2024年8月26日月曜日

増大する外国人労働者の実態を調査せよ 岸田政権が受け入れ推進 公的年金や医療保険の納付実態さえろくに調査をしていない―【私の論評】日本の未来を守るための選択肢:安い労働力志向からAI・ロボット化への転換

江崎道朗 国家の流儀

まとめ
  • 日本の在留外国人は全人口の約3%(340万人)に達し、永住許可者も約90万人に増加している。岸田政権は外国人労働者の受け入れを推進する法改正を行った。
  • 2070年には日本の総人口の10%が外国人になるとの予測がある。
  • 国家基本問題研究所は、国益を基準にした外国人政策の確立と外国人基本法の制定を提案している。
  • 永住許可の要件を日本在留20年に戻すことや、定住制度への一本化を検討することが求められている。
  • 外国人労働者の社会保障費用や教育費用について、官邸主導での実態調査を行い、データに基づいた冷静な議論が必要であると強調されている。

 近年、日本の在留外国人の数は急増しており、現在では全人口の約3%にあたる340万人に達している。また、永住許可を持つ外国人も約90万人に増加している。このような状況を受けて、岸田文雄政権は外国人労働者の受け入れをさらに推進するための法改正を行った。このままの傾向が続くと、2070年には総人口8700万人のうち、約10%が外国人になるとの予測も出ている。

 この問題に対して、櫻井よしこ氏が理事長を務めるシンクタンク「国家基本問題研究所」は、6月21日に政策提言を発表した。提言の第一は、「国益を基準にする外国人政策を確立せよ」というもので、外国人労働者の受け入れが本当に国益にかなっているのかを問い直している。具体的には、外国人基本法の制定を提案し、外国人労働者受け入れに関する経済的および社会的影響について国民的な議論を促進する必要性が強調されている。

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 次に、提言の第二は「永住許可の急増を止めよ」というもので、1998年に永住許可の要件が日本在留20年から10年に短縮されたことが問題視されている。この短縮の経緯が不明であるため、永住許可の要件を再び20年に戻すことを提案している。さらに、定住制度への一本化を検討し、期限を設けて更新のたびに国益の観点から審査を行うべきだと述べている。

 また、外国人労働者の増加に伴う社会保障や教育などの社会費用の拡大についても、具体的なデータに基づいた議論が必要である。特に、日本に住民票がある外国人が公的年金や医療保険に加入する必要があるにもかかわらず、その納付実態についての調査が十分に行われていない。このため、官邸主導で法務省、厚生労働省、文部科学省、総務省、警察などが連携し、徹底的な実態調査を実施すべきである。

 最後に、この記事は、外国人労働者に関する政策について、感情論や印象論ではなく、データに基づいた冷静な議論を進めるべきである。これにより、国益を考慮した持続可能な外国人政策を確立すべきである。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本の未来を守るための選択肢:安い労働力志向からAI・ロボット化への転換

まとめ

  • 日本の在留外国人増加の背景には少子高齢化による労働力不足と安い労働力を求める経営者の動きがあるが、こうした「安い日本」志向が賃金抑制の直接的原因ではない。
  • 日本の賃金停滞の主要因は日銀の長期にわたる金融引き締め政策にあり、これが経済成長と賃金の伸びを抑制してきた。
  • 政府は外国人労働者受け入れのための制度整備を進めているが、大規模な移民受け入れには課題があり、AI・ロボット化の推進がより効果的な解決策となる可能性がある。
  • AI・ロボット化の推進は生産性向上、新産業創出、国際競争力強化、社会課題解決など多くの利点があり、これを推進するには積極的な金融緩和政策が重要である。
  • 日本経済の持続的成長には、安価な労働力としての外国人労働者受け入れではなく、内外を問わず高度人材の受け入れ適正配置と技術革新の推進を組み合わせた戦略が効果的である。
連合の芳野友子会長

日本の在留外国人の増加の背景には、日本の少子高齢化による労働力不足に加えて、一部の経営者による安い労働力を求める動きが大きく影響しています。1990年代初頭、当時の日経連(現在の経団連)と連合が共同で「内外価格差解消・物価引下げに関する要望」を出し、物価引き下げによる「真の豊かさ」の実現を訴えていました。経営者団体と、労働組合が揃って、デフレを志向するような報告書を出していたのです。

しかし、こうした「安い日本」志向が直接的に労働者の賃金抑制につながったという認識は明らかな間違いです。実際には、日本の賃金停滞の主要因は、日銀の金融政策、特に長期にわたる金融引き締めにあると考えられます。日銀がマネーの増加を抑制してきたことが、経済全体の成長を抑え、結果として賃金の伸びを抑制してきたのです。

この因果関係の誤解が今も続いており、それが安い労働力を求める動機であり続けていることが問題です。一部企業が、賃金を抑制することで競争力を維持しようとする姿勢を続けていますが、これは経済全体の成長を阻害する要因となっています。

しかしこうした背景のもと、政府は「特定技能」という新しい在留資格の創設や技能実習制度の拡大など、制度面での整備を進めてきました。企業側も人手不足を補うために外国人労働者を積極的に採用しており、2023年の調査では全体の36.3%の企業が外国人を雇用しています。特に、技能実習制度は本来技術移転を目的としていましたが、実質的には安価な労働力として機能している面があります。


しかし、多数の移民を受け入れた国々の経験から、大規模な移民受け入れには様々な課題があることが明らかになっています。そのため、このブログでも過去に主張してきたように、少子化などの問題に対応するには移民ではなく、AI・ロボット化の推進がより効果的な解決策となる可能性があります。

AI・ロボット化の推進には多くの利点があります。生産性の向上、労働力不足の解消、社会的統合の問題回避、技術革新の促進などが挙げられます。例えば、大阪王将の親会社では、AIカメラの導入により生産ラインの人員を約3割削減することに成功しています。このような状況下で、「AI・ロボット化の推進」は、マクロ経済学的に見れば「装置化」として捉えることができます。装置化とは、生産過程において人間の労働を機械や設備に置き換えていくプロセスを指します。AI・ロボット化は、この装置化をさらに高度化し、知的労働の一部までも自動化する可能性を持っています。

AI・ロボット化の推進には多くの利点があります。まず、生産性の向上が挙げられます。労働力不足を補い、効率的な生産体制を構築することで、企業の生産性が大幅に向上する可能性があります。次に、新産業の創出が期待されます。AI・ロボット関連の新たな産業が生まれることで、新たな雇用機会が創出されるでしょう。さらに、国際競争力の強化も重要な利点です。技術革新により、日本の産業競争力が向上し、グローバル市場での地位を強化することができます。

加えて、社会課題の解決にも貢献します。特に高齢化社会における介護や医療などの課題に対して、AI・ロボット技術が有効な解決策を提供する可能性があります。リフレ派の主張に基づけば、このようなAI・ロボット化を推進するためには、積極的な金融緩和政策が重要な役割を果たします。

