2月上旬、ドネツク州ウフレダールの戦いで劣勢になったロシア軍部隊は、無傷の戦闘車や戦車を少なくとも30両、戦場に放棄して逃げ去ったようだ(英国防省)。動画を見ると、周りには破壊されたり爆破された車両も多く散らばっている
イギリスのベン・ウォレス国防相は、ロシアがウクライナに陸軍をほぼ丸ごと投入していると語った。
ウォレスは2月15日、NATO国防相会議に出席するため訪れていたベルギーのブリュッセルから、英BBCのラジオ番組「トゥデイ」に出演。「今やロシア陸軍の97%がウクライナに配備されていると推定している」と述べた。国防相会議にはNATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長も出席し、会議終了後に記者団に対して、ウクライナでの戦争によりNATOの軍事支出が増えており、加盟各国に国防費の増額を促したと語った。
ウォレスは「トゥデイ」で、イギリスがウクライナを支援することで、イギリスの国防が損なわれることはないと述べた。
「ウクライナがロシアを打ち負かす手助けをすることは、むしろイギリスの安全保障を強化することになる」と彼は言う。「もしロシア陸軍の97%がウクライナに投入され、損耗率がきわめて高く、戦闘力が40%低下し、ロシアが保有する戦車の約3分の2が破壊されるか破損しているとすれば、それはヨーロッパの安全保障に影響をもたらすに違いない」
こんな進軍はみたことがない
ウォレスはまた、ウラジーミル・プーチン大統領が率いるロシア軍は、ウクライナの複数の前線で進軍を試みるなかで大量の兵士を失い、厳しい局面を迎えているとも語った。
「大規模攻勢をかけて突き進むために、一方の勢力がこれだけの人員を投入する例は、これまでに見たことがない」とウォレスは述べた。「つい先日の進軍でも、ロシア陸軍は大きな犠牲を出した」
「トゥデイ」出演に先立ち、ウォレスはBBCのテレビ番組「BBCブレックファースト」にも出演。イギリスがウクライナ軍に対して、近いうちにジェット戦闘機を供与する可能性は低いと述べた。
戦闘機は供与できない
「今後数カ月、あるいは数年以内に、イギリスが必ずしもジェット戦闘機を提供することになるとは思わない」と彼は述べ、その理由としてジェット戦闘機の運用にはパイロットや整備士など「かなりの数の人員」が必要になると指摘した。
「ジェット戦闘機を運用するには何百人ものエンジニアやパイロットが必要だ。数カ月で育成できるものではない」と彼は言った。「英空軍の人員を200人もウクライナに割くわけにはいかない」
ウォレスは、イギリスはウクライナ支援について、もっと大局的なアプローチを取っていると説明した。
「我々は、いま展開されている戦いでウクライナがロシアを撃退するのを助けるだけでなく、長い目で見てウクライナがこの戦争から立ち直るのを支援していかなければならない」
【私の論評】ブフレダールでなぜか正面突破を試み粉砕されるロシア軍はすでに断末魔か(゚д゚)!
