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2018年8月4日土曜日

文科省汚職の「もう一つの真実」 黙る左派マスコミ…ダブルスタンダード「ここに極まれり」―【私の論評】悪しき忖度を除去し、良き忖度を助長することが官僚組織を改革する(゚д゚)!

文科省汚職の「もう一つの真実」 黙る左派マスコミ…ダブルスタンダード「ここに極まれり」

長谷川幸洋「ニュースの核心」

文科省の腐敗は底なしだ=東京・霞が関

文部科学省の汚職が止まらない。息子の医学部合格と引き換えに、国の補助金給付で便宜を図っていた前科学技術・学術政策局長にはあきれたが、次に逮捕された前国際統括官(局長級)には、もっと驚かされた。

 一部報道によると、高級風俗店や高級クラブで接待漬けだったという。「いまどき、そんな絵に描いたような汚職とは」と、びっくりする。

 本人たちが刑事責任を問われるのは当然として、事件の本質はむしろ「本人たちに『後ろめたさ』があったかどうか」ではないか。もしもあったなら、まだ救いはある。組織の腐敗というより、本人たちの甘さが問われるからだ。

 だが、事態は深刻だ。本人たちは「これくらいは当然だ」と思っていたフシがある。

 なぜ、そうみるか。

 最初に逮捕され、受託収賄罪で起訴された前科学技術・学術政策局長については、贈賄側との会話を録音した音声が報じられた。流出元は不明だが、これを聞くと裏口入学を依頼して恥じ入る様子もない。実に平然としているのだ。

 前統括官に至っては、風俗店に行く途中で「ヤバイ」と思わなかったのだろうか。女性関係の接待はカネの受け渡しなどと違って、第3者が介在するから、完全に自分の弱みになってしまう。

 言い換えれば、この2人は贈賄側と「毒を喰らわば皿までも」、ズブズブの関係だったのだ。

 さて、局長級が2人も捕まったとなると、これはもう特異な2人の事件とは言えない。文科省という組織にこそ根本的な問題がある。

 そこで思い出すのは、あの前川喜平前文科事務次官である。よく知られているように、前川氏は天下り問題で次官を辞職した人物だ。文科省の報告書を読むと、前川氏は官房長、文部科学審議官時代を通じて、一貫して天下り斡旋(あっせん)に深く関わっていた。

 天下り斡旋も贈収賄も、根本にある違法性は同じである。天下りは再就職できれば、見返りに相手企業や団体に便宜を図る。一方、贈収賄は相手から金銭やサービスを得て、あるいは裏口入学を認めてもらって、見返りに補助金給付や契約で利益を与える。

 天下り斡旋は、まさに「文科省ぐるみ」だった。そんな組織の腐敗体質が、そのまま今回の汚職事件の底流にある、とみて間違いない。

 首相官邸は「モリカケ問題」で政権批判を繰り返してきた前川氏に加えて、今回の連続汚職事件で文科省には怒り心頭だ。折から、人事シーズンである。文科省は解体的出直しを迫られるに違いない。この際、中枢幹部はごっそり他省庁と入れ替えてはどうか。

 「霞が関ブローカー」といわれた贈賄側のコンサルタント会社元役員は、野党議員2人と懇意にしていたという。うち1人については、元役員に「政策顧問」という肩書を与え、ブローカーはその名刺を永田町や霞が関で持ち歩いていた、と報じられた。

 野党議員に説明責任が求められるのは当然だが、左派系マスコミが野党議員との関係を報じないのは、どういう訳か。前川氏を「政権追及のスター」扱いする一方、野党に都合の悪い話は一切、目をつぶる。

 正義を掲げる彼らのダブルスタンダード(二重基準)も「ここに極まれり」になってきた。文科省汚職の「もう一つの真実」である。

 ■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革推進会議委員などの公職も務める。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。最新刊に『ケント&幸洋の大放言!』(ビジネス社)がある。

【私の論評】悪しき忖度を除去し、良き忖度を助長することが官僚組織を改革する(゚д゚)!

さて、官僚の腐敗がまたぞろ頭をもたげてきています。これに関して、ブログ冒頭の長谷川氏の記事では、左派系マスコミと野党議員のダブルスタンダードの問題をあげています。確かにこうした側面があるのは事実です。こうしたダブルスタンダードが存在すること自体が問題の本質を覆い隠しています。

それは、さておき、官僚の腐敗ということになれば、官僚人事に問題はないのかということになると思います。

経営学の大家ドラッカー氏は人事に関して次のように語っています。
 貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)
ドラッカー氏は、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます

それは組織が信じているもの、望んでいるもの、大事にしているものを明らかにします。

人事は、いかなる言葉よりも雄弁に語り、いかなる数字よりも明確に真意を明らかにします。

組織内の全員が、息を潜めて人事を見ています。小さな人事の意味まで理解しています。意味のないものにまで意味を付けます。組織の構成員は、この組織では、本当は何をすれば良いのか、それとも上司気に入られることが大事なのかを嗅ぎ分けます。これって、最近良く聴きますが、「忖度」そのものです。

