大会に出席した岸田文雄首相は、「ロシアによるウクライナ侵略によって日露関係は厳しい状況にある」と指摘したうえで「領土問題を解決し、平和条約を締結する方針を堅持する」と強調した。
また、ロシア側が北方領土の元島民らに墓参のためのビザなし渡航を認める「北方墓参」など、四島交流事業の再開が「今後の日露関係の中で最優先事項の一つ」として事業の早期再開の必要性を訴えた。「北方領土問題は国民全体の問題だ」とも述べ、問題解決に向けて全力をあげる考えを示した。
アピールは安倍晋三元首相とプーチン露大統領との間で進めていた返還交渉に配慮し、平成31年から2年連続で四島に関し、「不法占拠」との表現を使わなかった。令和3、4年も「法的根拠のないまま占拠」との表現にとどめていた。
今回の大会は、新型コロナウイルスの感染拡大以降、3年ぶりに参加者を制限しない形式で行われた。
北方四島を巡っては、昭和20(1945)年、旧ソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して対日参戦し、不法占拠されて以降、日本人が自由に行き来できない状態が続いている。
【私の論評】ウクライナ侵攻によるロシア弱体化で、北方領土返還の可能性が巡ってきた(゚д゚)!
ロシアは2020年の憲法改正で唐突に「領土の割譲禁止」を明記しました。「割譲行為は最大禁錮10年、割譲を呼び掛けても最大4年」とする改正刑法も成立しました。露メディアは2021年3月1日、国家安全保障会議の副議長を務めるメドベージェフ元大統領・首相が、憲法改正で日本と北方領土問題を協議するのは不可能になった、との認識を示し、「ロシアには自国領の主権の引き渡しに関わる交渉を行う権利がない」と述べたと報じました。日本側に一方的に「領土断念」を促す無礼千万な発言でした。
「四島返還」という国家主権に関わる歴史的正義の旗を自ら降ろし、全体面積の7%にすぎない歯舞、色丹の2島返還をうたった1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約交渉を加速させる-との安倍晋三政権時代の日露合意(2018年11月)は、日本側の全くの幻想にすぎなかったことがこれで明白になりました。
プーチン政権は反体制派は容赦なく弾圧し、自らの出身母体の巨大な秘密警察・旧KGB(国家保安委員会)や軍の特権層の利益を最大限重視します。当時猛毒の神経剤で殺されかけた反体制指導者ナワリヌイ氏を強引に拘束、全土での大規模な抗議デモに見舞われていました。そのナワリヌイ氏に暴露された「プーチンの秘密大宮殿」は世界中の顰蹙(ひんしゅく)を買いました。対外的にはサイバー攻撃などで各国を揺さぶる。その謀略と強権ぶりはソ連共産党政権も顔負けです。
ソ連崩壊時の日本の対露外交の不首尾のツケはあまりに重いです。しかし、全土の抗議運動の大波に洗われ、20年超のプーチン長期政権の足元も揺れ始めました。さらに、昨年はロシアのウクライナ侵略がなされました。
欧米の経済制裁の隊列に加わったことは評価できます。であれば、ウクライナ侵略が自由・民主主義陣営の存亡を懸けた国際問題であるのと同様、北方領土の不法占領問題も日露2国間の問題にとどめておくべきではありません。首相が対露政策の転換を語るなら、北方領土問題を世界が共有すべきこととして「国際化」するための戦略転換も説くべきです。
四島の不法占拠は、スターリンが日ソ中立条約を一方的に破り、「領土不拡大」をうたった大西洋憲章(41年)とカイロ宣言(43年)にも違反した国際犯罪です。
日本外交には、ソ連崩壊前後だった90年からの3年間、ヒューストン、ロンドン、ミュンヘンと続いたG7サミットで、北方領土問題の解決を支持する議長声明や政治宣言を採択させた実績があります。しかし、その後はこの問題を国際化する戦略がみえません。
ウクライナのゼレンスキー大統領はこの1年間、無辜(むこ)の国民に多くの犠牲をもたらしたロシアの暴虐を耐え抜くとともに、9年前に強制併合されたクリミア半島を含む「全領土の奪還」に不退転の覚悟を示しています。
ゼレンスキー氏が北方領土問題にも目を向けていることを忘れるべきではありません。この北方領土には、ソ連当時にロシア人とともにウクライナ人も移住し、北方領土の4割はウクライナがルーツです。昨年10月には「北方領土はロシアの占領下に置かれているが、ロシアには何の権利もない。私たちはもはや行動すべきだ」との大統領令に署名しました。
日本はこの心強い援軍に全く応えていません。ゼレンスキー政権は昨年8月、クリミア奪還をテーマとするオンラインの国際会議を開き、約60カ国・機関の代表が参加しました。ここで演説した岸田首相は北方領土問題にひと言も触れず、世界に共闘を働きかける絶好の機会を逃してしまいしまた。不作為による失態です。
岸田政権には四島返還をテーマとする国際会議やシンポジウムなど具体的な行動を起こすべきです。
先にも述べたように現在のプーチン政権は憲法改正で「領土割譲禁止」をうたっています。ウクライナ侵攻後は日本との平和条約交渉を一方的に中断してビザなし交流も打ち切り、国後、択捉では大規模軍事演習を行うなど強硬姿勢をとっています。
一方で長引くウクライナ侵略はロシアの国際的孤立を深め、国内の経済・社会を疲弊させました。ソ連が崩壊したときのように国家的な衰退へと向かうことは十分にあり得ます。「そのとき」にどう備えるかが重要です。日本はあらゆる事態を想定し、領土を取り戻す戦略を練り上げなくてはならないです。ソ連崩壊時の日本の対露外交の不首尾を繰り返すべきではありません。
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