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2020年5月27日水曜日

2カ月半遅れの中国全人代 経済ガタガタ、外交は…トランプ氏「中国は無能」 コロナ第2波なら共産党のメンツ丸つぶれ? ―【私の論評】日本をはじめ先進国が中国に対しては、厳しい対処をするのが当然(゚д゚)!

2カ月半遅れの中国全人代 経済ガタガタ、外交は…トランプ氏「中国は無能」 コロナ第2波なら共産党のメンツ丸つぶれ? 

高橋洋一 日本の解き方

中国全人代の開幕式にマスクを着けずに臨む習近平国家主席(下)=22日、北京の人民大会堂

中国の全国人民代表大会(全人代)は22日、新型コロナウイルスの感染拡大により、2カ月半遅れで北京で始まった。

 中国経済はガタガタだ。1~3月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比6・8%減と発表された。それだけに、全人代は低迷からの脱却をアピールする絶好のチャンスといえる。

 これまで全人代ではその年の経済成長目標を数字で掲げてきた。今回は数字を提示できるかどうかがポイントだったが、明記できなかった。中国の統計数字は信用できないが、全人代の数字は中国政府の目標なので、政治的な意味は十分にある。

 中国経済は厳しい。1~3月期の数字は公表され、4月から経済活動は戻りつつあるとしている。中国経済は外需依存が高いにもかかわらず、世界経済は相変わらず低迷したままだ。しかも、対外部門の統計はごまかしにくい。ここで目標数字を公表すると、かえってやぶ蛇になりかねなかった。

 国内経済対策では、新型コロナウイルス対策のための特別国債1兆人民元(約15兆円)発行など、20年の財政赤字率を前年より0・8ポイント高い3・6%以上に設定した。これは、典型的なマクロ経済対策である。

 対外関係では、特に米国との対立が激化する中で、経済で強調する材料がない。ただし、国防予算は前年比6・6%増で、コロナ騒動の中でも過去最高額だ。また、国内引き締めの意味を込め、香港の反政府活動を摘発するための治安法制「国家安全法」が審議される予定だ。

 ただ、香港をめぐっては、昨年11月に米国で「香港人権・民主主義法」が成立した経緯もあり、予断を許さない。その後、新型コロナウイルスを巡り米中対立は激化した。

 トランプ米大統領は20日、「この『世界規模の大量殺人』をもたらしたのはほかでもない、『中国の無能さ』だ」とツイートした。

 今や、米中は貿易戦争どころか「準戦争」状態のようだ。新型コロナウイルスについて、初期段階で情報を隠蔽した中国に対し、米国を含む世界で損害賠償請求が続出しているくらいなので、トランプ大統領も少なくとも11月の大統領選までは強気の姿勢を崩せない。

 そうした中で、一国二制度を完全に骨抜きにする「国家安全法」が全人代で取り上げられることは、米中対立の火に油を注ぐことになるだろう。

 それにしても、2カ月半遅れたとはいえ、中国は全人代の開催を急ぎすぎている感が否めない。会期を例年の半分の1週間に短縮し、全人代代表や報道陣のPCR検査など感染対策は万全だと強調しているが、中国全土から3000人近い代表が北京に集まる。それらのスタッフを含めれば、数万人が地方から北京に来るわけで、それが感染第2波の引き金となればシャレにならず、中国共産党のメンツ丸つぶれだ。

 それでも開催したということは、コロナ封じ込めに自信があるのか、それとも、仮にそのような事態が起きても報道されないということなのだろうか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本をはじめ先進国が中国に対しては、厳しい対処をするのが当然(゚д゚)!

中国の隠蔽体質からいって、中国全土から3000人近い代表が北京の全人代に集まり、それらのスタッフを含めれば、数万人が地方から北京に来るわけで、それが感染第2波の引き金となるでしょうが、中国はこれを隠蔽することでしょう。油断すると、第二派、第三派の感染拡大が中国を起点として世界中に広がるかもしれません。

そもそも、中国では、中国ウイルスもしくは、武漢ウイルス感染者数や死者の統計を何度も変更しています、最終的にはコロナに感染したとしても、症状が出ない場合は、感染者に含めないということまでしています。

これから、中国では武漢ウイルスの感染者も死者も出ないでしょう。ただし、現実には出るでしょうから、それらは強制隔離して、隔離された人たちが死亡しても、武漢ウイルス以外で亡くなったと、して虚偽の死亡診断書が作成されることでしょう。

中国の保健当局、国家衛生健康委員会は23日、新型コロナウイルスの感染者について、「きのうは新たな感染者は確認されなかった」と発表しました。


中国の保健当局が中国本土で新たな感染者が確認されなかったと発表したのは、中国政府が対策を本格化させた、ことし1月20日以降、初めてです。

一方で、保健当局は感染しながらも症状がないことを理由に、統計に加えていない「無症状」の感染者について、22日に新たに28人確認されたと発表しています。

実際中国の習近平指導部は28日閉幕の全国人民代表大会(全人代=国会)で、新型コロナウイルス感染症対策の評価を巡り共産党や軍の内部で意見の不一致が生じないよう思想統一を図ったようです。これは、はやい話が、今後武漢ウイルスの感染者が出たとしても、出なかったことにして隠蔽することを暗に徹底したものとみられます。

出席者は競うように習国家主席に忠誠を誓い、1週間にわたる会議は事実上、感染症対応への批判を封じ込めるための場となりました。

「全軍が思想と行動を共産党中央の政策決定と一致させなければならない」。習氏は26日、全人代の軍関連の会議に出席。新型コロナ対策で党の指導に従うよう命じました。新華社電が伝えました。

22日開幕の全人代は新型コロナが最大の議題で、習氏の指導力を礼賛する声が相次いだとされています。

国内では、このような徹底もできるでしょうか、国外はそうはいきません。トランプ大統領をはじめ、中国への批判はすさまじく、とどまるところを知りません。

そんな中で、中国外務省が異常な反発をしてきました。安倍晋三首相が25日の記者会見で、「新型コロナウイルスが中国から世界に広がった」と語ったところ、激しく噛みついてきたのです。

中国は、世界全体で34万人以上の死者を出している「死のウイルス」について、発生国として、初動対応の失敗が指摘されていることなどに、問題意識を感じていないのでしょうか。これでは、日本国民は、習近平国家主席の「国賓」来日を歓迎できません。

「ウイルス起源の問題を政治化し、(中国に)汚名を着せることに断固として反対する!」

中国外務省の趙立堅報道官は26日の記者会見で、安倍首相の発言にこう反発しました。ウイルスの起源については「厳粛な科学の問題だ」と言い放ちました。

趙氏といえば今年3月、自身のツイッターで「米軍が武漢に感染症を持ち込んだのかもしれない」と投稿し、ドナルド・トランプ米政権の猛反発を受けた、いわくつきの人物です。ただ、中国外務省高官の正式発信だけに放置できるものではありません。