そうです。組織において良い意味での「忖度」は本当は重要なのです。いくら言葉で「何をせよ、これをせよ」と力強く幹部が説いたとしても、実際の人事でその「何をして、これをした」人が昇進・昇格、昇格などされて報いられていなければ、誰も幹部の言うことなど聴かなくなるのです。

そんなことよりも、いかなる組織の構成員も、実際に行われた人事をみて、その人事で報われた人物が何について熱心に行ったのかをみて、その組織の本当の価値観を知るのです。

仮に幹部の語っている価値観と、人事によって示された価値感が同じだった場合でも、人事の結果のほうが、幹部の語ることや、他の情報などのコントロール手段よりもさらに大きな影響力を持つのです。だからこそ、人事こそ組織のなかで最大のコントロール手段であるといわれるのです。

 “業績への貢献”を企業の精神とするためには、誤ると致命的になりかねない“重要な昇進”の決定において、真摯さとともに、経済的な業績を上げる能力を重視しなければならないです。これは、直接的に経済的な業績ではなく「国民の幸福を増進する」能力とでもすれば、政府という組織でも、同じことです。

致命的になりかねない“重要な昇進”とは、明日のトップマネジメントが選び出される母集団への昇進のことです。それは、組織のピラミッドが急激に狭くなる段階への昇進の決定です。

そこから先の人事は状況が決定していきます。しかし、そこへの人事は、もっぱら組織としての価値観に基づいて行なわれるべきなのです。
 重要な地位を補充するにあたっては、目標と成果に対する貢献の実績、証明済みの能力、全体のために働く意欲を重視し、報いなければならない。(『創造する経営者』)
では、政府における官僚の致命的になりかねない"重要な昇進"を決定するのはどの機関になるかといえば、それは内閣人事局です。そうして、この内閣人事局が官僚の「忖度」を有無として問題を指摘するむきもあります。ただし、上記で指摘したように良い意味での「忖度」は組織にとって必要不可欠なものでもあります。だから、ここでは単に「忖度」とするのではなく、「悪しき忖度」とします。


内閣人事局は、平成26年の第186回国会(常会)において可決・成立した国家公務員法等の一部を改正する法律において規定され、同年5月に設立された国家公務員の人事制度を所管する機関です。

「人事」とその組織名に付いてはいますが、民間企業の人事部のように一括採用を行うわけではなく(採用試験は人事院、採用は各府省)、国家公務員の人事制度の根幹である国家公務員法を所管して制度の企画立案を行う他、幹部公務員の人事の一元的管理や、公務員の給与制度、行政機関の組織や定員管理といったことを担っています。

簡単に言えば、各府省の幹部人事、それに組織やその在り方、職員の数をどうするのか、給与の在り方をどうするのかといったことを一手に引き受け、担っている「強大な権限」を持つ組織ということです。

少し補足すると、まず幹部人事。この幹部というのは本省の部長や審議官以上の、指定職と言われる官職のことで、上は事務次官クラスや長官まで。その人事をどうするかをこの内閣人事局が担っているのです。

また、政策の企画立案、そして執行には予算とともに人と組織が不可欠ですが、国の行政機関については、組織や組織の定員は法令で定められていて、簡単に部や課といった組織を作ることもできなければ、人を増やすこともできません。

新しい組織を作る場合や定員を増やす場合は、根拠となる法令の改正によって手当てすることになりますが、その前提として内閣人事局による査定を経なければならず、ここで認められなければ、そもそも新しい組織を作ることも定員を増やすこともできません。

内閣人事局は「人と組織の主計局」と言ってもいい側面も持っているのです。

また、内閣人事局はゼロからいきなりできた組織というわけではありません。その前身は、人事院の一部、総務省行政管理局の査定(組織や定員の管理)部門、人事・恩給局の旧人事局関係部門であり、幹部人事に関する事務等が新たに設けられてはいるものの、基本的にはこれらが統合されてできたと言って良いです。

別の言い方をすれば、分散していた国家公務員人事制度に関する組織および権限を、一つの組織に集中させ、強化したということです。

これだけ読むと、単に役人が権限を強化しただけで、官邸への「悪しき忖度」とはなんら関係ないかのように思われてしまうかもしれません。

ところが「悪しき忖度」、それも過剰な「悪しき忖度」を生む原因とされているのは、内閣人事局と内閣、特に内閣総理大臣や官房長官との関係のようです。

幹部職員となるためには内閣総理大臣による適格性審査を経ることとされており、その結果、幹部職員として必要な「標準職務遂行能力」を有していると判断されれば、幹部候補者名簿に掲載されます。

この名簿から各府省の幹部が任命されることになります。「適格性審査」は随時行われるので、場合によっては幹部候補者名簿から外されるということも起こりえます。

こうした内閣総理大臣の権限は内閣官房長官に委任することができます。各府省の人事権者は各大臣ですが、幹部職員の人事については内閣総理大臣および内閣官房長官と協議した上で行うこととされており、幹部人事は大臣の一存で決められない仕組みになっています。

