自民党の谷垣禎一幹事長は13日のテレビ東京の番組で消費税率10%への引き上げについて、予定通りとして、その理由を「(税率を)上げた時のリスクは、まだいろんな手で乗り越えられるが、上げない時のリスクは打つ手が難しい」と述べた。
一方、翌14日、安倍晋三首相は、NHKの番組で「経済は生きものだからニュートラルに考える」と述べ、増税するともしないとも言っていない。
3党合意同窓会ともいうべき当時の3党首+藤井氏は、財務省に完全に洗脳された人たちだ。その財務省の考え方をよく表しているものが財務省サイトにある。「財務大臣になって財政改革を進めよう」というゲームだ(→http://www.zaisei.mof.go.jp/game/yosansinario/)。
これは、中期財政計画(平成25年8月)における政府の財政健全化目標、つまり国・地方の基礎的財政収支について、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比を半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すをゲームにしている。
このゲームはホントにバカバカしい。実際にやってみれば数分で飽きるだろう。
「目標達成まであと●●兆円」と出る。そこで、目標達成のための手段としては、社会保障などの歳出の増減と税制改革という歳入の増減だけだ。歳出を減少させると基礎的財政収支はほぼその分改善する。歳出を増加させるとその逆だ。また、増税するとその分歳入が増加し、基礎的財政収支はほぼその分改善する。減税はその逆だ。
こうした単純な足し算・引き算だけでこのゲームはできている。歳出現状維持で「大増税」、すべての歳出大幅カットだと「増減税なし」となり、目標達成になる。大増税せず、一部歳出カットでは目標達成できない。要するに、何が何でも増税が必要であるというシナリオだ。
目標が達成できないと、おどろおどろしい画面が出てきて、最後に「目標を達成することが出来ませんでした。行政サービスの停滞など、将来世代にさらなる負担を残すことになりました」というナレーションが出てくる。
実際の財務官僚も、このゲームのような単細胞思考をしばしば行っている。
しかし、実際の世界は違う。増税すれば経済が停滞することもある。その場合、課税対象が小さくなり、実際の歳入(=税率×課税対象)は少なくなることもよくある。
この考え方を生かせば、増税と歳出カット以外に、金融政策で名目成長できれば目標達成もできるのに、財務省のゲームにはそれがないので面白くない。
増税は税率の引き上げは、一般社会で言えば、製品単価の引き上げに相当する。製品単価の引き上げは、売上数の減少を招くことがあるので、売上(=製品単価×売上数)の増加に結びつかないことを誰もが知っている。しかし、財務省の予算の世界ではその常識が通用しない。
要するに、財務省のゲームは、基礎的財政収支の改善のためには増税が必要と言いたいだけなのだが、それは予算の中の机上計算だけで通用するが、実際の社会では間違いだ。
では、実際の社会では、何が基礎的財政収支を決めるのだろうか。それは、過去のデータから数字が出ていて、1年前の名目経済成長率でほぼ決まる。これは、先週の本コラムに掲載しているものだが、また掲げておこう。
増税は経済成長を阻害するので、財政再建にとっては最善手でない。むしろ経済成長を鈍化させ、財政再建を遅らせるので悪手である。だから、筆者は、上記のデータとともに、増税しないで財政再建をほぼやり遂げた小泉政権の話をする(8月4日付コラム→「増税なき財政再建」は可能だ!政府にとって「不都合な事実」となっている小泉政権の実績)。
増税が財政再建に役立たないとすると、なぜ財務省は増税を言うのだろうか。それは、増税は財務官僚の「歳出権」を増大させるから、というのが筆者の仮説である(興味のある方は『財務省の逆襲 誰のための消費税増税だったのか』を参照)。
言ってみれば、増税は財務官僚の差配する金額を増やすからだ。この仮説で面白いほどに、いろいろな現象が説明できる。
