2018年4月27日金曜日

【南北首脳会談】南北首脳が共同宣言に署名 「核のない朝鮮半島実現」―【私の論評】米国の北朝鮮政策で蚊帳の外は日本ではなく韓国(゚д゚)!


共同宣言に署名し、笑顔を見せる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と
韓国の文在寅大統領=27日、板門店の韓国側施設「平和の家」

 首脳会談を行った韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は27日午後、南北軍事境界線にある板門店で共同発表を行い、金委員長は「すべての合意事項を徹底履行する」と強調した。

 両首脳はこれに先立ち、共同宣言に署名。同宣言では「南北は完全な非核化を通して、核のない朝鮮半島を実現するという共同目標を確認した」と表明した。

 また、双方の当局者が常駐する南北共同連絡事務所を北朝鮮の開城(ケソン)に設置することで一致。年内に朝鮮戦争の終戦宣言をし、停戦協定を平和協定に転換するため、南北と米国の3者、または南北と米中の4者会談の開催を積極的に推進していくことも明記された。

【私の論評】米国の北朝鮮政策で蚊帳の外は日本ではなく韓国(゚д゚)!

米朝首脳会談に意欲をみせるトランプ大統領

アメリカのトランプ政権が声明を発表し、今回の南北会談について「歴史的だ」と評価。「我々は朝鮮半島の人々の幸運を祈る」としています。

また、「我々は対話が朝鮮半島全体の将来の平和と繁栄に向けた進展となることに希望を抱いている」と表明しました。

米朝首脳会談については「数週間後に予定されている会談準備の活発な話し合いが続くことを楽しみにしている」と期待感を示しています。

とはいいつつ、トランプ政権は北朝鮮が過去のように裏切った場合のことも想定して、そのために準備もしています。

米国は、1年以上も時間をかけて北に武力行使をするための準備をしてきました。それについては、昨日もこのブログに掲載したばかりです。昨日の記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮に騙されるな! 核兵器開発は完了した―【私の論評】北朝鮮だけでなく米国も時間稼ぎをしてきたという現実を見逃すな(゚д゚)!
ポンペオ氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を以下に引用します。
ポンペオ国務長官が、CIA長官であったときの今年1月23日、ワシントン市内の政策研究機関で講演しました。ポンペオ氏は北朝鮮の金正恩体制による核・弾道ミサイル開発の目的について、米国からの抑止力確保や体制維持にとどまらず、「自らの主導による朝鮮半島の再統一という究極の目標に向けて核兵器を活用しようとしている」との認識を明らかにしました。 
ポンペオ氏は、もし北朝鮮が米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に成功したとすれば、「次なる必然的な段階」は、北朝鮮がICBMを量産して「複数発を米本土に同時に発射できる能力を確保することだ」と指摘しました。 
また、北朝鮮によるミサイル開発の進展状況について、「ほんの数カ月先」に米本土を攻撃可能になるとの認識を示しました。その上で「私たちは、今から1年後も『北朝鮮が米本土攻撃能力を確保するのは数カ月先だ』と言うことができるように取り組むことだ」と述べ、外交や制裁圧力などを通じて北朝鮮にさらなる核実験やミサイル発射に踏み切らせないようにする方針を示唆しました。 
同氏はさらに、米情報機関による北朝鮮関連の情報収集能力がこの1年間で大幅に向上していると強調しました。

この発言からもわかるように、米国も過去1年間時間稼ぎをしていたのです。だからこそ、過去においては空母打撃群を3つ同時に朝鮮半島沖に派遣したりして、圧力をかけたのですが、軍事攻撃にはいたらなかったのです。

この時間稼ぎをせずに、すぐに軍事攻撃をしていたら、大きな戦争になりそれこそ韓国や日本にも大きな被害がでるとともに、北の軍事力が温存され泥沼化していたかもしれません。それを防ぐために、時間稼ぎをしてきたのです。

この時間稼ぎによって得られた情報そのものや、情報収集能力は一般人の想像をはるかに超えたものになっていると思います。核関連施設の位置はもとより、通信施設の場所や、インフラ関連情報、武器や人員の配置などを含め、ありとあらゆる情報が蓄積されるだけでなく、日々更新されていることでしょう。

今の米国は、北朝鮮をサイバー攻撃によって、北朝鮮社会を機能不全に陥れることも可能だと思います。機能不全に陥ったところをピンポイントで攻撃して、核関連施設のすべてを破壊することも可能です。
北朝鮮が核開発のための時間稼ぎをしてきたのと同時に米国も北朝鮮への軍事攻撃のための時間稼ぎをしてきたのです。そうして、米国は北朝鮮を攻撃するにしても、今やあらゆる種類の実行可能なオプションを選択できるようになっているとみるべきです。

北朝鮮の核関連施設のみを爆撃や、ミサイル攻撃で破壊するというオプションもあれば、金正恩の斬首というオプションも当然のことながらあるでしょう。サイバー攻撃を加えて、北朝鮮の社会を機能不全に陥れるというものもあるでしょう。

さらには、陸上攻撃に加えて多数の要員を派遣して、最終的に北朝鮮を占領するというものもあることでしょう。あるいは様々な複数のオプションを組み合わせたものもあるでしょう。

ありとあらゆる想定のもとに、シミレーションなども行い、様々な準備をしていることでしょう。

輸送機に搭乗しアフガンに派遣される米兵

そうして、このようなことをうかがわせる出来事も起こっています。ドナルド・トランプ現在空席の駐韓大使に、米海軍屈指の“タカ派”として知られるハリー・ハリス米太平洋軍司令官(海軍大将)を指名する方針を固めたことが24日にわかっています。

日本人を母に持ち、米海軍屈指の“タカ派”として知られたハリス氏を駐韓大使とすることで、トランプ氏は、北朝鮮におもねるばかりの韓国への「お目付け役」「日韓のパイプ役」を担わせるつもりなのでしょう。

それにしても、世界の平和と安定のために、北朝鮮の「完全非核化」を最優先させる国際社会と、韓国の認識のズレは、どこから来ているのでしょうか。

北朝鮮は制裁で追い詰められて、『親北派』の文政権を利用して制裁破りや米国と話をつけようと、今年初めに方向転換したとみられます。ところが、文氏は舞い上がって、一番重要な『非核化』から目がそれています。韓国マスコミも追従しているため、国内では『今こそ統一だ』というお祭り騒ぎになっているのです。

韓国が現実認識力を失っているとするならば、南北首脳会談は平和につながるどころか、北朝鮮を一方的に利する結果になりかねないです。

南北首脳会談では朝鮮戦争を正式に終結させるとの誓いを盛り込んだ共同宣言を発表しています。これは、何らかの形でいずれ平和条約を締結することを意味しています。

その先にあるのは、南北の緩やかな統一で、最後には『赤化統一国家』ができる恐れがあるのです。そうなると38度線が朝鮮海峡、あるいは対馬海峡に下りてくることになります。日本は米国との関係を一層強めて対抗すべきです。

米国もそのように考えてるようで、先にも述べたように、ハリス氏は今月26日に安倍総理を表敬訪問しています。

26日安倍総理を表敬訪問したハリス太平洋軍司令官

ハリス氏は、日系軍人として米軍で最高位。陸海空を統率する太平洋軍の最高司令官です。退役の挨拶に礼装で安倍首相を表敬しました。南北首脳会談が話題になっていますが、このハリス氏がトランプ政権で1年3カ月も不在だった駐韓国米国大使になります。

ハリス氏は太平洋軍司令官在任中に中共が解任を要求した人物です。 そして退役後は豪州大使に内定していたのを、このタイミングでひっくり返しての人事です。 同氏は対中強硬派です。

これによって、日米で韓国を監視する体制が整ったといえます。すでに、文在寅は、監視が必要な危険人物であると米国からはみられているのです。

最近、日本は北朝鮮問題に関しては「蚊帳の外に置かれている論」という奇妙な言説があります。

以上のようなことを知ると、蚊帳の外に置かれていのはむしろ「韓国」であるといえます。

以下のことに皆さんは気づいているでしょうか。南北首脳会談、米朝首脳会談の話が持ち上がってその具体的な日取りもきまっていなかった時期に、安倍総理は米国を訪問して、これらの首脳会談に関してトランプ大統領と打ち合わせの機会を持っています。

しかし、文在寅はそのような機会を持っていません。トランプ大統領が意図的にそのような機会を持たなかったのでしょう。なぜなら、危険人物である文在寅に首脳会談の前に会って打ち合わせをすれば、トランプ大統領の腹の中が文在寅から金正恩に伝わってしまうからです。

それでは、トランプ大統領は、金正恩に腹を読まれた状態で、米朝会談に臨まなければならなくなります。それをトランプ大統領は避けたのでしょう。日本では、特定秘密保護法が2014年に成立しています。もしこの法律が成立していなければ、日本も蚊帳の外に置かれたかもしれません。

文在寅はこれからも、日米の対北朝鮮政策に関して蚊帳の外に置かれ続けるでしょう。

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2018年4月26日木曜日

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 野党は審議拒否でなく法改正対応案を提出すべき―【私の論評】野党は本来政府の統治を監視し間違いがあれば正すべき存在(゚д゚)!