このように国家公務員の幹部人事については、微に入り細に入りと言っていいほど、内閣総理大臣や内閣官房長官が関与するようになっています。

そして、こうした事務を司るのが内閣人事局なのですが、彼らが内閣総理大臣や内閣官房長官の意を汲み取って、ある意味「忖度」して業務を進めることはあったとしても、内閣人事局という「組織の存在自体」が幹部職員を含む国家公務員における「悪しき忖度」を生んでいるというのは、こうした仕組みを正しく押さえた上で考えれば、「議論の飛躍」です。

むしろ問題とすべきは、内閣人事局という組織そのものではなく、国家公務員の幹部職員人事における内閣総理大臣等の「権限の在り方」であり、幹部職員の「位置付け」でしょう。

そもそも、組織の名称や在り方はともかく、国家公務員人事制度を担当する部局や行政機関の機構・定員の査定を担当する部局を、一つにまとめようという動きは過去に何度かありました。それが紆余曲折を経てなんとかカタチになったのが内閣人事局なのです。

国家公務員の立場からすると、指定職への昇任を考えれば、そのためには幹部候補者名簿に掲載されることが必要となれば、その判断をする内閣総理大臣や官房長官の目を気にするというのはある種当然のことである。

ただし、国家公務員が「上の目」を気にするというのは今に始まった話ではなく、昔からある話で、「公務員の習性」のようなものです。民間企業でも当然のことです。さらに「悪しき忖度」を気にするあまり、良い意味で「忖度」まで否定されるようでは、そもそも組織が成り立ちません。

現状での幹部職員人事への内閣総理大臣等の関与は、そうした「公務員の習性」を逆手に取ったものと言えるかもしれないですが、標準職務遂行能力なるものをメルクマールとして、「幹部職員として職責を担うのにふさわしいか否か」の判断まで内閣総理大臣の権限に係らしめるのは、「やりすぎである」との批判は免れえないでしょう。

もっとも、内閣人事局の設置を含む国家公務員制度改革は、元々は内閣としての政策の企画立案から執行までを効率的に行うのみならず、その効果を最大限発揮させることを企図して検討が進められてきたものであり、国家公務員の幹部職員人事について、内閣総理大臣がある程度強い権限を持つことについては、否定されるべきものではありません。

一方で、内閣とのある種の一体性を考えるのであれば、幹部職員はこれまでどおりの一般職ではなく、身分保障のない、各府省の人事から切り離された「特別職」とすべきであり、そうなれば職員自らがリスクを取ってその職に就くことになるため、「悪しき忖度」による弊害の生じる余地は限りなく小さくなるはずです。

韓国で生まれ、生後3日で道端に捨てられ孤児となり、その後
フランス人夫婦の養女となってパリにわたり、エリート官僚、
大臣にまで登りつめたフルール・ペルラン氏

実際、例えばフランスの大臣官房の幹部職員はそうですし、日本でも、これまでに退路を絶って政務の総理秘書官や大臣秘書官(いずれも特別職)に自ら転じた例はあります。

さらに、フランスには事務次官は存在しません。アメリカなどでも次官はますが、次官補などに対して序列で一位だというだけです。中国の官僚機構でもそうです。日本のように、大臣が会長であるのに対して社長だというような事務次官は普通ありません。人事などは総務局長が担当しています。

フランスでは、大臣の手足になるのは、大臣官房です。いわば補佐官室で、官房長は首席補佐官というべき存在で、大臣の代理人です。政治任命なので、経歴は問わないのですが、普通は官僚出身者です。

その省の官僚が多いですが、他省庁からも来ることがあります。とくに、フランスではマクロンのような財政監察院、フィリップ首相のような国務院、オランド前大統領のような会計検査院というグランコールと呼ばれる三つの組織の人間がスーパー・キャリア官僚となっており、官房長の供給源になっています。

そして、官房のメンバーは10人くらいからなりますが、だいたい、官僚が半分強といったところです。

局長などは、大臣が官房長の補佐を受けて任命しますが、大統領や首相の助言もされます。実務能力がないと困るのは大臣なので、それほど極端な政治任命がされることはありません。

野党や大臣の政敵に近い幹部はどうするかといえば、中枢から離れたポストに待避します。それが省内ということもありますし、外郭団体のこともあります。ただし、降格や肩たたきで辞職を強いられることはありません。

このようなシステムのお陰で、野党のブレーンとなっている官僚も多いし、それが、円滑な政権交代を可能にしています。このような官房(補佐官)システムは地方自治体にあっても適用可能だと思います。

いずれにしても、幹部職員は特別職とするのが妥当であると考えます。そうして、幹部職員を特別職とすることを含む国家公務員法の改正案を立案し、国会に提出したのはかつての民主党です。

しかし、日本の国家公務員の幹部職員の人事制度では幹部職員は一般職であり、これまでの人事に内閣総理大臣等が強く関与するようになっただけのような形であれば、今後の自らの人事、処遇を懸念して、過剰な「悪しき忖度」や「悪しき忖度」による弊害が生じることも十分あり得ることです。

それにしても、「特定の組織」を悪者に仕立て上げるというのは世の常のようなところもありますが、つまるところ、「内閣人事局悪玉論」は的外れで、元凶ではないということであり、そこだけをあげつらっても国家公務員の「悪しき忖度」問題、過剰な「悪しき忖度」による弊害は解決しないでしょう。