まさに、このような状況なので、ロシアの戦車兵は戦車を捨てて脱出するのでしょう。そもそも、燃料が足りないのかもしれません。弾薬なども、戦車に搭載されたものを使い切ってしまえば、いつ補給されるのかわからないのかもしれません。
部品も供給されず、メンテの目処もたたないのかもしれません。そうなれば、戦車はただの鉄の塊にすぎません。さらに、無謀な戦いで、戦車が真っ先に標的にされやすいからかもしれません。こちら側から反撃できない的からミサイルの標的にされれば、戦車は鉄の棺桶になるだけです。
この2週間にウクライナ軍のドローンがブフレダール戦争で撮影した約20件の映像によると、四方が開かれた広い道路でロシア軍のタンクがウクライナ軍のドローン攻撃を受けて破壊される場面などが見えます。
慌てたロシア軍戦車が地雷が埋設されたところに突っ込んで爆発したり、驚いて逃げる兵士の一部が炎に包まれたりする映像もあります。ウクライナ軍のドローンは爆撃を加えてロシア軍の進撃を阻んでいます。
ウクライナの当局者によると、ブフレダール周辺に展開するロシア軍には職業軍人からなる部隊のほか最近動員された兵士、DPR(ドネツク人民共和国)の民兵、「パトリオット」と呼ばれる民間軍事会社の歩兵などが不規則に加わっているといいます。パトリオットはロシア国防省に近い会社と言われています。
ブフレダール周辺での苦戦は、より広範なロシア軍の攻勢にとっても良い兆しとはならなりません。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、こうした失敗がロシアの超国家主義者らの確信を一段と弱める公算が大きいと指摘しています。これらの層は、ロシア軍に戦況を決定する攻勢をかける能力があるとの見解を示しています。
しかし、ロシア軍が作戦のペースを上げる中、ウクライナ軍の部隊の一部では弾薬が不足しつつあります。専門家らはウクライナ側の課題として、前線の部隊に砲弾や対戦車ミサイルなどを迅速に再供給することを挙げました。
正面突破といえば、聞こえが良いですが、これは旧日本軍の万歳突撃のようなものです。補給など絶たれた南太平洋の島嶼の守備隊は、水際作戦として万歳突撃を繰り返しましたが、ペリリュー島守備隊を指揮する中川州男大佐は万歳突撃を禁止し、縦深防御ができる体制を整え、持久戦を行うよう命令しました。このあたりから、日本軍は万歳突撃をやめました。
硫黄島守備隊の栗林忠道中将も万歳突撃を禁じ、縦深防御の体制を整え、十人の敵を殺すまで死ぬ事は許さない「一人十殺」を標語にしました。万歳突撃を禁じた結果、米軍は大出血を強いられる羽目になりましたが、日本軍は降伏することなく万策尽きた後は万歳突撃をして果てました。ただ、万歳突撃により、すぐに戦闘能力がなくなったのと比較すれば、持久戦に持ち込むことができ、米軍の進軍をかなり遅らせたという戦果は間違いなくありました。
ロシアはブフレダールに投入された自国軍の第155海兵旅団が計画通りに攻撃を進めているという立場です。ロシアのプーチン大統領は12日、テレビ演説で「現在、海兵隊の歩兵が作戦を遂行している」とし「英雄的に戦っている」と述べました。
プーチン大統領 |
ウクライナの当局者によると、ブフレダール周辺に展開するロシア軍には職業軍人からなる部隊のほか最近動員された兵士、DPR(ドネツク人民共和国)の民兵、「パトリオット」と呼ばれる民間軍事会社の歩兵などが不規則に加わっているといいます。パトリオットはロシア国防省に近い会社と言われています。
ブフレダール周辺での苦戦は、より広範なロシア軍の攻勢にとっても良い兆しとはならなりません。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、こうした失敗がロシアの超国家主義者らの確信を一段と弱める公算が大きいと指摘しています。これらの層は、ロシア軍に戦況を決定する攻勢をかける能力があるとの見解を示しています。
しかし、ロシア軍が作戦のペースを上げる中、ウクライナ軍の部隊の一部では弾薬が不足しつつあります。専門家らはウクライナ側の課題として、前線の部隊に砲弾や対戦車ミサイルなどを迅速に再供給することを挙げました。
#ウクライナ 当局は27日、東部ドネツク州ブフレダールの町を撮影したドローン映像を公開した。 #ロシア 軍の砲撃によって多くの建物に被害が出ているという。 pic.twitter.com/L7OXDClwlL
— ロイター (@ReutersJapan) January 30, 2023
ブフレダールの戦闘を検証してきた軍事史家のトム・クーパー氏はこの町を、「何もない平らな砂漠の真ん中に立つ、巨大で高くそびえる要塞(ようさい)」と形容しています。
