2014年5月19日月曜日

ポール・クルーグマン「ピケティ・パニック」---格差問題の言及者に「マルクス主義」のレッテルを貼る保守派はこれにまっとうに対抗できるのか?―【私の論評】中国のように格差を容認する国がどうなったか、これからどうなるのか?先進国は過去どのようにして豊になったのかもう一度真摯にみなおすべき(゚д゚)!

ポール・クルーグマン「ピケティ・パニック」---格差問題の言及者に「マルクス主義」のレッテルを貼る保守派はこれにまっとうに対抗できるのか?



トマス・ピケティ氏


保守派が怯える『21世紀の資本論』

フランスの経済学者トマス・ピケティの近著『21世紀の資本論』は、正真正銘の一大現象だ。これまでもベストセラーになった経済書はあったが、ピケティ氏の貢献は他のベスセラーの経済書とは一線を画す、議論の根本を覆すような本格的なものと言える。そして保守派の人々は、すっかり怯えている。

そのため、アメリカン・エンタープライズ研究所のジェームス・ペトクーカスは「ナショナル・レビュー」誌の中で、ピケティ氏の理論をこのままにしておけば「学者の間に広がり、将来、すべての政策上の論争で繰り広げられる政治的な経済情勢を塗り替えることになる」ので論破しなければならないと警告している。

まあ、頑張ってやってみることだ。この論争に関して特筆すべきは、これまでのところ、右派の人々はピケティ氏の論文に対して実質的な反撃がまったくできていないという点だ。きちんと反撃するかわりに、反応はすべて中傷の類ばかりである。特にピケティ氏をはじめ、所得および富の格差を重要な問題と考える人に対しては、誰であれマルクス主義者のレッテルを貼る。

この中傷についてはあとでまた触れるとして、まず、彼の「資本論」がなぜそんなに大きなインパクトをもつかについて述べたい。

21世紀の資本論

第一次世界大戦前の状況へ逆流する社会

格差が急速に広がっていることを指摘したのも、大半の国民所得の伸びが遅い状態とは対照的に上位の富裕層の所得が増大している実態を強調したのも、決してピケティ氏が初めての経済学者というわけではない。同僚とともにピケティ氏がわれわれの知識に多大な歴史的洞察を加え、いま、まさに「金ぴか時代」を生きているのだということを示したことは確かだ。しかし、かなり前からもうそのことは分かっていた。

ピケティ氏による「資本論」が真に新しいのは、その点ではない。巨大な富を稼ぎそれが当然とされる能力主義の世界に住んでいるのだとあくまで主張する、保守派神話のコアとなる部分を打破する手法こそが新しいのだ。

過去20年間、上位富裕層の所得の急増を政治の問題にしようという取り組みに対する保守派の反応には、2つの弁明が見られた。

1つは、実際ほど富裕層は豊かではなく、それ以外の人々もそれほどひどい状態ではないという、事実否認である。それがうまくいかなくなると、今度は、上位に見られる所得の急増は、彼らの仕事に対する報酬としては正当なものだと述べる。したがって、彼らを上位1パーセントや富裕層とは呼ばず「雇用の創出者」と呼ぶべきだという言い分だ。

富の格差の言及者はみんなマルクス主義?
それでは、富裕層に対する税率の引き上げを正当化するための診断として使われてしまいかねない、という恐れを抱く保守派の人々は、何をするだろうか?ピケティ氏を強力に論破するよう試みることも可能だが、今のところ、その兆候はまったく見られない。前述したように、その代わりに聞こえてくるのは中傷ばかりだ。

同時に、これまでの右派の標準的な作業手順は、自由市場ドグマのいかなる面で疑問を投げようとも、共産主義者呼ばわりをすることだった。ウィリアム・F. バックレイのような人々が、ケインズ経済理論の間違いを示さず、「集産主義者」と非難することによって阻止しようとした以来の伝統だ。

累進課税をスターリン時代の「悪」とみなす保守派

予想通り、ウォールストリート・ジャーナル紙の評論では、富の集中を制限する方法として累進課税を求めるピケティ氏の提唱から、なぜか突然スターリン主義の悪へと、とてつもない飛躍をした。ちなみに累進課税は、かつて主要な経済学者たちだけでなく、テディ・ルーズベルト(共和党)を含む主流の政治家が提唱してきた、極めてアメリカ的な救済措置なのだ。

