2022年6月9日木曜日

日銀黒田総裁の“値上げ許容”発言 本人は発言撤回したものの庶民の怒りは収まらない!あなたは値上げを許容できていますか?―【私の論評】黒田総裁批判でまた露呈したマクロ的見方ができない人たち(゚д゚)!

日銀黒田総裁の“値上げ許容”発言 本人は発言撤回したものの庶民の怒りは収まらない!あなたは値上げを許容できていますか?


日銀の黒田総裁による“値上げ許容”発言が波紋を広げています。

今日国会の場で発言を撤回しましたが、実際、街の人たちは相次ぐ値上げを許容出来ているのでしょうか。

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■黒田総裁「値上げ許容」発言 撤回も…「分かっていない」
食べ物から洋服、そして家電まで、全199店舗、東京・板橋区の商店街「ハッピーロード大山」。

利用客
「大山は物価が安くて生活しやすい」

ただ、この商店街にも値上げの波が押し寄せていました。

6月7日に発表されたものでは、
「コカ・コーラ」の500ミリリットルが10月1日の出荷分から140円が160円に値上げ。

30代
「これ全身ユニクロなんですよ。基本的にユニクロで買い物させてもらっています」

そのユニクロも、8月から順次販売する秋冬向けの一部商品を値上げし、例えばフリースの一部商品は1990円から2990円に。

こうした中、6月6日、日銀の黒田総裁が、相次ぐ値上げに「許容度も高まっている」などと発言。

批判が相次ぎ、6月8日の国会で…

日銀・黒田総裁
「家計が値上げを受け入れているという表現は全く適切ではなかったということで撤回致します」

誤解を招く表現だったと発言を撤回しました。

本当に「値上げ許容度は高まっている」のでしょうか。商店街の人に、緊急調査を実施。

どの程度、値上げを「許容できる」のか「できない」のかを、数値で示してもらいました。

「値上げ許容度は高まっていない」にシールを貼った、こちらの2人。
どのくらい許容できないのかというと…

その度合いは、2人とも100%を超えました。

許容できない100%超
「一般市民の家庭の気持ちはわかっていないですよね」
「(黒田総裁は)ご自分で買い物されないとおっしゃっていたのであまりわかっていないのかなと」

許容できる30% 
「30%くらい。公共料金とかは値段上がっているなと感じるんですけど、まだそんなに急激に圧迫するような状況ではないので」

許容できない100%超
「本当はもっと振り切ってこっちいきたいくらい。黒田さんの発言?冗談じゃないね。上級国民の発言ですからね。実際に庶民の暮らしをしてみたらいいんですよ」

ではみなさん、この値上げラッシュをどんな工夫で乗り切っているのでしょうか。

20代
「安いときにまとめ買いしてストックしておくってことはしていますね」

30代
「野菜とか値上がっているものは控えたり他のもので補って」

■物価の優等生 バナナも値上げ? 店は?“努力の限界”
「安くておいしい」と人気の“物価の優等生”バナナも値上がりするかもしれません。

ラウレル駐日フィリピン大使
「現状のままを継続するというのはフィリピンのバナナ生産者にとって現実的ではなくフェアでもない」 

6月8日、フィリピン大使館は、全国のスーパーの業界団体に、バナナの小売価格を上げるよう申し入れました。

肥料価格の上昇などが理由で、果物の中で、最も輸入量が多いというバナナは、8割近くがフィリピン産。このニュースに…
   
30代
「バナナはすごく食べますね子どもは。他の値上げされてないフルーツを買うとか」

一方、お店側は、原材料費などが値上がりする中、どう対応をしているのでしょうか。

1936年創業の老舗の「新井精肉店」。揚げ物に使う油やパン粉などの価格が上昇し、6月1日からメンチカツなどの揚げ物のほとんどを10円ほど値上げ。

牛肉などの販売価格は据え置きにしていますが、肥料や輸送費が高騰しているといい…

新井精肉店 新井真之店長
「利幅が少なくなってきているので本当にたいへんですね」

カレーパンが人気商品だという、パン屋さん「マルジュー」。
   
マルジュー 伊東正浩代表取締役
「カレーパンだと揚げ油、中の油脂、上がらないものがないくらいすべて上がっています」

油のほかにも、パンの原料となる小麦や、食材、電気代などが値上がりしていることで今後、商品の価格を上げざるを得ないといいます。

マルジュー 伊東さん
「企業努力で吸収できるという範囲を完全に超えているというのが現状です」

2021年7月にオープンした、テイクアウト専門のドーナツ店「いっ久どーなつ大山茶屋」

いっ久どーなつ大山茶屋 伊藤泰翼オーナー
「テイクアウトで渡す袋だったり、飲み物のカップだったり何から何まで小麦粉とかもそうなんですけど全部上がっているので、正直結構きついです」

今後、値上げに踏み切るか、検討中だといいます。

【私の論評】黒田総裁批判でまた露呈したマクロ的見方ができない人たち(゚д゚)!

上の記事は、マクロ経済の話を個々人の物語で語るという間違いをしています。物語とは、主に人や事件などの一部始終について散文あるいは韻文で語られたものや書かれたものです。そもそも、国全体について語っていませんし、それにもともと国全体を物語で語るようなことはできません。

逆にマクロ的な分析に基づき、代表的、あるいは対照的な人、あるいは両方の人に関して物語を書くことはできますが、その逆は不可能に近いです。物語は、理念や理想や個人や組織などの実態に迫ることはできますが、国全体に迫るには無理があります。そのようなことを、与党、野党を問わず多くの政治家や、多くのマスコミが繰り返してきました、今回のことでも何も変わっていないことが露呈したと思います。


日銀の黒田総裁が6月6日、「家計の値上げの許容度も高まってきている」と発言しました。これは共同通信の「きさらぎ会」という講演で述べたものですが、7日の参院財政金融委員会のなかで「適切ではなかった」として陳謝しました。

ただ、スピーチ原稿などを見ると、きちんとデータも揃えて出しています。 これは、通常の物価予想調査です。データもあるし、謝る必要もなかったと思います。 そのデータを以下に掲載します。


マクロ経済の話なので、マクロ経済についての反論があるならいいのですが、マスコミ等はそうではなく、「自分にはそういう余裕がない」という一部の一方的な意見を書くだけなのです。

それに、アンケート調査にも、余裕がないという人が半分くらいいるのです。黒田総裁の話しいは、「許容できる人の割合が増えた」という、それだけの話なのです。

割合が少し増えたというだけなので、相変わらず「許容できない」という人はかなりいます。それはそれで「割合が増えた」ということは正しいのだけれども、こういうときに、マスコミの人はストーリーとして一部の例だけを言うわけです。全体の話をしていないから、議論にならないのです。

黒田さんは全体論として、徐々に許容している人が増えていると指摘していますし、それに「自分は許容していない」という人も、データにも入っています。 昨年(2021年)の8月は57%が許容しなかったのですが、今年の4月には44%になったと指摘しているのです。逆に言うと、許容する人としない人は、五分五分と言えば五分五分なのです。 

そういう意味では、許容しない人の意見があるのは間違いありません。そういうことではなく、全体の数字の変化を言っているだけなのですが、マスコミにはこの話は難しいようです。

ただし、大きな問題点はここにあるのではなく、現在の日本の大きな問題点は、GDPギャップ(需要と供給の乖離)があることです。内閣府の推計で現在の日本のGDPギャップ約20兆円あるととされています。この推計は低めであると考えられます。過去にも、GDPギャップがプラスになっても完全雇用を達成しなかった場合もります。

10兆円くらいは少なめに見積もっているようですから、本当は現状では30兆円くらいあるのです。 そうして、このギャップをどうやって埋めるのかということが問題の本質です。

内閣府の

黒田総裁は、コロナ禍で消費が抑えられ、どこにも使えなかったもの貯蓄になっている状態にあり、この強制貯蓄が爆発すると主張しているのです。しかし、大きなGDPギャップがあった場合には呼び水が必要です。これは誘い水政策ともいいます。不況期において財政支出を呼び水として、民間需要を喚起し景気を回復させようとする政策です

呼び水がないと、消費は爆発はしません。 強制貯蓄があったにしても、将来が不安ですから貯蓄を取り崩すことはないのです。呼び水があって、初めて消費があり、景気がよくなり出すのです。最初にだれが消費爆発のきっかけをつくるのかといえば、それは政府なのです。

黒田総裁ははそうではなく、強制貯蓄があるから政府は何も対策をしなくとも良いという主張をしているわけです。この論法は、財務省がよくやる論法です。私はそちらの方が問題だと思うし、これはマクロ経済の話なのです。マクロ経済のGDPギャップを誰が最初に埋めるか、どのように埋めるか。埋めなければ失業が増えるだけなので、どうやって埋めるかということです。今回の黒田氏批判は、その政策議論まで到達すればいいと思ったのだけれども、どうもそうはなりそうもありません。

今回の黒田総裁のスピーチ原稿は、日銀のホームページに載っています。確かに、「強制貯蓄が」と言う言葉がでてきます。 財務省いつもそれを言っています。「強制貯蓄が~」という人は、財政出動したくない立場の人なのです。

強制貯蓄がどうせ爆発するから、民間は絶対に出るので財政出動は要らないという立場なのです。 しかし、マクロ経済的には強制貯蓄を引き出すためにも、最初に財政出動が必要なのです。順番を間違えるととんでもないことになります。そこをポイントとして政策議論してもらうと面白いのですが、野党の質問を聞いていると、全く無理なようです。「黒田さんは買い物をしたことがあるのですか?」という話ばかりですから話になりません。

そういう意味では、私は黒田総裁の考えには、大反対です。ただ、マスコミが黒田批判をしているのとは全く違う次元で反対です。

そもそも、会社などで、長期戦略などを考えるときに、何も考えずにただ街にでていろいろな人にインタビューして、個々の人のストーリを集めてきて、それに基づき戦略を立てれば、馬鹿といわれるだけだと思います。

様々な数字から仮説を立て、既存の数字で足りない場合は、自ら調査をして仮説を練り直し、その上で仮説に基づき、多くの人に直接話しを聴いたりした上で、長期戦略を立案することになります。ただ、それでも仮説に過ぎません。

では、どうするかといえば、3年毎に見直すなどのことをします。うまく行けば、それで良いですし、うまくいかない部分は練り直します。無論取締役以上は直接戦略を立案したり、それを実行することはないですが、戦略以前の理念、理想、方向づけ、さらに問題を浮かびあがらせること、選択を提示し、エネルギーの結集をしなければなりません。それには、論理的思考水平的思考は無論のこと統合的思考が重要です。

統合的思考とは、相克するアイデアや問題事項の対立点を解消することにより、より高次の第三の解答を見つけ出す思考法のことです。理論的思考や、水平敵思考によって、いろいろなアイディアが浮かんできます。ただし、アイディアがたくさんあるだけでは、実行に移すことはできません。

それどころか、混乱するだけです。ここで、数多くのアイデアを取捨選択、統合するとともに、実施すべき順番を考える必要があります。また、数多くのアイデアを束ねるだけではなく、一言で言い表したりして、誰にも理解できるようにして、さらに高次元にする必要があります。それが、統合的思考です。経営者クラスはこれができなければなりません。

マクロ経済政策においては、このような考え方ができないと、その本質を理解し、何を実行すべきかを認識することはできません。

マスコミにもかつては、幹部などではこのようなことができる人もいたのでしょうが、今ではそうではないようです。官僚でも、政治家でもそのような人は少ないようです。

ただ、民間企業にはそのような人も存在します。結局民間企業は、幹部や経営者クラスにでもなれば、様々な戦略などの方向づけなどを行いますが、それがまともだったのか、まともでなかったかは、数年後にすぐに明らかになります。どんなに優れているように見えても、理想的であって、正しく見えても、目標である経済的利益が得られなかった場合は、それは失敗であったことがはっきりするからです。

ただ民間企業とはいっても、たとえグルーパル企業のような巨大企業であったにしても、やはり国全体と比較すれば、小さいです。特に、日米などではそうです。人口数百万くらいの国であれば、大企業にあてはまる考えを国や政府に当てはめてもさほどの齟齬は生じないかもしれませんが、人口が数千万人〜1億人を超えるような国では、それはできません。

大企業で養った、統合的思考が国でも同じようにすべて適用できるかといえばそうではありません。そのため、大企業にあてはまる考えを国や政府に当てはめて奇妙奇天烈、摩訶不思議な主張をする大企業の経営者もいます。

ただ、安倍元総理のように少数ながらも、統合的思考ができる人もいるわけですから、まったく無理ということはないのでしょうが、それにしても今の日本の現状は心もとないです。安倍元総理のことを評して「細かいこと、チマチマしたことが嫌いな人」と評するメディアもありましたが、彼らは安倍元総理が統合的な思考をしているということに思いが至らないのでしょう。

統合的思考によらず、論理的・水平的思考でのみ国の状況や政府の政策を考えると、家計や大企業で通じる考え方を国や政府の政策にあてはめて論議をしがちであり、それは無意味であるどころか、良くて徒労、はなはだしくは有害になったりします。

ただ、一筋の希望もあります。それは、多方面から情報を集める能力持ち、それらを分析し、統合できる若い世代が育っていることです。こういう人たちが増え、テレビのワイドショーだけが情報源であるような人たちが減っていけば、日本でもマクロ的な見方ができるようになるでしょう。

多くの政治家や官僚、メディアの人たちもなぜ自分たちの考えが若者から支持されなくなってきたのか、あるいは自分たちが尊敬されなくなったのか良く考えてみるべきです。

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2022年6月8日水曜日

原発再稼働阻む〝国民の不信感〟 司法も社会的コスト考慮せず…安全と電気供給は両立できる―【私の論評】停電で多数の死者が出る前に、原発を稼働させるべき(゚д゚)!

