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2019年2月11日月曜日

韓国、通貨危機への警戒感高まる…日本と米国は支援せず、北朝鮮と経済逆転も―【私の論評】日米にとってどの程度韓国を飼い殺しにするかが重要な課題(゚д゚)!

韓国、通貨危機への警戒感高まる…日本と米国は支援せず、北朝鮮と経済逆転も

軍事境界線を越え、北朝鮮側に入る金正恩氏(左)と文在寅氏=4月27日、板門店

米中貿易戦争で中国経済はおろか、徐々に日本経済への影響も懸念され始めているが、日本よりも先に韓国経済が大きなダメージを被っており、1997年に韓国を襲った通貨危機再来への警戒感が高まっている。

 かつて韓国の経済危機では、米国や日本が助けの手を差し伸べたが、文在寅政権に対して日米両政府は抜きがたい不信感を抱いているという構図は、97年の通貨危機の際の日米韓3国関係と同じ状況だけに、韓国が経済的に没落するなか、今月27、28日の米朝首脳会談の結果次第では、米国の経済支援を受けた北朝鮮が経済的に韓国を凌駕する可能性も出てきている。

悪化する日韓・米韓関係

 韓国産業通商資源部が今月1日に発表した2019年1月の貿易統計(通関ベース)によると、輸出は463.5億ドルで前年同月比5.8%減となった。輸出の20%前後を担う半導体の市況悪化に加え、米中貿易戦争のあおりを受けて総輸出の4分の1を占める中国向けの輸出額減少が大きな要因だ。

 しかも、輸出の減少は2カ月連続だけに、マーケットでは再び通貨危機への懸念が高まっているようだ。韓国は97年の通貨危機以外でも、2008年の貿易赤字の際も経済危機が囁かれたほか、11年にも輸出不振と欧州の金融危機の2つの大きな要因が重なり、通貨危機に陥りかけている。

 しかし、韓国が08年と11年に通貨危機を回避できたのは、日米両国が韓国にドルを融通したことが大きい。逆に97年の通貨危機では、「米韓関係が悪化していたため、米国は日本にもドルを貸さないよう指示し、韓国はIMF(国際通貨基金)に救済されるという不名誉を被った」と元日本経済新聞の鈴置高史が著書『米韓同盟消滅』(新潮新書)のなかで指摘している。

 今回も日米の支援は期待しにくい。なぜならば、日韓、米韓関係が悪化しているからだ。
 
 米国のトランプ大統領は韓国の文大統領が北朝鮮の核放棄を待たずに経済支援を急ごうとする姿勢を強く批判しており、米政権内では場合によっては米韓同盟の打ち切りを主張する声も出ているほどだ。
 
 また、日本は米国以上に文政権に強い不信感を抱いているが、これは言わずもがなだろう。文氏は1月の年頭の記者会見で、徴用工をめぐり韓国最高裁が日本企業に賠償を命じた判決について、「徴用工問題は韓国がつくったものではなく、不幸な歴史のため生じた問題」などと断じており、1965年の日韓請求権協定を度外視しており、まさに一国の大統領が2国間協定を無視するという極めて無責任な態度を示したからだ。

 さらに、ここにきて韓国の文喜相国会議長が米メディア「ブルームバーグ通信」のインタビューで、従軍慰安婦問題に関して「日本を代表する首相か、あるいは間もなく退位する天皇が(謝罪するのが)望ましいと思う」と述べたうえで、「(天皇は)戦争犯罪の主犯の息子ではないか。その方が一度(慰安婦だった)おばあさんたちの手を握って『心から申し訳なかった』とひとこと言えば(慰安婦問題による確執は)すっきり解消されるだろう」と指摘したのだ。まったく日本の国民感情を理解していない暴言といえるだろう。

 日本の自民党内では駐韓大使の一時帰国や訪日ビザの免除停止、韓国製品の輸入関税引き上げ、日本にある韓国企業の資産差し押さえなどの対抗措置を求める声も出ているのだが、さまざまな制限があり、実行は難しい。

