2017年9月30日土曜日

小池新党との距離感を模索するにせよ、すべての道は憲法改正に通ずる―【私の論評】希望の党もマスコミも数年後には、民進党のように破棄される?

小池新党との距離感を模索するにせよ、すべての道は憲法改正に通ずる

『三浦瑠麗』

 衆議院が解散されました。解散の噂が立ち始めたころからメディアをにぎわしているのは解散に「大義」があるかということでした。この時期の解散に、党利党略的な意味があることはもちろんそうでしょう。政権の支持率が回復傾向にあり、東京都の小池百合子知事の立ち上げた「希望の党」の準備も整っているようには見えないからです。野党は、「モリ・カケ問題」から逃げるため都合の良い解散であるとして批判しています。

衆院解散を表明した安倍首相の記者会見を伝える街頭テレビ=9月25日、東京・有楽町
 私は少し違う見方をしています。総理の解散権とは、政治のアジェンダセッティング(課題設定)を行う権力であると考えているからです。政治の最大の権力は、政治が答えるべき問いを設定することです。重要なのは問いへの答えではなくて、問いそのものなのです。民主政治においては、正しい問いが設定されさえすれば、一定の範囲内で落としどころが探られるものだからです。

ただ、既存の政治やメディアの中からはどうしても出てきにくい課題というものがあります。例えば、政治に携わる者のほとんどが中高年男性である日本において、子育てに関する問題は長らく家庭内の問題として処理され、政治課題になりにくかった。同様に、安全保障問題を臭いものとして忌避する傾向があり、国防について正面から取り上げる機運にも乏しい時代が続きました。

 時の政権が進めたい政策があれば、総理は国民の信を問うことができるのです。その時々において注目される政治テーマは、与野党の力関係やメディアの傾向によって決まってくるのだけれど、総理にはいったんそれをリセットする権力を付与する。それが、日本の民主主義のルールであり、慣習なのです。

 そうした中で行われた安倍晋三総理の会見は、良い意味でも悪い意味でも自民党の面目躍如でした。看板政策の「人づくり革命」において幼児教育の無償化を前面に出すのは、民進党や日本維新の会の看板政策を横取りしてのことです。経済政策を打ち出す際に、財源の話を持ち出すのも野党を牽制(けんせい)するためです。消費増税分を社会保障の充実に使うということで、財政は悪化します。2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は放棄せざるを得ません。そんな中、財政の裏付けのない、バラ色の政策提案がなされないように布石を打っているのです。

もう一つ、北朝鮮危機を前面に出すのは、野党共闘への影響を狙ってのことでしょう。民進党と共産党がスキャンダル追及の局面で協力することと、安全保障上の危機が迫る中で協力することはまったく意味合いが違うからです。当然、与党は愛国心カードを切ってくるでしょう。対応を間違えれば、「政争は水際まで」という民主国家の大原則を破ることになり、国民の信頼を決定的に失うことになるでしょう。

 ただ、解散の一番の目的は他にあると思っています。それは、憲法改正を実現するために公明党に圧力をかけること。言うまでもなく、憲法改正は第1次政権当時から安倍総理およびその周辺の宿願です。ところが、モリ・カケ問題が長引いたことで、永田町の改憲機運は随分としぼんでいました。官邸の中にさえ、政権維持に集中するためには、改憲の可能性を示唆する3分の2の議席は邪魔だと思っている人もいたそうです。

 総理周辺にとって最もいら立たしかったのは、公明党の姿勢だったのではないでしょうか。「衆院選が迫る中で改憲の発議は難しい」とか、「年限を切って改憲論議をすることは適切でない」とか、公明党は明らかに引け腰になっていました。本年5月に総理自らが表明した自衛隊明示の加憲案は、そもそも公明党に配慮してリベラルに歩み寄った穏健なものです。その改憲案からすら逃げるとは何事か、ということでしょう。今般の解散における総理周辺の本音は、9条を中心に据えた改憲案を明示した上で3分の2の議席を更新すること。その事実を公明党に突き付けて、改憲に向けた具体的な手続きを開始することだと思います。

もう一つ重要なのが小池新党の存在です。「希望の党」に対して総理が融和的な姿勢を示しているのも、小池知事が改憲支持の立場を明確にしたからではないでしょうか。「希望の党」はこれまでも存在してきた改革の「スタイル」を追求する党です。「日本新党」や「みんなの党」の系譜に連なります。寄せ集め集団で、たいした政策理念があるようにも見えない政党が、数年後に存続している可能性は限りなく小さいでしょう。

「希望の党」の結成会見に臨む小池百合子代表=9月27日、東京都新宿区
 であるからして、日本政治における中長期的な影響はほとんどないでしょう。ただ、今般の選挙において重要なのは、「希望の党」が自民党の票を食うのか、野党票を減らす方向に行くのかということです。それによって、憲法改正へ向けた具体的な動きが進んでいくかが見えてくるからです。小池知事の発言を見ていると、自公の間にくさびを打ち込む意図が明白であり、興味深い展開となっています。

 今般の選挙を指して、争点に乏しいという意見も聞かれますが、そんなことはありません。公明党に圧力をかけるにせよ、小池新党との距離感を模索するにせよ、全ての判断は改憲との関連性で下されるでしょう。まさに、全ての道は改憲に通じているのです。

【私の論評】希望の党もマスコミも数年後には、民進党のように破棄される?

三浦瑠麗氏
三浦瑠麗氏の、主張する今回の衆院選では「すべての道は憲法改正に通ずる」という主張は正しいと思います。

特に、「政治の最大の権力は、政治が答えるべき問いを設定することです。重要なのは問いへの答えではなくて、問いそのものなのです。民主政治においては、正しい問いが設定されさえすれば、一定の範囲内で落としどころが探られるものだからです」ところは大賛成です。

これは、政治の世界のみならず、マネジメントの世界でも同様です。特に、トップ・マネジメントには良く当てはまります。経営学の大家ドラッカー氏は次のように言っています。
重要なことは、正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど、危険とはいえないまでも役に立たないものはい。(現代の経営下P226)
ドラッカー氏は次のようにも語っています。
マネジメント、特に大組織のトップマネジメントは,予期せぬ失敗に直面すると,いっそうの検討と分析を指示する。(イノベーションと企業家精神P36)
問題が起きると検討とすぐに、分析を指示し報告書の作成を要求するということは,間違った問いに対する正しい答えです。

正しい問いは、報告書でも犯人探しでもなく、マネジメントが、外へ出て、よく見、よく聞くことです。そうすることによって、はじめて新たな、正しい問いができるようになるのです。
状況からの圧力は、未来よりも過去を、機会よりも危機を、外部より内部を、重大なものよりも切迫したものを優先する。(経営者の条件P149)
まさに、安倍総理は今回の解散で、正しい問いを発したのです。民進党は、正しい問いを発することもできず、今回の解散にうろたえ、結果として、民進党を廃棄する道を選んだのです。

三浦さんの主張で唯一賛同できないのは、「消費増税分を社会保障の充実に使うということで、財政は悪化します。2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標は放棄せざるを得ません。そんな中、財政の裏付けのない、バラ色の政策提案がなされないように布石を打っているのです」という部分に関しては、賛同できないとこもあります。

それについて、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
民進は共産と共闘するのか 増税凍結提言で維新好機、準備不足が響く小池新党―【私の論評】消費増税凍結が争点となりえない裏事情(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみ引用させていただきます。
まずは、首相の今回の解散決断は、北朝鮮情勢の緊迫化、内閣支持率の好転、上の動画にも掲載されていたように、公明党の来年の池田大作氏生誕90周年に対する配慮など様々な要因が重なったための急ごしらえのものであるということがあります。 
そのため、政治的な駆け引きが必要な消費増税の凍結や再々々延期などは全く無理です。10%の消費増税は、2019年10月に実施されることはすでに法律で決まってることです。これを凍結ないし再々々延期するには法律を修正するか、新しい法律を国会で通す必要があります。 
そのためには、国会で消費税増税に反対する議員が多数派になっていなければなりません。無論、その前に安倍総理は自民党内をまとめる必要があります。
そもそもそのための政治日程など、組まれていませんし、白紙の状態にあると見て間違いないです。ちなみに他の野党・新党に至っては、たとえ言ってみたとしてみても、それを争点にして自党に選挙戦を有利にするまでの準備も何もない状況です。 
そうして、上の読売新聞の記事のプライマリーバランス2020年問題に関しては、安倍総理の単なる口約束のようなものであり、いつでも撤回できるものであり、これは安倍総理による消費税の分配という形を借りた財務省批判と見るのが妥当だと思います。一般の人はもとより、政治家ですらも気づかないでしょうが、財務省の高級官僚たちは気づいていると思います。
私達としては、政治家や一般の人々も含めて、いかに財務省が酷いことをしているのかを訴えていくことと、今回の選挙では、北朝鮮対応を第一に考えるにしても、その中でも経済に関してまともな認識を持っている議員を選ぶことに専念すべきと思います。 
そうして、安倍総理は選挙が終われば、憲法改正は無論のこと、消費税増税阻止に向けて着々と準備を開始すると思います。これは、ポスト安倍の政権運営にも必須です。もし、増税されてしまえば、増税後にはまた日本はデフレスパイラルのどん底に沈み、そのときの政権がいずれの政権であれ、政権運営はかなり困難になるのは目に見えています。
とにかく、準備も整っていない段階で、消費税凍結など口にしても、何の意味も持たないことから、今回の選挙では安倍総理は、増税先送りは争点にせず、財務省がいかにガツガツと金を溜め込んでいるかを批判することにしたと考えられます。ただし、希望の党がこれを争点にし、それが本当に勝敗を分ける争点になりそうになった場合には、「必ずしもあげるとは限らない」などと、安倍総理も消費税凍結を公約に掲げるかもしれません。

ただし、これ以外は、三浦氏の考えは、概ね正しいものと思います。そんなことよりも、もっと重要なのは、やはり三浦氏が主張している、すべての道は憲法改正に通ずるという点です。

自民党が次の選挙で、圧勝すれば「憲法改正」は実行しやすくなります、希望の党が躍進して、自民党が大きく後退したとして、小池氏は改憲支持の立場であることから、これも「憲法改正」から遠ざかることはなく、むしろ近づくことになります。

とにかく、どちらに転んでも、よほどのことがない限り、国政において改憲勢力が最大になる見込みです。今回、希望の党に合流する元民進党の議員らも、内心はどうかは別にして表だって「憲法改正」には反対できません。

これで間違いなく改憲そのものには道が開けるものと思います。マスコミも安倍憎しの一心だけで、単純に希望の党を応援するというわけにもいかなくなりました。そうして、次の段階では、具体的な改憲の内容が議論になるものと思います。

そうして、民進党が消え去ることは確定しました。民進党がなぜ消えざるを得なかったのか、その背景については実は以前このブログに何度か掲載したことがあります。その典型的なもののリンクを以下に掲載します。
民進「離党ドミノ」加速 長島昭久氏まで“離脱”も…ベテラン議員「蓮舫氏は負けても辞めない」―【私の論評】狂った民進党は破棄するしかない(゚д゚)!
離党を表明したときの長島昭久氏
詳細は、この記事を読んでいただくものとして、以下に民進党が消え去る運命であることを触れた部分だけ以下に引用します。

