2022年3月15日火曜日

ウクライナ大統領府顧問、5月初旬までの戦争終結を予想―【私の論評】ロシアは4月から6月までの間に国家財政破綻し戦争継続はできなくなる(゚д゚)!

ウクライナ大統領府顧問、5月初旬までの戦争終結を予想

14日、スムイ州Okhtyrkaで、砲撃で破壊された建物の前を歩くウクライナ軍兵士

ウクライナ大統領府の顧問を務めるオレクシー・アレストビッチ氏は14日遅く、ロシアが攻撃に使用できる資源は5月初めに枯渇する見込みで、それまでに戦争が終結する可能性が高いとの見方を示した。
  
ウクライナとロシアの停戦交渉はこれまでのところ、一般市民が避難する人道回廊の設定を除き、ほとんど成果が出ていない。 ウクライナの複数のメディアが掲載した動画で、アレストビッチ氏は、実際にいつ終結するかは、ロシア大統領府が軍事侵攻にどれだけの資源を費やすつもりかに左右されると説明。

 「5月初旬以前に和平合意があるだろう。それよりもかなり早いかもしれない」と述べた。 その上で、1─2週間内に和平合意が結ばれ、ロシア軍が撤退することになるか、例えばシリア軍がロシア軍に合流して戦闘が長引き、4月半ばから下旬に合意が後ずれするかの分岐点に現在あるとの認識を示した。 ロシアが1カ月間の訓練しか受けていない新たな徴集兵を派遣するという「全くクレージー」なシナリオもあるとした。

【私の論評】ロシアは4月から6月までの間に国家財政破綻し戦争継続はできなくなる(゚д゚)!

ウクライナに侵攻しているロシア軍の中に、訓練が不十分な徴兵者たちがいることが明らかになっています。

プーチン大統領は否定しましたが、彼らを派兵しているとの疑念は強く、ロシア国防省は関係者の処分を急ぐ考えを表明しました。

ロシアでは約30年前の内戦で、徴兵された若者たちが多数死亡し、彼らの母親が政権を激しく非難して厭戦ムードが高まったことがあります。今回も母親団体から懸念の声が上がり始めており、戦争継続への影響が注目されます。

徴収兵などは十分に訓練するか、戦争にすぐに派遣するなら、前線などではなく、補助的な業務か、後方支援をさせるべきです。もし前線に送り込めば、足手まといになるだけではなく、彼らをみすみす的の銃弾や砲弾の的にするだけです。

もし、十分訓練されていない徴収兵を前線に送り込むというのなら、これは非人道的であり、これは現代版督戦隊のようなやり方で残虐きわまりありません。この面からも欧米諸国はこれを糾弾し、ロシアがやめないなら更に制裁を強化すべきです。

健康診断を受ける徴収兵

ウクライナ大統領府顧問、5月初旬までの戦争終結を予想通りロシアは今のままだと戦争継続不可能になるでしょう。

ロシアの財務大臣は3月13日、「海外資産の半分が凍結されて利用できなくなっている」と述べたといます。

16日には、最初のロシアの外貨建ての国債の利払の時期がきます。ロシアは利払いをルーブルで、それもマーケットのレートではなく、公的為替レートで払うとしていますが、これを実施と、事実上の債務不履行(デフォルト)になります。

それが明日(16日)起こるのですす。起きたところで何が変わるわけではないのですが、4月~6月の間にロシアが正式にデフォルトとなり、経済的にかなり痛手を被ることになります。デフォルトしたからといって国家が消滅するということはありませんが、それにしても戦争をやめない限り、IMFもこれを救うことはできませんから、ロシアやむを得ず戦争を終結させることになるでしょう。

ですから6月までに、ウクライナはどれだけロシア軍の攻撃に耐え、欧米諸国はいかに制裁を持続できるかということが問われているといえます。

欧米諸国はロシアの海外の資産を凍結してしまったため、ロシアは為替の防御のための資産が枯渇してしまったため、ロシア中央銀行(日本の日銀に相当)が何をやったかと言うと、政策金利を9.5%から20%に大幅に上げたのです。

そうすると住宅ローンなど、銀行間、あるいは企業とのローンが跳ね上がります。それによって、経済活動がストップしてしてしまい、これはロシアにとってSWIFTよりもはるかに悪影響があり、相当効いているようです。

ロシアは、これに対する対抗策として、制裁国に対して「資産を没収する」としています。ロシアで活動している海外企業が撤退しています。ロシアは、こうした企業の資産を没収するとしています。 

さらにこうした企業に対して、利払いや債務を返済しないといった措置を取っています。そのため、ロシアにお金を貸している企業、金融機関は直接影響を受けいますが、金融システム全体への影響は限定的です。

ロシアの国債の残高は200億ドルくらいなので、それほど大きくはないのです。 ですから、これを発端として、 リーマンショックのような、あるいは1997年のロシア危機の時のように世界が金融不安に陥るというようなことはありません。

さらに資産凍結はプーチン政権を支えてきた「オリガルヒ」と呼ばれる富裕層の個人資産にまで及んでいます。これによってプーチンの周りの影響力のある人たちをターゲットにすることで切り崩すことができます。

ドイツで押収されたオルガリヒの「クルーザー」

ロシアはメディアを掌握していますから、プロパガンダで「戦争などは起きていません、ウク特別作戦を実行しているだけです」、「ウクライナがウクライナのロシア系住民を迫害したから、特別作戦を実施している」とか「ロシアが正しいのだ」として事実を隠すことはできますが、政策金利の暴騰や超インフレを隠すことはできません。

そうなると、さすがに国民は「何かおかしいぞ、何が起きているのだ」という状態になります。そういう意味でも、中央銀行への制裁の影響は大きいと思います。

ロシアでは、旧ソ連時代には物資が不足しており、そうしてソ連崩壊直前直後に、激しいインフレに見舞われたということが記憶に残っている人は多いでしょう。そうして、外国企業が撤退して行くと、そこで働いている人たちも職を失いかねません。そうなれば、国民も「これは何かおかしいぞ」と思うこになるでしょう。


そのうち制限はされているものの、SNSでいろいろな情報にある程度アクセスできると、「ロシア政府がやっていることは問題だ」となる可能性は高いです。そうなれば、プーチン政権の切り崩しにつながる可能性があります。

他方、イランへの制裁のときに、決済の抜け道として、中国が大きな役割を果たしたということがありました。欧米諸国がロシアを制裁すると自身も痛手を受けますし、ロシアはさらに大きな痛手を受けることになります。これは、相互にどこまで耐えられるかという持久戦なのです。

持久戦をしているところで中国がロシアを支えると、ロシアがより我慢できてしまい、欧米がらり我慢できなくなってしまう。ですから、中国のサポートをなくすことによって、ロシアを追い詰めて行くということになるでしょう。場合によっては、中国にも制裁を課すことになるかもしれません。

ただ、当の中国は「ゼロコロナ政策」が失敗しそうな風向きになってきたので、ロシアを積極的に支援することはできないかもしれません。当然、ロシアにはできるだけ痛い制裁を加え、欧米は痛手を緩和しつつ持続力を保つようにすべきです。

4月〜6月にはロシアはデフォルトして、戦争継続は不可能になることでしょう。おそかれ、はやかれこのようなことになるのは最初から見えていました。にもかかわらず、なぜプーチンは、ウクライナに侵攻したのでしょうか。本当に疑問です。

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2022年3月14日月曜日

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「6月にロシアがなくなる?」木村太郎と4人の専門家が読み解く ウクライナ侵攻“結末のシナリオ”

ロシア軍に包囲されつつあるキエフ…停戦は

じりじりとロシア軍が迫るウクライナの首都・キエフ。首都攻防の行方とウクライナ侵攻の結末について、今後どのようなシナリオが考えられるのか。4人の専門家に話を聞くと、いずれも「すぐに停戦には落ち着かないだろう」という予測だった。

【防衛省 防衛研究所 高橋杉雄氏】
・キエフ包囲が阻止され、膠着状態が続けば“ワイルドカード”として、ロシア軍は生物化学兵器使用の可能性
・戦争に勝ったとしても、経済制裁は終わらずロシアは厳しい

【元産経新聞モスクワ支局長・大和大学 社会学部 佐々木正明教授】
・キエフが陥落したら280万人都市が火の海になり、21世紀最大の悲劇に。キエフ陥落は絶対にあってはならないシナリオ
・ポイントは停戦交渉。国際社会が一致団結してプーチンの戦争をやめさせるしかない

【日本大学 危機管理学部 小谷賢教授】
・キエフが陥落する可能性は高い
・ポイントは陥落後のゼレンスキー大統領の行動。国内にとどまってウクライナ軍の士気を上げ続けるしかない。国外脱出すればロシア側に「国を捨てた」とプロパガンダとして利用される

【防衛省 防衛研究所 兵頭慎治氏】
・中東の志願兵投入は、キエフ攻防の「長期化の覚悟」を意味する。プーチンはゼレンスキーが降伏しない限り諦めない
・ポイントはロシア国内の世論。制裁をはじめとする“違和感”に国民が気付けば事態が変わる可能性

そんな中、ジャーナリストの木村太郎氏が挙げたのが「6月にロシアがなくなる」というキーワードだ。

木村太郎氏:
これは僕が言ってるのではなくて、ロシアにFSB(露連邦保安局)という組織があって、そこの分析官が今後の戦争について匿名で分析を書いてるんです。今回の侵攻はまったく完全な失敗だったと。ロシアはいくら頑張ってもウクライナに勝つことはできないだろうと。なぜかというと、補給戦が延びてる。20万人を投入したが、例えば首都を制圧して大統領を殺したとしても、民衆を全部おさえるとすると50万人くらいの兵隊がいないといけない。それがいないうちに制裁が効いてきて、ロシアの経済は6月までに壊滅してしまう。それでロシアがなくなる。そういうことを言っている。


6月にロシア経済が破綻するということになれば、プーチン大統領の失脚もあり得るのか?

木村太郎氏:
それはまた別のシナリオがあるんですけど、プーチンはもしかしたら可能性として、クーデターでどこかに連れて行かれてしまうかもしれない。そういう可能性っていうのも考えておいた方がいいということを言ってる。これは可能性として高いかどうかは別にして、そういうオプションもあるんじゃないかと思うん

アメリカがウクライナの“目と耳”に デジタル情報戦で優位の理由

もう一つの戦争、デジタル情報戦についてはウクライナが圧倒的に優位だという見方もある。その理由について木村氏は「アメリカがウクライナの“目と耳”になっている」という。

木村太郎氏:
アメリカは情報戦でロシアを圧倒してるんですね。一つは大筋の情報を的確に、しかも先に出している。今度の戦争で「偽旗作戦」という言葉が出てきた。これは誰かに見せかける作戦。最近でもベラルーシで爆撃があって「ウクライナが爆撃したから、ベラルーシはウクライナに参戦しろよ」と。「こういうことを(ロシアが)言うぞ」とアメリカが言うわけですよね。すると、ベラルーシは参戦できなくなってしまう。そういうことをアメリカはうまくやった。

木村太郎氏:
もう一つ、目と耳になってるっていうのは、ウクライナの国境ギリギリのところを今、アメリカのスパイ機が飛んでるんですよ。それでロシア軍の通信とか、あるいは動きなんかをそのままウクライナ軍に伝えて、しかも命令まで出してるんですね。そういうことをやっているので、今のアメリカ軍はウクライナ軍にとって貴重な存在。ウクライナが頑張っているのはこの情報があってのことだと言われていますね。

このようにしてアメリカがウクライナの“目と耳”になることで、ウクライナ政府はいろいろな情報を得ることができているという。

狙わなくても当たるミサイル 米からウクライナへの武器提供も?