資金供給を増やすことで企業の投資意欲を刺激し、技術革新を加速させることができるのです。同時に、財政政策を通じて公共投資や研究開発支援を行うことも必要です。これにより、AI・ロボット技術の発展と普及をさらに後押しし、日本経済全体の成長につなげることができるでしょう。

2024年3月19日、日銀はマイナス金利政策を解除し、金利を引き上げることを決定しました。しかし現在の日本経済の状況下では、金融引き締めや利上げは適切ではありません。むしろ、経済成長を促進するためには、金融緩和政策を継続し、マネーの供給を増やすことが重要です。

このような状況下で、単に安価な労働力として外国人労働者を受け入れるのではなく、高度人材の受け入れと技術革新の推進を組み合わせた戦略が、日本経済の持続的な成長にとってより効果的であると考えられます。特に、高度人材に関しては、国内外から有能な人材を各所で活用できる体制を整えるべきです。特に政府機関や委託機関等における高度人材の賃金に関しては早急に例外規定を設けるべきです。

これにより、「安い日本」から脱却し、生産性の向上と新たな産業の創出を通じて、日本経済の競争力を維持・向上させることができるでしょう。

いわゆる「安い日本」は正しい文脈で捉えられていないことが多い

同時に、金融政策と労働市場政策の適切な連携、そして企業の賃金政策の見直しが必要です。これらの取り組みを通じて、日本は労働力不足の問題に効果的に対処しつつ、社会の調和を維持し、経済的な繁栄を実現することができると考えられます。

もうこのようなことは、まともな企業は実践しつつあり、安い労働力を志向するのは、一部の頭の悪い時代錯誤の経営者だけになりつつありますが、政府はこれに対して対応しきれていないのが実情です。次の総理大臣に期待したいです。

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2024年8月25日日曜日

<高市氏、総裁選立候補へ>「前回の総裁選でのお礼がなかった」…党内基盤の弱さがネックも「立候補者が増えれば増えるほど高市に風が吹く」といわれる理由―【私の論評】高市氏が保守の未来を切り拓く可能性と石破氏の厳しい戦い

<高市氏、総裁選立候補へ>「前回の総裁選でのお礼がなかった」…党内基盤の弱さがネックも「立候補者が増えれば増えるほど高市に風が吹く」といわれる理由

まとめ
  • 自民党の総裁選は岸田文雄首相の不出馬を受け、多くの議員が立候補を検討する大乱立の状況となっている。
  • 経済安全保障担当大臣の高市早苗氏が注目されており、保守層からの支持が高いが、党内基盤の弱さが懸念されている。
  • 高市氏は過去に派閥を離脱しており、その影響で党内での支持を集めるのに苦労している。
  • 今回の総裁選では候補者が多いため、議員票の重要性が相対的に低下し、党員票の影響力が増す可能性がある。
  • 各候補者の政策や論戦の内容が、党内の権力闘争よりも重要になると予想されている。
高市早苗氏

来月予定されている自民党総裁選は、岸田文雄首相の不出馬表明を受けて、多くの議員が立候補を検討するという大乱立の状況が生まれている。その中でも特に注目されているのが、経済安全保障担当大臣の高市早苗氏だ。彼女は自民党支持層からの人気が高く、すでに立候補に必要な推薦人20人を確保したとの報道もあるが、同時に党内基盤が弱いという懸念もある。

高市氏の党内基盤の弱さは、過去の派閥離脱や人間関係の構築の難しさに起因している。彼女は自民党の中でもタカ派の名門派閥である清和会に所属していたが、2011年に派閥を離脱し、無派閥となった。この決断は、当時の自民党の状況や安倍晋三氏への支持を考慮した結果だったが、派閥内での支持を失う要因ともなった。このような背景から、高市氏は党内での仲間集めに苦労しており、推薦人の確保に一時は苦戦する場面も見られた。

今回の総裁選は、候補者の乱立により、従来の党内政局とは異なる展開が予想されている。候補者が多ければ多いほど、議員票の重要性が相対的に低下し、党員票の影響力が増す可能性がある。これは、高市氏にとって有利に働く要素となるかもしれない。彼女は自民党支持層からの人気が高いため、党員票を獲得するチャンスが広がる可能性がある。

最終的には、党内の権力闘争よりも、候補者の政策や論戦の内容が重要になるだろう。このような状況の中で、各候補者が自らの政治家としての真価を問われることになるだろう。高市氏をはじめとする候補者たちが、どのように支持を集め、総理総裁の座を獲得するのか、注目が集まります。

集英社オンライン編集部ニュース班

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【私の論評】高市早苗氏が保守の未来を切り拓く可能性と石破茂氏の厳しい戦い

まとめ
  • 自民党総裁選では候補者の乱立が予想され、高市早苗氏にとって有利な状況が形成されつつある。
  • 国会議員票と党員票が同数であり、候補者が多い場合、議員票が分散し党員票の影響力が増すため、高市氏の強みが発揮される可能性がある。
  • 高市氏は自民党支持層からの人気が高く、特に保守層からの支持を得やすい立場にある。
  • 石破茂氏はメディアでの人気が高いものの、党内での支持獲得に苦戦しており、党内にいながら自民党に対する批判的な過去の発言が影響している。
  • 高市氏は推薦人を確保し、相対的に強い立場にある一方で、総裁選の結果を予測するのは依然として難しい。
自民党総裁選の仕組み

自民党総裁選において、候補者の乱立が予想される中、特に高市早苗氏にとって有利な状況が生まれつつあります。この状況を理解するためには、まず自民党総裁選のルールを把握する必要があります。総裁選では、国会議員票と党員票がそれぞれ同数(通常は各384票)を占めており、国会議員は1人1票を持ちます。一方、党員票は地方票として集計され、得票率に応じて配分されるシステムになっています。

候補者が多数立候補する場合、このルールが特に重要になってきます。立候補には20人の推薦人が必要であるため、例えば10人が立候補すると、最低でも200票が固定票となります。これにより、国会議員の票が大きく分散し、残りの浮動票が少なくなる傾向があります。その結果、議員票での大差がつきにくくなり、議員票の重要性が相対的に低下することになります。

一方で、党員票は変わらず384票のままであるため、党員票での差が最終結果により大きな影響を与える可能性が高まります。ここで高市氏の強みが発揮されると考えられます。高市氏は自民党支持層、特に保守層からの人気が高いとされており、党員票で強みを発揮できる可能性があるのです。

従来の総裁選では、党内基盤の強さが重要視されてきましたが、今回の状況では、党員からの支持が強い候補者が有利になる可能性があります。高市氏は党内基盤では必ずしも強くないとされていますが、党員からの支持が強いため、この状況を活かせる可能性があります。議員票での不利を党員票で挽回するチャンスが広がっているのです。


さらに、候補者が多いほど、決選投票に持ち込まれる可能性も高くなります。決選投票では、上位2名による争いとなるため、1回目の投票で3位以下となった候補者の支持者の動向が重要になります。高市氏が決選投票に残った場合、保守層からの強い支持を背景に、他の候補者の支持者からも票を集められる可能性があります。