 現在、文政権の支持率は低迷しており、その最大の原因が景気低迷だ。さらに先にも指摘したように、通貨危機の可能性も出ている。
 
 だが、日本国民の対韓イメージは確実に悪化しており、韓国が通貨危機に陥ろうが、かつてのように支援の手を差し伸べようとは思わないだろう。それはトランプ米政権も同じだ。

北朝鮮の経済成長

 トランプ氏は今月27、28日にベトナムのハノイで、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談を行う予定で、自身のツィッターで「北朝鮮は金委員長のリーダーシップのもとで経済大国になるだろう。北朝鮮は経済のロケットになるだろう」と書き込んだ。これは会談が順調に進めば、米国が北朝鮮への経済支援を進める可能性を示唆したものとも受け取れよう。

 そうなれば、韓国が景気低迷状態をさまよっているうちに、北朝鮮の経済成長が進展すれば、南北経済の逆転現象が現実のものとなることも考えられる。それは、社会主義国の中国、ベトナムが急成長をした例からも否定できない。そして、もし逆転が現実のものとなれば、北朝鮮による韓国併呑もまったく可能性がないとはいえないだろう。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)

【私の論評】日米にとってどの程度韓国を飼い殺しにするかが課題(゚д゚)!

海上自衛隊のP1哨戒機が韓国海軍の駆逐艦に火器管制用レーダーを照射された問題は、日本国民を激怒させただけではなく、米国との関係悪化にもとどめを刺し「韓国崩壊」を決定づけました。

2015年に起こった、リッパート駐韓米国大使襲撃事件は、あと1~2センチ傷がずれていれば死に至ったかもしれないという深刻なものであり、入院先の病院で大使は「これは私個人への攻撃ではなく米国への攻撃である」と語りました。

2015年のリッパート駐韓米国大使襲撃事件

そもそも、この事件の犯人は10年に日本の駐韓大使だった重家俊範氏襲撃事件で捕まっていました。しかし、同行していた女性が負傷したにも関わらず、収監されずに野放しにされました。韓国政府(裁判所)の責任です。

当時はオバマ政権であったため、穏便な処理が行われましたが、今回のレーダー照射事件はトランプ政権下での事件です。

少なくとも安倍晋三首相とトランプ大統領のコンビになってからは、日本は米国にとっての最重要同盟国の一つであり、ドイツや、マクロン政権になってから急速に関係が悪化しているフランスよりも戦略的に重要です。

その米国の最重要同盟国に「攻撃」を仕掛けたのですから、米国と韓国の同盟関係は事実上終了したといえまう。「現場の暴走」と思われますが、その背景には北朝鮮あるいは共産主義者の工作活動があるはずです。日米韓の絆に亀裂が入って一番得をするのは共産主義国家です。

この韓国の悲惨な様子を見ていると、ベトナム戦争時の南ベトナム・サイゴン政権の姿と重なります。米国がベトナム戦争で「負けた」理由はいくつかあります。

サイゴン政権の腐敗・堕落ぶりが激しく、米国の若者の命を犠牲にして助けることが疑問視されただけではなく、サイゴン政権よりは共産主義・北ベトナムの方がまだましだという南ベトナム国民が多数を占めたのです。彼らの破壊工作活動によって内部から崩壊せざるを得なかったのです。

韓国で北朝鮮を賛美する人々が多いのも、自国の大統領が代わるたびに敵対勢力によって投獄・処刑されるような南米の軍事政権と大して違わない国情があります。

さらに、米国の機密情報が韓国を通じて北朝鮮にダダ漏れであったり、平気で制裁破りをしたりなど、米国の若者の血を流して守るに値しない国とみられるのは当然といえば当然です。

それよりも、北朝鮮の「悪の帝国」である金王朝の方が、きちんと仕込めば共産主義中国に対する番犬としては役に立つと米国は考えるでしょう。番犬は獰猛(どうもう)で主人に忠実なほうが役に立つし、実際米国は、南米や中東では、民主主義政権よりも独裁政権を飼いならすことが多いです。