アメリカはウクライナに対して、情報の提供だけではなく武器の供給も行っているという報道もあった。それが「ジャベリン・ミサイル」という対戦車ミサイル。

木村太郎氏:
狙って撃つんじゃなくて、とりあえず適当に撃つと当たるというミサイルなんです。すごく恐ろしい対戦車砲。これを含めて1万7000の対戦車砲が、1週間以内にウクライナに送られた。エストニアでウクライナの輸送機に積み替えて、これからウクライナに飛ぶんだって言ってるんですが、ロシア側がまだこれに気がついてないからここまで手が回らないだろうな、ということまで記事に書かれてしまった。

この「ジャベリン・ミサイル」の報道によって、リビウの軍事関連施設が狙われてしまったという見方もある。また、木村氏は今回のロシアの作戦についてこう述べた。

木村太郎氏:
今回、戦車の補給部隊を連れていくのも少なかったし、食料も少なかった。もう一つは、まっすぐ道路に列をつくって戦車が走ることなんて、軍事専門家に言わせたらありえないって言うんですね。木の間に隠れるのが当たり前だと。そういう意味で非常に初歩的な戦車作戦っていうのも、ロシアはできてなかったんじゃないかと言われています。

ウクライナ侵攻の結末は…。日々変わり続ける情勢に注目したい。

(「Mr.サンデー」3月13日放送分より)

【私の論評】ロシアのウクライナ侵攻は、全く分不相応な無謀な作戦としか言いようがない(゚д゚)!

6月にロシアがなくなるというのは、どういう意味なのか、はっきりしないところもありますが、ロシア経済は6月にはとんでもない次元にまで、窮乏するということでしょう。そうして、無論ウクライナ侵略戦争も継続不能になるということだと思います。そうして、もしかすると、ロシアの現体制が崩壊するかもしれません。

このブログでは、以前からロシアのGDPは韓国を若干下回る程度であり、一人あたりのGDPでは韓国をはるかに下回るということを言ってきました。


韓国が、仮にロシア並の核や軍事力を持っていたとして、あの広大なロシアを守り、なおかつウクライナに侵攻したとして、早晩限界がくることは、目に見ています。

今日は、さらにロシア経済を他の視点からみてみます。以下に3つのグラフを掲載します。以下のグラフいずれもクリックすると拡大します。

ロシアの国内総生産(GDP)は20年で1.5兆ドルにすぎない(100掛けて150兆円と考えればだいたいの規模感が分かる)です。図1に主要国のGDPを示していますが、ロシアはイタリアの1.9兆ドル、韓国の1.6兆ドルよりも小さいです(グラフの国の順番は次の図2の軍事費の多い順である。選んだ国は21位の台湾までとロシアとヨーロッパで国境を接している国)。


ドイツ、フランス、イタリアのGDPを足すと8.4兆ドルとなってロシアの5倍以上となります。英国も足せば11.1兆ドルとなって、ロシアの7倍以上にもなります。

日本は5兆ドルでロシアの3.4倍であり、米国は20.9兆ドルでロシアの13.9倍です。太平洋戦争開戦時、日本の経済力は米国の10分の1以下と言われていました。ロシアは、もちろん、直接米国を攻撃した訳ではないですが、当時の日本以上に無謀な戦争に突き進んでいるのではないでしょうか。

中国に関しては、そもそも中国の出すGDP統計は李克強首相が自ら認めるように出鱈目であり、学者によっては、実際はドイツ以下であると指摘する人もいますが、ここでは詳細については触れません。

ロシアは、この小さな経済力ですべての西側諸国を敵に回しました。もちろん、貧しくても軍事力で圧倒することはある程度は可能ではあります。


図2は主要国の軍事費を見たものです。しかし、軍事費で見ても米国が圧倒的で7800憶ドル、ロシアは620憶ドルで米国の12.5分の1にすぎないです。ロシアにとって、GDPで見たときより多少はマシになりますが、それでも圧倒的に劣勢であることは変わらないです。

軍事費に関しては、誤解している人も多いのではないでしょうか、世界の軍事力ランキングとうものが、公表されますが、それによるとロシアは二位となっているものがほとんどで、ここから軍事費も当然二位であると思い込んでしまう人も多いのではないでしょうか。

軍事力ランキングはあくまで、軍隊の総合的な強さですから、軍事費とは直接は関係ありません。無論、ランキングには軍事費も大きな部分を占めますが、それだけが判断基準ではありません。ウクライナに侵攻した以降は、ロシアの軍事力ランキングは下がるのではないかと思います。

ドイツ、フランス、イタリア、英国の軍事費を合計すると1940億ドルですから、米国を入れなくてもロシアの3倍以上となります。なぜロシアはこれほど強気なのでしょうか。

これまで述べた数字は、為替レートで換算した各国のドルの値を示したものですが、為替レート換算の数字は必ずしも本当の軍事力を表さないということがあります。軍事力は軍装備の質×兵の数となる(もちろん、作戦の質や士気も重要ですが、これについては議論しません)。

軍装備のような財は自由に輸出入できるものですから、その価格は全世界であまり変わらないはずです。一方、兵士のコストはその国の一般的な賃金で決まります。賃金が安い国なら兵士のコストは安くつきます。だから、所得の低い国の軍事力は為替レートで換算した軍事費より高いはずです。

そう考えると、軍事力を支える経済力は所得の低い国では賃金で決まるサービス価格が安いことを考慮した購買力平価で見るべきだということになります。購買力平価で評価した各国GDPは図3のようになります。



これを見ると、ロシアのGDPは米国の5分の1,ドイツの9割、フランス、ドイツ、イタリア、英国合計の3分の1となります。プーチンは米国が前面に出て来なくて、逡巡するヨーロッパが相手なら、経済力が3倍でも恐れることはないと思ったかもしれないです。

覚悟があれば敵を恐れることはないというのは正しいかもしれないですが、そのための犠牲は大きいです。また、ロシアがドイツ並みの経済力を持つというのは人口が大きいからです。

それはすなわち、1人当たりで考えれば貧しいということです。生活水準を表す一人当たり購買力平価GDPは図4のようになります。


20年の一人当たり購買力平価GDPは、ロシアは2.8万ドル、ドイツは5.5万ドル、フランスは4.6万ドル、イタリアは4.1万ドルであり、ロシアはこれらの国の2分の1から7割の水準でしかありません。貧しい中で過大な軍備を保有し、なおさら貧しくなっています。

1990年代初め、ロシアもウクライナもポーランドも同じように貧しい国でした。しかし西欧に向いたポーランドは発展し、現在1人当たり購買力平価GDPは3.4万ドルとなって先進国の水準に到達しました。ウクライナは1.3万ドルです。西に向くことは自由と民主主義の国になることと同時に、豊かな国になることでもあります。

ロシアのような強権国家は、自国の数倍の経済力の国を脅し、自分の欲しいものを得ることはできるでしょう。しかし、ウクライナが降伏し、ロシアのものになるとして、それでロシアは何を得られるのでしょうか。

恐怖と敵意にみちたウクライナ人、破壊された都市、不発弾があるかもしれない肥沃な土地しか得られないです。それどころか、ウクライナの一部でも占拠するというのなら、そこに軍を駐留させなければなりません。

駐留軍には物資を補給しなければなりません。戦禍で疲弊したウクライナ人を放置するわけにもいかず、彼らにも復興するまで物資を補給しなければなりません。ロシアと国境を接する国々も恐怖と敵意を持ち、軍備と相互の軍事同盟関係を強化するでしょう。

ドイツ、フランスなども、ウクライナへの軍事援助をためらったことを後悔しているでしょうう。ロシアへの経済制裁は続き、海外投資は来なくなります。石油と天然ガスは中国に買いたたかれ、ハイテク製品は中国に高値で買わされることになります。現在も貧しいロシアは永久に貧しいままの国となります。

17世紀末、ピョートル大帝が夢見た近代化されたロシアは、皇帝プーチンの下では永遠に果たせない夢となりました。

ロシア経済は6月にはとんでもない次元にまで、窮乏しウクライナ侵略戦争も継続不能になるという読みは正しいと思います。そうして、ロシアは本当に消えてしまうかもしれません。

防衛省統合幕僚監部は14日、ロシア海軍の潜水艦3隻など艦艇計6隻が同日、北海道とロシア・サハリンの間の宗谷海峡を西向きに通過したと発表しました。2月に大規模演習のため日本海やオホーツク海南部に滞在した24隻の一部といいます。

こういう活動ができるのも今のうちだけかもしれません。6月以降には、このようなことすらできなくなる可能性もあります。

ソ連が崩壊した直後のロシアでは、空軍が定期パトロールをすることも不可能になったといいます。あまりの悲惨さに、米軍が支援してようやっと定期パトロールができたという逸話も残っているくらいです。

そもそも、今回のロシアのウクライナ侵攻は、全く分不相応な無謀な作戦としか言いようがないです。

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2022年3月13日日曜日

中国でコロナ感染者が過去最多、上海でも移動制限―【私の論評】日本は、ロシアのウクライナ侵攻だけではなく、中国の不安定化による悪影響にも備えるべき(゚д゚)!

中国でコロナ感染者が過去最多、上海でも移動制限

中国で都市封鎖により閉鎖された市場(11日、吉林省長春市)

中国で新型コロナウイルスの感染が全国規模で急拡大している。12日の感染者数は約3400人となり、過去最多を更新した。政府は感染を抑え込む「ゼロコロナ政策」を強化。東北部の吉林省長春市は都市封鎖を実施し、上海市も移動制限を敷いた。

国家衛生健康委員会の13日発表によると、香港・マカオを除く中国本土の新規感染者(無症状・海外からの訪問者を含む)は12日、合計3393人となった。データを遡れる2020年3月末以降、1日の感染者数として最も多い。


2月中旬までは毎日、数十~200人台で推移していた。「オミクロン型」など感染力の強い変異型が感染拡大の原因という。

東北部にある長春市の防疫当局は11日、全地域で不要不急の外出を禁止したと発表した。スーパーや薬局などを除く店舗や学校は休みとなる。バスやタクシー、地下鉄の運行も止まった。

重要企業などを除き、すべての企業活動を停止する。住友商事の長春事務所は「政府の指導に従って原則的に在宅勤務にする」(広報部)とした。

トヨタ自動車は合弁会社を通じて長春で乗用車の工場を運営し、多目的スポーツ車(SUV)「RAV4」を生産している。広報担当者は12日に「工場は稼働している。政府の指示に従って対応する」とコメントした。

上海市政府は12日、必要な場合を除いて上海から出ないよう市民に呼びかけた。同市を離れたり訪れたりする人には48時間以内に受けたPCR検査の陰性証明書の持参を義務付けた。上海市は12日から、市内の小中学校と幼稚園、塾などで対面式の授業を止め、オンラインに切り替えると発表した。

東北部の吉林市、東部の青島市、南部の深圳市や東莞市、天津市や北京市など広範囲で感染が広がった。感染者が増えた地域では大規模なPCR検査や移動制限を展開している。吉林省政府は12日、感染拡大の責任を問い、吉林市長の解任を発表した。

国務院(政府)は感染対策を強化している。11日、従来のPCR検査に加え、抗原検査を試験的に併用するよう各地方政府に通知したと発表した。陽性患者などを「早期に見つけ出す能力を高める」狙いという。

【私の論評】日本は、ロシアのウクライナ侵攻だけではなく、中国の不安定化による悪影響にも備えるべき(゚д゚)!

