南北首脳会談(5月26日) |
ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との橋渡しの役割ばかりが最近、目立つ文在寅・韓国大統領。大統領選挙のときに掲げた十大政策ひとつめは、雇用革命により、雇用率を70%にあげ、非正規職を現在の半分にすることだった。韓国の若者の多くが彼を支持したのには、自分たちの苦しい境遇を終わらせる期待が大きかったと言われている。ところが、大統領就任後の文氏がもっとも夢中なのは、北朝鮮問題だ。ライターの森鷹久氏が、裏切られた韓国の若者たちの行き場のない思いをレポートする。
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「日本は本当に仕事があるのか? 真剣に日本行きを検討している」
東京・文京区にある外資系企業で働くミニョンさん(27)の元に、地元である韓国・慶州市に住む友人からメールが届いた。友人といっても高校時代のクラスメイトで、ミニョンさんが大学進学をきっかけに来日して以降は年に一度会うか会わないかという関係。それでも、週に数度はメールのやり取りで、お互いの近況報告を行っている。
「これまでも、韓国国内の格差や若者の失業率について報じるニュースはたくさんありましたよね。若者と私の故郷に住むような田舎の人たちは、仕事もなく本当に苦しい。でも、大手企業や公務員は優遇されていて、結局は喫緊の問題として深刻に議論される事は少なかったのです」(ミニョンさん)
2017年の韓国大統領選挙では、親北朝鮮とされる革新派の文・現韓国大統領が選出され、韓国国内には「何かが変わる」という機運が漂った。ミニョンさんの友人も、週末にソウルで行われていた朴槿恵・前韓国大統領や当時政権だった保守派政党に対する反対デモに参加し、文大統領の誕生を心から願い、当選の際には涙を流して歓喜した。もちろん、文候補(当時)は、若者の失業対策にもしっかり取り組んでくれるだろう、という希望的な観測があったからだ。
「文大統領は北との会談など、歴史的なことをしっかりやってくれています。でも、若者の雇用状況は全く改善されるどころか悪化の一方。選挙の時はお祭り騒ぎでしたが、その後は北の問題でまた国じゅうがお祭りに。結局今も昔も経済についての具体的な話はなされないし、お祭り騒ぎに酔いしれているだけ。その繰り返しなんじゃないか」(ミニョンさん)
誰もが国の経済を、そして自分の生活を不安視していた。しかし、選挙や南北会談といった熱狂の中でそうしたネガティブなことを言い出せる状況ではなかったのかもしれない。たとえ重要な事実であっても熱狂する人たちの勢いを弱めるようなことは言ってはならない、そういった文化が母国にはあると話すミニョンさん。
とはいえ、韓国の高級紙である朝鮮日報も今年に入ってから、南北会談などを大きく取り上げる一方で、こっそり「不況・廃業により三か月で32万人が職を失った」「韓国国民がついに経済を心配しだした」などと報じ始めている。大卒者の就職率は依然として7割を切り、全体の失業者数も増えている。仕事があったとしても低賃金重労働。日本でいうところのブラック企業が増加し、国民の不満が溜まらないほうがおかしい状況が長らく続いている。
思えばこの二~三年、平昌冬季五輪や大統領選挙、そして南北会談と国民にとってのお祭りがずっと続いてきた。そうした熱狂に「水を差すな」という暗黙の了解というか、無言の圧力は我が国にも存在する文化ではある。だが、歴史的な善きことがおこなわれるのだから、苦しい思いを我慢して当然という無言の圧力だけでなく、韓国国民が現実を直視したくない、もしくはすべきではないという雰囲気を、これらの「お祭り」が後押ししたような格好にさえ見える。
「そもそも日本で仕事をする、日本に行きたい、ということをあまり声高に表明できない。田舎に行くほどそう感じます。(かつて韓国を蹂躙した)日本で稼ぎたいなんて何事か、というわけです。でも若い人たちはみな、韓国に限界を感じている。日本行きを検討している友人は一人ではありません」
冬季五輪の成功も、南北会談の開催も確かに「歴史的」であり、韓国国民の力を世界に見せつける偉業であったことは事実だ。しかしながら、韓国が「歴史的」で、かつ絶望的な経済状況に追い込まれていることもまた事実ではないのか。お祭りの雰囲気に「騙されるな」とまでは言えないが、誰にも本音を漏らすことなく、熱狂に沸く母国をひっそりあとにしようとする韓国の若者の気持ちが、あまりに軽視されすぎているような気がしてならない。
【私の論評】枝野理論では駄目!韓国がすぐにやるべきは量的金融緩和!これに尽きる(゚д゚)!