そもそも、それらを完全になくすことは不可能です。それに良い意味での「忖度」までなくしてしまえば、そもそも組織は成り立たず本末転倒です。そうした前提に立って、現実的な視点から「悪しき忖度」による弊害が極力起こらないようにするためには、主要な幹部職員の特別職化や、特別職である幹部職員の人事を対象にした内閣総理大臣の権限の在り方の適正化等、国家公務員制度自体の見直しを考えるべきでしょう。



ドラッカー氏は人事の手続きについて以下のように語っています。
人事に関する手順は、多くはない。しかも簡単である。仕事の内容を考える、候補者を複数用意する、実績から強みを知る、一緒に働いたことのある者に聞く、仕事の内容を理解させる。(『プロフェッショナルの原点』)
第一は、仕事の内容を徹底的に検討することです。仕事の求めるものが明らかでなくては、人事は失敗して当然です。しかも、同じポストでも、要求される仕事は、時とともに変わっていきます。仕事が変われば、求められる人材も異なるものとなります。

第二は、候補者を複数用意することです。人事において重要なことは、適材適所です。ありがたいことに、人間は多種多様です。したがって、適所に適材を持ってくるには、候補者は複数用意しておかなければならないです。異なる仕事は異なる人材を要求します。

第三は、候補者それぞれの強みを知ることです。それぞれの強みをそれぞれの実績から知らなければならないです。その強みは、仕事が求めているものであるかをチェックする。何事かを成し遂げられるのは、強みによってでなのです。

第四は、一緒に働いたことのある者から、直接話を聞くことです。しかも数人から聞かなければならないです。人は人の評価において客観的にはなれないことを知らなければならないです。それぞれの人が、それぞれの人に、それぞれの印象を持つものです。

第五は、このようにして人事に万全を尽くした後において行なうべきことです。すなわち、本人に仕事の内容を理解させることです。仕事の内容を理解したことを確認することなく、人事の失敗を本人のせいにしてはならないのです。

具体的には、何が求められていると思うかを聞きます。3ヵ月後にはそれを書き出させます。新しいポストの要求するものを考えさせないことが、昇進人事の最大の失敗の原因でです。ドラッカーは、「新しい仕事が新しいやり方を要求しているということは、ほとんどの者にとって、自明の理ではない」といいます。
追従や立ち回りのうまい者が昇進するのであれば、組織そのものが業績のあがらない追従の世界となる。人事に全力を尽くさないトップは、業績を損なうリスクを冒すだけでなく、組織そのものへの敬意を損なう。(『プロフェッショナルの原点』)
私自身は、内閣人事局が「悪しき忖度」を誘発しているという見方は全く間違いだと思います。それよりも、内閣人事局は長年公務員改革の要として重要な組織として設立されたのですから、良い意味での「忖度」を助長し、ドラッカーのいうところの、人事の手順がスムーズにできるように、官庁組織を変えていくべきでしょう。

特に、すべての官庁において、すべての官庁がが本来の官邸の統治部分に直接かかわるのは禁忌とすべきです。さらにすべての官庁において、外部の利害関係者と直接折衝をする部門と、企画を立案する部門はしっかりと分離すべきです。これを同一にするのは、政府に限らず、あらゆる組織において腐敗の源となります。

これなしに、腐敗した官僚を批判したとしても、一時は収まるかもしれませんが、ときが経てばまた同じような問題が繰り返し起こるようになるだけです。

左派系マスコミと野党議員は本来こうしたことを主張するべきであって、ダブルスタンダードで、政府批判をするだけでは、何の解決にもなりません。

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2016年8月18日木曜日

小池都知事、改革へ着々「都政改革本部」新たに顧問5人選任…リオ五輪へ出発―【私の論評】巨悪を暴くだけでなく、おおさか維新と結びつき国政改革起爆剤にも?


リオ五輪閉会式出席のため出発する小池百合子東京都知事=
18日午前、東京都大田区・羽田空港国際線ターミナル

東京都の小池百合子知事(64)が18日、公約に掲げた都政の透明化を目指すために9月上旬に設置する「都政改革本部」顧問として、新たに中央大法学部の工藤裕子(ひろこ)教授(48)ら5人を選任した。すでに就任した5人に加え、顧問は10人となった。リオデジャネイロ五輪視察へ出発する前に、羽田空港で報道陣に発表した。

工藤氏は、中央大教授の他に、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員を務める「財政のスペシャリスト」。顧問には他に、一橋大学国際・公共政策研究部の佐藤主光(もとひろ)教授、経営コンサルタントの町田裕治氏、グレートジャーニー合同会社の安川新一郎代表、イオン株式会社特別顧問の山梨広一(ひろかず)氏が就任する。小池氏は「国内的には改革、リオでは東京のPRに務めて参りたい」と述べた。

都政改革本部は、小池氏が本部長を務め、情報公開のあり方を検討するほか、2020年東京五輪・パラリンピック関連予算などを調査する。12日の定例会見で、上山信一慶応大教授(58)ら5人が顧問に就任すると発表した。

【私の論評】巨悪を暴くだけでなく、おおさか維新と結びつき国政改革起爆剤にも?