日本の解き方


泊原発

 電力不足が懸念されるなか、札幌地裁は北海道電力泊原発1~3号機の運転を差し止める判決を出した。一方、島根県の丸山達也知事は中国電力島根原発2号機の再稼働に同意した。

 北電を相手取った訴訟の判決で、谷口哲也裁判長は「基準で求められている津波防護施設が存在しない」と運転差し止めを命じた。廃炉措置については「廃炉まで必要な具体的な事情はない」として認めなかった。

 泊原発の1~3号機は2011年3月の東日本大震災後、順次停止したが、北電は13年7月の国の新規制基準施行と同時に再稼働を申請。現在も原子力規制委員会で審査が続いている。

 原告らは11年11月に提訴、10年余りにわたる裁判で、積丹半島西岸付近に海底活断層があるか、防潮堤が最大想定の津波を防げるかなどが審理された。

 その判決が今回出たが、確定しない限り再稼働を止める効力はない。

 原子力規制委員会も司法も、再稼働しない場合の社会的コストを考慮しているとはいえない。約10年にわたって審査や審理をしているが、その間、再稼働していないので、電力料金の高騰やブラックアウト(大規模停電)のリスクもある。

 本当に安全性だけを考慮するのであれば、原発はない方がいいのだろう。だが、それでは、電力供給という社会的使命が達成できない。

 安全を考慮しながら社会的コストを低減するには、再稼働をさせながら、同時に安全対策を講じるのがいい。原発は稼働中と不稼働中のリスクに顕著な差はない。であれば、稼働させながら安全対策を講じれば、安全と電気供給の両立が可能だ。

 活断層があるかどうかは、今後のリスク対策を考える上で、それほど重要であると思えない。

 これまでの地裁、高裁段階での、差し止め判決や仮処分決定は、以下のとおりだ。

①高速増殖炉「もんじゅ」(03年、名古屋高裁金沢支部)②志賀原発2号機(06年、金沢地裁)③大飯原発3、4号機(14年、福井地裁)④高浜原発3、4号機(15年、福井地裁)⑤高浜原発3、4号機(16年、大津地裁)⑥伊方原発3号機(17年、広島高裁)⑦伊方原発3号機(20年、広島高裁)⑧大飯原発3、4号機(20年、大阪地裁)⑨東海第2原発(21年、水戸地裁)。⑧は大阪高裁、⑨は東京高裁で係争中だが、他はすべて上級審などで判断が覆っている。

 原発に限らず、原子力にはアレルギーが強い。各地の係争をみても全国的な傾向だといえる。福島第1原発事故により安全神話が根底から崩れたので、信頼回復は困難だ。

 一方で、世界的なエネルギー逼迫(ひっぱく)で、原発を再稼働しないことによる社会的コストも大きい。日本の原発再稼働が少なく、天然ガスを余計に輸入することに対し、欧州などから批判も出てくる可能性がある。それらのバランスを取ることが必要だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】停電で多数の死者が出る前に、原発を稼働させるべき(゚д゚)!

北海道電力泊原発1~3号機の運転差し止めを命じた札幌地裁の谷口哲也裁判長(50)は兵庫県出身で、平成10年に任官。大阪地裁や京都地裁などで主に民事畑を歩み、担当した訴訟で検察を批判することもありました。

令和2年4月に札幌地裁に着任。北海道白老町のマイクロバス横転事故を巡り、刑事裁判で無罪が確定した運転手の男性が国に損害賠償を求めた訴訟の判決で今年1月、検察側の捜査のずさんさを指摘した上で「起訴は違法だった」と指弾しました。


泊原発の運転差し止めや廃炉などを求めた裁判で、北電は、運転差し止めを命じた一審の判決を不服として、2日、控訴しました。この裁判は裁判として、そろそろ私達は、電力問題についてリアルに考えなければならないのではないでしょうか。

皆さんご存知のように2018年9月6日3時7分の北海道胆振東部地震で、道内最大の石炭火力発電所・苫東厚真発電所が止まってしまい、北海道全域がブラックアウトに陥りました。私は札幌在住ですので、このブラックアウトを経験しました。国内電力史上、最大規模の大停電は復旧にも時間を要し、北海道の私たちは厳しい生活を送らざるを得ませんでした。

これ本当に大変です。水については公園の水が出ていたで、そこから汲んでつかいました。マンションの高層階に住んでいる人は、エレベーターは動かず、それに水汲みが大変なようでした。私は運良く、携帯電話、パソコン、IPadなど複数の端末があったので、電気を節約しながら、サイトなどから情報を得ることができました。

WIFIルーターも所有しているので、これも重宝しました。コンビニ、スーパーでは当然のことながら、商品は品薄状態が続きました。ちなみに我が家の近くの大手スーパは営業停止になりました。地産地表の地元スーパーは営業していたので、助かりました。

透析患者さんの中には、自分の通っている病院では透析ができず、大きな病院で透析をしたかたもいました。それも、大きな病院側の都合があって、人によっては夜中とか、早朝の方もいたそうです。

ただ、2日くらいのことだったので、何とかはなりましたが、これが1週間以上も続けばはとんでもないことになります。

苫東厚真発電所をあえて「石炭火力発電所」と紹介したのは、この発電所が石油でも天然ガスでもなく、石炭を燃焼させ発電している施設であることを思い起こしてほしいからです。

この数年、世界的に「脱石炭」の大きな流れがきています。「地球環境のことを考えるならば、環境負荷が大きい石炭火力はやめるべきだ」という意見が勢いを持つようになり、フランスは2021年までに石炭火力発電を全廃することを決め、ドイツも脱石炭火力に向けた委員会を立ち上げ、2018年末までに廃止時期を含んだ最終案をまとめるといいます。ひところ大気汚染が深刻だった中国も、石炭燃料の使用量削減などで大気の状態はかなり改善しています。

民間企業の側からも「脱石炭」の動きは強まっていました。アップルやフェイスブックは、自社で使うエネルギーを100%再生可能エネルギーにすると表明しています。日本国内でも、日本生命や明治安田生命が石炭火力への投融資から撤退するとしています。日本の世論ももちろん「脱石炭」でした。そう、胆振東部地震の前日までは、です。


胆振の地震で大規模なブラックアウトが起きると、少なくとも日本国内で「脱石炭」を煽るような報道はなくなりました。一刻も早く苫東厚真の石炭火力発電所が再稼働し、以前のように発電できるように、と願うようになりました。

これは、当然のことと思います。

ただ不審に思うのは。北海道には現在停止中の泊原子力発電所があることです。私は、むしろこの泊原発の早期再稼働に向けた準備を今すぐにでも行わせるべきだと思っています。少なくとも、北海道における安価かつ安定的な電力供給のための1つの選択肢ではあるはずです。

ところが、北海道全域を襲った非常事態を前にしても、泊原発の活用についての話が、政治の側からも役所の側からもほとんど出てきませんでした。これは異常な事態と言わざるを得ないです。なぜなら、多くの政治家や官僚は、原発再稼働こそが電力危機を回避する唯一の現実的方法だということを重々理解したはずだからです。

しかし実際には、政府からは菅義偉官房長官(当時)が会見の中で、「現在、原子力規制委員会で新規制基準に基づく安全審査中であり、直ちに再稼働をすることはあり得ない」と述べたのが、唯一「泊原発再稼働」に触れた発言でした。

ただ公の場で泊原発の稼働について発言人はほとんどいません。例外的に「再稼働」を堂々と主張しているのは自民党の青山繁晴参議院議員くらいではないでしょうか。

もちろん霞が関にも声を上げる者はいないし、泊原発を新規制基準に基づいて審査している原子力規制委員会の更田豊志委員長も、「今回の地震で審査が影響を受けることはない。急ぐこともない」と従来の方針を変えようともしませんでした。

では、マスコミはどうだったかとえば、原発再稼働を正面から主張しているのは主要紙では産経新聞のみで、後は再稼働反対の論陣を張っていました。

まるで、日本全体が「原発再稼働」について、強烈な言論統制下にあるかのようです。もちろん誰も統制してはいません。ただ批判を恐れて、自ら口を閉ざしてしまっているとしか思えません。

これではあたかも世の中全体で、「電力については、北海道電力がなんとかするまで、道民はじっと耐えよ」と言っているのと同じです。

規制委員会の新基準に基づく審査の下では、泊原発の再稼働はいつになるかは全く予想できないところにもってきてしかも札幌地裁は北海道電力泊原発1~3号機の運転を差し止める判決を出したのです。しかし旧基準に照らし合わせるならば、その気になれば、2週間もあれば再稼働ができてしまいます。実は、法的にも問題はないです。

あとは地元の知事が同意すれば良いです。この知事同意にも法的な根拠はないのですが、地元自治体と電力会社との間の協定に基づいて、電力会社は知事と議会から了解をもらうことが一般化しているにすぎないです。つまり、本来はその気になれば泊原発の再稼働は今すぐにでも可能なのです。

ところが、政治家も官僚もマスコミもあえてそれに触れようとはしません。批判を恐れて、「触らぬ神に祟りなし」を決め込んでいます。

結局、北海道の電力供給事情は今もいっぱいいっぱいの状態です。苫東厚真に大きなトラブルが起きれば、一気に需給はひっ迫します。その一方で、泊原発がまったく稼働せず管理費ばかりを食い続けている状態なので、肝心の北海道電力の経営が日に日に厳しくなっています。北海道の電力事情は、今も非常事態下にあると言ってよいです。

私は機会があるごとに「泊原発は再稼働させるべき」と発言してきましたしし、自分のツイッターでもたびたびそう主張してきました。それに対して、一部の人からは賛同のつぶやきが返されてくるですが、多くは「福島の二の舞になる」とか「直下型地震が起きたらどうする」といった批判です。

しかし、もしも直下型地震がやってきたとしても、それで原子炉が壊れることはありません。放射能が漏れるわけでもありません。今回の胆振東部地震でも、泊原発は一時、外部電源が失われたが、非常用ディーゼル発電機がきちんと稼働し、事故は起こりませんでした。仮に活断層が多少ずれたところで福島第一原発のような大事故が起こるわけではないのです。

実は政治家や官僚、電力や原子力の専門家もそのことはよく分かっています。それなのに、ごく一部の専門家らを除き、「原発再稼働」については一切口を閉ざしてしまっています。世間の「原発アレルギー」を極度に恐れてしまっているのです。

北海道胆振東部地震の後、北海道の冬を迎えるにあたり、太陽光や風力発電を火力発電に取って代わらせるべき、といったような意見は全く聞かれませんでした。個人の住宅で自分のところの電気の一部を太陽光発電で賄うということは可能ですが、太陽光は夜には発電しないし、社会のインフラを支えるほどの出力も安定性も望めません。胆振東部地震で、そのことがよりはっきりと認知されたのではないでしょうか。

加えて、2018年10月13~14日の2日連続で、九州電力が太陽光発電の出力制御に踏み切りました。需要の減少が見込まれている時間帯に太陽光発電施設から多量の電気が供給されると、大規模な停電を引き起こす可能性があるからです。

専門家の中には、九州では太陽光発電を制御する事態がありえると語る人もいました。そうなったときに、一部の新聞は『玄海原発が再稼働したから太陽光を制御することになる』と書くだろうことが予見されました。

実際、出力制御が発表されると、新聞やテレビの中には、「玄海原発が稼働したので電力供給量が増え、再エネ事業者が割りを食わされた」的な報じ方をした新聞社が多数ありました。

しかし、事実はそうではありません。原発が動いているから太陽光を抑制したのではありません。調整する役割は、普段は火力発電所が担っています。それでも調整しきれなかったから太陽光を抑制したのです。

なにより太陽光の電気はFITという固定価格買い取り制度の下で再エネ事業者から買い取っているのでコストはべらぼうに高くつきます。そのツケは、われわれ一般消費者の電気料金に回されているのですが、そのことはマスコミも積極的に報じようとしませんでした。その姿勢は今も変わっていません。電気代の高騰で危機は煽るものの、その実体を報道はしません。

私はこのブログでは原子力を推していますが、それはコスト面で莫大なメリットが国民にも国家にもあるからです。何と言っても既設原発は発電コストが安いです。実際、大飯、高浜の原発を再稼働させた関西電力は電気料金を引き下げました。九州電力も、2019年4月1日から電気料金を値下げしました。ただ、今年4月からはまたあげています。これについては、詳細は九州電力のホームページをご覧になってください。