吉林省吉林市では大学で集団感染が起きたそうです。香港メディアによれば、所属する学生の告発から、大学当局が発熱した学生に解熱剤を与え、新規感染の情報を 隠蔽しようとしたとの疑惑も出ています。当局は12日、市長の免職を発表しました。感染拡大を許した責任を厳しく問い、全国の防疫担当者の引き締めを図る狙いとみられます。

中国本土の市中感染者は6日連続で500人を超え、11日の新規感染者は31の省・直轄市・自治区のうち20に及んでいます。

東北部の吉林省が全体の約7割を占め、2千人以上の感染を確認。長春市では事実上の都市封鎖(ロックダウン)が続いています。次いで感染者が多い山東省では青島市が12日、映画館などの営業を停止すると表明。必要な場合を除き市内から出ないよう呼び掛けました。

上海日本人学校の虹橋校は13日、原則全児童を対象にした異例のPCR検査を実施。学校前は日曜日にもかかわらず送迎の保護者らであふれた。(共同)中国政府は北京冬季五輪・パラリンピックの開催などに向け、感染を徹底して抑え込む「ゼロコロナ政策」を進めてきましたが、ほころびが出た形です。


これが中国国内だけで住めば良いのですが、最悪の場合はそうではなくなることも予想されるというが、年初にすで予想が発表されていました。それは、このブログにも掲載した、ユーラシア・グループによる毎年恒例の地政学的リスクの予測です。その記事のリンクを以下に掲載します。
世界「10大リスク」1位は中国の「ゼロコロナ政策」失敗…各国の政情不安定化も―【私の論評】今年最大の地政学的リスクは、中国の対外関係ではなく国内問題(゚д゚)!
米政治リスクの調査会社ユーラシア・グループは3日、2022年の世界の「10大リスク」を発表した。1位に「No zero Covid」(ゼロコロナ政策の失敗)を挙げた。中国が新型コロナウイルスの変異型を完全に封じ込められず、経済の混乱が世界に広がる可能性を指摘した。
報告書は冒頭で、米中という2つの大国がそれぞれの内政事情から内向き志向を一段と強めると予測。戦争の可能性は低下する一方で、世界の課題対処への指導力や協調の欠如につながると指摘した。

国際政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる同社は年頭に政治や経済に大きな影響を与えそうな事象を予測している。21年の首位にはバイデン米大統領を意味する「第46代」を選び、米国民の半数が大統領選の結果を非合法とみなす状況に警鐘を鳴らした。予測公表の2日後、トランプ前大統領の支持者らが選挙結果を覆そうと米連邦議会議事堂に乱入した。

22年のトップリスクには新型コロナとの戦いを挙げた。先進国はワクチン接種や治療薬の普及でパンデミック(感染大流行)の終わりが見えてくる一方、中国はそこに到達できないと予想する。中国政府は「ゼロコロナ」政策を志向するが、感染力の強い変異型に対して、効果の低い国産ワクチンでは太刀打ちできないとみる。ロックダウン(都市封鎖)によって経済の混乱が世界に広がりかねないと指摘する。

先進国はワクチンの追加接種(ブースター接種)を進めている。ブースター需要が世界的なワクチンの普及を妨げ、格差を生み出す。ユーラシア・グループは「発展途上国が最も大きな打撃を受け、現職の政治家が国民の怒りの矛先を向けられる」と指摘し、貧困国はさらなる負債を抱えると警告する。 

国際政治学者のイアン・ブレマー氏(ユーラシア・グループ社長)は2月24日、ロイターのインタビューに応じ、ロシアのウクライナへの軍事侵攻は地政学的に極めて重要な出来事であり「第2次冷戦」の幕開けであると述べました。

かつてのソ連との冷戦が世界的なものであったのに比べて、現在のロシアの勢力圏は小さいと指摘する一方、意図しない緊張激化を防ぐための『ガードレール』を構築するための制度的な仕組みがあまり整っていないという点でより危険だと語りました。

イアン・ブレマー氏

ブレマー氏の発言要旨は以下のとおりです。
  ユーラシア・グループ イアン・ブレマー社長  私たちはこのことについて一生語り続けることになる。これはベルリンの壁崩壊やソ連が崩壊して以来、地政学的に最も重要な出来事だ。  

世界的に見れば、これは世界秩序における重大な転換点であり、新しい冷戦の誕生だ。グローバリゼーションのあり方を大きく変えるものであり、とても大きな大きなインパクトがある。 

 米国と同盟国、そしてロシアとの間の第2次冷戦の始まりだ。ある意味で、この新しい冷戦はかつての冷戦ほど深刻ではない。なぜなら、ロシアの経済規模はテキサスよりも小さく、現在のロシアは中南米やアジア、アフリカとは無関係だからだ。ソ連との冷戦は世界的なものだった。

  しかし、ある意味では第1次冷戦よりも危険だ。なぜなら、意図しない緊張激化を防ぐための『ガードレール』を構築するための制度的な仕組みがあまり整っていないからだ。

  またロシアは、特にサイバー攻撃や偽情報戦など、ある意味で実際の戦争を誘発しかねない手段を持っているからだ。第3次世界大戦になるとは言わないが、米国、NATO(北大西洋条約機構)、ロシアが直接対立することになり、その対立は大変危険なものになる可能性がある。われわれはそれを理解しなければならない。

  <プーチン氏の狙いは何か>  (侵攻によって)何万人ものウクライナ人が命を落とすだろう。ウクライナ政府は亡命を余儀なくされるか、逮捕あるいは処刑されるだろう。それこそが、いまここで私たちが話していることなのだ。

  プーチン氏は自分の意思を強制するために権力を使い、欧州における既存の安全保障体制を打破するために無理やり勢力圏を作ろうとしている。それこそが、彼がやろうとしていることだ。 

 つまり、彼がついたウソは驚くべきものでバイデン米大統領に直接、シュルツ独首相に直接、マクロン仏大統領に直接、侵攻の意図はなく部隊は撤収しているとウソをつきまくったのだ。

  だが、この1カ月間で私たちが見た唯一の「緊張緩和」とは、ロシア大統領がついたウソだけだった。彼らがやってきたことはすべてこの侵攻に向かっていた。完全に罪のない、ロシアと敵対したり、脅威となることは何一つしていないウクライナ政府を侵略するためだ。 

 <中国はどう動く?>  中国は冷戦を望んではいない。中国は、欧州が中国とビジネスをしなくなるような、米国人が中国に投資するのがさらに難しくなるような戦いに巻き込まれることを望んでいない。中国にとってバランスを取るのは難しいだろう。

  だが現実には、中国は米国が自分たちをアジアに封じ込めようとしていると見ている。ロシアも、米国が自分たちを欧州に閉じ込めようとしていると見ており、結果的にそれが中ロ両国の距離を縮めている。

  <経済への影響は>  おそらく先進工業国は今年のGDPが約1%ほど低下するだろう。ただそれは、さらなる大規模な情勢悪化がないと仮定した場合だ。

  この侵攻によって明らかに原油やガス価格は上昇している。サプライチェーンの面で大きな問題が発生するのは明らかだ。とりわけ黒海の港の混乱と、欧米が科すであろう制裁の影響だ。
世界のほとんどの国ではこの2年間コロナの猛威にさらされ耐えてきました。「ウイズコロナ」政策の元、多くの感染者を出し、多くの国、特に先進国では国民の8割程度がワクチンを2回以上接種しました。発症していない感染者も相当数いるでしょう。

一方発展登場国では、一部の特権階級を除いて多くの人がワクチンの2回接種はおろか、1回も摂取できていない人が多いです。ただ先進国も発展途上国も十分にコロナ感染が広まったがゆえに、今やっとそこから立ち直れる光が見えてきたところです。

一方、中国はどうかといえば。「ゼロコロナ」政策で人権無視の強烈なロックダウンによりこれまでほとんど感染者がいませんでした。14億の民がほとんど感染していないのです。そうして中国製ワクチンはほとんど効果がないといいます。

地球上で中国14億人だけが全く感染されておらず、その他の60億人はかなり感染してしまったのです。一瞬、感染していない中国の一人勝ちに見えましたが実はそうではないのです。コロナウィルスは決してなくならないです。

ほんとんど感染者のいない中国はこれからもずっと感染しないように頑張り続けなければならないです。あの人権無視のロックダウンにいつまでも耐え続けなければならないのです。そんなことができるでしょうか。そんなことはいつまでも続けられないです。そこに大きな中国の地政学的リスクがあります。

中国では、経済活動や市民生活を犠牲にしても新型コロナウイルスの市中感染を抑え込む「ゼロコロナ」政策の見直しに期待する声が出ていましたが、当面望み薄の状況です。 

北京で開催中の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に合わせるかのように国内の新規感染者は急増。今秋の共産党大会を控え、リスクを伴う軌道修正のハードルは高いままです。

 李克強首相は5日の政府活動報告で、「国内での再発防止を堅持する」と強調する一方、「感染症対策を不断に最適化する」とも言及しました。全人代に先立ち複数の専門家からは、「中国の実情に即したウィズコロナの模索」を求める意見も出ていましたた。 

習近平国家主席は6日の会合で「わが国の政治制度は、対新型コロナの実践の中で顕著な優位性を示した」と自賛しました。習氏の念頭には1日数万人規模の感染爆発を繰り返す民主主義国との対比があり、共産党独裁の正当性をアピールできる道具をやすやすと手放すとは考えにくいです。 

政協の郭衛民報道官は3日の記者会見で「医療条件の良い先進国ですら医療逼迫(ひっぱく)が起きている。14億の人口を抱える発展途上国が有効な措置を取らなければ、結果は想像できない」と本音を漏らした。医療資源の乏しい広大な農村部を抱える中国がいったん対策を緩めれば、大きな被害を招きかねないと警戒感は根強いです。 

このまま、中国が「ゼロコロナ」政策にこだわり続けると、いくら人権無視のロックダウンや、死亡者ゼロなどのキャンペーンを続けたにしても、早晩「ゼロコロナ」政策は行き詰まります。

そのとき何がおこるかといえば、中国共産党の統治の正当性が崩れかねないということです。そのようなことになれば、中国共産党は当然のことながら、中国共産党の統治の正当性を否定する人々を徹底的に弾圧するでしょう。

ただ、それはますます人々に中共の統治の正当性に疑義を抱かせることになります。そこで、中国共産党が、国民を説得して「ゼロコロナ政策」から「ウィズコロナ政策」に転換できれば良いですが、硬直した現在の中国共産党は、どこまでも弾圧を続けるかもしれません。

これは、まさにポジティブ(正の)・フィードバックとなり、中国は不安定となり、非安定平衡、すなわち、クーデターや内乱や内戦にいたるかもしれません。これが、現在の中国の地政学上のリスクです。

ウクライナの地政学的リスクは、ロシアなウクライナ侵攻へと結びつきました。中国の地政学的リスクが、クーデターや内戦に至れば、日本からは遠いウクライナですら、対岸の火事とは言えない状況になっているのに、日本も大きな悪影響を被るのは必至です。

内戦などが起これば、日本にも避難民が大挙して押し寄せる可能性もあります。当然のことながら、中国のサプライチェーンは麻痺することになります。

日本にとって一番恐ろしいのは、ロシアと中国の地政学的リスクが両方とも高まり、最悪の事態となり、それにより甚大な悪影響を被ることです。

日本は、こうした可能性にも備えるべきです。


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2022年3月12日土曜日

「プーチンは注視していた」:プーチン、習は「もう我々の国を尊敬していない」とトランプ―【私の論評】何がプーチンのウクライナ侵略を勇気づけたのか?日本人は真摯に学ぶべき(゚д゚)!

「プーチンは注視していた」:プーチン、習は「もう我々の国を尊敬していない」とトランプ

https://dailycaller.com/2022/03/10/putin-watching-trump-putin-xi-no-longer-respect-country/

<引用元:デイリー・コーラー 2022.3.10

ドナルド・トランプ前大統領は10日の「ハニティ」で、アフガニスタン撤退後、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は米国に対する尊敬の念を失ったと述べた。

司会のショーン・ハニティは前大統領に、ウクライナでのマリウポリの産院への爆撃、地域社会の破壊と何千名もの死者に対する前大統領の反応を尋ねた。

「これは非常に悪いことだというのが私の反応だ。なぜならこれは決して起こらなかったことだからだ。もしトランプ政権であったならこれは決して起こらなかったし、私は彼(プーチン)のことをよく知っているが、これはまったく起こりそうにないことだった・・・アフガニスタンでこの悲惨な状況が起きた時、これがどれほど重要であるか信じることもできなかった。何と呼びたいと思うかにしても、撤退あるいは降伏のやり方のことだ。我々の国にとって悪いことが起こり始めた」

「アフガニスタン撤退のやり方だが、完全な降伏のようだった。そして実に、プーチンは注視していたし、習首席は見ていたし、イランの指導者も金正恩も注視していた。全員が注視していた。そして悪いことが起こり始め、彼らはもはや我々の国を尊敬しておらず、そうやってこのことが起きたのだ」

バイデン政権は、8月の米軍のアフガニスタン完全撤退とタリバンによる掌握をめぐり、特にカブール空港での自爆攻撃により13人の軍人が死亡してから、相次ぐ非難を受けた。

政権は8日、ロシアの石油・天然ガスの輸入を完全に禁止することでロシアに対抗措置を取り、銀行と輸出についても複数の制裁を科した。トランプは2月22日の声明で、制裁を「弱い」とし、プーチンは高騰する石油・天然ガスによってますます裕福になるだけだと述べた。

前大統領は9日、米国人は核戦争について「心配すべき」であり、その可能性は「深刻」だと警告した。

【私の論評】何がプーチンのウクライナ侵略を勇気づけたのか?日本人は真摯に学ぶべき(゚д゚)!