都政改革のための、組織づくりをした小池百合子氏、ブログ冒頭の写真でも示したように、羽田空港に現れた小池知事は、リゾート感のあるスーツ姿でした。頭から足下まで全身オフホワイトの色調で統一しており、夏を意識した涼しげな装いです。

パナマ帽風のハットをかぶり、ショールを首にかけて空港を颯爽と歩く姿は、海外に行く際に見る麻生太郎副総理兼財務相の印象とも重なります。麻生氏がボルサリーノハットを深々とかぶり、ダンディーな雰囲気を醸しながら空港を歩くのはおなじみの光景。2人の歩く様子をとらえた写真を見比べるとそっくりです。

以下に、麻生財務大臣の海外に行く際の写真を掲載します。

ロシア・サンクトペテルブルクでのG20に出席するため、
安倍晋三首相と共に羽田を出発する麻生太郎財務相=2013年4月4日

小池知事は、2020年の東京五輪に向け競技場なども訪れ、運営状況やセキュリティー対策を視察するという。閉会式の「勝負服」も注目だが、現地でのおしゃれも気になるところだ。

さて、当面の改革の対象ともいえる、都議会ですが、そのドンと言われている"内田茂"氏に関して、また文春砲が炸裂しました。

詳細は、8月17日(水)発売の週刊文春をご覧いただくもとして、以下に一部を引用します。
“都議会のドン”が役員の会社 豊洲新市場の工事も受注
内田氏(写真一番右)が都議選に出馬した際応援した麻生太郎総理(当時)と、石原慎太郎都知事(当時)
“都議会のドン”といわれる内田茂都議(77)が役員を務める会社が、築地市場の移転先となる豊洲新市場の電気工事を受注していたことがわかった。8月17日(水)発売の週刊文春で詳しく報じる。

内田氏は、落選中だった2010年から地元・千代田区に本社を置く東光電気工事の監査役に就任。内田氏の所得等報告書、関連会社等報告書を総合すると毎年数百万円の役員報酬を受けているとみられる。 
 築地市場の移転を巡っては、自民党東京都連の幹事長だった内田氏が都議会対策を仕切り、2012年3月、移転に関する予算案が都議会特別委員会で可決され、大きく進展した。 
 予算成立を受け、都財務局は豊洲新市場関連工事の入札を実施。2013年12月、新市場の管理施設棟の電気工事を約37億9000万円で落札したのが、東光電気工事を中心とするJV(ジョイントベンチャー)だった。 
 東光電気工事は、複数の東京オリンピックの施設工事も受注しており、内田氏が復活当選する2013年までは700億円前後だった売上高は、2014年には約1000億円へと急成長している。
 地方自治法第92条の2では、地方議員が自治体の事業を請け負う企業の役員を兼ねることが禁じられている。さらに、同法127条では、前項に違反した場合、議員を失職することが定められている。 
「ただ、失職させるには、議会で出席議員の3分の2以上の同意が必要であると定められており事実上、空文化しています」(自民党都議) 
 内田氏、東光電気工事は以前、小誌の五輪施設受注に関する取材に対し、口利きを否定。今回、豊洲新市場の受注について確認を求めたが、回答はなかった。 
 東京都の小池百合子新知事は、築地市場の移転問題について、選挙戦の最中に「一歩立ち止まるべきだ」と述べていた。16日に築地市場、豊洲新市場を視察した上で、結論を出すとしており、決断が注目される。
ただし、これに対してはすでに、内田氏のバッシングは行き過ぎではないかという論評も出現しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
内田茂都議に対するバッシングは度を過ぎているのではないか?
この記事は、宇佐美典也氏がブロゴスに掲載しているものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部分だけ掲載します。
まずすぐに思い浮かぶのは「東光電気工事の業績回復は内田茂氏の口利きの功績なのか?」という点だが、これは全く的外れだ。東光電気工事は再エネ業界ではそれなりに名が知れた存在で、2012年のいわゆる固定価格買取制度導入以降メガソーラーの開発工事を多数受注して売り上げを伸ばした。
つづいて「内田茂氏の監査役就任は地方自治法92条の2(議員の兼業禁止)違反なのか?」という点についてだが、こちらも限りなくシロに近い。同条項は短いので全文紹介すると以下の通りだ。 
===============

第九十二条の二 
普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。 
=============== 
この条文の解釈はこちらのリンクを参考にしていただきたいが、この場合内田氏をバッシングする立場の人たちは「内田氏は『主として普通地方公共団体に対し請負をする法人の監査役』だから法律違反だ」という主張をしているわけだが、その解釈はどう考えても無理がある。東光電気工事の売上は1000億円程度だが実績紹介を見る限りは、そのうち過半や主要な部分を東京都からの発注で占められるとは到底言いがたい。
なお私は内田茂氏の自民党都連のガバナンスに問題があるのだろうと思っているし、またそれを正すべきだとも思っている。ただそれは炎上商法やレッテル付けによるものではなく、正しい情報に基づいて適正な手続きを経て行われるべきだと思っている。なのでこの件に関しても情報公開請求なり、都議会での質問を通して丁寧に真相を調べていただければと思う。 
多分何も出てこないんだろうけど。
この記事は、週刊文春に掲載されてい「口利き問題」や、「一見違法と見られる監査役就任」などでは、内田茂氏を叩くことはできないことを主張しています。これは、おそらく事実なのでしょう。