このように、候補者の乱立という一見混沌とした状況が、高市氏にとっては有利に働く可能性があるのです。ただし、総裁選はあくまで政策論争や人物評価など、多様な要素が絡み合う複雑な政治プロセスであり、最終的な結果を予測することは困難です。高市氏がこの状況をどのように活かし、他の候補者との差別化を図っていくのか、今後の展開が注目されます。

石破茂氏も、自民党総裁選において有利な状況にある可能性があります。候補者の乱立が予想される中、特に党員票の重要性が増すことが彼にとっての利点となります。候補者が多い場合、国会議員票が分散し、党員票の影響力が相対的に大きくなるため、石破氏はこの状況を活かすことができるかもしれません。

石破氏は世論調査では次の総理大臣にふさわしい人物としてしばしばトップに挙げられています。過去の総裁選でも、2012年の選挙では安倍晋三元首相の2倍近い党員票を獲得しており、これは彼の党員からの支持の強さを示しています。

また、今回の総裁選では派閥の締め付けが緩んでいるため、これまで石破氏の弱点とされてきた党内基盤の問題があまり影響しない可能性があります。さらに、もし石破氏が1回目の投票で上位2名に入れば、決選投票に進出することができます。

石破氏のメディア報道での人気は、この1回目の投票で有利に働く可能性があります。しかし、石破氏自身も「難しい、厳しいというのはいつも一緒。楽だった(総裁)選挙なんて1回もありません」と述べており、楽観視はしていません。過去4回の総裁選で勝利できなかった経験から、党内での支持獲得の難しさも十分に認識しているようです。

石破茂氏は、自民党総裁選においてメディア報道での人気が高いものの、党内での支持獲得に苦戦しています。多くの自民党議員から敬遠されている理由として、党内批判やコミュニケーション不足、政策の不一致、特に保守派議員との不一致が挙げられます。

石破氏は自身の言動について、「自民党にいながら自民党を批判してるからですよ」と明確に述べています。さらに、「間違っていることは間違ってないか、これは考え直した方がいいんじゃないかってことを言うと、後ろからたまを打つとか、雉も鳴かずば撃たれまい、雉が鳴くと撃たれるぞとかそういうことがあって」と説明しています。

これらの発言から、石破氏が実際に党内で批判的な意見を述べており、そのために「後ろから鉄砲を撃つやつ」といった批判を受けていることが分かります。これは印象ではなく、石破氏自身が認める事実であり、党内での支持を得られない主な理由の一つとなっています。これにより、20名の推薦人を集めることが難しくなっています。

仮に決選投票に進んだ場合でも、議員票での劣勢を覆すのは困難です。過去の総裁選でも、党員票での支持を得ても議員票で逆転される結果となっています。石破氏自身も厳しい戦いを認識しており、メディア報道における人気と党内での不人気という大きなギャップに直面しているため、総裁選での勝利は非常に難しい状況です。

地元鳥取にて、来たる9月の自民党総裁選挙への思いを表明する石破氏

高市早苗氏は、石破茂氏と比較して相対的に有利な状況にあると考えられます。日経新聞とテレビ東京の世論調査によると、自民党支持層では高市氏が15%で2位、石破氏が14%で3位となっており、高市氏の方が党内での支持基盤がやや強いことを示しています。

また、高市氏は「安倍路線の継承者」として、保守派からの支持を得やすい立場にあります。さらに、石破氏は、上でも述べたように「自民党にいながら自民党を批判している」と認めており、党内での批判を受けていますが、高市氏はそのような批判を受けていません。

また、高市氏は立候補に必要な20人の推薦人を確保したと報じられており、石破氏は推薦人確保に苦戦している状況です。これらの要素から、高市氏は石破氏に対して相対的に強い立場にあると言えるでしょう。

以上のような要因が重なり、高市氏にとって有利な状況が徐々に形成されつつあると言えます。ただし、総裁選の結果を予測するのは依然として難しく、今後の展開次第で状況が変化する可能性もあります。これについては、今後も注視し変化があれば、当ブログでお知らせします。

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2024年8月24日土曜日

米大統領選 ケネディ氏が選挙活動中止 トランプ氏支持を表明―【私の論評】米国政治の分断から再編成への道を象徴する重要な動き

米大統領選 ケネディ氏が選挙活動中止 トランプ氏支持を表明

まとめ
  • ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、無所属での大統領選挙活動を中止し、トランプ前大統領を支持することを表明した。
  • ケネディ氏は完全に選挙戦から撤退するわけではなく、一部の州では投票用紙に名前を残す意向を示した。
  • 最新の世論調査では、ケネディ氏の支持率は5.0%であり、彼が民主・共和両党からの支持を取り込む可能性が注目されている。
ロバート・ケネディ・ジュニア氏

ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、2024年11月のアメリカ大統領選挙に無所属で立候補していましたが、8月23日に選挙活動の中止を発表し、トランプ前大統領への支持を表明しました。

ケネディ氏は完全に撤退するわけではなく、一部の州では投票用紙に名前を残す意向を示しています。彼は、勝利の見込みがないことを理由に支持者に理解を求め、トランプ氏との間に意見の相違があるものの、重要な課題では一致していると述べました。

この決定により、トランプ氏は以前、ケネディ氏が撤退した場合に要職起用を検討する意向を示していたこともあり、選挙戦の構図に影響を与える可能性があります。最新の世論調査では、ケネディ氏の支持率は5.0%となっており、彼が民主・共和両党から支持を得ていたことから、この決定が選挙戦に与える影響が注目されています。これにより、11月の大統領選挙は主にカマラ・ハリス副大統領とトランプ前大統領の対決に焦点が当たることになりそうです。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】米国政治の分断から再編成への道を象徴する重要な動き

まとめ
  • ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、元大統領ケネディの甥であり、弁護士としてのキャリアを持つ政治家で、環境問題や反ワクチン活動家として知られている。
  • 2024年の大統領選挙に向けて、当初は民主党の候補者として立候補を表明したが、後に無所属での出馬を決定し、民主党に対して強い批判を行った。
  • ケネディ氏は、既存の政治体制や主流メディアに対して批判的な姿勢を示し、トランプ氏と共通する反エスタブリッシュメントの立場を取っている。
  • ケネディ・ジュニアのトランプ支持への転向は、アメリカ政治の分断と再編成を象徴する出来事であり、トランプにとって有利に働く可能性が高い。
  • トランプが再び大統領に選出された場合、ケネディ・ジュニアが政権に参加する可能性もあり、これがアメリカの政治的景観に新たな影響を与える可能性がある。
1968年6月6日暗殺された父のロバート・ケネディ氏


ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、アメリカの政治家であり、ケネディ元大統領の甥にあたります。彼は1985年に弁護士としてキャリアをスタートし、長年にわたり民主党の政治家として活動してきました。環境問題に取り組む活動家としても知られていますが、近年は反ワクチン活動家としての立場でも注目されています。2024年の大統領選挙に向けて当初は民主党の候補者として名乗りを上げましたが、その後、無所属で立候補することを決定しました。