アメリカ寡頭政治の擁護者たちが、弁明のために首尾一貫した理論が得られないことに明らかに困惑しているからといって、彼らが政治的に逃走中というわけではない。それどころか、依然として金の力は大きい。実際にロバーツ・コート(※)のおかげもあり、その声は以前にも増して大きくなっている。

しかし、われわれが社会をどのように論じ、最終的に何をすべきかについてのアイデアが重要なことに変わりはない。そしてピケティ・パニックは、右派の人々のアイデアが尽き果てたことを現しているのだ。

この記事は要約版です。詳細ははこちらから(゚д゚)!

【私の論評】中国のように格差を容認する国がどうなったか、これからどうなるのか?先進国は過去どのようにして豊になったのかもう一度真摯にみなおすべき(゚д゚)!

ポール・クルーグマン氏

いつのまにやら、各国で保守派は、富裕層がさらに金持ちになるような政策に傾いたようです。金持ちがより金持ちになれば、国がさらに富むという考え方が蔓延しているようです。

これは、正しいのでしょうか?私は、正しくはないと思います。これは、先進国がどのようにして豊になってきたかを振り返れば、良く理解できるはずです。

簡単に行ってしまえば、過去の先進国は、結果として中間層を大きく育てるということによって経済を成長させてきました。

これについては、以前このブログでも掲載したことがありますので、その記事のURLを以下に掲載します。
スティグリッツ:「貧富の格差に対処する国と対処しない国に世界は分裂しはじめた」―【私の論評】中間層を育成することが、過去の経済成長の基本中の基本であったことが忘れ去られている!これは、単なる平等主義とは違う!!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、私はこの記事において、スティグリッツの考え方を要約するとともに、それに自らの意見を付け加えてみました。それを以下にコピペさせていただきます。

スティグリッツ氏
上の記事を徹底的に要約し要点中の要点だけをまとめると、以下のようになります。

1.チリ、メキシコ、ギリシャ、トルコ、ハンガリーは、国によるがきわめて甚だしい所得格差を首尾良く減らし、格差とは政治的産物で、単なるマクロ経済動向によるものではないことを示した。 
2.格差はグローバリゼーション、労働、資本、モノ、サービスの移動、スキルや高学歴の従業員を優遇する、回避できない技術変化の副産物だ、というのは真実ではない。  
3.いくつかの国は、繁栄を分かち合う社会を創り上げることに成功するだろう。また私は、こういう成功こそが本当に持続可能だと信じている。しかし、一方では格差を荒れ狂うままにする国もあるだろう。