"
現在の民進党は、今のまま自己変革ができないというのなら破棄すべきです。これについては、経営学の大家ドラッカー氏の言葉を思い出します。

以下にドラッカー氏の『乱気流時代の経営』からの言葉などを掲載します。
長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。(『乱気流時代の経営』
 企業経営においてはあらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければなりません。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要です。

なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからです。そして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからです。ドラッカーは、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言います。廃棄せずして、新しいことは始められないのです。

ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていません。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていません。

自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかないのです。そのためには人材がいります。その人材はどこで手に入れるのでしょうか。外から探してくるのでは遅いです。

成長の基盤は変化します。企業にとっては、自らの強みを発揮できる成長分野を探し出し、もはや成果を期待できない分野から人材を引き揚げ、機会のあるところに移すことが必要となります。
乱気流の時代においては、陳腐化が急速に進行する。したがって昨日を組織的に切り捨てるとともに、資源を体系的に集中することが、成長のための戦略の基本となる。(『乱気流時代の経営』)
これは、無論政治や政党の話ではなく、企業経営に関わるものです。しかし、組織ということでは原則は同じです。

政党組織でも、陳腐化してしまったものは破棄しなければならなのです。民進党もこの原則を貫くべきです。民進党にもそうしたことができる人材もいないことはありません。

長島氏や馬淵氏などその筆頭です。しかし、今回は長島氏が離党ということで、民進党は有為な人材を失ってしまいました。

今のままの民進党がこれからも続くというのであれば、国会でも、森友問題など、 もはや成果を期待できない分野に拘泥し、多くの議員が無駄などうでも良い仕事に拘泥するというようなことがこれからも繰り返されます。

そんなことを防ぐためにも、民進党は変わらなければなりません。しかし、それができないというのなら、今の狂った民進党そのものを破棄するしかありません。そうして、それは有権者が判断して実行すべきものです。私には、もはや自己変革のできない民進党には、有権者が引導を渡すべきと思います。
"
現状を見回せば、絶対に憲法改正に反対であるとか、安保法制にも絶対に反対というのでは、とても現在までの変化に対応しているとは言い難いです。彼らは、そのような考えは廃棄し、改憲すならこうすべき、安保はこうすべきと具体的な代案を出すべきでした。

しかし、彼らのやってきたことは、最初からどう考えても筋悪の森友・加計問題での安倍総理への個人攻撃や、与党攻撃です。ドラッカー氏の言葉をかりれば、森・加計問題に資源を体系的に集中し、他をおろそかにしました。

これにばかり拘泥し、いざ安倍総理が解散を口にするとうろたえ、そこに小池新党が旋風を巻き起こすと、それに乗るために、民進党を事実上廃棄するという道を選びました。今のままだと、有権者に破棄されてしまうことを肌で感じ取ったのでしょう。それだけは避けたかったので、希望の党に合流する道を選んだのです。

しかし、陳腐化された思想を持ったままの議員は、小池氏に合流を拒まれるかもしれません。古いものは、人でも、あらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスがいずれ必ず破棄される運命なのです。自ら破棄するか、自らが破棄されるしかないのです。

さて、今後小池氏と、希望の党はどうなるかといえば、やはり、三浦氏の語るように、寄せ集め集団で、たいした政策理念があるようにも見えない希望の党は、数年後には、役立たずとなり、廃棄されることになるのでしょう。

それにしても、民進党は、民主党時代を含めなければ、結党から2年もたっていないではないですか。非常に短命でした。古い体質のマスコミも予想もつかないところから、早期瓦解するかもしれません。数年後には、いくつかの会社の合併話などかもちあがっているかもしれません。

そうして、小池氏としては、そのときには憲法改正など何らかの成果を持って、自民党に返り咲き、総理大臣の座を目指すということかもしれません。あるいは、また新党をたちあげるのでしょうか。あるいは、旋風をこれから起こす新たな政党に移るのでしょうか。

しかし、そのようなことが許されるでしょうか。それほど、政治の世界は甘くはないと思います。

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小池都知事率いる「希望の党」に全く希望が見えない理由―【私の論評】小池氏と希望の党は真摯さに欠けていないか?


2017年9月29日金曜日

小池都知事率いる「希望の党」に全く希望が見えない理由―【私の論評】小池氏と希望の党は真摯さに欠けていないか?

小池都知事率いる「希望の党」に全く希望が見えない理由

希望の党の立ち上げ
安倍総理が衆議院の解散を表明するやいなや、25日、小池百合子東京都知事が新党「希望の党」の立ち上げを発表した。そして、驚くことに、野党第一党である民進党が希望の党への事実上の合流を一方的に決めた。有権者にとって新しい選択肢が増えることは望ましいことかもしれないが、「改革保守」という抽象的な理念と「日本をリセットする」というふわふわとした目的を掲げ、現職議員が寄せ集まった新党に、果たして希望はあるのか。(政治ジャーナリスト 黒瀬徹一)

よくわからない「国政への関与」の目的
小池都知事は何がしたいのか

 日本をリセットする――。
「希望の党」立ち上げの際に小池都知事の言葉を聞いた時、《どこかで聞いたことがあるな》と感じた。かつて大阪維新の会が国政に進出する際に掲げた「グレート・リセット」という言葉に酷似している。
 リセットだけではない。その他にも「しがらみのない政治」など、どこかで聞いたことのある“使い古された言葉”のオンパレードだった。
 正直、小池都知事が何をしたいのか、よくわからない。何のために国政に関与するのか。
 国政に勢力を持つことは「都政運営にもプラス」という意見もあるが、国政で与党になるならともかく、少数政党を国政に保持したところで、あまり意味がない。日本維新の会の歴史から見ても明らかなように、地方政治が国政の政局に左右されてしまい、むしろ都政の運営が困難になるだろう。
 例えば、2020年に控える東京オリンピック・パラリンピックの準備を円滑に進めるためには、政府との協調は欠かせない。新党を立ち上げたところで、国政で勝てる議員の数は限定的である。下手に少数政党を作っても、自民党からの“裏切り者”と一緒に選挙をかき乱せば、当然自民党・公明党との間に禍根を残してしまうだろう。
 都議会でも小池都知事の動きへの苦言が相次いだ。それはそうだ。都議選の後、「知事職に専念する」として都民ファーストの会の代表を退いたにもかかわらず、舌の根も乾かぬうちに、今度は「国政政党の代表をやる」と言い出したのだから。
 端から見れば、単に小池人気を背景にした政治屋たちの「議席とりゲーム」にしか見えない。もしくは、「実は、現職の衆議院議員の中に倒したい敵がいる」など、表に出せない裏目的でもあるのだろうか、と勘ぐってしまう。
 正直、筆者は希望の党の設立、そして民進党との合流に全く希望を見いだしていない。その理由を論じたい。

改革保守とは何か
政治の世界に蔓延する抽象ワード

 小池都知事の会見では抽象ワードばかりが並んでいた。例えば、希望の党は「改革保守」らしい。
 あたかも一般的な言葉のように普通な顔でシレッと説明していたが、「改革保守」とは何なのか。読者の中で、きちんと説明できる方がどれだけおられるだろう。もしおられたら、TwitterやSNS上ででも、ぜひ教えていただきたい。
 そもそも、日本を「リセット」するのに「保守」とは言葉そのものに矛盾を感じる。
 保守という政治概念は、日本においては、戦後、自由民主党が結党される時に確立したと考えている。冷戦時代の1955年、分裂していた社会党が統一されたことに危機感を覚えた自由党と民主党が合併した、いわゆる「保守合同」である。ここで言う保守とは、あくまでも社会主義・共産主義が輝いていた(脅威として君臨していた)時代において、資本主義・自由主義体制を保守しようという意味の言葉であって、今の時代にはもはや死語と言っても過言ではないだろう。
 改革という言葉にしても、政治家というものは皆一様に「我こそが改革派」と謳うものだ。「我こそが既得権益」と名乗る人はいない。筆者はとある政党の候補者が「既得権益と戦う!」と駅前で演説しているのを聞いて、素朴に「既得権益って具体的に誰ですか?」と尋ねてみたことがある。その候補者は返答に困り、「いや…既得権益は、今の世の中で得してる人です」と抽象的なことしか答えなかった。
 新党が掲げる具体的な政策は「情報公開」くらい。しかし、築地・豊洲問題の決着に関する情報公開は、関係者が満足するレベルのものだったろうか。都知事選や都議選で掲げた具体的な大義と比べて、今回の国政進出における意義は全く見えない。

東京10区の仁義なき戦い
選挙調整に注目

 ところで、希望の党設立まで新党を模索していた若狭勝衆議院議員はどういった人物なのか。
 若狭氏は、元検察官・弁護士の肩書きを持つ。2014年12月の衆院選では選挙区は持たず、比例単独で初当選した。その後、小池百合子都知事が東京都知事選挙へ出馬するため衆議院議員を辞任したことに伴って、空席となった東京10区で実施された補欠選挙で自由民主党から出馬し、当選した。
 したがって、議員歴は3年弱。東京10区での活動歴は1年にも及ばない。だから、知名度も低い。多くの方が「この人、誰?」と思ったのは自然の反応なのだ。
 自由民主党からすれば、小池都知事に裏切られ、空席を埋めるために公認した若狭衆議院議員にも裏切られたことになる。東京10区は元小池都知事の選挙区だから、小池人気にあやかった方が選挙に強いという判断かもしれない。
 だが、ここで自民党が“刺客”を放てば、正直、勝負はわからない。前回の補欠選挙で若狭氏が獲得した票は7万5755票。一方、民進党は4万7141票を得ており、過去2回の衆院選を見てもこの票数は安定している。民進党が解党的に希望の党への合流を決定したことで、有権者がどう判断するかが全く予想できなくなったため、東京10区は激戦になるだろう。
 去年自民党で当選したばかりの人が、今度は違う方の政党で出馬する。有権者はそのことをどれだけ許容できるだろうか。

政治屋たちの希望の党
自民党を倒す本気さは伝わるが…

 次に、若狭議員以外の新党に合流する議員の顔ぶれはどうなのだろうか。
 まず、小池都知事の威光の恩恵を強く受ける東京から見てみよう。
 ・東京3区(品川区、大田区、島嶼部)の松原仁衆議院議員。
 ・東京9区(練馬区)の木内孝胤衆議院議員。
 ・東京21区(八王子市、立川市、日野市、国立市、多摩市の一部、稲城市の一部)の長島昭久衆議院議員。
 この3人の議員の共通項は、元民進党という以外に、皆、小選挙区では勝てていない、ということが挙げられる。木内議員に至ってはほぼダブルスコアで敗退している。
 確かに、東京都議会議員選挙で都民ファーストの会は大勝した。しかし、だからと言って、「民進党」から「希望の党」へ看板を変えたからと言って、国政における支持が集まるほど話は単純ではない。
 例えば、東京3区であれば、自民党の候補は石原宏高衆議院議員だ。知名度も高い石原議員を「希望の党」という看板だけで倒せると思うのは甘い考えだろう。
 さらに、東京以外の選挙区となると、比例枠狙いの“政党サーファー”ばかり。埼玉県の行田邦子参議院議員は民主党からみどりの風を経てみんなの党へ渡った後、日本を元気にする会を経て希望の党へやってきた。
 日本のこころの中山恭子参議院議員は、元は自由民主党から比例で参議院議員に当選したが、夫の中山成彬が自民党から離党することを決めると、夫にくっついて自らも自民党を離党し、たちあがれ日本へ合流した。その後は、太陽の党、日本維新の会、次世代の党、日本のこころを経て希望の党へやってきた。
 行田議員と中山議員がよくわからない「改革保守」の旗印の下、並んで座っていること自体、筆者には全く理解できない。もはや政治信条は関係ないとしか思えない。
「なんとしても自民党を倒したい」という本気さは確かに伝わってくる。そのための選挙戦略としては取り得る中では、“最強の戦略”かもしれない。
 ただ、なんのために自民党を倒すのか、自民党の政策の何をどう批判しているのか、がさっぱりわからない。
「改革保守」とか「しがらみ脱却」やら、抽象的なキャッチコピーではなく、具体的な政策議論がほしい。政治屋にとっての希望は、有権者にとっては絶望でしかない。
 選挙における主役は有権者だ。
 誰の希望を叶える党なのか、具体的なビジョンを示してもらいたい。
【私の論評】小池氏と希望の党は真摯さに欠けていないか?