日本では、上の記事も含めて、ほとんどのメディアが取り上げませんが、ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、撤退の表明の際に、民主党について強い批判を加えました。具体的には、「民主党は今や汚職、ハイテク、大口献金者などの党だ」と述べ、民主党が大企業やハイテク産業からの影響力、そしてそれに伴う汚職に深く関与していると非難しました。この発言は、主要メディアの記者たちに衝撃を与え、話題となりました。

ケネディ氏のこの発言は、民主党がかつて持っていたとされる理想主義や庶民派のイメージからの逸脱を指摘するものであり、彼自身の政治的スタンスや支持者層に対するアピールでもあります。

ケネディ氏は、自身のキャリアを通じて環境問題やワクチンへの懐疑的な立場を示すなど、既存の政治的枠組みに挑戦する姿勢を見せてきました。この撤退と批判は、彼が持つ支持層の一部がトランプ氏に流れる可能性を示唆し、大統領選の行方に影響を与える可能性があるとされています。

このような発言と行動は、ケネディ氏が民主党の現在の方向性に強い不満を持ち、自身の政治的ビジョンを追求するために無所属での出馬を選択したことを示しています。

ロバート・ケネディ・ジュニア氏とドナルド・トランプ氏にはいくつかの共通点があります。まず、両者は既存の政治体制や主流メディアに対して批判的な立場を取っており、反エスタブリッシュメント(反支配層)の姿勢を示しています。

ケネディ氏は、政府やメディアに対する不信感を公然と示しており、これはトランプ氏の支持者にも共通する特徴です。また、ケネディ氏はワクチンの安全性や有効性に疑問を呈する立場を取っており、これはトランプ氏の支持者の一部にも見られます。

さらに、両者は一般市民の不満を代弁する形で支持を集めており、反エスタブリッシュメントの姿勢を強調しています。これにより、既存の政治に不満を持つ有権者からの支持を得ています。


ロバート・ケネディ・ジュニアのトランプ支持への転向は、現代米国政治における分断からの再編成を象徴する重要な出来事です。ケネディ家は長年民主党の中心的存在でしたが、ケネディ・ジュニアがトランプ支持を表明したことは、伝統的な政党の枠組みを超えた政治的再編成を示しています。彼とトランプは、既存の政治体制や主流メディアに対する批判的な姿勢を共有しており、これは従来の政党の枠を超えた新たな政治的同盟の形成を示唆しています。

ケネディ・ジュニアの支持者には、反エスタブリッシュメント的な有権者や政府に懐疑的な層が含まれており、これらはトランプの支持基盤とも重なる部分があります。外交政策や公衆衛生システムの改革など、いくつかの重要な政策分野で両者は共通の立場を取っています。

トランプの支持基盤の特徴も、この政治的再編成を反映しています。トランプのMAGA(Make America Great Again)スローガンは保護主義的な政策と結びついており、白人労働者階級を中心とした支持を集めています。特に、ラストベルト(錆びついた地帯)と呼ばれる衰退した産業地域の労働者からの支持が強く、不法移民の取り締まり強化などの政策が彼らに支持されています。

MAGAハットを被るトランプ氏

結論として、ケネディ・ジュニアのトランプ支持は、トランプにとって有利に働く可能性が高いと言えます。場合によっては、この支持表明がトランプの地すべり的大勝利につながる可能性も考えられます。ケネディ・ジュニアの支持者の多くがトランプ支持に回れば、従来の民主党支持層の一部を取り込むことができ、さらに無党派層や政治に不満を持つ有権者の支持も獲得できる可能性があります。

さらに、トランプが再び大統領に選出された場合、ケネディ・ジュニアが政権に参加する可能性も考えられます。トランプ前大統領は既に、ケネディ・ジュニア氏が「選挙活動で大きな影響力」を持つと述べており、両者の政治的立場の近さを考えると、ケネディ・ジュニアが何らかの形で政権に関与する可能性は十分にあります。

例えば、公衆衛生や環境政策など、ケネディ・ジュニアが専門性を持つ分野での重要な役職に就く可能性も考えられます。このような展開は、トランプ政権の政策立案や実行に新たな影響を与える可能性があり、米国政治のさらなる再編成につながる可能性があります。

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2024年8月23日金曜日

ハリス候補への安保面での疑問―【私の論評】日米保守層の連携強化:ハリス氏の曖昧な外交・安保政策と日本のリーダーシップの変化に備えよ

ハリス候補への安保面での疑問

【まとめ】

  • カマラ・ハリス候補の外交・防衛政策が不明確で懸念されている。
  • 重要な国際問題についての見解が不明で問題視されている。
  • ハリス氏は、選挙期間中に具体的な政策を明らかにすることが求められる。
カマラ・ハリス米副大統領

アメリカの民主党全国大会が8月19日から始まり、カマラ・ハリス副大統領が民主党の大統領候補として正式に指名を受けることになった。バイデン大統領が選挙戦から撤退した後、ハリス副大統領は最近の支持率調査で共和党候補のドナルド・トランプ前大統領に追いつき、追い越しかねない人気急上昇を見せている。

しかし、ハリス氏の外交や防衛についての考えがわからないという疑問が米側の大手メディアで提起された。特に注目すべきは、ウォールストリート・ジャーナルの8月9日付の社説だ。この新聞は、客観性が強いとされており、その主張は注目に値する。

社説は「謎の最高司令官」と題され、ハリス候補が国際問題についてどんな思考を持っているのかわからないと主張している。現在の国際情勢が第二次世界大戦以後かつてないほど危険となった中で、ハリス候補は民主党の大統領選への指名を確実にしてからも、記者会見やインタビューを一切していないことが指摘されている。

社説はまた、ハリス氏の過去の言明も懸念の対象としている。2020年に上院議員として大統領選への名乗りをあげた時期に「国防費は削減されねばならない」と明言していたことが挙げられ、中国の軍事力増強が続く中で、今もなおアメリカ側の軍事力の削減を求めるのかという疑問が提起されている。

これらの疑問が生じる背景には、ハリス氏がバイデン政権の副大統領として外交政策や軍事政策など対外的な課題にほとんど接してこなかったこと、また副大統領として対外課題についてまず語ることがなかった点が大きいと考えられる。今後の80日間のアメリカ大統領選挙では、ハリス候補は外交でも内政でも自分自身の政策を具体的に語ることを迫られるだろう。

この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日米保守層の連携強化:ハリス氏の曖昧な外交・安保政策と日本のリーダーシップの変化に備えよ

まとめ

  • カマラ・ハリス副大統領の外交政策は曖昧で優柔不断と批判されており、これが米国の国際的リーダーシップを弱める懸念がある。
  • 日本では岸田首相の不出馬表明により、リベラル色の強い新首相が誕生する可能性があり、これが国際秩序に影響を与える恐れがある。
  • 日米両国のリベラル化により、従来の同盟関係や経済政策が見直される可能性があり、国際関係のバランスに変化をもたらす。
  • 日米の保守層は共通の価値観を基に協力し、伝統的価値観を守り、強固な同盟関係を築くことが重要である。
  • 経済政策や安全保障面での協力を通じて、より安定した国際社会の実現に向けた取り組みが求められる。
カマラ・ハリス副大統領の外交政策に対する姿勢が曖昧で優柔不断だと批判されているのは、当然の成り行きと言えるでしょう。信頼性の高いウォールストリート・ジャーナルが、彼女の重要な国際問題への対処能力について懸念を表明したのは、もっともなことです。

