトルコがいつまでも欧州のために難民をせき止めてくれる保証はないのです。

率直に言って、EU域内に難民流入が再開するのは非常にまずいことです。そうなった場合、難民流入に不平不満を抱えるイタリアのポピュリスト政権が勢いづくことになるでしょう。ただでさえ、それを切り札として欧州委員会と交渉する雰囲気があるのですから、事態はより複雑になるはずです。

また、10月にバイエルン州選挙を控えるメルケル独政権も難渋することでしょう。難民受け入れのあり方を巡って長年の姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)がメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と仲たがいを起こしたことが6月に話題になったばかりです。ここで状況が悪化したら余計に両者の溝が埋め難くなることでしょう。

さらに2019年5月には欧州議会選挙もあります。EU懐疑的な会派をこれ以上躍進させないためにも難民を巡る状況はやはり悪化させるわけにはいかないでしょう。

金融市場ではトルコの国内金融システム混乱がユーロ圏に波及する経路が不安視されていますが、現実的にはエルドアン政権が欧州難民危機ひいてはEU政治安定の生殺与奪を握っている事実の方がより大きな脅威であるようです。

こちらのほうが本質であり、難民危機が再びユーロ圏内を襲えば、そちらのほうがはるかに世界経済に悪影響を及ぼすことになりそうです。

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2018年6月2日土曜日

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【日本の解き方】イタリア・ショックの本質はユーロと政治混乱への不安 離脱でも残留でも茨の道か 

 イタリアの組閣が難航し、ユーロが急落する場面があった。

 発端は3月に行われた総選挙だった。少数政党が乱立するイタリアでは、下院(代議院)の定数630のうち「中道右派連合」が265、「五つ星運動」が227、「中道左派連合」が122、その他が16となり、過半数を取った政党はなかった。

セルジオ・マッタレッラ大統領

 中道右派連合の中では、最多議席を獲得した「同盟」の発言力が強く、「五つ星運動」との間で組閣名簿を作成していた。その名簿の中には、ユーロ懐疑派の経済学者、パオロ・サボナ氏が経済相候補に挙げられており、それをセルジオ・マッタレッラ大統領が拒否した。

 イタリアの大統領は国家元首だ。50歳以上と年齢制限があり、20州の代表58人と上下両院合同会議で選出される。通常は象徴的な存在と考えられているが、重要な権限が付与されているので、今回のように政治的に大きな意味を持つこともある。

 ただし、今回のマッタレッラ大統領による拒否はちょっとやり過ぎだ。総選挙によって選ばれた五つ星運動と同盟が合意している組閣名簿を大統領が拒否するというのは、民主主義の否定にもつながってしまう。

 同盟は右派、五つ星運動は左派の流れなので、その経済政策は相容れないところが多いとされる。ともにユーロ離脱という一点でつながれていても、実際に連立政権運営をさせてみれば、いずれ矛盾が出てくるので、それを待っていてもよかったのではないか。

 マッタレッラ大統領は、国際通貨基金(IMF)元高官のカルロ・コッタレリ氏を首相に暫定内閣を発足させようとしたがうまくいかず、5月31日になって五つ星運動と同盟が次期首相候補として推薦していた法学者のジュセッペ・コンテ氏を再び首相に指名、同氏は組閣名簿を提出し承認された。6月1日に宣誓就任式が行われ新政権発足となる。

ジュセッペ・コンテ氏

 ひとまず政治空白は回避されそうだが、ユーロ離脱問題は引き続きくすぶっているのが実情だ。

 イタリア2年国債は、5月15日まで▲0・1%程度のマイナス金利であったが、最近では2%台半ばまで上昇している。イタリア国債とドイツ国債の金利スプレッド(差)も1・5%から2・8%へと拡大している。つられてスペイン国債などとドイツ国債との金利スプレッドも拡大傾向だ。これらの金利スプレッドは、ユーロの経済力というよりユーロが存続できるかどうかを占う指標となっており、その観点からすると、イタリアの政治混乱がユーロ危機の再来とみられているわけだ。

 日本のマスコミでは、イタリアはすぐに悪い財政事情と関連付けられ、左派と右派のポピュリズムによる減税や社会保障費支出による財政悪化ばかり強調される。しかし、イタリアでの出来事の本質は、ユーロ離脱という大きな政治課題を控えて、政治混乱による将来不安だ。

 イタリアがユーロ離脱をしなくても、イタリア国債の欧州中央銀行によるテコ入れには時間がかかる。もしユーロ離脱となると当面、大混乱になる。どちらも茨の道になりそうという悲観が当分の間支配的だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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PIGS

PIGGS危機(※財政状況がとりわけ厳しいポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインの頭文字)以降の経済危機から立ち直れない南欧諸国、デフォルトしたギリシャだけの問題ではありません。イタリアもユーロシステムの持つ本質的な欠陥から、自立した金融政策が取れず、財政出動にも制限がかけられているために、失業率が高止まりし、国民の不満が爆発しています。

『5つの星運動』のロゴ

この様な状況で力をつけてきたのが、ポピュリズム政党である『五つ星運動』と右派政党である『同盟』です。両者ともに、イタリアの景気の悪化をEUやユーロシステムにあるとし、温度差はあるものの、反EUやユーロ離脱を謳い国民の人気を集めました。しかし、選挙の結果、どの政党も過半数をとれず、政権樹立が出来ない状態が継続していました。

