2018年4月17日火曜日

【崖っぷちの世界】米朝首脳会談の真実 CIAが裏チャンネルで根回し…トランプ氏の即断即決はマスコミ向け演出に過ぎず―【私の論評】トランプ大統領を色眼鏡で見るのは全くの間違い(゚д゚)!


トランプ大統領

5月下旬から6月上旬に予定される米朝首脳会談だが、それが本当に開催されるかどうかは、いまだに定かではない。北朝鮮側のドタキャンはいつでもあり得るのだ。

米朝首脳会談が、どんな結果を生むかは予断を許さない。会談が成功して、北朝鮮が現実的に検証可能な形で「核開発を放棄」する可能性は出てきた。だが、交渉が決裂すれば、米国による北朝鮮攻撃ということも十分に想定できる。

筆者は、会談自体は遅れても開かれる可能性が高いと考えている。

米朝首脳会談は、韓国特使団が3月8日、ホワイトハウスで、ジェームズ・マティス国防長官や、マイク・ポンペオCIA(中央情報局)長官らに、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談内容を報告していたとき、ドナルド・トランプ大統領が突然現れて、即断で決定したものと伝えられている。

韓国特使団は同月5日、正恩氏と平壌(ピョンヤン)で直接会談し、トランプ氏へのメッセージを託されたと言われている。

だが、実は米朝会談を根回ししたのは、両国間に存在する「外交の裏チャンネル」だった。米国側ではポンペオ氏の指示で、元CIA東アジア作戦部長のジョセフ・デトラニ氏率いる民間外交政策グループ、通称「トラック1・5」が北朝鮮側と極秘会談を繰り返していた。その結果、首脳会談が決まったのである。

韓国特使団の話に、トランプ氏が即断即決で応じたというのは、マスコミ向けに演出されたシナリオに過ぎなかった。即断即決が事実なら、大統領としては軽率に過ぎる。米国側の都合でドタキャンする可能性もあった。現に、一部マスコミは、トランプ氏の判断を攻撃していた。

しかし、これはお門違いの批判に過ぎなかった。

米朝両国は、非常に慎重に裏チャンネルによる会談を繰り返し、首脳会談実現に至ったのである。そうである以上、首脳会談が簡単にドタキャンされることはないと考えるのが合理的だろう。

ポンペオ氏は3月11日、米CBSテレビのインタビュー番組に出演し、CIAが中心となって直接、北朝鮮と連絡をとるチャンネルがあると発言している。

前出のデトラニ氏は、米空軍勤務後、1974年にCIAに入局し、要職を歴任して退官。ジョージ・ブッシュ(子)政権で、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の次席代表も務めたインテリジェンスのプロである。かつて、板門店(パンムンジョム)の軍事境界線を越えて北朝鮮に入国し、当時の金正日(キム・ジョンイル)政権幹部と極秘会談を行った。

「トラック1・5」は、スイスのジュネーブや、ノルウェーのオスロ、モスクワ、それに平壌などで、北朝鮮との非公式協議を半年に1回は続けてきたという。

 ■藤井厳喜(ふじい・げんき) 国際政治学者。1952年、東京都生まれ。早大政経学部卒業後、米ハーバード大学大学院で政治学博士課程を修了。ハーバード大学国際問題研究所・日米関係プログラム研究員などを経て帰国。テレビやラジオで活躍する一方、銀行や証券会社の顧問、大学などで教鞭をとる。著書に『希望の日米新同盟と絶望の中朝同盟』(徳間書店)、『太平洋戦争の大嘘』(ダイレクト出版)など多数。

【私の論評】トランプ大統領を色眼鏡で見るのは全くの間違い(゚д゚)!

アメリカのドナルド・トランプ大統領は、韓国との貿易交渉でより有利な条件を引き出すため、大統領自身を「クレイジー」に見せるよう、 通商代表部(USTR)代表のロバート・ライトハイザー(Robert Lighthizer)氏に指示したとされています。

オンラインメディアAxios によると、このアドバイスは9月に大統領執務室で行われたミーティングで、大統領からライトハイザー氏に伝えられたそうです。

米韓の自由貿易をめぐっては、トランプ大統領の発案により9月上旬以降、その自由貿易協定(FTA)の撤廃が議論されています。その中で大統領はライトハイザー氏に交渉をどう進めるか、アドバイスし始めたと言います。以下のような具合です。
トランプ大統領:「30日を与えよう。そこで譲歩を引き出せなければ、手を引く」 
ライトハイザー氏:「わかりました。では、韓国政府に30日あると伝えます」 
トランプ大統領:「ノー、ノー、ノー。交渉はそんな風にするものじゃない。彼らに30日あるなんて言う必要はない。『大統領は本当にクレイジーだから、すぐにでも手を引くつもりだ』と言うんだ」「『すぐにでも』と言うんだ。実際、その可能性もある。君たちもそれを理解しておくべきだ。30日とは言うな。30日あると言えば、彼らは期限を引き延ばしてくる」
一部の安全保障の専門家たちは、特に北朝鮮問題を念頭に、トランプ大統領が国際社会で広げようとしている「マッドマン」のようなイメージ戦略に対して、批判的だ。大統領は北朝鮮の指導者、金正恩氏を度々「ロケットマン」と呼び、北朝鮮を 「完全に破壊」せざるを得なくなる可能性があると述べていた。
この記事は、昨年の10月2日のものです。北朝鮮はその後どうなったでしょうか。結局、米朝会談を申し入れてきました。しかも、これはブログ冒頭の記事でもわかるように、トランプ氏が即決即断したのではなく、CIAの裏チャンネルによる根回しの結果です。

さらに、韓国相手の交渉者に対するアドバイス。これは、かなり的確なアドバイスだと思います。これは、最近の韓国の日本に対する交渉をみていた多くの日本人なら、容易に理解できると思います。日本も、韓国に対する交渉の場合は、このくらいの「クレージー」さを見せつけたほうが良いです。

企業間の交渉でも似たようなところがあります。相手によって、交渉方法を変えるのはもちろんのこと、状況によつては朝令暮改のように、一度決めたことでも撤回します。朝令暮改は昔は、悪いことのたとえとされていましたが、最近では柔軟に物事に対応するという点で良い場合にも用いられるようになりました。

このあたりは、長い間企業経営をしてきたトランプ大統領の真骨頂なのでしょう。政治の世界だけを歩いてきた人にとっては、なかなかできないことでしょう。

習近平中国主席とトランプ米大統領

トランプ氏は他にもこのような柔軟さを示しています。たとえば、TPPです。2016年大統領選では、トランプ氏は、TPPからの離脱を公約として掲げていました。もし復帰すれば、180度の方向転換になります。

これについては、このブログでも何度か掲載しているように、トランプ大統領が、TPPは対中国封じ込めとして機能することを理解したということが背景にあると考えられます。

選挙戦中には、TPPからの離脱を表明していても、TPPが結果として、中国封じ込めになり、そのTPPに米国が加盟していたほうが、より強固な中国封じ込めになり、結局そのほうが米国にとっても良いことであると判断すれば、すぐに考えを変えたのでしょう。これは、柔軟です。

しかし、これは過去の大統領にもしばしばあったことです。選挙期間中には自由貿易協定に反対しておきながら、選挙で勝って大統領になると急に考えをかえて、自由貿易協定を進めるなどのことは、何もトランプ大統領が初めてということではありません。

しかしながら、トランプ大統領は、他の大統領と比較して選挙公約をかなり忠実に実行しつつあるのですが、その中でTPP復帰を示唆するというのは、やはりかなり柔軟な考えの持ち主であると考えられます。

これまでトランプ大統領は、自らに忠誠を誓う人々を集めることで政権運営を安定させようとしてきたましたが、マクマスターのように忠誠心が高い人物であっても、政策的に噛み合わなければスタッフとして用いることが難しいです。

そのため、ポンペオCIA長官を国務長官に、CIAの在任期間が長く、イラク戦争後に問題となったブラックサイト(拷問のための秘密施設)の運営にも関わるなど、CIAの表も裏も知り尽くすハスペルをCIA長官としました。

また、FOXニュースチャンネルのコメンテーターとしても知られ、北朝鮮への先制攻撃を合法であると主張し、イラン核合意を破棄するだけでなく、イランの体制転換への青写真も描いている、国務省の元官僚で米国の官僚制度を熟知しているボルトン元国連大使を安保担当補佐官に任命しました。

ポンペオ(左)とボルトン(氏)

こうした「大統領らしさ」を身につけてきたトランプ大統領の当面の問題は、2018年11月の中間選挙で勝利し、上下両院で共和党多数を維持するだけでなく、上院で60票を獲得することで議事進行妨害ができない状況を作ることです。そうして、今年の米の11月に行われる、中間選挙は「大統領らしさ」を身につけたトランプ大統領の信任投票ということになります。

果たして自分の政策を実現することが中間選挙にプラスになるのか、それともマイナスになるのか、米朝首脳会談が不調に終わり、むしろポンペオやボルトンが主導する外交政策がより一層アメリカの安全を脅かすような結果になった場合どうなるのか、といった疑問は尽きないところです。
しかし、米朝会談が良い方向に向かおうと、悪い方向に向かおうと、いずれになっても、それに対する準備をするということでは、やはり柔軟な姿勢には変わりありません。

日本から見れば、米朝首脳会談が成功し、リビア方式で北朝鮮が核を放棄することを確約すれば良いですが、逆に米朝首脳会談が決裂し、米国内での武力行使への圧力が高まって、戦争のリスクが高まることもあり得ます。日本にとって望ましい交渉結果をいかにして引き出すのかを話し合う今回の日米首脳会談は、今後の日本を巡る安全保障の分岐点になる重要性を孕むものとなるでしょう。

米朝会談を告げる韓国のメディア

いずれにしても、トランプ大統領は、ブログ冒頭の記事でもわかるように、米朝会談を即断即決で決める馬鹿ではないことははっきりしています。

そうして、11月に米国で中間選挙があることを念頭に入れて、トランプ大統領はこれに対しての対策を熟考して、対応していることを理解すれば、日本のメディアで喧伝されているトランプ像は正しいものとはいえないようです。

そもそも、このブログでは以前から、米国のマスコミの9割は、リベラル派でしめられており、保守派は1割に過ぎないことを何度か掲載してきました。実際、日本ではウォール・ストリート・ジャーナルを保守派とみる人もいるようですが、米国では大手新聞に限っていえば、すべてがリベラル派です。日本では、リベラルという言葉の定義を知らずに使っている人も多いので、だからこのような錯誤がおこるものと思います。

これは、日本でいえば、朝日、毎日、読売新聞は存在するのに、産経新聞はないような状況です。朝日、毎日、読売だけを読んでいては、日本の保守派の動きなどわかるはずはありません。米国の大手新聞だけ読んでいては、人口的にはおそらく半分はいる米国の保守派の動きなどわかりません。

大手テレビでは、フォックスTVのみが保守派であり、あとはCNNもABCも、CBSもそれ以外も大手はすべてリベラル派です。日本のマスコミは、これらリベラル派の報道を垂れ流すだけです。

このような一方に偏った報道だけで、トランプ大統領を判断してすべてを見切ったように単純にトランプ大統領を判断して色眼鏡で見る見方は間違いであると認識すべきです。

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2018年4月16日月曜日

世界情勢の転換期に、この国はいつまで「加計学園」なのか―【私の論評】衆院解散総選挙は大いにあり得るシナリオである(゚д゚)!