都民が小池知事に期待したことは都政に専念し、改革を強力に推進することであったと思います。しかし、今回の小池氏は、都政を踏み台にして他の狙いがあるとしか思えません。他の狙いとは、はっきりいえば、小池氏が日本初の女性総理大臣を目指すことです。

無論総理大臣などなろうと思っても、その時の運などもありなかなかなれるものではありません。しかし、小池氏としては、その可能性を少しでも高めたいと考えているのでしょう。こう考えると、小池氏の不可解な行動も説明がつくというものです。

小池新党の設立を受けて、都議会公明党は、小池氏が特別顧問を務める「都民ファーストの会」との連携解消に向けて検討に入っています。

連携が解消されれば、小池氏が都知事に残っても、都民ファーストの会だけでは都議会の過半数に足らず、都政は停滞することになります。そうなると、また、『崖から飛び降りる』『衆院選に出馬する』と電撃会見する可能性もなきにしもあらずです。

これもありそうなことです。小池知事特有の、電撃に目眩ましをされないように、特に政治家はこの可能性を織り込み済みにすべきものと思います。そうすれば、振り回されないですみます。自民党は、これをすでに織り込み済みと考えているようです。

選挙戦では、北朝鮮情勢に対応する安倍晋三首相らに代わり、これまで以上に積極的に全国遊説を続ける立場となった小泉進次郎氏は新聞のインタビューに応えて「選挙は弱気になってはいけない。小池さんが出て来るかと、びくびくしていたら(自民党は)終わりだ」と明言しています。

小泉進次郎氏
小池氏が、知事としての「公務」を相次いでキャンセルしている-という報道もあります。

加えて、小池新党周辺から、後継の都知事候補として、橋下徹・前大阪市長や、東国原英夫・前宮崎県知事らの名前が浮上しています。

これに対し、橋下氏は28日、自身のツイッターに「都知事選にも出ないし、沖縄知事選にも出ない」と書き込みました。

東国原氏は27日、TBS系「ゴゴスマ~GOGO!Smile!~」に生出演した際、後継情報について問われ、「この話やめようよ」「好きだよね、そういうの」と否定も肯定もしませんでした。

それにしても、もし、本当に小池氏が東京都知事を辞めて、衆院選に出馬したとしたら、これは都民そうして、有権者もこれは許さないでしょう。私は、さすがに小池氏はこのようなことはしないと思います。そうなれば、彼女の政治生命は絶たれてしまうと思います。

これは、マネジメントの原則に照らし合わせても明らかです。

マネジメントは成果だけでは不十分 “正統性”が必要であると語っています。
社会においてリーダー的な階層にあるということは、本来の機能を果たすだけではすまないということである。成果をあげるだけでは不十分である。正統性が要求される。社会から、正統なものとしてその存在を是認されなければならない。(『マネジメント──基本と原則[エッセンシャル版]』)
企業、政府機関、非営利組織など、あらゆる組織にとって、本来の機能とは、社会のニーズを事業上の機会に転換することである。つまり、市場と個人のニーズ、消費者と従業員のニーズを予期し、識別し、満足させることです。

さらに具体的にいうならば、それぞれの本業において最高の財・サービスを生み出し、そこに働く人たちに対し、生計の資にとどまらず、社会的な絆、位置、役割を与えることです。

しかしドラッカーは、これらのものは、それぞれの組織にとって存在の理由ではあっても、活動を遂行するうえで必要とされる権限の根拠とはなりえないとします。神の子とはいえなくとも、少なくともどなたかのお子さんである貴重な存在たる人間に対し、ああせい、こうせいと言いえるだけの権限は与えないといいます。

ここにおいて、存在の理由に加えて必要とされるものが、正統性である。「正統性とは曖昧なコンセプトである。厳密に定義することはできない。しかし、それは決定的に重要である」と語っています。

かつて権限は、腕力と血統を根拠として行使されました。近くは、投票と試験と所有権を根拠として行使されています。政治家の権限は、投票すなわち、選挙を根拠として行使されています。

しかしドラッカーは、マネジメントがその権限を行使するには、これらのものでは不足だといいます。

社会と個人のニーズの充足において成果を上げることさえ、権限に正統性は与えません。一応、説明はしてくれます。だが、それだけでは不足です。腹の底から納得はされません。

マネジメントの権限が認知されるには、所有権を超えた正統性、すなわち組織なるものの特質、すなわち人間の特質に基づく正統性が必要とされのです。
そのような正統性の根拠は一つしかない。すなわち、人の強みを生かすことである。これが組織なるものの特質である。したがって、マネジメントの権限の基盤となるものである。(『マネジメント[エッセンシャル版]』)
ドラッカーは、営利企業や非営利企業などの組織を想定して、このようなことを語っています。しかし、東京都や政府などもマネジメントの基本は、同じです。さらに、都、国も一つの組織とみなすこともできます。

やはり、政府としての正当性の根拠も、人の強みを生かすことであると思います。日本という国の国柄、国民の強みを生かす政策を打ち出し、その政策の目的を明らかにし、さらに当面の目標も設定し、目標の達成度合いも国民に開示すべきです。そのような行動をする政治家や政府のみが、国民から正統的なものと腹の底から認められると思います。

ドラッカーは、マネジメント(トップ・ミドル・ロワー)の正当性の根拠は、人の強みを生かすことであるとしています。

人の強みにと弱みについて、ドラッカーは以下のように語っています。
いかなる教養を有し、マネジメントについていかなる教育を受けていようとも、経営者にとって決定的に重要なものは、教育やスキルではない。真摯さである。(『現代の経営』)

経営者にとってできなければならないことは、そのほとんどが学ぶことができます。しかし、学ぶことのできない資質、後天的に獲得することのできない資質、初めから身につけていなければならない資質があります。それは、才能ではない。真摯さです。

これは、知事や総理大臣、そうして政治家にも求められる資質です。

経営者そうして、総理大臣や知事、政治家は人という特殊な資源とともに仕事をします。人は共に働く者に特別の資質を要求します。

トップが本気であることを示す決定打は、人事において断固人格的な真摯さを評価することです。リーダーシップが発揮されるのは人格においてであり、人の範となるのも人格においてだからです。

ドラッカーは、真摯さは習得できないと言います。仕事に就いたときに持っていなければ、あとで身につけることはできないといいます。

ごまかしはきかないのです。一緒に働けば、特に部下には、その人間が真摯であるかどうかは数週間でわかります。

部下たちは、無能、無知、頼りなさ、不作法などほとんどのことを許します。しかし、真摯さの欠如は許しません。そのような人間を選ぶ者を許しません。
人の強みではなく弱みに焦点を合わせる者をマネジメントの地位につけてはならない。人のできることは何も見ず、できないことはすべて知っているという者は、組織の文化を損なう。(『現代の経営』)
やはり、政治家に必要な資質も真摯さであり、さらに人の強みに焦点を合わせるものでなくてはならないということです。

なお、真摯さとは非常に曖昧にも聞こえますが、これについては、その定義などをこのブログにも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。この言葉の意味はこの記事を参照し下さい。
山尾氏、男女関係ウソばれた!文春第2砲で「証拠」写真 「1人で宿泊」「政策の打ち合わせ」に反論―【私の論評】組織人は真摯さの欠如と、そのような人物を選ぶマネジメントだけは許さない(゚д゚)!
山尾氏は「ホテルに1人で泊まった」と主張したが…
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、真摯さとは、英語のintegrityを和訳した言葉です。以下にintegrityに関する解説のみ引用します。

"
これだけ重要なintegrityとは何なのでしょうか。ドラッカー氏でさえ「定義が難しい」と自身の書籍で書いています。ただしドラッカー氏は「真摯さの欠如は、定義が難しいということはない」とも書いています。ドラッカーが『現代の経営』で挙げている、integrityが欠如した人の例は以下の通りです。
・人の強みではなく、弱みに焦点を合わせる者
・冷笑家
・「何が正しいか」よりも、「だれが正しいか」に関心をもつ者
・人格よりも頭脳を重視する者
・有能な部下を恐れる者
・自らの仕事に高い基準を定めない者
"

さて、以上のようなことから、政治家にも当然のことながら、最初から持っていなければならない資質である「真摯さ」も必要不可欠であると思います。

「希望の党」に参集した、多くの政治家には、この「真摯さ」に欠るものが多いです。なぜなら、彼らの普段の行動をみていれば、良くわかります。彼らのほとんどは"「何が正しいか」よりも、「誰が正しいか」に関心を持っています。

どういうことかといえば、そもそも、「政策論争」=「何が正しいか」よりも「安倍政治を打倒する」=「だれが正しいか(安倍総理は正しくない)」ことにばかり心血を注いでいるからです。

つい最近も、前原氏の発言には、幻滅しました。選挙の公約などをインタビューされて、冒頭に語ったのが、「安倍政治を終わらせる」でした。

本来ならば、「自民党のこのような政策を終わらせ、このような政策に変える」というように、何が正しいかに焦点を置くべきです。

「安倍がー」「安倍がー」と叫んでばかりいたので、彼らのほとんど政治家として、成果をあげられず、結局民進党を解党しなければならなくなったのです。

民進党などの野党議員の中には、「安倍政治を終わらる」と語る者も多いです。しかし、これ自体は、大義でも目的でも、目標でもありません。安倍政治を終わらせるという事自体は本来手段にすぎません。

安倍政治が障害であるというのなら、安倍政治を終わらせて、自分たちの大義にのっとり、具体的な政策を掲げその目的をはっきりさせ、当面の目標を掲げるべきです。目標が定まらなければ、行動もできません。行動しても、成果が上がったのかどうかも確認することすらできません。

彼らは、このようなことばかりを繰り返してきました。これは、とてもじゃないですが、「真摯な」態度とはいえません。

小池知事の場合も、これに似たところがあります。都知事になってから、まだ日が浅いので、特に目立った成果はないのはある程度仕方ないとしても、今後国政に関与してくなら、やはり大義や、目的、当面の目標を明らかにすべきです。

そうでなければ、「真摯さに欠ける」と批判されても仕方ないと思います。

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2017年9月28日木曜日

テレビとタッグ、“小池劇場”でダマされる有権者 「悪い既得権者→そのしがらみを壊すため闘う私」―【私の論評】有権者は民主党政権誕生のときのような熱狂を繰り返すのか(゚д゚)!