それに以前からこのブログにも掲載しているように、韓国は元々中国に従属しようとする国ですが、北朝鮮はあくまで中国からの独立を希求しています。これは、様々な筋から明らかです。

そうして、結果として北朝鮮と北朝鮮の核が、朝鮮半島全体に中国の影響が浸透するのを防いでいます。これは逆に考えると、良く理解できます。北がもし、核を開発していなかったとしたらどうなっていたでしょう。

おそらく、朝鮮半島に対する中国の浸透は今よりももっと深く広範囲に行われ、今頃北朝鮮は中国の傀儡政権が樹立されていたかもしれません。金一族は抹殺されていたかもしれません。そうして、もうすでに朝鮮半島は中国の自治区か省になっていたかもしれません。

「ムスダン」発射直後

しかし、北朝鮮があることで、朝鮮半島はそうならないで現在に至っているのです。これを考えると、北朝鮮がすぐに核を全部放棄することは考えられません。

であれば、米国が韓国はあきらめて、北を中国に対する番犬にする可能性は十分あります。ただし、北朝鮮は人権問題が深刻であり、金正恩は権力を掌握するため、叔父や血の繋がった兄を殺すということまでしています。

その意味では、北朝鮮は番犬どろこから、猛獣です。この猛獣を使いこなすのは、容易なことではありません。トランプ大統領はそれこそ、猛獣使いにならなければ、北朝鮮を容易に従わせることはできないでしょう。

しかし、それでも、米国が対中経済冷戦を挑んでいる最中にも、中国に従属する韓国は、米国にとっては全く当てにならない存在です。それでも、韓国が存在する事自体は、日米にとって有利なことにはかわりありません。

ただし、韓国自体はあくまで、中国に従属しようとしています。しかし、韓国のすぐ北には、中国に対する敵愾心をむき出しの北朝鮮が控えていて、中国はなかなか韓国に対して直接影響力を及ぼすことはできません。最早、韓国は安全保障上では日米にとって単なる空地に過ぎなくなっています。

北朝鮮側も、あくまで中国従属しようとする韓国や文在寅を心の底では軽蔑しているでしょう。ただし、制裁を受けている現在、韓国を自分たちにとって都合の良いように利用しているだけです。

しかし、いずれサイゴンのようにソウルが北朝鮮によって陥落させられた後、当然生まれるであろう難民は、日本にとって脅威となるでしょう。日本を含めた世界中の国々には必ず一定割合の犯罪者が存在し、彼らも当然、というよりは、たぶん善良な人々よりも我先に、日本にやってくるかもしれません。

「韓国が崩壊したのは日本のせいだ!」と主張し暴れる人も出てくるかもしれないです。

韓国の人口は約5000万人であり、その1%でも50万人、5%なら250万人である。大挙して日本に押し寄せてきた際の対応策を真剣に考えるべきです。

やはり、一番良いのは、韓国が日米にとって安全保障上の空地になっていることが最上だと思われます。北をうまく御して、韓国は生かさず殺さず程度にして空地を維持することが、今の日米にとっては最上の戦略だといえます。

日本に関しては、米朝交渉で米国に到達するICBMの撤去が先に行われ、短・中距離核ミサイルの撤去が廃棄されるのが、後回しされるととんでもないことなると騒ぐ人もいますが、こういう人はすでに中国の核ミサイルが日本を照準にしていることを忘れています。