今回のウクライナ侵略に向けて、ロシア軍集結は昨年秋ごろから始まっていました。プーチン氏はなぜこのタイミングで強硬策に踏み切ったのか。理由の一つとして、バイデン米政権が昨年8月末、米軍をアフガニスタンから撤退させたことが影響しているのは、それが大きいか小さいかは別にして、間違いないでしょう。

米紙ウォールストリート・ジャーナルでも社説で、「米軍のアフガン撤退とその後のロシア軍集結のタイミングは「偶然の一致ではない」と指摘。「バイデン大統領が国内問題を最優先とし、世界から撤退するのをプーチン氏は見た。ウクライナに侵略し領土を奪い取ることは可能だとの考えに賭けている」と分析していました。

プーチン大統領は昨年8月24日、政権与党の会合で演説し、イスラム主義勢力タリバンが実権を握ったアフガニスタンへの関与に関し、「様々な勢力が対立する紛争に我々の部隊を関与させることはない」と述べ、ロシア軍の派兵を明確に否定しました。

ロシアの前身であるソ連が1979年にアフガンに侵攻した後、紛争の泥沼化で10年後に撤退した歴史に触れ、「我々は必要な教訓を得た」と説明しました。

ロシアは2015年9月から中東シリアの内戦に軍事介入しています。約6年に及ぶ介入の負担は重く、アフガンに軍事関与する余裕はないのが実情でした。

にもかかわらず、ウクライナに侵略することを決断したのは、まずは中東とウクライナとでは、地政学的状況が全く異なることがあるでしょう。中東はロシアにとっては、過去に介入していたことはあるにしても、全く関係のない地域ですし、距離的にも遠いですが、ウクライナは隣国であり、軍事的にも文化的にも、ロシアにとっては裏庭のような存在です。

それに、ロシアとウクライナは両方ともソ連邦に属していたこともあり、軍事的にも経済的にも、文化的にも、ロシアはウクライナの実情を知り抜いているという自負もあったことでしょう。

これに加えて、米軍が20年間も介入し続けたアフガニスタンを離れる際に、撤退ではなく、無様な降参に近い離れ方をしたことにプーチンはチャンスを見出したのかもしれません。

離陸する便によじ登って脱出しようとする人たち(昨年8月16日、カブール国際空港)

トランプ氏が語るように、プーチンは注視していたし、習首席は見ていたし、イランの指導者も金正恩も注視していたのです。世界中が注視していたのです。

中国の国営メディアは、米軍によるアフガニスタンの放棄から台湾の命運に関する教訓が得られると指摘しました。つまり米国は同盟国にとって、いざという時当てにならない友人であり、張子の虎だというわけです。「カブール陥落で際立ったのは、米国の国際的なイメージと信頼の失墜である」。中国国営新華社通信は、そのような見解を示しました。

さらに、ロシアもNATOも実際のところウクライナのNATO加盟を望んでいないのは周知の事実です。なぜなら、もしウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアの侵略によって北大西洋条約の第5条が発動します。そうなると今度は逆に、NATO主導の対ロシア戦争が引き起こされます。核を巡る対立に発展する可能性も出てきます。


NATO諸国にはウクライナでの戦争に兵士を送る意欲など毛頭なく、バイデン大統領も米軍の現地派遣は一切行わないと述べていました。ただバイデン大統領は一方で、仮に戦争が拡大し、ロシアが東欧のNATO加盟国を攻撃する事態になれば米軍が介入するとも明言しました。

プーチン氏は、このような状況の注視から、今のうちならNATO加盟国ではないウクライナに侵略しても経済的にも、軍事的にもさほど罰を受けずに済むと踏んだのでしょう。

そうして、2月21日プーチン大統領は、安全保障会議を開き、ドンバスの2つの「共和国」(「ドネツク人民共和国」「ルハンスク人民共和国」)の独立を承認。両共和国との間に「友好相互援助条約」を締結しました。

そうして、ロシア軍の全面侵略が2月24日に始まりました。プーチンは、21日から24日の間の3日間で、ウクライナ侵略を決めたのでしょう。ドネツク・ルハンスク人民共和国を独立国家として承認することは、ウクライナのNATO加盟への道を開きかねないことを、プーチンは最初から自覚していたと考えられます。

2月21日の翌日にでも、新たに成立したドンバス両人民共和国をウクライナも国家承認したら何が起きるでしょうか。ロシアとウクライナの双方から承認された両人民共和国は国際法上安定した基礎をもつのみならず、残ったウクライナという国の民族的対立がほとんどなくなってしまうのです。

NATOの内規に基づく「民族紛争」がなくなれば、ウクライナのNATO加盟を妨げる要因はなくなるのです。だからこそ、ウクライナ攻撃を命じたプーチンが「今しかなかった」と述べていたのでしょう。

そうして、米ホワイトハウスは2月25日、バイデン大統領は単独でウクライナに派兵する意向は持っていないと表明しました。

ホワイトハウスは「バイデン大統領はウクライナに軍を派遣する意図も関心も持っていない。北大西洋条約機構(NATO)が東部のパートナー国を支援する機構となっており、焦点はNATOにある」と述べました。

この声明は、ウクライナに侵略を命じたプーチン氏にとっては、天佑神助とも思われたことでしょう。

自分の読みは当たっていたと、自信を深めたことでしょう。ウクライナ侵略当初のプーチン大統領の自信に満ちた不敵な態度は、こういう背景があったものと思われます。

しかし、その読みは当たり続けることはありませんでした。まずは予想以上のウクライナ軍の抵抗にあっていますし、NATO諸国は軍事面では直接支援はしないものの、武器の提供などでは一致して協力して、ウクライナを支援しています。

さらに、経済面でもロシアをSWIFTから除外するという厳しい措置を実行しています。これは、プーチンの誤算であり、この誤算により、ロシアはウクライナの一部を占拠することができたにしても、ひょっとすると初期の目的(何がなんでもウクライナにNATOに加入させない)ことには成功するかもしれませんが、長期的にはソ連崩壊直後のように経済が低迷し、深刻な打撃をうけて、軍事力も維持できなくなり、そもそもウクライナがNATOに入ろうが入るまいかなど無意味になることでしょう。

ただ、上記のことから、我々が学ぶべきは、まずは米国のアフガン撤退を降参のような形ではなく、文字通り「撤退」にすべきであったこと。バイデンのように、早々と米軍の現地派遣は一切行わないなどと安易に発言するべきではないということです。そうではなく、腹の中では、「欧州大戦や、核戦争になったら困る」などと思っていても「場合によっては派遣するつもりだ」と発言すべきだったのです。

そうすれば、「軍隊の派遣」も一つのオプションとして手元に控えさせておくことができます。そうすれば、これもカードとして使えたはずです。強いカードを持っている限り、交渉もやりやすくなります。これに関しては、バイデンは自ら自分の手足を縛ってしまったも同然です。

そもそも、バイデンがこの2つの間違いを犯していないければ、プーチンを勇気づけることはなかったかしれません。

そうして、私達日本人も、これを教訓としなければなりません。日本が今のままであり、米国が様変わりして何かの拍子に、「在日米軍を引きあげる」「在日米軍を縮小させる」などと軽率な発言をする大統領が出現した場合、プーチンのように「これこそ天佑神助」と思い込む輩が出てこないとは断言できないはずです。

であれば、安倍晋三元首相が言及した米国の核兵器の共同管理(核シェアリング、核共有)の議論なども検討すべきです。ドイツでも実現されている核シェアリングについて、日本では議論すらしないというのは、それこそバイデンのように自ら自分の手足を縛ってしまうことになりかねません


現在日本が戦争に巻き込まれないのは、憲法9条などとは全く関係なく、まずは米軍が日本に駐留していることが最大の理由です。日本に戦争を仕掛けた場合、駐留米軍を戦争に巻き込むことになり、米国と本格的な戦争になるのが怖いので、どこの国も攻撃しないし、できないのです。

日本は、憲法や法律でがんじがらめで、世界第5位の軍事力とも言われる自衛隊が、実際に戦争になれば、いまのままだとほとんど機能しません。これでは、自衛隊があっても災害のときの救援や、単なる「政治的メッセージ」にしかなりません。「政治的メッセージ」に意味はないとはいいませんが、実効的な防衛はできません。今のままだと、日本が戦争に巻き込まれないのは、米軍が駐留しているからだけということになります。

ロシアによるウクライナ侵略の前後で、まさに世界は変わったと言っても良いです。プーチンが世界を変えてしまいました。この数日間で、1945年後の世界秩序は完璧に変わってしまいました。現在であっても、自己に有利であると考えれば、他国に侵略する国があるということがはっきりしたのです。

無論ロシアは深刻な打撃を受けることでしょう。場合によっては、プーチン失脚するでしょう。ロシアが二度と戦争ができないように、多額の防衛費を捻出できなくなるまで、経済的に追い詰めるかもしれません、それによってロシアはいくつかの国に分割せざるをえなくなるかもしれません。

それによって、西側諸国は結果としては、勝利することになるかもしれません。しかし、それでも、未来永劫にわたって、第2のプーチン、第3のプーチンが出てこないとは誰も断言できません。

そうして、現在ロシアによるウクライナ侵略によって亡くなられた方々、侵略が続く限りこれから亡くなられる方々は、戻ってくることはないのです。

これを考えると、最初から戦争などなかった方が良いに決まっています。戦争を防ぐにはどうすば良いのでしょうか。それも、憲法9条によって平和が守られるというような、お花畑を通り越した単なる与太話のような話ではなく、現実問題としての戦争を現実的に具体的に起こらないようにするにはどうしたら良いのでしょうか。

今後このようなことに対処するために、ウクライナは何らかの備えをするでしょうが、日本も憲法を改正し、それに基づき法律も変え、防衛費の現状の1%のくくりを撤廃するのは当然として、様々な防衛議論、安全保障論議をタブーなしに進めていくべきです。議論すらすることが許さないなどというような傲慢不遜な態度は許されません。

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2022年3月11日金曜日

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日本の解き方

独立広場。これまで何度も革命やデモの舞台となってきた場所だ

 ロシアによるウクライナ侵攻が続いている。4日、ロシアがウクライナ南東部のザポロジエ原子力発電所を攻撃した。これには、さすがに中国を含む世界各国が非難した。

 筆者は直感的に、ウクライナをエネルギーで締め上げるとともに、ウクライナが核兵器を保有しているとのデマをでっち上げるためと思ったが、どうやら的外れでもなかったようだ。

 この後の最悪の展開は核兵器使用、またはウクライナ国内の原発を破壊してウクライナ全土を「チェルノブイリ化」、誰も住めなくし、非武装中立地帯を作るというものだが、プーチン大統領ならやりかねない。そもそも原発やダムなどへの攻撃は、ジュネーブ条約違反である。

 ロシアへの経済制裁では、国際銀行間通信協会(SWIFT)から一定のロシアの銀行を除外する措置が2月末にとられた。これは「金融核兵器」ともいわれ、一部銀行を除外したとはいえ、ロシア経済にはかなり効く。ロシア中央銀行への資産凍結も同時に実施され、両者の威力はかなり強力だ。

 暗号通貨による抜け穴、SWIFTに代わるロシア製決済ネットワークや中国人民元などによる決済もあるが、まだ実力不足で、金融制裁の効果を完全に相殺するまではいかない。

 これらの金融制裁が決まった2月27日以降、ロシアの通貨は1ドル=80ルーブルから一時、150ルーブル前後へと大きく下落した。ロシア政府の今後5年の破綻確率は、同28日時点で2割程度だったが、先週末には6割程度まで高まった。

 こうした金融制裁は今後じわじわ効いてくるが、その兆候もある。アップルやディズニーなど米国企業が相次いでロシアビジネスからの撤退を言い出した。サハリン開発においても、英石油大手シェル、英BP、米石油大手エクソンモービルなどが撤退の動きを示している。各社の経営判断であるが、決済代金をドルで入手できそうにないというのも大きな判断材料だろう。クレジットカードのビザとマスターも業務を停止する。

 ロシア国内の政策金利は20%とそれ以前から2倍強になった。各種の制裁の結果、インフレ率は20%以上になるかもしれない。ロシア国民にとってはいいことはなにもない。

 こうした動きは、ロシア国内での厭戦(えんせん)ムードを高める方向になるだろう。しかし、だからといって、金融制裁がプーチン大統領にウクライナからの撤退を決断させるようになると楽観視はできない。

 第二次世界大戦以降、軍事力を伴わない制裁措置が成功したケースは5%くらいという実証研究もある。ただし、バイデン米政権関係者は、今回の措置は史上最も大きな打撃を伴う制裁であり、過去の事例とは異なるとしている。

 英エコノミスト誌による2021年のロシア民主主義指数は3・24で、世界167カ国中124位の非民主主義国家であり、こうした制裁への耐性は強いともいわれる。

それでも何もしないよりは、制裁措置を発動する方が、政治的な交渉をするためにも望ましいのはいうまでもない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】ウクライナ侵攻をプーチンの誤算まま終わらせる努力と覚悟が国際社会に求められている(゚д゚)!