写真はブログ管理人が挿入 以下同じ
小池百合子都知事は、国政新党「希望の党」(小池新党)を立ち上げ、自ら代表に就任した。この1年間、小池都政を冷静にウオッチしてきた、ジャーナリストの有本香氏が緊急寄稿した。


 国政での「小池新党」なるものが旗揚げされた。小池氏が1人で臨んだ記者会見(25日)は、顔の横にプラカードを掲げて話すやり方から、キャッチフレーズの空疎なところまで、すべてが昨年夏の都知事選出馬時のデジャブであった。

 ただ1点、前回と異なるのは、小池氏の周りに、大義はおろか義理さえも忘れたかのような議員や議員くずれの諸氏が集まっていることだ。だが、記者会見に彼らの姿はなく、今回も「小池劇場」の幕開けは一人芝居であった。

 キャッチフレーズとして「希望の政治、希望の経済…」など、「希望」を連呼していたが、その中身は具体的に語らない。「日本には希望がない」といい、それがあたかも「官僚」や「国」のせいのようにいう。「悪い既得権者がいる→そのしがらみを壊すため闘う私」というシナリオだ。

 景気浮揚の起爆剤となるはずだった2020年東京五輪の準備・工事を遅滞させることで、東京の「希望」を消失させている張本人による、この芝居は、もはやブラックジョークだ。それでも、またダマされる有権者は全国で相当数出るだろう。

 政治家にパフォーマンスは付き物とはいえ、小池氏は度を超えている。だが、多くの有権者がそれに気づかない。この成功を支えている鍵は、メディア、特にテレビとの共犯関係にある。

 1つ例を上げよう。

 昨年10月25日、新聞各紙に「東京五輪 3会場『400億円圧縮可能』…都が試算」(毎日新聞)などと記事が載った。

 水泳、バレー、ボート・カヌーの3会場を見直すと豪語した小池氏が、他の自治体を巻き込んで大騒ぎした揚げ句、元の鞘に収まったことは多くの方がご記憶だろう。ただ、工事内容を見直して400億円も削減したと、小池氏の「成果」が報道されていた。

 だが、今年になって自民党の川松真一朗都議が6月5日の都議会文教委員会で、これは「予算の付け替えに過ぎない」と疑問を投げかけた。

 顛末は、週刊新潮(6月22日号)に「『五輪400億削減はインチキ』に小池都知事が怒髪天 質問議員が語る」と報じられた。400億円削減の内訳は、予算の予備費200億円を減らし、残りの200億円は環境対策を目的とした都債を発行して賄うものだったというのだ。

 同誌は、小池氏の「債権を出す、ということはすなわち借金、ということだけではございません。それをいかに活用してゆくか、このような発想が必要ではないかと考えております」という誤魔化しの答弁も紹介している。

 小池都政はことごとく、この調子だ。

 「立ち止まる」「見直す」とか言って、マスメディアを引きつけ、過去の行政や周囲の誰かを悪者にして騒ぐ。時がたって、皆が忘れたころになってこっそり元に戻す、あるいは騒ぎで空いた穴を埋めるのだが、そのことは決して発表しない。メディアも追わない。

 「安全性に問題あり」として移転を延期した豊洲新市場が、実は安全だと後になって自ら口にし、まるで罪人扱いした石原慎太郎元都知事の「潔白」が明らかになっても素知らぬ顔だ。

 こうした「小池手法」を国政でも通用させるのか。今まさに、日本の政治と、私たち有権者のレベルが測られる重大な場面を迎えている。

 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『リベラルの中国認識が日本を滅ぼす』(産経新聞出版)、『「小池劇場」が日本を滅ぼす』(幻冬舎)など多数。

【私の論評】有権者は民主党政権誕生のときのような熱狂を繰り返すのか(゚д゚)!

上の記事には掲載されていませんが、これの他にも独特な「小池手法」があります。それは、民進党の政党交付金狙いです。

民進党は事実上、希望の党に合流する方向ですが、少なくとも10月22日投開票の衆院選終了までは、政党としての民進党は存続する見通しです。

その背景には、民進党所属の参院議員(49人)や多数の地方議員がいることに加え、民進、希望双方の選挙資金面の事情があります。

政党助成法は、政党交付金の交付を受けている政党が解散した場合、国庫へ返還しなければならないと規定。2009年8月結党の旧みんなの党が14年11月に解党した際には、保有していた政党交付金約12億円を返納しています。

民進に昨年1年間に交付された政党交付金は総額97億4388万円。もともと資金に不安がある希望の党はもちろん、民進党がすぐに解党すれば、希望公認で出馬する民進党候補の選挙資金もあてがなくなります。

このため、前原氏ら一部と参院議員らが当面残って民進党を形式的に存続させ、政党交付金は事実上、希望の党の選挙活動などにあてるとみられます。民進党が今、解党すれば何十億円も返さなければならなくなります。政党交付金を衆院選で活用した後で、正式に希望と合流すれば良いと考えているのでしょう。

小池氏はこの政党助成金を狙って、民進党との事実上の合流を決めたのです。民進党といえば、安倍政権を倒すために、安保法制反対、改憲反対を主張してきた政党です。

このような民進党と合流を決めた、小池氏自身は、安保法制賛成、改憲反対のバリバリの保守です。いわば水のと油のような関係の小池新党と民進党が合流するというのですから、政治信条などは関係なく、小池氏は政党助成金を求め、民進党は小池選挙互助会を求めて合流するということです。これは、偽善以外の何ものでもありません。

以下に前原氏の提案とみられる、文書を掲載します。


この文章からすると、民進党は事実上「希望の党」に合併されることになりそうです。そうして、政党助成金を確保するため、選挙後までは民進党を残すことを、前原氏も小池氏も了承していると考えられます。

民進党籍残したまま希望公認ということになると、民進党は蓮舫氏の二重国籍の次は全議員の二重党籍ということになります。これを多くの有権者はどう捉えるのでしょうか。

本日の民主党両院議員総会では前原氏から「名を捨てて、実をとる。安倍政権を終わらせる。誰かを排除する提案じゃない」と説明あったそうです。本日の毎日新聞では、民進党は28日午後の両院議員総会で、小池百合子東京都知事が代表を務める新党「希望の党」へ合流するとした前原誠司代表の提案を了承したと報道されています。

民進党前原代表 仙台にて27日
民進党の前原誠司代表が次期衆院選に、自身は無所属で出馬するとの意向を、周辺議員に伝えていることが分かったと報道されていますが、最初この報道を目にしたとき、意味が全くわからなかったのですが、上の事実を知ってやっと理解できました。

これだと、「緑の党」は旧民進党の全員を受け入れざるを得ないことになります。仮に、民進党の誰かを排除するということにでもなれば、かなり悶着がありそうです。ただし、前原氏が代表であるということから、前原氏が排除を受け入れれば、「希望の党」にとって、排除したい議員は排除しつつ、政党交付金も手に入るということになります。


この一点をとっても、とても小池新党の「希望の党」はまともな政党であるとは考えにくいです。

さすがにこの民進党と希望の党のやり方は、「安倍憎し」のマスコミがいかに「希望の党」に援護射撃したところで、国民の大半に総スカンをくうことになるでしょう。

民主党政権に政権交代したときの読売新聞の号外
しかし、過去には多くの有権者が騙されたわけで、民主党政権誕生から2年を迎えたのを前に、2011年9月に読売新聞社が実施した全国世論調査(3〜4日、面接方式)によると、政権交代したことを「良かった」と答えた人は47%でした。これは、今から考えるとかなりの高率だと思います。

現政権が実績が何もないというのなら、「希望の党」に「一度はやらせてみよう」というのも理解できますが、この20数年の歴代政権の中で最も良く経済を立て直し、安全保障や外交面でもきわめて高いレベルで努力した政権を、そもそも最初から何もなかった森友・加計問題でマスコミに煽られ、過去の悪夢を忘れて「新しいから一度はやらせよう」とまた同じことを有権者がしたとしたら、やがて日本は滅びことになることでしょう。

今回は、過去の民主党政権が生まれたときのような熱狂を有権者が繰り返さないことを祈ります。私は、今回は有権者を信じたいです。

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2017年9月27日水曜日

日銀総裁の財政発言は不適切 片岡氏の「反対」に納得、現状の金融緩和では力不足 ―【私の論評】マネジメントの原則からも片岡氏の行動は正しい(゚д゚)!

日銀総裁の財政発言は不適切 片岡氏の「反対」に納得、現状の金融緩和では力不足 

片岡剛司氏
日銀は審議委員に片岡剛士氏らが入り、新体制となった。9月20、21日に開いた金融政策決定会合ではさっそく金融政策の現状維持に「不十分」として反対した。

 片岡氏は「資本・労働市場に過大な供給余力が残存しているため、現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は2019年度ごろに2%の物価上昇率を達成するには不十分」と指摘した。この行動に、金融関係者からは驚きの声が上がったというが、筆者には片岡氏が言いたいことがよくわかる。

 筆者は、本コラムにおいて、これ以上下げられない構造失業率を「2%台半ば」と指摘してきた。実は、片岡氏も似たような推計をしていると聞いたことがある。金融政策のセオリーは、実際の失業率が構造失業率に低下するまで金融緩和を実施するというものだ。

 もちろん、半年から1年後の失業率を想定しながら、実際のオペレーションを考えるわけだが、今のままの金融緩和では、あと1年で構造失業率にまで達しそうにない。インフレ率の上昇は、失業率が構造失業率に達した後、賃金上昇とともに起こるので、2年後のインフレ目標2%は難しいということになる。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が資産縮小に動き出したので、日銀は今の緩和ペースでも円安になる可能性はあるが、本来の目標である雇用やインフレ率の改善のためには、それで満足してはいけない。

 先日の本コラムで、構造失業率2%台半ば、インフレ目標2%を達成するためには、過去のGDPギャップから推計して、有効需要で25兆円必要だと書いた。当面は補正予算もなく、2年後の19年10月には消費増税が確実視されている中、財政の観点からも有効需要の押し上げがないと思われるため、とても今の金融緩和だけでは力不足であろう。こうした標準的な経済分析からみれば、片岡氏の反対は納得できるものだ。

 日銀はもっと失業率の話をしないと、世界標準からずれてしまう。片岡氏には、日銀は労働環境を重視すべきだと主張してもらいたい。

 そうした意味で、黒田東彦(はるひこ)総裁が、「財政規律は非常に重要だ」と強調し、暗に積極財政を否定していることは理解できない。

 本コラムの読者であれば、日銀を含めた統合政府で考えると、日本には財政問題がほとんどないということを理解しているだろう。しかし、財務省出身の黒田氏は頑として認めようとしない。その一方で消費増税をすべきだと、日銀総裁としては越権ともいえる発言をしたこともある。

 今回の財政規律発言では、「十分関心を持って見ている」との表現で、かろうじて越権発言になっていないが、財政に関する発言は日銀総裁としては注意すべきだろう。むしろ、政府と日銀が共有しているインフレ目標の達成の観点から、財政政策と金融政策は同時発動すべきである。

 金融緩和しつつ、財政緊縮というのは、現在のマクロ経済政策としては適切ではない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】マネジメントの原則からも片岡氏の行動は正しい(゚д゚)!