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 野党は審議拒否でなく法改正対応案を提出すべき

先日、あるラジオ番組に出演した。といっても、スタジオには行かずに、10分弱の携帯電話での出演なので、気楽に対応できる。

案件は、財務省の福田事務次官(当時)の辞任に関することだった。

野党6党合同ヒアリング

今の国会の惨状は見かねる

  まず、福田事務次官の退職金5300万円が高すぎないかというスタジオのコメンテーターからの問いかけだ。筆者は、その感想は人によって違うだろうが、退職金計算は法律によって決められていると答えた。筆者は高すぎるとの答えを期待されていたようだが、元官僚らしい事務的な答えにスタジオは意表を突かれたようだった。

  次に、今回のような不祥事に対して、何かすべきことはないかという問いだった。筆者は、20年前に「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」があって、そのときには、大蔵省解体といって、当時の大蔵省から金融行政部門が分離されたといった。

ノーパンしゃぶしゃぶで一躍有名になった「楼蘭(ローラン)」のパンフレット
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

   それに対し、そうした意見がなぜ今の財務省の内部から出てこないのかと聞かれた。そのコメントを聞いたとき、組織解体論はその組織から出てくるはずがないだろうと思ったが、ラジオでの答えは、そうした官僚組織の対応は法改正によって行うので、立法府である国会議員がやるべき仕事であるといった。その答えに、スタジオは納得していない雰囲気だったので、今の国会では、野党は(維新を除いて)審議拒否している。官僚の不祥事に文句をいうには、法改正案を提出して対応すべきといった。

   正直いって、ラジオ番組の雰囲気になじまなかったのかもしれないが、今の国会の惨状は見かねる。

野党6党合同ヒアリングは「パワハラ」か

    吉村洋文・大阪市長が24日午前の衆院厚労委に参考人として出席したが、野党6党は審議拒否で欠席した。先日も、国会で参考人を呼んでおきながら、野党6党は参加しなかったが、これは忙しい中で出席している参考人に失礼だろう。

吉村洋文・大阪市長

   野党6党は、麻生財務相の辞任などを要求して審議拒否なのだが、驚くべきは自らが共同提出した生活保護法改正案の審議も拒否している。これは、立法府の国会議員としての自己否定になる暴挙だ。

    国会議論を拒否しながら、野党6党合同ヒアリングを開き、そこに官僚を呼びだして、連日つるし上げている。

   そこに出席している官僚は、国会で政府参考人として答弁する局長レベルではなく、答弁できない課長レベルの人だ。当然のことながら、彼らが役所から与えられている発言権は極めて小さいので、同じ答弁を繰り返さざるをえない。野党6党は、相手の官僚が同じことを繰り返しまともな反論ができないことを知りながら、罵倒している。

   この光景はテレビでごく一部は報道されるが、ネット上では全体が流れている。全部を見たら、1時間ほどの野党議員による官僚への「パワハラ」に見えなくもない。

    財務省不祥事にはいいたいことが山ほどあるのは理解できる。財務省解体、消費増税ストップなど筆者もいろいろな意見がある。国会議員は、そうした意見を立法によって実現できる。

    国会での審議拒否ではなく、まともな法改正対応案を国会に提出して、国会議員としての職務をおこなうべきである。国会場外で答弁能力のない下っ端官僚を怒鳴るより、国会において対応法案を提示し大臣と議論して欲しい。

++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「大手新聞・テレビが報道できない『官僚』の真実」(SB新書)など。

【私の論評】野党は本来、政府の統治を監視し間違いがあれば正すべき存在(゚д゚)!

この野党の審議拒否に関しては、テレビ報道でも批判されています。本日バイキングを見ていたら、さすがに野党の審議拒否に関しては否定的なコメントがなされていました。

さらに、驚くべきことに、野党の議員は午前中には、審議拒否をしながら、午後の園遊会にはちゃっかり参加している野党議員が大勢いたことが明らかになりました。

自民党の宇都隆史参議院議員のFacebookのコメントを以下に掲載しておきます。
春の園遊会、午前中までの土砂降りが嘘のように、晴れ間が見えました。両陛下の御健康と皇室の弥栄を祈念申し上げます。 
しかし、午前中の本会議も審議拒否、国会議員としての本分を放棄しているにもかかわらず、園遊会にはちゃっかり出て来て飲み食いする野党議員の数々…諸君、お天道様に恥ずかしくはないかい?

通常の神経なら、園遊会の参加は見合わせても国会の審議には出席するというのが常識だと思います。したがって、国会を審議拒否で出席しないというのなら、園遊会への参加も見送るべきでしょう。

もう野党議員は、次の選挙では当選するかどうかもわからないので、議員である間に議員として享受できる名誉、特に天皇陛下臨席の園遊会には何が何でも参加したいということでしょうか。

本来なら審議拒否などしないで、国会審議に参加した上で、園遊会にも参加すべきだったでしょう。

これは、常識を疑う行為ですが、そもそも野党の議員らは、政府や国会の役割など全く理解していないのではないでしょうか。

先日もこのブログに掲載したことですが、政府の仕事の本筋は日本という国の統治です。実行することは、本筋ではありません。これに関しては誰も否定できないでしょう。これを否定するような人は、そもそも政治を語る資格がありません。

しかし、「統治」とは一体何をすることなのかと、問われるとすぐに答えらない人もいるかもしれません。これは、社会の中であらゆる組織において実際に「統治」に関わる人の数が圧倒的に少数だからだと考えられます。それに、学校などでもまともには教えられていません。

一般的な辞書の定義だと統治とは、「特定の少数者が権力を背景として集団に一定の秩序を付与しようとすること。政治とほぼ同義に用いられることが多いですが、厳密に解すれば、統治は少数の治者と多数の被治者との分化を前提とし、治者が被治者を秩序づけることを意味するのに対して、政治は、少なくとも、対等者間の相互行為によって秩序が形成されることを理想としている」などと定義されています。

しかし、これでは「統治」の本質をあらわしていません。特に政府の役割としての「統治」をあらわしていません。この政府の役割としての「統治」については、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ただ事ではない財務省の惨状 同期ナンバーワン・ツー辞任 ちやほやされてねじ曲がり…―【私の論評】統治と実行は両立しない!政府は統治機能を財務省から奪取せよ(゚д゚)!

詳細は、この記事ご覧いただくものとして、この記事から政府の役割としての統治に関する部分のみを引用します。

"
経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。
 といいます。
"
野党はこの政府の役割である「日本国の統治」ということをほとんど理解していないのだと思います。だからこそ、高橋洋一氏が指摘するように「野党6党合同ヒアリングを開き、そこに官僚を呼びだして、連日つるし上げている。 そこに出席している官僚は、国会で政府参考人として答弁する局長レベルではなく、答弁できない課長レベルの人だ」のようなことをしているのです。

財務省の課長レベルの人は、あくまで実行をする部隊であって、統治とは直接関係ありません。本来政府の「決定と方向付け」に従い、実行をする人です。

ただし、財務省に問題がないとはいいません。しかし、その問題の本質は野党が批判する、文書書き換えやセクハラなどの問題ではありません。これは、実行に関する問題であって、統治に関する問題ではありません。だからといって、一切無視するなともいいませんが、これは明らかに本筋ではないのです。

財務省の問題の本質は、財務省が中途半端に「統治」をしていることです。特に財政に関して政府の決定に従うのではなく、「増税」の意思決定をしたり、「緊縮財政」の意思決定をして、それを実行しようとして官邸とバトルをしたり、マスコミや国会議員、識者などの働きかけるなどの明らかな越権行為があるということです。

日本などの民主的な国家においては、国の統治は選挙という民主的な手続きを経て議員となった人から構成される政府によって行われるべきものです。選挙という民主的な手続きを経ていることが、「統治の正当性」を保証するのです。

しかし、官僚は選挙を経てなるものではないので、統治の正当性はないのです。本来統治してはいけないのです。彼らが行うべきは統治ではなく、実行なのです。マックス・ウェバーが指摘していたように、官僚組織は、すでに決まったことを効率よく実行するための組織なのです。

財務省が実質的に財政の方向性を定めるような統治機能の一部を担い、統治と実行を両立させようとするがゆえに、統治能力が麻痺し、デフレの真っ只中において増税するなどの方針を定めるなど、まともな財政政策ができなくなるのです。

野党は、このような統治に関することを問題とするのでなく、実行レベルの問題ばかり追求し、政府を批判します。実行レベルの問題は、本筋ではありません。本来ならば、財務省が中途半端に統治をしている実体を批判すべきです。

そうして、それは国会の審議の場で、財務大臣や政府を相手に批判すべきなのです。そうして、批判するだけではなく、実際に財務省が中途半端な統治を行っていることにより、政府の統治に瑕疵(かし)が生じている実体を明らかにし、それを防ぐ手立てとしての法律の改定や新設を政策案とともに提案すべきなのです。

無論、政府も財務省から中途半端な「統治の機能」を取り上げるべきなのです。野党は、政府を批判するなら、実行レベルの事柄を批判するのではなく、財務省から「統治の機能」を取り上げることをしない政府と統治機能を堅持しようとする財務省の官僚を批判すべきなのです。

民主主義体制下の国会議員の仕事の本質は、政府が民主主義的な手続きにのっとり統治ができるようにするために、監視をしたり、瑕疵(かし)があればそれを正すために法律案を出したり、政策案を出すことです。野党は本来政府の統治能力の問題を批判し正すべき存在のはずです。

しかし、野党の議員を責めているだけでは、何の問題の解決にもなりません。実際、今の彼らの大部分は選挙に勝つための選挙互助会を求める烏合の衆に過ぎず、まともにものを考えられないようです。だから、頓珍漢な行動をとっていても自分たちは気づかないのです。

本当に必要なのは以前このブログにも掲載したことのある、立憲主義(ブログ管理人注:立憲民主党とは関係ありません。むしろ立憲民主党こそ、立憲主義から程遠い存在です)に基づいた政府の統治能力を強化する、政治システム改革なのです。これを実行しなければ、今日の日本の政治の問題はいつまでたっても解決することはなく、同じようなことが何度でも繰り返されることになります。

この問題は短期で解決できるものではないです。少なくとも、安倍政権には方向だけは定めていただきたいものです。

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2018年4月25日水曜日

北朝鮮に騙されるな! 核兵器開発は完了した―【私の論評】北朝鮮だけでなく米国も時間稼ぎをしてきたという現実を見逃すな(゚д゚)!