そもそも、安倍首相は中国に汚名を着せていません。

25日の記者会見で安倍首相は、対中姿勢も明確にした

米ウォールストリート・ジャーナルの記者に、「今、米国と中国がウイルスなどをめぐり激しく対立している。日本はどっち側につくでしょうか?」と突然聞かれ、冒頭の前置きをしたうえで、次のように続けました。

「日本の外交・安全保障の基本的立場としては、米国は日本にとって唯一の同盟国である。基本的価値を共有している。日本は米国と協力しながら、さまざまな国際的な課題に取り組んでいきたい」

「中国も、世界において経済的にも重要な国であり、プレーヤーだ。国際社会は『日本と中国がそれぞれ、地域や世界の平和や安定、繁栄に責任ある対応を取っていくこと』が期待されている」

外交的に極めてバランスのいい発言といえます。

新型コロナウイルスの世界的大流行をめぐっては、米国や英国、ドイツ、フランス、オーストラリアなどで、中国政府の責任を追及し、損害賠償を求める動きが高まっています。

日本は現時点で、こうした動きと一線を画していますが、中国外務省の異常な反発は看過できるものではありません。

この方にはお越しいただかなくてもよろしいのでは・・・・・

中国が、世界保健機関(WHO)をスポークスマンのように手なずけ、当初からウイルスについて正しい発信をせず、世界全体に被害を広めたことは事実です。米国では与野党を超えて『中国発』との認識を持っています。

安倍首相が記者会見で、同様の認識を発信したことは日米連携のためにも重要です。日本の経済界には『習主席の機嫌を損ないたくない』という思惑があるようです。

国会議員からも中国を強く批判する声はあまり聞こえてきません。しかし、人権問題や尖閣諸島での身勝手な行動を考えれば、国民がもっと強い姿勢を示さなければならないです。習主席の『国賓』来日を歓迎すべきではないのです。

ここで、日本としては、習近平の意向で国内では、どうにもでもなることから、海外でもそれが通用すると思わせてはならないのです。

中国は、元々対外関係など重視せず、自国の内部の都合だけで動く習性がありました。かつての世界は、中国市場の大きさに目を奪われ、中国が経済的に発展して豊かになれば、いずれ先進国等と同じ様になり、まともになるだろうと、それを許容してきました。

しかし、それが中国を勘違いさせてきたようです。中国は比較的豊かになっても、先進国のようになることはありませんでした。それどころか、最近の中国は世界秩序を中国にとって都合の良いように作り変えることを公言しました。これは、このブログでも何度か述べたことです。

今の中国にそのようなことをされれば、世界は闇に覆われることになります。だからこそ、日本をはじめ先進国が中国に対しては、厳しい対処をするのが当然なのです。今後、中国が世界で自分勝手、わがまま勝手をすれば、世界中から厳しい仕打ちを受けることを身をもって体験させるべきなのです。



2018年4月1日日曜日

「ヤバい数字」を隠すため…?中国全人代の幹部人事のウラを読む―【私の論評】李克強の力を削いでも、中国の経済社会の矛盾がさらに蓄積されるだけ(゚д゚)!

「ヤバい数字」を隠すため…?中国全人代の幹部人事のウラを読む

中国経済が抱える爆弾

ドクターZ

デタラメを暴く、ナンバー2

3月19日、中国の全人代(全国人民代表大会)は政府機能を担う国務院の副首相や閣僚を選出した。

中国副首相 左より 韓正、孫春蘭、胡春華、劉鶴 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

筆頭副首相には共産党序列7位で政治局常務委員の韓正氏が就き、その他の副首相は習近平氏の側近で経済ブレーンの劉鶴氏らが担う。また、中国人民銀行の総裁は同行副総裁の易綱氏が昇格するなど、経済政策に強い人物を中央に固めた形となった。

この人事は、習近平国家主席の「一強独裁」体制が色濃くなるなか、長期政権の運営には経済政策の強化が欠かせないと政府が考えてのことだろう。だがもうひとつの側面から見れば、習氏の独裁を維持するため、強力な「ナンバー2」の登場を阻止するためとも見てとれる。

これまで、経済政策は李克強首相が主導してきた。李氏は遼寧省の党委員会書記だったころ、「李克強指数」で有名になった。

これは、中国が発表するGDP統計は信頼できず、それよりも鉄道貨物の輸送量、銀行融資残高、電力消費の各統計から経済指数を導き出したほうが、信頼度が高いと発言したことに由来する。実際欧米のシンクタンクでは「李克強指数」を使って中国の経済の実力を測ろうとしてきた。

李克強氏

このエピソードが示すとおり、李氏は中国の経済の実態に通じていて、なかなか指摘しづらい政府のごまかしを率直に指摘してきた人物でもある。

しかし、劉氏の副首相起用で、李首相の影響力は一段と低下するだろう。筆頭副首相に共産党序列7位の韓正氏をあてたのも、政権運営で反抗分子となる存在を作らないためだと考えれば合点がいく。

「不良債権」問題

ところで、中国の経済問題として懸念されるのは、膨らみ続ける債務の問題である。ありていにいえば「不良債権」なのだが、中国政府の言い分では、「不良」ではなくあくまで「大き過ぎる」債務なのだそうだ。

欧米の不良債権問題への対応はシンプルで、回収可能性を国際的な会計基準から判定し、回収不能となれば債権償却する。このプロセスには裁量の余地は少なく、機械的に処理していくだけだ。

一方、中国の過剰債務に関する処理は国際基準から程遠い。そもそも中国は会計基準も国際的なものから遅れている。

たとえば証券市場には適切な会計基準が不可欠だが、中国の証券市場には根本的に根付いていない。証券市場では企業による自由な証券の売買が認められることが資本主義の常識だが、中国では「管理されるべきもの」との考え方が残っている。

また、証券市場の発展は国有企業の民営化をもたらすものなので、一党独裁かつ社会主義の中国では、なかなか国際標準化しないという事情もある。

きちんとしたGDPの統計も持たない中国では、当然会計基準も国際レベル未満だし、結果として正確な不良債権の額すら把握できていない。

中国の公式統計では、金融機関が保有する資産の2%程度が不良債権額としているが、海外のあるシンクタンクによればその10倍に膨れ上がっていると指摘される。

こうした中国経済のデタラメを暴く存在になるかもしれない李首相の封じ込めが、今回の全人代の人事には意図されているのだ。

『週刊現代』2018年4月7日号より

【私の論評】李克強の力を削いでも、中国の経済社会の矛盾がさらに蓄積されるだけ(゚д゚)!

