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2019年11月5日火曜日

RCEP、インドの交渉不参加言及に波紋 離脱なら枠組み瓦解―【私の論評】インド離脱は、新たな自由貿易を目指す日本にとって追い風(゚д゚)!


東アシアサミットに臨む(前列左から)インドのモディ首相,安倍総理ら=4日,バンコク郊外

日本や中国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉をめぐり、インドの当局者が今後の交渉に参加しない可能性に言及したことをめぐり、5日、日本政府内には波紋が広がった。「インドのいないRCEPは考えられない」(交渉筋)との指摘もあり、仮にインドが離脱すればRCEPの枠組み自体が瓦(が)解(かい)する恐れもある。

 「16カ国を併せれば世界最大の経済圏となることから、その戦略的、経済的意義は極めて大きい」。安倍晋三首相は4日、バンコク郊外で開かれたRCEP交渉の首脳会議の席上、16カ国の枠組みの重要性をこう強調した。

 インドの当局者が4日の記者会見で、現在の条件では「RCEPには参加できない」と話したことが伝わると、日本政府内には「対中交渉の駆け引きの一環だろう」(経済官庁幹部)と冷静に受け止める一方で、「真意がわからない」(政府関係者)といった困惑の声も聞かれた。

 4日の首脳会議では来年の協定署名で合意。その上で、関税撤廃などでインドとの交渉を引き続き継続するとした。共同声明では「インドには未解決のまま残されている重要な課題がある」と指摘。妥結はインドにかかっていると明示することで、インドの政治的な決断を促した。

 日本の立場は明確だ。中国がインドを除外した枠組みを参加国に打診した際には、日本は保護主義的な動きが強まる中、市場規模の大きいインドを自由貿易圏に取り込むことの意義を説明。また、インドが抜ければ中国の影響力が強まることへの懸念もあった。

 インドが離脱するようなことがあれば、日本のRCEPへの関心自体が薄まりかねず、交渉が暗礁に乗り上げる恐れがある。

【私の論評】インド離脱は、新たな自由貿易を目指す日本にとって追い風(゚д゚)!

私自身は、RCEPには反対です。日本はこのような貿易協定に労力をさくよりも、TPP拡大に注力すべきです。そのため、RCEPからのインドの離脱は大いに賛成です。これについては、このブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、RCEPが日本にとっては重要ではなく、TPPこそが本命であることを掲載しました。以下に一部を引用します。
ほとんど関税も削減しない、WTO以上のルールや規律は設定しない、という内容の乏しいFTAでは、いくら参加国のGDPが大きかったとしても現状に大きな変更を加えるものではありません。この意味からもRCEPはまともな協定にならない可能性が高いです。

さらなる問題は、複数のFTAが重複することによって、それぞれの関税、ルール、規則などが複雑に絡み合ったスパゲッティのように錯綜して貿易が混乱するという「スパゲッティボール効果」です。

TPP11と日EUのFTAは対象となる地域が異なるので、このような問題は生じないです。しかし、TPP11とRCEPの参加国には重複があります。スパゲッティボール効果を避けるためには、一つの大きなFTAに関係国すべてが参加することが望ましいです。

自由貿易の推進や新しいルールの設定の両面でレベルの高いTPPに、アジア太平洋地域の経済を統合すべきです。
さらに、そもそも論で、中国は自由な市場経済国ではないですから、最初から自由貿易をリードしていく資格などありません。 自由貿易をリードしたいというのなら、まずは自国の構造改革をすべきです。

特に、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめ、自由貿易ができる体制を整えるべきなのです。しかし、中国ではこれができません。実行すれば、中共政府は統治の正当性を失い崩壊してしまうでしょう。

そのため、中国が主導するRCEPは、ほとんど関税も削減しない、WTO以上のルールや規律は設定しない、という内容の乏しいFTAにならざるを得ないのです。

これまでの貿易の秩序が公平で正しいものだったのかは、甚だ疑問です。特に米国にとってはあらゆる産業が自然に衰えていく傾向を示し潜在敵国の中国には絶好の儲けを提供する仕組みになっていました。米国民は現状が不公平過ぎると感じていたのでしょう。その腹立ちが世界の予想外だったトランプ氏を誕生させました。

世界経済の常識は「金持ちは我慢しろ」という傾向がありましたが、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」を掲げて既成の秩序をぶち壊し始めました。米国は、現体制は米国の利益を損なっていると認識したからこそ、根こそぎ破棄し新たな秩序づくりを提唱しているのです。

現状の貿易体制はWTOの精神に裏付けられています。WTOの考え方は自由な取引を推進すれば比較優位の商品が産出されます。言い換えると、どの国も得意なものを作って儲けられるというものです。

ところが、完全な自由貿易を強制すると、ある製品について、1国以外に製造する国がなくなるはずです。もしその国が独占的立場を悪用して、価格を上げるとなると、他に競争する国がないのですから、儲け放題になる。そこで互いに関税をかけて産業を保護するのです。

WTO発足時点の経済情勢に合わせて、各国は関税を設けて公平な競争条件でスタートしました。この条件は年を経れば歪みが出てくるのは当然です。当時、中国は「途上国」という条件で排気ガス規制から逃れる一方、世界銀行から「途上国援助」を受け取っていました。その援助は総額4兆円に近いのですが、「計画が残っている」との名目でいまだに続行されています。

米国の自動車は当時飛び抜けて世界一でしたが、競合国のドイツや日本に攻め立てられています。米国の自動車産業の象徴と言われたGMでさえ倒産しそうになりました。

現在の経済状態に合わせて新しい貿易のルールに作り直す必要があります。そこで新しい貿易ルールを日米で作成に取り掛かっていたのがTPP(環太平洋経済連携協定)でした。そこからトランプ氏は脱退したのですが、新時代に合わせたTPPが必要であることは変わらないです。

安倍晋三首相はトランプ氏が脱退を表明した後、米国抜きの11ヵ国でまとめる意志を表明し、現実に11ヵ国TPPは2018年12月30日発効しました。

一方で日本とEUとの間では新たにEPA(日・EU経済連携協定)を締結しました。TPPもEPAも締結時の関税などを固定するものではありません。現在日本は高級チーズには29.8%の関税をかけていますが、15年後までには、年々削減してゼロにすると約束しています。

日本はTPPと日欧EPAにより現状では世界の自由貿易をリードしているといっても過言ではありません。日本はこれからも、この方面で積極的に行動すべきです。



自由貿易の枠組みの中で競争力を高めてきた日本は、19世紀の英国や20世紀の米国とは異なります。日本が自由貿易を推進するのは、自国にとって有利だからではなく、それがルールに基づく競争の場を提供するということを理解しているからです。

20世紀型自由貿易の出発点となったブレトンウッズ会議に日本は残念ながら参加できなかった。当時日本は米国との戦争を続けていたからだ。これに対して、21世紀型自由貿易はその誕生から日本が関わることができる。米中貿易戦争が続く今の状況が日本にとって大きな試練であることは間違いないが、70年前の無念を晴らす願ってもないチャンスでもあるのです。

ブレトン・ウッズ会議 1944年7月

チャンスをものにするためには、経済大国としての厳しさが求められる。自由貿易を推進するのであれば、競争力の弱い分野を温存するという政策はふさわしくないです。

「競者」の論理に立つならば、高関税や輸入制限によって競争力の弱い産業を保護する政策とは一線を画し、その競争力を高めていく工夫や努力が常に行われているような、活力あるビジネス環境の整備が必要となるでしょう。

無論中国のように、国営企業に補助金を与えるというやり方では、だめです。日本国内で、まともに多くの企業が切磋琢磨できるように、政府は基盤を整備すべきでしょう。その基盤の上で、各企業や様々な組織がプレーヤーとなり対等な立場で競い合うのです。競い合うだけではなく協同しやすい環境も整備するのです。

20世紀型自由貿易の出発点となったブレトンウッズ会議に日本は残念ながら参加できませんでした。当時日本は米国との戦争を続けていたからです。これに対して、21世紀型自由貿易はその誕生から日本が関わることができます。

米中貿易戦争が続く今の状況が日本にとって大きな試練であることは間違いないですが、70年前の無念を晴らす願ってもないチャンスでもあります。

チャンスをものにするためには、経済大国としての厳しさと柔軟性が求められます。自由貿易を推進するのであれば、競争力の弱い分野を温存するという政策はふさわしくないです。

「競者」の論理に立つならば、高関税や輸入制限によって競争力の弱い産業を保護する政策とは一線を画し、その競争力を高めていく工夫や努力が常に行われているような、活力あるビジネス環境の整備が必要となります。

今回のRCEPインド離脱は、まさに日本にとってこのような環境整備への追い風となるかもしれません。

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2019年7月15日月曜日

「合意なき離脱」へ突き進む英国―【私の論評】英国がEUから離脱するのも、米国が中国と対峙するのも必然である(゚д゚)!