北朝鮮に騙されるな! 核兵器開発は完了した

米国の朝鮮半島専門家が明かす北朝鮮の悪魔の交渉術



北朝鮮の国旗


 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が4月20日、核兵器や長距離ミサイルの実験中止を宣言した。日本や米国を含む国際社会の大方は、北朝鮮の核兵器破棄、つまり非核化が前進するとして、この宣言を歓迎している。

 しかし、現実はまったく違うと強調したい。北朝鮮の声明をざっと読むだけでも、実は核武装の完成の宣言であることがすぐに分かる。「核の兵器化」が完了したから、核実験は中止すると述べているのだ。非核化とは正反対の宣言なのである。

 北朝鮮のこうした言動と国際社会の反応をみると、これまでの北朝鮮の欺瞞の交渉術の巧みさが想起される。1990年代以来、ワシントンで北朝鮮の核武装と米国の反応を取材し報道してきた私にとっては、不吉な予感さえ覚えさせられるのだ。

宣言の中身は「核の兵器化の完結」

 北朝鮮の今回の核実験中止宣言は、核兵器の放棄にはなにも触れていない。非核についてはまったく言及していないのだ。

 金正恩委員長の報告は、冒頭に近い部分で以下のように述べていた。

「核戦力の建設を5年に満たない短期間に達成した勝利は、並進路線の偉大な勝利である。(中略) 経済と核建設を並進させる路線が示した課題が貫徹された。

 核開発の全工程が、科学的に、順次行われたし、運搬攻撃手段の開発も科学的に行われ、核の兵器化の完結が検証された」

 また、同時に発表された北朝鮮労働党中央委員会総会の決定書要旨には、次の記述があった。

「並進路線の過程で核実験や運搬手段(弾道ミサイル)開発の事業を順次行い、核の兵器化を実現したことを厳粛に宣言する」

 要するに、北朝鮮は「核の兵器化の完結」を宣言したのである。だからもう核の実験も長距離弾道ミサイルの実験も必要がないということなのだ。これは非核化とは正反対の宣言である。米国が期待する北朝鮮の核兵器の「完全で検証可能で不可逆的な破棄」とはまったく逆なのだ。

 北朝鮮の核問題に関する表明や誓約が虚構であり、欺瞞だった実例はこれまでにもあった。1994年の米朝核枠組み合意では、核放棄をはっきり約束しながら密かにウラニウムでの核爆弾製造を続けていた。また、2005年には6カ国協議で「すべての核兵器と核計画を放棄する」ことを公約しながら、その直後に北朝鮮当局は「軽水炉の提供がなければ、核放棄は論じられない」という逆転の声明を発している。

繰り返される「悪魔のサイクル」

 こうした北朝鮮の過去の言動パターンを踏まえて今回の展開を見ていると、以下のような論評を思い出した。

「北朝鮮は得たいものを得るために、協定や条約を結ぶことではなく、そのための前段階の交渉プロセスから利益を引き出す」

 この言葉は、米国政府を代表して北朝鮮との裏交渉に長年かかわったチャック・ダウンズ氏の2005年のコメントである。前記の6カ国協議での北朝鮮の誓約破りを考察して発せられた論評だった。

チャック・ダウンズ氏

 ダウンズ氏は国防総省などの政府機関での活動のほか、民間の「北朝鮮人権委員会」のトップも務めた朝鮮半島情勢の専門家である。私がダウンズ氏のこの言葉を想起したのは、今の状況がこの「前段階の交渉プロセス」に合致するからだ。

 周知のように金正恩委員長はまもなく韓国の大統領との南北会談と、米国大統領との米朝会談に臨む姿勢をみせている。その両首脳会談に備えての水面下の「前段階の交渉プロセス」が、まさに今なのだ。

 ダウンズ氏は1990年代末に『北朝鮮の交渉術』という本を出している。そのなかで北朝鮮の対外交渉術として、相手に「楽観」「幻滅」「失望」という心理状態を順番に抱かせる「悪魔のサイクル」という特徴を指摘していた。

 悪魔のサイクルについて同氏は次のように説明する。

 「北朝鮮は自国の政策の基本が変化したように振る舞い、相手国に有利となりそうな寛容な態度を示唆する。相手が楽観へと転じ前に出てくると、自国が欲する制裁解除や経済援助を取りつける。だが、その後に態度を急変させ、相手を幻滅させる。北朝鮮はさらに交渉の事実上の打ち切りまでに至り、相手を失望させる。相手は最悪の状態のなかで、やがてまた北朝鮮の軟化を期待し、楽観への道を歩むことになる」

 簡単にいえば、相手を揺さぶって、騙し、取りたいものだけを取るという、したたかな交渉術だというのだった。

 ダウンズ氏がこうした考察を私に語ってからすでに十余年経ったが、また同じ歴史が繰り返されようとしているということだ。北朝鮮への楽観が生まれつつある今の日本でも、さらには米国でも念頭に入れておくべき分析だろう。

【私の論評】北朝鮮だけでなく米国も時間稼ぎをしてきたという現実を見逃すな(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で、古森氏が主張する"宣言の中身は「核の兵器化の完結」"という読みは全く正しいと思います。

これに関しては、この記事でも同じ読みを掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮が核実験場を廃棄、ICBM発射中止 党中央委総会で決定―【私の論評】米朝首脳会談は決裂するか、最初から開催されない可能性が高まった(゚д゚)!
20日、平壌で開かれた朝鮮労働党の中央委員会総会で挙手する金正恩党委員長

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では朝鮮労働党の中央委員会総会での核に関する決定を以下のように解釈しました。
① 核の兵器化が完結した現在、検証はすでに終了している。当面は、もう実験の必要はない。 
② 従って発射実験は不要。核実験場も閉鎖する。
 もう、核兵器は実戦配備ずみなので、当面実験の必要もなく、発射実験は不要であり、核実験場の閉鎖するということです。

金正恩の発言は、このようにしか受取りようがありません。日本や米国を含む国際社会の大方は、北朝鮮の核兵器破棄、つまり非核化が前進するとして、この宣言を歓迎しているというのは大きな間違いです。

どうしてこのようなことになるかといえば、もうすでに、日米特に日米の世論は北朝鮮の悪魔のサイクルに取り込まれつつあるからでしょう。

そうして、この記事では、以下のような結論を下しました。
私の感触では、これでさらに米朝首脳会談は決裂するか、そもそも最初から開催されない可能性が高まったと思います。それに続く日朝会談も同じ運命をたどるかもしれません。
トランプ政権は当然のことながら、過去に何度もだまされてきたのですから、いわゆる悪魔のサイクルについても気づいているでしょう。

だまされたふりをして、北朝鮮の様子を探っているというのが、事実でしょう。米国は北朝鮮がリビア方式の核廃棄に応じない限り、制裁をさらに強化するか、軍事攻撃も辞さない構えです。

リビア方式で北朝鮮が、核を廃棄することを確約し、実際にそれを実行しているところを何らかの方式で直接監視出来ない限り、米国は一切妥協しないでしょう。それに対して、金正恩は核を廃棄するつもりは全くありません。だから、悪魔のサイクルをまわして、米国を籠絡しようとするでしょう。

しかし、トランプ政権はその籠絡には乗らず、核放棄を米国の監視下で行う以外には、核放棄をしたとはみなさないと宣言することでしょう。

これは、もう水と油です。どこかで決裂するのは目にみえています。米国は制裁強化を続け、北朝鮮の体制を崩壊に導くか、それで崩壊しなければ、まずは爆撃等により核関連施設を破壊することになるでしょう。

北朝鮮は、自分たちが時間稼ぎをしているつもりでいるかもしれませんが、同時に米国も時間稼ぎをしているということを忘れているかもしれません。

米国の時間稼ぎとは何かといえば、戦争に突入するための準備のための時間稼ぎです。

いま、米海軍全体の6割の艦船が西太平洋に展開しています。

嘉手納、横田、三沢、岩国、そして韓国・烏山の米軍基地は輸送機、戦闘機、戦略爆撃機で満杯になっています。空爆が近づいている証拠です。

攻撃の直前に、どうしてもやらなければならないのは国連決議です。総会決議までは無理でも、40〜50カ国が参加する拡大安保理で「北朝鮮の核・ミサイル開発は世界の脅威だから軍事行動をとる」と決議することになるでしょう。

そうして、米国の最初の攻撃は、ラージ・ウォー(大きな戦争)にはならないでしょう。マネージド・スモール・ウォー(管理された小さな戦争)を急いでやって、アメリカはさっさと撤退し、被害を最小限度にすることでしょう。

アメリカのマティス国防長官は、「ソウルや東京に被害が発生しない、民間人が犠牲にならない作戦計画はある」と断言していました。実際、米国はそのような戦争を実行するでしょう。

現在の戦争は最先端の電子攪乱戦です。サージカル・アタック(外科手術的攻撃)といいますが、外科手術の前に麻酔を打つように、北朝鮮の通信網、コンピュータ・ネットワーク、そして電力施設を麻痺させてから空爆に踏み切ることになるでしょう。

北に、反撃の余力はありません。まずは、通常の先進国にみられる、防空体制というものが北朝鮮にはありません。迎撃機も旧式です。米国の空爆、ミサイル攻撃に対して北朝鮮はなすすべがないでしょう。

米軍は最初から最大のサルボー・ファイヤー(一斉爆撃)をかけることになるでしょう。2000発以上のトマホーク巡航ミサイルで核関連施設をはじめ、700カ所以上のターゲットをピンポイント攻撃することになるでしょう。

標的情報は偵察衛星、U-2偵察機、最先端の無人偵察機グローバルホークで24時間監視しています。さらにエシュロン(通信傍受システム)で北朝鮮の有線・無線の通信を傍聴して暗号解読までしています。まさに、この体制を築くために米国は時間稼ぎをしていたのです。これによって、米国のサージカル・アタックが可能になるのです。

ポンペオ氏

ポンペオ国務長官が、CIA長官であったときの今年1月23日、ワシントン市内の政策研究機関で講演しました。ポンペオ氏は北朝鮮の金正恩体制による核・弾道ミサイル開発の目的について、米国からの抑止力確保や体制維持にとどまらず、「自らの主導による朝鮮半島の再統一という究極の目標に向けて核兵器を活用しようとしている」との認識を明らかにしました。

ポンペオ氏は、もし北朝鮮が米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に成功したとすれば、「次なる必然的な段階」は、北朝鮮がICBMを量産して「複数発を米本土に同時に発射できる能力を確保することだ」と指摘しました。

また、北朝鮮によるミサイル開発の進展状況について、「ほんの数カ月先」に米本土を攻撃可能になるとの認識を示しました。その上で「私たちは、今から1年後も『北朝鮮が米本土攻撃能力を確保するのは数カ月先だ』と言うことができるように取り組むことだ」と述べ、外交や制裁圧力などを通じて北朝鮮にさらなる核実験やミサイル発射に踏み切らせないようにする方針を示唆しました。