ロシアはもはや世界のマーケットから切り離されたといって良い状況です。ソ連崩壊の90年代のはじめのようにサプライチェーンが一気に崩壊し、その結果、大規模な企業倒産が起きるでしょう。これは非常に深刻な変化でしょう。

また、経済が悪化することで国民の所得は減り、国が住宅や公共事業などに多額の補助金を出すことになるでしょう。そうなれば、完全な経済の国有化であり、事実上の社会主義体制に回帰することになるでしょう。今やロシアは世界から閉ざされ、中国にだけ開かれた全体主義的な独裁国家になりつつあります。

ルーブルが大幅に値下がりするなか、プーチン大統領が対外債務を外貨ではなく、自国の通貨ルーブルで返済することを一時的に認める大統領令に署名していますが、これはデフォルト=債務不履行はすでに起きているとみるべきでしょう。ルーブルで支払うと決定したことがそれを意味しています。すでにロシアの債務支払い能力に深刻な懸念があるといえます。

露中央銀行は制裁で外貨準備6300億ドル(約73兆円)の約6割を凍結され、為替介入によるルーブルの買い支えは困難です。通貨安を食い止めるため、露中銀は9日、国内でルーブルから外貨への両替を禁じたほか、外貨建て銀行口座からの引き出しを9月まで最大1万ドルに制限する措置を発表しました。1万ドルを超えた場合、顧客はルーブルでの引き出ししか認められません。

ロシアはこれ以前にも、出国者が持ち出せる外貨を最大1万ドルに制限、輸出企業の外貨収益の80%を強制的にルーブルに転換、外貨建て債務のルーブルでの返済の容認など、なりふり構わない経済防衛策を導入してきました。しかし、ルーブルの信用低下という根本問題は手付かずで、通貨安は今後も進むとみられます

首都モスクワでは現時点で、目立つほどの商品の品薄や物価上昇は起きていないです。しかし、一部店舗は既に砂糖や植物油、缶詰などの購入制限を実施。今後、原料や在庫の減少でインフレが加速する見通しです。

ロシアのウクライナ侵攻に対抗する米欧の制裁で通貨ルーブルが急落したのは2月末のため、2月の物価への影響は限定的だったとみられますが、ロイター通信によると上昇率は7年ぶりの高水準。2月26日~3月4日の消費者物価指数は、前週に比べ2・22%上昇しました。国産車が17・1%、テレビが15・0%の上昇で、足元では急速にインフレが進んでいます。

経済制裁でルーブルは急落しており、輸入物価の上昇で3月はインフレが一段と加速する可能性があります。市場では、年内にインフレ率が20%近くまで上昇するとの見方が広まっています。経済制裁で輸入が滞り、物資が不足すれば、国民生活への打撃が大きくなりでしょう。


先行き不安と侵攻への非難を背景に、外国企業が続々とロシアからの撤退や事業停止を表明。その数は200社以上とされるとされていますが。これは、ロシアで今後ビジネスを展開したとしても、ドルで収益を得られなることがはっきりしていることが要因です。ルーブルで得たとしても、それは紙切れになる可能性が高いからです。

撤退企業の業種も資源や小売り、飲食、自動車、金融、IT、娯楽など多岐にわたり、失業者が多数出るとの指摘が出ています。


ロシアのウクライナ侵攻にともなう、戦費負担は一日あたり百数十億円ともいわれています。

ロシアの年間の予算約37.5兆円規模であり、名目GDP約200兆円でありこれは、韓国を若干下回る程度です。ただ、人口が韓国より多いので、一人あたりのGDPは韓国をはるかにしたまわります。大雑把にいうと、100万円程度です。

ちなみにロシアの一人当たりGDPは日本の4分の1で、マレーシアと同じくらいです。経済的には先進国ではありません。

ロシアの軍隊がウクライナに攻め込んで一部を占領したとします。すると治安維持や人心の掌握が必要となります。それから人々の生活も安定させないといけません。同時に、進駐している軍隊のためにいろいろな物資を調達する必要もあります。 それで何が最も必要かというと経済の安定です。まずお金がないといけません。

ロシアはとてもそのような状況ではありません。これでは、早晩ウクライナでの戦争は継続できなくなるとみるのが普通です。ウクライナ側は、10日で戦費が底をつくと試算していましたが、これは楽観的に過ぎます、実際すでに10日を過ぎています。ただ、数年ではなくおそらく、数ヶ月と考えます。

プーチン政権はウクライナ侵攻に対する国内の批判をかわすため、国営メディアによる宣伝やインターネットを規制して情報を統制している。市民たちが批判の声を上げることは難しくなっているが、ルーブル急落などによる混乱は市民の暮らしを直撃しており、政権への不信感は静かに高まっている。


ロシア経済への影響を軽減するのは、簡単なことです。停戦し、軍を撤退させ、ウクライナと何らかの合意に至るだけです。停戦することのほかに解決策はないでしょう。

中長期的に見れば、ロシアに対する経済制裁は、ロシアだけではなく国際社会に深刻な影響を与えるでしょう。ただ、ロシアのウクライナ侵攻を成功裏に終わらせることは絶対に避けなければならないです。プーチンの核の恫喝に妥協し、融和的解決を模索することは、将来の国際秩序に大きな禍根を残すことになります。まさに、ウクライナ侵攻をプーチンの誤算まま終わらせる努力と覚悟が国際社会に求められているといえます。

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2022年3月10日木曜日

「世帯所得の減少」議論した経済財政諮問会議の読み方 マクロ経済失策には言及せず…金融所得課税強化への誘導も―【私の論評】参院選後には、本当は財務省カラー出すだけなのに岸田カラーを出したと悦に入るかもしれない困った総理(゚д゚)!

日本の解き方
経済財政諮問会議で令和4年度予算編成について議論する岸田文雄首相ら =3日午後、首相官邸

 経済財政諮問会議の中で、この25年間で、働き盛りの世帯の所得が100万円以上減少しているとして、非正規雇用の若年単身世帯の割合が大きく上昇していることなどが指摘された。

 経済財政諮問会議をめぐっては、筆者は小泉純一郎政権当時、竹中平蔵大臣の命を受け、民間議員ペーパーの下書きをしていた。当時、同会議はマクロ経済を首相に説明する唯一の機会だった。もちろんマクロ経済だけではなくミクロ経済の話題もあったが、それでも財政再建に関わるマクロ経済を議論する場として有用だった。

 だが、今の経済財政諮問会議の民間議員には、マクロ経済の専門家がいない。民間議員4人のうち2人は産業界代表枠、2人は学者・エコノミスト枠だが、後者枠では東大大学院教授の柳川範之はミクロ経済、BNPパリバ証券の中空麻奈氏はいわゆる「債券村」の出身だ。

 3日に開催された経済財政諮問会議の議題は、(1)マクロ経済運営(金融政策、物価等に関する集中審議)と(2)所得向上と人的資本の強化だった。開催時間は45分だけだが、その資料は大量で、ほとんど役人が書いたものを一部だけ委員が首相に説明しているのだろう。

 議題(1)に関する民間議員ペーパーで、「コロナ前のGDP水準を回復した今こそ」という記述があった。2021年10~12月期の実質GDP(季節調整済み)は541・4兆円だ。コロナ前とは19年10~12月期の542・2兆円を意味しているのだろう。

 しかし、その1期前の7~9月期は557・6兆円だったので、本来であれば、そこまで回復しないといけないが、マクロ経済のゴールポストを低く設定し、財政出動しないと誘導しているようにみえる。実際、民間議員ペーパーでは「公需から民需主導の持続的な成長経路への移行を図るときである」とされている。まんまと、政府・財務省のシナリオ通りである。

 冒頭の話は(2)に関係する。民間議員ペーパーでは、非正規雇用の割合が増えたことが所得減少の原因とはいわずに、現象面だけを書き、いきなり「賃金引き上げ、人材投資や働き方改革」という政策提言になっている。

 所得減少は、マクロ経済政策の失敗による「失われた30年」だ。それには言及せずに、「成長の果実を、賃金や人材投資に加え、配当・利払い等という形でも国民に幅広く還元し、好循環を拡大すべきである」としている。これだけなら支障はないが、その前後に、今後、政策誘導する布石も打っている。

 「若年世代、子育て世代は将来不安から消費を抑制し、依然、預貯金中心に貯蓄している」とし、その注釈で「我が国資産所得の格差は他の主要国と比べて大きく、例えば、家計資産総額約1億3000万円以上の高資産世帯が利子・配当金収入総額の約60%を占める状況にある」としている。

 これは、昨年の自民党総裁選以降、岸田文雄首相が「岸田ショック」をもたらした金融所得課税について、政府・財務省は諦めていないというメッセージである。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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以下に、35歳~44歳の1994年と2019年の世帯・所得分布(内閣府作成)のグラフを掲載します。


この世代には就職氷河期世代(2019年時点で大学卒なら37歳~48歳)が含まれるため、全体的に所得の差が25歳~34歳より拡大しました。「全世帯」で所得の中央値が1994年の657万円に対して、2019年は565万円と、92万円低下しました、また「単身世帯」でも25年前に比べ、300万円以上~400万円未満の割合が2倍以上に上昇しているのが特徴です。

このため、単身世帯の所得の中央値が1994年の498万円に対して、2019年は400万円と、98万円も低くなりました。ただし、「夫婦と子」世帯では、中央値が1994年の670万円に対して、2019年は677万円と、若干だが7万円増えています。つまり、就職氷河期によって結婚しない単身世帯が増えたうえ、その人たちの所得が下がったため全体の水準を押し下げているといえそうです。

さて、マクロ経済政策はなにかという教科書的な内容を以下に掲載します。

マクロ経済政策とは、市場の失敗に対して政府が対処する政策のことです。これには、個々の産業に対する規制や課税、補助金等の政策や、福祉・労働等の社会政策がありますが、不況を防ぐことによって十分な総雇用を維持し、一般物価を安定させることも経済政策の重要な役割です。これが「マクロ経済政策」と呼ばれ、財政政策と金融政策に二分されます。
 
財政政策は政府によって担われ、不況からの回復には、政府支出の拡大や減税が行われ、景気の過熱を冷ますためには、政府支出の削減や増税が行われる。
 
金融政策は中央銀行によって担われ、通常は特定の利子率(「政策金利」)を目安として、経済に出回っている貨幣の量(「貨幣供給量」)を調節します。不況やデフレの時は、貨幣供給量の増加を目指して金融緩和を行い、景気が過熱してインフレの時は、貨幣供給量を減らすために金融引き締めを行います。
 