世界情勢の転換期に、この国はいつまで「加計学園」なのか

国会招致も必要だと思うが、しかし

安倍総理

もうウンザリ
10日、朝日新聞が<「本件は、首相案件」と首相秘書官 加計めぐり面会記録>(https://www.asahi.com/articles/ASL497F9QL49UCLV00S.html)と報じたことを機に、再び加計問題が騒がれている。
森友学園問題が佐川氏の証人喚問で一段落したら、その後は自衛隊の日報問題、そして加計学園問題……とまるで昨年のテープレコーダーを再び回したような展開になっている。
まず、自衛隊の日報問題については、文民統制の観点から深刻であることは指摘しておきたい。そのうえで、問題の本質は、時代遅れのPKO議論にあり、やはり参加5原則の見直しが急務であることも述べておきたい(https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180412/soc1804120001-n1.html)。
さて、加計学園問題である。これについては、正直言ってうんざりだ。これについて、昨年からさんざん書いてきた。
2017.05.22「加計学園問題の本質は何か ?このままでは政府の勝ちで終わるだろう」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51813
2017.05.29「前川・前事務次官の記者会見は、官僚目線で見れば「大失敗」だった」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51868
2017.06.5「これでいいのか「報道特集」!加計問題であまりに偏っていたその「中身」」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51920
2017.06.12「加計学園問題は、このまま安倍官邸の「圧勝」で終わる」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51989
2017.06.19「内閣支持率低下より著しい、加計問題「マスコミの質の劣化と低下」」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52049
2017.06.26「加計問題・愕然とするしかなかった「前川新会見」の空疎な中身」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52122
201707.18「加計問題を追及し続けるマスコミの「本当の狙い」を邪推してみた」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52319
2017.11.13「加計学園報道、もうマスコミは「敗北」を認めた方がいい」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53483
ここで書いてきたことはまったく誤りでないと思っている。
冒頭の、朝日新聞が報じた愛媛県の面会記録であるが、これは職員の備忘録メモである。相手方のチェックを経ていない個人的なものなので、その内容は、昨年問題になった文科省内のメモに近いものだ。
昨年も文科省メモが出てきたときに、「やっぱり総理の関与があった」として盛んに報道されたが、国会での参考人質疑においても、文科省メモに関わっていたとされる前川氏の話からも、「総理の関与」という発言はなかった。
というのは、こうした「応接録」の場合、記載されている相手方の確認や了解がない場合、往々にして書き手の都合の良いように書かれることがしばしばである。そのため、その内容を鵜呑みにするのは危険なのだ。
これは、官僚の世界では常識だ。筆者の役人時代にも、同様の経験がある。しばしば交渉相手方の応接録には、相手の都合の良いように書かれたものだ。そうした経験をもつ中央省庁の役人は少なくないだろう。

「首相」と「総理」

冒頭の愛媛県の面会メモについて、2015年4月に、当時総理秘書官だった柳瀬氏が愛媛県や今治市の職員と面会した際の内容を、県職員が記したものとされている。

当事者とされる柳瀬氏は、「記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはない」とし、「私が外部の方に対して、この案件が首相案件になっているといった具体的な話をすることはあり得ない」としている。

筆者も、内閣参事官として官邸勤務がある。役職は「準秘書官」である。正直いって、官邸で本当に多くの人と面会したが、筆者はパソコンと連動している電子手帳を持っていたので、誰と面会したかは自分の記録として残した。これも人によってやり方は違うだろうが、秘書官であれば、何らかのスケジュール管理をしているはずだ。ただし、個人記録として残していても、思い出せない人も多い。

官邸は猛烈に忙しいので、誰かと面会してもせいぜい10分程度のはずだ。それも、事前にアポイントを入れにくいときもある。折角官邸まで来てもらっても、挨拶程度で済ますときも少なくない。

その点から言えば、冒頭の面会メモでは、まず官邸にいた時間帯が書かれていないのは気になった。次に、報道された「首相案件」という言葉も奇妙だ(https://www.j-cast.com/2018/04/12326036.html)。

柳瀬氏が「首相案件」言ったというが、官邸勤務者であれば、「首相」といわずに「総理」という。正式名称は、「内閣総理大臣」であり(憲法第66条)、それを略して「総理」という。

ちなみに、官邸のホームページで「首相」を検索すると、「首相官邸ホームページ」などしか出てこない。「首相官邸」に正式には「総理官邸」であるが、マスコミになじんでいる「首相官邸」というホームページ名にしたようだ。公文書でも、「首相」と使われることはまずないというか、筆者は役人時代に「首相」を使ったことはなかった。

官邸にいたときも、総理には「総理」と呼んでいたので、役人を辞めてから「首相」という言葉を使うようになった。もっとも、当時の「総理」に会ったときには「総理」と呼んでいた。先日、官邸関係者に会ったときにも、やはり「首相」とはいわずに「総理」というと言っていた。

その点からいえば、総理秘書官であった柳瀬氏が「首相案件」といったことは考えにくい。おそらく、違う表現だったのだが、面会メモを書いた人が間違って記載したのだろう。

どちらも間違い

いずれにしても、柳瀬氏を含めた関係者の国会招致は必要になろう。昨年も文科省文書が出た後にはかなり混乱したが、結局国会参考人招致で騒ぎは収まった経緯がある。本件は、財務省の文書改ざんと異なり、法に触れる話でないので、参考人招致で十分だろう。

もっとも、仮に愛媛県の面接メモが正しいとしても、「何が問題なのか」という本質論はある。安倍政権を攻める側が主に主張するのは、安倍首相は2017年2月まで加計学園獣医学部の具体的な話を知らなかったといったが、そんなはずはない、という一点だけだ。

総理は忙しすぎるので、個別問題にはかかわらないことがほとんどだ。その点において、総理がこの案件を知らなかった、というのは官邸勤務経験者であれば理解できる。総理は、大きな国政方針などだけを考え、個別問題に関わらない。特に、安倍総理は、マクロ経済には関心があるが、ミクロ問題や個別問題は各省大臣の話と割り切っているので、案外そんなものだ。

これを擁護する声として、一部では、国家戦略特区に関する案件は総理がトップダウンで判断するのだから、「首相案件」でもかまわないだろう、なにが問題ないんだという意見もある。

一方、安倍総理と加計学園理事長が友人だったから、獣医学部新設で便宜を図ってもらったのはまずいだろう、という不公平論からの批判もある。マスコミの批判的な報道は、基本的にはこの立場である。

しかし、このどちらも、国家戦略特区での規制緩和に総理の影響力があると思い込んでいる点で、間違いだ。それの何が疑惑になるのか、全く理解不能です。

本件を政策的な観点でみると、獣医学部の新設が50年以上も文科省で認められてこなかったという経緯と前提がある。しかも、それは「文科省告示によって認可申請を行わせない」という、およそ一般常識からは考えられないことによるものだ。もし、これが一般の企業であれば、行政訴訟をすれば、確実に文科省が負けるだろう。

本件での規制緩和とは、文科省による学部新設の認可ではなく、認可を「申請」していい、という「規制緩和」だ。筆者は、この点を国会でも証言している(衆議院予算委員会公聴会 平成30年02月21日)。学部新設認可を運転免許にたとえ、生徒の運転免許取得に政治家が介入して捻じ曲げれば問題であるが、生徒を自動車学校に入れる程度の話で大騒ぎするのはバカバカしい。

