このブログでも何回かにわたって、日本は内需を拡大すべきであるということを主張してきましたが、最近アゴラというブログで、以下のような記事がありましたので、その一部を転載させていただきます。
アゴラ
内需拡大が経済再生の最大のポイントであることには誰も異議はないでしょう。しかし、どうすれば内需が拡大できるのかについては、当然のことながら玉石混交の色々な意見があります。内 需拡大策と言っても、「大企業から税を取り立てて。これを一般家庭に配る一方で、労働組合を支援して、配当原資を削らせて賃上げを実現する」といった類の 空想社会主義的な考えは、この際あらためて論じる価値もないでしょう。法人税は、日本の税率は39.54%で、2位のアメリカ、3位のドイツ、4位のカナ ダ、5位のフランスを押さえて、堂々世界一の高率です。(尤も。アメリカの場合は、平均値では日本を下回るものの、州毎に州税の率が違うので、12%の州 税を徴収しているアイオワ州を筆頭に、日本より高率になる州が24州あります。) OECD加入国の歳入の内訳を平均値で見ると、2006年の実績で、所得税が36%(個人所得税25%、法人所得税が11%)、社会保険料が25%(雇用 者負担15%、被雇用者負担9%)消費税が30%(一般消費税19% 特定消費税11%)その他(資産税など)が9%となっています。
===============中略=======================
結局のところ、現在の政治上の議論の多くは、つき詰めれば経済の問題であり、経済の問題は、経済の原則 に基づいてしか解決できないのに、これを論じている人達が、テレビや新聞を含めて、一向にこのような「経済原則についての啓蒙」に努力せず、「日本特有」 としか思えない「情緒的な議論」や、古色蒼然たる「イデオロギー的な議論」に終始していることは、慨嘆せざるを得ません。 具体論でも、論じるべきことはたくさんあるのに、そういった議論はあまり耳にしません。例えば、日本全体を一つの法人と見立てて、そのバランスシートを見 たときには、一方では膨大な国の累積債務があり、一方では他国に例を見ない規模の個人貯蓄があることが見て取れますから、何とかしてこの個人貯蓄を消費に振替え、これによって税収を増やして、累積債務の解消をはかるべきと思うのですが、その為の具体論は、いつどこから出てくるのでしょうか? 私も、今回はまた埒もない一般論に終始してしまいましたが、次回からは、そういった具体論についても色々と提言をして行きたいと思っています。松本徹三
社会がなおざりにされている!?
日本には潤沢な原資がある
この論議に関して、日本の国内だけの既存の枠組みで考えるとすると、すぐに煮詰まってしまうと思います。それに、「経済原則」のみで考えていても、根本的な打開策は見つからないと思います。
こ れを実現するためには、社会に着目していく必要があります。経済、特に金融経済ではなく、実体経済となると、これは社会と不可分です。社会が良くならなけ れば、経済は良くなりません。消費も伸びません。高度な社会にならなければ、高度な実体経済にもならず、新たな消費など生まれてきません。それに、金融経 済だけで、実体経済を良くすることはできない。これは、大原則だと思います。
上の記事に「日本全体を一つの法人と見立てて、そのバランス シートを見 たときには、一方では膨大な国の累積債務があり、一方では他国に例を見ない規模の個人貯蓄があることが見て取れます」ということが書かれていますが、まさ にその通りです。私も以前このことについては「赤字国債」に関連して、いかに日本には資金が潤沢なのかを掲載したことがあります。
これについては、以下のURLを参照してください。
http://yutakarlson.blogspot.com/2009/04/blog-post.html
ただし、少しだけ肝心かなめの部分のみピックアップしておきます。
「日本政府の債務、つまり負債は948.7兆円もあります。しかし、同時に資産もかなり大きいです。なにしろ政府の金融資産だけで491兆円近くもある。これだけ巨額の資産をもっている政府は、世界中で日本だけです。アメリカですらこんなにありません。債務額から金融資産を 差し引いた純債務額で見れば、日本の政府の債務はGDPよりも少なくなり、普通の先進国並みです。
日本国のBSを見ていただければ、わかりますが、国債を発行すると、BSの純資産合計の中の、政府の部分のマイナスが増えて いくといういうことになります。では、どこまでが限度というかと、金利があがらない限り家計の1083.4兆円くらいまでです。もっと、マクロに見ると、純資産合計の299.8がゼロになるまでということです。そこを超えれば、確かに財政は破綻する可能性がありますが、この家計の大きさを見てください。こんなに大きな家計をもっている国はありません」。
さて、これだけの資金を持っている日本国が、内需拡大の原資に困ることなどあり得ません。では、なぜ、上記のような記事のように、どうしたら良いのかわからないという状況になるのでしょうか?