ハリス氏は重要な問題に関して本音を避け、曖昧な態度を取る傾向があります。これは米国と同盟国にとって大きな不安材料となっています。外交・防衛政策に関する彼女の不明確さは、単なる理解不足なのか、あるいは本当の意図を隠そうとしているのか、懸念が高まっています。

ハリス氏の外交・安全保障分野での経験不足は、複雑な国際情勢に適切に対処する能力に疑問を投げかけています。また、彼女のリベラル寄りの背景から、米国の伝統的な同盟関係や軍事力の維持に消極的な姿勢を取るのではないかという懸念も存在します。さらに、彼女の曖昧な態度が進歩派と穏健派の両方の支持を得るための政治的戦略である可能性も指摘されており、これは国民に対する誠実さを欠いているとの批判につながっています。

米保守派は、明確なビジョンと強い意志を示さないことが、国際社会における米国のリーダーシップを弱める可能性を危惧しています。また、外交・防衛政策の不明確さは、中国やロシアなどの敵対国に誤ったシグナルを送り、彼らの挑発的行動を助長する恐れがあるとも考えられています。

米国には、世界における自国の役割について明確なビジョンを示せる、強くて決断力のあるリーダーが必要です。同盟国には米国の立場を理解してもらい、敵国には米国の決意を知らしめなければなりません。ハリス氏が外交政策について率直に語らないことは、政治的立場に関係なく、すべての米国民にとって憂慮すべき事態です。

国を率いる立場の人物の見解や意図を知ることは、米国民の当然の権利です。ハリス氏がこれらの問題について正面から取り組もうとしない姿勢は、副大統領という職責と国民への義務を軽んじているように見えます。

ウォールストリート・ジャーナルの社説は、ハリス氏の統治アプローチに見られる懸念すべきパターンを指摘しており、さらなる検証と議論が必要です。権力者は自身の行動と、国際社会における米国の立場に影響を与える問題について、説明責任を果たすべきです。

米国民は、リーダーからの曖昧で回避的な答えに満足すべきではありません。世界における米国の役割について、明確なビジョンを示す意思のあるリーダーこそ、米国民にふさわしいのです。このような誠実さと透明性があってこそ、米国の未来について十分な情報に基づいた判断ができるはずです。

米保守派の視点からは、ハリス氏の不明確さは単なる経験不足ではなく、米国の国益と安全保障を脅かす可能性のある深刻な問題として捉えられています。彼らは、ハリス氏に対して明確な方針の提示と、米国の伝統的な価値観に基づいた強力な外交・防衛政策の実行を求めています。

日本では、岸田首相が次期総裁選に出馬しない意向を明らかにしたことにより、多くの候補者が名乗りをあげる可能性が高まっています。総裁選の結果によっては、岸田首相よりもはるかにリベラル色が強い、首相が誕生する可能性もあります。

岸田首相

日本でより強いリベラル色の首相が誕生し、同時に米国でカマラ・ハリスが大統領になった場合、世界秩序に大きな変化が生じる可能性があります。日本において岸田首相の不出馬表明により、自民党内での権力構造の変化が予想されます。より強いリベラル色の首相が誕生すれば、防衛政策や経済政策、さらには憲法改正などの重要課題に大きな影響を与えることが考えられます。

このような状況下では、国際秩序が不安定化する恐れがあります。米国のリーダーシップの後退と日本の政策変更により、既存の国際秩序が揺らぎ、中国やロシアなどの勢力拡大を招く可能性があります。さらに、日米両国のリベラル化により、従来の同盟関係が見直されることも懸念されます。特に、軍事面での協力が弱まることで地域の安全保障に影響を与える可能性があります。

また、両国でより分配重視の政策が採られることにより、自由市場経済の原則が弱まる可能性もあります。両国が従来の保守的な外交姿勢から転換し、環境保護や社会的公正を重視する政策を前面に押し出すことで、これまでの国際関係のバランスに変化をもたらす可能性があります。これは、経済成長を優先する国々や、異なる社会制度を持つ国々との間に新たな緊張関係を生み出すかもしれません。

気候変動や人権問題などのグローバルな課題に対して、より積極的なアプローチが取られる可能性がありますが、これは経済成長や国家主権との兼ね合いで新たな摩擦を生むことも考えられます。

このような変化は世界の安定と繁栄を脅かす可能性があると見なされ、伝統的な価値観や国家主権の尊重、強力な防衛力の維持、自由市場経済の推進などが後退することへの懸念が強まるでしょう。

結論として、日本と米国の両国でリベラル色の強い指導者が誕生した場合、世界は大きな転換期を迎える可能性があります。保守派の立場からは、このような変化を慎重に監視し、必要に応じて対抗措置を講じる必要があると考えられます。

その中でも、日本と米国の保守層が協力することの重要性は、今後の国際情勢において非常に意義深いものとなるでしょう。

日米は政治システムも、歴史も、文化も違うので、日米保守の協力はできないのではというむきもありますが、日米の保守派の主張は驚くほど重なり合っているところがあります。

戦後レジームから脱却を主張した安倍総理

例えば、米国の保守主義者たちは、政府や大学に潜む共産主義者の告発、言論の自由を抑圧しようとする法案への反対、愛国心と道徳的秩序、家族の価値を尊重した教育の再建を訴えてきました。これらの主張は、日本の保守派が掲げる「戦後レジームからの脱却」と多くの点で一致しています。

特に注目すべきは、歴史認識の問題です。ロバート・タフト上院議員は東京裁判を批判しており、このような立場の人が米国の保守派にも存在することを示しています。このような視点を共有することで、日米の保守派が協力して歴史観の見直しを進める可能性が開かれます。

また、「小さな政府」の概念についても、米国の保守主義者が掲げる「小さな政府」は、単に官僚組織を縮小することではなく、家族や地域共同体の強化、宗教的価値観の尊重と結びついています。日本の文脈では、これを「神社を中心とした共同体」や「敬神崇祖の家庭」といった理念と結びつけることができるでしょう。

このような共通点を基盤として、日米の保守層が協力することで、両国の伝統的価値観を守り、より強固な同盟関係を築くことができるでしょう。情報交換や意見交換を通じて、互いの立場や課題を理解し合い、国際的な視点から保守的価値観を再考し強化する機会が生まれます。

東京裁判を批判したロバート・タフト上院議員

経済政策や安全保障面でも、共通の価値観に基づいた協力が可能です。自由市場経済を支持しつつ、国内産業の保護と国際的な競争力の向上のバランスを取ることが期待されます。