外交はとんでもない転換期なのに…

加計学園の獣医学部新設については、昨年11月、文科省(大学設置・学校法人審議会 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/daigaku/toushin/attach/1398164.htm)がしっかり審査した。このプロセスには、政治家の関与が一切なかったことは、マスコミも知っているはずだ。要するに、加計学園の学部新設認可において、まったく問題がなかったわけだ。
それでも、認可申請とはいえ、加計学園が京産大より優遇されたのは問題だろう、という意見もまだあるが、はっきり言えばこれは不勉強だ。京産大の記者会見を見直せばわかるが、京産大のそれが認められなかったのは、準備不足だっただけだ。ここでも、公平性の問題はない。
以上のように、本件の規制緩和が単に自動車学校に入学させる程度であったとした上で、仮に愛媛県の面接メモが正しいものだったとしても、何が問題なのか。
文科行政が歪められた? いやいや、先ほどもみたように、学部新設の認可には一切政治家の手は付けられていないのだから、歪められるはずない。認可申請を止めていたが、1年だけ緩められたのは、そもそも認可申請をストップしている段階で認可制度運用として不適切なので、これは文科行政が正されたというべきだ。加計学園問題で騒ぐマスコミは一切この事実にふれようとしない。
しかし、政策論としていかにくだらないことでも、政局になりうるのも政治だ。くだらない報道で政権支持率が下がれば、自民党内からも政権打倒という声が出てきて政局になる。そして、実際政権支持率が下がってきたので、自民党内からも厳しい声が上がっている。
政局では、野党の存在よりも、与党内で後ろから鉄砲を撃たれる方がこわい。それを防ぐ意味で、予算も通った国会開催中なので、安倍総理が国会解散という手を打つ事態になっても不思議ではない、と筆者は見ている。
来月にも米朝首脳会談が行われ、さらに北朝鮮情勢の変化など、日本外交は戦後最大級の転換点を迎えようとしている。アメリカはシリアも攻撃した。いま、日本が向き合うべき問題は外交である。外交では、これまでの経験がモノをいう。「初めまして」で各国の首脳とあっても、突っ込んだ話をできるはずがない。
今週は、日本外交最大の山場の日米首脳会談が開かれる。その重大事に、国内のくだらない政策論で政局になっているのは、実は国民にとって最大の不幸なのである。
【私の論評】衆院解散総選挙は大いにあり得るシナリオである(゚д゚)!
高橋氏も指摘するように、「森友」問題はもう一段落ついたので、あまり報道されることもないでしょうが、「加計」も何代に関してはもううんざりです。
最近では「首相案件」なる言葉が一人歩きしていますが、これなど考えてみれば、首相はもともと政府の最高責任者なのですから、政府に関わることは大なり小なり、すべて「首相案件」です。
総理が、いわゆる「加計問題」とやらで、どこからか金をもらっているのでしょうか。あるいは、「加計問題」とやらで、金でなくても何らかの具体的な利益を得たのでしょうか。口利きをしたり、誰かと誰かを結びつけることも政治家の重要な仕事です。それ自体があったとして、その自体が犯罪になるわけもなく、ましてや道義的責任もあるわけがありません。
ただし、口利きや、誰かと誰かを結びつけることにより、金を得たり、明らかな利得を得れば、それは犯罪になりますし、道義的責任もででくることになります。
あるいは、それに絡んで何らかの犯罪を犯したのであれば、総理は辞任しなければならいのはいうまでもありません。しかし、もう一年以上も野党が追求してもそのような事実も全くなく、ましてや忖度なるもので犯罪になるはずもありません。道義的責任すらありません。
このようなことは社会常識に照らし合わせれは、すぐに理解できることです。誰であれ、社会的地位が上であれ、下であれ、このようなことで、辞任などということはあり得ません。
にもかかわらず、野党は「疑惑が深まった」などとしています。そういうことをいうなら、一体何の疑惑があるのか、明確に誰にでもわかるように説明していただきたいです。このようなことが理解できない人は、単なる情弱の愚か者というしかないです。
最近では、テレビなどで「加計問題」の報道をみるのもうんざりです。これに興味のあった「ワイドーショー民」も、一年以上にわたって野党がさわぎ、マスコミが「疑惑、疑惑」と囃し立てても、結局誰も辞任しないし、誰も容疑者にならないわけですから、さすがにウンザリしてきているのではないでしょうか。私がワイドショー民なら、そう感じると思います。
ワイドショー民は、複雑な話は嫌いです。シンプルな話を好む人が多いと思います。そのワイドショー民に一年間以上にわたり、同じような話題を提供し続ければ、飽きるのは当然のことだと思います。
もう私も、今後「加計問題」なるもので、新真実のようなものがでてきたとしても、それに興味を持ったり、調べたりするのはやめます。なぜなら時間が無駄になるからです。
野党や、マスコミは時間を無駄にばかりしています。このようなことばかりしていると、もともとはまともな政策論争などできないことはわかっていますが、政局も見誤るのではないでしょうか。
学校法人「加計学園」の獣医学部新設について、柳瀬唯夫首相秘書官(当時)が学園側に「首相案件」などと発言したと記載された文書が農林水産省内で見つかったことを受け、野党は13日、「『記憶にない』という説明に説得力がなくなった」などと安倍晋三首相や柳瀬氏への批判を強めました。証人喚問による真相究明にとどまらず、内閣総辞職や衆院解散・総選挙も求める構えです。
柳瀬唯夫元首相秘書官
    立憲民主党など野党6党は13日、国会内で合同集会を開催し、約100人が参加しました。加計問題に加え、森友学園や防衛省の日報問題などを巡る政府側の説明や今後の追及方針などを共有しました。自由党の玉城デニー幹事長が「解散・総選挙をして野党が一致すれば政権が代わる」と気勢をあげて締めくくりました。立憲の福山哲郎幹事長は党の会合で「もはや政権を維持できる状況ではない。安倍政権は政権を担う資格がないと国民に訴えたい」と批判しました。
    野党側は、従来は安倍総理辞任、内閣総辞職などとは言ってきましたが、「解散・総選挙」という言葉がはじめてでました。
    ブログ冒頭の記事で高橋洋一氏は、「政局では、野党の存在よりも、与党内で後ろから鉄砲を撃たれる方がこわい。それを防ぐ意味で、予算も通った国会開催中なので、安倍総理が国会解散という手を打つ事態になっても不思議ではない」と語っています。
    私もそう思います。自民党内では、再び“青木理論”が注目されているといいます。青木理論とは、内閣支持率と自民党支持率を足して50%を切ったら政権は崩壊するというものです。
    現在、内閣支持率は31%、自民党支持率は32%。合計63%あるのですが、50%に近づいたら、一気に“安倍降ろし”がはじまるとみられています。現在のままであれば、支持率は下降し続けることが予想されます。安倍降ろしが始まる前に、安倍総理は解散総選挙をする可能性が濃厚です。
    そうして、永田町では、しきりに解散がささやかれ出しています。
    その中でも強く解散論を主張するのが、小泉内閣で秘書官を経験し、安倍政権では内閣官房参与を務める飯島勲氏です。
    飯島勲氏

    飯島氏は、1966年に当時の佐藤栄作首相が打って出た「黒い霧解散」で求心力を取り戻したことを引き合いに、2018年3月下旬の時点で、解散したとしても与党は「微減」にとどまると予測しまし。その後行われた財務省の佐川宣寿・前理財局長の証人喚問の評価について安倍首相が「国民の皆様のご判断に任せたい」と述べたことから、飯島氏としては解散への確信を深めたようです。

    飯島氏は2018年3月22日発売の「週刊文春」3月29日号の連載「飯島勲の激辛インテリジェンス」で、「安倍首相は解散に打って出よ!」と題して、野党が財務省などを呼んで行っているヒアリングを「あれこそパワハラ以外の何物でもないぜ」と非難。その上で
    「野党が(中略)責任取って内閣総辞職しろってあまりにうるさいなら、首相にも考えがあるんじゃないか」
    として、佐川氏の証人喚問と18年度予算と関連法案の成立を前提に
    「そうしたら即、国民に信を問う解散・総選挙を決断すべき」
    と主張しました。1966年の「黒い霧解散」は、自民党で土地取引をめぐる不祥事が相次ぎ「黒い霧」で批判を浴びた末、国会が召集された初日に衆院を解散。67年1月の衆院選では「過半数割れ」を予測する多くの声に反して微減にとどまり、過半数よりも多い安定多数を確保。佐藤政権は求心力を取り戻しました。これを念頭に、飯島氏は
    「いま解散なら与党は7の微減にとどまる。過半数維持は間違いないぜ」
    と自信を見せました。

    飯島氏の文春の連載掲載後、佐川氏の証人喚問は3月27日に行われ、予算と関連法案は翌28日に成立。この日の国会答弁で安倍氏は
    「どんな印象を持ったかということについては、国民の皆様のご判断に任せたい」
    と述べました。

    加計学園をめぐる朝日新聞の「面会記録に『首相案件』」報道が出たのは、それから10日以上後の4月10日。これが影響したのか、朝日新聞が4月14~15日に行った世論調査では、安倍内閣の支持率は前回3月と並ぶ31%で、引き続き12年12月の第2次安倍内閣発足から最低でした。不支持率は4ポイント増えて最も高かくなりました。NNN(日本テレビ系)や共同通信がほぼ同時期に行った世論調査でも、支持率は下落しています。

    朝日新聞の4月10日の第一面

    そういった状況でも、飯島氏は解散への確信を深めているようです。4月16日朝の情報番組「グッド!モーニング」(テレビ朝日)にVTR出演した飯島氏は、安倍氏の「国民の皆様のご判断に任せたい」発言を根拠に、
    「『国民が判断する』ということは、解散しかないじゃないですか。そうでしょう?」
    と断言しました。
    「今の状況を見ると最悪でも過半数は十分取れる」
    朝日世論調査によると、政党支持率で最も高いのは自民党の33%。立憲民主党(10%)、公明党(4%)、共産党(3%)、民進党(2%)、日本維新の会(1%)と続き、希望、社民、自由、日本のこころはゼロでした。どの党も、前回3月調査からの変動幅は1ポイント以内です。こういったことを念頭に、飯島氏は
    「私だったら、もう、今、解散しますね。100%」「今の状況を見ると最悪でも過半数は十分取れる」「過半数以上議席が取得できれば、安倍内閣の持続が当たり前。何ら問題ない。新たなるスタート」
    と言い切りました。

    飯島氏のほかにも、鈴木宗男前衆院議員が13日のブログで「安倍総理はここは解散に打って出て、国民に信を求める道が賢明」と述べるほか、野党側からも、希望の党・玉木雄一郎代表がテレビ出演などで「解散」に言及するなど、警戒感が強まっています。

    鈴木宗男衆議院議員

    一方で19年4月には統一地方選を控えており、自民党も衆院選にどの程度の労力を割けるか不透明です。解散を打つためには公明党の理解を得る必要があるほか、世論からは「また『大義なき解散』」といった批判が出るのは必至です。

    私自身としては、いますぐということでなくても、年内に間違いなく解散総選挙があるのではないかとみています。

    そもそも、野党は「解散総選挙」と声をあげているものの、昨年の選挙では与党が躍進し、民進党があのように分裂してしまい、とんでもない状況になっています。野党の掛け声とは裏腹に、体制を立て直すだけでも数年はかかるというのが実体です。

    野党はこの有様ですから、実際に解散総選挙ということになれば、また「大義なき解散」と泣き言を言うのは目に見えています。今の状況まま、選挙に突入すれば、飯島参与の予想どおりになるか、あるいはそれ以上になる可能性すらあります。

    しかし、一歩振り替えてってみると、自民党内の動きが気になります。今のままであれば、ポスト安倍の動きが活発になるのは目に見えています。その動きを封じるため、安倍総理が解散総選挙に踏み切る可能性は十分あります。選挙で、飯島参与が予想する以上の成果が出れば、ポスト安倍の動きを封じることが可能になります。

    過去においては、何度となく野党が様々な問題ともいえないような問題を作り出し、それをもとに与党を追求し、マスコミも右に倣えをするたびに、内閣支持率、自民党支持率は下がりましたが、時間の経過とともに上昇しました。

    私自身は、今回もそのような経過をたどると思います。ある程度支持率が上がった段階で、安倍総理が解散総選挙に踏み切る可能性は大きいです。

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    2018年4月15日日曜日

    TPP復帰というトランプ氏の奥の手 対中国での戦略的効果は大きい―【私の論評】貿易赤字それ自体が悪という考えは間違い!それに気づけば復帰は間近(゚д゚)!