本日は、まずはブログ冒頭の記事にもあるイールドカーブについて説明します。これについては、このブログでは過去においては、一度も解説していませんでしので、本日解説することにしました。

イールドカーブとは縦軸を「債券の利回り」、横軸を「債券の残存期間(満期日までの期間)」として、長期・短期債券の金利を結んだ曲線のことで、ある時点の市場における平均的な債券利回りと残存期間の関係を表していると言えます。通常は「流動性プレミアム仮説」に基づき残存期間が長くなればなるほど金利が高くなるため、右上がりの曲線になります(順イールド)。

逆に、イールドカーブが右下がりの曲線になる場合(逆イールド)は、投資家が将来において景気が減退することに連動して金利が低下すると予測していることを意味し、景気が減退していく傾向があると考えられます。


また、イールドカーブの急な傾き(イールドカーブのスティーブ化)は、将来の景気が上昇していく傾向があると考えられ、市場の投資家が将来において金利が上昇していくと予測していることを意味します。

逆に、イールドカーブの曲線がなだらか(緩やかな傾斜)の場合(イールドカーブのフラット化)、将来の景気が減退していく傾向があると考えられ、市場の投資家が将来において金利が低下していくと予測していることを意味します。

イールドカーブにより将来の景気動向、金融政策などがある程度予測できると言われています。まず景気動向についてですが、一般的には景気が将来的に上昇していくような状況では、イールドカーブのスティーブ化の現象、つまりイールドカーブの傾きが急になることが多いと言われています。

逆に、景気が将来的に減退していくような状況又は先行きが不透明な状況では、イールドカーブのフラット化の現象、つまりイールドカーブの曲線が緩やかな傾斜となることが多いと言われています。また、逆イールドは、景気減退の予兆と見ることもできます。
次に、金融政策との関係ですが、一般的に中央銀行の金融政策が引き締めの傾向にあるときには、逆イールドになる可能性が高いと言われています。この様なことからイールドカーブは景気動向や金融政策を予測するための指標としても利用されることがあります。
次に、イールドカーブ・コントロールについて解説します。
イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)は、2016年9月の日銀金融政策決定会合で日銀が新たに導入した政策枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の柱のひとつです。
2016年1月から始めた短期金利のマイナス金利政策に加え、10年物国債の金利が概ねゼロ%程度で推移するように買入れを行うことで短期から長期までの金利全体の動きをコントロールすることです。
日銀は指定する利回りで国債買入れを行う指値オペレーションを新たに導入するとともに、固定金利の資金供給オペレーションの期間を1年から10年に延長することによりイールドカーブ・コントロールを推進しています。

以下に日本国債の7月時点(7月31日)でのイールドカーブを掲載します。これは、財務省の金利データから作成したものです。

250日営業日前と比べるとイールドカーブが立ってきています。ただ、直近数か月は落ち着いているようです。10年物金利は概ね0から0.1%程度の間で収まっているようです。日銀のイールドカーブコントロールが効いてはいると思われます。

250営業日前と比べると明らかに水準が変わっていることがわかります。特に長期金利が上がっています。もっとも上がったといってもその差は1%にも満たない数字です。ただ、250営業日前は20年以上先の金利がほぼ同じでフラット化しており、何やら異常な感じがしますね。それから比べると現在はだいぶ正常な形に近づいているのかもしれません。あくまで形だけで、金利水準は大幅に低いのでしょう。

内閣府の資料によると日本の潜在成長率は0.8%とのこと。このままインフレが進まないと仮定すると、低成長の経済では資金需要が増えるとは考えられず、必然的に金利は高くならず、日本は低金利のままです。

いずれにせよ、イールドカーブはフラット化の傾向がみられ、特に250営業日前に関してはかなりフラット化しています。ということは、将来の景気が減退していく傾向があると考えられ、市場の投資家が将来において金利が低下していくと予測している可能性があることを意味します。

このようなイールドカーブをもとに、片岡剛司氏は「資本・労働市場に過大な供給余力が残存しているため、現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は2019年度ごろに2%の物価上昇率を達成するには不十分」と指摘したのです。

この状況では、やはり片岡氏の指摘するように、構造失業率を「2%台半ば」になるまで、追加の金融緩和を続ける必要がありそうです。

この必要性に関しては、高橋洋一氏の記事をもとに、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
安倍内閣内閣が問われる「20兆円財政出動」で物価目標2%達成―【私の論評】今国債を刷らずして、一体いつ刷るというのか?

この記事では、高橋洋一氏の記事をもとに、日銀は追加金融緩和を行い、構造的失業率が安定的に2.7%程度にすべきであることを掲載しました。

さらには、日銀の大規模な国債買い入れによる金融緩和が続く中、今後は国債需要が強まる四半期末ごとにレポ市場での需給逼迫(ひっぱく)が強まる可能性があります。日銀は短国の買い入れを減らして流通量を増やしていますが、それでも国債が足りなかったことも掲載しました。

そうしてて、このような状況では、本来は国がこの状況に対応するため、国債を刷り増すべきであると主張しました。政府(財務省)が本来すべき仕事をしなかったため、日銀の金融緩和に支障がでてくる可能性がでてきたのは間違いないです。

以上のように、「資本・労働市場に過大な供給余力が残存しているため、現在のイールドカーブのもとでの金融緩和効果は2019年度ごろに2%の物価上昇率を達成するには不十分」と指摘したことは十分根拠があり、正しいものと思います。

わこの行動に、金融関係者からは驚きの声が上がったといいいますが、片岡氏の行動は正しかったと思います。

このブログでは、最近政治や経済の話でも、意図して、意識して、マネジメントの原理原則にからめてお話をするようにしています。

このマネジメントの原理原則からしても、今回の片岡氏の行動は正しいです。

経営学の大家ドラッカー氏は、意思決定について以下のように述べています。
マネジメントの行なう意思決定は全会一致によってなしうるものではない。対立する意見が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断のなかから選択が行われて初めてなしうる。したがって意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ないときには決定を行わないことである。(『エッセンシャル版マネジメント』)
20世紀最高の経営者GMのアルフレッド・スローンは、反対意見が出ない案については、検討不十分として結論を出させなかったといいます。

意見の対立を促すには理由があります。一見もっともらしいが間違っている案や、不完全な案にだまされなくするためです。頭脳と感性を刺激し、すばらしい案を生み出すためです。

常に代案を手にするためでもあります。行なった意思決定が実行の段階で間違いであることや、不完全であることが明らかになったとき、途方に暮れたりしないためです。

そもそも戦略にかかわる問題については、ある案だけが正しく、ほかの案は間違っているなどと考えてはならないのです。そのようなことは、ありえないとすべきです。もちろん自分が正しく、他人が間違っていると考えてもならなのです。なぜ意見が違うのかを常に考えなければならないのです。さらには、誰が正しい、誰が間違いという観点で論議をしても、不毛です。何が正しい、何が正しいを問わなければならないのです。
明らかに間違った結論に達している者がいても、それは、なにか自分と違う現実を見、自分と違う問題に関心を持っているからに違いないと考えなければならない。(『マネジメント』)
ドラッカー氏は以下のようなことも語っています。
決定においては何が正しいかを考えなければならない。やがては妥協が必要になるからこそ、最初から誰が正しいか、何が受け入れられやすいかという観点からスタートしてはならない。(『経営者の条件』)
片岡氏1人だけが、 金融政策の現状維持に「不十分」として反対することは、確かに何が受け入れられやすいかという観点からは、一見あまり良いことのようにはみえません。

しかし、最初から全員に受け入れられやすい意見など述べていては、いずれ妥協するにしても、まともな妥協ができる可能性は薄くなります。

ドラッカーは次のようにも述べています。
頭のよい人、しかも責任感のある人は、せっかくの意思決定も実行されなければ意味がないと思う。そのため、最初から落としどころとしての妥協を考える。(『経営者の条件』)
片岡氏以外の日銀審議員は、最初から落としどころとしての妥協を考えた結果、金融緩和の現状維持の道を選んだのだと思います。

そうして、ドラッカーは、妥協について以下のように述べています。
妥協には2つの種類がある。1つは古い諺の「半切れのパンでも、ないよりはまし」、1つはソロモンの裁きの「半分の赤ん坊は、いないより悪い」との認識に基づく。前者では半分は必要条件を満足させる。パンの目的は食用であり、半切れのパンは食用となる。半分の赤ん坊では妥協にもならない。(『経営者の条件』)
最初から落としどころとしての妥協を考えていては、それこそ妥協するにしても、半分の赤ん坊しか得られないような妥協になってしまうおそれがあります。片岡氏はこのようなことは避けたかったのでしょう。

ドラッカーは、次のようにも語っています。
何が受け入れられやすいかからスタートしても得るところはない。それどころか、妥協の過程において大切なことを犠牲にし、正しい答えはもちろん、成果に結びつく可能性のある答を得る望みさえ失う。(『経営者の条件』)
片岡氏が反対しなければ、日銀の金融政策はこのようなことに陥る可能性が非常に高くなってしまったことでしょう。

様々な妥協を重ねていけば、いずれ日銀も、白川日銀総裁以前の日銀に戻ってしまい、何ら成果あげられない組織になってしまうかもしれません。

そのようなことは絶対に防がなければなりません。だかこそ、今回の片岡氏の行動は、賞賛に値するものだと思います。

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2017年9月26日火曜日

民進は共産と共闘するのか 増税凍結提言で維新好機、準備不足が響く小池新党―【私の論評】消費増税凍結が争点となりえない裏事情(゚д゚)!

民進は共産と共闘するのか 増税凍結提言で維新好機、準備不足が響く小池新党

安倍総理が衆院解散の表明をしたことを伝える街頭テレビ
 先日の本コラムで書いたように、衆議院解散の大義は北朝鮮情勢への対処である。年末から来年以降、暴走する北朝鮮を止めるために、米国の軍事オプションが視野に入る。そのときは選挙どころでなくなる。北朝鮮に対処するためにどのような政権が望ましいのかを選ぶのが今回の衆院選である。北朝鮮に対しては圧力なのか、対話なのかを問う、といってもいい。

 争点は国際情勢なので、消費増税は争点化しにくい。また、自民党と民進党は増税で一致している。もちろん平時であれば消費増税なしで国債を発行するのが望ましいが、争点にできないなら、法律どおり消費増税となる。民主党政権時代に消費増税が法律に盛り込まれたのをはね返すことができなかったわけだ。経済政策の視点からはデフレに逆戻りする恐れがあるが、これが政治というものだともいえる。

 北朝鮮への対処について、民進党はまだ「対話」と言い続けるのだろうか。対話はここ20年間行ってきたが、北朝鮮はウソをつき続けて、核・ミサイルを発射してきたという事実からみると、お花畑議論に思えて仕方がない。

 といっても、いまさらリアルな議論はできそうにもない。民進党内の保守系といわれる細野豪志氏や長島昭久氏は、こうした民進党の非現実的な議論に嫌気が差したとみえて離党した。

 前原誠司代表は、外交安保では比較的リアリストであるが、それでも党内の多くの意見は相変わらず「お花畑」なので、北朝鮮問題では「対話せよ」となって、共産党と比較的意見が合いそうである。

 となると、前原氏が忌み嫌っていた共産党との共闘が、各地の選挙区でみられるかもしれない。その際、野党は「森友学園と加計学園(モリ・カケ)疑惑隠しで国会解散」と言うだろう。本コラムの読者であれば、「モリカケ」問題に首相の疑惑はなく、単なる言いがかりであったことは明らかだろう。北朝鮮問題に比べると「モリカケ」は比較にならないが、国民にはどう映るのだろうか。