中国の核ミサイルは日本を照準にしている

いずれにせよ、今更ながら北朝鮮の核が恐ろしいなら、中国の核もその数倍恐ろしいのであり、日本も何らかの形でこれに対処すべきなのです。これについては、以前もこのブログで触れています。以下にそこから引用します。
ドイツには、昔から米国が置いている「戦術」核弾頭が今でも数十発ありますが、これはDual Keyと言って、実戦に使用する時にはドイツ、米国両国政府の合意が必要になっています。ドイツ政府も、これの使用を積極的に米国に発議できるようになっているのです。そして米政府はドイツ政府の了解なしには、これを使用できないです。日本もこのような権利を得ることを検討すべきです。 
そして将来的には、日本も核兵器を開発する可能性の余地を残すのです。その「可能性」自体が抑止力になります。インドが、核ミサイルを保有していながら米国と原子力協力協定を結んでいることを念頭に置くべきです。
このようなことを検討する事自体が、中国や北朝鮮に対する牽制になります。それとともに、日米にとって、どの程度に韓国を飼い殺しにするかが重要な課題となります。言葉はエゲツないですが、そう仕向けたのは韓国ですから、これは致し方ないです。

現在、中国は米国の経済冷戦を真っ向から受けているので、韓国を支援することはほとんどできないでしょう。そうなると、かなり低い水準で良いのかもしれません。

冒頭の記事では、北朝鮮と経済逆転とありますが、これもあながち有りえないことではないかもしれません。実は、大東亜戦争直後からしばらくは、北朝鮮のほうが経済は良かったということがあります。

日本の統治時代に、北には様々な産業があり、それを北は受け継いだのですが、南のほうはさしたる産業もなく農業地帯でした。韓国のほうが経済が良くなったのは、1960年代に日本の支援で、韓国が漢江の奇跡を成し遂げ、経済的に発展してしばらくしてからの1970年代に入ってからです。日米の手によってこれを元に戻すのは意外とたやすいのかもしれません。

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2018年8月18日土曜日

【日本の解き方】トルコリラ暴落の政治的背景 トランプ大統領流の揺さぶり…過小評価できない世界経済への打撃―【私の論評】世界にとって通貨危機よりもはるかに危険なトルコ危機の本質(゚д゚)!

【日本の解き方】トルコリラ暴落の政治的背景 トランプ大統領流の揺さぶり…過小評価できない世界経済への打撃

トルコ エルドアン大統領

 トルコの通貨リラが暴落したことで、一時、ユーロが売られたり株式市場が急落したりする場面があった。

 トルコは経済協力開発機構(OECD)加盟国であるが、インフレ率はその中でも一番高い。ここ10年間で、トルコの平均消費者物価上昇率は8・4%であり、OECD平均の1・8%を大きく上回っている。ちなみに、トルコはインフレ目標を採用しているが、その目標水準は5プラスマイナス2%としており、インフレ率は常時上限を超えている状態だ。

 これは、インフレ目標を上回るくらいの金融緩和をしているわけで、マネー増加率も常に2桁とOECDの中でも高い伸びになっている。このため、トルコリラは継続的に割安状態だ。

 長期的な為替は、ソロスチャートを持ちだすまでもなく、国際金融の基本理論から、2国間の通貨量の比率でだいたい決まる。これをトルコリラと米ドルで当てはめてみると、2007~16年では、通貨量の比率とリラ・ドル相場の相関係数は96%とほぼ予想された動きとなっている。

 しかし、17年に入ると、この理論で予想された為替動向とは乖離(かいり)するようになった。16年7月のトルコ国内でのクーデター未遂事件が関係しているようだ。

 この乖離はここ数カ月ではさらに大きくなっている。一時、1ドル=7リラ程度となっており、これは理論値の2倍以上のリラ安である。理論値とかけ離れている理由は政治的なものであろう。

 まず、インフレ率が目標以上に高いにもかかわらず金融引き締めを行わないことが主因であるが、それを中央銀行ではなく、エルドアン大統領が指導している。しかも、これは、中銀が「手段」の独立性を持つという先進国のスタイルとは異なり、この意味で政治的な問題だ。

 もっとも、この政治スタイルは今に始まったことではないので、これだけであれば、理論通りにリラ安になるだけだろう。しかし、今や米国とトルコは政治的な対立をしており、それがリラ安に拍車をかけている。