さて李克強指数と公に公表されている統計数値の比較によって最近の中国の経済成長をみてみます。



中国では2月の株価下落で市場が動揺しましたが、さほど大きな問題とはなっていないようです。しかし、今年に入って中国の内モンゴル自治区、天津市が域内GDP(域内総生産)の「水増し」を認めるという出来事がありました。

中国のGDP(国内総生産)統計に対する疑念は今に始まったことではありませんが、ほかの地域や国全体の統計にも少なからず不正があることでしょう。この疑念が強くなったのは上海株の暴落などによって景気が悪化していた2015年あたりからでした。

ここで注目すべきは、過去に水増しが行われていたことそれ自体ではなく、2015~2016年の水増しの影響が今も残っている可能性が高いという点です。この影響が、2018年の世界経済にとって思わぬリスクとなる可能性があるということです。

過去の水増しが残るというのは、たとえば2016年に1%ポイントだけ成長率が水増しされていたとすれば、成長率を計算する際の「発射台」がカサ上げされるため、2017年の成長率が低くなってしまうというテクニカルなものです。

本当の2017年の成長率は公式統計が示す以上に高かった可能性があります。さらに、このような過去の水増しによるテクニカルな影響だけでなく、「水増し分のつじつま合わせ」のために、各地域が2017年にあえて低い成長率を設定したとすれば、本当はさらに成長率が高かった可能性があります。

実際に、GDPと連動するといわれている李克強指数(鉄道貨物輸送量、電力生産量、銀行融資残高の前年比〈%〉を平均したもの)との連動性は2015年あたりから失われ、2015~2016年の公式GDPの伸び率は李克強指数よりも高かった一方、2017年はむしろ公式統計のほうが弱い結果となっていました。

実際の中国GDP成長率は、李克強指数が示すように2015年は2~3%台、2016年は4~5%台まで鈍化していた可能性があります。そして、2017年は逆に8~9%台まで成長率が加速していたとみられます。

なお、李克強指数もまた実際の経済成長率を反映できていないという批判があることには留意が必要です。一般に経済が成熟化すればサービス業のシェアが拡大するが、鉄道貨物輸送量ではサービス業の成長をとらえることができない、などの指摘があります

とはいえ、ほかに適当な指標もないことから、今回はこの李克強指数をベースに中国経済鈍化が世界経済に与える影響を探ってみます。

さて中国の2018年の経済成長率目標は2017年と同じ「6.5%前後」となる見込みです。公式統計を信じ、仮にこの目標どおりの成長を達成したとすれば2018年のGDP成長率は2017年の6.9%から0.4%ポイントの鈍化にとどまることになります。現状では世界経済全体に対して中国経済の動向があくまでもテールリスク(市場において、ほとんど起こらないはずの想定外の暴騰・暴落が実際に発生するリスク)としてしかみられていないのは、成長鈍化が小幅にとどまると予想されているからです。

しかし、李克強指数が正しいとすれば、0.4%ポイントではすまないことになります。数%は確実であり、これは予想範囲外ということになります。さらに、中国経済に不安が生じた場合に金融市場(特に2017年後半に急上昇した各国の株式市場)に与える影響もあり、これらを含めて考えれば、2018年の世界経済のリスクは一段と大きいことが予想されます。

胡錦濤派である李克強氏の封じ込めは、このようなことを中国内外に悟られないようにするための措置なのでしょう。ただし、いくら李克強氏を封じ込めてこうした危機がないかのように装ったとしても、実際に経済が落ち込めば、そのリスクは顕在化することになります。

ただし、来年には特に国内向けに、習近平にとって都合の良い形で、またGDPの数値が公表されることになると考えられます。ただし、そんなことをしても、国内外の市場関係者の中国に対する不信感を増幅させることになるだけのことです。

さらに、中国にはこの問題だけではなく、ブログ冒頭の記事にもあるように、不良債権の問題もあります。こちらのほうは、GDPよりもさらに分析しがたいものになっています。

なぜこのようなことがおこるのかといえば、中国では民主化、政治と経済の分離、法治国家化が十分になされていないからです。

北京の人民大会堂で、3月5日~15日まで開かれた第12回全国人民代表大会。
5日の開幕式に参加した習近平国家主席と李克強首相 

民主化ということでいえば、中国には選挙制度というものがなく、共産党の幹部を選ぶのも指名です。こういうことから、中国には正式には他の先進国などにみられる、政治家は存在しません。存在するのは、すべて官僚です。官僚だけが、中国を動かしているのです。

そうして、官僚組織でもある中国共産党は憲法よりも上に位置している存在です。結局気共産党の都合により何もかも共産党の恣意というか、現実的には共産党内の権力闘争の結果に帰するということです。

そうして、それは経済すらも例外ではありません。そのため、中国では政治と経済は分離されておらず、共産党が経済を管理します。しかし、一国の経済など管理しきれるものではありません。そのため、どんどん上記で述べたような矛盾が蓄積していくことになります。

さらには、先に述べたように、中国共産党は憲法より上の存在ですから、当然のことながら、法治国家化も十分ではなく、法律に基づいて行われるのは、共産党にとってそれが都合の良いときだけです。

ということは、共産党の管理により経済上の矛盾が蓄積したとしても、それを止める手立てはないということです。矛盾を解消するために、さらなる矛盾が蓄積していくことになり、ますますカオスの世界に突入するだけです。

それでも、中国が過去に崩壊しなかったのは、どれだけ矛盾が発生しても、共産党にとって都合が良くなるように、国家権力によって、むりやりにそれを解消してきたからです。

しかし、国内ではそれはできても、外国にまでそれを拡張することはできません。中国国内では、それができるのかもしれませんが、それを恐れて外国企業などは中国国内から資金を引き上げることになります。中国政府がそれを妨害したとしても、今度は海外からの投資はなくなることになります。

この中国共産党が外国でも、国内と同じように何でも共産党の思い通りにできるようすることを目指したのが、習近平の一帯一路であり、それを金融的に裏付けるものがAIIBなのですが、この試みも最初から頓挫するのが目に見えていることは、このブログでも何度か掲載してきましたので、ここでは詳しくは述べません。

このままだと、中国には社会的にも、経済的にも、ますます矛盾が蓄積していきます。さらに、この矛盾が海外にまで飛び火することになります。実際、南シナ海、尖閣諸島、インド国境その他多くの地域に飛び火しています。中国社会はすでに崩壊していますが、それは共産党が無理やりに繕って何とか機能させています。

しかし、経済・金融はそのようなわけにはいきません。中国の官僚は自由主義経済の本質などには無知ですから、中国経済・金融や対外関係を管理できるものとの幻想を抱いていますが、それは不可能です。いずれ、矛盾に矛盾が積み重なり管理不能の状態になります。何かの弥縫策を打ったとしても、今度は別の何かが悪くなり、それに対して弥縫策を打つと今度は別の何かが悪くなるというモグラたたきのようなことを繰り返すことになります。

もうその時期が近づいていると考えられます。過去のように共産党により無理やり繕って機能させることはできなくなります。いくら管理しようとしても、中国共産党の管理能力を超えた矛盾の蓄積はいかんともしがたいものになります。

今のままでは、習近平の独裁は10年持たずに崩壊します。この後には、中国共産党も統治の正当性を完璧に失い崩壊することになります。

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2018年3月11日日曜日

【中国全人代】国家主席の任期撤廃、改憲案を可決 中国政治体制の分岐点―【私の論評】共産党よりも下の位置づけの中国憲法の実体を知らなければ現状を見誤る(゚д゚)!