ロシア軍は3カ月にわたりブフレダールの奪取を試みています。これが成功すれば、ウクライナ軍は近くの鉄道を遮断するのが難しくなります。この鉄道はドネツク州とロシアの占領下のクリミア半島とをつないでいます。
クーパー氏によれば、ロシア軍はブフレダール周辺に兵士約2万人、主力戦車90両、大砲約100門などを投入しているといいます。
しかし、1月の最終週に始まった攻撃は致命的な失敗に見舞われていると同氏は指摘。相当狭いルートを進むロシア軍の部隊は、ブフレダールの高い建物に陣取るウクライナ軍の視界に常に入ります。同軍の砲撃は前進するロシア軍部隊に大損害をもたらすだけでなく、後方からの戦力の供給や退却ルートに対しても打撃を与えているといいます。
ロシアの有力な軍事ブロガーの多くも、ブフレダールへの自国の攻撃を厳しく批判しています。DPRで国防相を務めたイーゴリ・ストレルコフ氏は兵士らが「射撃場の七面鳥のように撃たれている」と非難。テレグラムへの投稿で、多くの優れた戦車や精鋭ぞろいの落下傘兵、海軍歩兵隊員が失われていると述べました。
別の投稿では「同じ場所に真正面から突っ込むのは愚か者だけ。町は重度に要塞化され、攻撃側には極めて都合が悪い。何カ月もそうした状況が続いている」と、指摘しました。
ロシアの軍事ブロガーらには、テレグラムのチャンネルの登録者が数万人から数十万人いるとさとされています。
プフレダールのようなところを攻めるには、徹底的に軍事施設を爆撃・砲撃するか、あるいは包囲をして、兵糧攻めにするなどのことが考えられますが、ロシア軍は正面から突っ込んで、甚大な被害を出しているようです。なぜ、このような非合理なことをするのか信じられません。
ロシア軍は3カ月にわたりブフレダールの奪取を試みています。これが成功すれば、ウクライナ軍は近くの鉄道を遮断するのが難しくなります。この鉄道はドネツク州とロシアの占領下のクリミア半島とをつないでいます。
クーパー氏によれば、ロシア軍はブフレダール周辺に兵士約2万人、主力戦車90両、大砲約100門などを投入しているといいます。
しかし、1月の最終週に始まった攻撃は致命的な失敗に見舞われていると同氏は指摘。相当狭いルートを進むロシア軍の部隊は、ブフレダールの高い建物に陣取るウクライナ軍の視界に常に入ります。同軍の砲撃は前進するロシア軍部隊に大損害をもたらすだけでなく、後方からの戦力の供給や退却ルートに対しても打撃を与えているといいます。
ロシアの有力な軍事ブロガーの多くも、ブフレダールへの自国の攻撃を厳しく批判しています。DPRで国防相を務めたイーゴリ・ストレルコフ氏は兵士らが「射撃場の七面鳥のように撃たれている」と非難。テレグラムへの投稿で、多くの優れた戦車や精鋭ぞろいの落下傘兵、海軍歩兵隊員が失われていると述べました。
別の投稿では「同じ場所に真正面から突っ込むのは愚か者だけ。町は重度に要塞化され、攻撃側には極めて都合が悪い。何カ月もそうした状況が続いている」と、指摘しました。
ロシアの軍事ブロガーらには、テレグラムのチャンネルの登録者が数万人から数十万人いるとさとされています。
プフレダールのようなところを攻めるには、徹底的に軍事施設を爆撃・砲撃するか、あるいは包囲をして、兵糧攻めにするなどのことが考えられますが、ロシア軍は正面から突っ込んで、甚大な被害を出しているようです。なぜ、このような非合理なことをするのか信じられません。
日本軍の万歳突撃 映画『太平洋の嵐』より |
硫黄島守備隊の栗林忠道中将も万歳突撃を禁じ、縦深防御の体制を整え、十人の敵を殺すまで死ぬ事は許さない「一人十殺」を標語にしました。万歳突撃を禁じた結果、米軍は大出血を強いられる羽目になりましたが、日本軍は降伏することなく万策尽きた後は万歳突撃をして果てました。ただ、万歳突撃により、すぐに戦闘能力がなくなったのと比較すれば、持久戦に持ち込むことができ、米軍の進軍をかなり遅らせたという戦果は間違いなくありました。
翻って、現在のロシア軍をみると、ブフレダールで正面突破を試みようとするのですから、驚きです。ドイツ軍に侵攻されたソ連では、初戦では負け続けましたが、後に縦深防御でドイツ軍を苦しめ、反転攻勢に打って出ることに成功しました。
その末裔である現在のロシア軍が、正面突破などしようとするのですから、もうロシア軍も終焉に近づいたのかもしれません。
ただ、ウクライナ軍も疲弊していますし、先にもあげたように弾薬が不足気味ですから、ウクライナ軍は攻勢を控え気味にしつつも、攻撃は続行しているので、ブフレダール攻防戦は膠着状況のようにみえるだけかもしれません。
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