同氏はさらに、米情報機関による北朝鮮関連の情報収集能力がこの1年間で大幅に向上していると強調しました。

この発言からもわかるように、米国も過去1年間時間稼ぎをしていたのです。だからこそ、過去においては空母打撃群を3つ同時に朝鮮半島沖に派遣したりして、圧力をかけたのですが、軍事攻撃にはいたらなかったのです。

この時間稼ぎをせずに、すぐに軍事攻撃をしていたら、大きな戦争になりそれこそ韓国や日本にも大きな被害がでるとともに、北の軍事力が温存され泥沼化していたかもしれません。それを防ぐために、時間稼ぎをしてきたのです。

この時間稼ぎによって得られた情報そのものや、情報収集能力は一般人の想像をはるかに超えたものになっていると思います。核関連施設の位置はもとより、通信施設の場所や、インフラ関連情報、武器や人員の配置などを含め、ありとあらゆる情報が蓄積されるだけでなく、日々更新されていることでしょう。

今の米国は、北朝鮮をサイバー攻撃によって、北朝鮮社会を機能不全に陥れることも可能だと思います。機能不全に陥ったところをピンポイントで攻撃して、核関連施設のすべてを破壊することも可能です。

今後の米朝の交渉にもよりますが、ポンペオ氏の発言からも、まさに夏くらまでに、米国が北朝鮮を軍事攻撃するような事態が生じても全くおかしなことではないといえます。

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2018年4月24日火曜日

ただ事ではない財務省の惨状 同期ナンバーワン・ツー辞任 ちやほやされてねじ曲がり…―【私の論評】統治と実行は両立しない!政府は統治機能を財務省から奪取せよ(゚д゚)!

ただ事ではない財務省の惨状 同期ナンバーワン・ツー辞任 ちやほやされてねじ曲がり…


財務省は、公文書改竄(かいざん)問題の発覚や、セクハラ疑惑で事務次官が事実上更迭されるなど、騒ぎになっている。

 森友学園問題は、本コラムで指摘しているように、もともとは近畿財務局の事務的なチョンボである。大阪航空局が騒音対策の名目で取得した土地について、公共用として東半分を大阪府豊中市に実質2000万円で売却したのはよかったが、西半分は入札にすべきだった。

 それを怠ったために、地中ゴミなどを理由に値引きを余儀なくされ、その合理性が問われることとなった。入札しておけば、2000万円程度で落札されたはずで、値引き問題は生じなかったはずだ。

 ここまでは地方組織にしばしば見られる話であり、その経緯を十分に知っていれば国会で答弁するのはそれほど難しくない。それなのに、不勉強のまま国会答弁した上、決裁文書の改竄にまで手を染めてしまっては言い逃れができない。当時の理財局長だった佐川宣寿(のぶひさ)・前国税庁長官は辞任した。国会を甘く見ていたのだろう。

 福田淳一事務次官のセクハラ疑惑については、福田氏が否定発言をした後、財務省は委託先の弁護士事務所で調査を行うという対応を行った。否定発言は許されるが、もし調査するのなら、しっかりとした第三者機関(例えば内閣人事局)で行うべきだった。福田氏の在任期間はせいぜい6月までなので、行政の混乱を回避し、身の潔白のために裁判をするといって早期に辞任すべきだった。その後は裁判で明らかにするといえばいい。

 ただ、セクハラ疑惑については、福田氏が辞任会見の際に、裁判で決着させる意向を示しており、現段階で予断を持つべきではない。辞任会見後、テレビ朝日の女性社員が当事者であると同社が明かした。もっと早く報道すべきだったが、週刊新潮の報道による福田氏への名誉毀損(きそん)が成り立つのは、音声テープが捏造(ねつぞう)であるか、貶(おとし)めるための策略かを次官側が証明しなければいけない。いずれにせよ事実解明に今後ひと波乱あるかもしれない。

 佐川氏も福田氏も昭和57(1982)年入省組の財務省キャリアである。同期のナンバーワンとツーがほぼ同時に辞任とはただ事ではない。この期はかつての「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」の時、1人が逮捕され、1人が辞職している。その前には1人が自殺、1人が病死している。こうしたことから「呪われた期」ともいわれている。

57年入省組の記念写真 佐川氏、福田氏の他片山さつき氏も・・・・・
写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 単なる巡り合わせだろうが、財務省の絶大な権限が、善良だった彼らをねじ曲げているようにも思える。

 財務省で仕事をすると、政治家に限らずほとんどの人からちやほやされる。筆者が入省時には、「多くの人がきみに頭を下げるが、きみ本人にではなくきみの地位・座席に頭を下げるのだ」と言われたものだ。

 財務省の権限はあまりに大きすぎる。金融行政を分離したが、国税庁を植民地化していることで、財務省へ文句を言いにくくなっているとしたら問題だ。「李下に冠を正さず」とするために、財務省改革、特に歳入庁創設が必要だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】統治と実行は両立しない!政府は統治機能を財務省から奪取せよ(゚д゚)!

経営学の大家ドラッカー氏は政府の役割について以下のように語っています。
政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)
この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。
 といいます。
しかし、ここで企業の経験が役に立ちます。企業は、これまでほぼ半世紀にわたって、統治と実行の両立に取り組んできました。その結果、両者は分離しなければならないということを知ったのです。
企業において、統治と実行の分離は、トップマネジメントの弱体化を意味するものでありませんでした。その意図は、トップマネジメントを強化することにありました。
実行は現場ごとの目的の下にそれぞれの現場に任せ、トップが決定と方向付けに専念できるようにします。この企業で得られた原則を国に適用するならば、実行の任に当たる者は、政府以外の組織でなければならないことになります。
政府の仕事について、これほど簡単な原則はありません。しかし、これは、これまでの政治理論の下に政府が行ってきた仕事とは大いに異なります。
これまでの理論では、政府は唯一無二の絶対の存在でした。しかも、社会の外の存在でした。ところが、この原則の下においては、政府は社会の中の存在とならなければならないです。ただし、中心的な存在とならなければならないのです。
おまけに今日では、本来は不得手な実行を政府に任せられるほどの財政的な余裕はありません。時間の余裕も人手の余裕もありません。ただし、これは財務省のいうように、現在の日本が財政的に危機にあるということを言っているのではありません。あくまで、一般論です。政府が実行に拘泥すれば、無駄な資金が消えていくことになるということです。
この300年間、政治理論と社会理論は分離されてきた。しかしここで、この半世紀に組織について学んだことを、政府と社会に適用することになれば、この二つの理論が再び合体する。一方において、企業、大学、病院など非政府の組織が、成果を上げるための機関となる。他方において、政府が、社会の諸目的を決定するための機関となる。そして多様な組織の指揮者となる。(『断絶の時代』)
さて、これは政府の最終的なあり方を語っているのですが、現状はそうはなっていません。しかし、参考にすべきことはあります。

現状の財務省は、大きな権限を持っていますが、そうはいっても本来は政府の下部機関であることには変わりありません。

以前からこのブログにも掲載しているように、財務省には統治にかかわる部署と実行の部署が存在します。これは、どう考えても完全分離しなければならないのです。

それについては、以前もこのブログに一部掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
安倍首相退陣なら日本経済は悪化する…石破or岸田政権発足→景気悪化の悲観シナリオ―【私の論評】ポスト安倍政権がまともな経済政策を実現するには財務省完全解体が必須(゚д゚)!
安倍総理は財務省解体まで踏み込めるか・・・・・
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、財務省解体の部分を以下に引用します。
利権が絡む現場の仕事に政治的裁量が働く余地があってはならないはずです。必要なら、法に従って淡々と資産を売り払っていけば良いだけです。そうであるなら、理財局を財務省から切り離したうえで、財務局の担当部署と統合し「国有財産管理部局」にして、国土交通省などに統合すべきではないでしょうか。 
同じように、税制の企画立案をする主税局と徴税執行業務を担う国税庁が同じ財務省の組織にある理由はありません。国税庁は外局とはいえ、事実上、財務省と一体です。かねて指摘されてきたように、年金保険料の徴収業務と国税庁の徴税業務を一体化した「歳入庁」の設立をすべきです。 
理財局といい国税庁といい、そもそも現場の執行業務をする財務局や税務署を政策立案を担う高級官僚が指揮監督する仕組み自体がおかしいです。政策立案と現場が一体となっているからこそ、政権の意向を官僚が忖度して現場が振り回されるような疑惑が生じてしまうことになります。 
以上のような改革を断行すると、財務省は予算編成をする主計局と税制の企画立案をする主税局、関税制度の企画立案をする関税局、通貨政策を担う国際局、大臣官房だけになります。全部、政策立案部局です。そのほうが現場と切り離されて、よほどすっきりします。 
そうして、以前からこのブログにも掲載してきたように、大蔵省という官庁は、単純に分割すると、時間をかけて他省庁を植民化するという性癖があるので、主計局、主税局、関税局、国際局、大臣官房(内閣官房に吸収)はすべて内閣府の中に吸収してしまうという方法が有効であると考えます。
以上のように、実行と統治の部分を厳密に分離するのです。そうして、この記事では掲載しなかった 主計局、主税局、関税局、国際局、大臣官房(内閣官房に吸収)はすべて内閣府の中に吸収することの意味は何かとえば、それは企画と統治を更に完璧に分離するということです。

企画と統治とは全くの別物です。統治とは、ドラッカー氏のいうように、「社会のために意味ある決定と方向付けを行うこと」です。方向付けと、企画は違います。

企業等の組織に所属する多くの人々が、実行部門に携わることが多いので、企画と方向付けを同じように考えてしまう人も多いです。しかし、もともと企画とは方向付けがあって、その方向付けにしたがって当面具体的にどうするかを考えることです。その意味では企画でさえも、実行の一部といえます。


企画と統治は全く別物・・・・・・

今の財務省は、中途半端に統治と実行を行っています。政治家やマスコミなどが、財政に詳しくないことや、多くの経済学者などの識者が財務省の言いなりであるため、財務省が増税や緊縮財政など方向性(これは本来は政府の統治機能)を省益にそってに定めて、実行までしてしまっているのです。これこそ、諸悪の根源なのです。

このようなことはもうやめて、主計局、主税局、関税局、国際局、大臣官房(内閣官房に吸収)はすべて財政企部門として、内閣府の中に吸収し、これらの機関は企画のみに集中させるのです。