コストはインフラにとって極めて大切な概念です。だが、世の中の世論の大勢は「安全性をないがしろにしてまでコストを優先する必要はない」といいます。さらに、「原発は低コストと言っても、放射性廃棄物の処理や最終的な廃炉コストも含めると高くつく」という意見もあります。

しかしそれも正確ではありません。

仮に国内の既存原発をフル稼働させたとして、そこから出てくる使用済み核燃料を管理するコストは、年間10億円にも満たないのです。再処理した後の高レベル放射性廃棄物は、熱を冷ますために地中で50年ほど保管しなければならないですが、そのコストは年90億円ほどです。

一方、福島第一原発の事故後、全ての原発を停止させていた時期に、火力発電用の化石燃料を日本は大量に輸入していた。そのコストは、最大で、2013年当時の為替レートでみると、1日100億円以上だ。単純計算で年間3兆6000億円にもなります。

それに比べれば、使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の管理コストはずっと安くつくのです。

それを政治家や霞が関の役人は知っています。であれば、電力供給体制が脆弱化している北海道においては、せめて泊原発の再稼働を推し進めるべきではないでしょうか。

安全性やコストについての正確な情報も提示せず、ただただ世論の反発を恐れて、「規制委員会のお墨付きが出るまでは我関せず」の態度を取り続けるのは、将来に禍根を残すことになりかねないです。

一部の反発を恐れるあまり、環境には多大な負荷をかけ、電力会社には化石燃料の購入に膨大なコストをかけさせ、国民にも余分な電気料金を負担させ続けています。このような異常事態はそろそろ終わりにするべきです。

海道胆振(いぶり)東部地震直後に、撮影された星空

今回の判決で、北海道電力は、火力発電に依存しながらの電力安定供給をさらに強いられる形になりました。今後、災害時はもちろん、電力需要が逼迫する夏場や冬場には、停電リスクがさらに高まったといえるます。

実際、SNSでは、この判決を受け、「北海道の停電危機がさらに高まった」とする声が多いです。 以下に代表的な声をあげておきます。
《北海道の夏も暑くなっているのに…使わずに節電しろと言われる道民が気の毒》
《ここで再稼働できなかったら厳冬期に停電するリスク増えるけど北海道民はそれで良いのだろうか?》 
 《電気需要が上がった時には計画停電でもするのかな?電気が必要なのは冷房暖房だけじゃないぞ。医療関係だと命に関わる。会社も学校も家庭も電気無しで過ごせるのか?》
《今後、当然起こりうる電気代高騰は受け入れるの?》 
現状、北海道電力では約半分が火力となっており、燃料高でコストが上昇しています。ならば、太陽光や風力など、比較的安い再生可能エネルギーなら問題ないかというと、それも厳しいです。というのも、電力の需給バランスが崩れる恐れがあり、先の九州電力の例のように、5月に入って2度、再エネの受け入れを停止しているのです。 

さらに、送電網の増強も目指していますが、こちらも遅々として進んでいません。いずれにせよ、この夏と冬、北海道の電力はかなりの綱渡りになることが予想されます。

停電では死者が出ます。 東日本大震災の停電および計画停電によって関東でさえ 酸素吸入装置の停止で女性1名死亡、蝋燭転倒火災が男女2人が死亡、信号機が停止して死亡事故ふくめ事故は37件というありさまでした。 在宅人工呼吸器だけでなく透析可能な病床が減少することになります。このようなことを長い期間に渡って続けられるとはとても思いません。

車が交通事故を起こすので、車すべて停止ということになったらどうなりますか。原発の稼働停止もこれに近いものがあります。

二度とブラックアウトを起こさないためには、やはり北海道では泊原発の稼働は避けて通れません。

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2022年6月7日火曜日

岸田内閣の支持率が高い理由 論争なくマスコミも批判せず…参院選後に「緊縮」の嫌な予感―【私の論評】参院選自民大勝の後の「黄金の3年間」に私達がなすべきこと(゚д゚)!

日本の解き方

読売新聞の調査では内閣支持率64%、3回連続上昇


 各種世論調査で岸田文雄内閣が高い支持率を記録している。

 自民党の福田達夫総務会長は5月31日の記者会見で「傾向は各社あるが一番厳しくても50%、高いところは70%で正直あり得ないと思っている」「指導力や政策がどうこうでなく首相の人柄が大きい」と述べた。

 国民民主党の玉木雄一郎代表は「安倍(晋三)政権は良くも悪くもいろいろなことをやって支持率も上下したが、リスクを取らず何もしないほうが支持率を一定に保てる」と分析した。

 岸田政権は、政治的な論争を避けるためか、問題となる案件について議論すらしない傾向がある。

 その一つが核の問題だ。ロシアのような核保有国が核を威嚇に使う時代となり、5大国が核を保有し他国は保有しないのを原則とする核不拡散体制が大きく揺らいでいる。

 そこで「核シェアリング(共有)」の議論もしていいはずだが、その議論すら封じてしまった。岸田首相は、核を使用された広島出身であることを理由としたが、二度と核を使用されないためにも、日本こそ議論する資格があるにも関わらずだ。財務省でよくいわれる「雉も鳴かずば撃たれまい」という戦略にみえる。

 野党も巻き込んだ争点がないので、マスコミは岸田政権を批判しない。もともと左派色のある岸田政権なので、左派系メディアは批判しにくい。一方で、岸田政権に近いメディアも当然、批判しない。首相の個人的なスキャンダルもなく、マスコミの出番はなくなっている。

 そうしたなかで外遊や各国首脳との会談でメディアへの露出は多いことが、政権の高い支持率につながっている。

 これを裏付けるデータもある。安倍政権とその後の菅義偉政権は若者の支持率が高く、マスコミ報道に左右されやすい傾向がある高齢層の支持率が低かった。岸田政権はその逆だ。岸田政権は、マスコミで批判がなく露出度が高いので、高齢層ほど支持率が高いという見方ができる。まさに、政策より人柄のなせるものだろう。

 これだけ政権支持率が高く、いわゆる青木率(政権支持率+自民党支持率)は100を超える勢いなので、7月に実施される参院選はかなりの確率で勝てるだろう。野党のふがいなさもあって、岸田政権は今のところ楽勝ムードだ。自民党は緩んではいけないと引き締めに躍起になっているほどだ。

 問題は、参院選後、大きな国政選挙がない「黄金の3年間」で何か仕掛けてくるか、これまで通り何もしないのかだ。

 筆者の嫌な予感だが、何か仕掛けてくるとすれば、「安倍・菅政権で緩んだ財政を立て直す」という理由で、コロナ増税など緊縮措置を行うことが考えられる。来年の日銀総裁人事でも「緊縮派」を持ってくるかもしれない。

 逆に世間の反発を恐れて選挙後も何もしないという場合、日本に本当に必要な改革も進まなくなるだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】参院選自民大勝の後の「黄金の3年間」に私達がなすべきこと(゚д゚)!

財務省管理内閣ともいわれて揶揄されている、岸田政権ですが、参院選後の「黄金の3年間」で、確かに増税を仕掛けてくるかもしれません。

ただ、現実にはそう簡単ではないでしょう。岸田政権には安倍政権にはなかった良い点もあります。安倍菅政権ならメディアと野党にぶっ叩かれてなかなか進まなかった案件が進んでいます。


原発再開、憲法改正、防衛費拡大、安倍政権なら蜂の巣を突いた状態で、官邸前で大騒ぎして反対する人たちが大勢いました。岸田政権ではそのようなことはありません。やはり安倍総理にはファンも多かったものの、アンチファンも多かったのでしょう。とにかく、やることなすこと、些細なことでも話題となりました。

一方岸田首相は確たる信念もないようですから、叩けば転びます。叩いて動かせば良いのです。

そうして、叩いて動かす急先鋒が安倍元総理といえるかもしれません。最近安倍晋三元首相のメディア露出が際立っています。

保守系月刊誌の「正論」「月刊Hanada」「WiLL」の毎号にインタビューか、対談が掲載されています。テレビでは5月6日のBSフジの看板番組「プライムニュース」に生出演しました。

一方で、情報誌「選択」も安倍氏について毎月取り上げるが、こちらはほとんどがこき下ろす記事です。

双方のタイトルを比較すると分かりやすいです。

▼正論(7月号)「いまこそ9条語るべき」(古森義久氏との対談)▼WiLL(6月号)「プーチンは力の信奉者」(北村滋氏との対談)▼Hanada(5月号)「私が会ったプーチンとゼレンスキー」(インタビュー)▼選択(6月号)「安倍晋三『妄言』と暴走の理由」(記事)―。

次は安倍氏の政治講演、参院選自民党候補の応援ですが、これがすごいです。

3月26日=北海道千歳市。4月2日=福岡市、3日=山口市、8日=福井市、17日=福島県郡山市、23日=那覇市。5月9日=大分市、15日=松山市、18日=福岡市、29日=富山市。6月1日=東京、といった状況です。

産経新聞(6月2日付朝刊)が「派閥領袖(りょうしゅう) 再び夜動く―参院選へ結束と探り合い」と報じたように、夕食のメンツもまた興味深いです。

5月19日、麻生太郎自民党副総裁、茂木敏充幹事長と東京・赤坂のうなぎ料理店「重箱」。この3人の会食は3月14日以来です。

5月31日、菅義偉前首相と東京・松濤のフランス料理店「シェ松尾」。それぞれ夫人同伴で、安倍氏お気に入りのフレンチ。

松濤のフランス料理店「シェ松尾」

6月1日、二階俊博元幹事長と都内ホテルのアンダーズ東京。安倍派の西村康稔前経済再生相、稲田朋美元政調会長、二階派の林幹雄元幹事長代理、武田良太元総務相が同席。この会食が最も生臭いです。

大型連休中の安倍氏はゴルフ三昧でした。〝コロナ明け〟ということでしょうか、河口湖の別荘に首相秘書官経験者、友人を夫人ともども招き、バーベキューとゴルフを楽しみました。

男子ツアー「フジサンケイクラシック」の競技会場である富士桜カントリー倶楽部、富士ゴルフコースなどで4ラウンドプレーしたといいます。

側聞したところでは、ハーフで50を切った日の夜は、富士吉田市の焼き肉屋まで出向いて大いに食べ、飲んだといいます。要するに、最近は元気いっぱいなのです。

岸田文雄首相に政策上の注文は少なくないはずですが、この露出の意図するところはただ一つ。参院選後の内閣改造・党役員人事です。「最大派閥を忘れるな」ということです。


このようにして、安倍元総理は、岸田首相を叩くことができますから、かつて安倍氏が総理だったときに、二階派を人事でも政策でも一定の配慮をせざるを得なかったように、岸田総理も安倍派を配慮しないわけにはいきません。それも、安倍氏が二階氏を配慮した以上に配慮さぜるを得ないでしょう。

そうして、私達も岸田首相を叩くことはできます。もちろん、直接叩くことはできませんが、間接的に叩くことはできます。もちろん叩くというのは、本当に叩くとか、罵詈雑言を浴びせるということではありません。駆け引きなど、あらゆる手段をつかって、岸田政権の行動を変えることです。

ただし、原発を再稼働させたければ、原発反対派の自民党議員に対して、再稼働させるべきであると陳情すべきです。防衛費を2%にしたいなら、防衛費をあげることに反対している議員に陳情すべきです。積極財政をさせたいなら、緊縮派の議員に陳情して、積極財政の必要性を理解してもらうべきです。それも、できるだけ多数派で力のある議員にそうすべきです。そうして、最近ではツイッターでも陳情ができるようになり、陳情の敷居は従来から比較するとかなり敷居が低くなりました。これを利用しない手はありません。

民主党の政権交代で、野党が政権につけば、政治は官僚主導になることは多くの人が理解したと思います。これは最悪です。結局政権は何もできず、財務官僚の言いなりでした。当時のみななの党の代表渡辺喜美氏は、「野田政権は、財務省に頼らないと何もできない政権」と批判していました。実際、民主党政権は、増税をすることを確実にした他は、三年半重要なことは何も決められず、漂流していたといっても良い状況でした。

ただし、これは民主党政権に限らず、他の自民党以外の政党が政権の座についたとしてもほとんど変わらないでしょう。そもそも、他の政党では省庁とのパイプもなく、話しあいをしたり、コミュニケーションをはかるシステムがありません。その結果、官僚主導の政治にならざるをえないのです。だから、政権交代は官僚にとっては、大喜びすべきことなのです。

しかし、岸田政権であっても、自民党政権であれば、まだ相当ましです。安倍元総理や、まともなマクロ経済観を持った議員、外交や安保でもまともなセンスを持った議員も多いです。こういう人たちが、岸田氏を叩くとともに、私達も様々な議員に対して陳情することによって、こうした勢力に対して間接的にでもかなり応援できます。

このブログては、ロシアが変えたパランス・オブ・パワーについて述べたことがあります。日本の政治は、総理大臣や政権のみによって動くわけではありません。動く要素は多くありまずか、野党がそれに関われることはほとんどありません。

ましてや野党が政権与党になった場合、野党政権はほとんど力はなく、政治は官僚主導で動くことになります。自民党が政権与党である限り、自民党議員の派閥と、財務省などの官僚によるパランス・オブ・パワーで具体的な政策が決まり、実行されることになるのです。

この仕組には問題があります。特に、役人がバランス・オブ・パワーの一角をしめているのは大問題です。これは、いずれ是正されなければなりません。ただ、現在はそのような時ではありません。

現状では、日本はコロナ禍から立ち直っておらず、新たにウクライナ問題もあります。このような時期には変革よりも、既存のシステムにおいて、リアルに政治を変えていく地道な努力が求められます。この時期に構造改革のようなウルトラCをやろうとしてもうまくはいかないどころか、後退することになりかねません。

私自身は、保守であり、現実主義者です。その立場からすれば、いかなるウルトラC もすべきではなく過去に実証された確実な方法で着実に改革を実行すべきと思いますが、それにしても、「黄金の3年間」は、特に政権交代や、政治システムの大幅な改定などの毒薬、劇薬になりかねない事柄は実施すべきではないと思います。

良くしようとして、かえって破壊する後退するということはありがちなこどです。私はウルトラCはすべきではないと思いますが、どうしてもやりたければ、政治的、経済的、外交的にも安定した時に実施すべきものと思います。

ただし、すでに誰の目からみても明らかな、現時点での現実的な積極財政、安保の見直し、憲法の見直しなどは、現実的に着実に実行すべきと思います。パランス・オブ・パワーを保守派、積極財政に傾かせるように動くことが肝要だと思います。

大きな国政選挙がない「黄金の3年間」に私達がなすべきことは、これだと思います。

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2022年6月6日月曜日

財務省の「猿芝居」に騙されてはいけない 「骨太の方針」を巡って「財政再建派」がやっていること―【私の論評】「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりつつある(゚д゚)!