【中国全人代】国家主席の任期撤廃、改憲案を可決 中国政治体制の分岐点

全人代で憲法改正案が採択され、拍手する
習近平国家主席=11日、北京の人民大会堂

 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)は11日、国家主席の任期を2期10年までに制限した規定を撤廃する憲法改正案を可決した。賛成2958票に対して反対は2票、棄権3票で賛成票が99%を上回った。習近平国家主席が兼務する中国共産党総書記と中央軍事委員会主席に明文化された任期制限はなく、最高指導者としての習氏の3期目続投が制度上可能となった。

 党内や国内世論の一部では、習氏の長期政権化が集団指導体制の崩壊や個人独裁、指導者終身制につながるとの懸念も高まっている。だが、習指導部が反腐敗闘争で政敵の打倒を進めた結果、強引ともいえる権力集中を表立って阻止できる党内勢力は存在しないのが現状だ。中国の政治体制は大きな分岐点を迎える。

 1982年に制定された現行憲法の改正は14年ぶり5回目で、今回は習氏と党の権威強化が主眼だ。今世紀中頃までに、「社会主義現代化強国」を実現することをうたう「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が、毛沢東思想やトウ小平理論などと並ぶ「中国各民族人民」の指導思想として位置づけられた。中国で現役指導者の理念が憲法に明記されるのは毛沢東以来。

 また、総則第1条の「社会主義制度は中華人民共和国の根本的な制度だ」との文言に続いて「中国共産党の指導は中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴だ」と追加し、共産党統治の正統性が強調された。

 このほか反腐敗闘争の制度化に向け、党員以外の公務員らも摘発対象とする国家機関「監察委員会」の設立を憲法に明記。行政機関の干渉を受けない独立した監察権の行使が認められ、国務院(政府)や最高人民法院(最高裁)、最高人民検察院(最高検)などと同格の機関として位置づけられた。


【用語解説】中華人民共和国憲法

 1954年9月に開かれた初の全国人民代表大会で制定され、その後3度の大幅改正が行われた。現行憲法は82年に制定されたもので「82憲法」とも呼ばれ、序文と「総則」「公民の基本的権利と義務」「国家機構」「国旗、国歌、国章、首都」の4章で構成される。2004年までに計4回の小規模改正を行い、今回の改正では「国家機構」の章に「監察委員会」の新節が加わり全143条となる。総則の第1条では中国について「労働者階級が指導」する「人民民主主義独裁の社会主義国家」だと規定している。

【私の論評】共産党よりも下の位置づけの中国憲法の実体を知らなければ現状を見誤る(゚д゚)!

憲法改正案に賛成2958票に対して反対は2票、棄権3票とされていますが、この意味するところは何なのでしょうか。これには、2つの見方があると思います。

まずは、習近平が権力を完璧に掌握できていないという見方です。もし、完璧に掌握できていたとすれば、反対や危険票は出ないはずです。

もう一つの見方は、習近平が憲法改正の投票がまともであることを印象づけるため、わざと反対2、棄権3が出るように仕組んだという見方です。

私自身は、この2つの見方以外にないと思います。そうして、いずれの場合であっても、習近平は未だ全権力を掌握していないとみるべきです。

なぜなら、最初の見方では、そもそも反対票がでているということは、習近平が権力を掌握できていないということです。

二番目の見方の場合では、憲法改正の投票がまとめであることを印象づける必要性があるということです。それは誰に対してかといえば、まずは共産党内部において、まともな投票が行われたことをアピールするという側面と、中国人民に対して、習近平はまともな手段を用いて、国家主席の任期撤廃をしたということを印象づけるためです。

いずれの場合でも、やはり習近平が全権力を掌握していない可能性が十分にあります。

英経済誌 エコノミストの表紙に掲載された皇帝になった習近平

それと、上の記事では、中華人民共和国憲法の位置づけが説明されておらず、この記事を読んだ多くの人は、中国の憲法も、日本や他の憲法も同じようなものであって、 国家の統治権・統治作用に関する根本原則を定める基礎法であり、他の法律や命令で変更することのできない国の最高法規であると無条件で思い込んでしまうかもしれません。

しかし、これは完璧な間違いです。なぜなら、中国には憲法の上に君臨する存在があるからです。言わずと知れた、中国共産党です。中国の憲法前文には"中国共産党の指導"という文言があります。該当部分を以下に引用します。
中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に、マルクス・レーニン主義、毛澤東思想、鄧小平理論及び"三つの代表"の重要思想に導かれて、人民民主独裁を堅持し、社会主義の道を堅持し、改革開放を堅持し、社会主義の各種制度を絶えず完備し、社会主義市場経済を発展させ、社会主義的民主主義を発展させ、社会主義的法制度を健全化し、自力更正及び刻苦奮闘につとめて、着実に工業、農業、国防及び科学技術の現代化を実現し、物質文明、政治文明および精神文明の調和のとれた発展を推進して、我が国を富強、民主的、かつ、文明的な社会主義国家として建設する。


"中国の各民族人民は、引き続き中国共産党の指導の下に"ですから、中国の憲法や人権は、ハナから"制限付き憲法・人権"にしかすぎないわけです。

習近平が憲法を変えたということで、習近平がとうとう中国皇帝になり、なにもかも思い通りにできると考える人がいるかもしれません。しかし、これは、表面上はそうかもしれませんが、実体は違う可能性が十分にあります。

そもそも、憲法の上の存在が共産党であり、習近平が現状では共産党の最高権力者なのですから、憲法に違えたことを習近平はいつでもできるし、憲法改正も他国と比較すれば、容易にできるということです。

そもそも、中国では憲法の上に共産党があるということで、元々民主的でもないし、政治と経済の分離ができていないので、すべての中国経済は常時中国政府のコントロール下にあり、実際政府が経済のすべての点に関して、規制したり管理することができる体制にあります。これは、共産主義ではなく国家資本主義と呼ぶべき体制です。さらに、法治国家化もされていないのです。

最近まで、憲法改正がなかったのは、中国にあるいくつかの政治派閥の力がある程度均衡していたからに過ぎず、中国の憲法が他国憲法のように有効に機能していたというわけではありません。