「合意なき離脱」へ突き進む英国

次期保守党党首確実のジョンソン氏の甘い見込み

岡崎研究所

 メイ英首相の保守党党首辞任に伴う、同党党首選挙は、6月20日の保守党議員による5回目の投票の結果、ボリス・ジョンソン前外相:160票、ジェレミー・ハント外相:77票、マイケル・ゴーブ環境相:75票となり、ジョンソンとハントの戦いとなった。16万人の保守党員による郵便投票により、7月22日の週に新たな党首が決まることになる。ジョンソンは、同棲中との恋人との喧嘩沙汰で警察が呼ばれるなど、様々な問題を提起されて資質を問われているが、保守党員の間での圧倒的優位は揺るぎないようであり、ジョンソンの勝利は確実と見られる。

1月16日、議事堂の外では各人の主張に応じた旗が振られた。

 そのジョンソンが、6月24日夜のBBCのインタビュー番組に出演してBrexitについて語っている。6月18日のTalk Radio における1つの発言とあわせて、6つの発言の要旨を紹介する。

1. 鍵となるのは、離脱協定の使える部分を取り出して使うことである。アイルランド国境の問題には10月31日以降の移行期間において取り組む必要がある。

2. 移行期間を得るためには、EUとの何等かの合意が必要であり、その合意を目標とする。

3. EUは英国と新たなディールを交渉しようとするであろう。何故なら、欧州議会には有難くもないBrexit党の議員がいる。彼等は我々を追い出したいのだ。清算金が欲しいというインセンティブがある。勿論、英国には離脱してWTOの条件に戻る用意があるが、そのこともインセンティブとなる。

4. 我々は、10月31日に離脱する用意をしつつある。何事があろうと。必死でやる。何事があろうと。(Talk Radioにて)

5. 「no-deal Brexit(合意なき離脱)」で下院の承認を得ることが出来ると思っている。与野党ともやり遂げなければ選挙区で致命的しっぺ返しに直面することを理解していると思う。

6. 人々は英国政治の背中にとりついた巨大な「夢魔」を熊手で取り除いて欲しいと渇望していると思う。彼等は我々がこの国のために何かとてつもなく素晴らしいことをやり遂げることを欲している。

 ジョンソンの言っていることの核心部分は、離脱協定を解体して、都合の良い部分は都合の良いように料理しよう、ということである。交渉には清算金を梃に使いたいらしい。アイルランド国境の問題は、離脱後に移行期間を設けてそこに先送りしたいらしいが、一方的な要求である。そもそもEUは離脱協定の再交渉はしないと言っている。6月21日のEU27の首脳会議でもこのことを確認している。

 こういうことでは、入口で衝突してEUとの交渉は成立しないのではないかと思われる。ジョンソンは新たな交渉チームを組織する必要があろうが、引き受け手があるのかも疑問である。下院は「合意なき離脱」を否認するのかも知れないが、下院がどう動こうとEUとの間に合意が成立しなければ、自然と「合意なき離脱」となる。事態は、間違いなくその方向に進んでいる。

【私の論評】英国がEUから離脱するのも、米国が中国と対峙するのも必然である(゚д゚)!

英国が合意なき離脱をした場合、一時的には経済が相当落ち込むことが見込まれています。にもかかわらず、なぜ英国はEUを離脱するのでしょうか。すくなくとも、なぜ国民投票で離脱が決まったのでしょうか。

英国のEU離脱の要因としては多くの理由があることは否定できないですが、よく移民の問題が主要な要因として取り上げられます。これは表面的には正しいのですが、より根底にある問題を見過ごすべきではないです。

英国の社会法制度が欧州大陸の国々のそれとはそもそも相容れないのではないでしょうか。特にEU諸国からの移民問題は、その根底にある社会法制度の違いという問題が一つの形で顕在化したのに過ぎないのではないでしょうか。

社会法制度の違いとは、簡単に言うと、大陸法の国と英米法の国の制度が異なるということです。ドイツ、フランスをはじめとする欧州の大陸国家は大陸法(シヴィル・ロー)の国であり、英国は英米法(コモン・ロー)の国です。

両者の違いを一言でまとめると、大陸法国家では成文法が法体系の根幹をなし、裁判官は成文法のみに縛られます。一方、英米法国家では不文法(成文化されていない法)が存在し、裁判官は成文法、不文法を踏まえて自分の判断を下します。

コモンローとシビルローでは歴史も体型も全く異なる

現在の裁判官は過去の裁判官が下した判断(判例)に拘束されます。大陸法では書かれたもの(成文法)が重要で、英米法では歴史的経緯(判例の積み重ね)を重視するともいえます。

最近の研究で明らかになってきたように、国内社会法制度の違いはそれぞれが選好する国際協力の在り方の違いにも反映されます。大陸法国家は条約を好みます。そして条約の締結とともに国内法を条約と整合的になるように改正します。

一方、英米法国家は条約より「ソフト」な国際宣言のようなものを好みます。英米法国家には不文法が存在するので、条約を締結しても大陸国家のように成文法を改正して整合性をはかるということができないからです。

しかし興味深いのは、国際宣言は大陸国家では無視されることが多いです(成文法の改正に至らないことが多い)が、英米法国家においては各々の裁判官が国際宣言を勘案するという意味で、結果的に履行される度合いが高いことです。不文法や国際宣言の良し悪しの話でなく、国内制度と国際制度の整合性が問題なのです。

法体系およびそれによって生じた社会法制度の違いは英国と欧州大陸国家の協力を困難にしています。少なくとも今までの欧州統合は英国に大きなストレスがかかる構造となっていました。

例えば欧州司法裁判所は基本的に大陸法的アプローチをとっています。大陸法国家は欧州司法裁判所の判決に合うように国内成文法を改正することで整合性を確保できます。

英国は紙に書かれたルールに基づいて下された欧州司法裁判所の判断と、不文法をも踏まえた国内裁判所の判断の間の整合性をとることが、大陸法国家よりも困難であることは容易に想像がつきます。

人の能力評価の方法についても英米法国家と大陸法国家では大きく異なります。大陸法国家では筆記試験で人の能力を計ります。例えば大学入学のための厳格な筆記試験が存在する場合が多いです。

そして試験をパスした後はエリートとして扱われ、よほどのことがない限り卒業できます。一方、英米法国家では大学入学のための筆記試験は不在であるか軽視され、高校時代の成績や推薦状がものをいいます。しかし入学後は卒業までサバイバル・レースが続きます。「成文法―筆記試験」、「過去の判例の蓄積―過去の経歴・経過重視」と見事に対応しているのです。

ここで国際協力の要素を入れると話はどのようになるでしょうか。入学のための筆記試験が国際交流の大きなハードルになりそうなことは容易に想像がつきます。直観的な例をあげるならば、大陸法国家出身者(例えばフランス人)が英米法国家(例えば英国)の大学に合格する方が、英国人がフランスの大学に合格するより容易であるということです。ただしこれは英国の大学に入学したフランス人が無事に学位を取得できるのかという問題とは別です。

一般的に、大陸法国家では専門職業(例えば技術士等)に就くには、難関の筆記試験に合格する必要がある場合が多いです。そして合格者が少ないので、合格後の労働市場における競争はそれほど熾烈ではありません。

一方英米法国家では、大学卒業後見習いで専門職に就き(筆記試験が不在である場合も多い)、経験を積み、学会で発表し、有名な先輩専門職の推薦状をもらい、審査を受けた後、専門職となる。

