日米関税交渉、切り札は「日本の造船技術」か 米国が“造船大国”から転落の理由 海軍の艦艇にも影響が
まとめ
- 米国造船業の衰退:米国はかつて世界一の造船能力を誇ったが、「ジョーンズ法」による競争力低下とレーガン政権の補助金撤廃により造船所が激減(300カ所閉鎖、残4カ所)。現在、船舶製造量は中国の230分の1で、コストは国際価格の4~5倍に上昇。
- 海軍への影響:造船業の衰退は部品供給網や熟練工の不足を引き起こし、海軍艦艇の70%が2010年以前の老朽船(中国は70%が2010年以降)。「共食い整備」も増加。
- 日米協力の可能性:日米関税交渉で日本の造船技術提供が交渉カードとなり、米国海軍は造船大国である日本(世界3位)と韓国(2位)に技術協力を求める。
日米関税交渉において、日本の造船技術の提供が日本側の重要な交渉カードである。
トランプ政権は、商業および軍事用の米国造船業の衰退に強い危機感を示し、復活を目指す。米国はかつて造船能力で世界一であったが、国連貿易開発会議によると、現在は中国が船舶製造量で大きくリードする。CSISの報告では、米国の造船能力は中国の230分の1に低迷している。
衰退の主因は、1920年に制定された「ジョーンズ法」である。この法律は、米国の港湾間輸送に使用する船舶を米国製に限定するもので、外国との競争を減らす一方、造船業の競争力を徐々に低下させた。
さらに、1981年のレーガン政権による補助金撤廃により、1983年から2013年に約300の造船所が閉鎖された。大型商業船舶を建造できる造船所はわずか4カ所となり、米国製タンカーやコンテナ船のコストは国際価格の4~5倍に跳ね上がった。
造船業の衰退は海軍艦艇にも影響を及ぼす。中国の軍艦の70%が2010年以降に進水した新しい船であるのに対し、米国は25%にとどまる。部品供給網の不足、老朽設備、熟練工不足が問題化し、部品不足による「共食い整備」も増加している。
こうした状況の中、米国海軍のフェラン長官は、造船大国である韓国(世界2位)および日本(世界3位)を訪問し、造船技術の協力や支援を求めている。
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【私の論評】日本の造船業が世界を圧倒!DVA85%の内製化力で米中を凌駕する秘密
まとめ
- 日本の造船業のDVA優位性:日本の造船業はDVA85%で、米国(70%)、中国(75%)、EU(80%)を圧倒。特に中国は技術依存により内製化が日本より低い。
- 日米造船業の比較:日本は海事クラスターと技術力で国内調達を強化(輸入比率10~15%)、米国はジョーンズ法の保護下で競争力低下、造船所激減(300カ所閉鎖、残4カ所)、輸入依存(30~35%)がDVAを下げる。
- 米国の造船課題:商業造船壊滅(シェア0.13%)、海軍艦艇の老朽化(2010年以降進水25%)、部品不足による「共食い整備」が戦略的劣位を露呈。
- 日本の内製化の強さ:製造業全体のDVA80%は、造船以外の自動車(82%)、機械(78%)、鉄鋼(80%)、化学(77%)、電子部品(70%)でも他国をリードし、経済(輸出GDP比14~15%)と安全保障を支える。
- 世界情勢での有利性と未来:日本の内製化は米中対立やサプライチェーン危機下で安定性を発揮。長年の努力で築いたDVAの高さは容易に覆せず、様々な分野で未来を切り開く。
国内付加価値比率(DVA)は、輸出品に占める国内で生み出された価値の割合を示す。国の製造業がどれだけ自国で作り上げているかを測る、骨太の指標だ。日本の造船業はDVA85%と圧倒的な高さを誇り、米国(70%)、中国(75%)、EU(80%)をぶっちぎる。特に中国は日本より10ポイント低く、内製化の弱さが露呈する。この数字を手に、日本と米国の造船業を徹底比較し、日本の製造業が世界の荒波でどう輝くかを明らかにする。2025年、混迷する世界情勢下、日本の内製化の強さは経済と安全保障の切り札だ。データはOECDのTiVA(2020年、2023年推定値)や信頼できる資料に基づく。
以下にDVAの算式を掲載する。
DVA(国内付加価値比率) = 国内付加価値額 ÷ 売上高 × 100 (%)
国内付加価値額は、以下の要素で構成される。- 人件費:従業員に支払われる賃金や給料など
- 原材料費:製品の製造に必要な原材料の費用
- その他費用:燃料費、水道光熱費、減価償却費など
日米中欧のDVA比較:日本の圧倒的強さ
日本 |██████████████████████████████████████ 85%
米国 |████████████████████████████ 70%
中国 |██████████████████████████████ 75%
EU |████████████████████████████████ 80%
(縦軸:DVA%、横軸:国、█=2.5%)
造船業DVA、2020年
日本の製造業全体のDVAは80%だ。米国75%、EU78%、中国70%を軽く超える。造船業に絞れば、日本のDVAは85%で、EU80%、中国75%、米国70%を大きく引き離す。中国は世界シェア46%で造船のトップだが、DVAは日本に遠く及ばない。高級エンジンや電子機器の25%を欧米や日本から輸入(中国税関総署、2023年)し、技術の壁にぶち当たる。EUはクルーズ船やエコシップで域内生産を固めるが、部品の20%はアジア頼み。米国は商業造船が壊滅状態で、シェアはわずか0.13%。部品の30~35%を中国や韓国に依存(U.S. Census Bureau、2023年)し、DVAは低迷する。日本の造船業は、国内でほぼ全てを賄う強靭な力で他国を圧倒する。中国の内製化の低さは、技術力の未熟さを物語り、日本の先進性を際立たせる。
日本と米国の造船業:DVAの真実