『同盟』のロゴ

イタリアの内閣は、議会から選ばれた大統領(任期7年)が、首相を指名し、組閣を要請、首相は閣僚名簿を作り、大統領が任命、10日以内に議会の承認を得て発足する形になっています。本来、これは形式的なものですが、今回、大統領は五つ星運動と同盟が用意したユーロ懐疑派の経済大臣の承認を拒否し、親EU派のコッタレッリ氏を首相に指名しました。

これに対して、五つ星運動と同盟は強く反発し、たとえ、コッタレッリ氏が組閣しても、議会で承認しないとしたわけです。このため、再選挙の可能性が一気に高まったのです。しかし、誰もこれ以上の混乱を望んではいません。話し合いなどの結果、五つ星運動と同盟が新たな経済相候補を選任することで、一応の危機は回避されました。

今回は危機を回避できましたが、この問題はEUとユーロシステムの大きな欠陥が表面化したものであり、再び同様の問題が発生する可能性が高いのです。EU、特にユーロシステムは、本来国家の主権である金融政策と通貨発行権をECBに委譲しています。

この為、国の経済状態に合わせた経済政策が取れないのです。通常の財政金融政策では、景気が悪化したら金利を下げ、財政出動を行う。景気が過剰になればこの逆を行い調整するわけですが、景気の良いドイツなどに引きずられる形で有効な財政政策が取れない状況が継続しているのです。

本質的にこの問題を解決するためには、国家を完全統合して財政・金融政策まで一本化するか、再び分離して各国の自由を認めるかしかありません。国家を完全統合する場合、各国の主権が失われることになり、各国の議会も形骸化することになります。また、統合後の国家の財源の分配をめぐっても大きな対立が生まれることになります。

ドイツなどの富裕国の税収を貧困国に分配するとなれば、ドイツ国民が反発するでしょうし、分配されないとすれば統合の意味がありません。だから、これまで完全統合の話は出るものの前に進むはずもありませんでした。

EU圏内の国々が民主主義国である以上、これをすべての国の国民が認める可能性はゼロに近いです。このような状況からのEUの打破を謳う人たちが力をつけてきたのです。

さて、以上のような状況が続く限り、EUは没落していく運命にあると考えられます。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
第2四半期ユーロ圏GDP、初のマイナス成長-黄昏EUの始まりか?
この記事は、2008年8月15日のものです。当時、第2四半期のユーロ圏のGDPが初のマイナス成長になったことを受けて、書いたものです。

 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、各国の経済レベルなどが異なりすぎるという部分のみ以下に引用します。

人為的にたとえ一つの経済圏を作ったとしても、それを構成している各国の経済レベルがあまりにも違います。少し考えれば判ることですが、ポルトガルとスゥエーデンの経済はかなり異なります。ポルトガルの経済は未だ労働集約的ですが、イギリス、ドイツ、イタリアなどの先進国では資本集約的な経済になっています。 
今回のスペインや、イタリアの景気減速は、土地バブルの崩壊によるところが大きいですが、ドイツでは土地バブルの上昇はなく、輸出の不振が大きく響いてるなど、同じ不振といっても原因がまちまちです。 
そのため、EU圏内で、不振対策をしようということになると、ごく標準的なものにならざるを得ず、一旦不況に陥れば、回復するまで結構時間がかかるものと思います。
EUのように、ヨーロッパ全体が団結して、大きな影響力を持とうという試みは、大昔からありました。その起源はローマ帝国にまで遡ります。ローマ帝国が栄えていたころは、現在のイギリス、スペイン、フランス、ドイツなど現代のEU圏にある経済大国がすべてローマ帝国の版図に編入されていました。 
だから、ヨーロッパの人たちには、大昔からローマ帝国への憧憬の念や、憧れの念がありました。そのため、ローマ帝国滅亡より、機会があれば一致団結しようとしました。これは、古くは神聖ローマ帝国にまで遡ります。

その後いろいろ、試みられましたが、結局は成立しませんでした。では、かつてのローマ帝国のように一国による他国への侵略による統一も考えられましたが、ナポレオンのヨーロッパ征服、ヒトラーのナチスドイツによるヨーロッパ征服なども、ことごとく失敗しました。
 
しかし、これらの試みはすべて失敗して水泡に帰しました。おそらく、これからも無理だと思います。だから、私は、EUも結局は成功しないと思います。長い間には必ず失敗し没落していくものと思います。
ヨーロッパの人々には、ローマ帝国のように団結すれば、経済的にも軍事的にも強くなれるという、ローマ帝国に対する強い憧憬があります。

しかし、憧憬は憧憬に過ぎないのであって、ある地域が一つにまとまるためには、価値観の共有はもとより、多少の凸凹があるのはかまわないですが、経済的にも同水準でなけければならないです。

神聖ローマ帝国の版図


たとえば、日本国内であれば、東京は賃金が高く、北海道や沖縄は低いですが、かといって10倍近くも違うなどということはありません。しかし、EU圏内の違いは10倍近くもあります。

最低賃金は毎年増額していくものですが、2015年にドイツ、アイルランドでは減額されています。ルーマニアでは14%増、ラトビア11%増、リトアニアも11%増、イギリス11%増、ブルガリア10%増となっています。これにイギリスが加わっているのも、為替の影響です。

最低月収に関しては、ルクセンブルクがトップで1923ユーロ、ブルガリアは194ユーロでした。EU28カ国のうち22か国は最低賃金が政府で決められています。大まかにいうと、北欧、EU先進国、スイスは非常に賃金も高く安定しています。