見習いとして働き始めることはそれほど難しくないですが、その後のサバイバル競争で生き残るのが難しいです。上述の大学入学の例同様、大陸法国家出身者が見習いの専門職として英米法国家で働き始める方が、英米法国家出身者が大陸法国家で専門職として働きはじめるよりも容易だということになります。

これは、弁護士の実数にも大きな影響を与えています。英国には、国民一人あたり694人の弁護士が存在します。フランスは、2461人に一人です。米国に至っては、320人に一人です。そのためもあってか、英米は訴訟社会ともいわれています。

米国ドラマ"フレイキング・バッド"に登場した悪徳弁護士ソウル・グッドマン

話をもう一歩移民問題に戻します。あなたがレストランにおける給仕のマネージャー格を採用しようとしたとします。二人から応募があり、一人は大卒ですがウエイトレスの経験は1年、もう一人は高卒ですがウエイトレスとしての経験を5年有していたとします。

他の要件が全く一緒ならどちらを選ぶでしょうか。大陸法国家では前者、英米法国家では後者が採用される傾向が強いです。大陸法国家では候補者が大学入試に合格した能力の持ち主であるということを評価し、英米法国家ではウエイトレスとしてのより長い経歴を評価するのです。

欧州大陸国家と英国とで社会・労働市場が完全に分かれていれば問題は生じないです。しかし両者が統合し始めたらどうでしょうか。ここで重要なのは、経験は後から追加的に積むことができるが、試験を受けなおすことは極めて困難であるという事実です。

結果的に、例えば、フランス人がロンドンのレストランで働く方が、英国人がパリのレストランで働くより容易であるということになります。上述の大学入学の例と同じです。ロンドンのレストランで働くのはフランス人かもしれないし、ポーランド人かもしれないですか、根底にある問題は、英米法国家(英国)の社会法制度が大陸法国家のものよりもオープンで柔軟的あるということです。

大陸法国家では社会のあらゆるところに門番(ゲート・キーパー)が存在し、入り口段階で規制しようとします。そして筆記試験やその類似物としての学位(入試を突破した証)が門番の役割を果たすことが多いです。

英米法国家では入り口には門番はおらず、とりあえず門の中には入れます(その後に熾烈な競争があります)。英国と欧州大陸国家の間で欧州統合のストレスの感じ方が違う根源的な理由はこの社会法制度の違いではないでしょうか。

英米法社会の強みはオープンであることとそれに付随する競争の存在ですが、これは外国人による参入が容易であることを意味します。職を追われた英国人は職を得た、例えばポーランド人が長い間仕事を続けられたか(サバイバルできたか)には関心示さず、職を追われた事実から外国人を敵視してしまいます。一方、英国人が大陸法国家においてウエイトレスの職を見つけるのは相対的に困難です。

英国のEU離脱を移民等の表面的な問題としてとらえるのでは、根底にある本質を見過ごすことになりかねないです。背景にある社会法制度のズレを看過してはならないです。オープン、筆記試験の軽視、経歴・経緯重視、競争重視、という英米法国家が有する従来の強みが、もしかすると現在国際協力の場において弱みになっているのかもしれないです。英国がその伝統である開かれた社会法制度を維持できなくなっているということに他ならないです。

このようなことから、英国がEUから離脱するのは当然といば当然なのかもしれません。EU 内の国々では経済の内容が大きくことなります。しかし、社会制度の違いという問題は経済の内容よりもさらに、埋めがたい溝です。

やはり、イギリスは短期的には経済的に大きな問題を抱えることになりますが、長期的にはEUから離脱すべきなのでしょう。問題はどのようにハードランディングを避けるかということです。

そうして、この問題は先進国と中国の関係にもあてはまります。中国が経済的に発展すれば、そのうち中国も他の先進国と同じようになるだろうと、先進国は考えていましたが、これはことごとく裏切られました。

中国と先進国の差異は、英国と大陸との違いよりはるかに大きいです。先進国では、英国とフランスのように、コモンローとシビルローの違いはありますが、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という面でみれば、互いに似通っています。そうして、これが先進国の共通の理念となっています。

この面では、EU諸国も、英国も互いに理解することができ、ある程度の歩み寄りも可能でしょう。

しかし、中国には民主化、政治と経済の分離、法治国家などという概念はありません。だからこそ、中国は海外からの資金で、国内インフラを整備することにより、経済を発展させても、結局社会構造は何も変わらなかったのです。

しかし、その中国が経済力を軍事力を拡大させ、世界の秩序を自分たちの都合の良いように作り変えようとしました。オバマ政権までの米国は戦略的忍耐などとして、これに対して何も手を打ちませんでした。


しかし、トランプ大統領になってからは、これに対峙しています。世界中の社会が中国の都合の良いように、作り変えられてしまっては、先進国の人々にとってはこの世の闇になるからです。発展途上国の人々も今のままだと中国に搾取されるだけの存在になり、闇から抜け出すことは不可能ということになります。

このようにみると、英国がEUから離脱するのも、米国が中国に対峙するのも必然であるということができます。

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2018年10月20日土曜日

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達―NYタイムズ―【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い(゚д゚)!

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達―NYタイムズ

トランプ米大統領(写真左)とプーチン・ロシア大統領。米紙ニューヨーク・タイムズは
19日、トランプ米政権が冷戦時代に旧ソ連との間で結ばれた中距離核戦力(INF)
全廃条約から離脱する見通しだと報じた

 米紙ニューヨーク・タイムズは19日、トランプ米政権が冷戦時代に旧ソ連との間で結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱する見通しだと報じた。

 ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が来週、ロシアを訪問し、プーチン大統領に米国の方針を伝えるという。

 同紙によれば、トランプ大統領が近く、条約離脱を正式に決定する。同政権が主要な核軍縮条約から脱退するのは初めて。米国の条約離脱が、米ロ両国と中国を巻き込んだ新たな軍拡競争につながる恐れもある。

握手するゴルバチョフ・ソ連書記長(左)とレーガン大統領(右)(ともに当時)

 1987年にレーガン大統領とゴルバチョフ・ソ連書記長(ともに当時)の間で調印されたINF全廃条約は、米国と旧ソ連が保有する射程500~5500キロの地上発射型弾道・巡航ミサイルの全廃を定めた。ただ、米国は近年、ロシアが条約に違反して中距離核戦力の開発を進めていると批判してきた。 

【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い(゚д゚)!

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版、2017.11.16)は、米国防省が中距離核戦力(INF)全廃条約(以下、「INF条約」)で禁止されている中距離ミサイルの再開発を検討していると報じました。

冒頭の記事にもあるように、1987年に米ソ間で調印されたINF条約は、両国の中距離(射程500~5500キロ)地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの全廃を定めました。

しかし近年、ロシアが条約に違反して中距離核ミサイルの開発を進めているとの疑惑が深まる一方で、米国だけが条約を遵守しているのは不公平だとして米側の不満の声が高まっていました。

米当局者によると、米国は数週間前、ロシアが条約を順守しないようであれば、新たな中距離ミサイルの研究開発を進める意向をロシア側に伝えたといいます。

しかし、問題の所在は、米国とロシアの間にとどまりません。というのも、INF条約は米露(締結時はソ連)間の条約で、中国には適用されないからです。

その中国は、平成29年版「防衛白書」によると、「DF-4」、「DF-21」などの中距離核ミサイルを160基保有しています。

中国のDF-21

他方、米国は、地上発射型弾道・巡航ミサイルの全廃に加えて、バラク・オバマ大統領の「核のない世界」の方針を受け、INF条約の対象外である核搭載海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」を2010年の「核態勢見直し(NPR)」で退役させました。

その結果、米国には海中発射型(TLAM-N)と空中発射型(AGM-86B)の巡航ミサイル「トマホーク」がかろうじて残っただけになりました。

そのため、アジア太平洋地域では中国の「アクセス(接近)阻止/エリア(領域)拒否(A2/AD)」戦略によって中距離核ミサイルの寡占状態が出来上がり、米国による同盟国・友好国に対する核の地域抑止(「核の傘」)に大きな綻びが生じているのではないかとの懸念が増大していました。

