2016年8月19日金曜日

世界中で存在感失う「人民元」 名ばかり「国際通貨」 習氏の野望に暗雲 ―【私の論評】金の切れ目が縁の切れ目、尖閣海上民兵も五輪選手も?

世界中で存在感失う「人民元」 名ばかり「国際通貨」 習氏の野望に暗雲 

中国・江蘇省で人民元紙幣を数える銀行員
 中国当局が人民元を大幅に切り下げた「人民元ショック」から1年が過ぎたが、その後も人民元は下げ止まらない。ドル、ユーロに続く「第3の通貨」にのし上がるのが習近平国家主席の野望だったが、市場で人民元離れが加速し、決済シェアはカナダドルすら下回る6位に。「国際通貨」とは名ばかりの存在になっている。

人民元は2015年8月11日から13日の3日間で約4・6%も切り下げられた。中国経済失速との見方から世界の株価が大幅下落を招いたのも記憶に新しい。

その後、中国当局は断続的に市場に介入し、人民元を買い支えたとみられるが、人民元の下落基調は続いた。今年4~6月期の下げ幅は過去最大を記録している。

人民元は昨年11月、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の構成銘柄に採用が決まった。習政権にとっては、アジアインフラ投資銀行(AIIB)と並んで国際金融の世界で存在感を高める大きな成果だったはずが、実態はさびしい限りだ。

銀行間の決済インフラを手がける国際銀行間通信協会(SWIFT)によると、今年6月時点で決済に使われた人民元のシェアは1・72%と14年10月以来の低水準となった。

習近平
  米ドル(40・97%)、ユーロ(30・82%)、英ポンド(8・73%)、日本円(3・46%)を下回るどころか、カナダドル(1・96%)を下回る6位に低迷している。

15年8月には決済シェアが2・79%と円を上回り、「第4の通貨」となった勢いは完全には失われた。今年10月にはSDRに正式採用される予定だが、「国際通貨」とはとても呼べない状況だ。

経済が減速するなかで、中国当局は人民元安をあえて容認してるフシもあるが、思惑通りに輸出は伸びていない。

7月の輸出は前年同期比4・4%減、内需も振るわず、輸入は12・5%減だった。

1~7月の累計でも輸出は7・4%減、輸入は10・5%減と大きく前年割れしている。一方で各国と貿易摩擦が激化している鋼材は金額ベースで15・5%減少したものの、数量は8・5%増加しており、中国の鋼材が安値で海外市場に流れ込む状況は変わっていない。

週刊東洋経済元編集長の勝又壽良氏は「中国経済は企業債務によってかろうじて維持されている。不良債権が拡大している金融機関に巨額の公的資金が注入される事態となれば、人民元のさらなる暴落は不可避だ」と指摘している。

【私の論評】金の切れ目が縁の切れ目、尖閣海上民兵も五輪選手も?

人民元の国際通貨化は、最初から絶望的であることは、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】人民元のSDR採用後の中国 一党独裁と社会主義体制で困難抱えて行き詰まる―【私の論評】中間層を創出しない中国の、人民元国際通貨化は絶望的(゚д゚)!
中国人民元のSDR構成通貨入りを発表する
IMFのラガルド専務理事=11月30日、ワシントン
この記事は、昨年12月5日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくもとして、以下に元記事の高橋洋一氏による、人民元が国際通貨にはならないであろうとの見解の部分のみ引用します。
中国経済の今後には多くの困難が待っているとみている。まず、人民元の国際化であるが、通貨取引の背後には、貿易取引や資本取引があり、それらが大きく拡大しないと、国際化も限定的だ。 
中国には共産党一党独裁の社会主義体制という問題があるので、国有企業改革や知的所有権の解決は当面難しく、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加も当面難しい。ということは、貿易取引や資本取引にも一定の限界が出てくる可能性がある。 
特に資本取引の自由化は、一党独裁の社会主義体制のままでは基本的には無理である。となると、人民元もこれ以上の国際化はなかなか望めないというわけだ。