あくまで、政府が統治としての、方向付けを行い、それをもとに内閣府の中の財政企画部門が企画を立案し、それを政府が承認し、それを実行部隊が実行するのです。このようなことを政府が行えるようにするには、政治家が勉強するとともに、政策を立案するシンクタンクも必要になります。これもいずれ設置すべきでしょう。

そうして、私としては、これでも政府の仮の姿であると考えます。政府の理想形は、ドラッカーの語るように"社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである"のであり、その他はすべて他の機関が行うようにすべきと思います。

他の機関としては、営利部門は、すでに営利企業が行っていますが、非営利部門に関しては非営利企業(NPO、NGO等)が担うべきなのです。そうして、政府はこれら非営利企業を厳しく監視して、成果のあげられない非営利企業に関しては淘汰すべきなのです。

このあたりは、NPO等が財務省いう財政民主主義なる主張によって、日本では矮小化されているため、日本ではなかなか理解されないところです。西欧だとかなり理解されています。このあたりは述べると長くなりますので、別の機会に述べさせていただきます。

統治と実行の分離は、民間の大企業ならすでに実行されていることです。ただし、大企業に属する人でも、統治に関わる人はトップマネジメントであり、少数に限られますし、中小企業や小規模企業だと、程度の差はありますし時期にもよりますが、企業の仕事のほとんどが実行であり、統治の割合はかなり低く、それこそドキュメント化されることもなく、経営者の頭の中で行われていることが多いです。

だから、企業は無論のこと政府の統治機能についてもあまり一般の人に理解されていません。学校でもあまり教えられていないようです。大企業でもこれを理解しないトップマネジメントが存在し、度々不祥事を起こしています。

理想的な政府を目指すなら、まずは財務省の解体により、現在の財務省の統治企画部門と実行部門を完璧に分離し、現在の財務省の統治機能は、財務省から完璧に切り離し政府が担うようにすべきなのです。そうして、なぜ最初に財務省なのかといえば、改革ということでは、財務省が本丸だからです。最初に財務省を改革してしまえば、後は右に習えです。

そうして、私は現在の財務省が堕落した真の要因は、誤った組織設計や制度設計にあるのであり、ある意味官僚は犠牲者でもあると思います。まさに、高橋洋一氏が言うように、財務省の絶大な権限が、新卒の時には希望に萌えた善良だった彼らをねじ曲げているのです。

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2018年4月23日月曜日

財務省セクハラ問題を読み解くために知るべき「記者クラブ制の病」情報の「官僚依存」から抜け出すには―【私の論評】財務省を完全解体すれば、財政研究会も消え日本の経済報道もまともになる(゚д゚)!

財務省セクハラ問題を読み解くために知るべき「記者クラブ制の病」情報の「官僚依存」から抜け出すには

髙橋 洋一 経済学者 嘉悦大学教授

セクハラ問題を考える3つの視点

最近、国際情勢が大きく動いている。東アジア情勢では5月から6月上旬に予定されている米朝首脳会談に向けて各国が水面下でしのぎを削り、シリア問題では米英仏が軍事行動に出るなど、かつてないほどの緊張感に包まれている。

一方、日本では財務省決裁文書改ざん、防衛省日報隠蔽、愛媛県面会メモ問題が騒がれている。モリカケは、本コラムでは昨年から取り上げてきたので、まだやっているのかという感じだし、日報隠蔽では、防衛省は遅ればせながら積極的に日報公表をしている。

例えば、4月16日防衛省発表(http://www.mod.go.jp/j/press/news/2018/04/16b.html)では、大量の日報が公表された。それらをみると、「戦闘」という緊張感のある言葉とともに、ほほえましい記述も見られ、現場のリアルな状況を彷彿させる。

そもそも、当時のPKO5原則は世界の潮流からみれば時代遅れであり、今なおその当時のPKO5原則を維持したまま、国際情勢に合わせたまともな議論が国会でなされていないことが問題である(陸自日報隠蔽問題のウラに、時代遅れのPKO国内議論 参加5原則の見直し急務 https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180412/soc1804120001-n1.html)。

こうした「世界の常識=日本の非常識」という考えは、徐々に一般社会にも浸透しており、すべて自衛隊とその現場に責任を押しつけるのは気の毒だ、という雰囲気も広まりつつある。

さて、そんななかで財務次官によるセクハラ問題が重ねて出てきたため、内閣支持率は低下、政局モードになっている。

この問題の発端は、4月12日(木)発売の週刊新潮による、「「財務事務次官」のセクハラ音源」(https://www.dailyshincho.jp/shukanshincho_index/)だ。言うまでもないが、福田財務次官の担当記者が、次官から度重なるセクハラを受けていたというもの。続報として、4月13日デイリー新潮「「財務省トップ」福田淳一事務次官のセクハラ音源公開!」(https://www.dailyshincho.jp/article/2018/04131400/)もある。

これに対し、先週4月16日(月)、財務省は事実無根であると反論した。これは、財務省のホームページに掲載されている(https://www.mof.go.jp/public_relations/ohter/20180416chousa.html)。その中で、財務省は、財務省の記者クラブ(財研)の加盟各社に対して、各社内の女性記者に、セクハラ被害の調査に応じてもらいたいと依頼した。調査は財務省が委託した法律事務所で行われ、その期日は4月25日までとしたことはご承知の通り。

そうした中、4月18日(水)、翌19日(木)発売の週刊新潮の続報を前にして、福田次官が身の潔白を明らかにしたいとしながら辞任を表明した(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180418/k10011408571000.html)。

それを受けてか、18日(水)の夜中、今度は、テレビ朝日から、自社社員が福田次官からセクハラを受けた当事者であるとの発表があった(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180419/k10011409081000.html)。

時系列を整理すれば以上の通りであるが、この問題は、①財務省の危機管理の問題、②セクハラそのものの問題、③財務省と記者クラブの関係の問題、という3つの観点から考えることができる。

やっぱり財務省はヘボをした

まず①財務省の危機管理では、かなり財務省はヘボなことをした。

組織でセクハラ問題が起こった時に、一般対応としてやるべきは、まず調査することであるが、それはできる限り第三者がやるべきことだ。財務省が調査を委託した法律事務所は第三者ではないので、財務省は大きなミスをしている。本来であれば内閣人事局などの第三者にすべきであった。

それとともに、福田次官は「裁判で争いたいがそれでは事務に支障ができる」という理由で、週刊誌報道後の13日(金)に辞職をするべきだった。これは「金月処理」といい、金曜日に発表してその後の対応は月曜日にする、という危機対応の初歩でもある。ひとつめの報道直後に辞任をしていれば、結果として組織としては今の状態より良かったはずだ。

特に福田次官が辞任を表明した18日(水)は、日米首脳会談とぶつかり、最悪のタイミングであった。しかも、ほとんどのメディアでは福田次官辞任が日米首脳会談より上位に扱われた。官邸としては最悪の展開だっただろう。そのことを恐れて、官邸からはその前に福田次官に辞任するように働きかけがあったが、財務省がそれを無視したようだ。

次に、②セクハラそのものの問題である。あの報道を受けてなお福田次官側に異論があるというのであれば、裁判で決着するしかない。福田次官の方が裁判では不利のようにみえるが、とはいえ、裁判をする権利はあるだろう(福田次官の社会的な地位などを考慮すれば、筆者の個人的な感想では、裁判でも申し開きができないような気がするが)。

次の③財務省と記者クラブ(財研)の関係では、論点が多い。

テレビ朝日が明らかにしたように、被害女性は財研のテレ朝女性記者である。もし被害者が一般女性であれば、名乗り出るというのは酷だという意見もあるだろう。しかし、記者は記事を書く(あるいはニュースを制作する)プロである。一般女性とは異なる立場である、と考えることもできるだろう。

筆者は18日(水)、福田次官の辞任発表後、AbemaTV Prime に出演し、この件についていろいろと話をした。そのとき、「被害者とされる女性記者は既に特定されているので、いまからでも記者の属しているマスコミを通じて報道すべき」といった。

それができないようであれば、記者クラブは役所の言いなりということになる(報道できない理由があるとすれば、それは財務省の「報復」を恐れたから、と考えるのが自然だからだ)。記者クラブが役所の言いなりであることが明らかになると、そもそもの記者クラブの存在意義、マスコミの存在意義を問われる事態になるだろうから、いまからでも報じるべきだと言った。

これに対して、番組に出演していた他のコメンテーターからは「それはできないだろう」という意見があったが、そもそも財務省担当記者は人数がそう多いわけではないので、対象自体が少ない。番組で筆者は、セクハラを受けた記者はほぼ特定されているだろうことを強調し、黙っていても意味がないといった。
財務省は記者たちをなめていた…?