    アメリカ・ナンバーワンを目指すトランプ大統領

    これはトランプ政権というより、何かの冒険物語だろうか。12日に飛び込んできたのはあらゆる分野の貿易にとっての朗報だ。ドナルド・トランプ米大統領が農業州の共和党議員らとの会合で、2017年に脱退した環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への復帰を検討するよう政権幹部に指示したというのだ

     これが単に大衆の歓心を買おうとする得意のツイートのようにすぐ消えるものかどうかは分からない。だが出席者たちの話では、トランプ氏はラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長とロバート・ライトハイザー通商代表部(USTR)代表に対し、以前よりも有利な条件でTPP交渉に戻る可能性について調査を指示したという。

     容易な道のりではないだろう。ただでさえ、ライトハイザー氏や同氏の事務所は、同氏が外に出るや否や、この指示は本気ではないと記者団に告げている。だがリンジー・ウォルターズ大統領副報道官は同日午後、大統領がこの2人に検討を要請したことを認めた。2人がその通りに努力することを期待しよう。

    ロバート・ライハイザー

     関係筋によると、トランプ氏は特に加盟11カ国に含まれない中国に対し、TPPが経済的・戦略的に大きな影響力を持ちうるとの主張に反応したという。これはトランプ氏がTPP脱退を決める前、われわれの一部が主張していたことだ。だが貿易をめぐり中国と決戦の場を迎えた今、トランプ氏は中国以外の太平洋諸国とより良い貿易関係を結ぶ方が得策だと考えてもおかしくない。

     会合に出席したベン・サッシー上院議員(共和、ネブラスカ州)は後からこう述べた。「中国の不正行為に対抗するために米国にできる最善の策は、自由貿易と法の支配を信じる太平洋地域の他の11カ国を率いることだ」

     トランプ氏はまた、自身の進める関税第一主義が、外国からの報復措置によって農業州に経済的被害をもたらすという訴えに耳を傾けたという。米国の農業生産者は輸出市場を失う可能性に身がすくんでいる。中西部では大豆とトウモロコシの輪作を行う農家が多く、今年いずれの作物を植え付けるかを決断する時期が迫っている。

     大豆を植えれば、中国が25%の報復関税を課した場合に大きな損害を被るだろう。トウモロコシを植えれば、多くの農家が同じことをするために価格が暴落するかもしれない。農業が抱えるさまざまなリスクに、トランプ氏の通商政策がさらなる政治的な不透明さを加えている。米農業生産者に中国以外の市場を開放することが一段と必要な理由はそこにある。

    【私の論評】貿易赤字それ自体が悪という考えは間違い!それに気づけば復帰は間近(゚д゚)!

    ドナルド・トランプ米大統領は、今年の1月25日スイス・ダボスで行われた米CNBCテレビのインタビューで、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への復帰を検討する用意があると表明していました。これについては、このブログにも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
    トランプ大統領がTPP復帰検討「有利な条件なら」 完全否定から大転換した理由―【私の論評】トランプはTPPが中国国内の構造改革を進めるか、中国包囲網のいずれかになることをようやく理解した(゚д゚)!
    詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事の結論部分を引用します。
    TPPは成長市場であるアジア地域で遅れていた知的財産保護などのルールを作りました。社会主義国のベトナムでさえ国有企業改革を受け入れました。TPPが棚上げとなれば各国の国内改革の動きも止まってしまうことになります。 
    TPP合意を機に、日本の地方の中小企業や農業関係者の海外市場への関心は高まっていました。電子商取引の信頼性を確保するルールなどは中小企業などの海外展開を後押しするものです。日の目を見ないで放置しておくのは、本当に勿体無いです。 
    さて、米国が離脱したままTPP11が発効して、それに対して中国が入りたいという要望を持つことは十分に考えられます。 
    ただし、中国はすぐにTPPに加入させるわけにはいかないでしょう。中国が加入するには、現状のように国内でのブラックな産業構造を転換させなければ、それこそトランプ氏が主張するようにブラック産業によって虐げられた労働者の労働による不当に安い製品が米国に輸入されているように、TPP加盟国に輸入されることとなり、そもそも自由貿易など成り立たなくなります。

    このあたりのことを理解したため、トランプ大統領は、TPPに入ることを決心するかもしれません。そもそも、政治家としての経験のないトランプ大統領は、これを理解していなかっただけかもしれません。だからこそ、完全否定から大転換したのかもしれません。 
    そうして、これを理解して、それが米国の利益にもなると理解すれば、意外とすんなり加入するかもしれません。 
    中国がどうしても、TPPに参加したいというのなら、社会主義国のベトナムでさえ国有企業改革を受け入れたのと同じように、中国国内の民主化、政治と経済の分離、法治国家化を進めなければならないでしょう。
    それによって、中国自体の構造改革が進むことになります。こうして、TPPにより、中国の体制を変えることにもつなげることも可能です。 
    しかし、改革を実行しない限りTPPは中国抜きで、自由貿易を進めることになり、結果として環太平洋地域において、中国包囲網ができあがることになります。 
    大統領に就任した直後のトランプ大統領は、このような可能性を見ることができなかったのでしょう。しかし、最近はその可能性に目覚め、完全否定から大転換したのでしょう。
    TPPは成長市場であるアジア地域で遅れていた知的財産保護などのルールを作成しています。ベトナムはこのルールを守れるように、国営企業の改革に取り組んでいます。

    中国はといえば、もしTPPに加入するとすれば、国営企業改革どころではすみません。まずは、中国憲法の位置づけを変えなければならなくなるでしょう。中国では中国共産党は、憲法よりも上の位置づけです。

    平たくいえば、共産党は憲法より上の存在であり、共産党の都合により何でもできるということです。中国でも、すべての法律は憲法に基づいて作成されていますから、当然のことながら、すべての法律は中国共産党の恣意により、共産党にとって都合が良ければ、そのまま施行し、都合がわるければ、施行を停止することができます。

    このような状況で自由貿易などできるはずがありません。まずは、憲法の位置づけを変えなければ、中国はTPPに入ることはできません。そうして、憲法を共産党よりも上の位置づけにもってくるということは、現体制の崩壊ということになります。そのようなことは、中国にはできません。

    憲法改正で終身主席となり、事実上の中国皇帝となった習近平

    となれば、中国としては、TPPには入らず、独自の路線で世界と貿易をするしか他にありません。TPPが発効して、環太平洋の国々が自由貿易を頻繁が頻繁になされることになれば、TPPにおける自由貿易が通常の取引ということになり、中国との取引はリスキーであると認識されるようになります。

    実際にかなりリスキーです。中国経済が順調に拡大しているときならそうでもないでしょうが、現在のように低迷していれば、中国と取引していれば、いつどのような目にあうかもわかりません。

    また、中国は金融政策・為替政策も恣意的で、いつどのように変わるかも予測不可能なところがあります。そもそも、政治と経済が不可分に結びついており、他の先進国では考えられないようなやりかたで、経済に直接手をいれるということもしばしばあります。しかし、TPP加盟諸国であれば、そのようなことはありません。

    そうなれば、環太平洋の国々が中国との貿易を避けるようになるでしょう。そうなると、貿易でも栄えてきた中国にとっては窮地に陥ることになります。しかし、現体制を維持しなければ、ならない中国共産党は、これを傍観するしかありません。その結果中国は弱体化することになります。仮に、中国が現体制を構造改革に変えてまで、TPPに参加することがあれば、環太平洋地域の諸国にとっても望ましいことになります。

    トランプ氏はこのようなことを理解し始めたのでしょう。さらに、トランプ氏の関税第一主義が、諸外国からの報復措置によってかえって国内産業を窮地に陥れる可能性が大であること、さらにこのブログで何度か掲載してきたように、経済学上の常識である、貿易赤字そのものが悪という認識は間違いであることをトランプ大統領が気づけば、米国がTPPに復帰するのも間近くなるでしょう。


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    2018年4月14日土曜日

    【シリア攻撃】米英仏がシリア攻撃 化学兵器施設にトマホーク、トランプ米大統領「邪悪で卑劣」―【私の論評】米国の真の意図はアサド政権と反政府勢力とを拮抗させ続けること(゚д゚)!

    【シリア攻撃】米英仏がシリア攻撃 化学兵器施設にトマホーク、トランプ米大統領「邪悪で卑劣」

    シリアへの軍事攻撃が始まり、首都ダマスカス上空を飛ぶミサイル

       トランプ米大統領は13日夜(日本時間14日午前)、シリアのアサド政権が同国の首都ダマスカス近郊・東グータ地区で化学兵器を使用したと断定し、米軍に化学兵器関連施設への精密攻撃を命じたと発表した。英国、フランスとともに米東部時間午後9時から複数の施設に対する攻撃を実施した。化学兵器使用を理由にした同政権への攻撃は昨年4月に次ぎ2回目となる。

     ロイター通信は、攻撃には巡航ミサイル「トマホーク」が使われたと報じた。また、シリア人権監視団(英国)の話として、ダマスカスのシリア軍基地や科学研究施設が攻撃されたとしている。シリア軍は13発のミサイルを撃ち落としたと主張しているという。

    シリアのアサド政権への攻撃指示を発表するトランプ米大統領=13日、ワシントンのホワイトハウス

     ダンフォード米統合参謀本部議長は記者会見で、攻撃対象は化学兵器開発関連の研究施設や貯蔵施設とした。BBC放送などは英空軍の攻撃機トーネード4機がシリア中部ホムスの西約24キロの軍施設を巡航ミサイルで攻撃したと伝えた。英国防省は攻撃が「成功したとみられる」との暫定評価を明らかにした。

     トランプ氏は攻撃は化学兵器の生産、拡散、使用の抑止が目的で、「アサド政権が化学物質の使用を中止するまで対応を続ける」と述べた。マティス国防長官は攻撃は「1回限り」としたが、再使用があれば攻撃するとの認識を示した。

     また、トランプ氏は、シリアの行動を「邪悪で卑劣な行為」だと強く非難。「怪物による犯罪だ」とアサド大統領を批判した。アサド政権を支援するロシアも同政権の化学兵器使用に責任があると指摘した。

     英国のメイ首相は声明で、攻撃以外に「選択肢がなかった」と強調。攻撃はシリアの体制転換を目指すものではないとも説明した。フランスのマクロン大統領も、米英とともにシリアの化学兵器工場への攻撃を実施したと発表した。

     トランプ氏は化学兵器使用疑惑を受け、アサド政権やその後ろ盾のロシア、イランに「大きな代償」を払わせると警告し、9日午前の閣議で「48時間以内」に重大な決断をするとしていた。トランプ政権は昨年4月にも猛毒の神経剤サリンが使われたとして、化学兵器の保管場所とされたシリア中部の空軍基地を巡航ミサイルで攻撃した。

    8日東グーダで化学兵器によって攻撃を受けたとみられる子どもが治療を受けている

     アサド政権は化学兵器使用を否定しているが、マティス米国防長官は13日夜の記者会見で、東グータでの攻撃について「塩素剤が使用されたと確信している。サリンの可能性も排除しない」とした。ホワイトハウスも、ヘリコプターから「たる爆弾」で塩素剤が投下され、サリン使用時にみられる症状も確認されたとする報告書を発表した。

    【私の論評】米国の真の意図はアサド政権と反政府勢力とを拮抗させ続けること(゚д゚)!