EU圏の最低賃金


アイスランドは2008年の金融破たんしていますが2015年には北欧とやや同レベルの賃金まで回復しています。しかし、東欧諸国は先進国の50%の以下の水準です。最下位のブルガリアは1.13ユーロ。

このようにEU諸国内で現在も大きな格差があることは否めないです。ちなみに、2015年度の日本の最低賃金は全国平均で798円(時給)、約6.93ユーロです。(2016年11月7日現在:1ユーロ=115円)。


特に各国で経済水準が違いすぎれば、今日のようなことになるのは、最初から目に見えていました。

やはり、経済的には、国家を完全統合して財政・金融政策まで一本化するか、再び分離して各国の自由を認め、そのかわりEU圏内だけは、一国の国内とまではいかなくても、EU以外の国々との貿易よりもかなり自由度の高い貿易をする、ということで、EU圏全体としての経済的繁栄の道を模索する以外に方法はないと思います。

また、安全保障の面では、EU全体で統一した動きをとることによって、身近なロシアの脅威に対抗するということもこれから重要になってくることでしょう。

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2018年5月26日土曜日

【日本の解き方】「愛媛県文書」でまた大騒ぎ 生かされない1年前の経験、面会の有無は本質ではない―【私の論評】今のままいけば安倍総理3選、次期衆参議員選挙での勝利は間違い無し(゚д゚)!

【日本の解き方】「愛媛県文書」でまた大騒ぎ 生かされない1年前の経験、面会の有無は本質ではない

愛媛県が公開した内部文書を安倍首相は否定

 愛媛県は加計学園の獣医学部新設をめぐり、安倍晋三首相が加計孝太郎理事長と3年前に面談し、獣医学部新設構想の説明を受けたとされる内部文書を公開した。安倍首相と加計理事長は否定している。

 約1年前、「首相の意向」と書かれた文部科学省の文書がリークされた。筆者は当時、その文書を「内容が盛られた文科省当事者の一方的なメモ」と断じた。役所のメモでは、そこに書かれた人のチェックがなければ書きたい放題になることは筆者自身も何回も経験していたからだ。その後、文科省の当事者である前川喜平・元事務次官ら関係者による国会審議でも、「首相の意向」などは立証されていない。

 この文科省文書の例でわかるように、いくら真面目な県庁職員だったとしても、相手の確認済みでないと、盛った話が多いので、証拠能力のある公文書にならない。公明党の山口那津男代表も「また聞きのまた聞きのようなメモだ」と言っている。

 それなのに、一部野党やマスコミは、あたかも書かれたことが正しい事実かのように報道している。1年前の経験が何も生かされていない。

 面談したとされる3年前の2月25日の新聞各紙の首相動静に記載はない。もっとも、不公表の人もいるため、会わなかったという直接の証拠にはならない。しかし、マスコミは官邸周辺の定点カメラを調べれば、出入り車両はチェックできる。加計問題が騒ぎになっていない3年前のことなので、それにも映らない官邸への秘密ルートを使うインセンティブ(動機付け)はないだろう。また、加計理事長が上京したかどうかも確認すればいいことだ。

 一般論であるが、2月25日は、予算案が自然成立するかどうかで衆院予算委員会が佳境なので、アポイントメントは避けるのが通常である。

 仮に安倍首相と加計理事長が会っていたとしたら、どのような問題があるのだろうか。本コラムで再三繰り返してきたが、特区で行ったのは学部新設の認可の「申請」であり、試験を受けさせるようなものだ。認可自体は文科省が行ったので、特区は認可とは無関係であり、試験の合否に関わっていないといえる。ここでも「安倍首相が認可に関与した」という当初の話から、首相が言った言わないという話にすり替えられている。

 1年前の文科省文書の時には、前川氏は、「文科省行政がゆがめられた」と言った。ところが、事実は文科省の認可は一切変わっていないので、この発言は間違いだったといえる。特区によって認可の「申請」はできたが、これを拒否していた文科省告示は、認可制度の下で法律違反である。もし加計学園が行政不服審査で訴えれば文科省(国)は確実に負けるので、特区で申請だけを許したわけだ。この意味で、ゆがめられていた文科行政が正されただけだ。

 今回の愛媛県文書はまるで1年前の文科省文書問題を繰り返しているようだ。万一事実でなかった場合、メモの提出者とそれを裏取りなしで報道した多くのマスコミの責任は大きい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】今のままなら安倍総理3選、次期衆参選挙での安倍政権勝利は間違い無し(゚д゚)!

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事にもある、愛媛県は加計学園の獣医学部新設をめぐり、安倍晋三首相が加計孝太郎理事長と3年前に面談し、獣医学部新設構想の説明を受けたとされる内部文書内容について、本日加計学園が明確に否定しています。

加計学校法人「加計学園」は26日、愛媛県今治市への獣医学部新設に関し、安倍晋三首相と学園の加計孝太郎理事長が平成27年2月に面会したとの記載がある同県の新文書について「当時の担当者が実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、県と市に誤った情報を与えた」とのコメントを発表しました。両氏の面会については、首相も学園側も事実を否定していました。

学園側は、誤った情報を伝えた理由について「獣医学部設置の動きが一時停滞していた時期であり、何らかの打開策を探していた」と説明。その上で「担当者の不適切な発言が関係者の皆さまに迷惑を掛け、深くおわびする」と陳謝しました。