財務省の「猿芝居」に騙されてはいけない 「骨太の方針」を巡って「財政再建派」がやっていること
財務省の別働隊

 5月23日付の本コラム「財務省の超エリート「次官候補」は何に追い込まれたのか? 逮捕劇までに財務省で起こっていたこと」で、6月7日に閣議決定される予定の政府の「骨太の方針」を巡る自民党積極財政派と自民党財政再建派(これは事実上財務省の別働隊)との争いが背景になっていることを書いた。

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 逮捕された財務省高官は、世間から見ればとんだお門違いをしていた可能性があるが、財務省はまだ懲りないらしい。


 先日の本コラムで紹介した自民党の若手の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表:中村裕之農林水産副大臣)は、財務省の言い分もきちんと勉強して、しっかりした反論を行っている。自民党であっても、若手は財務省に騙されていない。

(1) 国債はすべて将来の税金で返済されなければいけない
(2) 日本国債残高が大きく将来世代にツケを残す
(3) 日本は財政破綻する

 といった財務省のプロパガンダに対しては、的確に反論できる。本コラムの読者であれば、以下の反論は簡単なものだろう。

(1) 安倍元首相も言うように、半分以上の日銀保有国債では税金償還の必要はない
(2) 債務のツケでなく立派な資産を残せばいい
(3) バランスシートから見れば日本の財政破綻の確率は5年間で1%程度


 自民党内でもベテラン議員ほど財務省に丸め込まれが、積極財政議連など若手では自分の頭で考え財務省の説明に疑問を持つ人が多くなっている。

 筆者は、財務省の説明に30年前から疑問をもち、政府のバランスシートを作って周囲の政治家に説明してきたが、ここ数年、理解者が急増しているのを感じる。

「PB黒字化」を消えたように見せかけて

 さて、骨太の方針はどうなっているのか。5月31日、骨太の方針の「原案」が出た。

 前回の「骨太の方針」で明記していた財政健全化の「堅持」や、「2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化」といった文言が消えている。

 これを、財政再建への姿勢が弱まったように報道するマスコミもあった。

 しかし、これは財務省の「猿芝居」だった。たしかに「2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化」の文言は消えているが、その他の箇所で「令和5年度予算において、本方針及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と書かれている。「骨太2021」ではしっかりと「PB黒字化」が書かれている以上、何も変わりはないのだ。


 かつてであれば、これで自民党もマスコミも騙されて終わる。今回、マスコミは相変わらず節穴だったが、自民党は違った。財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)や責任ある積極財政を推進する議員連盟は、何も変更がないのをめざとく見つけている。

 もっとも、財務省も「猿芝居」がバレたところで、必死に抵抗するだろう。というのは、親族に財務官僚が大勢いる岸田氏が総理だからだ。6月7日の閣議決定はどうなるのだろうか。

 菅政権のときには、だんまりを決め込んでいた矢野康治財務次官が、岸田政権になった途端に月刊『文藝春秋』で持論を展開したことを記憶している読者も多いだろう。昨年10月11日付の本コラム「財務事務次官「異例の論考」に思わず失笑…もはや隠蔽工作レベルの「財政再建論」」で書いたが、あれほどの無知をさらけ出したのに、岸田総理は不問に付している。

弛みきった財務省

 今の世界情勢では、安全保障に手を抜けない。財政再建路線を堅持した来年度予算案では、世界に太刀打ちできない。

 1月17日付の本コラムで述べたように、今の財務省のいうPBは基本的に間違っている。一部の政府部門だけでPBを算出しており、すべての政府部門のPBを計算しないと、本当の財政の姿はわからない。

 だが筆者のような包括的なPBによれば、既に問題のない「財政再建終了」の状態になっている。財務省のような間違った財政の見方で財政運営したら、国を滅ぼしてしまうだろう。

 はっきり言って、最近の財務省は弛みきっている。先日の財務省高官の逮捕、国税庁職員による補助金詐取など、考えられない事態が次々に起きている。

 財務省改革には、主計局の分離などいろいろなものがあるが、筆者がもっとも効果的と思うのは、国税庁を分離し、年金機構の徴収部門と合体させる「歳入庁」の新設だ。この考え方は、世界標準でもある。税と社会保険料は法的には同じであり、一緒に徴収するのが世界では当たり前だ。国税庁の財務省からの支配を取り除き、税の徴収のプロとしての人材有効活用にもなる。

 この案は、かつて民主党政権で公約にもなっていた。ところが、財務省の巻き返しにより消えていった。これをどの党が実行できるかどうか、日本の今後を占うものといってもいいだろう。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりつつある(゚д゚)!

3日の自民党政務調査会の会合では、2023年度予算案をどうするのかということが話題になりました。現在、骨太の方針という、予算案の最初にやらなければならない議論をスタートさせているのですが、「積極財政派」と「財政再建派」の間で怒声があがるほど大バトルになりました。

財政慎重派の方は、やはり財務省の意向に忖度して、緊縮財政の方向に持って行こうとしています。それに対して、積極財政派の本部を率いている西田政調会長代理が激怒して、「これでは政調会を開いている意味がないではないか」と言ったのです。

西田政調会長代理

 財務省は、2023年度予算について上限をはめようとして躍起になっています。当初予算で非社会保障費、年金、介護、医療を除いた分に関しては、年間3百数十億円しかプラスにならないのです。財務省にこのようなキャップをはめられてしまうと。

防衛予算のGDP比2%などは夢のまた夢となります。安倍元総理は、防衛費増額のための5兆円の財源は、政府日銀連合軍で調達できるとしていましたが、2%どころか、0.01%とかそのようなことになってしまいかねません。

そうしてこような上限に関する質問が3日の政調会で出たのです。それに対して、内閣府を代表して出た委員がそれを認めてしまったのです。それで自民党政務会が紛糾したのですです。

西田政調会長代理はこの会議の席で「私は(党内)政局にしたくないから、譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。それに対する答えがこれか。裏切られた」という趣旨のことを語ったとされています。

骨太の方針が、その先の予算編成に影響し、本予算が決まっていくから、方針案(財務省)の内容が島嶼の想定ともかなり違うというのです。方針案に関しては、積極財政派の安倍氏と、規律派と言われる麻生さんの間でかなり詰めたされますが、火種はまだ残っているのです。

 安倍、麻生氏で落としどころをつくったにも関わらず、それに焦った財務省が霞が関文学を用いて、毒を忍び込ませたのです。それにみんなが気付いてしまったのです。

骨太の文言としては、経済あっての財政だというような書き方をして、プライマリーバランスの黒字化に関しても25年という年限にこだわらないというような、2025年度プライマリーバランス黒字化の文言は落ちたので安心したら、他のところでごまかしの文言が入ってきたのです。

それが、上の髙橋洋一氏も指摘していた「令和5年度予算において、本方針及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と言う文言なのです。「骨太2021」ではしっかりと「PB黒字化」が書かれている以上、何も変わりはないのです。

さらに内容をよく分析してみたら、過去と同様に「3年間で1000億円」というキャップをはめるのだということでした。積極財政派の議員が「これは本当か」と質問したところ、内閣府サイドは、それを認めてしまったのです。 内閣府のなかの陣容を見ても、決して財政規律派一辺倒というわけではありません。 

なかには本当に財政出動をやりたいし、やるべきだと思っているけれども、立場上は言えないという人もいると考えらます。 その辺りの思惑が働いたでしょうし、それで3日に決着がつかず、きょう(6日)へ持ち越しになりました。

ただ、防衛費に関しては、バイデン大統領との間で日米首脳会談を行い、そこで出た話です。実施しないとさすがにまずいです。ある意味では国際公約ですから、政治の意志なのです。それを政治的に責任を負わない財務官僚が、勝手に書き換えて良いはずがありません。完璧に役人の矩(のり)をこえています。

そうして、財務省は防衛費を増やすけれども、その代わりに「ここを減らす」、「ここを増税する」などというところで担保しようしていると考えられます。財務省が「増税した分は防衛費のプラスアルファを認める」ということになると、国民生活にとってどうなのかということになります。 

ふりかえってみると消費増税も、当時の菅(直人)政権が言い出した国際公約だという話から始まっていました。財務省のやり方は、どんどん巧妙になっているように見えます。 

岸田総理は、その辺りに意識がないものですから、主計局長の説明で首を縦に振ってしまったらしいです。それを盾に財務省はいろいろなところへ話を持ち込んでいるようです。 財務省としては「総理のご意向ですから」ということになります。

しかも、先週の経済財政諮問会議でこの内容は総理の発言で出ていたそうです。なぜその辺りをきちんとメディアは報道しないのかという問題があります。 

しかも、そのうち議事録が出るでしょうし、議事要旨はもうある程度出ています。この先の5年~10年を決めるような話が、いまされているわけです。 そうなのです。このまま進んだら、それこそ自民党内から内閣不信任案を出しても良いのではという事象です。無論、100%出ないでしょうが。ただ、この出来事はそれくらいのことだと思います。

ことしの「骨太の方針」をめぐり自民党政務調査会の会合が本日開かれ、防衛費について、NATOの加盟国がGDPの2%以上を目標としていることを例示し、防衛力を5年以内に抜本的に強化するなどとした政府の案を大筋で了承しました。

政府案では、防衛費について、NATO=北大西洋条約機構の加盟国がGDP=国内総生産の2%以上を目標としていることを例示したうえで、防衛力を抜本的に強化する期限を「5年以内」と明記しています。

また、台湾をめぐる問題に関連して「ことし5月の日米首脳会談で両首脳は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した」と本文の注釈に加えられました。

このほか、来年度の予算編成をめぐって、前回の会合で、歳出改革の内容を盛り込んだ「骨太方針2021に基づき」という文言を削除すべきだという意見が出されましたが、この表現は維持する一方「重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない」という一文が追加されました。

政府は、自民党内の手続きを経て、7日にも「骨太の方針」を閣議決定することにしています。

自民党政務調査会の木原稔副会長は記者団から「基礎的財政収支」の黒字化目標について見解を問われたのに対し「岸田総理大臣も『財政健全化の旗は降ろさない』と述べており、それに尽きる。経済あっての財政で、順番を間違えてはならないが、健全化の旗は立っていると認識している」と述べました。

自民党政務調査会会合

結局、財務省は岸田総理の発言なども利用しつつ、思い通りに財政政策を実施していくのでしょう。ただ、これは完璧に財務官僚の矩をこえています。「骨太の方針」については、閣議決定の後にその内容が公表されるでしょう。そのときにまた改めて、論評を加えたいと思います。

ただ、過去20年以上にわたって、髙橋洋一氏をはじめ様々な人達が、財務官僚のおかしさ、全く理にかなわない財務省理論の間違いを暴き続けきたので、最近は風向きが変わって来たと思います。

そもそも10年以上前なら、積極財政派は数が少く、自民党政務調査会の会合では積極財政派はガス抜き程度に意見を述べる機会が与えられるだけで終わっていたことでしょう。しかし、今は違います、会合で怒号が飛び交ったり、西田政調会長代理が「私は(党内)政局にしたくないから、譲歩に次ぐ譲歩を重ねてきた。それに対する答えがこれか。裏切られた」と発言するなど随分と変わってきています。それも、まともな積極財政派が増えてきたからでしょう。