    米軍のシリア攻撃については、昨日その可能性やその後の推移について掲載したばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
    アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!
    シリアの首都ダマスカス。アサド大統領のポスターの前で警備に当たるロシア軍とシリア軍兵士
    この記事を掲載したまさに次の日にイラク攻撃が実際に行われました。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事ではイラク攻撃がどのような規模になり、その後はどうなるかを掲載しました。以下にその内容の要約を以下に掲載します。
    1.米国がイラクに軍事攻撃を仕掛けたにしても、アサド政権が勝利しようと、反政府勢力が勝利しようと、米国に勝利はない。なぜなら、反政府勢力が勝利しても、反米政権を樹立するか、いままで以上の内乱状況に陥るだけであり、いずれにしても米国にとって良いことにはならない。 
    2.現在は、ロシアがシリアの後ろ盾になっているので、アサド政権ができたばかりの頃よりは、複雑になっているが、1.で述べたことに関しては、基本的に同じである。 
    3.このような状況に対して米国にとって最も良い戦略は、まずは今回比較的大規模な攻撃を行い、アサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる。その後は、アサド政権が強力になれば、反政府勢力に武器を与えて、拮抗させる。反政府勢力が勢いづけば、今度は反政府勢力に武器を提供することをやめて、アサド政権と拮抗させる。反政府勢力側に兵器の供給を武器として使う「オフショア・バランシング」的なやり方をする。 
    4.ロシアのさらなる介入を心配するむきもあるが、これはさほど心配するにはあたらない。確かに脅威であることには違いなく、ロシアは決して侮れるような相手ではないが、現在のロシアは経済の規模は韓国とあまり変わりがなく、そのGDPは東京と同程度である。しかし、東京都程度のGDPの国が米国と戦ったとして、いかに軍事力が強力であっても最終的に勝ち目はない。そのため、米国がたとえイラクでどのような軍事オプションを選択しようとも、ロシアがそれに対して直接ぶつかることは避ける。
    さて、上記の予想を裏付けるようなことがすでに、米国やロシア等から表明されています。まずは、マティス国防長官は攻撃は「1回限り」としましたが、再使用があれば攻撃するとの認識を示しています。

    アサド政権と、反政府勢力を拮抗させようと目論見以上の何かがあれば、「1回限り」などとは公表しません。アサド政権の化学兵器を放置しておけば、アサド政権の力強まり、反政府勢力を圧倒して、アサド政権が反政府勢力を駆逐することになります、今回の攻撃はそれを防ぐためです。さらに、人道的にも化学兵器は良いことではありません。

    次にロシア側からは、今回の米英仏攻撃に関して強烈な批判を表明していますが、それ以上のことは表明していません。その気があれば、強烈な批判だけではなく、何らかの表明があったはずです。

    今回は、英仏も攻撃に参加していますが、英仏にとっても、アサド政権と反政府勢力のいずれが勝利したとしても、米国と同じく勝利に結びつくものではないので、基本的に立場は米国と同じです。英仏もアサド政権と反政府勢力の拮抗以上のことを望んではいません。

    今後、アサド政権の力が弱まったことを確認すれば米国は静観するでしょう。弱まらないことが確認されれば、さらに米国は反政府勢力に武器を与えるなどのことをするでしょう。ただし、武器を与えすぎて、反政府勢力がさらに勢力を増し、アサド政権を圧倒するまでには至らないでしょう。

    当面は、両者を拮抗させ、様子を見るというのが、現在の米国の対イラク戦略とみるべきです。現状もし、拮抗せずに、アサド政権がシリア全土を掌握すれば、これは米英仏の脅威になりますし、アサド政権が崩壊すれば、反政府勢力が互いに争いさらなる混沌をうみだすことになります。その過程で、英米仏へのテロも多発することになりかねません。さらに、反政府勢力のいずれかの勢力が政権を掌握したにしても、反米英仏政権になるのは間違いありません。

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    2018年4月13日金曜日

    アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!

    アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる

    リース・ドゥビン、ダン・デ・ルーチェ

    シリアの首都ダマスカス。アサド大統領のポスターの前で警備に当たるロシア軍とシリア軍兵士。
    米軍が大規模な攻撃を仕掛ければ、ロシアとぶつかる危険がある

    <トランプ政権が化学兵器使用への制裁でシリアを再び攻撃するなら、化学兵器使用を止められなった1年前のミサイル攻撃より大規模でなければならない>

    もしドナルド・トランプ米大統領が、シリアの首都ダマスカス近郊で4月7日に起きたシリア政府によるとみられる化学兵器使用を受けて攻撃に踏み切るなら、1年前のような限定的な攻撃でなく、より大規模な軍事作戦になるのはほぼ確実だ。

    「シリアのバシャル・アサド大統領が、2度と化学兵器を使う気にならないほど懲らしめるには、前回より攻撃対象を広げる必要がある」と、米シンクタンク、新アメリカ安全保障センター(CNAS)のニコラス・ヘラス研究員は言う。「シリア軍を事実上無力化するぐらいの規模だ」

    1年前、トランプ政権はアサド政権がシリア北西部イドリブ県ハーンシャイフーンで猛毒の神経剤サリンを使用したことへの対抗措置として、米軍の巡航ミサイル「トマホーク」でシリアの空軍基地を攻撃。メディアもそれを大々的に報じた。だが1回限りの攻撃では、アサド政権による化学兵器の使用を止められなかった。

    それでも化学兵器を使い続けたアサド
    米軍は、当時シリア軍が化学兵器による攻撃の拠点にしていた空軍基地に向けて、地中海の洋上からトマホーク59発を発射したが、シリア政府が保有する化学兵器や軍事能力に深刻な打撃を与えることはできなかった。実際、米軍の攻撃を受けた数時間後には、同じ空軍基地からシリア軍の戦闘機が飛んでいた。

    アサド政権はそれ以降も、全域で反政府勢力との戦いに化学兵器の使用を続けた。ハーンシャイフーンでのサリン攻撃の後も最低2回、塩素ガスを使用した。だが国際社会はほとんど反応を見せず、アメリカも報復しなかった。

    そうした経緯に加えて、超タカ派と言われるジョン・ボルトン元米国連大使が国家安全保障担当の大統領補佐官に就任したことで、トランプ政権が大規模な軍事行動に乗り出す可能性はますます高まっている。

    ジョン・ボルトン氏

    「失うものが大きいからと言って攻撃を前回より手控えるようなことをすれば、トランプ政権の権威が失墜しかねない」、と米議会関係筋は言う。

    ヘラスによれば、米軍はシリアの西部と東部の両方で、シリア政府軍の拠点を標的にした攻撃に踏み切る可能性がある。

    だがアメリカが大規模な軍事作戦に乗り出せば、アサドの最大の後ろ盾であるロシアとの直接対決に発展しかねない危険性もある。

    「バランスを取るのが難しい」、と米イエール大学中東研究所でシニア研究員を務めるロバート・フォード元駐シリア米大使は言う。「(アサド政権を)徹底的に叩きたいという強硬論も、米軍のなかからは出てくるはずだ」

    トランプ政権幹部は、イギリスとフランスと合同で軍事行動を取る可能性について検討を進めている。英仏両国は、シリアやイラクにおけるISIS(自称イスラム国)掃討作戦で米主導の有志連合にも参加している。

    エマニュエル・マクロン仏大統領は2月、シリア政府が民間人に対して化学兵器を使用した証拠が見つかれば、フランスは軍事行動を取ると言った。トランプと4月8日に行った電話会談では、「強力な合同の対抗措置」をとることで一致した、とホワイトハウスは声明を発表した。

    「トランプ政権は深入りしていく、と私は見ている」と、ヘラスは言った。「(シリア政府は)トランプのレッドラインを越えた」

    【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!

    シリアというと、私はルトワック氏の「戦争にチャンスを与えよ」という書籍の内容を思い出します。

    ルトワック氏は、この書籍で以下のような主張をしています。
    戦争に中途半端に介入してはならない。なぜなら、戦争が終わらなくなるからだ。介入するなら、50年は駐留し、文明化した新しい世代の人間が出てくるまで待つ覚悟が必要だ。 
    例えば、アメリカはイラクに民主制を導入すれば全て丸く収まると考え、サダム・フセインを排除しましたが、その結果、スンニ派、シーア派や数々の民族が”終わりなき殺し合い”を続けています。 
    アメリカはイラクのことをロクに理解しないまま手を出してしまい、しかもそうして地獄を作り出しておきながら、その責任をとっていないのです。今のイラク住民に聞けば「フセイン政権時代の方がはるかにましだった」と言うでしょう。 
    こういった例はリビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、パレスチナ、シリアなど、いくらでもあります。先進国は「無知なまま中途半端な介入をする」という愚を繰り返しているのです。
    つまりルトワックの言う「戦争にチャンスを与えよ」とは、人道主義という美名に惑わされず、落ち着いて論理的に行動せよ、ということです。決して戦争を賛美しているわけではありません。

    確かに私たちは、戦争をしている国を見ると、そこにいる人々を助けるために色々とやりたくなります。少なくとも「放っておく」という選択肢は選び難い。しかし、その善意からくる介入によって、その国の戦争がかえって終わらなくなり、住民がいつまでも新しい生活を始めることができない、という地獄になってしまうことがあります。

    サラエボなど、未だに復興が進んでいません。それは、今が”休戦状態”なのであって、まだ戦争が終わっていないからです。私たちが本当に人を救いたいと思うなら、感情的になりたくなるのをグッと我慢し、徹底的なリアリズムでもって考えなくてはならない。ルトワックはそう訴えています。
    このルトワックが2013年にシリアに関して記事をニュヨークタイムズに寄稿をしています。その記事のリンクを以下に掲載します。
    In Syria, America Loses if Either Side Wins


    詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に翻訳を掲載します。
    どちらが勝ってもアメリカはシリアで敗北する
    2013年 8月24日 byエドワード・ルトワック
    先週の水曜日のニュースでは、シリアの首都ダマスカスの郊外で化学兵器が使われたことが報じられた。人権活動家によれば、これによって数百人の民間人が殺害されたということであり、エジプトの危機のほうが悪化しているにもかかわらず、シリアの内戦がアメリカ政府の関心を引きはじめた。 
    しかしオバマ政権はシリアの内戦に介入してはならない。なぜならこの内戦では、そのどちらの側が勝ったとしてもアメリカにとっては望ましくない結果を引き起こすことになるからだ。 
    現時点では、アメリカの権益にダメージを与えない唯一の選択肢は「長期的な行き詰まり状態」である。 
    実際のところ、もしシリアのアサド政権が反政府活動を完全に制圧して国の支配権を取り戻して秩序を回復してしまえば、これは大災害になる。 
    カギを握るのは、イランからの資金や武器、そして兵員たちやヘズボラの兵士たちであり、アサド氏の勝利はイランのシーア派とヘズボラの権力と威光を劇的に認めさせることになり、レバノンとの近さのおかげで、スンニ派のアラブ諸国やイスラエルにとって直接的な脅威となる。 
    ところが反政府勢力側の勝利も、アメリカやヨーロッパ・中東の多くの同盟国たちにとっても極めて危険である。その理由は、原理主義グループたち(そのうちの幾つかはアルカイダだと指摘されている)が、シリアにおける最も強力な兵力になるからだ。 
    もしこれらの反政府勢力が勝利するようなことになれば、彼らがアメリカに対して敵対的な政府をつくることになるのはほぼ確実だ。さらにいえば、イスラエルはその北側の国境の向こうのシリアにおいてジハード主義者たちが勝利したとなれば、平穏でいられるわけがない。 
    反政府運動が二年前に始まった時点では、このような状況になるとは思えなかった。当時はシリア国内全体が、アサド政権の独裁状態を終わらせようとしていたように見えたからだ。 
    その頃は穏健派がアサド政権にとって代わることも現実としてありえる感じであった。なぜならそのような考え方をもつ人々が国の大半を占めていたからだ。 
    また戦闘がここまで長引くことも考えられなかった。長い国境線を接している隣国で、はるかに巨大な国で強力な陸軍を持つトルコが、その力を使って介入してくることも考えられたからだ。実際に2011年の半ばにシリアで内戦がはじまると、トルコのエルドアン首相はすぐにその内戦を終結させるようシリアに要求している。 
    ところがアサド政権の報道官はそれに屈する代わりにエルドアン首相をバカにする発言を行い、軍はトルコの戦闘機を撃ち落とすという行動をとったのだ。さらにそれまでにトルコ領内に繰り返し砲撃を行っており、トルコとの国境では車に爆弾をしかけて爆破させている。 
    ところが驚くべきことに、トルコ側からは何も復讐はなかった。その理由は、トルコ領内に大規模な少数派民族がいて火種をかかえており、彼らは政府を信用していないだけでなく、トルコ軍も信用していないからだ。 
    そういうわけで、トルコは権力を行使するどころか、むしろ機能停止状態であり、エルドアン首相はシリア内戦をすぐそばで眺める、単なる傍観者にしかなれていないのだ。 
    結果として、アメリカはトルコが支援した反政府勢力にたいして武器やインテリジェンス、それにアドバイスを行うことができず、シリアは無政府的な暴力による混乱に陥ることになったのだ。 
    内戦は小さな軍閥やあらゆる種類の危険な原理主義者によって闘われている。たとえばタリバン式のサラフィー派の狂信主義者は、熱心なスンニ派まで殺害しているのだが、これは彼らがスンニ派の異質なやり方をマネすることができなかったからだ。 
    スンニ派の原理主義者たちは無実のアラウィー派やキリスト教徒を殺しているのだが、その理由は単に彼らの宗教が違うからだ。そしてイラクをはじめとする世界中からのジハード主義者たちは、シリアをアメリカやヨーロッパにたいするグローバルなジハード運動の拠点にすることを宣伝している。 
    このような悪化する状況を踏まえると、どちらかの勢力が決定的な結果を出すことも、アメリカにとっては許容できないことになる。イランが支援したアサド政権の復活は、中東においてイランの権力と立場を上げることになるし、原理主義者が支配している反政府勢力の勝利は、アルカイダのテロの波を新たに発生させることになるのだ。 
    よって、アメリカにとって望ましいと思える結末は「勝負のつかない引き分け」である。 
    アサドの軍隊を拘束し、イランとヘズボラの同盟をアルカイダと共闘している原理主義の戦闘員たちとの戦争に引きこませておくことによって、ワシントン政府は四つの敵を互いに戦争をしている状態におくことなり、アメリカやアメリカの同盟国たちへ攻撃を行うことを防げるのだ。 
    これが現在の最適なオプションなのだが、これは不運であると同時に、悲劇でもある。しかしこれを選択することは、シリアの人々にとって残酷な仕打ちになるというわけではない。なぜならそれらの多くが全く同じ状態に直面しているからだ。 
    非スンニ派のシリア人は、もし反政府勢力が勝てば社会的な排除か虐殺に直面することになるし、非原理主義のスンニ派の多数派の人々は、もしアサド政府側が勝てば新たな政治的抑圧に直面するのだ。そして反政府勢力が勝てば、穏健なスンニ派は原理主義的な支配者たちによって政治的に排除され、国内には激しい禁止条項が次々と制定されることになる。 
    アメリカは「行き詰まり状態」を維持することを目標とすべきだ。そしてこれを達成する唯一の方法は、アサド側の軍隊が勝ちそうになったら反政府勢力に武器を渡し、もし反政府勢力側が勝利しそうになったら武器の供給を止めるということだ。 
    この戦略は、実はこれまでのオバマ政権が採用してきた政策である。オバマ大統領の慎重な姿勢を「皮肉な消極的態度だ」として非難している人々は、その対案を示すべきであろう。アメリカが全力で介入して、アサド政権をとそれに対抗している原理主義者たちをどちらも倒すということだろうか? 
    こうなるとアメリカはシリアを占領することになるが、現在アメリカ国内でこのような費用のかかる中東での軍事的な冒険を支持する人はほとんどいないだろう。 
    どちらか一方にとって決定的な動きをすることは、アメリカを危険にさらすことになる。現段階では「行き詰まり状態」が唯一残された実行可能な選択肢なのだ。
    互いに闘わせておけ、ということです。ルトワックのように、介入するなら中途半端はしないで、米軍を50年くらいはシリアに駐留させ、文明化した新しい世代の人間がでてくるのを待つ必要があります。

    しかし、現状ではそれは期待できません。何しろ、シリアのアサド政権、反政府派のいずれが勝ったにしても、反米的な政権ができあがり、米国は結局敗北することになり、勝利はないからです。

    そのようなところに、50年も米軍を進駐させたにしても、ますます混乱するだけであって、米国としては何ら得るところはありません。

    親米的な勢力がでてきたときには、それを助けて、勝たせて50年くらい米軍を進駐させ、民主的な新世代の人間がでてくるのを待つという選択肢も可能です。

    ただし、今回はアサド政権にロシアが後ろ盾になっているということがありますから、2013年にルトワック氏が上の記事を書いた頃よりは、若干複雑にはなっています。米国としてはある程度大規模な、武力行使が必要になるでしょう。ただし、ある程度アサド政権を叩いて、反政府勢力と拮抗させる程度に弱体化させることでしょう。

    その後は、ルトワック氏の主張しているように、反政府勢力側に兵器の供給を武器として使う「オフショア・バランシング」的なやり方をして、様子を見るという方式が現状では最も良いやり方ということになると思います。

    シリアのフメイミム基地で働くロシアの軍人。

    なお、ロシアとの対決を心配するむきもありますが、私はそれはさほど心配するべきではないと思います。

    確かに、ロシアは軍事的に強い軍隊を持ち、ソ連時代に培った軍事技術の粋を引き継いでいるので、脅威であることには違いなく、決して侮れるような相手ではありません。しかし、現在では経済の規模は韓国とあまり変わりありません。というか、GDPでは韓国についで世界13位であり、韓国よりも低い水準にあります。

    その韓国のGDPは、日本にたとえると、東京都と同じくらいです。東京都のGDPは、都市としてはかなり大きいほうの部類で、世界にはこれよりも小さな国々があるのは事実です。しかし、東京都程度のGDPの国が米国と戦ったとして、最終的に勝ち目があるでしょうか。最初から負けるのはわかりきっているので、東京都が米国と戦争はしないでしょう。

    ロシアも同じことです。現状の経済力では、周辺諸国に対しては影響力を及ぼすことはできますし、シリアのアサド政権に間接的に肩入れすることはできますが、アサド政権に直接肩入れしてロシア正規軍を大量投入して、内戦の矢面に立ち、アサド政権を勝たせてロシアの事実上の傀儡国家にすることなどはできません。

    そのため、米国がたとえイラクでどのような軍事オプションを選択しようとも、ロシアがそれに対して直接ぶつかることは避けるでしょう。たとえ、何らかの形でぶつかったにしても、ロシア側のほうから拡大することを避けるでしょう。

    以上のようなことを考えると、私は今回の攻撃は先回のものよりは、大規模にはなるものの、アサド政権を転覆させるほどではなく、アサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものになると思います。

    今後も、米国によるシリアに対する攻撃は続くこともあると思いますが、いずれもアサド政権と反政府勢力を拮抗させる程度のものになるでしょう。ただし、親米的な勢力、あるいは民主的な勢力がでてきた場合には、米国が本格的にイラクに駐留するというオプションを選択する場合もあるでしょう。

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    2018年4月12日木曜日

    バルト3国侵攻を視野に入れたロシア―【私の論評】北海道は既に中露両国の脅威にさらされている(゚д゚)!

    バルト3国侵攻を視野に入れたロシア

    対応急ぐNATO、危機はアジアにも、問われる日本の防衛態勢

    欧州で高まるロシアの脅威:次はバルト3国か?