県の新文書によると、県職員が27年3月3日に学園関係者との打ち合わせの際、学園側から「2月25日に理事長が首相と15分程度面談した」との報告を受けました。加計氏は「今治市に設置予定の獣医学部では、国際水準の獣医学教育を目指す」などと説明し、首相は「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」とコメントしたと記されています。

県は今月21日、新文書を国会に提出しました。ただ、首相は22日の衆院本会議で、新文書にある加計氏との面会について「ご指摘の日に理事長とお会いしたことはない」と否定していました。

以下が、そのコメントを各報道機関などに発信したフアックスです。


当時の首相と加計理事長の面談は、首相も学園側も明確に否定していました。明確に否定ではなく、記憶が曖昧などとしていれば、会った可能性もありますが、両者が明確に否定していたのですから、その可能性はほとんどないと考えるのが普通だと思います。

どうしても、それが信じられないというのなら、新聞などの報道機関は、ブログ冒頭の記事で高橋洋一氏が指摘するように、官邸周辺の定点カメラを調べれて、出入り車両をチェックすれば良いですし、加計理事長が上京したかどうかを確認するなどのことをすれば良いのです。

それをしなかったのでしょうか。あるいは実施して加計理事長が安倍総理と面談した事実はなかったことを知った上で、あたかも会ったかのように報道しているのでしょうか。そのいずれであっても、大問題です。

さらに、冒頭の記事て、高橋洋一氏は、仮に安倍首相と加計理事長が会っていたとしたら、どのような問題があるのだろうかとして、特区で行ったのは学部新設の認可の「申請」であり、試験を受けさせるようなものだと指摘しています。認可自体は文科省が行ったので、特区は認可とは無関係であり、試験の合否に関わっていないといえるとしています。

これを高校受験にたとえると、高校受験そのものが文部省の規制で何十年も規制されているという異常事態が続いてたので、特区の中にある高校に関しては、受験しても良いということを決めたということです。その後の受験そのものに関して、従来通りのやり方で実施されており、何ら手心を加えたということはないのです。

しかし、受験生の親がたまたま、校長と友達だったので、裏口入学をさせたのではないかというような勘ぐりをされたというようなものです。

一緒にゴルフをする加計理事長(左)と安倍総理(右)

多くの報道機関や、野党が「疑惑が深まった」などとして、騒いでいますが、この事件の背景はこのような単純で、誰にも理解できることなのです。

要するに、安倍総理が加計理事長と友人同士の間柄なので、何らかの手心を加えたのではいないかと勘ぐりをしているというだけのことです。

勘ぐりで「疑惑が深まった」とするのは、本当に無責任です。本来なら、明確な証拠をあげるべきなのです。しかし、野党も報道機関もそれなしにもう一年以上も「疑惑は深まった」というばかりです。安倍総理はもとより、誰一人それで何らかの犯罪などの容疑者になった人間もいません。

こうした状況が続けば、テレビや新聞だけが情報権の人たちであるいわゆるワイドショー民もこの疑惑追求には飽々するでしょうし、今すぐにではないにしても、真相はじわじわとこれらの人たちにも伝わっていくことになると思います。

ワイドショー民にも飽きられた「加計報道」

そうして、その頃にはまずは自民党総裁選が行われることになります。この時点では、真相はかなりの人に伝わるでしょうし、自民党の中では当然のことながら、周知の事実となり、安倍総理の3選はよほどのことがなければ、確実になるでしょう。加計問題での疑惑追求は何の影響も与えないでしょう。

さらに、次の参議院選挙、衆議院選挙になれば、さらに多くの人々に真相が伝わり、加計問題などで首相に疑惑を抱く人など圧倒的少数になるでしょう。そうすると、その時点では安倍自民党政権がまた大勝利をすることになるでしょう。

そうして、選挙のたびに野党離合集散を繰り返し、自ら真綿で首を絞めるように、弱体化することになるでしょう。

野党は、もう国民を愚民扱いをするのはやめるべきです。今のままだと、次期の自民党総裁選選挙では安倍総理の3選確実でしょうし、次期の衆参選挙も安倍自民党政権が勝利するのも確実でしょう。

本当は、野党も「もりかけ」で無駄時間を費やしている暇はないはずです。マスコミもいたずらに、野党勢力の弱体化に精力を費やしている暇はないはずです。

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2018年3月29日木曜日

トランプ氏に面子つぶされた習氏 中国は過剰債務と高インフレの懸念、日本は漁夫の利得る可能性も―【私の論評】貿易赤字自体は問題ではない!問題の本質は別にある(゚д゚)!

トランプ氏に面子つぶされた習氏 中国は過剰債務と高インフレの懸念、日本は漁夫の利得る可能性も 高橋洋一  日本の解き方

トランプと習近平

 トランプ米大統領は、中国が米国の知的財産権を侵害しているとして、通商法301条に基づき追加関税やWTOへの提訴、中国企業の米国投資制限などを打ち出した。中国も対抗措置を打ち出すとして一時、株価下落を招いたが、米中間の本格的な貿易戦争となるのか、ディール(取引)の一種なのか。

 トランプ大統領がディールの一種だと考えていたとしても、中国は面子(メンツ)の国である。特に、習近平国家主席の「独裁皇帝化」のスタート時にトランプ氏が仕掛けてきたわけで、習氏としても売り言葉に買い言葉ですぐに報復措置を打ち出した。当面は、米中間の貿易戦争の様相である。

 この貿易戦争の損得を考えてみると、経済的には中国の方が分が悪い。米国の対中輸入額は対中輸出額の4倍なので、米中の貿易が仮にゼロになったとすれば、中国経済への打撃は米国より大きいだろう。特にそれぞれの雇用に与える影響を考えると、中国の方が米国より雇用喪失の可能性が大きい。