これは、派閥のヘッドが他の派閥のさらに上に出ることができなかったか、出ようとしなかったからに過ぎないのです。それは、出れば他派閥に潰されるからです。

習近平はここ数十年ではじめて、他の派閥のさらに上に出て、全権力を掌握しようとしているわけです。

しかし、そのようなことがおいそれと成功しそうもないのは、はっきりしています。まずは、江沢民、胡錦濤の元前総書記には鄧小平に指名されたとの統治の正当性がありました。しかし習近平以後の党指導者にはそれがありません。

さらに、毛沢東に関しては、大虐殺をしたという悪い側面もありますが、建国の最大功労者であったことには異論はないと思います。鄧小平は、天安門事件では、軍隊の出撃を命令し大虐殺をしたという悪い側面もありますが、毛沢東の死後、文化大革命によって荒廃した中国に四つの経済特区を指定することで改革開放を実施し、その結果、著しい経済成長が起こり、現在の中国を基礎を築きました。

建国の父である毛沢東(左)と現代中国経済の基礎を築いた鄧小平(右)

しかし、習近平にはそのような成果は何もありません。一帯一路を実行しようとしていますが、これは今のところ構想に過ぎず、さらにこの構想はこのブログでも何度か掲載させていただたように、とても成功の見込みはありません。ということは、習近平には毛沢東や鄧小平なみの成果をあげることは不可能であるということです。

さらに、習近平が、如何に腐敗と戦っても、腐敗は古来中国の伝統であり、撲滅することは不可能です。それどころか、習近平自身がファミリー・ビジネスなどで、腐敗しています。腐敗しているものが、腐敗撲滅するなど、撲滅される側にとっては理不尽以外の何ものでもありません。日本を含めた先進国の感覚では、中国の幹部で全く腐敗していないものなどいません。それを考えると、この先の10年以上も習近平独裁政権が続いていることは想像しにくいです。

いずれかの時点で、習近平体制が崩れ、その後中国共産党独裁体制も崩れるであろうと、見なすのがまともだと思います。

私は、今回の習近平の独裁体制は、現在の中国政治体制の崩壊の序曲であると見なすべきだと思います。これは、中国憲法が共産党よりも下という位置づけを理解しないと、到底理解できないと思います。

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2017年3月5日日曜日

【中国全人代】陰の主役はトランプ氏 米の国防費増、対中制裁課税…中国のアキレス腱狙う“攻勢”に習政権は耐えられるか―【私の論評】秋の政治局常務委員改選で異変が?


5日、北京の人民大会堂で開幕した中国の全国人民代表大会
 全国人民代表大会(全人代)の陰の主役はトランプ米大統領である。間を見計らったかのように、トランプ米政権は矢継ぎ早に通商、軍事両面で対中強硬策を放った。習近平政権は耐えられるか。


 トランプ政権は2月末に国防費を前会計年度比約10%増額する方針を公表。3月1日には世界貿易機関(WTO)ルールに束縛されず、不公平な貿易相手国に高関税などの制裁を科す米通商法301条の発動もちらつかせる通商政策の年次報告書を米議会に提出した。3日には中国の鉄鋼製品への制裁課税を決定。これらは、国家通商会議(NTC)のピーター・ナバロ委員長が作成中の貿易と軍事を一体とする対中強硬策の前触れだ。

 習政権は国防費増を打ち出すが、軍拡を支える経済力に不安を抱える。全人代では国内総生産(GDP)成長率目標を6・5%前後に引き下げた。一方、GDPの約10%の資金が海外に流出している。

 思い起こすのは1980年代のレーガン政権の対ソ連強硬策である。レーガン大統領はアフガニスタン侵攻など対外膨張路線のソ連に対抗し、戦略防衛構想(通称「スターウォーズ計画」)を打ち出すと同時に、高金利・ドル高政策をとって石油価格を数年間で3分の1に急落させた。国家収入をエネルギー輸出に頼るソ連経済は疲弊し、90年代初めに崩壊した。

 トランプ政権もまた中国の弱点をつく。貿易制裁が対米輸出に打撃を与えるばかりではない。米株高と連邦準備制度理事会(FRB)による利上げは中国からの資本逃避を促す。流出した資金は米ウォール街に流れ込み、米株価を押し上げている。

 人民元防衛のために外貨準備は取り崩される。外準は今や対外負債を大きく下回り、借金なくして維持できない。アジアインフラ投資銀行(AIIB)を主導し、全アジアを北京の影響下に置こうとするもくろみはついえる寸前だ。

 個人・企業の海外での「爆買い」や対外送金規制などの小手先の対策では資金流出をとめられない。金融を引き締めれば国内景気が持たない。党中央は逆に、銀行融資を急増させて不動産相場の下支えやインフラ投資後押しに躍起だが、企業債務の膨張など人民元マネーバブルを招き、元暴落不安が募る。習氏は全人代で答えを出せるか。(特別記者 田村秀男)

【私の論評】秋の政治局常務委員改選で異変が?

これから先も、米国の対中国政策は、「トランプ大統領が中国を叩き潰す」ということになります。今年はアメリカと中国の「経済戦争」の元年です。トランプ政権の中国に対する姿勢は、閣僚人事を見れば明らかです。

ピーター・ナバロ氏
新設された国家通商会議のトップには、ピーター・ナバロ氏が起用されましたが、ナバロ氏は過去に「中国製品を買うべきではなく、購入すれば国家安全保障上の脅威となる」と発言している人物です。また、通商代表部の代表に起用されたロバート・ライトハイザー氏も、中国製鉄鋼のダンピング(不当廉売)輸出を批判するなど、対中強硬派として知られています。今後、トランプ政権の通商戦略は、このナバロ氏とライトハイザー氏が司令塔となって進められます。

ロバート・ライトハイザー氏
また、台湾を中国の一部とみなす「ひとつの中国」の原則を見直すことを表明するなど、トランプ大統領は各方面から中国を揺さぶっています。トランプ大統領はこの後で、習近平と電話会談をして、中国に「ひとつの中国」政策を認める発言をしました。

これは、かなり矛盾するようにもみえますが、これは政治観点からみると、トランプ大統領は一つの大きな外交カードを握ったことになります。オバマ政権とは打って変わって、トランプ政権の対中政策はかなり厳しいものになりました。

もともと、トランプ大統領は「中国を為替操作国に指定する」「中国製品に45%の報復関税を課す」と宣言していました。

これは、中国の経済基盤と産業構造を否定するものです。「ヒト・モノ・カネ」の移動を自由化するグローバリズムの最大の受益者は中国であり、中国は自由経済と計画経済の“いいとこ取り”をするかたちで、国際社会での存在感を拡大してきました。しかし、それは同時に先進国で大量の失業者を生むことにつながり、世界各国で紛争の原因にもなりつつあります。

資源や食糧は有限のため、人口の多い新興国が発展すれば、資源や食糧の枯渇、やがては奪い合いにつながります。中国が急成長することで、地球が発展の限界を迎えていると言い換えてもいいでしょう。トランプ大統領は、そうした流れにも「待った」をかけているわけです。