例えば、多くの政治家は消費増税に賛成であるが、それは増税による予算のおこぼれにありつけるからだ。経済界も増税に賛成する人が多いが、それは法人税減税をバーターとして財務省が差し出すからだ。
学者、エコノミストが消費増税を賛成するのは、財務省に逆らわない方が、親元の金融機関が外為資金の運用を出来るなど商売上有利になるからだ。マスコミが消費増税を推奨するのは、リークネタをもらいたいほかに、新聞の軽減税率を財務省からもらいたいためだ。
なお、脱線するが、先週の本コラムで朝日新聞から原稿を掲載拒否されたことを書いた。その理由は、朝日新聞批判ではなく、新聞業界が軽減税率を求めていて、それを「浅ましい」と書いたからだと、あるマスコミの人がこっそりと教えてくれた。新聞業界の軽減税率批判はタブーだと。
消費増税の賛同者は、その恩恵にあずかれるというのがポイントだ。
なお、脱線するが、先週の本コラムで朝日新聞から原稿を掲載拒否されたことを書いた。その理由は、朝日新聞批判ではなく、新聞業界が軽減税率を求めていて、それを「浅ましい」と書いたからだと、あるマスコミの人がこっそりと教えてくれた。新聞業界の軽減税率批判はタブーだと。
消費増税の賛同者は、その恩恵にあずかれるというのがポイントだ。
増税スキップで名目成長率は高まる
そうした消費増税論者の常套句の中で、実体経済に影響がありそうなものとして、消費増税をスキップすると財政破綻を想起し「金利が上昇する」、というものがある。
正直言って、こうした発言を政治家が口にするのを聞くと、笑いを堪えるのが大変だ。何もわからず誰かに吹き込まれているからだ。マジメに答えれば、金利上昇つまり価格下落になるなら、先物売りで儲かるから是非やればいい、となる。マーケットではこんなに簡単に儲かる話はあり得ないから、この金利上昇は確実というのはデマの類いだ。政治家も「風説の流布」ということで、金融商品取引法で御用なんていうこともあり得るので、注意したほうがいい。
ただし、この種の与太話は、有名な経済学者にもある。東大に「『財政破綻後の日本経済の姿』に関する研究会」がある(→こちら)。
さて、消費増税を先送りすると金利が本当に上昇するのだろうか。上昇すれば、どのくらいなのか。増税論者の言うように対処できない「暴騰」はあり得るだろうか。
この問題に答えるために、過去の金利データを見よう。財務省サイトに各年限の日々の時系列データという素晴らしいものがある(→こちら)。その中で10年を取り出すと以下の通りだ。
前回の消費増税の97年4月までは、金利水準も高く、比較的変動幅も大きい。97年増税後は、低金利で変動幅も少ない。
これは、1カ月内の金利変動で見ても確認できる。上のデータを分析すると、97年増税前は平均▲0.02、分散0.105、97年増税後は平均▲0.01、分散0.024。
これらを見る限り、増税しなかった時の方が金利の変動幅は少ない。ただし、これをもって増税スキップしても金利は上昇しないとはいえない。増税後はデフレで低金利だったからだ。
増税スキップした方が名目経済成長が高まり、財政再建のチャンスが大きくなり、逆に財政破綻の可能性は少なくなる。これは、小泉政権での実績等のデータを見ればわかる。
増税論者の主張する、「増税しないと財政破綻」や「財政規律の緩みから金利上昇」というロジックは、その方が破綻しているのだが、皮肉にも少しだけ正しい。
というのは、増税スキップしたら、適切な金融政策とともに、名目経済成長が高まるだろう。その一方、名目経済成長率は、名目金利と長い目で見れば同じ水準になるので、その意味で名目金利も高まるのだ。
これは、デフレ以前に、長期金利水準が高かったことに対応している。
もっとも、だからとって、長期金利が上昇して経済が苦境に陥るとはいえない。上に引用した過去の28年間程度のデータでも、上昇幅は1カ月で最大限1%程度だ。この程度の金利上昇であれば、金融機関も「想定内」なので、大きな被害は出ない。まして、一般経済にとって、名目経済成長が高いので、何も問題にはならない。
こう考えてみると、増税をスキップするリスクは、実体経済の話ではなく、増税利権に群がる人々を激怒させるという政治的なものだけになる。さあ、安倍政権はどうするのか。
この記事は要約です。詳細は、こちらから!