ロシアの戦略爆撃機T-160「ブラック・ジャック」

ロシアは、国際的地位の確保および米国との核戦力バランスの維持とともに、通常戦力の劣勢を補う意味でも核戦力を重視してきました。

戦略核戦力については、米国に匹敵する規模の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)および長距離爆撃機(Tu-95「ベア」、Tu-160「ブラックジャック」)を保有し、核戦力部隊の即応態勢を維持しています。

問題の中距離核戦力については、米国とのINF条約に基づき1991年までに廃棄し、翌年に艦艇配備の戦術核も各艦隊から撤去して陸上に保管しましたが、その他の多岐にわたる核戦力を依然として保有しています。

こうしたなか、2014年7月、米国政府は、ロシアがINF条約に違反する地上発射型巡航ミサイル(GLCM)を保有していると結論づけました。

米政府当局者に「SSC-8」と呼ばれる同ミサイルは、2個大隊を保有し、ロシア南東部アストラハン州のカプスチン・ヤルなどに配備されていると指摘されていました。

この件について、米政府は、たびたびロシア政府に対し異議申立てを行ってきた。

しかし、ロシア政府が否定しているため、米国はその対抗措置として、新たな中距離ミサイルの研究開発を進める意向をロシア側に伝え、そのうえで、ロシアが条約を順守すれば、開発を断念すると伝達したのです。

中国H-6(Tu-16)爆撃機

一方、中国は、核戦力および弾道ミサイル戦力について、1950年代半ば頃から独自開発を続けており、抑止力の維持、通常戦力の補完そして国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている。

中国は、ICBM、SLBM、H-6(Tu-16)爆撃機のほか、INF条約に拘束されないため、中距離弾道ミサイル(IRBM / MRBM)を保有し、さらに大量の短距離弾道ミサイル(SRBM)といった各種類・各射程の弾道ミサイルを配備している。

わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める中距離弾道ミサイルについては、発射台つき車両(TEL)に搭載され移動して運用される固体燃料推進方式の「DF-21」や「DF-26」があり、これらのミサイルは、通常・核両方の弾頭を搭載することが可能です。

また、中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦弾道ミサイル(ASBM)「DF-21D」を配備しています。

さらに、射程がグアムを収めるDF-26は、DF-21Dを基に開発された「第2世代ASBM」とされており、移動目標を攻撃することもできるとみられています。

これらの中距離弾道ミサイルは、中国周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を拒否する「A2/AD」戦略を成り立たせるための重要な手段です。

米国のINF廃棄と相まって、アジア太平洋地域に中国の核ミサイルの寡占状態を作り上げることができるため、米国による同盟国・友好国に対する核の地域抑止(「核の傘」)に大きな綻びが生じているのではないかとの懸念が増大していました。

中国の中距離弾道ミサイルは日本を各地を狙っている
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このように、中距離核ミサイル、すなわち戦域核ミサイルについては、米国と中国(および北朝鮮)との間に非対称状態を生じています。

米国の核による地域抑止の低下についての懸念は、第1列島線域内の同盟国・友好国のみならず、米国の要人の間でも公然と指摘されるようになっていました。

日本側の意向も、様々なチャネルを通じて米側に伝えられており、米国政府もINF条約の「くびき」について十分認識しているとみられました。

これまで、米国の核戦略は、主としてロシアを対象に策定されてきましたが、21世紀の世界における安全保障の最大の課題は中国であり、今後はロシアのみならず、中国を睨んだ核戦略および核戦力の強化に目を向けなければならないです。

米国政府がINF条約違反と結論づけたロシアによる中距離核ミサイルの開発ならびに中国による大量の中距離核ミサイル保有を考えれば、米国には、同条約の破棄あ踏み切り、懸念される地域核抑止の信憑性と信頼性を回復しようとするでしょぅ。



この際、同条約の無効化に伴い、米国は短距離・中距離核ミサイルの配備について、わが国を含む第1列島線域内の関係国(日本、韓国、台湾、ベトナム)に打診してくる可能性もあります。

打診とは、わが国を含む第1列島線域内の関係諸国に、核を配備すること等の打診ということです。日本としても、どのようにすればわが国の核抑止力を高めることができるか、その在り方について真剣に検討すべき段階に入っています。ただただ、核を忌避したとしても、中国の中距離核弾道弾がなくなることはありません。

日本では、北朝鮮の核ばかりが注目されて、なせが中国の核兵器についてはほとんど問題にもされず、報道もされませんが、現在でも中国の中距離弾道弾は日本の大都市全部に狙いをつけています。

以上のことを考慮すると、今回の米国による中距離核全廃条約から離脱は、対ロシアというよりは、対中国に重きをおいた措置であると考えられます。

いまのままの状況であれば、中国は対中国経済冷戦を挑む米国を牽制するため、日本をはじめとする第1列島線域内の国々に対して、核攻撃の構えをみせ、脅すということも考えられます。今回の措置ははそれを予め防止するという意味があるのです。

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2018年6月2日土曜日

【日本の解き方】イタリア・ショックの本質はユーロと政治混乱への不安 離脱でも残留でも茨の道か―【私の論評】国家を完全統合して財政・金融政策まで一本化するか、再び分離して各国の自由を認める以外に方策はない(゚д゚)!

【日本の解き方】イタリア・ショックの本質はユーロと政治混乱への不安 離脱でも残留でも茨の道か 

 イタリアの組閣が難航し、ユーロが急落する場面があった。

 発端は3月に行われた総選挙だった。少数政党が乱立するイタリアでは、下院(代議院)の定数630のうち「中道右派連合」が265、「五つ星運動」が227、「中道左派連合」が122、その他が16となり、過半数を取った政党はなかった。

セルジオ・マッタレッラ大統領

 中道右派連合の中では、最多議席を獲得した「同盟」の発言力が強く、「五つ星運動」との間で組閣名簿を作成していた。その名簿の中には、ユーロ懐疑派の経済学者、パオロ・サボナ氏が経済相候補に挙げられており、それをセルジオ・マッタレッラ大統領が拒否した。

 イタリアの大統領は国家元首だ。50歳以上と年齢制限があり、20州の代表58人と上下両院合同会議で選出される。通常は象徴的な存在と考えられているが、重要な権限が付与されているので、今回のように政治的に大きな意味を持つこともある。

 ただし、今回のマッタレッラ大統領による拒否はちょっとやり過ぎだ。総選挙によって選ばれた五つ星運動と同盟が合意している組閣名簿を大統領が拒否するというのは、民主主義の否定にもつながってしまう。

 同盟は右派、五つ星運動は左派の流れなので、その経済政策は相容れないところが多いとされる。ともにユーロ離脱という一点でつながれていても、実際に連立政権運営をさせてみれば、いずれ矛盾が出てくるので、それを待っていてもよかったのではないか。

 マッタレッラ大統領は、国際通貨基金(IMF)元高官のカルロ・コッタレリ氏を首相に暫定内閣を発足させようとしたがうまくいかず、5月31日になって五つ星運動と同盟が次期首相候補として推薦していた法学者のジュセッペ・コンテ氏を再び首相に指名、同氏は組閣名簿を提出し承認された。6月1日に宣誓就任式が行われ新政権発足となる。

ジュセッペ・コンテ氏

 ひとまず政治空白は回避されそうだが、ユーロ離脱問題は引き続きくすぶっているのが実情だ。

 イタリア2年国債は、5月15日まで▲0・1%程度のマイナス金利であったが、最近では2%台半ばまで上昇している。イタリア国債とドイツ国債の金利スプレッド(差)も1・5%から2・8%へと拡大している。つられてスペイン国債などとドイツ国債との金利スプレッドも拡大傾向だ。これらの金利スプレッドは、ユーロの経済力というよりユーロが存続できるかどうかを占う指標となっており、その観点からすると、イタリアの政治混乱がユーロ危機の再来とみられているわけだ。

 日本のマスコミでは、イタリアはすぐに悪い財政事情と関連付けられ、左派と右派のポピュリズムによる減税や社会保障費支出による財政悪化ばかり強調される。しかし、イタリアでの出来事の本質は、ユーロ離脱という大きな政治課題を控えて、政治混乱による将来不安だ。

 イタリアがユーロ離脱をしなくても、イタリア国債の欧州中央銀行によるテコ入れには時間がかかる。もしユーロ離脱となると当面、大混乱になる。どちらも茨の道になりそうという悲観が当分の間支配的だろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】国家を完全統合して財政・金融政策まで一本化するか、再び分離して各国の自由を認める以外に方策はない(゚д゚)!