上の高橋洋一氏によれば、所得減少は、マクロ経済政策の失敗による「失われた30年」です。この失われた30年のほとんどの期間を政府は、政府支出の拡大や減税をすべきだったのに、増税や緊縮財政を繰り返しました。

日銀は、この期間本来金融緩和すべきだったのは、金融引締ばかり繰り返しました。

これが、所得減少の根本原因です。これ以外に理由はありません。本来マクロ経済政策とは、市場の失敗に対して政府が対処する政策なのですが、日本では失われた30年間のほとんどの期間にわたって、政府のマクロ経済政策が間違っていたのです。

なお、上のマクロ経済政策の説明は、教科書的としましたが、高校の「政治・経済」の教科書にも似たりよったりのことが書かれているでしょう。これ以外のことをいえば、「政治・経済」の試験では間違いとされます。

高校の「政治経済」の教科書

そうして、これは古今東西いずれの国でも成り立つ事実です。逆のことをして成功したという例はありません。財務省は過去に、不況時に増税で成功した事例を探したといわれていますが、そのような事例は未だ財務省からは公表されていません。そのような事例は皆無だったのでしょう。

そうして、このくらいの認識があれば、政治家もその時々で、財政政策や金融政策の方向性を間違うことないはずです。

財務省はこうした教科書にも書かれているような事実をまげて、高校の「政治経済」のテストであれば、間違いとされる、屁理屈をこねて増税に増税を重ね、緊縮財政を推進してきたわけです。それどころか、財務省の抵抗があまりに多くて、安倍政権において結局2回も増税せざるをえなくなってしまったのです。

財務省はとにかく増税さえできれば、良いと考えているのです。さすがに現時点の諸費税増税は国民からの反発が必至とみられるため、それよりは金融所得課税のほうが徴税しやすいと考え虎視眈々とねらっているのでしょう。

一方、日銀は2013年に黒田総裁に変わってから、異次元の包括的金融緩和に踏切り、まずは雇用が劇的に回復したのですが、2016年からいわゆるイールドカーブ・コントロールにより、抑制的な緩和に転じてしまいました。

岸田総理の基本的姿勢は、内閣支持率がコロナ感染と世論が連動していることから、世論が新型コロナの感染拡大しかみてないことと、最近ではロシアのウクライナ侵攻が話題となり、マスコミの批判が安倍・菅政権に比してないに等しいことから、とにかく参院選まではほぼすべて重要事項は、検討する姿勢を見せるだけで何もせず、それで参院選までやり過ごし、比較的高い支持率を維持するつもりのようです。


ただ、例外は米国等に注文をつけらたときに限られているようです。そうして、本格的に意思決定するのは参院選後と決めているような節があります。そうなると、参院選でも何とか勝利して、国民から信任を得たとして、参院選後に金融所得課税を含めた、財務省主導の経済対策を実行し始めるのではないかと思います。

そうして、マクロ経済大音痴の岸田首相は、本当は財務省カラーを出すだけなのに岸田カラーを出したと悦に入るのかもしれません。本当に困ったものです。ただ、目論見どおりいくかどうかは、定かではありません。


一行目から馬脚をあらわした 岸田首相の『文藝春秋』寄稿の笑止―【私の論評】岸田首相の経済政策は、財務省による遠大な計画を実現するための持ち駒にすぎない(゚д゚)!



2022年3月9日水曜日

ウクライナ危機は米中間選挙の争点になるのか―【私の論評】バイデン政権の大失敗であるアフガン撤退も、ウクライナ危機も中間選挙の大きな争点になる(゚д゚)!

ウクライナ危機は米中間選挙の争点になるのか

岡崎研究所

 ワシントン・ポスト紙(WP)のコラムニストEugene Robinsonが、2月21日付の同紙で、ウクライナへのロシアの脅威に関するバイデンの対応を評価し、トランプであればこうはいかなかったとトランプを批判する論説を投稿している。

 これは、ロシアによるウクライナ危機に際し、バイデンは良くやっており、これがトランプであればそうはいかず、プーチンはトランプにもっとロシア支持の発言をしてもらいたいであろうとの皮肉を込めたトランプ批判の論説である。

 何故、トランプの動向に関心が向くかと言えば、元々プーチンと気脈を通じていたトランプが依然として次期大統領選挙の有力候補者であり、バイデン政権の今後にも関わる11月の中間選挙にこのウクライナ問題がどう影響するのかが注目されているためでもある。2月24日に至り、ロシアはウクライナへの全面的攻撃に踏み切ったが、確かにトランプであれば北大西洋条約機構(NATO)が一致して対応することは困難であっただろう。

 トランプは、バイデン批判は頻繁に行って来たが、ウクライナについては、1月29日にテキサスで、守るべきはウクライナの国境ではなく米国の国境だと述べ、2月12日、FOXニュースのインタビューで、自分が大統領の時にはウクライナ侵攻は起きなかったと触れた程度で、対ロシア制裁の是非などについて具体的な発言をしていなかった。

 もっとも、トランプの代弁者であるFOXニュースのカールソンや一部のトランプ派共和党議員は、ウクライナへの関与やロシアに対する制裁に反対し、むしろ移民問題と中国に集中すべきといった主張を繰り返し、これに対し、共和党議員を含む多くの批判が寄せられていた。

 ニューヨーク・タイムズ紙によれば、プーチンが、ウクライナ東部のロシア系支配地域の国家承認を行い、同地域に平和維持軍と称してロシア軍の派遣を決定した21日、トランプは保守系ラジオのトーク番組で、プーチンの侵略は天才的であり、極めて賢く、事情に精通していると称賛し、同日配布された声明では自分が大統領であればロシアのウクライナ侵攻は起きなかったとも述べた。

 今後、バイデンの対ウクライナ政策を巡り、中間選挙を控えてトランプがさらに批判を強めるのではないかとの見方もあるが、24日にロシア軍がウクライナ全土の軍事施設に対するミサイル攻撃を行い、バイデン政権を中心に主要7カ国(G7)が厳しい制裁措置をとるに至り、そう単純にはいかないように見える。一つには、もともとトランプはロシアやウクライナについては脛に傷を持つ身であること、更に対ロシア制裁を、共和党議員の多数派を含め議会が支持する状況において、バイデン批判では一致しても、これにロシア制裁を絡めることについて共和党議員の間に分裂が深まっていたことがある。

 他方、世論調査によれば、これまでのバイデンのロシア政策を評価する者より、評価しない方が上回っているとの結果もあり、議員と有権者の間に認識のずれがあるとの見方や、また、いずれにせよ米国民の関心は、インフレ、雇用、治安、コロナ対策等にあり、ウクライナ問題はそもそも中間選挙の争点とならないとの見方もあった。

 今後は、共和党はバイデン政権の制裁措置は不十分で弱腰であるとの批判を強めるであろう。これはトランプの代弁者や側近が、ウクライナへの関与自体に反対していたことと矛盾するが、トランプも豹変して、自分であればもっと効果的な制裁ができると言い出すのではないか。

 しかし、今後、更にウクライナ情勢が深刻化した場合、ロシアの侵攻を防げなかったバイデンの責任論よりも、バイデンのロシアに対する制裁と西側の団結の姿勢への支持が高まる可能性もあるだろう。ウクライナにおける悲惨な状況やロシア軍の残虐行為の映像が溢れ、国際社会も反プーチンとなれば、米国世論の潮目も変ってくることを期待したい。

ロシア制裁を争点化する可能性も

 バイデン政権およびG7は、追加制裁として、ロシア主要銀行5行に対する取引制限、ハイテク製品の輸出制限のみならず、国際決済システム(SWIFT)からの締め出しやエネルギー関係決済にも踏み込む姿勢を見せ、西側諸国の団結を示すようになった。バイデン民主党としては、むしろ対ロシア制裁の是非を争点化して共和党のトランプ離れを促すとの戦略もあり得るのではないかとも思われる。

 今後の事態の成り行きは流動的であるが、プーチンは、軍事侵攻は、ウクライナの「非武装化」が目的でウクライナ領土の占領は計画に無いと述べたが、最早プーチンの言うことは全く信用できず、少なくとも東部2州全域の占領、更には、ウクライナ全土の掌握、ゼレンスキー政権を転覆して親露傀儡政権の樹立を目論んでいるものと見られる。いずれにせよ、制裁が直ちには効果を生ずるわけではないので、対ロシア制裁が長期化することは確実であろう。

 今般のプーチンのウクライナ侵略は、ポスト冷戦の欧州の枠組みを根底から覆すのみならず、戦後の国連憲章を核とする国際秩序を崩壊させる露骨で悪質な国際法違反と云わざるを得ない。これを見逃せば、核兵器国は非核兵器国の主権や領土を好き勝手に蹂躙できることになり、ジャングルのルールが支配することとなってしまう。

 従って、国際社会は一致して対ロシア制裁を徹底して行う必要があり、制裁の効果を減殺するような第三国にも対応する必要もあろう。この問題がロシア問題に限定されるのか、あるいはグローバルな冷戦が復活するのかは中国の対応にもかかっているのではなかろうか。

【私の論評】バイデン政権の大失敗であるアフガン撤退も、ウクライナ危機も中間選挙の大きな争点になる(゚д゚)!

このブログでは、米国のメディアは、大手新聞はすべてリベラル、大手テレビ局は保守のFoxTVを除いて、すべてがリベラルであることを指摘してきました。そのため、米国のメディアでは、いわゆる保守層の意見などほとんどかき消されてしまうことを強調してきました。

ただトランプ大統領が誕生したことや、さらに2020年の大統領選挙においても、バイデンとトランプの票は伯仲していたことでもわかるように、米国の世論の半分は保守層であるのは間違いないです。

にもかかわらず、メデイアのほとんどがリベラルであるため、保守層の言論などなきが如しに扱われるのです。そのため、米国の大手メディアの報道だけを見ていると、米国保守の意見など無視されてしまい、リベラルの価値観だけが米国の世論だと思いこんでしまう人も多いのです。

そのような見方をすれば、米国の人口の半分程度は占める、保守層の考え方や意見を無視することになります。

ワシントン・ポスト紙(WP)のコラムニストEugene Robinsonの主張ももちろん、リベラルの立場からの主張であり、保守層の主張ではないことを、私達日本人というか、米国人ではない外国人は念頭におくべきです。

このコラムニストのトランプ像も、ネガティブであり、トランプを根底から否定して、まるで狂ったビエロのように扱い、それが当然だというような論評です。これだけだと、米国の現状の本当の姿を見失うことになります。

これを前提として、保守メディアでるデイリー・コーラー 2022.3.7の記事から以下に一部引用します。

2018年国連で演説するトランプ大統領(当時)

ドイツ代表団は2018年の国連演説で、ロシアの石油への依存について警告したドナルド・トランプ前大統領を笑い飛ばしていたようだ。

第73回国連総会での演説で、トランプはドイツがロシアの石油輸出に依存していることを批判した。

「単独の海外供給国に依存すれば、強要や脅迫を受けやすくなる恐れがあります。ですから我々は、ポーランドのように、ヨーロッパの国がエネルギー需要を満たすためにロシアに依存しないようバルチック・パイプ建設を主導していることを祝福します。ドイツは直ちに方針を変えなければ、完全にロシアのエネルギーに依存するようになるでしょう」とトランプは述べた。

「この西半球で、我々は拡大を進める外国勢力の侵害からの独立性を維持することに全力で取り組みます」とトランプが続けると、ドイツ代表団にカメラが向けられ笑っている様子が映った。 以下にのそのときの動画を掲載します。

トランプは2018年のドイツとNATOリーダーとの会談中にも同様に、ドイツのエネルギー依存について警告するコメントを発していた。

「ドイツがロシアと莫大な石油・天然ガス取引を行うのはとても残念だ。ロシアを警戒すべきであるのに、ドイツはロシアに年間何十億ドルも支払おうというのだ。そういうわけで我々はあなたたちをロシアから守ることになっているのに、ロシアに何十億ドルも支払っているのだから、それはとても不適切だと思う」とトランプは述べた。

「ドイツはロシアと新パイプラインから60ー70パーセントのエネルギーを得ることになるので、ロシアに完全に支配される。そしてそれが適切かといえば、否だと私は思う」とトランプは、イェンス・ストルテンベルグNATO事務総長に呼びかけた。