中国が、一人当たり国内総生産(GDP)1万ドル前後で経済停滞に陥るという「中進国の罠」にはまりかけているのも懸念材料だ。一般論として、中進国の罠を超えるためには、大きな構造改革が必要であるが、そこでも中国の体制問題がネックになる。 
中国は、当面AIIBによって「人民元通貨圏」のような中国のための経済圏を作りつつ、国有企業改革などを行ってTPPなどの資本主義経済圏への段階的参加を模索するとみられる。しかし、一党独裁体制を捨てきれないことが最後までネックになり、行き詰まるだろう。 
この高橋洋一氏の見解に関して私は、以下のように論評しました。
元が国際通貨として本当に認められるには、人民元相場の柔軟性拡大に加えて、中国金融市場に対するアクセス制限の緩和、取引の自由化推進などが要求されますが、株価急落で金融市場に異例な介入を続ける中国政府は、一段と厳しい局面に立たされることになることでしょう。
中国が資本勘定を完全に自由化し、変動相場制に移行しない限り、投資家は人民元を国際通貨として使用することに引き続き慎重になることでしょう。

ただし、そのためには国内でそれなりの条件を整える必要があります。

中国が今の一党独裁を継続していては、高橋氏がブログ冒頭の記事で、指摘していた、「中所得国の罠」に陥る可能性が大というよりも、もうその罠に完璧に落ち込んでいます。
中所得国の罠の模式図
「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することをいいます。 
この「中所得国の罠 (中進国の罠と同じ)」を突破するのは結構難しいことです。アメリカを別格として、日本は60年代に、香港、シンガポールは70年代に、韓国は80年代にその罠を突破したといわれています。ただし、アジアでもマレーシアやタイは未だに、罠にはまっています。 
中南米でも、ブラジル、チリ、メキシコも罠に陥っていて、一人当たりGDPが1万ドルを突破してもその後は伸び悩んでいます。 
政治的自由と、経済的自由は、表裏一体であり、経済的自由がないと、IMFのような国際機関の提言は実行できません。経済的自由を保つには、政治的自由が不可欠です。
中国は、すでに中所得国の罠にはまっており、そこからぬけ出すのは至難のわざでしょう。中所得国の通貨が、国際通貨になったことはありません。よって、中国が中所得国の罠にはまっている現状では、人民元の国際通貨化は全く無理です。

それにしても、これに関しては前々から前兆がありました。たとえば、イギリス人の貿易商が中国国内のおもちゃ工場の代金を決済するときに、人民元を使おうにも、中国の工場がドルでないと受け取らないという実体がありました。それについても、このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
焦点:中国製おもちゃ調達もドル建て、人民元取引の実態―【私の論評】爆裂中国の元国際通貨化の妄想は潰えたとみるべき(゚д゚)!

欧米輸出向けの中国製ミニオンのぬいぐるみ
この記事は、今年の1月12日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、このようなミニオンのぬいぐるみを製造する小さな町工場ですら、人民元決済をいやがり、ドルで決済することを望むというのですから、いかに人民元に信用がないかが良く理解できます。

このような通貨が国際通貨になるなどのことはありえないです。

さて、中国は従来は不況になると、金融緩和と財政出動を素早く実行して、すぐに景気を回復しました。しかし、もうその手は通用しないようです。

金融緩和をするとキャピタルフライト(通貨、特に外貨の国内から逃避)が始まることを恐れてなかなか出来ないようです。

もし人民元高要因が大きくなれば、韓国はデフレに陥り、かつての日本のような長期不況に陥るでしょう。

逆に人民元安要因が大きくなれば、韓国は通貨アタックを受けて、現状でもキャピタルフライトに見舞われているのに、さらに多くの外貨(ドル)が国外に流出することになり、金融危機に陥るでしょう。しかし、日本を含めて、中国を本気で助けようとする国はもうありません。

この状況は最近の韓国の状況と良く似ています。これについては、このブログにも掲載したので、興味のある方は、その記事をご覧になって下さい。

さて、最近でも、中国の異変が続いています。これらの異変ひよっとすると、国際通貨にもなれない弱い人民元とキャピタルフライトを恐れて金融緩和をしないことと関係あるかもしれません。特に、これらの背景ともなっている中国の経済の低迷と関係があるかもしれません。