結論として、日米の保守層の協力は、単なる政治的な連携にとどまらず、両国の文化的、精神的な絆を強化し、共通の価値観を守り育てていく取り組みとなるでしょう。これにより、より強固で安定した国際社会の実現に向けて大きな一歩を踏み出すことができると信じています。

日米は、不測の事態に備えて、政府同士だけではなく、保守層同士の交流も強めていくべきです。

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2024年8月22日木曜日

中国で拘束の大手製薬会社の日本人社員 起訴―【私の論評】スパイ防止法の必要性と中国の改正反スパイ法に対する企業・政府の対策

中国で拘束の大手製薬会社の日本人社員 起訴

まとめ
  • アステラス製薬の50代日本人男性社員が、中国でスパイ行為の疑いで拘束され、1年5か月後に起訴された。
  • 起訴内容や今後の審理予定は不明で、日本政府は早期解放を求めているが、拘束の長期化が懸念されている。
  • 中国では2014年の反スパイ法施行以降、少なくとも17人の日本人が拘束され、そのうち10人が実刑判決を受けている。
  • 裁判は非公開で行われ、拘束の経緯や問題視された行為の詳細は明らかにされていない。
  • 2023年7月に改正反スパイ法が施行され、これにより日本企業や研究者の間で懸念が広がっている。
アステラス製薬本社

アステラス製薬に勤務する50代の男性社員は、2023年3月に北京で国家安全当局に拘束され、その後1年5か月にわたって拘束状態に置かれていました。そして、最近になって中国の検察によって起訴されたことが明らかになりましたが、具体的な起訴内容や今後の審理の予定についてはまだ不明な点が多いです。

日本政府はこの男性の早期解放を繰り返し求めてきましたが、起訴されたことで今後は裁判手続きに入ることになり、拘束がさらに長期化する懸念があります。北京にある日本大使館は、これまで本人や家族との面会などできる限りの支援を行ってきたとし、引き続き早期解放を強く申し入れていく意向を示しています。

また、中国では2014年に施行された反スパイ法以降、外国人がスパイ行為に関与したとして拘束されるケースが相次いでおり、これまでに少なくとも17人の日本人が拘束されています。そのうち10人は裁判で実刑判決を受けていますが、裁判は非公開で行われ、拘束の経緯や問題視された行為の詳細は一切明らかにされていません。17人のうち、6人が刑期を終えて帰国、5人が途中で拘束を解かれて帰国、1人が服役中に病気で亡くなっています。現在は3人が服役中で、今回の男性を含む起訴された2人を合わせて5人が帰国できていない状況です。

さらに、2023年7月にはスパイ行為の定義が拡大された改正反スパイ法が施行されており、これにより中国に進出する日本企業や日本の研究者の間で懸念が強まっています。このような状況は、今後の国際関係やビジネス環境にも影響を与える可能性があるため、注視が必要です。

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【私の論評】スパイ防止法の必要性と中国の改正反スパイ法に対する企業・政府の対策

まとめ
  • 2023年7月に施行された中国の改正反スパイ法により、スパイ行為の定義が拡大され、法律の恣意的適用の可能性が高まった。
  • 通常のビジネス活動や学術研究が誤ってスパイ行為と見なされるリスクが増大し、企業や研究者の活動が萎縮する恐れがある。
  • 日本企業は中国事業のリスク評価を行い、人員派遣の最小化やデジタル技術の活用、情報セキュリティの強化などの対策を講じる必要がある。
  • 日本政府はスパイ防止法の早急な成立を検討し、海外で拘束された日本人を救出するための交渉力を持つべきである。
  • 国家安全保障と表現・報道の自由のバランスを取りつつ、関連法整備を迅速に進めることが不可欠である。
2023年7月に施行された中国の改正反スパイ法により、日本企業や研究者の間でいくつかの懸念が高まっていました。特に問題となったのは、スパイ行為の定義が拡大され、より広範な活動が規制対象となったことです。

この法律の適用が恣意的になる可能性が大きな懸念点となっていました。法律の恣意的適用とは、法律の文言があいまいであったり、解釈の余地が大きい場合に、当局が自らの都合や意図に合わせて法律を解釈し、適用することを指します。改正反スパイ法の場合、「国家の安全と利益に関わる情報」といった広範な概念が含まれており、何がスパイ行為に該当するかの判断が当局の裁量に大きく委ねられる可能性があります。


このような状況下では、通常のビジネス活動や学術研究が誤ってスパイ行為と見なされるリスクが高まります。例えば、企業の市場調査や研究者の情報収集活動が、意図せずに法律違反とされる可能性があります。また、データセキュリティに関しても厳格な管理が求められ、情報の越境移転や共有が困難になる可能性があります。

さらに、法律違反に対する罰則が強化されているため、企業や個人にとってリスクが高まっています。これらの要因により、日本企業や研究者は中国での活動に対してより慎重にならざるを得ない状況に置かれています。

このような法律の恣意的適用の可能性は、法的安定性を損ない、企業や研究者の活動を萎縮させる恐れがあります。そのため、中国での活動を行う際には、法律の詳細な理解と遵守、リスク管理の強化、そして必要に応じて専門家のアドバイスを求めることが重要となっています。

こうした懸念が現実のものとなり、今回のアステラス製薬の社員の拘束と起訴は、この問題の深刻さを如実に示す事例となりました。

日本人が中国で拘束されるリスクを軽減するためには、より根本的な対策を考慮することが重要です。

まず、企業は中国事業のリスクを慎重に評価し、必要に応じて事業の縮小や撤退を検討すべきです。特に、センシティブな分野や情報を扱う事業については、リスクが高いと判断される場合には、真剣に事業の見直しを行う必要があります。また、中国への人員派遣を最小限に抑えることも重要です。可能な限り現地スタッフを活用し、オンライン会議システムを利用することで、日本人社員の中国滞在を減らすことができるでしょう。

さらに、デジタル技術の活用を推進することが、リスク軽減に寄与します。オンライン会議やリモートワークツールを積極的に導入し、物理的な渡航や滞在を減らすことで、リスクを軽減することが可能です。また、情報セキュリティの強化も欠かせません。中国での事業活動に関わる情報の取り扱いには特に注意が必要であり、機密情報の管理を厳格化し、不必要な情報の持ち込みや保管を避けるべきです。

法律に関しても、継続的な評価が重要です。中国の法律、特に反スパイ法などの変更を常に監視し、それに応じて社内ポリシーを更新することが求められます。また、中国に渡航する従業員に対しては、リスクと適切な行動について徹底的な教育を行うことが必要です。

さらに、万が一の事態に備えて詳細な緊急時対応計画を策定し、全関係者に周知しておくことも重要です。最後に、中国市場への依存度を下げるために、他のアジア諸国など代替市場の開拓を検討することも有効です。

これらの対策を総合的に実施することで、中国でのビジネスリスクを大幅に軽減できる可能性が高まりますが、完全にリスクを排除することは難しいため、常に慎重な判断が求められます。