貧困の原因は、膜経済ではく政治氏テムの不備にある
要約2については、日本ではデフレが続き、国内である程度の価格平準化などが進んでいる面もありますが、それにしても、東京の地価は地方に比較すればまだまだ高いですし、賃金も東京都内は高く、地方では低いです。同じスキルを持つ、同じ事業の労働者であれば、あきらかに東京の方が賃金が高く、地方では低いです。 
これは、おそらく統計資料を整えるようになってから同様の変らぬ傾向だと思います。同じ国の中ですら、完璧に平準化はされていません。それは当たり前のことです。需要の供給のバランスからそうなっています。地方で東京と同じ賃金で、労働者を雇うことはありません。東京で、最初は安い賃金で地方の労働力を雇いいれたとして、時間がたつうちに、労働者は賃金の低い職場から賃金の高い職場に移ることになります。そうなれば、地方なみの低賃金で人を雇うことは困難になり賃金をあげざるを得なくなります。 
日本という人口は1億2千万という人口の多い(中国、インド、アメリカなどは例外中の例外、これらをのぞけば日本の人口はかなり多いほう。ちなみに、ニュージーランド、などは数百万に過ぎない。イギリス、フランス、ドイツなども数千万にすぎない、ロシアは、1億4千万と、日本より若干多いだけです)ものの、国土面積が狭い国ですら建国から2000年以上たっても、結局完全に平準化されていません。このような事実からみても、いくら対象がグローバルに広がっても、完全に平準化される時代が来るはずがありません。というより、グローバル化したから突然賃金や、物価など完璧に平準化されるなどという考えは、まともな経済学の考え方いえば、異端といっても良い考え方です。でも、その異端の考えが、政治家などの中で、理解されていないところに問題があります。
格差は政治システムの不備により助長されている
現在世界は、日本が数十年でなしとげ、欧米が数百年かけてなしとげた、中間層の拡大による経済の拡大を忘れています。過去の先進国のすべてが、この道をたどり、高い経済成長を実現したことを忘れています。さらにその豊かさを維持したことにより、より良い社会を構築できたことをすっかり忘れています。中間層による経済活動による経済成長という事実は、今でも新興国などで繰り返されていることです。例外はありません。 
いくら、国が豊かになっても、格差は残ります、一握りの富裕層、一握りの貧困層は残ります。しかし、中間層が多ければ、貧富の差はより縮まります。ステグリッツのいう、格差のない社会を実現するのは、多数の中間層です。私たちが、すでに経験済みのこの原則を理解しないで、富の格差を放置する国が増えているのは遺憾です。 
そうして、これに近いことをすでに日本は、実現してきました。そうです、高度成長時代の日本がそうです。奇跡の経済成長率といわれた10%台の成長を毎年実現していました。


当時の日本は、まだまだインフラが整備されていなかったため、この整備をするということでも、随分GDPを引きあげていましたが、今の日本ではかなりインフラが整備されてしまっているので、この時代の成長率のように大きな伸びはないでしょうが、それでも、かなりの経済成長率が期待できます。
そうして、すでに豊になった日本でも、高度成長時代の熱狂が再現されると思います。そうして、日本が、単に経済的に豊になることだけを追求することなく、社会を充実させることに向かえば、日本は、それこそ黄金の国ジパングと昔のヨーロッパ人があこがれたような国を本当に実現することが可能です。そうして、日本は世界のトップランナーになることができます。 
そうなればそうなったで、社会問題はいろいろ発生しますが、その社会問題とは、従来のものではなく、次世代の社会問題になり、それを解決するノウハウを日本が身につけたならば、次世代社会のモデルを創設することになり、世界に範を示す存在となることでしょう。 
一方で格差を荒れ狂うままにする国には、将来はありません。アメリカも今のまま、中間層を減らすような、政治を続けていれば、いずれ没落します。格差を放置する中国は、今後5年以内に国力がかなり衰え、崩壊の危機にさらされ、今のままであれば、10年以内に必ず分裂します。もう、先がありません。 
まずは、上記の要約1.について解説します。格差とは、マクロ経済動向によるものではなく、政治的産物であることがいくつかの国の事例で明らかになっているということです。多くの識者が、格差とはグローバル経済を含めたマクロ経済動向によるものとしています。要するに、安い賃金の国で生産された物品・サービスが高い国の賃金の国々に流れ込み、いずれ世界は標準化されるのですが、その過渡期では偏りが出ることになり、それが、格差が発生する原因だというのです。そんなのは、嘘っぱちだということは、よく考えれば素人でもわかります。 
要約3.は、全くその通りです。アメリカ、中国、EUの中でも先進国は、格差を荒れ狂うままにする国になる可能性が大きいです、そうして、日本はデフレのため現在格差が目だつようにはなりましたか、それでも日本以外の国よりは格差は少なく、デフレを解消した場合、ふただひ中間層が増えるとともに、中間層により経済活動が増え、繁栄を分かち合う社会を創り上げることに大成功することでしょう。またステグリッツ氏が語るように、日本の大成功こそが本当に持続可能だと考えます。

要するに、ピケティ氏のみならず、スティグリッツ氏も表現は異なるものの同じようなことを言っているわけです。無論、クルーグマン氏も同様です。世界中に似たようなことを語っている経済学者は大勢います。

そうして、格差を減らすやり方としては、私は単に再販分的なことだけをするというのではなく、過去の日本の奇跡の大成長がそうであったように、中間層を増やすということが重要だと言いたいのです。