 米国が中国から輸入しているものは、他国からの輸入で代替可能なものが多いが、中国が米国から輸入しているものは自国生産や他国からの輸入で代替できないものが多いので、この点からも中国への打撃は小さいとはいえない。

 この場合、日本は漁夫の利を得る可能性すらある。鉄鋼では当面米国の制裁対象となっているが、その他の製品では、米中が互いに貿易制裁すると、米中は日本との交易で米中間の貿易の減少を補おうとするからだ。

 しかも、政治的な観点でも、米国の方が中国よりメリットがある。というのは、トランプ氏は、大統領選の際の公約を実施しただけであり、公約を守る大統領としてトランプ支持層をしっかり捉えることで再選への道も開けるからだ。

 それに対して中国は習氏の新体制の出ばなをくじかれた格好となった。現在の中国の最大の懸念は、本コラムで紹介したように過剰債務問題である。これをうまく処理するには、生産の拡大が持続することが必要である。そのために、輸出によって国内の余剰生産を海外でさばくことが必須だ。それなのに、輸出の道を閉ざされたら、中国での過剰債務問題がいつ爆発しても不思議ではなくなる。

 米国以外への輸出増のためにも、中国は人民元の切り下げをしてくるだろう。まさに貿易戦争の兆しである。

 他の先進国では変動相場制でインフレ目標があるので、際限のない通貨の切り下げにはならない。しかし、中国は事実上固定相場であり、政府が通貨価値を管理する。しかも、インフレ目標もないので、通貨切り下げは結果として中国国内のインフレ率を高めるだろう。

 そうなると、過剰債務問題のはけ口としての外需拡大がどこまでできるか、インフレ率の上昇に国民がどこまで耐えられるか、中国政府にとってはギリギリのところだ。当分の間、世界経済は米中貿易戦争の混乱に巻き込まれざるを得ない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】貿易赤字自体は問題ではない!問題の本質は別にある(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にも、米中の貿易戦争が、米国に有利なことを数字をもって、示されいましたが、その他にもこれを如実に占める数字があります。GDPに占める輸出の割合をみると、米国は数%すぎませんが、中国は30%を超えています。米国からみれば、そもそも輸出そのものが少ないわけですから、その中の対中国ということになれば、ほんとうにわずかな数字でしかありません。

さらに、中国の輸出先は香港が一位であり、米国は二位ですが、香港は統計上は中国とは別ですが、中国の一部のようなものであり、実質的には米国が第一位です。

これは、どう考えても、米中が本格的に貿易戦争に突入したとすると、中国には圧倒的に不利です。

さて、米国内では、2018年1月の米国の貿易収支統計がかつてないほどの注目を集めました。それは、トランプ大統領が、危険なほど断固とした口調で、鉄鋼とアルミニウムを対象とした輸入関税引き上げを表明した直後に発表されたからです。

2018年1月の米国の貿易赤字は、2008年10月以来、単月ベースでは過去最高の566億ドルに達しました。

米国の対中国輸出入金額(過去12ヵ月間合計)
出所:ピクテグループ、米国国勢調査局

また、「政策の争点」とも言えそうな対中国貿易赤字(季節要因調整前)は、2015年9月以来の水準である360億ドル、2018年1月までの12ヵ月間でも3,799億ドルとなりました。

問題は、鉄鋼とアルミニウムの輸入関税引き上げに関するトランプ大統領の突然の表明がや、その他通商法301条に基づき追加関税やWTOへの提訴、中国企業の米国投資制限を打ち出したことなどが、秋の中間選挙を意識した、支持層の歓心を買うための政治的駆け引きに過ぎないのか、それとも、追加輸入課税(ならびに全面的な貿易戦争に発展するリスク)措置を伴う米国の通商政策の「本物の」レジーム・シフト(体制の急激な変化)を意味するものなのか、ということです。

トランプ大統領の助言役(経済政策の司令塔)だったコーン国家経済会議(NEC)委員長の辞任を含め、足元で政策のより大きなシフトが起こるリスクは増しつつありますが、大統領の表明は、選挙前の政治的駆け引きに過ぎないとも考えられます。

トランプ大統領は、貿易収支が重要だと信じ込んでおり、中国など、一部の国が貿易のルールを守らないのだから、赤字をなくすには輸入品からの保護が必要だと言って譲らないようです。

問題なのはトランプ大統領の見解が正しいか否かは別としても、増加の一途を辿る中国からの輸入は、大統領に輸入制限発動の更なる口実を与えるリスクにもなりかねないことです。

貿易赤字そのものは、このブログに掲載してきたように、家計の赤字のようにみなして、赤字そのものが悪いことのように言うのは間違いです。たとえば、通常景気が良いと輸入は増えます。

ある年の輸出総額が1000億だったとして、輸入総額が900億なら100億の貿易黒字です。次の年輸出が900億に落ち込み、輸入は1000億に伸びたので貿易収支は100億の赤字になったとします。

あるいは、次の年輸出が仮に1100億に伸びたとして、輸入も1200億に伸びていたら貿易収支は100億の赤字になります。

さて、貿易赤字は良いことでしょうか、悪いことでしょうか。正解は、「貿易収支だけを見ても分からない」です。

輸出が増えれば輸出企業が儲かります。輸入が増えれば輸入企業が儲かります。輸入エネルギーや輸入食料の高騰が貿易赤字の原因なら確かに貿易赤字は悪いことといえそうですが、それ以外の場合は、「貿易赤字=悪」とはいえません。一国の経済にとって、貿易赤字などよりも、重要なのは、景気が良いか悪いかということです。