そうして、この対立構造においてはアメリカのほうが圧倒的に有利です。中国側は有効なカードを持っていないに等しいのですが、習近平国家主席は求心力を失いたくないために引くに引けないのも事実です。

しかし、中国は、国家運営の根幹となる穀物もアメリカからの輸入に頼る構造になっており、環境問題の悪化によって食糧問題が悪化することがあっても、改善する可能性は低いです。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【スクープ最前線】トランプ氏「中国敵対」決断 台湾に急接近、習近平氏は大恥かかされ…―【私の論評】トランプ新大統領が中国を屈服させるのはこんなに簡単(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に中国の食料事情に関連する部分だけ引用します。

実際最近では中国が突如、近年世界の穀物輸入国上位に躍り出てきました。2013年~14年期、中国の穀物輸入量は2,200万トンという膨大な量になりました。2006年の時点では、ま中国では穀物が余り、1,000万トンが輸出されていたというのに、何がこの激変をもたらしたのでしょうか? 
2006年以来、中国の穀物消費量は年間1,700万トンの勢いで増大し続けている年間1,700万トンというと、大局的に見れば、オーストラリアの小麦年間収穫量2,400万トンに匹敵します。 
人口増加は鈍化しているにもかかわらず、穀物の消費量がこれほど増加しているのは、主に、膨大な数の中国人の食生活レベルが向上し、より多くの穀物が飼料として必要な肉や牛乳、卵を消費しているからです。 
2013年、世界全体で推定1億700万トンの豚肉が消費されました。そのうちの半分を消費したのが中国でした。人口14億人の中国は現在、米国全体で消費される豚肉の6倍を消費しています。 
とはいえ、中国で近年、豚肉消費量が急増しているものの、中国人一人当たりの食肉全体の消費量は年間合計54キロ程度で、米国の約107キロの半分にすぎません。しかしながら、中国人も世界中の多くの人々と同じように、米国人のようなライフスタイルに憧れています。
中国江蘇省の豚肉売り場、価格は上昇し続けている
中国人が米国人と同量の肉を消費するには、食肉の供給量を年間約8,000万トンから1億6,000万トンへとほぼ倍増させる必要があります。1キロの豚肉を作るにはその3倍から4倍の穀物が必要なので、豚肉をさらに8,000万トン供給するとなると、少なくとも2億4,000万トンの飼料用穀物が必要になります。 
それだけの穀物がどこから来るのでしょうか。中国では、帯水層が枯渇するにつれて、農業用の灌漑用水が失われつつあります。たとえば、中国の小麦生産量の半分とトウモロコシ生産量の1/3を産出する華北平原では、地下水の水位が急激に低下しており、年間約3メートル低下する地域もあるほどです。 
その一方で水は農業以外の目的に利用されるようになり、農耕地は減少して住宅用地や工業用地に姿を変えています。穀物生産高はすでに世界有数レベルに達しており、中国が国内生産高をこれ以上増やす潜在能力は限られています。 
2013年に中国のコングロマリットが世界最大の養豚・豚肉加工企業、米国のスミスフィールド・フーズ社を買収したのは、まさに豚肉を確保する手段の一つでした。 
また、中国政府がトウモロコシと引き換えに30億ドル(約3,090億円)の融資契約をウクライナ政府と結んだのも、ウクライナ企業と土地利用の交渉を行ったのも、その一環です。こうした中国の動きは、私たち人類すべてに影響を与える食糧不足がもたらした新たな地政学を実証したものです。
このような状況を考えると、「トランプ大統領が中国を叩き潰す」という政策は、さして困難な政治目標ではないと思えてきます。

さて、保護主義的な政策を掲げるトランプ大統領は、「自国優先」を旗印に、製造業の国内回帰を目指しています。そして、「強いアメリカを取り戻す」とうたっているわけですが、これは歴史的にいえば1980年代の米国のことだと思われます。当時、日米貿易摩擦が国際問題となり、アメリカの強硬策によって日本は生産体制をアメリカにシフトせざるを得なくなり、その後のバブル崩壊につながりました。

今後は、中国が当時の日本のような立場に追い込まれることになります。そして、かつての日米間以上に激しい摩擦になると同時に、中国側にほぼ勝ち目はないです。日本製品は日本にしかつくれない「オンリー・ジャパン」だったため需要がありましたが、中国製品は単なる組み立て品で付加価値や優位性ありません。中国製品を選ぶ理由は価格の問題だけですが、そこで公約通りに45%の関税が課せられれば、中国経済にとっては致命傷になります。

トランプ政権による中国製品の排除が加速するという動きは昨年からありました。11月に日本の財務省が中国など5カ国を「特恵関税制度」の対象外とすることを発表しています。同制度は、新興国の輸入関税の税率を低くしたり免除したりすることで経済発展を支援するというものですが、もう中国には援助の必要性はないという判断です。
 
また、経済産業省は12月に中国をWTO(世界貿易機関)の「市場経済国」に認めない方針を発表しました。市場経済国とは、国際社会から「自由な市場経済を重視する国」と認められた国のことです。現在、「非市場経済国」扱いの中国は、他国からのダンピング認定などで不利な条件を課されていますが、その規定条項が失効した12月以降も市場経済国への移行を認めないというわけです。

日本と同様にアメリカやEUも認めていないため、日米欧は不当に安い価格で輸出される中国製品に対して、反ダンピング措置をとりやすい体制にあるわけです。このように、アメリカをはじめとする先進国は、さまざまな方法で中国の競争力を奪う方向に向かっています。

こうした厳しい状況に対処しなければならないのが、習近平なのですが、簡単に南シナ海から撤退することもままなりません。そうすれば、中国国内での習近平の求心力が失われてしまいます。

さらに、金融面を見たとき、アメリカと中国の力関係はゾウとアリぐらい違います。確かに中国の銀行は巨大化しているのですが、それは米ドルとの両替保証があってこそです。たとえば、人民元は変動幅が決まっている管理変動相場制で、事実上のドルペッグ制(米ドルが裏付け)です。また、香港ドルは米ドルがなければ発行できないドル預託通貨です。一見、強く見える中国経済だが、実際は非常に脆弱で米ドルに生殺与奪権を握られています。

また、アメリカは14年12月の時点で、アメリカ国内にある中国人および共産党幹部の資産を調査しており、その総額は最大3兆ドルともいわれています。つまり、アメリカは国内の中国マネーをすべて把握しているわけで、有事の際には共産党幹部の個人攻撃を始めることも可能です。対露制裁の際、個人に対しても口座の封鎖などを行ったように、狙い撃ちのように共産党幹部の口座を封鎖することもやりかねないです。