日本の造船業はDVA85%で、米国の70%を15ポイント突き放す。世界シェア17%、堂々の3位だ。川崎重工業や今治造船は、鋼材、エンジン、電子機器を国内で調達し、LNG運搬船やバルクキャリアを生み出す。部品の輸入は10~15%(財務省、2023年)に抑え、JFEスチールや三菱重工が材料と機器をガッチリ支える。経済産業省(2021年)によると、輸送機械の国内生産比率は53%で、造船はほぼ国内完結だ。海事クラスター――造船、鋼材、機器、研究機関の鉄壁の連携――がDVAを押し上げる。政府の支援、1956年から1990年代まで世界一だった技術の蓄積が、今日の強さを築いた。今治造船のバルクキャリアは部品の90%が国産(企業報告、2023年)。中国との領有権問題で、造船は安全保障の要だ。
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今治造船 |
米国は対照的だ。商業造船は壊滅、シェア0.13%。海軍艦艇とジョーンズ法(米港湾間輸送は米国製船舶限定)で細々と生き残るが、部品の30~35%は中国や韓国からの輸入だ。1920年のジョーンズ法は国内市場を守るが、競争を避けた結果、技術は錆び、コストは国際価格の4~5倍(ハンギョレ、2023年)。1981年のレーガン政権が補助金をバッサリ切り、造船所は300カ所が消滅し、今は4カ所のみ(CSIS、2024年)。海軍艦艇は部品不足、戦前のボロボロの設備、職人の不足で苦しむ。2010年以降に進水した艦艇は25%にすぎず、中国の70%に遠く及ばない。ニューポートニューズ造船所の艦艇は部品の60%が国産(推定)だが、電子機器や特殊鋼は海外頼みだ。米国は戦略的劣位に喘ぐ。
日米の差を決めるもの
日本のDVAの高さは、産業の底力が支える。海事クラスターは造船所とJFEスチール、三菱重工を結び、輸入を極力排除する。LNGや水素燃料のエコシップ、高効率設計は日本の技術の結晶だ。最新設備と熟練工が生産を加速し、政府の融資や補助が後押しする。商船と海上自衛隊の需要は揺るぎない。米国は商業造船の市場が消滅し、グローバル依存がDVAを下げる。ジョーンズ法は守りの鎧だが、効率の悪さと設計ミス(リットラル戦闘艦の失態)が足を引っ張る。海軍艦艇の遅延や「共食い整備」(部品不足で他艦から流用)は、米国の弱さを象徴する。
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コスト高で製造中止となった米海軍の沿海域戦闘艦(Littoral Combat Ship:LCS) |
日本のDVAは経済と安全保障に直結する。造船業はGDPの1%、50万人の雇用を生み、輸出競争力を支える。米日同盟では、横須賀での米海軍艦艇の整備(MRO)が日本の戦略的価値を高める。米国はDVAの低さゆえに海軍戦力が弱体化し、中国の艦艇370隻(米287隻、2024年)に追いつけない。デルトロ海軍長官が2024年に日本と韓国に協力を求めたのは、米国の焦りの証だ。
世界情勢での日本の有利性
日本の製造業の内製化の高さは、2025年の世界で輝く。米中対立、ウクライナ危機、コロナ禍のサプライチェーン寸断――混沌の時代に、DVA85%の造船業は商船と海上自衛隊を確実に支える。中国の海洋進出を牽制し、安全保障の基盤を固める。経済では、造船業の1兆円の輸出(2023年)と50万人の雇用が地域を潤す。米国のDVA70%は部品不足と高コストで競争力を失い、EUの80%は域内依存に頼る。中国の75%は技術の未熟さが足枷だ。日本の内製化は、供給途絶のリスクを跳ね除け、経済の安定を約束する。
結論
日本の造船業はDVA85%で、米国70%、中国75%、EU80%を圧倒する。中国の内製化は日本より低く、技術依存が弱点だ。日本の海事クラスター、技術力、政策がDVAを高め、米国はジョーンズ法の呪縛と造船所の消滅で苦しむ。製造業全体の内製化の高さは、混迷する世界で日本の経済と安全保障を鉄壁に守る。
造船以外の分野――自動車(DVA82%)、機械製造(78%)、鉄鋼(80%)、化学(77%)、電子部品(70%)――もDVAで他国をリードする。トヨタの自動車、ファナックの機械、村田製作所の電子部品は、製造業輸出(GDPの約14~15%)と雇用(1000万人)を支える。半導体(TSMC熊本工場、2024年稼働)やエコ技術の内製化は、未来の成長を切り開く。
自動車は電動化、機械はAI、ロボット化、電子部品は5GやIoTで世界を牽引する可能性を秘める。日本のDVAの高さは、一夜にして築かれたものではない。戦後の復興から数十年にわたる技術開発、産業連携、職人の汗と努力の積み重ねだ。この優位性は、容易に覆せるものではない。2025年、日本のDVAは技術立国の誇りを示し、造船を超えた無限の未来を約束する。
出典:
- OECD TiVAデータベース(2020年)
- 経済産業省「海外事業活動基本調査」(2021年)
- 財務省「貿易統計」(2023年)
- 内閣府「国民経済計算」(2023年)
- U.S. Census Bureau「貿易データ」(2023年)
- 中国税関総署「貿易統計」(2023年)
- CSIS「Navigating the Competitive Seas」(2024年)
- USNI「United States Must Improve Its Shipbuilding Capacity」(2024年)
- Visual Capitalist「Global Shipbuilding Industry」(2024年)
- VOA「US Navy Looking to S. Korean, Japanese Shipbuilders」(2024年)
- Statista「Japan: Leading Ship Manufacturers」(2024年)
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