それは、過去のいきさつや、現状の枠組みだけでものを考えているからです。
内需拡大の方向性
上記の記事のように、何とかしてこの個人貯蓄を消費に振替え、これによって税収を増やして、累積債務の解消をはかるにはどうしたら良いのでしょうか。それには、主に二つの方向性があります。まずは、産業構造の変革です。次に社会構造の変革です。
(1)産業構造の変革
これに関しては、大方の日本人が理解できることだと思います。たとえば、昨日より、東京ガールズコレクションが開催されており、盛況を極めているようです が、このファッションショーは旧タイプのものとはまったく異なります。旧来のファッションショーは、いわゆる普通のファッションを扱っていましたが、東京 ガールズコレクションはリアル・ファッションを扱っています。リアル・ファッションを扱うファッションショーとしては、渋谷ガールズ・コレクションなども あります。これに関しては、以下のURLを参照してください。
これらのファッションは、海外でも人気で、特に渋谷のカワイイ系ファッションが、最近ではパリでも認められています。パリの有名デザイナーも、日本のファッションの力強さ、大胆さには一目おいていました。
このように、旧来の枠を破って新たな産業構造をつくってしまうことで、内需も拡大できます。実際、日本のリアル・ファッションは世界的にも注目を浴びていて、毎年、パリやニューヨークのデザイナーも定期的に日本の渋谷界隈のマーケティングを実施しています。
以上は、ファッションですが、その他にもたとえば、海産物の養殖などもあります。これによって、採る漁業から、育てる漁業に産業の構造転換をはかるのです。
また、バイオや素材産業などもあります。バイオ産業もいよいよ本格的な段階に入っています。それも、いろいろな方面での活躍が期待されています、最近で は、IBMが半導体をつくる従来の工学的な技術にかわって、DNAの自己増殖を活用した方法を開発しました。このように、まったく思いがけもしないよう な、分野にバイオが活用されつつあります。また、ナノテクなどの素材産業あります。さらには、世界に冠たる、省エネ技術もあります。
これら、新しい産業が旧来の製造業などの産業よりも大きな存在になることにより、その過程で多大な投資が必要となります。そうすれば、未来ある将来の産業 ということで、これらに投資が集まります。産業構造が転換したときにも、従来では考えられなかったさまざまな消費が喚起され、それがまた投資を呼び好循環 をつくりだします。
(2)社会構造の転換
産業構造の転換も素晴らしいのですが、これも限界があります。なかなか、新しい産業が生まれてこないとか、生まれても大きく育つまで時間がかかるなどです。
しかし、ここに非常に大きな分野がすっかり忘れ去られています。それは、社会構造の転換です。大方の日本人にとっては、社会構造の転換とか、ましてや社会 事業とか、NPO(非営利企業)などといってもほとんど理解されないと思います。最近、いわゆるソーシャル消費が盛んで、何を食べると、その食事の2割が アフリカに食料にまわされるとか、ブルガリのリングを買うと、アフリカに寄付されるとか、ボルビックを1リットル分買うと、アフリカに10リットルの水が 提供されるだとか、はたまた、お嬢様大学の典型である神戸女学院のある教授のゼミでは、今年の卒論のテーマは、以前とはまったく赴きを異にして、すべて ソーシャル関連のものだったとか、最近IT企業のスローガンが「ソーシャル・○○」というものが多いとか、多くの日本人がかなり社会問題に興味を持った り、そのための消費をしたりしています。
しかし、今の段階では、これらは未だ擬似的なものに過ぎないと思います。はっきりいえば、本物ではないということです。なぜ、アフリカなどの支援に関する ものが多いかというと、それはわかり易いからです。誰でも、食料とか、水の問題や、その他の問題でも、先進国にすでにモデルがあるものに関してわかり易い ですから、こうした動きに賛同して、消費をするのだと思います。これでは、一昔前の、アメリカなどの芸能人や有閑層のいわゆる社会活動とほとんどかわりま せん。こうした運動のほとんどは、実は発展途上国の社会を変革することに寄与しているものはほとんどありません。中には、カンボジアに井戸をたくさん掘っ たが、ろくに地質調査をしないで進めたので、掘った井戸から砒素が出て、それによって地元の人が病気になったなどという例もあります(無論最近は解消され ています)。
私は、そもそも、自分の身の回りの社会やコミュニティーの問題に関して、取り組むとか、取り組まないまでも問題として認識できない人が、海外 の社会問題に関心を持ったとしても解決することはできないと思います。せいぜい自己満足どまりだとおもいます。ただし、私が言いたいのは、海外向けの支援をまったくするなと言っているのではなく、そればかりに目が向いてもらっては困るということを言いたいのです。
先進国には、先進国特有の社会問題がありながら、日本ではこちらのほうには、ほとんど目が向けられません。実は、多くの人が少子高齢化とか、医 療、年金の問題、教育の問題などその他例をあげれば、限りがない限り、日本には社会問題があることを多くの人がいやというほど知っています。だからこそ、 将来に不安を感じて消費も控えるというけいこうがあります。しかし、こうした問題に関しても、若い人々を中心に最近は少しは、目を向けられるようになって きていますが、こうした、社会問題や、社会事業への取り組みなど日本ではまだまだです。