AbemaTVでこうした意見を述べた直後、夜中の12時からテレビ朝日の会見が行われた。その会見をテレビ朝日で放送しなかったのは奇妙であったが、ネット上でその中継を見ることが出来た。その中で、テレビ朝日は、「セクハラを受けたのは自社社員であったが、どの社員であるかを特定され、二次被害につながるから報じなかった」といったが、これはかなりの茶番、苦しい言い訳と言わざるをえない。

週刊新潮がこの問題を報じたあと、それがどの記者であるかは筆者にも特定ができた。他のメディアがこの問題を報じた結果、最終的には特定されてしまうことは、テレビ朝日もわかっていたはずだ(このコラムで特定する必要はないし、マスコミでは報道されることはないが、いまはもう、事実関係はネットで直ぐわかる時代になっている。それが良いか悪いかということより、現実としてそうなっている)。

セクハラされたとするテレ朝の記者
写真はブログ管理人が挿入

だからこそ、一刻も早くテレビ朝日が報じるべきだったと思う。なにしろ、自ら情報発信できるマスコミの人であるならば、やはり一般人とは少し異なると考えるべきだろう。もちろん、当該の女性記者が財務省が委託した法律事務所に行くべきではない。個人でセクハラに立ち向かうというのではなく、組織がしっかりと盾になって、自分たちの問題として報じるべきである。

さて財務省は、相手が財研記者なので「与しやすい」とみていたのだろう。セクハラがあっても、財研記者が自ら名乗ることはできないと見越して、財研に対して変化球を投げていたと思われる。

実はこれこそが深刻な問題である。「与しやすい」などと思われているなら、なおさら財研のマスコミ(テレビ朝日はもちろん、それを見聞きしていただろう記者ら)は「独自情報」として記事を書くべきだった。

結局それができなかったのは、財務省とマスコミ財研がズブズブの関係であることに問題の根源があると思う。「堅物官僚から情報を取るべく、各局が送り込む才媛記者」(https://www.news-postseven.com/archives/20180419_668016.html)という記事もあるが、財務省の役人であった筆者の経験からも、それほど間違っていないと思うところだ。

各社は財務次官からなんとか情報を取ろうと、記者を取材担当としてあてるわけだが、ちょっとひいて考えると、そもそも、財務事務次官が重要な情報源として意味があるという「官僚社会」自体が問題であろう。政治家ならともかく、官僚が最も重要な情報を持っている構造もおかしいし、官僚を情報源にしなければならないのも、そもそも論からすればおかしいだろう。

また、マスコミのほうにも「過剰供給」という問題がある。

記者らは財務次官(やその他の財務官僚)から必死にモリカケ問題についての情報を得ようとしているようだが、モリカケについては本コラムで何度も書いたように、マスコミの描く構図自体がほとんど間違いである。この問題について、財務事務次官が情報源として役に立つはずがない。それでも取材に行かざるを得ないとは、どういうことなのか。そこが筆者にはわからないのだ。

そもそもなぜ「弱み」を握られるのか

思えば、日本のマスコミは「供給過剰」である。例えば、日本の最大の発行部数の読売新聞は900万部といわれている。それに比べて、アメリカの最大発行部数のウォール・ストリート・ジャーナルが200万部だ。

日本の人口1.2億人、アメリカは3.2億人であることを考えると、読売新聞とウォール・ストリート・ジャーナルの格差は12倍ともいえる。当然のことながら、そこで働く記者数も1桁違いである。

実はこのことが、日本での官僚とマスコミとの力関係の「ねじれ」を生んでいるということに気づかねばならない。記者の数が多く、情報ソース(日本の場合、多くは官僚がそれにあたる)に限りがあるなら、圧倒的に官僚側が有利になる(情報を誰に与えるか、を官僚の側が決めることができるからだ)。

これが、日本独特の記者クラブの存在にもつながっている。供給過剰を、記者クラブという「カルテル」でカバーしようとしているわけだ。

しかし一般論であるが、カルテルは長期的にはその業界を決定的に弱める結果になる。カルテルは「退出すべきもの」も守るからだ。逆に言えばカルテルがなければ、守ってくれるものがなくなる結果、退出者が多くなって、供給過剰は速やかに是正されるわけだ。

記者クラブでも同じことがいえる。記者クラブは結果として供給過剰なマスコミ・記者を温存させて、競争力を奪ってしまった。その延長線上で、マスコミ各社が過剰な取材合戦をすることになったり(これは政治部ではよく見られる光景だ)、夜でも電話一本で呼び出されてしまうことになっている。結果として記者クラブが「記者側の弱み」を生んでしまっているように思える。

そういえば、役人時代、「高橋、ハトに豆、撒いてこい」と上司に言われたことを思い出した。これは「財研の記者にネタを配ってこい」という意味だ。本来ならネタは自分たちで取ってくるべきものだが、彼らは豆(ネタ)をもらいに近づいてくる。それぐらい、財研記者は財務省に依存している、というのも事実だ。

おそらく財務省が情報を出さなければ、多くのマスコミは成り立たないだろう。それほど、マスコミは財務省に依存している。そこを「弱み」として握られているから、財務省が「財政危機」を煽れば、それがデマであっても、マスコミは平気で垂れ流すのだ。

福田次官の個人的な行動は決して容認されないだろうし、官僚がマスコミの「弱み」につけいり、法に触れるような行為を行うのは問題である。一方で、なぜ記者が彼らに「弱み」を握られているのかという問題に向きあい、それを是正することも必要ではないか。でなければ、第二、第三の被害者が生まれてしまうだろう。

これが、ちょっと斜めから見た、セクハラ問題についての筆者の感想である。

【私の論評】財務省を完全解体すれば、財政研究会も消え日本の経済報道もまともになる(゚д゚)!

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事でも指摘されているように、記者クラブそのものにも問題があります。

日本のジャーナリズムについて論じる際、いまだに問題とされるのが「記者クラブ」制度です。記者クラブ制度とは、簡単にいえば主に官公庁に記者室を間借りして、新聞、通信社、テレビの担当記者が常勤するシステムのことです。

この制度の問題点はいくつか挙げられますが、その一つが「排他性」です。多くの場合、記者クラブに加盟していない社の記者が会見などに出席することを、クラブ加盟社は嫌がります。もしくは拒否をします。

本来、官公庁など公の機関が発表する内容を特定の会社だけが聞く権利はないにもかかわらず、会見にフリーの記者が入ることを拒否され、排除されてしまうのです。最近はさすがにかなり会見の場もオープンになってきたので、完全に排除するといったことは少なくなってきたようですが、理不尽な締め出しを喰らった経験を持つジャーナリストは少なくありません。

清水潔氏

桶川ストーカー事件足利事件の報道で知られる清水潔氏は、著書『騙されてたまるか』の中で、かつて経験した理不尽すぎる「締め出し」の様子を振り返っています。

1992年、「FOCUS」のカメラマンだった清水氏は、当時の埼玉県知事が引退することを聞き、その引退会見の撮影に出向きました。

県庁の広報課を訪ねると、スーツ姿の若い男性が出てきて冷たく言い放ったのです。

「会見は記者クラブ員だけになります」

またか、と思いながら、清水氏は

「後ろから写真を撮るだけだから問題ないでしょう」

と言いながら男に名刺を渡した。相手は渋りながら自分の名刺を出してきた。

驚いたことに、なんとそれは通信社の名刺だったのです。彼は県庁職員ではなく通信社の記者で、たまたまクラブの幹事を務めていたのです。



なぜ通信社の社員が、公の会見に出席する人間を選別できるのか。清水氏は食い下がったのですが、相手は「クラブで決めたことなんで」と言うばかりだったそうです。

話にならない、と無視して会場に向かうと何百人も収容できるホールで、ガラガラの状態。それなのに先ほどの男が前に立ちふさがってきました。騒ぎはさらに大きくなっていきました。以下、『騙されてたまるか』から引用します。
「一通信社が他社の取材行為に采配を揮うという。何とも解せない話だ。しかも当時の私は、たまたまだが『埼玉県民』だった。つまり有権者であり、納税者なのだ。 
他の雑誌記者たちは、大人しく廊下に出て行ったが、私はそのまま居座った。すると、『出て行け!』の大合唱が始まった。 
見回すと、総勢百人近くのクラブ員に囲まれていた。 
その昔、二百人以上のヤクザの団体様に囲まれても撮影を続けたこともある私だ。サラリーマンの烏合の衆などに動じるはずもない。知らぬ顔でなおも居座っていると、TBSのカメラマンが大声を張り上げた。 
『がたがた言わずに、出て行け!』 
なにゆえ『東京放送』が『埼玉県民』に『出て行け!』と言うのだろうか。それに私も視聴者の一人なのだぞ……。」 
この騒ぎの最中、知事が入室してきた。すでにテレビは生中継を始めている。そこで件の通信社の記者も「それではアタマ5分だけ写真撮影を許可します!」と声を張り上げた。 
すると、それまで追い出されても黙っていた他誌のカメラマンも入室してきた。清水氏は思わず、 
「お前らさあ、戦わずして取材するなよ」
とぼやいてしまったといいます。

前述の通り、今はもう少しオープンになっているとはいえ、それでも記者クラブの問題点がなくなったわけではありません。清水氏は同書の中で次のように指摘している。
記者クラブは官公庁内に置かれ、その食堂で役人と『同じ釜の飯』を食う記者たち。そうした関係性の中で提供される情報が次第に『御用報道』を招いていく。 
『自分の頭で考える』という基本を失い、『○○によれば……』という担保が無ければ記事にできない記者たち。それは結果的に、自力で取材する力を衰退させ、記者の“足腰”を弱らせていくはずだ。
 そうした報道にどう向き合えばいいのか。その答えの一つが「おかしいものは、おかしい」という気持ちを持ち、常に「騙されてたまるか」という姿勢で情報に接することだ、と清水氏は語っています。

清水氏の事例は、財務省のものではありませんが、やはり公官庁の中にある記者クラブということで、財務省の記者クラブである財務研究会も同じような欠点を持っているといえると思います。

高橋洋一氏は、上の記事で、「財務省が情報を出さなければ、多くのマスコミは成り立たないだろう。それほど、マスコミは財務省に依存している。そこを「弱み」として握られているから、財務省が「財政危機」を煽れば、それがデマであっても、マスコミは平気で垂れ流すのだ」と主張しています。

確かに、大手新聞や大手テレビ局の財政に関する報道は、まるで財務省のスポークスマンのようであり、財務省の報道を何ら吟味することも、確認することもなくそのまま垂れ流しているというような状況です。

たとえば、財政研究会の記者らは、財務省の虚偽「1000兆円超の国債発行残高がある日本の財政再建のためには消費増税が絶対に必要」という考えを単純に信じ込んでいるようです。そのため、デフレのときでも何のためらいも、罪悪感すらも感じないで、財務省の消費増税は絶対に必要という嘘を記事にしてしまいます。

しかし、現実には、過去にのこのブログで何度が主張してきたように、政府の子会社ともいえる日銀が国債の相当額を保有しているので、連結で見れば日本の財政再建はすでに昨年でほぼ終わっており、消費増税は不要です。にもかかわらず、増税しなければならないという財務省のデマを財政研究会の記者たちは、財務省のいうなりで記事にしてしまうのです。

これは、清水氏が指摘するように、『自分の頭で考える』という基本を失い、財務研究会の記者たちは、『◯◯によれば……』という担保が無ければ記事にできなくなってしまったのです。そうして結果的に、自力で取材する力を衰退させ、記者の“足腰”を弱らせてしまったのです。