トランプは、ノルドストリーム2パイプラインの完成を阻止するための制裁を許可した。パイプラインができれば、ロシアはウクライナをバイパスして天然ガスをヨーロッパに送ることができ、ロシアのウラジミール・プーチン大統領にとって地政学的な大勝利となる。

ジョー・バイデン大統領は、就任に際して制裁を取り消したが、ロシアのウクライナ侵攻後最近になってからようやく制裁を元に戻した。
ロシアがウクライナに侵略した今、このトランプの演説の内容を聴いて、笑うもの等一人もいないでしょう。 現在、このときの動画を視聴すると、当時のドイツ代表団は、間抜けとしか言いようがありません。まさに、ドイツはロシアにエネルギーを依存することにより、ロシアのウクライナ侵略を促したともいえます。

ドイツのショルツ首相が属する社会民主党(SPD)は伝統的に軍備拡張に慎重でしたた。

例えば、ドイツ連邦軍が配備を希望していた攻撃用ドローン(無人機)について、消極的な姿勢を示してきました。3党連立政権に参加している緑の党も平和主義が強い左派政党で、ウクライナへの武器供与に反対する党員が多数を占めていました。

緑の党のロベルト・ハベック経済気候保護大臣が2021年5月にウクライナ東部の前線地域を視察した直後、「独政府はウクライナ軍に武器を供与すべきだ」と述べたところ、党内で厳しく批判されました。当時、ウクライナへの武器供与を提案する議員は、緑の党にほとんどいませんでした。

ところがショルツ首相は「ロシア軍のウクライナ侵攻によってドイツを取り巻く状況が大きく変わった」として、2月27日に軍備増強の方針を宣言しました。主要閣僚など限られた人々に自分の決意を伝えただけで、連邦議会の各党の院内総務に対する十分な根回しもしない独自の判断だったといいます。ところが演説後、大半の議員は席から立ち上がって、首相の決断に賛意を表しました。

ショルツ首相

今のところドイツ人の半分以上が、ショルツ政権の軍備拡張案に賛成しています。ドイツ公共放送連盟(ARD)が3月4日に発表した世論調査の結果によると、防衛費増額を支持すると答えた回答者の割合は69%で、反対派(19%)を大きく上回りました。

ショルツ首相は演説の中で言及しなかったのですが、ドイツでは徴兵制を復活させるべきだという声も上がっています。同国は2011年に徴兵制を廃止していました。

保守政党キリスト教民主同盟(CDU)のカルステン・リンネマン副党首は3月1日、「勉学を終えた若者たちに兵役か社会奉仕活動を義務付ける制度を検討すべきだ」と発言。連邦軍の兵員不足が深刻化している現状を鑑みれば、議会が徴兵制を議論するのは確実です。

ドイツの週刊誌フォークスが発表した世論調査によると、徴兵制の復活を求める回答者の割合は47%で、反対派(34%)を上回っています。

ドイツは、第2次世界大戦中にナチスが欧州諸国に与えた被害への反省から平和主義が強く、軍や国防について否定的な見解を持つ人が多くを占めていました。ドイツ人がこれほど急激に防衛政策を変えるのはかつてないことです。この劇的な変化は、プーチン大統領のウクライナ侵略が多くの市民に強い不安を抱かせ、プーチン政権の危険性について政府を覚醒させる強い警告となったことを示しているようです。

このショルツ首相の一連行動は、まさに2018年にトランプ氏が求めていたものでした。ただし、ショルツ首相は7日、ロシアからのエネルギー輸入を継続する方針を示しました。現時点では、これに代わる手段がないためとしています。

米国やウクライナからは、対露経済制裁に石油・ガスの禁輸を加えるよう求める声が強まっていますが、これに改めて抵抗する格好となります。2018年時点でトランプ氏の警告をドイツが真摯に受け止めていれば、対処できたかもしれません。

ドナルド・トランプ前米大統領は2018年7月11日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し防衛費支出を、目標の倍に当たる対国内総生産(GDP)比4%に引き上げるよう求めました。

トランプ氏がNATO加盟国に特に不満を抱いているのは、2024年までに全加盟国がNATOへの防衛費支出を対GDP比2%に引き上げると公約したにもかかわらず、順守したのは数カ国に過ぎない点でした。

加盟29カ国のうち、今年この目標を達成したのは米国と英国、ギリシャ、エストニア、ラトビアの5カ国だけでした。しかし、ポーランドやフランスなども目標に近づきつつありました。

トランプ大統領はツイッターで、「米国が守ると期待されている多くのNATO加盟国は、約束の2%(これは低い)を達成していないどころか、何年も支払いが滞っている。米国に返済してくれるのか?」と批判しました。

首脳会議開始前の編隊飛行を見上げるNATO加盟国首脳

トランプ氏は首脳会議に先立ち、アンゲラ・メルケル独首相(当時)と衝突しました。

トランプ大統領は、ドイツがGDPに対して「1%ちょっと」しか防衛費を支出していないと批判しました。米国は「実際の値で」4.2%を投じているとしていました。

トランプ氏はまた、「ドイツは完全にロシアに制御されている。なぜならエネルギーの60~70%と新しいパイプラインまで、ロシアからもらうことになるからだ。特に問題ないことだと思うならそう言ってほしい。私はそうは思わないし、NATOにはとても悪いことだと思う」と話しました。このトランプ氏は当初、プーチン大統領に理解を示していました。

ロシアが軍事侵攻を始めるに先立ち、ウクライナ東部で親ロシア派武装勢力が実効支配してきた「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」を独立国家として認める大統領令に署名したことについて、22日、トークラジオ「C&Bショー」のインタビューでこう言いました。

「プーチンはウクライナの広い地域を『独立した』と言っている。私は『なんて賢いんだ』と言ったんだ。彼は(軍を送って)地域の平和を維持すると言っている。最強の平和維持軍だ。我々もメキシコ国境で同じことをできる」(2月23日・朝日新聞デジタル)  平和維持を名目に軍を展開したロシアの手法は、メキシコ国境の不法移民対策に応用が可能だという考えを示したのです。

さすがにロシアがウクライナに軍事侵攻した後の2月26日の演説では、「ロシアのウクライナへの攻撃は、決して許してはならない残虐行為である」と非難したものの、

「プーチンは賢い。問題は我々の国の指導者たちが愚かなことだ」 「プーチンは(バイデン米政権の)情けないアフガン撤退を見て、無慈悲なウクライナ攻撃を決断したことは疑いない」 「私は21世紀の米国大統領で、任期中にロシアが他国に侵攻しなかった唯一の大統領だ」 「私が大統領ならこれは起きなかった」(2月28日・同前)

などと語って、バイデン政権やNATOの対応を批判しています。

トランプ氏の見方は、意外と事柄の本質を突いているといえます。

要するに「バイデンがウクライナに軍事介入しないとはっきり断言したのは、愚か過ぎる」、「自分であれば、軍事介入する可能性も示唆しつつ交渉する」と言いたいのでしょう。きちんと取引していればこんな事態に至らなかったという指摘は、トランプ氏の言う通りです。

トランプ氏ならばモスクワに飛んで行ってプーチン大統領と会談し、「ロシアがウクライナに軍事介入するならば、米国も軍を送る。米国第一主義はひと休みだ」と言ってプーチン大統領を脅したうえで、取り引きを持ちかけ、戦争を回避したでしょう。

バイデン大統領の弱点は、善意にもとづく民主主義国が団結すれば全体主義に勝つものと思っていることです。バイデン氏は世界がイデオロギーでは動かないことが、わかっていないようです。

さらに、ソ連崩壊後の混乱で砂糖や石鹸の入手にさえ苦労し、男性の平均寿命が一時的に60歳をきったことさえあった耐乏・窮乏生活を経験しているロシア人が、現状の経済制裁になかな屈しない人たちだということも、米国水準でものごとを考えるバイデン大統領はわかっていないようです。

さらには、トランプなら、すぐにシェール・オイル・ガスの再生産に踏み切り、ロシアにエネルギー分野で制裁する旨をプーチンに予めに伝えることでしょうが、バイデンには考えも及びもつなかないようです。

そもそも、現在の米国政府で国際情勢を分析する専門家のレベルが、基準に達していないようです。 そのことは、昨年夏のアフガニスタンからの米軍撤退を見れば明らかです。21年7月、バイデン大統領は「(反政府組織タリバンが全土を制圧する可能性は)ありえない」としていましたが、8月にタリバンは全土を掌握しました。

ガニ政権の正規軍は30万人もいたのに、わずか7万のタリバンにまったく歯が立たないことを、事前に読めていませんでした。バイデン氏は米国型の理想である正義がいつも勝つわけではないという半年前の失敗から、何も学んでいないようです。

米国がウクライナへ軍を送らないのは、国内での賛同が得られないからです。プーチン大統領は核兵器の使用をちらつかせました。これは、第3次世界大戦のリスクがある介入を米国は絶対にしないとプーチン大統領が確信しているからでしょう。

バイデン大統領があまりに早くから軍事的な手段をとらないと表明してしまったため、プーチン大統領が勢いづいたのです。ただし、米国を筆頭とするNATOの国々が、軍事的手段をとらないと確信するというのなら、なぜウクライナのドンバス地区以外にも侵略したのか、ここがプーチンの矛盾したところです。

バイデン大統領はロシアに対して、経済制裁くらいしか切るカードがありません。プーチン大統領は、2~3年後に結局はEU諸国が、ロシアの変更した現状を追認せざるを得なくなり、10年後には米国もそれに倣うことになると考えているのかもしれません。

米国は、ロシアの暴力性を軽視したのでしょう。ある程度の圧力をかけ、インテリジェンス情報の異例の公開だと言ってロシア軍の動きをオープンにすれば怖がるだろうと思ったのでしょうが、ロシアは怯みませんでした。またも大きな読み違えをしました。

それよりも問題なのは、米国のブリンケン国務長官が、2月24日に予定していたロシアのラブロフ外相との会談をキャンセルしたことです。

会談の実施は、ロシアが侵攻しないことが前提条件だったためです。ブリンケン長官は「いまや侵攻が始まり、ロシアが外交を拒絶することを明確にした。会談を実施する意味はない」と述べたそうですが、この判断は感情的すぎます。この時に会談をし、ロシアが手を引かないなら米国の本格的な軍事介入もあり得ると、釘をさすべきでした。

私は今回のロシアのロシア軍ウクライナ侵略を開始した事実は、絶対に許すことはできません。トランプがもし大統領だったにしても、この点だけは許さなかったでしょう。

しかし、北朝鮮の暴君金正恩と会談したトランプなら、ブリケン、ラブロフ会談を実現させ、その結果いかんでは、米露首脳会談を実現させるかもしれません。ロシア側の事情を吐露できる機会を得るだけでも、プーチンとしては良い機会となるでしょう。

それに対して、トランプは軍事介入で脅しはしつつも、本当にそうするしないは別にして、譲歩の可能性も示唆するでしょう。それで解決の緒がはやめに得られたかもしれません。この点トランプならば、絶妙なディールをした可能性もあります。そうして、現状ではっきりしているのは、当面ロシアのウクライナ侵略をとめられるのはプーチンだけです。

そうして、米国は民主党だろうが、共和党だろうが、ロシアに対して徹底した経済制裁を課するのは間違いないでしょう。そうなると、広大な版図を支配するロシアにとって極東は負担になります。その中でも、北方領土はロシアにとってどうでも良い存在になることとが予想されます。これは、考え方によっては日本にとって、北方領土を取り戻すまたとない機会になり得ます。ただ、その前提にはやはり、米露の外交的会話があることが望ましいです。

バイデン政権は軍事介入するつもりがないのですから、軍事力でプーチンを打ち負かすことはできず、厳しい経済制裁を課しつつも、ロシアと交渉するしか手段がないのです。ただし、武器の提供などで、間接的に軍事介入をしています。であれば、今からでも軍事介入の可能性を示唆すべきですが、なぜかそうはしません。

対話をすることによって、はじめてプーチンの悪巧みを含めて、考えが理解できるというものです。無論、理解とはプーチンのやっていることを是認せよという意味ではありません。プーチンが老化して、劣化しているのか、そうではないのかを確かめるためにも良い機会になるはずです。

外交では、相手が間違っているときや、関係が悪化したときこそ、積極的に会う努力をすべきです。ウクライナにおける戦闘の拡大を防ぐために、ブリンケン国務長官はいまからでもラブロフ外相と会談して、解決策を探るべきです。

こうしたことを実行しようとしない、民主党政権に対して、共和党の批判は高まることでしょう。  

ただでさえ支持率が低迷するバイデン政権ですが、ウクライナ情勢がこのまま混迷を続ければ、11月の中間選挙や2年後の大統領選挙に影響を及ぼすことは必至です。再びトランプ氏が大統領になることもあり得るのです。

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2022年3月8日火曜日

日銀審議委員人事に悪い予感…インフレ目標軽視は「雇用軽視」 金融政策は旧体制に逆戻りか―【私の論評】今後日銀が金融政策を間違えば、制裁中のロシアのように景気が落ち込みかねない日本(゚д゚)!