 トルコは、2年前のクーデター事件に関係したとする米国人牧師を拘束している。それに対して、米国はトルコ閣僚の資産凍結を決めた。さらに、リラ安に伴い、トルコから輸入する鉄鋼などの関税を引き上げることも表明した。

 米国の対トルコ投資・与信はそれほど多くない。欧州の対トルコのほうがはるかに大きいので、米国はリラ安の影響を受けにくく、トルコ問題は欧州への打撃が大きいのが実情だ。この意味では、新興国とはいえ世界経済への影響を過小に評価することはできないだろう。

 トルコは北大西洋条約機構(NATO)国でもあり、米軍はトルコ国内のインジルリク空軍基地を使用している。安全保障体制そのものではなく米国人牧師の解放というトランプ流の政治的な揺さぶりであるが、仕掛けられたトルコは思わぬ苦境になっている。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】世界にとって通貨危機よりもはるかに危険なトルコ危機の本質(゚д゚)!

米連邦準備理事会(FRB)が基軸通貨でもあドル引き締めを継続している以上、遅かれ早かれ「新興国市場からの資本流出」自体は起こるべくして起こることだったということで、たまたま直近の要因でトルコが一番先だったといえるかもしれません。

そうして、「あとはきっかけ待ち」という状況にあったところ、今回のトルコリラ・ショックが起きたということでしょう。これを機に新興国市場からの資金流出が続く展開になると考えられます。

もともとトルコリラ安の底流には、ブログ冒頭の高橋洋一の記事にもあるように、中央銀行への政策介入をするエルドアン大統領の経済政策という内政要因がありましたが、対米関係の悪化という外交要因もありました。

とりわけクーデター容疑でトルコ当局に拘束されている米国人牧師を巡って問題がこじれた結果、「鉄鋼・アルミニウムに係る追加関税率を倍に引き上げる」という米政府の決定につながり、これによりトルコにも追加関税をかけることになり、トルコリラ急落のトリガーを引くに至っています。

トルコ・イズミルで、私服警官らによって自宅へと移送された
米国人牧師、アンドルー・ブランソン氏(2018年7月25日)

こうした状況下、トルコが現状を打開するために必要な選択肢は、1)緊急利上げに踏み切る、2)米国人牧師を解放する、3)資本規制の強化、4)国際金融(IMF)支援の要請です。

もっとも、「利下げをすればインフレ状況も落ち着く」という奇異な主張の持ち主であるエルドアン大統領は8月12日の演説で、1番目の選択肢については「自分が生きている限り、金利のわなには落ちない」と一蹴しており、その上で2番目にも応じない姿勢を明確にしています。

また、4番目の選択肢についても「政治的主権を放棄しろというのか」と述べ、これも退けたというか、元々IMFは米国が単独拒否権を保有しており、米国の合意なしでは利用できません。

今のところトルコは、3番目の選択肢を取っています。8月13日早朝、トルコ銀行調整監視機構は、国内銀行による海外投資家とのスワップ、スポット、フォワード取引を銀行資本の50%以内に制限すると発表し、投機的なリラ売りの抑制に踏み出しています。

しかし、投機のリラ売りを抑制しても同国が経常赤字国であるという事実は変わらないので実需のリラ売りは残ります。資本規制を強化するほど、トルコへの投資は敬遠されるはずですし、経常赤字のファイナンスは難しくなります。新興国が危機に陥る際の典型的な構図が見て取れます。

そのほか、8月に入って以降は、中銀が設定する各種準備率を調節することで市中への流動性供給を増やすという措置も取っています。それらの措置が市場の緊張緩和に寄与するには違いないでしょうが、利上げによる通貨防衛を期待する市場参加者にとって迂遠(うえん)な一手と言わざるを得ないでしょう。言い換えれると、政策金利の調整を決断できない「中銀の独立性の無さ」を逆に誇張しているようにすら見えてしまいます。