だから、世界中のマクロ経済学で教える、デフレのときには金融緩和と、積極財政を、インフレのときには、金融引締めと緊縮財政を行うべきというあまりにも自明なことでも、財務省がこれに違えることを発表しても、何の疑問もなく受け入れて記事にしてしまうのです。

これでは、財務省の犬といわれてもしかたないです。さらに、悪いことに財務官僚は、自分たちの「とんでも財政理論」を広めるためのツールとして「オフレコ」や「リーク」を使いこなします。

そんな官僚側の思惑を知らず、記者会見だけだと他者との差別化が図れないため、記者たちは、オフレコ取材を日常的に繰り返し、リーク情報をありがたがって、さらに事実を歪める記事を書き連ねるのです。

そうして、このような頻繁なオフレコ取材が今回のセクハラの温床になったのは間違いありません。そもそも、記者クラブなどなければ、今回のような事件は起こらなかったでしょう。

福田淳一元財務次官

他社の記事との差別化を図るため、オフレコ取材やリークを期待している女性記者とスケベ官僚が頻繁に会えば、セクハラを助長するようなものです。今のまま、財政研究会をそのまま残しておけば、このような構図は変わらず、一時なりを潜めてもこれからもセクハラが起こり続ける可能性もあります。

財務省の完全解体うべきという主張は、このブログで過去に何度か掲載してきました。財務省が解体されれば、当然のことながら、財政研究会もなくなります。そうなれば、日本の経済報道も今よりは相当まともになるのではないかと思います。

そうして、財務研究会に限らず、このような問題のある記者クラブはもう廃止すべきと思います。

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2018年4月22日日曜日

自民総裁選にらみ…安倍内閣の支持率低下で蠢く党内力学―【私の論評】総理は解散総選挙をし勝利して、蠢く党内力学の息の根を止めよ(゚д゚)!

自民総裁選にらみ…安倍内閣の支持率低下で蠢く党内力学

森友・加計問題や財務事務次官のセクハラ疑惑などが続き、安倍晋三内閣の支持率は下落傾向だ。9月の自民党総裁選に向けて、各派閥の勢力図と総裁候補らキーマンの言動や思惑について分析してみよう。

石破茂元幹事長 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 「反安倍」の急先鋒(せんぽう)になっているのが石破茂元幹事長だ。13日付の同氏のブログでは「森友問題にせよ、加計問題にせよ、挙証責任は政府の側にあるのであって、そこから逃れるべきではないでしょう」とまるで野党のようだ。

 安倍首相側に立った見方なら「政府には説明責任がある」というだろう。「説明責任」と「挙証責任」には天と地ほどの差がある。例えば、安倍首相が関与していないかどうか聞かれた場合、「自分の知る範囲ではなかった」と説明すれば、説明責任を果たすことができる。

 しかし、ないことを証明するのは「悪魔の証明」といわれており、まず不可能である。挙証責任を政府が持つべきだというのは、安倍首相に退陣を迫るのに等しい。

 朝日新聞社の14、15日の世論調査で、「次の自民党総裁にふさわしい人は誰か」という質問について、石破氏は28%と、安倍首相の23%を上回っていることもあってか、ますます安倍政権批判は加速しているようだ。もっとも、自民支持層に限ると、党総裁にふさわしいのは、安倍首相は47%、石破氏は24%だった。

小泉進次郎筆頭副幹事長

 石破氏に同調しているのが、小泉進次郎筆頭副幹事長である。愛媛県職員が書いた面会メモについて、柳瀬唯夫経済産業審議官の説明を「理解できない」と語っている。父親の小泉純一郎元首相にいたっては、安倍首相の自民党総裁選3選について、「難しい。信頼がなくなってきたから、何を言っても言い逃れに取られてしまう」と述べている。

 岸田文雄政調会長は、一応中立的である。16日夜、安倍首相と岸田氏は会食したが、その場の雰囲気は、岸田氏への禅譲がにじむものだったようだ。このため、岸田氏は、総裁選出馬について「まだ決めていない」とし、政府・与党一体としてしっかりと信頼回復のために努力しなければいけない」と応じるなど、安倍首相に「協力」ではないが、「対立」でもない。

岸田文雄政調会長

 麻生太郎財務相と二階俊博幹事長は、今のところ安倍首相の三選を支える方針であるという。財務省は文書改竄(かいざん)問題や次官のセクハラ問題で大揺れだが、それでも麻生氏が一切、辞任について口にしないのは安倍政権を支える覚悟といわれている。

 二階氏は麻生氏と呉越同舟の感があるものの、できる限り安倍首相に恩を売り、党内基盤を確保したい思惑がうかがえるる。今後、政権支持率が急落すると、麻生氏と二階氏の思惑が外れて、安倍首相への支持も危うくなる可能性もなくはない。

 いずれも安倍政権の今後の支持率次第だ。財務省の文書改竄問題や防衛省の日報隠蔽は山を越えた。愛媛県の面会メモ問題は、来週の国会招致が鍵を握る。財務次官が更迭されるなど事態は深刻だが、日米首脳会談がどれだけ支持率回復に貢献するかが当面の課題だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】総理は解散総選挙をし勝利して、蠢く党内力学の息の根を止めよ(゚д゚)!


総裁選には石破派(水月会、20人)を率いる石破茂元幹事長や、無派閥の野田聖子総務相が出馬に意欲を示しているが、首相の3選は盤石だとみられていました。

首相の出身派閥で党内最大の細田派(清和政策研究会、95人)と、麻生太郎副総理兼財務相が率いる第2派閥の麻生派(志公会、59人)、二階俊博幹事長が率いる二階派(志帥会、44人)の3選支持はほぼ確実。

これに菅義偉官房長官に近い30人前後の無派閥議員を加えると、自民党所属の国会議員405人のうち6割を固めた構図となるからです。加えて中堅議員らによる派閥横断型の首相支持派も存在してます。

この岩盤を崩すのは容易ではなく、第3派閥の額賀派(平成研究会、55人)や、岸田文雄政調会長の擁立を目指す岸田派(宏池会、47人)も最終的に首相支持に回るとされていました。

そうなると焦点は党員票の行方となります。前回まで300票だった党員票は今回から議員票と同数となり、405票あります。首相側近は「議員票はほぼ大丈夫だが、党員票で石破氏が首相に迫れば求心力は激減する。いかに党員票をがっちり固めるかがカギだ」と語っていたほどでした。

ところが、財務省の文書改竄やセクハラ問題で風向きが一変しました。昨夏は森友問題に加え、加計学園の獣医学部新設問題で内閣支持率が急落し、政権は窮地に追い込まれました。このまま政権に対する逆風が続けば、あの悪夢が再び到来しかねないです。

最終責任者として当時、近畿財務局管財部長だった小堀敏久氏(57)(写真右)の印が押されあるが、
小堀氏はすでに財務省を辞任して所管外の独立行政法人に移籍している

そんな中、引退後も石原派(近未来政治研究会、12人)最高顧問を務める山崎氏が「反安倍」勢力結集に向け、早くも動き出しました。

山崎氏は、石原派と谷垣グループ(有隣会、約20人)の合流を画策する一方で、14日の石破派の憲法勉強会にも出席し、「首相の3選を追認すれば党の活性化が阻まれる」と政権を批判しました。翌15日には元参院議員会長の青木幹雄氏と東京・築地の料亭で極秘に会談し、「安倍政権は今後何があるか分からない」と秋波を送ったとされます。

青木氏は言質を与えなかったといいますが、なお額賀派や参院自民党に隠然たる影響力を持つだけに、もし反安倍に転じれば自民党の勢力図は大きく変わることになります。

青木氏はもともと、額賀派を割った石破氏に冷淡でしたが、長男の青木一彦参院議員の島根選挙区が、石破氏の地盤である鳥取選挙区と合区されたことを契機に関係を修復しました。

参院額賀派を牛耳る吉田博美参院幹事長は「心情的には首相支持」とされますが、もし師匠の青木氏が石破支持を打ち出せばどうなるかわかりません。参院額賀派幹部は「うちは一致結束箱弁当の経世会(平成研の旧称)の論理で動く」と断じています。

反安倍勢力が広がれば、岸田派名誉会長を務める古賀誠元幹事長も同調する公算が大きいです。古賀氏が岸田氏に出馬を促したり、石破氏との共闘を打ち出すことも十分あり得ます。

首相がこれほど引退した長老衆に憎まれるのには理由があります。

首相は2回生の頃から当時の党執行部に異を唱え、安全保障や拉致問題、歴史教育問題などに関する議員連盟を次々に作り派閥横断型で仲間の輪を広げてきました。古賀、山崎両氏らには「世代間抗争を仕掛ける獅子身中の虫」だったに違いないです。両氏は平成24年の総裁選でも「安倍復活阻止」に動きました。

もう1人、目を離せない大物引退議員がいる。小泉純一郎元首相です。首相の兄貴分といえる存在でしたが、首相が「脱原発」に同調しないことに業を煮やし、最近は露骨な政権批判を続けています。

小泉氏が総裁選で「反安倍」を打ち出せば、後継者で次男の小泉進次郎筆頭副幹事長はどう動くでしょうか。自民党若手は動揺し、政局は一気に流動化しかねないです。加えて、かねて首相と反目してきた福田康夫元首相まで同調すると、細田派は分裂含みの様相を帯び、首相の3選はさらに危うくなります。

首相はこのような不穏な空気をどう感じているのか。首相は周辺にこう漏らしたといわれています。
「こういう時は慌てて動いてはダメだ。人の本性を見極めるチャンスじゃないか。誰がどう動くか。じっくり見るんだ…」
実際今のところは首相の考えが正しいと思います。安倍首相は9月の自民党総裁選への立候補を明言していません。昨年12月の講演では「通常国会で頭がいっぱいで、その先のことは終わってから考える」と質問をかわしました。しかし、同党は総裁任期を「連続3期9年」に延ばし、首相の続投を前提に動いています。

このブログでも以前述べたよように、今のところはどう考えてみても、ポスト安倍は安倍以外にないです。なぜなら、現在の世界情勢を考えた場合、ここしばらくは安倍政権を継続したほうが良いからです。