PIGS

PIGGS危機(※財政状況がとりわけ厳しいポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインの頭文字)以降の経済危機から立ち直れない南欧諸国、デフォルトしたギリシャだけの問題ではありません。イタリアもユーロシステムの持つ本質的な欠陥から、自立した金融政策が取れず、財政出動にも制限がかけられているために、失業率が高止まりし、国民の不満が爆発しています。

『5つの星運動』のロゴ

この様な状況で力をつけてきたのが、ポピュリズム政党である『五つ星運動』と右派政党である『同盟』です。両者ともに、イタリアの景気の悪化をEUやユーロシステムにあるとし、温度差はあるものの、反EUやユーロ離脱を謳い国民の人気を集めました。しかし、選挙の結果、どの政党も過半数をとれず、政権樹立が出来ない状態が継続していました。

『同盟』のロゴ

イタリアの内閣は、議会から選ばれた大統領(任期7年)が、首相を指名し、組閣を要請、首相は閣僚名簿を作り、大統領が任命、10日以内に議会の承認を得て発足する形になっています。本来、これは形式的なものですが、今回、大統領は五つ星運動と同盟が用意したユーロ懐疑派の経済大臣の承認を拒否し、親EU派のコッタレッリ氏を首相に指名しました。

これに対して、五つ星運動と同盟は強く反発し、たとえ、コッタレッリ氏が組閣しても、議会で承認しないとしたわけです。このため、再選挙の可能性が一気に高まったのです。しかし、誰もこれ以上の混乱を望んではいません。話し合いなどの結果、五つ星運動と同盟が新たな経済相候補を選任することで、一応の危機は回避されました。

今回は危機を回避できましたが、この問題はEUとユーロシステムの大きな欠陥が表面化したものであり、再び同様の問題が発生する可能性が高いのです。EU、特にユーロシステムは、本来国家の主権である金融政策と通貨発行権をECBに委譲しています。

この為、国の経済状態に合わせた経済政策が取れないのです。通常の財政金融政策では、景気が悪化したら金利を下げ、財政出動を行う。景気が過剰になればこの逆を行い調整するわけですが、景気の良いドイツなどに引きずられる形で有効な財政政策が取れない状況が継続しているのです。

本質的にこの問題を解決するためには、国家を完全統合して財政・金融政策まで一本化するか、再び分離して各国の自由を認めるかしかありません。国家を完全統合する場合、各国の主権が失われることになり、各国の議会も形骸化することになります。また、統合後の国家の財源の分配をめぐっても大きな対立が生まれることになります。

ドイツなどの富裕国の税収を貧困国に分配するとなれば、ドイツ国民が反発するでしょうし、分配されないとすれば統合の意味がありません。だから、これまで完全統合の話は出るものの前に進むはずもありませんでした。

EU圏内の国々が民主主義国である以上、これをすべての国の国民が認める可能性はゼロに近いです。このような状況からのEUの打破を謳う人たちが力をつけてきたのです。

さて、以上のような状況が続く限り、EUは没落していく運命にあると考えられます。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
第2四半期ユーロ圏GDP、初のマイナス成長-黄昏EUの始まりか?
この記事は、2008年8月15日のものです。当時、第2四半期のユーロ圏のGDPが初のマイナス成長になったことを受けて、書いたものです。

 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、各国の経済レベルなどが異なりすぎるという部分のみ以下に引用します。

人為的にたとえ一つの経済圏を作ったとしても、それを構成している各国の経済レベルがあまりにも違います。少し考えれば判ることですが、ポルトガルとスゥエーデンの経済はかなり異なります。ポルトガルの経済は未だ労働集約的ですが、イギリス、ドイツ、イタリアなどの先進国では資本集約的な経済になっています。 
今回のスペインや、イタリアの景気減速は、土地バブルの崩壊によるところが大きいですが、ドイツでは土地バブルの上昇はなく、輸出の不振が大きく響いてるなど、同じ不振といっても原因がまちまちです。 
そのため、EU圏内で、不振対策をしようということになると、ごく標準的なものにならざるを得ず、一旦不況に陥れば、回復するまで結構時間がかかるものと思います。
EUのように、ヨーロッパ全体が団結して、大きな影響力を持とうという試みは、大昔からありました。その起源はローマ帝国にまで遡ります。ローマ帝国が栄えていたころは、現在のイギリス、スペイン、フランス、ドイツなど現代のEU圏にある経済大国がすべてローマ帝国の版図に編入されていました。 
だから、ヨーロッパの人たちには、大昔からローマ帝国への憧憬の念や、憧れの念がありました。そのため、ローマ帝国滅亡より、機会があれば一致団結しようとしました。これは、古くは神聖ローマ帝国にまで遡ります。

その後いろいろ、試みられましたが、結局は成立しませんでした。では、かつてのローマ帝国のように一国による他国への侵略による統一も考えられましたが、ナポレオンのヨーロッパ征服、ヒトラーのナチスドイツによるヨーロッパ征服なども、ことごとく失敗しました。
 
しかし、これらの試みはすべて失敗して水泡に帰しました。おそらく、これからも無理だと思います。だから、私は、EUも結局は成功しないと思います。長い間には必ず失敗し没落していくものと思います。
ヨーロッパの人々には、ローマ帝国のように団結すれば、経済的にも軍事的にも強くなれるという、ローマ帝国に対する強い憧憬があります。

しかし、憧憬は憧憬に過ぎないのであって、ある地域が一つにまとまるためには、価値観の共有はもとより、多少の凸凹があるのはかまわないですが、経済的にも同水準でなけければならないです。

神聖ローマ帝国の版図


たとえば、日本国内であれば、東京は賃金が高く、北海道や沖縄は低いですが、かといって10倍近くも違うなどということはありません。しかし、EU圏内の違いは10倍近くもあります。

最低賃金は毎年増額していくものですが、2015年にドイツ、アイルランドでは減額されています。ルーマニアでは14%増、ラトビア11%増、リトアニアも11%増、イギリス11%増、ブルガリア10%増となっています。これにイギリスが加わっているのも、為替の影響です。

最低月収に関しては、ルクセンブルクがトップで1923ユーロ、ブルガリアは194ユーロでした。EU28カ国のうち22か国は最低賃金が政府で決められています。大まかにいうと、北欧、EU先進国、スイスは非常に賃金も高く安定しています。

EU圏の最低賃金


アイスランドは2008年の金融破たんしていますが2015年には北欧とやや同レベルの賃金まで回復しています。しかし、東欧諸国は先進国の50%の以下の水準です。最下位のブルガリアは1.13ユーロ。

このようにEU諸国内で現在も大きな格差があることは否めないです。ちなみに、2015年度の日本の最低賃金は全国平均で798円(時給)、約6.93ユーロです。(2016年11月7日現在:1ユーロ=115円)。


特に各国で経済水準が違いすぎれば、今日のようなことになるのは、最初から目に見えていました。

やはり、経済的には、国家を完全統合して財政・金融政策まで一本化するか、再び分離して各国の自由を認め、そのかわりEU圏内だけは、一国の国内とまではいかなくても、EU以外の国々との貿易よりもかなり自由度の高い貿易をする、ということで、EU圏全体としての経済的繁栄の道を模索する以外に方法はないと思います。

また、安全保障の面では、EU全体で統一した動きをとることによって、身近なロシアの脅威に対抗するということもこれから重要になってくることでしょう。

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2018年5月9日水曜日

トランプ大統領、イラン核合意からの離脱を発表 欧州説得実らず―【私の論評】米のイラン核合意からの離脱の発表で、正念場を迎えた金正恩(゚д゚)!