トルコ・ショックはどれほどの震度を持つと考えるべきなのでしょうか。トルコの国内銀行が外国銀行に対して持つ対外債務の約6割がスペイン・フランス・イタリアによって占められていることから、市場が「トルコ発、スペイン・フランス・イタリア経由、ユーロ圏行き」といった危機の波及経路を心配することも一理あります。

とはいえ、トルコにとって欧州が重要な債権者であるからと言って、欧州にとってトルコが同じくらい重要な債務者であるとは限らないです。例えば、国際与信残高(国外向けの与信残高)を見ると、スペインは約1.8兆ドル、フランスは約3.8兆ドル、イタリアは0.9兆ドルです。ちなみに、ドイツは約2兆ドルです。

ここで、それらユーロ圏4大国の国際与信残高合計に占めるトルコ向け与信残高の割合を計算してみると、2%にも満たないことが分かります。国別に見てもスペインの4.5%が最大であり、トルコ・ショックがそのまま欧州金融システムを揺るがすような話になるとは考えにくいです。

それでは、全く問題がないのかといえば、そうではありません。というのも、欧州連合(EU)はトルコに対して大きな借りがあるからです。2015年に勃発し「債務危機を超える危機」とも言われる欧州難民危機は今も根本的な解決には至っておらず、正確には解決のめどすら立っていません。しかし、その一方で大きな混乱も招いていません。

シリア難民のEUへのルートは主に3つだが、そのうち2つはトルコを経由している

これはなぜなのかといえば、ひとえにEUとの合意に従ってトルコが難民をせき止めているからです。EUに流入する難民の多くは内戦激化により祖国を飛び出したシリア人であり、トルコ経由でギリシャにこぎ着けてEUに入るというバルカン半島を経るルートを利用していました。そのため、EUとしては何とか経由地であるトルコの協力を得て流入をせき止める必要がありました。

2016年3月18日、ドイツが主導する格好でトルコとの間で成立した「EU・トルコ合意」は非常にラフに言えば、「カネをやるから難民を引き取ってくれ」という趣旨の危うい合意ですが、効果はてきめんでした。少なくとも、その合意がEU(とりわけドイツ)に余裕を与えているのは紛れもない事実です。

なぜこのような条件をトルコがのんだかといえば、日本では意外に知られていないのですが、トルコはEU加盟候補国でもあるからです。


これは裏を返せば、難民危機はトルコひいてはエルドアン政権次第ということです。ここに至るまでの大統領の言動を見る限り、今後、意図的に難民管理をずさんなものにするリスクはないとは言えないでしょう。

いや、故意ではなくともトルコの政治・経済自体が混乱を極めれば難民を管理しきれないという過失も考えられます。どちらにせよトルコがいつまでも欧州のために難民をせき止めてくれる保証はないのです。

率直に言って、EU域内に難民流入が再開するのは非常にまずいことです。そうなった場合、難民流入に不平不満を抱えるイタリアのポピュリスト政権が勢いづくことになるでしょう。ただでさえ、それを切り札として欧州委員会と交渉する雰囲気があるのですから、事態はより複雑になるはずです。

また、10月にバイエルン州選挙を控えるメルケル独政権も難渋することでしょう。難民受け入れのあり方を巡って長年の姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)がメルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と仲たがいを起こしたことが6月に話題になったばかりです。ここで状況が悪化したら余計に両者の溝が埋め難くなることでしょう。

さらに2019年5月には欧州議会選挙もあります。EU懐疑的な会派をこれ以上躍進させないためにも難民を巡る状況はやはり悪化させるわけにはいかないでしょう。

金融市場ではトルコの国内金融システム混乱がユーロ圏に波及する経路が不安視されていますが、現実的にはエルドアン政権が欧州難民危機ひいてはEU政治安定の生殺与奪を握っている事実の方がより大きな脅威であるようです。

こちらのほうが本質であり、難民危機が再びユーロ圏内を襲えば、そちらのほうがはるかに世界経済に悪影響を及ぼすことになりそうです。

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