まず第一に、リオ五輪の中国のメダルのあまりの少なさです。以下に17日現在のメダルの取得状況を掲載します。


リオデジャネイロ五輪の中国選手の金メダル獲得ペースに、ロンドン大会(2012年)や北京大会(08年)のような勢いがみられません。16日現在、首位の米国に大きく水をあけられ、英国にも及ばず、3位となっています。着実に獲得数を伸ばしてはいるものの、“ゴールドラッシュ”とはいかず、終盤に向けてどれだけペースが上がるかに注目が集まっていました。

金メダル獲得数は同日現在、米国が28個、英国が19個、中国は17個。米英は日程を消化するごとに、ロンドン大会とほぼ同じペースで獲得していますが、中国は約半分のペース。北京大会では参加国の中で最多の51個、ロンドン大会でも米国に次ぐ38個の「金」を獲得した中国にしては、あまりにスローペースといえます。

この変化、やはり中国が中進国の罠にはまっていることを示すものかもしれません。中心国でもスポーツの強い国もありますが、それは特定のいくつかのスポーツが強いのであって、オリンピックなどでのメダルの総数となると、やはり先進国等には及びません。

中国の場合は、経済的には先進国とはいえませんが、それでも、経済の伸び率が驚異的で、そのため将来は米国経済と肩をならべ、いずれは追い抜くのではという憶測が飛び交い、それに期待して、多くの資金が集まりました。その潤沢な資金を利用して、中国はあるゆる方面資金を投下し、経済を伸ばし、国威を発揚することができました。

そうして、経済が伸び国威を発揚することにより、さらにそれが期待を呼び多くの資金が集まるという状況がつくりだされ、それが中国に有利に働いていました。

しかし、その潤沢な資金も、キャピタルフライトによって、底をつきはじめています。そもそも、中国の高級官僚が裸官などになり、かなり前から盛んに海外に資金を逃避させていたのですから、いかにこの国の将来は絶望的なものか、理解できます。

現状がこのような状況ですから、ロンドンオリンピック後に、国威発揚の大きな目玉の一つでもある、スポーツ振興にも、あまり資金を投下できなかったのではないでしょうか。

尖閣諸島付近の中国漁船と中国公船
さらに、もう一つ気になることがあります。それは、尖閣周辺の中国漁船の動向です。以下はの表は、8月19日に外務省が公表した「尖閣諸島周辺海域における中国公船及び中国漁船の活動状況について」(海上保安庁)という文書から引用したものです。このように、中国公船と、大量の漁船が尖閣付近の海域に侵入させるということは、示威行為なのですが、これも中国による国威発揚のやり方です。
(平成 28 年8月5日午後0時から 19 日午前8時現在)
                                                                                             ※上記隻数は延べ隻数


この表で、中国漁船に注目して下さい。この表によれば、海上保安庁は8月10日〜19日午前8時現在まで、中国漁船に対して退去警告を発していないということになります。

この公文書の冒頭には、以下のように記されています。
平成 28 年8月5日午後1時 30 分頃、中国漁船に続いて、中国公船(中国政府に所属する船舶)1隻が尖閣諸島周辺領海に侵入した。その後、19 日午前8時までに、最大 15 隻の中国公船が同時に接続水域に入域、延べ 32 隻が領海に侵入した。 
約 200~300 隻の漁船が尖閣諸島周辺の接続水域で操業するなかで、最大 15 隻という多数の中国公船も同じ海域に集結し、中国漁船に続いて領海侵入を繰り返すといった事象が確認されたのは今回が初めてである。 
なお、尖閣諸島周辺の接続水域に通常展開している中国公船(3隻程度)及び南シナ海のスカボロー礁周辺に通常展開している中国公船(4~5隻と言われる)に比しても、現在尖閣諸島周辺には、はるかに多くの中国公船が展開している。
いっときは、300隻もの中国漁船が尖閣諸島周辺領海に侵入したのです。この領域で漁をする事自体は、日中の業業協定で認められた行為ですが、それにしてもこのように多数の漁船が押し寄せ、その漁船には海上民兵が乗っていることは前から明らかにされていました。

武装している中国の海上民兵 女性の海上民兵もいる
しかし、あれだけ周辺領海に侵入していたのですが、10日以降はパタリと海上保安庁は退去警告をしていません。これはどういうことなのか、この表だけからは正確にはうかがい知ることはできません。

類推すると、そもそも中国漁船がほんどいなくなったか、いたにしても少数で、通常の操業をしていたので、海上保安庁としては、退去警告をする必要もなかつたのだと思います。

