景気の動向については、内閣府が作成する景気動向指数の一致系列指数が改善しているのか悪化しているのかにより、回復期か後退期かを判定することができる。
景気動向指数の一致系列は、生産指数(鉱工業)、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、所定外労働時間指数(調査産業計)、投資財出荷指数(輸送機械を除く)、商業販売額(小売業、前年同月比)、商業販売額(卸売業、前年同月比)、営業利益(全産業)、有効求人倍率(新規学卒者を除く)である。
これをみてもわかるように、幅広い経済部門から経済指標が選ばれているが、特に一致系列では、生産面に重点が置かれている。
筆者が経済状況を見るとき、「1に雇用、2に所得」である。つまり、雇用が確保されていれば、経済政策は及第点といえ、その上で所得が高ければさらに上出来で、満点に近くなる。
それ以外の、たとえば輸出や個別の産業がどうかという話や、所得の不平等のように各人の価値判断が入る分野は、評価の対象外にしている。
このように経済をシンプルに考えているので、必須な経済指標としては、失業率(または有効求人倍率、就業者数)と国内総生産(GDP)統計で、だいたいの用は足りる。
筆者の立場から見ると、景気動向指数の一致系列は、生産面の指標が重複し、雇用統計が足りないと思えてしまう。逆にいえば、このような雇用を重視しない指標を見ていれば、雇用政策たる金融政策への言及が少なくなってしまうのは仕方ないだろう。
雇用を経済政策のミニマムラインとする筆者から見れば、アベノミクス景気は実感できる。筆者の勤務する大学はいわゆる一流校というわけではなく、ときどきの「景気」によって就職率が大きく変化する。
4、5年前には就職率が芳しくなく、学生を就職させるのに四苦八苦だった。ところが、今や卒業者の就職で苦労することはかなり少なくなった。この間、必ずしも学生の質が向上したとはいえないにも関わらずだ。これは、アベノミクスの金融緩和によって失業率が低下したことの恩恵である。
「潜在成長率の低下」という説明も怪しい。本コラムの読者であれば、「構造失業率」が通説より低かったことを知っているだろう。この「構造失業率」は「潜在成長率」と表裏一体の関係にあり、構造失業率が低いなら、潜在成長率は高くなる。つまり、報道は、構造失業率は高いままという誤ったことを主張しているに等しい。こうした報道を読むときは、よく注意したほうがいい。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
【私の論評】景気が良くなれば給料二倍的感覚はただの情弱(゚д゚)!
上の記事で、高橋洋一氏が主張しているように、「景気動向指数の一致系列は、生産面の指標が重複し、雇用統計が足りないと思えてしまう。逆にいえば、このような雇用を重視しない指標を見ていれば、雇用政策たる金融政策への言及が少なくなってしまうのは仕方ないだろう」というのは事実だと思います。
企業で働く人のうちでも、人事に関係ある分野で働いている人や経営層ならば、現状の人材獲得は非常に困難を極めはじめていることから、景気が良くなっていることは十分実感できると思います。
一般サラリーマンでも、人事に直接かかわる仕事をしていれば、これは強烈に感じます。特に、日本がデフレスパイラルのどん底に沈んでいたときにのリーマン・ショックの前後など、人の採用にかかわった人は、二度とあの時代のようなことを繰り返すべきではないということを実感したと思います。
あの頃には、人を採用するのはかなりやりやすかったと思います。そうして、このブログにも当時のことを書いていますが、実際に雇用した若者たちの話を聴くと本当に悲惨というか、夢も希望もない若者たちの実体が手に取るようにわかりました。
たとえば、国立大学を卒業し、その後私と同じ国立大学の大学院を卒業した女子学生が自分の会社に入社したのですが、入社後に話をしてみると、なかなか就職先がなくて本当に困った話や、卒業と同時に数百万円の奨学金による借金をかかえてしまった話などを聞き本当に当時は若者にとっては、生活すること自体が大変であることを実感しました。