【私の論評】まともな社会人・企業人ならできるトレードオフという考え方ができない官僚の単細胞頭が国民を苦しめる(゚д゚)!
上の高橋洋一氏の記事、ごもっともで、ほとんど何も付け足す必要もないですが、タイトルに多難点があると思います。
個人的には、以下のようなタイトルが良かったのではないかと思います。
消費増税スキップすると実体経済に悪影響なしどころか好影響のみ!リスクは「増税利権に群がる人々」のみ
私は、ブログ記事を更新すると、その内容をすぐにツイートするのですが、ツイートするときのタイトルはこちらにしたいと思います。こちらのタイトルのほうが、高橋洋一氏の上の記事提言内容により、即していると思います。
上のタイトルのままだと、増税スキップのメリットは、実体経済に悪影響を与えないことのみであるようにも受け取られかねません。
このタイトル、高橋洋一氏がつけたものではなく、編集者がつけたものかも知れませんが、これでは誤解を招いてしまいそうてず。
結論は、まさしく「増税をスキップするリスクは、実体経済の話ではなく、増税利権に群がる人々を激怒させるという政治的なもの」ということで、私も大賛成です。本当にこのとおりです。
では、どうしてこうなってしまうのか、その背景を以下に掲載しようと思います。
結論から言ってしまうと、官僚や、政治家にトレードオフ的な考えができないということです。
それには、特に上の高橋氏の「増税は税率の引き上げは、一般社会で言えば、製品単価の引き上げに相当する。製品単価の引き上げは、売上数の減少を招くことがあるので、売上(=製品単価×売上数)の増加に結びつかないことを誰もが知っている。しかし、財務省の予算の世界ではその常識が通用しない」という文章に注目すべきです。
こんなのは一般人の常識中の常識です。儲けたいからといって、値段をあげれば、今度は商品が売れなくなる。だからといって、安くばかり売っていれば、売れるかもしれないが、今度は、ほとんど利益が出ないということてず。
この「値段」と「利益」ということは、事業をやっている人は特にですが、そうではない人もかなり理解しやすいことだと思います。言ってみれば、あたり前のど真ん中です。
この「利益」と「値段」のような関係をトレードオフといいます。トレードオフに関しては、このブログにも何度か掲載したことがありますので、その記事のURLを掲載します。
永田町に駆けめぐる首相「原発解散」の噂 自民党に警戒感―【私の論評】これで騙されれば、国民が悪い!!悪いのは菅さんではない!!
液状化被害で大きく変形した護岸を視察した当時の菅首相 |
詳細は、この記事をごらんいただくものとして、以下にトレードオフに関する事柄のみ転載させていただきます。
ちなみに、 トレードオフとは、何かを達成するために別の何かを犠牲にしなければならない関係のことを言います。いわゆる「あちら立てれば、こちらが立たぬ」に相当します。 たとえば、在庫管理にはトレードオフがつきまといます。製品の在庫を減らすと、顧客の需要に答えられず、販売機会を逃します。逆に、製品在庫を増やすと、売れ残りが生じ、無駄に保管場所をとったり、余計な費用がかかります。経営者は、このトレードオフの問題を解消しなければなりません。単純にものを考えていては、会社が潰れます。トレードオフ、特に企業におけるトレードオフは、大体三つに分類できます。
1.長期と短期のトレードオフ
これは、企業においては、現在のことばかり考えていると、会社の未来がなくなるといこともあるし、逆に未来のことばかり考えていると現在が疎かになり、すぐにも潰れてしまうかもしれないということです。2.全体と個のトレードオフ
会社全体のことだけ考えていば、特定の部署や、個人が疎かにされるおそれがあります。逆に、個人や特定の部署のことのみ考えていれば、会社全体にとって、マイナスのこともあります3.売上と利益のトレードオフ
上に述べた、在庫と顧客サービスとの間のトレード・オフの関係なども典型例です。
この他にも販売促進と利益というトレードオフの関係もあります。販売促進費をかなり大きくすれば、確かに商品はこれを大きくしないようりは、売れますが、あまり大きくしすぎるとその分利益がなくなります。これらの三つのトレードオフですが、対処方法は共通しています。要するにその時々でバランスをとるということです。