     欧州でロシアの脅威が高まっている。

     欧州は冷戦後、久しく平穏を保ってきたが、2014年3月のロシアによるクリミア半島併合とウクライナ東部への軍事介入によって情勢が一挙に緊迫化した。ウクライナ東部での戦闘は今でも続いている。

    図表・写真はブログ管理人挿入 以下同じ

     これらの戦いは、「ハイブリッド戦」と呼ばれ、「力による現状変更」と指摘される侵略行動である。

     ロシアの次のターゲットは、(北から)エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の奪還ではないかと懸念されている。

     バルト3国は、1940年からソ連が崩壊する1991年までソ連領であった。これら3カ国は、1991年9月にソ連から独立した後、2004年に北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)にそれぞれ加盟した。

     1989年まで続いた冷戦時代には、NATO軍とワルシャワ条約機構(WPO)軍は東西ドイツ国境を挟んで対峙していた。

     ドイツの東隣に在るポーランドは、すでに1999年3月、NATOに加盟(EU加盟は2004年5月)しており、いわゆる「NATOの東方拡大」にともなって、現在では、バルト3国とポーランドが冷戦時のドイツに相当する「最前線」に位置している。

     これらのNATOの動きにも対抗するかのように、ロシアは、クリミア半島併合以降、軍事活動を劇的に活発化させている。

     ロシアは、2017年9月、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ウクライナなどでの国境付近で「ザパド(西方)2017」と呼ばれる、冷戦期以来、最大規模の軍事演習を行った。

     ロシア陸軍の演習はますます頻繁になっており、バルト3国に対する攻撃準備の一環ではないかとの観測が強まっている。


     また、ロシアは、バルト海での軍事活動を活発化させている。同海は、NATOとロシアの激しい神経戦の主要舞台となっており、ロシア軍機による「特異飛行(異常接近)」などによる飛行・航行妨害が、偶発的な衝突を引き起こす危険性を高めかねないとして懸念されている。

     それ以外にも、ロシア軍によるサイバー攻撃、情報操作、他国への脅迫などが頻発している。

     最近では、英国で、ロシアの元スパイの男性とその娘が神経剤で襲撃される事件が発生した。英国のテリーザ・メイ首相は、犯行に使われた毒物が旧ソ連で軍用として開発された神経剤「ノビチョク」(Novichok)」と特定されたと明言した。

    3月4日に襲撃された元スパイのセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア氏

     また、ボリス・ジョンソン外相は、「英国の街頭、欧州の街頭で、第2次世界大戦後初となる神経剤使用を指示したのは、彼(ウラジーミル・プーチン大統領)の決定である可能性が圧倒的に高いと、我々は考えている」と述べた。

     NATO欧州連合軍のフィリップ・ブリードラブ最高司令官(米空軍大将、2013.5~ 2016.5)は、在任間、ロシアは今後何をするか分からないと述べ、「過去数十年、欧州の安全保障の基盤となってきたルールや原則を、ロシアは根こそぎひっくり返そうとしている」と警鐘を鳴らしている。

    ポストモダンの思想に支配された欧州の油断

     冷戦が終わって間もなく、米国ではフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(渡部昇一訳、三笠書房、1992年)が発表された。


     社会主義陣営が瓦解し自由・民主主義陣営が戦いの最終勝利者となったいま、もはや本質的に「対立や紛争を基調とする歴史」は終わったという主張であった。

     それと符合するように、欧州でも英国外交官であるロバート・クーパーの『国家の崩壊』(北沢格訳 、日本経済新聞社 、2008年)に代表される脱近代(ポストモダン)の思想が現れた。

     マーストリヒト条約の調印によるEUの進展とグローバル化の動きがそれを後押し、日本を含めた欧米先進国において持てはやされた。

     脱近代の思想とは、

    (1)国家対立、民族紛争などを、またそもそも国民国家とか国家主権という概念を近代(モダン)世界のものとみなし

    (2)グローバル化が進み、近代を乗り越えた今日の脱近代の時代においては、国家とか主権という観念そのものが過去のものとなり

    (3)リアリストが唱えた国家や軍を中心とした伝統的な安全保障システムも過去のものになった。

     これからの国際関係は、道徳が重要で、国際問題は話し合いや国際法に従って解決でき、国際司法裁判所などの国際機関が画期的な意味をもつ、というものである。

     そのような風潮を背景に、冷戦後、欧州の多くの国では、国家による大規模な侵攻の脅威は消滅したと認識されてきた。

     顧みれば、これに類するリベラルな理想主義型の世界観や思想は、第1次大戦や第2次大戦後など、過去に幾度となく現われた。

     しかしNATOは、2014年2月以降のウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシアによる力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」に対応すべく、既存の戦略の再検討や新たなコンセプト立案の必要に迫られている。

     冷戦後の一時的な平和の到来が、人類が繰り返してきた歴史の現実から目を遠ざけてしまったのであろうか。「油断大敵」である。

     欧州の国防費や兵力は、冷戦の終結以降、ロシアがクリミア半島を併合するまでの数十年にわたり減少傾向が続いたが、最近になって大きな変化が生じている。

     そのためNATOは、脆弱なバルト3国がNATOに加盟した年から行ってきたバルト上空監視ミッションの規模を拡大し、即応性行動計画(RAP)に基づき、東部の同盟国におけるプレゼンスを継続するため、バルト3国及びポーランドに4個大隊をローテーション展開している。

     また、既存の多国籍部隊であるNATO即応部隊(NRF)の即応力を強化し、2~3日以内に出動が可能な高度即応統合任務部隊(VJTF)を創設した。

     それでもなお、ジェームス・マティス米国防長官は、ロシアの脅威増大に伴う同盟国の戦闘態勢は不十分であるとして、NATOに対し

    (1)意志決定を速め
    (2)軍の移動能力を高めるとともに
    (3)迅速な実戦配備を確実にするよう求めている。

     これに呼応して、EUは、共通外交・安全保障政策(CFSP)および共通安全保障・防衛政策(CSDP)のもと、安全保障分野における取組を強化しつつある。

     部隊や兵器の域内移動能力を高めることを主眼にした軍事版「シェンゲン」と呼ばれる行動計画を作成し、部隊・兵器輸送に関連する道路や橋、鉄道といったインフラ整備と規制・事務手続きの簡略化などについて必要な基準をまとめ、事業の優先順をきめて実施する手筈を整えている。

     欧州では、NATOとEUが連携し、政治・外交、経済、軍事、警察・刑事司法などが一体となってロシアの脅威に備える対処能力を高めようと動き出した。

    改めて問われる日本の防衛態勢

     NATOの貧弱とされる軍備態勢の問題は、日本にも当てはまる問題であり、等閑視することは許されない。

     昨年12月に公表された米国の「国家安全保障戦略」(NSS2017)では、中国とロシアを力による「現状変更勢力」、すなわち「米国の価値や利益とは正反対の世界への転換を図る勢力」として名指しで非難し、米国に挑戦し、安全や繁栄を脅かそうとしている「ライバル強国」であると明示した。

     そしてNSS2017を受けて2018年1月に公表された「国防戦略」(NDS2018)において、中国は 「軍事力の増強・近代化を追求し、近いうちにインド太平洋地域で覇権を築くことを目指している」とし、「将来的には地球規模での優位を確立し、米国に取って代わろうとしている」と指摘した。

     他方、ロシアは「周辺国の国境を侵犯したり、経済や外交などの政策決定に影響を及ぼしたりしている」と批判し、核戦力の拡大や近代化に対する警戒感を顕にした。

     前述のとおり、NATOはロシアの力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」による挑戦に直面している。

     それと対称的に、アジア太平洋地域で中国が仕かけている「サラミスライス戦術」や「キャベツ戦術」に「三戦」を交えた「グレーゾーンの戦い」に対して、我が国は課題とされる領域警備の問題を解決できたのであろうか?

     中国の弾道ミサイルの飽和攻撃によって自衛隊・在日米軍基地は作戦当初に破壊され機能マヒに陥る恐れがあるが、その代替として全国の民間飛行場などを基地として直ちに使えるような仕組みが作られているのか?

     同時に、民間人の避難のための輸送手段や施設、水・食料、医薬品などは準備できているのか?

     有事に錯綜する自衛隊と民間の陸海空輸送について、一元的に統制する組織があるのか?

     自衛隊の部隊を南西諸島へ緊急輸送する船舶や航空機は確保できるのか?

     はたまた、全国の橋や道路などのインフラは戦車を搭載した特大型運搬車(戦車運搬車)など重装備の規格に適し、輸送に耐えることができるのか?

     防衛産業には戦闘で急速に損耗する自衛隊の装備を急速生産できる体制が維持されているのか?

     装備だけでなく、自衛隊が一定期間を戦うために必要な弾薬・ミサイルなどは十分に備蓄されているのか?

     以上例示したのは、日本の防衛に必要なほんの一部であるが、いずれもしっかりした態勢が整っていなければならない重要な事柄である。

     今、欧州で高まるロシアの脅威に対して、NATOそしてEUは、立ち遅れを認めながらも、必死でその脅威を抑止し阻止しようと、実際に戦うことを前提とした態勢作りに着手している。

     では、インド太平洋地域において、中国の脅威に曝されている日本はどうしなければならないか?

     言うまでもなく、NATO・EUと同じように、中国の覇権的拡大に対応できる防衛態勢を整備することが急務であるが、前述のとおり、そのための課題は広範多岐にわたり、また時間のかかる難しい問題が残されていると指摘しなければならない。

     国を挙げ一体的に戦える態勢を作り上げない限り、紛争を抑止し阻止することは難しいのである。

    【私の論評】北海道は既に中露両国の脅威にさらされている(゚д゚)!

    ブログ冒頭のような記事にある脱近代(ポスト・モダン)の思想は一時もてはやされたのは事実ですが、それはほんの一時のことでした。

    世界は依然として、国民国家に「神に変わらぬ忠誠」を誓っています。インターネット時代だの、グローバリゼーションだの言われる昨今においても、世界、その中でもとりわけヨーロッパを見るとEUとは言いながらも各国の「國體」はしぶとく生き残り、ソ連の崩壊以降、昔の國體が次々に復活しています。

    ピーター・ドラッカーは「この200年を見るかぎり、政治的な情熱と国民国家の政治が、経済的な合理性と衝突したときには、必ず政治的な情熱と国民国家のほうが勝利してきている」(『ネクスト・ソサエティ』、ダイヤモンド社、上田惇生訳 2002年5月発行)と書いています。

    以下に、『ネクスト・ソサエティ』からそのまま引用します。
    最初にこれ(注:国民国家の崩壊)を言ったのがカントだった。南北戦争勃発の直前、1860年の穏健派も、サムター砦で最初の銃声が轟くまでそう考えていた。オーストリアハンガリー帝国の自由主義者たちも、最後の瞬間まで、分裂するには経済的な結びつきが強すぎると考えていた。明らかに、ミハイル・ゴルバチョフも同じように考えていた。 
    しかし、この200年をみるかぎり、政治的な情熱と国民国家の政治が、経済的な合理性と衝突したときには、必ず政治的な情熱と国民国家のほうが勝利してきている。
    そして英語圏の場合、90年前どころか、500年前に書かれた文章であっても国民国家を説く偉人らの書籍は、現在も誰もがほぼそのまま読んで理解することができ、歴史上の偉人が現在でもすぐそばにいるのです。

    国民国家を崩壊し、自らの版図におさめようという中国やロシアの試みは、こうした国民国家の信奉者からは大反撃を受けることになるでしょう。ただし、NATOが油断していたのは事実です。