 日本維新の会は、外交安保では常識的な保守政党なので、国内政治でまともな意見を言ういい機会になる。自民も民進も言えない消費増税凍結や規制改革で両党との差別化を図りながら、存在感を増す好機だろう。憲法改正論議では、維新が先導してきた教育無償化を実現するチャンスでもある。

 「小池新党」は、ちょっと苦しい。風を吹かせるにはいい機会なのだが、なにしろ手勢が少なく準備不足だ。小池百合子氏が都知事から国政に復帰すると宣言すれば別の展開になるかもしれないが、今のままでは、北朝鮮問題への対処が争点になると苦しいだろう。

 安倍晋三首相は、最も得意とする外交安保で衆院解散を仕掛けるわけだが、はたしてどの政党がその論戦についてゆけるだろうか。各政党もここで勝てば、安倍政権打倒の道が開けてくるので、大いに選挙戦で争ってもらいたい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】消費増税凍結が争点となりえない裏事情(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事て高橋洋一氏は「争点は、国際情勢なので、消費増税は争点化しにくい」と語っています。これは確かにそうだと思います。

毎日新聞には以下のような記事が掲載されています。
財政健全化先送り 消費税の使途変更方針表明へ

 安倍晋三首相は20日、2020年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を黒字化する政府の財政健全化目標を先送りする方針を固めた。25日にも開く予定の記者会見で表明する。首相は衆院解散にあわせ、消費税率10%への引き上げによる増収分のうち、国の借金返済に充てる分を教育無償化などに回す考えを示す方針。教育充実のための予算確保と財政再建のバランスをどうとるのかが衆院選の争点の一つになりそうだ。

19年10月に消費税率を予定通り8%から10%へ引き上げた場合、約5兆円の増収が見込まれている。政府は、そのうち約4兆円を国の借金の返済に、残り約1兆円を医療、介護、子育てなど社会保障の充実に充てる予定だった。増収分の多くを借金返済に充てるのは、財政の債務負担を減らし将来にわたり安定的に社会保障費を確保するのが目的だ。 
 首相は、借金返済に充てる約4兆円の一部を教育無償化に回すことを検討。借金返済分が減り歳出が拡大するため、「目標先送りは避けられない」(政府高官)と判断した模様だ。PB黒字化の新たな目標年次は、教育無償化などに割り当てる財源の規模を詰めたうえで検討する見通し。 
 PBは、政策経費を新たな借金に頼らずどれだけ賄えているかを示す指標。内閣府の試算では、予定通り消費税を増税し高い経済成長を果たしても、20年度は8・2兆円の赤字が残る見込み。すでに目標達成は厳しい状況で、政府・与党内には「教育無償化への使い道の変更は、目標先送りの格好の理由になる」(政府関係者)との声もある。だが、首相は経済政策「アベノミクス」で、経済成長と財政再建の両立を訴え国際的にも財政再建目標をアピールしてきただけに、財政再建を後回しにする政策の変更について説明が求められそうだ。
この記事を読んで、安倍総理は10%増税する予定だと大騒ぎしている人もいるかもしれませんが、私はそうだとは思えません。

あれだけ、渋々増税したくないにもかかわらず、財務省はもとより、大部分の政治家、マスコミのほとんど、そうして経済関係には識者といわれる人までが、こぞって「8%増税の影響が日本経済に与える影響は軽微」としたにも関わらず、実際に蓋を開けてみれば、とんでもないことになりました。安倍総理は、増税派に根強い不信感を抱いているのは間違いないです。

8%増税は誰がみても、大失敗でした。直近では、茂木経済再生相は昨日の記者会見で、足元の景気回復が、第2次安倍内閣が発足した12年12月に始まり、4年10か月(58か月)がたっていることから、「戦後2番目のいざなぎ景気(57か月)を超える長さになった可能性が高い」との認識を示しています。

しかしながら、現実にはこの景気の良さも上辺だけであって、現実は相当厳しい状況にあります。それに関しては以前このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本を完全雇用・適度なインフレに導く、極めて効果的な方法があった―【私の論評】数字を見ればわかる、未だ緊縮財政で脆弱なわが国経済(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事にも掲載した、上のグラフを見てもわかるように、消費増税以降、デフレータは下降し続け、今やマイナス領域を推移しています。

デフレーターとは、ある国(または地域)の名目GDPから実質GDPを算出するために用いられる物価指数です。名目GDPと実質GDPはそれぞれ物価変動の影響を排除していないGDPと排除したGDPであるため、その比にあたるGDPデフレーターは、物価変動の程度を表す物価指数であると解釈されます。従ってGDPデフレーターの増加率がプラスであればインフレーション、マイナスであればデフレーションとみなせます。

このデフレーター消費税増税後しばらくしてから下がり続け、2017年なってからはマイナスになっています。この状況では、とても経済がしっかり回復したとはいえません。

これほど、8%増税にはこれほどの悪影響があったのです。なぜこのようなことになるかといえば、財務省が緊縮財政を行ったからです。そもそも、8%増税そのものが緊縮財政であり、さらに財務省は緊縮を行っています。

茂木経済再生相が語るように、経済の回復がみられるわけですが、それにはそれなりの背景があります。

これについても、この記事に掲載しています。以下にその部分を引用します。
"
消費と投資の回復は一体なぜもたらされたのか──その根拠は、下記のグラフから読み取ることができます。


このグラフは、日本経済を構成する「四主体」の内の三つ、「民間」「政府」「海外」の「貯蓄態度」を示すもの(日銀資金循環統計から)。

この「貯蓄率」という数字は「貯蓄額の対GDP比」ですから、各主体が「ケチ」になって「金づかい」が悪くなって貯金ばかりするようになると「上がり」ます。一方、各主体が「豪気」になって「金づかい」が良く(=荒く)なると、は「下がり」ます。

ご覧のように「民間」の貯蓄率は、この1年ほど「下落」してきています。これは、民間企業が「ケチ」な態度から「豪気」な態度にシフトし始めた事を意味しています。

別の言い方をすると、「内部留保する傾向を弱めてきている」という事を意味します。つまり、民間企業が、儲けたオカネを貯金する(=内部留保する)のでなく、消費や投資に使うようになってきたということを示しているのです。これこそ、「今期の消費と投資の拡大」を意味する統計値です。

では、なぜ、民間が貯蓄率を減らし、投資や消費を拡大し始めたのでしょうか。それは、海外の貯蓄率が下がってきた」という点に求められます。

ご覧の様に、この3年ほど、海外の貯蓄率は下落し続けています。これはつまり、外国人が日本で使うカネの量が、過去三年の間、増えてきた事を意味します。これは要するに、(相対的に)「輸出が増えてきた」ということを反映したもの。実際、ここ最近景気の良い企業の多くが、「輸出企業」だったのです。

http://datazoo.jp/w/%E8%BC%B8%E5%87%BA/32830318

さて、これらのデータを全て踏まえると、我が国のここ最近の経済動向は、次のようなものだ、という「実態」が見えてきます。
①ここ2,3年間、外需が伸びてきた事を受けて、外需関連企業の収益が改善した、 
②その影響を受け、ここにきてようやく、民間企業がトータルとして「内部留保」を縮小させ、消費と投資を拡大しはじめる程に景気が改善してきた。 
③これを受けて、ようやく(物価の力強い上昇は達成されていないものの──)「名目GDP」も上向き始めた──。
つまり、今の「よい数字」を導いた基本的な原因は「外需」だったわけであり、それがここにきてようやく、民間企業の力強い成長に結びついてきた、と言う次第です。

さて、この実情を踏まえれば、確かに、(金融緩和→円安→外需拡大をもたらした)アベノミクスは着実に、一定成功していることが見て取れるのですが、それと同時に、未だ、我が国経済の「成長の兆し」はとても確実で安定的なものだとは言えない、という姿も同時にくっきりと見えてきます。なぜなら我が国の現時点の成長の兆しは、「外需頼み」のものに過ぎず、したがって、極めて不安定なものと言わざるを得ないからです。
"

今後、デフレーターからみて未だ日本経済がデフレから完全に脱却しきっていないことと、直近の消費と投資の回復が外需によるものであることを考えると、朝鮮半島情勢で何か世界経済が大きな影響を受けると、日本経済も悪化する懸念は拭いきれません。

そうして、このグラフで政府貯蓄率というところに注目して下さい。日本がこのような状況であれば、財務省としては、積極財政に踏み切るべきなのですが、財務省のやり方は、その反対です。

政府貯蓄率が、増税後も右肩上がりに上がっているではありませんか。これは、あり得ないことです。普通の国の財務省であれば、増税後積極財政を行うので、政府貯蓄率は減っていくはずです。8%増税した上、さらに緊縮財政をするのですから、GDPデフレータがマイナスに触れるのも当然のことです。

このような状況でも、財務省は様々な理由でせっせとお金をためこみ、日本経済の回復のための積極財政を行おうしません。

このような主張をすると国の借金返済は仕方ないではないかという人もいるかもしれません。

しかし、この国の借金というものがそもそもインチキと言わざるを得ません。

まずは、「日本国」と「日本政府」は違います。「日本国」と言えば、国民、企業、団体、政府などで、「日本国の借金」と言えば、これらの人たちが負っている借金の総額になります。また「日本政府」なら、これも当然ですが、政府の財政だけで、国民や企業は関係がありません。

また「政府」のなかには「地方自治体」も入っていますので、厳密に言えば「広義の政府」としてもよいと思います。

そうして、この「日本政府」の財産状態ですが、「持っているお金(資産)」が、直接的なお金などで500兆円、土地などの固定資産が580兆円で、およそ1080兆円の資産があります。森友学園報道のときに、繰り返しテレビで出てきた「国有地」などは政府が持っている資産のひとつです(「政府所有地」と言わずに伝統的に「国有地」と言っています)。

これに対して政府の借金は主として国債で1040兆円です。資産が1080兆円、借金が1040兆円ですから、わずかですが40兆円ほどのお金が余っていることになります。

政府の国債を持っているのはほとんどが銀行で、そのお金は国民の預金ですから、「国債を買ったのは国民」と言ってもよいでしょう。

現在の日本政府の財政状態は、家庭で言えば、銀行に預けている貯金や株が500万円、土地が580万円、合計すると家の資産は1080万円。借金は1040万円なので、「いざというときには土地でも売ればなんとかなる」という状態です。

それに日銀も政府の中に入れると、いわゆる政府の借金なるものはさらに減ることになります。これに関しては、説明していると長くなるので、【関連記事】のところに掲載しておきます。とにかく、国の借金1000兆円などと大騒ぎするレベルでないことだけは確かです。

財務省は、資産など無視して、負債の額のみを示して、これを「国の借金」としています。これは、明らかに虚偽です。

これについては、以下の動画をご覧いただけると、さらにご理解いただけるものと思います。


「税と社会保障の三党合意は財務省によるペテンだった」という驚くべき内容です。実際財務省は、税と社会保障の一体改革として、消費税を社会保障の財源とするということで、三党を騙して、ほとんど危機的とはいえない国の借金の返済のなどの名目で、資産を溜め込んでいるのです。無論溜め込んだ資産は、将来様々な天下り先を構築し、財務省退官後のゴージャスなハッピーライフを送るための準備資金ということでしょう。

このような事実を安倍総理は十分理解していて、借金返済に充てる約4兆円の一部を教育無償化に回すことを検討という形で、財務省の、この溜め込み姿勢を批判しているのです。