また、トランプ政権はロシアと近づきつつありますが、これには中国牽制という意味合いもあります。米露が関係を改善して中東問題で手を組めば、中東での多面展開はなくなり、その分アメリカは南シナ海の問題に全戦力を集中できるようになります。

さらにいえば、南シナ海においてロシアが日米側につけば中国は勝ち目がなくなります。ロシアとしては勝ち馬に乗ったほうが得だし、そういう計算ができる国です。中国とは昔から仲が悪いという事情もあり、南シナ海において中国の肩を持つことは考えにくいです。

 アメリカとしては、自分から先に仕掛けることはないものの、中国の出方次第では、海上封鎖と金融制裁によって内側から中国を潰すことができるわけだ。現代においては武力よりも金融制裁のほうが効果的であり、それが筆者の言う「経済戦争」である。

しかしながら、中国は今年秋に5年に一度の共産党全国代表大会を控えているため、強硬な姿勢を崩すことができません。一歩でも引けば、習近平政権の瓦解につながる可能性もあるからです。一方、トランプ大統領は「100日計画」を発表しているように、就任から100日以内にある程度の実績を出したいという思惑がある。そのため、就任前から中国に揺さぶりをかけていたのです。

2017年秋に開かれる第19回党代表大会では、新執行部(政治局常務委員)が選出されます。現執行部メンバー7人のうち、習近平国家主席と李克強首相を除き、「江沢民人脈」と見られる4人を含む5人は年齢的な原因(67歳が上限)で引退します。


これまでの経験則によれば、党大会の開催に向け、党内の権力闘争が激化します。1995年陳希同・元北京市書記の失脚、2006年陳良宇・元上海市書記の失脚、2012年薄熙来・元重慶市書記の失脚などは、いずれも党大会開催直前の「政変」劇です。2017年新執行部の選出をめぐり、5つの最高幹部のポストを狙う熾烈(しれつ)な争奪戦が予想されます。

そうして、従来通りに権力闘争は激化するだけならな、政権転覆のシナリオはないと見て良かったかもしれません。

しかし、今回はトランプ大統領が手を変え品を変え、引くに引けない習国家主席が前に出れば出るほど、米中の対立が深まり、段階的にアメリカの制裁が強まることになるのです。それに、米中関係とは全く関係なく、元々中国国内は経済的に苦しい立場に追い込まれることが確実です。

また、5~6月にはアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)が開催されますが、このままいけば、同会議で中国が非難の的になることも間違いないでしょう。

このままだと、「トランプ大統領が中国を叩き潰す」政策は、完璧に功を奏して、今年の今年秋に5年に一度の共産党全国代表大会には、習近平は実質上失脚という事態になることも十分予想できます。それは、まず第19回党代表大会の中国共産党常務委員の改選に異変から見られるかもしれません。太子党が多数派を維持できなかった場合には、習近平氏は事実上失脚とみても良いでしょう。

そうなったにしても、ならなかったにしても、米国による「トランプ大統領が中国を叩き潰す」政策は中国が南シナ海から退かない限り、徹底的に実行されることになります。これにより、いずれ中国にはいずれ確実に何らかの異変が起こることは確かです。

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2016年3月5日土曜日

【中国全人代2016】李克強首相が「改革」を70回連呼 標的は「ゾンビ企業」だが600万人失業、社会不安の恐れも―【私の論評】中国は『中所得国のわな』から抜け出せず国家自体がゾンビ化してしまう(゚д゚)!


開幕した全人代で政府活動報告を終えて拍手する中国の李克強首相=5日、北京の人民大会堂

習近平政権が初めて独自策定した中国の新たな中期経済政策「第13次5カ年計画(2016~20年)」は、年平均6・5%以上の安定成長を続けながら、国有企業の統廃合や人員整理など、痛みの伴う構造改革も断行するという「新常態(ニューノーマル)」入りを内外に改めて宣言した。

李克強首相は5日の開幕式に約2時間かけて読み上げた「政府活動報告」の中で、「改革」というキーワードを70回近く使った。

構造改革の過程では、石炭や鉄鋼など、過剰な生産や在庫の重圧で赤字続きにもかかわらず生き延びている「ゾンビ企業」で600万人もの失業者が出ることが予想される。失業対策など社会保障が後手に回れば抗議デモが頻発、社会不安が増大する懸念がある。

ただ、改革を先送りすれば経済失速という決定的な事態を招きかねない。中国共産党は、20年を目標年度として国内総生産と国民平均所得の「倍増計画」を打ち出している。21年に成立100年を迎える党の威信がかかるが、公約を果たさねば習政権の「正統性」まで問われる恐れもある。

しかし、構造改革で最大のヤマ場となる国有企業のリストラ策が、北京の中央政府からの命令ひとつで順調に進むとはかぎらない。

鉄鋼、石炭、ガラス、セメント、アルミニウムの5業種が「ゾンビ企業」の代表格。工場閉鎖などリストラ計画をまとめる中で、地元の国有企業が標的になると、資金を支援しあっている周辺地場企業も共倒れになるとの懸念があり、地方政府は早くも及び腰だ。

中国で流通していたゾンビ肉(40年前に冷凍された肉)


解雇などで生じる大量の失業者への社会保障が後手に回ると、真っ先に不満がぶつけられる先は地方政府だ。構造改革の痛みに耐えるどころか、社会不安が一気に広がる懸念もある。

これに対し、財政省の予算案では、「過剰生産能力の解消に全ての責任を中央政府が負う」として、16年は500億元(約8750億円)を計上した。構造改革の痛みをめぐって、「新常態」で攻めの姿勢の中央政府と“旧態依然”で抵抗する地方政府の対立が表面化する場面も予想される。

李氏は、「(途上国から先進国に脱皮する前に成長が足踏み状態となる)『中所得国のわな』を克服する重要な5年間だ」と指摘した。周辺国へのインフラ輸出や国内の個人消費拡大が次なる成長戦略だが、「わな」に陥らない保証はなく、前途は多難だ。

【私の論評】中国は『中所得国のわな』から抜け出せず国家自体がゾンビ化してしまう(゚д゚)!