    中国・ロシアによる自由主義の世界秩序に対する挑戦に関しては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
    支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!
    ロバート・ケーガン氏
    この記事は、昨年の2017年2月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部引用します。
     世界に国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という2つの重大な危機が迫っている。 
     米国は、第2次大戦後の70余年で最大と言えるこれらの危機を招いた責任と指導力を問われている。米国民がドナルド・トランプ氏という異端の人物を大統領に選んだ背景には、こうした世界の危機への認識があった──。 
     このような危機感に満ちた国際情勢の分析を米国の戦略専門家が発表し、ワシントンの政策担当者や研究者の間で論議の波紋を広げている。

     この警告を発したのは、ワシントンの民主党系の大手研究機関「ブルッキングス研究所」上級研究員のロバート・ケーガン氏である。
    ケーガン氏のこの論文の要約を以下に掲載します。
    ・世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきた。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきた。 
    ・しかしこの世界秩序は、ソ連崩壊から25年経った今、支那とロシアという二大強国の挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたった。 
    ・支那は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしている。ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっている。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れている。 
    ・支那とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止だった 
    ・だが、近年は米国の抑止力が弱くなってきた。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまった。 
    ・その結果、いまの世界は支那やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきた。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかない。
    トランプ政権は米軍の再増強や「力による平和」策を宣言しながらも、世界における超大国としての指導的立場や、安全保障面での中心的役割を復活させることには難色をみせています。

    しかしケーガン氏は、世界の危機への対策としては、米国が世界におけるリーダーシップを再び発揮することだといいます。

    ケーガン氏は、今回の大統領選で米国民がトランプ氏を選んだのは、オバマ政権の消極的政策のために世界の危機が高まったという認識を抱き、オバマ路線とは異なる政治家を求めたからだとみています。トランプ大統領は、まさに非常事態だからこそ生まれた大統領だということでしょう。

    そうして、日本人として認識すべきことは、自由主義の世界秩序に対する挑戦する国である、中国とロシアが、両方とも日本の隣国であるということです。

    中国に対する脅威に関しては、不十分とはいいながら、尖閣諸島での問題から大多数の国民から認識されて、はっきりと認識されるようになりました。

    しかし、ロシアの脅威はあまり認識されていないようです。中国の脅威というと、沖縄の脅威であるように、ロシアの脅威というと具体的には日本ではロシアに一番近い北海道の脅威ということになります。

    中国による北海道の脅威は、まだあまり多くの人々に認識されていませんが、それでもロシアの脅威よりは明らかになっていることがあります。

    たとえば、中国の北海道に対する間接侵略があります。すでに、中国は数千ヘクタールを超えた土地の買収を北海道で実施しています。さらに、中国は北海道の海岸線の土地を買い占めようとしていることも明るみに出ています。

    北海道の市町村では、中国友好都市協定を結ぶところも多いです。しかし、中国が北海道の海岸線の土地を買い占めようとするにはその背景があります。

    ヨーロッパからロシアの北極海沿岸を通って東アジアに至る「北極海航路」。最近までその一部がロシアの国内航路として利用されるだけでしたが、近年の地球温暖化により北極海の氷が減少し、航海の難しさが軽減されたため、ヨーロッパ・東アジア間の海上輸送におけるスエズ運河航路の代替ルートとして注目されるようになりました。

    中国がこの北極海航路を効率良く利用するためには、津軽海峡を超え、釧路と苫小牧等を北極航路の補給基地として利用することができればかなりやりやすくなります。中国としては、日本に土地買収企業を送り込み、北海道の市町村と友好協定を結び、いずれ北極海航路への基地化をすすめるという目論見があると思われます。

    さらに、北海道には、アイヌ問題があります。アイヌ利権というものがあります。アイヌ人であるなしは関係なく、自分がアイヌ人であると主張して認定を受ければ、その利権を享受することができるそうです。

    そのため、利権に群がる左翼系の人々も多いと聞き及んでいます。これら利権に群がる左翼系の人々は、アイヌ自治共和国など設立した場合どうなるでしょうか。

    無論、この自治共和国では外務大臣、総理大臣を定め、中国との友好条約を結ぶということも考えられます。そうなると、北海道在留の中国人を守るという名目で、人民解放軍を送り込むということも考えられます。

    このようなことは、空想に過ぎないと考える方もいらっしゃるかもしれません。これは、現実起こっていることです。チベット、ウイグル、トルキスタンこれらは、元々独立国でしたが、それこそ現在の北海道や沖縄のように間接侵略を受けた後に、人民解放軍が進駐してきて、中国の自治区になってしまました。

    このように、人民解放軍が、北海道に進駐する可能性もなきにしもあらずです。無論、いきなりではなく、土地買収に続き、正規軍ではない民兵を送り込み、準備をすすめ、いずれ人民解放軍を送り込むというハイブリッド戦を仕掛けてくる可能性が高いです。

    現在の日本は、それを阻止できるのでしょうか。沖縄だけではなく、北海道も危ない状況にあります。北海道知事や、市町村長はそのことを理解しているのでしょうか。

    そうして、これは中国の脅威です。ロシアによる北海道への間接侵略については、まだ明らかにはなっていませんが、それでもすでに明らかになっていることはあります。

    2014年8月、ロシア海軍はそれまでにない大規模な訓練を実施し、日本周辺の極東太平洋地域で敵前上陸作戦を含む軍事訓練を展開しました。その後もロシアは大規模な演習を繰り返しています。

    ロシアのミサイル駆逐艦ワリャーグ

    ロシアがアジア極東の海軍力を増強し、日本とアメリカにとって新たな脅威になっています。プーチン大統領はアジア極東戦略を強化する重要な要素として日本との対決を明確にしているだけでなく、北方領土を日本に奪われないために海軍力を強化しています。

    アメリカ海軍専門家によると、プーチン大統領は今後、最新の原子力空母や潜水艦、戦車上陸用舟艇などを増強しウラジオストクに集結させます。またフランスから最新鋭のミストラル型強襲上陸用空母を4隻購入する計画をたていました、そのうちの二隻をウラジオストクに配備することをすでに決めました。

    プーチン大統領はウラジオストクだけでなく、かつて日本領であった南樺太のユジノサハリンスクの海軍と空軍基地を増強しています。さらに北方の千島列島先端にも太平洋艦隊のための海軍基地と空軍基地を作っているだけでなく、後方支援基地としてロシア本土沿岸地域に、数カ所の海軍基地と空軍基地を建造していることをアメリカ軍が確認しています。

    ウラジオストクから樺太、千島列島さらには、ベーリング海峡、ロシアの沿岸のロシア太平洋艦隊の基地が強化されたり、新たに作られたりすれば、日本にとって大きな脅威になります。とりわけ注目されるのはウラジオストクに配備される、ミストラル型揚陸艦を中心とする上陸用集団の強化です。

    ミストラリ型揚陸艦

    ロシアがウラジオストクを中心としてロシア太平洋艦隊を強化しているのは、軍事的に見るとアメリカの力の後退によって生じる力の真空をうめようとしているからです。この動きの背後には中国の軍事力拡大に対する警戒がりますが、基本的には日本を敵視し、北方領土を返さないという決意の表明です。

    現在の日本の人々が留意すべきは、こうした状況のもとで西太平洋から後退しつつあったアメリカが、トランプ大統領の登場により、ようやく再びアジアに関心を持ち本当の意味での抑止力を行使することを目指すようになりましたが、中露に本当に対抗できるようになるには、10年くらいはかかるかもしれないということです。

    そのアメリカの後を襲うべく、経済力をつけた中国が軍事力を拡大しているのですが、資源を中心に伸ばしつつあるロシア経済と軍事力の拡大は、中国のそれを上回る勢いです。しかもロシアはもともと軍事的に強い国だということを忘れるべきではありません。

    中国は旧ソビエトが建造した古い空母を買い入れ、アメリカの技術を盗んでステルス戦闘機を作ったりレーダーを開発したりしていますが一部、衛星技術で成功しているだけで、アメリカの専門家は中国の軍事力を高くは評価していません。

    しかし、日本の国際戦略、外務省の外交、国民の憲法論争などを見ていると、その殆どが、いわば「張り子の虎」である中国の軍事的脅威に関心を奪われているようです。中国の脅威は軍事的に脅威というよりハイブリット戦の脅威といえます。それに対して、ロシアの軍事的に脅威は「張り子の虎」ではなく、現実の脅威です。

    集団的自衛権にしても、中国の脅威とそれに対応する東南アジアの動きに呼応するものに過ぎないようです。真に日本の安全を図ろうとするならば、もう一つの強力な敵、プーチン大統領のロシアがもたらす危機に対処する戦略を、ただちに構築しなければならないです。

    ロシアは日本に対してはハイブリット戦略をとりにくいです。なぜなら、ロシア人と日本人とは人種的に異なり、容易に見分けがつくからです。さらに、言語的にもロシア語は、日本国内ではほとんど通じません。

    さらに北海道には、現在のロシアの領土からの引揚者も多く、終戦直前のロシアの卑劣な参戦やその後の多数の将兵をシベリア送りにした非道についても知られているので、ロシアに親和的な人は少ないからです。特に高齢者はそうです。

    このようなことから、日本に対して、中国のようないわば人民解放軍投入の前の準備としてのハイブリット戦略はとるのは難しいです。当然のことながら、日本に対しては軍事力で対抗するものと考えられます。さらに、北海道に接するオホーツク海は未だにロシア戦略原潜の聖域であることを忘れるべきではありません。

    中国があれだけ南シナ海にこだわるのは、聖域にしうる水深の深い海域が中国の近くにない中国が、水深の深い南シナ海を中国原潜の聖域にしたいからです。ロシアはすでにオホーツク海を聖域としているわけですから、ここを容易に手放すはずもなく、今後はさらにこの地域の拠点を拡大していくことでしょう。

    いずれにせよ、日本としては、北海道は既に中露の脅威にさらされていることを認識したうえで、安全保証を考えなければならないということです。



    沈むハリウッド、日米コンテンツ産業逆転の理由 ―【私の論評】ポリティカル・コレクトネスに蝕まれたハリウッド映画の衰退と日本のコンテンツ産業の躍進

    沈むハリウッド、日米産業逆転の理由 ■ Forbs Japan日本編集部 まとめ 日本のコンテンツ産業、特にアニメが国際的に人気を博しており、非英語番組の需要が増加中。 米国のZ世代は日本のアニメを好み、動画配信やゲームの普及がブームを加速させている。 日本のコンテンツ全体が注目...