いずれにせよ、格差問題を放置しておく国に、まともな将来はありません。では、なぜこのようなことが、公然と考えられ、行なわれるようになったかといえば、それは、なぜか保守派トリクル・ダウンというおかしげな考えに取り憑かれるようになったからです。

トリクル・ダウンについては、このブログでも以前解説したことがあります。その記事のURLを以下に掲載します。
[書評] 古谷経衡『若者は本当に右傾化しているのか』―【私の論評】ちょっと待ってくれ再分配政策は、デフレから抜け出すためにも、今こそ最も重要な政策ではないのかい?これを忘れトリクル・ダウンを信奉する政治家には、経済を語る資格はない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にトリクルダウンに関連する部分のみをコピペさぜていただきます。
以下にwikipediaから、トリクルダウンについて引用しておきます。 
トリクルダウンについては、アメリカでも大失敗でしたが、もっとも酷い大失敗は、現在の中国です。中国では、鄧小平主導のもの「富める者から富め」というスローガンのもと、改革を推し進めましたが、その結果が現在の中国の貧富の差の拡大です。中間層が薄く、これらが経済・社会に大きく寄与するということは中国ではありませんでした。
トリクルダウン理論(トリクルダウンりろん、trickle-down theory)とは、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透(トリクルダウン)する」とする経済理論または経済思想のことです。トリクルダウン仮説やトリクルダウン効果ともいいます。現状では、マクロレベルでのパイの拡大が、貧困層の経済状況を改善につながることを裏付ける有力な研究は存在しないとされています。 
トリクルダウン理論は、新自由主義の代表的な主張の一つであり、この学説を忠実に実行した時のアメリカ合衆国大統領ロナルド・レーガンの経済政策、いわゆるレーガノミクス(Reaganomics)について、その批判者と支持者がともに用いた言葉でもあります。
デフレ下の現状でも、トリクルダウン的な考えをする政治家はただの馬鹿です。こういう馬鹿どもには、再分配政策が理解できません。これは、保守・革新など関係ありません。右・左、上・下に関係なく、現下における再分配政策の重要性に気がつかない政治家は、愚鈍であり、経済を語る資格はありません。
この記事の中で、古谷経衡氏は、自分の実体験から、再分配政策すなわち、格差を縮める政策が必要であることをご自分の書籍に掲載している旨も掲載しまた。

そうして、古谷経衡氏は、現在の保守論壇、及び自民党政権が再分配政策に極めて冷淡、および消極的なことについても言及しています。

日本の保守層も、結局は格差問題の言及者に「マルクス主義」のレッテルを貼のだと思います。そうして、それが当然と思い込んでいるに違いありません。デフレの最中に平気で増税の決断をするのが、今の白痴化保守であり、これは当分日本もなかなかデフレから脱却できる見込みはないかもしれません。

デフレになれば、金融緩和と、積極財政をするのが当然のことです。積極財政とはいっても、現在公共工事は、公共工事の提供制約というやつで、経済対策としてははなはだしく効率が悪いので、当面は、所得税減税や、給付が重要になります。

これをするにしても、再販分的なやり方でやりべきです。所得税減税は、所得の低い人ほど減税率が高く、富裕層は低くすべきでしょう。また、給付についても、富裕層にはなくて、低所得者ほど手厚くするなどのことが考えられます。

これも、あたり前のど真ん中です。富裕層が、所得税を減税されたり、給付金をもらったとしても、支出がそれほど大きくなることはありませんが、低所得層なら、すぐにでも支出を多くします。それに、富裕層が少なくごく一部の人たちですが、貧困層はここ15年もデフレが続いたので、かなり増えています。

こんなことは、あたり前のど真ん中であり、どの程度やるかの論議は別として、方向性としてはほとんど疑う余地もないことだと思います。日本の保守層も、白痴頭では、こんなことも理解できず、増税したり、再販分論者を「マルクス主義者」呼ばわりするのだと思います。本当に困ったものです。

このような保守層は似非保守であり、まずはきちんと経済を勉強していただきたいものです。勉強しても理解できないというのなら、政界などからは消えていただきたいものです。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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