筆者が最も許しがたいこと
筆者はちょっとした疑問をツイートすることがある。6月17日、週刊現代の「どう考えても普通じゃない なんと自殺者54人! 自衛隊の『異常な仕事』」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43700)に対し、
きちんと計算しなさい。10万人あたりの自殺率は30~40人程度。これは自衛隊の自殺率と大差なく、事務職公務員より高いが、農林漁業、鉱業、電気ガス水道業と比較して低い
(https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/611044310616637440)。
とツイートした。
この発端は、衆院の安保法制特別委員会における5月27日の政府答弁だ。志位和夫・共産党委員長は、「これまで自衛隊員の戦死者が出ていないものの、犠牲者が出ていないわけではありません。アフガニスタン戦争に際してのテロ特措法、イラク戦争に際してのイラク特措法に基づいて派遣された自衛官のうち、これまでにみずから命を絶った自殺者はそれぞれ何人か、防衛省、報告されたい」と質問した。
これに対して、防衛省は「イラク特措法に基づきまして派遣された経歴のある自衛官のうち、陸上自衛官が21名、航空自衛官が8名、計29名、それから、テロ特措法に基づいて派遣された経歴のある自衛官のうち、海上自衛官が25名、これは統計の関係で平成16年度以降でございますが、以上、29名と25人で、足し合わせますと54名が帰国後の自殺によって亡くなられております」と答弁した。
週刊現代の記事の中で、元内閣官房副長官補の柳澤協二氏は「そもそも、自衛隊全体で隊員10万人あたりの自殺者数を計算すると30~40人となり、これは世間一般の1・5倍と多い。しかしイラク派遣部隊の数字は、さらにその約10倍になるのです」と述べている。
この記事では、半田滋・東京新聞論説委員へのインタビューもある。半田氏による2012年9月27日付け東京新聞「イラク帰還隊員25人自殺」では、「イラク特措法で派遣され、帰国後に自殺した隊員を10万人あたりに置き換えると陸自は345.5人で自衛隊全体の10倍、空自は166.7人で5倍になる」と書かれている。これが、イラク派遣部隊の自殺率が高いという情報源らしい。
筆者は、これを読んだとき、本当かと思った。それで、17日に冒頭のツイートをしたわけだが、そのとき、筆者の頭に閃いた直感を言えば、イラク派遣で29名の自殺者だが、その後の7年間の数字で、1年平均にすればだいたい4人。イラク派兵はだいたい1万人だから、10万人あたりにすれば40人、これは上で引用されている自衛隊の平均と同じではないか。柳澤氏の引用文の中で矛盾があるわけだ。
簡単な計算ミス
まず、2年前の半田氏による東京新聞を読んでびっくりした。これは明らかな計算ミスだ。10万人当たりの自殺者数を計算するとき、分子には1年当たりの自殺者数とするところ、半田氏の記事では累積の自殺者数をとっている。だから、10倍とか5倍とか奇妙な数字が出てきている。
おそらく、その計算間違いを鵜呑みにした柳澤氏もいただけない。筆者のように暗算で計算すれば、少なくとも桁数を間違うことはない。こうした基本事実の理解のないまま、安全保障を語るとすれば、まさに地に落ちたものだ。
これに呼応して、防衛省は、
という資料を出したようだ。
この防衛省の数字について、それを検証しておくことも重要だ。イラク特措法とテロ特措法は、陸上自衛隊5500人、航空自衛隊3600人、海上自衛隊13800人で合計22900人。7年間で自殺者数54人とすれば、10万当たりの自殺率は33.7人となり、これはほぼ防衛省の数字(イラク派遣の場合33人)と同じである。
なお、防衛省の資料では、「男性自衛官の自殺率>イラク派遣自衛官の自殺率」と強調しているが、この程度の差では両者はほとんど同じというべきである。
15歳以上の各業種の自殺率をご存じか
ついでに、いろいろな業種での自殺率も調べておこう。出典は、厚労省が公表している2010年人口動態統計職業・産業別調査である。まとめると下図のとおりだ。
この数字は、防衛省資料にある内閣府のものと少し違うが、15歳以上の男子の自殺率は、10万人あたり38.0人。自衛隊やイラク等派遣はそれよりやや低い。
内訳でみると、就業者で21.6人、無職で63.6人。自衛隊やイラク等派遣は無職の人より低い。これをみると、金融政策で雇用を作れなかった民主党はより多くの人を自殺に追いやったのかと改めて思う。
