外国潜水艦の音紋を収集する音響測定艦「ひびき」 |
音響測定艦が戦っている“敵”はロシアや中国など外国軍潜水艦の音だ。
潜水艦のスクリュー音はそれぞれに特徴があり、あらかじめその特徴を把握していれば、どこの国のどのような型の潜水艦が航行しているのかを特定する決め手となる。警察官が犯人を追い詰めるため指紋を重視しているのと同じように、自衛隊は各国潜水艦の「音紋」をデータベース化している。
音響測定艦はこの音紋を収集している。空から潜水艦の動きを監視する哨戒機や、海中に潜む潜水艦が相手方潜水艦のスクリュー音を探知し、集積されたデータをもとに船の身元を特定する。
自衛隊が平成3年と4年に「ひびき」と「はりま」を相次いで就役させた背景には、冷戦時代末期にソ連が技術開発を進め、潜水艦が発する音が静かになったことがある。潜水艦の最大の強みは、敵に気づかれず攻撃を加える能力。ソ連潜水艦の位置を正確に把握することが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの無力化につながる。
音響測定艦「はりま」 |
潜水艦を発見・追尾する対潜水艦戦を得意とする海自にとって、音響測定艦は不可欠な存在となっている。その音響測定艦の能力を知られることは将来の対潜戦を不利にしかねないため、海自内でも秘中の秘となっているのだ。
乗員約40人の「ひびき」は全長67メートル、幅29・9メートル。艦尾から水中に投入する曳航(えいこう)式ソナー・SURTASSで広範囲に耳を澄ませ、海自艦が集めた音紋データは米軍と共有しているとみられる。2隻の船をつないだような船体は「双胴型」と呼ばれ、自衛隊艦船としては初めて採用された。この船体により、嵐の中でも安定的に航行できる。
音響測定艦は冷戦終結後もロシア潜水艦の音紋を集め続けているほか、潜水艦能力の増強を続ける中国も主なターゲットとなった。25年5月に沖縄県久米島周辺の接続海域で中国の元級潜水艦などが航行した際は、米海軍の音響測定艦インペッカブルとともに「ひびき」も投入した。これに対し、中国側は日米の動きを妨害するため水上艦を展開し、音響測定艦を追尾したとされる。
音響測定艦は冷戦終結後もロシア潜水艦の音紋を集め続けているほか、潜水艦能力の増強を続ける中国も主なターゲットとなった。25年5月に沖縄県久米島周辺の接続海域で中国の元級潜水艦などが航行した際は、米海軍の音響測定艦インペッカブルとともに「ひびき」も投入した。これに対し、中国側は日米の動きを妨害するため水上艦を展開し、音響測定艦を追尾したとされる。
米海軍の音響測定艦インペッカブル |
21年3月には中国・海南島南方沖で航行していたインペッカブルが中国のトロール漁船5隻に包囲された。同年5月にも音響測定艦ビクトリアスが黄海の公海上で中国漁船から航路妨害を受けた。
有事の際、西太平洋における米軍の行動の自由を奪うことを目標とした中国の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略」の中で、潜水艦は中核的な役割を果たす。それだけに、中国にとって日米の音響測定艦の存在は天敵ともいえる。
有事の際、西太平洋における米軍の行動の自由を奪うことを目標とした中国の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略」の中で、潜水艦は中核的な役割を果たす。それだけに、中国にとって日米の音響測定艦の存在は天敵ともいえる。
【私の論評】その目的は南シナ海を中国原潜の聖域にさせないこと(゚д゚)!