上の記事で、「はっきり言って、最近の財務省は弛みきっている。先日の財務省高官の逮捕、国税庁職員による補助金詐取など、考えられない事態が次々に起きている」としていますが、その他にも事件が起こっています。

昨日は、車内で妻を殴り鼻の骨を折るけがを負わせたとして、警視庁小金井署は傷害の疑いで東京都小金井市の東京国税局税務相談官、武藤静城(しずき)容疑者(59)を逮捕した。どやら日常的に暴力をふるっていたようです。

矢野謙次財務次官

さらに、4月27の文春電子版には『矢野財務次官「娘の夫DV」で異例捜査』という記事が掲載されています。週刊誌の記事なので、真偽の程はわかりませんが、それにしても時代の流れを感じます。

従来だと、マスコミも国税局を有する財務省に対しては、余程はっきりとした「犯罪」の証拠でも無い限り、このような記事はなかなか掲載しなかったものです。それは、やはり財務省は国税局を使い脱税の嫌疑をかける得る恐ろしい役所という認識があったからでしょう。

そのような危険は今でもないとはいえませんが、今では財務省の権威も落ち、週刊誌もそこを突いた記事を掲載すれば、世間の耳目を捉えることができると考えるようになってきたのでしょう。

そもそも、財務省の財政破綻論にはかなり無理があります。そもそも、デフレとは正常な経済循環からは逸脱した状況であり、異常な状況であるという認識が彼らにはありません。議員をはじめ大勢の人がそのことに気づきつつあります。例外は、情報源がテレビのワイドショーである高齢の「ワイドショー民」くらいになってきました。

理論武装をした積極財政派が増えてきた現在、絶対的に自分が正しいと信じていると思います。それをこのような形で役人が平気で矩をこえ、理解不能な理論で、とにかく増税、とにかく緊縮をしようとし、実際にそのようにしていくわけですが、積極財政派の遺恨は、嫌がおうでも高まります。いずれ大爆発して、財務官僚は多くの人の憤怒のマグマに焼き尽くされると思います。

ただ、積極財政派という言葉も本来異様なのです。なぜなら、経済対策とはその時々の実体経済に即して行われるべきものであり、緊縮か積極かなどと派閥の対立によって議論されるべき筋のものではないからです。しかし、財務省がいかなる場合でも、緊縮財政をしようとするから、このような言葉が生まれてしまったのでしょう。

多くの人は、財務官僚など尊敬していないでしょう。テレビで数年前までは、「財務官僚をリスベクトする」と語っていた弁護士の八代英輝氏は現在はそのようなことは一切いわなくなりました。もう、そのような空気ではないのでしょう。

高橋洋一氏は財務省に警戒していますし、私も警戒を緩めるべきときではないとは思いますが、それにしても、「驕れる者久しからず」の言葉どおり「財務省の終わり」が始まりかけているような気がしてなりません。

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2022年6月5日日曜日

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財務省が狙う「参院選後の増税」、既定路線になりつつある“標的”を検証

衆議院本会議で2022年度補正予算案が可決され、一礼する岸田文雄首相(手前)と政権幹部たち

 防衛費や子育て支援予算を大幅増額する方針を示している岸田文雄首相だが、肝心の財源については明言を避けている。しかし、首相周辺では参議院選挙に勝利した後の増税は既定路線になっていると見られる。では何の税金を標的にするのか。財務省の経験則などから検証する。(イトモス研究所所長 小倉健一)

● 参院選後の増税は既定路線? 何の税金が「標的」になるか検証

 岸田政権への高い支持率が続き、参議院選挙は自公勝利が確実視される状況になってきた。今夏の参院選が終われば、岸田文雄首相が衆議院を解散しないかぎり、3年間は大きな国政選挙がない。与党と中央省庁、特に財務省の関心は、参院選後に移りつつある。つまり、増税だ。財務省は今、どの税金を上げようとしているのだろうか。

 これまで岸田政権では増税議論を慎重に避けてきた。昨秋に行われた自民党総裁選挙で、岸田首相は「今後10年程度は消費税増税が不要」と明言。一方、ライバル候補だった河野太郎氏は「長期にわたって年々小刻みに年金の実質価値を下げていくマクロ経済スライドによって、基礎年金の最低保障機能が果たせなくなる」と訴え、補強のために消費税財源を充てる」として、消費税増税を主張した。

 ここで全国紙政治部記者に総裁選を振り返ってもらおう。

 「河野氏が消費税の増税を考えているのが分かった途端、選挙を前に党内の仲間がサーッと離れていった。序盤優勢だった同氏が中盤で失速したタイミングと一致する。安倍晋三元首相の電話攻勢ばかりが語り継がれているが、河野氏の失速はそれでは説明がつかない。河野氏以外の候補もそんな失速を見て、増税を否定し続けた」のだという。

 3年間のフリーハンドを握るとはいえ、岸田首相がその3年で何をしようとしているのかは全く分からないままだ。金融資産課税、新しい資本主義など、マーケットに打撃を確実に与えるとおぼしき主要政策は、選挙を前に棚上げをしてしまった。

 そして、消費税減税の可能性を問われると「消費税は社会保障の安定財源に位置づけられており、いま触ることは考えていない」と否定した。「触れない」ということは増税もしないということなのか、真意は不明だ。

 物価高対策を盛り込んだ2022年度補正予算案、総額は2兆7000億円規模で、財源を全額赤字国債で賄う。さらに、先日のジョー・バイデン米大統領の初来日時に岸田首相が「相当な増額」を伝えた防衛費も今後かさんでくる。安倍元首相は来年度の当初予算について6兆円台後半から7兆円が必要との認識を示している。1年かぎりで日本の防衛危機が去るとも思えず、毎年の予算となるのだろう。

 防衛費以外にも子育て支援政策の大幅増額を掲げているが、それらの財源について岸田首相は明言を避けている。ただ、岸田首相の周辺の考えは固まっているようだ。前出の政治部記者はこう解説する。

 「そもそも岸田首相が所属する宏池会は、財務省の影響力が特に強い派閥。そして、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)を25年度に黒字化する目標を変更していない。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)にも『安定財源が不可欠』と強調させている」

 「聞く力」を掲げて、全員にいい顔をし続ける岸田首相だが、メリハリなく政府支出を増やしている実態の中、選挙後に大増税を決断するのは既定路線のようだ。では、「消費税には触れない」と強く断言する岸田首相は、「何税」を上げるつもりなのか。マーケットの関心もここに集まるだろう。

 財務省が「増税の標的」として狙うポイントを基に、検証してみよう。

● 財務省が狙う増税の標的は 「野党の公約」

 財務省が狙うポイントの一つは野党の公約だ。野党が容認している「増税」については批判が集まりにくいというこれまでの経験則があるからだ。

 思えば、安倍政権時代に2度も行われた消費税増税も、野党時代の自民党と当時の民主党政権(現在の立憲民主党と国民民主党)が合意したことがベースだった。与党が強引に増税をしたとすれば国民の反発は一挙に与党にきてしまう。共産党・れいわと組むことは決してないが、日本維新の会や国民民主党、立憲民主党が容認している増税策が狙われるのは間違いがない。

 では、今年の参院選を前にして、主要野党が政策として掲げている増税案はなんだろうか。見ていこう。

● (1)立憲民主党の増税案

・「金融所得課税の強化などを進めます」
・「グリーン税制全体の中での負担を見据えつつ炭素税の導入を検討します」

 「立憲民主党基本政策」で増税に触れているのは、以上だ。直近では日本維新の会に追い上げられているとはいえ、立憲は野党第一党の位置を占めている。政権、財務省としても最も狙いをつけていることだろう。

● (2)日本維新の会の増税案

 増税政策として、一番困るのが維新だ。先だっての衆院選では「減税で経済成長」と掲げていた。ところが、最近の幹部の発言では「維新は減税政党ではない」と事実上の公約の撤回を主張。実際に同党の政務調査会では増税議論を繰り返してきた。

 しかし、参院選を前にしてインターネット上で「貯金税」とやゆされている「日本の資産全てに1%を課税する」という増税プランは、現状撤回したと言い張っている。現在地が不透明だ。

 先立って、維新の藤田文武幹事長がTwitterで「政策方針について論点整理」したとつぶやいて、突如提示した1枚紙の資料を見ても疑問は深まるばかりだ。維新の政策集「日本大改革プラン」に関する資料のようだが、税制の個別政策の例として「消費税、所得税、法人税、相続税、固定資産税、金融所得課税、金融資産課税、総合課税、租税特別処置、マイナンバー制度、行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)、徴税権の3層構造、歳入庁、など」と税制とは関係ないことまで含めた謎めいた項目が羅列してある。資料の表題には「コンセプトプレイヤーの整理」とある。これから整理をするというのだろうか。

 「フロー活性化」という文言もあるので、増税の優先順位があるとすれば「金融資産課税」辺りが狙われるのではないか。…そう言いたいところだが、国政の維新は、地域政党である大阪維新の会と違って、よりポピュラリズム(世論の動きでフラフラする大衆迎合主義、「ポピュリズム〈民衆主義〉」とは一線を画する)的指向の強い政党であり、正体が全くわからない状態だ。

 また、参院選に向けて維新が政策を分かりやすく伝えるために作った漫画冊子「日本大改革プラン」では、「金融取引で所得を増やしている人の税率は累進課税ではない」とあり、その横のイラストと共に現状のフラットタックスを批判している(27ページ)。ところが、その次の次のページ(29ページ)では、「『フラットタックス』とも呼ばれるシンプルでわかりやすいチャレンジ推奨型の課税制度を導入することで『頑張った人が報われる』」と主張している。

 その漫画の基である日本大改革プランでは「高額所得者ほど総所得に占める金融所得の割合が高く、所得税負担率に逆累進性が働いている」とも指摘。合計所得金額が1億円超になると所得税の負担率が右肩下がりになる現行制度を批判している。これらを踏まえると、金融所得には増税したい意向なのではないかと推測する。

● (3)国民民主党の増税案

・「格差是正の観点から、富裕層への課税を強化します」
・「推計を踏まえ、法人課税、金融課税、富裕層課税も含め、財政の持続可能性を高めます」

 参院選後の与党入りが確実視される国民民主党は、「国民民主党重点政策」の中で減税・ばらまき色の強い公約をうたっているが、増税に触れた箇所が二つあった。どちらも富裕層には課税するということだが、「法人課税・金融課税」という聞きなれない増税を容認するようだ。

 調べてみると、法人課税は法人税のことを指しているようだ。なぜ、別の言葉に変えたのか不明だ。金融課税は、金融所得課税(株投資などで得た利益に課税)のことか、金融資産課税(貯金、国債などの持っている金融資産に課税)のことなのかが分からないが、いずれにしても金融に関する項目について課税をするようだ。

● 3党の公約から考える 実現可能性が高い「増税案」は?

 以上、3党の増税に関する公約を並べたが、最大公約数を考えると、金融所得課税の強化がまず狙われるのは間違いがない。5月27日の衆院予算委員会で、岸田首相は金融所得課税の見直しについて「決して終わったわけではない」と述べていることも、その説の信ぴょう性を高めている。

 次に、立憲が掲げていた炭素税についても、増税はすでに既定路線になりつつある。

 岸田首相は20兆円規模の「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」の発行を表明している。そしてこの債券は、「炭素税による収入が入るまでの「つなぎ」の役割」(前出の政治部記者)とされているからだ。

 国民民主が掲げる法人課税も動く可能性がある。これらの増税案は、野党も選挙で掲げた以上、法案に反対しないだろう。この三つの増税は、マーケットをますます冷え込ませ、日本経済を傷つける可能性が高い。

 しかし一番の心配は、岸田首相の軽過ぎる言葉だろう。これまで、政策を掲げておいて動かないと言うことが繰り返されているからだ。消費税は触れないと言ったが、防衛費の大幅増額を理由に、「やっぱり上げざるを得ない」と判断する可能性は当然ある。

 岸田首相が掲げる政策と維新の公約は、後になってコロコロ変わってしまうので、何一つ、信用できない。

 岸田政権の参院選圧勝で、日本のプレゼンスはまた落ちていくことになりそうだ。

小倉健一

【私の論評】日本がトランプ減税なみの大減税を行えば、数年以内に国内投資と賃金の劇的な大上昇が起こり世界経済の牽引役となる(゚д゚)!