これは、やさしいようでいて、難しいです。また、この三つのトレード・オフが密接に絡む場合があります。
たとえば、販売促進費と利益は、確かにトレードオフの関係にありますが、場合によっては意図的に販促費を多くして、利益を犠牲にする場合もあります。
その例として、新規顧客をはかるために、敢えて新規顧客開拓に販促費を多大にかけて、現在は、損をしても、将来には益を出すという考え方もあります。これは、経費というよりは、投資という考え方に近いです。
この時点で、「長期と短期」と「売上と利益」のトレード・オフが絡まっています。
そうして、これに加えて、たとえば、販売促進関係部署に当面他部署を犠牲にしても、販売促進関係部署に優先的に経費を割り当たり、人材を多くしたりするなどということも考えられます。そうなると、「全体と個」のトレードオフともなります。
そうして、重要なのはこれらのバランスを常にはかり続けるということです。
そうして、これは、会社全体の情報を俯瞰できる経営者が方向性を決めることが必要不可欠になるのは、いうまでもありません。
それ以下の部署は、経営者が定めた方向性の中で、バランスをとるということになると思います。
細かなことは、担当部署や、個人が実施するとしても、大きな方向性ということでは、経営陣がこれを正しく明示せずに担当部署や個人が勝ってに動けば、バランスは崩れ会社は窮地に陥ります。
そうして、その窮地に陥っているのがまさしく現在の日本です。
その窮地の正体は何かといえば、デフレです。特に金融政策に関して、日銀が金融引締めと、金融緩和に関してトレードオフという考え方ができず、何かとをいえば、金融引締めばかり繰り返してきたこがその理由です。
そうして、政治家もこの考えができず、長年デフレが放置されてきました。しかしながら、さすがに昨年の4月から日銀の体制も変わり、こうしたトレードオフに基づく金融政策がようやっとできるようになり、実際異次元の包括的金融緩和がなされるようになりました。
しかし、残念なから昨年の10月には増税が決定れ、4月から増税され、政府は想定などと語っていますか、その実かなりの落ち込みです。
これなども、トレードオフ的な考え方ができれば、こんなことは絶対にしなかったはすですし、来年の10%増税などとんでもないということになるはすです。
では、民間企業ではトレードオフ的な考え方ができて、官僚や政治家の多くがそのような考え方ができないのはなぜかといえば、それも簡単なことです。要するに責任がないからです。責任を問われることがないからです。
民間営利企業の場合は、会社全体での利益という明確な尺度がありますから、トレードオフ的な考えができずに、失敗すれば、それはすぐに明るみに出ます。そうして、何回も失敗すれば、降格なり、減給になり、明確に責任をとらされます。
残念ながら、今の官僚は権限ばかりで、そのような責任を追求されることがありません。政治家も残念ながら、トレードオフの考えができなくても何とか、選挙で当選することができます。
増税すれば、結局のところ、デフレ脱却から遠退き、税収が減り、財務省が再配できる資金も低下し、財務省の省益も失われ、増勢派政治家の利権も大幅に減少するのですが、結局彼らは、長期と短期のトレードオフを理解でききず、目先の利益にとらわれているだけです。
これを正すには、官僚には、はっきりと仕事に責任を負わせることが肝要です。増税の例などわかりやすいです。税収が増えれば、それも裏付けのあることで、税収があがれば賞を与え、さしたる理由もないのに減れば罰するということにすれば、無責任な財務官僚はいずれ排斥されます。
政治家については、無論有権者の責任です。
となると、有権者もトレードオフ的な考えができないと、選挙のときの判断もできないということになります。
しかし、有権者の場合は、官僚や政治家と違い、デフレということで、十分罰をくらっています。
次の選挙では、間違ってもトレードオフ的な考えのできない政治家には、投票すべきではありません。
私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?
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