核合意離脱を発表するトランプ大統領(ホワイトハウス、8日)

ドナルド・トランプ米大統領は8日、オバマ前政権が締結したイラクとの核合意から離脱すると発表した。合意は「衰えて腐って」おり、「市民」として「恥ずかしいものだ」と語った。

2015年に米国と共にこの合意を結んだ欧州各国からの忠告に反し、トランプ大統領は合意の見返りとして解除していた経済制裁を再び実行すると明らかにした。

これに対してイランは、ウラン濃縮再開に向けて準備を始めていると明らかにした。濃縮ウランは原子力発電だけでなく、核兵器開発の要となり得る。

イランのハッサン・ロウハニ大統領は、「米国は約束を守らないつもりだとを明らかにした」と批判した。

「イラン原子力機構(AEO)に対して、必要となれば工業水準のウラン濃縮を無制限で再開できるように、待機するよう命じた」と大統領は明らかにした。

ただし、まずは他の締結国や同盟国と核合意について話すため、「数週間待つ」としている。

「もし他の締結国との協力で核合意の目的が達成されるなら、現状を維持する」


ロウハニ大統領は「イラン核合意離脱なら米国は後悔する」と警告していた

包括的共同作業計画(JCPOA)と呼ばれるこの合意は、イランが核計画を制限することと引き換えに、国連と米国、欧州連合(EU)が同国に科していた経済制裁の解除を定めた。

トランプ氏はかねてから、この合意がイランの核計画を期限付きでしか制限しないことや、弾道ミサイル開発を制止しないを批判してきた。さらに合意によって、中東地域全体に「武器と恐怖と抑圧」をもたらすために使われた1000億ドルの臨時収入を、イランに与えてしまったなどと非難してきた。

「この衰えて腐った合意内容では、イランの核兵器を阻止できないことは自明だ」とトランプ氏は説明した。

「イランとの合意は根本から不完全だ」

核合意を結んだバラク・オバマ前大統領は、トランプ氏の発表を「不見識」と表現した。

経済制裁はいつ始まるのか

米財務省は、イランへの経済制裁はすぐには再開されないものの、90~180日ほどかかるとしている。

ウェブサイトに掲載された声明によると、制裁は2015年の合意に示された業界で再開される予定で、イランの石油産業、航空機輸出、レアメタル貿易、そしてイラン政府の米ドル獲得政策が含まれる。

ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、イランと取引関係のある欧州企も6カ月以内に取引を停止しなければ、米国の制裁を受けることになると述べたという。

世界各国の反応は?

核合意締結国のフランスとドイツ、英国の各首脳は、これまでトランプ氏を説得しようとしてきたが、今回の決定を受けて遺憾の意を表している。同じく締結国のロシアの外務省も、「深く失望した」と述べている。

EUのフェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、EUはこの合意を「断固として維持する」と語った。

オバマ前大統領はフェイスブックに、核合意は現在も機能しており、米国の国益にかなっていると投稿した。

「JCPOA離脱は、米国に最も近しい同盟国と、この国の一流の外交官、科学者、そして情報専門家たちがまとめた協定に背を向けることだ」

「対北朝鮮外交を成功させるために全力を尽くしているこの時にJCPOAから離脱することで、まさに北朝鮮と共に目指す結果実現につながる合意に至れない恐れがある」

アントニオ・グテーレス国連事務総長は米国の発表を受けて「深刻な懸念」を表明し、他の締結国に責務を全うするよう求めた。

一方、イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は、トランプ氏が「悲惨な」合意から「思い切って」離脱したことを「全面的に支援する」と述べた。

イランのライバル国サウジアラビアもトランプ大統領の決定を「支援し、歓迎する」としている。

核合意の内容は?

ウラン濃縮作業が行われたイラン・イスファハンの施設(2005年3月30日撮影)

JCPOAはイランと国連安全保障常任理事国の米国、英国、フランス、中国、ロシアにドイツを加えた6カ国で結ばれた。

合意ではイランに対し、核燃料や核兵器に使用される濃縮ウランの在庫を15年間、10年間ウラン濃縮に使われる遠心分離機の設置台数を10年間、それぞれ制限することを定めた。

また、核爆弾に使用できるプルトニウムの製造ができないよう、重水設備を変えることでも合意。見返りとして、イラン経済を苦しめていた国連と米国、EUによる経済制裁が解除された。

イランは同国の核計画が完全に平和的なもので、核合意での取り決めを守っているかどうかも、国際原子力機関(IAEA)によって確認されていると主張している。

<分析>衝突軌道へ――ジョナサン・マーカスBBC防衛・外交編集委員

イランの核兵器開発抑止を目指す唯一の合意を、ドナルド・トランプ米大統領はあっさりと危機にさらした。合意の善し悪しは別にしても。

大統領は核合意とその欠点について容赦ない批判を浴びせた。しかし、代案は示さず、最も緊密な同盟関係にある国々と米国の外交政策を対立させる道を選んだ。

さらに一部では、中東が破滅的な地域戦争に陥る危険性を大幅に高めたと懸念されている。

(英語記事 Trump pulls US out of Iran deal

【私の論評】トランプ大統領のイラン核合意からの離脱の発表で、正念場を迎えた金正恩(゚д゚)!

昨日このブログで予測したとおり、やはりトランプ大統領はイラン核合意からの離脱を発表しました。

昨日の記事を読んでいない方のために、以下にリンクを掲載します。
イラン核合意問題 専門家はこう見る―【私の論評】トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用している(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の結論部分のみ以下に引用します。
私は、今回はトランプ氏が「合意から離脱」を発表をすると見ています。そうして、本当にそうするかどうかはわかりませんが、いずれイランへの武力行使の可能性もちらつかせると思います。そうして金正恩を極限まで追い詰めて、米朝会談をかなり有利にすすめるか、金正恩が会談をキャンセルするように仕向け、米軍が武力攻撃をしやすい状況にもっていくものと考えます。 
トランプ氏は元々は実業家です。実業家の場合、常に使える資源は限られていることを自覚しています。だから、優先順位をつけます。現在優先度が一番高いのは、北朝鮮です。優先順位をはっきりつけることと、定めた目標に対しては活用できるものは何でも活用するというのが、優れた実業家の真骨頂です。そうして、本当は米国でさえも、使える資源は限られています。 
イラクの問題と北朝鮮の問題に関して、どちらを優先するかということを考えれば、北朝鮮に軍配があがるのは当然のことです。 
イラン問題は多少複雑になったり、解決が長引いたにしても、イランが北朝鮮のように核ミサイルを米国に発射することはできません。11月の選挙の中間選挙のことを考えても、多少イラン問題が複雑化しようとも、北朝鮮問題の決着への見通しをこのあたりまでにはっきりと、国民に示したいというトランプ氏のしたたかな思惑が透けて見えます。 
これは、政治の専門家や、中東の専門家などにはかえって見えにくい局面だと思います。 
私は、トランプ氏は、米朝会談を有利にすすめるためイラン核合意問題を活用していると考えるのが妥当な見方であると考えます。
このような見方は、日本のメディアは無論のこと、欧米のメディアでもないようです。しかし、私はこの見方に関してある事実を知った後で、さらに確信を深めました。

それは、以下のような事実です。

トランプ大統領は8日に欧米など6カ国とイランが結んだ核合意からの離脱をホワイトハウスで発表した際、ポンペオ長官の4月訪朝に触れ、「北朝鮮と良い関係が構築されつつある」と語っています。

ポンペオ長官は4月に金委員長と会談したことで「良い関係」が生まれたと語った

トランプ大統領は米朝首脳会談について、「会談の予定は決まった。場所も選んである。日にちや時間、全部決まった」と述べました。

トランプ氏はさらに、「結局どうなるのか、見てみよう。うまくいかないかもしれない。しかし北朝鮮や韓国、世界全体にとって素晴らしいものになる可能性がある」と語りました。

トランプ大統領は3月に、北朝鮮からの首脳会談の提案を受け入れると表明し、国際社会に大きな衝撃が広がりました。米国の現職大統領が北朝鮮の最高指導者と会談したことは過去にありません。