貿易黒字が大幅に出ていても、景気が悪いとか、貿易赤字が大幅に出ていても景気が良いということはおうおうにしてあります。そのときどきで、良いか悪いかを判断すべきものであって、赤字だから悪い、黒字だから良いと単純に判断することはできません。

このことをトランプ氏は良く理解していないようです。このような基本的なことを理解していなければ、TPPなどの自由貿易協定も良くは理解できないでしょう。



そのためでしょうか、トランプ大統領は大統領選挙のときから、TPPを脱退すること公約にしていました。そうして、実際に大統領に就任すると、脱退しました。ところが、TPPに復帰する可能性があることを公表しました。

しかし、貿易赤字についてのトランプ大統領の認識からすると、TPPへの理解など覚束ないようではあります。中国は社会構造的にみてもとうていTPPに加入することはできないですし、結果として中国封じ込めにもなることに気づいたということだけかもしれません。

中国は知財を軽視する傾向にあることは確かですし、そもそも中国自体が、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が十分なされておらず、労働者の権利など守らていないという現実があります。

そのため、労働者を不当な低賃金や、条件で働かせて、その結果他国の労働者の権利を守っている他の国々に比較すると、不当に低い価格で輸出する傾向があるのは否めないです。

たとえば、アップルの中国での生産現場がひどい環境にあることは以前から報じられていましたが、マイクロソフトも例外ではありません。

National Labor Committee(NLC)のレポートではマウス、ウェブカム、Xboxの周辺機器を製造する会社KYEでの劣悪な労働環境を告発しています。KYE社はマイクロソフトを筆頭にHP、ベストバイ、サムソン、Foxconn、エイサー、ロジテックにアスースなど名だたるメーカーへの納入実績があり、K-Martでは自社ブランドGeniusとして販売しています。

劣悪な労働環境で働く中国の労働者

上の写真は、KYE社のものですが、これを見るだけでも異様な雰囲気ですが、実態はさらに深刻でした。

工員は16歳くらいの勤労女子高生が多く、午前7:45から午後10:55までの長時間労働に加え、時給0.65ドル。食事代は天引きされて実質時給0.52ドルという凄まじいものでした。

これらは、米国の製品を組み立てる工場なので、明るみに出たものと考えられますが、中国の企業や、地方などでは、さらに酷い事例もあります。

トランプ大統領は、貿易赤字そのものが悪いなどというトンデモ理論は捨て去り、中国を批判するなら、このようなことで批判し、批判しても是正されないというのなら、これらを是正する方向で制裁を課すべきです。

貿易赤字だからといつて、それだけで相手を批判したり、制裁を課すのは、自由貿易を阻害するだけです。特に、中国よりははるかに労働者の権利を守ってる国々に対して、制裁をするのは間違いです。そのようなことをすれば、自由貿易を阻害するだけです。

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2017年7月22日土曜日

「石破4条件」の真相はこれだ!学部新設認めない「告示」の正当性示せなかった文科省―【私の論評】財務省のような粘りのない文科省の腰砕けを露呈したのが加計問題の本質(゚д゚)!

「石破4条件」の真相はこれだ!学部新設認めない「告示」の正当性示せなかった文科省

石破茂氏
 加計学園問題では、いわゆる「石破4条件」が注目された。石破茂氏が地方創生担当相だった2015年6月30日に閣議決定されたものなのでそう呼ばれているが、石破氏は、本人の名前がついていることを嫌っているようだ。

 なにしろ加計学園問題が、安倍晋三政権への倒閣運動の様相を呈しているので、政治家がピリピリするのは仕方ない。

 「石破4条件」は、獣医学部新設に関して、(1)新たな分野のニーズがある(2)既存の大学で対応できない(3)教授陣・施設が充実している(4)獣医師の需給バランスに悪影響を与えない-という内容で、16年3月までに検討するとされている。


日本獣医師政治連盟委員長の北村直人氏
 これが作られた経緯は、18日付産経新聞「加計学園 行政は歪められたのか(上)」に詳しい。それによれば、15年9月9日、石破氏は、衆院議員会館の自室で日本獣医師政治連盟委員長の北村直人氏と、日本獣医師会会長の蔵内勇夫氏に対して、「学部の新設条件は大変苦慮しましたが、練りに練って、誰がどのような形でも現実的には参入は困難という文言にしました」と語ったという。

 これが事実であれば、「石破4条件」は獣医師会の政界工作の成果だといえる。

 その根本を探すと、文科省が獣医学部の申請を一切認めないとする同省の方針に行きつく。これは、03年3月の「文科省告示」として書いてある。いわゆる岩盤規制である。これらの規制に基づき50年以上も獣医学部の新設がなかった。

 そこで、国家戦略特区の課題として、内閣府と文科省の間で、文科省告示の適否が議論された。交渉の結果として出てきたのが「石破4条件」だった。筆者の聞くところでは、この文言案は文科省から出されたようだ。

 しかし、文科省はここで大失敗をした。前述のように高いハードルを作るつもりで、学部新設をしたい者は条件をクリアして持ってこい、と考えた。つまり、4条件の挙証責任は文科省にはないという立場だ。実際、前川喜平・前文科事務次官ほか、文科省関係者はそう主張する。

 これは誤りだ。文科省の学部新設の認可制度は、憲法で保証されている営業の自由や職業選択の自由を制限するので、挙証責任は所管官庁の文科省にあるのだ。これは閣議決定された特区基本方針にも明記されている。

 つまり、「石破4条件」で書かれていることは、文科省が学部新設の申請を門前払いする文科省告示の正当性を16年3月までに示さなければいけないということだ。それが示せなければ、文科省告示を廃止または改正する必要が出る。

 「石破4条件」を検討するためには、農水省などの協力も必要だ。しかし農水省は早い段階から手を引いたらしい。その結果、文科省は16年3月までに説明ができなくなってしまった。これが真相だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財務省のような粘りのない文科省の腰砕けを露呈したのが加計問題の本質(゚д゚)!