まずは、音響測定艦に関して、さらに説明を加えることとします。
このために開発されたのが、音響測定艦です。艦体は小型・低速ではあるのですが、静粛性に優れ、艦尾には曳航アレイを海中に投入するための設備を持ちます。静粛性と安定性を求めたために、アメリカ海軍のビクトリアス級音響測定艦やインペカブル級音響測定艦、海上自衛隊のひびき型音響測定艦は双胴のSWATH船型となっています。
中国の音響測定艦「北調991」 |
最初の音響測定艦はアメリカ海軍のストルワート級音響測定艦であり、1984年に就役しています。SURTASSは展張時、搭載艦の運動に制限を与えてしまうため、より簡易化したTACTASS(タックタス:戦術用タス)が巡洋艦、駆逐艦(海上自衛隊の護衛艦に相当)に装備されています。
10kt(ノット)以下で運用できるものの、艦に運動制限を加え、探知についても概略探知方位と虚像が同時に探知され、さらに艦首尾方向は不感域になるなど、用兵者には倦厭される探知ソースではあります。しかし1CZ(Convergence Zone、収束帯)域、2CZ域での探知能力は、外洋においては評価されるべきものでしょう。
最新型のアメリカ駆逐艦アーレイバーク級ではTACTASSが搭載されておらず、沿岸侵攻を第一目標とするアメリカ海軍の思想が現されています。なお潜水艦に搭載されているTACTASSはSTASS(サブマリンタス)と呼ばれますが、性能的にはTACTASSと同様です。STASSの特徴は、STASSを展張した際、聴音捜索と同時に、潜水艦が自身の放射雑音レベルの測定に用いる点にあります。
SURTASSはパッシブを基本とした曳航聴音アレイシステムであり、約2kmのワイヤーによって長さ数百mのハイドロフォンシステムを曳航するというものです。1990年代以降は、潜水艦の静粛化にともない、一部の艦にはハイドロフォンとは別に曳航式の低周波高出力アクティブソナー(Low Frequency Active, LFA)を装備している艦も出てきています。
また、海上自衛隊では東芝機械ココム違反事件によりクローズアップされた、ソビエト連邦海軍の原子力潜水艦の静粛性向上対策として、アメリカの技術指導の下、ひびき型音響測定艦2隻を建造しました。これにより、平時からソ連潜水艦の音響データ収集の向上を図るものでした。ただし、後に東芝機械のココム違反は、事件とソ連原潜の静粛性にまったく因果関係がないことが明らかとなっています。
音響測定艦は、パッシブソナーによる潜水艦の音紋採集が任務ですが、1990年代以降、アメリカ海軍に所属する音響測定艦が低周波高出力アクティブソナーを稼動させるたびにクジラやイルカが大量に座礁するという事件が多発しており、環境保護団体による非難が出ていました。これは、アクティブソナーの大音響が海棲哺乳類の感覚に打撃を与えているためだといわれています。そのために、アメリカ海軍においては、低周波高出力アクティブソナーの使用海域を制限しています。
また、冷戦終了後、潜水艦の脅威が減少したためにアメリカ海軍では音響測定艦の一部を別任務に転用しています。これはSURTASSシステムを降ろし、対空レーダーを増備、麻薬密輸組織の監視に使用するものです。主にカリブ海からメキシコ湾岸にかけて展開しています。また、民間人が乗り込むようになり、地球環境の観測にも使用され、地殻変動により発生する極低周波の観測など地学研究の機材としても利用されています。
SURTASSはパッシブを基本とした曳航聴音アレイシステムであり、約2kmのワイヤーによって長さ数百mのハイドロフォンシステムを曳航するというものです。1990年代以降は、潜水艦の静粛化にともない、一部の艦にはハイドロフォンとは別に曳航式の低周波高出力アクティブソナー(Low Frequency Active, LFA)を装備している艦も出てきています。
また、海上自衛隊では東芝機械ココム違反事件によりクローズアップされた、ソビエト連邦海軍の原子力潜水艦の静粛性向上対策として、アメリカの技術指導の下、ひびき型音響測定艦2隻を建造しました。これにより、平時からソ連潜水艦の音響データ収集の向上を図るものでした。ただし、後に東芝機械のココム違反は、事件とソ連原潜の静粛性にまったく因果関係がないことが明らかとなっています。
音響測定艦は、パッシブソナーによる潜水艦の音紋採集が任務ですが、1990年代以降、アメリカ海軍に所属する音響測定艦が低周波高出力アクティブソナーを稼動させるたびにクジラやイルカが大量に座礁するという事件が多発しており、環境保護団体による非難が出ていました。これは、アクティブソナーの大音響が海棲哺乳類の感覚に打撃を与えているためだといわれています。そのために、アメリカ海軍においては、低周波高出力アクティブソナーの使用海域を制限しています。
また、冷戦終了後、潜水艦の脅威が減少したためにアメリカ海軍では音響測定艦の一部を別任務に転用しています。これはSURTASSシステムを降ろし、対空レーダーを増備、麻薬密輸組織の監視に使用するものです。主にカリブ海からメキシコ湾岸にかけて展開しています。また、民間人が乗り込むようになり、地球環境の観測にも使用され、地殻変動により発生する極低周波の観測など地学研究の機材としても利用されています。