上の対応は、主に企業による対応ですが、政府の対策も重要です。特に、スパイ防止法などを早急に成立させ、いわゆる「身柄交換」などできるようにすべきです。

スパイ防止法の早急な成立は、日本の国家安全保障にとって極めて重要です。2024年8月に行われた米露間の大規模な身柄交換は、この法律の必要性を如実に示す事例といえます。この交換では、アメリカやロシアの刑務所に収監されるなどしていた合計26人の大規模な身柄交換が行われました。これは冷戦後最大規模の交換とされ、国際関係において身柄交換が重要な外交手段として機能していることを示しています。

冷戦以降最大の米露間の身柄交換が行われた

この事例が示すように、自国民を保護するための交渉力を持つことは極めて重要です。現状の日本では、外国勢力による情報収集活動や国家インフラへの侵入を効果的に防ぐ法的枠組みが不十分であり、これは日本の国益に重大な脅威をもたらしています。さらに、日本人がスパイ容疑で海外で拘束された場合、日本政府には効果的な対応手段がありません。

スパイ防止法の制定により、日本政府は外国のスパイ活動に対して法的根拠を持って対処できるようになります。スパイ活動を行った人物を逮捕して勾留することができます。これは単に国内の安全を守るだけでなく、海外で拘束された日本人を救出するための交渉材料としても機能し得ます。米露の事例のように、日本も必要に応じて身柄交換を行える法的基盤を整えることが重要です。


2015年以降、多くの日本人が中国で拘束され、長期の懲役刑を受けている現実があります。このような状況を改善し、日本政府が自国民を守るための手段を確保することは急務です。

したがって、表現の自由や報道の自由への配慮は重要ですが、それらと国家安全保障のバランスを取りつつ、スパイ防止法を含む関連法整備を迅速に進めることが不可欠です。これにより、日本は国際社会において自国の利益を守り、国民の安全を確保するための強力な手段を得ることができるでしょう。

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2024年8月21日水曜日

候補者乱立する総裁選〝保守共倒れ〟危機 小林鷹之氏「自民党は生まれ変わる」と出馬表明も〝支持層〟被る高市早苗氏、青山繁晴氏―【私の論評】小林鷹之氏の出馬と「無能な働き者」:自民党内の新たな政策論争の行方

候補者乱立する総裁選〝保守共倒れ〟危機 小林鷹之氏「自民党は生まれ変わる」と出馬表明も〝支持層〟被る高市早苗氏、青山繁晴氏

まとめ
  • 自民党総裁選で保守系議員への支持が注目され、高市早苗氏、小林鷹之氏、青山繁晴氏が支持層を競っている。
  • 小林鷹之氏が出馬を表明し、自民党の刷新と明確な日本の将来ビジョンを示した。
  • 小林氏は優秀だが党内基盤が弱く、主に岸田首相に不満を持つ若手・中堅議員の支持を得ている。
  • 小林氏は保守的な政治信条を持ち、憲法改正や経済安保に積極的な姿勢を示している。
  • 保守系候補の乱立により支持が分散する可能性があり、総裁選がリベラル派中心になれば岩盤保守層の自民党離れが加速する懸念がある。

青山繁晴氏

9月の自民党総裁選では、保守系議員への支持に注目が集まっている。岸田文雄内閣の支持率が低下している背景には、「岩盤保守層」の離脱が影響している。この状況の中、高市早苗経済安保相(63)や小林鷹之前経済安保相(49)、青山繁晴参院議員(72)といった保守派候補が注目を集めている。

特に、小林氏は19日に正式に出馬表明を行い、自民党の刷新を訴えながら、日本の未来に関する明確なビジョンを示した。彼は「まずは信頼回復」「政策活動費や旧文通費の透明化」「脱派閥選挙の徹底」といった具体的な政策を提案し、国民に強いメッセージを送っている。しかし、政治評論家の有馬晴海氏によれば、小林氏は党内基盤がまだ弱く、財務相や外相などの大臣経験がないことがネックとなっている。

小林氏の出馬会見には、党所属の中堅若手議員が多数同席しており、彼らは岸田首相に対する不満を抱えている層とされている。さらに、小林氏の保守的な政治信条に期待する声もあり、憲法改正や自衛隊の明記を訴える姿勢が評価されている。彼は経済安全保障の重要性を早くから指摘しており、先の国会で高市氏が成立させた「セキュリティ・クリアランス(SC)制度」の法制化に貢献したとも言われている。

一方で、候補者の乱立が懸念されており、知名度の低い新顔の保守系候補が登場したことで、議員や党員の支持が分散する可能性も指摘されている。最近の世論調査では、次期総裁にふさわしい人物として石破茂元幹事長がトップに立ち、小林氏も支持率を急上昇させているが、依然として知名度が課題だ。

高市氏は自身のSNSで「国家経営を担うべく、心を固めている」と述べるなど、出馬準備を進めている。彼女は岩盤保守層からの強い支持を受けており、全国各地での講演会には多くの聴衆が集まっている。青山氏も強固な保守派として知られ、支持を集めている。

総裁選には20人の推薦人が必要だが、候補者の乱立や推薦人の引きはがしが発生すれば、高市氏や青山氏の出馬が難航する可能性がある。もしそうなれば、岩盤保守層の自民党への支持が低下する恐れがあり、9月27日に投開票される総裁選がリベラル派だけの戦いとなる可能性もある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】小林鷹之氏の出馬と「無能な働き者」:自民党内の新たな政策論争の行方

まとめ
  • 小林鷹之氏の出馬会見に同席した議員の中に7名の令和臨調参加議員が含まれており、これは小林氏の政策方針を理解する上で重要な手がかりとなる。
  • 小林氏は財務省出身で緊縮財政派の立場を取っていると考えられるが、これは必ずしも伝統的な保守派の政策と一致するとは限らない。
  • 小林氏の出馬は財務省や緊縮財政派の影響力を維持・強化しようとする動きの一環である可能性がある。
  • この状況は自民党内での政策論争や総裁選の展開に大きな影響を与える可能性があり、「保守」の定義や自民党の政策方針をめぐる議論が活発化する可能性がある。
  • 小林氏の総裁選出馬は時期尚早である可能性が高く、次の次、もしくはその次の総裁選を目指すべきかもしれない。

高橋洋一氏のツイートによると、小林氏の出馬会見に同席した議員の中に、7名の令和臨調参加議員が含まれています
(右表の塗りつぶしの部分)。令和臨調(令和国民会議)は財政健全化を重視する議員グループであり、小林氏自身もこのグループに属しているという事実は、彼の政策方針を理解する上で重要な手がかりとなります。
小林氏は財務省出身であり、緊縮財政派の立場を取っていると考えられます。これは、彼の経歴や支持基盤と整合性があります。しかし、この立場が必ずしも伝統的な保守派の政策と一致するとは限りません。

小林氏が保守的な政策を掲げながらも、実際には財政規律を重視する財務省的な考え方を持っているという見方を示唆しています。

この観点から見ると、小林氏の出馬は単なる世代交代や党の刷新を目指すものではなく、財務省や緊縮財政派の影響力を維持・強化しようとする動きの一環である可能性があります。

これは、従来の「岩盤保守層」とは異なる政策方針を持つ候補者が台頭してきていることを意味し、自民党内の路線対立がより複雑化する可能性を示唆しています。したがって、小林氏の出馬と彼を支持する議員グループの背景には、財務省との強いつながりがあると考えられます。これは単に小林氏の経歴だけでなく、彼を支持する議員の多くが緊縮財政派であることからも裏付けられます。

この状況は、自民党内での政策論争や総裁選の展開に大きな影響を与える可能性があり、「保守」の定義や自民党の政策方針をめぐる議論が今後さらに活発化する可能性があります。

令和臨調については、以前このブログでも、高橋洋一氏の記事を元記事として論評しました。その記事のリンクを以下に掲載します。

「令和臨調」提言に透けてみえる〝アベノミクス否定〟と〝利上げ・増税〟 方向性を間違えると改革も困難に―【私の論評】「無能な働き者」の巣窟と化したか「令和臨調」(゚д゚)!