そうして、退去警告をしたのは、いわゆる通常の操業ではない、いわゆる示威行動をした船であると考えられます。そうして、おそらく、これらの示威行動をした船には、海上民兵が搭乗していたのでしょう。

しかし、10日以降は、海上民兵が搭乗した漁船が姿を消したのでしょう。

これは、何を意味するのでしょう。これも、中国が今や海上民兵による示威行動に対しても、資金を十分に投下できないことを示しているのかもしれません。


さて、産経新聞の記事には、以下のようなことが掲載されていました。
 福建省の漁業関係者によれば、8月上旬に尖閣周辺に集まった漁船には少なくとも100人以上の海上民兵が乗り込み、大半が船長など船を指揮できる立場にいる。彼らの船には中国独自の衛星測位システムが設置され、海警局の公船などと連携を取りながら前進、停泊、撤退などの統一行動をとる。帰国後は政府から燃料の補助や、船の大きさと航行距離、貢献の度合いに応じて数万~十数万元(十数万~約300万円)の手当てがもらえるという。 
 地元の漁民によれば、福建省や浙江省の港から尖閣近くに向かうには約20時間かかり、大量の燃料を使う。また、日本の海上保安庁の船に「作業を妨害される」こともあるため、通常は敬遠する漁民が多いという。
さて、中国側としては、尖閣周辺で海上民兵などに対して、さらに派手に示威行動をさせたかったのかもしれません。しかし、尖閣で示威行動をしたり、あるいは、海上民兵を尖閣諸島に上陸させたとしても、確かに中国内外にかなりのインパクトを与え、ある意味ではかなりの国内外に対して国威発揚にもなります。

とはいいながら、海上民兵に示威行為を繰り返えさせたにしても、尖閣を奪取させたにせよ、これは国威発揚という象徴的な意味があるだけであり、そこから何か富が生まれるかといえば、そのようなことは全くありません。それどころか、海上民兵に多額の報奨金を支払わなければなりません。

南シナ海を埋め立て、軍事基地化したとしても、尖閣を奪取して、そこを軍事拠点にしたとしても、そのことによって富が発生するわけでも、外資が流れ込んでくるわけでもありません。

キャピタルフライトに悩まされ、金融緩和もできない中国にとつて、今や虎の子である資金をこのようなことに金を使うのはためらわれるのでしょう。

現在の中国では、拝金思想が幅を効かせています。海上民兵も金にならなければ、なかなか動かないのでしょう。

将来は官僚になって賄賂をもらいたいと作文に書く小学生の登場など、いわゆる拝金主義の横行を嘆く人が中国で増えている。写真は西安で「9割引きの女性求む」と書かれた横断幕を持つ青年たち。流行りの「拝金女」への反対を表明することが目的だという。2010年10月14日。

だからこそ、10日以降には、海上民兵が搭乗した漁船が尖閣から姿を消したのでしょう。

オリンピックでの中国の金メダル激減も、結局選手に十分な金が行き渡らずやる気をなくしたのでしょう。中国では国内では、金メダル至上主義が転換点をむかえているようです。

中国の「金メダル至上主義」を変えた!天然系の愛されキャラ、競泳女子の傅園慧選手。14日、リオデジャネイロ五輪で一躍「時の人」となったのが、女子競泳の傅園慧選手。彼女の自由で生き生きとした発言が、「多くの中国人の共感を呼んでいる」と米メディアが報じている。
結局、尖閣も五輪も、結局金の切れ目が縁の切れ目ということで、オリンピック選手も、海上民兵も金をくれない政府には従わないということなのでしょう。オリンピック選手などは、政府のための五輪ではなく自分のためということで、政府の干渉を嫌がるようになるでしょう。

キャピタルフライトがとめどなく続く、中国では、人民元が国際通貨にならないのは当然であり、それどころか、いずれ唯一と言っても良い、中国共産党中央政府の統治の正当性の根拠である金が尽きてしまうことでしょう。

そうなれば、人民解放軍も、公安警察も、城管も、人民も中国共産党中央政府のいうことを聴かなくなります。そのとき、中国の現体制は崩壊することでしょう。現中国では、金の切れ目は縁の切れ目なのです。

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