そうして、この記事を書いた宇佐美氏は、自民党都連のガバナンスには問題があるだろうと思っているとしています。しかし、この件に関しても情報公開請求なり、都議会での質問をしてもおそらく何も出てこないだろうとしています。それは、そうですね。

ガバナンス(統治)等に問題があったとしても、今まで全くボロが出てこなかったわけですから、情報公開請求したり、都議会で質問する程度では何も出てこないでしょう。

しかし、このブロクでも指摘したような、舛添知事辞任の裏に潜む、都議会の巨悪や、猪瀬元東京都知事が激白した、都議会議員の自殺など、何やら巨悪が潜んでいそうです。

そうして、この巨悪をあぶり出すには、他にも十分やり方があります。そうして、この動きは、巨悪をあぶり出すどころか、もつと大きなものになる可能性を秘めています。

さて、内田氏の後ろには、森喜郎が控えています。森喜郎氏と小池百合子氏は犬猿の仲です。故に、内田茂と小池百合子が馴れ合う可能性は低いです。ポイントは来年の都議選になると思われます。来年の都議選に自身のシンパの有力候補者を千代田区で内田茂対抗馬として推薦することになるでしょう。

既に今回、小池氏は都議選補欠選挙に自身の元秘書を始め、シンパ議員を何人か推薦しています。これは、都議会で自身の影響力を拡大し、内田茂を筆頭とした自民党守旧派を一掃する作戦です。小池氏は新党結成も「選択肢」と述べています。

この発言を巡り、与野党で臆測が広がっています。自民党内では、来夏の都議会選挙をにらみ地域政党の設立に動くと警戒する見方が浮上しています。東京で勢力拡大を狙うおおさか維新の会は小池氏との連携に意欲をにじませています。憲法改正などで同党の協力に期待する首相官邸は神経をとがらせています。

「東京大改革という5文字をもとに、ぜひ、一緒に活動していただきたい」。10日夜、都庁舎にほど近いホテルで開いた会合で、小池氏は約70人の地方議員らを前にこう宣言。与野党に「新党準備」の観測が上がりました。

70人の地方議員らとの会合を開いた小池知事
小池氏周辺でささやかれる構想は、年内にも都議会新会派か地域政党をつくり、自民党への対立候補を擁立して都議会で主導権を握るというものです。

小池氏とおおさか維新が連携する可能性も取りざたされています。ブログ冒頭にもあるように、小池氏は、都政改革本部メンバーに大阪府・大阪市特別顧問の上山信一慶応大教授の起用を発表しています。上山氏は、地域政党「大阪維新の会」結党に深く関わり「大阪都構想」の理論的支柱の一人です。これに関して、小池氏はツイッターで「仕込み段階の第一歩」と書き込んでいます。

上山信一慶応大教授
おおさか維新は都知事選で候補擁立を見送っています。選挙後、馬場伸幸幹事長は「来年の都議選は改革勢力を大きくする方向で協力したい」と語りました。統治機構改革をめざす第三極の結集は、影響力の大きい橋下徹・前大阪市長、代表の松井一郎大阪府知事の悲願でもあります。党内には小池新党をきっかけに東京と大阪の改革勢力で連携し、党勢拡大につなげる期待もにじんでいます。

改憲などでの連携をにらみ橋下氏の政界復帰に期待する声がある官邸は複雑です。都知事選投票前日の7月30日、都内で安倍晋三首相らは橋下、松井両氏と会食。首相側が「小池さんは大阪の成功例を参考にしているんじゃないの」と探りを入れたのですが、橋下氏は「それは分かりませんね」とけむに巻いたといいます。

小池知事は、都知事就任をきっかけに、都議会の巨悪を暴き、改革するだけではなく、国政にも大きな影響を及ぼすことになるかもしれません。小池新党が、おおさか維新と結びついた場合、国政改革の大きな起爆剤となるかもしれません。

野党共闘などする、民主党などには、もう国政改革などの目は出ません。それにしても、小池氏、ここまで最初から視野にいれていたのだと思います。野党共闘の推薦した鳥越氏とは、かなりの違いです。野党連合は鳥越氏を推薦するあたりで、もう終わっています。小池新党には、期待できるかもしれません。あまりにもふがいない野党には、もうご退場願いたいです。

私自身は、自民党を支持しているのですが、それは積極的に支持しているわけではなく、他に支持すべき政党がないから、支持しているのです。小池新党ができたからといって、それを支持するかどうかはわかりませんが、それにしても、有権者に選択肢が広がるというのは良いことです。

いずれにせよ、現在はまだ、憶測の域を出ないわけですが、とはいいながら可能性は十分あります。今後しぱらくは小池知事の動向には目が離せないようです。

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2016年3月5日土曜日

【中国全人代2016】李克強首相が「改革」を70回連呼 標的は「ゾンビ企業」だが600万人失業、社会不安の恐れも―【私の論評】中国は『中所得国のわな』から抜け出せず国家自体がゾンビ化してしまう(゚д゚)!