学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設計画をめぐる批判が吹き荒れる6月26日、地方創生担当相の山本幸三は内閣府での会合でこう語りました。

「この話は、去年3月末までに文部科学省が挙証責任を果たせなかったので勝負はそこで終わっている。半年後の9月16日に延長戦としてワーキンググループ(WG)で議論したが、そこでも勝負ありだった」

多数のメディアや野党は、首相の安倍晋三と加計学園理事長が旧知の仲であることから「加計ありきだった」という批判を続けています。その最大の根拠は、内閣府幹部職員が文科省職員に「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと語ったとする同省の内部文書でした。

ところが、「官邸の最高レベル」という文書の日付は「平成28年9月26日」。この時点ですでに獣医学部新設の議論は決着しており、安倍の意向が働くことはありえないです。

では、日本獣医師会の強い意向を受けて、獣医学部新設を極めて困難とする「石破4条件」が27年6月30日の閣議決定「日本再興戦略」に盛り込まれたにもかかわらず、愛媛県今治市の獣医学部新設の特区申請が認められたのはなぜだったのでしょうか。

国家戦略特区WG座長でアジア成長研究所所長の八田達夫は「4条件により制限は加えられたが、達成可能だ」と踏みました。日本再興戦略で「獣医学部新設に関する検討」という文言が明記されていたからです。

国家戦略特区WG座長 八田達夫氏
文科省は、農林水産省による獣医師の需給推計を根拠に「獣医師は足りている」として学部新設や定員増を拒み続けてきました。

八田はこれを逆手に取りました。日本再興戦略を読み解いた上で「成長戦略につながる高度な研究や創薬など新たな部門に携わる獣医師の需要が明らかになれば、クリアできる」と理屈づけたのです。

しかも日本再興戦略では「28年3月末までの検討」を農水省や文科省に義務づけました。八田はこれこそ最重要ポイントと考え、WGは両省に「再検討」を求めました。

ところが、ここから文科省は猛烈なサボタージュを始めました。八田は内閣府を通じて文科省に検討状況を何度も尋ねたのですが、期限である「28年3月末」が過ぎても明確な回答はありませんでした。結局、WG会合が開催されたのは、期限の半年近く後の同年9月16日でした。

ちなみに「需要見通し」は、「複数の微分方程式体系からなる数理モデル」です。獣医師は足りているということを文科省は微分方程式を書いて証明すれば良かったのです。しかし、これは、文系事務官僚の手に負える代物ではないです。

しかし、何も自分たちでやらなくても、省外の誰か数学の得意な人に顧問にでもなってもらいその人にやってもらえば、それで良かったはずです。そうして、その結果を他の複数の人に検証してもらえばそれで良かったはずです。でも、彼らにはそれをしませんでした。

本当は誰かに頼んで、やってもらったのかもしれません。しかし、いくら数理モデルにあてはめたにしても、本当に足りなければ足りないなりの結果しかでません。外部に頼んだにしても、外部の数理研究者なども嘘をつくわけにはいきません。

そこで、文科省は諦めてしまったのでしょう。文科省はこの点においては、財務省には負けてしまうようです。財務省の場合は、このような場合でも無理をしてでも、何とか自分たちの都合の良い資料を作り上げます。

たとえば、デフレなど景気の悪い時には、マクロ経済学的には、減税、給付金、公共工事などの積極財政をせよと教えていますが、財務省はこの教えに背いて、デフレ気味味の現状でも増税をするための根拠を何とかでっちあげています。

そうして、増税の根拠をご説明資料にまとめて、政治家やマスコミなどに足繁くかよい説明をして、その根拠をまわりに信じ込ませ、とうとう8%増税を安倍政権に実行させてしまいました。しかし、この根拠はでっちあげだったことは、増税後の大失敗ですぐに暴露されました。

この手口は、詳しく分析してみると、数理モデルを駆使するような高度なものではありません。良く分析するといくつもの錯誤の上に成り立っていることは確かです。たとえば、財政と税制の一体改革なるものを打ち出し、まともな医療や社会保障を受けたいのであれば、増税に甘んじなければならないなどと、多くの人の情感に訴えるものであったり、明らかな錯誤の上に成り立つものです。

財務省の嘘を暴く高橋洋一氏の番組
その手口の中心は、政府の負債だけに注目させて、資産を無視して、国の借金1000兆円であり、政府は借金塗れであるようにみせかけるというものです。また、統合政府という、日銀と政府を含めた尺度見た統合政府の財政状況なども無視です。これなど、民間企業では連結決算ということで当たり前になっていることですが、それが明るみに出れば、政府の借金など幻想に過ぎないということが国民知れてしまうで、財務省はおくびにも出しません。