また、ある男子学生は、札幌で4年間を過ごしたのに、何とすすき野に一度も行ったことがないとか、飲むとすれば、ほとんど家飲みしかしたことがないとか、車などそもそも買うつもりにもなれなかったなどとか、バイトをしてもさほど稼げないことなどを聞きました。
そうして、実はその学生が特に厳しいというわけでもなく、良く話を聴くと、結構裕福な家庭の出身であることを聴いて、驚いてしまいました。ちょうどその頃、統計などをみると日本の若者の自殺率は世界で突出して高いことなどを知り、さらに憤りを感じたものです。
自分たちの学生の時と比較して、何と今の若者は悲惨な境遇に置かれているのかと思い、忸怩たる思いがしました。
そうして、数年たったときに、あのリーマン・ショックなるものは、英語ではなく単なる和製英語であることを知りました。日本以外の国では、景気が落ち込んだときに、中央銀行が大規模な金融緩和をはじめたにもかかわらず、日銀は実行しなかったために、震源地である米国や、英国などがいち早く不景気から抜け出したにもかかわらず、日本だけが一人負けの状態となり、超円高とさらなるデフレスパイラルのどん底に沈み込んでしまいました。
この状態が長く続いたので、日本ではこの時期の不況をリーマン・ショックと呼んだのです。そのため、このブログではリーマン・ショックではなく、「日銀ショック」と呼称したほどです。
この状態が長く続いたので、日本ではこの時期の不況をリーマン・ショックと呼んだのです。そのため、このブログではリーマン・ショックではなく、「日銀ショック」と呼称したほどです。
それについては、以下のグラフをご覧いただければ、よくおわかりになると思います。
このグラフは2008年を100として、各国の中央銀行がどの程度金融緩和をしたのかを示すものです。米国が最大で300を超えるほどの大規模な金融緩和を行ったにもかかわらず、日銀は150にも満たないほどの緩和しかしませんでした。
これが、日本では不景気が長引き、リーマン・ショックなる和製英語ができた所以でもあります。
日本でいうリーマン・ショック時の若者の状況や経済の状況を考えれば、現在はかなり景気が回復しているのは間違いないです。この状況を絶対に後戻りさせるわけにはいきません。
それにしても、現状は、過去のデフレの悪影響は未だ残ってはいるものの、上で述べたようにそもそも、学生を雇用するのが大変になりましたし、最近の若者は、さすがにリーマン・ショックの時のようなひどい状況と比較すれば、随分良くなりました。この状況を理解できず、景気の回復を実感できないという人たちは、かなり情報感度が低いのではないかと思います。
これに関して、経済学者の田中秀臣氏が以下のようなツイートをしていました。
数年で給料二倍でないと、景気がよくなったという実感がないという平気で言う人は、情弱のそしりを免れないと思います。しばしばマスコミが常套句にしている「景気回復の実感がない」というのも経済政策批判のための撒き餌的な位置にあると思う。具体的に「景気回復の実感とはなにか」という項目を問わないかぎり、ただの給料二倍的感覚をもとにしている可能性が大きい。バブルや高度経済成長を超えるものを要求w— 田中秀臣 (@hidetomitanaka) 2017年4月8日
年率数%の緩やかなインフレが続いた場合、給料などどうなるのかというか、感覚的にどのような感じになるか、私は長年米国で暮らしているご婦人から、それに関して聴いたことがありますので、その話の内容を以下に掲載します。
米国では、その時々で凸凹はあるものの、長期的にみれば3%くらいのゆるやかなインフレが続いてきました。その中で実際に暮らすと、以下のような感じだそうです。
「1、2年だと、給料が上がったにしても、誤差くらいにしか感じられないのですが、20年経つといつの間にか給料が倍になっているという感じです」感覚としてはこのようなものなのでしょう。実際、働き始めてから20年〜30年たつと、給料が徐々にあがるし、経済成長しているわけですから、それなりに仕事に慣れたり、地位が向上した分も含めると2倍になったという感覚なのでしょう。
無論、地位が向上しないで、そのまま同じ地位で同じところに勤めていたにしても、経済成長をしているわけですから、インフレ分を差し引いても給料は20年前の1.5倍くらいにはなっているのでしょう。