開幕した全人代で政府活動報告を終えて拍手する中国の李克強首相=5日、北京の人民大会堂

習近平政権が初めて独自策定した中国の新たな中期経済政策「第13次5カ年計画(2016~20年)」は、年平均6・5%以上の安定成長を続けながら、国有企業の統廃合や人員整理など、痛みの伴う構造改革も断行するという「新常態(ニューノーマル)」入りを内外に改めて宣言した。

李克強首相は5日の開幕式に約2時間かけて読み上げた「政府活動報告」の中で、「改革」というキーワードを70回近く使った。

構造改革の過程では、石炭や鉄鋼など、過剰な生産や在庫の重圧で赤字続きにもかかわらず生き延びている「ゾンビ企業」で600万人もの失業者が出ることが予想される。失業対策など社会保障が後手に回れば抗議デモが頻発、社会不安が増大する懸念がある。

ただ、改革を先送りすれば経済失速という決定的な事態を招きかねない。中国共産党は、20年を目標年度として国内総生産と国民平均所得の「倍増計画」を打ち出している。21年に成立100年を迎える党の威信がかかるが、公約を果たさねば習政権の「正統性」まで問われる恐れもある。

しかし、構造改革で最大のヤマ場となる国有企業のリストラ策が、北京の中央政府からの命令ひとつで順調に進むとはかぎらない。

鉄鋼、石炭、ガラス、セメント、アルミニウムの5業種が「ゾンビ企業」の代表格。工場閉鎖などリストラ計画をまとめる中で、地元の国有企業が標的になると、資金を支援しあっている周辺地場企業も共倒れになるとの懸念があり、地方政府は早くも及び腰だ。

中国で流通していたゾンビ肉(40年前に冷凍された肉)


解雇などで生じる大量の失業者への社会保障が後手に回ると、真っ先に不満がぶつけられる先は地方政府だ。構造改革の痛みに耐えるどころか、社会不安が一気に広がる懸念もある。

これに対し、財政省の予算案では、「過剰生産能力の解消に全ての責任を中央政府が負う」として、16年は500億元(約8750億円)を計上した。構造改革の痛みをめぐって、「新常態」で攻めの姿勢の中央政府と“旧態依然”で抵抗する地方政府の対立が表面化する場面も予想される。

李氏は、「(途上国から先進国に脱皮する前に成長が足踏み状態となる)『中所得国のわな』を克服する重要な5年間だ」と指摘した。周辺国へのインフラ輸出や国内の個人消費拡大が次なる成長戦略だが、「わな」に陥らない保証はなく、前途は多難だ。

【私の論評】中国は『中所得国のわな』から抜け出せず国家自体がゾンビ化してしまう(゚д゚)!

李克強氏が全人代で語った『中所得国のわな』は『中進国のわな』ともいいこのブログでも掲載したことが何度かあります。その代表的な記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】人民元のSDR採用後の中国 一党独裁と社会主義体制で困難抱えて行き詰まる―【私の論評】中間層を創出しない中国の、人民元国際通貨化は絶望的(゚д゚)!
中国人民元のSDR構成通貨入りを発表する
IMFのラガルド専務理事=11月30日、ワシントン
この記事は、昨年12月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、『中進国の罠』に関する部分のみ以下にコピペします。
中国が、一人当たり国内総生産(GDP)1万ドル前後で経済停滞に陥るという「中進国の罠」にはまりかけているのも懸念材料だ。一般論として、中進国の罠を超えるためには、大きな構造改革が必要であるが、そこでも中国の体制問題がネックになる。 
中国は、当面AIIBによって「人民元通貨圏」のような中国のための経済圏を作りつつ、国有企業改革などを行ってTPPなどの資本主義経済圏への段階的参加を模索するとみられる。しかし、一党独裁体制を捨てきれないことが最後までネックになり、行き詰まるだろう。
・・・・・・・〈中略〉・・・・・・・ 

中国が今の一党独裁を継続していては、高橋氏がブログ冒頭の記事で、指摘していた、「中所得国の罠」に陥る可能性が大というよりも、もうその罠に完璧に落ち込んでいます。 
中所得国の罠の模式図
「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することをいいます。 
この「中所得国の罠」を突破するのは結構難しいことです。アメリカを別格として、日本は60年代に、香港、シンガポールは70年代に、韓国は80年代にその罠を突破したといわれています。ただし、アジアでもマレーシアやタイは未だに、罠にはまっています。 
中南米でも、ブラジル、チリ、メキシコも罠に陥っていて、一人当たりGDPが1万ドルを突破してもその後は伸び悩んでいます。 
政治的自由と、経済的自由は、表裏一体であり、経済的自由がないと、IMFのような国際機関の提言は実行できません。経済的自由を保つには、政治的自由が不可欠です。
これに関しては、このブログでも表現は異なるものの、過去に何度か掲載してきました。

現在のように、一握りの富裕層が経済活動をするというのであれば、いずれというか、もうすでに中国はそうなのですが、経済発展には上限があり、それ以上は伸びることができなくなり、それこそ、「中所得国の罠」にはまってしまうのです。