就業者のうちでも、公務員は22.3人で、自衛隊やイラク等派遣はそれより高いが、農林業49.9人、漁業57.3人、鉱業285.3人、電気・ガス・水道83.6人はよりは低い。
アメリカでは派遣兵の自殺率が高いといわれ、日本の自衛隊でもそのはずという思い込みがあるが、これまでのデータはちょっと違う姿になっている。
東京新聞の計算ミスは、筆者にはちょっと信じがたいが、個人差があるものの、統計数字を扱えない文系あがりの新聞記者ではよくある話だ。統計数字のイロハであるが、フロー数字の概念がわかっていないのだろう。フロー数字は一定期間における数字だが、この場合一定期間は一年間である。
ついでにいえば、筆者が財務省に在籍していたとき、マスコミ諸氏はフローのみならずストックの概念も怪しかった。このため、毎年の予算数字はフローであるから毎年見ているのでなんとかなったが、バランスシートを説明するのが大変だった。
「文系不要論」にもつながる
また、説明に苦しんだといえば、不良債権の時だ。不良債権というのは貸付金のうち返済が滞っているなどの一定のものであり、その数字は、基本的にはある時点のストックの数字だ。
ところが、不良債権の処理という場合、会計年度内で処理した金額なので、フローの数字になる。不良債権の処理額をきちんと理解するためには会計の知識も必要になるので、不良債権額と不良債権の処理額の両者の関係をきちんと理解できたマスコミ記者は少なかった。
昨今、文系学部が社会に役立たないと揶揄されるが、マスコミをみていると、時たまそう思うこともある。事実を記述する上で必須な統計、数学、会計などの知識がないので、まともな記事を書けない。その結果、間違った記事が書かれ、何年も放置される。
図表を書かせると、統計、数学、会計などの知識の有無は一発でわかる。そういえば、新聞には図表が少ない。ある記者に聞いたところ、そうしたのは役所からもらって自分たちではあまり作れないようだ。そのような情報リテラシーに欠けるマスコミは、これから信頼されなくなるだろう。
高橋洋一
この記事の詳細はこちらから(゚д゚)!
【私の論評】間違った数字で間違った未来に導かれるな(゚д゚)!
この記事を読んでいたところ、トンデモない発言を思い出したことがあります。それは、何かというと、ピザの面積です。ピザの面積を単純に直径とか半径に比例すると思い込んでいる人がいて、話が頓珍漢なことになっているのです。
円の面積は、ΠR^2(近似では、3.14×半径×半径)ですから、ピザの厚さが場所によって変わらず、同じとすれば、 ピザを円柱と考えて良いので、ビザの体積は(3.14×半径×半径×ピザ円柱の高さ)で求められるはずです。要するにピザ(円)の面積は、半径の二乗に比例するといするということです。
しかし、この方は、ピザの面積は、半径もしくは直径に比例すると考えおられるようで、話が全く噛み合わず、閉口したことがありました。
さらに、こんなこともありました。たとえば、実寸が3kmの距離を、縮尺が1/50の地図上では何センチになるのかとか、あるいは95%のアルコールを希釈して、80%のアルコールにするには、どの程度水を加えれば良のかとか・・・・・・。
この程度の認識であれば、確かに上の記事で、高橋洋一氏が指摘するような間違いも起こるわけです。上で、高橋洋一氏が指摘している計算間違いは、これらの間違いと遜色ないものだと思います。いくら文系であっても、この程度のことが理解できなければ、経済は無論のこと、社会現象についてもまともに認識できないのではないかと思います。
世の中には、この程度の人が、一応大学を卒業して新聞記者になったり、官僚になったり、民間企業で高い地位についている場合もあるということなのだと思います。
このようなことで、不味いことになるなどのことはないだろうと、たかをくくっている人もいらっしゃるかも知れませんが、私はそうではないことを身を持って体験したことがあります。
それは、大学時代のシンクタンクのアルバイトで、ある地方都市の下水工事について監査をしたときです。バイト先のシンクタンクが、ある地方都市の、下水工事の監査をすることになったので、その都市の下水工事の将来計画について、積算をすることになりました。
その地方都市でも、積算をしていましたが、こちらがわもその積算は抜きにして、積算をしてみたところ、どう考えても辻褄のあわないことがあったので、担当の課長さんに聴いてみても拉致があかないので、実際に計算した人をインタビューしました。