トランプ氏は、首脳会談が6月初旬あるいは「それより少し早く」開かれるとし、いくつかの場所が検討されているが米国内ではないと述べていた。

8日には、金委員長が再び中国を訪問し、習近平国家主席と会談したことが明らかになっています。中国のメディアは、金委員長が、朝鮮半島の非核化を実現するため「段階的で同時進行的な」措置を望む、と語ったと報じました。

このポンペオ米国務長官は9日、再び北朝鮮の平壌に到着しました。北朝鮮の核問題をめぐる米朝首脳会談に備え、調整を行います。聯合ニュース(Yonhap News)は韓国の当局者の話として、北朝鮮で拘束されている米国人3人が解放され、ポンペオ氏と共に帰国するとの見通しを伝えました。

ポンペオ氏の平壌入りは同行している代表取材団が明らかにしました。現在は協議を行う柳京ホテル(Ryugyong Hotel)」に滞在しています。

聯合ニュースによると、韓国大統領府の関係者は、ポンペオ氏が「米朝首脳会談の日時を持ち帰るほか、拘束されている人たちを連れて帰るとみている」と語ったそうです。

ポンペオ氏は今月か来月に予定される米朝首脳会談の準備に当たっているほか、北朝鮮側に対し、拘束している米国人3人を解放するよう圧力をかけてきました。


私は4月ポンペオ・金正恩の会談の段階では、イランの原子力開発などを引き合いに出して、段階的で同時進行的な非核化を望んていたのでしょうが、おそらくポンペオ氏は、金正恩に対して米国はイラン核合意からの離脱する旨を伝えて、金正恩の段階的・同時進行的な非核化を断念し、あくまでもリビア方式で完璧に速やかに破棄するように迫ったのだと考えられます。

その後金正恩はすみやかに習近平と会談しています。8日も大連で会談しています。もし、北朝鮮が核を放棄した場合に備えて、北朝鮮が中国の核の傘の下に入ることなどを相談したものと思われます。それとともに、米朝会談が決裂した場合に備えて、制裁が強化された場合の中国が制裁を破る可能性についても、話しいをしたことでしょう。

いよいよ、北朝鮮は米朝会談で、リビア方式の核と核関連施設を完璧に破棄するか、米朝会談で決裂するか、そもそも米朝会談をキャンセルしかなくなりました。

米朝会談が決裂したり、キャンセルすれば、米の制裁はさらにきつくなり、その後に軍事力の行使ということにもなりかねません。

まさに、金正恩とっては正念場です。少しでも対応を間違えれば、米軍に斬首されかねません。

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2017年4月10日月曜日

民進「離党ドミノ」加速 長島昭久氏まで“離脱”も…ベテラン議員「蓮舫氏は負けても辞めない」―【私の論評】狂った民進党は破棄するしかない(゚д゚)!

民進「離党ドミノ」加速 長島昭久氏まで“離脱”も…ベテラン議員「蓮舫氏は負けても辞めない」

離党表明をした長島昭久氏
 民進党の長島昭久元防衛副大臣(衆院比例東京)が10日、離党届を提出し、国会内で記者会見をした。蓮舫代表が「二重国籍」問題などを抱えて党勢拡大が進まないなか、同党では東京都議選(7月2日投開票)を見据えて、都議や公認内定者の「離党ドミノ」が相次いでいる。ついに、現職国会議員として初めての離党となるが、蓮舫氏周辺には危機感が足りないという。

 「共産党との選挙共闘は譲れない一線だと思ってきたが、(党執行部は)それを越えてしまった。熟慮の末、離党する決断をした」

 長島氏は産経新聞の取材に、こう言い切った。

 共産党は綱領に「日米安保条約を廃棄」「自衛隊解消」を掲げている。安全保障政策に精通した保守派論客である長島氏としては、選挙目当てで「民共連携」に傾く、蓮舫執行部に完全に愛想を尽かしたようだ。

 関係者によると、長島氏は当面は無所属で活動する。小池百合子都知事が事実上率いる地域政党「都民ファーストの会」との連携も模索する。

 各党は、都議選を準国政選挙に位置づけている。結果が、次の国政選挙に影響するからだ。民主党は2009年7月の都議選で54議席を獲得して第1党となり、翌月の衆院選でも勝利し、政権交代を果たしている。

 ところが、民進党は、都議選の公認予定者36人のうち7人が離党を表明するなど、蓮舫氏のおひざ元で求心力を失っている。このままでは都議選での惨敗必至で、通常なら「代表の責任問題」に発展しかねないが、蓮舫執行部には焦りは感じられないという。

 民進党のベテラン議員は「仮に、都議選でゼロ議席でも、蓮舫氏は代表を辞めないし、辞める気もないようだ。都議選を『地方選の1つ』としか思っていないのだろう」と嘆いた。

 民進党を離党した元都議も「代表が『二重国籍』問題を抱え、戸籍謄本を公開しないような政党では勝てない。支持率も低迷し、逆風しか吹いていない。国会で批判ばかりしていることも響いている」とあきれた。

 離党ドミノに危機感を募らせた支持団体の「連合東京」までが、小池新党と政策合意を結んだ。

 前出のベテラン議員は「蓮舫氏と周辺は『都議選で負けても、次期衆院選で勝てばいい』と踏んでいるようだが、この考えは間違っている。地方議員を増やす地道な活動以外に、民進党の再生はあり得ないのに」と語っている。

【私の論評】狂った民進党は破棄するしかない(゚д゚)!

民進党に離党届を提出し、記者会見する長島昭久氏=10日午前、国会
長島昭久氏、民進党離党会見の詳報に関しては以下の記事をご覧担ってください。この記事では改めて詳細を解説するようなことはしません。
【長島昭久氏、民進離党会見詳報(1)】「『アベ政治を許さない!』と叫ぶことを求められた。熟議も提案もない」と痛烈批判 
【長島昭久氏、民進離党会見詳報(2)】蓮舫代表の対共産党戦略「理解できない」と批判

【長島昭久氏、民進離党会見詳報(3完)】民共共闘「ずっと違和感持っていた」 テロ等準備罪への党対応に「国民はそんなバカじゃない」
長島昭久氏の離党した要因は、あまりにも明らかです。誰でも、長島氏と同じような考えを持ち、民進党に所属していれば、最終的にはこのような結論を出すことになるでしょう。

そもそも、「アベ政治を許さない」という民進党のキャッチフレーズは本当にいただけません。何というか、国民を小馬鹿にしています。私は、このフレーズを聴くたびに馬鹿にされているようでむかつきます。

昨日は、このブログで今回のトランプ大統領のシリアのミサイル攻撃に対して、共和党はもとより、民主党の議員の多くも、その中でもあのヒラリー・クリントン氏も、そうしてトランプ大統領の誕生にはどこまでも大反対してきたメディアですら、大賛成していることを掲載しました。

このようなことは、日本の政治風景を見慣れたものには、異様にうつるのかもしれませんが、本来は当然のことだと思います。どんな国でも、安全保障や経済などの基本的な政策では、たとえ党派が異なっても、基本的なコアな部分では、似たようなものになるはずです。どの党派でも、現実的に問題に対処すれば、根本的なところでは似たようなものになるはずです。

現在の民進党のように、とにかく安倍政権の実施することは何から何まで反対であり、中には民主党政権時代の政策とほぼ同じようなものにさえ反対し、批判することすらあり、多くの国民からブーメランと揶揄されたりしている有様です。

これに関しては、このブログで私の結論を掲載したことがあります。それを簡単にまとめると以下のようなものです。
現在の日本のいわゆるリベラル左派は、民進党やメディアや知識人も含め、自分たちは日本という国や社会をどうしたいのかという理想も持たずに、単に「政権や権力と戦うのが自分たちの使命」であると思い込み続けてきたため、まともにものが考えられなくなり、「政権や権力」と戦うこと自体が目的、目標になってしまい、無間地獄に陥って堕落しているのだと思います。 
そもそも、自分たち国や社会をどうしたいのかという理想がなければ、目的も定まらず、したがって目標も定められず、目標に沿った行動もできずに、ただただ日々を無為に過ごしているだけということに彼らは気づいていないのです。
無間地獄に陥った民進党
 そうして、民共共闘のキャッチフレーズは「新安保法の廃止」でしたが、共産党の自衛隊観は「自衛隊は違憲だが自衛戦争はする」というものです。こんないい加減な政党があるでしょうか。共産党は、自衛隊と憲法について悩んだことはまったくないのです。