中国の場合確かに、国全体としてのGDPは大きくなりましたが、それにしても、一人あたりのGDPは、まだ日本の1/10程度であり、まさに中進国の下の部類です。さらに憂うべきことは、中国がGDPを伸ばしてきたにもかかわらず、個人消費は伸びることなく、現在ではなんとGDPの35%に過ぎません。

これは、米国は70%、日本を含める先進国では、60%台であることを考えると、中国はあまりにも低いです。

中国が中所得国の罠から脱して、さらに経済発展をするということになれば、個人消費をもっと増やす必要があります。そのためには、現状のように、一握りの富裕層と、その他大勢の貧困層という状況を改め経済的中間層を創りだす必要があります。

そうして、この中間層が、社会・経済的に活発に活動できるための、基盤を整備する必要があります。

基盤を整備するためには、現状の中国ではほとんど実現されていない、民主化、経済と政治の分離、法治国家化は欠かせません。まずは、これができなければ、何も進みません。他の中進国が「中進国の罠」に嵌っているのは、結局これができないからです。

結局、中国に限らず、一党独裁が最後に障害になるのです。そう考えると、中国の外患内憂はそう簡単に解決しないことでしょう。
ブログ冒頭の記事を見ていても、「ゾンビ企業」をなんとかしようとしているのは、わかりますが、その手段がはっきり示されていません。

先日、NHK クローズアツプでも、中国がゾンビ企業をなんとかしようとしていることが報道されていましたが、そのとき報道されていた内容も、ITで個人起業家やサービス業の起業家を増やすようなことが報道されていましたが、政府としては奨励したり、奨励金を出したりする程度です。

河北省唐山のゾンビ企業の敷地に積み上げられた鉄鋼製品
この程度のことで、本当の意味での構造改革ができるとは到底思えません。今回の中国の不景気は構造的なものであり、中国の現状の社会や経済を根本的に変えるないとなかなか達成できるものではありません。

それに、いきなり構造改革をしようにも、ただゾンビ企業を潰すだけでは、何の解決にもなりません。まずは、経済対策を打ちながら、時間をかけながら構造改革を行っていくべきでしょう。

やはり、キーワードは、上でも示したように、ある程度の民主化、経済と政治の分離、法治国家化を避けて通ることはできません。

これらがある程度以上確保されていなければ、中間層が自由に社会・経済活動を活発化させることはできません。先進国がなぜ先進国になれたかといえば、先進国がこれらを他の国々に先駆けてこれを実施したからです。

日本は、立ち遅れていましたが、明治維新によって、これを実行し、遅ればせながらも先進国に仲間入りすることができました。

これを実行するために、日本もそれなりの犠牲を強いられました。幕藩体制崩壊による、武士階級の崩壊です。

このような犠牲を出しながらも日本が明治維新以降様々な改革を行ったのは、当時の先進国、いわゆる列強に負けて植民地化されることを避けるためです。

とにかく、当時の先進国では、他国に先駆けて、民主化、経済と政治の分離、法治国家化を成し遂げました。なぜ、そうしたかというと、これからが実現できなければ、経済力をはじめとする国力を増すことには限界があったからです。

しかし、イギリスなどが先んじてこれを実行し、国力を増したため、近隣諸国もそれに負けることはできず、追随した結果、いわゆる西欧の列強が生まれたのです。いわゆる西欧列強は、他国の国民に対してはそうではないどころか、弱小国を次々と植民地化するなど、暴虐の限りをつくしたのですが、国内ではこの原則を貫いたため、強力な国家をつくり上げることに成功しました。



日本は、西欧列強による植民地化されるという脅威から日本を守るためと、国の力を増すため、明治維新をなしとげ、その後も改革を続けて、先進国に仲間入りすることができました。

そうして、いわゆる発展途上国から、先進国に転身したのは、世界で日本だけです。それ以外の例外はありません。逆に先進国の地位から、発展途上国に転身したのは、世界でアルゼンチンだけです。

しかし、これを今の中国で実施するとなると、それこそ、中国共産党中央政府の統治の正当性が毀損されてしまう可能性が大です。

天安門事件を起こした頃と何も体制が変わっていない、今の中国がやすやすと民主化することはあり得ないでしょう。政治と経済の分離についても、今の中国では政治と経済が不可分に結びついており、完全に分離するのは到底無理です。人治国家である中国では当然法治国家化も無理です。

そうなると、中国もやはり『中所得国の罠』からぬけ出すことはできないということです。この先中国がこの罠から抜け出すことができるとしたら、現在の中国共産党中央政府が崩壊した時です。それ以外にはあり得ないです。

いずれにせよ、今のままでは、今後中国は図体がでかいだけの、凡庸なアジアの一独裁国への道をまっしぐらに進むしかありません。そうして、世界的にあまり影響力を持たなくなった中国においてても、あいかわらず、性懲りもなく国内の権力闘争は続けられていることでしょう。

なぜなら、中華思想の持ち主である彼らにとっては、世界の中心は中国であり、対外的なことよりも、国内の情勢が優先するのが当たり前だからです。彼らにとっては、尖閣問題な南シナ海のことですら、国内の権力闘争などの情勢と強く結びついているのですから。

そうして、気づいた頃には、国営企業だけではなく、国家そのものがゾンビ化していることでしょう。

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