2023年2月4日土曜日

「令和臨調」提言に透けてみえる〝アベノミクス否定〟と〝利上げ・増税〟 方向性を間違えると改革も困難に―【私の論評】「無能な働き者」の巣窟と化したか「令和臨調」(゚д゚)!

日本の解き方

令和臨調の平野信行共同座長(左)、翁百合共同座長(右)ら

 令和国民会議(令和臨調)は1月30日、政府と日銀の共同声明について、「2%の物価安定目標」を「長期的な目標」と新たに位置付けるなどの提言を行った。

 「令和臨調」は、昨年の参院選前の6月19日、発足大会を開催した。事務局が日本生産性本部にあることからわかるように、経団連ほどではないが、比較的政府寄りで改革系の民間経営者の集まりだ。岸田文雄政権が本格化することを見越して、基本的には政権サポートの色彩が濃いだろう。

 発足大会では茂木友三郎共同代表による発足宣言が行われたが、その中に「現下のコロナ禍や食料・エネルギー価格の高騰等により政府支出の暫定的な増大は避けられないにせよ、財政・社会保障の持続可能性を担保するための取り組みに道筋をつけることは、もはや避けて通ることのできない、まったなしの課題」という一節があった。

 この文章はわかりにくいが、コロナによる財政出動により債務残高が増大したが、そのために「増税」が必要という意見のようだ。

 そこで、令和臨調が目をつけたのが、政府・日銀の共同声明だ。令和臨調の提言では、「2%インフレ目標設定を明記した2013年の政府・日本銀行の共同声明以降の政府と日本銀行の政策を検証したうえで、新たな共同声明(いわゆる「アコード」)を作成、公表することを提言する」とされた。

 もっとも、新たな共同声明でも、インフレ目標2%だ。何が違うのか。令和臨調の出した関連資料を見るとわかりやすい。13年の共同声明では日銀は「異次元金融緩和〝できるだけ早期に2%〟」だったが、提言では「金融政策の正常化〝2%は長期的な目標〟」としている。政府に対しては「予算制約意識なきばらまき財政」を「財政規律回復、社会保障改革」に変えるとされている。

 やはり衣の下の鎧(よろい)が透けてみえる。本コラムで再三書いてきたが、日本のコロナ対策は、安倍晋三元首相の言葉を借りれば「政府・日銀の連合軍」だった。政府が発行した100兆円規模の国債は日銀が保有し、増税に結びつかないのだが、それを増税にまで持っていきたいようだ。

 そのために、政府と日銀の新たな共同声明によって、「政府・日銀の連合軍」を崩したいのだろう。要するにアベノミクスの否定である。日銀に「金融政策の正常化」、政府に「財政規律」を求めるとは、簡単に言えば「利上げ・増税」だからだ。

 今の日本は、消費者物価指数の対前年比が4%増といっても、エネルギー価格など海外要因が中心だ。GDPデフレーターでみると、まだマイナスである。これが安定的に2%を超えるまで金融緩和と積極財政を継続する必要がある。「利上げ・増税」のタイミングではない。

 令和臨調の提言には、各種改革については見るべき点もあるが、マクロ経済では間違った方向だ。マクロ経済をしっかりさせないと、各種改革もできなくなるだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「無能な働き者」の巣窟と化したか「令和臨調」(゚д゚)!

第2次安倍政権でブレーンの1人を務めた元内閣官房参与の本田悦朗氏は、2月2日に2回も以下のようにツイートしています。

本田氏は、頻繁にツイートする方ではないので、この「令和臨調」の提言は、よほど危険であると思われたのでしょう。だからこそ、ツイートされたでしょう。 

本田悦朗氏

金融を知らない人という言葉が気になったので、令和臨調の平野信行共同座長と、翁百合共同座長の経歴を調べてみました。

2013年三菱UFJフィナンシャル・グループ代表取締役社長に就任。2016年に三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)代表取締役会長に就任。2019年に三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役会長に就任。同年10月に三菱みらい育成財団を設立、理事長に就任。2021年に三菱UFJ銀行特別顧問に就任。
1982年 慶應義塾大学経済学部卒業
1984年 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了後 日本銀行勤務
1992年 日本総合研究所 副主任研究員
1994年 同 主任研究員
2000年 同 主席研究員
2006年 同 理事
2014年 同 副理事長
2018年 同 理事長(現在に至る)