上の記事、首相周辺では参議院選挙に勝利した後の増税は既定路線になっていると見られているが、ただ消費税増税に関しては首相自身が「消費税は社会保障の安定財源に位置づけられており、いま触ることは考えていない」と否定したことに言及し。「触れない」ということは増税もしないということなのか、真意は不明だとしています。

結局財務省は増税の対象としては、いくつかのことが考えられるものの、どの税金を上げるかはわからないというものです。ただ、増税する気は満々であるということはいえそうです。

そもそも、財務省はとにかく隙きあらば増税したいということで、あらゆる可能性を探っているのは間違いないようです。それは、昨年の文藝春秋に掲載された矢野財務次官論文でもはっきりしましした。

この矢野論文に関しては、様々な人が論破していますが、一番痛快で誰にでも理解しやすかったのは、安倍元総理の「日本がタイタニック号であるとすれば、そんな日本の国債を多くの人が買うわけがない」という論破です。確かに、日本が矢野氏のいうように日本が破綻の淵にあれば、誰も日本国際を買うはずはありませんが、現実には多く日本国内の機関投資家が買っています。

しかも、現在では国債が従来のようなマイナス金利ということはないですが、マイナス金利のときですら、国債は売れていました。今でも金利は零に近いですが、それでも売れ続けています。日本に信用がなければ、そんなことはあり得ず、財務省の矢野次官が語る財政破綻はあり得ないことが完璧に論破されました。

これを前提にすれば、そもそも消費税増税の必要などないし、防衛費や子育て支援予算を大幅増額するにしても、政府が国債を大量に発行すればそれですむはずです。しかも、現状ではデフレぎみであり、大量に国債を発行したとしても、インフレになる可能性は少ないです。

現在のコアコア消費者物価指数(生鮮食料品、エネルギーを除く物価)は0.8であり、インフレには程遠いです。コロナ禍からまだ十分に立ち直っておらず、しかもウクライナ問題で、エネルギー価格や、原材料価格が高騰しているのですから、それを抑える対策をしながら、様々な対策を行うべきですし、他国に比較すれば、インフレから程遠い日本では、積極財政と金融緩和を実行すべきです。

日銀に関しては、現在でも緩和を継続していますが、できればさらに量的緩和を加速するとともに、政府は大規模な積極財政をすべきなのです。

高橋洋一氏は現状の日本では、30兆円以上の需給ギャップがあるとしていますから、これを解消するために、政府30兆円程度の予算を組み、減税や給付金、補助金を出す政策をとるべきなのです。岸田政権では補正予算を組みましだか、その額は2.7兆円であり、真水ではさらに額がすくなくなります。これでは、話になりません。焼け石に水です。

それにこのような状況のときには、減税すべきであって増税などすべきではありません。政府も増税しそうな気配がありますが、野党3党が増税に関する公約を掲げていることには驚くとともに失望を禁じえません。

特に野党は出羽守論法で、与党を批判することが多いのですが、上記野党3党は増税ではそのようなことをしないばかりか、自らも増税を推進しようとして、財務省にそれをうまく利用されかねない状況にあるといえます。


私はここで、思いっきり出羽守になり、米国ではどうなのか以下に状況を述べていこうと思います。

トランプ米大統領(当時:以下同じ)は2017年12月22日、レーガン政権以来約30年ぶりとなる抜本的な税制改革法案に署名し、同法は成立しました。減税規模は10年間で約1兆5000億ドル(約170兆円)。トランプ氏はホワイトハウスでの署名に際し、「歴史的」な減税だと意義を強調しました。

税制改革は、1月に発足したトランプ政権が実現させた初めての主要公約。柱となる法人税の税率は来年に現行の35%から21%に下がり、主要先進国では最低水準に近くなります。米国に進出する日本企業も減税のメリットを受けます。法案は20日に議会を通過していました。

トランプ大統領は記者団に、来年1月に大がかりな署名式を行う考えだったが「(年内成立の)約束を守らなかったと報道されたくないので、きょう署名する」と語りました。また、別の公約として掲げたインフラ投資は「最も簡単だ」と明言。税制改革後の政策課題に位置付け、超党派で実現すると表明しました。

政府機関閉鎖を回避する来年1月19日までのつなぎ予算案も署名され、成立しました。

ホワイトハウスの執務室で自らが署名し成立した税制改革法を掲げるトランプ米大統領2017年12月22日


さて、この大減税どうなったでしょうか。

連邦議会予算事務局の2022年5月の予測で、2017年の「トランプ減税」後10年で、政府の税収が2017年12月の税制改革法案の可決前に予測されていたより、増加する見込みであることが判明しました。

減税―当時の政府の記録係たちは10年で1兆5千億ドルの負担になると話していた―は、左派の一部が信じるように仕向ける財政の悪夢のようなものにはなっていないようです。

3月にナンシー・ペロシ下院議長(民主党、カリフォルニア)は、2017年のトランプ減税を2兆ドルの「共和党税金詐欺」と呼びました。

バーニー・サンダース上院議員(無党派、バーモント)は、減税を支持しながら議会のやり放題な巨額支出に反対するのは偽善だとして共和党を非難しました。

バイデン政権ホワイトハウスは、「トランプ減税は10年で2兆ドルの赤字を付加した」と主張するプレスリリースを発表しました。

だが数字は別の物語を語っています。政治的な巧言にもかかわらず、税収は上がっているのです。

予測を2022年のドル相場に調整すると、減税前に政府は2018年から2027年の間の所得税、法人税、給与税の税収として40兆7千億ドルを見込んでいました。最新の予算予測では、同じ期間の税収として41兆3千億ドルを見込んでいます。1兆5千億ドルの税収減少どころか、最新の予測では税収が予想より5700億ドルの増加となることを示しているのです。

法人税減税についてはどうでしょうか?間違いなく法人税を35パーセントから21パーセントに減税したので、法人税収は劇的に減少したのでしょうか。

政府の予算の数字によるとそうではありません。

政府は現在、2018年から2027年までの間に3兆8千億ドルの法人税収を見込んでいます。減税前に予測していた3兆9千億ドルとほぼ等しいです。その上、税金は真空中には存在しないので―そして法人税改革はさらなる所得の増加を推進することで所得税と給与税が増加するので―法人税改革は採算が取れる可能性が高いです。

連邦議会予算事務局(CBO)は、単に減税前の予測で税収を少なく見積もっていたのでしょうか?

そうかもしれないです。ところが予算事務局は、歴史的に見て税収を過大に見積もることのほうが多かったとしています。政府の予測によると、「CBOの税収見積もりは、この数十年平均すると高すぎであり、景気停滞のタイミングと特質を予測するのが困難であることがおもな理由」であるとしています。

では、10年間にはパンデミック関連の世界的な活動停止が含まれることを考慮すると、なぜ予測された税収の低下が起きなかったのでしょうか?予算事務局の予測は、税収の「説明のつかない強さ」に対して少なくとも5つの点を引き合いに出しています。

経済学者のタイラー・グッドスピードとケビン・ハセットによると、2017年の減税以後、設備投資は減税前に比べて9.4パーセント上昇しました。企業にとって実際の投資は14.2パーセント増加しました。同様に2021年のヘリテージ財団報告書によると、投資と賃金の劇的な上昇が減税後に起きたことが分かりましたた。投資増加を引き起こした重要な要素は、オフショアではなく米国市場に再投資することを選択した多国籍企業でした。

米国ではトランプ氏が減税政策を打ち出したときも、デフレではありませんでした。そもそも、デフレは正常な経済循環から逸脱した状態であり、いずれの国でもこれを放置することなく、すみやかに積極財政、金融緩和策を実施して脱却するのが普通です。

日本のようにデフレを放置するどころか「良いデフレ」などとして、長期間にわたって緊縮財政、金融引締を実施して、デフレをさらに深化させるような政策はとった国古今東西日本以外にありません。だから、日本は「失われた30年」に突入し、日本人の賃金は30年間も上がらなかったのです。

そのデフレから脱却しきっていない日本が、トランプが行ったような大減税政策を日本のサイズに合わせて同程度に行えば、数年で劇的な効果、しかも米国をはるかに上回る効果を上げるのは間違いないです。

まずは、米国よりもはるかに上回る投資と賃金の劇的な上昇がおこるでしょう。日本輸出企業やデフレの最中には、海外投資を積極的に行ってきたの多く企業は海外ではなく日本市場に再投資することになります。それが原動力となり、国内投資と賃金の劇的な上昇につながるのです。

これがおこれば、日本国内が良くなるだけではなく、コロナ禍から復興しきっておらず、さらにウクライナ戦争に痛めつけられた世界経済を日本が牽引することになるのです。

日本国内では、様々な夢を諦めていた人たちが、それに再挑戦できるようになります。世界でそれが起こるのです。日本の支援により、ウクライナは急速に復興して、戦後の日本のような高度成長期を迎えるかもしれません。何と素晴らしいことではありませんか。

なぜそのようなことがいえるかといえば、米国やEUなど消費者物価指数が8%とか6%などにはなっておらず、コアコアCPIでは0.8%に過ぎず、総合でも2%台に過ぎません。まだまだ、積極財政、金融緩和ができる余地があるからです。このようなことは、長年デフレだった日本だからこそできることであり、インフレが亢進した他国ではやりたくでもできないからです。現在日本だけが、そのような潜在可能性を秘めているのです。

減税政策をとったにしても、現在のような状況なら、総合消費者物価指数が4%から6%くらいになったとしても、大丈夫です。


誰か、増税するしないだの、財政がどうの、赤字国債がどうのと言う前に、こうした夢を岸田総理に語れる人はいなのでしょうか。財務省が「財政破綻、財政破綻」と何度も吹き込むように、岸田総理の夢の話を何度、何度も吹き込めば、聞く耳を持つと自ら語る岸田総理ですから、夢の話に乗るかもしれません。しかも、この夢はかなわぬ夢ではなく、現実的な夢なのです。そうして、それは世界にとっても良いことなのです。

岸田総理がこれを実現すれば、日本を再建した総理として、歴史に名を残すことになります。ただ、今の日本だと世界恐慌から世界で一番先に金融間作と積極財政で脱却させた当時の大蔵大臣高橋是清があまり注目されていませんが、これは大きな間違いであり、この功績を称えるべきでしょう。

そうして、日本の経済を救った英雄として、岸田総理の名前も髙橋是清とともに歴史に刻まれるようにすべきでしょう。

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2022年6月4日土曜日

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日本の解き方



 このところの物価上昇をめぐり、「賃金の上昇が追いつかず、実質賃金がマイナスになった」と報じられている。企業の賃上げが本格化するのはいつごろなのか、物価上昇を上回る賃上げは進むのか。

 まず、賃金に関する経済理論を整理しておこう。賃金は、基本的には、労働の供給と需要によって決まる。つまり、基本的に個人の生産能力がベースであるが、労働市場の環境によって大きく左右されることもある。

 その上で、労働者を採用する企業数や規模、労働市場に関する情報が不完全な場合や労使間の賃金交渉の方法の違いなども影響してくる。このうち、はじめの部分、つまりマクロ経済に関する部分のみを考慮してみよう。

 名目的な賃金を上げるうえで、「労働供給」は人口などの要因で決まるので、「労働需要」が重要になってくる。労働需要は派生需要なので、経済活動に由来する。つまり、景気がよければ労働需要が増すが、景気が悪ければその逆だ。ここから、国内総生産(GDP)が増えると、失業率が低下するという「オークンの法則」が出てくる。

 労働需要が満たされる状況は、失業中の人が職を得ることから始まる。その段階では、無職ではなくなるが賃金は低い。このため、名目的な賃金ですら、平均値でみると下がってみえることもある。

 しかし、労働需要が増してくると、人手不足になる業者も増えてくる。となると、名目的な賃金は平均でみても間違いなく上がる。

 アベノミクスは、名目的賃金を上げるまでの貢献はあった。最後の段階で、コロナ・ショックがあったものの、失業率を下げ、名目賃金が上がるまでになった。

 新型コロナ対策として安倍晋三・菅義偉政権は大型補正予算を計上し、失業率の増加を先進国で一番低くした。その際、マクロ経済での有効需要増とともに、雇用調整助成金も使った。後者については失業者の増加を防ぐ効果もあったが、結果として本来失業している人も救ったことで賃金の高止まりも招いた。これは賃金上昇を弱めることにもつながっている。

 本コラムで繰り返しているが、GDPギャップ(総需要と総供給の差)が30兆円程度以上と相当な額になっているので、労働需要を喚起できずに、賃金の上昇圧力もない。

 当面、海外要因による物価上昇の影響が大きく、名目賃金上昇もそれに及ばないという状況だ。

 筆者の見立てでは、GDPギャップが解消しないと、実質賃金の上昇は見込めない。GDPギャップが解消して半年以上の一定期間を経過すると、インフレ率も当面高くなるが、それ以上に名目賃金も伸びるようになるだろう。

 インフレの基調を示すエネルギー・生鮮食品を除くいわゆる「コアコア消費者物価指数」の対前年同月比は4月時点で0・8%上昇に過ぎないが、最近のマスコミ報道はインフレを煽(あお)るものが多い。その中で、GDPギャップを埋める政策がとれるかどうかがポイントだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】現在の物価高に見合って賃金を上昇させるにはGDPギャップを埋めるしかないことを共通認識とすべき(゚д゚)!

過去30年間も、日本人の賃金が上昇しなかった原因は日銀が過去に金融政策を間違え、ほとんどの期間金融引締をしてきたため30年間もマネーストックが伸びなかったことが原因です。

これは、上の記事を書いた髙橋洋一氏も過去に同じことを語っています。それについては、このブログでも取り上げたことがあります。その記事を以下に掲載します。
【日本の解き方】日本の賃金はなぜ上がらない? 原因は「生産性」や「非正規」でなく、ここ30年のマネーの伸び率だ!!―【私の論評】日本人の賃金が低いのはすべて日銀だけのせい、他は関係ない(゚д゚)!