文政権は「所得主導型成長の促進」をスローガンに、「所得の再分配」に主眼をおいた経済政策を行っています。
具体的にいえば、
1)福祉・雇用に財政支出を傾斜配分(2018年度予算15兆ウォンのうち4割程度を配分)
2)公務員数の増加(5年で81万人の雇用増が目標)
3)最低賃金の引き上げ(2020年までに1万ウォンまで引き上げる)
具体的にいえば、
1)福祉・雇用に財政支出を傾斜配分(2018年度予算15兆ウォンのうち4割程度を配分)
2)公務員数の増加(5年で81万人の雇用増が目標)
3)最低賃金の引き上げ(2020年までに1万ウォンまで引き上げる)
というものです。ここには、先進国で雇用対策といった場合必須ともいわれる、金融緩和策はでてきません。さらには、財政政策もありません。
ところで、前述の所得再分配政策のメニュー(1~3)は全くの間違いです。そして、(2)の公務員数の増加を除けば、日本でも同じような政策が、主に『リベラル』といわれる人たちから提案されています。
ところが、韓国におけるこの政策の影響はかなりネガティブなものです。。
第一点は、公共投資の激減です。
韓国の場合、財政状況はかなり良いです(2017年の財政収支はGDP比で+2.8%、総国家債務残高もGDP比で39.8%)。そのため、景気後退局面には、公的部門の建設投資(公共投資)が景下支えのために発動されてきました。
ところが、文政権の財政政策では、雇用・福祉関連支出への配分が大幅に拡大されたため、公共投資の景気下支え機能の多くが失われつつあります。また、個人消費は安定しているものの、その伸び率はリーマンショックを契機に低下したままであり、改善の兆しはまだみえていません。つまり、公共投資の減少分を消費増が相殺するという状況にはなっていません。
第二点は、雇用環境(特に若年層)のさらなる悪化です。
経済協力開発機構(OECD)が発表した最新のデータとして、2017年第3四半期における韓国の青年(15−24歳)の失業率が10.2%に達したと紹介しています。5年前の12年第3四半期に比べて1.2ポイント上昇し、OECD加盟国ではトルコ、ノルウェー、チリに続いて4番目に高い失業率の上昇ペースとなったとしました。 一方で、同時期におけるOECD加盟国平均の青年失業率は16.2%から12.1%へと低下したと指摘。日本も7.9%から4.9%、米国も16.2%から9.0%へと減ったほか、ドイツや英国もそれぞれ失業率が改善しています。
韓国の若者 |
このように、韓国の現状の雇用情勢は最悪と言っても良い状況です。それについては、以前もこのブログに掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
なぜかマスコミが報じない「大卒就職率過去最高」のワケ―【私の論評】金融緩和策が雇用対策であると理解しない方々に悲報!お隣韓国では、緩和せずに最低賃金だけあげ雇用が激減し大失敗(゚д゚)!