財務省は、自分たちの省益を守り抜くには、ここまでやり抜くのですが、文科省にはこうした根気や、覚悟がなかったようです。さすがに、一流官庁といわれる財務省と最低といわれる文科省の違いです。(無論これでは、財務省も国民にとって良くはないのですが、目標に向かって執着心を持って、努力するという意味では財務省のほうが優れているという意味です)

WG会合では、新たな部門での獣医師需要について農水省は「特に説明することはない」と関与を避けました。文科省は「各大学で取り組んでいる内容だ」と従来の説明を繰り返しました。

会合の議事録には、

「家畜の越境国際感染症など、これまで対応する必要がなかった部門で需要が出てきた。新たなニーズに対応するマンパワーの増強が必要ではないか」

「新しい分野も既得権を持った大学の中だけでやろうというのはあり得ない。本来は28年3月末までに検討するはずだったのに、今になって需要の有無の結論が出ていないのは遅きに失している」

という内容が掲載されています。

委員たちは矢継ぎ早に文科省を攻め立てたのですが、同省側はひたすら4条件をそらんじるばかりで挙証責任を果たしませんでした。そこである委員が詰め寄りました。

「文科省は需要の有無についてちゃんと判定を進めているのか」

文科省は「わが省だけでは決められない。政府全体で決めてほしい」と需要推計を内閣府に委ねてしまいました。事実上の「白旗」宣言でした。山本の言う「勝負あり」とはこれを指します。

国家戦略特区で提示された、新しいニーズの創薬(トランスレーショナル・スタディ、トランスレーショナル・ベテリナリーメディシン)など、動物を用いて行うライフサイエンス研究分野では、創薬イノベーションなどは厚労省、動物実験は環境省、また水際対応など危機管理対応の必要な分野では、人獣共通感染症は厚労省、食品の安全(輸入食品を含む)は厚労省、家畜感染症が農水省の管轄です。

国際的にみても、新しい獣医師へのニーズの多くは、厚労省などに関連する職域の獣医師です。「動物で完結していた獣医学が、ヒトを意識した獣医学」へと拡大していく必要があります。また、以下の図からわかるように、現状の獣医職域の偏在の矛盾が、そのまま、新しい獣医学のニーズへの対応不足として現れている関係になっています。


前川前財務次官は、財務次官のように省益に執着して、粘ることもなく、完璧に戦いに負けてしまったのですが、その負けを認めたくなかったようです。本来なら、現役のときに、財務省を見習って獣医師需要は盤石であるとの根拠をでっちあげ、それを説明資料にして、マスコミや政治家を説得すべきだったと思います。

本来ならば、現役のときに執着して、財務省のようにどこまでも突っ走ればよかったのでしょうが、それもせずに、辞任したあとにするというのですから、負け犬の遠吠えと言われてもしかたありません。

では、この直後に作成された文科省の内部文書とは一体何だったのでしょうか。誰の目から見ても文科省はあまりに無残に敗北しました。漏洩(ろうえい)した内部文書は、省内向けの敗北のエクスキューズ(言い訳)のために作られたのでしょう。「総理のご意向」ということにすれば、省内では何とか言い訳はたちます。

では「総理のご意向」とは何でしょうかか。WGの議論では一切登場しません。強いて言うならば「岩盤規制をドリルで崩せ」という国家戦略特区の大方針を指すのではないでしょうか。

28年9月16日のWG会合で獣医学部新設の道筋は開けたかに見えたが、11月9日の国家戦略特別区域諮問会議では「広域的に獣医学部のない地域に限り新設を認める」という新たな条件が加わりました。

これには理由がありました。八田は10月末に山本にこう耳打ちしました。

「獣医師会がまた厳しいことを言ってくる可能性がある。ニーズの高い地域に絞ることで反対勢力と合意しやすくしよう」

八田は「獣医学部の定員規制そのものがナンセンスだ」と考えていましたが、座長の職務を通じて獣医師会の政治力のすさまじさを思い知りました。山本も「早く岩盤規制を突破するには仕方ないな」と渋々応じたのです。

それでも獣医師会は猛反発しました。獣医師会会長で自民党福岡県連会長の蔵内勇夫は11月22日の獣医師会のメールマガジンで「必ずや将来に禍根を残すであろう無責任な決定に対し、総力を挙げて反対して行きましょう」と呼びかけました。

蔵内らは12月8日、山本に直談判し、「新設は1カ所1校」とするよう求めました。やむなく山本も受け入れました。これにより新設は加計学園1校に絞られました。

前文科事務次官の前川喜平は「『広域的』という条件により京都産業大(京都市)が排除され、加計学園に絞られた」「行政が歪(ゆが)められた」と批判しています。

京産大副学長の黒坂光氏
しかし、京産大副学長の黒坂光は今月14日の記者会見で「広域ということで対象外となったとは思っていない」と明言した。京産大とともに獣医学部誘致を目指した京都府知事の山田啓二も同日、こう語りました。

「愛媛県は10年間訴え続けたのに、こちらは1年。努力が足りなかった」

果たして安倍政権は行政を歪めたのでしょうか。むしろ歪めたのは獣医師会であり、文科省ではないでしょうか。獣医学部の問題の本質に踏み込まず、「安倍はお友達の加計を優遇したに違いない」という印象操作を繰り広げたメディアの罪もまた重いです。

そうして、メディアは、財務省の公表した資料を吟味もせず、そのまま垂れ流すようなことが習慣になっています。そのような矜持のないメディアは、加計問題もまともに報道できないのは当たり前です。

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