日本における生産性は日々向上しています。それも様々な分野で向上しています。同じ職場で同じ職位でも20年〜30年も勤務していれば、余程の人でない限り、個人の努力や、効率化、IT化などで、生産性はかなり上がるでしょう。おそらく、少なくとも2倍から3倍あがるでしょう。

さらに、日本企業は様々なイノベーションをして、既存の製品やサービスを改善し、さらに新たな製品も作り出します。

現在の世界では、日本も含めた先進国ならば20〜30年もすれば、様々な効率化やIT化やイノベーションが行われ、20〜30年前と比較すれば、効率化はすすみ、さらに従来なかった製品やサービスもうまれ、様々な側面で生産性はあがることでしょう。それこそ、総体的には2倍〜3倍生産性はあがるわけです。

こうして、生産性が上がったにも関わらず、それに応じて中央銀行がマネーストックを増やさなければ、何がおこるかといえば、デフレです。それは当然のことです。効率が良くなり、様々なイノベーションて従来にはなかった製品やサービスができあがっても、それに見合って貨幣か増えることなく従来のままであれば、それらを購入するには貨幣が足りなくなりますから、デフレになるのです。

政府が音頭をとって、たとえばAIで大イノベーションを起こそうとしたとします。当然声をかけるだけではなく、大規模な投資もするとします。それに民間企業も応じて、AIで大イノベーションがおこり生産性が飛躍的にあがったり、新たな製品やサービスが登場したとします。

それでも、日銀がマネーストックを増やさず、従来のままにしておけば、どうなりますか。無論デフレです。それに、いくらイノベーションをしたとしても、日本人の賃金は上がらないことになります。

企業がどんなに努力して、イノベーションを起こしたとしても、日銀がそれに応じてマネーストックを増やさなければ、デフレになり、賃金も上がらず、何も良いことはないのです。

それだけ、中央銀行のマネーストックの管理は重要なことなのです。ただし、中央銀行のマネーストックの管理はさほど難しいことではありません。イノベーションや生産性の向上を前提とした上で、毎年2%内外マネーストックを増やすだけで良いです。

そうして、それを実行しつつ、物価は上がっても、失業率が上がるような状態が続けば、金融引締策をすれば良いだけです。金融引締を続けて、物価が下がるようであれば、また金融緩和をすればよいだけです。これを交互に繰り返して20年〜30年もたてば、マネーストックは2倍から3倍増え、賃金も2倍〜3倍になります。

このようなことを過去30年世界の日本以外の中央銀行が行ってきましたが、日本の中央銀行である日本銀行だけが、過去30年間のほとんどの期間を金融引締政策ばかりしていたので、日本人の賃金は上がらなかったのです。

まずは、日銀が金融緩和策を継続しつづけるという前提がなければ、日本人の賃金が上がることはないのです。ただし、現在の日本銀行は金融緩和を継続しています。上の髙橋洋一の話はそれを前提として、当面の物価上昇に見合うだけの賃金にするためには、何をすればよいのかという趣旨でまずは、GDPギャップを埋めるべきであると提唱しているのです。

そうして、GDPギャップを埋めて、物価上昇に見合うだけの賃金上昇があったにしても、その後も日銀が金融緩和策を取らなければ、日本人の賃金は上がりません。

そうして、確かに日銀が金融緩和の姿勢を崩さなければ、いずれ日本人の賃金もあがってはくるでしょうが、それにはかなりの時間を要するでしょう。当面の物価上昇に対応できる賃金上昇は期待できません。GDPギャップを埋めなければ、直近で物価上昇を上回る賃金上昇は期待できないでしょう。

GDPギャップが解消して半年以上の一定期間を経過すると、インフレ率も当面高くなりますが、それ以上に名目賃金も伸びるようになります。そうして、その前提として日銀が金融緩和策を継続が必須です。

以上のようなことは鳥頭のマスコミには理解できないようです。物価高という一つの出来事があれば、それで頭がいっぱいになり他のことは考えられなくなるのです。

現状では、国民経済のことを考えれば、積極財政が重要なのです。現在今年の「骨太の方針」に、2025年までのプライマリーバランス(PB)黒字化目標を入れるかどうか、大論争になっています。

財政の持続可能性は、債務残高対GDP比の経路で見ていくのが普通の考え方で、PB黒字化は、それが収束・安定する事と何の関係もありません。本質的に重要なのは持続的な経済成長です。

しかも、現在は先にも述べたように、GDPギャップを埋めるのが最優先です。そうして、現在はそれを巡って駆け引きが行われている真っ最中です。骨太原案で、PB目標年次の基準がなくなったから、財務省完敗という人もいますが、他のところで「これまで通り」等と書いてあるものもあります。

当初、安倍さんと麻生さんは、財政政策検討本部でした。そこで、財務省は麻生さんを財政健全化本部に引き抜き画策、これを岸田首相が了解。その後は、対立を装っただけで、手打ちは終わっていたので。これが“ワル”の財務省やり方です。マスコミはこれを報じていません。これが読めないで、暴発したのが、逮捕された財務省の高官です。

このあたりの顛末は以下の動画をご覧いただければ、よくご理解いただけるものと思います。 



 現在やるべきことは、積極財政と金融緩和の両方です。積極財政で、エネルギー・原材料価格を抑える政策をすれば、なお良いです。

最近のマスコミ報道はインフレを煽るものが多いです。その中で、GDPギャップを埋めるべきことは共通認識として多くの人が共有すべきです。

あとは、最終的に「骨太の方針」に、2025年までのプライマリーバランス(PB)黒字化目標を入れないことを祈るばかりです。

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2022年6月3日金曜日

プーチンが変えた世界のバランス・オブ・パワー―【私の論評】リアルな立場に立脚すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になり得る(゚д゚)!

プーチンが変えた世界のバランス・オブ・パワー

岡崎研究所

 プーチンはウクライナをロシアに吸収合併し、ベラルーシとの3カ国よりなる「ミニ・ソ連の再興」を夢見たのだろうが、結果としては、国連憲章にある戦後の秩序を壊し、ロシアの国際的な地位にも大きな損害を与え、制裁によりロシア経済も疲弊させている。


 オースティン米国防長官はウクライナ訪問後、ロシアを弱体化することを目的にするとの発言をして、一部から批判されたが、キッシンジャーは、プーチンがそういう状況を自ら作り出していると指摘している。その通りである。

 ウクライナ戦争により世界のバランス・オブ・パワーは大きく変化している。このことにつき、ワシントンポスト紙コラムニストのデヴィッド・イグネイシャスは、5月17日付け同紙掲載の論説‘The new balance of power: U.S. and allies up, Russia down’で概観を試みている。イグネイシャスは、以下の諸点を指摘する。

・単純に言えば、米国と欧州の同盟国は上に上がり、ロシアは下に下がった。

・プーチンの誤算は中露関係に影響を与え、中露分断の機会もあり得る。

・中露の勢いが削がれる中、米国はアジアでの戦略パートナーシップを推進。

・インド、サウジアラビアなど湾岸諸国、東南アジア諸国、ブラジルといった「重要な中級国家」において米国は機会を持つ。

・米の軍事力、情報優位、戦略的パートナーシップは圧倒的に強いということを、世界中が想起。

 イグネイシャスによる上記の俯瞰は、大体当たっているように思われる。

ロシアへの民主化の波は訪れるのか

 将来のウクライナについて言うと、ウクライナが分裂国家になっても欧州連合(EU)に入り、民主主義国として繁栄するようになると、人的にも文化的にもつながりの多いロシアにそれが影響しないわけはないと考えられる。民主的なウクライナがロシアの民主化を促進する可能性は強いと思われる。ドイツなどがウクライナのEU加盟に否定的であることは、その意味で視野が短絡的に過ぎるように思われる。

 プーチンは政権の座から引きずり落とされてしかるべきだが、これはロシア人自身がやらなければならない問題である。このような失敗をしたプーチンへの不満がロシア国内でもくすぶっているはずで、その素地に点火する人が出て来る可能性は否定できないだろう。

【私の論評】リアルな立場に立脚すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になり得る(゚д゚)!

バランス・オブ・パワーとは、国際政治における勢力の均衡を指す国家間の秩序モデルです。各国の勢力を均等化することで現状を維持し、緊張を含みながらも平和を継続させる効果を持つのです。

このバランスが崩れると秩序は混乱し戦争が生じます。19世紀の大英帝国は国家戦略として勢力均衡を適用し、国益を維持したといわれます。戦争を抑止するために各国間で条約を結んだり、地域や国際的な集団保障体制を構築したりして安定的な秩序を保ちます。

現代の国際連合は秩序維持の代表的なメカニズムです。しかし、未来永劫、繁栄を極める国や継続する同盟はなく、パワーポリティクスのもとでは国家は勢力の拡大を目指します。国家の興亡によって均衡が崩れると、パワーシフト(力の移行)が生じます。

現実の世界は、ヴェストファーレン条約以来、米ソの冷戦時代を除き、数カ国のパワーオブバランスの上になりたってきたのです。ちなみに、ヴェストファーレン条約(ヴェストファーレンじょうやく、独: Westfälischer Friede、英: Peace of Westphalia)は、1648年に締結された三十年戦争の講和条約で、ミュンスター条約とオスナブリュック条約の総称です。英語読みでウェストファリア条約とも呼ばれます。近代における国際法発展の端緒となり、近代国際法の元祖ともいうべき条約です。

ヴェストファーレン条約締結の図

この条約によって、ヨーロッパにおいて30年間続いたカトリックとプロテスタントによる宗教戦争は終止符が打たれ、条約締結国は相互の領土を尊重し内政への干渉を控えることを約し、新たなヨーロッパの秩序が形成されるに至ったのです。この秩序をヴェストファーレン体制ともいいます。

そうして、第二次世界大戦後のバランス・オブ・パワーに挑戦をしたのが、ロシアであり、それを絶対に許さないという姿勢で臨んでのが米国とその同盟国です。そうして、ロシアは第二次世界大戦中に、独ソ戦で多大な犠牲を出しつつも連合国側につき、戦後に当時のソ連が勝ち取りそれを引き継いだロシアの常任理事国の地位を失うことになります。

こうしたロシアの蛮行に対して、リアリストとリベラルの受け止め方は大きく異なります。リアリストは、以前からNATOの東方拡大はロシアの死活的な安全保障上の利益を脅かすことになり、同国はそれを守るための軍事行動を厭わないので危険だと主張していました。

したがって、リアリストはロシアがウクライナを侵略した意味をNATOがロシアの生存を脅かした予想された結果であり、不幸にしてウクライナが犠牲になってしまったととらえたようです。

他方、リベラルは、ロシアの侵略に大きな衝撃を受けました。この学派の人たちは、ロシアが引き起こした国際法に違反する行動を「法の支配に基づく国際秩序」を破壊する重大な「犯罪行為」だと解釈したのです。

リベラルは、国際社会を発展する規範や制度から構成されるものとみなす傾向にあります。とりわけ、リベラル派は、主権国家間の境界線を尊重する「領土保全規範」が、国家の他国への侵略を抑制する重要な役割を果たしていると信じていました。

その規範を大胆に破ってウクライナを軍事力で攻撃したロシアの行動は、国際社会全体の「公共善」に対する挑戦であると、リベラルは危機感を募らせたわけです。だから、リベラルの人たちの多くは、ウクライナとロシアの戦争を「善と悪」との闘争とみなしたのです。

他方、リアリストはロシア・ウクライナ戦争をバランス・オブ・パワーの変化が引き起こした事象と理解しています。したがって、リアリストはこの戦争に善悪の基準を当てはめようとしないのです。

リアリストは、戦争には必然的にパワーの分布が反映されるとみなします。したがって、戦争の終結形態は、残念ながら、ロシアとウクライナの国力の差に左右されてしまうとリアリストは主張します。リアリストの重鎮であるアメリカの元国務長官ヘンリー・キッシンジャー氏は、ウクライナがロシアに領土を割譲すべきととれる発言をして、たいへんな物議をかもしました。

彼は5月23日、スイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、「今後2カ月以内に和平交渉を進めるべきだ」との見解を示すとともに、「理想的には、分割する線を戦争前の状態に戻すべきだ」と述べました。この「戦争前の状態」という言葉は、ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミア半島や、親ロシア派勢力が支配する東部ドンバス地方の割譲を意味すると受けとられました。


この発言に対して、ウクライナのウォディミル・ゼレンスキー大統領やドミトロ・クレバ外相は猛反発しました。かれらは、ロシアに譲る地域にはウクライナ人が住んでおり、ロシアへの譲歩は戦争を防げなかったではないかと、キッシンジャー氏を激しく批判しました。

バランス・オブ・パワーといった地政学的要因がウクライナの行動を制約していることについて、ウクライナ政府内では、その受け止め方に迷いがあるようです。

ゼレンスキー大統領は「私たちには戦う以外の選択肢はない」「侵略者を罰するための前例がなければならない」「侵略者が全てを失えば戦争を始める動機を間違いなく奪うことができる」と強気の発言をしています。