社会事業などというと、日本人のほとんどは、「善意に満ち溢れた人たちが、手弁当で実施する奇特な事業」程度の考えで、これらが、かなり大きなセクターに なるなどとは考えおよびもつきません。この原因としては、このブログでも何回か掲載してきましたが、まずは、日本は数十年という間に貧乏国から、世界第二 の経済大国にまでのしあがってしまったので、NPO(非営利企業)の歴史がないことがあげられます。特に、段階の世代以上の世代には、なかなか理解できな いことでしょう。それと、もうひとつ日本には社会事業とそれを支える寄付の文化が根付いていないということがあります。
寄付の文化というと、欧米はかなり進んでいて、アメリカあたりだと年間の寄付はなんと20兆円にものぼるといいます。日本は、正確には覚えていませんが、 数百億に過ぎなかったと思います。アメリカのNPOでは、こうした寄付金の歳入のほかにも、自分たちでものを売ったり、いろいろなサービスをしたりで、さ らにいろいろな歳入があります。だから、NPOの歳入は国家予算にも匹敵するくらいです。イギリスなどでも、ブレア首相の時代に、NPOの社会福祉行政に かかわる法律的位置づけをはっきりさせて、就職するための福祉(失職者に補助金を与えるだけではなく、就職プログラムなどに参加させ、将来就職するための 補助を実施)を実践して多大な成果をあげ続けています。
こうした寄付も、黙っていていては、誰もしません。そのために、税制の改革が必要です。アメリカでは、寄付をすれば、税制上かなりの優遇措置があるので、 こうした多大の寄付を募ることができるのです。また、こうした寄付金を募るNPOも多彩です。アメリカの大学(院)は、その典型でハーバード・ビジネス・ スクールや、MITや、それこそ鳩山さんの卒業したスタンフォードも運営資金のほとんどが、寄付金に頼っています。そうして、こうした多大な寄付を受けた さまざまな社会事業を展開しているのです。このようなNPOの中には、証券会社がサブ・プライム・ローンで大失敗をした、低所得者住宅を提供し成功し続け ているものもたくさんあります。こうした、NPOの中には、その構成員の中に最初から、銀行や、建築会社も含まれているものがほとんどです。
要するに、こうした社会事業を展開するにしても、善意だけではほとんど何もできないということです。無論資金だけが潤沢であってもうまくはいきません。だ からこそ、低所得者向け住宅で証券会社が大失敗して、それが金融危機として世界中に波及しています。ところが、地域に密着しているNPOだと、寄付金で賄 える部分はそれで賄い、足が出る部分に関しては、対象者の就職支援プログラム、場合によっては、教育・訓練プログラム、さらには、返済計画まで盛り込んだ 支援策を実施するため失敗することがほとんどないのです。
日本でも、税制やインフラを変革したり、さらには、啓蒙活動を実施したり、場合によっては、国がモデルNPOをつくって、模範を示し、起動にのれば民間に 譲渡するようなことをするのです。(何やら、明治初期の富岡製糸工場や、日本麦酒、銀行のようです)このような社会事業を大々的に資金を投下してできるよ うにすれば、この社会事業を遂行する上で、大々的な投資や、消費が活発になり、税収も増えます。そうして、何よりも良いことは、多数の社会問題が解決され たり、解決の糸口が見つかる可能性が高まり、人々に安心感を与えることができるということです。そうして、いずれ、戦後導入されたアメリカ型の社会を、は るかに超えた新しい社会が実現できる可能性が高まることです。新しい社会には、新しい技術や考え方などが必要不可欠になります。それらを解決していけば、 技術的、社会的イノベーションかが多数生まれる可能性が大です。今度は、こうしたイノベーションを先進国に移転することが大きな事業になります。
小泉さんの構造改革は、いろいろ批判されていますが、私自身は方向性は間違えていなかったと思います。ただし、中途半端であったこと、上記のようなこと は、考えていたような形跡はありましたが、まったくどの政策にも盛り込まれなかったことなどでかえって、社会を疲弊させる方向に向かってしまったのだと思 います。郵政民営化も、同じことだと思います。「国が独占すれば、うまくいく事業は国がすべきですが、そうではないものは民営化する」という原則は、もう 諸外国ではかなり実証されている事実だと思います。ただし、日本の郵政民営化はあまりにも中途半端なので今のところ、目だった成果を出せていないのだと思 います。
こうした、背景にはやりは、官僚主義があるのだと思います。寄付の文化など根付いて、NPOが盛んに活動をしだしたら、お役人は自分の活躍する場がなくなると思い、こうした動きを排除しているのだと思います。過去の小泉さん、福田さん、阿部さん、麻生さんの時代でも、NPOに関して研究していたり、ソーシャル・キャピタルに注目していることなど明らかですが、政策などには、これらが必ずといっていいほどすっぽ抜けていました。今の民主党のマニフェストにも見当たりませんね。
しかし、いまや政権交代もあり、民主党はこうした役人主導の体質を改めようとしています。さらには、選挙で惨敗した自民党も、官僚の体質を変えることに優先するようになると思います。いずれにせよ、今の日本は、社会問題が多すぎで、先行き不透明で消費も経済も上向きません。これを解消するためには、上記のような社会構造の 転換は不可欠だと思います。
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