日本の大卒就職率は過去最高! 韓国に比較すると天国のようだ。 |
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずは韓国の雇用の現状を示した部分のみを以下に引用します。
最低賃金引き上げの影響を大きく受けると認識される業種の雇用が2カ月間で26万件も消えた。就業者数の増加幅は2年連続で10万人台にとどまり、失業率は3月基準で17年ぶりの最高水準となった。
統計庁が11日に発表した2018年3月の雇用動向によると、先月の卸・小売業と飲食および宿泊業の就業者数は372万3000人と、前年同月比でそれぞれ9万6000人減、2万人減となった。これら業種はアパート警備員などが含まれる事業施設管理・事業支援および賃貸サービス業と共に最低賃金引き上げの影響を大きく受けると認識されている業種だ。
これら3業種は2月にも就業者数が前年同月比で14万5000人減少した。2カ月間でこれら業種の26万人の雇用が消えたということだ。最低賃金の急激な引き上げが雇用に悪影響を及ぼしていると考えられる。この失敗の原因ははっきりしています。金融緩和をして雇用情勢を良くすることもなく、最低賃金だけ機械的にあげたのが、この大失敗の原因です。
金融緩和をすれば、雇用が良くなることについては、この記事などを参照してください。ここでは、詳細は解説しません。
最低賃金をあげるというなら、まずは金融緩和をして、雇用が創設され、人手不足な状況にすれば、企業が人を確保するために、賃金をあげます。各企業の賃金があがった状況をみはからって、それにあわせて最低賃金をあげるというのがまともなやり方です。
しかし、韓国はこの逆をやって大失敗したわけです。しかし、これは当然といえば、当然です。景気が悪く、雇用情勢も悪いときに、最低賃金だけ上げれば、企業はさらに採用を控えるようになります。そうなると、さらに雇用が悪化するのは当然のなりゆきです。
別に高度な経済や雇用の知識がなくても、常識を働かせれば、そんなことはすぐに理解できます。
しかし、韓国のこの有様、どこかで聴いたことがあるような気がします。そうです。いわゆ、金融緩和に大反対する反アベノミクスというやつです。金融緩和すると、ハイパーインフレになるとか、国債が大暴落するとか、何も変わらないなどという識者が大勢いたことを思い出してしまいます。
このようなおどろおどろしい広告などがみられたが、 結局は国債は暴落しなかったどころか、金利は下がった |
日本国内では、安倍政権になってから、2013年4月日銀が量的金融緩和に転じてから、今年で6年目に入りました。しかし、ハイパーインフレにもならず、国債も暴落することもなく、何が変わったことがあったかといえば、先に述べたように雇用が劇的に改善したということです。
その成果は今年も続き、今春の大卒の就職率は98.1%と、日本で記録をとりはじめてから、史上最高という結果になりました。これだけでも、金融緩和に反対する反アベノミクスは間違いだったことが、わかります。
そうして、韓国の現在の有様からも、反アベノミクスは明らかに間違いであることがわかります。しかし、なぜかマスコミはこの事実を報道しません。
日本でも、韓国のように金融緩和をせずに、最低賃金をあげれば、雇用を改善できると語っている人も結構いました。特にリベラル系の人にそのような人が多いです。
立憲民主党代表枝野幸男氏 |
その代表格は立憲民主党代表の枝野氏かもしれません。枝野幸男代表は、安倍晋三政権に対抗する経済政策を訴えていました。安倍政権のキャッチフレーズ「成長なくして分配なし」を逆転させ、低所得者層への再分配を主張し、法人税率の引き上げにも言及していました。
枝野氏は昨年ロイター通信のインタビューでも、「分配なくして成長なし。内需の拡大のためには適正な分配が先行しなければならない」といい、次のように主張しました。
「(自民党の)所得税の改革は、本当の富裕層の増税にならず、中間層の増税になっている。何より、企業の内部留保を吐き出させなければだめ。単純に法人税を大幅に増税すればいい」
枝野氏には金融緩和という考えは全くありません。金融緩和をせずに、分配を増やすというのはどういうことかといえば、結局のところ韓国の実施した「金融緩和をせずに最低賃金」をあげるというのと何も変わりません。
枝野氏をはじめとするリベラルの雇用政策は韓国で実行され、大失敗したということです。
ブログ冒頭の韓国の若者の悲惨な状況を改善し、日本のように大卒の就職率を良くするには、分配や最低賃金を最初にあげるのではなく、まずは量的金融緩和を実施すべきです。
韓国にも、大学に経済学部はあるでしようし、まともなマクロ経済を教えている教授もいるはずです。また、韓国の若者の中には、海外に留学して経済を学んでいる人もいることでしょう。彼らが、文在寅の経済政策に異議を唱え、量的金融緩和をするように抗議をしないのはなぜなのでしょうか。本当に不思議です。
とはいえ、かつての日本もそうでした。いや、今でも金融政策と雇用が密接に結びついていることを理解しない人は、リベラルのみならず、保守系の人にも結構います。そういう人が、権力を握ると今の韓国のようになってしまうということです。