日本の解き方


岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏

 政府は、7月に任期満了を迎える日銀の片岡剛士審議委員と鈴木人司審議委員の後任に、岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏と三井住友銀行上席顧問の田村直樹氏を充てる国会同意人事案を提示した。

 高田氏はいわゆるエコノミスト枠、田村氏は金融機関枠だ。金融機関枠は、金融政策とは直接関係のない業界代表といえるため、本コラムでは高田氏に絞って考えてみよう。

 高田氏は財務省の「国の債務管理の在り方に関する懇談会」のメンバーを務めた。その意味で、今回の提示は典型的な財務省人選だ。

 2013年には『国債暴落―日本は生き残れるのか』という著書を出版している。単純な国債暴落論ではなく、中身はそう簡単に国債は暴落(金利は急上昇)しないということを主張したものだ。ただし、どこかのタイミングでは国債暴落(金利上昇)とも書いている。

 高田氏は、国債が暴落しない理由として、①経常収支黒字②ホームカントリーバイアス(自国通貨志向)③財政規律の存在―を挙げている。

 今はそうでもないが、将来には国債暴落もあり得る―というのは、財務省にとって好都合な主張である。そうならないために財政再建が必要だという流れになるからだ。高田氏は「財政規律は不可欠。消費増税は最低限の姿勢」との見解を示しており、財務省と同じ路線だ。

 高田氏の財政状況の見方は、財務省と同じく、債務残高対国内総生産(GDP)比だ。この数字は悪いため、暴落もあり得るが、前述の3つの要因があるから、今のところなかなか暴落しないというものだ。

 ファイナンス論からいえば、国債は政府の債務なので重要なのは政府の財政状況であり、国全体の話ではなく、①の経常収支は関係ない。②の自国通貨志向は多少あり得るが、どこの国でも同じことで決定的ではない。③について、消費増税が財政規律の表れというのは、バランスシート(貸借対照表)から財政状況をみるファイナンス論からすると、財務省を忖度(そんたく)しているように感じてしまう。

 国債関係者は市場機能を重視するので、国債市場に日銀が出てくるのを伝統的に嫌ってきた。その意味で、大量の国債オペが伴う大規模金融緩和に消極的な人が多い。

 今回の人事について、一部のマスコミは「非リフレ派」と報じている。「リフレ派」は、世界標準のインフレ目標に従って金融政策を考える人なので、非リフレ派が日銀に入ってはまずいのではないか。

 国債関係者は、市場機能を重視し、インフレ目標について考えることが少ないと懸念している。

 インフレ率は雇用と大きな関係がある。インフレ目標というが、裏を返せば、それを軽視するのは雇用軽視にもなる。今後の日銀人事によっては、かつての白川方明(まさあき)総裁時代の金融政策に逆戻りする予感がする。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】今後日銀が金融政策を間違えば、制裁中のロシアのように景気が落ち込みかねない日本(゚д゚)!

岸田文雄首相は4日の参院本会議で日本銀行の黒田東彦総裁の後任に関し、2%の物価安定目標に「理解のある方が望ましい」と話しています。

黒田総裁は2023年4月に任期満了となるため、「後任人事についてはその時点で日銀総裁に最もふさわしいと判断する方を任命することが基本」とも述べました。2%物価目標の早期実現を明記した13年1月の「共同声明」を岸田政権下で再確認したことにも触れ、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向け、今後とも緊密に連携して取り組んでいく」と強調しました。

4日の参議院報会議に臨む岸田総理

海外の主要中央銀行がインフレ対応で金融緩和からの転換に乗り出す中で、日本は未だ金融緩和が不十分なのは明らかであり、そうした中ての総裁人事は「新しい資本主義」を掲げる岸田政権の金融政策を占う試金石となります。

大胆な金融政策をアベノミクスの第一の矢に掲げた当時の安倍晋三首相は、黒田総裁を起用し、政策委員にリフレ派を次々と送り込み世界標準のインフレ目標に従った金融政策を実現しようとしました。

岸田政権が、「2%物価目標の早期実現」を本気で目指すなら良いでしょうが、そうでなく誰かの意見を聞いて、これを翻ることにでもなれば、日本はまたデフレに舞い戻ってしまいます。

日銀は現在でも緩和はしてはいるものの、16年1月にマイナス金利を導入した際、日銀はターゲットを「量」から「金利」へと明確に切り替えたので、長期国債買い入れの金額にノルマは存在しません。

日銀当座預金の政策金利残高にマイナス0.1%、10年物国債利回りにゼロ%程度という長短金利ターゲットを設定したイールドカーブコントロール(YCC)の下で、それと整合的なイールドカーブが形成されるような長期国債の買い入れを実施しています。

21年11月末に日銀が保有している長期国債残高は、前年同月末比プラス16兆3265億円にすぎません。ターゲットがまだ「量」だった頃、この数字はプラス80兆円を超えていたので、実態としては「テーパリング(量的緩和の縮小)」的なことはすでに相当進んでいるわけで、これを「ステルス(隠密)テーパリング」と呼ぶ向きもあります。

ETF(上場投資信託)買い入れはどうでしょうか。21年3月に行った金融緩和策の「点検」の際に日銀は、ETFの買い入れ手法を「柔軟化」したという体裁をとりつつ、相場急落時以外の買い入れは行わない態勢に移行しました。ETFの新規買い入れからは事実上「撤収」したと言っても過言ではないでしょう。

日銀は現在の金融緩和策の柱の1つとして、「オーバーシュート型コミットメント」を掲げている。これは「消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束するもの」です。

その一方、日銀は21年12月の金融政策決定会合で「新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペレーション」(コロナオペ)のうち、民間債務担保分は22年3月末で終了し、制度融資分とプロパー融資分は半年間だけ延長することを決定しました。

コロナオペの残高は足元で80兆円を超えています。満期到来でこれが全部なくなれば、マネタリーベースが落ち込むことは避けられないです。海外投資家の間で「日銀は金融緩和縮小に転じたのではないか」「YCC見直しがあるのではないか」といった思惑が生じる可能性が浮上しています。

この点について、日銀はどう説明して乗り切りを図るのでしょうか。12月会合における主な意見には「昨春以降のマネタリーベースの増加は、感染拡大による流動性需要の高まりに日本銀行が潤沢な資金供給で応えてきた結果である。今回の措置により短期的にマネタリーベースが減少しても、長期的な増加トレンドは維持されるため、オーバーシュート型コミットメントとは矛盾しない」「特別プログラムを全て手仕舞いすることになったとしても、それはコロナ禍対応の終了であり、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』のもとでの金融緩和の縮小を意味するものでは全くない」といった意見が出されたことが記されていました。

そうした日銀による説明(一種の言い訳)がどこまで為替市場で通用するかは見ものです。このように、22年の日銀の金融政策に関しては、米国やユーロ圏の中央銀行のように「緩和の縮小」に動いているのではないかという思惑が為替市場で浮上する素地があります。

また、参院選が終了した後には、岸田首相の言動も市場の関心事になりやすいです。FRBの利上げの限界が徐々に認識される中で、そうした日銀関連の思惑も加わると、ドル/円相場が110円ラインを越えてドル安・円高方向へと動く可能性もあります。

とは言え、結局のところ、日銀の不十分な緩和は22年以降も淡々と続いていくことでしょう。であれば、最悪の事態は免れるかもしれません。ただ、心配なのは今後の日銀人事によっては、かつての白川方明(まさあき)総裁時代の金融政策に逆戻りすることです。そうなれば、またデフレからしっかりと脱却していない日本が、完璧にデフレに舞い戻ることにもなりかねません。

ネット上で貧乏神と揶揄された白川方明

デフレに戻れば、就職氷河期がまた再現されることになります。しかし何といっても、悔しいのは、日本がデフレで苦しむ一方、日本から原材料を輸入する韓国や中国はぬるま湯につかったような状況になることです。

過去のデフレの真っ最中には、実は円が異様に高くなり日本で原材料を組み立てて、輸出するよりも、中国や韓国で組み立てて、そこから輸出したほうがコストがかからないという異常事態が発生しました。当然のことながら、日本から原材料を輸入しそれを組み立てて、輸出する中国や韓国のほうがさらに安いという状況でした。これでは、日本の国際競争力が落ちるのも必然でした。

このような状況では、国内で様々な製品を製造するよりも、国外で製造した方が安いということになり、日本国内の産業の空洞化がすすみ、中国や韓国の多数の富裕層を生み出すことになりました。

中国富裕層

特に韓国では、原材料を製造する技術も高くないし、そういうことをしようとする地道な技術者や経営者を馬鹿にし卑しみ、組み立てる人間が一番偉いという文化があり、日本のデフレはまさにこうした韓国にとっては、うってつけであり、日本がデフレの底に沈んでいるときには、優れた部品や素材を開発する日本を卑しみ、我が世の春を謳歌していたといっても過言ではありません。

挙げ句のはてに、日本では中国の富裕層をインバウンドともてはやし、これに頼るしかなくなる事業者も生まれでる始末でした。何これ?日本人あまりに惨めじゃないですか?なんで金持ちにしてやって、さらに奉仕までしなくてはないのですか?中韓が得ていた莫大な利益は、本来は日本企業や日本国民が得るものだったのではないですか?日銀がまともな金融政策さえしていれば、このようなことは起こらなかったはずです。

さすがに現在のロシアは制裁対象でないのでこのようなことはできないですが、もしロシアがそれができるなら、極東に様々な工場や工場団地を造成して、日本企業を誘致し、そこで組みたてと製造輸出を行い、儲けまくってニューオルガリヒが生まれることになるかもしれません。

このようなことはあり得ませんが、ただ制裁などの対象になっていない国である程度産業基盤のある国では、中国や韓国の大成功にあやかり、日本から安い原材料を輸入し、それを組み立てて大儲けする国も現れるかもしれません。そうして、そうした国で富裕層を生み出し、日本人がその富裕層を大歓迎するなどという、過ちが繰り返されるかもしれません。

そうなれば、現在コロナ禍からも立ち直りきっておらず、ロシアによる制裁による原油高などの悪影響を受けたうえ、さらにデフレということで、2重パンチで、景気が落ち込みデフレスパイラルのどん底に沈み、それこそ制裁を受けているロシアのように経済がどん底に沈み、失われた20年が再現されることにもなりかねません。

ウクライナに侵略したロシアが景気の落ち込みによって苦しむのは、自業自得で致し方ないですが、日本が自分の首を自分でしめるような真似をすることは、まっぴらごめんです。

そのようなことだけは避けたいです。岸田首相が日銀の金融政策を誤った方向に変えようとすれば、安倍元首相や高市政調会長が大騒ぎをするでしょう。ただ、それだけでは、岸田首相の翻意を翻すことはできないかもしれません。やはり、反対の世論形成が重要だと思います。

岸田首相が稚拙な日銀人事で金融引締に走るようであれば、皆で大騒ぎしようではありませんか。そうすれば、人の言うことを聴く耳を持つと自称する、岸田首相も多くの人の反対意見を聴くことになり、過ちを訂正するかもしれません。

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