安倍総理とトランプ大統領

特に、対米関係においては、安倍総理はトランプ大統領と親しい関係になり、特に北朝鮮を含む対アジア情勢に関しては、トランプ大統領に助言を与え導くという役割を担うようになりました。このような地位を勝ち得たのは、無論それ以前に長い期間にわたり、安倍総理が全方位外交に努力してきたからです。このような役割を担えるのは今のところ安倍総理しか存在しません。

このような存在は、他国の首脳にもいないし、無論日本国内にも存在しません。ここで、総理大臣が他の人間に変われば、一からはじめということになり、現在の状況で世界情勢についていくどこか、置去になりかねません。

さらに、経済を考えると、安倍政権は過去20年のどの政権と比較しても、最も良いパフォーマンスを発揮しています。そうして、このブログに掲載してきたように、残念ながらポスト安倍の総理候補者は誰一人としてまともにマクロ経済、特に金融政策については理解しておらず、誰が総理大臣になったにしても、日本経済はまた落ち込むことになるのは必定です。

経済が落ち込めば、またかつてのように誰が政権の座についても、短期政権になります。その後も経済を立て直すこどができなけれは、どの政権も短命で終わります。それこそ、麻生政権までの自民党のように短期政権が連続して続き、党勢が衰え、挙句の果てに政権交代で下野ということにもなりかねません。

残念ながら、現在の自民党の議員もほとんどがマクロ経済音痴なので、財務省の虚偽「1000兆円超の国債発行残高がある日本の財政再建のためには消費増税が絶対に必要」という考えを単純に信じ込んでいます。これを理解して、安倍政権を支持するということもなく、派閥の力学でたまたま安倍政権を支持というような状況です。

しかし、現実には、過去にのこのブログで何度が主張してきたように、政府の子会社ともいえる日銀が国債の相当額を保有しているので、連結で見れば日本の財政再建はすでに昨年でほぼ終わっており、消費増税は不要です。

このような状況では、やはりポスト安倍は安倍以外にないとしかいいようがありません。ではどうすれば良いのかという話になりますが、それは以前このブログにも述べたように、解散総選挙をして国民の信を問い勝利して、蠢く党内力学の息の根を止めるしかないです。

選挙というと、支持率が低下しているから、負けるのではという方もいらっしゃるかもしれませんが、以前にもこのブログに掲載したように昔からの経験則で今すぐ選挙をしたとしても、少なくとも過半数割れすることはありません。7月くらいになれば、過去にみられたようにまた支持率があがるということも十分考えられます。

野党に関しては、前回の選挙でかなりの負け方をしています。野党の実体は、選挙でボロ負けしさらに最大野党の民進党の大分裂ということもあり、党勢を元に戻すだけで数年はかかるという状況です。自民党の支持が下がっても、野党の史実率はあがっていません。

そうなると、総裁選の前に安倍総理が解散総選挙をするという選択肢は十分にあり得ます。そうして、自民党は公約として「消費増税の凍結」もしくは「消費減税」を掲げるべきです。これを実施することは、政権公約の変更であり、衆院解散の大義となります。同時に、財務省解体を含む官僚機構の抜本的改革も、選挙公約にすべきです。

さらに、勝利の暁にはメディア業界の大改革も期待したいです。自由競争の中で切磋琢磨する米国と比べて、日本の放送業界は放送法の下、護送船団方式によって守られ続けています。極めて低額な電波使用料という既得権を保持し、政府に経営を保護されながら、公共放送であるNHKまでもが偏向報道で倒閣運動に励んでいます。

電波オークションの導入や、電波使用料の引き上げとともに、テレビ受像機で簡単にネット番組が見られるように、規制改革を行うべきです。具体的にいうと、既存のテレビにネットが加わり、既存のリモコンにネット切り替えが付加され、誰もが簡単にネットをみられるようにすべきです。

そして、第9条を中心とした憲法改正は、最低限実現し、世界に貢献する大国日本の役割を果たせるようにすべきです。


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2018年4月21日土曜日

北朝鮮が核実験場を廃棄、ICBM発射中止 党中央委総会で決定―【私の論評】米朝首脳会談は決裂するか、最初から開催されない可能性が高まった(゚д゚)!


20日、平壌で開かれた朝鮮労働党の中央委員会総会で挙手する金正恩党委員長

 北朝鮮は20日、朝鮮労働党の中央委員会総会を開き、21日から核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を中止し、北東部、豊渓里の核実験場を廃棄すると決定した。朝鮮中央通信が21日、報じた。南北首脳会談や米朝首脳会談を前に、核開発を優先してきたこれまでの路線を大きく転換させた形だ。

 中央委総会は、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長出席の下、「経済建設と核戦力建設の並進路線の偉大な勝利を宣言することについて」と題した決定書を満場一致で採択した。

 決定書で、核実験中止は「世界的な核軍縮に向けた重要な過程」で、北朝鮮は「核実験の全面中止のための国際的な努力に合流する」と表明。「わが国に対する核の威嚇がない限り、核兵器を絶対に使用せず、核兵器や核技術を移転しない」と強調した。実験場廃棄は核実験中止の「透明性を担保するため」とした。

6月初旬にも開催が見込まれる米朝会談に向けた条件整備といえるが、核保有国としての立場は取り下げておらず、「完全な非核化」には言及しなかった。完全な核廃棄を求めるトランプ米政権との非核化交渉は難航も予想される。

 金委員長は、朝鮮半島の緊張緩和と平和に向け、「劇的な変化」が現れているとした上で、核やミサイル開発の進展で「核戦力の兵器化の完結が検証された」と強調。「もはやいかなる核実験や中長距離・大陸間弾道ロケット(ミサイル)試射も必要なくなり、核実験場も使命を終えた」と述べた。

 総会では、これまで掲げてきた並進路線は貫徹されたとし、党と国家を挙げて経済建設に総力を集中する新たな路線も決定した。

 韓国大統領府は21日、「非核化に向けた意味のある進展だ」と今回の決定を歓迎するコメントを発表した。

【私の論評】米朝首脳会談は決裂するか、最初から開催されない可能性が高まった(゚д゚)!

金委員長は20日の党中央委員会総会では、以下のような“勝利宣言”もしています。
「国家核戦力建設という歴史的大業を5年に満たず達成したのは、並進路線の偉大な勝利だ」
核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」は2013年の中央委総会で打ち出され、金正恩体制の政策の柱をなしてきた。昨年10月の前回会議でも、金委員長は、並進路線の貫徹と国家核戦力建設の完遂を鼓舞していました。

昨年開催された第7回朝鮮労働党大会
金委員長は昨年11月の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射を受け、「国家核戦力の完成」を宣言。今回、持ち出したのは「核戦力兵器化の完結」が検証され、もはや核実験やミサイル試射は必要なくなったとの論理です。

廃棄を決めた豊渓里の核実験場は6回にわたって核実験が繰り返されてきました。昨年9月の実験以降は、余波とみられる地震が複数回観測され、これ以上の実験には耐えられないとの分析がありました。早晩廃棄は不可避だったとみられます。

5月18日に撮影された、北朝鮮・豊渓里にある核実験場の衛星写真。
新たに建設が始まったとみられる建物が写っている

完全履行されれば、貿易額の9割を失うという制裁の中、経済政策への集中も避けられない選択でした。

核実験場の廃棄まで宣言したことで、27日に迫った韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との首脳会談の条件は整えられたといえます。

一方で、核保有国として「核軍縮」に臨む姿勢を示しており、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を迫るトランプ政権との溝が埋まったわけではありません。

金委員長は3月、中国の習近平国家主席との会談で、米韓の「段階的で歩調を合わせた措置」が必要だと主張し、今回も既存の核燃料やミサイルの廃棄には踏み込んでいません。

以上のことを総合的に判断すると、朝鮮労働党の中央委員会総会での核に関する決定は簡単にまとめてしまうと、以下のように解釈できます。
① 核の兵器化が完結した現在、検証はすでに終了している。当面は、もう実験の必要はない。 
② 従って発射実験は不要。核実験場も閉鎖する。
①は事実上の核の実戦配置宣言と受け取ることができます。

現状のマスコミ報道等をみていると、①を見て恐怖とショックに陥るということもなく、
②を見て胸を撫で下ろしているように見えます。

今の日本のメディアには、北朝鮮の声明の背景を理解できる能力がないようです。このようなメディアの報道や識者の意見のみを聴いていると、北朝鮮の現実が見えなくなってしまいます。

皆さんも、マスコミ報道などて、②の部分だけを聴いて、少しでも安心してしまうようであれば、かなりマスコミ報道に毒されていると認識すべきと思います。

米国は、北朝鮮の核放棄方式についてリビア方式以外は許容しないでしょう。リビア方式の非核化とは、大量破壊兵器開発計画を推進していたリビアの独裁者カダフィ大佐が当時、自国の開発計画を破棄(非核化)した後、制裁解除、経済支援などの恩恵を得るという米英らの提案を受け入れた内容です。

非核化が先ず先行し、その後に制裁の解除などを得るというやり方です。金正恩氏が主張する同時進行でも「行動対行動」原則でもありません。

問題は、核開発計画を放棄したカダフィ大佐は最終的には政権の存続を失ってしまったという事実です。カダフィは結局新政府軍に殺害されました。

新政府軍の兵士に拘束された瞬間のカダフィ大佐(左)。リビアTVが放送

金正恩氏はカダフィ大佐の二の舞を演じることを絶対避けたいでしょう。だから、北側は「段階的、同時的な措置」に拘ります。換言すれば、核兵器を保有しない北朝鮮の独裁政権は遅かれ早かれカダフィ政権と同じ運命になるという恐れがあるのです。

しかし、それはトランプ大統領のあずかり知らないことです。米国は北朝鮮が、核兵器を放棄するかわりに、制裁解除、経済支援を受けられるようになっても、カダフィのような運命をたどるというのなら、それは金正恩のせいであって、米国や他の同盟国とは全く関係ないという立場です。実際そうです。

北朝鮮国内で、金正恩がどのような運命をたどるかなど、私達にとっては直接関係ありません。それはあくまで、金正恩の都合であって、我々は、北の核の脅威を取り除き、拉致被害者を取り戻したいだけです。

私の感触では、これでさらに米朝首脳会談は決裂するか、そもそも最初から開催されない可能性が高まったと思います。それに続く日朝会談も同じ運命をたどるかもしれません。

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