さて、2012年辺りから、米軍の音響測定艦が日本の港に寄港している姿が、よく見られるようになりました。
米軍音響測定艦3隻が並んだ米海軍佐世保基地の立神岸壁(手前から インペッカブル、エイブル、エフェクティブ)(2012年11月30日撮影) |
沖縄のホワイトビーチに、2隻の音響測定艦が並んだ(2010年9月2日) |
佐世保やホワイトビーチでは、乗員の休息と補給を行っていると見られています。つまり、佐世保や沖縄に近い海域において、これらの艦艇が重点的なパトロールを行っているということです。
北朝鮮の潜水艦は、質も量も非常に乏しいため、これら音響観測艦の目標は、中国の潜水艦であると言えると思います。
つまり、米海軍は、世界各国の潜水艦の動静に払う関心の半分以上を、対中国に向けているということです。
しかも、この潜水艦に対する対中シフトは、近年になって急激に強化されたものです。
「定着した音響測定艦と測量艦」(リムピース12年1月26日)
以下に少し古い資料を掲載します。
特殊艦艇の佐世保への寄港状況 同記事より転載 |
少し字が潰れてしまっていますが、紺色の線は音響測定艦、ピンクは測量艦、緑は弾道ミサイル駆逐艦です。
佐世保への音響測定艦の寄港回数・停泊日数 同記事より転載 |
これらリムピースの記事は、米海軍の中国潜水艦に対する脅威認識と衝突の可能性に関する認識が、ここ数年で急激に高まっていることを示す明確なデータです。
そうして、米軍のこのような動きに呼応して、日本の音響測定艦も日々、中国の潜水艦の動向を探っているに違いありません。
なぜ、そのようなことをするかといえば、やはり以前このブログでも掲載したように、南シナ海を中国の戦略型原潜の聖域にしたくないからです。
中国による、南シナ海の戦略型原潜の聖域化については以前にもこのブログで掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の膨張路線は止まらないが国際社会から強い逆風 南シナ海のハーグ裁定―【私の論評】通常戦力で勝ち目のない中国は、南シナ海に戦術核を配備する(゚д゚)!
中国によるスプラトリー諸島にあるファイアリー・ クロス礁の完成した飛行場(昨年9月20日撮影) |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、中国の南シナ海の環礁を埋め立て、軍事基地化する目的は、結局のところ、南シナ海の深い海に、中国のSLBM(潜水艦発射型弾道弾)を配備した戦略型原潜を他国に知られることなく、潜ませることにあります。
ここから、西太平洋に抜けると、さらにアメリカ本土に近くなり、アメリカ全土が中国のSLBMの射程距離内に収まります。
潜水艦で深いところに潜行すれば、他国に悟られることなく、核による先制攻撃や、報復攻撃をすることができます。これを戦略原潜の聖域化と呼びます。
米国にとっての本当の脅威は中国による南シナ海の支配そのものではなく、南シナ海の聖域化なのです。
これに対する対抗措置が、米軍による、音響測定戦による中国戦略原潜の探査なのです。日本にとっても聖域化は脅威であり、これに対する対抗措置として、日本も音響探査戦を運用し、中国の原潜の動向を探っているのです。
目に見える、中国による南シナ海の埋め立てや、米軍による南シナ海への艦艇覇権は、氷山の一角にすぎません。本当の中国の狙いは、南シナ海の聖域化であり、米国や日本の狙いはその阻止です。
中国の潜水艦は、工作技術が日本よりはるかに劣っているので、通常型であろうが、原潜であろうが、まるでドラム缶をドンドン叩きながら、水中を進んでいるようなものです。ですから、日米ともに、中国の潜水艦の動向は、かなり詳しく把握しているものと思われます。日米は、役割分担をして共同して中国の原潜の動向の詳細を把握していることでしょう。おそらく、中国の原潜の行動は丸裸にされているものと推測します。
中国の原潜が不穏な動きをすれば、それはすぐに発見されて、米軍はすぐに対抗措置をとるでしょう。それとは対照的に、日本の特に「そうりゅう型」潜水艦は、かなり音が小さいため、中国の音響測定艦ではなかなか発見できないといのが実情です。これには、中国海軍はなす術が無いです。実戦となれば、海の藻屑と消えるのみです。
日米の協力によって、中国による南シナ海の聖域化は是が非でもやめさせなければなりません。そのための、対抗措置が日米による音響測定艦による探査なのです。
多くの人は、日米が中国の南シナ海での埋め立ての暴挙を許してしまったことを非難するかもしれません。しかし、日米は今でも中国の真の意図を挫いていましす。これからも、挫き続けることでしょう。
多くの人は、日米が中国の南シナ海での埋め立ての暴挙を許してしまったことを非難するかもしれません。しかし、日米は今でも中国の真の意図を挫いていましす。これからも、挫き続けることでしょう。
【関連記事】
【関連図書】
長谷川 慶太郎 小原 凡司
東洋経済新報社
売り上げランキング: 149,970
東洋経済新報社
売り上げランキング: 149,970
ビル ヘイトン
河出書房新社
売り上げランキング: 170,345
河出書房新社
売り上げランキング: 170,345
0 件のコメント:
コメントを投稿