一方の民進党は民主党時代から安保政策に悩み抜き、党内で大喧嘩もやってきました。こういう場合、悩みがなく、教養のない側が強いです。社会主義インターが民社党はOKだが、社会党はダメと峻拒してきた理由も、共産党と結ぶ社会党は共産陣営に属すると分類、断定してきたからです。

蓮舫代表は民共共存を続けても共産は政権党にはなれず、いずれは共産は民進の肥やしになると思っているのでしょう。これに対して保守派は、共産と縁を切ったほうがまとまりのよい政党になり、いずれ政権を展望することになると一段、先を見ているようです。長島昭久も無論このような見方をしていたと思います。

国民の政治常識からすれば、当然共産党は無害などと信じるような人はほとんど存在しないでしょう。共産党には国際共産主義の歴史があり、現共産党においては社会の基本である自衛隊の格付けが不明だからです。憲法改正時、全き非武装論を説く吉田茂首相に対して野坂参三氏(共産党議長)は「国防軍のない国家などありえない」と食い下がりました。

これが政治の常識であって、現実には日本も実質上の国防軍である自衛隊をもつに至ったのです。ところが現共産党は「違憲の自衛隊」と片付けて、一方で新安保関連法廃止で野党を結集しようとしました。

共産党に担がれた現在の民進党が政権党に成長するとはとうてい考えられません。かといって、この民共路線で民進党が衆参両院の選挙区で共産党から229万の票をもらうのが常習となれば、当選第一主義に陥ることでしょう。かつての社共共闘はいつの間にか共産党のみが生き残りました。

民共共闘が定着すれば民進党の消滅ということになるのは必至です。当初、岡田元代表は疑うことなく共産党の支持申し入れを喜んでいました。党内の反発に驚いていた様子でした。岡田氏にも、蓮舫氏にも共産党恐怖症がないようです。このような状況に長島氏が絶望感を抱くのも無理はないです。

民共共闘をきめた岡田氏には共産党恐怖症がない・・・・・・?
最後に、テロ等準備罪への党対応に「国民はそんなバカじゃない」と長島氏が言うのも当然といえば、当然です。これに関しては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
【テロ等準備罪】カレー作ったら毒殺準備?…民進が「追及リスト」でイメージ戦略―【私の論評】民進党ブーメラン発売開始しました(笑)!
「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の審議を控え、国対委員長会談に
臨む自民党の竹下亘氏(中央右)、民進党の山井和則氏(同左)ら=31日午後、国会内
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の審議入りを控え、民進党が追及姿勢を際立たせ始め、金田勝年法相らが国会答弁で明言を避けたとする内容をまとめた40項目の「追及リスト」を作成し、国会論戦で問いただす姿勢をアピールしたことを掲載しました。

そうして、その「追求リスト」の一部が以下です。


このバカバカしいリストを見れば、長島氏がうんざりしたであろうことは想像に固くありません。連坊代表をはじめ、民進党の幹部や議員が、国会で舌鋒するどいものの、中身のまったく薄い内容で、金切り声をあげながら、与党を追求する姿が今から目に浮かぶようです。

このブログでも何度が掲載してきたように、現在北朝鮮というか、最悪朝鮮半島有事が十分に想定されるような状況です。最悪、北朝鮮から核ミサイルが日本に打ち込まれるかもしれないですし、すでに日本国内に潜伏している北朝鮮の工作員が各地でテロ活動を行う可能性も十分にあります。

そのような緊迫した状況の中で、このような幼稚な議論をやってしまえば、まさに本当に国民を馬鹿にしているとしか思えません。

しかし、国レベルではどうでも良いような森友問題で民進党はあのように時間をかけて、安倍総理をはじめ政治家の関与をうかがわせるようなものは、結局何も出てこなかったという醜態を演じています。

森友問題といえば、この問題を最初に『朝日新聞』が疑惑として報じたのが2月9日でした。それ以降、マスコミも国会もこの問題ばかり取り上げています。しかし、この間、日本周辺でどういうことが起きていたか、彼らはわかっているのでしょうか。無論北朝鮮の問題もありますが、それだけではありません。

2月9日以降をざっと見ても、2月14日~19日と6日間連続で中国海警局の船が尖閣諸島周辺の領海付近を航行しています。うち、1日は領海侵入までしています。こうした船の中には、機関砲のようなものを搭載していることも確認されている。

3月は1日、4、5日、9、10日、17日~19日、22、23日、28日~30日と同様の動きが確認されています。ちなみに、本日午前にも、沖縄県の尖閣諸島の沖合で、中国海警局の船4隻が日本の領海に相次いで侵入し、海上保安本部が直ちに領海から出るよう警告を続けていました。

そんなの毎度のことじゃないか。ニュースにしたって仕方がないし、騒いでも仕方がないなどと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それこそが支那の思うツボです。彼らからすれば、これが『日常的な光景』になるのが都合がいいのです。

メディアもさることながら、腹立たしいのは国会議員です。北朝鮮は2月12日にムスダンと見られるミサイルを発射し、さらに3月6日には4発弾道ミサイルを発射。日本の排他的経済水域に3発が着弾しています。彼らは日本の米軍基地を攻撃対象として想定していると言っています。

その後もミサイル発射実験を行い、核実験の動きを見せ、さらに米韓への先制攻撃まで口にしています。

この大変な時期、こともあろうに国会の『外務委員会』で民進党が何をやっていたのでしょうか。森友学園の理事長夫人と安倍昭恵さんのメールのやりとりの“追及”です。

自分の兄への『殺害指令』を出したとも見られる人物が最高指導者にいる国が、日本への敵対心を隠そうともせず、ミサイルを乱射しています。そんな時に『このメールはどういうことですか!』って、何を考えているんでしょうか。

この間、森友学園の次にニュースになっていたのは、築地市場の問題でした。市場の『安全』よりも大事な『安全保証』の問題があるのがマスコミや、民進党にはわからないのでしょうか。

このような現実を党内部にいてつきつけられては、さすがに中島氏も耐えきれなり、離党の決意を固めたのでしょう。

現在の民進党は、今のまま自己変革ができないというのなら破棄すべきです。これについては、経営学の大家ドラッカー氏の言葉を思い出します。

以下にドラッカー氏の『乱気流時代の経営』からの言葉などを掲載します。
長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。(『乱気流時代の経営』
 企業経営においてはあらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければなりません。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要です。

なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからです。そして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからです。ドラッカーは、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言います。廃棄せずして、新しいことは始められないのです。

ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていません。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていません。

自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかないのです。そのためには人材がいります。その人材はどこで手に入れるのでしょうか。外から探してくるのでは遅いです。

成長の基盤は変化します。企業にとっては、自らの強みを発揮できる成長分野を探し出し、もはや成果を期待できない分野から人材を引き揚げ、機会のあるところに移すことが必要となります。
乱気流の時代においては、陳腐化が急速に進行する。したがって昨日を組織的に切り捨てるとともに、資源を体系的に集中することが、成長のための戦略の基本となる。(『乱気流時代の経営』)
これは、無論政治や政党の話ではなく、企業経営に関わるものです。しかし、組織ということでは原則は同じです。

政党組織でも、陳腐化してしまったものは破棄しなければならなのです。民進党もこの原則を貫くべきです。民進党にもそうしたことができる人材もいないことはありません。

長島氏や馬淵氏などその筆頭です。しかし、今回は長島氏が離党ということで、民進党は有為な人材を失ってしまいました。

今のままの民進党がこれからも続くというのであれば、国会でも、森友問題など、 もはや成果を期待できない分野に拘泥し、多くの議員が無駄などうでも良い仕事に拘泥するというようなことがこれからも繰り返されます。

そんなことを防ぐためにも、民進党は変わらなければなりません。しかし、それができないというのなら、今の狂った民進党そのものを破棄するしかありません。そうして、それは有権者が判断して実行すべきものです。私には、もはや自己変革のできない民進党には、有権者が引導を渡すべきと思います。

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