李克強氏が全人代で語った『中所得国のわな』は『中進国のわな』ともいいこのブログでも掲載したことが何度かあります。その代表的な記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】人民元のSDR採用後の中国 一党独裁と社会主義体制で困難抱えて行き詰まる―【私の論評】中間層を創出しない中国の、人民元国際通貨化は絶望的(゚д゚)!
中国人民元のSDR構成通貨入りを発表する
IMFのラガルド専務理事=11月30日、ワシントン
この記事は、昨年12月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、『中進国の罠』に関する部分のみ以下にコピペします。
中国が、一人当たり国内総生産(GDP)1万ドル前後で経済停滞に陥るという「中進国の罠」にはまりかけているのも懸念材料だ。一般論として、中進国の罠を超えるためには、大きな構造改革が必要であるが、そこでも中国の体制問題がネックになる。 
中国は、当面AIIBによって「人民元通貨圏」のような中国のための経済圏を作りつつ、国有企業改革などを行ってTPPなどの資本主義経済圏への段階的参加を模索するとみられる。しかし、一党独裁体制を捨てきれないことが最後までネックになり、行き詰まるだろう。
・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・ 

中国が今の一党独裁を継続していては、高橋氏がブログ冒頭の記事で、指摘していた、「中所得国の罠」に陥る可能性が大というよりも、もうその罠に完璧に落ち込んでいます。 
中所得国の罠の模式図
「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することをいいます。 
この「中所得国の罠」を突破するのは結構難しいことです。アメリカを別格として、日本は60年代に、香港、シンガポールは70年代に、韓国は80年代にその罠を突破したといわれています。ただし、アジアでもマレーシアやタイは未だに、罠にはまっています。 
中南米でも、ブラジル、チリ、メキシコも罠に陥っていて、一人当たりGDPが1万ドルを突破してもその後は伸び悩んでいます。 
政治的自由と、経済的自由は、表裏一体であり、経済的自由がないと、IMFのような国際機関の提言は実行できません。経済的自由を保つには、政治的自由が不可欠です。
これに関しては、このブログでも表現は異なるものの、過去に何度か掲載してきました。

現在のように、一握りの富裕層が経済活動をするというのであれば、いずれというか、もうすでに中国はそうなのですが、経済発展には上限があり、それ以上は伸びることができなくなり、それこそ、「中所得国の罠」にはまってしまうのです。

中国の場合確かに、国全体としてのGDPは大きくなりましたが、それにしても、一人あたりのGDPは、まだ日本の1/10程度であり、まさに中進国の下の部類です。さらに憂うべきことは、中国がGDPを伸ばしてきたにもかかわらず、個人消費は伸びることなく、現在ではなんとGDPの35%に過ぎません。

これは、米国は70%、日本を含める先進国では、60%台であることを考えると、中国はあまりにも低いです。

中国が中所得国の罠から脱して、さらに経済発展をするということになれば、個人消費をもっと増やす必要があります。そのためには、現状のように、一握りの富裕層と、その他大勢の貧困層という状況を改め経済的中間層を創りだす必要があります。

そうして、この中間層が、社会・経済的に活発に活動できるための、基盤を整備する必要があります。

基盤を整備するためには、現状の中国ではほとんど実現されていない、民主化、経済と政治の分離、法治国家化は欠かせません。まずは、これができなければ、何も進みません。他の中進国が「中進国の罠」に嵌っているのは、結局これができないからです。

結局、中国に限らず、一党独裁が最後に障害になるのです。そう考えると、中国の外患内憂はそう簡単に解決しないことでしょう。
ブログ冒頭の記事を見ていても、「ゾンビ企業」をなんとかしようとしているのは、わかりますが、その手段がはっきり示されていません。

先日、NHK クローズアツプでも、中国がゾンビ企業をなんとかしようとしていることが報道されていましたが、そのとき報道されていた内容も、ITで個人起業家やサービス業の起業家を増やすようなことが報道されていましたが、政府としては奨励したり、奨励金を出したりする程度です。

河北省唐山のゾンビ企業の敷地に積み上げられた鉄鋼製品
この程度のことで、本当の意味での構造改革ができるとは到底思えません。今回の中国の不景気は構造的なものであり、中国の現状の社会や経済を根本的に変えるないとなかなか達成できるものではありません。

それに、いきなり構造改革をしようにも、ただゾンビ企業を潰すだけでは、何の解決にもなりません。まずは、経済対策を打ちながら、時間をかけながら構造改革を行っていくべきでしょう。

やはり、キーワードは、上でも示したように、ある程度の民主化、経済と政治の分離、法治国家化を避けて通ることはできません。

これらがある程度以上確保されていなければ、中間層が自由に社会・経済活動を活発化させることはできません。先進国がなぜ先進国になれたかといえば、先進国がこれらを他の国々に先駆けてこれを実施したからです。

日本は、立ち遅れていましたが、明治維新によって、これを実行し、遅ればせながらも先進国に仲間入りすることができました。

これを実行するために、日本もそれなりの犠牲を強いられました。幕藩体制崩壊による、武士階級の崩壊です。

このような犠牲を出しながらも日本が明治維新以降様々な改革を行ったのは、当時の先進国、いわゆる列強に負けて植民地化されることを避けるためです。

とにかく、当時の先進国では、他国に先駆けて、民主化、経済と政治の分離、法治国家化を成し遂げました。なぜ、そうしたかというと、これからが実現できなければ、経済力をはじめとする国力を増すことには限界があったからです。

しかし、イギリスなどが先んじてこれを実行し、国力を増したため、近隣諸国もそれに負けることはできず、追随した結果、いわゆる西欧の列強が生まれたのです。いわゆる西欧列強は、他国の国民に対してはそうではないどころか、弱小国を次々と植民地化するなど、暴虐の限りをつくしたのですが、国内ではこの原則を貫いたため、強力な国家をつくり上げることに成功しました。



日本は、西欧列強による植民地化されるという脅威から日本を守るためと、国の力を増すため、明治維新をなしとげ、その後も改革を続けて、先進国に仲間入りすることができました。

そうして、いわゆる発展途上国から、先進国に転身したのは、世界で日本だけです。それ以外の例外はありません。逆に先進国の地位から、発展途上国に転身したのは、世界でアルゼンチンだけです。

しかし、これを今の中国で実施するとなると、それこそ、中国共産党中央政府の統治の正当性が毀損されてしまう可能性が大です。

天安門事件を起こした頃と何も体制が変わっていない、今の中国がやすやすと民主化することはあり得ないでしょう。政治と経済の分離についても、今の中国では政治と経済が不可分に結びついており、完全に分離するのは到底無理です。人治国家である中国では当然法治国家化も無理です。

そうなると、中国もやはり『中所得国の罠』からぬけ出すことはできないということです。この先中国がこの罠から抜け出すことができるとしたら、現在の中国共産党中央政府が崩壊した時です。それ以外にはあり得ないです。

いずれにせよ、今のままでは、今後中国は図体がでかいだけの、凡庸なアジアの一独裁国への道をまっしぐらに進むしかありません。そうして、世界的にあまり影響力を持たなくなった中国においてても、あいかわらず、性懲りもなく国内の権力闘争は続けられていることでしょう。

なぜなら、中華思想の持ち主である彼らにとっては、世界の中心は中国であり、対外的なことよりも、国内の情勢が優先するのが当たり前だからです。彼らにとっては、尖閣問題な南シナ海のことですら、国内の権力闘争などの情勢と強く結びついているのですから。

そうして、気づいた頃には、国営企業だけではなく、国家そのものがゾンビ化していることでしょう。

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