そうして、以上のようなことから、安倍総理が今回の選挙では、増税を争点としないということは、どういうことか、今一度考えてみると、以下のようなことがいえると思います。

来年生誕90周年を迎える池田大作氏
まずは、首相の今回の解散決断は、北朝鮮情勢の緊迫化、内閣支持率の好転、上の動画にも掲載されていたように、公明党の来年の池田大作氏生誕90周に対する配慮など様々な要因が重なったための急ごしらえのものであるということがあります。

そのため、政治的な駆け引きが必要な消費増税の凍結や再々々延期などは全く無理です。10%の消費増税は、2019年10月に実施されることはすでに法律で決まってることです。これを凍結ないし再々々延期するには法律を修正するか、新しい法律を国会で通す必要があります。

そのためには、国会で消費税増税に反対する議員が多数派になっていなければなりません。無論、その前に安倍総理は自民党内をまとめる必要があります。

そもそもそのための政治日程など、組まれていませんし、白紙の状態にあると見て間違いないです。ちなみに他の野党・新党に至っては、たとえ言ってみたとしてみても、それを争点にして自党に選挙戦を有利にするまでの準備も何もない状況です。

そうして、上の読売新聞の記事のプライマリーバランス2020年問題に関しては、安倍総理の単なる口約束のようなものであり、いつでも撤回できるものであり、これは安倍総理による消費税の分配という形を借りた財務省批判と見るのが妥当だと思います。一般の人はもとより、政治家ですらも気づかないでしょうが、財務省の高級官僚たちは気づいていると思います。

私達としては、政治家や一般の人々も含めて、いかに財務省が酷いことをしているのかを訴えていくことと、今回の選挙では、北朝鮮対応を第一に考えるにしても、その中でも経済に関してまともな認識を持っている議員を選ぶことに専念すべきと思います。

そうして、安倍総理は選挙が終われば、憲法改正は無論のこと、消費税増税阻止に向けて着々と準備を開始すると思います。これは、ポスト安倍の政権運営にも必須です。もし、増税されてしまえば、増税後にはまた日本はデフレスパイラルのどん底に沈み、そのときの政権がいずれの政権であれ、政権運営はかなり困難になるのは目に見えています。

【関連記事】

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↑この記事で、統合政府ベースでの政府の負債について掲載しました。統合政府ベースではすでに、政府の借金はマイナスになっている可能性すらあります。

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2017年9月25日月曜日

「北朝鮮問題」覚悟を決めた安倍首相と、決められない野党の「大差」―【私の論評】政党が守るべき六つの規律と駄目にする六つの方法(゚д゚)!

「北朝鮮問題」覚悟を決めた安倍首相と、決められない野党の「大差」

選挙の争点は、やっぱりここだろう

髙橋 洋一経済学者
嘉悦大学教授

本日解散の意思を表明した安倍首相 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 「圧力か、対話か」

いよいよ衆院解散である。夕刊フジが9月13日発行号で「9・25解散強まる」と報じたのを皮切りに各マスコミがこれを後追い。しばらくは安倍首相も真意を明かさなかったが、今日25日についに衆院解散を表明する。

安倍首相の気持ちは、北朝鮮の一点にあるのだろう。国民と国家を守るために、どのような政府が必要なのかを国民へ問いかけるはずだ。先の国連での演説を読んでも、この決意がわかる。15分程度のものであるので、全文を読んだらいい(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0920enzetsu.html)。

北朝鮮の脅威が目の前に迫っていることを強く世界に訴えて、今は対話ではなく圧力の時だと、これまでの歴史を鑑みながら納得のいく説明をしている。振り返れば1994年の米朝間核合意、2005年の六ヶ国協議での北朝鮮の核放棄合意と、二度も対話による合意があった。にもかかわらず北朝鮮はいずれの合意も無視して、核・ミサイル開発を進めてきた。対話による安定を期待していたが、いまはその期待とはまったく正反対の状況にある。

安倍首相は、「三度も騙されるために対話をするのか」と選挙で訴えるだろう。国連で国際社会に訴えたように、国民にも問いかけるはずだ。

簡単な対立図式でいえば、「圧力か対話か」が選挙の重要な争点となるだろう。左派政党は「対話を」となるだろうが、はたして対話路線で、リアルな国際政治の議論についていけるだろうか。

実際の国際社会でも、当初中国とロシアは対話を主張していたが、最近では対話と圧力のなかで、圧力のウエイトが増している。特に、先日北朝鮮が実施した水爆実験では、さすがの中国もロシアも「これはマズい」と思いだしており、石油禁輸は盛り込まれなかったものの、それに準ずる強い制裁措置が採用されたことからも、それは明らかだ。

日米が強い対応を打ち出したところ、北朝鮮側は「超強硬対応を検討する」とした。まさに米朝のチキンレース。トランプ大統領は金委員長を「ロケットマン」と呼び、「アメリカや同盟国を攻撃する事態になれば、他の選択の余地はなく北朝鮮を完全に破壊する」ともいった。

これに対し金委員長が声明をだした。かの国で委員長が声明を出すこと自体が異例であるが、「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」とした。「慎重に考慮」と表現しているところに、まだ最終段階には至らない余地を感じるが、これでチキンレースはまた一歩進んだ。

特に、金氏は声明の最後で「行動で見せる」といっているので、さらに核・ミサイル開発を進めるのは確実だ。北朝鮮は独裁国家なので、誰も金正恩委員長に意見を言える人はいない。委員長のいうことを実行するだけである。

一方、アメリカでトランプ大統領に意見を言える人は、北朝鮮に比べれば長女のイバンカ氏をはじめ少なからず存在しているが、もはやトランプ大統領も引き下がれない段階まできている。

 安倍首相は知っているのではないか

そんな中で行われる10月選挙。焦点となるのは、やはり北朝鮮情勢なのである。そんなときに総選挙している場合かという批判もあるが、素直に考えれば、あと1カ月ぐらいのスパンでは、アメリカと北朝鮮が武力衝突にまで進む可能性は少ないとみている。

11月上旬にはトランプ米大統領の初来日が検討されており、国連の経済制裁も当初のアメリカ案より後退したので、逆にいえばまだ手が残っている段階だ。今後さらなる制裁案が出てくる可能性があるので、軍事行動という選択肢はまだ先だ。

ただし、今後1年くらいというタイムスパンでみれば、北朝鮮が確実にアメリカ本土の核ミサイル攻撃できる能力を持つ可能性が高いので、どのような口実を作ってでもアメリカは北朝鮮を攻撃するのではないか。

となると、来年12月の衆院任期までに解散総選挙を行うのは難しい情勢になる。安倍首相は、北朝鮮によって首相の解散権が制約を受けることを何より嫌うはずだ。

実際にアメリカが軍事行動を起さないという楽観論はない。去る18日には、マティス国防長官が、「ソウルを重大な危機にさらさずに、北朝鮮に対して軍事的な対応を採ることが可能だ」と語っている。

アメリカは北朝鮮の主要な攻撃拠点を把握しており、数百発以上の巡航ミサイルなどによる同時攻撃が可能だし、その前に北朝鮮の指揮命令系統を混乱させる技術も持っているといわれている。こうした情報は、日本政府首脳にも伝えられているようだ。

しかも、アメリカにはこれまで多くの戦争に関わってきた歴史がある。最近の国際紛争では、アメリカが関与していないものを探すのが難しいほどだ。アメリカは強大な軍事力があるので、事件を「でっち上げ」てでも戦争の口実にする国だ。

ベトナム戦争でのトンキン湾事件はその典型例だ。イラク戦争での大量破壊兵器も事実でなかった。アメリカの話ではないが、湾岸戦争でも米国政府が引用したナイラ証言はクウェートの広報戦略だったことが明らかになっている。

ナイラ証言を報道するテレビ
筆者は、こうした謀略まがいを肯定するものでないが、戦争の口実はいくらでも作れるのが歴史の教訓であると思っている。アメリカはそうした戦略に基づき行動してきた国であることは、良くも悪くも事実なのだ。

実は筆者は、先日の北朝鮮の水爆実験が既にアメリカのデットラインを超えてしまったと思っている。こうしたトランプ大統領の感覚について、安倍首相は世界で一番早く掴める人物だろう。国連演説後の昼食会があったが、トランプ大統領は事前に「シンゾウの隣の席にして欲しい。そうでなければ昼食会には出席しない」と国連事務局に伝えたという。

初の日米首脳会談で、トランプ大統領は安倍首相と20秒近くも握手したり、1.5ラウンドもゴルフをした仲だ。最近でも、電話連絡を1日に何回もしているようだ。

そうした間柄なので、トランプ大統領の今後の行動について、安倍首相はこれまでの日本の歴代首相とは比較にならないどころか、現時点で世界で一番読めている、と考えるべきだろう。やはり今回このタイミングで解散総選挙が行われることは、いずれアメリカが行動にでることを示唆しているのではないか。

まさに、日本の命運を握っている「トランプ・カード」を手にしているのが安倍首相であるが、これに立ち向かう野党の人々は頼りない。

 不利な政党、チャンスの政党

今回の総選挙の争点は、これまで述べてきた①北朝鮮への対応(対話か圧力か)のほかに、②消費増税の是非、③憲法改正となるだろう。

民進党は北朝鮮対処で「まだ対話が必要」というのだろうか。もしそうであれば、それはここ20年間の対話で北朝鮮がウソをいい続けて核・ミサイルを開発してきたという事実にはどう答えるのか。それでもまだ、というのは「お花畑議論」に思えて仕方ない。

といっても、民進党はもう北朝鮮問題でリアルな議論はできそうにもない。民進党内の保守系といわれる細野氏や長島氏は、こうした民進党の非現実的な議論に飽きて離党している。

前原氏は外交安保では比較的リアリストであるが、それでも党内の多くの意見は相変わらす「お花畑」なので、北朝鮮問題では「対話せよ」となって、共産党と比較的に意見が合いそうである。となると、前原氏が忌み嫌っていた共産党との共闘が、各地の選挙区でみられるかもしれない。その際、「モリかけ」の疑惑隠しのための国会解散だ、というだろう。

本コラムの読者であれば、「モリかけ」における総理の疑惑について裏付けされたものはひとつもなく、単なる言いがかりであったことが明らかだ。「モリかけ」は腹一杯である(笑)。北朝鮮問題の重要度に比べると「モリかけ」は次元が低い話で比較にならないが、国民にはどう映るのだろうか。

民進党は、②と③についても自民党とは明確な差が出せそうになく、苦しい選挙となるだろう。

日本維新の会は、外交安保では常識的な保守政党なので、まともな意見をいうチャンスである。自民党も民進党もいえない、①での非核三原則の見直し、②で消費増税凍結や規制改革を主張し両党との差別化を図りながら、存在感を増す好機だろう。③の憲法改正では、日本維新の会が先導してきた「教育無償化実現」を訴えるチャンスだ。

小池新党はどうだろうか。保守系の人たちが一気に集まれば面白いことになる。風を吹かすにはいい機会なのだが、なにしろ手勢が少なく準備不足である。小池氏が都知事から国政復帰すると宣言すれば別の展開になるかもしれないが、今の状況では難しいだろう。北朝鮮問題への対処が争点となるなかで、存在感を見せられるか。

小池百合子東京都知事は、本日都内で会見し、新党「希望の党」の立ち上げを発表した
いずれにしても、①北朝鮮への対応(対話か圧力か)が総選挙の中心争点になると、これまで集団的自衛権や安保法制に反対してきた政党や政治家は苦しい展開を強いられることになる。

リアルな危機を目の前にすると、「お花畑議論」がまったく通用しないからだ。この点、自衛隊を違憲と主張する共産党が今回の選挙でどのような結果となるか、も注目の一つである。

総選挙は、しばしば「政策の展覧会」ともいわれる。この際、各政党が外交安保、経済などで是非論戦を戦わせて、国民に政策の選択肢を示してほしい。安倍首相は、もっとも得意とする外交安保で解散総選挙を仕掛けたわけだが、はたしてどの政党がその論戦について行けるだろうか。

各政党もここで勝てば、安倍政権打倒の道が開けている。おおいに自説を掲げて戦ってもらいたい。

【私の論評】政党が守るべき六つの規律、駄目にする六つの方法(゚д゚)!