驚いたことに、その積算をした人は、その年に工業高校を卒業したばかりの人であり、新たな下水工事をするにあたり、積算で所与の数値として用いたのが、現在のその都市の人口でした。
その都市の人口は増加していましたから、本来は人口が増加することを見越して計算しなければ、まともな下水工事はできないはずなのに、その有様です。
そうして、後でわかったことですが、この地方都市の下水工事の専任者は、この高卒の新人に、何ら情報も与えず、計算させでいて、出来上がった計算などあまり吟味もせず、押印して許可をしていたのです。
下水工事など莫大な費用がかかるが・・・・ |
とんでもないことです。もし、そのまま工事が行われていたら、その地方都市では、3年を待たず、追加下水工事が必要となり、さらに莫大な経費がかかるところでした。これは、特異な出来事と思いたいですが、そうでもないことを後から思い知らされました。
それは、あるトンネルの崩壊事故です。下水工事の監査が終わったときに、バイト先の主任研究員と話をしていると、トンネルや橋でも、問題のあるところは随分あるはずだ、でも実際は放置されており、このままだと10年以内に大きな事故がおきかねないという話題がでてきました。
そうして、それから10年もしないうちに、あるトンネルの天井が崩落しました。そのニュースを見た時は、忸怩たる気持ちがしました。トンネルにも耐用年数があるはずで、キチンと調べていば、あのようなことは起こらなかったと思いました。
まさしく、高橋洋一氏の語るように「情報リテラシーに欠けるマスコミは、これから信頼されなくなるでしょう」と述べています。まさしく、その通りです。
そうして、それは、マスコミだけではなく、他の分野の人でも同じことだと思います。
私など、自衛隊員で亡くなられた方々は、気の毒であり、ご冥福をお祈りいたしますが、自殺ということでは、自衛隊員の自殺よりも、若年層の自殺のほうがよほど深刻だと思います。
これについては、以前このブログで解説したことがありますので、その記事をリンクを以下に掲載します。
若年層の自殺がG7でトップ。日本の若者はなぜ死を選ぶ?―【私の論評】自殺率の高さの原因は、若者の精神的な弱さではない!過去デフレによる悪影響が未だ残っているせいだ(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、こうした若者の自殺に関しては、「若年層の精神的な弱さ」を指摘する向きもありますが、それは最近の若者を知らない人が語る言葉だと思います。
最近は、デフレが解消しつつはありますが、昨年4月に8%増税があり、特に若年層には厳しい環境にあることは確かです。デフレの悪影響が色濃く残っている時期の増税は、このような若者の自殺を促すということは否定できません。この記事では、この可能性について追求しました。
自殺を心配するなら、こちらのほうを心配すべきであり、その背後にはデフレによる悪影響が色濃く残っていることを忘れるべきではありません。
今のマスコミは、財務省が出す、非常に疑わし情報をそのまま鵜呑みして報道し、増税には大賛成で、若年層の自殺には興味がないようです。
社会現象に関する数字など、良く吟味してから、その背後の意味もくみとり発信したり、その数値にもどついて議論をすすめるべきであって、最初から間違えていれば、全く意味がありません。
少なくとも、私達は間違った数字は発信しないようにし、さらに、数字の間違えがあれば、高橋洋一氏のように糾弾していくべきでしょう。
間違った数字で間違った未来に導かれないようにすべきです。
私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?
【関連記事】
若年層の自殺がG7でトップ。日本の若者はなぜ死を選ぶ?―【私の論評】自殺率の高さの原因は、若者の精神的な弱さではない!過去デフレによる悪影響が未だ残っているせいだ(゚д゚)!
【関連図書】
自殺に関する書籍以下にチョイスさせていただきました。
松本俊彦
中外医学社 (2015-06-02)
売り上げランキング: 1,126
中外医学社 (2015-06-02)
売り上げランキング: 1,126
デヴィッド スタックラー サンジェイ バス
草思社
売り上げランキング: 174,749
草思社
売り上げランキング: 174,749
0 件のコメント:
コメントを投稿