ロシア軍が東部ドンバスや南部ミコライウで空爆や砲撃を実施し攻勢を強めた中、アンドリュー・イェルマーク大統領府長官は5月22日、「戦争は、ウクライナの領土の一体性と主権を完全に回復して終結しなければならない」と述べて、ウクライナは停戦や領土の譲歩はしない姿勢を示しました。

こうしたゼレンスキー政権の対ロシア政策は、ウクライナ国民に広く支持されています。ウクライナ国民の82%は、戦闘が長期化して国家の独立性への脅威が高まることになっても、ロシアとの交渉で領土を割譲すべきでないと考えていることが、世論調査の結果で分かっています。

その一方で、ゼレンスキー大統領は5月21日に報じられたテレビインタビューで、ロシア軍がウクライナへの本格侵攻を開始した2月24日以前の領土を取り戻すことができれば「ウクライナにとっての勝利とみなす」と表明して、クリミア奪還は必ずしも目指さないと示唆していました。この方針は、先述のキッシンジャー氏の提言とあまり変わりません。

おそらく、ゼレンスキー大統領としては、理想としてクリミア半島を含むすべてのウクライナの領土をロシアから取り返したい反面、それを目指すことはロシア軍との戦闘が長く激しくなり、国民の多くの生命を犠牲にしてしまうことも理解しているのでしょう。こうしたジレンマに直面して、普通の人では想像できないような深く苦しい悩みを抱えるゼレンスキー氏の心情は、察するにあまるものです。

くわえて、ウクライナを支援するNATOの軍当局者にも、同様の迷いがあるようです。かれらは、ドンバス地方やクリミア半島の一部地域では地元住民からの反発も考えられることから、ウクライナ政府が実際に領土を取り戻すために戦うべきかどうかについては、疑問な点もあると述べています。

言うまでもないことですが、ウクライナ政府がロシアとの戦争の目的と手段を決める明白な権利を持っています。われわれにできることは、外からウクライナを助けることです。問題は、関係各国が、どのようにウクライナを支援するかです。

リアリストの答えは、自国の国益の観点からウクライナ政策を打ち出すべきだということになります。他方、リベラルの処方箋は、国際社会の公共善を守るために、その規範を踏みにじったロシアという悪を徹底的に打倒すべきとなるでしょう。

ウクライナの最大の支援国である米国は、今のところリベラル派の進言にしたがって行動しているようです。バイデン政権は、第二次世界大戦後、初めてとなる戦時の「レンド・リース法」をウクライナに適用して、全面的で大規模な軍事援助を行っています。

また、アメリカはヨーロッパにおいて、異例ともいえる大規模な増派をしています。アメリカのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、侵攻前にヨーロッパに展開していたアメリカ軍の兵力規模は、米軍欧州軍や陸海空軍、海兵隊、宇宙軍を合わせ約7万8000人だったが、わずか数カ月で30%増となり、10万2000人態勢に拡大したと発表しました。これは中国の脅威の増大を念頭においたリバランス政策において、インド・太平洋地域に展開してきた米兵数を上回っています。アメリカは再びヨーロッパに回帰したのです。

こうしうたアメリカのウクライナ支援策については、リアリストから苦言が呈されています。ジョン・ミアシャイマー氏は、以下のようにバイデン政権を批判しています。
オバマ政権で副大統領を務めていたバイデンは、ウクライナ加盟の”超タカ派”として動いてきました。彼は、ウクライナのNATO加盟に積極的になるのです。バイデン大統領は現在のウクライナ危機を引き起こしたメインプレーヤーの一人です。バイデン自身が副大統領時代にウクライナのNATO加盟にコミットしすぎたためでしょう。それでリアリストのロジックではなく、リベラル覇権主義のまま(ウクライナに)肩入れしていったわけです。ウクライナにいるロシア軍を決定的に敗北させ(ることは)。ロシアの生存を脅かしている。これはまさに『火遊び』なのです。
(『文藝春秋』2022年6月、149-156ページ)。
ミアシャイマー氏の見解が正しければ、アメリカがウクライナ情勢に深入りしすぎてしまったため、ロシアを交渉により戦争終結へと動かすことは不可能になってしまったようです。

ミアシャイマー氏

米国に戦争の「出口戦略」がないことは、以前から識者が懸念していました。外交問題評議会のリチャード・ ハース会長は、「奇妙なことに、ウクライナでの西欧の目標は初めから明確とは言い難い。ほぼ全ての議論が手段に集中している。何が戦争を終わらせるかにほとんど言及がない。どう戦争を終了すべきかに答えることは、ロシアとの闘争が重大局面をむかえる中、大規模な戦闘の気配がするので、死活的に重要だ」と早くから指摘していました。

最近になって、アメリカの専門家から、西側は戦争終結の出口戦略とウクライナ支援をパッケージにすべきだとの積極的な意見もだされるようになりました。ブレンダン・リッテンハウス・グリーン氏(ケート研究所)とカイトリン・タルマージ氏(ジョージタウン大学)は、ロシア軍の完全な敗北を目指すと核の惨劇のリスクは高まり、そうならなくても人道被害は甚大になるので、西側は武器支援をキーウが受け入れ可能な紛争解決に関連づけ、「必要であれば(ウクライナへの)軍事支援の栓を閉めることも厭わないと示す」べきだと踏み込んだ提言をしています。

現在、米国やウクライナはリベラルの助言に従っています。これはバイデン大統領が、5月23日、ロシアのウクライナ侵攻について「プーチン大統領に責任を負わせる」と述べたことに表れています。ウクライナ大統領府長官のアンドリュー・イェルマーク氏も「今日、善と悪の間に中間は存在しない。あなた方は、善につくか、悪につくかのどちらかだ」と、リベラル派の言説でロシアのウクライナ侵略への西側の支援を訴えています。

日本はウクライナへの経済支援に全力を傾けています。岸田文雄総理大臣は「日本としては、世界銀行と協調する形で、従来の3億ドルを倍増して6億ドルの財政支援を行うことにする」と述べ、さらに3億ドルの借款を追加する方針を明らかにしました。これにより日本のウクライナへの借款は6億ドル、日本円でおよそ770億円規模となります。

同時に、日本は中国や北朝鮮の脅威に対処するために、防衛費を現状の2倍にすることを目指しています。ウクライナの勇敢な戦いを支えながら、台頭する中国の脅威から安全保障を確保しなければなりません。こうした苦境を打開する万能薬が日本にはあります。それは、安倍元総理も述べたように、政府日銀連合軍による調達です。

政府が大量に国債を発行し、日銀がそれを買い取るという方式です。これにより、防衛費をケンづいの2倍にしても財政的に苦しくなることはありません。現に、安倍・菅両政権の期間には、合計で真水の100兆円にものぼる補正予算を組み、コロナ対策を実施しました。これと米国などにはない雇用調整助成金制度で、日本はコロナ感染が拡大しても、失業率が2%台で推移させるという他国には見られない偉業を達成しました。

この方式の唯一良くない点は、インフレを招いてしまう可能性ですが、日本はもともとデフレ気味だったので、コロナ対策期間中には米国やヨーロッパのように6%〜8%ものインフレになることはありませんでした。

総理大臣在任期間中に多大な成果をあげた安倍氏と菅氏

最近では、消費者物価指数が全体では2.5%ですが、コアコア(生鮮食料品、エネルギーを除く)では、0.8%であり、まだまだ余裕があります。エネルギー価格の上昇などを手厚く保護しつつ、積極財政を行うことで、政府日銀連合軍により、防衛費を獲得しつつ、ウクライナに対して米国に迫るような支援をすることは可能です。

岸田政権は、そうしたことを実施すれば、ウクライナや米国や西側諸国に対して、存在感を発揮することができます。その上で、米国や西側同盟国とウクライナを交えながら、ゼレンスキー政権が受け入れ可能な「出口戦略」を本格的に協議してもよいのではないでしょうか。そして、リベラル寄りの西側の戦略をリアリストの方に少しずつ動かす努力は、検討に値するでしょう。

中国という出現しつつある地域覇権国の脅威にさらされる日本の国民は、国益を最大化できる国家戦略について感情的にならず冷静に考えて、その答えをだすことが求められると私は思います。

しかしながら、現在のアメリカには、そうした政治的意思はないようです。ロイド・オースチン国防長官は「アメリアはウクライナとロシア間の和平取引にとって可能性のある条件を要求してはいない」と発言して、バイデン政権が「出口戦略」をゼレンスキー政権と構築することを否定しています。

このままでは、ウクライナ戦争はいつまで続くかわかりません。現状ですぐに、リアルな解決法を模索することは、ロシアのプロパガンダに利用されるだけかもしれません。そのことを恐れたからこそ、2月24日以前の領土を取り戻すことができれば「ウクライナにとっての勝利とみなす」というキッシンジャー氏の発言にゼレンスキー大統領は、激怒したのでしょう。

しかし、今はまだ戦争が始まってから3ヶ月程度です。6月中には戦争がはじまってから4ヶ月を迎えます、8月になれば半年です。来年1月になれば、1年です。

6ヶ月を超えても、戦争がいつ終わるかわからない状態が続けば、ロシアは経済的にも軍事的にも疲弊し、ウクライナは自国領土が戦場といことで疲弊します。両方とも、先が見えないことに対してかなりの不安を感じることになるでしょう。

半年を超えたあたりから、ロシアもウクライナも理想論や原理原則ばかりを語ってはおられなくなり、現実的な「出口」戦略を模索することになるでしょう。

まさに「戦争にチャンスを与えよ」で米国の戦略家ルトワック氏が語っていたことが現実になるのです。ルトワック氏は、平和な時代には人々は戦略問題を軽視し、近隣諸国の不穏な動きにも敏感に反応せず、日常の道徳観や習慣の方を戦略課題よりも優先してしまう。このために戦争のリスクが一気に高まるといいます。今の日本の状況はまさにそうかもしれません。

また、戦争が始まると男達は戦争に野心やロマンを見出し、嬉々としてこれに参加しようとします。しかし、戦争が一旦始まり、膨大な量の血と物資の消耗が始まると、最初の野心は疲弊と倦怠感に取って代わり、戦う気力はどんどんと失われていきます。

人々は遺恨や憎しみよりも平和を希求するようになるといいます。あるいは抗争中のどちらかの勢力が圧倒的な勝利を収めた際も戦争は終結します。破れた側に闘う力が残されていないためです。戦争を本当の意味で終結させるのは膨大な犠牲を待たねばならないのです。つまり戦争が平和を生むのです。

これは、リベラリストには到底受け入れがたいことでしょうが、これは冷徹な現実なのです。現在中途半端に介入すれば、遺恨が残り戦争の種はくすぶり続けることになります。

ウクライナ、ロシアがともに平和を希求するようになったとしても、リベラリズムで固まった米国の態度は変わらない可能性が大きいです。その時こそ、日本の出番です。米国や西側同盟国とウクライナを交えながら、ゼレンスキー政権が受け入れ可能な「出口戦略」を本格的に協議して、ロシアとの仲介役を買ってでるべきです。

日本にはこれに似たことをすでに実施したことがあります。それはインド太平洋戦略です。これは、安倍晋三氏が総理大臣だった頃に提唱し、それをトランプが受け入れて、現在でも米国の基本戦略になっています。バイデン政権も今年になってからはじめてバイデン政権の「インド太平洋戦略」を公表しています。

ただ、これも米国だけが動いていたとしたら、インド太平洋地域や関係国には米国に反発する勢力も多く、なかなか今日のような形にはならなかったと思いますが、安倍総理が米国とそれらの国々との橋渡し役を買ってでたため、今日のような形になったといえます。これを米国は高く評価しています。

これは、ウクライナ戦争停戦でも同じようなことがいえると思います。米国や中国、ましてやロシアが直接動いては、反発する勢力も多いです。EUも反発される可能性が大きいです。しかし、日本なら米・EU、中露よりは反発は少ないです。

これを評価しないというか、無視するのが日本国内のメディアや野党です。先にも述べたように、日本国内では安倍・菅両政権の期間には、合計で真水の100兆円にものぼる補正予算を組み対策を実行して、輝かしい成果をあげたのですが、メディアはこれを失敗したかのごとく印象操作し、実際失敗したと思い込んでいる人も多いようです。しかし、当時の数字をみれば、そうではないことがはっきりわかります。

菅政権は日本特有の強力な鉄のトライアングル、特にその中でも、医療村の強烈な抵抗にあって、病床確保には失敗しましたが、それでも結局医療崩壊を起こすこともなく、驚異的なワクチン接種率の向上を実現し、深刻な経済の落ち込みも招くことなく、相対的に大成功しました。

このような日本の潜在力を十二分に発揮すれば、日本こそウクライナ戦争を終わらせる原動力になるくらいの能力を持っているといえます。

ただ、リベラル的な観点から物事をみていては成就しません、やはりリベラル・保守などの立場を超えて、リアルな立場から物事をみていくべきです。綺麗事、お花畑、理想・理念に凝り固まり、現実から目をそらしていれば、何も成就しません。

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