お二人とも立派な経歴であり、一般には識者ともいわれるような人たちです。こういう人たちが共同座長をつとめている臨調が、このような提言を出すのですから、驚いてしまいます。

こういう人たちが、真面目な顔をして、提言などすると、信じ込んでしまう人も多いと思います。

しかし、臨調は形骸化しつつあるような組織です。元々は、統治構造改革や持続可能な財政を中心に政策を提言するはずであった「国民会議」(臨調)は昨年6月19日、東京都内で「令和国民会議」(令和臨調)発足大会を開催しました。

経済界や労働界、学界から有志が参加し、民主主義の再生や経済の立て直しといった日本が直面する諸課題の解決に取り組むものとされました。ただ、その政治改革への熱意は低下しつつあるとの声もありました。真の改革を再びリードする実行力が伴わなければ、形だけの組織で終わる可能性があります。


「改革の主役は次の世代の若者。さまざまな機会を通じて運動の輪を広げ、時代の閉塞(へいそく)と停滞を打ち破りたい」。茂木友三郎共同代表は、総会冒頭でこう意気込みを語りました。

行政改革を議論するため政府に設置した臨時行政調査会(臨調)は、昭和56年に発足し国鉄など3公社の民営化に道筋をつけた土光敏夫会長の「土光臨調」が知られます。その後、民間有志が参加する臨調方式の組織として平成4年に「民間政治臨調」が発足し、衆院中選挙区制廃止などにつなげました。

15年発足の「新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)」は、マニュフェスト(政権公約)選挙や政権選択選挙の動きを後押ししました。今回の令和臨調は、3度目の民間臨調との位置づけでした。

日本の構造改革に対する民間臨調の影響力が低下しているとの指摘もあります。立ち上げ時に政権交代可能な二大政党制などの理想を掲げたが定着していません。30年にわたる経済低迷からの脱却も果たせていません。政治改革への熱意が失われつつあるとの意見もあります。

総会では「一歩でも改革を前に進めるために汗をかきたい」(茂木氏)など、「改革」という言葉は多く聞かれました。ところが、日本という国のありようについて強いメッセージは聞かれませんでした。世論喚起や合意形成に向け大きなうねりを作るには、明確なビジョンの発信が求められますかが、それもありませんし、ましてや今回の提言です。

「令和国民会議」(令和臨調)共同代表で、日本生産性本部会長の茂木友三郎キッコーマン名誉会長らは1月6日、東京都内で年頭会見を開き、3月末までに取りまとめる予定であった今回の令和臨調の提言に関して「立場や党派を超えて取り組まねば解決困難な課題に取り組む。本格的に世論喚起や合意形成に踏み出す1年とする」と述べていました。

茂木友三郎キッコーマン名誉会長

茂木氏は、政府が昨年末に決定した防衛費の大幅増に関しても、令和臨調で議論する考えを示しました。岸田政権は2023年度当初予算案で、建設国債で自衛隊の施設整備費や艦船の建造費を賄うことを決めたことに疑問を呈しています。

令和臨調共同代表の小林喜光よしみつ東京電力ホールディングス会長は会見で「大変な財政状況の中で国債はあまりに安易で、たがが緩んでいる」と指摘しました。

30年も経済の低迷が続いたのは、それはなぜなのかについても、まともに分析できていないようです。分析ができないようでは、まともな提言ができるはずもありません。そもそも、日本がデフレになったのは、過去の財政金融政策が間違いだったということを認識していないようです。

もう臨調もすでに財務省の走狗と成り果てたのかも知れません。臨調そのものは、恐れるような組織ではありませんが、その背後の財務省の動きには要注意です。財務省は、自らの教義に従い、ありとあらゆる組織や個人に対して、増税絶対善教義を吹き込んでいるようです。

それにしても、民間企業のそれも大企業の元経営者等の認識がこの有様では、本当に困ったものです。安倍さんが草葉の陰て泣いているかもしれません。もう臨調など廃止したほうが良いです。現在の臨調は「無能な働き者」の巣窟と化したようです。提言するなら、まともな提言をしていただきたいです。

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