いくら緩やかなインフレであったにしても、終戦直後の日本のような場合は、別にして、給料が倍というのは20年くらいはかかるものとみて間違いないです。
以下に、このご婦人と似たような境遇にいて、米国で長い間居住された方の、2012年時点での、米国のインフレと、日本のデフレを比較した記事のリンクを掲載しておきます。
インフレのある暮らし – 15年ぶりの1ドル80円時代に思うこと詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの方の物価に関する米国に在住していての感覚などを掲載しておきます。
さて、アメリカの方のインフレも年間3%くらいでしかないのだが、それでも15年たつとモノの値段が5割高になる。これはつまり、去年と今年の値段の差は誤差の範囲だが、10年、20年たつと目に見えて高くなる、というレベル。
やはり、物価のほうからみても、10年、20年たって目に見えて高くなるという感覚のようです。
このようなことでは、景気回復を実感できないというのは、全くの見当ハズレです。緩やかなインフレでは、物価も給料も去年と今年の差異ということになれば、誤差のようにしか感じられないのですが、10年、20年たつと目に見えて高くなるというレベルです。
これが、常識的な感じかたでしょう。しかし、これでは意味がないとお考えでしょうか。私は、決してそうは思いません。
緩やかなインフレだと、雇用状況も良いですから、まずは就職ということについてあまり心配しなくても良くなります。それに、就職してからでも、誰もが20年たてば、給料は現状の1.5倍から2倍は見込めるとなれば人生に対する考えたかも変わってきます。
これから、給料が下がることはあっても上がることはなかなかないと考えているのと、とにかく20年もたてば倍になると考えられるのでは雲泥の差です。
それに、緩やかなインフレが続いていれば、たとえば会社で正社員と、パートやアルバイトなどの臨時雇用の人とが、全く同じ仕事を同じ時間だけした場合、臨時雇用の人のほうがその仕事に関しては賃金が多くなります。これは、デフレ時代しか経験したことのない人にはなかなか理解できないかもしれません。しかし、これは緩やかなインフレが続いている経済下では当然のことです。過去の日本もそうでした。
結局、雇用情勢が良ければ、人手不足でそうせざるを得ないからそうすることになるだけのことなのです。臨時雇用であっても、賃金が低けれ誰も仕事をしなくなります。しかも臨時の仕事ですから、仕事が終われば即解雇と同じですから、ある程度割が良くなければ、その仕事をす人を集められなくなるのです。
こうして、学生のバイトもデフレの時から比較すれば、緩やかなインフレの時のほうが実入りがよくなります。
それと、若者というと、車という時代もありました。大学生で車を持つ人も結構いましたし、高校卒業したばかりで勤めはじめたばかりの若者が、かなりの高級車を所有するというのも当たり前の時代がありました。
その当時は、若くても将来は給料があがっていくという見込みがあったので、車のディーラーも競って若者に車を売ることができました。それに高級車であれば、再販して、若者にさらに上の車を比較的安く売るということもできました。
人々のインフレ期待は、このように経済を活性化していくのです。これからも、デフレが続くと頑なに思い続けるのは間違いですし、緩やかなインフレになれば、給料がすぐ倍になると考えるのも間違いです。
これから、社会がどう変わっていくのか、これからの社会に必要とされるものは何なのか、それを示す兆候は、現在の社会をみれば、いたるところに見られます。
景気が良くなれば、すぐに給料が倍になるなどと思い込むような人は、そのような目にあうことは滅多にないでしょうが、現在ある小さな変化で、今後大きくなるであろう変化を見極めることができる人にはビジネスチャンスが舞い込んできて、2倍どころか、20年後には、10倍、100倍にもなっているかもしれません。
それが、緩やかなインフレの時代の常識です。
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