さて、本日も最近の解散にともなう、各党の状況をマネジメント的観点から分析しようと思います。全政党について分析するということになれば、あまりに長くなるので、自民党と民進党の対比ということにします。

特に、自民党などの有利な状況と、民進党などの不利な状況について分析してみます。特にドラッカーの考え方を適用して分析してみようと思います。

ドラッカーは政治学者ではないので、政治そのものや、政党について分析した書籍はありません。ただし書籍の中の一部で政治や政党などについて分析していることはあります。

政党は、非営利組織であり公的機関とみなしても良いと思います。そうしてドラッカー自身も、マネジメントの基本はあらゆる組織にあてはまるとしているので、ドラッカー公的機関に関する分析は、日本の政党の分析にも役立つものと思います。

ドラッカーは、"公的機関が必要とするのは卓越した人材ではない六つの“規律”である"としています。政党も優秀な人がいれば良いというものではなく、やはり守るべき規律をまもらなければ、衰退していくものと思います。
あらゆる公的機関が、六つの規律を自らに課す必要がある。事業の定義、目標の設定、活動の優先順位、成果の尺度、成果の評価、活動の廃棄である。(ドラッカー名著集(13)『マネジメント──課題、責任、実践』[上])
今ようやく日本でも、公的機関の見直しが急ピッチで進められています。しかしドラッカーは、すでに3分の1世紀前に、公的機関に成果を上げさせるための規律を明らかにしています。

第一に、自らの事業を定義することです。「事業は何か」「何であるべきか」を定義することです。ありうる定義をすべて公にし、それらを徹底的に検討することです。これは、政党でいえば、どのような政策を考えるかということにあたると思います。

第二に、その定義に従い、明確な目標を設定することです。成果を上げるには、活動に直結する目標が必要です。目標がなければ活動のしようがないです。

第三に、活動に優先順位をつけることです。同時に、期限を明らかにし、担当する部署を決めることです。

第四に、成果の尺度を明らかにすることです。尺度がなくては、せっかくの事業の定義や目標も、絵空事に終わります。

第五に、その尺度を使って成果のフィードバックを行なうことです。全組織が成果による自己目標管理を行なわなければならないのです。

第六に、事業の定義に合わなくなった目標、無効になった優先順位、意味の失われた尺度を廃棄することです。不十分な成果に資金とエネルギーを投入し続けることのないよう、非生産的なものすべてを廃棄するシステムを持つのです。

これらのステップのうち最も重要なものは、事業の定義だと誰もが思うかもしれません。ところがドラッカーは、最も重要なものは、第六のステップだといいます。企業には、非生産的な活動を廃棄しなければ倒産するというメカニズムが組み込まれています。ところが、公的機関にはそのようなメカニズムがないです。

公的機関が必要としているのは、人の入れ替えの類いではない。わずか六つの規律を守ることなのです。
公的機関に必要なことは、企業のまねではない。成果をあげることである。病院は病院として、大学は大学として、行政機関は行政機関として成果をあげることである。つまり、自らに特有の目的、ミッション、機能を徹底的に検討して、求められる成果をあげることである。(『マネジメント』)
これは、無論政党にもあてはまることです。政党も成果をあげなければ存在意義がありません。

そうして、この点から自民党と、民進党を比較すると、どちらか特に優れているということもないようです。私は、このブログにも過去に何度か、民主党(現在の民進党)は、自民党のコピーのような政党であり、コピーした分だけ、劣化しているということを指摘しました。

そのためでしょうか、六つの“規律”という観点からみると、自民党と民進党のいずれが、この規律を守れているかといえば、どちらの党も似たり寄ったりであると思います。

ただし、自民党のほうが、第六の規律については、民進党よりははるかにましであると考えます。経済政策においては、増税では失敗したものの、金融緩和策では成功して、雇用状況がかなり改善されています。また、北朝鮮情勢に対する対応も、素早いものがあります。

ドラッカー氏
政党などの組織も、成果あげることは容易ではありません。公的機関の成果について、ドラッカーは以下のように語っています。
公的機関が成果をあげるようにすることは容易でない。しかし、公的機関が成果をあげないようにすることは簡単である。6つの罪のうちどの2つを犯しても、成果は立ちどころにあがらなくなる。今日、公的機関の多くが6つの罪のすべてを犯しているが、その必要はない。2つで十分である。(『日本 成功の代償』)
これは、1980年、ドラッカーが「パブリック・アドミニストレーション・レヴュー」誌に寄稿した論文を引用したものです。これは、『日本 成功の代償』に収載されているが、日本の公的機関についてだけ書いたものではありません。世界中の公的機関が抱える問題を論じています。

公的機関が成果を上げないようにするための第1の方法は、ドラッカーは、目的として、「保健」や「身体障害者福祉」などのあいまいなスローガンを掲げることであるとしています。

この種のスローガンは、設立趣意書に書かれるだけの値打のものであり、いかなる趣旨のもとに設立したかは明らかにしても、いかなる成果をあげるべきかは明らかにしないからです。

第2の方法は、複数の事業に同時に取り組むことです。優先順位を決め、それに従うことを拒否することであす。優先順位がなければ、努力は分散するだけとなります。
第3の方法は、「肥満が美しい」とすることです。ドラッカーは痛烈です。「金で問題の解決を図ることは間違いだと言われる。だが頻繁に目にするのは、人手で解決を図ることである。人員過剰は資金過剰よりも始末に負えない」。

第4の方法
は、実験抜きに信念に基づいて活動することです。ドラッカーは、これは、「初めから大規模にやれ、改善はそれからだ」という、今日の公的機関に一般的に見られる態度だと指摘します。

第5の方法は、経験から学ぼうとしないことです。つまり、何を期待するかを事前に検討することなく、したがって、「結果」を「期待」にフィードバックさせないことです。

第6の方法は、何ものも廃棄しないことです。もちろん、この方法によれば、ほとんどただちに成果を上げられなくなります。
政府機関であれ民間機関であれ、公的機関はすべて不滅の存在と前提している。馬鹿げた前提である。そのような前提が、公的機関をして成果をあげなくさせている。(『日本 成功の代償』)
政党として、成果があげられないようにする方法に関して、両党を比較してみました。

まずは、第一のあいまいなスローガンをあげるといいうことでは、 自民党は党の綱領などみてみましたが、作成されたのが、昭和30年代であり、そこから改定されていません。これでは、民進党の綱領は昨年作成されているのですが、結論からいうとまさに、「あいまいなスローガン」になっています。

民進党には、「結党宣言」もありますが、その最後の言葉「野党勢力を結集し、政権を担うことのできる新たな政党をつくる」という文言があります。野党を結集したら政権を担える、その発想がそもそも旧態依然とした55年体制的なのです。

自民党は、古いスローガンがそのまま、民進党は曖昧なスローガンということで両者に差はありません。第2〜第4もさほど差があるとは思えません。

しかし、第5と第6では大きな差異があると思います。民進党は、ブーメランという言葉で象徴されるように、過去においても、何度もスキャンダルで自民党を批判し、その都度かえつて不利な状況を招いてきました。スキャンダル追求では、過去においては何の成果をあげることもできませんでした。

しかし、「森友・加計問題」に関しては、いっときかなり成果をあげたかのように見えました。そうして、現在でも野党はこの問題を追求し続けたいようです。実際以下のような新聞記事があります。
野党、冒頭解散を批判 民進代表「疑惑隠し」  :日本経済新聞

野党は19日、28日召集の臨時国会冒頭で衆院を解散する意向を固めた安倍晋三首相を批判した。 
民進党の前原誠司代表は19日の党常任幹事会で、学校法人「森友学園」「加計学園」の問題に触れ「敵前逃亡、自己保身、疑惑隠しの解散と言わざるを得ない」と強調。 
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ところが、わずか二ヶ月前には、同じ日経新聞に以下のような報道がされていました。
蓮舫氏「解散に追い込む」=社民幹事長も同調:時事ドットコム

民進党の蓮舫代表は6日の記者会見で、自民党が東京都議選で惨敗したことを受け、「解散・総選挙はいつでも受けて立つ。(衆院解散に)追い込みたい」と述べた。
 社民党の又市征治幹事長も同日の会見で、「内閣改造でごまかそうとしているが、解散・総選挙を打たざるを得ないところに追い込むことが大事だ」と強調した。
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これでは、完全に矛盾しています。安倍総理の解散の決断は、二ヶ月前の野党の要望に沿ったものともいえるものです。

「森友・加計問題」のようなスキャンダル追求は、結局過去においてはめぼしい効果をあげていません。過去においては、いくら野党がスキャンダル追求をしても、与党の支持率は微動だにしませんでした。

「森友・加計問題」では、一時支持率は落ちたものの、現在では回復しています。本当に、民進党をはじめとする野党は、経験に学ぶということができないようです。

安倍総理は、経験に学ぶということができます。第一次安倍内閣のときの失敗を謙虚に反省して、現在の政権運営に生かしています。特に経済面ではそうです。とはいいながら、これはあくまで、安倍総理とその側近に関していえるということであり、残念ながら、自民党という組織としては、あまり経験に学ぶということは得意ではないようです。

とはいいながら、総裁がそのような姿勢なので、民主党の大失敗の経験から学ぼうとしない民進党前原代表や幹部の存在する民進党とは大きな差があります。

第6の方法は、何ものも廃棄しないということでは、やはり民進党のほうに軍配があがります。ほんとうに、古い考えをそのまま、温存して何も破棄しようとしません。

まずは、上記であげたように、スキャンダル追求主体という方法をいつまでも堅持しています。無論、いっさいやるなとはいいませんが、これが主体で、政策論争がおろそかというのでは、本末転倒です。

それに、憲法でも、安全保障に関する事柄でも、とにかく古いものにしがみつくということでは、自民党に比較しても、かなり劣っています。

それにしても、上の6つの規律、公的機関が成果を上げないようにするため6つの方法など見ていると、自民党も決して優れた政党ではないことが理解できます。

やはり、今回の選挙では、各政党が外交安保、経済などで是非論戦を戦わせて、国民に政策の選択肢を示してほしいものです。

各政党もここで勝ち、上で上げた諸規律を守り抜けば、目覚ましい成果をあげて、安倍政権打倒の道が開けることになるかもしれません。また、そのような政党が出てくれば、自民党にも多いに刺激になって、良い政策を打ち出し、政権の座を守り抜くことになるかもしれません。各党おおいに自説を掲げて戦っていただきたいものです。

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