令和臨調の平野信行共同座長(左)、翁百合共同座長(右)ら

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの元記事の要点だけをまとめておきます。
令和臨調は2023年1月30日に、政府と日銀の新たな共同声明に関する提言を行った。この団体は比較的政府寄りで、改革系の民間経営者が集まっており、岸田文雄政権をサポートする傾向が強い。
提言の主な内容は、2%のインフレ目標を「長期的な目標」と位置付け直すこと、日銀に対しては金融政策の正常化を求め、政府には財政規律の回復を促すものだ。これらの提言は、アベノミクスの否定とも解釈でき、実質的に「利上げ・増税」を求めていると考えらる。
現在の日本経済の状況を考慮すると、これらの提言のタイミングは適切ではない。特に、消費者物価指数が4%増であっても、エネルギー価格などの海外要因が主な原因であり、GDPデフレーターは依然としてマイナスであることを指摘している。このため、経済がデフレから完全に脱却するまでは、金融緩和と積極財政を継続する必要がある。。
最終的に、令和臨調の提言には評価できる改革案も存在するものの、マクロ経済政策については誤った方向性を示している。
詳細は、この記事をご覧いただくか、元記事を御覧ください。

私も令和臨調に関して【私の論評】で批判していますが、その批判はタイトルにもあるように一言でいうと"「無能な働き者」の巣窟"というものです。

令和臨調は、財政規律の回復や社会保障改革を重視し、金融政策の正常化(利上げ、量的緊縮)を提言しています。しかし、高橋洋一氏の指摘によれば、この組織は「財務省のポチ」のような人々で構成されており、アベノミクスの政策方向を転換したい意図がみられます。

マクロ経済の常識からすると、デフレ脱却が完全ではない現状で財政規律の急激な引き締めや金融政策の正常化を急ぐことは、経済成長を阻害するリスクがあります。この点で、令和臨調の提言は「無能な働き者」といえます。

ゼークトの組織論における「無能な働き者」は、正しい判断力や行動力が備わっていないにもかかわらず、自身の判断で行動してしまう特徴を持っています。令和臨調の提言が、現在の日本経済の実態を十分に考慮せずに、財政規律や金融政策の正常化を急ぐ姿勢を示しているとすれば、この定義に当てはまる可能性があります。

小林鷹之氏が令和臨調に属していたという点から、彼もこの「無能な働き者」的な特徴を持っている可能性があります。特に、財務省出身であり緊縮財政派の立場を取っているとされる小林氏の政策方針が、現在の日本経済の実態と乖離している可能性があります。

ただし、小林氏が今後どのような行動をとるのか、さらに総裁になれたとしてどのような政策をとるのかは未知数であって現在の時点で「無能」という表現は主観的で厳しすぎる可能性があるかもしれません。

小林鷹之氏

しかし、その可能性があることは否定できません。私が、小林氏に指摘したいのは、政治家は、せっかく有能な政治家になれる素質があったとしても、時期や順番を間違えると、凡庸な政治家になってしまうか、最悪汚名をきせられることになってしまうということです。

小林鷹之氏の総裁選出馬については、現時点では時期尚早である可能性が高いと考えられます。政治家のキャリアにおいて、タイミングは極めて重要です。適切な時期を逃すと政治家としての影響力や評価を大きく損なう恐れがあります。小林氏は49歳という若さと4期目の衆院議員という経歴から、党内基盤が十分に固まっていない可能性があります。また、経済安全保障という重要な分野での経験はありますが、総合的な国家運営のビジョンがまだ十分に熟していない可能性もあります。上でも指摘したように、特にマクロ経済に関する知見が欠落しているようです。

したがって、小林氏は次の総裁選ではなく、次の次、もしくはその次の総裁選を目指すべきかもしれません。その間に、党内での地位向上、政策立案能力の向上、国民的知名度の向上、国際経験の蓄積などを進めることが望ましいでしょう。ただし、すでに総裁選出馬を表明した後でも、この機会を学びの場として捉え、自身の政策や理念を丁寧に説明し、将来のリーダーシップに向けた準備期間として活用することは可能です。また、仮に今回の総裁選で勝利を収めることができなくても、その過程で得た経験や支持者を基盤に、次の機会に向けてより強固な政治基盤を築くことができるでしょう。

ただ、そうはいっても、上の記事にもある通り、次の総裁選がリベラルだけの選挙になる可能性もあるわけで、これだけは避けるべきです。そうなってしまえば、自民党内の保守派の存在はなきものにされる可能性もあります。


候補乱立の総裁選はリベラルだけの選挙になる可能性がある

小林鷹之氏が総裁選でリベラル派だけの戦いを避けるためには、保守派の支持を得られる政策を明確に提示し、アピールを強化することが重要です。高市早苗氏や青山繁晴氏といった他の保守系候補者との連携を深め、保守派の分断を避ける努力も必要です。党内の若手・中堅保守系議員を積極的に取り込み、新しい保守の形を示すことや、メディア露出を増やして保守的な立場からの発信を強化することも効果的でしょう。

保守とリベラルということでは、財政は直接関係はないようにもみられまずか、実体としてリベラル派のほとんどはマクロ経済に疎く、緊縮一辺倒の財務省の意向に大きく左右されますが、保守派はそうではなく、積極財政派が多いです。マクロ経済音痴ということでは、保守派の支援は得られないと言っても過言ではありません。

小林氏は財務省出身であることから、財務省の影響力を削ぐ姿勢を示すことが重要です。特に、財政規律を重視する姿勢では保守派の支持を得ることは難しいため、経済発展の明確な方向性を示し、積極財政派の支持を得ることが必要です。例えば、大規模な公共投資や防衛費の増額、科学技術への投資拡大などを通じた経済成長戦略を打ち出すべきです。

これにより、保守派からの支持を固めつつ、財務省色の強い候補者というイメージを払拭し、経済成長と国家の安全保障を重視する候補者としての立場を確立することができるでしょう。このような多面的なアプローチを通じて、小林氏は保守派の代表としての立場を強化し、リベラル派だけの戦いにならないよう努めることができるはずです。その努力すれば、次の機会が訪れるでしょう。

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